説明

光学レンズ

【課題】 特定の構造を有するポリカーボネート樹脂からなる工業的に射出成形生産可能な、高屈折率かつ低複屈折である光学レンズを提供する。
【解決手段】 一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物90〜100モル%(但し90モル%は除く)および一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物10〜0モル%(但し10モル%は除く)をカーボネート結合させてなることを特徴とする高屈折率ポリカーボネート樹脂からなる光学レンズ。




(式中、Yは、炭素数1〜10のアルキレン基または炭素数4〜20のシクロアルキレン基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有するポリカーボネート樹脂からなる光学レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ、フィルム一体型カメラ、ビデオカメラ等の各種カメラの光学系に使用される光学素子の材料として、光学ガラスあるいは光学用透明樹脂が使用されている。光学ガラスは、耐熱性や透明性、寸法安定性、耐薬品性等に優れ、様々な屈折率やアッベ数を有する多種類の材料が存在しているが、材料コストが高い上、成形加工性が悪く、また生産性が低いという問題点を有している。とりわけ、収差補正に使用される非球面レンズに加工するには、極めて高度な技術と高いコストがかかるため実用上大きな障害となっている。
【0003】
一方、光学用透明樹脂、中でも熱可塑性透明樹脂からなる光学レンズは、射出成形により大量生産が可能で、しかも非球面レンズの製造も容易であるという利点を有しており、現在カメラ用レンズ用途として使用されている。例えば、ビスフェノールAからなるポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ−4−メチルペンテン、ポリメチルメタクリレートあるいは非晶質ポリオレフィンなどが例示される。
【0004】
しかしながら、光学用透明樹脂を光学レンズとして用いる場合、屈折率やアッベ数以外にも、耐熱性、透明性、低吸水性、耐薬品性、耐光性、低複屈折性が求められるため、樹脂の特性バランスによって使用箇所が限定されてしまうという弱点がある。例えば、ポリスチレンは耐熱性が低く複屈折が大きい、ポリ−4−メチルペンテンは耐熱性が低い、ポリメチルメタクリレートは耐熱性が低い、ビスフェノールAからなるポリカーボネートは複屈折が大きい等の弱点を有するため使用箇所が限られてしまい好ましくない。
【0005】
一方、一般に、光学材料の屈折率が高いと、同一の屈折率を有するレンズエレメントをより曲率の小さい面で実現できるため、この面で発生する収差量を小さくでき、レンズの枚数を減らしたり、レンズの偏心感度を低減したり、レンズ厚みを薄くしてレンズ系を小型軽量化したりすることが可能になる。
【0006】
光学レンズ用途に実用化されている光学用透明樹脂の中で屈折率が高いものとしては、ビスフェノールAからなるポリカーボネート(nD=1.586、νD=29)、ポリスチレン(nD=1.578、νD=34)がある。とりわけ、ビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂は高屈折率で、なおかつ優れた耐熱性および優れた機械特性を有するため光学レンズ用途に幅広く検討されてきた。しかしながら、ビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂、ポリスチレンとも、複屈折が大きいという弱点を有するため用途に限界があった。そのため、屈折率が高く、低複屈折でかつ物性バランスに優れた光学レンズ向け樹脂の開発が幅広く行われてきた。特に、近年のデジタルカメラにおいては、画素数の向上による解像度のアップに伴い、結像性能の高い、より低複屈折のカメラ用レンズが求められている。
【0007】
例えば、シリコーン結合を有する樹脂組成物からなるレンズ成形体が開示されている(特許文献1)。該特許文献に開示されるレンズ成形体は、nD=1.6前後の高い屈折率を有し、複屈折も小さいが、該樹脂組成物は熱硬化性樹脂であるためレンズ成形体の生産性が低いという弱点を有する。
【0008】
例えば、フルオレン化合物をモノマー単位として有し、繰り返し単位中にイオウ原子を少なくとも1個有する重縮合または重付加重合体を含有する樹脂組成物および該樹脂組成物を射出成形してなる光学素子が開示されている(特許文献2)。該特許文献に開示される樹脂組成物は、nD=1.7前後の高い屈折率を有しているものの、位相差が大きく複屈折が充分に小さいとは言えない。また、繰り返し単位にイオウ原子が含まれているため、連続して射出成形を行っていると、射出成形機内部あるいは金型がイオウを含む分解ガスにより腐食されてしまい工業的な実施が難しい。
【0009】
例えば、フルオレン構造を有するポリカーボネート樹脂が開示されている(特許文献3および4)。しかし、これらのポリカーボネート樹脂はフィルム化して光弾性係数が調べられているに過ぎず、配向複屈折および光弾性複屈折双方を含めたいわゆるレンズ成形体としての複屈折に関しては調べられていない。また、レンズにとって重要な光学物性である屈折率ならびにアッベ数に関しても調べられていない。更には、発明の効果として光ディスクといった光学材料基盤用途を想定しているに過ぎない。
【0010】
【特許文献1】特開2001−89660号公報
【特許文献2】特開2001−106761号公報
【特許文献3】特開平10−101786号公報
【特許文献4】特開平10−101787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決しようとするものであり、特定の構造を有するポリカーボネート樹脂からなる、工業的に射出成形生産可能な、高屈折率かつ低複屈折である光学レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を、ジヒドロキシ化合物原料の大部分とするポリカーボネート樹脂を光学レンズにすることにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明は、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物90〜100モル%(但し、90モル%は除く)および一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物(10〜0モル%(但し、10モル%は除く)をカーボネート結合させてなることを特徴とする高屈折率ポリカーボネート樹脂からなる光学レンズである。
【0013】
【化1】

(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルコキシル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数6〜20のアリールオキシ基を表す。Xは、炭素数2〜8のアルキレン基、炭素数5〜12のシクロアルキレン基または炭素数6〜20のアリーレン基を表す。nおよびmは、1〜10の整数を表す。)
【0014】
【化2】

(式中、Yは、炭素数1〜10のアルキレン基または炭素数4〜20のシクロアルキレン基である。)
【発明の効果】
【0015】
本発明により、低複屈折で実質的に光学歪みのない優れた高屈折率光学レンズを得ることができる。本発明の光学レンズは、射出成形可能で生産性が高く安価であるため、カメラ、望遠鏡、双眼鏡、テレビプロジェクター等、従来、高価な高屈折率ガラスレンズが用いられていた分野に用いることができ極めて有用である。また、本発明により、ガラスレンズでは技術的に加工の困難な高屈折率低複屈折非球面レンズを射出成形により簡便に得ることができ極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂を誘導する一般式(1)で示されるジヒドロキシ化合物としては、具体的には、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン等が例示される。
【0017】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂を誘導する一般式(2)で示されるジヒドロキシ化合物としては、具体的には、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、デカリン−2,6−ジメタノール、ノルボルナンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、シクロペンタン−1,3−ジメタノール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール等が例示される。
【0018】
本発明に関わるポリカーボネート樹脂は、光学物性を損なわない範囲で少量の芳香族ジヒドロキシ化合物を共重合しても構わない。また、本発明に関わるポリカーボネート樹脂は、光学物性を損なわない範囲で少量の芳香族ジヒドロキシ化合物からなるポリカーボネート樹脂をブレンドしてあっても構わない。芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等が例示される。
【0019】
本発明に関わるポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、塩基性化合物触媒、エステル交換触媒もしくはその双方からなる混合触媒の存在下、反応させる公知の溶融重縮合法により製造することができる。炭酸ジエステルとしては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート等が挙げられる。これらの中でも、特にジフェニルカーボネートが好ましい。炭酸ジエステルは、ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して0.97〜1.20モルの比率で用いられることが好ましく、更に好ましくは0.98〜1.10モルの比率である。
【0020】
塩基性化合物触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、および含窒素化合物等があげられる。
【0021】
このような化合物としては、アルカリ金属およびアルカリ土類金属化合物等の有機酸塩、無機酸塩、酸化物、水酸化物、水素化物あるいはアルコキシド、または4級アンモニウムヒドロキシドおよびそれらの塩、アミン類等が好ましく用いられ、これらの化合物は単独もしくは組み合わせて用いることができる。
【0022】
アルカリ金属化合物としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩、2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、リチウム塩等が用いられる。
【0023】
アルカリ土類金属化合物としては、具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、フェニルリン酸マグネシウム等が用いられる。
【0024】
含窒素化合物としては、具体的には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル、アリール、基等を有する4級アンモニウムヒドロキシド類、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン等の3級アミン類、ジエチルアミン、ジブチルアミン等の2級アミン類、プロピルアミン、ブチルアミン等の1級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類、あるいは、アンモニア、テトラメチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルアンモニウムテトラフェニルボレート等の塩基あるいは塩基性塩等が用いられる。
【0025】
エステル交換触媒としては、亜鉛、スズ、ジルコニウム、鉛の塩が好ましく用いられ、これらは単独もしくは組み合わせて用いることができる。
【0026】
エステル交換触媒としては、具体的には、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、酢酸スズ(II)、酢酸スズ(IV)、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジメトキシド、ジルコニウムアセチルアセトナート、オキシ酢酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラブトキシド、酢酸鉛(II)、酢酸鉛(IV)等が用いられる。
【0027】
これらの触媒は、ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、10−9〜10−3モルの比率で、好ましくは10−7〜10−4モルの比率で用いられる。
【0028】
本発明に関わる溶融重縮合法は、前記の原料、および触媒を用いて、加熱下に常圧または減圧下にエステル交換反応により副生成物を除去しながら溶融重縮合を行うものである。反応は、一般には二段以上の多段行程で実施される。
【0029】
具体的には、第一段目の反応を120〜260℃、好ましくは180〜240℃の温度で0.1〜5時間、好ましくは0.5〜3時間反応させる。次いで150〜250mmHgで1〜3時間反応させた後、0.5〜1時間かけ1mmHgまで反応系の減圧度を上げながら反応温度を高めてジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの反応を行い、最終的には1mmHg以下の減圧下、200〜350℃の温度で0.05〜2時間重縮合反応を行う。このような反応は、連続式で行っても良くまたバッチ式で行ってもよい。上記の反応を行うに際して用いられる反応装置は、錨型攪拌翼、マックスブレンド攪拌翼、ヘリカルリボン型攪拌翼等を装備した縦型であっても、パドル翼、格子翼、メガネ翼等を装備した横型であってもスクリューを装備した押出機型であってもよく、また、これらを重合物の粘度を勘案して適宜組み合わせた反応装置を使用することが好適に実施される。
【0030】
本発明に関わるポリカーボネート樹脂は、重合反応終了後、熱安定性および加水分解安定性を保持するために、触媒を除去もしくは失活させる。一般的には、公知の酸性物質の添加による触媒の失活を行う方法が好適に実施される。これらの物質としては、具体的には、安息香酸ブチル等のエステル類、p−トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸類、p−トルエンスルホン酸ブチル、p−トルエンスルホン酸ヘキシル等の芳香族スルホン酸エステル類、亜リン酸、リン酸、ホスホン酸等のリン酸類、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸モノフェニル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジn−プロピル、亜リン酸ジn−ブチル、亜リン酸ジn−ヘキシル、亜リン酸ジオクチル、亜リン酸モノオクチル等の亜リン酸エステル類、リン酸トリフェニル、リン酸ジフェニル、リン酸モノフェニル、リン酸ジブチル、リン酸ジオクチル、リン酸モノオクチル等のリン酸エステル類、ジフェニルホスホン酸、ジオクチルホスホン酸、ジブチルホスホン酸等のホスホン酸類、フェニルホスホン酸ジエチル等のホスホン酸エステル類、トリフェニルホスフィン、ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン等のホスフィン類、ホウ酸、フェニルホウ酸等のホウ酸類、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩等の芳香族スルホン酸塩類、ステアリン酸クロライド、塩化ベンゾイル、p−トルエンスルホン酸クロライド等の有機ハロゲン化物、ジメチル硫酸等のアルキル硫酸、塩化ベンジル等の有機ハロゲン化物等が好適に用いられる。これらの失活剤は、触媒量に対して0.01〜50倍モル、好ましくは0.3〜20倍モル使用される。触媒量に対して0.01倍モルより少ないと、失活効果が不充分となり好ましくない。また、触媒量に対して50倍モルより多いと、耐熱性が低下し、成形体が着色しやすくなるため好ましくない。
【0031】
触媒失活後、ポリマー中の低沸点化合物を0.1〜1mmHgの圧力、200〜350℃の温度で脱揮除去する工程を設けても良く、このためには、パドル翼、格子翼、メガネ翼等、表面更新能の優れた攪拌翼を備えた横型装置、あるいは薄膜蒸発器が好適に用いられる。
【0032】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と、一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物とを、カーボネート結合させてなるポリカーボネート樹脂である。全ジヒドロキシ化合物中に占める一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の割合は、90モル%を超えて100モル%である。一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の使用量が90モル%以下になると、ポリカーボネート樹脂から得られる光学レンズの屈折率が小さくなるため好ましくない。
【0033】
また、本発明に使用されるポリカーボネート樹脂の好ましいポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は、20,000〜300,000であり、より好ましくは35,000〜120,000である。Mwが20,000より小さいと、光学レンズが脆くなるため好ましくない。Mwが300,000より大きいと、溶融粘度が高くなるため製造後の樹脂の抜き取りが困難になり、更には流動性が悪くなり溶融状態で射出成形しにくくなるため好ましくない。
【0034】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂はランダムおよびブロック共重合構造を含むものである。
【0035】
また、本発明に使用されるポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は145〜160℃である。レンズとしてまた加工条件に耐える十分な耐熱性を有し、また射出成形可能である。
【0036】
本発明において、本発明に使用されるポリカーボネート樹脂に、上記の特定の化合物と共にその物性を損なわない範囲で目的に応じ、各種公知の添加剤を加えることが望ましい。
【0037】
酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(4−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(4−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2−メチル−4−エチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−メチル−4−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6−ジ−−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(モノ,ジノニルフェニル)ホスファイト、ビス(モノノニルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジメチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2−メチレンビス(4−t−ブチル−6−メチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジメチルフェニル)ヘキシルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ヘキシルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ステアリルホスファイト等のホスファイト化合物;ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス[2−メチル−4−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル]ブタン等のヒンダードフェノール系化合物;5,7−ジ−t−ブチル−3−(3,4−ジメチルフェニル)−3H−ベンゾフラン−2−オン等が挙げられる。これらは、単独、あるいは2種以上併用して用いてもよい。
【0038】
これらの酸化防止剤の添加量は、本発明に使用されるポリカーボネート樹脂100重量%に対して0.005〜0.1重量%、好ましくは、0.01〜0.08重量%、さらに好ましくは、0.01〜0.05重量%であり、これより少ないと所望の効果が得られず、過剰では耐熱物性、機械的物性が低下し適当ではない。
【0039】
紫外線吸収剤としては、例えば、2−(5−メチル―2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−[(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]]、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2,4−ジヒドロキソベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン等が挙げられる。これらは、単独、あるいは2種以上併用して用いてもよい。
【0040】
離型剤としては、一般的に使用されているものでよく、例えば、天然、合成パラフィン類、シリコーンオイル、ポリエチレンワックス類、蜜蝋、ステアリン酸、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ステアリル、パルミチン酸モノグリセリド、ベヘニン酸ベヘニン、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等の脂肪酸エステル等が挙げられ、これらは、単独、あるいは2種以上併用して用いてもよい。
【0041】
その他、難燃剤、帯電防止剤、顔料、染料等必要に応じて単独または組み合わせて用いることができる。
【0042】
本発明に使用されるポリカーボネート樹脂は、異物含有量が極力少ないことが望まれ、溶融原料の濾過、触媒液の濾過が好適に実施される。フィルターのメッシュは5μm以下であることが好ましく、より好ましくは1μm以下である。さらに、生成する樹脂のポリマーフィルターによる濾過が好適に実施される。ポリマーフィルターのメッシュは100μm以下であることが好ましく、より好ましくは30μm以下である。また、樹脂ペレットを採取する工程は当然低ダスト環境でなければならず、クラス1000以下であることが好ましく、より好ましくはクラス100以下である。
【0043】
本発明の光学レンズは、該ポリカーボネート樹脂を射出成形機あるいは射出圧縮成形機によりレンズ形状に射出成形することによって得ることができる。光学レンズへの異物の混入を極力避けるため、成形環境も当然低ダスト環境でなければならず、クラス1000以下であることが好ましく、より好ましくはクラス100以下である。
【0044】
本発明の光学レンズは、必要に応じて非球面レンズの形で用いることが好適に実施される。非球面レンズは、1枚のレンズで球面収差を実質的にゼロとすることが可能であるため、複数の球面レンズの組み合わせで球面収差を取り除く必要がなく、軽量化および生産コストの低減化が可能になる。従って、非球面レンズは、光学レンズの中でも特にカメラレンズとして有用である。非球面レンズの非点収差は0〜15mλであることが好ましく、より好ましくは0〜10mλである。
【0045】
本発明の光学レンズの表面には、必要に応じ、反射防止層あるいはハードコート層といったコート層が設けられていても良い。反射防止層は、単層であっても多層であっても良く、有機物であっても無機物であっても構わないが、無機物であることが好ましい。具体的には、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタニウム、酸化セリウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム等の酸化物あるいはフッ化物が例示される。
【実施例】
【0046】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に何らの制限を受けるものではない。なお、実施例中の測定値は以下の方法あるいは装置を用いて測定した。
1)ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw):GPCを用い、クロロホルムを展開溶媒として、既知の分子量(分子量分布=1)の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。この検量線に基づいて、GPCのリテンションタイムから算出した。
2)ガラス転移温度(Tg):示差熱走査熱量分析計(DSC)により測定した。
3)屈折率nD、アッベ数:ポリカーボネート樹脂を3mm厚×8mm×8mmの直方体にプレス成形し、ATAGO(株)製屈折率計により測定した。
4)MI:東洋精機製メルトインデクサーT−111により測定した。
5)射出成形機:住友重機械工業(株)製SH50を用いた。
6)干渉縞(複屈折の大きさ):オリンパス(株)製高精度レーザー干渉計KIF−2により評価した(レーザー波長は633nm)。
7)全光線透過率:日本電色工業(株)製MODEL1001DPにより測定した。
【0047】
実施例1
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン22.75kg(51.89モル)、ジフェニルカーボネート11.49kg(53.65モル)、および炭酸水素ナトリウム0.02622g(3.119×10−4モル)を攪拌機および留出装置付きの50リットル反応器に入れ、窒素雰囲気760Torrの下1時間かけて215℃に加熱し撹拌した。
その後、15分かけて減圧度を150Torrに調整し、215℃、150Torrの条件下で20分間保持しエステル交換反応を行った。さらに37.5℃/hrの速度で240℃まで昇温し、240℃、150Torrで10分間保持した。その後、10分かけて120Torrに調整し、240℃、120Torrで70分間保持した。その後、10分かけて100Torrに調整し、240℃、100Torrで10分間保持した。更に40分かけて1Torr以下とし、240℃、1Torr以下の条件下で10分間撹拌下重合反応を行った。反応終了後、反応器内に窒素を吹き込み加圧にし、生成したポリカーボネート樹脂をペレタイズしながら抜き出した。得られたポリカーボネート樹脂のMw=42,300、Tg=158℃であった。このポリカーボネート樹脂10.0kgを100℃で24時間真空乾燥し、樹脂に対して、亜リン酸を1.5ppm、亜リン酸ジフェニルを50ppm、アデカスタブPEP−36を500pm、HP−136を200ppm、グリセリンモノステアレートを300ppm添加して押し出し機により260℃で混練してペレタイズしペレットを得た。このペレットのMw=42,100であった。
該ペレットのMIは、260℃、5.00kg荷重で24.1g/10minであった。
該ペレットを100℃で24時間真空乾燥した後、シリンダー温度260℃、金型温度100℃で射出成形し、直径が28mm、両凸面の曲率半径が20mmの両凸レンズを得た。
該凸レンズの干渉縞を観察したところ、干渉縞は、綺麗な直線が等間隔の平行線に揃った形で現れ、該凸レンズは複屈折の極めて小さい、実質的に光学歪みのないレンズであることが確かめられた。更に、該凸レンズを偏光軸が互いに直交する二枚の偏光板の間に入れ、全光線透過率を測定したところ、全光線透過率=0.1%であり、複屈折の極めて小さい実質的な光学歪みのないレンズであることが確かめられた。
また、該樹脂の屈折率nD=1.639、アッベ数=24.9と高屈折率であった。
【0048】
実施例2
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン17.54kg(40.0モル)、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール0.864kg(4.44モル)、ジフェニルカーボネート9.795kg(45.73モル)、および炭酸水素ナトリウム0.01321g(1.572×10−4モル)を攪拌機および留出装置付きの50リットル反応器に入れ、窒素雰囲気760Torrの下1時間かけて215℃に加熱し撹拌した。
その後、15分かけて減圧度を150Torrに調整し、215℃、150Torrの条件下で20分間保持しエステル交換反応を行った。さらに37.5℃/hrの速度で240℃まで昇温し、240℃、150Torrで10分間保持した。その後、10分かけて120Torrに調整し、240℃、120Torrで70分間保持した。その後、10分かけて100Torrに調整し、240℃、100Torrで10分間保持した。更に40分かけて1Torr以下とし、240℃、1Torr以下の条件下で30分間撹拌下重合反応を行った。反応終了後、反応器内に窒素を吹き込み加圧にし、生成したポリカーボネート樹脂をペレタイズしながら抜き出した。得られたポリカーボネート樹脂のMw=69,100、Tg=153℃であった。このポリカーボネート樹脂10.0kgを100℃で24時間真空乾燥し、樹脂に対して、亜リン酸を1.5ppm、亜リン酸ジフェニルを50ppm、アデカスタブPEP−36を500pm、HP−136を200ppm、グリセリンモノステアレートを300ppm添加して押し出し機により260℃で混練してペレタイズしペレットを得た。このペレットのMw=69,000であった。
該ペレットのMIは、265℃、5.00kg荷重で24.8g/10minであった。
該ペレットを100℃で24時間真空乾燥した後、シリンダー温度265℃、金型温度105℃で射出成形し、直径が28mm、両凸面の曲率半径が20mmの両凸レンズを得た。
該凸レンズの干渉縞を観察したところ、干渉縞は、綺麗な直線が等間隔の平行線に揃った形で現れ、該凸レンズは複屈折の極めて小さい、実質的に光学歪みのないレンズであることが確かめられた。更に、該凸レンズを偏光軸が互いに直交する二枚の偏光板の間に入れ、全光線透過率を測定したところ、全光線透過率=0.1%であり、複屈折の極めて小さい実質的な光学歪みのないレンズであることが確かめられた。
また、該樹脂の屈折率nD=1.633、アッベ数=25.6と高屈折率であった。
【0049】
比較例1
ビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂として、ユーピロンH−4000(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)を用いた。
該ペレットのMIは、255℃、5.00kg荷重で25.0g/10minであった。
該ペレットを100℃で24時間真空乾燥した後、シリンダー温度255℃、金型温度95℃で射出成形し、直径が28mm、両凸面の曲率半径が20mmの両凸レンズを得た。
該凸レンズの干渉縞を観察したところ、干渉縞は、歪んだ曲線が不等間隔で現れ一部島状模様となった。これより、該凸レンズは複屈折の大きい、光学歪みの大きなレンズであることが確かめられた。更に、該凸レンズを偏光軸が互いに直交する二枚の偏光板の間に入れ、全光線透過率を測定したところ、全光線透過率=8.4%であり、複屈折の極めて大きい光学歪みの大きいレンズであることが確かめられた。
また、該樹脂の屈折率nD=1.586、アッベ数=29.7とやや屈折率が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物90〜100モル%(但し、90モル%は除く)および一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物10〜0モル%(但し、10モル%は除く)をカーボネート結合させてなることを特徴とする高屈折率ポリカーボネート樹脂からなる光学レンズ。
【化1】

(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルコキシル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数6〜20のアリールオキシ基を表す。Xは、炭素数2〜8のアルキレン基、炭素数5〜12のシクロアルキレン基または炭素数6〜20のアリーレン基を表す。nおよびmは、1〜10の整数を表す。)
【化2】

(式中、Yは、炭素数1〜10のアルキレン基または炭素数4〜20のシクロアルキレン基を表す。)
【請求項2】
一般式(2)で表される化合物が、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールおよびペンタシクロペンタデカンジメタノールから選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の光学レンズ。
【請求項3】
一般式(1)で表される化合物において、R、R、RおよびRが水素原子、Xがエチレン基、n=1およびm=1である請求項1記載の光学レンズ。
【請求項4】
光学レンズがカメラ用レンズである請求項1〜3のいずれかに記載の光学レンズ。

【公開番号】特開2007−57916(P2007−57916A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−244121(P2005−244121)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】