説明

光ファイバ水素純度センサ及びシステム

【課題】改良型の光ファイバ水素純度計測センサ及びシステムを提供する。
【解決手段】水素純度検知システム50は光ファイバケーブル56を通して光学信号を提供する光源52を含む。本システムには、光学信号を受け取るために高屈折率及び低屈折率の材料からなる多層ナノ構造薄膜を備えた水素純度センサ60が設けられている。本システムはさらに、水素純度センサからの反射光学信号を受け取るための光検出器62と、反射光学信号を解析するために該光検出器に結合させた処理回路68と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全体として水素純度検出及び光ファイバ水素純度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
水素に対する世界的な需要は、燃料電池、輸送、発電などの多くの産業分野に及ぶその広範囲の用途のために大いに増大しつつある。水素の純度要件はその用途によって様々である。例えば陽子電解質膜燃料電池(proton electrolate membrane fuel cell:PEMFC)では触媒被毒(catalyst poisoning)を防ぐために高い水素純度が必要である。
【0003】
既存の水素純度監視機器は典型的には熱伝導率検出(TCD)に基づく。TCDは、非特異的で非破壊的な特徴を備えた汎用の気体解析方法であり、水素炎イオン化検出(flame ionization detection)方法と比べて感度がより低い。TCDの分解能及び確度には限界がある。水素純度を監視するための別の方法には、気体密度並びに圧力差ベースの計測の使用が含まれる。しかしこれらの方法は、周辺環境や気体温度により誘導される変動に影響を受ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7574075号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、上述の問題点のうちの1つまたは幾つかに対処するような改良型の水素純度計測センサ及びシステムが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態では、水素純度検知システムを提供する。本システムは、光ファイバケーブルを通して光学信号を提供する光源を含む。本システムでは、光学信号を受け取るために高屈折率と低屈折率の材料を含んだ多層ナノ構造薄膜を備えた水素純度センサを提供している。本システムはさらに、水素純度センサから反射光学信号を受け取るための光検出器と、反射光学信号を解析するために該光検出器に結合させた処理回路と、を含む。
【0007】
本発明の別の実施形態では、ファイバコア及び該コアの周りに位置決めされた屈折率周期変調性のグレーティング構造を含んだ水素純度センサを提供する。本センサはさらに、該屈折率周期変調性のグレーティング構造を囲繞するファイバクラッドと、該ファイバクラッドの周りに位置決めされた多層検知薄膜と、を含む。この検知薄膜は、高屈折率及び低屈折率の複数の材料層からなる変調構造を含む。
【0008】
本発明のさらに別の実施形態では、水素純度センサパッケージを提供する。本センサパッケージは、水素化可能(hydridable)材料と水素化不可能材料からなる多層ナノ構造薄膜と、熱鈍感性の石英材料ベースのチェンバー内に据え付けられた少なくとも2つのファイバBraggグレーティングと、を含む。
【0009】
本発明に関するこれらの特徴、態様及び利点、並びにその他の特徴、態様及び利点については、同じ参照符号が図面全体を通じて同じ部分を表している添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明を読むことによってより理解が深まるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態によるファイバ気体水素純度センサ(FGHPS)パッケージを含んだ水素純度検知システムの概略図である。
【図2】本発明の一実施形態による強度ベースのファイバ気体水素純度センサを表した概要図である。
【図3】本発明の一実施形態による別の強度ベースのファイバ気体水素純度センサを表した概要図である。
【図4】本発明の一実施形態による強度ベースのファイバ気体水素純度センサによる多重化スキームを表した概要図である。
【図5】反射信号の振幅変動をファイバ検知プローブの検知チップからの対峙距離に対して示したプロットである。
【図6】本発明の一実施形態による多層検知チップを表した概要図である。
【図7】PdOx及びAuを基本成分とする高屈折率と低屈折率の変調検知薄膜の一例の概要図である。
【図8】様々な多層検知薄膜に関する反射と透過特性のシミュレーションを表したグラフである。
【図9】様々な多層検知薄膜に関する吸収特性のシミュレーションを表したグラフである。
【図10】検知材料と傾斜させかつアポダイゼーションさせたファイバグレーティングを一体とした本発明の一実施形態によるファイバ気体水素純度センサの概略図である。
【図11】本発明の一実施形態によるファイバグレーティングアレイベースのファイバ気体水素純度センサパッケージを表した概要図である。
【図12】本発明の一実施形態によるファイバ気体純度センサ応答を表したグラフである。
【図13】本発明の一実施形態によるファイバ気体純度センサからの感度応答を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の様々な実施形態の構成要素を導入する際に、冠詞「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」及び「前記(said)」によって当該構成要素が1つまたは複数存在すること示している。「を備えた(comprising)」、「を含む(including)」及び「を有する(having)」という表現により列挙した構成要素以外に追加の構成要素を含むこと並びに存在し得ることを示している。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態による水素純度検知システム50を表した概要図である。一般に検知システム50は、光カプラまたはサーキュレータ54と光連絡するチューニング可能な広帯域光源などの光源52を含む。光カプラ54は、光源52から送られた光を受け取ると共に、この光の一部を光ファイバケーブル56を通して送っている。光ファイバケーブル56を通過する光は、1つまたは複数のファイバ気体水素純度センサ60に入る。一実施形態では、水素純度検出のための装置内部に1つのファイバ気体水素純度センサパッケージが据え付けられている。別の実施形態では、同時マルチポイント水素純度検出のために複数の箇所に複数のファイバ気体水素純度センサが据え付けられている。ファイバ気体水素純度センサ60の下流側に位置決めされた光検出器62は光ファイバケーブル64を通した気体センサ60からの伝送光を受け取る。光カプラ54により反射される光の一部も光ファイバケーブル66を通して光検出器62により受け取られる。ファイバ気体水素純度センサ60が発生させる変換済光信号はコンピュータ68に送られる。一実施形態では、コンピュータ68に対してワイヤレスインタフェース70が電気信号を伝送していると共に、このコンピュータ68は伝送されたこの信号を用いて水素ガスの純度を監視する。別の実施形態では、イーサネット(商標)ケーブルを用いてコンピュータ68に電気信号を伝送していると共に、このコンピュータ68は伝送されたこの信号を用いてサンプリング源または目標の環境からの水素純度を解析する。
【0013】
図2は、本発明の一実施形態による強度ベースのファイバ気体水素純度センサ80を表している。センサ80は、ナノ構造多層検知チップ84と一体とした複合型ファイバ束82となった多分岐(multi−furcated)ファイバ反射プローブを備える。一実施形態ではその検知チップ84は、熱鈍感性の検知プローブ先端ハウスまたはチェンバー86内に据え付けられている。検知プローブ先端ハウス86の一方の端部にはファイバ束82が固定されており、また検知プローブ先端ハウス86の第2の端部にはフィルタ88が固定され、これによりハウス86内部のろ過済みの水素ガスが検知チップと相互作用することが可能となる。この実施形態では、検知チップはファイバ束先端94と対面すると共に隣接するフィルタ88となっている。
【0014】
図3は、本発明の一実施形態による別の強度ベースのファイバ気体水素純度センサ95を表している。この実施形態では、フィルタと共に2つの穴96及び97を利用し、H2ガスを一方の穴96からハウス86内に拡散させると共に別の穴97からハウス86を離れさせるようにしている。図2及び図3のフィルタは、例えば混入物、オイルミスト及び/またはダストを阻止するためにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの材料を膜として備えることがある。一実施形態では、膜材料の多孔サイズは0.1マイクロメートル〜2マイクロメートルの範囲にある。動作時において、検知チップ上に光信号90が入射すると共に、チップからの反射信号92が計測される。反射信号の振幅は、水素純度に従って変化する検知チップの表面特性に依存する。ナノ構造多層検知チップ内における水素化物形成によって、水素が存在しないときに不透明で鏡様であった表面が水素の存在によってより半透明な表面となり、またこれによりこの表面の反射や吸収を用いて水素濃度や水素純度を決定することが可能である。一実施形態では、その光信号や伝送信号をレーザ源からのものとすることがあり、また反射信号や反射光がSiベースのフォトダイオードやフォトダイオードアレイにより検出されることがある。
【0015】
本発明の一実施形態では、光を放出するための中心ファイバを備えた7本のファイバと目標の表面からの反射を取り込むための6本のファイバからなるファイバ束が利用される。このファイバ束プローブは例えば、長さを4〜8インチとしかつ直径を0.25〜0.5インチとすることがある。反射信号の振幅は、ファイバ束先端またはプローブ先端94と検知チップ84の間の距離Dに依存する。
【0016】
図4は、本発明の一実施形態による複数の水素純度センサ向けに使用される多重化スキーム100を表している。スキーム100は、レーザ源101、第1の光分割器102、光カプラ103及び光検出器アレイ104を含む。本スキームはさらに、図2または図3と同様の複数の水素センサハウジング106と、ディジタル対アナログ変換器及びデータ収集モジュールを有する処理回路105と、を含む。一実施形態では単一のファイバ検知プローブ向けに、FC/UPCまたはSMA905コネクタを用いてレーザ源101からファイバ束に結合させる直接光を実現することが可能である。第2の光分割器108を用いて複数のファイバ検知プローブ107を照光するために1つの光源を複数の副光源に分割することが可能である。第1の光分割器102はレーザ源からの光信号を、その一方の信号が光検出器アレイ104に対する基準信号でありかつ別の信号が光カプラ103を通して第2の光分割器108に至るような2つの信号に分割している。一実施形態では、2つの光ビームの分割比は1/99〜5/95の範囲にある。第2の光分割器108は長さが1xN(ここで、Nはセンサハウジングの数)である。第2の光分割器は光信号をN個の分割光信号に等しく分割しており、この各分割光は各ファイバ検知プローブに送られ、次いで反射された信号が光検出器アレイ104に戻される。強度ベースの反射アナログ信号は、ドリフト及び光源劣化を抑制するために第1の光分割器からの基準信号を伴うディジタル信号となるように変換される。
【0017】
図5は、反射信号の振幅の変動をプローブ先端と検知チップの間の距離D(図2、3参照)に対して示したプロット110を表している。振動性の環境における気体検知では、検知チップからのファイバ束先端の対峙点を変位鈍感性の位置に来るようにすべきである。反射信号の最大振幅Rは対峙距離dの位置に生じている。このプロットから、異なる対峙距離の選択によって信号の振幅を変更させることが可能であることが理解できよう。最大信号振幅の位置では、信号は僅かな距離変動には感応を有さず、また任意の信号変化を検知材料の反射や吸収の変化に帰着させることが可能である。
【0018】
図6は、本発明の一実施形態による水素純度多層検知チップ120を表している。検知チップの2次元像を参照番号121で示し、また3次元像を参照番号123で示している。チップ120は、高屈折率材料124及び低屈折率材料126からなる多層検知薄膜122を備える。高屈折率材料とは、光ファイバケーブルのファイバクラッドの屈折率と比較して屈折率がより高い材料のことを意味している。同様に低屈折率材料とは、光ファイバケーブルのファイバクラッドの屈折率と比較して屈折率がより低い材料のことを意味している。一実施形態では、ファイバクラッドの屈折率は約1.45であり、このため高屈折率材料の屈折率を2とすることがありまた低屈折率材料の屈折率を0.8とすることがある。別の実施形態でその高屈折率材料はパラジウムやその合金材料などの水素化可能材料を含み、また低屈折率材料は貴金属などの水素化不可能材料を含んでおり、一実施形態ではこれらを石英ガラスプレート128を含むようなサブストレートによって支持している。水素化可能材料は水素原子が存在する状態では水素原子と相互作用し、一方水素化不可能材料は水素原子と相互作用しないことは当業者であれば理解されよう。一実施形態ではその水素化可能層の厚さは1〜5ナノメートルの範囲であり、またその水素化不可能層の厚さは1〜3ナノメートルの範囲である。水素化可能層と水素化不可能層を基本の構成成分として組み合わせることによって2重層が構築される。薄膜122は、コンピュータ制御の薄膜被着処理を用いてこうした構成成分を1層ごとに反復させることによって製作されることがある。
【0019】
一実施形態ではその水素化可能材料はパラジウム、パラジウム合金(Pd(x)M(1−x)(ここで、M=Ag、Au、Cu、Ni))またはパラジウム酸化物(PdOx)を含み、また水素化不可能材料は水素原子の溶解性を上昇させるために使用される金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)などの貴金属を含み、これにより一方では導電率飽和が回避されかつ水素ガスの検出能が上昇すると共に、さらに他方では多層検知材料の屈折率変調が上昇する。
【0020】
図7は、高屈折率及び低屈折率の多層検知薄膜140の一例を屈折率プロット142と共に表している。この実施形態では、多層検知薄膜は高屈折率及び低屈折率の材料のそれぞれとしてPdOx及びAuの下位層を備える。PdOx/Au周期変調性検知薄膜は、Ar+O2被着条件(この際のO2濃度は10〜20%の範囲にある)か、O2に富む環境時の後熱処理過程に従うAr被着条件かのいずれかで作成される。各層は水平軸で示した特有の厚さと垂直軸で示した屈折率を有する。異なる厚さを使用することによって、コヒーレントな多層検知構造による屈折率プロフィールの変調が可能となり、これにより光を透過、吸収または反射させるような大きな光学特性変動が得られる。
【0021】
多層検知薄膜140が水素分子と相互作用すると、第1のPd最上層(図8では1nmの厚さを有するように図示)によって水素分子が水素原子になるように分解される。H原子の拡散は、当該単一層内ではナノ粒子境界と後方交差し、また残りの層内ではすべてのナノ粒子境界及び界面辺縁と交差する。Pdナノ粒子はH原子と結合して水素化物を形成する一方、Pd−O結合部分は水素化可能PdOx層内でH−Pd−O−Hとなり、またH−Pd−O−H結合集団部分はH−Pdと−OH水酸基イオンとに分割される。多層検知薄膜内のAuの水素化不可能層は界面境界を提供すると共に、H原子拡散チャンネルの役割をする。Pd(n≒2.0)とAu(≒0.2)の間の実際の屈折率の対比が大きいため光伝播特性が有効に変調されると共に、2つの金属材料の屈折率の虚数部は吸収特性に影響を及ぼすだけである。屈折率とは、その屈折率を計測しようとする媒質中の光波長に対する真空中における光波長の比を意味することは当業者であれば理解されよう。多層検知薄膜の直交軸に沿った実効屈折率n(z)は次式で与えることができる。
【0022】
【数1】

上式において、d=d(PdOx)+d(Au)であり多層検知薄膜の変調長さとして定義される。上式において、d(PdOx)とd(Au)はPdOxとAuのそれぞれの変調長さであり、またn(Pd)とn(Au)はPdOxとAuのそれぞれの屈折率である。上式の第2項は、Aiを変調振幅としかつ指数項を多層材料の全体にわたるコヒーレント変調寄与とした屈折率変調を意味している。光の透過及び吸収は入射光波長及び材料識別係数すなわち誘電体関数の虚数部に依存するため、こうした多層構造は具体的なある検知薄膜厚さ及び下位層屈折率において平衡した反射及び吸収を有するように設計することが可能である。例えば1.7nm厚のAuナノ構造下位層を使用している図7に示した実施形態では、変調長さに対するAu下位層の比は約0.33である。この比は僅かな水素濃度変化に感応するようにチューニングすることが可能であり、また高い水素濃度が存在しているときの吸収機構中に屈折率の僅かな任意の変動を計測することが可能である。さらに、反射及び吸収の特性のこうした組み合わせは、例えばAu、Ag、Ni、Cuなど異なる水素化不可能材料を用いて様々とすることが可能である。
【0023】
一実施形態ではその多層検知材料は、Hイオン拡散を可能とさせるようなナノ構造表面形態を有する。別の実施形態ではその検知材料は、Niを水素化不可能層としたナノ多孔性構造を有する。さらに別の実施形態ではその検知材料は、Auを水素化不可能層としたナノ粒子構造を有する。水素化不可能層としては、銀または銅またはニッケルなどの別の任意の貴金属材料も使用し得ることに留意すべきである。水素化不可能層は、Hイオンのパラジウムナノ粒子との相互作用を保証するために使用される。一実施形態ではそのナノ粒子サイズは5nm〜15nmの範囲にある。別の実施形態では、検知材料内の迅速な水素化物形成処理のために柱状の表面形態が使用される。具体的な一実施形態ではその柱状表面形態は、内方に拡散させるように水素分子をH+イオンに迅速に分解するために、キャッピング(capping)層とした1ナノメートルのPd層と共に使用される。
【0024】
図8は、3つのPdOx/Au多層検知薄膜からの反射及び透過光学特性を光波長に関してシミュレーションしたプロット160を表している。水平軸162はナノメートル単位の光波長を意味しており、また垂直軸164はパーセントを単位とした薄膜の反射及び透過特性を意味している。プロット160は、3種類のPdOx/Au多層薄膜に関する3つの反射166、168、170と3つの透過曲線172、174及び176とを表している。曲線166及び172は厚さが19nmの4重の2重層薄膜に関するものである。曲線168及び174は厚さが32.5nmの7重の2重層薄膜に関するものである、また曲線170及び176は厚さが45nmの10重の2重層薄膜に関するものである。プロット160から、高感度領域が500〜800nm波長の範囲にあることが理解できよう。換言すると、反射及び透過は500〜800nmの範囲の波長において最大値を有する。さらに、反射と透過の両者は光波長に対して明瞭な依存性を示している。約550nmでは、19nm厚の薄膜からの反射率は約45%であり、一方32.5nm及び45nmの薄膜は60%〜67%の反射率を有する。さらに、透過曲線は可視光学波長レンジ内でより低感度であることが理解できよう。さらに500nmを超える波長では、より厚い薄膜がより高い反射とより低い透過を有することが理解できよう。一実施形態では、最適化したH2純度検出感度では、その波長が500nm〜800nmの範囲であるような光源と、10〜40nmの範囲(あるいは公称厚さが約25nm)の多層検知材料の全体厚と、が必要である。
【0025】
図9は、図8に示したのと同じ3つのPdOx/Au多層検知薄膜からの光学吸収特性を光波長に関してシミュレーションしたプロット180を表している。水平軸182はナノメートル単位の光波長を意味しており、また垂直軸184はパーセントを単位とした薄膜の吸収特性を意味している。プロット180は、3つの薄膜19nm、32.5nm及び45nmのそれぞれに関する3つの曲線186、188及び190を表している。このプロットから、500nmより高い波長ではより薄い薄膜がより厚い薄膜と比べてより高い吸収を有しており、また500nm未満の波長ではより厚い薄膜がより薄い薄膜と比べてより高い吸収を有することが理解できよう。したがって図8及び9から、500nmを超える波長ではより薄い薄膜がより有用であり、一方500nmより低い波長ではより厚い薄膜がより有用であることが理解できよう。吸収は検知材料及び水素化物濃度に対する依存性が高いため、水素化物形成誘導の反射及び透過によるH2純度検出能の人為的変調にこれが役立つ。さらに、吸収は多層材料や構造パラメータにも依存する。
【0026】
図10は、本発明の一実施形態による別のファイバ気体水素純度センサ200を表している。一実施形態ではそのファイバ気体水素純度センサ200は、スパッタリング処理によって製作したファイバグレーティングと検知チップ材料の統合体である。ファイバ気体水素純度センサ200は、軸204方向に延びる中央ファイバコア202を含み、かつ屈折率周期変調性のグレーティングを含む。一実施形態ではその中央ファイバコアは、GeO2とFを共ドープしたシリカを含むと共に、約5マイクロメートル〜約9マイクロメートルの範囲の直径を有する。この周期的変調は、例えばファイバクラッドに合わせて導波モード場エネルギーを落とすことによってクラッドモードに結合している導波コアモードを増大させるように、アポダイゼーション型(apodized)の変調、ブレーズ型(blazed)の変調、あるいはブレーズ及びアポダイゼーション型の変調を含むことがある。一実施形態ではその屈折率周期性グレーティングは、ファイバコア202を囲繞するように位置決めされた長周期ファイバグレーティング(LPG)構造206を備える。
【0027】
ファイバコア202の周りで周回方向にファイバクラッド208を配置させており、またこれは一実施形態では純粋なシリカから製作させて約125マイクロメートルの外径を有する。一実施形態ではそのファイバクラッド208は、ファイバコア202を通した光伝播のための導波路の役割をするように構成されている。光ファイバケーブルと光連絡するように広帯域チューニング可能光源(図示せず)が位置決めされており、これによりファイバコア202を通って伝播する近赤外光を放出している。
【0028】
LPG構造206のファイバクラッド208の周りにはナノ構造多層検知層210が配置されている。検知層210は、例えば屈折率変動、光学吸収変化、検知材料応力変化、あるいはこれらの組み合わせによって、ファイバクラッド208のモードのファイバコアの基本モードへの結合を有効に支援するように構成されている。検知層210は、屈折率変動、吸収変化、検知材料応力変化やその他の変化を誘導する水素ガスに感応性である、かつ/またはこれとの相互作用によって賦活(activated)される。一実施形態ではその多層ナノ構造検知薄膜140は図7に関連して記載したものである。上に記載したように、ナノ構造多層検知薄膜140上での水素化物形成によってその周辺環境の不透明な鏡様の表面がより半透明な表面に変わる。水素化物の形成がクラッドモード境界及び結合効率を変化させ、これによりファイバグレーティングベースの水素純度センサの伝送波長及びそのパワー損失が変調されている。
【0029】
具体的な一実施形態ではそのファイバ気体水素純度センサ200は、光ファイバコア202の長手方向軸204に沿って約10ミリメートル〜約50ミリメートルの長さを有する。LPG構造206は、約0.05ミリメートル〜約0.125ミリメートルのクラッド直径で長手方向軸204に沿って約10ミリメートル〜約30ミリメートルの長さを有する。LPG構造206は長手方向軸204に沿ってピッチサイズが約100マイクロメートル〜約600マイクロメートルの変調を有する。LPG構造206は、アポダイゼーション型またはブレーズ型の屈折率変調プロフィールを有するファイバクラッド208のモードに合わせて基本モードエネルギーを有効に落とすように構成されている。検知層210の検知材料の屈折率がファイバクラッド208より低い場合、ファイバクラッド208のモードは検知材料/クラッド及びファイバコア界面によってガイドされる。部分光エネルギーはエバネッセント(evanescent)場によって検知材料内に放散される一方、クラッドモードは検知コーティング層内に放射モードの形でエネルギーを部分的に放散させる。
【0030】
図11は、本発明の一実施形態によるファイバグレーティングアレイベースのファイバ気体水素純度センサパッケージ220を表している。ファイバ気体水素純度センサパッケージ220は、気体流入口222、気体流出口224、流入口バルブ226及び圧力制御弁228を含む。流入口バルブ226は、石英管230内に注入される気体の量を制御しており、また圧力制御弁228はチューブ230内部の気体圧力を制御している。一実施形態ではそのサンプリング気体または水素が気体流入口222から石英管230内に入り、チューブ230内を通り、気体流出口224を通って放出される。チューブ230の内部には、図示した実施形態では3つのファイバセンサ234、236及び238を有するような検知ファイバ232が据え付けられている。一実施形態では、長周期ファイバグレーティング(LPG)構造及び検知材料一体型のファイバ気体水素純度センサ(FGHPS)234が石英管パッケージ中心230の中央に位置決めされている。別の実施形態では、流量変動により誘導される気体センサ波長シフトを任意の時点で補正するように局所温度を計測するために2つのファイバBraggグレーティング(FBG)構造236(FBG1)、238(FBG2)がFGHPS234の両側に据え付けられている。2つのFBGの波長(λ1(t)及びλ2(t))シフトの差Δλ(t)は、気体フロー変動または温度変動に正比例しており、次式で与えられる。
【0031】
Δλ(t)=λ1(t)−λ2(t)∝気体流量 (2)、あるいは
Δλ(t)=λ1(t)−λ2(t)∝温度変動 (3)
式(2)及び(3)は、気体流量が一定に保たれている場合に、Δλ(t)は局所温度変動を反映することになることを示している。
【0032】
水素ガスはファイバ気体センサからの熱エネルギーを排出するような高い熱伝導率を有するため、ファイバBraggグレーティングを使用することによって熱損失に由来する波長シフトを次式により直接計測することが可能である。
【0033】
Δλ1(t)=λ1(t1)−λ1(t2)∝H2ガス濃度 (4)
Δλ2(t)=λ2(t1)−λ2(t2)∝H2ガス濃度 (5)
正確なH2純度検出を提供するように任意の時点で流量と水素濃度の両者が同時監視される。
【0034】
図12は、様々な水素純度に関する2つのファイバ気体純度センサ応答250及び252を表している。応答250は、2.8nmのPdOx及び1.7nmのAuの2重層を15層有するファイバ気体水素純度センサに関するものである。各2重層の厚さは約4.5nmであり、またその全体厚は15層の2重層または31層の多層では67.5nmである。水素分子(H2)から水素イオン(H+)への変換効率を急激に上昇させるために、多層検知薄膜の上へのキャッピング層として1nm厚のPdが使用されることに留意すべきである。同様に応答252は、3nmのPdOx及び1.0nmのAuの2重層を5層有するファイバ気体水素純度センサに関するものである。各2重層の公称厚は約4.0nmであり、また5層の2重層または11層の多層に関する全体厚は205nmである。水素純度の計測対象の装置は当初100%のH2を包含しており、次いでH2純度を5%ステップで減少させた。水素を希薄化させるためには、装置内にN2ガスを導入した。検知材料と希薄化させたH2ガスの間の相互作用によって検知材料内に水素化物が形成される。ファイバ気体センサのピーク波長は、N2濃度の増加またはN2濃度の低下に伴って増加または低下する。この応答から、ファイバセンサの両プロトタイプはH2純度変化に対する感応性を有することが理解できよう。さらに、より厚い検知薄膜一体型純度センサは、より薄い検知薄膜一体型純度センサと比較してより大きい応答振幅を有することも理解できよう。
【0035】
図13は、図12に関連して記載した薄型検知材料を一体化させたファイバ気体純度センサと厚型検知材料ファイバ気体純度センサの感度応答260、262を表している。この両応答では共に、2つの直線的な感度が特定されている。応答260では、第1の直線範囲は低H2から80%H2までであってその感度はH2濃度に関して約6.4pm/パーセントである一方、第2の直線範囲は27.3pm/パーセントの感度で80%から100%H2純度までである。応答262では、第1の直線範囲はH2濃度70%〜85%程度において約2.3pm/パーセント感度である一方、第2の直線範囲は15.4pm/パーセント感度で≒85%から100%H2純度までである。ファイバセンサ信号送信ユニット(interrogation unit)は±5pm確度を有するため、厚型検知材料一体型ファイバ気体センサのプロトタイプについて推定される気体検出分解能は低H2検知レンジでは約1%であり、また80〜100%H2純度レンジでは約0.2%H2である。さらに、薄型検知材料一体型ファイバ気体センサプロトタイプでは図9に示すように1.5μmにおける吸収が高いためその感度が≒1.5〜2.5分の1だけ大幅に低下することが理解できよう。
【0036】
記載した水素純度センサの利点の1つは、高水素純度の計測の際の感度及び確度が高いことである。FBG1−FGHPS−FBG2検知アレイは水素純度を70%〜100%の範囲で計測することが可能であると共に複雑性が低く、またどんな場所でも安全に配備することが可能である。したがって、これらのセンサを据え付けた装置に関する安全計測をより複雑でなくかつより低コストとすることができる。
【0037】
本発明のある種の特徴についてのみ本明細書において図示し説明してきたが、当業者によって多くの修正や変更がなされるであろう。したがって添付の特許請求の範囲が、本発明の真の精神の範囲に属するこうした修正や変更のすべてを包含させるように意図したものであることを理解されたい。
【符号の説明】
【0038】
50 水素純度検知システム
52 光源
54 光カプラ
56 光ファイバケーブル
60 ファイバ気体水素純度センサ
62 光検出器
64 光ファイバケーブル
66 光ファイバケーブル
68 コンピュータ
70 ワイヤレスインタフェース
80 強度ベースのファイバ気体水素純度センサ
82 複合型ファイバ束
84 ナノ構造多層検知チップ
86 検知プローブ先端ハウス
88 フィルタ
90 光信号
92 反射信号
94 ファイバ束先端
95 強度ベースのファイバ気体水素純度センサ
96 穴
97 穴
100 多重化スキーム
101 レーザ源
102 第1の光分割器
103 光カプラ
104 光検出器アレイ
105 処理回路
106 水素センサハウジング
107 ファイバ検知プローブ
108 第2の光分割器
110 反射信号の振幅変動を距離Dに対して示したプロット
120 水素純度多層検知チップ
121 検知チップの2次元像
122 多層検知薄膜
123 検知チップの3次元像
124 高屈折率材料
126 低屈折率材料
128 石英ガラスプレート
140 高屈折率及び低屈折率の多層検知薄膜
142 屈折率プロット
160 反射及び透過光学特性のシミュレーションのプロット
162 水平軸
164 垂直軸
166 反射曲線
168 反射曲線
170 反射曲線
172 透過曲線
174 透過曲線
176 透過曲線
180 光学吸収特性のシミュレーションのプロット
182 水平軸
184 垂直軸
186 吸収曲線
188 吸収曲線
190 吸収曲線
200 ファイバ気体水素純度センサ
202 ファイバコア
204 軸
206 長周期ファイバグレーティング(LPG)構造
208 ファイバクラッド
210 ナノ構造多層検知層
220 ファイバグレーティングアレイベースのファイバ気体水素純度センサパッケージ
222 気体流入口
224 気体流出口
226 流入口バルブ
228 圧力制御弁
230 石英管
232 検知ファイバ
234 ファイバセンサ
236 ファイバセンサ
238 ファイバセンサ
250 ファイバ気体純度センサ応答
252 ファイバ気体純度センサ応答
260 感度応答
262 感度応答

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素純度を計測するためのシステム(50)であって、
光ファイバケーブル(56)を通して光学信号を提供するための光源(52)と、
高屈折率材料(124)と低屈折率材料(126)からなる多層ナノ構造薄膜(122)を備えている光学信号を受け取るための水素純度センサ(60)と、
水素純度センサからの反射光学信号を受け取るための光検出器(62)と、
反射光学信号を解析するために光検出器(62)に結合させた処理回路(68)と、
を備えるシステム(50)。
【請求項2】
前記高屈折率材料は水素化可能材料を含みかつ前記低屈折率材料は水素化不可能材料を含む、請求項1に記載の水素純度センサ。
【請求項3】
前記水素化可能材料はパラジウムまたはパラジウム合金を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記水素化不可能材料は金、銀、ニッケル、銅あるいはこれらの組み合わせを含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記多層ナノ構造薄膜の厚さは10〜100ナノメートルの範囲にあり、かつ該多層ナノ構造薄膜は500〜800nmレンジの光源波長において反射及び吸収に関する最大感度を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
ファイバコア(202)と、
ファイバコア(202)の周りに位置決めされた屈折率周期変調性のグレーティング構造(206)と、
屈折率周期変調性のグレーティング構造(206)を囲繞して位置決めされたファイバクラッド(208)と、
ファイバクラッド(208)の周りに位置決めされた、高屈折率と低屈折率の複数の材料層からなる変調構造を備えた多層検知薄膜(210)と、
を備える水素純度センサ(200)。
【請求項7】
前記高屈折率材料は水素化可能材料を含みかつ前記低屈折率材料は水素化不可能材料を含む、請求項6に記載の水素純度センサ。
【請求項8】
前記多層検知薄膜はナノ多孔性構造とナノ粒子構造のうちの少なくとも一方を備える、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
前記多層検知薄膜は柱状の表面形態を備える、請求項6に記載のシステム。
【請求項10】
水素化可能材料及び水素化不可能材料からなる多層ナノ構造薄膜(234)と、熱鈍感性の石英材料ベースのチェンバー内に据え付けられた少なくとも2つのファイバBraggグレーティング(236、238)と、を備える水素純度センサパッケージ(220)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−197008(P2011−197008A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−82253(P2011−82253)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】