説明

光学用二軸延伸ポリエステルフィルム

【課題】十分な機械的強度を備え、光学用途に適した高度な透明性を有する、光学用二軸延伸ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】エチレンテレフタレート単位が82〜92モル%を占め、ガラス転移温度が80〜85℃である共重合ポリエチレンテレフタレートからなる、フィルムの厚みが20〜400μmである光学用二軸延伸ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用二軸延伸ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
光学用二軸延伸ポリエステルフィルムには高度な透明性が要求される。二軸延伸ポリエステルフィルムは、未延伸フィルムを延伸して得られるが、フィルムの取り扱い性や強度を確保するためにフィルムの厚みを厚くしていくと、溶融ポリエステルをダイからキャスティングドラムの上に押出して未延伸フィルムを得る際に、未延伸フィルムの冷却が不足し、未延伸フィルム中に結晶が生成し、得られる二軸延伸フィルムは透明性の低いものになってしまう。
【0003】
未延伸フィルム中の結晶の生成を抑制するためには、原料ポリエステルとして、共重合ポリエステルを用いればよく、この場合には未延伸フィルム中での結晶の生成は抑制され、得られる二軸延伸ポリエステルフィルムの結晶化を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−130404号公報
【特許文献2】特開平10−166440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、二軸延伸ポリエステルフィルムの結晶化を抑制するだけでは、近年の高精細な表示装置に用いることに適した高度な透明性を達成するためには不十分である。
本発明は、光学用途に適した高度な透明性を有する、光学用二軸延伸ポリエステルフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、エチレンテレフタレート単位が82〜92モル%を占め、ガラス転移温度が80〜85℃である共重合ポリエチレンテレフタレートからなる、フィルムの厚みが20〜400μmである光学用二軸延伸ポリエステルフィルムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光学用途に適した高度な透明性を有する、光学用二軸延伸ポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
[共重合ポリエチレンテレフタレート]
本発明における共重合ポリエチレンテレフタレートは、エチレンテレフタレート単位が82〜92モル%を占める共重合ポリエチレンテレフタレートである。
【0009】
この共重合ポリエチレンテレフタレートの共重合成分としては、例えばナフタレンジカルボン酸、フェニル基上にバルキーな置換基を有するイソフタル酸、シクロヘキサンジメタノールを用いることができ、さらに好ましくは2、6−ナフタレンジカルボン酸、ターシャリーブチルイソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール、特に好ましくは2、6−ナフタレンジカルボン酸を用いる。
【0010】
これらの共重合成分の共重合量は合計で、全ジカルボン酸成分または全ジオール成分あたり8〜18モル%、好ましくは10〜13モル%である。この範囲で上述の共重合成分を共重合することによって、フィルムのガラス転移温度が80℃〜85℃である共重合ポリエチレンテレフタレートフィルムを得ることができる。
【0011】
[滑剤]
本発明の光学用二軸延伸ポリエステルフィルムは、滑剤を実質的に含まない共重合ポリエチレンテレフタレートからなることが好ましい。「滑剤を実質的に含まない」とは、滑剤として添加された不活性粒子を実質的に含有しないことを意味する。これは、換言すれば、滑剤としての不活性粒子を、製造工程のいかなる段階においても共重合ポリエチレンテレフタレートに添加しないことを意味し、また、触媒の残渣を積極的に共重合ポリエチレンテレフタレート中に析出させないことを意味する。
【0012】
より定量的に表わせば、フィルムの共重合ポリエチレンテレフタレート中に、粒経50nm以上の粒子を含有しないか、または含有するにしても共重合ポリエチレンテレフタレートの重量を基準として、高々300ppmしか含有しないことを意味する。滑剤を実質的に含むと、フィルム表面に粗大突起が発生し、それにより光が散乱され、フィルムの透明性が低下する。
【0013】
[ガラス転移温度]
本発明の光学用二軸延伸ポリエステルフィルムは、示差走査熱量計で測定したフィルムのガラス転移温度が80℃〜85℃である。80℃未満であると透明性を向上する効果が十分に得られず、85℃を超えると結晶性が低下し、耐熱性が劣る。
【0014】
[固有粘度]
本発明の光学用二軸延伸ポリエステルフィルムのポリエステルの固有粘度は、好ましくは0.55〜0.86dl/gである。この範囲の固有粘度であることによって製膜時に装置にかかる押出負荷が小さく、厚み斑の小さいフィルムを得ることができる。
【0015】
[色相]
本発明の光学用二軸延伸ポリエステルフィルムの透過カラーb値は、好ましくは0.10〜1.50である。この範囲の透過カラーb*値であることによって、良好な色相を得ることができ、着色がなく光学用途に好適である。
【0016】
[フィルムの厚み]
本発明の光学用二軸延伸ポリエステルフィルムの厚みは20〜400μm、好ましくは50〜350μm、さらに好ましくは125〜300μmである。20μm未満であると機械的強度が不足し、400μmを超えるとフィルムの生産性が劣る。
【0017】
[塗布層]
本発明の光学用二軸延伸ポリエステルフィルムは、その少なくとも片面に、高分子樹脂および微粒子からなる塗布層を有することが好ましい。塗布層を設け、塗布層に微細な滑剤を含有させることで、フィルムに適度な滑り性を付与することができる。
高分子樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂を用いることができ、好ましくはポリエステル樹脂を用いる。微粒子としては、好ましくは平均粒子径20〜150nmの無機もしくは有機微粒子を用いる。
【0018】
[製造方法]
本発明の光学用二軸延伸ポリエステルフィルムに用いる共重合ポリエチレンテレフタレートは、公知の方法を用いて製造することができる。
本発明の光学用二軸延伸ポリエステルフィルムは、例えば次のようにして製造することができる。共重合ポリエチレンテレフタレートを140〜180℃で2〜5時間乾燥後、押出機ホッパーに投入し、溶融温度250〜300℃で溶融混練して押出し、キャスティングドラム上で急冷して未延伸フィルムを得る。この未延伸フィルムを、77〜85℃で予熱し、さらにIRヒーターにて加熱して縦方向に3.0〜3.6倍に延伸する。続いてテンターに供給し、130〜140℃にて横方向に3.0〜3.7倍に延伸する。得られた二軸延伸フィルムを200〜250℃の温度で5秒間から10分間熱固定することで得ることができる。
【0019】
二軸延伸の方法としては、未延伸フィルムを、長手方向あるいは幅方向に延伸し、続いて先の延伸方向と直行する方向の延伸を行う逐次二軸延伸や、長手方向と幅方向に一度に延伸する同時二軸延伸などの方法を用いることができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。なお、物性の測定方法および評価方法は以下のとおりである。
【0021】
(1)ヘーズ
サンプルフィルムのヘーズを、JIS K7361に準じ、ヘーズ測定器(日本電色工業社製の商品名 NDH―2000)を用いて測定した。二軸延伸ポリエステルフィルムの任意の3点について全光線透過率(%)と散乱光透過率(%)を求めた。これら3点の平均値をそれぞれ全光線透過率Tt(%)と散乱光透過率Td(%)とした。これらの数値から、へーズ(Td/Tt×100(%))を算出した。
【0022】
(2)ガラス転移温度
示差走査熱量計(以下「DSC」ということがある)の測定用のパンに20mgのフィルム試料を入れ、290℃の加熱ステージ上で5分間加熱溶融後、すばやく試料パンを氷の上に敷いたアルミ箔上で急冷固化し、TA Instrument DSC Q100型示差走査熱量計を用い、昇温速度20℃/分でガラス転移温度を測定し、これを、フィルムのポリエステルのガラス転移温度とした。
【0023】
(3)機械的強度(F−5値)
サンプルフィルムを幅10mm、長さ150mmの長方形に切り出し、チャック間100mmにサンプルフィルムを装着し、JIS−C2151に従って引張速度100mm/minの条件で引張試験を行い、5%伸張時の荷伸曲線の荷重を読み取った。測定は3回行い、平均値を結果とした。F−5値(N/mm)は、荷重を引張前のサンプル断面積で割って算出した。測定は温度23±2℃、湿度50±5%に調節された室内において行った。
【0024】
[実施例1]
共重合成分として2,6−ジナフタレンカルボン酸成分を12モル%含む共重合ポリエチレンテレフタレートを、160℃で4時間乾燥後、押出機ホッパーに投入し、溶融温度270℃で溶融し、溶融押出し、キャスティングドラム上で急冷して未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを、82〜84℃にて予熱し、さらに低速、高速のロール間で15mm上方より850℃のIRヒーターにて加熱して縦方向に3.2倍に延伸した。続いて、テンターに供給し、138℃にて横方向に3.5倍に延伸して二軸延伸フィルムを得て、これを242℃の温度で5秒間熱固定し、厚み188μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。このフィルムの評価結果を表1にまとめる。
【0025】
[比較例1]
実施例1において共重合成分を2,6−ナフタレンジカルボン酸成分12モル%からイソフタル酸成分11モル%に変えた以外は実施例1と同様にして、厚み188μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。このフィルムの評価結果を表1にまとめる。
【0026】
[比較例2]
実施例1において共重合成分の2,6−ナフタレンジカルボン酸成分の量を12モル%から1モル%に変えた以外は実施例1と同様にして、溶融押出、二軸延伸および熱固定して、厚み188μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。このフィルムの評価結果を表1にまとめる。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の光学用二軸延伸ポリエステルフィルムは、光学用フィルムや光学用フィルムの表面保護フィルムとして好適に用いることができる。光学用フィルムとして、フラットパネルディスプレイのプリズムシートに例えば用いることができ、光学用フィルムの表面保護材として、フラットパネルディスプレイの偏光板保護フィルムとして例えば用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンテレフタレート単位が82〜92モル%を占め、ガラス転移温度が80〜85℃である共重合ポリエチレンテレフタレートからなる、フィルムの厚みが20〜400μmである光学用二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項2】
共重合ポリエチレンテレフタレートの共重合成分が、2、6−ナフタレンジカルボン酸、ターシャリーブチルイソフタル酸またはシクロヘキサンジメタノールである、請求項1記載の光学用二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項3】
フィルムの固有粘度が0.55〜0.86dl/gである、請求項1記載の光学用二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項4】
フィルムの少なくとも片面に、高分子樹脂および微粒子からなる塗布層が設けられた、請求項1記載の光学用二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項5】
フィルムの透過カラーb*値が0.10〜1.50である、請求項1記載の光学用二軸延伸ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2011−99005(P2011−99005A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252997(P2009−252997)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】