説明

光学式測定装置

【目的】本発明は、外面に局部的に入力される熱により、大きな熱変形を受けにくくすることにより、熱変形による測定精度の低下を極力押えて正確な測定装置を提供することにある。
【構成】レンズ25,26等が内蔵された金属製のレンズ鏡筒15を鏡筒支持部材8に取り付けた光学式測定装置において、レンズ鏡筒15を鏡筒支持部材8に断熱筒16を介して取り付けると共に、レンズ鏡筒15を断熱材料製のカバーケース35で覆った光学式測定装置としたことを特徴とする。また、レンズ鏡筒15とカバーケース35との間には空隙39が形成され、この空隙39はパッキングで気密保持されている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高温から低温に至る広範囲の環境下の測量機の熱変形に起因する測定精度の低下を極力防止して悪環境下でも精度を落さずに測量できる光学式測定装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】この種の光学式測定装置としては、コリメータ等の光学式測定器や光学式測量機等がある。
【0003】特に、この光学式測量機としては、その外殻自体が内殻レンズの保持本体となっていて、アルミニューム合金をダイキャストにより形成した部品(以下、アルミダイキャスト品と略称)が主体で、プラスティック及びその他の材質の部材等で構成されているものがある。
【0004】また、これらの外形と大きさと肉厚も、あらゆる個所で極めて複雑で、測量機が受ける熱量、熱の流れ、熱傾斜に対して何等考慮されていない。近時、金属部材を一部エンジニアリングプラスティック(PPS)に置き代えるものもあるが、これは軽量とコスト高により考慮され、測量機全体から見た熱変形の体策を施したものは見当らない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】以上のように、測量機は複雑な外形,大きさ,肉厚を持つ異種材からなっている。しかも、アルミダイキャスト品は、金型における冷却構造に起因して表皮部分の表面から約0.1mmの間が硬化質となっていて、表皮と深層部とでは組織が異なり不均質である。この表皮の切除をコスト低減上、極力少なくするため、表皮の大半は残す様にしている。
【0006】また、アルミダイキャスト品は、複雑な形状をとるために、全体で肉厚が不均一となっている。この様に、アルミダイキャスト品は、表皮と深層部とで組織が異なり不均質であるのと同時に肉厚が不均一であるため、太陽光等により周囲から部分的に加熱されて全体で温度差を生じると、内部に複雑な熱応力が発生して部分的に熱変形を起こす。
【0007】この熱変形の大半は、温度が元に戻ると長時間後に現状に戻るが、一部は現状に復帰せずに必ず残るものもある。即ち、荷重変形は荷重を除けば直ちになくなるが、熱変形は温度が元に戻っても直には復帰しないで必要な時間を経過して次第に小さくなる傾向にあるからである。しかも、測量の多くは、この復帰時間中に行われる。
【0008】従って、測量機を一度高精度に調整しても広範囲の温度変化は測量精度を低下させる。この復帰精度は時間の経過と共に変るので再調整しても、後でまた再調整することがある。
【0009】そこで、本発明は、これらの従来技術の問題点を解消することを目的としてなされたもので、大きな熱変形を受けにくくすることにより、熱変形による測定精度の低下を極力押えて正確な測定装置を提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するため、請求項1の発明は、光学部品を支持部材に取り付けた光学式測定装置において、前記光学部品を前記支持部材に断熱部材を介して取り付けると共に、前記光学部品及び断熱部材を断熱材料製のカバーケースで覆った光学式測定装置としたことを特徴とする。
【0011】また、請求項2の発明は、前記光学部品はレンズ鏡筒内に内蔵され、前記レンズ鏡筒は断熱部材を介して前記支持部材に取り付けられ、前記カバーケースは鏡筒支持部材に取り付けられ、前記カバーケースとレンズ鏡筒との間に空隙が形成されていると共に、前記光学部品のくもり発生防止及びレンズ系内汚染防止用の軟質パッキングが前記カバーケースとレンズ鏡筒との間に介装されていることを特徴とする。
【0012】
【作用】この様な構成によれば、光学部品を支持部材に断熱部材を介して取り付けると共に、前記光学部品及び断熱部材を断熱材料製のカバーケースでカバーした構成とすることにより、たとえカバーケースの一部の温度が太陽光等により局部的に大きく変形したとしても、光学部品を直接支持する部材は雰囲気の温度上昇により全体的に徐々に膨張、収縮させられて(局部的な膨張、収縮ではない)、測定精度は大きく低下しないことになる。
【0013】また、断熱材製のカバーケースは測量機の内部に入力される熱量を小さくし、前記断熱部材は支持部材から光学部品側への熱の入力を遮断しているので、光学部品を直接支持している部材への熱量の入力は小さくなる。
【0014】また、カバーケースとレンズ鏡筒との間には間隙が形成されており、外部にさらされるカバーケースが太陽光等により局部的に熱変形させられて、レンズ鏡筒との間の間隙が変化しても、軟質パッキングが変形させられるだけで、カバーケースがレンズ鏡筒に接触しないことになり、レンズ鏡筒及びその内部の光学系に精度上の影響が生じない。
【0015】
【実施例】以下、この発明の一実施例を図面に基づいて説明する。
【0016】図1,図5において、1は三脚等に取り付けられる光学式測量機の平面形状が略三角形状のベース部材である。
【0017】このベース部材1の各頂点近傍上には図1に示した様なネジ押え部材2が取り付けられ、各ネジ押え部材2には上下に向けた水平調整ネジ3が回転自在に保持されている。この水平調整ネジ3の中間部には操作ツマミ4が取り付けられている。
【0018】また、ベース部材1上には金属製の水平支持台5が配設されている。この水平支持台5は、内筒部5aと、内筒部5aの上端に設けられた外方フランジ5bと、外方フランジ5bの周縁に下方に向けて且つ内筒部5aと同心に連接された段付外筒部5cと、各押え部材2の水平調整ネジ3に対応して段付外筒部5cに設けたボス部5dを有する。
【0019】この各ボス部5d内には水平調整ネジ3が螺合されている。また、段付外筒部5cには、環状目盛環6が嵌合されていると共に、この環状目盛環6の抜け防止用の止め輪7が装着されている。この止め輪7は、環状目盛環6を段付外筒部5cに摩擦固定している。これにより、環状目盛環6のみを摩擦力に抗して回すことにより、「0」調整を行うことができる。図1,図5中、6aは環状目盛環6の外周面に刻設された目盛である。
【0020】水平支持台5上には、アルミニュームダイキャスト製の鏡筒支持部材8が配設されている。鏡筒支持部材8は、水平支持台5の内筒部5aに挿通された支軸8aと、支軸8a上端にこれの軸線と垂直に向けて一体に形成した筒部8bと、支軸8aの下端部に同軸に設けた雄ネジ部8cを有する。
【0021】この支軸8aの上部外周には筒部8bと外方フランジ5bとの間に位置させたウオームホイール9が嵌合装着され、支軸8aの中間部と筒部8bとの間には軸受スリーブ10が配設されている。このスリーブ10は、水平支持台5をダイキャストにより加工する際に、インサート成形により筒部5aと一体に設けたものである。
【0022】しかも、雄ネジ部8cにはナット11が螺合されていて、このナット11は支軸8aが軸受スリーブ10から抜けるのを防止している。この状態では、ウオームホイール9が支軸8aを中心に回動して外方フランジ5b上を摺接移動し得る様になっている。
【0023】鏡筒支持部材8の筒部8bには図3(a)に示した様にスリ割12が形成され、スリ割12を挟む壁部8d,8eの一方を貫通する締付ネジ13が他方に螺着されている。この筒部8b内には肉厚が略均一なレンズ鏡筒15が挿通され、レンズ鏡筒15の中央部外周には筒部8bに対応して断熱筒16(断熱部材)が嵌着固定されている。この断熱筒16は、締付ネジ13を締め付けてスリ割12の間隔を狭めることにより、筒部8b内に固定されている。尚、断熱筒16を設けないでレンズ鏡筒15を断熱材料から作って、レンズ鏡筒15を鏡筒支持部材8の筒部8bに直接保持させる様にすることにより、鏡筒支持部材8からレンズ鏡筒15側に入力される熱がレンズ鏡筒15内に入力するのを遮断する。
【0024】レンズ鏡筒15の後端部近傍(図では右端部近傍)の上下部分には、図1に示した如く断熱筒16に隣接してせて上下対称形の開口17,18が形成されている。また、図4に示したレンズ鏡筒15の開口17,18に対応する左右対称形の側壁部15a,15aの外面には、エンジニアリングプラスティック(PPS)等の合成樹脂からなる左右対称形状の2個の支持部材19がビス20で夫々固定されている。この支持部材19の上縁19aは側壁部15aの上縁15bより若干突出させられている。
【0025】レンズ鏡筒15の前部には、中央部から前側内に嵌合した保持筒21(対物レンズ枠)がビス22で固定されている。この保持筒21の略後ろ(図中、右側)半分には小径部21aが形成されていて、この小径部21aとレンズ鏡筒15との間には筒状空間23が形成されている。また、小径部21aの略後ろ半分の上下部には後端に開放するスリット24,24が形成されている。
【0026】保持筒21の前端部内には光学部品であるレンズ25が装着され、保持筒21の中間部内にはスリット24,24に隣接させて光学部品であるレンズ26が固定されている。尚、レンズ25,26は対物レンズ系を構成している。
【0027】また、図1〜図2において、27は外筒部27aと内筒部27bをリブ27c(図3参照)で同心に連接したスライド筒である。この外筒部27aは小径部21aの外周に長手方向に移動自在に嵌合され、内筒部27bは小径部21a内にレンズ26の後方に位置させて遊嵌され、リブ27c,27cは周方向に遊びなく且つ長手方向に移動自在にスリット24,24に係合させられている。
【0028】この内筒部27b内には光学部品であるインターナルレンズ28が固定され、外筒部27aの一側面には図2,図3(b)に示した様に長手方向に延びる溝29が形成され、溝29の上部には長手方向に延びるラック30が設けられている。インターナルレンズ28は、種々の距離にある目標を後述する焦点レンズ34に集光させて合焦させる。
【0029】31は上両側部が支持部材19の上縁19aに支持されたコンペンセータ(光学部品)で、このコンペンセータ31は、眼鏡の微小な傾きに起因する焦点レンズ34上の正しい目標映像位置からのずれを光学的に自動的に傾斜角を修正する。また、32はレンズ鏡筒15の後部に配設された筒体で、この筒体32はビス33でレンズ鏡筒15の後端部に固定され、この筒体32内には焦点レンズ34が止めネジ34aにより調整可能に装着されている。止めネジ34aは、焦点レンズ34の十字線をもとに調整移動後固定するために用いられる。
【0030】この様な光学部品が取り付けられたレンズ鏡筒15は断熱部材製のカバーケース35で覆われている。このカバーケース35は図示しない部分で互いにビス固定された上カバーケース36と下カバーケース37から構成され、この下カバーケース37はビス38で鏡筒支持部材8の筒部8bに固定されている。このカバーケース35は、レンズ鏡筒15側に入る熱量を断熱して少なくしている。
【0031】また、カバーケース35とレンズ鏡筒15との間には空隙39が形成されている。しかも、カバーケース35前部とレンズ鏡筒15と前部との間、及びカバーケース35後部とレンズ鏡筒15と後部との間には、光学部品のくもり発生防止及びレンズ系内汚染防止用の軟質パッキング40,40がそれぞれ介装されている。この空隙39は、カバーケース35とレンズ鏡筒15との各熱変形の差を吸収して、熱変形による測定精度の低下がでないようにしている。
【0032】下カバーケース37にはウオームホイール9に噛合するウオーム41が回転自在に保持され、ウオーム41の外端部には図5に示した操作ツマミ42が固定されている。また、図3(b)に示した様に、下カバーケース37,筒部8b,断熱筒16,レンズ鏡筒15にはこれらに跨るブッシュ43が固定され、このブッシュ43内には操作軸44が回転自在に保持され、操作軸44の内端にはラック30に噛合するピニオン45が固定され、操作軸44の外端には操作ツマミ46が固定されている。尚、43a,44aは気密保持用の軟質パッキングである。
【0033】更に、上カバーケース36の上面には光軸を目標に合わせるための視準用の照星門47が固定され、カバーケース35の前端部にはフード48が螺着されている。カバーケース36,37にはガス封入口49,50が形成され、ガス封入口49,50には栓体としての小ネジ51,52が螺着され、小ネジ51,52の頭部51a,52aとカバーケース36,37との間には気密保持用のパッキング53,54が介装されている。55は筒体32を覆う合成樹脂製のカバーキャップ、56は筒体32の外周に螺着されていると同時にカバーキャップ55で固定されている接眼目ネジ部材、57はレンズ光軸方向に進退自在に接眼メネジ部材56に螺合された接眼筒である。
【0034】この様な構成によれば、たとえカバーケース35の一部の温度が太陽光等により局部的に大きく変化したとしても、光学部品を直接支持するレンズ鏡筒15は雰囲気の温度上昇により全体的に徐々に膨張、収縮させられて(局部的な膨張、収縮ではない)、測定精度は大きく低下しないことになる。
【0035】また、断熱材製のカバーケース35は測量機の内部に入力される熱量を小さくし、前記断熱筒16は鏡筒支持部材8から光学部品側への熱の入力を遮断しているので、光学部品を直接支持しているレンズ鏡筒15への熱量の入力は小さくなる。
【0036】また、カバーケース35とレンズ鏡筒15との間には間隙39が形成されており、外部にさらされるカバーケース35が太陽光等により局部的に熱変形させられて、レンズ鏡筒15との間の間隙39が変化しても、軟質パッキング40が変形さられるだけで、カバーケース35がレンズ鏡筒15に接触しないことになり、レンズ鏡筒15及びその内部の光学系に精度上の影響が生じない。
【0037】
【効果】本発明は、以上説明したように構成されているので、高音から低温までに温度変化のはげしい測量に適用でき、或は高温高湿及び低温高湿の倉庫内に長時間保管された測量機等の測定装置を使用する場合、又は悪環境下で輸送された測量機の測定装置を使用する場合で、仮に慎重を期して測量等の測定前に再調整するとしても、その先は精度を落さざる測定することができるので高い信頼性をもって測定することができる。同時に再調整回数を少なくて済む一方、調整はレンズ鏡筒を固定した眼鏡回転軸を持つ光学支持部材だけで行うことができるので、原価上有料である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の測量機の一実施例を示す横断面図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】(a)は図2のA−A線に沿う断面図、(b)は図2のC−C線に沿う断面図である。
【図4】図2のB−B線に沿う断面図である。
【図5】図1〜図4に示した構造を備える測量機(測定装置)の概略斜視図である。
【符号の説明】
1…ベース部材
8…鏡筒支持部材
15…レンズ鏡筒
16…断熱筒(断熱部材)
25…レンズ(光学部品)
26…レンズ(光学部品)
28…インターナルレンズ(光学部品)
31…コンペンセータ(光学部品)
35…カバーケース
39…間隙
40…軟質パッキング

【特許請求の範囲】
【請求項1】 光学部品を支持部材に取り付けた光学式測定装置において、前記光学部品を前記支持部材に断熱部材を介して取り付けると共に、前記光学部品及び断熱部材を断熱材料製のカバーケースで覆ったことを特徴とする光学式測定装置。
【請求項2】 前記光学部品はレンズ鏡筒内に内蔵され、前記レンズ鏡筒は断熱部材を介して前記支持部材に取り付けられ、前記カバーケースは鏡筒支持部材に取り付けられ、前記カバーケースとレンズ鏡筒との間に空隙が形成されていると共に、前記光学部品のくもり発生防止及びレンズ系内汚染防止用の軟質パッキングが前記カバーケースとレンズ鏡筒との間に介装されていることを特徴とする請求項1に記載の光学式測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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