説明

光学活性3−キヌクリジノールの製造方法

【課題】 光学活性3−キヌクリジノールを高い鏡像体過剰率、かつ高収率で工業的に有利に製造する方法を提供する。
【解決手段】 一般式(3)
【化1】


(ただし、R及びRは同一であっても異なってもよく、アルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基またはシクロアルキル基、もしくはRとRが一緒になって置換基を有していてもよい脂環式環を形成することを示し、R及びRは同一であっても異なってもよく、水素原子、アルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基又は置換基を有していてもよいベンジル基を示し、*は不斉中心を示す)
で表される光学活性ジアミン、ホスフィン類が配位していないルテニウム錯体及び塩基の存在下に、ホスフィン類を添加せずに、3−キヌクリジノンを水素化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品などの合成中間体として有用な光学活性3−キヌクリジノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性3−キヌクリジノールの製造方法のひとつとして、3−キヌクリジノンを不斉金属錯体触媒の存在下で不斉水素化する方法がある。
【0003】
3−キヌクリジノンは、式(1)
【0004】
【化1】

【0005】
で表される化合物であり、光学活性3−キヌクリジノールは、式(2)
【0006】
【化2】

【0007】
(ただし、*は不斉中心を示す)で表される化合物である。
【0008】
光学活性3−キヌクリジノールの製造方法として、3−キヌクリジノンをキラルなジホスフィンを有するロジウム、イリジウムまたはルテニウム錯体の存在下で水素化する方法(特許文献1)、特定の光学活性ジホスフィン配位子及び特定の光学活性1,2−エチレンジアミン型配位子を有する光学活性ルテニウム(II)錯体と塩基の存在下で水素化する方法(特許文献2)、光学活性フェロセニルジホスフィン、光学活性ジアミン、及びロジウム錯体または塩の存在下で、塩基を添加せずに水素化する方法(特許文献3実施例1)などが知られている。
【0009】
特許文献1に記載されている製造方法では、得られる光学活性3−キヌクリジノールの鏡像体過剰率が20%ee以下と極めて低いという問題点があった。特許文献2に記載されている製造方法では、鏡像体過剰率が54%eeまで向上するが、まだ不十分であり、しかも光学活性ジホスフィン及び光学活性ジアミンという2種類の光学活性化合物を合成しなければならず、製造工程が繁雑となるという問題点があった。特許文献3に記載されている製造方法では、さらに鏡像体過剰率が向上するが(69%ee)、2種類の光学活性化合物を合成しなければならないので、製造工程の繁雑さは解消されない。
【0010】
ホスフィン類が配位していない光学活性ルテニウムジアミン錯体も知られている(特許文献4)。しかし、特許文献4に記載されている光学活性ルテニウムジアミン錯体の存在下に、3−キヌクリジノンを不斉水素化した場合、鏡像体過剰率が低いという問題点があった。
【特許文献1】特開平9−194480号公報
【特許文献2】特開2003−277380号公報
【特許文献3】特開2004−292434号公報
【特許文献4】特開平10−130289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
光学活性3−キヌクリジノールを高い鏡像体過剰率、かつ高収率で工業的に有利に製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、3−キヌクリジノンを水素化して光学活性3−キヌクリジノールを得る際に、特定の光学活性ジアミン、ルテニウム錯体、及び塩基の存在下に水素化すると、光学活性ホスフィンを添加しなくても、容易に高い鏡像体過剰率で光学活性3−キヌクリジノールが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、上記課題を解決するための第1の発明は、3−キヌクリジノンを水素化して光学活性3−キヌクリジノールを得る際に、一般式(3)
【0014】
【化3】

【0015】
(ただし、R及びRは同一であっても異なってもよく、アルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基またはシクロアルキル基、もしくはRとRが一緒になって置換基を有していてもよい脂環式環を形成することを示し、R及びRは同一であっても異なってもよく、水素原子、アルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基又は置換基を有していてもよいベンジル基を示し、*は不斉中心を示す)
で表される光学活性ジアミン、ホスフィン類が配位していないルテニウム錯体及び塩基の存在下に、ホスフィン類を添加せずに、水素化することを特徴とする光学活性3−キヌクリジノールの製造方法に関するものである。
【0016】
上記課題を解決するための第2の発明は、前記第1の発明であって、光学活性ジアミンが、一般式(4)
【0017】
【化4】

【0018】
(ただし、R及びRは前記と同じで、R及びRは同一であっても異なってもよく、置換基を有するフェニル基またはシクロアルキル基、もしくはRとRが一緒になって置換基を有する脂環式環を形成することを示し、*は不斉中心を示す)
で表されるジアミンであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、光学活性3−キヌクリジノールを高い鏡像体過剰率、かつ高収率で工業的に有利に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の光学活性3−キヌクリジノールの製造方法について説明する。
【0021】
使用するホスフィン類が配位していないルテニウム錯体については、光学活性ジアミンが容易に配位子置換できる錯体であれば、特に制限はない。例えば、[{RuCl(η−C)}]ジ−μ−クロロ(η−ノルボルナジエン)、[{RuCl(η−C12)}]ジ−μ−クロロ(η−1,5−シクロオクタジエン)などのジエンが配位したルテニウム錯体、[{RuCl(η−C)}]テトラクロロビス(η−ベンゼン)二ルテニウム(II)、[{RuCl(η−C1014)}]テトラクロロビス(η−p−シメン)二ルテニウム(II)、[{RuCl(η−C1218)}]テトラクロロビス(η−p−ヘキサメチルベンゼン)二ルテニウム(II)などの芳香族化合物が配位したルテニウム錯体などを挙げることができる。好ましくは、芳香族化合物が配位したルテニウム(II)錯体である。
【0022】
ルテニウム錯体の使用量は反応条件により異なるが、通常、3−キヌクリジノンに対して、0.001〜1モル%であり、好ましくは0.01〜0.1モル%である。0.001モル%未満の場合は、反応に長時間を要したり、水素化反応が完結しない場合があるので好ましくない。一方、1モル%を超える量を使用しても、光学活性3−キヌクリジノールの鏡像体過剰率、収率などに有意差はなく、経済的に不利なので好ましくない。
【0023】
前記一般式(3)で表される光学活性ジアミン中のR及びRとしては、互いに独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、4−メチルシクロペンチル基、2−メトキシシクロヘキシル基、3−トリフルオロメチルシクロヘキシル基などの置換基を有していてもよいシクロアルキル基;フェニル基、2−メチルフェニル基、3−トリフルオロメチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基などの置換基を有していてもよいフェニル基を挙げることができる。また、RとRが一緒になって置換基を有していてもよい脂環式環を形成する場合には、テトラメチレン基、2−メチルテトラメチレン基などを挙げることができる。
【0024】
前記一般式(3)または(4)で表される光学活性ジアミン中の窒素原子に結合するR及びRとしては、互いに独立に、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、4−メチルシクロペンチル基、2−メトキシシクロヘキシル基などの置換基を有していてもよいシクロアルキル基;ベンジル基、2−メチルフェニルメチル基などの置換基を有していてもよいベンジル基を挙げることができる。
【0025】
前記一般式(4)で表される光学活性ジアミン中のR及びRとしては、互いに独立に、4−メチルシクロペンチル基、2−メトキシシクロヘキシル基、3−トリフルオロメチルシクロヘキシル基などの置換基を有するシクロアルキル基;2−メチルフェニル基、3−トリフルオロメチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基などの置換基を有するフェニル基を挙げることができる。また、RとRが一緒になって置換基を有していてもよい脂環式環を形成する場合には、テトラメチレン基、2−メチルテトラメチレン基などを挙げることができる。
【0026】
前記一般式(3)で表される光学活性ジアミンとしては、(2S,3S)−N,N’−ジエチル−2,3−ブタンジアミン、(1R,2R)−1,2−ジシクロヘキシル−1,2−エタンジアミン、(1R,2R)−N,N’−ジメチル−1,2−ビス(2−メチルシクロヘキシル)−1,2−エタンジアミン、(1R,2R)−(+)−1,2−ジフェニル−1,2−エタンジアミン(以下、(1R,2R)−DPENと略称)、(1S,2S)−DPEN、(1R,2R)−N,N’−ジメチル−1,2−ジフェニル−1,2−エタンジアミン(以下、「(1R,2R)−MeDPEN」と略称)、(1S,2S)−MeDPEN、(1R,2R)−N,N’−ジメチル−1,2−ビス[(3−トリフルオロメチル)フェニル]−1,2−エタンジアミン(以下、「(1R,2R)−MeFDPEN」と略称)、(1S,2S)−MeFDPEN、(1S,2S)−N,N’−ジベンジル−1,2−ジフェニル−1,2−エタンジアミン、(1R,2R)−N,N’−ジシクロヘキシル−1,2−ジフェニル−1,2−エタンジアミン、(1R,2R)−N,N’−ジメチル−1,2−ビス(4−メトキシフェニル)−1,2−エタンジアミン、(1S,2S)−N,N’−ジメチル−1,2−ビス(2−メチルフェニル)−1,2−エタンジアミン、(1R,2R)−N,N’−ジメチル−1,2−シクロヘキサンジアミンなどが例示できる。
【0027】
前記一般式(4)で表される光学活性ジアミンとしては、(1R,2R)−N,N’−ジメチル−1,2−ビス(2−メチルシクロヘキシル)−1,2−エタンジアミン、(1R,2R)−MeFDPEN、(1S,2S)−MeFDPEN、(1R,2R)−N,N’−ジメチル−1,2−ビス(4−メトキシフェニル)−1,2−エタンジアミン、(1S,2S)−N,N’−ジメチル−1,2−ビス(2−メチルフェニル)−1,2−エタンジアミンなどが例示できる。
【0028】
前記一般式(3)または一般式(4)で表される光学活性ジアミンの使用量は、通常、前記のルテニウム錯体に対して(ルテニウム原子当たり)1〜3当量であり、好ましくは1.2〜2.2当量である。1当量未満の場合は、光学活性3−キヌクリジノールの鏡像体過剰率が低下することがあるので好ましくない。一方、2.2当量を超える量を使用しても、目的物の収率や鏡像体過剰率は向上せず、経済的に不利なので好ましくない。
【0029】
塩基としてはアルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属のアルコキシドが使用できる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウム(tert−ブトキシド)、カリウム(tert−ブトキシド)、リチウム(tert−ブトキシド)などが挙げられる。好ましくは、カリウム(tert−ブトキシド)、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシドが使用できる。
【0030】
塩基の使用量は反応条件により異なるが、通常、基質である3−キヌクリジノンに対して0.01〜0.5当量であり、好ましくは0.03〜0.2当量である。0.01当量未満の場合は水素化反応速度の低下を引き起こすことがあるので好ましくない。一方、0.5当量を超える量を使用した場合は、反応生成物を精製して光学活性3−キヌクリジノールを得るために、煩雑な操作が必要になるので好ましくない。
【0031】
本発明方法は、好ましくは溶媒中で実施される。溶媒としては、3−キヌクリジノン、前記一般式(1)で表される光学活性ジアミン、ホスフィン類が配位していない前記したルテニウム錯体、前記した塩基を可溶化するものであれば、特に制限はない。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンのような脂肪族及び芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサンなどのエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1,2,2−テトラクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、酢酸エチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル及びラクトン類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンのようなカルボキサミド及びラクタム類などが例示できる。これらの溶媒は単独で、あるいは2種類以上を混合して使用することもできる。好ましくは、2−プロパノール、メタノールなどのアルコール類が使用できる。
【0032】
溶媒の使用量は、3−キヌクリジノンに対して1/10〜10000重量倍であるが、好ましくは1/10〜100倍重量である。溶媒の使用量がカルボニル化合物に対して1/10未満の場合は、カルボニル化合物を溶解するのに不十分で反応性を著しく低下させるので好ましくない。カルボニル化合物に対して、溶媒を10000重量倍を超えて使用しても特段の効果は見られず、経済的に不利なので好ましくない。
【0033】
この溶媒にホスフィン類が配位していない前記したルテニウム錯体、前記一般式(1)で表される光学活性ジアミン、及び前記した塩基を添加して反応させることにより、予め、触媒溶液を調製したり、更に光学活性ジアミンが配位したルテニウム錯体を単離して、それを反応に使用してもよい。
【0034】
反応温度は、通常、0℃〜120℃であり、好ましくは10〜40℃である。温度が10℃未満の場合は、反応が極めて遅くなり未反応の3−キヌクリジノンが残存し易くなるので好ましくない。一方、40℃を超える温度で反応した場合は、得られる光学活性3−キヌクリジノールの鏡像体過剰率が低下するので好ましくない。
【0035】
水素圧は、通常、0.1〜20MPaであり、好ましくは0.5〜10MPaである。0.1MPa未満の場合は、反応が極めて遅くなり未反応の3−キヌクリジノンが残存し易くなるので好ましくない。20MPaを超えて使用しても特段の効果は認められず、経済的に不利なので好ましくない。
【0036】
反応時間は温度など反応条件によって異なるが、通常、3〜24時間である。3時間未満では、3−キヌクリジノンの残存量が増加するので好ましくない。一方、24時間を超えて反応しても、光学活性3−キヌクリジノールの収率や鏡像体過剰率は向上せず、経済的に不利なので好ましくない。
【0037】
反応終了後は、溶媒抽出、蒸留、再結晶、クロマトグラフィーなど通常の有機合成化学的手法により、単離・精製を行い、目的の生成物を得ることができる。反応の転化率、生成物の構造及び鏡像体過剰率は、1H−NMR、旋光度、高速液体クロマトグラフ(HPLC)、ガスクロマトグラフ(GLC)などの公知の分析手段によって決定することができる。
【0038】
次に、実施例を示し、更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
試験管に3−キヌクリジノン0.5g(4mmol)、カリウム(tert−ブトキシド)13.5mg(0.12mmol)、[{RuCl(η−C)}]10mg(20μmol、Ru原子40μ当量)、(1R,2R)−(+)−MeFDPEN32mg(85μmol)をそれぞれ量り取り、メタノール6mlに溶解させた。試験管をオートクレーブに入れ、水素ガスにより置換した後、4.0MPaに加圧した。室温(26〜28℃)で15時間撹拌、反応させた。反応液を減圧下に濃縮し粗生成物を得た。得られた生成物をGLC及びHPLC により分析したところ、3−キヌクリジノンは検出されず、得られた3−キヌクリジノールの鏡像体過剰率は74%ee(R)であった。
【実施例2】
【0040】
予め窒素置換したオートクレーブに3−キヌクリジノン10g(80mmol)、ナトリウムメトキシドの28%メタノール溶液 1.55g(8mmol)、メタノール 120ml、[{RuCl(η−C)}]5mg(10μmol、Ru原子20μ当量)、(1R,2R)−(+)−MeFDPEN9mg(24μmol)を加えた。オートクレーブ内を水素ガスにより置換した後、4.0MPaに加圧した。30℃にて17.5時間攪拌、反応させた。反応液を減圧下に濃縮し粗生成物を得た。得られた生成物をGLC及びHPLC により分析したところ、3−キヌクリジノールへの転化率は100%であり、得られた3−キヌクリジノールの鏡像体過剰率は72%ee(R)であった。
【実施例3】
【0041】
光学活性ジアミンとして、(1R,2R)−(+)−MeFDPENに替えて(1R,2R)−(+)−MeDPENを使用した以外は、実施例1と同様に反応を行なった。その結果、得られた3−キヌクリジノールの鏡像体過剰率は58%%ee(R)であった。
【実施例4】
【0042】
光学活性ジアミンとして、(1R,2R)−(+)−MeFDPENに替えて(R,R)−DPEN(関東化学(株)製)を使用した以外は、実施例1と同様に反応を行なった。20時間後には3−キヌクリジノンが消失しており、3−キヌクリジノールの鏡像体過剰率は48%(R)であった。
【実施例5】
【0043】
試験管に3−キヌクリジノン0.5g(4mmol)、ナトリウムメトキシドの28%メタノール溶液 1.55g(0.6mmol)、[{RuCl(η−C)}]10mg(20μmol、Ru原子40μ当量)、(1R,2R)−1,2−ビス[(3−トリフルオロメチル)フェニル]−1,2−エタンジアミン(以下、「(1R,2R)−FDPEN」と略称)30mg(85μmol)をそれぞれ量り取り、メタノール6mlに溶解させた。試験管をオートクレーブに入れ、水素ガスにより置換した後、3.6MPaに加圧した。室温で18時間撹拌、反応させた。反応液を減圧下に濃縮し粗生成物を得た。得られた生成物をGLC及びHPLC により分析したところ、3−キヌクリジノンは検出されず、得られた3−キヌクリジノールの鏡像体過剰率は48%ee(R)であった。
【実施例6】
【0044】
光学活性ジアミンとして、(1R,2R)−(+)−FDPENに替えて、(1R,2R)−N,N’−ジエチル−1,2−ビス[(3−トリフルオロメチル)フェニル]−1,2−エタンジアミン(「(1R,2R)−EtFDPEN」と略称)を使用した以外は、実施例5と同様に反応を行なった。その結果、得られた3−キヌクリジノールの鏡像体過剰率は72%ee(R)であった。
【実施例7】
【0045】
光学活性ジアミンとして、(1R,2R)−(+)−FDPENに替えて(1R,2R)−N,N’−ジエチル−1,2−ジフェニル−1,2−エタンジアミン(「(1R,2R)−MeDPEN」と略称)を使用した以外は、実施例5と同様に反応を行なった。その結果、得られた3−キヌクリジノールの鏡像体過剰率は73%ee(R)であった。
【実施例8】
【0046】
光学活性ジアミンとして、(1R,2R)−(+)−FDPENに替えて、(1R,2R)−N,N’−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジアミン(「(1R,2R)−MeDACH」と略称)を使用した以外は、実施例5と同様に反応を行なった。その結果、得られた3−キヌクリジノールの鏡像体過剰率は58%ee(R)であった。
【実施例9】
【0047】
試験管に3−キヌクリジノン0.5g(4mmol)、カリウム(tert−ブトキシド)13.5mg(0.12mmol)、[{RuCl(η−C)}]10mg(20μmol、Ru原子40μ当量)、(1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジアミン(「(1S,2S)−DACH」と略称)9.7mg(85μmol)をそれぞれ量り取り、エタノール6mlに溶解させた。試験管をオートクレーブに入れ、水素ガスにより置換した後、3.6MPaに加圧した。室温で15時間撹拌、反応させた。反応液を減圧下に濃縮し粗生成物を得た。得られた生成物をGLC及びHPLC により分析したところ、3−キヌクリジノンは検出されず、得られた3−キヌクリジノールの鏡像体過剰率は58%ee(S)であった。
【0048】
(比較例1)
試験管に3−キヌクリジノン 0.5g(4mmol)、[RuCl{(R,R)−TsNCH(C)CH(C)NH}{(1R,2R)−N−p−トルエンスルホニル−1,2−ジフェニルエチレンジアミン}(η−p−シメン)ルテニウム(以下、[RuCl{(1R,2R)−TsDPEN}(η−p−シメン)]と略称,関東化学(株)製)13mg (20μmol)、カリウム(tert−ブトキシド)15mg (0.13mmol)を量り取り、メタノール6mlに溶解させた。試験管内に窒素を満たした後、オートクレーブに入れ、オートクレーブ内を窒素置換し、続いて水素置換した。水素圧4.0MPa、室温で20時間反応させた。3−キヌクリジノールへの転化率は100%で、得られた3−キヌクリジノールの鏡像体過剰率は24%(R)であった。
【0049】
(比較例2)
光学活性ジアミンとして、(1R,2R)−(+)−MeFDPENに替えて(R)−1,1’−ビス(p−メトキシフェニル)−2−イソプロピル−1,2−エタンジアミン(以下、(R)−DAIPENと略称,関東化学(株)製)を使用した以外は、実施例1と同様に反応を行なった。91時間後には3−キヌクリジノンが消失しており、得られた3−キヌクリジノールの鏡像体過剰率は19%(R)であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、光学活性3−キヌクリジノールを高収率かつ高い鏡像体過剰率で工業的に有利に製造できる。本化合物を合成中間体として使用する医薬品などの製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−キヌクリジノンを水素化して光学活性3−キヌクリジノールを得る際に、一般式(3)
【化1】


(ただし、R及びRは同一であっても異なってもよく、アルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基またはシクロアルキル基、もしくはRとRが一緒になって置換基を有していてもよい脂環式環を形成することを示し、R及びRは同一であっても異なってもよく、水素原子、アルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基又はは置換基を有していてもよいベンジル基を示し、*は不斉中心を示す)
で表される光学活性ジアミン、ホスフィン類が配位していないルテニウム錯体及び塩基の存在下に、ホスフィン類を添加せずに、水素化することを特徴とする光学活性3−キヌクリジノールの製造方法。
【請求項2】
光学活性ジアミンが、一般式(4)
【化2】


(ただし、R及びRは前記と同じで、R及びRは同一であっても異なってもよく、置換基を有するフェニル基またはシクロアルキル基、もしくはRとRが一緒になって置換基を有する脂環式環を形成することを示し、*は不斉中心を示す)
で表されるジアミンであることを特徴とする請求項1に記載の光学活性3−キヌクリジノールの製造方法。