説明

光制御装置およびそれを用いた光制御システム

【課題】 光制御装置のオンオフ比を向上させる。
【解決手段】 光制御装置10は、基板30と、平面電極32と、印加された電界に応じて屈折率が変化する光変調膜34と、光変調膜34上に周期的に形成された複数の電極片41a、37a、41b、37b、41c、37cと、を備える。電極片37a、37b、37cについては制御部43から制御電圧を印加し、電極片41a、41b、41cおよび平面電極32は接地電位とすることによって、光変調膜34に生じさせる電界分布の周期を、電極片41a、37a、41b、37b、41c、37cの周期より大きく設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界の印加により屈折率が変化する電気光学材料を用いた光制御装置およびそれを用いた光制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、たとえばチタン酸ジルコン酸ランタン鉛(以下、PLZTという)等の電気光学効果を有する材料を用いた光制御素子が提案されている。PLZTは、(Pb1-yLay)(Zr1-xTix)O3の組成を有する透明セラミックスである。電気光学効果とは、物質に電界を印加するとその物質に分極が生じ屈折率が変化する現象をいう。電気光学効果を利用すると、印加電圧をオン、オフすることにより光の位相を切り替えることができる。そのため、電気光学効果を有する光変調材料を光シャッター等の光制御素子に適用することができる。
【0003】
こうした光シャッター等の光制御素子への適用においては、従来、バルクのPLZTが広く利用されてきた。しかし、バルクPLZTを用いた光シャッターは、微細化、集積化の要請や、動作電圧の低減、低コスト化などの要請に応えることは困難である。また、バルクのPLZTを製造するバルク法は、原料となる金属酸化物を混合した後、1000℃以上の高温で処理する工程を含むため、素子形成プロセスに適用した場合、材料の選択や素子構造等に多くの制約が加わることとなる。
【0004】
こうしたことから、バルクPLZTに代え、基材上に形成した薄膜のPLZTを光制御素子へ応用する試みが検討されている。特許文献1には、ガラス等の透明基板上にPLZT膜を形成し、その上に櫛形電極を設けた表示装置が開示されている。この表示装置は、PLZT膜が形成された表示基板の両面に偏光板が設けられた構成を有する。ここで、各画素の電極端子部が外部の駆動回路と接続されることにより、所望の画素が駆動され、表示基板の一面側に設けられた光源からの透過光により所望の表示をすることができるようになっている。
【特許文献1】特開平7−146657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、光のオンオフを制御する光制御装置においては、オン状態とオフ状態の光強度の比であるオンオフ比を高くすることが重要である。たとえば、レーザプリンタなどの画像形成装置では、光制御装置のオンオフ比の低下は、画像品質の低下につながる。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、オンオフ比を向上した光制御装置およびそれを用いた光制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の光制御装置は、印加された電界に応じて屈折率が変化する光変調膜と、光変調膜に周期的に形成された複数の電極片と、複数の電極片の少なくとも一部の電極片に電圧を印加して、光変調膜に周期的な電界分布を生じさせる制御部と、を備え、光変調膜に生じさせる電界分布の周期を、複数の電極片の周期より大きく設定する。
【0008】
この態様によると、この光制御装置は、光変調膜に周期的な電界分布を生じさせない状態では、周期的に形成された複数の電極片によって構成された回折格子としての機能をもつ。複数の電極片の少なくとも一部の電極片に電圧を印加して、光変調膜に周期的な電界分布を生じさせると、光変調膜に周期的な屈折率分布が生じ、周期的に形成された複数の電極片によって構成された回折格子に加えて、光変調膜の周期的な屈折率分布に応じた回折格子が構成される。光変調膜に生じさせる電界分布の周期を、複数の電極片の周期より大きく設定することによって、光変調膜の周期的な屈折率分布によって構成された回折格子の格子間隔は、周期的に形成された複数の電極片によって構成された回折格子の格子間隔よりも大きくなる。これにより、周期的に形成された複数の電極片によって構成された回折格子によって発生する回折光とは異なる方向に、光変調膜の周期的な屈折率分布によって構成された回折格子によって発生する回折光を出射することができる。光変調膜に周期的な電界分布を生じさせない状態では、光変調膜の周期的な屈折率分布が生じた場合に構成される回折格子によって発生する回折光の方向にはほとんど光が回折されない。そのため、その方向における漏れ光を極めて少なくすることができ、オンオフ比を向上することができる。
【0009】
本発明の別の態様も、光制御装置である。この光制御装置は、印加された電界に応じて屈折率が変化する光変調膜と、光変調膜の第1面に周期的に形成された複数の第1面側電極片と、光変調膜の第1面の反対の面である第2面に形成された第2面側電極と、複数の第1面側電極片の少なくとも一部の電極片に印加される電圧を制御する制御部と、を備え、制御部は、当該光制御装置がオン状態のときには、第2面側電極との電位差によって有意な電界が生じる電極片と、非有意な電界が生じる電極片とが交互に生じるよう、複数の第1面側電極片の少なくとも一部の電極片の電圧の印加を制御し、当該光制御装置がオフ状態のときには、第2面側電極との電位差によって複数の第1面側電極片の全ての電極片について非有意な電界が生じるよう、複数の第1面側電極片の少なくとも一部の電極片の電圧の印加を制御する。
【0010】
非有意な電界とは、光変調膜に屈折率変化が全く生じない程度の電界か、または屈折率変化が生じたとしても極めて微少な屈折率変化であり、光変調膜が回折格子として機能しない程度の電界を意味する。有意な電界とは、非有意な電界と交互に光変調膜に対して印加し、光変調膜に周期的な屈折率分布を生じさせた場合に、光変調膜が回折格子として有効に機能する程度の電界である。
【0011】
この態様によると、この光制御装置は、光制御装置がオフ状態のときには、周期的に形成された複数の第1面側電極片によって構成された回折格子としての機能をもつ。光制御装置がオン状態のときには、その他に、光変調膜に周期的な屈折率分布が生じることによって構成された回折格子も機能することができる。光制御装置のオン状態では、有意な電界が生じる電極片と、非有意な電界が生じる電極片とが交互に生じるよう、複数の第1面側電極片の少なくとも一部の電極片の電圧の印加を制御しているので、光変調膜の周期的な屈折率分布によって構成された回折格子の格子間隔は、周期的に形成された複数の第1面側電極片によって構成された回折格子の格子間隔よりも大きくなる。これにより、光制御装置がオン状態のときに、周期的に形成された複数の第1面側電極片によって構成された回折格子によって発生する回折光とは異なる方向に、光変調膜の周期的な屈折率分布によって構成された回折格子によって発生する回折光を出射することができる。光制御装置がオフ状態のときには、光変調膜の周期的な屈折率分布によって構成される回折格子によって発生する回折光の方向にはほとんど光が回折されない。そのため、その方向における漏れ光を極めて少なくすることができ、オンオフ比を向上することができる。
【0012】
制御部は、当該光制御装置がオフ状態のときには、複数の第1面側電極片の全ての電極片について第2面側電極との電位差がなくなるよう、複数の第1面側電極片の少なくとも一部の電極片の電圧の印加を制御してもよい。
【0013】
光制御装置は、光変調膜の第2面側に光反射層を有してもよい。この場合、反射型の光制御装置を構成することができる。
【0014】
第2面側電極が、光反射層として共用されてもよい。この場合、簡易な構造の反射型の光制御装置を構成することができる。
【0015】
光変調膜は、印加した電界の2乗に比例して屈折率が変化する電気光学材料で形成されてもよい。また、電気光学材料は、チタン酸ジルコン酸鉛またはチタン酸ジルコン酸ランタン鉛であってもよい。この場合、好適に光制御装置を構成することができる。
【0016】
当該光制御装置は、半導体基板上に形成されてもよい。この場合、半導体基板に光制御装置の制御回路を集積化して形成することができるので、光制御装置とその制御回路の小型化を図ることができる。
【0017】
当該光制御装置がオン状態のときに光変調膜からくる光を検出する受光部をさらに備えてもよい。
【0018】
本発明のさらに別の態様は、光変調システムである。この光変調システムは、上述の光制御装置と、光制御装置に光を照射する発光部と、を備える。この態様によると、たとえば画像形成装置や画像表示装置を実現することができる。
【0019】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、オンオフ比を向上した光制御装置およびそれを用いた光制御システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1(a)は、本実施の形態に係る光制御装置の平面図である。図1(b)は、図1(a)に示す光制御装置のA−A’線断面図である。図1(a)、(b)に示すように、光制御装置10は、基板30と、平面電極32と、光変調膜34と、櫛形電極36、40と、制御部43と、を備える。光制御装置10は、25μm×25μm程度のサイズに構成される。
【0022】
光制御装置10は、基板30上に形成される。この基板30の材料としては、表面が平坦なガラス、シリコンなどを好適に用いることができる。たとえばシリコンなどの半導体基板からなる基板30であれば、基板にスイッチング素子を設け、その上に光制御装置10を形成してもよい。この場合、光制御装置10とその制御回路の小型化を図ることができる。
【0023】
基板30上には、平面電極32が形成される。平面電極32の材料としては、たとえば白金(Pt)などの金属材料を好適に用いることができる。平面電極32の厚みは、200nm程度とする。本実施の形態において、平面電極32は白金で形成され、この平面電極32は、入射する光を反射する反射層としても機能する。平面電極32を反射層として共用することで、簡易な構造とすることができる。平面電極32を白金で形成した場合、平面電極32の反射率は50%から80%程度となる。
【0024】
平面電極32の上面には光変調膜34が設けられる。この光変調膜34の材料としては、印加した電界に応じて屈折率が変化する固体の電気光学材料を選択する。このような電気光学材料としては、PLZT(チタン酸ジルコン酸ランタン鉛)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、LiNbO、GaAs−MQW、SBN((Sr,Ba)Nb)等を用いることができるが、特にPLZTが好適に用いられる。
【0025】
光変調膜34の膜厚tは、入射するレーザ光の入射角および波長λに応じて決定される。たとえば波長λ=650nm付近の赤色レーザを用いた場合、500nmから1500nmの範囲で形成するのが望ましい。後述のように、光変調膜34に印加される電界は、膜厚方向に印加されるため、膜厚を1500nm以下とすることで、十分な屈折率変化を得るための電界を印加することが容易となる。また、膜厚を500nm以上とすることで、周期的な電界を印加した場合に回折格子として有効に機能させることができる。
【0026】
光変調膜34の上面には、櫛形電極36、40が設けられる。櫛形電極36は、櫛の歯である3つの電極片37a、37b、37cを有し、それぞれの電極片は同電位に保たれる。また、櫛形電極40は、櫛の歯である3つの電極片41a、41b、41cを有し、それぞれの電極片は同電位に保たれる。電極片37a、37b、37c、41a、41b、41cは全て同じ幅に形成されている。櫛形電極36の電極片37a、37b、37cと、櫛形電極40の電極片41a、41b、41cは、一定の間隔で交互に配置される。すなわち、図1(a)のA−A’線に沿って見ると、6つの電極片が光変調膜34上に、電極片41a、37a、41b、37b、41c、37cの順で一定の周期dで形成されている。周期的に形成された電極片41a、37a、41b、37b、41c、37cは、それぞれ平面電極32と電極対を構成する。
【0027】
電極片の周期dは、入射するレーザ光の波長λに応じて定められるが、波長λの1.5〜4倍程度にするのが好ましい。たとえば、波長λ=650nmの赤色レーザを用いた場合、電極片の周期dを0.975〜2.6μm程度とする。それぞれの電極片の幅は、電極片の周期dの半分程度に設定する。たとえば電極片の周期dを2μm程度に設定した場合には、電極片の幅を1μm程度とする。また、電極片の長さは、電極片の幅の5倍以上であることが好ましい。
【0028】
櫛形電極36、40は、たとえば、ITO(Indium Tin Oxide)、ZnO、IrOなどにより形成し、透明電極とすることが好ましい。透明電極とした場合、光の利用効率を高めることができる。櫛形電極36、40をITOやZnOで形成した場合、その厚みは100nm〜150nm程度とする。IrOで形成する場合には、膜厚をより薄く、例えば50nm程度とすることが望ましい。また、透明電極とした場合、抵抗値と透過率がトレードオフの関係となるため、その厚みは実験的に定めてもよい。櫛形電極36、40は、スパッタ法により、ITOなどを堆積させた後に、フォトリソグラフィーによって櫛形電極36、40を焼き付け、エッチングを行うことによって形成することができる。
【0029】
制御部43は、櫛形電極36に制御電圧Vcntを印加する。これにより、光変調膜34上に形成された6つの電極片の一部である電極片37a、37b、37cに制御電圧Vcntが印加される状態となる。制御電圧Vcntは、ハイレベルVHまたはローレベルVLの2値をとる信号である。ハイレベルVHは、15〜20V程度であり、ローレベルVLは、接地電位と同電位である。一方、櫛形電極40の電位は、接地電位に固定される。これにより、電極片41a、41b、41cは、接地電位に固定された状態となる。また、図1(b)に示すように、平面電極32の電位は、接地電位に固定される。
【0030】
以上のように構成された光制御装置10の動作について、図2および図3を用いて説明する。図2は、光制御装置10のオフ状態を説明するための図である。同図において、図1と同一の構成要素には同一の符号を付している。
【0031】
光制御装置10がオフ状態のとき、平面電極32との電位差によって光変調膜34上に形成された全ての電極片41a、37a、41b、37b、41c、37cについて非有意な電界が生じるよう、電極片37a、37b、37cの制御電圧Vcntの印加を制御する。非有意な電界とは、光変調膜34に屈折率変化が全く生じない程度の電界か、または屈折率変化が生じたとしても極めて微少な屈折率変化であり、回折格子として機能しない程度の電界を意味する。
【0032】
本実施の形態に係る光制御装置10では、オフ状態のとき、電極片37a、37b、37cに印加する制御電圧VcntをローレベルVLに設定する。このとき、電極片37a、37b、37cと平面電極32とは同電位であるからこれらの電極間に電界は発生しない。また、上述したように、電極片41a、41b、41cは接地電位に固定されているので、平面電極32と同電位であり、これらの電極間にも電界は発生しない。すなわち、光変調膜34上に形成された全ての電極片41a、37a、41b、37b、41c、37cについて電界が発生していない状態となる。
【0033】
ここで、光変調膜34の上面の屈折率分布に着目すると、空気の屈折率をnair、電極片の屈折率をnelと表したとき、nair、nel、nair、nel、nair…と周期的な屈折率分布となっている。すなわち、周期的に形成された複数の電極片41a、37a、41b、37b、41c、37cが、回折格子を構成している。この回折格子の格子間隔は、電極片41a、37a、41b、37b、41c、37cの形成された周期dと等しい。
【0034】
この状態で、光制御装置10の鉛直方向から波長λのレーザ光Linが入射されると、平面電極32で反射した光が回折し、鉛直方向に反射する0次光Lの他に、±1次光L±1などの回折光が発生する。なお、図2では、±2次以上の回折光の図示を省略している。電極片の周期をd、レーザ光Linの波長をλとした場合、±1次光L±1の回折角θは、
θ=arcsin(λ/d) …(1)
と表される。たとえば、波長λ=650nm、周期d=2μmの場合、回折角θは、約18.9°となる。
【0035】
図3は、光制御装置10のオン状態を説明するための図である。光制御装置10がオン状態のとき、制御部43は、平面電極32との電位差によって有意な電界が生じる電極片と、非有意な電界が生じる電極片とが交互に生じるよう、光変調膜34上に形成された電極片41a、37a、41b、37b、41c、37cのうち、電極片37a、37b、37cの制御電圧Vcntの印加を制御する。
【0036】
ここで、有意な電界とは、非有意な電界と交互に光変調膜34に対して印加し、光変調膜34に周期的な屈折率分布を生じさせた場合に、光変調膜34が回折格子として有効に機能する程度の電界である。
【0037】
本実施の形態に係る光制御装置10では、オン状態のとき、電極片37a、37b、37cに印加する電極片をハイレベルVHに設定する。電極片41a、41b、41cは、接地電位に固定されたままであるから、配列された電極片41a、37a、41b、37b、41c、37cに対して1つおきにハイレベルにVHに設定された制御電圧Vcntを印加している状態となる。
【0038】
ハイレベルVHの制御電圧Vcntが印加された電極片37a、37b、37cと、接地電位に固定された平面電極32との間には電位差が生じるので、電極片37a、37b、37cと、平面電極32との間の領域の光変調膜34に電界Eが印加される。電界Eは、
E=Vcnt/t …(2)
のように表すことができる。tは光変調膜34の膜厚である。電界Eの向きは、図3に矢印で図示したように、電極片37a、37b、37cから平面電極32に向かう方向である。
【0039】
上述したように、光変調膜34の屈折率nは、光変調膜34に印加される電界Eに依存する。光変調膜34としてPLZTを用いた場合、光変調膜34の屈折率nの変化量Δnと、印加される電界Eとの間には、
Δn=1/2×(n)×R×E …(3)
の関係が成り立つ。(3)式から分かるように、光変調膜34は、印加される電界の2乗に比例して屈折率が変化する。ここでRは電気光学定数(カー定数)である。
【0040】
よって、電界Eが印加された電極片37a、37b、37cと平面電極32との間の領域の光変調膜34は、屈折率がn+Δnとなる。一方、電極片41a、41b、41cの電位は接地電位に固定されているので、同じく接地電位に固定されている平面電極32との間に電界は発生せず、電極片41a、41b、41cと光変調膜34との間の光変調膜34の屈折率はnのままである。この結果、光変調膜34の屈折率分布がn、n+Δn、n、n+Δn…と周期的に変化する状態となっている。すなわち、周期的な屈折率分布を有する光変調膜34が、回折格子として構成されている。この回折格子の格子間隔は、図3に示すように、電極片41a、37a、41b、37b、41c、37cの周期dの2倍となっている。
【0041】
光変調膜34の周期的な屈折率分布によって構成される回折格子の±1次光を、周期的に形成された電極片41a、37a、41b、37b、41c、37cによって構成される回折格子の±1次光L±1と区別するために、±1’次光L±1’とよぶ。この±1’次光L±1’の回折角θは、
θ=arcsin(λ/2d) …(4)
と表すことができる。(4)式から分かるように、±1’次光L±1’の回折角θは、(1)式で定まる±1次光L±1の回折角θとは異なる回折角となる。たとえば、波長λ=650nm、周期d=2μmの場合、回折角θは、約9.3°となる。
【0042】
このように、光制御装置10は、オフ状態のときには、周期的に形成された電極片41a、37a、41b、37b、41c、37cによって構成された回折格子のみが機能し、0次光Lや、±1次光L±1などの回折光が生じる。光制御装置10がオン状態のときには、その他に、光変調膜34の周期的な屈折率分布によって構成された回折格子も機能させることができるようになる。
【0043】
周期的に形成された電極片41a、37a、41b、37b、41c、37cの全てに対して制御電圧Vcntを印加した場合は、光変調膜34の屈折率分布の周期と電極片41a、37a、41b、37b、41c、37cの周期dが同じになる。この場合、周期的に形成された電極片によって構成された回折格子の格子間隔と、周期的な屈折率分布によって構成された回折格子の格子間隔は等しいので、回折角が同じになってしまい、光を取り出すことができない。
【0044】
本実施の形態に係る光制御装置10では、周期的に形成された電極片41a、37a、41b、37b、41c、37cのうち、電極片37a、37b、37cにのみ制御電圧Vcntを印加することによって、周期的に形成された電極片によって構成された回折格子の格子間隔よりも、光変調膜34の周期的な屈折率分布によって構成された回折格子の格子間隔を大きく設定することができる。これにより、周期的に形成された電極片によって構成された回折格子によって発生する±1次光L±1の回折角θとは異なる回折角θの方向に、光変調膜の周期的な屈折率分布によって構成された回折格子によって発生する±1’次光L±1’を出射することができる。
【0045】
この±1’次光L±1’を取り出すことによって、光のオンオフを制御する光制御装置を構成することができる。光制御装置10がオフ状態のときには、回折角θの方向には光が回折されないので、オフ状態での漏れ光はほとんど存在せず、光制御装置10のオンオフ比を向上することができる。
【0046】
本実施の形態に係る光制御装置10では、6つの電極片41a、37a、41b、37b、41c、37cを周期的に形成したが、電極片の数は6つに限定されず、より多くの電極片を形成してもよい。この場合、より効果的にL±1’次光を発生させることができる。
【0047】
また、本実施の形態では、電極片41a、37a、41b、37b、41c、37cに対して1つおきに制御電圧Vcntを印加し、光変調膜34の屈折率分布の周期が、電極片の形成された周期dの2倍となるように設定した。しかし、光変調膜34の屈折率分布の周期は、電極片の形成された周期dの2倍に限定されるものではなく、電極片の形成された周期dよりも大きい周期であればよい。
【0048】
±1’次光L±1’を取り出す方法としては、+1’次光L+1’または−1’次光L−1’のみを受光するように角度を調整してレンズや受光素子などを配置してもよいし、±1’次光L±1’のみを透過させるたとえばシュリーレンフィルタなどのフィルタを使用してもよい。
【0049】
また、本実施の形態に係る光制御装置10では、光変調膜34上に形成した複数の電極片を櫛形電極の櫛の歯として構成したが、電極の構成は櫛形電極に限定されない。たとえば、複数の板状の電極片を光変調膜34上に構成し、基板30内部の配線によってそれぞれの電極片に電圧を印加する構成としてもよい。
【0050】
また、図2および図3では、光制御装置10の鉛直方向から光を入射する場合について説明したが、鉛直方向から傾けて入射させてもよい。
【0051】
また、図2および図3では、平面電極32を反射層としても機能させ、反射型の光制御装置を構成したが、平面電極32を透明電極とし、基板30としてサファイヤなどの透明基板を用いることによって、透過型の光制御装置としてもよい。
【0052】
図4は、制御電圧Vcntと±1’次光の光強度の関係を示す図である。図4の横軸は、制御部43から櫛形電極36に印加する制御電圧Vcntの電圧値[V]を示し、縦軸は、1’次光の光強度[mW]を示す。本実施の形態に係る光制御装置10では、Vcnt=0Vのとき、光強度は0.01mWであった。また、Vcnt=20Vのとき、光強度は、2.97mWであった。オンオフ比は、約300であり、高いオンオフ比を実現できていることが分かる。
【0053】
図5は、光制御装置の変形例の断面図である。図1で説明した光制御装置10が反射型の光制御装置として機能したのに対して、光制御装置60は、透過型の光制御装置として機能する。光制御装置60は、図5に示すように、基板62と、光変調膜64と、電極片50a、52a、52b、50b、50c、52cと、を備える。
【0054】
基板62は、絶縁性の透明基板であり、たとえばガラス基板や、サファイヤ基板であってよい。基板62上には、光変調膜64を成膜する。光変調膜64は、印加した電界に応じて屈折率が変化する固体の電気光学材料であり、PLZTや、PZTであってよい。その後、フォトリソグラフィーによって電極片が形成される部分以外をマスクし、エッチングを行う。エッチングによって削られた部分にスパッタリング法により金(Au)を埋め込み、電極片50a、52a、52b、50b、50c、52cを形成する。これらの電極片は、一定の周期dで形成される。光制御装置60では、電極片50a、50b、50cの電位は、制御部43からの制御電圧Vcntによって制御される。また、電極片52a、52b、52cの電位は、接地電位に固定される。
【0055】
図6は、光制御装置の変形例のオフ状態を説明するための図である。光制御装置60がオフ状態のとき、電極片50a、50b、50cに印加される制御電圧Vcntは、ローレベルVLに設定される。
【0056】
この状態で、光制御装置60の基板62側から波長λのレーザ光Linが入射されるとする。光制御装置60は、光変調膜64に、電極片50a、52a、52b、50b、50c、52cが周期的に形成されているから、透過型の回折格子を構成し、レーザ光Linの光軸方向に透過する0次光Lの他に、±1次光L±1などの回折光が発生する。±1次光L±1の回折角θは、上述した(1)式を用いて表すことができる。
【0057】
図7は、光制御装置の変形例のオン状態を説明するための図である。光制御装置60がオン状態のとき、電極片50a、50b、50cに印加される制御電圧Vcntは、ハイレベルVHに設定される。この場合、電極片50aと電極片52a間、電極片52bと電極片50b間、および電極片50cと電極片52c間に電界が生じる。この電界によって、電極片50aと電極片52a間の領域、電極片52bと電極片50b間の領域、および電極片50cと電極片52c間の領域において、光変調膜64の屈折率がnからn+Δnに変化する。一方、電極片52aと電極片52bは共に接地電位で、同電位なので両電極片間に電界は発生せず、光変調膜64の屈折率はnのままである。また、電極片50bと電極片50cはともにハイレベルVHで、同電位なので両電極片間に電界は発生せず、光変調膜64の屈折率はnのままである。
【0058】
このオン状態のとき、光変調膜64には、屈折率がnである領域と、屈折率がn+Δnである領域が交互に発生することになる。この屈折率が変化する周期は、図7に示すように、電極片の形成された周期dの2倍となっているので、図1〜図3で説明した光制御装置10と同じように、(4)式で定まる回折角θの方向に、±1’次光L±1’が生じる。±1’次光L±1’を取り出すことによって、光制御装置を構成することができる。
【0059】
本実施の形態に係る光制御装置を用いてさまざまな光制御システムを構成することができる。そのような光制御システムの1例を示す。図8は、本実施の形態に係る光制御装置を用いたレーザ走査システムを示す図である。レーザ走査システム100は、たとえばレーザプリンタなどの画像形成装置に用いられる。
【0060】
図8に示すように、レーザ走査システム100は、半導体レーザ12と、レンズ14と、光制御装置16と、コリメータレンズ88と、ポリゴンミラー20と、f・θレンズ22と、平面鏡76と、を備える。半導体レーザ12と、レンズ14と、で光制御装置16に光を照射する発光部を構成し、コリメータレンズ88と、ポリゴンミラー20と、f・θレンズ22と、平面鏡76と、で光制御装置16から出射される光を受ける受光部を構成する。
【0061】
半導体レーザ12は、連続発振するレーザビームを出射する。連続発振するとは、半導体レーザ12から出射された直後のレーザビームは変調されていないことを意味する。半導体レーザ12の出射するレーザビームの強度は、半導体レーザ12に内蔵されたフォトダイオード(図示せず)によってモニタされ、APC制御を行うことによって一定に保たれる。
【0062】
レンズ14は、半導体レーザ12から出射される連続発振するレーザビームを平行光にして光制御装置16に入射させる機能を有する。半導体レーザ12から出射されるレーザビームが拡散光である場合であっても、レンズ14を用いることによって平行光束として光制御装置16に入射させることができる。レンズ14は、ビームエキスパンダであってもよい。この場合、半導体レーザ12の出射するレーザビームのビーム径が小さい場合であってもビーム径を拡大して光制御装置16に入射させることができる。
【0063】
光制御装置16は、図1〜図3において説明した光制御装置10を1つの画素46とし、その画素46を1次元方向に4つ配置した構成となっている。光制御装置16の4つの画素46にそれぞれ独立して制御部43から制御電圧Vcntを与えることによって、画素46ごとに±1’次光のオンオフを制御し、4本のレーザビーム82を出射することができる。光制御装置16からは、±1’次光の他に、図示しない0次光や±1次光も発生するが、+1’次光または−1’次光の回折方向にコリメータレンズ88を配置することによって+1’次光または−1’次光のみを取り出す。光制御装置16とコリメータレンズ88の間には、±1’次の回折光のみを透過させるたとえばシュリーレンフィルタなどのフィルタを使用してもよい。
【0064】
光制御装置16から出射された4本のレーザビーム82は、コリメータレンズ88によって平行光に補正された後、ポリゴンミラー20に入射する。ポリゴンミラー20は、複数の反射面を備えており、レーザビーム82を偏向し、感光体ドラム24の感光面上を走査させる偏向器としての機能する。
【0065】
ポリゴンミラー20で、反射・偏向されたレーザビーム82は、ビームの歪曲収差を補正するf・θレンズ22と、平面鏡76とを介して感光体ドラム24上に結像される。ポリゴンミラー20が回転することによって、レーザビーム82は感光体ドラム24の感光面上を走査する。感光体ドラム24に対する1回の主走査方向の走査が完了すると、感光体ドラム24は、所定量だけ回転し、再び主走査方向への走査が行われる。この動作を繰り返すことにより、感光体ドラム24上に2次元的な静電画像が形成されていく。図8ではレーザ走査システム100によってレーザビームを感光体ドラム24に照射する例について説明したが、レーザビームをスクリーンに投射し、画像表示装置を構成してもよい。
【0066】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】(a)は、本実施の形態に係る光制御装置の平面図である。(b)は、(a)に示す光制御装置のA−A’線断面図である。
【図2】光制御装置のオフ状態を説明するための図である。
【図3】光制御装置のオン状態を説明するための図である。
【図4】制御電圧Vcntと±1’次光の光強度の関係を示す図である。
【図5】光制御装置の変形例の断面図である。
【図6】光制御装置の変形例のオフ状態を説明するための図である。
【図7】光制御装置の変形例のオン状態を説明するための図である。
【図8】本実施の形態に係る光制御装置を用いたレーザ走査システムを示す図である。
【符号の説明】
【0068】
10、16、60 光制御装置、 12 半導体レーザ、 14 レンズ、 20 ポリゴンミラー、 22 f・θレンズ、 24 感光体ドラム、 30、62 基板、 32 平面電極、 34、64 光変調膜、 36、40 櫛形電極、 37a、37b、37c、41a、41b、41c 電極片、 43 制御部、 46 画素、 82 レーザビーム、 88 コリメータレンズ、 100 レーザ走査システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加された電界に応じて屈折率が変化する光変調膜と、
前記光変調膜に周期的に形成された複数の電極片と、
前記複数の電極片の少なくとも一部の電極片に電圧を印加して、前記光変調膜に周期的な電界分布を生じさせる制御部と、
を備え、
前記光変調膜に生じさせる電界分布の周期を、前記複数の電極片の周期より大きく設定することを特徴とする光制御装置。
【請求項2】
印加された電界に応じて屈折率が変化する光変調膜と、
前記光変調膜の第1面に周期的に形成された複数の第1面側電極片と、
前記光変調膜の第1面の反対の面である第2面に形成された第2面側電極と、
前記複数の第1面側電極片の少なくとも一部の電極片に印加される電圧を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
当該光制御装置がオン状態のときには、前記第2面側電極との電位差によって有意な電界が生じる電極片と、非有意な電界が生じる電極片とが交互に生じるよう、前記複数の第1面側電極片の少なくとも一部の電極片の電圧の印加を制御し、
当該光制御装置がオフ状態のときには、前記第2面側電極との電位差によって前記複数の第1面側電極片の全ての電極片について非有意な電界が生じるよう、前記複数の第1面側電極片の少なくとも一部の電極片の電圧の印加を制御することを特徴とする光制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、当該光制御装置がオフ状態のときには、前記複数の第1面側電極片の全ての電極片について前記第2面側電極との電位差がなくなるよう、前記複数の第1面側電極片の少なくとも一部の電極片の電圧の印加を制御することを特徴とする請求項2に記載の光制御装置。
【請求項4】
前記光変調膜の第2面側に光反射層を有することを特徴とする請求項2または3に記載の光制御装置。
【請求項5】
前記第2面側電極が、光反射層として共用されることを特徴とする請求項4に記載の光制御装置。
【請求項6】
前記光変調膜は、印加した電界の2乗に比例して屈折率が変化する電気光学材料で形成されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の光制御装置。
【請求項7】
前記電気光学材料は、チタン酸ジルコン酸鉛またはチタン酸ジルコン酸ランタン鉛であることを特徴とする請求項6に記載の光制御装置。
【請求項8】
当該光制御装置は、半導体基板上に形成されることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の光制御装置。
【請求項9】
当該光制御装置がオン状態のときに前記光変調膜からくる光を検出する受光部をさらに備えることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の光制御装置。
【請求項10】
請求項9に記載の光制御装置と、
前記光制御装置に光を照射する発光部と、
を備えることを特徴とする光制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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