説明

光学収差を補正するためのマルチゾーン眼内レンズ

【課題】多様な光の条件下で球面収差を補正し、さらにIOLの偏心や傾きなどの非最適状態に対して感受性の低い、眼内レンズを提供する。
【解決手段】マルチゾーン単焦点眼科用レンズ60は、内側ゾーン70と、中間ゾーン72と、外側ゾーン74とを含む。内側ゾーン70は、第1の屈折力を有する。中間ゾーン72は、内側ゾーン70を取り囲み、少なくとも約0.75ジオプター未満の大きさだけ第1の屈折力と異なる第2の屈折力を有する。外側ゾーン74は、中間ゾーン72を取り囲み、第2の屈折力と異なる第3の屈折力を有する。ある具体例において、第3の屈折力は、第1の屈折力と等しい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願>
本出願は、米国特許法第119条(e)に基づき、同じ発明の名称で2002年11月8日に出願された仮出願(出願番号60/424,851)の優先権を主張するもので、それによりパリ条約の優先権が確保されている。
【0002】
<発明の分野>
本発明は、眼内レンズ(IOL:Intraocular lens)、特に、それぞれ異なる角膜を有する様々な人間の眼のために、幅広い照明条件下で光学収差を補正でき、偏心した又は傾いた場合でも効果のあるマルチゾーン単焦点IOLに関する。
【背景技術】
【0003】
欠陥の無い眼では、入射する光線は、点光源からの全ての光が眼の網膜上の同じ点、理想的には網膜上の窩領域(網膜中心窩)に収束するように、角膜と水晶体レンズを通過する。このような収束は、光線中のすべての光にとって、全ての光路長が互いに等しいことによって起こる。言い換えれば、欠陥の無い眼では、光が通る個々の経路に関係なく、全ての光にとって眼を通過する時間は同一である。
【0004】
しかしながら、全ての眼が完全無欠なわけではない。そのため、眼を通過する光路長は歪みを生じ、互いに等しくなくなる。従って、欠陥のある眼を通る点光源からの光は、必ずしも、網膜上の同じ点に到達して焦点が合う、というわけではない。
【0005】
光が眼に入射して通過するとき、光は、角膜前面と、角膜後面と、水晶体の前面及び後面とで屈折し、最終的に網膜に到達する。それらの光路長に不均等な変化をもたらすずれ(deviation)が、矯正すべき眼の欠陥の指標となる。例えば、多くの人が近視(near-sighted)を患っており、それは眼軸長が「長すぎる」(近視:myopia)ことに起因している。その結果、物体の鮮明な画像が、網膜上ではなく、網膜の前方に形成される。遠視(hyperopia)は、屈折誤差によって光線が網膜の背後に収束する疾患である。この疾患は、眼軸長が「短すぎる」ことにより生じる。この疾患が、一般に「遠視(far-sighted)」と呼ばれている。その他の屈折疾患が乱視であり、眼球の2つの経線(meridians)における曲率が等しくない屈折面によって生じる。曲率の違いによって屈折力に違いが生じて、網膜の前方や後方に光を散乱することになる。
【0006】
視力矯正にとって興味深い他の高次疾患に、コマ収差と球面収差がある。コマ収差は、光学系の非対称性によって、所望方向の光路長に違いが生じるときに存在する。例えば、軸外物点像が彗星のような形になる。対称系では、光軸からの半径方向の高さの異なる光線が網膜近傍で異なる軸方向位置に収束するときに、球面収差が存在する。コマ収差は非対称系にのみ存在し、球面収差は対称系と非対称系のいずれにも存在しうる。その他の、さらなる高次収差も存在する。しかし、人間の視覚系において、球面収差が最も強い高次収差の1つであることが、研究によって明らかにされている。したがって、公知の技術によって球面収差が補正されれば、網膜像は改善されるだろう。
【0007】
また、若年層の眼の場合、角膜の正の球面収差と水晶体レンズの負の球面収差との間でバランスがとれていることも、研究によって明らかになっている。しかし、年を取るにつれて、水晶体レンズの球面収差が次第に正の球面収差を示すようになり、全体の球面収差が大きくなり、網膜での画質が悪くなる。
【0008】
眼内レンズ(IOL)は、通常は、白内障などの病状と認定されたときに人間の眼の自然な水晶体レンズと置換するために利用される。白内障の手術では、外科医が、自然な水晶体レンズを水晶体嚢または後嚢から除去し、それをIOLに置換する。また、IOLを白内障でない眼の中(たとえば、前眼房に)に移植して、自然な水晶レンズの屈折力を補完して、大きな屈折異常を矯正することもできる。
【0009】
IOLを含む大多数の眼科用レンズは、主に屈折異常を矯正する単焦点の(すなわち、固定焦点距離の)レンズである。ほどんどの単焦点IOLは、球状の前面および後面にデザインされている。典型的な正の屈折力を持つ球面は、とりわけ、正の球面収差を生じる。従って、水晶体レンズを典型的な単焦点IOLに置換すると、眼に正の球面収差が残る。複雑な角膜収差を有する実際の眼では、白内障手術後の眼は、有限数の複雑な低次及び高次の収差が残り、それによって網膜上の画質が制限される。
【0010】
光学レンズを設計するために、光学系としての眼の高次収差を測定する試みの例として、Billeらによる米国特許第5,062,702号、Roffmanによる米国特許第5,050,981号、Williamsらによる米国特許第5,777,719号、Gordonによる米国特許第6,224,211号(特許文献1〜4)がある。
【0011】
患者の視力改善のための典型的なアプローチでは、最初に、角膜の前面のトポグラフィーに関係する眼の測定値を得ることである。具体的に、トポグラフィー測定は、角膜の前面の数学的記述を与える。この角膜表面は、水晶体レンズを置換するIOLを備えた患者の眼の理論モデルに置かれる。レイトレーシング法(光線追跡法)を利用して、角膜の球面収差を補正するIOLデザインを見出す。理想的には、このような特注のIOLレンズを移植すれば、患者の視力は改善するだろう。
【0012】
最近、Pharmacia社(オランダ国フローニンゲン)は、シリコーンIOLで「TECNIS」(Z9000)ブランドの商標名を有する後嚢眼内レンズを発表した。TECNISレンズは、扁長な前面を有しており、これは、角膜の球面収差を低減することを目的としている。このレンズは、Norrbyらによる米国特許第6,609,793号およびPCT公開公報WO 01/89424(特許文献5〜6)に記載された方法を用いてデザインされるだろう。これら刊行物に記載の方法は、異常な角膜表面をゼルニケ多項式の一次結合として特徴付ける工程と、次に、特徴的な角膜表面と組み合わせて、視覚系の光学収差を減少させる眼内レンズをモデリング又は選択する工程と、を含んでいる。これらの方法から得られるレンズは、光学領域全体にわたって連続した非球面であり、そのレンズを用いることにより、負の球面収差を導入して典型的な正の角膜球面収差を無効にすることによって、眼の球面収差を低減できるだろう。これらのレンズには、非球面が重畳される1つの基準曲面が存在するだろう。J.T.Hollidayら著「偽水晶体眼の球面収差を減少するためにデザインされた新しい眼内レンズ」Jounal of Refractive Surgery 2002,18:683−691(非特許文献1)で報告されているように、TechnicsのIOLは、視力のコントラスト感度が周波数18サイクル/度まで改善されることが確認されている。
【0013】
TECNISブランドのレンズは、球面IOLを上回る改善された光学的品質を提供するために、通常は水晶体嚢の中で正確に位置決めすることが求められる(「前面が改良された扁長眼内レンズの先見的無作為化試験」Jounal of Refractive surgery,Vo.18,Nov/Dec 2002(非特許文献2)を参照)。特に微光状態(low-light condition)では、偏心(半径方向の移動)または傾き(軸回転)による僅かな誤差が、そのレンズの有効性を大幅に減少させ、それゆえ外科医の仕事をより難しいものする。さらに、水晶体嚢の収縮、または移植後の他の解剖学的変化は、眼の光軸に沿ったレンズのアラインメントや傾きに影響を与え得る。平均的なケースにおける眼内レンズ移植に起因し、そして移植後の移動を考慮したときの「典型的な」偏心量は、約1.0mm未満、通常は約0.5mm未満と考えられている。ほとんどの医師は、約0.15mm〜約0.4mmより大きいIOLの偏心が、臨床的に意義がある(すなわち、当業者によれば、光学系の性能に著しい影響を与える)と認めている。同様に、平均的なケースにおける眼内レンズの移植に起因し、そして移植後の移動を考慮したときの「典型的な」傾斜量は、約10度未満、通常は約5度未満である。従って、実際上、現実の世界では、TECNISブランドのレンズの利点は、その見かけ上の欠点によって打ち消されてしまうかもしれない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第5,062,702号明細書
【特許文献2】米国特許第5,050,981号明細書
【特許文献3】米国特許第5,777,719号明細書
【特許文献4】米国特許第6,224,211号明細書
【特許文献5】米国特許第6,609,793号明細書
【特許文献6】PCT公開公報WO01/89424号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】J.T.Hollidayら著「偽水晶体眼の球面収差を減少するためにデザインされた新しい眼内レンズ」Jounal of Refractive Surgery 2002,18:683−691
【非特許文献2】「前面が改良された扁長眼内レンズの先見的無作為化試験」Jounal of Refractive surgery,Vo.18,Nov/Dec 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
以上のことから、多様な光の条件下で球面収差を補正し、さらに、IOLの偏心や傾きなどの非最適状態(non-optimal states)に対して感受性の低い、眼内レンズの必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、偏心の範囲にわたり、球面収差を含む収差を減少することにより、その眼内での配置に対する感受性の低いマルチゾーン単焦点眼科用レンズを提供する。本発明の単焦点眼科用レンズは、また、異なる角膜収差(たとえば異なる非球面性)を有する眼の全体にわたり、良好な性能を示すように構成してもよい。
【0018】
本発明の1つの態様において、マルチゾーン単焦点眼科用レンズは、内側ゾーンと、中間ゾーンと、外側ゾーンとを含む。内側ゾーンは、第1の屈折力を有する。中間ゾーンは、内側ゾーンを取り囲み、少なくとも約0.75ジオプター未満の大きさだけ第1の屈折力と異なる第2屈折力を有する。外側ゾーンは中間ゾーンを取り囲み、第2の屈折力と異なる第3の屈折力を有する。ある具体例において、第3の屈折力は、第1の屈折力に等しい。この眼科用レンズは、合計で3つ〜7つのゾーン、好適には、合計で3つ〜5つのゾーンを含むことができる。しかしながら、合計でゾーン7つ以上のゾーンを備えた眼科用レンズも、本発明の具体例に含まれる。
【0019】
本発明の他の態様において、マルチゾーン単焦点眼内レンズは、光軸上に中心がある複数の同軸の光学ゾーンを有する光学部材(optic)を有している。それらのゾーンは、1つの物体からの入射光線が焦点を結んで像を形成するように設計されている。眼内レンズの光学部材は、眼内レンズが人間の眼の光軸と同軸になったときに、像を供給するレンズの光軸と重なっている内側ゾーンを含む。内側ゾーンと同軸の第1の取り囲みゾーンは、移植した眼内レンズの少なくとも約0.1mmより大きな偏心に起因する光学収差を補償するのに適応している。
【0020】
第1の取り囲みゾーンは、移植した眼内レンズの少なくとも約0.1mmよりも大きな偏心に起因する光学収差を補償するように構成し得る。第1の取り囲みゾーンは、移植した眼内レンズの少なくとも約1度よりも大きな傾きに起因する光学収差を補償するように構成し得る。第1の取り囲みレンズの屈折力は、少なくとも約0.75ジオプター以下の大きさだけ内側ゾーンの屈折率と異なるのが好ましい。典型的な実施態様では、内側ゾーンは球面を含み、第1の取り囲みゾーンは非球面を含む。
【0021】
本発明の他の態様は、マルチゾーン単焦点眼科用レンズを設計(デザイン)する方法を含む。その方法は、人間の眼の光学モデルを提供する工程を含んでいる。その方法はさらに、内側ゾーンと、中間ゾーンと、外側ゾーンと、ゾーン設計パラメータ(zonal design parameter)とを含む光学モデルを含んでいる。その方法はまた、1つ以上の非最適状態のレンズのための像出力パラメータ(image output parameter)に基づいて、ゾーン設計パラメータを調整する工程を含む。
【0022】
その方法は、さらに、レイトレーシング解析法(ray-trace analysis techniques:光線追跡解析法)を用いて、臨床的に意義のある角膜表面の変化と眼の光学系中の光学要素の配置との広い範囲にわたって、眼内レンズを試験する工程を含んでも良い。さらに、その方法を繰り返して、ゾーンのパラメータを変更して、よりよい平均光学性能を達成しても良い。レンズが補正を行う非対称状態の例には、偏心、傾きそして角膜の収差を含む。
【0023】
本発明は、そのさらなる特徴や有利な点とともに、同等の部分は同等の符号を有する以下の添付の図面との関係を考慮に入れた以下の記載を参照することにより最も理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、明るい光の環境下での人間の眼の概略縦断面図であり、一対の光線が、角膜の光学系と移植された従来の眼内レンズとを通り抜けて、網膜上に焦点を結ぶのを示している。
【図2】図2は、微光の環境下での人間の眼の縦概略断面図であり、一対の光線が、角膜の光学系と移植された従来の眼内レンズの周辺部とを通り抜けて、網膜よりも前に焦点を結ぶのを示している。
【図3】図3は、明るい光の環境下での人間の眼の概略縦断面図であり、一対の光線が、角膜の光学系と偏心している移植された従来の眼内レンズを通り抜けて、網膜上に焦点を結ぶのを示している。
【図4】図4は、中程度の光の環境下での人間の眼の概略縦断面図であり、一対の光線が、角膜の光学系と偏心している移植された従来の眼内レンズを通り抜けて、網膜よりも前に焦点を結ぶのを示している。
【図5A】図5Aは、本発明の単焦点眼内レンズの平面および概略側面図であり、光軸の周囲に同軸のゾーンを示している。
【図5B】図5Bは、本発明の単焦点眼内レンズの平面および概略側面図であり、光軸の周囲に同軸のゾーンを示している。
【図6A】図6Aは、非球面IOL、球面IOL、およびマルチゾーン単焦点IOLを、瞳孔の直径5mmで、偏心のない状態でシミュレートした変調伝達関数(Modulation Transfer Functions:MTF)を示している。
【図6B】図6Bは、0.5mm偏心している状態で、非球面IOL、球面IOL、およびマルチゾーン単焦点IOLを、瞳孔の直径5mmで、0.5mm偏心した状態でシミュレートした変調伝達関数を示している。
【図7】図7は、非球面IOL、球面IOL、およびマルチゾーン単焦点IOLを、瞳孔の直径5mmでシミュレートしたMTF曲線であり、角膜の収差と、IOLの偏心および傾きと、僅かな瞳孔の大きさとが変化している100以上の眼の平均的なMTFを表している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<詳細な説明>
本発明は、開いた瞳孔に対して優れた変調伝達関数MTF(Module Transfer Function))特性を維持しながら、眼内での偏心に対する感受性を低減した眼内レンズ(IOL)の設計を含む。MTFは視覚性能の指標であり、それは、1mmあたりのサイクル数の単位で表される空間周波数の範囲にわたって、最小値0.0〜最大値1.0の無次元スケール上にプロット可能である。MTFは、物体(被写体)のコントラストを画像に転写する効率(efficiency of transferring)の指標である。空間周波数は、物体の大きさに反比例する。したがって、視覚的な解像度の限界にある小さな物体は、大きな物体よりも高い空間周波数を有する。本明細書に記載されたIOLは、レンズ前面、レンズ後面、またはその両方に、入射波面上で共に作用して矯正された眼像(ocular image)を生成する複数のゾーンを含んでいる、マルチゾーン単焦点レンズを含む。そして、以下で詳細に説明するように、本発明のIOLの異なるゾーンは、通常、異なる平均球面率(度)および/またはジオプター度数を有するが、ゾーン間のジオプター度数の差は、多焦点IOLに使用される2ジオプター〜4ジオプターの典型的な設計値の差よりも遙かに小さい。ある実施形態、任意の2つのゾーン間における最大のジオプター度数の差は、少なくとも約0.75D未満であり、有利には約0.65D未満である。
【0026】
本明細書で使用される「単焦点レンズ」の用語は、離れた点光源からレンズに入った光が、実質的に1つの点に焦点が結ばれるレンズであると考えられる。マルチゾーン単焦点レンズの場合、離れた点源からレンズゾーンに入った光が、マルチゾーン単焦点レンズの焦点距離と実質的に同等の焦点距離を有する球面レンズの焦点深度の範囲内に収まる。
【0027】
マルチゾーン単焦点レンズのゾーンに関連して本明細書で用いられているように、「屈折力」の用語と「ジオプター度数」の用語は、レンズが、例えば角膜、マルチゾーン単焦点IOL、網膜、およびこれらのコンポーネントを取り囲む材料などの眼レンズ系(ocular lens system)の一部である場合の、ゾーンの実効的な屈折力またはジオプター度数をいう。この定義は、輻輳(両眼転導)の影響、または角膜の屈折力により引き起こされる、IOL表面を横切る光の角度の影響を含むことができる。ここには、マルチゾーン単焦点IOLの前側にある全ての光学的表面からの輻輳の合計を含むことができる。場合によっては、ジオプター度数を計算するアルゴリズムは、マルチゾーン単焦点IOLを組み込んだ人間の眼のレイトレーシングモデルから始めることができる。IOL表面上の半径方向における特定の位置では、スネルの法則を適用して、屈折後の光線の角度を計算することができる。IOL表面上の点と、光軸(対称軸)との間の光路長を用いて、局所的な波面の、局所的な曲率半径を規定することができる。このような方法を用いると、ジオプター度数は、この局所的な曲率半径で分けられた屈折率の差に等しい。
【0028】
本発明のIOLは、微光又は中程度の光の状況下で、より大きい範囲の移植位置に亘って、従来のIOLよりも優れた性能を発揮するようにデザインされている。実際に、臨床医は、平均的な事例において、後嚢に移植された眼内レンズが、ホストの眼(host eye:宿主の眼)の光軸から約0.15〜0.4mmだけ偏心することを認めている。時には、未熟な移植技術や、ホストの眼から与えられる非軸対称の力の結果として、偏心が更に大きくなることもある。確かに、0.5mmを超え、時として1.0mmに達する偏心を経験することがある。本発明のIOLは、少なくとも約0.15mmだけ偏心し、且つ特に微光又は中程度の光の条件の場合に、従来のIOLと比べて優れた能力を示すように、特に設計されている。ある実施形態では、本発明のIOLは、約0.5mmを超えて、又は約1.0mmを超えて偏心した場合に、従来技術のIOLと比べて優れた能力を示すように設計されている。受け入れるべき偏心量は、例えば、IOLを移植するのに使用される手術方法の精度などの設計上の制約に依存する。このマルチゾーン単焦点IOLは、偏心した状態であっても改善された性能を提供するので、ほとんどの場合、患者は、他の従来のIOLよりも大きな満足感を得るものと予想される。
【0029】
図1は人間の眼20の概略縦断面図であり、この眼20の中には、従来のIOL22が移植されている。眼20の光学系は、外側の角膜24と、虹彩28の開口部で規定される瞳孔26と、IOL22と、眼球32の後部内面上に形成された網膜30とを含む。本出願において、「前(anterior)」及び「後(posterior)」の用語は、それらの通常の意味で用いられる。「前」とは、角膜に近い「眼の前側」のことをいい、「後」とは、網膜に近い「眼の後ろ側」のことをいう。この眼は、自然な光軸OAを規定する。図は、明るい光の環境下おける眼20を示しており、収縮した虹彩28により、比較的小さい瞳孔26になっている。
【0030】
典型的なIOL22は、虹彩28の直後にある水晶体嚢(図示せず)の内部に、光軸OAに沿って中心を置くのに適している。そのために、IOL22は、ハプティクス(haptics)または固定用部材34を備えることができる。IOL22の光学部材は、前面36と後面38とで規定される。その光学部材は、例えば図5Bに図示された凸−凸形状など、本技術分野で知られている様々な形状にすることができる。本発明は、後嚢に移植されるIOLに限定されるものでないことを理解すべきである。
【0031】
一対の光線40は、角膜24と、瞳孔26と、IOL22とを通過する。次に、光線40は、光軸OAに沿って網膜30上に焦点を結ぶ。図示された明るい光の環境下では、光線40は、レンズ光学部材の中央部分を通過する。従来の眼内レンズは、このような光線を光軸OAに沿って網膜30上の1点に結像するには、比較的有効である。
【0032】
図2は、微光の環境下における、IOL22が移植された眼20を示す。このような状況では、虹彩28が広がって、比較的大きい瞳孔26を形成し、多くの光がIOL22に達するのを可能にする。図に示すように、瞳孔26の周辺領域を通過した一対の光線42は、IOL22の光学部材の周辺領域で不適当に屈折される。すなわち、光線42は、光軸OAに沿って、距離46だけ網膜30の前方にある点44に収束する。そのような屈折は、光線42が網膜30の前方に焦点を結ぶことから、正の球面収差と呼ばれる。負の球面収差は、光線42を、光軸OAに沿って網膜30の後方にある虚像点に焦点を結ぶ。このような収差は、自然なレンズ(自然な水晶体)が所定位置にある眼でも起こり得る。例えば、老化した眼の水晶体は、微光の環境下では、光を適切に屈折しないことがある。そのような状態の実際的結果では、画質の低下を招くだろう。
【0033】
図3は、例えば図1に示されるような明るい光の環境下における人間の眼20を示している。光軸OAに沿って中心があるIOL22が、実線で再び示されているが、偏心した状態も点線22’で示されている。上述のように、偏心は、眼内レンズが、自然な光軸OA上に中心がある配置から、半径方向への移動を含む。光線40は、角膜24と、比較的小さい瞳孔26とを通過し、偏心した眼内レンズ22’の中心領域を通って屈折される。すなわち、光がレンズ22’の周辺領域に当たらず、周辺領域で屈折しないので、望ましくない偏心にも拘わらず、レンズ22’は、明るい光の環境下では良好な性能を発揮する。
【0034】
図4は、中程度の光の環境下における眼20を示しており、虹彩28は、図3に示す状態に比べると幾分大きくなっているが、図2の微光の光の環境下で見られるように完全に広がってはいない。このような状態では、中心に置かれたIOL22は適切に機能する。しかし、偏心したレンズ22’は、適切に機能し得ない。図に示すように、特に、虹彩28の近傍を通過する光線48は、偏心したレンズ22’の周辺領域に当たり、周辺領域で不適当に屈折される。従来の眼内レンズは、偏心に対しする感受性の程度が異なり、図4に示す状態は説明のためのものであって、特定のレンズを示すものではない。
【0035】
しかしながら、例えばTECNISブランドのレンズなどの、球面収差を補正するようにデザインされた特定のレンズは、小さな偏心量に対しても、比較的高い感受性を有するものと考えられる。このようなレンズは複雑な屈折面(complex refractive surface)を有しており、この複雑な屈折面は、それが形成されているいずれかの面(すなわち、前又は後)を横切って、比較的連続的に変化している。この連続する屈折面は、角膜の正の球面収差に対して負の補正を与えるが、レンズが偏心すると、綿密に計算された、2つの光学デバイスの間のバランスが損なわれるかもしれない。実際に、その結果として生じるミスマッチによって、例えばコマ収差や乱視などの他の光学収差が生じるかもしれない。
【0036】
図5A及び図5Bは、光学部材62と、そこから外側に伸びる一対のハプティクス又は固定用部材64a、64bとを有する本発明に係る単焦点IOL60の概略平面図及び概略側面図を示す。光学部材62は、ほぼ円形の周縁部66と、光学部材上に形成された、同軸で環状の複数の屈折帯または屈折ゾーンを有する。周縁部66は、曲面のエッジ面、傾斜したエッジ面、又はそれらの組み合わであってもよいが、図5Bに示すように、望ましくは、周縁部66は、厚みのある、軸方向に方向付けられた縁部である。レンズ62は、周縁部66で分離された、前面68aと、対向する後面68bとを有する。屈折ゾーンは、前面または後面の上に形成することができ、場合によっては、それら両面の組み合わとして形成することができる。光軸OA上に中心がある中央の内側ゾーン70は、半径rで外側に拡がっており、少なくとも1つの中間ゾーン72は、内側ゾーン70を取り囲み、半径rで外側に向かって拡がっており、そして、外側ゾーン74は、中間ゾーン72を取り囲み、そこからレンズ63の外周66まで半径rで外側に拡がっている。望ましくは、rは約1〜1.5mm、rは約1.5〜2.2mm、そして、rは約3mmである。より望ましくは、rは約1.4mm、rは約2.0mmである。場合によっては、望ましくない縁部の影響を排除するために、rは3mmより大きいことが望ましいかも知れない。
【0037】
内側ゾーン70、中間ゾーン72および外側ゾーン74は、形状が球面または非球面の表面を有してもよい。中間ゾーン72は、通常は1つの環状ゾーンが望ましいけれども、複数の環状ゾーンの組み合わせであってもよい。ある具体例では、内側ゾーン70は球面、中間ゾーン72は非球面、そして、外側ゾーン74も非球面である。
【0038】
例えば明るい昼の光の状況下で瞳孔が小さいとき、内側ゾーン70の屈折力が眼の視覚性を左右する。中間ゾーン72は、IOLが偏心、傾き又はその他の不適正な状況にある場合、IOLの収差補正を補助するように設計される。中間ゾーン72の屈折力は、内側ゾーン70のそれと極めて近いものである。外側ゾーン74は、非球面で、球面単焦点IOLが本来備えている球面収差を最小にするように設計され得る。
【0039】
好ましくは、中間ゾーン72は、内側ゾーン70の補正能力よりも小さな補正能力を有する。従来のIOLが偏心した場合(図4)、周辺の光が過度に屈折されて網膜の前に焦点を結ぶ。しかしながら、マルチゾーン単焦点IOL60の中間ゾーン72は、表面屈折力を減少させるために使用されており、光線48を網膜上の焦点に向ける。例えば、IOLを移植する際に採用される外科手法の精度等の設計上の制約に依存するが、少なくとも約1〜10度の通常範囲内でレンズが傾いている場合、中間ゾーン72が補正し得る。
【0040】
ゾーン70、72、74の相対屈折力は互いに接近しており、典型的な単焦点IOLの焦点深度の範囲内にあることから、IOL60は単焦点レンズと考えられる。このような関係において、「単焦点」レンズとは、分離した(discrete)隣接するまたはゾーンの最大屈折力差が、少なくとも約0.75ジオプター未満のレンズである。各ゾーンの屈折力は、そのゾーン内の平均屈折力と理解することができる。分離した隣接ゾーンとは、それらの間に明確な物理的遷移が存在することを必ずしも意味するのではなく、むしろ、製造プロセスは、通常、隣接するゾーン間に滑らかな遷移を与えるようにデザインされる。
【0041】
IOL60は、例えば、シリコーン、アクリルまたは、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などの従来から使用されている材料、又は人間の眼の中や眼の上で使用するのに適した他の材料から製作される。材料はまた、所望の光学性能が得られるように選択される。例えば、屈折率は、材料によって異なることが知られているので、IOL60から所望の光学性能又は影響を得るための設計パラメータとして利用される。
【0042】
IOL60は、回折光学素子(DOE)等の他の光学装置と共に使用できる。例えば、IOL60のレンズ前面がマルチゾーン表面を有し、レンズ後面が回折格子等のDOEを備えていてもよいし、その逆に、レンズ前面が回折格子等のDOEを有し、レンズ後面がマルチゾーン表面を備えていてもよい。代わりに、マルチゾーン表面自体に、回折格子等のDOEを備えていてもよい。DOEは、例えば色収差を補正するため、または、最適位置(たとえば、光軸上に中心があり且つ光軸に対して垂直な位置)から移動したときにIOL60の性能を向上させるために用いてもよい。ある具体例においては、DOEは、IOL表面の一方の一部のみにわたって配置されてもよい。例えば、DOEは、中間ゾーン72上に配置し、IOL60の性能を向上するための追加パラメータとして用いてもよい。
【0043】
IOL60は、使用される特定の環境に適した公称屈折力(nominal optical power)を有するように設計することができる。IOL60の公称屈折力は、通常、約−20ジオプターから、少なくとも+35ジオプターまでの範囲にあると思われる。IOL60の屈折力は、約10ジオプターから、少なくとも約30ジオプターまでの間にあるのが望ましい。ある適用例では、IOL60の屈折力は、約20ジオプターであり、これは、人間の眼の中の自然な水晶体の典型的な屈折力である。
【0044】
例えば夜間などの微光の環境では、人間の眼の瞳孔は大きくなり(直径約4.5〜6mm)、そのために、像をぼやけさせる球面収差(SA)が大きくなる。臨床的には、瞳孔が大きくなった眼は、コントラスト感度が低く、時には視力が低下することが報告されている。視覚のコントラスト感度ならびに視力の点で判断したとき、TECNISブランドのレンズは、微光の環境下では、球面IOLよりも優れた性能を発揮することが報告されている。しかしながら、シミュレーションによると、この非球面の設計は、偏心に対する感度が高い。そのようなIOLが、光軸からほんの僅かに偏心しただけでも、IOLと角膜の間のSAのバランスが著しく崩れて、視力が大幅に悪化する。
【0045】
本発明者らは、設計に沿った条件(on-design condition)又は設計から外れた条件 (off-design condition)の両方において、マルチゾーン構造を有するようにレンズ表面を形成し、各ゾーンが異なる表面パラメータ(例えば、基準曲率半径(base radius of curvature))を有するように形成することにより、球面収差を低減できることを発見した。上述のTECNISブランドのレンズのような従来の連続する単一の非球面とは対照的に、IOL60の表面サグ(surface sag)(すなわち、マルチゾーン表面の輪郭)は、レンズを横切って変化する式を用いて、決定することができる。本発明の典型的な具体例によれば、i番目のゾーン用の、光軸からの任意の半径における表面サグは、以下の式により与えられる。
【0046】
【数1】

【0047】
ここで、C、Kおよびrは、i番目のゾーン表面の基準曲率半径、非球面定数、および高さである。また、BijおよびTijは、ゾーン表面を滑らかに繋ぐために用いられる境界パラメータである。変数Mは、あるゾーンをどの程度滑らかに次のゾーンに移行させるかを決定する整数である。この作業は、IOL設計の「公称(nominal)」の眼を表すために公表されている眼の有限モデルを利用する(Liou H.L.およびBrennan N.A.著「解剖学的に精密な光学上のモデル化のための有限モデル眼」J Opt Soc Am A,1997;14:1684−1695を参照)。
【0048】
後房IOLを設計する場合、内側ゾーン70(図5A)の非球面係数Kは、好ましくは、ゼロである(すなわち、内側ゾーン70は、球面を含む。)。内側ゾーン70の基準曲率半径Cは、レンズの基準表面屈折力(base surface power)とみなされる。直径6mmの大きさの瞳孔において良好な性能を得るためには、好ましくは、少なくとも3つのゾーン(i≧3)を設ける。好適なゾーン数の範囲は、少なくとも約3つ〜7つであり、より好ましくは3つ〜5つである。しかしながら、特定の設計条件では、より大きいゾーン数が採用されてもよい。中心から離れたゾーンのパラメータは、個々のゾーン表面が、その特定ゾーン内のより多くの光線を、内側ゾーンで定められる焦点に向かって屈折するように、最適に決定され得る。このプロセスは、例えばZEMAX Development Corporation(4901 モレナ大通りスイート207、サンディエゴ、カリフォルニア92117−7320)のZEMAX光学設計プログラムのような、市販のレイトレーシングの設計ソフトウェアを用いて行われる。
【0049】
全てのゾーンが異なる基準曲線(ベースカーブ)を有していてもよいが、一般的に、少なくとも2つのゾーン(好ましくは、内部ゾーンと中間ゾーン)の基準曲線は異なっている。望ましくは、前面は、3つのゾーンを有し、それぞれのゾーンは異なる基準曲率半径を有する。後面は、1つの球面ゾーンである。
【0050】
表1は、本発明に基づくマルチゾーン単焦点IOLの例を提供する。以下に与えられたパラメータ値は、前面に3つのゾーン(i=3)、後面に1つのゾーン(i=1)有し、全体のジオプター度数が20のIOLに対するものである。
【0051】
【表1】

【0052】
図6Aと図6Bは、シミュレートされたMTF(modulation transfer function)に関して、表1に示したマルチゾーン単焦点レンズのIOLの性能を、球面レンズと、非球面レンズ(TECNISブランドのレンズ)と比較して示している。これらのシミュレーション結果は、5mmの瞳孔直径で、偏心の無い場合(図6A)と、0.5mmの偏心が有る場合(図6B)とに基づいている。図6Aは、レンズが、眼内で正確に中心に置かれたときの、各々のタイプのレンズの性能を示している。図6Bには、レンズが、眼の光軸より0.5mm偏心させられた状態(実際には希な状態である)での、各々のタイプのレンズの性能が示されている。
【0053】
図6Bと図6Aとを比較すると、非球面デザインおよびマルチゾーン単焦点デザインの両方とも、偏心によって画質(例えば、MTF)が大きく損なわれていることが分かる。しかしながら、マルチゾーンの画質損失は、非球面設計と比べて少ない。非球面のMTFとマルチゾーンのMTFは、標準の球面デザインに比べて著しく高いことが、図6Aから分かる。画質の著しい向上に対する代償は、図6Bに示されているように、非公称条件(non-nominal condition)(たとえば偏心)に対する感受性である。しかしながら、非公称条件に対する改善は、改良された単焦点IOLの設計においてこの新しいゾーンを使用することにより達成される。非公称条件に対する感受性低下の代償は、図6Aに示されているように、非球面のMTFに比べて、マルチゾーンデザインのMTFが僅かに低いことである。それにもかかわらず、マルチゾーンのMTFは、球面デザインのMTFに比較して著しく改善されている。
【0054】
図7は、について、角膜の収差、IOLの偏心およびIOLの傾きを変えた条件下での、100以上の異なる眼に基づいたモンテカルロシミュレーションの結果を、球面IOL、非球面IOLおよびマルチゾーン単焦点IOLの平均MTF性能をプロットする形で示している。シミュレーションは、5mmの公称瞳孔直径(nominal pupil diameter)を用いて行われた。その結果は、シミュレートされた現実世界の条件下における、各タイプのレンズの平均性能に相当する。
【0055】
臨床診療において、多くの非公称条件が存在する。これらは、異なる収差、異なる量のIOLの傾きと偏心、そして、公称照明条件(nominal lighting condition)に対する異なる瞳孔の大きさを伴った、複数の角膜を含む。より独特な環境では、別の条件が適用されてもよい。無作為に選択された上記条件の値が選択され、それぞれのMTFが計算され、そして平均MTFを表にした。実際に、この手順は、一般的な臨床群をシミュレートしており、IOLの表面設計と、非公称条件から生じる収差との複雑な相互作用を評価している。
【0056】
図7は、そのような「臨床的シミュレーション」の結果を、非球面デザイン、球面デザインおよびマルチゾーンデザインを比較して示している。図7は、非球面デザインは、球面デザインに比べて、低い空間周波数でのMTFを改善することを示している。患者の視点からすると、物体はより高いコントラスト有し、色はより鮮やかに見えるだろう。図7は、マルチゾーンデザインは、空間周波数の広範囲にわたって、さらに優れているであろうことを予測している。患者は、向上したコントラスト及び視力を、共に経験するはずである。後者は、約100サイクル/mmにおけるMTFの変化と関係している。予想されるように、マルチゾーンデザインは公称条件における性能が僅かに低いとしても(図6A)、全ての臨床群にわたって平均すると、マルチゾーンデザインは、非球面デザインと比較して、改善をもたらしている。
【0057】
ある実施形態では、マルチゾーンの単焦点IOLを設計する方法は、人間の眼の光学モデルを与える工程を含む。このモデルは、角膜、虹彩、IOL60、網膜、およびこれらの要素の間に、液体、物質または付加的デバイスを含むことができる。そのモデルは、また、例えば、要素間の間隔および屈折率の値などの、各種のシステム設計パラメータを含んでも良い。
【0058】
この方法は、内側ゾーンと、中間ゾーンと、外側ゾーンと、ゾーン設計パラメータとを含むレンズの光学モデル(たとえばIOL60)を提供する工程をさらに含む。各ゾーンのゾーン設計パラメータは、ただしこれに限定するものではないが、曲率半径、表面の多項式係数、内側半径、外側半径、屈折率およびDOE特性を含んでもよい。ある実施形態では、光学モデルは、対応するパラメータを伴う追加のゾーンを含んでもよい。ゾーン設計のパラメータの1つは、レンズ内のゾーン数も含んでもよい。光学モデルは、レンズ前面、レンズの後面、又はレンズ両面のゾーンとゾーン設計パラメータとを含んでもよい。
【0059】
この方法は、レンズの1つ以上の非最適状態のための像出力パラメータ(image output parameter)に基づいて、ゾーン設計パラメータを調整する工程をさらに含む。非最適状態の例には、ただしこれに限定するものではないが、IOLの偏心および傾き、ならびに様々な角膜の収差(たとえば、様々な角膜の非球面性)が含まれる。像出力パラメータの例には、ただしこれに限定するものではないが、変調伝達関数(MTF)、スポット径および/または、波面誤差を含む。代わりに、ゾーン設計パラメータを調整する工程と同時に、複数の出力パラメータを、評価に使用してもよい。
【0060】
非最適状態にあるIOLにおいて、例えばゾーン数およびゾーン半径などのゾーン設計パラメータを調整して、システム入射瞳(system entrance pupil)に入ってくる異常光線を補正することができる。例えば、3ゾーンレンズのIOLの偏心の場合、第1ゾーンの半径および第2ゾーンの半径は、第2ゾーンが入射瞳に入るように選ばれる。システム入射瞳に入ってくる光にさらされるゾーンのゾーンパラメータを調整して、非最適状態により生じる収差を補償してもよい。好ましくは、ゾーン設計パラメータは、像の出力パラメータが最適値または閾値を得るまで調整される。
【0061】
この方法はまた、レンズの最適状態のための像の出力パラメータに基づいて、光学モデルのゾーン設計のパラメータおよび/または他のシステム設計パラメータを調整する工程を含むこともできる。このような最適状態では、IOLは、眼の光軸に沿って中心があり、且つ目の光軸に対して垂直である状態を、好ましく表しているだろう。
【0062】
この方法は、コンピュータまたは他の処理装置に存在する光学設計ソフトウェアを用いて実現されても良い。光学設計ソフトウェアは、光学モデルを通じて、光線の種々のセットを数値的なレイトレーシングを行うのに用いることができ、それは、網膜上に形成された像を評価するだろう。モデル化された角膜は有限の収差を有しているという認識のもとに、像の出力パラメータの観点または複数の像の出力パラメータの観点から、マルチゾーン単焦点IOLの設計パラメータを調整して、網膜上に形成された画質を向上することができる。
【0063】
この設計から得られたレンズは、最適状態に配置したときには、最適状態で最適な設計のレンズと比較して、僅かに低い網膜の画質を生じるかもしれない。しかしながら、このような非最適状態の設計は、それでも、使用可能な球面レンズよりも、顕著に優れた性能を示すレンズの製造を可能にするだろう。それゆえ、非最適状態の設計は、初期の最適設計と比較して、非最適状態の広範囲にわたって、優れた性能を与える。
【0064】
ある実施形態では、特定条件、または複数条件のセットに適した設計を提供するために、追加の非最適状態を用いて設計パラメータをさらに調整する。各種の非最適状態を用いて得られた結果は、眼または特定の収差を有する眼の特定の母集団の中で予測される、IOLの複数の非最適状態に適したレンズを提供するために用いることができる。例えば、その方法は、複数の角膜表面のバリエーションと眼の光学系中の光学素子の配置とにわたって、公差解析法(tolerance analyzing techniques)を用いてレンズを試験するために用いてもよい。さらに、この方法の全てまたは一部を1回以上繰り返して、ゾーンパラメータを変更し、優れた光学性能の平均値を得ることができる。例えば、各種の非最適状態に割り当てた重み関数などの既知のアルゴリズムは、所望の特性をレンズに与えるために用いてもよい。
【0065】
本発明の実施形態では、例えば、IOLが眼の光軸から偏心している場合などの非最適状態下において、改善された性能を提供するのに適したIOLに関して開示しているが、当業者であれば、本発明の実施形態は、例えば、コンタクトレンズや網膜移植などの他の眼用デバイスに適していることを認識するだろう。例えば、マルチゾーン単焦点IOLの設計方法は、コンタクトレンズの性能改善のために適応でき、それ(コンタクトレンズ)は、使用中に、眼の光軸に対して異なる位置に動くことが知られている。
【0066】
本発明は、各種の特定の例及び実施形態について記述されているが、それらが単なる例示であること、本発明がそれらに限定されるものでないこと、及び本発明は特許請求の範囲内で変更して実施できることが理解される。
【符号の説明】
【0067】
20 人間の眼、22 IOL、24 角膜の外側、26 瞳孔、28 虹彩、30 網膜、32 眼球、34 触覚または固定用部材、36 前面、38 後面、40 光線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の屈折力を有する内側ゾーンと、
前記内側ゾーンを取り囲み、少なくとも約0.75ジオプター未満の大きさだけ前記第1の屈折力と異なる第2の屈折力を有する中間ゾーンと、
前記中間ゾーンを取り囲み、前記第2の屈折力と異なる第3の屈折力を有する外側ゾーンと、を含むことを特徴とするマルチゾーン単焦点眼科用レンズ。
【請求項2】
前記第3の屈折力が、前記第1の屈折力と等しいことを特徴とする請求項1に記載のマルチゾーン単焦点眼科用レンズ。
【請求項3】
前記第2の屈折力が、約0.65ジオプター以下の大きさだけ前記第1の屈折力と異なることを特徴とする請求項1に記載のマルチゾーン単焦点眼科用レンズ。
【請求項4】
前記内側ゾーンが球面を含み、かつ、前記中間ゾーンが非球面を含むことを特徴とする請求項1に記載のマルチゾーン単焦点眼科用レンズ。
【請求項5】
前記眼内レンズは、前記中間ゾーンを取り囲み、第3の屈折力を有する外側ゾーンをさらに含み、
前記第2の屈折力が、少なくとも約0.75ジオプター以下の大きさだけ前記第1および前記第3の屈折力と異なることを特徴とする請求項1に記載のマルチゾーン単焦点眼科用レンズ。
【請求項6】
前記第2の屈折力が、約0.65ジオプター以下の大きさだけ前記第1および第3の屈折力と異なることを特徴とする請求項5に記載のマルチゾーン単焦点眼科用レンズ。
【請求項7】
前記内側ゾーンが球面を含み、前記中間ゾーンが非球面を含むことを特徴とする請求項5に記載のマルチゾーン単焦点眼科用レンズ。
【請求項8】
前記外側ゾーンが非球面を含むことを特徴とする請求項7に記載のマルチゾーン単焦点眼科用レンズ。
【請求項9】
前記中間ゾーンを取り囲む複数の外側ゾーンを含み、
前記眼内レンズ内の各ゾーンが、少なくとも約0.75ジオプター以下の大きさだけ異隣接するゾーンとなる屈折力を有することを特徴とする請求項1に記載のマルチゾーン単焦点眼科用レンズ。
【請求項10】
合計で3つ〜7つのゾーンがあることを特徴とする請求項9に記載のマルチゾーン単焦点眼科用レンズ。
【請求項11】
前記眼科用レンズは眼内レンズであって、ハプティクスを含むことを特徴とする請求項1に記載のマルチゾーン単焦点眼科用レンズ。
【請求項12】
光軸上に中心がある同軸上の分離した複数の光学ゾーンを伴うレンズを有するマルチゾーン単焦点眼内レンズであって、前記ゾーンは、物体からの入射光線を集光して像を形成するのに適しており、
前記眼内レンズは、
前記眼内レンズが人間の眼の光軸上に中心が置かれたときに、像を作り出すために前記眼内レンズの前記光軸と重なる内側ゾーンと、
前記内側ゾーンと同軸であり、移植された前記眼内レンズの少なくとも約0.1mmより大きい偏心により生じる前記像の光学収差を補償するための第1の取り囲みゾーンと、を含むことを特徴とするマルチゾーン単焦点眼内レンズ。
【請求項13】
前記第1の取り囲みゾーンは、移植された前記眼内レンズの約0.4mmより大きい偏心により生じる前記像の収差を補償することを特徴とする請求項12に記載のマルチゾーン単焦点眼内レンズ。
【請求項14】
前記第1の取り囲みゾーンは、移植された前記眼内レンズの約0.5mmより大きい偏心により生じる前記像の収差を補償することを特徴とする請求項12に記載のマルチゾーン単焦点眼内レンズ。
【請求項15】
前記第1の取り囲みゾーンは、移植された前記眼内レンズの少なくとも約1度より大きい傾きにより生じる前記像の収差を補償することを特徴とする請求項12に記載のマルチゾーン単焦点眼内レンズ。
【請求項16】
前記第1の取り囲みゾーンは、移植された前記眼内レンズの少なくとも約5度より大きい傾きにより生じる前記像の収差を補償することを特徴とする請求項12に記載のマルチゾーン単焦点眼内レンズ。
【請求項17】
前記第1の取り囲みゾーンは、移植された前記眼内レンズの少なくとも約10度より大きい傾きにより生じる前記像の収差を補償することを特徴とする請求項12に記載のマルチゾーン単焦点眼内レンズ。
【請求項18】
前記第1の取り囲みゾーンの屈折力が、少なくとも約0.75ジオプター以下の大きさだけ前記内側ゾーンの屈折力と異なることを特徴とする請求項12に記載のマルチゾーン単焦点眼内レンズ。
【請求項19】
前記内側ゾーンが球面を含み、
前記第1の取り囲みゾーンが非球面を含むことを特徴とする請求項12記載のマルチゾーン単焦点眼内レンズ。
【請求項20】
前記眼内レンズは、前記第1の取り囲みゾーンの外側に、少なくとも1つの他のゾーンをさらに含み、
前記眼内レンズの各ゾーンが、少なくとも約0.75ジオプター以下の大きさだけ他のゾーンと異なる屈折力を有することを特徴とする請求項12に記載のマルチゾーン単焦点眼内レンズ。
【請求項21】
合計で3つ〜7つのゾーンがあることを特徴とする請求項20に記載のマルチゾーン単焦点眼内レンズ。
【請求項22】
人間の眼の光学モデルを提供する工程と、
内側ゾーン、中間ゾーン、外側ゾーンおよびゾーン設計パラメータを含むレンズの光学モデルを提供する工程と、
1つ以上のレンズの非最適状態の像の出力パラメータを基にゾーン設計パラメータを調整する工程と、を含むことを特徴とするマルチゾーン単焦点眼科用レンズを設計する方法。
【請求項23】
複数の角膜表面のバリエーションと公差解析法を用いた眼の光学系の中の光学素子の配置とにわたって、眼内レンズを試験する工程を含む請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ゾーンのパラメータを変更、および、より良い光学的性能の平均値を達成するために、少なくとも前記方法の一部を繰り返す工程を含む請求項22に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−41826(P2011−41826A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−242044(P2010−242044)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【分割の表示】特願2006−539865(P2006−539865)の分割
【原出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(502049837)アボット・メディカル・オプティクス・インコーポレイテッド (50)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT MEDICAL OPTICS INC.
【Fターム(参考)】