説明

光反応性液晶性モノマー及びそれを用いた主鎖型液晶ポリマーの製造方法

【課題】開始剤や増感剤を用いなくても高い転化率で主鎖型液晶性ポリマーの光重合を実現させる光反応性液晶性モノマー及びそれを用いた液晶性ポリマーの製造方法を提供する。
【解決手段】中央にメソゲン基を有し、スペーサ分子を介して、アントラセンを有した特定の構造式で示される光反応性液晶性モノマー及びこの液晶性モノマーを開始剤や増感剤を用いることなく、波長365nmの光のみで重合させることを特徴とする主鎖型液晶ポリマーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジニアリングプラスチック、光学フィルター、高強度・高弾性繊維、表示・記録材料などに用いることができる主鎖型液晶ポリマーを製造できる光反応性液晶性モノマー及びそれを用いた主鎖型液晶ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の液晶性ポリマーとくに主鎖型の液晶性ポリマーを合成するためにはしばしば高温(約300℃)や高真空などの厳しい条件が必要であり、また重合触媒をもちいることも多い。しかし、最近このような厳しい条件を必要としない光重合によって主鎖型液晶性ポリマーを合成した例が2件報告されている。
1つはJ. Lubらのエン−チオール反応を利用したもの(非特許文献1参照)であり、
ここには、液晶性モノマー
4-(4-(5-hexenyloxy)benzoyloxy)-1-(4-(5-ercaptopentyloxy)benzoyloxy)-2-methylbenzene の液晶相における光重合および得られたチオエーテル結合を含む主鎖型液晶性ポリマーの性質が開示されている。
もう1つは我々によるケイ皮酸の光二量化反応を利用したものである(特許文献1、非特許文献2参照)。ここには、液晶性モノマー1,4-bis(4-(6-cinnamoyloxyhexyloxy)benzoyloxy)benzeneの液晶相における光重合および得られたシクロブタン環を含む主鎖型液晶性ポリマーの性質が開示されている。
【特許文献1】特願2005-123171
【非特許文献1】Liq. Cryst., 1998, 24, 375-379.
【非特許文献2】Macromol. Rapid Commun., 2006, 27, 829-834
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、
本発明者によるケイ皮酸の光二量化反応による光重合の例は高温・高真空を必要としないが、J. Lubらの場合は光開始剤を必要とし、また我々が以前報告したものの場合、モノマーからポリマーへの高い転化率を実現させるためには三重項増感剤が必要であった。
しかし、これら重合時に添加する触媒や開始剤、増感剤はほんの少量であっても得られるポリマーにしばしば悪影響を及ぼすことが判明した。
本発明は開始剤や増感剤を用いなくても高い転化率で主鎖型液晶性ポリマーの光重合を実現させる光反応性液晶性モノマー及びそれを用いた液晶性ポリマーの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
光重合の光源には通常水銀ランプを用いるが、水銀ランプの放射する光は254, 365, 405, 436nmなどの輝線スペクトルからなる。我々が以前報告したケイ皮酸の系ではこれらの波長の光を効率よく吸収することができないために三重項増感剤が必要であった。そこで本発明では水銀ランプの輝線の1つである365nmの光を効率よく吸収し、しかもケイ皮酸と同じように二量化反応を起こすアントラセンに着目した。つまり、アントラセンを光反応性部位として分子の両末端に持ち、液晶性に与るメソゲンを分子の中央に持つような化合物を設計・合成し、これに光照射して主鎖型の液晶性ポリマーへ導くことにより、開始剤や増感剤を用いなくても高い転化率で主鎖型液晶性ポリマーが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
一般式
【化5】

(式中、Rは、−(CHO−,−(CHCHO)O−,−(CHCO−O−,nは1〜20の整数、MesogenicUnitはメソゲン基であり、メソゲン基は、一般式
【化6】

で示される化合物から選ばれる1つである。)
で示される光反応性液晶性モノマーである。
【0005】
また、本発明は、
一般式
【化7】

(式中、Rは、−(CHO−,−(CHCHO)O−,−(CHCO−O−,nは1〜20の整数、MesogenicUnitはメソゲン基であり、メソゲン基は、一般式
【化8】

で示される化合物から選ばれる1つである。)
で示される光反応性液晶性モノマーを、開始剤や増感剤を用いることなく、波長365nmの光のみで重合させることを特徴とする主鎖型液晶ポリマーの製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の光反応性液晶性モノマーでは高温・高真空などの厳しい条件を必要としないで、簡便な重合装置で光重合によって液晶性ポリマーが得られ、本発明の光反応性液晶性モノマーを用いた主鎖型液晶ポリマーの製造方法で得られた主鎖型液晶ポリマーは、開始剤や増感剤を用いなくても高い転化率であり、重合後のポリマーの精製というプロセスを省けると言う有利がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いる光重合装置の一例を図2に示す。水銀ランプを用いて、光学フィルターなどを用いて紫外光365nmを取り出し、反応物に照射することにより光重合が行える。
本発明において、中央にメソゲンを有する液晶性モノマーは、中央にメソゲン基を有し、スペーサ分子を介して、アントラセンを有する分子である。
本発明では、周知のメソゲンを用いることができる。代表的には前記のMesogenicUnitで示したものを用いる。また、スペーサは、周知のスペーサを用いることができる。
【実施例1】
【0008】
本発明について実施例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(中央にメソゲンを有する液晶性モノマーの合成)
分子の両末端にアントラセン部位を有し、かつ中央にメソゲンを有する液晶性モノマーとし1,4-Bis(4-(anthracene-2-carbonyloxyhexyloxy)benzoyloxy)benzene(A)を図1に示した合成スキームにより合成した。
Aは降温時196℃からネマチック液晶相を示し、186℃で結晶化した。
【実施例2】
【0009】
(主鎖型液晶ポリマーの製造)
ポリマーの合成には溶媒を使わないバルク状態での光重合および溶液での光重合を用いることができる。
1.バルクでの光重合
2 mgのAをカバーガラスに挟み、ホットステージ上で190 ℃に加熱してネマチック液晶状態とした。190 ℃に保ったまま、水銀ランプを用いて紫外光(365 nm, 5 mW/cm2)を30分間照射した。重合装置の模式図を図2に示す。照射したサンプルは190℃では等方性の液体となったが、温度を下げていくと175 ℃付近からネマチック液晶相を示しはじめ、約150 ℃で完全に液晶相となった。光照射後150 ℃での偏光顕微鏡写真を図3に示す。ネマチック相に特有のシュリーレンテクスチャーであることがわかる。この光照射後のサンプルと照射前のAのH-NMRスペクトルとGPCクロマトグラムを比較した。図4のH-NMRスペクトルでは光照射前には見られなかったアントラセンの二量体に由来する4.63, 6.83, 7.62 ppmのピークが光照射後では見られ、光二量化反応が進行していたことが確認できた。また図5のGPCクロマトグラムでは光照射前はモノマーAに基づく鋭い1本のピークが見られたが、光照射後は短時間側にもピークが現れかつブロードになっていたことから高分子量の成分が生成していたことがわかった。以上の結果からモノマーAのバルクの状態に光照射することにより主鎖型液晶性ポリマーが得られることが確かめられた。このポリマーの構造式を図6に示した。
2.溶液での光重合
磁気攪拌子の入ったサンプル管にAの10 wt%−1,1,2,2-テトラクロロエタン溶液を100℃のシリコンオイルバス中で調整した。セプタムキャップでサンプル管を密栓し、アルゴンガスで10分間バブリングを行った。その後シリコンオイルバスの温度を100℃に保ち、マグネチックスターラーで溶液を攪拌しながら紫外光(365 nm, 8 mW/cm2)を24時間照射した。この重合装置の模式図を図7に示す。光照射後のサンプルと照射前のAのGPCクロマトグラムを比較した(図8)。バルクでの光重合と比べても今回はさらに短時間側にピークがシフトしている、つまりより高分子量体が生成していることがわかった。またモノマーもほとんど残っていないことが確認できた。このGPCクロマトグラムからここで得られたポリマーの分子量はポリスチレン換算で重量平均分子量:88000(重合度91)、数平均分子量:36000(重合度38)と見積もられた。光照射後のポリマーの偏光顕微鏡観察を行ったところ150℃以下でネマチック液晶相を発現することがわかった。図9に140℃でのシュリーレンテクスチャーの偏光顕微鏡写真を示す。
以上から今回合成した液晶性モノマーを用いれば増感剤なしでも効率よく光重合が進行し、主鎖型液晶性ポリマーが得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0010】
本発明の光反応性液晶性モノマー及び光反応性液晶性モノマーを用いた主鎖型液晶ポリマーは、高純度で製造できるため、性能が良く、種種の表示装置に用いることができ、産業上の利用可能性は高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】液晶性モノマーAの合成スキーム
【図2】本発明で用いる光重合装置の一例
【図3】Aのバルクでの光重合後の偏光顕微鏡写真
【図4】Aの光重合前後のH-NMRスペクトル
【図5】Aのバルクでの光重合後のGPCクロマトグラム
【図6】Aの光重合で得られるポリマーの構造式
【図7】溶液での光重合の装置の一例
【図8】Aの溶液での光重合後のGPCクロマトグラム
【図9】Aの溶液での光重合後の偏光顕微鏡写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
【化1】

(式中、Rは、−(CHO−,−(CHCHO)O−,−(CHCO−O−,nは1〜20の整数、MesogenicUnitはメソゲン基であり、メソゲン基は、一般式
【化2】

で示される化合物から選ばれる1つである。)
で示される光反応性液晶性モノマー。
【請求項2】
一般式
【化3】

(式中、Rは、−(CHO−,−(CHCHO)O−,−(CHCO−O−,nは1〜20の整数、MesogenicUnitはメソゲン基であり、メソゲン基は、一般式
【化4】

で示される化合物から選ばれる1つである。)
で示される光反応性液晶性モノマーを、開始剤や増感剤を用いることなく、波長365nmの光のみで重合させることを特徴とする主鎖型液晶ポリマーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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