説明

光学素子、およびその製造方法

【課題】優れた反射防止効果を有する光学素子を提供する。
【解決手段】反射防止機能を有する光学素子は、第1の主面および第2の主面を有する基体と、反射の低減を目的とする光の波長以下の微細ピッチで第1の主面に配置された、凸部または凹部からなる複数の構造体と、第2の主面に形成された光吸収層とを備える。構造体は、基体の第1の主面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、六方格子パターン、準六方格子パターン、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成する。構造体は、トラックの延在方向に長軸方向を有する楕円錐または楕円錐台形状である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、およびその製造方法に関する。詳しくは、反射の低減を目的とする光の波長以下の微細ピッチで構造体が多数配置された光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、カメラや望遠鏡などの光学機器鏡筒101では、レンズ102から入射した外光L1は、レンズ102やレンズ103の端面で乱反射する。この端面で生じた乱反射光L2は、レンズ102やレンズ103の後部に向かって進行するため、像にゴーストやフレアを引き起こし、コントラストの低下などを招くこととなる。そこで、従来より、カメラや望遠鏡などの光学機器鏡筒内部品の表面にコーティングを施し、鏡筒内部品表面の反射による光を減少させ、コントラストを上げるための技術が実用化されている。
【0003】
レンズ鏡筒内部に用いられるレンズ内面反射防止塗料としては、超微粒子高屈折材料を使用したコーティング材料(独ロジモール社、商品名:GTシリーズ)が広く知られている(非特許文献1参照)。高い光学性能を実現するためには、レンズに施されるコーティング処理だけでなく、レンズ鏡筒内部における複雑な反射光の処理も重要なポイントとなる。ゴーストやフレアの発生を抑制するためには、上述したように、乱反射光を抑えることが重要となる。
【0004】
上記レンズ内面反射防止塗料を、レンズを保持する嵌合面や斜面に塗布することで、レンズ鏡筒から外へ出ようとする、または中へ入ろうとする反射光が低減される。上記レンズ内面反射防止塗料は超微粒子高屈折材料を含み、その屈折率はガラスより高く、反射を抑える効果は絶大となる。塗布する箇所や目的に応じて、レンズ内面反射防止塗料(GTシリーズ)の種類を使い分けることにより、優れた反射防止効果が得られる。
【0005】
上記レンズ内面反射防止塗料では、粒子が分子オーダーまで分散する染料を使用しているため、均一な光吸収体の形成が可能である。大きな粒子成分を使用している塗料では難しい高屈折ガラスでの内面反射防止にも、充分な効果を発揮することができる。図2は、上記レンズ内面反射防止塗料の測定結果を示している。図2から、上記レンズ内面反射防止塗料のコーティングにより、内面反射率が数%以内に低減されていることがわかる。
【0006】
また、反射防止を目的としたコーティング材料としては、グラファイト系のコーティング材料(サイエス潤滑株式会社、商品名:サンコートGR)が知られている(非特許文献2参照)。このコーティング材料は、黒色艶有りから完全艶消しまでの調整が可能である。
【0007】
また、パーソナルコンピュータ、カーナビゲーションシステム、タッチパネルなどのディスプレイでは、蛍光灯や照明の明かりなどの映り込み防止のため、反射防止や防眩処理が施されているフィルムが使用されている(例えば、非特許文献3参照)。反射防止は、屈折率の差を利用し、光の進路の調整を行ない、かつ反射を抑えるものであり、防眩処理は、表面に凹凸を形成することで、光を乱反射させ、ギラツキ感をなくすものである。例えば非特許文献3では、フィラーの分散技術を活かした防眩フィルム用のコート剤が開示されている。
【0008】
上述したコーティング以外の技術として、カメラや望遠鏡などの光学機器鏡筒に反射防止構造体を形成する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0009】
図3Aは、レンズ境筒に含まれるズームレンズ系の配置を示す概略図である。このズームレンズ系は、複数のレンズ群を光軸方向に移動させることによりズーミングを行うレンズ系である。このズームレンズ系は、最も物体側に位置する第1レンズ群G1と、物体側から2番目に配置され、かつ第1レンズ群G1とパワーの異なる第2レンズ群G2と、物体側から3番目に配置される第3レンズ群G3とを備える。第1レンズ群G1から撮像面Sの側の位置に対応する範囲のレンズ鏡筒の内面には、入射光の最短波長よりも小さいピッチで周期的にアレイ状に配列された複数の反射防止構造体111が設けられている。このようにレンズ鏡筒の内面に反射防止構造体111を備えることで、レンズ群に入射する軸外光がレンズ鏡筒内で反射することを抑えることができる。したがって、不要光による画質の劣化が抑制されたレンズ鏡筒を提供することができる。
【0010】
図3Bは、レンズ鏡筒の第2レンズ群G2の概略拡大図である。上述のように、第2レンズ群G2中、正レンズ112と正レンズ113とは、所定間隔を介して配置される。そのため、被写体像の形成に寄与しない軸外光は、第1レンズ群G1を透過した後、第2レンズ群G2に入射し、上記所定間隔に対応する範囲の鏡筒内周面に到達する。そして、軸外光が鏡筒内周面に到達し反射された場合、その反射光は、迷光となって撮像面Sに達し、フレアやゴーストを発生させる。そこで、図3Bに示すように、レンズ鏡筒の第2レンズ群111では、上記所定間隔に対応する範囲の鏡筒内周面に反射防止構造体111を設けている。
【0011】
ここで、反射防止構造体111は、所定の形状を有する構造単位が、入射光の波長の下限値よりも小さいピッチ、すなわち入射光の最短波長よりも小さいピッチで周期的にアレイ状に配列されたものである。このように所定の形状を有する構造単位を周期的にアレイ状に配列させることによって、入射光に対して、見かけ上屈折率を連続的に変化させ、空気層との界面での透過/反射特性の入射角依存性、および波長依存性が少ない反射防止機能面を形成できる。反射防止構造体111としては、図3Cに示すように、高さHの円錐形状の突起を構造単位とし、これら円錐形状の突起がピッチPで周期的にアレイ状に配列された構造体が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−293093号公報参照
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】独ロジモール社、輸入総代理店プリンス貿易株式会社、“レンズ内面反射防止塗料 GTシリーズ”、[online]、[平成21年9月1日検索]、インターネット<http://www.prince-boueki.co.jp/gt.htm>参照
【非特許文献2】サイエス潤滑株式会社、“サンコートGR♯シリーズ(グラファイト系)の特長”、[online]、[平成21年9月1日検索]、インターネット<http://www.suns-j.co.jp/tec/gr.html>参照
【非特許文献3】株式会社トクシキ、“配合技術、コーティング剤について、防眩コート剤”、[online]、[平成21年9月1日検索]、インターネット<http://www.orizuru.co.jp/technology/haigou.html>参照
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、カメラや望遠鏡などの光学機器鏡筒内部品に反射防止コーティングを施す上述の技術では、反射率が1〜5%程度であり、十分な反射防止効果を得ることができない。特に斜入射の反射率が大きく、鏡筒内の迷光を充分に防止することができず、コントラストが悪化する。
【0015】
また、カメラや望遠鏡などの光学機器鏡筒内部品に反射防止構造体を設ける上述の技術でも、十分な反射防止効果を得ることはできない。
【0016】
したがって、本発明の目的は、優れた反射防止効果を有する光学素子、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の課題を解決するために、第1の発明は、
第1の主面および第2の主面を有する基体と、
反射の低減を目的とする可視光の波長以下の微細ピッチで第1の主面に配置された、凸部または凹部からなる複数の構造体と、
第2の主面に形成された、光を吸収する光吸収層と
を備え、
構造体は、基体の第1の主面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、六方格子パターン、準六方格子パターン、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
構造体は、トラックの延在方向に長軸方向を有する楕円錐または楕円錐台形状である、反射防止機能を有する光学素子である。
【0018】
第2の発明は、
第1の主面および第2の主面を有する基体と、
反射の低減を目的とする可視光の波長以下の微細ピッチで第1の主面に多数配置された、凸部または凹部からなる複数の構造体と、
第2の主面に形成された、光を吸収する光吸収層と
を備え、
構造体は、第1の主面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、六方格子パターン、準六方格子パターン、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
基体の表面に対する構造体の充填率が、65%以上である、反射防止機能を有する光学素子である。
【0019】
第3の発明は、
第1の主面および第2の主面を有する基体と、
反射の低減を目的とする可視光の波長以下の微細ピッチで第1の主面に多数配置された、凸部または凹部からなる複数の構造体と、
第2の主面に形成された、光を吸収する光吸収層と
を備え、
構造体は、第1の主面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、準六方格子パターンを形成し、
同一トラック内における構造体の配置ピッチをP1、構造体底面のトラック方向の径を2rとしたとき、配置ピッチP1に対する径2rの比率((2r/P1)×100)が、85%以上である、反射防止機能を有する光学素子である。
【0020】
第4の発明は、
第1の主面および第2の主面を有する基体と、
反射の低減を目的とする可視光の波長以下の微細ピッチで第1の主面に多数配置された、凸部または凹部からなる複数の構造体と、
第2の主面に形成された、光を吸収する光吸収層と
を備え、
構造体は、第1の主面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
同一トラック内における構造体の配置ピッチをP1、構造体底面のトラック方向の径を2rとしたとき、配置ピッチP1に対する径2rの比率((2r/P1)×100)が、 64%以上である、反射防止機能を有する光学素子である。
【0021】
第5の発明は、
第1の主面および第2の主面を有する基体と、
反射の低減を目的とする可視光の波長以下の微細ピッチで第1の主面に多数配置された、凸部または凹部からなる複数の構造体と
を備え、
基体および構造体の少なくとも一方が、光に対して光吸収性を有し、
構造体は、第1の主面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、六方格子パターン、準六方格子パターン、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
構造体は、トラックの延在方向に長軸方向を有する楕円錐または楕円錐台形状である、反射防止機能を有する光学素子である。
【0022】
第6の発明は、
第1の主面および第2の主面を有する基体と、
反射の低減を目的とする可視光の波長以下の微細ピッチで第1の主面に多数配置された、凸部または凹部からなる複数の構造体と
を備え、
基体および構造体の少なくとも一方が、光に対して光吸収性を有し、
構造体は、第1の主面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、六方格子パターン、準六方格子パターン、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
基体の表面に対する構造体の充填率が、65%以上である、反射防止機能を有する光学素子である。
【0023】
第7の発明は、
第1の主面および第2の主面を有する基体と、
反射の低減を目的とする可視光の波長以下の微細ピッチで第1の主面に多数配置された、凸部または凹部からなる複数の構造体と
を備え、
基体および構造体の少なくとも一方が、光に対して光吸収性を有し、
構造体は、第1の主面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、準六方格子パターンを形成し、
同一トラック内における構造体の配置ピッチをP1、構造体底面のトラック方向の径を2rとしたとき、配置ピッチP1に対する径2rの比率((2r/P1)×100)が、85%以上である、反射防止機能を有する光学素子である。
【0024】
第8の発明は、
第1の主面および第2の主面を有する基体と、
反射の低減を目的とする可視光の波長以下の微細ピッチで第1の主面に多数配置された、凸部または凹部からなる複数の構造体と
を備え、
基体および構造体の少なくとも一方が、光に対して光吸収性を有し、
構造体は、第1の主面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
同一トラック内における構造体の配置ピッチをP1、構造体底面のトラック方向の径を2rとしたとき、配置ピッチP1に対する径2rの比率((2r/P1)×100)が、 64%以上である、反射防止機能を有する光学素子である。
【0025】
第9の発明は、
円柱状または円筒状の原盤の表面にレジスト層を形成する工程と、
レジスト層が形成された原盤を回転させるとともに、レーザ光のスポットを円柱状または円筒状の原盤の中心軸と平行に相対移動させながら、レジスト層にレーザ光を間欠的に照射して、反射の低減を目的とする可視光の波長以下のピッチで潜像を形成する工程と、
レジスト層を現像して、原盤の表面にレジストパターンを形成する工程と、
レジストパターンをマスクとするエッチング処理を施すことで、原盤の表面に凹状または凸状の構造体を形成する工程と、
構造体が形成された原盤を用いて、第1の主面に構造体が転写された光学素子を作製する工程と、
光学素子の第2の主面に、反射の低減を目的とする光を吸収する光吸収層を形成する工程と
を備え、
潜像の形成工程では、潜像が、原盤表面において複数列のトラックをなすように配置されるとともに、六方格子パターン、準六方格子パターン、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
潜像は、トラックの延在方向に長軸方向を有する楕円形状である、反射防止機能を有する光学素子の製造方法である。
【0026】
第10の発明は、
原盤の表面にレジスト層を形成する工程と、
レジスト層が形成された原盤を回転させるとともに、レーザ光のスポットを原盤の回転半径方向に相対移動させながら、レジスト層にレーザ光を間欠的に照射して、反射の低減を目的とする可視光の波長以下のピッチで潜像を形成する工程と、
レジスト層を現像して、原盤の表面にレジストパターンを形成する工程と、
レジストパターンをマスクとするエッチング処理を施すことで、原盤の表面に凹状または凸状の構造体を形成する工程と、
構造体が形成された原盤を用いて、第1の主面に構造体が転写された光学素子を作製する工程と、
光学素子の第2の主面に、反射の低減を目的とする光を吸収する光吸収層を形成する工程と
を備え、
潜像の形成工程では、潜像が、原盤表面において複数列のトラックをなすように配置されるとともに、六方格子パターン、準六方格子パターン、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
潜像は、トラックの延在方向に長軸方向を有する楕円形状である、反射防止機能を有する光学素子の製造方法である。
【0027】
本発明において、主構造体を四方格子状または準四方格子状に周期的に配置することが好ましい。ここで、四方格子とは、正四角形状の格子のことをいう。準四方格子とは、正四角形状の格子とは異なり、歪んだ正四角形状の格子のことをいう。
例えば、構造体が直線上に配置されている場合には、準四方格子とは、正四角形状の格子を直線状の配列方向(トラック方向)に引き伸ばして歪ませた四方格子のことをいう。構造体が蛇行して配列されている場合には、準四方格子とは、正四角形状の格子を構造体の蛇行配列により歪ませた四方格子をいう。または、正四角形状の格子を直線状の配列方向(トラック方向)に引き伸ばして歪ませ、かつ、構造体の蛇行配列により歪ませた四方格子のことをいう。
【0028】
本発明において、構造体を六方格子状または準六方格子状に周期的に配置することが好ましい。ここで、六方格子とは、正六角形状の格子のことをいう。準六方格子とは、正六角形状の格子とは異なり、歪んだ正六角形状の格子のことをいう。
例えば、構造体が直線上に配置されている場合には、準六方格子とは、正六角形状の格子を直線状の配列方向(トラック方向)に引き伸ばして歪ませた六方格子のことをいう。構造体が蛇行して配列されている場合には、準六方格子とは、正六角形状の格子を構造体の蛇行配列により歪ませた六方格子をいう。または、正六角形状の格子を直線状の配列方向(トラック方向)に引き伸ばして歪ませ、かつ、構造体の蛇行配列により歪ませた六方格子のことをいう。
【0029】
本発明において、楕円には、数学的に定義される完全な楕円のみならず、多少の歪みが付与された楕円も含まれる。円形には、数学的に定義される完全な円(真円)のみならず、多少の歪みが付与された円形も含まれる。
【0030】
本発明において、同一トラック内における構造体の配置ピッチP1は、隣接する2つのトラック間における構造体の配置ピッチP2よりも長いことが好ましい。このようにすることで、楕円錐または楕円錐台形状を有する構造体の充填率を向上することができるので、反射防止特性を向上することができる。
【0031】
本発明において、各構造体が、基体表面において六方格子パターン、または準六方格子パターンを形成している場合には、同一トラック内における構造体の配置ピッチをP1、隣接する2つのトラック間における構造体の配置ピッチをP2としたとき、比率P1/P2が、1.00≦P1/P2≦1.1、または1.00<P1/P2≦1.1の関係を満たすことが好ましい。このような数値範囲にすることで、楕円錐または楕円錐台形状を有する構造体の充填率を向上することができるので、反射防止特性を向上することができる。
【0032】
本発明において、各構造体が、基体表面において六方格子パターン、または準六方格子パターンを形成している場合には、各構造体は、トラックの延在方向に長軸方向を有し、中央部の傾きが先端部および底部の傾きよりも急峻に形成された楕円錐または楕円錐台形状であることが好ましい。このような形状にすることで、反射防止特性および透過特性を向上することができる。
【0033】
本発明において、各構造体が、基体表面において六方格子パターン、または準六方格子パターンを形成している場合には、トラックの延在方向における構造体の高さまたは深さは、トラックの列方向における構造体の高さまたは深さよりも小さいことが好ましい。このような関係を満たさない場合には、トラックの延在方向の配置ピッチを長くする必要が生じるため、トラックの延在方向における構造体の充填率が低下する。このように充填率が低下すると、反射特性の低下を招くことになる。
【0034】
本発明において、構造体が、基体表面において四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成している場合には、同一トラック内における構造体の配置ピッチP1は、隣接する2つのトラック間における構造体の配置ピッチP2よりも長いことが好ましい。このようにすることで、楕円錐または楕円錐台形状を有する構造体の充填率を向上することができるので、反射防止特性を向上することができる。
【0035】
構造体が、基体表面において四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成している場合には、同一トラック内における構造体の配置ピッチをP1、隣接する2つのトラック間における構造体の配置ピッチをP2としたとき、比率P1/P2が、1.4<P1/P2≦1.5の関係を満たすことが好ましい。このような数値範囲にすることで、楕円錐または楕円錐台形状を有する構造体の充填率を向上することができるので、反射防止特性を向上することができる。
【0036】
構造体が、基体表面において四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成している場合には、各構造体は、トラックの延在方向に長軸方向を有し、中央部の傾きが先端部および底部の傾きよりも急峻に形成された楕円錐または楕円錐台形状であることが好ましい。このような形状にすることで、反射防止特性および透過特性を向上することができる。
【0037】
構造体が、基体表面において四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成している場合には、トラックに対して45度方向または約45度方向における構造体の高さまたは深さは、トラックの列方向における構造体の高さまたは深さよりも小さいことが好ましい。このような関係を満たさない場合には、トラックに対して45度方向または約45度方向における配置ピッチを長くする必要が生じるため、トラックに対して45度方向または約45度方向における構造体の充填率が低下する。このように充填率が低下すると、反射特性の低下を招くことになる。
【0038】
本発明では、微細ピッチで基体表面に多数配設けられた構造体が、複数列のトラックをなしていると共に、隣接する3列のトラック間において、六方格子パターン、準六方格子パターン、四方格子パターンまたは準四方格子パターンをなしている。したがって、表面における構造体の充填密度を高くすることができ、これにより可視光など光の反射防止効率を高め、反射防止特性に優れ、透過率の高い光学素子を得ることができる。また、光吸収層4を基体裏面に形成しているので、光学素子の裏面反射を抑制することができる。
【0039】
また、光ディスクの原盤作製プロセスとエッチングプロセスとを融合した方法を用いて光学素子を作製した場合には、光学素子作製用原盤を短時間で効率良く製造することができるとともに基体の大型化にも対応でき、これにより、光学素子の生産性の向上を図ることができる。また、構造体の微細配列を光入射面だけでなく光出射面にも設けた場合には、透過特性をより一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0040】
以上説明したように、本発明によれば、優れた反射防止効果を有する光学素子を得ることができる。この光学素子を光学機器の鏡筒内部品内に備えた場合には、光学機器鏡筒内部品内における光の反射を抑制することができ、これにより、光学機器の光学特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、従来の光学機器鏡筒の構成を示す概略図である。
【図2】図2は、従来のレンズ内面反射防止塗料の内面反射率数を示すグラフである。
【図3】図3Aは、レンズ境筒に含まれるズームレンズ系の配置を示す概略図である。図3Bは、レンズ鏡筒の第2レンズ群の概略拡大図である。図3Cは、反射防止構造体の形状および配置を示す概略図である。
【図4】図4Aは、本発明の第1の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図である。図4Bは、図4Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図である。図4Cは、図4BのトラックT1、T3、・・・における断面図である。図4Dは、図4BのトラックT2、T4、・・・における断面図である。図4Eは、図4BのトラックT1、T3、・・・に対応する潜像形成に用いられるレーザー光の変調波形を示す略線図である。図4Fは、図4BのトラックT2、T4、・・・に対応する潜像形成に用いられるレーザー光の変調波形を示す略線図である。
【図5】図5は、図4Aに示した光学素子の一部を拡大して表す斜視図である。
【図6】図6Aは、図4Aに示した光学素子のトラック延在方向の断面図である。図6Bは、図4Aに示した光学素子のθ方向の断面図である。
【図7】図7は、図4Aに示した光学素子の一部を拡大して表す斜視図である。
【図8】図8は、図4Aに示した光学素子の一部を拡大して表す斜視図である。
【図9】図9は、図4Aに示した光学素子1の一部を拡大して表す斜視図である。
【図10】図10は、構造体の境界が不明瞭な場合の構造体底面の設定方法について説明するための図である。
【図11】図11A〜図11Dは、構造体の底面の楕円率を変化させたときの底面形状を示す図である。
【図12】図12Aは、円錐形状または円錐台形状を有する構造体の配置の一例を示す図である。図12Bは、楕円錐形状または楕円錐台形状を有する構造体の配置の一例を示す図である。
【図13】図13Aは、光学素子を作製するためのロールマスタの構成の一例を示す斜視図である。図13Bは、光学素子を作製するためのロールマスタの構成の一例を示す平面図である。
【図14】図14は、ロール原盤露光装置の構成の一例を示す概略図である。
【図15】図15A〜図15Cは、本発明の第1の実施形態による光学素子の製造方法を説明するための工程図である。
【図16】図16A〜図16Dは、本発明の第1の実施形態による光学素子の製造方法を説明するための工程図である。
【図17】図17Aは、本発明の第2の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図である。図17Bは、図17Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図である。図17Cは、図17BのトラックT1、T3、・・・における断面図である。図17Dは、図17BのトラックT2、T4、・・・における断面図である。図17Eは、図17BのトラックT1、T3、・・・に対応する潜像形成に用いられるレーザー光の変調波形を示す略線図である。図17Fは、図17BのトラックT2、T4、・・・に対応する潜像形成に用いられるレーザー光の変調波形を示す略線図である。
【図18】図18は、構造体の底面の楕円率を変化させたときの底面形状を示す図である。
【図19】図19Aは、光学素子を作製するためのロールマスタの構成の一例を示す斜視図である。図19Bは、光学素子を作製するためのロールマスタの構成の一例を示す平面図である。
【図20】図20Aは、本発明の第3の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図である。図20Bは、図20Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図である。図20Cは、図20BのトラックT1、T3、・・・における断面図である。図20Dは、図20BのトラックT2、T4、・・・における断面図である。図20Eは、図20BのトラックT1、T3、・・・に対応する潜像形成に用いられるレーザー光の変調波形を示す略線図である。図20Fは、図20BのトラックT2、T4、・・・に対応する潜像形成に用いられるレーザー光の変調波形を示す略線図である。
【図21】図21Aは、光学素子を作製するためのディスクマスタの構成の一例を示す斜視図である。図21Bは、光学素子を作製するためのディスクマスタの構成の一例を示す平面図である。
【図22】図22は、ディスク原盤露光装置の構成の一例を示す概略図である。
【図23】図23Aは、本発明の第4の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図である。図23Bは、図23Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図である。
【図24】図24Aは、本発明の第5の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図である。図24Bは、図24Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図である。図24Cは、図24BのトラックT1、T3、・・・における断面図である。図24Dは、図24BのトラックT2、T4、・・・における断面図である。
【図25】図25は、図24Aに示した光学素子の一部を拡大して表す斜視図である。
【図26】図26は、本発明の第6の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す断面図である。
【図27】図27A〜図27Cは、本発明の第7の実施形態に係る光学素子の第1〜第3の構成例を示す断面図である。
【図28】図28は、本発明の第8の実施形態に係る境筒の構成の一例を示す断面図である。
【図29】図29Aは、実施例1の光学シートの反射特性を示すグラフである。図29Bは、実施例2の光学シートの反射特性を示すグラフである。
【図30】図30Aは、実施例3の光学シートの反射特性を示すグラフである。図30Bは、実施例4の光学シートの反射特性を示すグラフである。
【図31】図31は、試験例1の反射特性を示すグラフである。図30Bは、試験例2の反射特性を示すグラフである。図30Cは、試験例3の反射特性を示すグラフである。
【図32】図32Aは、構造体を六方格子状に配列したときの充填率を説明するための図である。図32Bは、構造体を四方格子状に配列したときの充填率を説明するための図である。
【図33】図33は、試験例6のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の実施形態について図面を参照しながら以下の順序で説明する。
1.第1の実施形態(直線状でかつ六方格子状に構造体を2次元配列した例:図4参照)
2.第2の実施形態(直線状でかつ四方格子状に構造体を2次元配列した例:図17参照)
3.第3の実施形態(円弧状でかつ六方格子状に構造体を2次元配列した例:図20参照)
4.第4の実施形態(構造体を蛇行させて配列した例:図23参照)
5.第5の実施形態(凹形状の構造体を基体表面に形成した例:図24参照)
6.第6の実施形態(光学素子に接着層を形成した例:図26参照)
7.第7の実施形態(光学素子自体が光吸収性を有する例:図27参照)
8.第8の実施形態(光学素子を境筒内に適用した例:図28参照)
【0043】
<1.第1の実施形態>
[光学素子の構成]
図4Aは、本発明の第1の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図である。図4Bは、第1Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図である。図4Cは、図4BのトラックT1、T3、・・・における断面図である。図4Dは、図4BのトラックT2、T4、・・・における断面図である。図4Eは、図4BのトラックT1、T3、・・・に対応する潜像形成に用いられるレーザー光の変調波形を示す略線図である。図4Fは、図4BのトラックT2、T4、・・・に対応する潜像形成に用いられるレーザー光の変調波形を示す略線図である。図5、図7〜図9は、図4Aに示した光学素子1の一部を拡大して表す斜視図である。図6Aは、図4Aに示した光学素子のトラックの延在方向(X方向(以下、適宜トラック方向ともいう))の断面図である。図6Bは、図4Aに示した光学素子のθ方向の断面図である。
【0044】
光学素子1は、例えば、入射光の入射角に応じた反射防止効果を有する光学シート(サブ波長構造体)である。この光学素子1は、種々の波長域を有する光学機器(例えば、カメラなどの光学機器)、ディスプレイ、光エレクトロニクス、望遠鏡などの種々の光デバイスに適用して好適なものである。
【0045】
光学素子1は、互いに対向する第1の主面(表面)および第2の主面(裏面)を有する基体2と、反射の低減を目的とする可視光の波長以下の微細ピッチで第1の主面に配置された、凸部である複数の構造体3と、第2の主面に形成された光吸収層4とを備える。光吸収層4は、反射の低減を目的とする光を吸収する光吸収性を有している。また、光学素子1が、基体2と光吸収層4との間に、必要に応じて接着層をさらに備え、この接着層を介して光吸収層4を基体2に対して貼り合わせるようにしてもよい。このように接着層を備える場合には、基体2と接着層との屈折率が等しい、またはほぼ等しいことが好ましい。基体2と接着層との間の界面反射を抑制することができるからである。接着層が光吸収層4と同様に光吸収性を有していてもよい。光吸収層自体が接着層を兼ねるようにしてもよい。この光学素子1は、基体2を図5の−Z方向に透過する光について、構造体3とその周囲の空気との界面における反射を防止する機能を有している。
以下、光学素子1に備えられる基体2、構造体3、および光吸収層4について順次説明する。
【0046】
(基体)
基体2は、例えば、透明性を有する透明基体である。基体2の材料としては、例えば、ポリカーボネート(PC)やポリエチレンテレフタレート(PET)などの透明性合成樹脂、ガラスなどを主成分とするものが挙げられるが、これらの材料に特に限定されるものではない。基体2の形状としては、例えば、シート状、プレート状、ブロック状を挙げることができるが、特にこれらの形状に限定されるものではない。ここで、シートにはフィルムが含まれるものと定義する。基体2の形状は、カメラなどの光学機器などにおいて、所定の反射防止機能が必要とされる部分の形状などに合わせて適宜選択することが好ましい。
【0047】
(構造体)
基体2の表面には、凸部である構造体3が多数配列されている。この構造体3は、反射の低減を目的とする光の波長帯域以下の短い配置ピッチ、例えば可視光の波長と同程度の配置ピッチで周期的に2次元配置されている。ここで、配置ピッチとは、配置ピッチP1および配置ピッチP2を意味する。反射の低減を目的とする光の波長帯域は、例えば、紫外光の波長帯域、可視光の波長帯域または赤外光の波長帯域である。ここで、紫外光の波長帯域とは10nm〜360nmの波長帯域、可視光の波長帯域とは360nm〜830nmの波長帯域、赤外光の波長帯域とは830nm〜1mmの波長帯域をいう。具体的には、配置ピッチは、175nm以上350nm以下であることが好ましい。配置ピッチが175nm未満であると、構造体3の作製が困難となる傾向がある。一方、配置ピッチが350nmを超えると、可視光の回折が生じる傾向がある。
【0048】
光学素子1の各構造体3は、基体2の表面において複数列のトラックT1,T2,T3,・・・(以下総称して「トラックT」ともいう。)をなすような配置形態を有する。本発明において、トラックとは、構造体3が列をなして直線状に連なった部分のことをいう。また、列方向とは、基体2の成形面において、トラックの延在方向(X方向)に直交する方向)のことをいう。
【0049】
構造体3は、隣接する2つのトラックT間において、半ピッチずれた位置に配置されている。具体的には、隣接する2つのトラックT間において、一方のトラック(例えばT1)に配列された構造体3の中間位置(半ピッチずれた位置)に、他方のトラック(例えばT2)の構造体3が配置されている。その結果、図4Bに示すように、隣接する3列のトラック(T1〜T3)間においてa1〜a7の各点に構造体3の中心が位置する六方格子パターンまたは準六方格子パターンを形成するように構造体3が配置されている。この第1の実施形態において、六方格子パターンとは、正六角形状の格子パターンのことをいう。また、準六方格子パターンとは、正六角形状の格子パターンとは異なり、トラックの延在方向(X軸方向)に引き伸ばされ歪んだ六方格子パターンのことをいう。
【0050】
構造体3が準六方格子パターンを形成するように配置されている場合には、図4Bに示すように、同一トラック(例えばT1)内における構造体3の配置ピッチP1(a1〜a2間距離)は、隣接する2つのトラック(例えばT1およびT2)間における構造体3の配置ピッチ、すなわちトラックの延在方向に対して±θ方向における構造体3の配置ピッチP2(例えばa1〜a7、a2〜a7間距離)よりも長くなっていることが好ましい。このように構造体3を配置することで、構造体3の充填密度の更なる向上を図れるようになる。
【0051】
構造体3が、成形の容易さの観点から、錐体形状、または錐体形状をトラック方向に延伸または収縮させた錐体形状を有することが好ましい。構造体3が、軸対称な錐体形状、または錐体形状をトラック方向に延伸または収縮させた錐体形状を有することが好ましい。隣接する構造体3に接合されている場合には、構造体3が、隣接する構造体3に接合されている下部を除いて軸対称な錐体形状、または錐体形状をトラック方向に延伸または収縮させた錐体形状を有することが好ましい。錐体形状としては、例えば、円錐形状、円錐台形状、楕円錐形状、楕円錐台形状などを挙げることができる。ここで、錐体形状とは、上述のように、円錐形状および円錐台形状以外にも、楕円錐形状、楕円錐台形状を含む概念である。また、円錐台形状とは、円錐形状の頂部を切り落とした形状をいい、楕円錐台形状とは、楕円錐の頂部を切り落とした形状のことをいう。
【0052】
構造体3は、図5および図7に示すように、底面が長軸と短軸をもつ楕円形、長円形または卵型の錐体構造で、頂部が曲面である楕円錐形状であることが好ましい。もしくは、図8に示すように、底面が長軸と短軸をもつ楕円形、長円形または卵型の錐体構造で、頂部が平坦である楕円錐台形状であることが好ましい。このような形状にすると、列方向の充填率を向上させることができるからである。
【0053】
反射特性の向上の観点からすると、頂部の傾きが緩やかで中央部から底部に徐々に急峻な傾きの錐体形状(図7参照)が好ましい。また、反射特性および透過特性の向上の観点からすると、中央部の傾きが底部および頂部より急峻な錐形形状(図5参照)、または、頂部が平坦な錐体形状(図8参照)であることが好ましい。構造体3が楕円錐形状または楕円錐台形状を有する場合、その底面の長軸方向が、トラックの延在方向と平行となることが好ましい。図5などでは、各構造体3は、それぞれ同一の形状を有しているが、構造体3の形状はこれに限定されるものではなく、基体表面に2種以上の形状の構造体3が形成されていてもよい。また、構造体3は、基体2と一体的に形成されていてもよい。
【0054】
また、図5、図7〜図9に示すように、構造体3の周囲の一部または全部に突出部5を設けることが好ましい。このようにすると、構造体3の充填率が低い場合でも、反射率を低く抑えることができるからである。具体的には例えば、突出部5は、図5、図7、および図8に示すように、隣り合う構造体3の間に設けられる。また、細長い突出部5が、図9に示すように、構造体3の周囲の全体またはその一部に設けられるようにしてもよい。この細長い突出部5は、例えば、構造体3の頂部から下部の方向に向かって延びている。突出部5の形状としては、断面三角形状および断面四角形状などを挙げることができるが、特にこれらの形状に限定されるものではなく、成形の容易さなどを考慮して選択することができる。また、構造体3の周囲の一部または全部の表面を荒らし、微細の凹凸を形成するようにしてもよい。具体的には例えば、隣り合う構造体3の間の表面を荒らし、微細な凹凸を形成するようにしてもよい。また、構造体3の表面、例えば頂部に微小な穴を形成するようにしてもよい。
【0055】
構造体3は図示する凸部形状のものに限らず、基体2の表面に形成した凹部で構成されていてもよい。構造体3の高さは特に限定されず、例えば420nm程度、具体的には415nm〜421nmである。なお、構造体3を凹部形状とした場合には、構造体3の深さとなる。
【0056】
トラックの延在方向における構造体3の高さH1は、列方向における構造体3の高さH2よりも小さいことが好ましい。すなわち、構造体3の高さH1、H2がH1<H2の関係を満たすことが好ましい。H1≧H2の関係を満たすように構造体3を配列すると、トラックの延在方向の配置ピッチP1を長くする必要が生じるため、トラックの延在方向における構造体3の充填率が低下するためである。このように充填率が低下すると、反射特性の低下を招くことになる。
【0057】
なお、構造体3のアスペクト比は全て同一である場合に限らず、各構造体3が一定の高さ分布(例えばアスペクト比0.83〜1.46程度の範囲)をもつように構成されていてもよい。高さ分布を有する構造体3を設けることで、反射特性の波長依存性を低減することができる。したがって、優れた反射防止特性を有する光学素子1を実現することができる。
【0058】
ここで、高さ分布とは、2種以上の高さ(深さ)を有する構造体3が基体2の表面に設けられていることを意味する。すなわち、基準となる高さを有する構造体3と、この構造体3とは異なる高さを有する構造体3とが基体2の表面に設けられていることを意味する。基準とは異なる高さを有する構造体3は、例えば基体2の表面に周期的または非周期的(ランダム)に設けられている。その周期性の方向としては、例えばトラックの延在方向、列方向などが挙げられる。
【0059】
構造体3の周縁部に裾部3aを設けることが好ましい。光学素子の製造工程において光学素子を金型などから容易に剥離することが可能になるからである。ここで、裾部3aとは、構造体3の底部の周縁部に設けられた突出部を意味する。この裾部3aは、上記剥離特性の観点からすると、構造体3の頂部から下部の方向に向かって、なだらかに高さが低下する曲面を有することが好ましい。なお、裾部3aは、構造体3の周縁部の一部にのみ設けてもよいが、上記剥離特性の向上の観点からすると、構造体3の周縁部の全部に設けることが好ましい。また、構造体3が凹部である場合には、裾部は、構造体3である凹部の開口周縁に設けられた曲面となる。
【0060】
構造体3の高さ(深さ)は特に限定されず、透過させる光の波長領域に応じて適宜設定され、例えば236nm〜450nm程度の範囲に設定される。構造体3のアスペクト比(高さ/配置ピッチ)は、0.81〜1.46の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは0.94〜1.28の範囲である。0.81未満であると反射特性および透過特性が低下する傾向にあり、1.46を超えると光学素子の作製時において剥離特性が低下し、レプリカの複製が綺麗に取れなくなる傾向があるからである。
また、構造体3のアスペクト比は、反射特性をより向上させる観点からすると、0.94〜1.46の範囲に設定することが好ましい。また、構造体3のアスペクト比は、透過特性をより向上させる観点からすると、0.81〜1.28の範囲に設定することが好ましい。
【0061】
なお、本発明においてアスペクト比は、以下の式(1)により定義される。
アスペクト比=H/P・・・(1)
但し、H:構造体の高さ、P:平均配置ピッチ(平均周期)
ここで、平均配置ピッチPは以下の式(2)により定義される。
平均配置ピッチP=(P1+P2+P2)/3 ・・・(2)
但し、P1:トラックの延在方向の配置ピッチ(トラック延在方向周期)、P2:トラックの延在方向に対して±θ方向(但し、θ=60°−δ、ここで、δは、好ましくは0°<δ≦11°、より好ましくは3°≦δ≦6°)の配置ピッチ(θ方向周期)
【0062】
また、構造体3の高さHは、構造体3の列方向の高さとする。構造体3のトラック延在方向(X方向)の高さは、列方向(Y方向)の高さよりも小さく、また、構造体3のトラック延在方向以外の部分における高さは列方向の高さとほぼ同一であるため、サブ波長構造体の高さを列方向の高さで代表する。但し、構造体3が凹部である場合、上記式(1)における構造体の高さHは、構造体の深さHとする。
【0063】
同一トラック内における構造体3の配置ピッチをP1、隣接する2つのトラック間における構造体3の配置ピッチをP2としたとき、比率P1/P2が、1.00≦P1/P2≦1.1、または1.00<P1/P2≦1.1の関係を満たすことが好ましい。このような数値範囲にすることで、楕円錐または楕円錐台形状を有する構造体3の充填率を向上することができるので、反射防止特性を向上することができる。
【0064】
基体表面における構造体3の充填率は、100%を上限として、65%以上、好ましくは73%以上、より好ましくは86%以上の範囲内である。充填率をこのような範囲にすることで、反射防止特性を向上することができる。充填率を向上させるためには、隣接する構造体3の下部同士を接合する、または、構造体底面の楕円率を調整などして構造体3に歪みを付与することが好ましい。
【0065】
ここで、構造体3の充填率(平均充填率)は以下のようにして求めた値である。
まず、光学素子1の表面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いてTop Viewで撮影する。次に、撮影したSEM写真から無作為に単位格子Ucを選び出し、その単位格子Ucの配置ピッチP1、およびトラックピッチTpを測定する(図4B参照)。また、その単位格子Ucの中央に位置する構造体3の底面の面積Sを画像処理により測定する。次に、測定した配置ピッチP1、トラックピッチTp、および底面の面積Sを用いて、以下の式(3)より充填率を求める。
充填率=(S(hex.)/S(unit))×100 ・・・(3)
単位格子面積:S(unit)=P1×2Tp
単位格子内に存在する構造体の底面の面積:S(hex.)=2S
【0066】
上述した充填率算出の処理を、撮影したSEM写真から無作為に選び出された10箇所の単位格子について行う。そして、測定値を単純に平均(算術平均)して充填率の平均率を求め、これを基体表面における構造体3の充填率とする。
【0067】
構造体3が重なっているときや、構造体3の間に突出部5などの副構造体があるときの充填率は、構造体3の高さに対して5%の高さに対応する部分を閾値として面積比を判定する方法で充填率を求めることができる。
【0068】
図10は、構造体3の境界が不明瞭な場合の充填率の算出方法について説明するための図である。構造体3の境界が不明瞭な場合には、断面SEM観察により、図10に示すように、構造体3の高さhの5%(=(d/h)×100)に相当する部分を閾値とし、その高さdで構造体3の径を換算し充填率を求めるようにする。構造体3の底面が楕円である場合には、長軸および短軸で同様の処理を行う。
【0069】
図11は、構造体3の底面の楕円率を変化させたときの底面形状を示す図である。図11A〜図11Dに示す楕円の楕円率はそれぞれ、100%、110%、120%、141%である。このように楕円率を変化させることで、基体表面における構造体3の充填率を変化させることができる。構造体3が準六方格子パターンを形成する場合には、構造体底面の楕円率eは、100%<e<150%以下であることが好ましい。この範囲にすることで、構造体3の充填率を向上し、優れた反射防止特性を得ることができるからである。
【0070】
ここで、楕円率eは、構造体底面のトラック方向(X方向)の径をa、それとは直交する列方向(Y方向)の径をbとしたときに、(a/b)×100で定義される。なお、構造体3の径a、bは以下のようにして求めた値である。光学素子1の表面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いてTop Viewで撮影し、撮影したSEM写真から無作為に構造体3を10個抽出する。次に、抽出した構造体3それぞれの底面の径a、bを測定する。そして、測定値a、bそれぞれを単純に平均(算術平均)して径a、bの平均値を求め、これを構造体3の径a、bとする。
【0071】
図12Aは、円錐形状または円錐台形状を有する構造体3の配置の一例を示す。図12Bは、楕円錐形状または楕円錐台形状を有する構造体3の配置の一例を示す。図12Aおよび図12Bに示すように、構造体3が、その下部同士を重ね合うようにして接合されていていることが好ましい。具体的には、構造体3の下部が、隣接関係にある構造体3の一部または全部の下部と接合されていることが好ましい。より具体的には、トラック方向において、θ方向において、またはそれら両方向において、構造体3の下部同士を接合することが好ましい。より具体的には、トラック方向において、θ方向において、またはそれら両方向において、構造体3の下部同士を接合することが好ましい。図12A、図12Bでは、隣接関係にある構造体3の全部の下部を接合する例が示されている。このように構造体3を接合することで、構造体3の充填率を向上することができる。構造体同士は、屈折率を考慮した光路長で使用環境下の光の波長帯域の最大値の1/4以下の部分で接合されていることが好ましい。これにより、優れた反射防止特性を得ることができる。
【0072】
図12Bに示すように、楕円錐形状または楕円錐台形状を有する構造体3の下部同士を接合した場合には、例えば、接合部a、b、cの順序で接合部の高さが浅くなる。
【0073】
配置ピッチP1に対する径2rの比率((2r/P1)×100)が、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。このような範囲にすることで、構造体3の充填率を向上し、反射防止特性を向上できるからである。比率((2r/P1)×100)が大きくなり、構造体3の重なりが大きくなりすぎると反射防止特性が低減する傾向にある。したがって、屈折率を考慮した光路長で使用環境下の光の波長帯域の最大値の1/4以下の部分で構造体同士が接合されるように、比率((2r/P1)×100)の上限値を設定することが好ましい。ここで、配置ピッチP1は、構造体3のトラック方向の配置ピッチ、径2rは、構造体底面のトラック方向の径である。なお、構造体底面が円形である場合、径2rは直径となり、構造体底面が楕円形である場合、径2rは長径となる。
【0074】
(光吸収層)
光吸収層4は、反射の低減を目的とする光に対して吸収性を有している。光吸収層4は、例えば、バインダー樹脂と、黒色系の着色剤とを含んでいる。また、必要に応じて、有機顔料および無機顔料などの添加剤、分散性向上のための分散剤をさらに含有するようにしてもよい。
【0075】
黒色系の着色剤としては、例えば、カーボンブラック、チタンブラック、グラファイト、酸化鉄、酸化チタンなどが挙げられるが、特にこれらの材料に限定されるものではない。中でも、カーボンブラック、チタンブラック、グラファイトが好ましく、さらにカーボンブラックが好ましい。これらは、一種単独で用いる以外に二種以上を併用することもできる。
【0076】
カーボンブラックとしては、例えば、市販のカーボンブラックを使用することができる。具体的には例えば、三菱化成社製の#980B、#850B、MCF88B、#44B、キャボット社製のBP−800、BP−L、REGAL−660、REGAL−330、コロンビヤンカーボン社製のRAVEN−1255、RAVEN−1250、RAVEN−1020、RAVEN−780、RAVEN−760、デグサ社製のPrintex−55、Printex−75、Printex−25、Printex−45、SB−550などが挙げられる。これらを単独、あるいは混合して使用することができる。
【0077】
バインダー樹脂としては、例えば、変成または非変成の塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂などを使用でき、この他、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースエステルも使用できる。また、特定の使用方式を有する熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化型樹脂などを用いてもよい。電離放射線硬化型樹脂としては、電子線硬化型樹脂、紫外線硬化樹脂が好ましい。
【0078】
[ロールマスタの構成]
図13は、上述の構成を有する光学素子を作製するためのロールマスタの構成の一例を示す。図13に示すように、ロールマスタ11は、例えば、原盤12の表面に凹部である構造体13が可視光などの光の波長と同程度のピッチで多数配置された構成を有している。原盤12は、円柱状または円筒状の形状を有する。原盤12の材料は、例えばガラスを用いることができるが、この材料に特に限定されるものではない。後述するロール原盤露光装置を用い、2次元パターンが空間的にリンクし、1トラック毎に極性反転フォマッター信号と記録装置の回転コントロラーを同期させ信号を発生し、CAVで適切な送りピッチでパターニングする。これにより、六方格子パターンまたは準六方格子パターンを記録することができる。極性反転フォマッター信号の周波数とロールの回転数を適切に設定することにより、所望の記録領域に空間周波数が一様な格子パターンを形成する。
【0079】
[光学素子の製造方法]
次に、図14〜図16を参照しながら、以上のように構成される光学素子1の製造方法について説明する。
【0080】
第1の実施形態に係る光学素子の製造方法は、原盤にレジスト層を形成するレジスト成膜工程、ロール原盤露光装置を用いてレジスト膜にモスアイパターンの潜像を形成する露光工程、潜像が形成されたレジスト層を現像する現像工程を備える。さらに、プラズマエッチングを用いてロールマスタを製作するエッチング工程、紫外線硬化樹脂により複製基板を製作する複製工程と、作製した複製基板の裏面に光吸収層を形成する光吸収層形成工程とを備える。
【0081】
(露光装置の構成)
まず、図14を参照して、モスアイパターンの露光工程に用いるロール原盤露光装置の構成について説明する。このロール原盤露光装置は、光学ディスク記録装置をベースとして構成されている。
【0082】
レーザー光源21は、記録媒体としての原盤12の表面に着膜されたレジストを露光するための光源であり、例えば波長λ=266nmの記録用のレーザー光15を発振するものである。レーザー光源21から出射されたレーザー光15は、平行ビームのまま直進し、電気光学素子(EOM:Electro Optical Modulator)22へ入射する。電気光学素子22を透過したレーザー光15は、ミラー23で反射され、変調光学系25に導かれる。
【0083】
ミラー23は、偏光ビームスプリッタで構成されており、一方の偏光成分を反射し他方の偏光成分を透過する機能をもつ。ミラー23を透過した偏光成分はフォトダイオード24で受光され、その受光信号に基づいて電気光学素子22を制御してレーザー光15の位相変調を行う。
【0084】
変調光学系25において、レーザー光15は、集光レンズ26により、ガラス(SiO2)などからなる音響光学素子(AOM:Acoust-Optic Modulator)27に集光される。レーザー光15は、音響光学素子27により強度変調され発散した後、レンズ28によって平行ビーム化される。変調光学系25から出射されたレーザー光15は、ミラー31によって反射され、移動光学テーブル32上に水平かつ平行に導かれる。
【0085】
移動光学テーブル32は、ビームエキスパンダ33、および対物レンズ34を備えている。移動光学テーブル32に導かれたレーザー光15は、ビームエキスパンダ33により所望のビーム形状に整形された後、対物レンズ34を介して、原盤12上のレジスト層へ照射される。原盤12は、スピンドルモータ35に接続されたターンテーブル36の上に載置されている。そして、原盤12を回転させるとともに、レーザー光15を原盤12の高さ方向に移動させながら、レジスト層へレーザー光15を間欠的に照射することにより、レジスト層の露光工程が行われる。形成された潜像は、円周方向に長軸を有する略楕円形になる。レーザー光15の移動は、移動光学テーブル32の矢印R方向への移動によって行われる。
【0086】
露光装置は、図4Bに示した六方格子または準六方格子の2次元パターンに対応する潜像をレジスト層に形成するための制御機構37を備えている。制御機構37は、フォマッター29とドライバ30とを備える。フォマッター29は、極性反転部を備え、この極性反転部が、レジスト層に対するレーザー光15の照射タイミングを制御する。ドライバ30は、極性反転部の出力を受けて、音響光学素子27を制御する。
【0087】
このロール原盤露光装置では、2次元パターンが空間的にリンクするように1トラック毎に極性反転フォマッター信号と記録装置の回転コントロラーを同期させ信号を発生し、音響光学素子27により強度変調している。角速度一定(CAV)で適切な回転数と適切な変調周波数と適切な送りピッチでパターニングすることにより、六方格子または準六方格子パターンを記録することができる。例えば、図13Bに示すように、円周方向の周期を270nm、円周方向に対して約60度方向(約−60度方向)の周期を260nmにするには、送りピッチを222nmにすればよい(ピタゴラスの法則)。極性反転フォマッター信号の周波数はロールの回転数(1800rpm)により変化させる。所望の記録領域に空間周波数(円周290nm周期、円周方向約60度方向(約−60度方向)260nm周期、送りピッチ216nm)が一様な準六方格子パターンは、遠紫外線レーザー光を移動光学テーブル32上のビームエキスパンダ(BEX)33により5倍のビーム径に拡大し、開口数(NA)0.9の対物レンズ34を介して原盤12上のレジスト層に照射し、微細な潜像を形成することにより得られる。
【0088】
以下、本発明の第1の実施形態に係る光学素子の製造方法の各工程について順次説明する。
【0089】
(レジスト成膜工程)
まず、図15Aに示すように、円柱状の原盤12を準備する。この原盤12は、例えばガラス原盤である。次に、図15Bに示すように、原盤12の表面にレジスト層14を形成する。レジスト層14の材料としては、例えば有機系レジスト、および無機系レジストのいずれを用いてもよい。有機系レジストとしては、例えばノボラック系レジストや化学増幅型レジストを用いることができる。また、無機系レジストとしては、例えば、タングステンやモリブデンなどの1種または2種以上の遷移金属からなる金属酸化物を用いることができる。
【0090】
(露光工程)
次に、図15Cに示すように、上述したロール原盤露光装置を用いて、原盤12を回転させると共に、レーザー光(露光ビーム)15をレジスト層14に照射する。このとき、レーザー光15を原盤12の高さ方向(円柱状または円筒状の原盤12の中心軸に平行な方向)に移動させながら、レーザー光15を間欠的に照射することで、レジスト層14を全面にわたって露光する。これにより、レーザー光15の軌跡に応じた潜像16が、可視光波長と同程度のピッチでレジスト層14の全面にわたって形成される。
【0091】
潜像16は、例えば、原盤表面において複数列のトラックをなすように配置されるとともに、六方格子パターンまたは準六方格子パターンを形成する。潜像16は、例えば、トラックの延在方向に長軸方向を有する楕円形状である。
【0092】
(現像工程)
次に、原盤12を回転させながら、レジスト層14上に現像液を滴下して、図16Aに示すように、レジスト層14を現像処理する。図示するように、レジスト層14をポジ型のレジストにより形成した場合には、レーザー光15で露光した露光部は、非露光部と比較して現像液に対する溶解速度が増すので、潜像(露光部)16に応じたパターンがレジスト層14に形成される。
【0093】
(エッチング工程)
次に、原盤12の上に形成されたレジスト層14のパターン(レジストパターン)をマスクとして、原盤12の表面をエッチング処理する。これにより、図16Bに示すように、トラックの延在方向に長軸方向をもつ楕円錐形状または楕円錐台形状の凹部、すなわち構造体13を得ることができる。エッチング方法は、例えばドライエッチングによって行われる。このとき、エッチング処理とアッシング処理を交互に行うことにより、例えば、錐体状の構造体13のパターンを形成することができる。また、レジスト層14の3倍以上の深さ(選択比3以上)のガラスマスターを作製でき、構造体3の高アスペクト比化を図ることができる。ドライエッチングとしては、ロールエッチング装置を用いたプラズマエッチングが好ましい。ロールエッチング装置は、円柱状の電極を有するプラズマエッチング装置であり、この円柱状の電極を筒状の原盤12の空洞内に挿入し、原盤12の柱面に対してプラズマエッチングを施すように構成されている。
【0094】
以上により、例えば、深さ120nm程度から350nm程度の凹形状の六方格子パターンまたは準六方格子パターンを有するロールマスタ11が得られる。
【0095】
(複製工程)
次に、例えば、ロールマスタ11と転写材料を塗布したシートなどの基体2を密着させ、紫外線を照射し硬化させながら剥離する。これにより、図16Cに示すように、凸部である複数の構造体が基体2の第1の主面に形成され、モスアイ紫外線硬化複製シートなどの光学素子1が作製される。
【0096】
転写材料は、例えば、紫外線硬化材料と、開始剤とからなり、必要に応じてフィラーや機能性添加剤などを含んでいる。
【0097】
紫外線硬化材料は、例えば、単官能モノマー、二官能モノマー、多官能モノマーなどからなり、具体的には、以下に示す材料を単独または、複数混合したものである。
単官能モノマーとしては、例えば、カルボン酸類(アクリル酸)、ヒドロキシ類(2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート)、アルキル、脂環類(イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート)、その他機能性モノマー(2−メトキシエチルアクリレート、メトキシエチレンクリコールアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、2−(パーフルオロオクチル)エチル アクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−パーフルオロオクチルー2−ヒドロキシプロピル アクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチル アクリレート、2−(パーフルオロー3−メチルブチル)エチル アクリレート)、2,4,6−トリブロモフェノールアクリレート、2,4,6−トリブロモフェノールメタクリレート、2−(2,4,6−トリブロモフェノキシ)エチルアクリレート)、2−エチルヘキシルアクリレートなどを挙げることができる。
【0098】
二官能モノマーとしては、例えば、トリ(プロピレングリコール)ジアクリレート、トリメチロールプロパン ジアリルエーテル、ウレタンアクリレートなどを挙げることができる。
【0099】
多官能モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートなどを挙げることができる。
【0100】
開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンなどを挙げることができる。
【0101】
フィラーとしては、例えば、無機微粒子および有機微粒子のいずれも用いることができる。無機微粒子としては、例えば、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Al23などの金属酸化物微粒子を挙げることができる。
【0102】
機能性添加剤としては、例えば、レベリング剤、表面調整剤、消泡剤などを挙げることができる。基体2の材料としては、例えば、メチルメタクリレート(共)重合体、ポリカーボネート、スチレン(共)重合体、メチルメタクリレート−スチレン共重合体、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、ガラスなどが挙げられる。
【0103】
基体2の成形方法は特に限定されず、射出成形体でも押し出し成形体でも、キャスト成形体でもよい。必要応じて、コロナ処理などの表面処理を基体表面に施すようにしてもよい。
【0104】
(光吸収層形成工程)
次に、図16Dに示すように、第1の主面とは反対側の第2の主面に、光吸収層4を形成する。光吸収層4の形成方法としては、例えば、黒色系の着色剤を含む電離放射線硬化型樹脂組成物を光学素子1の第2の主面に塗布した後、紫外線または電子線などを照射して硬化する方法を用いることができる。また、黒色系の着色剤を含むシートなどを光学素子1の第2の主面に接着層などを介して貼り合わせる方法を用いることもできる。
以上により、目的とする光吸収層4付の光学素子1が得られる。
【0105】
この第1の実施形態では、反射の低減を目的とする光の波長以下(例えば可視光波長以下)の微細ピッチで、かつ、隣接する3列のトラック間にて六方格子パターン、または準六方格子パターンを形成するように、基体表面に複数の構造体3を配列している。これにより、反射の低減を目的とする可視光などの光の反射防止効率を高め、優れた反射防止特性を得ることができる。また、可視光などの光吸収性の高い材料を含む光吸収層4を基体裏面に形成することで、裏面反射をほとんどなくすことができる。これにより、カメラや望遠鏡などの光学機器鏡筒内部品表面、および鏡筒内周面などにおける光の反射を抑制することができる。したがって、ゴーストやフレア、コントラストなどの光学特性を改善することができる。
【0106】
光ディスクの原盤作製プロセスとエッチングプロセスとを融合した方法を用いて、光学素子1を作製する場合には、電子線露光を用いて光学素子1を作製した場合に比べて、原盤作製プロセスに要する時間(露光時間)を大幅に短縮することができる。したがって、光学素子1の生産性を大幅に向上することができる。
【0107】
<2.第2の実施形態>
[光学素子の構成]
図17Aは、本発明の第2の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図である。図17Bは、図17Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図である。図17Cは、図17BのトラックT1、T3、・・・における断面図である。図17Dは、図17BのトラックT2、T4、・・・における断面図である。図17Eは、図17BのトラックT1、T3、・・・に対応する潜像形成に用いられるレーザー光の変調波形を示す略線図である。図17Fは、図17BのトラックT2、T4、・・・に対応する潜像形成に用いられるレーザー光の変調波形を示す略線図である。
【0108】
第2の実施形態に係る光学素子1は、各構造体3が、隣接する3列のトラック間において四方格子パターンまたは準四方格子パターンをなしている点において、第1の実施形態のものとは異なっている。本発明において、準四方格子パターンとは、正四方格子パターンと異なり、トラックの延在方向(X方向)に引き伸ばされ歪んだ四方格子パターンを意味する。
【0109】
構造体3の高さまたは深さは特に限定されず、例えば、159nm〜312nm程度である。トラックに対して(約)45度方向ピッチP2は、例えば、275nm〜297nm程度である。構造体3のアスペクト比(高さ/配置ピッチ)は、例えば、0.54〜1.13程度である。更に、各構造体3のアスペクト比は全て同一である場合に限らず、各構造体3が一定の高さ分布をもつように構成されていてもよい。
【0110】
同一トラック内における構造体3の配置ピッチP1は、隣接する2つのトラック間における構造体3の配置ピッチP2よりも長いことが好ましい。また、同一トラック内における構造体3の配置ピッチをP1、隣接する2つのトラック間における構造体3の配置ピッチをP2としたとき、P1/P2が1.4<P1/P2≦1.5の関係を満たすことが好ましい。このような数値範囲にすることで、楕円錐または楕円錐台形状を有する構造体3の充填率を向上することができるので、反射防止特性を向上することができる。また、トラックに対して45度方向または約45度方向における構造体3の高さまたは深さは、トラックの延在方向における構造体3の高さまたは深さよりも小さいことが好ましい。
【0111】
トラックの延在方向に対して斜となる構造体3の配列方向(θ方向)の高さH2は、トラックの延在方向における構造体3の高さH1よりも小さいことが好ましい。すなわち、構造体3の高さH1、H2がH1>H2の関係を満たすことが好ましい。
【0112】
図18は、構造体3の底面の楕円率を変化させたときの底面形状を示す図である。楕円31、32、33の楕円率はそれぞれ、100%、163.3%、141%である。このように楕円率を変化させることで、基体表面における構造体3の充填率を変化させることができる。構造体3が四方格子または準四方格子パターンを形成する場合には、構造体底面の楕円率eは、150%≦e≦180%であることが好ましい。この範囲にすることで、構造体3の充填率を向上し、優れた反射防止特性を得ることができるからである。
【0113】
基体表面における構造体3の充填率は、100%を上限として、65%以上、好ましくは73%以上、より好ましくは86%以上の範囲内である。充填率をこのような範囲にすることで、反射防止特性を向上することができる。
【0114】
ここで、構造体3の充填率(平均充填率)は以下のようにして求めた値である。
まず、光学素子1の表面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いてTop Viewで撮影する。次に、撮影したSEM写真から無作為に単位格子Ucを選び出し、その単位格子Ucの配置ピッチP1、およびトラックピッチTpを測定する(図17B参照)。また、その単位格子Ucに含まれる4つの構造体3のいずれかの底面の面積Sを画像処理により測定する。次に、測定した配置ピッチP1、トラックピッチTp、および底面の面積Sを用いて、以下の式(4)より充填率を求める。
充填率=(S(tetra)/S(unit))×100 ・・・(2)
単位格子面積:S(unit)=2×((P1×Tp)×(1/2))=P1×Tp
単位格子内に存在する構造体の底面の面積:S(tetra)=S
【0115】
上述した充填率算出の処理を、撮影したSEM写真から無作為に選び出された10箇所の単位格子について行う。そして、測定値を単純に平均(算術平均)して充填率の平均率を求め、これを基体表面における構造体3の充填率とする。
【0116】
配置ピッチP1に対する径2rの比率((2r/P1)×100)が、64%以上、好ましくは69%以上、より好ましくは73%以上である。このような範囲にすることで、構造体3の充填率を向上し、反射防止特性を向上できるからである。ここで、配置ピッチP1は、構造体3のトラック方向の配置ピッチ、径2rは、構造体底面のトラック方向の径である。なお、構造体底面が円形である場合、径2rは直径となり、構造体底面が楕円形である場合、径2rは長径となる。
【0117】
図19は、上述の構成を有する光学素子を作製するためのロールマスタの構成の一例を示す。このロールマスタは、その表面において凹状の構造体13が四方格子パターンまたは準四方格子パターンをなしている点において、第1の実施形態のものとは異なっている。
【0118】
[ロールマスタの構成]
ロール原盤露光装置を用い、2次元パターンが空間的にリンクし、1トラック毎に極性反転フォマッター信号と記録装置の回転コントロラーを同期させ信号を発生し、CAVで適切な送りピッチでパターニングする。これにより、四方格子パターン、または準六方格子パターンを記録することができる。極性反転フォマッター信号の周波数とロールの回転数を適切に設定することにより、所望の記録領域に空間周波数が一様な格子パターンをレーザー光の照射により原盤12上のレジストに形成することが好ましい。
【0119】
この第2の実施形態では、反射の低減を目的とする光の波長以下(例えば可視光波長以下)の微細ピッチで、かつ、隣接する3列のトラック間にて四方格子パターン、または準四方格子パターンを形成するように、基体表面に複数の構造体3を配列している。これにより、反射の低減を目的とする可視光などの光の反射防止効率を高め、優れた反射防止特性を得ることができる。また、可視光などの光吸収性の高い材料を含む光吸収層4を基体裏面に形成することで、裏面反射をほとんどなくすことができる。これにより、カメラや望遠鏡などの光学機器鏡筒内部品表面、および鏡筒内周面などにおける光の反射を抑制することができる。したがって、ゴーストやフレア、コントラストなどの光学特性を改善することができる。
【0120】
<3.第3の実施形態>
[光学素子の構成]
図20Aは、本発明の第3の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図である。図20Bは、図20Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図である。図20Cは、図20BのトラックT1、T3、・・・における断面図である。図20Dは、図20BのトラックT2、T4、・・・における断面図である。
【0121】
第3の実施形態に係る光学素子1は、トラックTが円弧状の形状を有し、構造体3が円弧状に配置されている点において、第1の実施形態のものとは異なっている。図20Bに示すように、隣接する3列のトラック(T1〜T3)間においてa1〜a7の各点に構造体3の中心が位置する準六方格子パターンを形成するように構造体3が配置されている。ここで、準六方格子パターンとは、正六方格子パターンとは異なり、トラックTの円弧状に沿って歪んだ六方格子パターンを意味する。あるいは、正六方格子パターンとは異なり、トラックTの円弧状に沿って歪み、かつ、トラックの延在方向(X軸方向)に引き伸ばされ歪んだ六方格子パターンを意味する。
上述した以外の光学素子1の構成は、第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0122】
[ディスクマスタの構成]
図21は、上述の構成を有する光学素子を作製するためのディスクマスタの構成の一例を示す。図21に示すように、ディスクマスタ41は、円盤状の原盤42の表面に凹部である構造体43が多数配列された構成を有している。この構造体13は、光学素子1の使用環境下の光の波長帯域以下、例えば可視光の波長と同程度のピッチで周期的に2次元配列されている。構造体43は、例えば、同心円状またはスパイラル状のトラック上に配置されている。
上述した以外のディスクマスタ41の構成は、第1の実施形態のロールマスタ11と同様であるので説明を省略する。
【0123】
[光学素子の製造方法]
まず、図22を参照して、上述した構成を有するディスクマスタ41を作製するための露光装置について説明する。
【0124】
移動光学テーブル32は、ビームエキスパンダ33、ミラー38および対物レンズ34を備えている。移動光学テーブル32に導かれたレーザー光15は、ビームエキスパンダ33により所望のビーム形状に整形された後、ミラー38および対物レンズ34を介して、円盤状の原盤42上のレジスト層へ照射される。原盤42は、スピンドルモータ35に接続されたターンテーブル(図示を省略する。)の上に載置されている。そして、原盤42を回転させるとともに、レーザー光15を原盤42の回転半径方向に移動させながら、原盤42上のレジスト層へレーザー光を間欠的に照射することにより、レジスト層の露光工程が行われる。形成された潜像は、円周方向に長軸を有する略楕円形になる。レーザー光15の移動は、移動光学テーブル32の矢印R方向への移動によって行われる。
【0125】
図22に示した露光装置においては、レジスト層に対して図20Bに示した六方格子または準六方格子の2次元パターンからなる潜像を形成するための制御機構37を備えている。制御機構37は、フォマッター29とドライバ30とを備える。フォマッター29は、極性反転部を備え、この極性反転部が、レジスト層に対するレーザー光15の照射タイミングを制御する。ドライバ30は、極性反転部の出力を受けて、音響光学素子27を制御する。
【0126】
制御機構37は、潜像の2次元パターンが空間的にリンクするように、1トラック毎に、AOM27によるレーザー光15の強度変調と、スピンドルモータ35の駆動回転速度と、移動光学テーブル32の移動速度とをそれぞれ同期させる。原盤42は、角速度一定(CAV)で回転制御される。そして、スピンドルモータ35による原盤42の適切な回転数と、AOM27によるレーザー強度の適切な周波数変調と、移動光学テーブル32によるレーザー光15の適切な送りピッチとでパターニングを行う。これにより、レジスト層に対して六方格子パターン、または準六方格子パターンの潜像が形成される。
【0127】
更に、極性反転部の制御信号を、空間周波数(潜像のパターン密度であり、P1:330、P2:300nm、または、P1:315nm、P2:275nm、または、P1:300nm、P2:265nm)が一様になるように徐々に変化させる。より具体的には、レジスト層に対するレーザー光15の照射周期を1トラック毎に変化させながら露光を行い、各トラックTにおいてP1がほぼ330nm(あるいは315nm、300nm)となるように制御機構37においてレーザー光15の周波数変調を行う。即ち、トラック位置が円盤状の原盤42の中心から遠ざかるに従い、レーザー光の照射周期が短くなるように変調制御する。これにより、基板全面において空間周波数が一様なナノパターンを形成することが可能となる。
【0128】
以下、本発明の第3の実施形態に係る光学素子の製造方法の一例について説明する。
まず、上述した構成を有する露光装置を用いて、円盤状の原盤上に形成されたレジスト層を露光する以外は、第1の実施形態と同様にしてディスクマスタ41を作製する。次に、このディスクマスタ41と、紫外線硬化樹脂を塗布したアクリルシートなどの基体2とを密着させ、紫外線を照射し紫外線硬化樹脂を硬化させた後、ディスクマスタ41から基体2を剥離する。これにより、複数の構造体3が表面(第1の主面)に配列された円盤状の光学素子1が得られる。次に、光学素子1の裏面(第2の主面)に光吸収層4を形成する。次に、この円盤状の光学素子1から、矩形状などの所定形状の光学素子1を切り出す。これにより、目的とする光学素子1が作製される。
【0129】
この第3の実施形態によれば、直線状に構造体3を配列した場合と同様に、生産性が高く、優れた反射防止特性を有する光学素子1を得ることができる。
【0130】
<4.第4の実施形態>
図23Aは、本発明の第4の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図である。図23Bは、図23Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図である。
【0131】
第4の実施形態に係る光学素子1は、構造体3を蛇行するトラック(以下ウォブルトラックと称する。)上に配列している点において、第1の実施形態とは異なっている。基体2上における各トラックのウォブルは、同期していることが好ましい。すなわち、ウォブルは、シンクロナイズドウォブルであることが好ましい。このようにウォブルを同期させることで、六方格子または準六方格子の単位格子形状を保持し、充填率を高く保つことができる。ウォブルトラックの波形としては、例えば、サイン波、三角波などを挙げることができる。ウォブルトラックの波形は、周期的な波形に限定されるものではなく、非周期的な波形としてもよい。ウォブルトラックのウォブル振幅は、例えば±10μm程度に選択される。
この第4の実施形態において、上記以外のことは、第1の実施形態と同様である。
【0132】
第4の実施形態によれば、構造体3をウォブルトラック上に配列していので、外観上のムラの発生を抑制できる。
【0133】
<5.第5の実施形態>
図24Aは、本発明の第5の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図である。図24Bは、図24Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図である。図24Cは、図24BのトラックT1、T3、・・・における断面図である。図24Dは、図24BのトラックT2、T4、・・・における断面図である。図25は、図24に示した光学素子の一部を拡大して表す斜視図である。
【0134】
第5の実施形態に係る光学素子1は、凹部である構造体3が基体表面に多数配列されている点において、第1の実施形態のものとは異なっている。この構造体3の形状は、第1の実施形態における構造体3の凸形状を反転して凹形状としたものである。なお、上述のように構造体3を凹部とした場合、凹部である構造体3の開口部(凹部の入り口部分)を下部、基体2の深さ方向の最下部(凹部の最も深い部分)を頂部と定義する。すなわち、非実体的な空間である構造体3により頂部、および下部を定義する。また、第5の実施形態では、構造体3が凹部であるため、式(1)などにおける構造体3の高さHは、構造体3の深さHとなる。
【0135】
この第5の実施形態において、上記以外のことは、第1の実施形態と同様である。
この第5の実施形態では、第1の実施形態における凸形状の構造体3の形状を反転して凹形状としているので、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0136】
<6.第6の実施形態>
図26は、本発明の第6の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す断面図である。第6の実施形態に係る光学素子1は、光吸収層4上に接着層6をさらに備える点において、第1の実施形態とは異なっている。光学素子1が、必要に応じて、剥離シートなどの剥離層7を接着層6上にさらに備えるようにしてもよい。接着層6は、接着剤を主成分とする。この接着剤としては、例えば、光学シートの技術分野において公知のものを用いることがでる。なお、本明細書では、感圧性粘着剤(PSA:Pressure Sensitive Adhesive)などの粘着剤も接着剤の一種とみなす。
【0137】
この第6の実施形態では、カメラなどの光学機器などの被着体に対して、光学素子1を接着層6を介して容易に貼り付けることができる。また、接着層6上に剥離層7をさらに設けた場合には、光学素子1の取り扱いが容易となる。
【0138】
<7.第7の実施形態>
第7の実施形態に係る光学素子1は、光吸収層4の代わりに、基体2および構造体3の少なくとも一方がカーボンブラックなどの黒色系の着色剤を含み、光吸収性を有している点において、第1の実施形態とは異なっている。
【0139】
図27Aは、本発明の第7の実施形態に係る光学素子の第1の構成例を示す断面図である。この光学素子1は、図27Aに示すように、基体2と構造体3とが一体成形されており、これらの両方に黒色系の着色剤が含まれている。したがって、基体2と構造体3との両方が、光吸収性を有している。
【0140】
図27Bは、本発明の第7の実施形態に係る光学素子の第2の構成例を示す断面図である。この光学素子1は、図27Bに示すように、基体2と構造体3とが別体となっており、これらの少なくとも一方が黒色系の着色剤を含み、光吸収性を有している。反射率を低減する観点からすると、基体2のみが黒色系の着色剤を含み、光吸収性を有しているのに対して、構造体3は透明であることが好ましい。
【0141】
図27Cは、本発明の第7の実施形態に係る光学素子の第3の構成例を示す断面図である。この光学素子1は、図27Cに示すように、基体2と構造体3とが別体であるとともに、基体2が積層体である。この積層体は2以上の層を積層した積層構造を有し、2以上の層の少なくとも1層が黒色系の着色剤を含み、光吸収性を有している。構造体3も黒色系の着色剤を含み、光吸収性を有していてもよいが、上述したように、反射率を低減する観点からすると、基体2のみが黒色系の着色剤を含み、光吸収性を有していることが好ましい。
【0142】
この第7の実施形態では、光学素子自体が黒色系の着色剤を含み、光吸収性を有しているため、光吸収層4の形成を省略することができる。したがって、光吸収層形成工程を省略できるので、生産性を向上することができる。また、光学素子1を薄型化することができる。
【0143】
<8.第8の実施形態>
図28は、本発明の第8の実施形態に係る境筒の構成の一例を示す断面図である。この境筒51は、図28に示すように、その内部に光学素子1を備える。光学素子1が備えられる境筒内の具体的な位置としては、例えば、境筒内周面、境筒内部品表面などが挙げられる。光学素子1としては、上述の第1〜第7の実施形態のうちの1種以上のものを用いることができ、所望とする反射防止特性などに応じて適宜選択して用いることが好ましい。光学素子1は、例えば、境筒51の内周面のうち、レンズ52とレンズ53との間の部分、レンズ53とレンズ54との間の部分などに設けられる。光学素子1と境筒51とを一体成形するようにしてもよい。
【0144】
この第8の実施形態では、境筒内周面や境筒内部品表面などに光学素子1を備えているので、境筒内周面や境筒内部品表面などにおける光の反射を低減することができる。したがって、像にゴーストやフレアが発生することを抑制し、コントラストの低下などを抑えることができる。
【実施例】
【0145】
以下、実施例および試験例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例および試験例のみに限定されるものではない。
【0146】
本発明の実施例および試験例について以下の順序で説明する。
1.実際に作製したサンプルによる反射特性についての検討
2.シミュレーションによる吸収係数と反射特性との関係についての検討
3.シミュレーションによる充填率、および径の比率と反射特性との関係についての検討
【0147】
<1.実際に作製したサンプルによる反射特性についての検討>
(実施例1)
まず、外径126mmのガラスロール原盤を準備し、このガラス原盤の表面に以下のようにしてレジストを着膜した。すなわち、シンナーでフォトレジストを1/10に希釈し、この希釈レジストをディップによりガラスロール原盤の円柱面上に厚さ70nm程度に塗布することにより、レジストを着膜した。次に、記録媒体としてのガラスロール原盤を、図14に示したロール原盤露光装置に搬送し、レジストを露光することにより、1つの螺旋状に連なるとともに、隣接する3列のトラック間において六方格子パターンをなす潜像がレジストにパターニングされた。
【0148】
具体的には、六方格子パターンが形成されるべき領域に対して、前記ガラスロール原盤表面まで露光するパワー0.50mW/mのレーザー光を照射し凹形状の準六方格子パターンを形成した。なお、トラック列の列方向のレジスト厚さは60nm程度、トラックの延在方向のレジスト厚さは50nm程度であった。
【0149】
次に、ガラスロール原盤上のレジストに現像処理を施して、露光した部分のレジストを溶解させて現像を行った。具体的には、図示しない現像機のターンテーブル上に未現像のガラスロール原盤を載置し、ターンテーブルごと回転させつつガラスロール原盤の表面に現像液を滴下してその表面のレジストを現像した。これにより、レジスト層が準六方格子パターンに開口しているレジストガラス原盤が得られた。
【0150】
次に、ロールエッチング装置を用い、CHF3ガス雰囲気中でのプラズマエッチングを行った。これにより、ガラスロール原盤の表面において、レジスト層から露出している準六方格子パターンの部分のみエッチングが進行し、その他の領域はフォトレジストがマスクとなりエッチングはされず、楕円錐形状の凹部が得られた。このときのパターンでのエッチング量(深さ)はエッチング時間によって変化させた。最後に、O2アッシングにより完全にフォトレジストを除去することにより、凹形状の準六方格子パターンのモスアイガラスロールマスタが得られた。列方向における凹部の深さは、トラックの延在方向における凹部の深さより深かった。
【0151】
次に、上記モスアイガラスロールマスタと紫外線硬化樹脂を塗布したアクリルシートなどを密着させ、紫外線を照射し硬化させながら剥離した。これにより、複数の構造体が表面に配列された光学シートが得られた。次に、光学シートの裏面に黒色の粘着シート(光吸収層)を貼り付け、光吸収層付きの光学シート(黒色モスアイ複製シート)を作製した。
【0152】
(実施例2)
1トラック毎に極性反転フォマッター信号の周波数と、ロールの回転数と、適切な送りピッチとを調整することで、レジスト層をパターニングすることにより、準六方格子パターンをレジスト層に記録した。これ以外のことは、実施例1と同様にして光吸収層付きの光学シートを作製した。
【0153】
(実施例3)
1トラック毎に極性反転フォマッター信号の周波数と、ロールの回転数と、適切な送りピッチとを調整することで、レジスト層をパターニングすることにより、準四方格子パターンをレジスト層に記録した。これ以外のことは、実施例1と同様にして光吸収層付きの光学シートを作製した。
【0154】
(実施例4)
1トラック毎に極性反転フォマッター信号の周波数と、ロールの回転数と、適切な送りピッチとを調整することで、レジスト層をパターニングすることにより、準四方格子パターンをレジスト層に記録した。これ以外のことは、実施例1と同様にして光吸収層付きの光学シートを作製した。
【0155】
(形状の評価)
上述のようにして作製した実施例1〜4の光吸収層付きの光学素子の凹凸面について、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)により観察を行った。そして、AFMの断面プロファイルから各実施例の構造体の高さを求めた。その結果を表1および表2に示す。
【0156】
【表1】

【0157】
【表2】

【0158】
実施例1、2における光学素子のモスアイ形状は、準六方格子状に配列された凸形状の楕円錐台(楕円錐)である。上記AFM断面形状測定から、トラックの延在方向における構造体の高さは、トラックの延在方向に対してほぼ60度の方向にける構造体の高さより小さいことがわかる。また、トラックの延在方向以外における構造体の高さが、トラックの延在方向に対してほぼ60度の方向における構造体の高さとほぼ同一であることから、構造体の高さをトラックの延在方向に対してほぼ60度の方向における高さで代表する。
【0159】
実施例3、4における光学素子のモスアイ形状は、準四方格子状に配列された凸形状の楕円錐台(楕円錐)である。上記AFM断面形状測定から、トラックの延在方向に対してほぼ45度方向の構造体の高さは、トラックの列方向にける構造体の高さより小さいことがわかる。また、トラックの延在方向に対してほぼ45度方向以外の構造体の高さが、トラックの列方向における構造体の高さとほぼ同一であることから、構造体の高さをトラックの列方向における高さで代表する。
【0160】
(反射率の評価)
実施例1〜4の光吸収層付きの光学素子の反射率を日本分光の評価装置(V−550)を用いて評価した。図29A〜図30Bに、実施例1〜4の光学素子における反射率の波長依存性および入射角依存性を示す。
【0161】
図29A、図29Bから以下のことがわかる。
実施例1、2の光学シートには反射率の波長依存性がある。しかし、これらのサンプルの反射率は、モスアイパターンのない基体の反射率が4.5%程度であり、UV光から可視光領域(波長350nm〜750nm、入射角35度まで)では平均反射率が0.10%程度であることを考慮すると、充分に小さい値である。また、入射角40度、45度でも、平均反射率が0.3%〜0.4%程度であり、充分な反射防止効果が得られている。
以上により、円周方向(シート長軸方向)に構造体間の深さが浅い、準六方格子パターンの光学シートにおいて、充分な反射防止効果が得られることがわかる。
また、凸形状を有する複数の楕円錐台(楕円錐)が準六方格子状に配列され、かつ、アスペクト比が1.03〜1.23に設定された実施例1、2の光学シートでは、充分な反射防止特性が得られることがわかる。
また、形状評価の結果から、モスアイ石英マスターには、凹形状の楕円錐溝が形成されていることが確認できた。
【0162】
図30A、図30Bから以下のことがわかる。
実施例3、4の光学シートでは、可視光領域(波長400nm〜750nm、入射角35度まで)における平均反射率が0.10%程度であり、充分に小さい値になっている。入射角40度、45度でも、平均反射率が0.3%〜0.5%程度であり、充分な反射防止効果が得られている。入射角40度でも、平均反射率が0.4%〜0.4%程度であり、充分な反射防止効果が得られている。角度依存性も充分に小さく抑えられている。
以上により、円周方向に対してほぼ45度方向(シート長軸45度方向)に構造体間の深さが浅い、準四方格子パターンの光学シートにおいて、充分な反射防止効果が得られることがわかる。
また、凸形状を有する複数の楕円錐台(楕円錐)が準四方格子状に配列され、かつ、アスペクト比が0.93〜1.15に設定された実施例1、2の光学シートでは、充分な反射防止効果が得られることがわかる。
また、形状評価の結果から、モスアイ石英マスターには、凹形状の楕円錐溝が形成されていることが確認できた。
【0163】
<2.シミュレーションによる吸収係数と反射特性との関係についての検討>
(試験例1)
まず、複数の構造体を平面上に配列し、この平面の垂線に対して0°、40°、80°をなす方向から光を入射させたときの反射率をRCWA(Rigorous Coupled Wave Analysis)により求めた。その結果を図31Aに示す。
以下に、シミュレーションの条件を示す。
構造体形状:釣鐘型
構造体の配列:六方格子
構造体の吸収係数:0.0
構造体の高さ:300nm
ピッチP1、ピッチP2:250nm
アスペクト比:1.2
【0164】
(試験例2)
構造体の吸収係数を0.1とする以外は試験例1と同様にして、RCWAにより反射率を求めた。その結果を図31Bに示す。
【0165】
(試験例3)
構造体の吸収係数を1.0とする以外は試験例1と同様にして、RCWAにより反射率を求めた。その結果を図31Cに示す。
【0166】
図31A〜図31Cに示したシミュレーション結果から、以下のことがわかる。
構造体の形状、および配列が同様であっても、構造体の吸収係数により反射特性が異なっている。具体的には、構造体の吸収係数が増加するに従って、反射率が増加する傾向にあり、350nm〜800nmの範囲において長波長側の反射率が特に増加する傾向にある。
以上により、反射率を低減する観点からすると、構造体に黒色系の着色剤を含ませ、光吸収性を付与するよりも、基体に黒色系の着色剤を含ませ、光吸収性を付与することが好ましいことがわかる。
【0167】
<3.シミュレーションによる充填率、および径の比率と反射特性との関係についての検討>
(試験例4)
図32Aは、構造体を六方格子状に配列したときの充填率を説明するための図である。図32Aに示すにように、構造体を六方格子状に配列した場合において、比率((2r/P1)×100)(但し、P1:同一トラック内における構造体の配置ピッチ、r:構造体底面の半径)を変化させたときの充填率を以下の式(5)により求めた。
充填率=(S(hex.)/S(unit))×100 ・・・(5)
単位格子面積:S(unit)=2r×(2√3)r
単位格子内に存在する構造体の底面の面積:S(hex.)=2×πr2
(但し、2r>P1のときは作図上から求める。)
【0168】
例えば、配置ピッチP1=2、構造体底面の半径r=1とした場合、S(unit)、S(hex.)、比率((2r/P1)×100)、充填率は以下に示す値となる。
S(unit)=6.9282
S(hex.)=6.28319
(2r/P1)×100=100.0%
充填率=(S(hex.)/S(unit))×100=90.7%
【0169】
表3に、上述の式(5)により求めた充填率と比率((2r/P1)×100)との関係を示す。
【表3】

【0170】
(試験例5)
図32Bは、構造体を四方格子状に配列したときの充填率を説明するための図である。図32Bに示すにように、構造体を四方格子状に配列した場合において、比率((2r/P1)×100)、比率((2r/P2)×100)、(但し、P1:同一トラック内における構造体の配置ピッチ、P2:トラックに対して45度方向の配置ピッチ、r:構造体底面の半径)を変化させたときの充填率を以下の式(6)により求めた。
充填率=(S(tetra)/S(unit))×100 ・・・(6)
単位格子面積:S(unit)=2r×2r
単位格子内に存在する構造体の底面の面積:S(tetra)=πr2
(但し、2r>P1のときは作図上から求める。)
【0171】
例えば、配置ピッチP2=2、構造体底面の半径r=1とした場合、S(unit)、S(tetra)、比率((2r/P1)×100)、比率((2r/P2)×100)、充填率は以下に示す値となる。
S(unit)=4
S(tetra)=3.14159
(2r/P1)×100=70.7%
(2r/P2)×100=100.0%
充填率=(S(tetra)/S(unit))×100=78.5%
【0172】
表6に、上述の式(6)により求めた充填率と、比率((2r/P1)×100)、比率((2r/P2)×100)との関係を示す。
また、四方格子の配置ピッチP1とP2との関係はP1=√2×P2となる。
【表4】

【0173】
(試験例6)
配置ピッチP1に対する構造体底面の直径2rの比率((2r/P1)×100)を80%、85%、90%、95%、99%の大きさにして、以下の条件で反射率をRCWAシミュレーションにより求めた。その結果のグラフを図33に示す。
構造体形状:釣鐘型
偏光:無偏光
屈折率:1.48
配置ピッチP1:320nm
構造体の高さ:415nm
アスペクト比:1.30
構造体の配列:六方格子
【0174】
図33から、比率((2r/P1)×100)が85%以上あれば、可視域の波長域(0.4〜0.7μm)において、平均反射率RがR<0.5%となり、十分な反射防止効果が得られる。このとき底面の充填率は65%以上である。また、比率((2r/P1)×100)が90%以上あれば、可視域の波長域において平均反射率RがR<0.3%となり、より高性能な反射防止効果が得られる。このとき底面の充填率は73%以上であり、上限を100%として充填率が高いほど性能が良くなる。構造体同士が重なり合う場合は、構造体高さは一番低い位置からの高さを考えることとする。また、四方格子においても、充填率と反射率の傾向は同様であることを確認した。
【0175】
以上、本発明の実施形態および実施例について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0176】
例えば、上述の実施形態および実施例において挙げた数値、形状、材料および構成などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値、形状、材料および構成などを用いてもよい。
【0177】
また、上述の実施形態の各構成は、本発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0178】
また、上述の実施形態において、光学素子1が、構造体3が形成された側の凹凸面上に、低屈折率層をさらに備えるようにしてもよい。低屈折率層は、基体2、構造体3、および突出部5を構成する材料より低い屈折率を有する材料を主成分としていることが好ましい。このような低屈折率層の材料としては、例えばフッ素系樹脂などの有機系材料、またはLiF、MgF2などの無機系の低屈折率材料が挙げられる。
【0179】
また、上述の実施形態において、熱転写により光学素子を作製するようにしてもよい。具体的には、熱可塑性樹脂を主成分とする基体を加熱し、この加熱により十分に柔らかくなった基体に対して、ロールマスタ11やディスクマスタ41などの判子(モールド)を押し当てることにより、光学素子1を作製する方法を用いるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0180】
1 光学素子
2 基体
3 構造体
4 突出部
11 ロールマスタ
12 基体
13 構造体
14 レジスト層
15 レーザー光
16 潜像
21 レーザー
22 電気光学変調器
23,31 ミラー
24 フォトダイオード
26 集光レンズ
27 音響光学変調器
28 コリメータレンズ
29 フォマッター
30 ドライバ
32 移動光学テーブル系
33 ビームエキスパンダ
34 対物レンズ
35 スピンドルモータ
36 ターンテーブル
37 制御機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面および第2の主面を有する基体と、
反射の低減を目的とする可視光の波長以下の微細ピッチで上記第1の主面に配置された、凸部または凹部からなる複数の構造体と、
上記第2の主面に形成された、上記光を吸収する光吸収層と
を備え、
上記構造体は、上記基体の第1の主面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、六方格子パターン、準六方格子パターン、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
上記構造体は、上記トラックの延在方向に長軸方向を有する楕円錐または楕円錐台形状である、反射防止機能を有する光学素子。
【請求項2】
上記トラックが、直線状、または円弧状を有する請求項1記載の光学素子。
【請求項3】
上記トラックが、蛇行している請求項1記載の光学素子。
【請求項4】
上記構造体は、頂部の傾きが緩やかで中央部から底部に徐々に急峻な傾きの錐体形状である請求項1記載の光学素子。
【請求項5】
上記構造体は、直線状を有する複数列のトラックをなすように配置されているとともに、準六方格子パターンを形成し、
上記トラックの延在方向における上記構造体の高さまたは深さは、上記トラックの列方向における上記構造体の高さまたは深さよりも小さい請求項1記載の光学素子。
【請求項6】
上記構造体は、直線状を有する複数列のトラックをなすように配置されているとともに、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
上記トラックの延在方向に対して斜めとなる配列方向における上記構造体の高さまたは深さは、上記トラックの延在方向における上記構造体の高さまたは深さよりも小さい請求項1記載の光学素子。
【請求項7】
同一トラック内における上記構造体の配置ピッチP1は、隣接する2つのトラック間における上記構造体の配置ピッチP2よりも長い請求項1記載の光学素子。
【請求項8】
上記構造体は、上記第1の主面において六方格子パターン、または準六方格子パターンを形成し、
同一トラック内における上記構造体の配置ピッチをP1、隣接する2つのトラック間における上記構造体の配置ピッチをP2としたとき、
比率P1/P2が、1.00≦P1/P2≦1.1、または1.00<P1/P2≦1.1の関係を満たす請求項1記載の光学素子。
【請求項9】
上記構造体は、上記第1の主面において四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
同一トラック内における上記構造体の配置ピッチをP1、隣接する2つのトラック間における上記構造体の配置ピッチをP2としたとき、
比率P1/P2が、1.4<P1/P2≦1.5の関係を満たす請求項1記載の光学素子。
【請求項10】
上記光吸収層上に接着層をさらに備える請求項1記載の光学素子。
【請求項11】
第1の主面および第2の主面を有する基体と、
反射の低減を目的とする可視光の波長以下の微細ピッチで上記第1の主面に多数配置された、凸部または凹部からなる複数の構造体と、
上記第2の主面に形成された、上記光を吸収する光吸収層と
を備え、
上記構造体は、上記第1の主面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、六方格子パターン、準六方格子パターン、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
上記基体の表面に対する上記構造体の充填率が、65%以上である、反射防止機能を有する光学素子。
【請求項12】
第1の主面および第2の主面を有する基体と、
反射の低減を目的とする可視光の波長以下の微細ピッチで上記第1の主面に多数配置された、凸部または凹部からなる複数の構造体と、
上記第2の主面に形成された、上記光を吸収する光吸収層と
を備え、
上記構造体は、上記第1の主面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、準六方格子パターンを形成し、
同一トラック内における上記構造体の配置ピッチをP1、上記構造体底面のトラック方向の径を2rとしたとき、上記配置ピッチP1に対する上記径2rの比率((2r/P1)×100)が、85%以上である、反射防止機能を有する光学素子。
【請求項13】
第1の主面および第2の主面を有する基体と、
反射の低減を目的とする可視光の波長以下の微細ピッチで上記第1の主面に多数配置された、凸部または凹部からなる複数の構造体と、
上記第2の主面に形成された、上記光を吸収する光吸収層と
を備え、
上記構造体は、上記第1の主面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
同一トラック内における上記構造体の配置ピッチをP1、上記構造体底面のトラック方向の径を2rとしたとき、上記配置ピッチP1に対する上記径2rの比率((2r/P1)×100)が、64%以上である、反射防止機能を有する光学素子。
【請求項14】
第1の主面および第2の主面を有する基体と、
反射の低減を目的とする可視光の波長以下の微細ピッチで上記第1の主面に多数配置された、凸部または凹部からなる複数の構造体と
を備え、
上記基体および上記構造体の少なくとも一方が、上記光に対して光吸収性を有し、
上記構造体は、上記第1の主面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、六方格子パターン、準六方格子パターン、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
上記構造体は、上記トラックの延在方向に長軸方向を有する楕円錐または楕円錐台形状である、反射防止機能を有する光学素子。
【請求項15】
第1の主面および第2の主面を有する基体と、
反射の低減を目的とする可視光の波長以下の微細ピッチで上記第1の主面に多数配置された、凸部または凹部からなる複数の構造体と
を備え、
上記基体および上記構造体の少なくとも一方が、上記光に対して光吸収性を有し、
上記構造体は、上記第1の主面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、六方格子パターン、準六方格子パターン、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
上記基体の表面に対する上記構造体の充填率が、65%以上である、反射防止機能を有する光学素子。
【請求項16】
第1の主面および第2の主面を有する基体と、
反射の低減を目的とする可視光の波長以下の微細ピッチで上記第1の主面に多数配置された、凸部または凹部からなる複数の構造体と
を備え、
上記基体および上記構造体の少なくとも一方が、上記光に対して光吸収性を有し、
上記構造体は、上記第1の主面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、準六方格子パターンを形成し、
同一トラック内における上記構造体の配置ピッチをP1、上記構造体底面のトラック方向の径を2rとしたとき、上記配置ピッチP1に対する上記径2rの比率((2r/P1)×100)が、85%以上である、反射防止機能を有する光学素子。
【請求項17】
第1の主面および第2の主面を有する基体と、
反射の低減を目的とする可視光の波長以下の微細ピッチで上記第1の主面に多数配置された、凸部または凹部からなる複数の構造体と
を備え、
上記基体および上記構造体の少なくとも一方が、上記光に対して光吸収性を有し、
上記構造体は、上記第1の主面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
同一トラック内における上記構造体の配置ピッチをP1、上記構造体底面のトラック方向の径を2rとしたとき、上記配置ピッチP1に対する上記径2rの比率((2r/P1)×100)が、64%以上である、反射防止機能を有する光学素子。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の光学素子を備える光学機器。
【請求項19】
円柱状または円筒状の原盤の表面にレジスト層を形成する工程と、
上記レジスト層が形成された上記原盤を回転させるとともに、レーザ光のスポットを上記円柱状または円筒状の原盤の中心軸と平行に相対移動させながら、上記レジスト層にレーザ光を間欠的に照射して、反射の低減を目的とする可視光の波長以下のピッチで潜像を形成する工程と、
上記レジスト層を現像して、上記原盤の表面にレジストパターンを形成する工程と、
上記レジストパターンをマスクとするエッチング処理を施すことで、上記原盤の表面に凹状または凸状の構造体を形成する工程と、
上記構造体が形成された上記原盤を用いて、第1の主面に上記構造体が転写された光学素子を作製する工程と、
上記光学素子の第2の主面に、反射の低減を目的とする上記光を吸収する光吸収層を形成する工程と
を備え、
上記潜像の形成工程では、上記潜像が、上記原盤表面において複数列のトラックをなすように配置されるとともに、六方格子パターン、準六方格子パターン、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
上記潜像は、上記トラックの延在方向に長軸方向を有する楕円形状である、反射防止機能を有する光学素子の製造方法。
【請求項20】
原盤の表面にレジスト層を形成する工程と、
上記レジスト層が形成された原盤を回転させるとともに、レーザ光のスポットを上記原盤の回転半径方向に相対移動させながら、上記レジスト層にレーザ光を間欠的に照射して、反射の低減を目的とする可視光の波長以下のピッチで潜像を形成する工程と、
上記レジスト層を現像して、上記原盤の表面にレジストパターンを形成する工程と、
上記レジストパターンをマスクとするエッチング処理を施すことで、上記原盤の表面に凹状または凸状の構造体を形成する工程と、
上記構造体が形成された上記原盤を用いて、第1の主面に上記構造体が転写された光学素子を作製する工程と、
上記光学素子の第2の主面に、反射の低減を目的とする上記光を吸収する光吸収層を形成する工程と
を備え、
上記潜像の形成工程では、上記潜像が、上記原盤表面において複数列のトラックをなすように配置されるとともに、六方格子パターン、準六方格子パターン、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
上記潜像は、上記トラックの延在方向に長軸方向を有する楕円形状である、反射防止機能を有する光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2011−53495(P2011−53495A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203178(P2009−203178)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】