説明

光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの精製方法

【課題】光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの工業的な精製方法を提供する。
【解決手段】光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールを脂肪族炭化水素系の溶媒を用いて再結晶することにより、該エタノールの光学純度が劇的に向上することを見出した。特に、脂肪族炭化水素系の溶媒の中でもn−ヘプタンを用いることにより再結晶の効率を格段に向上することができる。また、光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノール1gに対して2mL以上、10mL以下の脂肪族炭化水素系の溶媒を用いることにより、大量規模での精製も回収率良く行うことができる。さらに、−20℃以上、+10℃以下の熟成温度を採用することにより、工業的に実施する場合に冷却設備の負担を大きく軽減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬中間体として重要な光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの工業的な精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールは、医薬中間体として重要である(特許文献1)。光学活性1−フェニルエタノール類は、対応するアセトフェノン類の化学的または生物学的な不斉還元により製造することができる。しかしながら、医薬中間体に要求される光学純度を反応の不斉還元だけで満足させることは困難であり、所望の光学純度を得るには生成物の誘導体化や速度論的分割による精製と組み合わせる必要があった。この様な精製は工程数の増加に伴う生産性の低下だけでなく、トータル収率の低下や廃棄物の増加をも招いた。よって、この分野においては不斉還元で得られる生成物の光学純度を如何にして簡便な操作で効率良く上げるかが重要な課題であった。
【0003】
本発明で対象とする光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの光学純度を簡便な操作で効率良く上げる精製方法は未だ報告されていない。
【0004】
類似化合物である光学活性1−(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)エタノールの精製方法は既に報告されているが(非特許文献1)、光学活性1−(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)エタノール自体の単なる再結晶ではラセミ体の結晶が優先的に析出するため光学純度を効率良く上げることができない。そこで、DABCO(1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)との錯体[光学活性1−(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)エタノール:DABCO=2:1]を再結晶することにより光学純度を上げている。しかしながらこの方法では、比較的高価なDABCOを0.5当量用い、さらに再結晶後の錯体から光学活性1−(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)エタノールを回収する必要がある。
【0005】
また、本特許出願人自らが明らかにしたことであるが、光学活性1−(3−トリフルオロメチルフェニル)エタノールや光学活性1−(4−トリフルオロメチルフェニル)エタノールにおいても、化合物自体の単なる再結晶では光学純度を効率良く上げることができない。前者では結晶が良好に析出せず(表3の参考例3から6を参照)、後者では光学純度の高い1−(4−トリフルオロメチルフェニル)エタノールを得ることができない(表4の参考例7から10を参照)。
【0006】
一方、本特許出願人は、本発明で対象とする光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの製造方法として、対応するフタル酸ハーフエステルのラセミ体を光学活性1−フェニルエチルアミンで光学分割する方法を既に開示した(特許文献2)。
【特許文献1】国際公開2007/030359号パンフレット
【特許文献2】特開2007−106702号公報
【非特許文献1】Tetrahedron:Asymmetry(英国),2003年,第14巻,p.3581−3587
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの光学純度を簡便な操作で効率良く上げる精製方法は見出されていない。そこで、本発明は、光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの工業的な精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を踏まえて鋭意検討した結果、光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールを脂肪族炭化水素系の溶媒を用いて再結晶することにより、光学的に純粋な結晶が優先的に析出し、光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの光学純度が劇的に向上することを見出した。同時に、析出した結晶の化学純度も極めて高く、さらに回収率も高いことを明らかにした。
【0009】
上述したように、種々の類似化合物においては、化合物自体の単なる再結晶では光学純度を効率良く上げることができないことが分かっていた。しかし、本発明者らは光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールに関しては、意外にも、特定の溶媒を用いた再結晶により、大量規模にも有利な、きわめて効率的な精製が達成されることを見出した。
【0010】
特に、脂肪族炭化水素系の溶媒の中でもn−ヘプタンを用いることにより再結晶の効率を格段に向上することができることを見出した。また、光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノール1gに対して2mL以上、10mL以下の脂肪族炭化水素系の溶媒を用いることにより、大量規模での精製も回収率良く行うことができることを見出した。さらに、室温に近い融点(光学的に純粋[100%ee(エナンチオマー過剰率)]なものは30℃から40℃の範囲内にある)を持つ光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの再結晶においても熟成温度が−20℃以上、+10℃以下で十分であることを見出し、該温度条件を採用することにより工業的に実施する場合に冷却設備の負担を大きく軽減できることを明らかにした。
【0011】
この様に、光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの工業的な精製方法として極めて有用な方法を見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は[発明1]から[発明4]を含み、光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの工業的な精製方法を提供する。
【0013】
[発明1]
式[1]
【0014】
【化2】

【0015】
[式中、*は不斉炭素を表す]で示される光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールを脂肪族炭化水素系の溶媒を用いて再結晶することによりなる、光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの精製方法。
【0016】
[発明2]
発明1において、脂肪族炭化水素系の溶媒がn−ヘプタンであることを特徴とする、発明1に記載の光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの精製方法。
【0017】
[発明3]
発明1又は発明2において、脂肪族炭化水素系の溶媒の使用量が光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノール1gに対して2mL以上、10mL以下であることを特徴とする、発明1又は発明2に記載の光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの精製方法。
【0018】
[発明4]
発明1及至発明3の何れかにおいて、再結晶の熟成温度が−20℃以上、+10℃以下であることを特徴とする、発明1及至発明3の何れかに記載の光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの精製方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明が従来技術に比べて有利な点を以下に述べる。
【0020】
非特許文献1に対しては、錯体を形成するための添加剤や、再結晶後の錯体から目的物を回収する操作を必要としない。
【0021】
類似化合物である光学活性1−(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)エタノール、光学活性1−(3−トリフルオロメチルフェニル)エタノールや光学活性1−(4−トリフルオロメチルフェニル)エタノールに対しては、本発明で対象とする光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールは、特異的に、脂肪族炭化水素系の溶媒を用いて再結晶することにより極めて高い光学純度且つ化学純度に精製することができる。さらに、操作が簡便なため好適な精製条件と組み合わせることにより工業的に実施容易である。
【0022】
特許文献2に対しては、誘導体化の工程や光学分割剤を必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの精製方法について詳細に説明する。
【0024】
具体的には、以下の様に再結晶を行うことができる。
【0025】
再結晶溶媒に、精製前の(光学純度がより低い)式[1]で示される光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールを加え、加熱溶解し、熟成温度まで降温する。析出した結晶を回収し、再結晶溶媒を取り除くことにより、精製後の(光学純度が極めて高い)該エタノールを得ることができる。
【0026】
式[1]で示される光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの*は不斉炭素を表し、その立体化学はR配置またはS配置を採ることができる。
【0027】
式[1]で示される光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの光学純度としては、特に制限はないが、通常は50%ee以上であり、70%ee以上が好ましく、特に90%ee以上がより好ましい。
【0028】
中でも、精製前の光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの光学純度が90%eeから98%eeの場合に、本発明の「脂肪族炭化水素系の溶媒を用いた再結晶」の効果は特に顕著である。このような光学純度の光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールを、本発明の「脂肪族炭化水素系の溶媒を用いた再結晶」に適用すると、簡便な操作で、顕著な光学純度の向上が図れ、精製操作後の回収率も高いため、特に好ましい実施態様である。当然、98%eeより高いものをさらに精製することもできるが、精製前の光学純度として98%eeより高いものを用いることは必ずしも工業的に容易ではない。
【0029】
この様な式[1]で示される光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの製造方法としては、特に制限はないが、代表的な一例としてスキーム1に示す方法で製造することができる(参考例1と2を参照)。具体的には、鉄(III)−アセチルアセトナートを触媒として工業的に入手可能な2−(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリドとメチルマグネシウムクロリドのカップリング反応を行うことにより2’−(トリフルオロメチル)アセトフェノンに変換し[Tetrahedron Letters(英国),1987年,第28巻,第18号,p.2053−2056を参考にして同様に行うことができる]、アルコール系の溶媒中で光学活性BINAP類と光学活性ジアミン類を不斉配位子とするルテニウム錯体と塩基の存在下に水素ガス雰囲気下で該アセトフェノンを不斉還元することにより製造することができる。不斉還元はCatalytic Asymmetric Synthesis,Second Edition,2000,Wiley−VCH,Inc.に記載された種々の方法を採用することができる。
【0030】
【化3】

【0031】
再結晶溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、c−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素系の溶媒が挙げられる。その中でもn−ヘキサン、n−ヘプタンおよびn−オクタンが好ましく、特にn−ヘプタンがより好ましい。これらの再結晶溶媒は単独または組み合わせて用いることができる。トルエン、混合キシレン等の芳香族炭化水素系の溶媒、塩化メチレン、t−ブチルメチルエーテル、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、エタノール、水等の、脂肪族炭化水素系以外の溶媒では、結晶が効率良く析出せず、極めて高い光学純度且つ化学純度で、さらに収率良く回収することができない(比較例を参照)。特に、脂肪族炭化水素系の溶媒の中でもn−ヘプタンを用いることにより再結晶の効率を格段に向上することができる。
【0032】
脂肪族炭化水素系の溶媒の使用量としては、精製前の式[1]で示される光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノール1gに対して1mL以上が良く、2mL以上、20mL以下が好ましく、2mL以上、12mL以下がより好ましく、2mL以上、10mL以下が特により好ましい。無溶媒または1mL未満では、析出した結晶の流動性が低く濾過等の回収操作が困難になる。2mL未満では、静置析出は問題なく行えるが撹拌析出は必ずしも良好に行えない。20mLより多いと回収率が低下する。特により好ましい範囲である2mL以上、10mL以下では、工業的に有利な撹拌析出が良好に行えて回収率も高い。
【0033】
加熱溶解の温度としては、特に制限はないが、通常は再結晶溶媒の沸点以下であり、20℃以上、50℃以下が好ましく、特に30℃以上、40℃以下がより好ましい。
【0034】
降温速度としては、特に制限はないが、通常は1時間当り200℃以下であり、150℃以下が好ましく、特に100℃以下がより好ましい。
【0035】
熟成温度としては、−60℃以上、+15℃以下が良く、−40℃以上、+10℃以下が好ましく、特に−20℃以上、+10℃以下がより好ましい。−60℃未満では、工業的に実施する場合に冷却設備の負担が大きい。+15℃より高いと結晶が良好に析出しない。−40℃未満では、光学純度が若干低下する傾向を示す。+10℃よりも高いと回収率が低下する。特により好ましい範囲である−20℃以上、+10℃以下では、工業的に実施する場合に冷却設備の負担を大きく軽減できる。
【0036】
熟成時間としては、特に制限はないが、通常は0.1時間以上、24時間以下であり、採用する精製条件により異なるため、熟成中の溶液への残留溶解量をガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、NMR等の分析手段により測定し、結晶の析出量が殆ど安定した時点を終点とすることが好ましい。
【0037】
本再結晶においては、必要に応じて、降温または熟成中に種結晶を加えることにより結晶をさらに効率良く析出させることができる。
【0038】
種結晶の使用量としては、特に制限はないが、通常は式[1]で示される光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノール1gに対して0.0001g以上であり、0.0002g以上、0.1g以下が好ましく、特に0.0004g以上、0.05g以下がより好ましい。
【0039】
回収操作としては、特に制限はないが、通常は析出した結晶を濾過し、貧溶媒で洗浄し、残留する再結晶溶媒や洗浄液を乾燥することにより(必要に応じて、濾過器や貧溶媒は予め冷却したものを用いることができ、また乾燥は減圧下に行うこともできる)、光学純度が極めて高い式[1]で示される光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールを収率良く回収することができる。本発明の再結晶においては、光学的に純粋な結晶が析出するため回収した結晶の化学純度も極めて高い。回収した結晶は、必要に応じて、活性炭処理や蒸留を行うこともでき、また再結晶を繰り返すことにより光学的に且つ化学的に純品を得ることもできる。再結晶溶媒として用いた脂肪族炭化水素系の溶媒は濾洗液の蒸留により収率良く回収することができ、再利用しても同等の精製効率が得られる。
【0040】
本発明の精製方法においては、光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールを脂肪族炭化水素系の溶媒を用いて再結晶することにより、該エタノールの光学純度を向上することができる(態様1)。
【0041】
好ましくは、脂肪族炭化水素系の溶媒の中でもn−ペプタンを用いることにより再結晶の効率を格段に向上することができる(態様2)。
【0042】
より好ましくは、光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノール1gに対して2mL以上、10mL以下の脂肪族炭化水素系の溶媒を用いることにより、大量規模での精製も回収率良く行うことができる(態様3)。
【0043】
特に好ましくは、−20℃以上、+10℃以下の熟成温度を採用することにより、工業的に実施する場合に冷却設備の負担を大きく軽減することができる(態様4)。
[実施例]
実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[参考例1] カップリング反応(仕込みおよび反応は窒素ガス雰囲気下で行った)
テトラヒドロフラン500mLに、下記式
【0044】
【化4】

【0045】
で示される2−(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリド417g(2.00mol、1.00eq)と鉄(III)−アセチルアセトナート21.2g(0.06mol、0.03eq)を加え、氷冷下で内温を9℃以下に制御しながらメチルマグネシウムクロリドの2.10Mテトラヒドロフラン溶液1.14L(2.39mol、1.20eq)を加え、室温で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィーより変換率は98%であった。反応終了液に氷冷下で1N塩酸670mL(0.67mol、0.34eq)を加え、室温で15分攪拌し、静定後分液し、水層を廃棄した。有機層に2N水酸化ナトリウム水溶液250mL(0.50mol、0.25eq)を加え、室温で2時間20分攪拌し[未反応の2−(トリフルオロメチル)ベンゾイルクロリドを加水分解し]、さらに10%食塩水溶液250mLを加え、静定後分液し、有機層を回収した。水層はトルエン250mLで抽出し、静定後分液し(分液性が若干悪かったためセライト濾過を行い、セライト残渣をトルエン100mLで洗浄し)、有機層を回収した。回収した有機層を合わせて19F−NMR(内部標準法)により定量したところ、下記式
【0046】
【化5】

【0047】
で示される2’−(トリフルオロメチル)アセトフェノンが299g(1.59mol、収率80%)含まれていた。合わせた有機層を減圧濃縮し、単蒸留(沸点79〜85℃/減圧度1.8kPa)することにより、粗生成物279gを得た。収率は74%であった。ガスクロマトグラフィー純度は99.2%であった。粗生成物全量を分別蒸留(沸点82〜85℃/減圧度1.8kPa)することにより、精製品251gを回収した。回収率は90%であった。ガスクロマトグラフィー純度は99.7%であった。回収した精製品の機器データを以下に示す。
H−NMR[基準物質;(CHSi,重溶媒;CDCl],δ ppm;2.58(s,3H),7.46(Ar−H,1H),7.58(Ar−H,2H),7.72(Ar−H,1H).
19F−NMR(基準物質;C,重溶媒;CDCl),δ ppm;103.56(s,3F).
[参考例2] 不斉還元(仕込みは窒素ガス雰囲気下で行い、各仕込み段階で減圧脱気と窒素ガスによる復圧を繰り返した)
脱水i−プロパノール100mLに、下記式
【0048】
【化6】

【0049】
で示される不斉配位子を有するルテニウム錯体{RuCl[(S)−binap][(S)−daipen]}0.09g(0.08mmol、0.00005eq)とt−ブトキシカリウム0.50g(4.46mmol、0.003eq)を加え、50℃で1時間攪拌した(不斉触媒溶液の調製)。
【0050】
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、t−ブトキシカリウム4.00g(35.6mmol、0.022eq)、下記式
【0051】
【化7】

【0052】
で示される2’−(トリフルオロメチル)アセトフェノン300g(1.59mol、1.00eq)と脱水i−プロパノール1.50Lを加え、最後に上記で調製した不斉触媒溶液を全量加え、水素ガス雰囲気下(1.8MPa)に40℃で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィーより変換率は100%であった。反応終了液を減圧濃縮し、残渣を直接、単蒸留(沸点77℃/減圧度0.8kPa)することにより、下記式
【0053】
【化8】

【0054】
で示される光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの粗生成物を273g得た。収率は90%であった。光学純度は97.4%ee(R体リッチ)であった。化学純度は96.0%以上であった。
H−NMR[基準物質;(CHSi,重溶媒;CDCl],δ ppm;1.49(d,6.4Hz,3H),1.99(br,1H),5.33(q,6.4Hz,1H),7.35−7.84(Ar−H,4H).
19F−NMR(基準物質;C,重溶媒;CDCl),δ ppm;103.43(S,3F).
[実施例1]〜[実施例11]、[比較例1]〜[比較例15]および[参考例3]〜[参考例10]は同様の操作により行った。代表例として[実施例5]を以下に示す。光学活性1−(3−トリフルオロメチルフェニル)エタノールと光学活性1−(4−トリフルオロメチルフェニル)エタノールも光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールと同様の方法で製造することができ、また各化合物の精製前の光学純度は上記製造品に光学的純品またはラセミ体を任意の割合で混ぜることにより調整することができる。
[実施例5] 再結晶精製
n−ヘプタン150mLに、下記式
【0055】
【化9】

【0056】
で示される光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノール50g[光学純度95.9%ee(R体リッチ)、化学純度97.7%]を加え、40℃で加熱溶解した。攪拌しながら30分かけて2℃まで降温し、同温度で1時間熟成した。析出した結晶を予め冷却した濾過器を用いて濾過し、冷n−ヘプタン25mLで2回洗浄し、減圧乾燥することにより、下記式
【0057】
【化10】

【0058】
で示される(R)−1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールを35.6g得た。回収率は71%であった。光学純度は100%eeであった。化学純度は100%であった。
【0059】
光学活性(R)−1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの精製に関わる[実施例1]から[実施例11]の結果を表1に、[比較例1]から[比較例15]の結果を表2に纏めた。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
表2(比較例1〜15)から分かるように、再結晶溶媒として芳香族系の炭化水素や非炭化水素系有機溶媒を用いた場合には、目的物を回収することは困難であり、再結晶溶媒をごく少量とした場合(大量の操作には困難が伴う)および、強く冷却した場合には目的物は回収されたものの、回収率は低い値に留まった。また、水を再結晶溶媒とした場合には、均一溶解した状態を経ずに固化し、光学純度の向上は十分なものとはならなかった。
【0063】
これに比較し、表1(実施例1〜11)では、比較的穏和な条件での再結晶精製をも含めて、大幅な光学純度の向上、化学純度の向上が達成されており、回収率も高い値を示している。
【0064】
また、光学活性(S)−1−(3−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの精製に関わる[参考例3]から[参考例6]の結果を表3に纏めた。
【0065】
【表3】

【0066】
さらに、光学活性(R)−1−(4−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの精製に関わる[参考例7]から[参考例10]の結果を表4に纏めた。
【0067】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[1]
【化1】

[式中、*は不斉炭素を表す]で示される光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールを脂肪族炭化水素系の溶媒を用いて再結晶することによりなる、光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの精製方法。
【請求項2】
請求項1において、脂肪族炭化水素系の溶媒がn−ヘプタンであることを特徴とする、請求項1に記載の光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの精製方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、脂肪族炭化水素系の溶媒の使用量が光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノール1gに対して2mL以上、10mL以下であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの精製方法。
【請求項4】
請求項1及至請求項3の何れかにおいて、再結晶の熟成温度が−20℃以上、+10℃以下であることを特徴とする、請求項1及至請求項3の何れかに記載の光学活性1−(2−トリフルオロメチルフェニル)エタノールの精製方法。

【公開番号】特開2009−184945(P2009−184945A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24867(P2008−24867)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】