説明

光学ガラスの加工方法

【課題】金属製バーナを用いても金属不純物を混入等させることのない光学ガラスの加工方法を提供する。
【解決手段】金属製バーナ14の火炎を光学ガラスの表面に当てて光学ガラスを加工する際に、燃焼性ガスに不活性ガスを混合させた燃焼ガスを噴射して燃焼させる。これにより、燃焼反応を遅らせることができるとともに、燃焼ガスの流速を増して燃焼反応の起こるポイントを金属製バーナーの炎口部であるガス噴出口17から遠ざけることができる。よって、ガス噴出口17の温度を低下させることができるため、ガス噴出口17において熱酸化物が発生するのを抑えて、光学ガラスに金属不純物が混入するのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学ガラスの加工方法に係り、例えば、光学ガラスの表面にバーナによる火炎を当てて光学ガラスを加工する光学ガラスの加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばガラス母材を製造する際のスス付け、延伸、火炎研磨等の光学ガラスの加工においては、ガラス母材に異物の混入が少ないため石英製のバーナが用いられる場合がある。このような場合においても、バーナが移動する場合や、移動する補助バーナを採る構造には、石英製のバーナが強度的に弱いので金属製のバーナが用いられている。
しかしながら、金属製バーナを用いる場合には、加熱されてバーナ炎口部が熱酸化することで金属粉が発生し、光学ガラスの加工時に飛散して、光学ガラス内部に異物が混入するという問題がある。特に、光ファイバのガラス母材を製造する際には、金属不純物がガラス母材に付着や混入して伝送ロス増を招くなど、ファイバ特性に影響を与える。
【0003】
そこで、金属製のバーナを用いて、バーナ炎口部における熱酸化を防止する光学ガラスの加工方法が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
特許文献1に記載の光学ガラスの加工方法においては、ノズルがニッケルやステンレスで形成されている金属製バーナを用いることにより、火炎時にバーナに熱酸化物が発生するのを抑えて、光学ガラスに金属不純物が混入するのを防止している。
また、特許文献2に記載の光学ガラスの加工方法においては、金属製バーナのノズルの先端部に金メッキを施すことにより、熱酸化物が発生するのを抑えて、光学ガラスに金属不純物が混入するのを防止している。
【0004】
【特許文献1】特開2000−234710号公報
【特許文献2】特開2000−128560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載したように、ステンレス等で製造された金属製バーナを用いた場合でも、ガス噴出口は500〜800℃以上の温度となるため、長時間加熱し続けると粒界腐食により熱酸化物が生じ、金属不純物が光学ガラスに混入するという不都合がある。また、特許文献2に記載したように、金メッキを施すことにより腐食が防止できるものの装置のコストアップを招くという不都合がある。
【0006】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、安価な金属製バーナを用いても金属不純物の混入を防止することができる光学ガラスの加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために、本発明にかかる第1の特徴である光学ガラスの加工方法は、光学ガラスの表面に金属製バーナーからの火炎を当てて光学ガラスを加工する光学ガラスの加工方法であって、前記金属製バーナ酸素ガスと燃焼ガスとを隣接して供給し、前記燃焼ガスを燃焼させて火炎を形成する際に、燃焼性ガスに不活性ガスを混合したものを前記燃焼ガスとして供給するものである。
【0008】
このように構成された光学ガラスの加工方法においては、金属製バーナの火炎を光学ガラスの表面に当てて光学ガラスを加工する際に、燃焼性ガスに不活性ガスを混合させて燃焼させる。これにより、燃焼反応を遅らせることができるとともに、燃焼ガスの流速を増して燃焼反応の起こるポイントをガス噴出口から遠ざけることができ、ガス噴出口の温度を低下させることができる。この結果、熱酸化物の発生を抑えて、金属不純物が光学ガラスに付着や混入するのを防止することができる。
【0009】
また、本発明にかかる第2の特徴である光学ガラスの加工方法は、上記本発明の第1の特徴において、前記金属製バーナの前記燃焼ガスのガス噴出口における噴出流速が8m/s以上とするものである。
【0010】
このように構成された光学ガラスの加工方法においては、燃焼性ガスに不活性ガスを混合させて、ガス噴出口から8m/s以上の流速で噴出させるので、燃焼ガスの燃焼位置をガス噴出口から遠ざけることができ、ガス噴出口の温度を低下させることができる。
【0011】
また、本発明にかかる第3の特徴である光学ガラスの加工方法は、上記本発明の第1または第2の特徴において、前記金属製バーナの使用前後に不活性ガスを前記燃焼ガスのガス噴出口より噴出させるものである。
【0012】
このように構成された光学ガラスの加工方法においては、使用前に不活性ガスを噴出させることによって金属製バーナに付着している腐食等の異物を除去することができるので、加工時に光学ガラス体に金属不純物等の異物が混入するのを防止することができる。また、使用後に不活性ガスを噴出させることにより、加工時に金属製バーナに付着した異物を除去することができるので、次の加工時に異物が混入するのを防止することができる。
【0013】
また、本発明にかかる第4の特徴である光学ガラスの加工方法は、上記本発明の第3の特徴において、前記金属製バーナを空間を設けて覆うとともに前記燃焼ガスのガス噴出口の前方に開口を設けたカバー部材を配置し、不活性ガスを前記空間に流して前記開口から噴出させるものである。
【0014】
このように構成された光学ガラスの加工方法においては、金属製バーナの外側をカバー部材で覆い、金属製バーナとカバー部材との間の空間に不活性ガスを流すので、金属製バーナの外側面に付着している腐食等の異物の発生を防止することができ、加工時に光学ガラス体に金属不純物等の異物が混入するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属製バーナの燃焼性ガスに不活性ガスを混合させて燃焼させるので、燃焼反応を遅らせることができるとともに、燃焼ガスの流速を増して燃焼反応の起こるポイントをガス噴出口から遠ざけることができるため、ガス噴出口の温度を低下させることができる。この結果、熱酸化物の発生を抑えて、金属不純物が光学ガラスに混入等するのを防止できるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の光学ガラスの加工方法を実施する光学ガラスの加工装置の一例を示す構成図、図2(A)は光学ガラスの加工装置に用いられるバーナの一例を示す斜視図、図2(B)は図2(A)中B−B位置の断面図、図3は本発明による光学ガラスの加工方法と不活性ガス(窒素ガス)を混入させない場合との比較結果を示す表である。
【0017】
図1に示すように、本発明の光学ガラスの加工方法を実施する加工装置10では、密閉箱状の反応容器11を有しており、石英ガラスからなるターゲットロッド12が反応容器11内に回転自在に設けられている。
反応容器11内部には、ターゲットロッド12に対してスス付けを行うスス付けバーナ13と、上下の補助バーナ14A、14Bが設けられている。スス付けバーナ13は、供給された原料ガスの火炎加水分解によってガラス微粒子を析出してターゲットロッド12の周囲に堆積させ、光学ガラスとしてのガラス母材16を形成する。
補助バーナ14A、14Bは酸素および水素の燃焼性ガスが供給され、ガイドレール24に沿って上下移動し、その火炎によって堆積されたガラス母材16の上下両端を焼き固める。また、反応容器11のスス付けバーナ13に対向する位置には排気管15が設けられており、反応容器11内部の排気を行って、スス付けされなかったガラス微粒子等を排出するようになっている。
【0018】
上下の補助バーナ14A、14Bには、例えば図2(A)および(B)に示すような金属製のバーナ14が用いられている。このバーナ14では、矩形状の本体14aを有しており、前面14bには複数個の炎口部であるガス噴出口17が設けられている。また、本体14aを貫通して、水素ガスを供給する第1の管18と、酸素ガスをガス噴出口17のポートに供給する第2の管19が設けられている。
【0019】
第1の管18では、燃焼性ガスである水素ガスに加えて不活性ガスである窒素ガスが供給されており、水素ガスと窒素ガスとの混合ガスである燃焼ガスを、ガス噴出口17において噴出流速が8m/s以上となるように噴出している。
図3には、補助バーナ14A、14Bを用いてスス付けを行った際、補助バーナ14A、14Bに供給する燃焼性ガスである水素ガスに、窒素ガスを混入させない場合と窒素ガスを混入させた場合との比較結果が示されている。
窒素ガスを混入させた場合には、混合ガスである燃焼ガスを8m/s以上の流速で噴出させることにより、燃焼ガスの燃焼位置をガス噴出口17から遠ざけることができるので、ガス噴出口17の温度を、窒素ガスを混入させない場合の600〜700℃に対して400℃以下に低下させることができた。この結果、ガス噴出口17は、赤熱されずに異常がなかった。なお、ガラス母材16の表面温度は、窒素ガスを混入させない場合の700℃に対して、混入させても650℃であり、ガラス微粒子の形成に影響はなかった。そして、ガス噴出口17の温度が低下したことにより、ガラス母材16に異物が付着することもなく、良好なガラス母材16を形成できたことがわかる。
【0020】
以上、説明した光学ガラスの加工方法によれば、金属製の補助バーナ14A、14Bに供給する燃焼性ガスである水素ガスに不活性ガスである窒素ガスを混合させて噴射して燃焼させる。このため、燃焼反応を遅らせることができるとともに、水素ガスの流速を増して燃焼反応の起こるポイントをガス噴出口17から遠ざけて、ガス噴出口17の温度を低下させることができるので、熱酸化物が発生するのを抑えて、ガラス母材16に金属不純物が混入するのを防止することができる。しかも、この光学ガラスの加工方法では、窒素ガスの混合によりガス噴出口17での燃焼反応は遅れるが、水素ガスの燃焼速度は速いのでターゲット面(ガラス母材16の表面)において充分な加熱を行うことができる。また、窒素ガスを混合するだけなので、安価な設備で実施することができる。なお、水素ガスと窒素ガスとの混合は、予め混合した混合ガスを供給するようにしても良いが、各々別個に補助バーナ14A、14Bに供給してガス噴出口17から同時に噴出させるようにしても良い。
【0021】
次に、本発明に係る光学ガラスの加工方法の第2実施形態について説明する。
図4には、本発明の第2実施形態に係る光学ガラスの加工方法を実施するバーナ14Bが示されている。なお、前述した第1実施形態において説明した部位と共通する部位には同じ符号を付して、重複する説明を省略することとする。
図4に示すように、このバーナ14Bでは、図2において前述したバーナ14の外側に所定間隔でカバー部材21を設けて2重構造とするとともに、ガス噴出口17の前方に開口21aを設けた。そして、カバー部材21を貫通する第3の管23を設け、カバー部材21と補助バーナ本体14aとの間の空間22に不活性ガスである窒素ガスを流して、開口21aから噴出するようにした。
【0022】
以上、説明した光学ガラスの加工方法によれば、前述した第1実施形態の効果に加えて、補助バーナ14の外側を窒素ガスが通過して補助バーナ14の外側面に付着している腐食等の異物の発生を防止するので、加工時にガラス母材16に金属不純物等の異物が混入するのを防止することができる。
【0023】
なお、本発明の光学ガラスの加工方法は、前述した各実施形態に限定されるものでなく、適宜な変形,改良等が可能である。
例えば、前述した各実施形態においては、光学ガラス体の加工として、スス付けによりガラス母材16を形成する場合を例示したが、これに限らず、ガラス母材の焼結・透明化、延伸、火炎研磨等にも適用可能である。また、不活性ガスとして窒素ガスを用いる場合について説明したが、その他の不活性ガスでも可能である。
また、前述した各実施形態においては、補助バーナ14として金属製のバーナを用いた場合について説明したが、ガラス微粒子を形成するスス付けバーナ13にも適用することができる。
【0024】
また、前述した各実施形態においては、ガラス母材16の形成時に窒素ガスを混入させたが、この他、バーナ14、14Bの使用前後に窒素ガスを噴出させて、バーナ14、14Bに付着している腐食等の異物の発生を防止するようにすることもできる。この場合、加工中にも窒素ガスを混入させるようにしても良い。
【0025】
このように構成された光学ガラスの加工方法においては、使用前に不活性ガスを噴出させることによって金属製バーナに付着している腐食等の異物の発生を防止するので、加工時に光学ガラス体に金属不純物等の異物が付着や混入するのを防止することができる。また、使用後に不活性ガスを噴出させることにより、加工時に金属製バーナに付着した異物の発生を防止することができるので、次の加工時に異物が付着や混入するのを防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上のように、本発明に係る光学ガラスの加工方法は、金属製バーナの燃焼性ガスに不活性ガスを混合させた燃焼ガスを噴射して燃焼させるので、燃焼反応を遅らせることができるとともに、燃焼ガスの流速を増して燃焼反応の起こるポイントをガス噴出口から遠ざけることができて、ガス噴出口の温度を低下させることができる。この結果、熱酸化物が発生するのを抑えて、光学ガラスに金属不純物が混入等するのを防止することができるという効果を有し、光学ガラスの表面にバーナによる火炎を当てて光学ガラスを加工する光学ガラスの加工方法等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明にかかる光学ガラスの加工方法を実施する光学ガラスの加工装置の一例を示す構成図である。
【図2】(A)は光学ガラスの加工装置に用いられるバーナの一例を示す斜視図、(B)は図2(A)中B−B位置の断面図である。
【図3】本発明による光学ガラスの加工方法と窒素ガスを混入させない場合との比較結果を示す表である。
【図4】(A)は光学ガラスの加工装置に用いられるバーナの別の例を示す斜視図、(B)は図4(A)中B−B位置の断面図である。
【符号の説明】
【0028】
14 補助バーナ(金属製バーナ)
16 ガラス母材(光学ガラス)
17 ガス噴出口(炎口部)
21 カバー部材
21a 開口
22 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学ガラスの表面に金属製バーナからの火炎を当てて光学ガラスを加工する光学ガラスの加工方法であって、
前記金属製バーナに酸素ガスと燃焼ガスとを隣接して供給し前記燃焼ガスを燃焼させて火炎を形成する際に、燃焼性ガスに不活性ガスを混合したものを前記燃焼ガスとして供給することを特徴とする光学ガラスの加工方法。
【請求項2】
前記金属製バーナの前記燃焼ガスのガス噴出口における噴出流速が8m/s以上であることを特徴とする請求項1に記載の光学ガラスの加工方法。
【請求項3】
前記金属製バーナの使用前後に不活性ガスを前記燃焼ガスのガス噴出口より噴出させることを特徴とする請求項1または2に記載の光学ガラスの加工方法。
【請求項4】
前記金属製バーナを空間を設けて覆うとともに前記燃焼ガスのガス噴出口の前方に開口を設けたカバー部材を配置し、不活性ガスを前記空間に流して前記開口から噴出させることを特徴とする請求項3に記載の光学ガラスの加工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−87993(P2008−87993A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−267950(P2006−267950)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】