説明

光ローカルエリアネットワークシステムの媒体アクセス方式

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ループ型光ローカルエリアネットワーク(LAN)システムの波長分割多重方式の媒体アクセス方式と、時分割多重方式と波長分割多重方式を複合した媒体アクセス方式に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の波長分割方式の媒体アクセス方式では、図8に示すように各ノードのアドレスとして予め固有の波長が割り当てられており、ノードがデータを送信する場合にはそのノードのアドレス波長でデータを送出し、データを受信する場合には受信したいノードのアドレス波長のみを可変波長光フィルタで抜きだして受信するものであった。この媒体アクセス方式については、「IEEE GLOBCOM′87」予稿集、1987年、第1455−1456項に詳しく述べられている。
【0003】また、従来のパケット交換と回線交換を複合した媒体アクセス方式は、ある1つの光波長で、複数個のパケットを時分割多重して伝送路上を伝送させ、図9R>9のように各パケットをパケット交換用パケットと回線交換用パケットに分けて使用するという、時分割多重のみでパケット交換と回線交換を複合するものであった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述した従来の波長分割多重方式の媒体アクセス方式では、各ノードのアドレスとして予め固有の光波長が割り当てられているため、システムが収容可能なノード数は使用できる光波長の数と等しく、ノード数を多くしたい場合には使用波長を多くする必要がある。しかし、使用できる光波長の数は可変波長光フィルタの性能で決まり無限に多くすることはできないので、これによりシステムが収容できるノード数が制限されるという欠点を持つ。また、全てのノードが常にデータを送信することはないので全ての光波長が同時に使用されることはない、つまり光波長数はノード数分だけ必要であるが、使用されるのは常にその一部であり、光波長が有効に使われていない。
【0005】また、従来のパケット交換と回線交換を複合した媒体アクセス方式では、ある1つの光波長のみを使用し、複数個存在するパケットをパケット交換用パケットと回線交換用パケットに分けて使用するため、パケット交換と回線交換を独立で行う場合に比べて、それぞれの伝送容量が低下する。すなわち、パケット交換においてはシステム上に存在し得るパケット数が減るためスループットが劣化し、回線交換においては取り得るチャンネル数が制限されると共に、1チャンネル当りの伝送速度はシステムの伝送速度よりも低くなるため高い伝送速度を要する画像信号等の伝送が不可能となる。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の波長分割多重方式の媒体アクセス方式では、予め各ノードに対してアドレスとして光波長を割り当てることをせず、あるノード間にデータ送受信要求が生じたときのみ、そのデータ伝送に対してある特定の光波長を割り当てデータ伝送が終了したときには割り当てた波長は開放するものであり、アクセス権制御パケットを用いてデータ送受信の予約および光波長の割当、通知を制御ノードと送受信ノード間で行うことを特徴とする。
【0007】また、本発明の時分割波長分割多重複合媒体アクセス方式は、スロッテドループ方式パケット交換型の時分割多重媒体アクセス方式と回線交換型の波長分割多重媒体アクセス方式の2つの媒体アクセス方式を有し、時分割多重媒体アクセス方式で使用する複数のパケットの内の1つを、波長分割方式のアクセス権制御パケットとして使用することを特徴とする。
【0008】
【実施例】本発明について図面を参照して説明する。図1R>1〜図3は本発明の波長分割多重方式の媒体アクセス方式を表す動作原理図であり、図4はアクセス権制御パケットのフレーム構成を示す図である。図5は本発明の時分割波長分割多重複合媒体アクセス方式を表す原理図であり、図6は時分割波長分割多重複合媒体アクセス方式で使用されるパケットのフレーム構成を示す図である。
【0009】まず図1〜3と図4により波長分割多重方式の媒体アクセス方式を説明する。第1の光波長により図4に示したアクセス権制御パケットが伝送路上を周回しており、全てのノード間で順番に送受信されるものとする。(図1(a))。アクセス権制御パケットは1タイムスロットが予約フィールドと送信ノードアドレスフィールドと受信ノードアドレスフィールドと使用波長指定フィールドから成る複数のスロットで構成されている(図1〜3の例では2タイムスロット構成)。このうち予約フィールドは、空き、送信予約、送信許可、受信可、送信中、送信終了、終了確認、の7つの状態をとるものとする。
【0010】データを送信したいノードは、周回してきたアクセス権制御パケットを受信した際に(図1(b))空いているタイムスロットに送信予約と送受信ノードのアドレスを書き込み送出する(図1(c))。送出されたアクセス権制御パケットが制御ノードに到着し送信予約が確認されると、制御ノードは受信ノードの状態を見て受信ノードがデータを受信中でなければ第2から第Nの光波長の内そのとき使用されていない波長を1つ選択した後、送信予約を送信許可に書き換え、送受信ノードアドレスはそのままとし、使用波長指定フィールドに選択した指定波長情報を書き込んで送出する(図1R>1(d))。制御ノードにより送信予約が送信許可に書き換えられたアクセス権制御パケットが受信ノードに到着すると、受信ノードは受信ノードアドレスフィールドを読み自ノードが受信ノードに指定されたことを確認し、使用波長指定フィールドに書かれた光波長のみを自ノードに引き込みそれ以外の波長は光信号のままで通過させるように設定した後、送信許可を受信可に書き換えてアクセス権制御パケットを送出する。(図2(e))。その後アクセス権制御パケットが送信ノードに到着したとき送信ノードは、受信可を送信中に書き換えて送出した後、使用波長指定フィールドに書かれた光波長でデータを送出する(図2(f))。このとき受信ノードのみが指定された光波長を自ノードに引き込むように設定されているので送受信ノード間でデータの伝送を行うことができる。
【0011】データ送信が終了したら、受信ノードは使用波長指定フィールドに書かれた光波長のみを自ノードに引き込みそれ以外の波長は光信号のままで通過させるという設定を解き、送信ノードは周回してきたアクセス権制御パケットの予約フィールドを送信中から送信終了に書き換え送出する(図2(h))。このアクセス権制御パケットを受信した制御ノードは送信終了を確認し、指定されていた光波長を開放し他のデータ伝送のために使用可能にした後、アクセス権制御パケットを送出する(図3(i))。そのアクセス権制御パケットが送信ノードに到着したら、タイムスロット内の内容を空にして伝送路に送出する(図3(j))。
【0012】上記データ伝送動作中に別のノード間にデータ伝送要求が生じた場合には、上記で使用している以外の、アクセス権制御パケット内の空スロットと光波長を使用して、同様の手順でデータ伝送を行う。
【0013】ここで受信ノードが行う、使用波長指定フィールドに書かれた光波長のみを自ノードに引き込みそれ以外の波長は光信号のままで通過させるという機能を実現するための素子として、「1989年 European Conference On Optical Communication 予稿集」第3巻、第70−73項に記載された「音響光学効果を使った可変波長光フィルタ」を用いる。音響光学効果を使った可変波長光フィルタの構造は図7に示すように、LiNbO3 の基板上にチタンを拡散して形成した2本の光導波路と第1および第2のTE−TMスプリッタと電極と音響波領域とから成っている。第1の入力端子から入力された光信号は第1のTE−TMスプリッタでTE偏波とTM偏波に分けられ2本の導波路を別々に進んで第2のTE−TMスプリッタで合波されて第1の出力端子に出力される。このとき電極にある周波数の電気信号を入力するとその周波数に対応した波長の光信号が音響波領域内の光導波路上で音響光学効果によりTE−TMモード変換されるため、前記波長の光信号のみが第2の出力端子に出力されそれ以外の波長の光信号は第1の出力端子に出力される。電気信号の周波数を変えることにより第2の出力端子に出力される光波長を変えることができる。
【0014】次に、図5と図6を用いて本発明の時分割波長分割多重複合媒体アクセス方式について説明する。第1の光波長により図6に示した複数のパケットが伝送路上を周回しており、全てのノード間で順番に送受信されるものとする。これらのパケットの内1つは図4に示した波長分割多重媒体アクセス用のアクセス権制御パケットであり、他のパケットは送信ノードアドレスフィールドと受信ノードアドレスフィールドとデータフィールドから成る時分割多重媒体アクセス用のパケットである。
【0015】時分割多重媒体アクセス方式は、ノードがデータを送信するときには、空いているパケットに送信ノードアドレスと受信ノードアドレスとデータを書き込んで送出し、ノードがデータを受信するときには、自ノードに到着したパケットの受信ノードアドレスフィールドを常に読み、それが自ノードのアドレスと一致した場合には、そのパケットを受信する、という手順でデータの送受信を行う。
【0016】波長分割多重媒体アクセス方式は図1〜3と図4を用いて説明した手順で行われる。
【0017】このとき、ノードが送信するデータが、コンピュータやワークステーション等のデータのようにデータを分割して送っても、また分割して送られたデータ間にある程度の伝送遅延時間差が生じても差し支えない場合には、パケット交換型の時分割多重媒体アクセス方式でデータを伝送し、音声や画像のデータのように常に一定の伝送速度で送る必要があり、チャンネルを長時間占有するような場合には、回線交換型の波長分割多重媒体アクセス方式でデータを伝送するものとする。
【0018】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の波長分割多重方式の媒体アクセス方式は、予め各ノードに対してアドレスとして光波長を割り当てることをせず、アクセス権制御パケットを用いてデータ送受信の予約および光波長の割当、通知を制御ノードと送受信ノード間で行い、あるノード間にデータ送受信要求が生じたときのみ、そのデータ伝送に対してある特定の光波長を割り当てデータ伝送が終了したときには割り当てた波長は開放され、他のデータ伝送に使用できるようにしたため、システム内で必要とする光波長数をノード数よりも少なくすることができ、システム収容ノード数が使用可能な光波長数で制限されるという課題を解決することができる。
【0019】また、本発明の時分割波長分割多重複合媒体アクセス方式は、スロッテドループ方式パケット交換型の時分割多重方式と、回線交換型の波長分割多重方式の2つの媒体アクセス方式を有しているため、それぞれの伝送容量が低下することはなく、回線交換は波長分割多重方式であるため各チャンネルの伝送速度は他チャンネルの伝送速度にもパケット交換の伝送速度にも依存せず自由に設定できるので、必要に応じて伝送速度を高くすることが可能である。また波長分割多重方式を用いたためにシステム収容ノード数が使用可能な光波長数で制限されるという課題も無い。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の波長分割多重方式の媒体アクセス方式を表す動作原理図。
【図2】本発明の波長分割多重方式の媒体アクセス方式を表す動作原理図。
【図3】本発明の波長分割多重方式の媒体アクセス方式を表す動作原理図。
【図4】アクセス権制御パケットを示す図。
【図5】本発明の時分割波長分割多重複合媒体アクセス方式を表す原理図。
【図6】時分割波長分割多重複合媒体アクセス方式で使用されるパケットを表す図。
【図7】音響光学効果を使った可変波長フィルタを示す図。
【図8】従来の波長分割多重方式の媒体アクセス方式を表す動作原理図。
【図9】従来のパケット交換回線交換複合媒体アクセス方式で使用されるパケット構成を示す図。
【符号の説明】
1 光ファイバ伝送路
2 制御ノード
3 ノード
4 アクセス権制御パケット
5 タイムスロット
6 予約フィールド
7 送信ノードアドレスフィールド
8 受信ノードアドレスフィールド
9 使用波長指定フィールド
10 パケット交換用パケット
11 データフィールド
12 波長分割多重方式伝送データ
13 音響光学効果を使った可変波長光フィルタの第1の入力端子
14 音響光学効果を使った可変波長光フィルタの第2の入力端子
15 音響光学効果を使った可変波長光フィルタの第1の出力端子
16 音響光学効果を使った可変波長光フィルタの第2の出力端子
17 音響光学効果を使った可変波長光フィルタの光導波路
18 音響光学効果を使った可変波長光フィルタの第1のTE−TMスプリッタ
19 音響光学効果を使った可変波長光フィルタの第2のTE−TMスプリッタ
20 音響光学効果を使った可変波長光フィルタの電極
21 音響光学効果を使った可変波長光フィルタの音響波領域
22 スターカップラ
23 光送信器
24 可変波長光フィルタ
25 光受信器
26 インターフェース回路
27 回線交換用パケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】 1つの制御ノードを含む複数のノードと前記ノード間でのデータ伝送を行うための光ファイバ伝送路を有し、N個の光波長を使用して波長分割多重方式でデータ伝送を行うループ型光ローカルエリアネットワークシステムにおいて、データ送信要求を有することを示す送信予約情報と、送信ノードアドレスと、受信ノードアドレスと、データ送信に使用すべき光波長の通知を行う使用波長情報とを、前記制御ノードを含むノード間で伝達するためのアクセス権制御パケットが第1の光波長で伝送され、ノードがデータを送信するときには、前記アクセス権制御パケットに、前記送信予約情報と、送信ノードである自ノードのアドレスと、受信ノードであるデータを送るべきノードのアドレスとを書き込んで送ることにより、データ送信要求を有することを前記制御ノードと前記受信ノードに通知し、前記制御ノードは前記ノードの前記データ送信要求を認知したとき、前記受信ノードがデータを受信中でなければ、第2から第Nまでの光波長の内からある1つの送信光波長を選択し、それを前記アクセス権制御パケットに前記使用波長情報として書き込んで送ることにより前記送信および受信ノードに前記送信光波長を通知すると、前記送信ノードは通知された前記送信光波長でデータを送信し、前記受信ノードは、前記送信光波長のみをノード内に引き込み、他の光波長はノード内に引き込まずに光信号のままで通過させるようにして、データの送受信を行うことを特徴とした光ローカルエリアネットワークシステムの媒体アクセス方式。
【請求項2】 請求項1に記載の波長分割多重方式の第1の媒体アクセス方式と、送信ノードアドレスと受信ノードアドレスとデータが書き込まれる固定長のパケットが複数個時間的に連続して光ファイバ伝送路上を伝送され、ノードがデータを送信するときには、空いているパケットに前記送信ノードアドレスと前記受信ノードアドレスと前記データを書き込んで送出し、ノードがデータを受信するときには、自ノードに到着した前記固定長パケットの前記受信ノードアドレスを常に読み、それが自ノードのアドレスと一致した場合には、該パケットを受信することにより、データの送受信を行うスロッテドループ型の時分割多重方式の第2の媒体アクセス方式とを有し、前記第1の媒体アクセス方式の前記アクセス権制御パケットと前記第2の媒体アクセス方式の前記複数の固定長パケットが同一の光波長で前記光ファイバ伝送路上を伝送され、前記第2の媒体アクセス方式の前記複数の固定長パケットのうちの1つが、前記第1の媒体アクセス方式の前記アクセス権制御パケットとして使用されることを特徴とした、光ローカルエリアネットワークシステムの媒体アクセス方式。

【図5】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【特許番号】第2782958号
【登録日】平成10年(1998)5月22日
【発行日】平成10年(1998)8月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−416929
【出願日】平成2年(1990)12月28日
【公開番号】特開平4−234243
【公開日】平成4年(1992)8月21日
【審査請求日】平成6年(1994)8月2日
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【参考文献】
【文献】特開 平4−185139(JP,A)
【文献】特開 平4−167634(JP,A)
【文献】特開 平4−117042(JP,A)
【文献】特開 平4−74038(JP,A)
【文献】特開 平4−7941(JP,A)
【文献】特開 昭61−293044(JP,A)
【文献】特開 昭60−35854(JP,A)
【文献】特開 昭56−112141(JP,A)
【文献】特公 昭60−31410(JP,B1)
【文献】電子情報通信学会技術研究報告 (信学技報 VOI.91 NO.342) OCS91−61,PP.61−68,江田昌弘 他,「WDM複合型光LAN」,平成3年11月22日
【文献】1991年電子情報通信学会春季全国大会講演論文集,[分冊3] 通信,SB−6−6,江田昌弘 他,「波長分割多重による複合型光LANの提案」,第3−409頁,平成3年3月26日
【文献】1991年電子情報通信学会秋季全国大会講演論文集,[分冊4] 通信・エレクトロニクス,B−599,下坂直樹 他,「音響効果フィルタを用いた波長分割/時分割複合多重型放送局内光ネットワーク」,第4−59頁,平成3年9月5日
【文献】COMPUTER NETWORKS and ISDN SYSTEMS,Volume.18 Number.5,JUNE 1990,Elsevier Science Publishers, S.D.Cusworth et al:”Wavelength Division Multiple Access on a High−speed Optical Fibre LAN”,PP.323−333
【文献】COMPUTER COMMUNICATIONS,Volume.11 Number.5,December 1988,Butterworths & Co Ltd,J.M. Senior et al:”Performance investigation of a token passing access protocal for a multichannel optical fibre LAN”,PP.304−312
【文献】PROCEEDINGS OF THE SPIE − The International Society for Optical Engineering Fibre Optics ’88,,Volume.949,26−28 April 1988,London,UK. J.M Senior et al:”Multichannel acess strategies for WDM optical fibre LANs”,PP.19−27