説明

光学活性(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸の製造方法

【課題】光学活性(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸を簡便に効率よく工業的に製造することができる方法を提供すること。
【解決手段】(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールを用いて2−メチル−6−オキソヘプタン酸のエナンチオマー混合物の光学分割を行うことを特徴とする、光学活性(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸(好ましくは、異性体比(S):(R)は90:10〜100:0である)の製造方法。好ましい実施態様では、当該方法は、(1)2−メチル−6−オキソヘプタン酸のエナンチオマー混合物を(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールと反応させる工程と、(2)工程(1)で形成した塩を再結晶する工程と、(3)工程(2)で得られた塩の結晶をアルカリ、次いで酸で処理する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下式で表されるエポチロン誘導体は、抗癌剤として有用である。
【0003】
【化1】

【0004】
エポチロン誘導体の合成において、C〜C12のビルディングブロックとしては、(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸が有用であり、種々の製法が提案されている(非特許文献1〜6を参照)。しかしながら、非特許文献1〜4に記載の製法は、対応する天然物を抽出・単離し、それを酸化する方法であるため、原料入手に問題があった。また、非特許文献4に記載の製法は、(R)体の製法である。さらに、非特許文献5および6に記載の製法は、過マンガン酸カリウムを用いて2,6−ジメチルヘキサノンを酸化する方法であるが、得られる生成物は2−メチル−6−オキソヘプタン酸のラセミ体であり、光学的に不活性であった。
【0005】
【非特許文献1】Natural Product Letters,3,189(1993)
【非特許文献2】J.Nat.Prud.,66,251(2003)
【非特許文献3】Natural Product Letters,4,51(1994)
【非特許文献4】Helv.Chim.Acta,73,733(1990)
【非特許文献5】J.Med.Chem.,26,426(1983)
【非特許文献6】Collect.Czech.Chem.Commun.,30,1214(1965)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、光学活性(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸を簡便に効率よく工業的に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールを用いて2−メチル−6−オキソヘプタン酸のエナンチオマー混合物の光学分割を行うことによって、光学活性(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸を簡便に効率よく工業的に製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1](1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールを用いて2−メチル−6−オキソヘプタン酸のエナンチオマー混合物の光学分割を行うことを特徴とする、光学活性(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸の製造方法。
[2]光学活性(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸における異性体比(S):(R)が90:10〜100:0である、上記[1]記載の製造方法。
[3](1)2−メチル−6−オキソヘプタン酸のエナンチオマー混合物を(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールと反応させる工程と、
(2)工程(1)で形成した塩を再結晶する工程と、
(3)工程(2)で得られた塩の結晶をアルカリ、次いで酸で処理する工程と、
を含む、上記[1]または[2]記載の製造方法。
[4]工程(1)において、2−メチル−6−オキソヘプタン酸1当量に対して(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールを0.7〜1.3当量反応させる、上記[3]記載の製造方法。
[5]工程(1)において、酢酸エチル−メタノール混合溶媒中で反応を行う、上記[3]または[4]記載の製造方法。
[6]酢酸エチルとメタノールとの混合比が体積比で1:1〜4:1である、上記[5]記載の製造方法。
[7]工程(2)において、酢酸エチル−メタノール混合溶媒を用いて再結晶を行う、上記[3]記載の製造方法。
[8]酢酸エチルとメタノールとの混合比が体積比で1:1〜4:1である、上記[7]記載の製造方法。
[9]工程(2)を複数回行う、上記[7]または[8]記載の製造方法。
[10]工程(3)においてアルカリが水酸化ナトリウムである、上記[3]記載の製造方法。
[11]工程(3)において酸が塩酸である、上記[3]記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法は、光学活性(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸を簡便に効率よく工業的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の光学活性(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸の製造方法は、(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールを用いて2−メチル−6−オキソヘプタン酸のエナンチオマー混合物の光学分割を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明において、用語「光学活性(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸」とは、その異性体比(S):(R)が、好ましくは90:10〜100:0であるもの、より好ましくは95:5〜100:0であるもの、最も好ましくは99:1〜100:0であるものをいう。また、本発明において、用語「エナンチオマー混合物」は、ラセミ体をも含むものとして使用される。
【0012】
本発明の製造方法は、具体的には、以下で説明する工程を含み得る。
(1)2−メチル−6−オキソヘプタン酸のエナンチオマー混合物を(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールと反応させる工程。
【0013】
【化2】

【0014】
2−メチル−6−オキソヘプタン酸のエナンチオマー混合物は、例えば、上記非特許文献5および6を参照して、工業的に容易に入手可能な2,6−ジメチルヘキサノンを、過マンガン酸カリウムを用いて酸化することによって得ることができるが、これに限定されるものではない。
【0015】
【化3】

【0016】
(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールは、市販品を使用してもよく、あるいは、例えば、J.Am.Chem.Soc.,73,1216(1951)に記載の方法に従って合成してもよい。
【0017】
(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールの使用量は、2−メチル−6−オキソヘプタン酸1当量に対して、好ましくは0.7〜1.3当量であり、より好ましくは0.95〜1.05当量である。使用量が0.7当量よりも少ないと、遊離の(塩を形成していない)2−メチル−6−オキソヘプタン酸が大量に反応系中に残存し、それによって塩の収率が著しく低下するおそれがあり、1.3当量よりも多いと、形成した塩を反応系から析出させる際に、同時に過剰の(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールが析出し、塩の析出晶に大量に混入するおそれがある。
【0018】
上記工程(1)の反応において用いる溶媒は、反応の進行を妨げない限り特に限定されるものではなく、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、およびそれらの混合溶媒が挙げられ、好ましくは、酢酸エチル−メタノール混合溶媒である。酢酸エチル−メタノール混合溶媒を用いる場合、その混合比は、体積比で好ましくは1:1〜4:1であり、より好ましくは2:1〜3:1である。使用する溶媒の量は、特に限定されるものではないが、一般的に2−メチル−6−オキソヘプタン酸のエナンチオマー混合物1kgに対して5〜20kgであり、好ましくは9〜11kgである。
【0019】
反応温度は、好ましくは40〜60℃であり、より好ましくは45〜55℃である。反応温度が45℃よりも低いと、反応基質(2−メチル−6−オキソヘプタン酸および(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノール)の溶媒に対する溶解性が低下し、反応の進行(塩の形成)が妨げられるという問題がある。反応時間は、反応温度によっても異なるが、通常1分〜1時間である。
【0020】
(2)上記工程(1)で形成した塩を再結晶する工程。
再結晶に用いる溶媒は、特に限定されるものではなく、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、およびそれらの混合溶媒が挙げられ、好ましくは、酢酸エチル−メタノール混合溶媒である。酢酸エチル−メタノール混合溶媒を用いる場合、その混合比は、体積比で好ましくは1:1〜4:1であり、より好ましくは2:1〜3:1である。使用する溶媒の量は、特に限定されるものではないが、一般的に塩1kgに対して5〜20kgであり、好ましくは9〜11kgである。
【0021】
なお、上記工程(2)(再結晶工程)は、より光学純度の高い(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸を得るという観点から、複数回行うのが好ましく、より好ましくは2回行う。
【0022】
(3)上記工程(2)で得られた塩の結晶をアルカリ、次いで酸で処理する工程。
【0023】
【化4】

【0024】
アルカリとしては、特に限定されるものではなく、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどが挙げられ、汎用性、経済性の観点から、水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリの使用量は、塩1当量に対して、好ましくは2〜50当量であり、より好ましくは5〜20当量である。使用量が2当量よりも少ないと、塩のフリー化(塩から(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸を遊離させること)が不完全となることがあり、50当量よりも多いと、コスト的(経済性)に問題がある。
【0025】
上記アルカリ処理は、反応系のpHを好ましくは8〜14、より好ましくは9〜11に調整して行われる。処理温度は、好ましくは10〜50℃であり、より好ましくは10〜30℃である。処理時間は、通常1分〜1時間である。
【0026】
酸としては、特に限定されるものではなく、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸などが挙げられ、汎用性、経済性の観点から、塩酸が好ましい。酸の使用量は、塩1当量に対して、好ましくは5〜100当量であり、より好ましくは20〜50当量である。使用量が5当量よりも少ないと、十分な酸性が得られず、塩のフリー化が不完全となることがあり、100当量よりも多いと、経済性の観点から不利である。
【0027】
上記酸処理は、反応系のpHを好ましくは0.5〜2.5、より好ましくは1〜2に調整して行われる。処理温度は、好ましくは10〜50℃であり、より好ましくは10〜30℃である。処理時間は、通常1分〜1時間である。
【0028】
本発明の方法により製造された光学活性(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸は、例えば、DE19751200、WO2005/003071、J.A.C.S.,119,7974(1997)、Chem.Eur.J.,2,1477(1996)等の記載に従って、(S)の立体配置を維持しつつ種々の光学活性誘導体に変換され得、抗癌剤として有用なエポチロン誘導体の合成において、C〜C12のビルディングブロックとして用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を参考例および実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
(参考例1)
2−メチル−6−オキソヘプタン酸のエナンチオマー混合物の合成(その1):
2,6−ジメチルヘキサノン(120.0g、0.95mol)と水(600ml)との混合物を激しく攪拌しながら、過マンガン酸カリウム(195.7g、1.24mol)の水(1390ml)の懸濁液を30℃以下で約1時間かけて注意深く添加し、一晩室温で攪拌した。生成した二酸化マンガンを濾過し、濾過ケーキをtert−ブチルメチルエーテル(250ml)および水(250ml)で洗浄した。濾液の有機層を分離し、水層を35%濃塩酸(約150ml)でpH 1.0とし、塩化ナトリウム(400g)を加え、酢酸エチル(300ml×5)で抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、得られた残渣のオイルを真空ポンプで減圧蒸留した。沸点130〜144℃/267Paの留分を採集し、79.92g(収率53.2%)の2−メチル−6−オキソヘプタン酸のエナンチオマー混合物を得た。
H−NMR(ppm,CDCl):δ1.19(d,3H,J=3.2Hz,CH),1.40−1.50(m,1H,CH),1.55−1.75(m,3H,CH+CH),2.14(s,3H,COCH),2.40−2.55(m,3H,CαH+CH).
【0031】
(参考例2)
2−メチル−6−オキソヘプタン酸のエナンチオマー混合物の合成(その2):
2,6−ジメチルヘキサノン(93.0g、0.737mol)、水(1057ml)およびアセトン(333ml)を2Lのコルベンに仕込み、温水バスにて、内温50℃まで昇温した。攪拌下、45〜55℃にて、約9時間半かけて過マンガン酸カリウム(326g、2.06mol)を9分割して添加した。同温度にて約2時間攪拌した。同温度にて、生成した二酸化マンガンを直径12cmのヌッチェを用いて濾過し、水(300ml)およびアセトン(100ml)で濾上物を洗いこんだ。濾液をバス温40℃、14.7〜17.3kPaで減圧下攪拌し、アセトンを留去した。
こうして得られた水溶液に食塩(330g)を添加して溶解し、酢酸エチル(200ml)で洗浄した。さらにTHF(200ml)で洗浄後、THF(500ml)を加え、35%合成塩酸(107ml)を滴下し、水溶液のpHを8.7から0.81まで酸性にした。THF層と水層とに分液した後、水層をさらにTHF(150ml)で抽出し、最初のTHF層と合わせた。
得られたTHF溶液に塩化マグネシウム(4.0g)を添加し、30分間攪拌した。THF層から分離してくる水層を分液して除去した。この後THFをバス温40℃にて減圧留去し、さらにバス温50℃にて、マグネティックスターラーで攪拌しつつ真空ポンプ(133Pa)にて60分掃引し、106.27g(含量93.9%(ガスクロマトグラフィー(GC);対蒸留品)、純度換算収率85.7%)の2−メチル−6−オキソヘプタン酸のエナンチオマー混合物を得た。なお、GCの測定条件は以下の通りであった。
【0032】
GCカラム:DB−5(内径0.53mm、長さ30m、膜厚1.50μm:J&W SCIENTIFIC.INC)
注入温度:200℃
検出温度:200℃
カラム温度:40℃(5分保持)→(10℃/min昇温)→200℃(10分保持)
キャリアガス:He 4.5〜5.0ml/min
【0033】
(実施例1)
2−メチル−6−オキソヘプタン酸のエナンチオマー混合物の光学分割による(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸の合成:
(i)2−メチル−6−オキソヘプタン酸と(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールとの塩の合成:
2−メチル−6−オキソヘプタン酸のエナンチオマー混合物(3.07g、19.4mmol)を酢酸エチル−メタノール(31.19g、体積比3:1)に溶かした混合物に、(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノール(4.15g、19.4mmol)を加え、50℃に加熱して全体を溶解させた。これを約3.5時間かけて22.5℃に冷却し、種結晶を入れて結晶化を開始させ、1.5時間同温度で攪拌を続けた。続いて、3時間かけて11℃まで冷却し、17時間同温度で攪拌を続けた。さらに、これを1時間かけて5℃まで冷却し、16時間同温度で攪拌を続けた。析出固体を濾取し、0℃の酢酸エチル−メタノール(8.00g、体積比3:1)で洗浄し、2.62g(収率36.3%)の2−メチル−6−オキソヘプタン酸と(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールとの塩を得た。この塩の構成成分である2−メチル−6−オキソヘプタン酸の異性体比は、キラルHPLC分析に基づいて(S):(R)=90.0:10.0であった。
上記で得た塩(2.45g)を酢酸エチル−メタノール(13.23g、体積比2:1)に溶かした混合物を、70℃に加熱して全体を溶解させた。これに33−35℃で種結晶を入れて結晶化を開始させ、2時間かけて20℃まで冷却し、さらに2時間攪拌した。析出固体を濾取し、20℃の酢酸エチル−メタノール(5.00g、体積比2:1)で洗浄し、1.68g(収率68.6%)の2−メチル−6−オキソヘプタン酸と(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールとの塩を得た。この塩の構成成分である2−メチル−6−オキソヘプタン酸の異性体比は、キラルHPLC分析に基づいて(S):(R)=98.4:1.6であった。
上記の塩(1.46g)を酢酸エチル−メタノール(7.9g、体積比2:1)に溶かした混合物を、70℃に加熱して全体を溶解させた。これに33−35℃で種結晶を入れて結晶化を開始させ、2時間かけて20℃まで冷却し、さらに2時間攪拌した。析出固体を濾取し、20℃の酢酸エチル−メタノール(3.00g、体積比2:1)で洗浄し、0.93g(収率63.7%)の2−メチル−6−オキソヘプタン酸と(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールとの塩を得た。この塩の構成成分である2−メチル−6−オキソヘプタン酸の異性体比は、キラルHPLC分析に基づいて(S):(R)=99.7:0.3であった。
m.p.127−129℃
H−NMR(ppm,CDOD):δ1.09(d,3H,J=7.3Hz,CH),1.25−1.40(m,1H,CH),1.50−1.65(m,3H,CH+CH),2.11(s,3H,CH),2.20−2.45(m,1H,CαH),2.40−2.55(m,2H,CH),4.30−4.40(m,1H,CHPh),5.05−5.15(m,1H,CHPh),6.90−7.35(m,10H,aromatic).
【0034】
(ii)(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸の合成:
上記(i)で得た2−メチル−6−オキソヘプタン酸と(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールとの塩(0.48g、1.29mmol)を5%苛性ソーダ水溶液(15ml、18.8mmol)に懸濁させ、酢酸エチル(20ml×1、10ml×1)で分液し、得られた水層を35%濃塩酸(2.5ml、24mmol)にてpH1.0とし、酢酸エチル(15ml×2)で抽出した。有機層を合わせて無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を留去し、(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸をオイル(0.20g、定量的)として得た。このオイルの構成成分である2−メチル−6−オキソヘプタン酸の異性体比は、キラルHPLC分析に基づいて(S):(R)=99.7:0.3であった。
[α]20 +12.7°(c=0.109,CHCl
H−NMR(ppm,CDCl):δ1.19(d,3H,J=6.8Hz,CH),1.40−1.50(m,1H,CH),1.55−1.75(m,3H,CH+CH),2.14(s,3H,COCH),2.40−2.55(m,3H,CαH+CH).
【0035】
(2−メチル−6−オキソヘプタン酸の異性体に関するキラルHPLC分析)
2−メチル−6−オキソヘプタン酸の異性体比は、2−メチル−6−オキソヘプタン酸(塩の場合は、上記(ii)の手順に従って、一旦塩をフリー化して2−メチル−6−オキソヘプタン酸を単離する)をフェナシルエステルへ誘導した後に分析した。
2−メチル−6−オキソヘプタン酸(82mg、0.52mmol)をアセトン(4ml)に溶かし、フェナシルブロミド(113.6mg、0.57mmol)および炭酸カリウム(86.1mg、0.62mmol)を加え、室温で3時間攪拌した。次にメンブランフィルターを用いて白色固体を除去し、アセトン(4ml)で洗浄後、濾液のアセトンを減圧留去した。得られたオイル約2mgを取り、アセトニトリル(1ml)に溶かし、試料溶液とした。試料溶液1.0μlについて、次の条件でキラルHPLC分析を行った。
【0036】
カラム;CHIRALCEL OJ−RH(4.6×150mm、ダイセル化学製)
移動相;アセトニトリル:水(0.1%酢酸含有)=40:60の一定組成
流速;0.5ml/min
検出波長;244nm
保持時間;(S)体:16.8分付近、(R)体:19.5分付近
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の製造方法は、光学活性(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸を簡便に効率よく工業的に製造することができる。得られた光学活性(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸は、抗癌剤として使用されるエポチロン誘導体の合成において、C〜C12のビルディングブロックとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールを用いて2−メチル−6−オキソヘプタン酸のエナンチオマー混合物の光学分割を行うことを特徴とする、光学活性(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸の製造方法。
【請求項2】
光学活性(S)−2−メチル−6−オキソヘプタン酸における異性体比(S):(R)が90:10〜100:0である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
(1)2−メチル−6−オキソヘプタン酸のエナンチオマー混合物を(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールと反応させる工程と、
(2)工程(1)で形成した塩を再結晶する工程と、
(3)工程(2)で得られた塩の結晶をアルカリ、次いで酸で処理する工程と、
を含む、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
工程(1)において、2−メチル−6−オキソヘプタン酸1当量に対して(1R,2S)−2−アミノ−1,2−ジフェニルエタノールを0.7〜1.3当量反応させる、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
工程(1)において、酢酸エチル−メタノール混合溶媒中で反応を行う、請求項3または4記載の製造方法。
【請求項6】
酢酸エチルとメタノールとの混合比が体積比で1:1〜4:1である、請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
工程(2)において、酢酸エチル−メタノール混合溶媒を用いて再結晶を行う、請求項3記載の製造方法。
【請求項8】
酢酸エチルとメタノールとの混合比が体積比で1:1〜4:1である、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
工程(2)を複数回行う、請求項7または8記載の製造方法。
【請求項10】
工程(3)においてアルカリが水酸化ナトリウムである、請求項3記載の製造方法。
【請求項11】
工程(3)において酸が塩酸である、請求項3記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−191400(P2007−191400A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−8594(P2006−8594)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】