説明

光学材料、およびその製造方法

【課題】光学素子、特には、導波路型の光学素子に好適に利用される、優れた透明性を示すマトリクス材料中に、所望の金属微粒子を均一に分散させた薄膜光学材料と、その製造方法の提供。
【解決手段】光透過性材料で構成されるマトリクスと、該マトリクス中に分散された金属微粒子を具えてなる成形体型光学材料からなる薄膜光学材料とし、該金属微粒子に起因するプラズモン共鳴を利用することで、新たな光学特性を付与する。その際、薄膜形成に常温衝撃固化現象を利用した成膜法を採用して、平均半径d0≦500nmの範囲の粒径を有する光透過性材料の微粒子が一体に成形されたマトリクスを作製し、プラズモン共鳴のピーク波長において、マトリクス自体の消衰係数kをk<0.01の範囲に抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の伝播媒質として好適に利用可能な、優れた電気光学効果を有する光学材料、ならびにその製造方法に関する。特には、光通信、光配線、光ストレージの分野において利用される各種の光学素子を構成する、薄膜型の光の伝播媒質として好適に応用可能な、優れた電気光学効果を有する光学薄膜材料と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信分野においては、光通信技術や光ストレージ技術の普及に伴い、ネットワークとの光信号の授受、電気信号と光信号との間の変換に用いられる各種の装置を構成する上で利用される光学素子の需要が増大している。特に、光通信分野においては、波長多重伝送の実用化に伴い、超高速光ファイバー・ネットワークを中心とした、所謂、基幹系の広域光通信ネットワークから、メトロ、アクセス系の光通信ネットワークへの利用が加速している。この利用範囲の拡大に付随し、ネットワーク上に接続される各ノード点における、光信号のアド・ドロップ等に利用される光学素子も、従来のバルク材を用いる光学素子を組み合わせる構成から、薄膜の光学材料を用いる平面導波路の利用により、小型化、集積化が可能な素子構成の応用が進んでいる。また、電気信号を光信号へと変換する際、光信号の外部変調やスイッチングのように光を能動的に制御するためには、電気信号に基づき生起される、電場や熱等の外部入力信号と、光学素子を形成する光学材料の相互作用による物理効果を用いる必要がある。
【0003】
特に、高い変調周波数を有する外部入力信号によって、高速な変調動作を行う際には、高速応答性に優れた電気光学効果を有する光学材料を利用することが有効である。例えば、印加された電場と物質の相互作用によって、電場と平行な方向と、電場に直交する方向では、物質の屈折率に差異が生じる電気光学効果は、その高速性、電圧駆動であることによる低消費電力性、構造の単純性から、光変調器に応用されている。一例を挙げると、一次電気光学効果を示すLiNbO3を用いた光変調器では、単結晶LiNbO3基板上にTi拡散法によりマッハツエンダー型導波路を形成し、各導波路に電場を印加する電極を組み合わせることで、光変調器を形成している。
【0004】
各種光学材料が示す光学特性は、その材料自体に起因するため、光学材料自体の組成、構成に依存している。一方、光学材料からなるマトリクス中に、金属微粒子を均一に分散させることによって、元の光学材料には存在していない、新たな光学特性を発現させる手法が、古くから知られている。例えば、光学材料からなるマトリクス中に均一に分散されている金属微粒子は、光散乱を引き起こす散乱体として機能する。先ず、光の振動電場によって、金属微粒子表面に誘起される振動双極子のため、レイリー散乱型の光散乱を起こさせる。レイリー散乱効率の波長依存性のため、短波長の光ほど散乱を受け易いため、白色光を入射すると、透過光強度の波長分布は、短波長(青色)成分が減少したものとなる。加えて、金属微粒子表面においては、特定の光波長域においてプラズモン共鳴が起こる。このプラズモン共鳴に起因して、特定の光波長域の散乱効率が高くなる。すなわち、白色光を入射すると、透過光強度の波長分布は、このプラズモン共鳴に起因する光の散乱の結果、特定の光波長域の成分が減少したものとなる。例えば、ステンドグラスにおける、透過光の「発色」は、ガラス・マトリクス中に分散させている、金属微粒子による光散乱の結果、透過光は、視覚的には、透過光強度が減少する波長域の「色」と補色関係にある「色」を呈することを利用している。
【0005】
近年、光学材料からなるマトリクス中に分散した金属微粒子を用いて、そのプラズモン共鳴を利用する、新たな光学特性の付与が試みられている。例えば、電気光学的な光変調効果を高める手法として、ナノ金属微粒子のプラズモン共鳴を利用する手法が提案されている。具体的には、液晶材料を利用する外部変調を行う際、液晶材料中にナノ金属微粒子を均一に分散させる構造として、この金属微粒子表面におけるプラズモン共鳴による光散乱を利用して、実効的な光の透過率変化を大きくする手法である(非特許文献1)。
【0006】
一方、結晶性の酸化物マトリクス中に、均一に分散したナノ金属微粒子を形成する方法としては、イオン・インプランテーション法を利用する手法が報告されている(非特許文献2)。ペロブストカイト型結晶構造を有する電気光学材料であるLiNbO3に、Cuをイオン注入し、注入イオン・フラックスを制御することで、生成されるCuナノ粒子の粒子径、サイズを制御することが可能であることが報告されている。このCuナノ粒子の生成に伴い、吸収スペクトル上に、プラズモン共鳴に起因するピークが現れることを示している。
【0007】
光導波路や光変調器等の光学素子の形成には、光の伝播媒質として、光透過性の薄膜材料が利用される。この光透過性の薄膜材料において、ナノ金属微粒子に起因するプラズモン共鳴を利用して、薄膜材料の光学特性制御が試みられている。電気光学効果を示す誘電体の母相中に、金属粒子を分散させた複合膜を、透明導電膜で挟持し、この透明導電膜に印加する電圧を変化させることにより、前記複合膜を透過する光の透過率を変化させることが可能であることが報告されている。この原理を利用する調光素子の発明が特許登録されている(特許文献1)。特には、誘電体膜に金属の粒子を分散させた複合膜は、伝導電子の共鳴効果により、誘電体膜単体と比較した時、電気光学効果が大きい特徴も利用されている。なお、該特許発明の調光素子を構成する、透明導電膜、複合膜は、それぞれ、PVD法(真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等)やCVD法(プラズマCVD法等)により形成されることも、開示されている。
【非特許文献1】J. Muller, C. Sonnichesen, H. von Poschinger, G. von Plessen, T. A. Klar and J. Feldmann: Appl. Phys. Lett., Vol.81 (2002) 4357
【非特許文献2】O. A. Plaksin, Y. Takeda, H. Amekura, N. Umeda, K. Kono, N. Okubo, N. Kishimoto: Appl. Surf. Sci., Vol.241 (2005) 213
【特許文献1】特許第2540894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電気信号を光信号に変換する、外部変調方式の光変調器や光スイッチにおいて、高速化を実現する上では、高い動作速度を有する電気光学効果を利用する電気光学変調方式が採用される。その際、デバイス・サイズの小型化を進める上では、大きな電気光学効果を示す光学材料を光の伝播媒質に採用することが必要となる。加えて、例えば、導波路型の光学素子において、そのデバイス・サイズの小型化を進める上では、光の伝播媒質に用いる電気光学効果を示す光学材料を薄膜化することが望まれる。すなわち、異種の基板上に所望の膜厚を有する薄膜として形成することが可能であり、作製された薄膜状の光学材料は、大きな電気光学効果を示すものであることが望まれている。
【0009】
それ自体電気光学効果を示す、光透過性の光学材料マトリクス中に金属微粒子を分散し、金属微粒子に起因するプラズモン共鳴を利用して、該光学材料の光学特性の制御、特に、電気光学効果を利用する光強度変調特性の増強を図る手法の開発は望まれている。特に、導波路型光学素子へ応用する際には、導波路を形成する薄膜型光学材料において、プラズモン共鳴を利用する光学特性の制御、特に、前記増強効果の発現と、該導波路を透過する光の波長における、薄膜型の光学材料の透明性の両立が重要である。すなわち、薄膜型光学材料の透明性が十分でない場合、該導波路内を伝播する間に、透過させる光の光量が低減してしまうため、光学素子自体の動作性能を損なう要因となる。従来のマトリクス材料中に金属微粒子を分散した薄膜の作製には、例えば、PVD法(真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等)やCVD法(プラズマCVD法等)が応用されてきた。これらの従来の成膜法で作製される、マトリクス材料中に金属微粒子を分散させた薄膜型光学材料では、金属微粒子に由来するプラズモン共鳴の共鳴波長近傍における、マトリクス材料自体の透明性が十分でないという問題点があった。
【0010】
本発明は、前記の課題を解決するものであり、本発明の目的は、光学素子、特には、導波路型の光学素子に好適に利用される、優れた透明性を示すマトリクス材料中に、所望の金属微粒子を均一に分散させた薄膜光学材料と、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、光透過性の光学材料マトリクス中に金属微粒子を分散した薄膜光学材料において、金属微粒子に起因するプラズモン共鳴を利用する光学特性の制御と、該薄膜光学材料中を透過させる光の波長における透明性とを両立させる手段を検討した。まず、PVD法(真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等)やCVD法(プラズマCVD法等)を応用する成膜法で作製された、従来の金属微粒子を分散させた薄膜型光学材料では、プラズモン共鳴波長近傍の透明性が十分でない原因を検討した。従来の成膜法、PVD法やCVD法では、マトリクスを構成する光学材料と、金属微粒子の形成に利用する金属材料とを、それぞれ原子、分子状で気相から供給し、混合した状態で基板上に堆積させる。次に、この堆積膜にアニール処理を施す間に、金属原子と、マトリクスを構成する光学材料が分離し、金属原子が凝集する結果、光学材料で構成されるマトリクス中に均一に分散された金属微粒子が形成される。このアニール過程では、光学材料で構成されるマトリクスの結晶粒の成長が進む間に、混合していた金属原子は排除され、結果的に、局所的に凝集されて、金属微粒子となる。例えば、粒径10nm以上のナノ金属微粒子が、所定の分散密度で存在する状態を達成するためには、堆積膜中に含有される金属原子の濃度を相当に高い濃度とする必要がある。その場合、粒径10nm以上のナノ金属微粒子に加えて、光学材料で構成されるマトリクスの結晶粒相互の粒界には、多数の金属クラスターが形成された状態となる。この金属クラスターのサイズは、例えば、1nmにも満たない極めて微細であるが、その密度は、粒径10nm以上のナノ金属微粒子の密度よりも遥かに高いものとなっていると推定される。
【0012】
アニール処理の過程では、恐らくは、次のようなステップを経て、粒径10nm以上のナノ金属微粒子が形成されると推測される。まず、光学材料で構成されるマトリクスの結晶粒の成長が進む間に、混合していた金属原子は排除され、当初、極めて微細なサイズの金属クラスターが、高い密度で形成される。さらに、この金属クラスターが相当数凝集することで、粒径10nm以上のナノ金属微粒子へと成長していく。当初、形成される極めて微細なサイズの金属クラスターの密度は、最終的に形成される粒径10nm以上のナノ金属微粒子の密度の数千倍と予測される。その後、金属クラスターの大半は、凝集してナノ金属微粒子へと成長しても、残っている金属クラスターの密度は、形成されたナノ金属微粒子の密度の数百倍に達することが予測される。また、粒径が数nm以下の十分に成長できていない金属クラスター凝集体(クラスター塊)の密度も、粒径10nm以上のナノ金属微粒子の密度の数十倍程度存在していることが予測される。例えば、金属微粒子(あるいは金属クラスター)の粒子径(あるいはクラスター径)dpと、その存在確率P(dp)の間に、P(dp)∝dp-2のような相関関係が推定される。その際、金属原子全体中に占める、比率f(dp)は、f(dp)∝dp3・P(dp)∝dpとなり、粒径数nm〜十数nmのナノ金属微粒子に利用される金属原子の総数は、∫f(dp)ddpを考慮すると、80%を超えるものとなっている。
【0013】
一方、これらの極めて微細なサイズの金属クラスターや金属クラスター凝集体(クラスター塊)は、勿論、レイリー散乱を引き起こす散乱体としての機能を有している。また、その分散密度は前述のように、極めて高い状態となっており、これらの極めて微細なサイズの金属クラスターや金属クラスター凝集体(クラスター塊)が起因となる、レイリー散乱に起因する光透過度の低減が顕著なものとなっていると推定される。前記の現象が、従来の成膜法、例えば、PVD法やCVD法で作製された、金属微粒子を分散させた薄膜型光学材料では、プラズモン共鳴波長近傍の透明性が十分でないことの主要な原因となっていると判断される。
【0014】
本発明者は、前記の課題を解決する手段、すなわち、所望の粒子径のナノ金属微粒子を、所定の分散密度で均一に分散させた状態とする際、付随的に、極めて微細なサイズの金属クラスターや金属クラスター凝集体(クラスター塊)が極めて高い密度で共存する状態となることを回避する手段を探索した。その結果、本発明者は、前記の課題を解決する手段として、光学材料で構成されるマトリクス中に、所望の平均粒子径を有するナノ金属微粒子を、所定の分散密度で均一に分散させた成形体を目的の膜厚で薄膜形成する際、常温衝撃固化現象を利用した薄膜形成法、特には、エアロゾルデポジション法(AD法)が有効であるということを見出した。まず、常温衝撃固化現象を利用した薄膜形成法、特には、エアロゾルデポジション法(AD法)を適用する際、原料粉末として、マトリクスを構成する光学材料粉末とナノ金属微粒子とが均一に分散・混合されている混合粉末を利用する。そのため、得られる薄膜においては、光学材料で構成されるマトリクス中に分散されている、ナノ金属微粒子の平均粒子径と、その分散密度を独立に高い精度で制御することが可能である。一方、予め作製されているナノ金属微粒子を原料として用いるため、極めて微細なサイズの金属クラスターや金属クラスター凝集体(クラスター塊)が付随的に共存する現象は、原理的に回避されている。さらに、形成される薄膜自体は、光学材料粉末が相互接合したマトリクス中に、予め準備した平均粒子径を有するナノ金属微粒子が取り込まれ、均一に分散した成形体として形成することが可能である。
【0015】
一方、常温衝撃固化現象を利用した薄膜形成法、特には、エアロゾルデポジション法(AD法)を適用して作製される、成形体薄膜中には、原料粉末中に僅かに混入している、目的の酸化物とは組成の異なる異種の酸化物微粉末に由来する「微細な異相」が散在していることを確認している(特開2005−181995号公報を参照)。例えば、溶融体を固化して、酸化物電気光学材料である(Pb1-xLax)(ZryTi1-y)O3(PLZT)の結晶を調製する過程で、部分的に、PbOが相分離して、結晶化したものが混入することがある。予め、酸化物電気光学材料の結晶を調製する過程で、僅かに副生される異種の酸化物結晶性微粉末が、原料粉末中に混入し、作製されたマトリクス材料中に「微細な異相」として、散在することがある。加えて、目的酸化物の微細な粉末相互が接合する過程で、「微細なポア(空孔)」が残余し、成形体中に均一に分布していることを確認している(特開2005−181995号公報を参照)。
【0016】
前記「微細な異相」は、目的のマトリクス材料とは組成の異なる異種の微粉末に由来するため、本来のマトリクス材料の屈折率とは、異なる屈折率を示す。また、「微細なポア(空孔)」部分は、微粉末の隙間空間がマトリクス中に残余したものであり、本来のマトリクス材料の屈折率とは、異なる屈折率を示す。「微細な異相」と「微細なポア(空孔)」は、該マトリクス材料中に均一に分散して存在する微粒子状の微細領域となっており、また、屈折率nならびに誘電率εが異なっているため、光の散乱体として機能する。具体的には、マトリクス材料中に均一に分散している、この微粒子状の微細領域は、該マトリクス中を伝播する光をレイリー散乱させる散乱体として機能する。その際、散乱体として機能する、「微粒子状の微細領域」の平均半径d2(nm)が、レイリー散乱を受ける光の波長λ(nm)よりも十分に小さい場合、光の進行方向に沿った消衰係数kは、k∝d26/λ4の比例関係で示される、「微粒子状の微細領域」の平均半径d2(nm)と光の波長λ(nm)に対する依存性を示すことを解明している(特開2005−181995号公報を参照)。
【0017】
このマトリクス材料中に均一に分散している「微粒子状の微細領域」によるレイリー散乱に起因する「実効的な光透過率の減衰」を抑制する上では、「微粒子状の微細領域」の平均半径d2(nm)が、該マトリクス中を伝播する光の波長λ(nm)よりも十分に小さくすることが、有効である。特には、該マトリクス材料中を伝播する光の真空中における波長λ0(nm)に対して、「微粒子状の微細領域」の平均半径d2(nm)が、d26/λ04<4×10−5 nm2の関係を満すように選択すると、該「微粒子状の微細領域」によるレイリー散乱に起因する「実効的な光透過率の減衰」を抑制する上では、顕著な効果を有する。この条件を満足すると、マトリクス材料中を通過し、入射側から出力側へと透過する光の比率、すなわち、実効的な光透過率を高く維持でき、「透明性の高い」マトリクス材料となることを確認している(特開2005−181995号公報を参照)。
【0018】
本発明においては、マトリクス材料自体は、前記の「微細な異相」と「微細なポア(空孔)」を均一に分散されている状態とし、この「透明性の高い」マトリクス材料中に、予め、該マトリクス材料中を伝播する光の真空中における波長λ0(nm)に対して、平均粒子径が該波長λ0(nm)より十分に小さくなるように調製したナノ金属微粒子を均一に分散させている成形体型薄膜を、常温衝撃固化現象を利用した薄膜形成法、特には、エアロゾルデポジション法(AD法)を用いて作製する。このナノ金属微粒子自体は、導体であるため、光の振動電場によって、分極は生じないが、その微粒子表面には、振動双極子が誘起され、散乱が起こる。その際、光の伝播媒質中を伝播させる光の真空中における波長λ0(nm)に対して、該ナノ金属微粒子の平均半径dm(nm)が、dm≦(1/10)×λ0となる範囲に選択し、プラズモン共鳴ピークのピーク波長λp0(nm)において、前記マトリクス材料自体の消衰係数kが、k<0.01の範囲に選択したマトリクス材料と組み合わせることで、作製された成形体薄膜の実効的な光透過率を高く維持でき、「透明性の高い」成形体薄膜となることを見出した。
【0019】
さらには、マトリクス材料自体は、微細な粒子構造が接合した成形体となっており、その微細な粒子相互の接合界面に起因して、光の散乱が生じる。接合されている、微細な粒子の平均半径d0(nm)が、d0≦500nmの範囲の粒径とすることで、作製された成形体薄膜の実効的な光透過率の低下を抑制できる。好ましくは、光の伝播媒質中を伝播させる光の真空中における波長λ0(nm)に対して、d0≦(1/10)×λ0となる範囲に選択すると、作製された成形体薄膜の実効的な光透過率を高く維持でき、「透明性の高い」成形体薄膜となることを見出した。
【0020】
本発明者は、上述する知見に基づき、以下に記載する本発明を完成するに至った。
【0021】
先ず、本発明にかかる光学材料は、
マトリクス材料と、該マトリクス材料中に分散された金属微粒子を具えてなる成形体型光学材料薄膜を、光の伝播媒質とする光学材料であり、
前記マトリクス材料は、常温衝撃固化現象によって、平均半径d0(nm)が、d0≦500nmの範囲の粒径を有する微粒子が一体に成形されたものであり、
前記マトリクス材料中に分散されている該金属微粒子は、プラズモン共鳴ピークを示し、
該金属微粒子の表面を構成する金属材料が、真空中において示すプラズモン共鳴ピークのピーク波長λp0(nm)において、前記マトリクス材料の消衰係数kが、k<0.01の範囲に選択されている
ことを特徴とする光学材料である。
【0022】
例えば、本発明にかかる光学材料を、薄膜光学材料の形態とする際には、
光透過性材料で構成されるマトリクスと、該マトリクス中に分散された金属微粒子を具えてなる成形体型光学材料からなる薄膜光学材料であって、
前記マトリクスは、常温衝撃固化現象によって、平均半径d0(nm)が、d0≦500nmの範囲の粒径を有する光透過性材料の微粒子が一体に成形されたものであり、
前記マトリクス中に分散されている該金属微粒子は、プラズモン共鳴ピークを示し、
該金属微粒子の表面を構成する金属材料が、真空中において示すプラズモン共鳴ピークのピーク波長λp0(nm)において、前記マトリクス自体の消衰係数kが、k<0.01の範囲に選択されている
ことを特徴とする薄膜光学材料とする。
【0023】
本発明にかかる光学材料では、
該マトリクス中に分散されている金属微粒子の平均粒子径は、
前記光学材料を、光の伝播媒質として利用する際、該光学材料中を伝播させるべき光の真空中における波長λ0(nm)に対して、
該金属微粒子の平均半径dm(nm)が、dm≦(1/10)×λ0となる範囲に選択されていることが好ましい。
【0024】
また、該金属微粒子の表面を構成する金属材料は、金、銀、銅、タングステンからなる単体金属の群から選択される単体金属、あるいは、それら金属二種以上で構成される合金材料であることが望ましい。
【0025】
さらに、本発明にかかる光学材料においては、
前記光透過性材料で構成されるマトリクスと、該マトリクス中に分散された金属微粒子を具えてなる成形体型光学材料は、
さらに、該マトリクス中に分散して存在する微粒子状の微細領域を具えており、
該マトリクス中に分散して存在する微粒子状の微細領域における屈折率n1は、前記マトリクスを構成する光透過性材料の屈折率n0と異なっており、
前記光学材料を、光の伝播媒質として利用する際、該薄膜光学材料中を伝播させるべき光の真空中における波長λ0(nm)に対して、
前記マトリクス材料中に分散して存在する微粒子状の微細領域の平均半径d2(nm)は、d26/λ04<4×10-5 nm2の関係を満すように選択されていることが好ましい。
【0026】
また、一体に成形された該マトリクスを構成している前記光透過性材料の微粒子は、
前記光学材料を、光の伝播媒質として利用する際、該光学材料中を伝播させるべき光の真空中における波長λ0(nm)に対して、
該光透過性材料の微粒子の平均半径d0(nm)が、d06/λ04<4×10-5 nm2の関係を満すように作製されていることが好ましい。
【0027】
一方、前記成形体型光学材料全体に対して、
該マトリクス中に分散されている金属微粒子の体積分率は、0.005%以上1%以下であることが望ましい。
【0028】
該マトリクス材料中に分散されている金属微粒子のプラズモン共鳴モードが一つである場合、プラズモン共鳴による光学吸収の大きく、またピークは鋭くなるため、プラズモン共鳴によるマトリクス材料の光学特性の制御、特に増強効果の発現に有効になる。また、金属微粒子のプラズモン共鳴モードを一つにするためには、金属微粒子を等方的にする必要があり、例えば、金属微粒子の形状を、球状もしくは立方体状にすることが有効である。
【0029】
一方、該マトリクス材料中に分散されている金属微粒子のプラズモン共鳴モードが複数ある場合、形状によりそれぞれの共鳴波長を制御することができ、必要とする波長でプラズモン共鳴を生じさせることができる。これは、使用できる波長に通常制限のある光素子等に応用する上では非常に有効である。金属微粒子のプラズモン共鳴モードを複数にするためには、金属微粒子を異方的にする必要があり、例えば、金属微粒子の形状を、回転楕円体、円柱状、円盤状にすることが有効である。金属微粒子の異方性の度合い、例えば、回転楕円体の長軸と短軸の比を変えることで、共鳴波長を制御することが可能となり、光学素子等の設計の自由度は高くなる。
【0030】
従って、上記する本発明にかかる光学材料においては、
該マトリクス材料中に分散されている金属微粒子のプラズモン共鳴モードが一つである構成とすることができる。その際、
該マトリクス材料中に分散されている金属微粒子の形状が球状、もしくは立方体形状であることが望ましい。
【0031】
あるいは、本発明にかかる光学材料においては、
該マトリクス材料中に分散されている金属微粒子のプラズモン共鳴モードが複数ある構成とすることができる。その際、
該マトリクス材料中に分散されている金属微粒子の形状が、回転楕円体、円柱状、円盤状であることが望ましい。
【0032】
一方、上記構成を有する本発明にかかる光学材料を製造する方法の発明も、提供しており、本発明にかかる光学材料の製造方法は、
上記構成を有する本発明の光学材料を製造する方法であって、
前記成形体型光学材料からなる薄膜の作製工程において、
前記マトリクスを構成する光透過性材料の微粉末状結晶と、前記金属微粒子とを所定の含有比率で均一に混合してなる原料粉末を、キャリアガス中に所定の密度で浮遊させ、所定の供給速度で下地層の表面に吹き付けて、
前記下地層の表面に吹き付けた際、原料粉末に含まれる前記光透過性材料の微粉末状結晶を、平均半径d0(nm)がd0≦500nmの範囲の微細粒子に粉砕し、
該微細粒子相互を、常温衝撃固化現象を利用して接合させ、
前記金属微粒子を、該微細粒子の接合体の隙間に均一に分散させた成形体の薄膜を形成する
ことを特徴とする光学材料の製造方法である。
【0033】
その際、前記常温衝撃固化現象を利用する成形体の薄膜を形成する手法として、エアロゾルデポジション法を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0034】
本発明にかかる薄膜光学材料は、形成された所望の膜厚を有する薄膜中には、所望の平均粒子径を有するナノ金属微粒子を、面内方向、膜厚方向ともに均一な密度で、所望の密度で分散させており、このナノ金属微粒子に起因するプラズモン共鳴の効果を利用して、所望の透過特性と膜厚を有する薄膜として形成された光学材料が達成されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明に関して、以下により詳しく説明する。
【0036】
本発明にかかる薄膜光学材料は、各種の光学素子、特には、導波路型の光学素子中において、光の伝播媒質として利用することを想定して、その構成の設計を行った成形体型光学材料からなる薄膜光学材料である。具体的には、当該薄膜光学材料を光の伝播媒質として利用する光学素子の用途、動作形態に応じて、適宜、該薄膜光学材料の膜厚を適正に選択するとともに、その動作形態に応じて、種々の下地層の表面に目的の構成を具えた薄膜として、所望の膜厚で作製される。本発明にかかる薄膜光学材料では、対象とする光学素子において、光の伝播媒質として利用する際、該薄膜光学材料中を伝播させるべき光の真空中における波長λ0(nm)に基づき、その構成の設計がなされている。まず、少なくとも、前記真空中における波長λ0(nm)の光に対して、高い光透過性を有する光透過性材料を選択する。そして、この光透過性材料で構成されるマトリクスと、該マトリクス中に分散された金属微粒子を具えてなる成形体型光学材料からなる薄膜光学材料の形態を選択している。その際、該マトリクス中に分散されている金属微粒子の平均粒子径、特には、平均半径dm(nm)を、該薄膜光学材料中を伝播させるべき光の真空中における波長λ0(nm)に基づき、前記所望の範囲に選択した上で、所望の分散密度で、マトリクス中に均一に分散した成形体型光学材料薄膜としている。
【0037】
特許第2540894号公報に開示される手法では、電気光学効果を有する誘電体の母相に金属粒子を分散させた複合膜を形成する際、PVD法(真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等)やCVD法(プラズマCVD法等)を応用して、例えば、二元蒸着法を利用して、誘電体材料と、金属材料とを独立に供給しつつ、複合膜を形成している。その手法では、形成される複合膜中における、誘電体材料と金属材料との含有比率(体積分率)は、個々の供給量の比率を選択することで制御可能であり、金属粒子は、複合膜中に均一に分散したものとなる。しかしながら、分散されている金属粒子の平均粒子径と、その分散密度をそれぞれ独立に制御することは、特許第2540894号公報に開示される手法では困難である。例えば、誘電体材料と金属材料との含有比率(体積分率)は同じであっても、金属粒子の平均粒子径と、その分散密度を任意に選択することは全く困難である。特に、所定のナノサイズの平均粒子径を有する金属微粒子を、誘電体材料で構成される薄膜中に、所望の分散密度で分散している光学材料薄膜は、PVD法(真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等)やCVD法(プラズマCVD法等)を応用することでは作製困難である。
【0038】
加えて、PVD法(真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等)やCVD法(プラズマCVD法等)では、誘電体材料と金属材料は、成膜表面に分子(または原子)の形態で付着され、その表面状において、誘電体膜を構成するとともに、金属原子は凝集して、金属粒子を構成する。その過程では、生成する金属粒子の周囲では、誘電体膜は、非晶質化する、もしくは結晶性が悪くなるため、金属粒子の分散密度によっては、複合膜全体において、良好な結晶性を有する領域の比率が低下したものとなる。
【0039】
まず、PVD法やCVD法では、マトリクスを構成する光学材料と、金属微粒子の形成に利用する金属材料とを、それぞれ原子、分子状で気相から供給し、混合した状態で基板上に堆積させる。次に、この堆積膜にアニール処理を施す間に、金属原子と、マトリクスを構成する光学材料とが分離し、金属原子が凝集する結果、光学材料で構成されるマトリクス中に均一に分散された金属微粒子が形成される。このアニール過程では、光学材料で構成されるマトリクスの結晶粒の成長が進む間に、混合していた金属原子は排除され、結果的に、局所的に凝集されて、金属微粒子となる。例えば、粒径10nm以上のナノ金属微粒子が、所定の分散密度で存在する状態を達成するためには、堆積膜中に含有される金属原子の濃度を相当に高い濃度とする必要がある。その場合、粒径10nm以上のナノ金属微粒子に加えて、光学材料で構成されるマトリクスの結晶粒相互の粒界には、多数の金属クラスターが形成された状態となる。この金属クラスターのサイズは、例えば、1nmにも満たない極めて微細であるが、その密度は、粒径10nm以上のナノ金属微粒子の密度よりも遥かに高いものとなっていると推定される。
【0040】
アニール処理の過程では、恐らくは、次のようなステップを経て、粒径10nm以上のナノ金属微粒子が形成されると推測される。まず、光学材料で構成されるマトリクスの結晶粒の成長が進む間に、混合していた金属原子は排除され、当初、極めて微細なサイズの金属クラスターが、高い密度で形成される。さらに、この金属クラスターが相当数凝集することで、粒径10nm以上のナノ金属微粒子へと成長していく。当初、形成される極めて微細なサイズの金属クラスターの密度は、最終的に形成される粒径10nm以上のナノ金属微粒子の密度の数千倍と予測される。その後、金属クラスターの大半は、凝集してナノ金属微粒子へと成長しても、残っている金属クラスターの密度は、形成されたナノ金属微粒子の密度の数百倍に達することが予測される。また、粒径が数nm以下の十分に成長できていない金属クラスター凝集体(クラスター塊)の密度も、粒径10nm以上のナノ金属微粒子の密度の数十倍程度存在していることが予測される。例えば、金属微粒子(あるいは金属クラスター)の粒子径(あるいはクラスター径)rmpと、その存在確率P(rmp)の間に、P(rmp)∝rmp-2のような相関関係が推定される。その際、金属原子全体中に占める、比率f(rmp)は、f(rmp)∝rmp3・P(rmp)∝rmpとなり、粒径数nm〜十数nmのナノ金属微粒子に利用される金属原子の総数は、∫f(rmp)drmpを考慮すると、80%を超えるものとなっている。
【0041】
一方、これらの極めて微細なサイズの金属クラスターや金属クラスター凝集体(クラスター塊)は、勿論、レイリー散乱を引き起こす散乱体としての機能を有している。また、その分散密度は前述のように、極めて高い状態となっており、これらの極めて微細なサイズの金属クラスターや金属クラスター凝集体(クラスター塊)が起因となる、レイリー散乱に起因する光透過度の低減が顕著なものとなっていると推定される。前記の現象が、従来の成膜法、例えば、PVD法やCVD法で作製された、金属微粒子を分散させた薄膜型光学材料では、プラズモン共鳴波長近傍の透明性が十分でないことの主要な原因となっていると判断される。
【0042】
本発明では、レイリー散乱に起因する光透過度の低減を回避するため、上記の極めて微細なサイズの金属クラスターや金属クラスター凝集体(クラスター塊)の生成を抑制する手段として、特開2005−181995号公報に開示する手法を利用している。すなわち、本発明では、光透過性材料で構成されるマトリクスと、該マトリクス中に分散された金属微粒子を具えてなる成形体型光学材料からなる薄膜光学材料を作製する際、特開2005−181995号公報に開示する手法の有する下記の利点を利用している。特に、マトリクスの構成に利用する光透過性材料として、結晶構造を有する酸化物材料を利用し、その際、下記の利点(1)〜(3)を利用している。
【0043】
利点(1):結晶構造を有する酸化物材料の微細結晶を、常温衝撃固化現象を利用して、相互に接合することで、全体として、透明度の高い成形体型光学材料薄膜を、任意の膜厚で、下地層の表面上に形成できること。
【0044】
利点(2):この成形体型光学材料薄膜は、結晶構造を有する酸化物材料の微細結晶相互が接合した形状を有している。その結果、用いる酸化物材料が電気光学効果を有する場合、得られる成形体型光学材料薄膜も、該酸化物材料の結晶が示す電気光学効果と匹敵する電気光学効果を発揮すること。
【0045】
利点(3):加えて、該成形体型光学材料薄膜の微細加工性は、それを構成する酸化物材料の微細結晶の粒径により制約を受けるが、微細結晶の粒径をナノサイズにすると、ナノサイズの精度の微細加工性が達成できること。
【0046】
さらに、本発明では、マトリクスの構成に利用する光透過性材料として、結晶構造を有する酸化物材料を利用する場合、原料粉末として、結晶構造を有する酸化物材料の微粉末状結晶と、金属微粒子とを所定の比率で均一に混合した混合粉末を用いる。下地基板上にこの混合粉末を吹き付け、結晶構造を有する酸化物材料の微細結晶を、常温衝撃固化現象を利用して、相互に接合する過程で、金属微粒子が混在していると、この金属微粒子を取り囲むように、酸化物材料の微細結晶が配置された状態で接合が進行する。そのため、上記の方法は、下記の特徴(1)、(2)を具えるものとなっている。
【0047】
特徴(1):金属微粒子の周囲において、非晶質化する、もしくは結晶性が悪くなるという不具合は生じないこと。
【0048】
特徴(2):混在させる金属微粒子は、予め、その平均粒子径を選択でき、金属微粒子の混合比率によって、得られる薄膜中に含まれる金属微粒子の分散密度を、金属微粒子の平均粒子径と独立して選択できること。
【0049】
その際、本発明では、常温衝撃固化現象を利用する成膜法を適用する際、平均粒子径、密度が互いに相違している、光透過性材料の微細結晶と金属粒子を混合した上で、原料粉末として利用する。好ましくは、エアロゾルデポジション法を利用することで、原料粉末中の配合比率に比例する含有比率を有する成形体型光学材料薄膜を高い再現性で作製している。加えて、光透過性材料の微細結晶の飛来速度を適正に選択すると、サブミクロンの粒径を有する微細結晶が、成膜面に入射する際、その微細結晶には機械的衝撃力が負荷され、成膜面上において、粉砕され、ナノサイズの超微細粒子となる。従って、粉砕によって生成される、光透過性材料のナノサイズの超微細粒子が、互いに接合する状態となる。常温衝撃固化現象を利用する際、原料粉末の飛来速度は、マトリクスの構成に利用する光透過性材料の種類、平均粒径、また、基板材料の種類等を考慮し、適宜選択されるものである。本発明で利用される光透過性材料、例えば、結晶構造を有する酸化物材料に対しては、通常、50m/s以上の速度を用いることが望ましい。
【0050】
粉砕によって生成される、光透過性材料の超微細粒子の平均半径d0(nm)は、d0≦500nmの範囲とできる。従って、該薄膜光学材料中を伝播させるべき光が、可視光領域から近赤外光領域の光、例えば、真空中における波長λ0(nm)が500nm〜2000nmの範囲の光である場合、該マトリクスを構成する超微細粒子の平均半径d0(nm)は、前記光の波長λ0(nm)より小さなものとできる。該薄膜光学材料を、光の伝播媒質として利用する際、該薄膜光学材料中を伝播させる光の真空中における波長λ0(nm)に対して、好ましくは、該マトリクスを構成する超微細粒子の平均半径d0(nm)が、d06/λ04<4×10-5 nm2の関係を満すように作製することもできる。
【0051】
なお、単位体積当り、該マトリクスを構成している、光透過性材料の超微細結晶粒子の個数Nは、N∝d03の関係に従って、超微細結晶粒子の平均半径d0(nm)が小さくなるとともに、増大していく。
【0052】
このような光透過性材料の超微細結晶粒子相互が接合する際、その境界面によって、レイリー散乱が生じる。この境界面に起因するレイリー散乱は、形成される成形体型の該マトリクス自体の透明度、実効的な光透過率を低下させる要因の一つとなる。その際、光の伝播媒質として利用する際、該成形体型光学材料薄膜中を伝播させる光の真空中における波長λ0(nm)に対して、前記の条件;すなわち、該光透過性材料の超微細結晶粒子の平均半径d0(nm)が、d06/λ04<4×10-5 nm2の関係を満すと、境界面に起因するレイリー散乱の寄与をより効果的に抑制できる。
【0053】
また、マトリクスを構成する光透過性材料の微細粒子、例えば、ナノサイズの超微細粒子を互いに接合する際、その微細粒子の間に存在する隙間空間が残された状態で相互接合が進行する場合がある。その場合、該マトリクス中には、前記隙間空間に由来するポア(空孔)が散在している状態となる。かかるポア(空孔)の形状は、概ね微粒子状となり、また、そのサイズ(径)は、その起源となる微細粒子の間に存在する隙間空間のサイズに依存する。具体的には、微細粒子の間に存在する隙間空間のサイズは、微細粒子自体の平均粒子径と比例しており、前記超微細粒子の平均半径d0(nm)を小さくすることで、生成するポア(空孔)の平均半径dp(nm)を小さくすることができる。好ましくは、該成形体型光学材料薄膜中を伝播させる光の真空中における波長λ0(nm)に対して、前記超微細粒子の平均半径d0(nm)を小さくすることで、生成するポア(空孔)の平均半径dp(nm)も、dp6/λ04<4×10-5 nm2の関係を満すように作製することもできる。
【0054】
加えて、原料中に含まれる光透過性材料の微細結晶、例えば、結晶構造を有する酸化物材料の微細結晶の調製過程では、例えば、溶融体を固化して、酸化物電気光学材料である(Pb1-xLax)(ZryTi1-y)O3(PLZT)の微細結晶やPb(ZryTi1-y)O3(PZT)の微細結晶を調製する手法が利用される。その過程で、作製される結晶構造を有する酸化物材料の微細結晶中に、部分的に、PbOが相分離して、結晶化したものが混入することがある。その際、混入している、結晶化したPbOも、常温衝撃固化現象を利用する成膜法を適用する際、PLZTの超微細結晶粒子やPZTの超微細結晶粒子と同様に、結晶化したPbOも超微細結晶粒子の形態として、該マトリクス中に取り込まれた状態となる。このような酸化物材料からなるマトリクスを構成する、目的と異なる材料、あるいは、異なる組成を有する部位(異相)は、微粒子状の微細領域として、該マトリクス中に散在している状態となる。かかる異相の形状は、概ね微粒子状となり、また、そのサイズ(粒径)は、通常、目的の光透過性材料の微細粒子、例えば、ナノサイズの超微細粒子のサイズと同等となる。従って、該マトリクスを構成している、目的の光透過性材料、例えば、酸化物材料の微細粒子、例えば、ナノサイズの超微細粒子の平均半径d0(nm)を小さくすると、「異相」のサイズ(粒径)も同様に小さくなる。好ましくは、該成形体型光学材料薄膜中を伝播させる光の真空中における波長λ0(nm)に対して、酸化物材料の超微細粒子の平均半径d0(nm)を小さくすることで、混入する異相の平均半径dc(nm)が、dc6/λ04<4×10-5 nm2の関係を満すように作製することもできる。
【0055】
該マトリクス材料中に散在している、ポア(空孔)あるいは異相は、ともに、微粒子状の微細領域であり、かかる微細領域における屈折率n1は、前記光透過性材料の屈折率n0と異なっている。従って、かかる微粒子状の微細領域でも、レイリー散乱が生じ、形成される成形体型の該マトリクス自体の透明度、実効的な光透過率を低下させる、要因の一つとなる。なお、該微粒子状の微細領域の平均半径d2(nm)は、生成するポア(空孔)の平均半径dp(nm)や混入する異相の平均半径dc(nm)に相当する。従って、光の伝播媒質として利用する際、該成形体型光学材料薄膜中を伝播させる光の真空中における波長λ0(nm)に対して、前記の条件;すなわち、該微粒子状の微細領域の平均半径d2(nm)が、d26/λ04<4×10-5 nm2の関係を満すと、「微粒子状の微細領域」に起因するレイリー散乱の寄与をより効果的に抑制できる。
【0056】
本発明では、光透過性材料で構成されるマトリクス中に、所望の平均粒子径を有する金属微粒子を、所定の分散密度で分散している成形体型光学材料薄膜を作製しいている。この成形体型光学材料薄膜を光の伝播媒質として用いる際、この金属微粒子も、勿論、該薄膜光学材料中を伝播する光に対する散乱中心として機能する。該金属微粒子に起因するレイリー散乱も、当然に、成形体型光学材料薄膜における「実効的な光透過率の減衰」を引き起こす要因の一つとなる。この金属微粒子に起因するレイリー散乱の寄与を効果的に抑制するために、光の伝播媒質として利用する際、該成形体型光学材料薄膜中を伝播させる光の真空中における波長λ0(nm)に対して、該金属微粒子の平均半径dm(nm)を、dm≦(1/10)×λ0となる範囲に選択することが好ましい。
【0057】
成形体型光学材料薄膜中において、マトリクスを構成している光透過性材料微粒子の粒径、生成するポア(空孔)や混入する異相の粒径、さらには、分散されているナノ金属微粒子の粒径の測定は、作製される薄膜の断面透過電子顕微鏡観察により行うことが可能である。例えば、下記の具体例においては、作製される薄膜の断面透過電子顕微鏡観察に、透過電子顕微鏡:H−9000UHR(日立製)を利用し、明視野像を観察し、マトリクスを構成している光透過性材料微粒子の粒径を測定している。
【0058】
透過電子顕微鏡により観察される明視野像において、分散されているナノ金属微粒子は、暗部(dark spot)として識別される。光透過性材料微粒子相互の境界部は、明視野像中において、微粒子内部と、濃淡差を有する領域として識別される。「ポア(空孔)」は、光透過性材料微粒子部分と比較すると、透過電子量が増すため、識別可能な濃淡差を有する。「異相」の微粒子と、光透過性材料微粒子とは、組成が異なり、透過電子量に若干の差違が生じる。従って、詳細に濃淡差を比較すると、「異相」の微粒子と、光透過性材料微粒子の区別が可能である。両者の区別を行った上で、例えば、含有される金属種類の相違を、特性X線の相違を観察することで、確認を行うことができる。
【0059】
本発明では、光透過性材料で構成されるマトリクス中に、分散される金属微粒子は、常温衝撃固化現象を利用する成膜法を適用する際、光透過性材料を構成する金属元素と交換し、相互拡散を引き起こすことの無いものが利用される。また、予め、平均粒子径がナノサイズとした金属微粒子を容易に調製可能であることが好ましい。これらの要件を考慮すると、該金属微粒子の表面を構成する金属材料として、金、銀、銅、タングステンからなる単体金属の群から選択される単体金属、あるいは、それら金属二種以上で構成される合金材料が好適に利用できる。貴金属である金、銀は、表面化合物膜を形成しづらく、ナノ金属微粒子の形成が容易である。また、銅は、金、銀と比較すると、格段に酸化を受け易いが、ナノ粒子の作製は容易であり、また、表面酸化膜は、比較的容易に還元して、金属面を回復することも可能である。一方、タングステンも、酸化はされるものの、酸化の進行は遅いので、ナノ粒子作製の障害とならない。
【0060】
本発明では、光透過性材料として、結晶構造を有する酸化物電気光学材料を利用する際、金属微粒子に起因するプラズモン共鳴に付随して、このプラズモン共鳴のピーク波長λp(nm)の近傍において、成形体型光学材料薄膜全体の実効的な屈折率は、大きな波長依存性を示すことを利用している。該金属微粒子の表面を構成する金属材料として、金、銀、銅を用いている際には、真空中におけるプラズモン共鳴のピーク波長λp0(nm)は、可視光領域に存在する。一方、タングステンを用いる際には、プラズモン共鳴のピーク波長λp(nm)は、近赤外領域に存在する。すなわち、タングステンに由来する、真空中におけるプラズモン共鳴のピーク波長λp0(nm)は1430nmであり、長距離光通信で用いられるレーザー光の波長領域(1.4μm帯)に対応しており、この波長領域の光学素子への応用に適している。
【0061】
例えば、真空中におけるプラズモン共鳴のピーク波長λp0(nm)は、金では、526nm、銀では、320nm、銅では、550nm、タングステンでは、1430nmである。本発明の薄膜光学材料を光の伝播媒質として利用する光学素子では、その目的に応じて、該成形体型光学材料薄膜中を伝播させるべき光の真空中における波長λ0(nm)が適宜選択される。この選択される光の真空中における波長λ0(nm)に基づき、好適に利用可能な、真空中におけるプラズモン共鳴のピーク波長λp0(nm)を選択し、対応させて、該プラズモン共鳴を与える、金属微粒子の金属種類を選択することが好ましい。
【0062】
本発明では、光透過性材料で構成されるマトリクス中に分散されている、ナノサイズの金属微粒子に起因するプラズモン共鳴に付随して、このプラズモン共鳴のピーク波長λp(nm)の近傍において、成形体型光学材料薄膜全体の実効的な屈折率neff、ならびに、実効的な消衰係数keffは、大きな波長依存性を示すことを利用している。
【0063】
光透過性材料で構成されるマトリクス中に、ナノサイズの金属微粒子を分散した成形体型光学材料における、屈折率n、ならびに消衰係数kの波長依存性について、具体例を示して、説明する。この成形体型光学材料では、分散されている金属微粒子に起因するプラズモン共鳴のピーク波長λp(nm)の近傍で、実効的な複素屈折率:n+ikを考慮すると、その虚数部k(消衰係数)は、プラズモン共鳴のピーク波長λp(nm)でピークを示し、同時に、実数部nは、対応するように、急激な変化を示す。
【0064】
図7に、酸化物電気光学材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(ZrxTi1-x)O3)中に、ナノサイズの金微粒子を分散させた成形体の屈折率(n+ik)の波長依存性の計算結果を示す。この計算では、PZTと金の屈折率(n+ik)の波長依存性は、それぞれバルク材料の値を用い、有効媒質近似法により計算した。すなわち、成形体中に分散されている金微粒子の平均半径dm(nm)は、計算された範囲の光の波長λ0(nm)よりも十分に微細であるという前提下で、前記の近似法を適用している。なお、成形体中に占める金微粒子の体積分率は0.6%とした。消衰係数kは、波長670nmにピークを持ち、このピーク波長は、金微粒子に起因するプラズモン共鳴に由来している。対応して、複素屈折率(n+ik)の実数部nは、波長670nm付近で大きく変化している。従って、このプラズモン共鳴の効果を利用すると、電場を印加する際、より大きな屈折率変化が得られ、電気光学効果の増大が可能になる。
【0065】
また、図9には、酸化物電気光学材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(ZrxTi1-x)O3)のマトリクス中に、ナノサイズの金微粒子を分散させた成形体の薄膜を、ガラス基板の表面上に形成したと仮定して、垂直入射条件での光透過率Tの波長λ依存性を推定計算した結果を示す。この垂直入射条件では、成形体の薄膜の表面から光を垂直に入射させ、ガラス基板の裏面側から光を出射させる形態であり、成形体の薄膜表面、成形体の薄膜とガラス基板表面との界面、ガラス基板の裏面で、それぞれ反射が生じる。また、分散されている金属微粒子の表面での反射も生じている。これらの反射の影響によって、光透過率の上限は、0.76となっている。さらに、ガラス基板自体の光吸収により、300nmよりも波長が短い紫外線領域は、透過が起こらない。また、PZT自体の光吸収端が、波長370nm付近にあり、その波長付近から透過率Tは増加し始める。加えて、光透過性材料のマトリクス中に分散されているナノサイズの金微粒子、ならびに、光透過性材料のマトリクス中散在している、ポア(空孔)あるいは異相などの「微粒子状の微細領域」に起因するレイリー散乱の波長依存性、すなわち、波長の短い光ほど、散乱を受け易いため、全体として、波長の短い領域の実効的な光透過率が減少している。一方、波長670nm付近にピークを示す、実効的な光透過率の減少は、金微粒子に起因するプラズモン共鳴に由来するものである。
【0066】
真空中における、金微粒子のプラズモン共鳴のピーク波長λp0(nm)は、526nmであり、屈折率n(比誘電率εr)が大きなPZT中に分散すると、プラズモン共鳴のピーク波長λp(nm)は、この屈折率n(比誘電率εr)の増加に伴って、長くなる。すなわち、光透過性材料の成形体中に分散されている、金属微粒子に起因するプラズモン共鳴の効果を利用するためには、この成形体を利用する光の伝播媒質中を伝播する光の波長λ0(nm)は、この光透過性材料のマトリクス中における金属微粒子に起因するプラズモン共鳴のピーク波長λp(nm)に相当するものとする。従って、電気光学効果増大の目的では、この成形体を利用する光の伝播媒質中を伝播する光の波長λ0(nm)は、該金属微粒子の表面を構成する金属材料が、真空中において示すプラズモン共鳴ピークのピーク波長λp0(nm)よりも長く選択する。
【0067】
実際的には、作製された金属微粒子を分散している、電気光学効果を示す光透過性材料の成形体中において、実際に観測されるプラズモン共鳴のピーク波長λp(nm)に対して、該ピークの半値全幅Δλp1/2(=Δλp1/2++Δλp1/2-)を用いて、この成形体中を伝播させるべき光の波長λ0(nm)を、少なくとも、λp<λ0≦(λp+Δλp1/2)の範囲、好ましくは、(λp+0.1×Δλp1/2)≦λ0≦(λp+0.6×Δλp1/2)の範囲に選択することが好ましい。
【0068】
屈折率n(比誘電率εr)の光透過性材料で構成されているマトリクス中に存在している、金微粒子に起因するプラズモン共鳴のピークλp(nm)は、真空中に存在している、金微粒子のプラズモン共鳴のピーク波長λp0(nm)と、光透過性材料の誘電率(比誘電率εr)、屈折率nを用いて、次式で表すことができる。
【0069】
λp=λp0・(1+(εr−1))1/2
≒λp0・n
ここで、光の振動数の範囲では、εr≒n2である。
【0070】
図8に、金微粒子のプラズモン共鳴のピーク波長λp(nm)の、マトリクスを構成する光透過性材料の誘電率εr(屈折率n)依存性を示す。光透過性材料の比誘電率εr(屈折率n)の増加により、プラズモン共鳴のピーク波長λp(nm)は増加している。
【0071】
すなわち、マトリクスの構成に用いる、光透過性材料の屈折率nは、真空中の屈折率1よりも大きく、マトリクス(光透過性材料)中における光の速度vMと、真空中の光の速度(光速)c0の関係は、c0/vM=n、つまり、vM=c0/nとなっている。従って、真空中において、波長λp(nm)の光は、屈折率n(比誘電率εr)の光透過性材料のマトリクス中おいては、その波長は、λp/n(nm)≒λp0となり、金表面におけるプラズモンと共鳴可能となる。
【0072】
加えて、電気光学効果を示す酸化物材料で構成されるマトリクスに電場を印加すると、かかる酸化物材料のマトリクスの屈折率nは、n+Δnに変化するため、プラズモン共鳴のピーク波長λp(nm)が変化することがわかる。
【0073】
なお、金属微粒子に起因するプラズモン共鳴に由来する消衰係数kの増大は、マトリクス中に分散されている金属微粒子の分散密度が増すとともに、増強される。その際、金属微粒子の分散密度が増し、金属微粒子に起因するプラズモン共鳴に由来する消衰係数kの増大がなされると、対応して、プラズモン共鳴のピーク波長前後における、屈折率nの変化量も増大される。従って、かかるプラズモン共鳴に起因する屈折率変化を利用することによって、マトリクス中に分散されている金属微粒子の分散密度が増すとともに、より大きくなる。
【0074】
一方、マトリクス中に分散されている金属微粒子の分散密度が必要以上に増すと、かかる金属微粒子に起因するレイリー散乱も増大する。そのため、プラズモン共鳴に起因するピーク領域以外の波長領域においても、光透過率の低下が引き起こされ、全体的な透明度は低下する。その点を考慮すると、金属微粒子の分散密度は、形成される成形体型光学材料薄膜中における、金属微粒子の占める比率(体積比率)として、1%以下に選択することが望ましい。通常、形成される成形体型光学材料薄膜中における、金属微粒子の占める比率(体積比率)を、0.5%〜0.005%の範囲、好ましくは、0.1%〜0.005%の範囲に選択することがより望ましい。
【0075】
なお、本発明にかかる薄膜光学材料は、光学素子における光の伝播媒質として利用する際、光透過性材料からなるマトリクスと、該マトリクス中に分散された金属微粒子を具えてなる成形体型光学材料薄膜を、その使用形態に応じて、所望の形状にパターン加工して利用する。特に、成形体型光学材料薄膜は、マトリクスを構成する光透過性材料の微粉末状結晶と金属微粒子を、下地層表面に吹く付け、光透過性材料の微粉末を更に粉砕して、得られる微細粒子相互を、常温衝撃固化現象を利用して接合させて、均質なマトリクスを形成する。そのマトリクス中に、金属微粒子が均一に分散した状態とする。形成される薄膜の膜厚は、均一であるが、微視的には、表面は、かかる微細粒子の平均粒子径に相当する極めて微細な凹凸を示すものとなる。この極めて微細な凹凸は、光の乱反射を引き起こす要因ともなり、使用目的に応じた平坦さを有する表面とするため、所定の研磨処理を施すことが望ましい。
【0076】
加えて、本発明にかかる薄膜光学材料では、光透過性材料からなるマトリクスと、該マトリクス中に分散された金属微粒子を具えてなる成形体型光学材料薄膜の形態とすることで、分散されている金属微粒子に起因するプラズモン共鳴の効果を利用している。常温衝撃固化現象を利用して、成膜された成形体型光学材料薄膜は、成膜した時点でも、分散されている金属微粒子に起因するプラズモン共鳴を示すが、多くの場合、さらに、かかる薄膜にアニール処理を施すと、分散されている金属微粒子に起因するプラズモン共鳴の効果が向上される。このアニール処理の条件は、利用されている光透過性材料の種類、ならびに、分散されている金属微粒子の種類、サイズによって、適宜選択することが好ましい。光透過性材料として、各種の酸化物材料を利用する場合、一般的に、アニール処理の条件として、アニール温度は、850℃〜350℃の範囲、アニール雰囲気は、酸素を含む雰囲気を選択し、少なくとも、アニール時間を5分間〜30分間の範囲に選択することが望ましい。
【0077】
本発明にかかる薄膜光学材料では、マトリクスを構成する光透過性材料として、例えば、一次電気光学効果を示す酸化物材料を利用することができる。その際、一次電気光学効果によって、酸化物材料で構成されるマトリクスの屈折率nが、電場の印加前後で変化することに付随し、金属微粒子に起因するプラズモン共鳴のピーク波長λp(nm)をシフトさせることができる。このプラズモン共鳴のピーク波長λp(nm)のシフトを利用して、プラズモン共鳴のピーク波長λp(nm)近傍の特定の波長における、該薄膜光学材料の実効的な光透過率(または、実効的な消衰係数keff)を印加する電場によって、変化させる形態で利用することができる。また、プラズモン共鳴のピーク波長λp(nm)のシフトを利用して、プラズモン共鳴のピーク波長λp(nm)近傍の特定の波長における、該薄膜光学材料の実効的な屈折率neffを印加する電場によって、変化させる形態で利用することができる。従って、前記の形態では、マトリクスを構成する酸化物材料としては、大きな電気光学効果を示すものが好適である。従って、ジルコン酸チタン酸鉛(Pb(ZrxTi1-x)O3)、ランタンが添加されたジルコン酸チタン酸鉛((Pb,La)(ZrxTi1-x)O3)、ストロンチウム添加チタン酸バリウム((Ba,Sr)TiO3)、ストロンチウム添加チタン酸鉛((Pb,Sr)TiO3)、KTN(K(TixNb1-x)O3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)からなる電気光学効果を示す材料の群から選択される電気光学効果を示す材料を選択すると好ましい。
【0078】
本発明にかかる薄膜光学材料においては、光透過性材料で構成されるマトリクスの透明度を示す指標について、前記マトリクス中に分散されている該金属微粒子は、プラズモン共鳴ピークを示し、該金属微粒子の表面を構成する金属材料が、真空中において示すプラズモン共鳴ピークのピーク波長λp0(nm)において、前記マトリクス自体の消衰係数kが、k<0.01の範囲に選択されていることを基準としている。この基準を選択する技術的な意義を以下に説明する。
【0079】
まず、作製された薄膜光学材料の光透過率を、垂直入射条件において、分光光度計によって測定すると仮定する。測定される光透過率は、所定膜厚の成形体型光学材料薄膜と、その下地基板(例えば、ガラス基板)を透過した光量を測定した結果である。
【0080】
まず、実測される透過率:Tobs1(λ)は、該薄膜試料表面での反射率:R0(λ)、該薄膜試料内における、吸収、光散乱に起因する、見かけの吸収率:A0(λ)、下地基板(ガラス基板)と薄膜試料との界面での反射率:R1(λ)、下地基板(ガラス基板)自体の吸収率:A1(λ)を用いて、次のように近似的に表すことができる。
【0081】
obs1(λ)≒1−{R0(λ)+A0(λ)+R1(λ)+A1(λ)}
その際、該薄膜試料表面での反射率:R0(λ)、下地基板(ガラス基板)と薄膜試料との界面での反射率:R1(λ)、下地基板(ガラス基板)自体の吸収率:A1(λ)は、下記のようにして、見積もることができる。すなわち、原料粉末として、光透過性材料の粉末のみを用いて、同様の条件で作製した、光透過性材料のマトリクスからなる、極く薄い単体膜において測定される透過率スペクトルにおいて、実測される透過率:Tobs0(λ)は、次のように近似的に表すことができる。
【0082】
obs0(λ)≒1−{R0(λ)+R1(λ)+A1(λ)}
従って、該薄膜光学材料内における、吸収、光散乱に起因する、見かけの吸収率:A0(λ)は、次のように近似的に求めることができる。
【0083】
0(λ)≒Tobs0(λ)−Tobs1(λ)
該薄膜光学材料内における、吸収、光散乱に起因する、見かけの吸収率:A0(λ)は、マトリクス自体に起因する光散乱(レイリー散乱)に由来する、見かけの吸収率:A0Matrix(λ)と、分散されている金属微粒子に起因するプラズモン共鳴、レイリー散乱に由来する、見かけの吸収率:A0Metal(λ)との和として、近似される。
【0084】
0(λ)≒A0Matrix(λ)+A0Metal(λ)
その際、分散されている金属微粒子に起因するプラズモン共鳴、レイリー散乱に由来する、見かけの吸収率:A0Metal(λ)は、マトリクス中に分散されている金属微粒子の分散密度に比例している。一方、マトリクス自体に起因する光散乱(レイリー散乱)に由来する、見かけの吸収率:A0Matrix(λ)は、近似的に、マトリクス中に分散されている金属微粒子の分散密度に依存しないと見做せる。
【0085】
従って、この近似の下では、マトリクス自体に起因する光散乱(レイリー散乱)に由来する、見かけの吸収率:A0Matrix(λ)は、金属微粒子の分散密度:CMetalに依存する、薄膜光学材料内における、吸収、光散乱に起因する、見かけの吸収率:A0(λ,CMetal)を、金属微粒子の分散密度:CMetalを零とする極限値として、見積もることができる。
【0086】
0Matrix(λ)=limCMetal00(λ,CMetal
なお、マトリクス自体に起因する光散乱(レイリー散乱)に由来する、見かけの吸収率:A0Matrix(λ)は、レイリー散乱に起因するため、A0Matrix(λ)∝λ-1で近似可能な波長依存性を示す。一方、光透過性材料で構成されるマトリクスの実効的な屈折率をneffとすると、分散されている金属微粒子に起因するプラズモン共鳴のピーク波長:λp(nm)は、該金属微粒子の表面を構成する金属材料が、真空中において示すプラズモン共鳴ピークのピーク波長λp0(nm)を用いて、近似的に下記のように表すことができる。
【0087】
λp≒λp0・neff
従って、波長:λp(nm)における、A0Matrix(λp)と、波長λp0(nm)におけるA0Matrix(λp0)は、近似的に次の関係を有することになる。
【0088】
0Matrix(λp)≒A0Matrix(λp0)/neff
少なくとも、波長:λp(nm)における、A0Matrix(λp)と、波長λp0(nm)における、A0Matrix(λp0)との間には、A0Matrix(λp)<A0Matrix(λp0)の関係が存在している。
【0089】
同様に、波長:λp(nm)における、マトリクス自体の消衰係数k(λp)と、波長λp0(nm)における、マトリクス自体の消衰係数k(λp0)とは、k(λp)<k(λp0)の関係を有する。換言すると、該光透過性材料のマトリクス中に分散されている金属微粒子に起因するプラズモン共鳴のピーク波長:λp(nm)における、マトリクス自体の消衰係数k(λp)は、少なくとも、波長λp0(nm)における、マトリクス自体の消衰係数k(λp0)より小さいと見積もることができる。
【0090】
なお、マトリクス自体に起因する光散乱(レイリー散乱)に由来する、見かけの吸収率:A0Matrix(λp0)から、波長λp0(nm)における、マトリクス自体の消衰係数k(λp0)を、例えば、下記のように算定することが可能である。
【0091】
なお、吸収、光散乱(レイリー散乱)が存在する状態では、光の伝播媒質中の屈折率は、複素屈折率:n+ikとして、表現される。その際、その虚数部が、消衰係数kに相当する。この光の伝播媒質の誘電率も、複素誘電率:ε=ε’+iε”=(n+ik)2と表記される。透過光の消衰を、誘電損失として捕らえると、周波数ωの振動電界(電磁波)に対して、その損失率は、ε”(ω)/ε’(ω)となる。
【0092】
ε’(ω)=(n(ω)2−k(ω)2
ε”(ω)=2n(ω)・k(ω)
であり、損失率:ε”(ω)/ε’(ω)は、下記のように表記される。
【0093】
ε”(ω)/ε’(ω)=2n(ω)・k(ω)/(n(ω)2−k(ω)2
その際、吸収、光散乱(レイリー散乱)が僅かである場合、すなわち、k(ω)≪n(ω)の条件下では、下記のように近似できる。
【0094】
ε”(ω)/ε’(ω)=2n(ω)・k(ω)/(n(ω)2−k(ω)2
≒2n(ω)・k(ω)/n(ω)2
≒2k(ω)/n(ω)
加えて、k(ω)≪n(ω)の条件下では、「光透過性材料」自体の屈折率n0を用いて、n(ω)≒n0と、近似することができる。結果として、下記の近似式で表記できる。
【0095】
ε”(ω)/ε’(ω)≒2k(ω)/n0
仮に、ε”(ω)/ε’(ω)を、光透過率の減少:ΔT(ω)と見做すと、
ΔT(ω)≒2k(ω)/n0
結果として、k(ω)≒n0・ΔT(ω)/2 として、消衰係数k(ω)を算定することが可能である。見かけの吸収率:A0Matrix(λp0)は、光透過率の減少:ΔT(λp0)に相当する値であり、上記の条件下では、下記のように算出することが可能である。
【0096】
k(λp0)≒n0・ΔT(λp0)/2
≒n0・A0Matrix(λp0)/2
上記の点を考慮して、本発明では、薄膜光学材料において、該光透過性材料のマトリクス中に分散されている金属微粒子に起因するプラズモン共鳴のピーク波長:λp(nm)における、マトリクス自体の消衰係数k(λp)に代えて、波長λp0(nm)における、マトリクス自体の消衰係数k(λp0)を、光透過性材料で構成されるマトリクスの透明度を示す指標としている。
【0097】
金属微粒子の表面を構成する金属材料が、真空中において示すプラズモン共鳴ピークのピーク波長λp0(nm)において、前記マトリクス自体の消衰係数kが、k<0.01の範囲に選択されていると、該光透過性材料のマトリクス中に分散されている金属微粒子に起因するプラズモン共鳴のピーク波長:λp(nm)においては、薄膜光学材料全体の消衰係数ktotal(λp)は、ほぼ、分散されている金属微粒子に起因するプラズモン共鳴に起因するものと見做すことが可能となる。
【0098】
以下に、具体例を示して、本発明に関して、さらに詳しく説明する。なお、以下に示す事例は、本発明の最良の実施形態の一例ではあるが、本発明の技術的範囲は、これらの形態に限定されるものではない。
【0099】
(実施の態様1)
図1は、本実施態様で成形体型光学材料薄膜の作製に用いた、AD法による成膜装置の構成を示す概略図である。キャリアガスとして酸素ガスを用いており、この酸素ガスを内蔵するガスボンベ30は搬送管を介してガラスボトル31に接続されている。ガラスボトル31内に、原料粉末32を入れ、排気管33を介して、20Pa程度の真空に排気した後、キャリアガスとして、酸素ガスの所定の流量に制御しながら導入する。ガラスボトル31を加振器34により振動させることで、酸素ガス中に原料粉末の微粒子を分散させたエアロゾルを発生させる。発生したエアロゾルは、キャリアガスにより、搬送管35を介して、成膜チャンバー36に搬送する。成膜チャンバー36は、真空ポンプ37により所定の真空度に排気される。ノズル38から、基板39表面に原料粉末を吹き付けることで、常温衝突固化現象を利用する薄膜の形成がなされる。
【0100】
本実施態様では、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)で構成されるマトリクス中に、ナノサイズの金微粒子が分散されている成形体型光学材料薄膜の形成に、次の成膜条件を用いている。キャリアガスの酸素ガス中に分散される原料粉末は、加振器の振動数:250rpm(250/60Hz)、酸素ガス流量:8.5L/分の条件でエアロゾルとされる。成膜チャンバー36内の圧力(真空度)は、作動排気により、成膜時は、600Pa程度に維持する。基板表面への原料粉末の吹き付けは、ノズルと基板の入射角を15°として行う。基板(下地層)には、ガラス基板を用いた。
【0101】
原料粉末は、電気光学効果の大きな酸化物であるジルコン酸チタン酸鉛(PZT)系粉末と、金微粒子の混合物である。用いるPZT粉末の組成は、Pb(ZrxTi1-x)O3において、x=0.52であり、該PZT粉末(微細結晶)の平均粒径は、0.7μmとした。酸化物マトリクスの成膜材料である、PZT系粉末は、ペロブスカイト型結晶構造を持つ強誘電体の組成であり、一次の大きな電気光学係数を持っており、作製される薄膜光学材料は、電気光学効果を利用する光学素子への適応が可能である。一方、金微粒子の平均粒径(平均半径)は、20nmである。
【0102】
ここで使用するPZTの組成(x=0.6)は、モルホトロピック相境界と呼ばれるZr:Ti=52:48(x=0.52)付近の領域に相当する組成としている。
【0103】
原料粉末中における、PZT系粉末と金微粒子の混合比は、金微粒子の含有率を、体積分率で、0.00063%、0.0063%、0.019%の三種の条件を選択し、三種の成膜をおこなっている。
【0104】
上記の成膜条件において、PZTで構成されるマトリクス中に、ナノサイズの金微粒子が分散されている成形体型光学材料薄膜の成膜速度は、2μm/分である。
【0105】
また、AD法による成膜後、形成さえた成形体型光学材料薄膜に、アニール処理を施している。このアニール処理の条件は、大気中(酸素20%:窒素80%雰囲気中)、温度600℃、10分である。アニール処理後、前記成形体の薄膜の表面に研磨加工を行い、目的膜厚2μmを有する薄膜光学材料を、アニール処理済み試料として、作製する。加えて、AD法による成膜後、アニール処理を省き、前記成形体の薄膜の表面に研磨加工を行い、目的膜厚2μmを有する薄膜光学材料を、未アニール処理試料として、作製する。
【0106】
作製された薄膜光学材料の光透過率を、垂直入射条件において、分光光度計によって測定する。測定される光透過率は、膜厚2μmの成形体型光学材料薄膜と、その下地基板のガラス基板を透過した光量を測定した結果である。なお、作製された成形体型光学材料薄膜の試料表面を研磨することで、表面散乱の影響は極力除去されている。検出器には大型積分球を用い、成形体型光学材料薄膜を構成する微細な結晶粒子の粒界面、金微粒子に起因する散乱光と透過光とを合せて、実効的な透過光として測定している。
【0107】
図2に、原料粉末中における、金微粒子の含有率を、体積分率で、0.0063%とする条件で作製した、アニール処理済み試料(アニール後)と、未アニール処理試料(アニール前)の透過率スペクトルを対比して示す。横軸は波長λ(nm)、縦軸は透過率Tである。未アニール処理試料(アニール前)の透過率Tは、下地基板のガラスの光吸収端に相当する、350nm付近で急激に増加し、800nm以上でほぼ飽和(一定化)し、その間に、透過率の低下(吸収)は観測されていない。
【0108】
なお、原料粉末として、PZT系粉末のみを用いて、同様の条件で作製した、PZT単体膜の未アニール処理試料において測定される透過率スペクトルとの比較を行ったところ、図2に示す未アニール処理試料(アニール前)の透過率スペクトルとほぼ同様の透過率の波長変化を示している。すなわち、未アニール処理試料(アニール前)の透過率スペクトルは、PZTで構成されるマトリクス中に分散されている金微粒子に由来する、プラズモン共鳴を反映する透過率の低下(吸収)を示していないと判断される。
【0109】
一方、アニール処理済み試料(アニール後)の透過率スペクトルは、未アニール処理試料(アニール前)の透過率スペクトルと比較し、波長800nm以下の領域で、光透過率の低下を示している。この光透過率の低下(吸収)は、630nm付近で、光透過率の低下量(吸収量)の極大(ピーク)を示している。
【0110】
一方、マトリクスを構成するPb(ZrxTi1-x)O3(x=0.52)の屈折率nPZTは、nPZT≒2.4であり、この屈折率において、金のプラズモン共鳴がピーク波長λp(nm)は、λp(nm)≒λp0+{Δλp/Δn}×(nPZT−1)(nm)となる。上記の見かけのピークの位置:630nmと、この推定されるλp(nm)≒670nmは、ほぼ対応している。従って、アニール処理済み試料(アニール後)の透過率スペクトルの見出される、光透過率の低下(吸収)は、PZTで構成されるマトリックス中に分散されている、金微粒子のプラズモン共鳴に由来すると判断される。
【0111】
図3に、原料粉末中における、金微粒子の含有率を、体積分率で、0.00063%、0.0063%、0.019%とする条件で作製した、アニール処理済み試料(アニール後)三種において測定される透過率スペクトルを示す。原料粉末中における、金微粒子の含有率を、体積分率で、0.00063%とする条件で作製した、アニール処理済み試料では、金微粒子のプラズモン共鳴に由来する光透過率の低下(吸収)は、見出されない。なお、630nmにおける光透過率:T1(630nm)は、70%、640nmにおける光透過率:T1(640nm)は、72%と測定されている。
【0112】
一方、原料粉末中における、金微粒子の含有率を、体積分率で、0.0063%とする条件で作製した、アニール処理済み試料では、630nm付近で、光透過率の低下量(吸収量)の極大(ピーク)を示している。その波長(630nm)における透過率:T2(630nm)は、58%と測定されている。また、原料粉末中における、金微粒子の含有率を、体積分率で、0.019%とする条件で作製した、アニール処理済み試料では、640nm付近で、光透過率の低下量(吸収量)の極大(ピーク)を示している。その波長(640nm)における透過率:T3(640nm)は、41%と測定されている。
【0113】
光透過率の差;ΔT2-1(630nm)={T2(630nm)−T1(630nm)}=12%、ΔT3-1(640nm)={T3(640nm)−T1(640nm)}=31%と、金微粒子の含有率の差;(0.0063%−0.00063%)=9×0.00063%、(0.019%−0.00063%)=29×0.00063%との相関関係を考える。金微粒子のプラズモン共鳴に由来する光透過率の低下量(吸収量)は、PZTで構成されるマトリックス中に分散されている、金微粒子の分散密度と比例関係にあると判断される。
【0114】
図4に、原料粉末中における、金微粒子の含有率を、体積分率で、0.019%とする条件で作製した、アニール処理済み試料について、その断面を透過電子顕微鏡によって観察した結果を示す。この透過電子顕微鏡による透過電子像イメージにおいて、PZTで構成されるマトリックス中に分散されている金微粒子は、点状の暗部(黒い点)として観測される。該透過電子像イメージ中に見出される、点状の暗部(黒い点)の形状は、平均粒径20nmのナノサイズの粒子である。上記の分散密度では、近接する金微粒子が、アニール処理の間に、互いに融着し、粒成長を起こすに至っていないことが確認される。
【0115】
PZTで構成されるマトリックス中に分散されている金微粒子が、金微粒子のプラズモン共鳴に由来する光透過率の有意な低下(吸収)を示す上では、原料粉末中における、金微粒子の含有率を、体積分率で、0.005%以上とすることが望ましいと判断される。
【0116】
なお、原料粉末中における、金微粒子の含有率を増すとともに、マトリクス中に分散されている金微粒子相互の距離が減少する。その際、近接する金微粒子が、アニール処理の間に、互いに融着し、粒成長を起こす現象を回避する上では、少なくとも、80μm×80μm×80μmのユニット中に、平均粒径20nmのナノサイズの粒子で一つ含まれる程度の分散密度である必要がある。従って、原料粉末中における、金微粒子の含有率は、体積分率で、(4π/3)/512≒0.008以下に選択する必要がある。一般に、原料粉末中における、金微粒子の含有率は、体積分率で、1%以下の範囲に選択することが必要となる。好ましくは、原料粉末中における、金微粒子の含有率は、体積分率で、0.5%以下の範囲に選択し、100μm×100μm×100μmのユニット中に、平均粒径20nmのナノサイズの粒子で一つ含まれる程度の分散密度とする。より好ましくは、原料粉末中における、金微粒子の含有率は、体積分率で、0.1%以下の範囲に選択し、150μm×150μm×150μmのユニット中に、平均粒径20nmのナノサイズの粒子で一つ含まれる程度の分散密度とする。
【0117】
比較例として、スパッタ法を用いて、PZTと金微粒子の混合膜を作製した。具体的には、PZTターゲットとAuターゲットを用いて、共スパッタ法により、PZTと金とを含む薄膜を形成した。スパッタガスにはArを用いて、PZTと金の混合比は、金の含有率を、体積分率で0.00002(0.02%)とした。なお、作製した薄膜の膜厚は400nmであった。
【0118】
アニール処理を施していない薄膜では、プラズモン共鳴に由来する光透過率の減少は観察できなかった。さらに、5分間のアニール処理を800℃の温度まで施したが、650nm付近にプラズモン共鳴に由来する光透過率の減少は観測されなかった。
【0119】
さらに、金の含有率を増加させ、体積分率で0.003(0.3%)とした。なお、作製した薄膜の膜厚は400nmであった。この場合も、アニール処理を施していない薄膜では、プラズモン共鳴に由来する光透過率の減少は観察できなかった。さらに、5分間のアニール処理を700℃の温度まで施すことで、650nm付近にプラズモン共鳴に由来する光透過率の減少は観測されたが、透過率は10%と非常に低くなった。
【0120】
原料粉末中における、金微粒子の含有率を、体積分率で、0.00063%、0.0063%、0.019%とする条件で作製した、アニール処理済み試料三種について、透過率スペクトル上、光透過率の低下量(吸収量)の極大(ピーク)を示す波長、すなわち、見かけのピーク波長:λpobs。(nm)における、マトリクス自体の消衰係数k(λpobs。)を下記の手順に従って見積もる。
【0121】
まず、実測される透過率:Tobs1(λ)は、該薄膜試料表面での反射率:R0(λ)、該薄膜試料内における、吸収、光散乱に起因する、見かけの吸収率:A0(λ)、下地基板(ガラス基板)と薄膜試料との界面での反射率:R1(λ)、下地基板(ガラス基板)自体の吸収率:A1(λ)を用いて、次のように近似的に表すことができる。
【0122】
obs1(λ)≒1−{R0(λ)+A0(λ)+R1(λ)+A1(λ)}
その際、該薄膜試料表面での反射率:R0(λ)、下地基板(ガラス基板)と薄膜試料との界面での反射率:R1(λ)、下地基板(ガラス基板)自体の吸収率:A1(λ)は、下記のようにして、見積もることができる。すなわち、原料粉末として、PZT系粉末のみを用いて、同様の条件で作製した、極く薄いPZT単体膜のアニール処理済み試料において測定される透過率スペクトルにおいて、実測される透過率:Tobs0(λ)は、次のように近似的に表すことができる。
【0123】
obs0(λ)≒1−{R0(λ)+R1(λ)+A1(λ)}
従って、該薄膜試料内における、吸収、光散乱に起因する、見かけの吸収率:A0(λ)は、次のように近似的に求めることができる。
【0124】
0(λ)≒Tobs0(λ)−Tobs1(λ)
該薄膜試料内における、吸収、光散乱に起因する、見かけの吸収率:A0(λ)は、マトリクス自体に起因する光散乱(レイリー散乱)に由来する、見かけの吸収率:A0Matrix(λ)と、分散されている金属微粒子に起因するプラズモン共鳴、レイリー散乱に由来する、見かけの吸収率:A0Metal(λ)との和として、近似される。
【0125】
0(λ)≒A0Matrix(λ)+A0Metal(λ)
その際、分散されている金属微粒子に起因するプラズモン共鳴、レイリー散乱に由来する、見かけの吸収率:A0Metal(λ)は、マトリクス中に分散されている金属微粒子の分散密度に比例している。一方、マトリクス自体に起因する光散乱(レイリー散乱)に由来する、見かけの吸収率:A0Matrix(λ)は、近似的に、マトリクス中に分散されている金属微粒子の分散密度に依存しないと見做せる。
【0126】
従って、この近似の下では、マトリクス自体に起因する光散乱(レイリー散乱)に由来する、見かけの吸収率:A0Matrix(λ)は、金属微粒子の分散密度:CMetalに依存する、薄膜試料内における、吸収、光散乱に起因する、見かけの吸収率:A0(λ,CMetal)を、金属微粒子の分散密度:CMetalを零とする極限値として、見積もることができる。
【0127】
0Matrix(λ)=limCMetal00(λ,CMetal
なお、マトリクス自体に起因する光散乱(レイリー散乱)に由来する、見かけの吸収率:A0Matrix(λ)は、レイリー散乱に起因するため、A0Matrix(λ)∝λ-1で近似可能な波長依存性を示す。一方、マトリクスの実効的な屈折率をneffとすると、分散されている金属微粒子に起因するプラズモン共鳴のピーク波長:λp(nm)は、該金属微粒子の表面を構成する金属材料が、真空中において示すプラズモン共鳴ピークのピーク波長λp0(nm)を用いて、近似的に下記のように表すことができる。
【0128】
λp≒λp0・neff
従って、波長:λp(nm)における、A0Matrix(λp)と、波長λp0(nm)におけるA0Matrix(λp0)は、近似的に次の関係を有することになる。
【0129】
0Matrix(λp)≒A0Matrix(λp0)/neff
少なくとも、波長:λp(nm)における、A0Matrix(λp)と、波長λp0(nm)における、A0Matrix(λp0)との間には、A0Matrix(λp)<A0Matrix(λp0)の関係が存在している。
【0130】
見かけのピーク波長:λpobs。(nm)は、λp0(nm)<λpobs。(nm)<λp(nm)となっている。従って、見かけのピーク波長:λpobs。(nm)における、マトリクス自体に起因する光散乱(レイリー散乱)に由来する、見かけの吸収率:A0Matrix(λpobs。)は、A0Matrix(λp)<A0Matrix(λpobs。)<A0Matrix(λp0)の関係を有する。
【0131】
同様に、見かけのピーク波長:λpobs。(nm)における、マトリクス自体の消衰係数k(λpobs。)は、波長:λp(nm)における、マトリクス自体の消衰係数k(λp)、波長λp0(nm)における、マトリクス自体の消衰係数k(λp0)と、k(λp)<k(λpobs。)<k(λp0)の関係を有する。換言すると、見かけのピーク波長:λpobs。(nm)における、マトリクス自体の消衰係数k(λpobs。)は、少なくとも、波長λp0(nm)における、マトリクス自体の消衰係数k(λp0)より小さいと見積もることができる。
【0132】
一方、原料粉末中における、金微粒子の含有率を、体積分率で、0.00063%、0.0063%、0.019%とする条件で作製した、アニール処理済み試料三種の測定結果に基づき、金が真空中において示すプラズモン共鳴ピークのピーク波長λp0(nm)=526nmにおける、マトリクス自体の消衰係数k(λp0)を見積もった結果は、k(λp0)=0.008となる。
【0133】
(実施の態様2)
本実施態様では、α−アルミナで構成されるマトリクス中に、ナノサイズの金微粒子が分散されている成形体型光学材料薄膜の形成に、次の成膜条件を用いている。すなわち、キャリアガスの酸素ガス中に分散されるα−アルミナ粉末と金微粒子を混合した原料粉末は、加振器の振動数:200rpm(250/60Hz)、酸素ガス流量:6.0L/分の条件でエアロゾルとされる。成膜チャンバー内の圧力(真空度)は、差動排気により、成膜時は、800Pa程度に維持する。基板表面への原料粉末の吹き付けは、ノズルと基板の入射角を15°として行う。基板(下地層)には、ガラス基板を用いた。
【0134】
原料粉末は、α−アルミナ粉末と、金微粒子の混合物である。用いるα−アルミナ粉末の平均粒径は0.25μmとした。一方、金微粒子の平均粒径(平均半径)は、20nmである。
【0135】
原料粉末中における、α−アルミナ粉末と金微粒子の混合比は、金微粒子の含有率を、体積分率で、0.008%、0.015%の二種の条件を選択し、二種の成膜をおこなっている。
【0136】
上記の成膜条件において、α−アルミナで構成されるマトリクス中に、ナノサイズの金微粒子が分散されている成形体型光学材料薄膜の成膜速度は、1μm/分である。
【0137】
また、AD法による成膜後、形成さえた成形体型光学材料薄膜に、アニール処理を施している。このアニール処理の条件は、大気中(酸素20%:窒素80%雰囲気中)、温度600℃、10分である。アニール処理後、前記成形体の薄膜の表面に研磨加工を行い、目的膜厚2μmを有する薄膜光学材料を、アニール処理済み試料として、作製する。加えて、AD法による成膜後、アニール処理を省き、前記成形体の薄膜の表面に研磨加工を行い、目的膜厚2μmを有する薄膜光学材料を、未アニール処理試料として、作製する。
【0138】
作製された薄膜光学材料の光透過率を、垂直入射条件において、分光光度計によって測定する。測定される光透過率は、膜厚2μmの成形体型光学材料薄膜と、その下地基板のガラス基板を透過した光量を測定した結果である。なお、作製された成形体型光学材料薄膜の試料表面を研磨することで、表面散乱の影響は極力除去されている。検出器には大型積分球を用い、成形体型光学材料薄膜を構成する微細な結晶粒子の粒界面、金微粒子に起因する散乱光と透過光とを合せて、実効的な透過光として測定している。
【0139】
図5に、原料粉末中における、金微粒子の含有率を、体積分率で、0.008%、0.015%とする条件で作製した、未アニール処理試料二種において測定される透過率スペクトルを示す。作製されたα−アルミナで構成されるマトリクス中に、ナノサイズの金微粒子が分散されている成形体型光学材料薄膜では、アニール処理を施していない状態でも、550nm付近に、光透過率の低下量(吸収量)の極大(ピーク)が観測されている。
【0140】
原料粉末中における、金微粒子の含有率を、体積分率で、0.008%とする条件で作製した、未アニール処理試料では、551nm付近で、光透過率の低下量(吸収量)の極大(ピーク)を示している。その波長(551nm)における透過率:T4(551nm)は、70%と測定されている。また、原料粉末中における、金微粒子の含有率を、体積分率で、0.015%とする条件で作製した、未アニール処理試料では、554nm付近で、光透過率の低下量(吸収量)の極大(ピーク)を示している。その波長(554nm)における透過率:T5(554nm)は、58%と測定されている。
【0141】
なお、見かけのピークの位置(554nm)における、光透過率の低下量(吸収量)は、α−アルミナで構成されるマトリックス中に分散されている、金微粒子の分散密度と比例関係にあると判断される。従って、見かけのピークの位置(554nm)における、光透過率の低下(吸収)は、主に、金微粒子のプラズモン共鳴に由来する光透過率の低下(吸収)に因っていると判断される。
【0142】
一方、マトリクスを構成するα−アルミナの屈折率nα-Al2O3は、nα-Al2O3(ω)=1.769であり、この屈折率において、金のプラズモン共鳴がピーク波長λp(nm)は、λp(nm)≒λp0+{Δλp/Δn}×(nα-Al2O3−1)(nm)となる。見かけのピークの位置:554nmと、この推定されるλp(nm)≒540nmは、対応している。
【0143】
図6は、原料粉末中における、金微粒子の含有率を、体積分率で、0.015%とする条件で作製した、未アニール処理試料(アニール前)と、アニール処理済み試料(アニール後)の透過率スペクトルを対比して示す図である。未アニール処理試料では、554nm付近で、光透過率の低下量(吸収量)の極大(ピーク)を示している。その波長(554nm)における透過率:T5(554nm)は、58%と測定されている。一方、アニール処理済み試料では、570nm付近で、光透過率の低下量(吸収量)の極大(ピーク)を示している。その波長(570nm)における透過率:T6(570nm)は、44%と測定されている。
【0144】
アニール処理に伴って、光透過率の低下量(吸収量)の見かけの極大(ピーク)を示す波長(見かけのピークの位置)は、16nm程度レッド・シフトを示している。また、光透過率の低下量(吸収量)の見かけの極大(ピーク)の幅(見かけの半値全幅)は、アニール処理後、狭まって、より鋭いピーク形状となっている。
【0145】
また、原料粉末中における、金微粒子の含有率を、体積分率で、0.008%、0.015%とする条件で作製した、アニール処理済み試料二種の測定結果に基づき、金が真空中において示すプラズモン共鳴ピークのピーク波長λp0(nm)=526nmにおける、マトリクス自体の消衰係数k(λp0)を見積もった結果は、k(λp0)≦0.005となる。
【0146】
(実施の態様3)
本実施態様では、強誘電体材料で電気光学効果を持つジルコン酸チタン酸鉛(PZT)系粉末をマトリクス材料とし、金属微粒子材料に金を選択した。成膜条件は実施の態様1と同様である。原料粉末は、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)系粉末と、金微粒子の混合物である。用いるPZT粉末の組成は、Pb(ZrxTi1-x)O3においてx=0.52であり、該PZT粉末(微細結晶)の平均粒径は、0.7μmとした。また、金微粒子は、直径10nm、長さ20nmの円柱形状である。原料粉末中における、金微粒子の含有率を、体積分率で0.019%とする条件を選択している。
【0147】
図10に、上記の条件に準じて、PZT粉末(微細結晶)を用いて作製したPZTと金微粒子の混合膜のアニール前後の透過率スペクトルを示す。横軸は、波長λ(nm)、縦軸は透過率Tである。光透過率は、垂直入射条件において、分光光度計によって測定した。アニール処理の条件として、アニール温度は、600℃で、アニール雰囲気は、大気中の雰囲気を選択し、アニール時間を10分とした。この成膜条件において、金微粒子を分散している成形体型光学材料薄膜の成膜速度は、2μm/分である。
【0148】
アニール処理を施す前の透過率Tは、ガラスの光吸収端に相当する、350nm付近で急激に増加し、541nm付近に吸収ピークがあり、金微粒子のプラズモン共鳴が生じていることがわかる。実施の態様1で示したように、PZTと球形の金微粒子の混合膜のプラズモン共鳴は、630nm付近で生じており、この金微粒子のプラズモン共鳴波長の変化は、金微粒子の形状に変化によるものである。アニール後の透過率Tでは、波長635nmにプラズモン共鳴ピークが変化している。アニール前後の金微粒子の電子顕微鏡観察から、微粒子の形状が円柱から球形に変化していることが明らかになっており、このプラズモン共鳴ピークの変化は、金微粒子の形状の変化によるものと考えられる。
【0149】
以上の結果から、金属微粒子の形状を制御することによりプラズモン共鳴波長を制御できることが分かる。本実施態様では、金微粒子の形状は円柱状であったが、回転楕円体、円盤状でも同様の効果を得ることができるのは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明にかかる薄膜光学材料は、光透過性材料で構成されるマトリクスと、該マトリクス中に分散された金属微粒子を具えてなる成形体型光学材料薄膜であり、種々の光学素子における、光の伝播媒質に利用可能である。特に、光透過性材料で構成されるマトリクス中に分散されている、金属微粒子のサイズ、分散密度を独立に選択できる利点を活用することで、該金属微粒子に由来のプラズモン共鳴による光透過率の変化量を自由に設計でき、一方、該プラズモン共鳴のピーク波長近傍の波長領域で、マトリクス自体の透明度を高くした薄膜光学材料の作製が可能である。例えば、その設計自由度が広い点を応用して、幅広い光学素子を対象として、種々の特性を有する導波路の作製に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】本発明にかかる薄膜光学材料である、成形体型光学材料の薄膜の作製に適用可能な、常温衝撃固化現象を利用する成膜装置の一例である。特に、実施の態様1,2において利用するエアロゾルデポジション法による成膜装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】実施の態様1において、エアロゾルデポジション法によって成膜された、Pb(Zr0.52Ti0.48)O3の結晶性微細粒子で構成されるマトリクス中に、ナノサイズの金微粒子を、体積分率で、0.0063%で分散している薄膜から調製される、未アニール処理試料(アニール前)と、アニール処理済み試料(アニール後)の透過率スペクトルを対比して示す図である。
【図3】実施の態様1において、エアロゾルデポジション法によって成膜された、Pb(Zr0.52Ti0.48)O3の結晶性微細粒子で構成されるマトリクス中に、ナノサイズの金微粒子を、体積分率で、0.00063%、0.0063%、0.019%で分散している薄膜から調製される、三種のアニール処理済み試料の透過率スペクトルを対比して示す図である。
【図4】実施の態様1において、エアロゾルデポジション法によって成膜された、Pb(Zr0.52Ti0.48)O3の結晶性微細粒子で構成されるマトリクス中に、ナノサイズの金微粒子を、体積分率で、0.019%で分散している薄膜から調製される、アニール処理済み試料に関して、その断面を、透過電子顕微鏡により観測した透過電子像イメージを示す図である。
【図5】実施の態様2において、エアロゾルデポジション法によって成膜された、α−アルミナの結晶性微細粒子で構成されるマトリクス中に、ナノサイズの金微粒子を、体積分率で、0.008%、0.015%で分散している薄膜から調製される、二種の未アニール処理試料の透過率スペクトルを対比して示す図である。
【図6】実施の態様2において、エアロゾルデポジション法によって成膜された、α−アルミナの結晶性微細粒子で構成されるマトリクス中に、ナノサイズの金微粒子を、体積分率で、0.015%で分散している薄膜から調製される、未アニール処理試料(アニール前)と、アニール処理済み試料(アニール後)の透過率スペクトルを対比して示す図である。
【図7】ペロブスカイト型結晶構造を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr0.6Ti0.4)O3)のマトリックス中に、金微粒子を均一に分散させた成形体が示す実効的な屈折率neff、消衰係数keffの波長λ依存性を推定計算した結果を示す図である。
【図8】酸化物材料からなるマトリクス中に、分散された金属微粒子における、プラズモン共鳴による非干渉性光散乱のピーク波長λpの。マトリクスを構成する酸化物材料の比誘電率εr依存性(εr≒neff2)の計算結果を、ピーク波長λpの実効的な屈折率neff依存性として示す図である。
【図9】ペロブスカイト型結晶構造を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr0.6Ti0.4)O3)のマトリックス中に、金微粒子を均一に分散させた成形体薄膜に対して、垂直入射条件での光透過率Tの波長λ依存性を推定計算した結果を示す図である。
【図10】実施の態様3において、エアロゾルデポジション法によって成膜された、Pb(Zr0.52Ti0.48)O3の結晶性微細粒子で構成されるマトリクス中に、直径10nm、長さ20nmの円柱形状の金微粒子を、体積分率で、0.019%で分散している薄膜から調製される、未アニール処理試料(アニール前)と、アニール処理済み試料(アニール後)の透過率スペクトルを対比して示す図である。
【符号の説明】
【0152】
30 ガスボンベ
31 ガラスボトル
32 原料粉末
33 排気管
34 加振器
35 搬送管
36 成膜チャンバー
37 真空ポンプ
38 ノズル
39 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクス材料と、該マトリクス材料中に分散された金属微粒子を具えてなる成形体型光学材料薄膜を、光の伝播媒質とする光学材料であり、
前記マトリクス材料は、常温衝撃固化現象によって、平均半径d0(nm)が、d0≦500nmの範囲の粒径を有する微粒子が一体に成形されたものであり、
前記マトリクス材料中に分散されている該金属微粒子は、プラズモン共鳴ピークを示し、
該金属微粒子の表面を構成する金属材料が、真空中において示すプラズモン共鳴ピークのピーク波長λp0(nm)において、前記マトリクス材料の消衰係数kが、k<0.01の範囲に選択されている
ことを特徴とする光学材料。
【請求項2】
該マトリクス中に分散されている金属微粒子の平均粒子径は、
前記光学材料を、光の伝播媒質として利用する際、該光学材料中を伝播させるべき光の真空中における波長λ0(nm)に対して、
該金属微粒子の平均半径dm(nm)が、dm≦(1/10)×λ0となる範囲に選択されている
ことを特徴とする請求項1に記載の光学材料。
【請求項3】
該金属微粒子の表面を構成する金属材料は、金、銀、銅、タングステンからなる単体金属の群から選択される単体金属、あるいは、それら金属二種以上で構成される合金材料である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学材料。
【請求項4】
前記光透過性材料で構成されるマトリクスと、該マトリクス中に分散された金属微粒子を具えてなる成形体型光学材料は、
さらに、該マトリクス中に分散して存在する微粒子状の微細領域を具えており、
該マトリクス中に分散して存在する微粒子状の微細領域における屈折率n1は、前記マトリクスを構成する光透過性材料の屈折率n0と異なっており、
前記光学材料を、光の伝播媒質として利用する際、該光学材料中を伝播させるべき光の真空中における波長λ0(nm)に対して、
前記マトリクス材料中に分散して存在する微粒子状の微細領域の平均半径d2(nm)は、d26/λ04<4×10-5 nm2の関係を満すように選択されている
ことを特徴とする請求項1に記載の光学材料。
【請求項5】
一体に成形された該マトリクスを構成している前記光透過性材料の微粒子は、
前記光学材料を、光の伝播媒質として利用する際、該光学材料中を伝播させるべき光の真空中における波長λ0(nm)に対して、
該光透過性材料の微粒子の平均半径d0(nm)が、d06/λ04<4×10-5 nm2の関係を満すように作製されている
ことを特徴とする請求項4に記載の光学材料。
【請求項6】
前記成形体型光学材料全体に対して、
該マトリクス中に分散されている金属微粒子の体積分率は、0.005%以上1%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学材料。
【請求項7】
請求項1に記載の光学材料を製造する方法であって、
前記成形体型光学材料からなる薄膜の作製工程において、
前記マトリクスを構成する光透過性材料の微粉末状結晶と、前記金属微粒子とを所定の含有比率で均一に混合してなる原料粉末を、キャリアガス中に所定の密度で浮遊させ、所定の供給速度で下地層の表面に吹き付けて、
前記下地層の表面に吹き付けた際、原料粉末に含まれる前記光透過性材料の微粉末状結晶を、平均半径d0(nm)がd0≦500nmの範囲の微細粒子に粉砕し、
該微細粒子相互を、常温衝撃固化現象を利用して接合させ、
前記金属微粒子を、該微細粒子の接合体の隙間に均一に分散させた成形体の薄膜を形成する
ことを特徴とする光学材料の製造方法。
【請求項8】
前記常温衝撃固化現象を利用する成形体の薄膜を形成する手法として、エアロゾルデポジション法を用いる
ことを特徴とする請求項7に記載の光学材料の製造方法。
【請求項9】
該マトリクス材料中に分散されている金属微粒子のプラズモン共鳴モードが一つである
ことを特徴とする請求項1に記載の光学材料。
【請求項10】
該マトリクス材料中に分散されている金属微粒子の形状が球状、もしくは立方体形状である
ことを特徴とする請求項9に記載の光学材料。
【請求項11】
該マトリクス材料中に分散されている金属微粒子のプラズモン共鳴モードが複数ある
ことを特徴とする請求項1に記載の光学材料。
【請求項12】
該マトリクス材料中に分散されている金属微粒子の形状が、回転楕円体、円柱状、円盤状である
ことを特徴とする請求項11に記載の光学材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−107771(P2008−107771A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72426(P2007−72426)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り Jae−Hyuk Park,Jun Akedo and Masafumi Nakada,“Surface Plasmon Resonance in Novel Nanocomposite Gold/Lead Zirconate Titanate Films Prepared by Aerosol Deposition Method”;Japanese Journal of Applied Physics, Vol.45, No.9B,2006,pp.7512−7515(published online September 22,2006)http://jjap.ipap.jp./link?JJAP/45/7512
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテクノロジープログラム(ナノ加工・計測技術)ナノレベル電子セラミックス材料低温成形・集計化技術」に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】