説明

光ピックアップのチルト調整機構

【課題】光ピックアップのチルト調整後、アクチュエータベース部材の変形に伴う応力が調整ネジの変位によって開放されることで生じるチルトずれを抑制する。
【解決手段】チルト調整ネジ5,6のネジ部の根元にワッシャ9を嵌合し、該ワッシャ9をシャーシ1に設けたワッシャ受け部10に陥入させることで、アクチュエータベース部材2の変形応力が開放する際に、調整ネジ5,6がラジアル方向へ移動することを制限し、チルトずれを抑制する。また、チルト調整ネジ5,6とシャーシ1間の摩擦係数を減少させてアクチュエータベース部材2の変形を最小限にすることで、チルトずれを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CDやDVD等のディスク媒体に対する情報の記録および又は読み取りに用いられる光ピックアップユニットのチルト角度を調整する機構に関する。
【背景技術】
【0002】
CDやDVDなどの光ディスクに対する情報の記録や情報の再生を行う光ディスク装置では、光ピックアップから照射された光ビームの光軸が光ディスクの情報記録面に対して垂直とならずにずれが生じることがある。このずれの角度はチルト角と呼ばれ、光ピックアップには、このチルト角を調整するためのチルト調整機構が設けられている。
【0003】
光ピックアップは、一般に、発光素子および受光素子等が取り付けられたシャーシと、対物レンズ等が取り付けられたアクチュエータと、該アクチュエータを取り付けたアクチュエータベース部材とからなっている。
【0004】
図1および2は、かかる光ピックアップの従来例を示したものであり、図1は光ピックアップを上面方向から見た図である。図2は、図1に記載のものを下面から見た図である。
【0005】
図1および2に記載のように、該光ピックアップは、アルミニウム等の金属材料からなるシャーシ1、対物レンズ3を含むアクチュエータを支持する金属板からなるアクチュエータベース部材2、該アクチュエータベース部材2と該シャーシ1とが小球面または点接触で結合されて回転中心を形成するピボット部4、該ピボット部4を回転中心としてシャーシ1に対するアクチュエータベース部材2の傾きを調整するためのチルト調整ネジ5,6、内部の光学部品等を覆うカバー7、およびシャーシ1の側面に取り付けられている受発光素子20等からなっている。
図3に、図1および2におけるA−A断面を矢印方向から見た断面図を示す。
【0006】
チルト調整ネジ5および6は、シャーシ1の下面から該シャーシ1の貫通孔1aを貫通して先端部がアクチュエータベース部材2のネジ孔2aに螺合されており、該シャーシ1と該アクチュエータベース部材2との間には、チルト調整ネジ5および6のネジ部が挿通されるコイルスプリング8が、該シャーシ1と該アクチュエータベース部材2とを互いに離反させる方向にばね力を作用して配置されている。
【0007】
このように構成された光ピックアップにおいて、チルト調整ネジ5,6を、図2に示したネジ頭側からドライバー等の治具を使用して回動させることにより、該チルト調整ネジ部において、シャーシ1とアクチュエータベース部材2との間隔が調節され、それによって、アクチュエータベース部材2がピボット部4を中心としてシャーシ1に対して傾き調整されることにより、チルト調整が行われる。(特許文献1)
【特許文献1】特開平8−161756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、光ピックアップの薄型化、軽量化に伴い、アクチュエータベース部材2も薄板化が求められるようになっており、それに伴い、アクチュエータベース部材2の剛性が十分に確保できない状況となっている。
【0009】
このように、剛性が十分に確保されないアクチュエータベース部材2では、チルト調整ネジ5,6の回動に伴いアクチュエータベース部材2に歪みが発生することとなり、チルト調整作業後、光ピックアップに外部から振動や衝撃が加わった場合、せっかく調整した光ピックアップにチルトずれが発生する原因となっていた。
【0010】
このようなチルトずれの発生メカニズムを図4―(1)、4−(2)に示す。
【0011】
図4―(1)は、チルト調整した直後の状態を示したものであり、図4−(2)は、光ピックアップに外部から振動や衝撃が加えられたことによりチルトずれが生じた状態を示したものである。
【0012】
図4―(1)および4−(2)では、チルト調整ネジ5,6に外挿するコイルスプリング8を矢印で示しており、シャーシ1とアクチュエータベース部材2は、該コイルスプリング8により互いに離反する方向へのスプリング荷重が加えられた構成となっている。
【0013】
このような構成において、チルト調整のためにチルト調整ネジ5,6のネジ頭11を回動すると、アクチュエータベース部材2の剛性が低いため、チルト調整ネジ5,6先端部がアクチュエータベース部材2を変形させ、そのような変形した状態で調整が終了することとなる(図4―(1)に示す状態)。
【0014】
この図4―(1)に示す状態では、そのようなアクチュエータベース部材2の変形に伴う応力が、チルト調整ネジ5,6の回動方向とは反対方向に、チルト調整ネジ5,6の先端部に作用し、該応力は、該チルト調整ネジ5,6のネジ頭11におけるシャーシ1との間の摩擦力と均衡した状態となっている。
【0015】
この図4―(1)に示す状態において、外部から振動や衝撃が加えられると、ネジ頭11の摩擦力とアクチュエータベース部材2の変形に伴って生じていた応力が共に瞬時に開放され、それによってチルト調整ネジ5,6がネジ軸心に対し垂直方向に(つまり、ラジアル方向に)スライドしてしまい、結果としてチルトずれが生じてしまうこととなる(図4−(2)に示す状態)。
【0016】
一般に、チルト調整ネジ5,6などのネジ類では、ネジ部の軸心とネジ頭11の平面とが必ずしも垂直になるように作製されていない。図4―(1)、(2)に示したチルト調整ネジ5,6もそのようなものであるが、このようなネジを使用すると、ネジ頭11を回動させるに伴い、ネジ先端部はいわばすりこぎ運動をし、その応力がアクチュエータベース部材2に作用し、該アクチュエータベース部材2の変形を一層引き起こすこととなり、このような現象が顕著に生じる要因となってしまう。
【0017】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、光ピックアップのチルト調整ネジによってチルト調整をした後、外部から衝撃等が加えられたとしても、チルトずれが生じることのない光ピックアップのチルト調整機構を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る光ピックアップのチルト調整機構は、シャーシと、前記シャーシに取り付けられ、少なくとも対物レンズが搭載されるアクチュエータベース部材と、前記アクチュエータベース部材と前記シャーシとの傾きを調整するための傾き調整機構とからなる光ピックアップのチルト調整機構であって、前記傾き調整機構は、前記シャーシと前記アクチュエータベース部材との間に設けられ、前記シャーシと前記アクチュエータベース部材とを離反する方向に付勢するコイルスプリングと、前記シャーシ側から前記シャーシを貫通して前記コイルスプリング中を挿通し、先端部が前記アクチュエータベース部材と螺合するチルト調整ネジと、前記チルト調整ネジのネジ頭と前記シャーシとの間に設けられ、前記チルト調整ネジのラジアル方向での移動が規制されるように前記チルト調整ネジに嵌合し、外径が前記チルト調整ネジ頭の外径より大きなワッシャと、前記シャーシに設けられ、前記ワッシャが嵌合することで前記ワッシャのラジアル方向での移動を規制するワッシャ受け部と、からなることを特徴とするものである。
【0019】
このような構成により、ワッシャがシャーシに対してラジアル方向の移動が規制される結果、チルト調整ネジもシャーシに対しラジアル方向への移動が規制されることとなるため、外部からの衝撃に伴いアクチュエータベース部材の応力等が開放されたとしてもチルトずれを最小限に抑制することができる。
【0020】
また、本発明に係る光ピックアップのチルト調整機構は、前記ワッシャの少なくとも前記ネジ頭と接する面が前記シャーシよりも摩擦係数の低い材料で形成されていることを特徴とするものである。
【0021】
このような構成により、前記チルト調整ネジのネジ頭との摩擦係数を低減できるので、前記アクチュエータベース部材の変形量を低減することができ、ひいてはチルトずれを更に、抑制することができる。
【0022】
また、本発明に係る光ピックアップのチルト調整機構は、前記チルト調整ネジの表面が前記シャーシよりも摩擦係数の低い材料で形成されていることを特徴とするものである。
【0023】
このような構成により、前記ワッシャとの摩擦係数を低減できるので、前記アクチュエータベース部材の変形量を低減することができ、ひいてはチルトずれを一層、抑制することができる。
【0024】
また、本発明に係る光ピックアップのチルト調整機構は、前記チルト調整ネジの前記アクチュエータベース部材と螺合する先端部を含む先端部分が、前記アクチュエータベース部材に対する回転負荷が生じるように樹脂コートされていることを特徴とするものである。
【0025】
このような構成により、チルト調整ネジの先端部に回転負荷を与えることで、チルトずれを一層、抑制することができるとともに、微少なチルト調整作業を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、光ピックアップのチルト調整機構において、アクチュエータベース部材の変形応力が外部振動等で開放されることに伴うチルト調整ネジのラジアル方向への移動を最小限にすることで、チルトずれを抑制することができる。また、チルト調整ネジとシャーシ間の摩擦係数を減少させてアクチュエータベース部材の変形を最小限にすることで、チルトずれを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図5は本発明の実施の形態における光ピックアップのチルト調整機構の断面図であり、図4に示す従来例との比較を容易にするため、図4と同様な図とした。
【0028】
本発明のチルト調整機構が適用される光ピックアップは、図5に図4との対比で示したように、チルト調整ネジに関連する構成が従来のものと異なる以外は、図1ないし2に示す従来例における光ピックアップと同様な構成を有している。
【0029】
本発明の実施の形態では、光ピックアップは、アルミニウム等の金属材料からダイキャスト形成されるシャーシ1、対物レンズ3を含むアクチュエータを支持する薄板の金属板からなるアクチュエータベース部材2およびチルト調整機構から主に構成されており、該チルト調整機構は、図5に示すように、チルト調整ネジ5,6の軸部にコイルスプリング8が外挿され、該コイルスプリング8により、シャーシ1とアクチュエータベース部材2とが互いに離反する方向に付勢されている。
【0030】
そして、該チルト調整ネジ5,6にはそのネジ部の根元に、内径および外径が同心円に形成されているワッシャ9が嵌合しており、該ワッシャ9は、チルト調整ネジ5,6がその軸心と垂直方向(いわゆるラジアル方向)には殆ど移動しないように、その内径がチルト調整ネジ5、6の根元の外径とほぼ同一に形成され、更にその外径がチルト調整ネジ5,6のネジ頭11の径よりも大きく形成されている。
【0031】
一方、シャーシ1には、貫通孔1aと連続して該ワッシャ9およびチルト調整ネジ5,6のネジ頭11が陥入するワッシャ受け部10が設けられ、該ワッシャ受け部10の内径は該ワッシャ9の外径とほぼ同一の径に形成されている。
【0032】
これにより、ワッシャ9は、ワッシャ受け部10に対しラジアル方向には殆ど移動しないように移動が規制され、更に、チルト調整ネジ5,6は、ワッシャ9に対しラジアル方向には殆ど移動しないように移動が規制されている。
【0033】
したがって、このようにワッシャ9が根元に嵌合しているチルト調整ネジ5,6を使用すると、図5に示すように、該ワッシャ9はチルト調整ネジ5,6のネジ頭11とシャーシ1との間に位置されることとなり、しかもチルト調整ネジ5,6は該ワッシャ9の作用によりラジアル方向の移動が規制されることとなっている。
【0034】
このような構成において、チルト調整ネジ5,6のネジ頭11を回動させると、薄板のアクチュエータベース部材2はその剛性が低いために変形し、該変形を戻すような応力をチルト調整ネジ5,6に対し与える。このような応力に対し、チルト調整ネジ5,6のネジ頭11とワッシャ9との間の摩擦力、およびワッシャ9とシャーシ1との間の摩擦力が対向し、そのような応力と摩擦力の均衡が保たれた状態でチルト補正がなされている。
【0035】
この状態において、光ピックアップに振動や衝撃が加えられると、このような応力と摩擦力の均衡状態が瞬時に開放され、それに伴いチルト調整ネジ5,6の軸心がラジアル方向に移動しようとするが、ワッシャ9の移動が規制されているため殆ど移動することはなく、移動するとしても、たかだか、チルト調整ネジ5,6とワッシャ9との間隙およびワッシャ9とワッシャ受け部10との間隙に基づく微少移動のみに規制されるので、結局、チルトずれは最小限に抑制されることとなる。
【0036】
このように、チルト調整ネジ5,6にワッシャ9を嵌合させ、該ワッシャ9の移動を規制することで、該チルト調整ネジ5,6のラジアル方向への変位を規制することができるので、外力が加わることによるチルトずれが防止される。
【0037】
ワッシャ9はその内径と外径を同心状に作製することは比較的たやすいが、他方、チルト調整ネジ5,6は、ネジ頭11の平面とネジ部の軸心が垂直でなかったり、あるいはネジ頭11の中心とネジ部の軸心とが一致していなかったりする場合も多い。この場合、アクチュエータベース部材2の変形量が増大するが、本発明の実施の形態におけるチルト調整機構は、そのようなネジ部材を使用したとしても、チルトずれを容易に防止することができる。
【0038】
また、本発明の別の実施の形態では、ワッシャ9の少なくともネジ頭11と接する面をシャーシ1よりも摩擦係数の低い材料で形成するものである。
【0039】
このようなワッシャ9は、金属製のワッシャ部材の表面にNiメッキを施したり、あるいはワッシャ部材自体をすべり性の良い高分子の樹脂で形成したりすることによって得られる。
【0040】
ワッシャ9をこのように形成することにより、アクチュエータベース部材2がその剛性が低いために変形しようとして応力をチルト調整ネジ5,6に対し与えるとしても、チルト調整ネジ5,6のネジ頭11とワッシャ9との間の摩擦力が低減されて該応力を吸収するので、アクチュエータベース部材2の変形を抑制することができる。
【0041】
これにより、外力によるチルトずれを一層、防止することが可能となる。
【0042】
また、本発明の別の実施の形態では、チルト調整ネジ5,6自体をシャーシ1よりも摩擦係数の低い材料で形成するものである。
【0043】
このようなネジ部材は、金属製のネジ部材の表面に摩擦係数の低いNiメッキを施す等により得られる。
【0044】
チルト調整ネジ5,6をこのように形成することにより、アクチュエータベース部材2がその剛性が低いために変形しようとして応力をチルト調整ネジ5,6に対し与えるとしても、チルト調整ネジ5,6のネジ頭11とワッシャ9との間の摩擦力が、図4―1,4−2に示すチルト調整ネジ5,6のネジ頭11とシャーシ1との間の摩擦力と比較して低減されて該応力を吸収するので、アクチュエータベース部材2の変形を抑制することができる。
【0045】
これにより、チルトずれを一層、防止することが可能となる。
【0046】
上記した本発明の実施の形態によれば、チルト調整作業において、チルト調整ネジ5,6が非常に微少なトルクで回転することになってしまい、作業の難易度が高くなることとなる。
【0047】
したがって、このような作業の難易度を下げるために、本発明の別の実施の形態によれば、チルト調整ネジ5,6の少なくともアクチュエータベース部材2と螺合する先端部をを、前記アクチュエータベース部材2に対する回転負荷が生じる材料で形成されている構成とすることができる。
【0048】
このように回転負荷を与えることは、金属製のネジ先端部に高分子樹脂をコーティングすることによって得られる。
【0049】
このように、チルト調整ネジ5,6の先端部の表面を、回転負荷を与える材料で構成することで、チルト調整ネジ5,6とアクチュエータベース部材2との螺合調整を確実にすることができ、チルト調整作業を容易にすることができるとともに、チルトずれを一層、防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】従来例に係る光ピックアップの上側斜視図
【図2】従来例に係る光ピックアップの下側斜視図
【図3】第1、2図におけるA−A矢視断面図
【図4】従来例に係るチルト調整機構のチルトずれ説明図
【図5】本発明に係るチルトアップ調整機構の断面図
【符号の説明】
【0051】
1 シャーシ
2 アクチュエータベース部材
3 対物レンズ
4 ピボット部
5、6 チルト調整ネジ
7 カバー
8 コイルスプリング
9 ワッシャ
10 ワッシャ受け部
11 ネジ頭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャーシと、前記シャーシに取り付けられ、少なくとも対物レンズが搭載されるアクチュエータベース部材と、前記アクチュエータベース部材と前記シャーシとの傾きを調整するための傾き調整機構とからなる光ピックアップのチルト調整機構であって、
前記傾き調整機構は、前記シャーシと前記アクチュエータベース部材との間に設けられ、前記シャーシと前記アクチュエータベース部材とを離反する方向に付勢するコイルスプリングと、前記シャーシ側から前記シャーシを貫通して前記コイルスプリング中を挿通し、先端部が前記アクチュエータベース部材と螺合するチルト調整ネジと、前記チルト調整ネジのネジ頭と前記シャーシとの間に設けられ、前記チルト調整ネジのラジアル方向での移動が規制されるように前記チルト調整ネジに嵌合し、外径が前記チルト調整ネジ頭の外径より大きなワッシャと、前記シャーシに設けられ、前記ワッシャが嵌合することで前記ワッシャのラジアル方向での移動を規制するワッシャ受け部と、からなることを特徴とする光ピックアップのチルト調整機構。
【請求項2】
請求項1に記載の光ピックアップのチルト調整機構において、前記ワッシャの少なくとも前記ネジ頭と接する面が前記シャーシよりも摩擦係数の低い材料で形成されていることを特徴とする光ピックアップのチルト調整機構。
【請求項3】
請求項1ないし2に記載の光ピックアップのチルト調整機構において、前記チルト調整ネジの表面が前記シャーシよりも摩擦係数の低い材料で形成されていることを特徴とする光ピックアップのチルト調整機構。
【請求項4】
請求項3に記載の光ピックアップのチルト調整機構において、前記チルト調整ネジの前記アクチュエータベース部材と螺合する先端部が、前記アクチュエータベース部材に対する回転負荷が生じるように樹脂コートされていることを特徴とする光ピックアップのチルト調整機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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