説明

光学レンズ及びその製造方法

【課題】ガラス球の事前加熱を行っても不良品の発生を抑えることのできる光学レンズ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】金属製の鏡筒3内にレンズ2を保持してなる光学レンズ1の製造方法において、鏡筒3は中空の筒状に形成されると共に、内壁部12の一方の開口部10近傍から他方の開口部11近傍に渡って傾斜面13が形成され、内壁部12の傾斜面13は傾斜角度が10度以上20度以下の範囲に形成され、鏡筒3の内壁部12に形成された傾斜面13に対して球形のレンズ素材20を載置し、その状態でレンズ素材20を加熱して該レンズ素材20を鏡筒3の内壁部12に圧着させ、その後に再度レンズ素材20を加熱して鏡筒3の開口部側にレンズ面を成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズの周囲に鏡筒を有した光学レンズ及びその製造方法に関し、特にガラス球を加熱して鏡筒内でレンズ面を成形する光学レンズ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製の鏡筒内にガラス製のレンズを納めてなる光学レンズは、レンズ素材からなるガラス球を鏡筒の内部に配置し、ガラス球を加熱して軟化させた上で、金型で上下方向から挟持して加圧・変形させ、鏡筒の内部に圧着させると共に、レンズ素材に金型面を転写させて鏡筒内の光軸方向にレンズ面を形成する。このような製造方法による光学レンズとしては、例えば特許文献1に挙げるものがある。
【特許文献1】特開2002−6189号公報
【0003】
図5には、従来の光学レンズの製造過程における断面図を示している。この図は、鏡筒50の内部にガラス球55を配置した状態を示している。この図に示すように、鏡筒50は内部が中空状に形成されて内壁部51を形成している。内壁部51の一方の開口部52と他方の開口部53の間には、傾斜面54が形成され、これに伴って一方の開口部52よりも他方の開口部53の方が小径となるように形成されている。傾斜面54は、鏡筒50の内壁部51において傾斜角度θが40度から70度の範囲で形成され、この傾斜面54の開口部53側の縁部にかかるようにガラス球55が載置される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図5に示す状態において、レンズ面の成形を行う前に、ガラス球55表面の不純物を除くために、事前加熱を行うことがある。この場合、傾斜面54の開口部53側の縁部に対し、加熱により若干軟化したガラス球55が食い込んで溝56が形成される。事前加熱後に鏡筒を成形プレス機に輸送する際、及びプレス成形時の振動などによってガラス球55が回転し、事前加熱時に形成された溝56が図6に示すようにレンズが形成される面にかかるように位置した場合、レンズ面の成形後も跡が残って不良品となる。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、ガラス球の事前加熱を行っても不良品の発生を抑えることのできる光学レンズ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る光学レンズは、金属製の鏡筒内にレンズを保持してなる光学レンズにおいて、
前記鏡筒は中空の筒状に形成されると共に、内壁部の一方の開口部近傍から他方の開口部近傍に渡って傾斜面が形成され、前記内壁部の傾斜面は傾斜角度が10度以上20度以下の範囲に形成され前記レンズを保持してなることを特徴として構成されている。
【0007】
また、本発明に係る光学レンズの製造方法は、金属製の鏡筒内にレンズを保持してなる光学レンズの製造方法において、
前記鏡筒は中空の筒状に形成されると共に、内壁部の一方の開口部近傍から他方の開口部近傍に渡って傾斜面が形成され、前記内壁部の傾斜面は傾斜角度が10度以上20度以下の範囲に形成され、
前記鏡筒の内壁部に形成された傾斜面に対して球形のレンズ素材を載置し、その状態で前記レンズ素材を加熱して該レンズ素材を前記鏡筒の内壁部に圧着させ、その後に再度前記レンズ素材を加熱して前記鏡筒の開口部側にレンズ面を成形することを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る光学レンズによれば、鏡筒は中空の筒状に形成されると共に、内壁部の一方の開口部近傍から他方の開口部近傍に渡って傾斜面が形成され、内壁部の傾斜面は傾斜角度が10度以上20度以下の範囲に形成されレンズを保持してなることにより、レンズの形成時にレンズ素材を傾斜面に保持しておくことができるので、事前加熱後のレンズ素材の回転を防止して不良品の発生を抑えることができる。
【0009】
また、本発明に係る光学レンズの製造方法によれば、鏡筒は中空の筒状に形成されると共に、内壁部の一方の開口部近傍から他方の開口部近傍に渡って傾斜面が形成され、内壁部の傾斜面は傾斜角度が10度以上20度以下の範囲に形成され、鏡筒の内壁部に形成された傾斜面に対して球形のレンズ素材を載置し、その状態でレンズ素材を加熱して該レンズ素材を鏡筒の内壁部に圧着させ、その後に再度レンズ素材を加熱して鏡筒の開口部側にレンズ面を成形することにより、事前加熱時にレンズ素材を鏡筒に固定しておけるので、その後のレンズ素材の回転を防止して不良品の発生を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施形態について図面に沿って詳細に説明する。図1には本実施形態における光学レンズの断面図を示している。図1に示すように、本実施形態における光学レンズ1は、金属製の鏡筒3内にガラス製のレンズ2が納められてなるものである。なお、鏡筒3はフェライト系のステンレス鋼などにより、またレンズ2は酸化鉛系ガラス材料などの光学ガラス材料によって形成される。
【0011】
図1に示すように、鏡筒3の内部はレンズ2を納めることのできる筒状とされて内部壁12が形成されると共に、内部壁12の中間位置には傾斜面13が形成されて、一方の開口部10より他方の開口部11が小径となるようにされている。傾斜面13は、一方の開口部10の近傍から他方の開口部11の近傍に渡るように形成されており、その傾斜角度θは、10度以上20度以下の範囲となるようにされている。
【0012】
レンズ2は、鏡筒3の一方の開口部10から露出する第1のレンズ2aと、鏡筒3の他方の開口部11から露出する第2のレンズ2bとを有している。前述の鏡筒3の形状に伴い、第2のレンズ2bは第1のレンズ2aよりも小径に形成される。なお、本実施形態ではレンズ2をいずれも凸レンズとして形成しているが、これには限られず、凹レンズとなるように形成してもよい。
【0013】
次に、本実施形態における光学レンズ1の製造方法について説明する。予め、鏡筒3を切削加工により傾斜面13を有するように形成しておく。また、レンズ素材からなる球状のガラス球20も形成しておく。図2には、光学レンズ1の製造過程であって鏡筒3内にガラス球20を配置した状態を表した断面図を示している。
【0014】
図2に示すように、ガラス球20は鏡筒3の内部壁12に挿入されることにより、傾斜面13の中間位置に当接して保持される。鏡筒3の傾斜面13が一方の開口部10の近傍から他方の開口部11の近傍に渡って形成されると共に、その傾斜角度が10度以上20度以下の範囲で形成されていることによって、ガラス球20が傾斜面13の縁部にかからないようにすることができる。
【0015】
この状態でガラス球20に対して事前加熱を行う。ガラス球20が載置された鏡筒3の外周には、加熱部材が配置されており、この加熱部材によって鏡筒3が加熱され、これに伴いガラス球20も加熱される。ここでは、ガラス球20の表面が若干軟化する程度まで加熱を行うことで、ガラス球20の表面に付着した不純物を取り除くことができる。
【0016】
事前加熱を行うと、鏡筒3は熱膨張によって内径が僅かながら大きくなり、一方でガラス球20は表面が若干軟化すると共に、鏡筒3の内径の拡大に伴って自重により下方に移動する。事前加熱を終了すると、鏡筒3は内径が元の寸法に戻り、またガラス球20の表面も再び固化する。ガラス球20は鏡筒3の内径の拡大に伴って下方に移動しているので、鏡筒3の内径が元の寸法に戻る際に、鏡筒3の傾斜面13によって押圧されると共に、ガラス球20の表面が固化することにより、鏡筒3の傾斜面13に対して圧着した状態となる。
【0017】
図3には、図2において事前加熱を行った後の鏡筒3とガラス球20とが接する部分の拡大図を示している。図3は圧着したガラス球20をやや誇張して表しており、この図に示すように、ガラス球20は傾斜面13に当接する部分がつぶれて溶着した状態となっており、さらに鏡筒3によって全周に渡り内側に向かって押圧された状態となっている。
【0018】
このようにガラス球20が鏡筒3に圧着するためには、事前加熱の際にガラス球20が鏡筒3の内部壁12のうち傾斜面13の中間位置に当接していることが必要で、本実施形態では鏡筒3の傾斜面13が一方の開口部10の近傍から他方の開口部11の近傍に渡って形成されると共に、その傾斜角度が10度以上20度以下の範囲で形成されていることにより、ガラス球20が確実に傾斜面13の中間位置に当接するようにすることができる。
【0019】
さらに、ガラス球20と鏡筒3との圧着には、ガラス球20の自重と、鏡筒3の材料及びガラス球20の材料の線膨張係数差とによるかしめ効果の程度、ガラス球20の軟化の程度、及び鏡筒3の内部壁12における切削溝の程度が関係するため、これらを適切に設定することが必要である。
【0020】
事前加熱を行ったら、次にレンズ面の成形を行う。レンズ面の成形のためには、ガラス球20を再び加熱し、その全体を軟化させる。加熱の方法は、事前加熱の場合と同様であり、鏡筒3の加熱に伴ってガラス球20を加熱し、これを軟化させる。
【0021】
ガラス球20が軟化したら、図4に示すように鏡筒3の両開口部10、11からそれぞれ上金型30と下金型31とを挿入し、ガラス球20をプレスする。これによってガラス球20は加圧・変形されて、上金型30と下金型31の表面に形成されたレンズの形状が転写される。これによって第1のレンズ2a及び第2のレンズ2bの各レンズ面が形成される。
【0022】
前述のように、事前加熱の際にガラス球20が鏡筒3に圧着するため、ガラス球20が鏡筒3に当接する部分がプレス成形の際にレンズ面となる面に露出することがないので、そのことによる不良品の発生を防止することができる。
【0023】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の適用は本実施形態には限られず、その技術的思想の範囲内において様々に適用されうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態における光学レンズの断面図である。
【図2】光学レンズの製造過程であって鏡筒内にガラス球を配置した状態を示した断面図である。
【図3】図2において事前加熱を行った後の鏡筒とガラス球とが接する部分の拡大図である。
【図4】光学レンズの製造過程であってプレス成形を行う工程を示した断面図である。
【図5】従来の光学レンズの製造過程であって鏡筒内にガラス球を配置して事前加熱を行った状態を示した断面図である。
【図6】図5の状態からガラス球が回転した場合の断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 光学レンズ
2 レンズ
2a 第1のレンズ
2b 第2のレンズ
3 鏡筒
10 開口部
11 開口部
12 内壁部
13 傾斜面
20 ガラス球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の鏡筒内にレンズを保持してなる光学レンズにおいて、
前記鏡筒は中空の筒状に形成されると共に、内壁部の一方の開口部近傍から他方の開口部近傍に渡って傾斜面が形成され、前記内壁部の傾斜面は傾斜角度が10度以上20度以下の範囲に形成され前記レンズを保持してなることを特徴とする光学レンズ。
【請求項2】
金属製の鏡筒内にレンズを保持してなる光学レンズの製造方法において、
前記鏡筒は中空の筒状に形成されると共に、内壁部の一方の開口部近傍から他方の開口部近傍に渡って傾斜面が形成され、前記内壁部の傾斜面は傾斜角度が10度以上20度以下の範囲に形成され、
前記鏡筒の内壁部に形成された傾斜面に対して球形のレンズ素材を載置し、その状態で前記レンズ素材を加熱して該レンズ素材を前記鏡筒の内壁部に圧着させ、その後に再度前記レンズ素材を加熱して前記鏡筒の開口部側にレンズ面を成形することを特徴とする光学レンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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