光制御フィルム、光散乱膜、およびその製造方法
【課題】外光散乱の抑制、広い視野角及び明るさの均一性という特性を有し、少ない枚数の散乱フィルムで構成可能な光制御フィルム等を提供すること。
【解決手段】積層された2枚の光散乱膜(2、4)を備えた光制御フィルム(1)であって、各光散乱膜は、曇価に入射角依存性を有し、且つ光の入射角と散乱光の出射角度範囲の中心角が異なる偏角散乱性を有し、前記2枚の光散乱膜は、前記範囲の中心が入射光の軸に対して反対側に位置し、さらに、出射角度範囲の一部が互いに重なるように積層されていることを特徴とする光制御フィルム。
【解決手段】積層された2枚の光散乱膜(2、4)を備えた光制御フィルム(1)であって、各光散乱膜は、曇価に入射角依存性を有し、且つ光の入射角と散乱光の出射角度範囲の中心角が異なる偏角散乱性を有し、前記2枚の光散乱膜は、前記範囲の中心が入射光の軸に対して反対側に位置し、さらに、出射角度範囲の一部が互いに重なるように積層されていることを特徴とする光制御フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略的には、光制御フィルム、光散乱膜、およびその製造方法に関し、詳細には、曇価に入射角依存性を有する光散乱膜を用いた光制御フィルム、光散乱膜、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロジェクタ(投影機)から投射される光りを受け、この光を散乱させ、視聴者が視認できるようにする装置として、プロジェクションスクリーンが用いられている。
【0003】
近年、超小型プロジェクタを搭載したノートパソコン、携帯電話、デジタルカメラ等が相次いで開発されてきており、プロジェクタが民生用へ普及する兆しがみられ、この結果、プロジェクションスクリーンも民生用に広く用いられる可能性が高まってきている。
【0004】
この他、デジタルサイネージ用の透過型スクリーンや、レーザーディスプレイ用のスクリーン、ヘッドアップディスプレイ用のスクリーン等の光を散乱させる他の光制御スクリーンへの需要も高まってきている。
【0005】
このようなスクリーンは、様々な環境下、即ち、映画館や会議室のような暗い場所だけではなく、明るい室内や屋外等の明るい場所でも使用される。ここで、このようなスクリーンでは、外光が視聴者側に散乱されると表示画像のコントラストが低下してしまうため、明所で使用された場合には外光の散乱を抑制する性能を有することが求められる。
【0006】
外光の散乱を抑制することができる汎用的なスクリーンとして、回帰反射を利用したビーズスクリーンが知られているが、このスクリーンには、視野角が狭いという問題があった。
【0007】
また、特定の入射角度範囲の光を選択的に散乱させる光制御フィルムを用いて外光の散乱を抑制するスクリーンが提案されている。このようなスクリーンは、曇価が入射角依存性を有する散乱フィルム(光散乱膜)を使用しており、投影光が散乱可能な特定の入射角度で入射し、且つ外光は散乱しない角度で入射するように配置されることによって、外光散乱を抑制するものである。
【0008】
このような光制御フィルムとしては、屈折率に差がある少なくとも2種類の光重合可能なモノマー又はオリゴマーを含む組成物を光照射によって硬化させて製造される散乱フィルム(特許文献1)がある。しかしながら、この散乱フィルムには、視野角がかなり狭いという問題があった。
【0009】
また、曇価が入射角依存性を有する複数枚の散乱フィルムを積層した光制御フィルムを使用するスクリーンが知られている(特許文献2)。
【0010】
さらに、曇価が入射角依存性を有する3枚以上の散乱フィルムを積層した光制御フィルムを使用したスクリーンも知られている(特許文献3)。
【0011】
この光制御フィルムでは、散乱フィルムの2枚が、高い曇価を示す入射角度範囲が同一面上にあり、前記入射角度範囲の中心が法線方向に対して互いに逆方向に偏っており、前記入射角度範囲の一部が互いに重なるように配置され、他の1枚の散乱フィルムが、高い曇価を示す入射角度範囲が、前記2枚の散乱フィルムが高い曇価を示す入射角度範囲と同一面上にあり、前記入射角度範囲の中心が法線方向にほぼ一致するように配置されている。
【0012】
このように、特定の入射角度範囲の光を選択的に散乱させる散乱フィルムを用いた光制御フィルムおよびこのような光制御フィルムを使用したスクリーンでは、特許文献2、3に記載されているような構成とすることによって、外光の散乱を抑制しつつ、広い視野角を得ることが可能であった。
【0013】
一方、大型で高画質な画像を得るためには、画面の明るさに均一性が求められるため、このような用途であるプロジェクションスクリーン等には、散乱性の均一性も求められる。
【0014】
しかし、特許文献2、3に開示されているように散乱フィルムを積層した光制御フィルムでは、散乱光の均一性が低く、スクリーンとして使用したときに画面の明るさが不均一になり易いという問題点が新たに生じた。
【0015】
そこで、曇価に入射角依存性を有し、高い曇価を示す入射角度範囲が同一面上にあり、この入射角度範囲が互いに同じである複数枚の散乱フィルムを高い曇価を示す入射角度範囲が互いにほぼ一致する向きで積層し、この積層体をさらに複数枚重ねてプロジェクションスクリーンとして使用することが提案されている(特許文献4)。
【0016】
このようなスクリーンは、散乱光の均一性に優れているため、高画質な大画面を得ることができる。
また、同様に、曇価が入射角依存性を有する複数枚の散乱フィルムと、曇価が入射角依存性を有しない散乱フィルムとを積層しプロジェクションスクリーンとして使用することが提案されている(特許文献5)。
【0017】
このようなプロジェクションスクリーンも、散乱光の均一性に優れているため、高画質な大画面を得ることができる。
【0018】
このように、特許文献4、5の構成にすることで散乱光の均一性を向上させることは可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特許第2691543号公報
【特許文献2】特開平4−77728号公報
【特許文献3】特開2006−84769号公報
【特許文献4】特開2007−293288号公報
【特許文献5】特開2009−157250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、特許文献4の構成では、最低でも4枚の散乱フィルムを積層する必要があるため、部材点数が多くなるという問題がある。
【0021】
また、特許文献5の構成では、最低でも3枚の散乱フィルムを積層する必要があるため、部材点数が多くなるという問題があり、さらに、曇価が入射角依存性を有さない散乱フィルムをさらに積層するため、外光散乱の抑制効果が低くなるという問題点がある。
【0022】
このように、外光散乱を抑制できるとともに、広い視野角、および均一な明るさを得ることができる光制御フィルムを、少ない枚数の散乱フィルムで構成することは従来の技術ではできなかった。
【0023】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、外光散乱の抑制、広い視野角及び明るさの均一性という特性を有する光制御フィルムであって、少ない枚数の散乱フィルムで構成可能な光制御フィルム、光散乱膜、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明によれば、
積層された2枚の光散乱膜を備えた光制御フィルムであって、
前記各光散乱膜は、曇価に入射角依存性を有し、且つ光の入射角と散乱光の出射角度範囲の中心角が異なる偏角散乱性を有し、
前記2枚の光散乱膜は、前記範囲の中心が入射光の軸に対して反対側に位置し、さらに、出射角度範囲の一部が互いに重なるように、積層されている、ことを特徴とする光制御フィルムが提供される。
【0025】
本発明の他の好ましい態様によれば、
光入射側に配置される前記光散乱膜の曇価が、光出射側に配置される前記光散乱膜の曇価より低い。
【0026】
本発明の他の態様によれば
薄板状の透明なマトリックスと、該マトリックス中に配設され該マトリックスと屈折率が異なる複数の透明な柱状構造体とを備えた光散乱膜であって、
前記複数の柱状構造体の各々が、前記光散乱膜の法線に対して傾斜して略平行に配向され、
前記光散乱膜への光の入射角と、散乱光の出射角度範囲の中心角とが異なる、
ことを特徴とする光散乱膜が提供される。
【0027】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記光散乱膜の前記複数の柱状構造体のアスペクト比が10以上である。
【0028】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記複数の柱状構造体の配列周期が、0.1〜15μmである。
【0029】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記光散乱膜の前記配列周期が、0.1〜15μmの範囲内の範囲内に分布している。
【0030】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記光散乱膜の前記複数の柱状構造体が前記光散乱膜の法線に対し1〜85°傾斜している。
【0031】
本発明の他の態様によれば、
上記光散乱膜を、2枚、散乱光の出射角度範囲の中心が入射光の軸に対して反対側に位置し、さらに、出射角度範囲の一部が互いに重なるように積層されていることを特徴とする光制御フィルムが提供される。
【0032】
本発明の他の態様によれば、
薄板状に配置された光重合性組成物に、当該組成物の法線方向に対して傾斜した方向から平行光を照射することにより前記光重合性組成物を重合硬化させる上記光散乱膜の製造方法が提供される。
【0033】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記平行光が、前記平行光を所定角度に偏向可能な光学手段を介して、前記光重合性組成物に照射される。
【発明の効果】
【0034】
このような構成を有する本発明によれば、外光散乱の抑制、広い視野角及び明るさの均一性という特性を有する光制御フィルムであって、少ない枚数の散乱フィルムで構成可能な光制御フィルム、光散乱膜、およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の好ましい実施形態の光制御フィルムの構成を説明するための図面である。
【図2】光線透過率測定装置の概略構成を示す図面である。
【図3】曇価を測定する方法を説明する図面である。
【図4】一般の光散乱膜における入射角β1と出射角度範囲の中心角β2との関係を示す図面である。
【図5】偏角散乱性を有する光散乱膜における入射角β1と出射角度範囲の中心角β2’との関係を示す図面である。
【図6】光散乱膜の「出射角度範囲」を計測する装置の構成を示す図面である。
【図7】本発明の好ましい実施形態の光散乱膜の内部構造を透視した模式的な斜視図である。
【図8】本実施形態の光散乱膜における柱状構造体の傾斜角度と、入射角(δ)と、出射角度範囲の中心角(φ)との関係を示す図面である。
【図9】偏角散乱特性の一例を示す図面である。
【図10】光散乱膜の製造方法を説明する模式的な図面である。
【図11】光散乱膜のもう一つの製造方法を説明する模式的な図面である。
【図12】光散乱膜の他の製造方法を説明する模式的な図面である。
【図13】本実施形態の光制御フィルム(散乱膜)を用いたレーザーディスプレイ装置の構成を示す模式的な図面である。
【図14】本実施形態の光制御フィルム(散乱膜)を用いたプロジェクションディスプレイシステムの構成を示す模式的な図面である。
【図15】本実施形態の光制御フィルム(散乱膜)を用いたバックライトシステムの構成を示す模式的な図面である。
【図16】本発明の実施例の散乱膜の断面画像である。
【図17】本発明の実施例の散乱膜の散乱光分布を、出射角度−40〜40°の範囲で測定したグラフである。
【図18】本発明の実施例(実施例1)による光制御フィルムの出射角度範囲の測定結果である。
【図19】本発明の実施例(実施例2)による光制御フィルムの出射角度範囲の測定結果である。
【図20】本発明の実施例(実施例3)による光制御フィルムの出射角度範囲の測定結果である。
【図21】本発明の比較例(比較例1)による光制御フィルムの出射角度範囲の測定結果である。
【図22】本発明の比較例(比較例2)の出射角度範囲の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態の光制御フィルムについて詳細に説明する。
先ず、本発明の好ましい実施形態の光制御フィルムの構成を説明する。図1は、本発明の好ましい実施形態の光制御フィルム1の構成を説明するための図面であり、図1(a)は、光制御フィルム1の概略構成を示す断面である。
【0037】
図1(a)に示されているように、本発明の好ましい実施形態の光制御フィルム1は、2枚の光散乱膜、即ち、第1の光散乱膜2と第2の光散乱膜4とを積層することによって構成された積層体構造を有する光拡散フィルムである。本実施形態では、入射面側に配置する光散乱膜を第1の光散乱膜2、出射面側に配置する光散乱膜を第2の光散乱膜4とする。第1および第2の光散乱膜2、4は、曇価が入射角依存性を有する光散乱膜である。
【0038】
曇価は、JIS K 7136に従って、図2に概略構成を示すような光線透過率測定装置(例えば、ヘーズメーターHM−150、ゴニオフォトメータGP−200 共に村上色彩技術研究所社製)を用いて、測定した試料(例えば、光散乱膜2、4)の全光線透過率及び散乱透過率を、下記の式(1)に適用して求められる値である。
【0039】
曇価(%)=散乱透過率(%)/全光線透過率(%)×100・・・(1)
(散乱透過率(%)=全光線透過率(%)−平行光線透過率(%))
【0040】
法線方向を0°とし、光制御フィルム(または膜)への光の入射角θを−90〜+90°の範囲で変化させて、それぞれの角度毎に曇価を測定する。
ここで、入射角θは、法線方向と入射光とのなす角度である。例えば、図3(a)では0°、であり、図3(b)では約30°である。
【0041】
そして、60%以上の曇価を示す入射角度範囲と、60%未満の曇価を示す入射角度範囲との両方を有する試料(例えば、光散乱膜2、4)を、曇価に入射角依存性を有するとし、どちらか一方のみの場合を、曇価に入射角依存性を有しないとする。
【0042】
また、本実施形態の光散乱膜2、4では、光入射側に配置された第1の光散乱膜2の曇価が、光出射面側に配置された第2の光散乱膜4の曇値より低くなるように、第1および第2光散乱膜2、4が選定されている。第1の光散乱膜2の曇価と、第2の光散乱膜4の曇価の差は、10〜30%の範囲が好ましく、15〜20%の範囲内であるのがより好ましい。
【0043】
ここで、一般の光散乱膜では、図4に示す光散乱膜Mのように入射角β1と出射角度範囲の中心角β2との合計が180°である。これに対し、本実施形態の光散乱膜2、4では、図5に示すように、入射角β1と出射角度範囲の中心角β2’との合計が180°ではない(180°にはならない)性質である偏角散乱性を有している。
【0044】
本明細書では、「入射角」は、「入射光の光軸が光散乱膜の表面と直交する方向となす角度」を指し、例えば、光散乱膜に光が垂直に入射する場合、入射角は0°となる。
【0045】
また、「出射角」は、入射光の光軸に対し平行に出射したときを0°として表され、「出射角度範囲」は、「光散乱膜に特定の角度から光を入射させたとき出射光が観測される角度範囲」を意味する。
【0046】
「出射角度範囲」は、図6に示されているような構成を有する装置で受光器を+90°から−90°まで円軌道に沿って移動させながら、各位置で出射光を検出することによって測定される。
【0047】
上述したように、本実施形態の光散乱膜2、4を構成する第1および第2の光散乱膜2、4は偏角散乱性を有している。光散乱膜2、4において、同一の入射角で光を入射させたときの出射角度範囲(α1、α2)は同一である。
【0048】
そして、第1の光散乱膜2は、法線方向から光が入射したとき、法線方向に対しやや左側(−側)に偏って出射角度範囲(α1)を発現させ(図1(b))、第2の光散乱膜4は、法線方向から光が入射したとき、やや右側(+側)に偏って出射角度範囲(α2)を発現させる(図1(c))。
【0049】
そして、第1および第2の光散乱膜2、4は、出射角度範囲(α1、α2)が、光散乱膜2、4の法線を挟んで反対側に位置(図1(b)、(c))し、且つ出射角度範囲(α1、α2)が部分的に(約10ないし20度にわたって)重なるように積層され、光制御フィルム1を構成している(図1(a))。
【0050】
第1の光散乱膜2の出射角度範囲α1の内方端(右端)と、第2の光散乱膜4の出射角度範囲α2の内方端(左端)とが接するように組み合わせ、第1および第2の光散乱膜2、4を積層すると、各光散乱膜からの出射角度範囲を最大限に利用でき、広い視野角を得ることができ有利である。
【0051】
また、2枚の光散乱膜の出射角度範囲が重なるように積層すると、スクリーンに適用したときに正面で明るい画像を得ることができる点で有利である。
【0052】
2枚の光散乱膜2、4の出射角度範囲が重なる範囲をあまり大きくすると、出射角度範囲を拡大させる効果が小さくなるので、出射角度範囲の重なる範囲は、10〜20°程度にするのが好ましい。
【0053】
このように構成することで、第1および第2の光散乱膜2、4による散乱の寄与がほぼ均等になり、散乱光の均一性の高い光制御フィルム1となる。
【0054】
「均一性が高い」とは、入射光を軸に−側に散乱した光量の全散乱光に占める割合と、+側に散乱した光量の全散乱光に占める割合との差が、20%以内であることを意味する。また、この差が、10%以内であれば、均一性がより高いこととなる。
【0055】
上記差を20%以内にするために、光入射面側の第1の光散乱膜2の曇価と光出射面側の第2の光散乱膜4の曇価との差が10〜30%の範囲内、また、上記差を10%以内にするためには、光入射面側の第1の光散乱膜2の曇価と光出射面側の第2の光散乱膜4の曇価との差が15〜20%の範囲内とされるのが好ましい。
【0056】
本実施形態の光制御フィルム1の光散乱膜2、4として使用される、曇価に入射角依存性を有し、且つ偏角散乱性を有する光散乱膜としては、光重合性組成物を硬化させた透明なマトリックスと、マトリックス中に配設されマトリックスと屈折率が異なる多数の透明な構造体とを備えている光散乱膜が挙げられる。
【0057】
次に、このような光散乱膜2、4について詳細に説明する。
図7は、本発明の好ましい実施形態の光散乱膜2、4の内部構造を透視した模式的な斜視図である。図7に示されているように、本実施形態の光散乱膜2、4は、基質であり薄板(フィルム)状の透明なマトリックス6と、マトリックス6を厚さ方向に貫通して延びるようにマトリックス中に配置された多数の透明な柱状構造体8とを備えた相分離構造を有し、20〜1000μmの略均一な厚さを有する板状の形状を有している。
【0058】
図7に示されているように、各柱状構造体8は、光散乱膜2、4の表面から裏面までマトリックス6の厚さ方向に傾斜して互いに略平行に延びるように配置されている。すなわち、各柱状構造体8は、長手方向軸線(A)が、光散乱膜2、4の法線(X)(表面に直交する)方向に対し一定角度傾斜(γ)をなすように配向されている。
【0059】
柱状構造体8の傾斜角度(γ)は、フィルムの法線方向に平行な場合を0°とすると、1〜85°の範囲にあることが好ましく、1〜40°の範囲にあることがより好ましい。しかしながら、用途によっては、42°〜85°が好ましい場合もある。
【0060】
各柱状構造体8は、マトリックス6とは異なった屈折率を有している。ここで、マトリックス6と柱状構造体8との屈折率の差異が、小さすぎると光散乱膜2、4の散乱性が悪くなり、逆に大きすぎるとどのような角度で光が入射しても散乱が生じてしまうことになる。そのため、相間の屈折率差だけでは散乱が生じず、厚みがあることで十分な散乱性を持つような最適な屈折率差である必要がある。このため、本実施形態の光散乱膜2、4では、屈折率差は0.001〜0.2の範囲で適宜選択されている。好ましい範囲としては、0.001〜0.04の範囲内である。
【0061】
また、散乱性に影響を与える光散乱膜2、4の厚さ(即ちマトリックス6の厚さ)は、屈折率差に応じて20〜1000μmの範囲で適宜選択される。
マトリックス6と柱状構造体8との屈折率差は、フィルムの作製方法や、散乱膜の材料となる光重合性組成物の組成などの影響を受ける。
【0062】
このため、マトリックス6と柱状構造体8との屈折率差が大きな場合はフィルムを薄くし、マトリックス6と柱状構造体8との屈折率差が小さい場合にはフィルムを厚くすることによって、所望の散乱性を有する光散乱膜2、4を得ている。
【0063】
柱状構造体8の横断面の直径(多角形の場合は外接円の長軸の長さ)10は、0.1〜15μmの範囲にあるのが好ましく、0.5〜15μmの範囲にあるのがより好ましい。
また、柱状構造体8の配列周期(間隔すなわちピッチ)12は、0.1〜15μmの範囲にあるのが好ましく、0.5〜15μmの範囲にあるのが好ましい。
【0064】
さらに、配列周期12が一定の値ではなく、上記範囲内で周期分布が存在してもよい。すなわち、配列周期12は、0.1〜15μmの範囲内で分布していてもよく、0.5〜15μmの範囲内で分布していてもよい。
【0065】
ここで、配列周期を上記範囲内で制御する方法について述べる。
本散乱膜は光硬化性組成物を光重合させることで作製している。その光重合性組成物に含まれる多官能モノマーの分子量、または光重合性組成物に含まれる開始剤の種類、または光重合に用いる光の波長、のいずれか単独または複数を変化させることにより配列周期を任意の値に制御している。
【0066】
柱状構造体8の断面の直径10、および配列周期12を、上記範囲内に設定し、さらに、光散乱膜2、4の厚さ(即ちマトリックス6の厚さ)を20〜1000μmとすることによって、光散乱膜2、4は、360〜830nmの波長範囲の光、いわゆる可視光線に対する干渉効果を十分に発現することができ、高度な光制御が可能となる。
【0067】
次に、本発明の好ましい実施形態の光散乱膜2、4による散乱について詳細に説明する。
本実施形態の光散乱膜2、4により散乱した光の出射角は構造体の配列周期12に依存し、格子入射角δと光の格子出射角φとは、次式(2)で表される関係を有する。
【0068】
d(sinδ±sinφ)=nλ ・・・(2)
【0069】
上記の式(2)中、dは配列周期8であり、nは次数、λは入射光の波長である。また、格子入射角δは、柱状構造体8の配向軸線(長手方向軸線)Aと入射光の光軸とがなす角度であり、格子出射角φは、柱状構造体8の配向軸(長手方向軸線)Aと出射光の光軸とがなす角度である。
上式においてδ=φのときに次式(3)で表されるブラッグの反射条件が得られる。
【0070】
2dsinδ=nλ (3)
【0071】
配列周期dと入射光の波長λが定まった光散乱膜2、4では、ブラックの反射条件を満たす入射角δで入射光が入射したとき、入射光に対する作用が最大となり、入射光は回折される。
【0072】
本実施形態の光散乱膜2、4では、柱状構造体8の傾斜角度γに一致しない角度で入射する光では、入射角(δ)と出射角度範囲の中心角(φ)とが異なる偏角散乱が生じる(図8)。
さらに、本実施形態の光散乱膜2、4は、配列周期8がある範囲内に分布しているため波長依存性が小さく、白色光の分光をほとんど生じない。
【0073】
図9は、柱状構造体8がフィルム面に対し傾斜角7°に配向されている散乱膜に対し、入射角0°で赤色光および青色光を入射した際の偏角散乱特性を示す図面である。
ここに示されているように、入射光の波長による出射角度範囲にほとんど差異は見られず、分光(波長分散すなわち色収差)がほとんど生じないことがわかる。
また、配列周期8が特定の範囲を多く含む構造であれば、その範囲に対応した出射角度範囲の光強度が上昇する。
【0074】
次に、光散乱膜2、4の製造方法について説明する。図10および図11は、光散乱膜2、4の製造方法を説明する模式的な図面である。
本実施形態の光散乱膜2、4の製造方法では、板状に配置された未硬化の光重合性組成物14に平行光Lを照射して光重合硬化させ、光散乱膜2、4を得ている。
【0075】
ここでは、光重合性組成物14を板状に配置する方法として、光重合性組成物14を基材上に塗布することによって配置する方法(図10)、光重合性組成物14を基材間で液密に封入することによって配置する方法(図11)を挙げる。
【0076】
光重合性組成物14を基材上に塗布する方法(図10)では、例えば、光重合性組成物14を、バーコーター、スリットダイコーター、スピンコーター、円コーター、グラビアコーター、CAPコーターなどの既知の方法によって、基材16の一方の面に均一な厚さで塗膜表面が平滑となるように、塗布する。
【0077】
また、光重合性組成物14を基材間に液密に封入する方法(図11)では、例えば、下方基材18と上方基材20とに挟まれた空間の周囲にスペーサ22を配置して液密空間24を形成し、この液密空間24内に液体状の未硬化の光重合性組成物14を充填する。
【0078】
上方基材16は、光重合性組成物14を光重合させるときに使用する照射光Lが透過する側であるので、この照射光を吸収しない材料で構成される必要がある。このような材料として、パイレックス(登録商標)ガラスや石英ガラス、フッ素化(メタ)アクリル樹脂や光学グレードのPETなどの透明プラスチック材料などがある。
【0079】
基材16上に塗布あるいは液密空間24内に充填される光重合性組成物14の厚さは、20〜1000μmが好ましく、20〜300μmがより好ましい。光重合性組成物14の厚さが20μm以下であると柱状構造体8を形成させることが困難となり、1000μm以上であると柱状構造体8を厚さ方向に成長させることが困難となるためである。
【0080】
以下、光重合性組成物14について詳細に説明する。
光重合性組成物14には、多官能モノマーが含まれることが好ましい。このような多官能モノマーとしては、(メタ)アクリロイル基を含む(メタ)アクリルモノマーや、ビニル基、アリル基などを含有するものが特に好ましい。
【0081】
多官能モノマーの具体例としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、水添ジシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、多官能のエポキシ(メタ)アクリレート、多官能のウレタン(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、ジアリルクロレンデート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレートなどが挙げられ、これらを単独であるいは2種以上の混合物として使用することができる。
【0082】
多官能モノマーは架橋構造を有するため重合度の違いにより密度差が形成されやすく、単独でも柱状構造体8が形成されるが、マトリックス6と柱状構造体8に、より大きな屈折率差をつけるためには、2種以上の多官能モノマーか、後述する単官能モノマー、ポリマー、低分子化合物などとの混合物を用いることが好ましい。
【0083】
光重合性組成物14として2種以上の多官能モノマーあるいはそのオリゴマーを使用する場合には、それぞれの単独重合体としたときに互いに屈折率が異なるものを使用することが好ましく、その屈折率差が大きいものを組み合わせることがより好ましい。
【0084】
回折、偏向、拡散などの機能を高効率で得られるようにする為には屈折率差を大きくすることが必要であり、その屈折率差が0.01以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましい。また、重合過程でモノマーが拡散することにより分布が形成され、屈折率差が大きくなるので、拡散定数の差が大きい組み合わせが好ましい。
【0085】
なお、3種以上の多官能モノマーあるいはオリゴマーを使用する場合は、それぞれの単独重合体の少なくともいずれか2つの屈折率差が上記範囲内となるようにすればよい。また、単独重合体の屈折率差が最も大きい2つのモノマーあるいはオリゴマーは、高効率な回折、偏向、拡散などの機能を得る為に、重量比で10:90〜90:10の割合で用いることが好ましい。
【0086】
また、光重合性組成物14には、上記のような多官能モノマーあるいはオリゴマーとともに、分子内に1個の重合性炭素−炭素二重結合を有する単官能モノマーあるいはオリゴマーを使用してもよい。このような単官能モノマーあるいはオリゴマーとしては、(メタ)アクリロイル基を含む(メタ)アクリルモノマーや、ビニル基、アリル基などを含有するものが特に好ましい。
【0087】
単官能モノマーの具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、フェニルカルビトール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、(メタ)アクリロイルオキシエチルフタレート、フェニル(メタ)アクリレート、シアノエチル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、トリブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、p−ブロモベンジル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート化合物;スチレン、p−クロロスチレン、ビニルアセテート、アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、ビニルナフタレンなどのビニル化合物;エチレングリコールビスアリルカーボネート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレートなどのアリル化合物などが挙げられる。
【0088】
これら単官能モノマーあるいはオリゴマーは、上述したようにマトリックス6と柱状構造体8に、より大きな屈折率差をつけるため、又は光散乱膜2、4に柔軟性を付与するために用いられ、その使用量は多官能モノマーあるいはオリゴマーとの合計量のうち10〜99質量%の範囲が好ましく、10〜50質量%の範囲がより好ましい。
【0089】
上述した条件を満たすために、多官能モノマーは、上述した中ではジ(メタ)アクリレート化合物がより好ましく、ポリエチレングリコール(メタ)ジアクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の二官能モノマーが更に好ましい。
【0090】
単官能モノマーは、上述した中では(メタ)アクリレート化合物がより好ましく、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等のベンゼン環含有化合物が更に好ましい。
【0091】
また、光重合性組成物14には、前記多官能モノマーあるいはオリゴマーと重合性炭素−炭素二重結合を持たない化合物を含む均一溶解混合物を用いることもできる。
【0092】
重合性炭素−炭素二重結合を持たない化合物としては、例えば、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ナイロンなどのポリマー類、トルエン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアルコール、エチルアルコール、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランのような低分子化合物、有機ハロゲン化合物、有機ケイ素化合物、可塑剤、安定剤のような添加剤などが挙げられる。
【0093】
これら重合性炭素−炭素二重結合を持たない化合物は、光重合性組成物14の粘度を調節し取り扱い性を良くする為に用いられ、その使用量は多官能モノマーあるいはオリゴマーとの合計量のうち1〜99質量%の範囲とすることが好ましく、取り扱い性も良くしつつ規則的な配列を持った柱状構造体8を形成させる為には1〜50質量%の範囲がより好ましい。
【0094】
また、光重合性組成物14には、前記重合性炭素−炭素二重結合を持たない化合物の代わりに、分子内に1つ以上の重合性炭素―炭素二重結合を有する高分子量のマクロモノマーを使用することもできる。上記重合性炭素−炭素二重結合を持たない化合物を上記質量%で混合した場合、光重合した際に、相分離して光制御フィルムが白化してしまう場合がある。それに対し、マクロモノマーは片末端に重合可能な官能基を有する高分子量の直鎖状モノマーであり、他のモノマーと共重合することにより相溶性の問題を解決することができる。
【0095】
本発明の組成物に使用する有用なマクロモノマーとしては、エルバサイト(ELVACITE、Lucite International)シリーズがある。このマクロモノマーは、本発明の組成物を重合する時に前述した単官能モノマーと共重合することにより、相分離を抑え光制御フィルムが白化することを抑えることができる。
【0096】
マクロモノマーの使用量は、光重合性組成物全体の1〜99質量%の範囲とすることが好ましく、取り扱い性も良くしつつ規則的な配列を持った柱状構造体8を形成させる為には1〜50質量%の範囲がより好ましい。
【0097】
光重合性組成物14に使用する光重合開始剤は、紫外線などの活性エネルギー線を照射して重合を行う通常の光重合で用いられるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーズケトン、2−クロロチオキサントン、ベンゾインエチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、p−t−ブチルトリクロロアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピルフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ジベンゾスベロンなどが挙げられる。
【0098】
これら光重合開始剤の使用量は、光重合性の材料の総量に対して0.001〜10質量%の範囲とする事が好ましく、光散乱膜2、4の透明性を落とさないようにするためには0.01〜5質量%とすることがより好ましい。
また、光重合性組成物14には、紫外線吸収剤を配合することができる。紫外線吸収剤を配合することにより、高ヘイズ化することができる。一方で、光重合性組成物14の硬化は、紫外線照射により行われるため、紫外線吸収剤の量は、光重合性組成物14の硬化性を満足させるために制限を受ける。
【0099】
そこで紫外線吸収剤の添加量は、光重合性組成物14、すなわち、光重合性組成物14の合計100質量%に対して、0.01〜2質量%の範囲とする。光重合性組成物14の硬化性と得られる光散乱膜2、4の光学特性の両方を満足させるには、光重合性組成物14が100質量%あたり紫外線吸収剤の量を0.01質量%以上とするのが好ましい。
【0100】
また、硬化性を重視する場合には、光重合性組成物14が100質量%あたり紫外線吸収剤の量を2質量%以下とするのが好ましい。紫外線吸収剤の量が少ないと、光学特性面での添加効果が弱くなり、一方、その量が多くなると光重合性組成物14の硬化性が低下し、特に光重合性組成物14が100質量%あたり2質量%を超える場合には、光硬化性が極端に低下する。
【0101】
紫外線吸収剤は、紫外線域に吸収を有する化合物であって、例えば、ベンゾフェノン系のもの、フェニルベンゾトリアゾール系のもの、ヒドロキシベンゾエート系のものなどがある。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチロキシベンゾフェノンなどが、フェニルベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5−メチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチロキシフェニル)ベンゾトリアゾールなどが、またヒドロキシベンゾエート系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル 3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなどが、それぞれ挙げられる。
【0102】
本実施形態の散乱膜の製造方法では、上述したようにして板状に配置された光重合性組成物14を、照射光源からの平行光Lで、照射し(図10)、光重合性組成物14を光重合硬化させ、マトリックス6内に多数の柱状構造体8が形成された薄膜状の光散乱膜2、4を得る。
【0103】
硬化に用いる光は、光重合性組成物を硬化させるものであればどのような波長を有していてもよく、例えば、可視光、紫外線などがよく用いられる。紫外線は、水銀ランプやメタルハライドランプなどから発せられる。
【0104】
照射光源は、平行光Lを照射可能であることに加えて、照射する平行光Lの進行方向に対する垂直断面内で、平行光Lの光強度分布が略一定であるものを用いる。具体的には、点光源や棒状光源からの光を、ミラーやレンズなどにより光強度分布が略一定(ハット型分布)の平行光Lとしたもの、あるいはVCSELなどの面状光源などを使用することができる。柱状構造体8は平行光Lの進行方向に成長して形成されるため、平行光Lの広がり角(平行度)は±0.03rad以下であるものが好ましい。なお、レーザ光線は平行度の点では好ましい光源であるが、その光強度分布がガウス型の分布を有しているため、適当なフィルタなどを用いて光強度分布を略一定にして使用することが好ましい。
【0105】
照射光源は、照射エリアを複数の領域に分割して(例えば9領域)、各領域の光強度を測定し、式(4)で与えられる照度分布の値が、2%以下であるものを用いている。より好ましくは、1%以下であるものを用いている。
【0106】
照度分布=(最大値−最小値)/(最大値+最小値)×100 (4)
【0107】
照射強度は0.01〜100mW/cm2の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1〜20mW/cm2の範囲である。照度が0.01mW/cm2以下であると重合が完了せず、100mW/cm2以上であると柱状構造体8が形成されずに重合が完了してしまう。
【0108】
本実施形態の散乱膜の製造方法では、平行光Lは、板状に配置された光重合性組成物14の表面に直交する方向(法線方向)対して所定角度、傾斜した状態で光重合性組成物14の表面に照射される。このような照射によって、重合硬化した光重合性組成物である光散乱膜2、4中では、各柱状構造体8が、その長手方向軸線が照射光(平行光L)の光軸と一致する方向に延びるように形成されている。
【0109】
したがって、照射光の照射角度を変更することによって、光散乱膜2、4中での柱状構造体8の傾斜角度を調整することが可能となる。具体的には、照射光源を傾けることによって照射角度を変更する方法や、照射光源に対して、板状の光重合性組成物14を傾けて配置する方法等が挙げられる。
【0110】
光硬化の際、光の照射方向を中心に高い曇価を示す入射角度範囲が発現する。例えば、光重合性組成物の膜面にほぼ垂直に光を照射すれば、垂直方向すなわち法線方向を中心に、高い曇価を示す入射角度範囲が発現する。また、法線方向に対して所定角度傾いた斜め方向から光を照射すれば、その傾いた方向を中心に高い曇価を示す入射角度範囲が発現する。
【0111】
この際、空気から光重合性組成物14に平行光Lを入射した場合に屈折が生じるため、平行光Lと光重合性組成物14がなす角度と柱状構造体8の傾斜角度が異なることに注意する必要がある。
【0112】
光重合性組成物14を基板16上に板状に配置する方法(図10)では、酸素による重合阻害を防ぐため、光照射は不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素などが用いられる。ただし、不活性ガスを用いる目的は酸素を追い出すことであり、酸素を含まない組成の気体であれば他の気体でもよい。
【0113】
また、硬化の際、平行光源と膜面の間に偏角作用のある部材を設置し、光源からの光を特定方向の広がり角を有する光に変換しても良い。このような偏角作用のある部材としては、Luminit社製のレンズ拡散板LSDなどがある。
【0114】
光散乱膜の曇価を制御する方法として、フィルムの膜厚を調整して曇価を制御する方法がある。この場合、膜厚が薄くなると、曇価は小さい値となる。
また、光散乱膜の曇価は光重合条件にも依存し、光の強度を高くする、光開始剤の量を増やす、など光重合速度が速くなる方向に変えることにより曇価を小さくすることも可能である。
【0115】
このようにして得られた光散乱膜2、4は、基質であり板状の透明なマトリックス6と、このマトリックス6中に配置された多数の透明な柱状構造体8とを備えた相分離構造を有しており、複数の柱状構造体8は、フィルム法線(フィルム表面に直交する方向)に対し傾斜して略同一方向に配向され、柱状構造体8の傾斜角度と異なる角度で入射する光については、入射角と出射角度範囲の中心角とが異なる偏角散乱性を有することになる。
【0116】
次に、光散乱膜2、4の他の製造方法について説明する。図12は、光散乱膜2、4の他の製造方法を説明する模式的な図面である。
この製造方法では、図12に示されているように、薄板状に配置された未硬化の光重合性組成物14上に、一定の頂角およびピッチを有するプリズムシート、又は三角プリズム26など平坦な傾斜面を有する光学手段を配置し、平行光Lを一定角度傾斜した状態で光重合性組成物14に入射させ光重合硬化させて、光散乱膜2、4を得る。
【0117】
例えば、プリズム26は、光重合性組成物14上に直接、配置される。また、平行光が界面反射しないように、プリズム26と光重合性組成物14との間に、プリズムと屈折率の等しい液を配置するのが好ましい。
空気から光重合性組成物14に平行光を入射させた場合、屈性率の違いにより空気―光重合性組成物界面で屈折が生じ、平行光Lと光重合性組成物14がなす角度と、柱状構造体8の傾斜角度とが異なってくる。
【0118】
例えば、本実施形態で用いる光重合性組成物14の屈折率が約1.5の場合、平行光Lを傾けて空気中から入射しても、空気―光重合性組成物界面での屈折によって光重合性組成物14内では、大きな傾斜角で光を進行させることができない。この結果、空気中から直接、光重合性組成物14に平行光を入射する製造方法では、柱状構造体8の傾斜角度が42〜85°である光散乱膜を作製することができない。
【0119】
しかしながら、図12に例示するような方法によれば、平行光Lは、光学手段26の傾斜面で屈折して進行方向を変えて光重合性組成物14に入射し光重合性組成物14中を通過する。ここで、光学手段26の傾斜面26aに対する平行光の入射角度ε1と、光学手段の傾斜面の傾斜角度ε2を適宜調整することで、光重合性組成物14中での進行方向を制御することができ、平行光Lの光重合性組成物14への入射角度を大きくし、柱状構造体の傾斜角が約85°程度にまで傾斜している光散乱膜を得ることができる。
【0120】
このようにして製造された第1の光散乱膜2および第2の光散乱膜4は、上述したような関係となるようにして、積層される光制御フィルム1とされる(図1(a))。
なお、第1の光散乱膜2は、第2の光散乱膜4と異なった材料から形成されても、あるいは第2の光散乱膜4と同じ材料で形成されてもよい。
【0121】
第1の光散乱膜2と第2の光散乱膜4を積層する方法としては、別々に作製した光散乱膜を、透明な接着剤、両面接着フィルム等の媒体を介して接着する方法に加え、媒体を介さずに積層する方法もある。
媒体を介さずに積層する方法として、例えば第2の光散乱膜4を基材として、その上に前記光重合性組成物を膜状に形成し、そこに特定方向から光を照射して硬化させることにより第1の光散乱膜2を直接、第2の光散乱膜4上に製造する方法がある。
【0122】
本実施形態の光制御フィルム1は、そのままプロジェクションスクリーンとして用いることが出来るが、フレネルレンズシート等の他の光学部材と組み合わせて使用してもよい。また、反射部材と積層し、反射型のプロジェクションスクリーンとして用いることもできる。
【0123】
次に、図13に沿って、本実施形態の光制御フィルム(散乱膜)1を用いたレーザーディスプレイ装置30について詳細に述べる。
【0124】
図13は、レーザーディスプレイ装置30の構成を示す模式的な図面である。レーザディスプレイ装置30は、赤、緑、青の波長の光をそれぞれ出射する単色レーザ光源R、G、Bと、これら単色レーザ光源R、G、Bのそれぞれから出射された単色光を合成する光合成光学系32と、合成光学系32で合成された光を走査する光走査ユニット34と、光走査ユニットからの光が投影されるスクリーン36とを備えている。
【0125】
光走査ユニット34は、光を水平、垂直それぞれに走査するミラーを備え、走査された光がスクリーン36に投射される。
【0126】
本実施形態のレーザディスプレイ装置30では、単色レーザ光源R、G、Bと、合成光学系32と、光走査ユニット34とによって構成されるレーザ光源装置によって、スクリーン36に対して斜め下方向からレーザ光が投射される。なお、レーザ光が斜め上方からスクリーン36に投射される構成でもよい。
【0127】
レーザーディスプレイ装置30の奥行きは、レーザ光の投射角度によって決まるため、薄型化を図るためには、投射角度を大きくする必要がある。投射角度(仰角または俯角)は約30〜85度である。視聴者は、スクリーン36に対して、水平方向に対し上下±10度方向からスクリーン36を眺めることになるため、スクリーン36には、レーザ光の投射方向(約30〜85度)から観察方向(約10度)まで、光を偏角散乱させる機能が求められる。
【0128】
本実施形態のレーザーディスプレイ装置30では、スクリーン36に、上記実施形態の散乱膜を使用し、レーザ光を、その投射方向(約30〜85度)から観察方向(約10度)まで散乱させ、観察角度内で鮮明な映像を得ることができる。
【0129】
具体的には、レーザーディスプレイ装置30では、レーザ光の投射角度が仰角30度であり、スクリーン36として、スクリーンの法線角度に対して10度の傾斜角度を有する光制御フィルムが用いられ、投射されたレーザ光をスクリーンの法線方向±10度の範囲へ効率よく偏角散乱させている。
【0130】
次に、図14に沿って、本実施形態の散乱膜を用いたプロジェクションディスプレイシステム40について詳細に述べる。図14は、プロジェクションディスプレイシステム40の構成を模式的に示す概略図である。
【0131】
プロジェクションディスプレイ40は、所謂リアプロジェクションシステムであり、プロジェクションスクリーン42と、このプロジェクションスクリーン42の背面側斜め下方から画像を投影する短焦点プロジェクター(投射光学系)44との組合せからなる。
【0132】
プロジェクションスクリーン42は、上記実施形態の散乱膜を備え、短焦点プロジェクター44からの投影光を散乱膜1で偏角散乱させている。
プロジェクションスクリーン42への投影光は、スクリーンの法線方向に対して傾斜した方向(斜め上方または斜め下方等)から入射するため、スクリーンの拡散板には傾斜方向から入射した光を法線方向に偏角散乱させる機能が要求される。
【0133】
プロジェクションスクリーン42では、短焦点プロジェクター44を使用して、非常に短い投射距離からスクリーンに投影しているが、スクリーンに対する投射距離が短くなれば、スクリーンに対する投影光の入射角度は大きくなる。したがって、プロジェクションスクリーン42では、スクリーンに、投影角度から観察角度まで光を偏角散乱させる機能が求められる。
【0134】
このため、プロジェクションスクリーン42では、散乱膜1を用いることによって、投射光を偏角拡散させ、観察角度内で鮮明な映像を得ている。
【0135】
具体的には、プロジェクションディスプレイ40では、投射光学系として投射角度がスクリーンの法線に対して30度の短焦点プロジェクター44を使用し、スクリーン42として10度の傾斜角度を有する散乱膜1を使用することによって、投射されたレーザ光をスクリーンの法線方向±10度の範囲へ効率よく偏角散乱させている。
また、散乱膜の光入射側とは逆側に反射版を配置して、反射型プロジェクションスクリーンとしてもよい。
【0136】
次に、図15に沿って、本実施形態の散乱膜1を用いたバックライトシステム50について詳細に述べる。図15は、バックライトシステム50の構成を模式的に示す概略図である。
バックライトシステム50は、携帯用ノートパソコン、デスクトップパソコンのモニター、携帯用テレビあるいはビデオ一体型テレビ等の画像表示手段として使用されるカラー液晶表示装置等のためのバックライトシステムである。
【0137】
バックライトシステム50は、LED、CCFL等の光源52と、光源52に一端面が隣接するように配置された導光板54と、導光板の上方の配置された上記実施形態の散乱膜1を備えている。散乱膜1は、従来のバックライトシステムにおけるプリズムシートに代えて配置されている。
【0138】
光源52から光は、一端面から導光板54に入射し、導光板54内を伝搬しながら、導光板54の上面の出射面54aから角度ωで出射される。この角度δで出射された光は、散乱膜1によって法線方向に偏角散乱される。
【0139】
このようなバックライトシステムでは、部材点数が削減され、プリズムシート特有の課題であるモアレ、スティッキング等のノイズが発生しないため、画像品位の向上にも寄与することができる。
さらに、上記実施形態の散乱膜を用いることで、バックライトの視野角特性の制御、例えば視野角の拡大や、法線方向ではない特定の方向に偏角散乱させることによる視野角の制御が可能である。
【0140】
本発明は、前記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内で種々の変更、変形が可能である。
【実施例】
【0141】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0142】
(実施例1:散乱膜の製造1)
単官能モノマーとしてベンジルアクリレートを、多官能モノマーとして分子量が536のポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)を用いた。開始剤種としては、Irgacure 369(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を用いた。また、照射波長はバンドパスフィルタを使用して365nmにピークを持つ波長を用いた。
【0143】
ベンジルメタクリレート20質量%とPEGDMA80質量%の混合物に対し開始剤を1.0質量%加え、光重合性組成物を得た。スライドガラスとカバーガラスの間に0.2mmのシリコン製スペーサを配置し、前記光重合性組成物をスペーサ内部に封入させ、カバーガラスの上部にバンドパスフィルタを設置した。続いて、水銀キセノンランプからの平行光をカバーガラス側から法線に対し40°の角度で照射し、光重合性組成物を重合させて散乱膜を得た。柱状構造体の配列周期の平均値は5μm、柱状構造体のアスペクト比の平均値は40であった。
得られた散乱膜内部の柱状構造体の角度は法線に対し25°であった。
【0144】
(実施例2:散乱膜の製造2)
単官能モノマーとしてベンジルアクリレートを、多官能モノマーとして分子量が536のポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)を用いた。開始剤種としては、Irgacure 369(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を用いた。また、照射波長はバンドパスフィルタを使用して365nmにピークを持つ波長を用いた。
【0145】
ベンジルメタクリレート20質量%とPEGDMA80質量%の混合物に対し開始剤を1.0質量%加え、光重合性組成物を得た。スライドガラスとカバーガラスの間にシリコン製スペーサを配置し、光重合性組成物をスペーサ内部に封入させ、カバーガラスの上部にバンドパスフィルタを設置した。続いて、上部に光学手段として、傾斜面の傾斜角度ε2=45°の三角プリズム(シグマ光機社製)を設置した。
【0146】
水銀キセノンランプからの平行光を光学手段側から、光学手段の傾斜面に対する入射角度ε1が35°となるように照射し、光重合性組成物を重合させて散乱膜を得た。このとき、柱状構造体の配列周期の平均値は5μmであった。
【0147】
得られた散乱膜の断面画像を図16に示す。散乱膜内部の柱状構造体の角度は法線に対し60°であった。
以上のように、光学手段(三角プリズム)を用いることで、内部の柱状構造体が42°以上傾斜した散乱膜を得ることができた。
【0148】
次に、内部構造が傾斜した散乱膜を積層して光制御フィルムとする実施例を示す。
(実施例3〜5:光制御フィルムの製造)
単官能モノマーとしてベンジルアクリレートを、多官能モノマーとして分子量が536のポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)を用いた。開始剤種としては、Irgacure 369(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を用いた。また、照射波長はバンドパスフィルタを使用して365nmにピークを持つ波長を用いた。
【0149】
ベンジルメタクリレート20質量%とPEGDMA80質量%の混合物に対し開始剤を1.0質量%加え、光重合性組成物を得た。スライドガラスとカバーガラスの間にシリコン製スペーサを配置し、前記光重合性組成物をスペーサ内部に封入させ、カバーガラスの上部にバンドパスフィルタを設置した。続いて、水銀キセノンランプからの平行光をカバーガラス側から法線に対し8°の角度で照射し、光重合性組成物を重合させて散乱膜を得た。このとき、柱状構造体の配列周期の平均値は5μmであった。
【0150】
得られた散乱膜内部の柱状構造体の角度は法線に対し5°であった。
続いて、ゴニオフォトメータGP−200((株)村上色彩技術研究所製)を用いて、作製したサンプルに対し0°で入射させたときの散乱光分布を、出射角度−40〜40°の範囲で測定した。散乱光分布のグラフから出射角度範囲を求めた。結果を図17に示す。図17より、入射角0°に対し、出射角度範囲の中心角は−7°であり、入射角と出射角度範囲の中心角が異なることがわかった。
【0151】
前記散乱膜の膜厚を4段階に制御し、サンプル(1)〜(4)とした。このサンプル(1)〜(4)の曇価を、ヘーズメーターHM−150((株)村上色彩技術研究所社製)を用いて、入射角が0°のときの曇価を測定した。測定結果を表1に示す。
【0152】
【表1】
【0153】
(評価法及び評価結果)
前記サンプル(1)〜(4)について出射角度範囲を求めた。結果を表2に示す。
【0154】
【表2】
表2に示すように、サンプル(1)〜(4)はその出射角度範囲が入射光の軸(法線方向)に対し+側に傾っていることが分かる。
【0155】
(比較例1)
第1の散乱膜にサンプル(1)、第2の散乱膜にサンプル(1)を使用して、出射角度範囲が法線方向を軸に互いに逆向きになるように積層し光制御フィルムを作製した。
【0156】
(実施例3)
第1の散乱膜にサンプル(2)、第2の散乱膜にサンプル(1)を使用して、出射角度範囲が法線方向を軸に互いに逆向きになるように積層し光制御フィルムを作製した。
【0157】
(実施例4)
第1の散乱膜にサンプル(3)、第2の散乱膜にサンプル(1)を使用して、出射角度範囲が法線方向を軸に互いに逆向きになるように積層し光制御フィルムを作製した。
【0158】
(実施例5)
第1の散乱膜にサンプル(4)、第2の散乱膜にサンプル(1)を使用して、出射角度範囲が法線方向を軸に互いに逆向きになるように積層し光制御フィルムを作製した。
【0159】
(比較例2)
第1の散乱膜はなし、第2の散乱膜にサンプル(1)を使用して、光制御フィルムとした。
【0160】
(比較例3)
60%以上の曇価を示す入射角度範囲が−10〜40°(中心15°)の範囲である散乱膜を2枚用い、前記範囲が互いにほぼ一致する向きに積層し光制御フィルムを作製した。(特許文献5 比較例1)
前記実施例3〜5及び比較例1〜2の光制御フィルムについて、第1の散乱膜と第2の散乱膜との曇価の差を表3に示す。
【0161】
【表3】
【0162】
表3に示すように、実施例1〜3の光制御フィルムは、曇価の差が10〜30%の範囲内、比較例1、2の光制御フィルムは、曇価の差が10〜30%の範囲外であることが分かる。
(評価法及び評価結果)
【0163】
前記実施例3〜5及び比較例1、2の光制御フィルムについて出射角度範囲を測定した。測定結果を図18〜図22に示す。また、出射光量から出射光の均一性を評価した。結果を表4に示す。
【0164】
(均一性の判断基準)
「◎」:−側と+側の出射光量の全体に占める割合の差が10%以内
「○」:−側と+側の出射光量の全体に占める割合の差が20%以内
「×」:−側と+側の出射光量の全体に占める割合の差が前記範囲外
【0165】
【表4】
【0166】
表4に示すように、実施例1〜3及び比較例1の光制御フィルムは、その出射角度範囲が−20〜20°より広いことが分かる。このように、偏角散乱性を有し、同一の入射角で光を入射させたときの出射角度範囲が、入射光の軸に対して互いに逆向きに偏っている2枚のフィルムを積層することで、広い出射角度範囲を有する光制御フィルムを得ることができた。
【0167】
また、比較例1、2の光制御フィルムは、散乱光が−側、+側どちらか一方向に大きく偏って分布しているのに対し、実施例1〜3の光制御フィルムは、散乱光が法線方向を軸に20%以内の割合で−側、+側に分布していることが分かる。
【0168】
(プロジェクションディスプレイでの実装評価)
実施例の光制御フィルムをスクリーンとして装着し、映像を投影した結果、映像は鮮明で明るく、また水平、垂直方向の両方で良好な視野角を示した。
【0169】
以上、実施例からも明らかなように、積層する散乱膜の曇価の差を好ましい範囲内(10〜30%)に設定することで、散乱光の均一性に優れた光制御フィルムを2枚の積層枚数で提供することができた。
【符号の説明】
【0170】
1:光制御フィルム
2:第1の光散乱膜
4:第2の光散乱膜4
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略的には、光制御フィルム、光散乱膜、およびその製造方法に関し、詳細には、曇価に入射角依存性を有する光散乱膜を用いた光制御フィルム、光散乱膜、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロジェクタ(投影機)から投射される光りを受け、この光を散乱させ、視聴者が視認できるようにする装置として、プロジェクションスクリーンが用いられている。
【0003】
近年、超小型プロジェクタを搭載したノートパソコン、携帯電話、デジタルカメラ等が相次いで開発されてきており、プロジェクタが民生用へ普及する兆しがみられ、この結果、プロジェクションスクリーンも民生用に広く用いられる可能性が高まってきている。
【0004】
この他、デジタルサイネージ用の透過型スクリーンや、レーザーディスプレイ用のスクリーン、ヘッドアップディスプレイ用のスクリーン等の光を散乱させる他の光制御スクリーンへの需要も高まってきている。
【0005】
このようなスクリーンは、様々な環境下、即ち、映画館や会議室のような暗い場所だけではなく、明るい室内や屋外等の明るい場所でも使用される。ここで、このようなスクリーンでは、外光が視聴者側に散乱されると表示画像のコントラストが低下してしまうため、明所で使用された場合には外光の散乱を抑制する性能を有することが求められる。
【0006】
外光の散乱を抑制することができる汎用的なスクリーンとして、回帰反射を利用したビーズスクリーンが知られているが、このスクリーンには、視野角が狭いという問題があった。
【0007】
また、特定の入射角度範囲の光を選択的に散乱させる光制御フィルムを用いて外光の散乱を抑制するスクリーンが提案されている。このようなスクリーンは、曇価が入射角依存性を有する散乱フィルム(光散乱膜)を使用しており、投影光が散乱可能な特定の入射角度で入射し、且つ外光は散乱しない角度で入射するように配置されることによって、外光散乱を抑制するものである。
【0008】
このような光制御フィルムとしては、屈折率に差がある少なくとも2種類の光重合可能なモノマー又はオリゴマーを含む組成物を光照射によって硬化させて製造される散乱フィルム(特許文献1)がある。しかしながら、この散乱フィルムには、視野角がかなり狭いという問題があった。
【0009】
また、曇価が入射角依存性を有する複数枚の散乱フィルムを積層した光制御フィルムを使用するスクリーンが知られている(特許文献2)。
【0010】
さらに、曇価が入射角依存性を有する3枚以上の散乱フィルムを積層した光制御フィルムを使用したスクリーンも知られている(特許文献3)。
【0011】
この光制御フィルムでは、散乱フィルムの2枚が、高い曇価を示す入射角度範囲が同一面上にあり、前記入射角度範囲の中心が法線方向に対して互いに逆方向に偏っており、前記入射角度範囲の一部が互いに重なるように配置され、他の1枚の散乱フィルムが、高い曇価を示す入射角度範囲が、前記2枚の散乱フィルムが高い曇価を示す入射角度範囲と同一面上にあり、前記入射角度範囲の中心が法線方向にほぼ一致するように配置されている。
【0012】
このように、特定の入射角度範囲の光を選択的に散乱させる散乱フィルムを用いた光制御フィルムおよびこのような光制御フィルムを使用したスクリーンでは、特許文献2、3に記載されているような構成とすることによって、外光の散乱を抑制しつつ、広い視野角を得ることが可能であった。
【0013】
一方、大型で高画質な画像を得るためには、画面の明るさに均一性が求められるため、このような用途であるプロジェクションスクリーン等には、散乱性の均一性も求められる。
【0014】
しかし、特許文献2、3に開示されているように散乱フィルムを積層した光制御フィルムでは、散乱光の均一性が低く、スクリーンとして使用したときに画面の明るさが不均一になり易いという問題点が新たに生じた。
【0015】
そこで、曇価に入射角依存性を有し、高い曇価を示す入射角度範囲が同一面上にあり、この入射角度範囲が互いに同じである複数枚の散乱フィルムを高い曇価を示す入射角度範囲が互いにほぼ一致する向きで積層し、この積層体をさらに複数枚重ねてプロジェクションスクリーンとして使用することが提案されている(特許文献4)。
【0016】
このようなスクリーンは、散乱光の均一性に優れているため、高画質な大画面を得ることができる。
また、同様に、曇価が入射角依存性を有する複数枚の散乱フィルムと、曇価が入射角依存性を有しない散乱フィルムとを積層しプロジェクションスクリーンとして使用することが提案されている(特許文献5)。
【0017】
このようなプロジェクションスクリーンも、散乱光の均一性に優れているため、高画質な大画面を得ることができる。
【0018】
このように、特許文献4、5の構成にすることで散乱光の均一性を向上させることは可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特許第2691543号公報
【特許文献2】特開平4−77728号公報
【特許文献3】特開2006−84769号公報
【特許文献4】特開2007−293288号公報
【特許文献5】特開2009−157250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、特許文献4の構成では、最低でも4枚の散乱フィルムを積層する必要があるため、部材点数が多くなるという問題がある。
【0021】
また、特許文献5の構成では、最低でも3枚の散乱フィルムを積層する必要があるため、部材点数が多くなるという問題があり、さらに、曇価が入射角依存性を有さない散乱フィルムをさらに積層するため、外光散乱の抑制効果が低くなるという問題点がある。
【0022】
このように、外光散乱を抑制できるとともに、広い視野角、および均一な明るさを得ることができる光制御フィルムを、少ない枚数の散乱フィルムで構成することは従来の技術ではできなかった。
【0023】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、外光散乱の抑制、広い視野角及び明るさの均一性という特性を有する光制御フィルムであって、少ない枚数の散乱フィルムで構成可能な光制御フィルム、光散乱膜、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明によれば、
積層された2枚の光散乱膜を備えた光制御フィルムであって、
前記各光散乱膜は、曇価に入射角依存性を有し、且つ光の入射角と散乱光の出射角度範囲の中心角が異なる偏角散乱性を有し、
前記2枚の光散乱膜は、前記範囲の中心が入射光の軸に対して反対側に位置し、さらに、出射角度範囲の一部が互いに重なるように、積層されている、ことを特徴とする光制御フィルムが提供される。
【0025】
本発明の他の好ましい態様によれば、
光入射側に配置される前記光散乱膜の曇価が、光出射側に配置される前記光散乱膜の曇価より低い。
【0026】
本発明の他の態様によれば
薄板状の透明なマトリックスと、該マトリックス中に配設され該マトリックスと屈折率が異なる複数の透明な柱状構造体とを備えた光散乱膜であって、
前記複数の柱状構造体の各々が、前記光散乱膜の法線に対して傾斜して略平行に配向され、
前記光散乱膜への光の入射角と、散乱光の出射角度範囲の中心角とが異なる、
ことを特徴とする光散乱膜が提供される。
【0027】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記光散乱膜の前記複数の柱状構造体のアスペクト比が10以上である。
【0028】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記複数の柱状構造体の配列周期が、0.1〜15μmである。
【0029】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記光散乱膜の前記配列周期が、0.1〜15μmの範囲内の範囲内に分布している。
【0030】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記光散乱膜の前記複数の柱状構造体が前記光散乱膜の法線に対し1〜85°傾斜している。
【0031】
本発明の他の態様によれば、
上記光散乱膜を、2枚、散乱光の出射角度範囲の中心が入射光の軸に対して反対側に位置し、さらに、出射角度範囲の一部が互いに重なるように積層されていることを特徴とする光制御フィルムが提供される。
【0032】
本発明の他の態様によれば、
薄板状に配置された光重合性組成物に、当該組成物の法線方向に対して傾斜した方向から平行光を照射することにより前記光重合性組成物を重合硬化させる上記光散乱膜の製造方法が提供される。
【0033】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記平行光が、前記平行光を所定角度に偏向可能な光学手段を介して、前記光重合性組成物に照射される。
【発明の効果】
【0034】
このような構成を有する本発明によれば、外光散乱の抑制、広い視野角及び明るさの均一性という特性を有する光制御フィルムであって、少ない枚数の散乱フィルムで構成可能な光制御フィルム、光散乱膜、およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の好ましい実施形態の光制御フィルムの構成を説明するための図面である。
【図2】光線透過率測定装置の概略構成を示す図面である。
【図3】曇価を測定する方法を説明する図面である。
【図4】一般の光散乱膜における入射角β1と出射角度範囲の中心角β2との関係を示す図面である。
【図5】偏角散乱性を有する光散乱膜における入射角β1と出射角度範囲の中心角β2’との関係を示す図面である。
【図6】光散乱膜の「出射角度範囲」を計測する装置の構成を示す図面である。
【図7】本発明の好ましい実施形態の光散乱膜の内部構造を透視した模式的な斜視図である。
【図8】本実施形態の光散乱膜における柱状構造体の傾斜角度と、入射角(δ)と、出射角度範囲の中心角(φ)との関係を示す図面である。
【図9】偏角散乱特性の一例を示す図面である。
【図10】光散乱膜の製造方法を説明する模式的な図面である。
【図11】光散乱膜のもう一つの製造方法を説明する模式的な図面である。
【図12】光散乱膜の他の製造方法を説明する模式的な図面である。
【図13】本実施形態の光制御フィルム(散乱膜)を用いたレーザーディスプレイ装置の構成を示す模式的な図面である。
【図14】本実施形態の光制御フィルム(散乱膜)を用いたプロジェクションディスプレイシステムの構成を示す模式的な図面である。
【図15】本実施形態の光制御フィルム(散乱膜)を用いたバックライトシステムの構成を示す模式的な図面である。
【図16】本発明の実施例の散乱膜の断面画像である。
【図17】本発明の実施例の散乱膜の散乱光分布を、出射角度−40〜40°の範囲で測定したグラフである。
【図18】本発明の実施例(実施例1)による光制御フィルムの出射角度範囲の測定結果である。
【図19】本発明の実施例(実施例2)による光制御フィルムの出射角度範囲の測定結果である。
【図20】本発明の実施例(実施例3)による光制御フィルムの出射角度範囲の測定結果である。
【図21】本発明の比較例(比較例1)による光制御フィルムの出射角度範囲の測定結果である。
【図22】本発明の比較例(比較例2)の出射角度範囲の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態の光制御フィルムについて詳細に説明する。
先ず、本発明の好ましい実施形態の光制御フィルムの構成を説明する。図1は、本発明の好ましい実施形態の光制御フィルム1の構成を説明するための図面であり、図1(a)は、光制御フィルム1の概略構成を示す断面である。
【0037】
図1(a)に示されているように、本発明の好ましい実施形態の光制御フィルム1は、2枚の光散乱膜、即ち、第1の光散乱膜2と第2の光散乱膜4とを積層することによって構成された積層体構造を有する光拡散フィルムである。本実施形態では、入射面側に配置する光散乱膜を第1の光散乱膜2、出射面側に配置する光散乱膜を第2の光散乱膜4とする。第1および第2の光散乱膜2、4は、曇価が入射角依存性を有する光散乱膜である。
【0038】
曇価は、JIS K 7136に従って、図2に概略構成を示すような光線透過率測定装置(例えば、ヘーズメーターHM−150、ゴニオフォトメータGP−200 共に村上色彩技術研究所社製)を用いて、測定した試料(例えば、光散乱膜2、4)の全光線透過率及び散乱透過率を、下記の式(1)に適用して求められる値である。
【0039】
曇価(%)=散乱透過率(%)/全光線透過率(%)×100・・・(1)
(散乱透過率(%)=全光線透過率(%)−平行光線透過率(%))
【0040】
法線方向を0°とし、光制御フィルム(または膜)への光の入射角θを−90〜+90°の範囲で変化させて、それぞれの角度毎に曇価を測定する。
ここで、入射角θは、法線方向と入射光とのなす角度である。例えば、図3(a)では0°、であり、図3(b)では約30°である。
【0041】
そして、60%以上の曇価を示す入射角度範囲と、60%未満の曇価を示す入射角度範囲との両方を有する試料(例えば、光散乱膜2、4)を、曇価に入射角依存性を有するとし、どちらか一方のみの場合を、曇価に入射角依存性を有しないとする。
【0042】
また、本実施形態の光散乱膜2、4では、光入射側に配置された第1の光散乱膜2の曇価が、光出射面側に配置された第2の光散乱膜4の曇値より低くなるように、第1および第2光散乱膜2、4が選定されている。第1の光散乱膜2の曇価と、第2の光散乱膜4の曇価の差は、10〜30%の範囲が好ましく、15〜20%の範囲内であるのがより好ましい。
【0043】
ここで、一般の光散乱膜では、図4に示す光散乱膜Mのように入射角β1と出射角度範囲の中心角β2との合計が180°である。これに対し、本実施形態の光散乱膜2、4では、図5に示すように、入射角β1と出射角度範囲の中心角β2’との合計が180°ではない(180°にはならない)性質である偏角散乱性を有している。
【0044】
本明細書では、「入射角」は、「入射光の光軸が光散乱膜の表面と直交する方向となす角度」を指し、例えば、光散乱膜に光が垂直に入射する場合、入射角は0°となる。
【0045】
また、「出射角」は、入射光の光軸に対し平行に出射したときを0°として表され、「出射角度範囲」は、「光散乱膜に特定の角度から光を入射させたとき出射光が観測される角度範囲」を意味する。
【0046】
「出射角度範囲」は、図6に示されているような構成を有する装置で受光器を+90°から−90°まで円軌道に沿って移動させながら、各位置で出射光を検出することによって測定される。
【0047】
上述したように、本実施形態の光散乱膜2、4を構成する第1および第2の光散乱膜2、4は偏角散乱性を有している。光散乱膜2、4において、同一の入射角で光を入射させたときの出射角度範囲(α1、α2)は同一である。
【0048】
そして、第1の光散乱膜2は、法線方向から光が入射したとき、法線方向に対しやや左側(−側)に偏って出射角度範囲(α1)を発現させ(図1(b))、第2の光散乱膜4は、法線方向から光が入射したとき、やや右側(+側)に偏って出射角度範囲(α2)を発現させる(図1(c))。
【0049】
そして、第1および第2の光散乱膜2、4は、出射角度範囲(α1、α2)が、光散乱膜2、4の法線を挟んで反対側に位置(図1(b)、(c))し、且つ出射角度範囲(α1、α2)が部分的に(約10ないし20度にわたって)重なるように積層され、光制御フィルム1を構成している(図1(a))。
【0050】
第1の光散乱膜2の出射角度範囲α1の内方端(右端)と、第2の光散乱膜4の出射角度範囲α2の内方端(左端)とが接するように組み合わせ、第1および第2の光散乱膜2、4を積層すると、各光散乱膜からの出射角度範囲を最大限に利用でき、広い視野角を得ることができ有利である。
【0051】
また、2枚の光散乱膜の出射角度範囲が重なるように積層すると、スクリーンに適用したときに正面で明るい画像を得ることができる点で有利である。
【0052】
2枚の光散乱膜2、4の出射角度範囲が重なる範囲をあまり大きくすると、出射角度範囲を拡大させる効果が小さくなるので、出射角度範囲の重なる範囲は、10〜20°程度にするのが好ましい。
【0053】
このように構成することで、第1および第2の光散乱膜2、4による散乱の寄与がほぼ均等になり、散乱光の均一性の高い光制御フィルム1となる。
【0054】
「均一性が高い」とは、入射光を軸に−側に散乱した光量の全散乱光に占める割合と、+側に散乱した光量の全散乱光に占める割合との差が、20%以内であることを意味する。また、この差が、10%以内であれば、均一性がより高いこととなる。
【0055】
上記差を20%以内にするために、光入射面側の第1の光散乱膜2の曇価と光出射面側の第2の光散乱膜4の曇価との差が10〜30%の範囲内、また、上記差を10%以内にするためには、光入射面側の第1の光散乱膜2の曇価と光出射面側の第2の光散乱膜4の曇価との差が15〜20%の範囲内とされるのが好ましい。
【0056】
本実施形態の光制御フィルム1の光散乱膜2、4として使用される、曇価に入射角依存性を有し、且つ偏角散乱性を有する光散乱膜としては、光重合性組成物を硬化させた透明なマトリックスと、マトリックス中に配設されマトリックスと屈折率が異なる多数の透明な構造体とを備えている光散乱膜が挙げられる。
【0057】
次に、このような光散乱膜2、4について詳細に説明する。
図7は、本発明の好ましい実施形態の光散乱膜2、4の内部構造を透視した模式的な斜視図である。図7に示されているように、本実施形態の光散乱膜2、4は、基質であり薄板(フィルム)状の透明なマトリックス6と、マトリックス6を厚さ方向に貫通して延びるようにマトリックス中に配置された多数の透明な柱状構造体8とを備えた相分離構造を有し、20〜1000μmの略均一な厚さを有する板状の形状を有している。
【0058】
図7に示されているように、各柱状構造体8は、光散乱膜2、4の表面から裏面までマトリックス6の厚さ方向に傾斜して互いに略平行に延びるように配置されている。すなわち、各柱状構造体8は、長手方向軸線(A)が、光散乱膜2、4の法線(X)(表面に直交する)方向に対し一定角度傾斜(γ)をなすように配向されている。
【0059】
柱状構造体8の傾斜角度(γ)は、フィルムの法線方向に平行な場合を0°とすると、1〜85°の範囲にあることが好ましく、1〜40°の範囲にあることがより好ましい。しかしながら、用途によっては、42°〜85°が好ましい場合もある。
【0060】
各柱状構造体8は、マトリックス6とは異なった屈折率を有している。ここで、マトリックス6と柱状構造体8との屈折率の差異が、小さすぎると光散乱膜2、4の散乱性が悪くなり、逆に大きすぎるとどのような角度で光が入射しても散乱が生じてしまうことになる。そのため、相間の屈折率差だけでは散乱が生じず、厚みがあることで十分な散乱性を持つような最適な屈折率差である必要がある。このため、本実施形態の光散乱膜2、4では、屈折率差は0.001〜0.2の範囲で適宜選択されている。好ましい範囲としては、0.001〜0.04の範囲内である。
【0061】
また、散乱性に影響を与える光散乱膜2、4の厚さ(即ちマトリックス6の厚さ)は、屈折率差に応じて20〜1000μmの範囲で適宜選択される。
マトリックス6と柱状構造体8との屈折率差は、フィルムの作製方法や、散乱膜の材料となる光重合性組成物の組成などの影響を受ける。
【0062】
このため、マトリックス6と柱状構造体8との屈折率差が大きな場合はフィルムを薄くし、マトリックス6と柱状構造体8との屈折率差が小さい場合にはフィルムを厚くすることによって、所望の散乱性を有する光散乱膜2、4を得ている。
【0063】
柱状構造体8の横断面の直径(多角形の場合は外接円の長軸の長さ)10は、0.1〜15μmの範囲にあるのが好ましく、0.5〜15μmの範囲にあるのがより好ましい。
また、柱状構造体8の配列周期(間隔すなわちピッチ)12は、0.1〜15μmの範囲にあるのが好ましく、0.5〜15μmの範囲にあるのが好ましい。
【0064】
さらに、配列周期12が一定の値ではなく、上記範囲内で周期分布が存在してもよい。すなわち、配列周期12は、0.1〜15μmの範囲内で分布していてもよく、0.5〜15μmの範囲内で分布していてもよい。
【0065】
ここで、配列周期を上記範囲内で制御する方法について述べる。
本散乱膜は光硬化性組成物を光重合させることで作製している。その光重合性組成物に含まれる多官能モノマーの分子量、または光重合性組成物に含まれる開始剤の種類、または光重合に用いる光の波長、のいずれか単独または複数を変化させることにより配列周期を任意の値に制御している。
【0066】
柱状構造体8の断面の直径10、および配列周期12を、上記範囲内に設定し、さらに、光散乱膜2、4の厚さ(即ちマトリックス6の厚さ)を20〜1000μmとすることによって、光散乱膜2、4は、360〜830nmの波長範囲の光、いわゆる可視光線に対する干渉効果を十分に発現することができ、高度な光制御が可能となる。
【0067】
次に、本発明の好ましい実施形態の光散乱膜2、4による散乱について詳細に説明する。
本実施形態の光散乱膜2、4により散乱した光の出射角は構造体の配列周期12に依存し、格子入射角δと光の格子出射角φとは、次式(2)で表される関係を有する。
【0068】
d(sinδ±sinφ)=nλ ・・・(2)
【0069】
上記の式(2)中、dは配列周期8であり、nは次数、λは入射光の波長である。また、格子入射角δは、柱状構造体8の配向軸線(長手方向軸線)Aと入射光の光軸とがなす角度であり、格子出射角φは、柱状構造体8の配向軸(長手方向軸線)Aと出射光の光軸とがなす角度である。
上式においてδ=φのときに次式(3)で表されるブラッグの反射条件が得られる。
【0070】
2dsinδ=nλ (3)
【0071】
配列周期dと入射光の波長λが定まった光散乱膜2、4では、ブラックの反射条件を満たす入射角δで入射光が入射したとき、入射光に対する作用が最大となり、入射光は回折される。
【0072】
本実施形態の光散乱膜2、4では、柱状構造体8の傾斜角度γに一致しない角度で入射する光では、入射角(δ)と出射角度範囲の中心角(φ)とが異なる偏角散乱が生じる(図8)。
さらに、本実施形態の光散乱膜2、4は、配列周期8がある範囲内に分布しているため波長依存性が小さく、白色光の分光をほとんど生じない。
【0073】
図9は、柱状構造体8がフィルム面に対し傾斜角7°に配向されている散乱膜に対し、入射角0°で赤色光および青色光を入射した際の偏角散乱特性を示す図面である。
ここに示されているように、入射光の波長による出射角度範囲にほとんど差異は見られず、分光(波長分散すなわち色収差)がほとんど生じないことがわかる。
また、配列周期8が特定の範囲を多く含む構造であれば、その範囲に対応した出射角度範囲の光強度が上昇する。
【0074】
次に、光散乱膜2、4の製造方法について説明する。図10および図11は、光散乱膜2、4の製造方法を説明する模式的な図面である。
本実施形態の光散乱膜2、4の製造方法では、板状に配置された未硬化の光重合性組成物14に平行光Lを照射して光重合硬化させ、光散乱膜2、4を得ている。
【0075】
ここでは、光重合性組成物14を板状に配置する方法として、光重合性組成物14を基材上に塗布することによって配置する方法(図10)、光重合性組成物14を基材間で液密に封入することによって配置する方法(図11)を挙げる。
【0076】
光重合性組成物14を基材上に塗布する方法(図10)では、例えば、光重合性組成物14を、バーコーター、スリットダイコーター、スピンコーター、円コーター、グラビアコーター、CAPコーターなどの既知の方法によって、基材16の一方の面に均一な厚さで塗膜表面が平滑となるように、塗布する。
【0077】
また、光重合性組成物14を基材間に液密に封入する方法(図11)では、例えば、下方基材18と上方基材20とに挟まれた空間の周囲にスペーサ22を配置して液密空間24を形成し、この液密空間24内に液体状の未硬化の光重合性組成物14を充填する。
【0078】
上方基材16は、光重合性組成物14を光重合させるときに使用する照射光Lが透過する側であるので、この照射光を吸収しない材料で構成される必要がある。このような材料として、パイレックス(登録商標)ガラスや石英ガラス、フッ素化(メタ)アクリル樹脂や光学グレードのPETなどの透明プラスチック材料などがある。
【0079】
基材16上に塗布あるいは液密空間24内に充填される光重合性組成物14の厚さは、20〜1000μmが好ましく、20〜300μmがより好ましい。光重合性組成物14の厚さが20μm以下であると柱状構造体8を形成させることが困難となり、1000μm以上であると柱状構造体8を厚さ方向に成長させることが困難となるためである。
【0080】
以下、光重合性組成物14について詳細に説明する。
光重合性組成物14には、多官能モノマーが含まれることが好ましい。このような多官能モノマーとしては、(メタ)アクリロイル基を含む(メタ)アクリルモノマーや、ビニル基、アリル基などを含有するものが特に好ましい。
【0081】
多官能モノマーの具体例としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、水添ジシクロペンタジエニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、多官能のエポキシ(メタ)アクリレート、多官能のウレタン(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、ジアリルクロレンデート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレートなどが挙げられ、これらを単独であるいは2種以上の混合物として使用することができる。
【0082】
多官能モノマーは架橋構造を有するため重合度の違いにより密度差が形成されやすく、単独でも柱状構造体8が形成されるが、マトリックス6と柱状構造体8に、より大きな屈折率差をつけるためには、2種以上の多官能モノマーか、後述する単官能モノマー、ポリマー、低分子化合物などとの混合物を用いることが好ましい。
【0083】
光重合性組成物14として2種以上の多官能モノマーあるいはそのオリゴマーを使用する場合には、それぞれの単独重合体としたときに互いに屈折率が異なるものを使用することが好ましく、その屈折率差が大きいものを組み合わせることがより好ましい。
【0084】
回折、偏向、拡散などの機能を高効率で得られるようにする為には屈折率差を大きくすることが必要であり、その屈折率差が0.01以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましい。また、重合過程でモノマーが拡散することにより分布が形成され、屈折率差が大きくなるので、拡散定数の差が大きい組み合わせが好ましい。
【0085】
なお、3種以上の多官能モノマーあるいはオリゴマーを使用する場合は、それぞれの単独重合体の少なくともいずれか2つの屈折率差が上記範囲内となるようにすればよい。また、単独重合体の屈折率差が最も大きい2つのモノマーあるいはオリゴマーは、高効率な回折、偏向、拡散などの機能を得る為に、重量比で10:90〜90:10の割合で用いることが好ましい。
【0086】
また、光重合性組成物14には、上記のような多官能モノマーあるいはオリゴマーとともに、分子内に1個の重合性炭素−炭素二重結合を有する単官能モノマーあるいはオリゴマーを使用してもよい。このような単官能モノマーあるいはオリゴマーとしては、(メタ)アクリロイル基を含む(メタ)アクリルモノマーや、ビニル基、アリル基などを含有するものが特に好ましい。
【0087】
単官能モノマーの具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、フェニルカルビトール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、(メタ)アクリロイルオキシエチルフタレート、フェニル(メタ)アクリレート、シアノエチル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、トリブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、p−ブロモベンジル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート化合物;スチレン、p−クロロスチレン、ビニルアセテート、アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、ビニルナフタレンなどのビニル化合物;エチレングリコールビスアリルカーボネート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレートなどのアリル化合物などが挙げられる。
【0088】
これら単官能モノマーあるいはオリゴマーは、上述したようにマトリックス6と柱状構造体8に、より大きな屈折率差をつけるため、又は光散乱膜2、4に柔軟性を付与するために用いられ、その使用量は多官能モノマーあるいはオリゴマーとの合計量のうち10〜99質量%の範囲が好ましく、10〜50質量%の範囲がより好ましい。
【0089】
上述した条件を満たすために、多官能モノマーは、上述した中ではジ(メタ)アクリレート化合物がより好ましく、ポリエチレングリコール(メタ)ジアクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の二官能モノマーが更に好ましい。
【0090】
単官能モノマーは、上述した中では(メタ)アクリレート化合物がより好ましく、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等のベンゼン環含有化合物が更に好ましい。
【0091】
また、光重合性組成物14には、前記多官能モノマーあるいはオリゴマーと重合性炭素−炭素二重結合を持たない化合物を含む均一溶解混合物を用いることもできる。
【0092】
重合性炭素−炭素二重結合を持たない化合物としては、例えば、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ナイロンなどのポリマー類、トルエン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアルコール、エチルアルコール、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランのような低分子化合物、有機ハロゲン化合物、有機ケイ素化合物、可塑剤、安定剤のような添加剤などが挙げられる。
【0093】
これら重合性炭素−炭素二重結合を持たない化合物は、光重合性組成物14の粘度を調節し取り扱い性を良くする為に用いられ、その使用量は多官能モノマーあるいはオリゴマーとの合計量のうち1〜99質量%の範囲とすることが好ましく、取り扱い性も良くしつつ規則的な配列を持った柱状構造体8を形成させる為には1〜50質量%の範囲がより好ましい。
【0094】
また、光重合性組成物14には、前記重合性炭素−炭素二重結合を持たない化合物の代わりに、分子内に1つ以上の重合性炭素―炭素二重結合を有する高分子量のマクロモノマーを使用することもできる。上記重合性炭素−炭素二重結合を持たない化合物を上記質量%で混合した場合、光重合した際に、相分離して光制御フィルムが白化してしまう場合がある。それに対し、マクロモノマーは片末端に重合可能な官能基を有する高分子量の直鎖状モノマーであり、他のモノマーと共重合することにより相溶性の問題を解決することができる。
【0095】
本発明の組成物に使用する有用なマクロモノマーとしては、エルバサイト(ELVACITE、Lucite International)シリーズがある。このマクロモノマーは、本発明の組成物を重合する時に前述した単官能モノマーと共重合することにより、相分離を抑え光制御フィルムが白化することを抑えることができる。
【0096】
マクロモノマーの使用量は、光重合性組成物全体の1〜99質量%の範囲とすることが好ましく、取り扱い性も良くしつつ規則的な配列を持った柱状構造体8を形成させる為には1〜50質量%の範囲がより好ましい。
【0097】
光重合性組成物14に使用する光重合開始剤は、紫外線などの活性エネルギー線を照射して重合を行う通常の光重合で用いられるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーズケトン、2−クロロチオキサントン、ベンゾインエチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、p−t−ブチルトリクロロアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピルフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ジベンゾスベロンなどが挙げられる。
【0098】
これら光重合開始剤の使用量は、光重合性の材料の総量に対して0.001〜10質量%の範囲とする事が好ましく、光散乱膜2、4の透明性を落とさないようにするためには0.01〜5質量%とすることがより好ましい。
また、光重合性組成物14には、紫外線吸収剤を配合することができる。紫外線吸収剤を配合することにより、高ヘイズ化することができる。一方で、光重合性組成物14の硬化は、紫外線照射により行われるため、紫外線吸収剤の量は、光重合性組成物14の硬化性を満足させるために制限を受ける。
【0099】
そこで紫外線吸収剤の添加量は、光重合性組成物14、すなわち、光重合性組成物14の合計100質量%に対して、0.01〜2質量%の範囲とする。光重合性組成物14の硬化性と得られる光散乱膜2、4の光学特性の両方を満足させるには、光重合性組成物14が100質量%あたり紫外線吸収剤の量を0.01質量%以上とするのが好ましい。
【0100】
また、硬化性を重視する場合には、光重合性組成物14が100質量%あたり紫外線吸収剤の量を2質量%以下とするのが好ましい。紫外線吸収剤の量が少ないと、光学特性面での添加効果が弱くなり、一方、その量が多くなると光重合性組成物14の硬化性が低下し、特に光重合性組成物14が100質量%あたり2質量%を超える場合には、光硬化性が極端に低下する。
【0101】
紫外線吸収剤は、紫外線域に吸収を有する化合物であって、例えば、ベンゾフェノン系のもの、フェニルベンゾトリアゾール系のもの、ヒドロキシベンゾエート系のものなどがある。ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチロキシベンゾフェノンなどが、フェニルベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−〔2−ヒドロキシ−3−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5−メチルフェニル〕ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチロキシフェニル)ベンゾトリアゾールなどが、またヒドロキシベンゾエート系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル 3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなどが、それぞれ挙げられる。
【0102】
本実施形態の散乱膜の製造方法では、上述したようにして板状に配置された光重合性組成物14を、照射光源からの平行光Lで、照射し(図10)、光重合性組成物14を光重合硬化させ、マトリックス6内に多数の柱状構造体8が形成された薄膜状の光散乱膜2、4を得る。
【0103】
硬化に用いる光は、光重合性組成物を硬化させるものであればどのような波長を有していてもよく、例えば、可視光、紫外線などがよく用いられる。紫外線は、水銀ランプやメタルハライドランプなどから発せられる。
【0104】
照射光源は、平行光Lを照射可能であることに加えて、照射する平行光Lの進行方向に対する垂直断面内で、平行光Lの光強度分布が略一定であるものを用いる。具体的には、点光源や棒状光源からの光を、ミラーやレンズなどにより光強度分布が略一定(ハット型分布)の平行光Lとしたもの、あるいはVCSELなどの面状光源などを使用することができる。柱状構造体8は平行光Lの進行方向に成長して形成されるため、平行光Lの広がり角(平行度)は±0.03rad以下であるものが好ましい。なお、レーザ光線は平行度の点では好ましい光源であるが、その光強度分布がガウス型の分布を有しているため、適当なフィルタなどを用いて光強度分布を略一定にして使用することが好ましい。
【0105】
照射光源は、照射エリアを複数の領域に分割して(例えば9領域)、各領域の光強度を測定し、式(4)で与えられる照度分布の値が、2%以下であるものを用いている。より好ましくは、1%以下であるものを用いている。
【0106】
照度分布=(最大値−最小値)/(最大値+最小値)×100 (4)
【0107】
照射強度は0.01〜100mW/cm2の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1〜20mW/cm2の範囲である。照度が0.01mW/cm2以下であると重合が完了せず、100mW/cm2以上であると柱状構造体8が形成されずに重合が完了してしまう。
【0108】
本実施形態の散乱膜の製造方法では、平行光Lは、板状に配置された光重合性組成物14の表面に直交する方向(法線方向)対して所定角度、傾斜した状態で光重合性組成物14の表面に照射される。このような照射によって、重合硬化した光重合性組成物である光散乱膜2、4中では、各柱状構造体8が、その長手方向軸線が照射光(平行光L)の光軸と一致する方向に延びるように形成されている。
【0109】
したがって、照射光の照射角度を変更することによって、光散乱膜2、4中での柱状構造体8の傾斜角度を調整することが可能となる。具体的には、照射光源を傾けることによって照射角度を変更する方法や、照射光源に対して、板状の光重合性組成物14を傾けて配置する方法等が挙げられる。
【0110】
光硬化の際、光の照射方向を中心に高い曇価を示す入射角度範囲が発現する。例えば、光重合性組成物の膜面にほぼ垂直に光を照射すれば、垂直方向すなわち法線方向を中心に、高い曇価を示す入射角度範囲が発現する。また、法線方向に対して所定角度傾いた斜め方向から光を照射すれば、その傾いた方向を中心に高い曇価を示す入射角度範囲が発現する。
【0111】
この際、空気から光重合性組成物14に平行光Lを入射した場合に屈折が生じるため、平行光Lと光重合性組成物14がなす角度と柱状構造体8の傾斜角度が異なることに注意する必要がある。
【0112】
光重合性組成物14を基板16上に板状に配置する方法(図10)では、酸素による重合阻害を防ぐため、光照射は不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素などが用いられる。ただし、不活性ガスを用いる目的は酸素を追い出すことであり、酸素を含まない組成の気体であれば他の気体でもよい。
【0113】
また、硬化の際、平行光源と膜面の間に偏角作用のある部材を設置し、光源からの光を特定方向の広がり角を有する光に変換しても良い。このような偏角作用のある部材としては、Luminit社製のレンズ拡散板LSDなどがある。
【0114】
光散乱膜の曇価を制御する方法として、フィルムの膜厚を調整して曇価を制御する方法がある。この場合、膜厚が薄くなると、曇価は小さい値となる。
また、光散乱膜の曇価は光重合条件にも依存し、光の強度を高くする、光開始剤の量を増やす、など光重合速度が速くなる方向に変えることにより曇価を小さくすることも可能である。
【0115】
このようにして得られた光散乱膜2、4は、基質であり板状の透明なマトリックス6と、このマトリックス6中に配置された多数の透明な柱状構造体8とを備えた相分離構造を有しており、複数の柱状構造体8は、フィルム法線(フィルム表面に直交する方向)に対し傾斜して略同一方向に配向され、柱状構造体8の傾斜角度と異なる角度で入射する光については、入射角と出射角度範囲の中心角とが異なる偏角散乱性を有することになる。
【0116】
次に、光散乱膜2、4の他の製造方法について説明する。図12は、光散乱膜2、4の他の製造方法を説明する模式的な図面である。
この製造方法では、図12に示されているように、薄板状に配置された未硬化の光重合性組成物14上に、一定の頂角およびピッチを有するプリズムシート、又は三角プリズム26など平坦な傾斜面を有する光学手段を配置し、平行光Lを一定角度傾斜した状態で光重合性組成物14に入射させ光重合硬化させて、光散乱膜2、4を得る。
【0117】
例えば、プリズム26は、光重合性組成物14上に直接、配置される。また、平行光が界面反射しないように、プリズム26と光重合性組成物14との間に、プリズムと屈折率の等しい液を配置するのが好ましい。
空気から光重合性組成物14に平行光を入射させた場合、屈性率の違いにより空気―光重合性組成物界面で屈折が生じ、平行光Lと光重合性組成物14がなす角度と、柱状構造体8の傾斜角度とが異なってくる。
【0118】
例えば、本実施形態で用いる光重合性組成物14の屈折率が約1.5の場合、平行光Lを傾けて空気中から入射しても、空気―光重合性組成物界面での屈折によって光重合性組成物14内では、大きな傾斜角で光を進行させることができない。この結果、空気中から直接、光重合性組成物14に平行光を入射する製造方法では、柱状構造体8の傾斜角度が42〜85°である光散乱膜を作製することができない。
【0119】
しかしながら、図12に例示するような方法によれば、平行光Lは、光学手段26の傾斜面で屈折して進行方向を変えて光重合性組成物14に入射し光重合性組成物14中を通過する。ここで、光学手段26の傾斜面26aに対する平行光の入射角度ε1と、光学手段の傾斜面の傾斜角度ε2を適宜調整することで、光重合性組成物14中での進行方向を制御することができ、平行光Lの光重合性組成物14への入射角度を大きくし、柱状構造体の傾斜角が約85°程度にまで傾斜している光散乱膜を得ることができる。
【0120】
このようにして製造された第1の光散乱膜2および第2の光散乱膜4は、上述したような関係となるようにして、積層される光制御フィルム1とされる(図1(a))。
なお、第1の光散乱膜2は、第2の光散乱膜4と異なった材料から形成されても、あるいは第2の光散乱膜4と同じ材料で形成されてもよい。
【0121】
第1の光散乱膜2と第2の光散乱膜4を積層する方法としては、別々に作製した光散乱膜を、透明な接着剤、両面接着フィルム等の媒体を介して接着する方法に加え、媒体を介さずに積層する方法もある。
媒体を介さずに積層する方法として、例えば第2の光散乱膜4を基材として、その上に前記光重合性組成物を膜状に形成し、そこに特定方向から光を照射して硬化させることにより第1の光散乱膜2を直接、第2の光散乱膜4上に製造する方法がある。
【0122】
本実施形態の光制御フィルム1は、そのままプロジェクションスクリーンとして用いることが出来るが、フレネルレンズシート等の他の光学部材と組み合わせて使用してもよい。また、反射部材と積層し、反射型のプロジェクションスクリーンとして用いることもできる。
【0123】
次に、図13に沿って、本実施形態の光制御フィルム(散乱膜)1を用いたレーザーディスプレイ装置30について詳細に述べる。
【0124】
図13は、レーザーディスプレイ装置30の構成を示す模式的な図面である。レーザディスプレイ装置30は、赤、緑、青の波長の光をそれぞれ出射する単色レーザ光源R、G、Bと、これら単色レーザ光源R、G、Bのそれぞれから出射された単色光を合成する光合成光学系32と、合成光学系32で合成された光を走査する光走査ユニット34と、光走査ユニットからの光が投影されるスクリーン36とを備えている。
【0125】
光走査ユニット34は、光を水平、垂直それぞれに走査するミラーを備え、走査された光がスクリーン36に投射される。
【0126】
本実施形態のレーザディスプレイ装置30では、単色レーザ光源R、G、Bと、合成光学系32と、光走査ユニット34とによって構成されるレーザ光源装置によって、スクリーン36に対して斜め下方向からレーザ光が投射される。なお、レーザ光が斜め上方からスクリーン36に投射される構成でもよい。
【0127】
レーザーディスプレイ装置30の奥行きは、レーザ光の投射角度によって決まるため、薄型化を図るためには、投射角度を大きくする必要がある。投射角度(仰角または俯角)は約30〜85度である。視聴者は、スクリーン36に対して、水平方向に対し上下±10度方向からスクリーン36を眺めることになるため、スクリーン36には、レーザ光の投射方向(約30〜85度)から観察方向(約10度)まで、光を偏角散乱させる機能が求められる。
【0128】
本実施形態のレーザーディスプレイ装置30では、スクリーン36に、上記実施形態の散乱膜を使用し、レーザ光を、その投射方向(約30〜85度)から観察方向(約10度)まで散乱させ、観察角度内で鮮明な映像を得ることができる。
【0129】
具体的には、レーザーディスプレイ装置30では、レーザ光の投射角度が仰角30度であり、スクリーン36として、スクリーンの法線角度に対して10度の傾斜角度を有する光制御フィルムが用いられ、投射されたレーザ光をスクリーンの法線方向±10度の範囲へ効率よく偏角散乱させている。
【0130】
次に、図14に沿って、本実施形態の散乱膜を用いたプロジェクションディスプレイシステム40について詳細に述べる。図14は、プロジェクションディスプレイシステム40の構成を模式的に示す概略図である。
【0131】
プロジェクションディスプレイ40は、所謂リアプロジェクションシステムであり、プロジェクションスクリーン42と、このプロジェクションスクリーン42の背面側斜め下方から画像を投影する短焦点プロジェクター(投射光学系)44との組合せからなる。
【0132】
プロジェクションスクリーン42は、上記実施形態の散乱膜を備え、短焦点プロジェクター44からの投影光を散乱膜1で偏角散乱させている。
プロジェクションスクリーン42への投影光は、スクリーンの法線方向に対して傾斜した方向(斜め上方または斜め下方等)から入射するため、スクリーンの拡散板には傾斜方向から入射した光を法線方向に偏角散乱させる機能が要求される。
【0133】
プロジェクションスクリーン42では、短焦点プロジェクター44を使用して、非常に短い投射距離からスクリーンに投影しているが、スクリーンに対する投射距離が短くなれば、スクリーンに対する投影光の入射角度は大きくなる。したがって、プロジェクションスクリーン42では、スクリーンに、投影角度から観察角度まで光を偏角散乱させる機能が求められる。
【0134】
このため、プロジェクションスクリーン42では、散乱膜1を用いることによって、投射光を偏角拡散させ、観察角度内で鮮明な映像を得ている。
【0135】
具体的には、プロジェクションディスプレイ40では、投射光学系として投射角度がスクリーンの法線に対して30度の短焦点プロジェクター44を使用し、スクリーン42として10度の傾斜角度を有する散乱膜1を使用することによって、投射されたレーザ光をスクリーンの法線方向±10度の範囲へ効率よく偏角散乱させている。
また、散乱膜の光入射側とは逆側に反射版を配置して、反射型プロジェクションスクリーンとしてもよい。
【0136】
次に、図15に沿って、本実施形態の散乱膜1を用いたバックライトシステム50について詳細に述べる。図15は、バックライトシステム50の構成を模式的に示す概略図である。
バックライトシステム50は、携帯用ノートパソコン、デスクトップパソコンのモニター、携帯用テレビあるいはビデオ一体型テレビ等の画像表示手段として使用されるカラー液晶表示装置等のためのバックライトシステムである。
【0137】
バックライトシステム50は、LED、CCFL等の光源52と、光源52に一端面が隣接するように配置された導光板54と、導光板の上方の配置された上記実施形態の散乱膜1を備えている。散乱膜1は、従来のバックライトシステムにおけるプリズムシートに代えて配置されている。
【0138】
光源52から光は、一端面から導光板54に入射し、導光板54内を伝搬しながら、導光板54の上面の出射面54aから角度ωで出射される。この角度δで出射された光は、散乱膜1によって法線方向に偏角散乱される。
【0139】
このようなバックライトシステムでは、部材点数が削減され、プリズムシート特有の課題であるモアレ、スティッキング等のノイズが発生しないため、画像品位の向上にも寄与することができる。
さらに、上記実施形態の散乱膜を用いることで、バックライトの視野角特性の制御、例えば視野角の拡大や、法線方向ではない特定の方向に偏角散乱させることによる視野角の制御が可能である。
【0140】
本発明は、前記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内で種々の変更、変形が可能である。
【実施例】
【0141】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0142】
(実施例1:散乱膜の製造1)
単官能モノマーとしてベンジルアクリレートを、多官能モノマーとして分子量が536のポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)を用いた。開始剤種としては、Irgacure 369(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を用いた。また、照射波長はバンドパスフィルタを使用して365nmにピークを持つ波長を用いた。
【0143】
ベンジルメタクリレート20質量%とPEGDMA80質量%の混合物に対し開始剤を1.0質量%加え、光重合性組成物を得た。スライドガラスとカバーガラスの間に0.2mmのシリコン製スペーサを配置し、前記光重合性組成物をスペーサ内部に封入させ、カバーガラスの上部にバンドパスフィルタを設置した。続いて、水銀キセノンランプからの平行光をカバーガラス側から法線に対し40°の角度で照射し、光重合性組成物を重合させて散乱膜を得た。柱状構造体の配列周期の平均値は5μm、柱状構造体のアスペクト比の平均値は40であった。
得られた散乱膜内部の柱状構造体の角度は法線に対し25°であった。
【0144】
(実施例2:散乱膜の製造2)
単官能モノマーとしてベンジルアクリレートを、多官能モノマーとして分子量が536のポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)を用いた。開始剤種としては、Irgacure 369(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を用いた。また、照射波長はバンドパスフィルタを使用して365nmにピークを持つ波長を用いた。
【0145】
ベンジルメタクリレート20質量%とPEGDMA80質量%の混合物に対し開始剤を1.0質量%加え、光重合性組成物を得た。スライドガラスとカバーガラスの間にシリコン製スペーサを配置し、光重合性組成物をスペーサ内部に封入させ、カバーガラスの上部にバンドパスフィルタを設置した。続いて、上部に光学手段として、傾斜面の傾斜角度ε2=45°の三角プリズム(シグマ光機社製)を設置した。
【0146】
水銀キセノンランプからの平行光を光学手段側から、光学手段の傾斜面に対する入射角度ε1が35°となるように照射し、光重合性組成物を重合させて散乱膜を得た。このとき、柱状構造体の配列周期の平均値は5μmであった。
【0147】
得られた散乱膜の断面画像を図16に示す。散乱膜内部の柱状構造体の角度は法線に対し60°であった。
以上のように、光学手段(三角プリズム)を用いることで、内部の柱状構造体が42°以上傾斜した散乱膜を得ることができた。
【0148】
次に、内部構造が傾斜した散乱膜を積層して光制御フィルムとする実施例を示す。
(実施例3〜5:光制御フィルムの製造)
単官能モノマーとしてベンジルアクリレートを、多官能モノマーとして分子量が536のポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)を用いた。開始剤種としては、Irgacure 369(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を用いた。また、照射波長はバンドパスフィルタを使用して365nmにピークを持つ波長を用いた。
【0149】
ベンジルメタクリレート20質量%とPEGDMA80質量%の混合物に対し開始剤を1.0質量%加え、光重合性組成物を得た。スライドガラスとカバーガラスの間にシリコン製スペーサを配置し、前記光重合性組成物をスペーサ内部に封入させ、カバーガラスの上部にバンドパスフィルタを設置した。続いて、水銀キセノンランプからの平行光をカバーガラス側から法線に対し8°の角度で照射し、光重合性組成物を重合させて散乱膜を得た。このとき、柱状構造体の配列周期の平均値は5μmであった。
【0150】
得られた散乱膜内部の柱状構造体の角度は法線に対し5°であった。
続いて、ゴニオフォトメータGP−200((株)村上色彩技術研究所製)を用いて、作製したサンプルに対し0°で入射させたときの散乱光分布を、出射角度−40〜40°の範囲で測定した。散乱光分布のグラフから出射角度範囲を求めた。結果を図17に示す。図17より、入射角0°に対し、出射角度範囲の中心角は−7°であり、入射角と出射角度範囲の中心角が異なることがわかった。
【0151】
前記散乱膜の膜厚を4段階に制御し、サンプル(1)〜(4)とした。このサンプル(1)〜(4)の曇価を、ヘーズメーターHM−150((株)村上色彩技術研究所社製)を用いて、入射角が0°のときの曇価を測定した。測定結果を表1に示す。
【0152】
【表1】
【0153】
(評価法及び評価結果)
前記サンプル(1)〜(4)について出射角度範囲を求めた。結果を表2に示す。
【0154】
【表2】
表2に示すように、サンプル(1)〜(4)はその出射角度範囲が入射光の軸(法線方向)に対し+側に傾っていることが分かる。
【0155】
(比較例1)
第1の散乱膜にサンプル(1)、第2の散乱膜にサンプル(1)を使用して、出射角度範囲が法線方向を軸に互いに逆向きになるように積層し光制御フィルムを作製した。
【0156】
(実施例3)
第1の散乱膜にサンプル(2)、第2の散乱膜にサンプル(1)を使用して、出射角度範囲が法線方向を軸に互いに逆向きになるように積層し光制御フィルムを作製した。
【0157】
(実施例4)
第1の散乱膜にサンプル(3)、第2の散乱膜にサンプル(1)を使用して、出射角度範囲が法線方向を軸に互いに逆向きになるように積層し光制御フィルムを作製した。
【0158】
(実施例5)
第1の散乱膜にサンプル(4)、第2の散乱膜にサンプル(1)を使用して、出射角度範囲が法線方向を軸に互いに逆向きになるように積層し光制御フィルムを作製した。
【0159】
(比較例2)
第1の散乱膜はなし、第2の散乱膜にサンプル(1)を使用して、光制御フィルムとした。
【0160】
(比較例3)
60%以上の曇価を示す入射角度範囲が−10〜40°(中心15°)の範囲である散乱膜を2枚用い、前記範囲が互いにほぼ一致する向きに積層し光制御フィルムを作製した。(特許文献5 比較例1)
前記実施例3〜5及び比較例1〜2の光制御フィルムについて、第1の散乱膜と第2の散乱膜との曇価の差を表3に示す。
【0161】
【表3】
【0162】
表3に示すように、実施例1〜3の光制御フィルムは、曇価の差が10〜30%の範囲内、比較例1、2の光制御フィルムは、曇価の差が10〜30%の範囲外であることが分かる。
(評価法及び評価結果)
【0163】
前記実施例3〜5及び比較例1、2の光制御フィルムについて出射角度範囲を測定した。測定結果を図18〜図22に示す。また、出射光量から出射光の均一性を評価した。結果を表4に示す。
【0164】
(均一性の判断基準)
「◎」:−側と+側の出射光量の全体に占める割合の差が10%以内
「○」:−側と+側の出射光量の全体に占める割合の差が20%以内
「×」:−側と+側の出射光量の全体に占める割合の差が前記範囲外
【0165】
【表4】
【0166】
表4に示すように、実施例1〜3及び比較例1の光制御フィルムは、その出射角度範囲が−20〜20°より広いことが分かる。このように、偏角散乱性を有し、同一の入射角で光を入射させたときの出射角度範囲が、入射光の軸に対して互いに逆向きに偏っている2枚のフィルムを積層することで、広い出射角度範囲を有する光制御フィルムを得ることができた。
【0167】
また、比較例1、2の光制御フィルムは、散乱光が−側、+側どちらか一方向に大きく偏って分布しているのに対し、実施例1〜3の光制御フィルムは、散乱光が法線方向を軸に20%以内の割合で−側、+側に分布していることが分かる。
【0168】
(プロジェクションディスプレイでの実装評価)
実施例の光制御フィルムをスクリーンとして装着し、映像を投影した結果、映像は鮮明で明るく、また水平、垂直方向の両方で良好な視野角を示した。
【0169】
以上、実施例からも明らかなように、積層する散乱膜の曇価の差を好ましい範囲内(10〜30%)に設定することで、散乱光の均一性に優れた光制御フィルムを2枚の積層枚数で提供することができた。
【符号の説明】
【0170】
1:光制御フィルム
2:第1の光散乱膜
4:第2の光散乱膜4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された2枚の光散乱膜を備えた光制御フィルムであって、
前記各光散乱膜は、曇価に入射角依存性を有し、且つ光の入射角と散乱光の出射角度範囲の中心角が異なる偏角散乱性を有し、
前記2枚の光散乱膜は、前記範囲の中心が入射光の軸に対して反対側に位置し、さらに、出射角度範囲の一部が互いに重なるように、積層されている、
ことを特徴とする光制御フィルム。
【請求項2】
光入射側に配置される前記光散乱膜の曇価が、光出射側に配置される前記光散乱膜の曇価より低い、
請求項1に記載の光制御フィルム。
【請求項3】
薄板状の透明なマトリックスと、該マトリックス中に配設され該マトリックスと屈折率が異なる複数の透明な柱状構造体とを備えた光散乱膜であって、
前記複数の柱状構造体の各々が、前記光散乱膜の法線に対して傾斜して略平行に配向され、
前記光散乱膜への光の入射角と、散乱光の出射角度範囲の中心角とが異なる、
ことを特徴とする光散乱膜。
【請求項4】
前記光散乱膜の前記複数の柱状構造体のアスペクト比が10以上である、
請求項3記載の光散乱膜。
【請求項5】
前記複数の柱状構造体の配列周期が、0.1〜15μmである、
請求項3または4に記載の光散乱膜。
【請求項6】
前記光散乱膜の前記配列周期が、0.1〜15μmの範囲内に分布している、
請求項3ないし5のいずれか1項に記載の光散乱膜。
【請求項7】
前記光散乱膜の前記複数の柱状構造体が、前記光散乱膜の法線に対し1〜85°傾斜している、
請求項3ないし6のいずれか1項に記載の光散乱膜。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれか1項に記載の光散乱膜を、2枚、散乱光の出射角度範囲の中心が入射光の軸に対して反対側に位置し、さらに、出射角度範囲の一部が互いに重なるように積層されていることを特徴とする光制御フィルム。
【請求項9】
薄板状に配置された光重合性組成物に、当該組成物の法線方向に対して傾斜した方向から平行光を照射することにより前記光重合性組成物を重合硬化させる、
請求項3〜7のいずれか1項に記載の光散乱膜の製造方法。
【請求項10】
前記平行光が、前記平行光を所定角度に偏向可能な光学手段を介して、前記光重合性組成物に照射される、
請求項3〜7のいずれか1項に記載の光散乱膜の製造方法。
【請求項1】
積層された2枚の光散乱膜を備えた光制御フィルムであって、
前記各光散乱膜は、曇価に入射角依存性を有し、且つ光の入射角と散乱光の出射角度範囲の中心角が異なる偏角散乱性を有し、
前記2枚の光散乱膜は、前記範囲の中心が入射光の軸に対して反対側に位置し、さらに、出射角度範囲の一部が互いに重なるように、積層されている、
ことを特徴とする光制御フィルム。
【請求項2】
光入射側に配置される前記光散乱膜の曇価が、光出射側に配置される前記光散乱膜の曇価より低い、
請求項1に記載の光制御フィルム。
【請求項3】
薄板状の透明なマトリックスと、該マトリックス中に配設され該マトリックスと屈折率が異なる複数の透明な柱状構造体とを備えた光散乱膜であって、
前記複数の柱状構造体の各々が、前記光散乱膜の法線に対して傾斜して略平行に配向され、
前記光散乱膜への光の入射角と、散乱光の出射角度範囲の中心角とが異なる、
ことを特徴とする光散乱膜。
【請求項4】
前記光散乱膜の前記複数の柱状構造体のアスペクト比が10以上である、
請求項3記載の光散乱膜。
【請求項5】
前記複数の柱状構造体の配列周期が、0.1〜15μmである、
請求項3または4に記載の光散乱膜。
【請求項6】
前記光散乱膜の前記配列周期が、0.1〜15μmの範囲内に分布している、
請求項3ないし5のいずれか1項に記載の光散乱膜。
【請求項7】
前記光散乱膜の前記複数の柱状構造体が、前記光散乱膜の法線に対し1〜85°傾斜している、
請求項3ないし6のいずれか1項に記載の光散乱膜。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれか1項に記載の光散乱膜を、2枚、散乱光の出射角度範囲の中心が入射光の軸に対して反対側に位置し、さらに、出射角度範囲の一部が互いに重なるように積層されていることを特徴とする光制御フィルム。
【請求項9】
薄板状に配置された光重合性組成物に、当該組成物の法線方向に対して傾斜した方向から平行光を照射することにより前記光重合性組成物を重合硬化させる、
請求項3〜7のいずれか1項に記載の光散乱膜の製造方法。
【請求項10】
前記平行光が、前記平行光を所定角度に偏向可能な光学手段を介して、前記光重合性組成物に照射される、
請求項3〜7のいずれか1項に記載の光散乱膜の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図16】
【公開番号】特開2013−37337(P2013−37337A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−91563(P2012−91563)
【出願日】平成24年4月13日(2012.4.13)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年4月13日(2012.4.13)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]