説明

光学素子、および表示装置

【課題】指紋などの汚れを拭き取ることができる光学素子を提供する。
【解決手段】反射防止機能を有する光学素子は、表面を有する基体と、基体の表面に可視光の波長以下の微細ピッチで多数配置された、凸部または凹部からなる複数の構造体とを備える。構造体を形成する材料の弾性率が、1MPa以上1200MPa以下であり、構造体のアスペクト比が、0.6以上1.5以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止機能を有する光学素子、および表示装置に関する。詳しくは、凸部または凹部からなる構造体が表面に可視光の波長以下の微細ピッチで多数配置されてなる光学素子、および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガラス、プラスチックなどの透光性基板を用いた光学素子においては、光の表面反射を抑えるための表面処理が行われているものがある。この種の表面処理として、光学素子表面に微細かつ緻密な凹凸(モスアイ;蛾の目)を形成するものがある(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
一般に、光学素子表面に周期的な凹凸形状を設けた場合、ここを光が透過するときには回折が発生し、透過光の直進成分が大幅に減少する。しかし、凹凸形状のピッチが透過する光の波長よりも短い場合には回折は発生せず、例えば凹凸形状を後述するような矩形としたときに、そのピッチや深さなどに対応する単一波長の光に対して有効な反射防止効果を得ることができる。
【0004】
電子線露光を用いて作製したモスアイ構造体としては、微細なテント形状のモスアイ構造体(ピッチ約300nm、深さ約400nm)が開示されている(例えば非特許文献2参照)。このモスアイ構造体では、反射率1%以下の高性能な反射防止特性を得ることができる。
【0005】
また、光ディスクの原盤作製プロセスとエッチングプロセスとを融合した方法を用いて作製したモスアイ構造体として、釣鐘形状や楕円錐台形状のモスアイ構造体が開示されている(例えば特許文献1参照)。この構造体では、電子線露光に近い反射防止特性が得られる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「光技術コンタクト」 Vol.43, No.11 (2005), 630-637参照
【0007】
【非特許文献2】NTTアドバンストテクノロジ(株)、“波長依存性のない反射防止体(モスアイ)用成形金型原盤“、[online]、[平成20年2月27日検索]、インターネット<http://keytech.ntt-at.co.jp/nano/prd_0033.html>
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第08/023816号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したようなモスアイ構造体は、表面に微細な凹凸をつけることにより屈折率を段階的に変化させ、反射を抑制するという原理を用いているため、指紋が構造体に付着した場合に、その汚れを乾拭きにより除去できるようにすることが望まれている。指紋に含まれる油分などの汚れがモスアイ構造体の凹部に埋まってしまうと、反射を抑制することができないからである。
【0010】
モスアイ構造体に指紋が付着すると、指紋の模様のとおりに汚れが付着し、その後、付着した汚れが毛細管現象によって構造体の凹部にしみこんでいく。この状態から乾拭きを行うと、汚れが凹部のみに埋まるため、凹凸形状の反射抑制効果が鈍ってしまい、反射率が高くなってしまう。
【0011】
表面をフッ素等の低表面エネルギーの物質でコーティングすることで、構造体凹部への染み込みは多少抑制されるが、乾拭きを行うと構造体の凹部への染み込みは防ぐことができない。これは乾拭きに使用する繊維よりも、構造体の凹部の方が細いため、繊維が汚れを吸い取る力よりも、汚れが凹部に留まる力の方が強いからである。
【0012】
したがって、この発明の目的は、指紋などの汚れを拭き取ることができる光学素子、および表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の課題を解決するために、第1の発明は、
表面を有する基体と、
基体の表面に可視光の波長以下の微細ピッチで多数配置された、凸部からなる複数の構造体と
を備え、
構造体を形成する材料の弾性率が、1MPa以上188MPa以下であり、
構造体のアスペクト比が、0.6以上1.5以下であり、
構造体が、頂部の傾きが緩やかで中央部から底部に徐々に急峻な傾きの錐体形状、または放物面状を有し、
構造体の変形により、隣接する構造体同士が接触する、反射防止機能を有する光学素子である。
【0014】
第2の発明は、
可視光の波長以下の微細ピッチで多数配置された、凸部からなる複数の構造体を備え、
隣り合う構造体の下部同士が接合されており、
構造体を形成する材料の弾性率が、1MPa以上188MPa以下であり、
構造体のアスペクト比が、0.6以上1.5以下であり、
構造体が、頂部の傾きが緩やかで中央部から底部に徐々に急峻な傾きの錐体形状、または放物面状を有し、
構造体の変形により、隣接する構造体同士が接触する、反射防止機能を有する光学素子である。
【0015】
第3の発明は、
表面を有する基体と、
基体の表面に可視光の波長以下の微細ピッチで多数配置された、凸部からなる複数の構造体と
を備え、
構造体を形成する材料の弾性率が、1MPa以上188MPa以下であり、
構造体のアスペクト比が、0.2以上5以下であり、
構造体が、頂部の傾きが緩やかで中央部から底部に徐々に急峻な傾きの錐体形状、または放物面状を有し、
構造体の変形により、隣接する構造体同士が接触する、反射防止機能を有する光学素子である。
第4の発明は、
可視光の波長以下の微細ピッチで多数配置された、凸部からなる複数の構造体を備え、
隣り合う構造体の下部同士が接合されており、
構造体を形成する材料の弾性率が、1MPa以上188MPa以下であり、
構造体のアスペクト比が、0.2以上5以下であり、
構造体が、頂部の傾きが緩やかで中央部から底部に徐々に急峻な傾きの錐体形状、または放物面状を有し、
構造体の変形により、隣接する構造体同士が接触する、反射防止機能を有する光学素子である。
【0016】
この発明において、主構造体を四方格子状または準四方格子状に周期的に配置することが好ましい。ここで、四方格子とは、正四角形状の格子のことをいう。準四方格子とは、正四角形状の格子とは異なり、歪んだ正四角形状の格子のことをいう。
例えば、構造体が直線上に配置されている場合には、準四方格子とは、正四角形状の格子を直線状の配列方向(トラック方向)に引き伸ばして歪ませた四方格子のことをいう。構造体が蛇行して配列されている場合には、準四方格子とは、正四角形状の格子を構造体の蛇行配列により歪ませた四方格子をいう。または、正四角形状の格子を直線状の配列方向(トラック方向)に引き伸ばして歪ませ、かつ、構造体の蛇行配列により歪ませた四方格子のことをいう。
【0017】
この発明において、構造体を六方格子状または準六方格子状に周期的に配置することが好ましい。ここで、六方格子とは、正六角形状の格子のことをいう。準六方格子とは、正六角形状の格子とは異なり、歪んだ正六角形状の格子のことをいう。
例えば、構造体が直線上に配置されている場合には、準六方格子とは、正六角形状の格子を直線状の配列方向(トラック方向)に引き伸ばして歪ませた六方格子のことをいう。構造体が蛇行して配列されている場合には、準六方格子とは、正六角形状の格子を構造体の蛇行配列により歪ませた六方格子をいう。または、正六角形状の格子を直線状の配列方向(トラック方向)に引き伸ばして歪ませ、かつ、構造体の蛇行配列により歪ませた六方格子のことをいう。
【0018】
この発明において、楕円には、数学的に定義される完全な楕円のみならず、多少の歪みが付与された楕円も含まれる。円形には、数学的に定義される完全な円(真円)のみならず、多少の歪みが付与された円形も含まれる。
【0019】
この発明において、同一トラック内における構造体の配置ピッチP1は、隣接する2つのトラック間における構造体の配置ピッチP2よりも長いことが好ましい。このようにすることで、楕円錐または楕円錐台形状を有する構造体の充填率を向上することができるので、反射防止特性を向上することができる。
【0020】
この発明において、各構造体が、基体表面において六方格子パターン、または準六方格子パターンを形成している場合には、同一トラック内における構造体の配置ピッチをP1、隣接する2つのトラック間における構造体の配置ピッチをP2としたとき、比率P1/P2が、1.00≦P1/P2≦1.1、または1.00<P1/P2≦1.1の関係を満たすことが好ましい。このような数値範囲にすることで、楕円錐または楕円錐台形状を有する構造体の充填率を向上することができるので、反射防止特性を向上することができる。
【0021】
この発明において、各構造体が、基体表面において六方格子パターン、または準六方格子パターンを形成している場合には、各構造体は、トラックの延在方向に長軸方向を有し、中央部の傾きが先端部および底部の傾きよりも急峻に形成された楕円錐または楕円錐台形状であることが好ましい。このような形状にすることで、反射防止特性および透過特性を向上することができる。
【0022】
この発明において、各構造体が、基体表面において六方格子パターン、または準六方格子パターンを形成している場合には、トラックの延在方向における構造体の高さまたは深さは、トラックの列方向における構造体の高さまたは深さよりも小さいことが好ましい。このような関係を満たさない場合には、トラックの延在方向の配置ピッチを長くする必要が生じるため、トラックの延在方向における構造体の充填率が低下する。このように充填率が低下すると、反射特性の低下を招くことになる。
【0023】
この発明において、構造体が、基体表面において四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成している場合には、同一トラック内における構造体の配置ピッチP1は、隣接する2つのトラック間における構造体の配置ピッチP2よりも長いことが好ましい。このようにすることで、楕円錐または楕円錐台形状を有する構造体の充填率を向上することができるので、反射防止特性を向上することができる。
【0024】
構造体が、基体表面において四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成している場合には、同一トラック内における構造体の配置ピッチをP1、隣接する2つのトラック間における構造体の配置ピッチをP2としたとき、比率P1/P2が、1.4<P1/P2≦1.5の関係を満たすことが好ましい。このような数値範囲にすることで、楕円錐または楕円錐台形状を有する構造体の充填率を向上することができるので、反射防止特性を向上することができる。
【0025】
構造体が、基体表面において四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成している場合には、各構造体は、トラックの延在方向に長軸方向を有し、中央部の傾きが先端部および底部の傾きよりも急峻に形成された楕円錐または楕円錐台形状であることが好ましい。このような形状にすることで、反射防止特性および透過特性を向上することができる。
【0026】
構造体が、基体表面において四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成している場合には、トラックに対して45度方向または約45度方向における構造体の高さまたは深さは、トラックの列方向における構造体の高さまたは深さよりも小さいことが好ましい。このような関係を満たさない場合には、トラックに対して45度方向または約45度方向における配置ピッチを長くする必要が生じるため、トラックに対して45度方向または約45度方向における構造体の充填率が低下する。このように充填率が低下すると、反射特性の低下を招くことになる。
【0027】
本発明において、微細ピッチで基体表面に多数配設けられた構造体が、複数列のトラックをなしていると共に、隣接する3列のトラック間において、六方格子パターン、準六方格子パターン、四方格子パターンまたは準四方格子パターンをなしていることが好ましい。これにより、表面における構造体の充填密度を高くすることができ、これにより可視光の反射防止効率を高め、反射防止特性に優れた、透過率の高い光学素子を得ることができる。
【0028】
本発明において、光ディスクの原盤作製プロセスとエッチングプロセスとを融合した方法を用いて光学素子を作製することが好ましい。光学素子作製用原盤を短時間で効率良く製造することができるとともに基体の大型化にも対応でき、これにより、光学素子の生産性の向上を図ることができる。また、構造体の微細配列を光入射面だけでなく光出射面にも設けた場合には、透過特性をより一層向上させることができる。
【0029】
本発明では、構造体を形成する材料の弾性率を1MPa以上1200MPa以下とし、構造体のアスペクト比を0.6以上1.5以下としているので、拭き取り時に構造体が変形し、隣接する構造体同士が接触する。これにより、構造体間にしみこんだ汚れが押し出される。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明によれば、光学素子表面に付着した指紋などの汚れを拭き取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1Aは、本発明の第1の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図、図1Bは、図1Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図、図1Cは、図1BのトラックT1、T3、・・・における断面図、図1Dは、図1BのトラックT2、T4、・・・における断面図、図1Eは、図1BのトラックT1、T3、・・・に対応する潜像形成に用いられるレーザー光の変調波形を示す略線図、図1Fは、図1BのトラックT2、T4、・・・に対応する潜像形成に用いられるレーザー光の変調波形を示す略線図である。
【図2】図2は、図1Aに示した光学素子の一部を拡大して表す斜視図である。
【図3】図3Aは、図1Aに示した光学素子のトラック延在方向の断面図、図3Bは、図1Aに示した光学素子1のθ方向の断面図である。
【図4】図4は、図1Aに示した光学素子1の一部を拡大して表す斜視図である。
【図5】図5は、図1Aに示した光学素子1の一部を拡大して表す斜視図である。
【図6】図6は、図1Aに示した光学素子1の一部を拡大して表す斜視図である。
【図7】図7は、構造体の境界が不明瞭な場合の構造体底面の設定方法について説明するための図である。
【図8】図8A〜図8Dは、構造体の底面の楕円率を変化させたときの底面形状を示す図である。
【図9】図9Aは、円錐形状または円錐台形状を有する構造体の配置の一例を示す図、図9Bは、楕円錐形状または楕円錐台形状を有する構造体3の配置の一例を示す図である。
【図10】図10Aは、光学素子を作製するためのロールマスタの構成の一例を示す斜視図、図10Bは、光学素子を作製するためのロールマスタの構成の一例を示す平面図である。
【図11】図11は、ロール原盤露光装置の構成の一例を示す概略図である。
【図12】図12A〜図12Cは、本発明の第1の実施形態による光学素子の製造方法を説明するための工程図である。
【図13】図13A〜図13Cは、本発明の第1の実施形態による光学素子の製造方法を説明するための工程図である。
【図14】図14A〜図14Cは、光学素子の表面に汚れが付着した場合の除去について説明する略線図である。
【図15】図15Aは、本発明の第2の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図、図15Bは、図15Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図、図15Cは、図15BのトラックT1、T3、・・・における断面図、図15Dは、図15BのトラックT2、T4、・・・における断面図、図15Eは、図15BのトラックT1、T3、・・・に対応する潜像形成に用いられるレーザー光の変調波形を示す略線図、図15Fは、図15BのトラックT2、T4、・・・に対応する潜像形成に用いられるレーザー光の変調波形を示す略線図である。
【図16】図16は、構造体の底面の楕円率を変化させたときの底面形状を示す図である。
【図17】図17Aは、光学素子を作製するためのロールマスタの構成の一例を示す斜視図、図17Bは、光学素子を作製するためのロールマスタの構成の一例を示す平面図である。
【図18】図18Aは、本発明の第3の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図である。図18Bは、図18Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図である。図18Cは、図18BのトラックT1、T3、・・・における断面図である。図18Dは、図18BのトラックT2、T4、・・・における断面図である。
【図19】図19Aは、光学素子を作製するためのディスクマスタの構成の一例を示す平面図である。図19Bは、図19Aに示したディスクマスタの一部を拡大して表す平面図である。
【図20】図20は、ディスク原盤露光装置の構成の一例を示す概略図である。
【図21】図21Aは、本発明の第4の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図、図21Bは、図21Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図である。
【図22】図22Aは、本発明の第5の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図、図22Bは、図22Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図、図22Cは、図22BのトラックT1、T3、・・・における断面図、図22Dは、図22BのトラックT2、T4、・・・における断面図である。
【図23】図23は、図22Aに示した光学素子の一部を拡大して表す斜視図である。
【図24】図24は、本発明の第6の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す断面図である。
【図25】図25は、本発明の第8の実施形態に係る液晶表示装置の構成の一例を示す。
【図26】図26は、本発明の第9の実施形態に係る液晶表示装置の構成の一例を示す。
【図27】図27Aは、構造体を六方格子状に配列したときの充填率を説明するための図、図27Bは、構造体を四方格子状に配列したときの充填率を説明するための図である。
【図28】図28は、試験例3のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図29】図29は、第7の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す断面図である。
【図30】図30Aは、第10の実施形態に係る光学素子1の第1の例を示す断面図である。図30Bは、第10の実施形態に係る光学素子1の第2の例を示す断面図である。図30Cは、第10の実施形態に係る光学素子1の第3の例を示す断面図である。
【図31】図31A〜図31Cは、柔軟性光学素子の作用を説明するための模式図である。
【図32】図32A〜図32Cは、非柔軟性光学素子の作用を説明するための模式図である。
【図33】図33Aは、サンプル7−1〜7−4の光学素子の引っ掻き試験の結果を示すグラフである。図33Bは、サンプル8−2〜8−6の光学素子の引っ掻き試験の結果を示すグラフである。
【図34】図34Aは、サンプル9−1〜9−3の光学素子の引っ掻き試験の結果を示すグラフである。図33Bは、サンプル10−2〜10−7の光学素子の引っ掻き試験の結果を示すグラフである。
【図35】図34は、シミュレーションの光学フィルムの設定条件を説明するための模式図である。
【図36】図36Aは、試験例3−1〜3−10のシミュレーション結果を示すグラフである。図36Bは、試験例4−1〜4−4、試験例5−1〜5−4、試験例6−1〜6−4のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図37】図37は、シミュレーションの光学素子の設定条件を説明するための模式図である。
【図38】図38Aは、試験例8のシミュレーションの結果を示す図である。図38Bは、試験例9のシミュレーションの結果を示すグラフである。
【図39】図39は、試験例10−1〜10−8のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
この発明は、従来技術が有する上述の問題を解決すべく、鋭意検討した結果として案出されたものである。以下にその概要を説明する。
【0033】
本発明者らは、鋭意検討の結果、構造体を形成する材料に弾力性を持たせることにより、拭き取り時に構造体が変形し、構造体間にしみこんだ汚れが押し出され、例えば平坦膜での接触角が90度以下の物質も除去できることを見出すに至った。
【0034】
変形して構造体間にしみこんだ汚れが押し出されるためには、隣接する構造体同士が接触する必要がある。構造体が変形し、構造体間の空間をなくすためには、構造体を形成する材料の弾性率と、構造体のアスペクト比が重要である。そこで、本発明者らは、実験による鋭意検討の結果、弾性率とアスペクト比が所定の範囲であれば汚れの除去が可能となることを見出した。
【0035】
構造体を変形させればよいと考えた場合、弾性率の高い材料であっても、拭き取り時の圧力を高くしていけば原理的には拭き取りは可能と考えられる。しかし、弾力性のない材料の場合、構造体が変形するような圧力で拭き取りを行うと、構造体が折れてしまったり、塑性変形をしてしまう。その結果、拭き取り後の反射率が指紋付着前の反射率よりも高くなってしまう。
【0036】
本発明における「乾拭き可能」とは、通常の拭き取り方で汚れを除去したときに、指紋付着前と指紋拭き取り後の反射率が一致、またはほぼ一致することを意味する。
【0037】
本発明の実施形態について図面を参照しながら以下の順序で説明する。
1.第1の実施形態(直線状でかつ六方格子状に構造体を2次元配列した例:図1参照)
2.第2の実施形態(直線状でかつ四方格子状に構造体を2次元配列した例:図15参照)
3.第3の実施形態(円弧状でかつ六方格子状に構造体を2次元配列した例:図18参照)
4.第4の実施形態(構造体を蛇行させて配列した例:図21参照)
5.第5の実施形態(凹形状の構造体を基体表面に形成した例:図22参照)
6.第6の実施形態(表面処理層を設けた例:図24参照)
7.第7の実施形態(基体レスの光学素子の例:図29参照)
8.第8の実施形態(表示装置に対する第1の適用例:図25参照)
9.第9の実施形態(表示装置に対する第2の適用例:図26参照)
10.第10の実施形態(基体および構造体の両方が柔軟性を有している例)
【0038】
<1.第1の実施形態>
[光学素子の構成]
図1Aは、本発明の第1の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図である。図1Bは、第1Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図である。図1Cは、図1BのトラックT1、T3、・・・における断面図である。図1Dは、図1BのトラックT2、T4、・・・における断面図である。図1Eは、図1BのトラックT1、T3、・・・に対応する潜像形成に用いられるレーザー光の変調波形を示す略線図である。図1Fは、図1BのトラックT2、T4、・・・に対応する潜像形成に用いられるレーザー光の変調波形を示す略線図である。図2、図4〜図6は、図1Aに示した光学素子1の一部を拡大して表す斜視図である。図3Aは、図1Aに示した光学素子のトラックの延在方向(X方向(以下、適宜トラック方向ともいう))の断面図である。図3Bは、図1Aに示した光学素子のθ方向の断面図である。
【0039】
光学素子1は、例えば、入射光の入射角に応じた反射防止効果を有する光学シート(サブ波長構造体)である。この光学素子1は、種々の波長域を有する光学機器(例えば、カメラなどの光学機器)、ディスプレイ、光エレクトロニクス、望遠鏡などの種々の光デバイスに適用して好適なものである。
【0040】
光学素子1は、主面を有する基体2と、反射の低減を目的とする光の波長以下の微細ピッチで主面に配置された、凸部である複数の構造体3とを備える。この光学素子1は、基体2を図2の−Z方向に透過する光について、構造体3とその周囲の空気との界面における反射を防止する機能を有している。
以下、光学素子1に備えられる基体2、および構造体3について順次説明する。
【0041】
(基体)
基体2は、例えば、透明性を有する透明基体である。基体2の材料としては、例えば、ポリカーボネート(PC)やポリエチレンテレフタレート(PET)などの透明性合成樹脂、ガラスなどを主成分とするものが挙げられるが、これらの材料に特に限定されるものではない。基体2の形状としては、例えば、シート状、プレート状、ブロック状を挙げることができるが、特にこれらの形状に限定されるものではない。ここで、シートにはフィルムが含まれるものと定義する。基体2の形状は、カメラなどの光学機器などにおいて、所定の反射防止機能が必要とされる部分の形状などに合わせて適宜選択することが好ましい。
【0042】
(構造体)
基体2の表面には、凸部である構造体3が多数配列されている。この構造体3は、反射の低減を目的とする光の波長帯域以下の短い配置ピッチ、例えば可視光の波長と同程度の配置ピッチで周期的に2次元配置されている。ここで、配置ピッチとは、配置ピッチP1および配置ピッチP2を意味する。反射の低減を目的とする光の波長帯域は、例えば、紫外光の波長帯域、可視光の波長帯域または赤外光の波長帯域である。ここで、紫外光の波長帯域とは10nm〜360nmの波長帯域、可視光の波長帯域とは360nm〜830nmの波長帯域、赤外光の波長帯域とは830nm〜1mmの波長帯域をいう。具体的には、配置ピッチは、175nm以上350nm以下であることが好ましい。配置ピッチが175nm未満であると、構造体3の作製が困難となる傾向がある。一方、配置ピッチが350nmを超えると、可視光の回折が生じる傾向がある。
【0043】
光学素子1の各構造体3は、基体2の表面において複数列のトラックT1,T2,T3,・・・(以下総称して「トラックT」ともいう。)をなすような配置形態を有する。本発明において、トラックとは、構造体3が列をなして直線状に連なった部分のことをいう。また、列方向とは、基体2の成形面において、トラックの延在方向(X方向)に直交する方向)のことをいう。
【0044】
構造体3は、隣接する2つのトラックT間において、半ピッチずれた位置に配置されている。具体的には、隣接する2つのトラックT間において、一方のトラック(例えばT1)に配列された構造体3の中間位置(半ピッチずれた位置)に、他方のトラック(例えばT2)の構造体3が配置されている。その結果、図1Bに示すように、隣接する3列のトラック(T1〜T3)間においてa1〜a7の各点に構造体3の中心が位置する六方格子パターンまたは準六方格子パターンを形成するように構造体3が配置されている。この第1の実施形態において、六方格子パターンとは、正六角形状の格子パターンのことをいう。また、準六方格子パターンとは、正六角形状の格子パターンとは異なり、トラックの延在方向(X軸方向)に引き伸ばされ歪んだ六方格子パターンのことをいう。
【0045】
構造体3が準六方格子パターンを形成するように配置されている場合には、図1Bに示すように、同一トラック(例えばT1)内における構造体3の配置ピッチP1(a1〜a2間距離)は、隣接する2つのトラック(例えばT1およびT2)間における構造体3の配置ピッチ、すなわちトラックの延在方向に対して±θ方向における構造体3の配置ピッチP2(例えばa1〜a7、a2〜a7間距離)よりも長くなっていることが好ましい。このように構造体3を配置することで、構造体3の充填密度の更なる向上を図れるようになる。
【0046】
構造体3が、成形の容易さの観点から、錐体形状、または錐体形状をトラック方向に延伸または収縮させた錐体形状を有することが好ましい。構造体3が、軸対称な錐体形状、または錐体形状をトラック方向に延伸または収縮させた錐体形状を有することが好ましい。隣接する構造体3に接合されている場合には、構造体3が、隣接する構造体3に接合されている下部を除いて軸対称な錐体形状、または錐体形状をトラック方向に延伸または収縮させた錐体形状を有することが好ましい。錐体形状としては、例えば、円錐形状、円錐台形状、楕円錐形状、楕円錐台形状、多角錐形状(例えば三角錐形状、四角錐形状、五角錐形状など)、多角錐台形状などを挙げることができる。ここで、錐体形状とは、上述のように、円錐形状、円錐台形状および多角錐形状以外にも、楕円錐形状、楕円錐台形状および多角錐台形状を含む概念である。また、円錐台形状とは、円錐形状の頂部を切り落とした形状をいい、楕円錐台形状とは、楕円錐の頂部を切り落とした形状のことをいう。多角錐台形状とは、多角錐の頂部を切り落とした形状のことをいう。また、構造体3の形状は上記形状に限定されるものではなく、針状、円柱状、ドーム状、テント状などの形状を採用することも可能である。ここで、テント状とは、多角錐または多角錐台の錐面を凹状に窪ませた形状のことをいう。
【0047】
構造体3は、図2および図4に示すように、底面が長軸と短軸をもつ楕円形、長円形または卵型の錐体構造で、頂部が曲面である楕円錐形状であることが好ましい。もしくは、図5に示すように、底面が長軸と短軸をもつ楕円形、長円形または卵型の錐体構造で、頂部が平坦である楕円錐台形状であることが好ましい。このような形状にすると、列方向の充填率を向上させることができるからである。
【0048】
反射特性の向上の観点からすると、頂部の傾きが緩やかで中央部から底部に徐々に急峻な傾きの錐体形状(図4参照)が好ましい。また、反射特性および透過特性の向上の観点からすると、中央部の傾きが底部および頂部より急峻な錐形形状(図2参照)、または、頂部が平坦な錐体形状(図5参照)であることが好ましい。構造体3が楕円錐形状または楕円錐台形状を有する場合、その底面の長軸方向が、トラックの延在方向と平行となることが好ましい。図2などでは、各構造体3は、それぞれ同一の形状を有しているが、構造体3の形状はこれに限定されるものではなく、基体表面に2種以上の形状の構造体3が形成されていてもよい。また、構造体3は、基体2と一体的に形成されていてもよい。
【0049】
また、図2、図4〜図6に示すように、構造体3の周囲の一部または全部に突出部4を設けることが好ましい。このようにすると、構造体3の充填率が低い場合でも、反射率を低く抑えることができるからである。具体的には例えば、突出部4は、図2、図4、および図5に示すように、隣り合う構造体3の間に設けられる。また、細長い突出部4が、図6に示すように、構造体3の周囲の全体またはその一部に設けられるようにしてもよい。この細長い突出部4は、例えば、構造体3の頂部から下部の方向に向かって延びている。突出部4の形状としては、断面三角形状および断面四角形状などを挙げることができるが、特にこれらの形状に限定されるものではなく、成形の容易さなどを考慮して選択することができる。また、構造体3の周囲の一部または全部の表面を荒らし、微細の凹凸を形成するようにしてもよい。具体的には例えば、隣り合う構造体3の間の表面を荒らし、微細な凹凸を形成するようにしてもよい。また、構造体3の表面、例えば頂部に微小な穴を形成するようにしてもよい。
【0050】
構造体3は図示する凸部形状のものに限らず、基体2の表面に形成した凹部で構成されていてもよい。構造体3の高さは特に限定されず、例えば420nm程度、具体的には415nm〜421nmである。なお、構造体3を凹部形状とした場合には、構造体3の深さとなる。
【0051】
トラックの延在方向における構造体3の高さH1は、列方向における構造体3の高さH2よりも小さいことが好ましい。すなわち、構造体3の高さH1、H2がH1<H2の関係を満たすことが好ましい。H1≧H2の関係を満たすように構造体3を配列すると、トラックの延在方向の配置ピッチP1を長くする必要が生じるため、トラックの延在方向における構造体3の充填率が低下するためである。このように充填率が低下すると、反射特性の低下を招くことになる。
【0052】
なお、構造体3のアスペクト比は全て同一である場合に限らず、各構造体3が一定の高さ分布(例えばアスペクト比0.83〜1.46程度の範囲)をもつように構成されていてもよい。高さ分布を有する構造体3を設けることで、反射特性の波長依存性を低減することができる。したがって、優れた反射防止特性を有する光学素子1を実現することができる。
【0053】
ここで、高さ分布とは、2種以上の高さ(深さ)を有する構造体3が基体2の表面に設けられていることを意味する。すなわち、基準となる高さを有する構造体3と、この構造体3とは異なる高さを有する構造体3とが基体2の表面に設けられていることを意味する。基準とは異なる高さを有する構造体3は、例えば基体2の表面に周期的または非周期的(ランダム)に設けられている。その周期性の方向としては、例えばトラックの延在方向、列方向などが挙げられる。
【0054】
構造体3の周縁部に裾部3aを設けることが好ましい。光学素子の製造工程において光学素子を金型などから容易に剥離することが可能になるからである。ここで、裾部3aとは、構造体3の底部の周縁部に設けられた突出部を意味する。この裾部3aは、上記剥離特性の観点からすると、構造体3の頂部から下部の方向に向かって、なだらかに高さが低下する曲面を有することが好ましい。なお、裾部3aは、構造体3の周縁部の一部にのみ設けてもよいが、上記剥離特性の向上の観点からすると、構造体3の周縁部の全部に設けることが好ましい。また、構造体3が凹部である場合には、裾部は、構造体3である凹部の開口周縁に設けられた曲面となる。
【0055】
構造体3の高さ(深さ)は特に限定されず、透過させる光の波長領域に応じて適宜設定され、例えば236nm〜450nm程度の範囲に設定される。構造体3のアスペクト比(高さ/配置ピッチ)は、0.6以上1.5以下、好ましくは0.81以上1.46以下、より好ましくは0.94以上1.28以下の範囲である。0.6未満であると反射特性および透過特性が低下する傾向にあり、1.5を超えると光学素子の作製時において構造体3の剥離特性が低下し、レプリカの複製が綺麗に取れなくなる傾向があるからである。
また、構造体3のアスペクト比は、反射特性をより向上させる観点からすると、0.94〜1.46の範囲に設定することが好ましい。また、構造体3のアスペクト比は、透過特性をより向上させる観点からすると、0.81〜1.28の範囲に設定することが好ましい。
【0056】
また、構造体3のアスペクト比(高さ/配置ピッチ)は、好ましくは0.6以上5以下、より好ましくは0.6以上4以下の範囲内である。0.6未満であると反射特性および透過特性が低下する傾向にある。一方、5を超えると、原盤にフッ素コートなどを行い、転写樹脂としてシリコーン系添加材、またはフッ素系添加材などを添加するなどして、離型性を向上する処理を施した場合にも、転写性が低下する傾向がある。また、アスペクト比が4を超えた場合には、視感反射率に大きな変化がないため、視感反射率の向上と離型性の容易さとの両方の観点を考慮すると、アスペクト比を4以下とすることが好ましい。
【0057】
構造体3を形成する材料の弾性率が、1MPa以上1200MPa以下である。1MPa未満であると、転写工程において隣接する構造体同士が付着し、構造体3の形状が所望の形状とは異なる形状となり、所望の反射特性が得られなくなる。1200MPaを超えると、拭き取り時に、隣接する構造体同士が接触しにくくなり、構造体間に染み込んだ汚れなどが押し出されなくなる。
【0058】
なお、本発明においてアスペクト比は、以下の式(1)により定義される。
アスペクト比=H/P・・・(1)
但し、H:構造体の高さ、P:平均配置ピッチ(平均周期)
ここで、平均配置ピッチPは以下の式(2)により定義される。
平均配置ピッチP=(P1+P2+P2)/3 ・・・(2)
但し、P1:トラックの延在方向の配置ピッチ(トラック延在方向周期)、P2:トラックの延在方向に対して±θ方向(但し、θ=60°−δ、ここで、δは、好ましくは0°<δ≦11°、より好ましくは3°≦δ≦6°)の配置ピッチ(θ方向周期)
【0059】
また、構造体3の高さHは、構造体3の列方向の高さとする。構造体3のトラック延在方向(X方向)の高さは、列方向(Y方向)の高さよりも小さく、また、構造体3のトラック延在方向以外の部分における高さは列方向の高さとほぼ同一であるため、サブ波長構造体の高さを列方向の高さで代表する。但し、構造体3が凹部である場合、上記式(1)における構造体の高さHは、構造体の深さHとする。
【0060】
同一トラック内における構造体3の配置ピッチをP1、隣接する2つのトラック間における構造体3の配置ピッチをP2としたとき、比率P1/P2が、1.00≦P1/P2≦1.1、または1.00<P1/P2≦1.1の関係を満たすことが好ましい。このような数値範囲にすることで、楕円錐または楕円錐台形状を有する構造体3の充填率を向上することができるので、反射防止特性を向上することができる。
【0061】
基体表面における構造体3の充填率は、100%を上限として、65%以上、好ましくは73%以上、より好ましくは86%以上の範囲内である。充填率をこのような範囲にすることで、反射防止特性を向上することができる。充填率を向上させるためには、隣接する構造体3の下部同士を接合する、または、構造体底面の楕円率を調整などして構造体3に歪みを付与することが好ましい。
【0062】
ここで、構造体3の充填率(平均充填率)は以下のようにして求めた値である。
まず、光学素子1の表面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いてTop Viewで撮影する。次に、撮影したSEM写真から無作為に単位格子Ucを選び出し、その単位格子Ucの配置ピッチP1、およびトラックピッチTpを測定する(図1B参照)。また、その単位格子Ucの中央に位置する構造体3の底面の面積Sを画像処理により測定する。次に、測定した配置ピッチP1、トラックピッチTp、および底面の面積Sを用いて、以下の式(3)より充填率を求める。
充填率=(S(hex.)/S(unit))×100 ・・・(3)
単位格子面積:S(unit)=P1×2Tp
単位格子内に存在する構造体の底面の面積:S(hex.)=2S
【0063】
上述した充填率算出の処理を、撮影したSEM写真から無作為に選び出された10箇所の単位格子について行う。そして、測定値を単純に平均(算術平均)して充填率の平均率を求め、これを基体表面における構造体3の充填率とする。
【0064】
構造体3が重なっているときや、構造体3の間に突出部4などの副構造体があるときの充填率は、構造体3の高さに対して5%の高さに対応する部分を閾値として面積比を判定する方法で充填率を求めることができる。
【0065】
図7は、構造体3の境界が不明瞭な場合の充填率の算出方法について説明するための図である。構造体3の境界が不明瞭な場合には、断面SEM観察により、図7に示すように、構造体3の高さhの5%(=(d/h)×100)に相当する部分を閾値とし、その高さdで構造体3の径を換算し充填率を求めるようにする。構造体3の底面が楕円である場合には、長軸および短軸で同様の処理を行う。
【0066】
図8は、構造体3の底面の楕円率を変化させたときの底面形状を示す図である。図8A〜図8Dに示す楕円の楕円率はそれぞれ、100%、110%、120%、141%である。このように楕円率を変化させることで、基体表面における構造体3の充填率を変化させることができる。構造体3が準六方格子パターンを形成する場合には、構造体底面の楕円率eは、100%<e<150%であることが好ましい。この範囲にすることで、構造体3の充填率を向上し、優れた反射防止特性を得ることができるからである。
【0067】
ここで、楕円率eは、構造体底面のトラック方向(X方向)の径をa、それとは直交する列方向(Y方向)の径をbとしたときに、(a/b)×100で定義される。なお、構造体3の径a、bは以下のようにして求めた値である。光学素子1の表面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いてTop Viewで撮影し、撮影したSEM写真から無作為に構造体3を10個抽出する。次に、抽出した構造体3それぞれの底面の径a、bを測定する。そして、測定値a、bそれぞれを単純に平均(算術平均)して径a、bの平均値を求め、これを構造体3の径a、bとする。
【0068】
図9Aは、円錐形状または円錐台形状を有する構造体3の配置の一例を示す。図9Bは、楕円錐形状または楕円錐台形状を有する構造体3の配置の一例を示す。図9Aおよび図9Bに示すように、構造体3が、その下部同士を重ね合うようにして接合されていていることが好ましい。具体的には、構造体3の下部が、隣接関係にある構造体3の一部または全部の下部と接合されていることが好ましい。より具体的には、トラック方向において、θ方向において、またはそれら両方向において、構造体3の下部同士を接合することが好ましい。図9A、図9Bでは、隣接関係にある構造体3の全部の下部を接合する例が示されている。このように構造体3を接合することで、構造体3の充填率を向上することができる。構造体同士は、屈折率を考慮した光路長で使用環境下の光の波長帯域の最大値の1/4以下の部分で接合されていることが好ましい。これにより、優れた反射防止特性を得ることができる。
【0069】
図9Bに示すように、楕円錐形状または楕円錐台形状を有する構造体3の下部同士を接合した場合には、例えば、接合部a、b、cの順序で接合部の高さが浅くなる。
【0070】
配置ピッチP1に対する径2rの比率((2r/P1)×100)が、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。このような範囲にすることで、構造体3の充填率を向上し、反射防止特性を向上できるからである。比率((2r/P1)×100)が大きくなり、構造体3の重なりが大きくなりすぎると反射防止特性が低減する傾向にある。したがって、屈折率を考慮した光路長で使用環境下の光の波長帯域の最大値の1/4以下の部分で構造体同士が接合されるように、比率((2r/P1)×100)の上限値を設定することが好ましい。ここで、配置ピッチP1は、構造体3のトラック方向の配置ピッチ、径2rは、構造体底面のトラック方向の径である。なお、構造体底面が円形である場合、径2rは直径となり、構造体底面が楕円形である場合、径2rは長径となる。
【0071】
[ロールマスタの構成]
図10は、上述の構成を有する光学素子を作製するためのロールマスタの構成の一例を示す。図10に示すように、ロールマスタ11は、例えば、原盤12の表面に凹部である構造体13が可視光などの光の波長と同程度のピッチで多数配置された構成を有している。原盤12は、円柱状または円筒状の形状を有する。原盤12の材料は、例えばガラスを用いることができるが、この材料に特に限定されるものではない。後述するロール原盤露光装置を用い、2次元パターンが空間的にリンクし、1トラック毎に極性反転フォマッター信号と記録装置の回転コントロラーを同期させ信号を発生し、CAVで適切な送りピッチでパターニングする。これにより、六方格子パターンまたは準六方格子パターンを記録することができる。極性反転フォマッター信号の周波数とロールの回転数を適切に設定することにより、所望の記録領域に空間周波数が一様な格子パターンを形成する。
【0072】
[光学素子の製造方法]
次に、図11〜図13を参照しながら、以上のように構成される光学素子1の製造方法について説明する。
【0073】
第1の実施形態に係る光学素子の製造方法は、原盤にレジスト層を形成するレジスト成膜工程、ロール原盤露光装置を用いてレジスト膜にモスアイパターンの潜像を形成する露光工程、潜像が形成されたレジスト層を現像する現像工程を備える。さらに、プラズマエッチングを用いてロールマスタを製作するエッチング工程、紫外線硬化樹脂により複製基板を製作する複製工程とを備える。
【0074】
(露光装置の構成)
まず、図11を参照して、モスアイパターンの露光工程に用いるロール原盤露光装置の構成について説明する。このロール原盤露光装置は、光学ディスク記録装置をベースとして構成されている。
【0075】
レーザー光源21は、記録媒体としての原盤12の表面に着膜されたレジストを露光するための光源であり、例えば波長λ=266nmの記録用のレーザー光15を発振するものである。レーザー光源21から出射されたレーザー光15は、平行ビームのまま直進し、電気光学素子(EOM:Electro Optical Modulator)22へ入射する。電気光学素子22を透過したレーザー光15は、ミラー23で反射され、変調光学系25に導かれる。
【0076】
ミラー23は、偏光ビームスプリッタで構成されており、一方の偏光成分を反射し他方の偏光成分を透過する機能をもつ。ミラー23を透過した偏光成分はフォトダイオード24で受光され、その受光信号に基づいて電気光学素子22を制御してレーザー光15の位相変調を行う。
【0077】
変調光学系25において、レーザー光15は、集光レンズ26により、ガラス(SiO2)などからなる音響光学素子(AOM:Acoust-Optic Modulator)27に集光される。レーザー光15は、音響光学素子27により強度変調され発散した後、レンズ28によって平行ビーム化される。変調光学系25から出射されたレーザー光15は、ミラー31によって反射され、移動光学テーブル32上に水平かつ平行に導かれる。
【0078】
移動光学テーブル32は、ビームエキスパンダ33、および対物レンズ34を備えている。移動光学テーブル32に導かれたレーザー光15は、ビームエキスパンダ33により所望のビーム形状に整形された後、対物レンズ34を介して、原盤12上のレジスト層へ照射される。原盤12は、スピンドルモータ35に接続されたターンテーブル36の上に載置されている。そして、原盤12を回転させるとともに、レーザー光15を原盤12の高さ方向に移動させながら、レジスト層へレーザー光15を間欠的に照射することにより、レジスト層の露光工程が行われる。形成された潜像は、円周方向に長軸を有する略楕円形になる。レーザー光15の移動は、移動光学テーブル32の矢印R方向への移動によって行われる。
【0079】
露光装置は、図1Bに示した六方格子または準六方格子の2次元パターンに対応する潜像をレジスト層に形成するための制御機構37を備えている。制御機構37は、フォマッター29とドライバ30とを備える。フォマッター29は、極性反転部を備え、この極性反転部が、レジスト層に対するレーザー光15の照射タイミングを制御する。ドライバ30は、極性反転部の出力を受けて、音響光学素子27を制御する。
【0080】
このロール原盤露光装置では、2次元パターンが空間的にリンクするように1トラック毎に極性反転フォマッター信号と記録装置の回転コントロラーを同期させ信号を発生し、音響光学素子27により強度変調している。角速度一定(CAV)で適切な回転数と適切な変調周波数と適切な送りピッチでパターニングすることにより、六方格子または準六方格子パターンを記録することができる。例えば、図10Bに示すように、円周方向の周期を315nm、円周方向に対して約60度方向(約−60度方向)の周期を300nmにするには、送りピッチを251nmにすればよい(ピタゴラスの法則)。極性反転フォマッター信号の周波数はロールの回転数(例えば1800rpm、900rpm、450rpm、225rpm)により変化させる。例えば、ロールの回転数1800rpm、900rpm、450rpm、225rpmそれぞれに対向する極性反転フォマッター信号の周波数は、37.70MHz、18.85MHz、9.34MHz、4、71MHzとなる。所望の記録領域に空間周波数(円周315nm周期、円周方向約60度方向(約−60度方向)300nm周期)が一様な準六方格子パターンは、遠紫外線レーザー光を移動光学テーブル32上のビームエキスパンダ(BEX)33により5倍のビーム径に拡大し、開口数(NA)0.9の対物レンズ34を介して原盤12上のレジスト層に照射し、微細な潜像を形成することにより得られる。
【0081】
(レジスト成膜工程)
まず、図12Aに示すように、円柱状の原盤12を準備する。この原盤12は、例えばガラス原盤である。次に、図12Bに示すように、原盤12の表面にレジスト層14を形成する。レジスト層14の材料としては、例えば有機系レジスト、および無機系レジストのいずれを用いてもよい。有機系レジストとしては、例えばノボラック系レジストや化学増幅型レジストを用いることができる。
【0082】
(露光工程)
次に、図12Cに示すように、上述したロール原盤露光装置を用いて、原盤12を回転させると共に、レーザー光(露光ビーム)15をレジスト層14に照射する。このとき、レーザー光15を原盤12の高さ方向(円柱状または円筒状の原盤12の中心軸に平行な方向)に移動させながら、レーザー光15を間欠的に照射することで、レジスト層14を全面にわたって露光する。これにより、レーザー光15の軌跡に応じた潜像16が、可視光波長と同程度のピッチでレジスト層14の全面にわたって形成される。
【0083】
潜像16は、例えば、原盤表面において複数列のトラックをなすように配置されるとともに、六方格子パターンまたは準六方格子パターンを形成する。潜像16は、例えば、トラックの延在方向に長軸方向を有する楕円形状である。
【0084】
(現像工程)
次に、原盤12を回転させながら、レジスト層14上に現像液を滴下して、図13Aに示すように、レジスト層14を現像処理する。図示するように、レジスト層14をポジ型のレジストにより形成した場合には、レーザー光15で露光した露光部は、非露光部と比較して現像液に対する溶解速度が増すので、潜像(露光部)16に応じたパターンがレジスト層14に形成される。
【0085】
(エッチング工程)
次に、原盤12の上に形成されたレジスト層14のパターン(レジストパターン)をマスクとして、原盤12の表面をエッチング処理する。これにより、図13Bに示すように、トラックの延在方向に長軸方向をもつ楕円錐形状または楕円錐台形状の凹部、すなわち構造体13を得ることができる。エッチング方法は、例えばドライエッチングによって行われる。このとき、エッチング処理とアッシング処理を交互に行うことにより、例えば、錐体状の構造体13のパターンを形成することができる。また、レジスト層14の3倍以上の深さ(選択比3以上)のガラスマスターを作製でき、構造体3の高アスペクト比化を図ることができる。
【0086】
以上により、例えば、深さ120nm程度から350nm程度の凹形状の六方格子パターンまたは準六方格子パターンを有するロールマスタ11が得られる。
【0087】
(複製工程)
次に、例えば、ロールマスタ11と転写材料を塗布したシートなどの基体2を密着させ、紫外線を照射し硬化させながら剥離する。これにより、図13Cに示すように、凸部である複数の構造体が基体2の第1の主面に形成され、モスアイ紫外線硬化複製シートなどの光学素子1が作製される。
【0088】
転写材料は、例えば、紫外線硬化材料と、開始剤とからなり、必要に応じてフィラーや機能性添加剤などを含んでいる。
【0089】
紫外線硬化材料は、例えば、単官能モノマー、二官能モノマー、多官能モノマーなどからなり、具体的には、以下に示す材料を単独または、複数混合したものである。
単官能モノマーとしては、例えば、カルボン酸類(アクリル酸)、ヒドロキシ類(2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート)、アルキル、脂環類(イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート)、その他機能性モノマー(2−メトキシエチルアクリレート、メトキシエチレングリコールアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、2−(パーフルオロオクチル)エチル アクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−パーフルオロオクチルー2−ヒドロキシプロピル アクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチル アクリレート、2−(パーフルオロー3−メチルブチル)エチル アクリレート)、2,4,6−トリブロモフェノールアクリレート、2,4,6−トリブロモフェノールメタクリレート、2−(2,4,6−トリブロモフェノキシ)エチルアクリレート)、2−エチルヘキシルアクリレートなどを挙げることができる。
【0090】
二官能モノマーとしては、例えば、トリ(プロピレングリコール)ジアクリレート、トリメチロールプロパン ジアリルエーテル、ウレタンアクリレートなどを挙げることができる。
【0091】
多官能モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートなどを挙げることができる。
【0092】
開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンなどを挙げることができる。
【0093】
フィラーとしては、例えば、無機微粒子および有機微粒子のいずれも用いることができる。無機微粒子としては、例えば、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Al23などの金属酸化物微粒子を挙げることができる。
【0094】
機能性添加剤としては、例えば、レベリング剤、表面調整剤、消泡剤などを挙げることができる。基体2の材料としては、例えば、メチルメタクリレート(共)重合体、ポリカーボネート、スチレン(共)重合体、メチルメタクリレート−スチレン共重合体、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、ガラスなどが挙げられる。
【0095】
基体2の成形方法は特に限定されず、射出成形体でも押し出し成形体でも、キャスト成形体でもよい。必要応じて、コロナ処理などの表面処理を基体表面に施すようにしてもよい。
【0096】
なお、高アスペクトの構造体3(例えば、アスペクトが1.5を超え5以下の構造体3を作製する場合には、ロールマスタ11などの原盤の離型性向上のため、ロールマスタ11などの原盤の表面にシリコーン系離型剤、またはフッ素系離型剤などの離型剤を塗布することが好ましい。さらに、転写材料にフッ素系添加材、またはシリコーン系添加材などの添加剤を添加することが好ましい。
【0097】
ここで、上述のようにして製造された光学素子1の表面に汚れが付着した場合の除去について説明する。図14A〜図14Cは、光学素子1の表面に汚れが付着した場合の除去について説明する略線図である。図14Aに示すように、光学素子1の表面に触れると、構造体3の間に指紋による汚れが付着してしまう。このような状態で光学素子1の表面を乾拭きすると、構造体3が弾力性を有しているため、図14Bに示すように構造体3が弾性変形し、隣接する弾性体3同士が接触する。これにより、構造体3の間に付着した汚れが外部に押し出され、指紋による汚れを除去することができる。そして、図14Cに示すように、乾拭き後は、弾性力によって構造体3の形状が元の状態に復元される。
【0098】
<2.第2の実施形態>
[光学素子の構成]
図15Aは、本発明の第2の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図である。図15Bは、図15Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図である。図15Cは、図15BのトラックT1、T3、・・・における断面図である。図15Dは、図15BのトラックT2、T4、・・・における断面図である。図15Eは、図15BのトラックT1、T3、・・・に対応する潜像形成に用いられるレーザー光の変調波形を示す略線図である。図15Fは、図15BのトラックT2、T4、・・・に対応する潜像形成に用いられるレーザー光の変調波形を示す略線図である。
【0099】
第2の実施形態に係る光学素子1は、各構造体3が、隣接する3列のトラック間において四方格子パターンまたは準四方格子パターンをなしている点において、第1の実施形態のものとは異なっている。本発明において、準四方格子パターンとは、正四方格子パターンと異なり、トラックの延在方向(X方向)に引き伸ばされ歪んだ四方格子パターンを意味する。
【0100】
構造体3の高さまたは深さは特に限定されず、例えば、159nm〜312nm程度である。トラックに対して(約)45度方向ピッチP2は、例えば、275nm〜297nm程度である。構造体3のアスペクト比(高さ/配置ピッチ)は、例えば、0.54〜1.13程度である。更に、各構造体3のアスペクト比は全て同一である場合に限らず、各構造体3が一定の高さ分布をもつように構成されていてもよい。
【0101】
同一トラック内における構造体3の配置ピッチP1は、隣接する2つのトラック間における構造体3の配置ピッチP2よりも長いことが好ましい。また、同一トラック内における構造体3の配置ピッチをP1、隣接する2つのトラック間における構造体3の配置ピッチをP2としたとき、P1/P2が1.4<P1/P2≦1.5の関係を満たすことが好ましい。このような数値範囲にすることで、楕円錐または楕円錐台形状を有する構造体3の充填率を向上することができるので、反射防止特性を向上することができる。また、トラックに対して45度方向または約45度方向における構造体3の高さまたは深さは、トラックの延在方向における構造体3の高さまたは深さよりも小さいことが好ましい。
【0102】
トラックの延在方向に対して斜となる構造体3の配列方向(θ方向)の高さH2は、トラックの延在方向における構造体3の高さH1よりも小さいことが好ましい。すなわち、構造体3の高さH1、H2がH1>H2の関係を満たすことが好ましい。
【0103】
図16は、構造体3の底面の楕円率を変化させたときの底面形状を示す図である。楕円31、32、33の楕円率はそれぞれ、100%、163.3%、141%である。このように楕円率を変化させることで、基体表面における構造体3の充填率を変化させることができる。構造体3が四方格子または準四方格子パターンを形成する場合には、構造体底面の楕円率eは、150%≦e≦180%であることが好ましい。この範囲にすることで、構造体3の充填率を向上し、優れた反射防止特性を得ることができるからである。
【0104】
基体表面における構造体3の充填率は、100%を上限として、65%以上、好ましくは73%以上、より好ましくは86%以上の範囲内である。充填率をこのような範囲にすることで、反射防止特性を向上することができる。
【0105】
ここで、構造体3の充填率(平均充填率)は以下のようにして求めた値である。
まず、光学素子1の表面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いてTop Viewで撮影する。次に、撮影したSEM写真から無作為に単位格子Ucを選び出し、その単位格子Ucの配置ピッチP1、およびトラックピッチTpを測定する(図15B参照)。また、その単位格子Ucに含まれる4つの構造体3のいずれかの底面の面積Sを画像処理により測定する。次に、測定した配置ピッチP1、トラックピッチTp、および底面の面積Sを用いて、以下の式(4)より充填率を求める。
充填率=(S(tetra)/S(unit))×100 ・・・(2)
単位格子面積:S(unit)=2×((P1×Tp)×(1/2))=P1×Tp
単位格子内に存在する構造体の底面の面積:S(tetra)=S
【0106】
上述した充填率算出の処理を、撮影したSEM写真から無作為に選び出された10箇所の単位格子について行う。そして、測定値を単純に平均(算術平均)して充填率の平均率を求め、これを基体表面における構造体3の充填率とする。
【0107】
配置ピッチP1に対する径2rの比率((2r/P1)×100)が、64%以上、好ましくは69%以上、より好ましくは73%以上である。このような範囲にすることで、構造体3の充填率を向上し、反射防止特性を向上できるからである。ここで、配置ピッチP1は、構造体3のトラック方向の配置ピッチ、径2rは、構造体底面のトラック方向の径である。なお、構造体底面が円形である場合、径2rは直径となり、構造体底面が楕円形である場合、径2rは長径となる。
【0108】
図17は、上述の構成を有する光学素子を作製するためのロールマスタの構成の一例を示す。このロールマスタは、その表面において凹状の構造体13が四方格子パターンまたは準四方格子パターンをなしている点において、第1の実施形態のものとは異なっている。
【0109】
[ロールマスタの構成]
ロール原盤露光装置を用い、2次元パターンが空間的にリンクし、1トラック毎に極性反転フォマッター信号と記録装置の回転コントロラーを同期させ信号を発生し、CAVで適切な送りピッチでパターニングする。これにより、四方格子パターン、または準四方格子パターンを記録することができる。極性反転フォマッター信号の周波数とロールの回転数を適切に設定することにより、所望の記録領域に空間周波数が一様な格子パターンをレーザー光の照射により原盤12上のレジストに形成することが好ましい。
【0110】
<3.第3の実施形態>
[光学素子の構成]
図18Aは、本発明の第3の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図である。図18Bは、図18Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図である。図18Cは、図18BのトラックT1、T3、・・・における断面図である。図18Dは、図18BのトラックT2、T4、・・・における断面図である。
【0111】
第3の実施形態に係る光学素子1は、トラックTが円弧状の形状を有し、構造体3が円弧状に配置されている点において、第1の実施形態のものとは異なっている。図18Bに示すように、隣接する3列のトラック(T1〜T3)間においてa1〜a7の各点に構造体3の中心が位置する準六方格子パターンを形成するように構造体3が配置されている。ここで、準六方格子パターンとは、正六方格子パターンとは異なり、トラックTの円弧状に沿って歪んだ六方格子パターンを意味する。あるいは、正六方格子パターンとは異なり、トラックTの円弧状に沿って歪み、かつ、トラックの延在方向(X軸方向)に引き伸ばされ歪んだ六方格子パターンを意味する。
上述した以外の光学素子1の構成は、第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0112】
[ディスクマスタの構成]
図19A、図19Bは、上述の構成を有する光学素子を作製するためのディスクマスタの構成の一例を示す。図19A、図19Bに示すように、ディスクマスタ41は、円盤状の原盤42の表面に凹部である構造体43が多数配列された構成を有している。この構造体43は、光学素子1の使用環境下の光の波長帯域以下、例えば可視光の波長と同程度のピッチで周期的に2次元配列されている。構造体43は、例えば、同心円状またはスパイラル状のトラック上に配置されている。
上述した以外のディスクマスタ41の構成は、第1の実施形態のロールマスタ11と同様であるので説明を省略する。
【0113】
[光学素子の製造方法]
まず、図20を参照して、上述した構成を有するディスクマスタ41を作製するための露光装置について説明する。
【0114】
移動光学テーブル32は、ビームエキスパンダ33、ミラー38および対物レンズ34を備えている。移動光学テーブル32に導かれたレーザー光15は、ビームエキスパンダ33により所望のビーム形状に整形された後、ミラー38および対物レンズ34を介して、円盤状の原盤42上のレジスト層へ照射される。原盤42は、スピンドルモータ35に接続されたターンテーブル(図示を省略する。)の上に載置されている。そして、原盤42を回転させるとともに、レーザー光15を原盤42の回転半径方向に移動させながら、原盤42上のレジスト層へレーザー光を間欠的に照射することにより、レジスト層の露光工程が行われる。形成された潜像は、円周方向に長軸を有する略楕円形になる。レーザー光15の移動は、移動光学テーブル32の矢印R方向への移動によって行われる。
【0115】
図20に示した露光装置においては、レジスト層に対して図18Bに示した六方格子または準六方格子の2次元パターンからなる潜像を形成するための制御機構37を備えている。制御機構37は、フォマッター29とドライバ30とを備える。フォマッター29は、極性反転部を備え、この極性反転部が、レジスト層に対するレーザー光15の照射タイミングを制御する。ドライバ30は、極性反転部の出力を受けて、音響光学素子27を制御する。
【0116】
制御機構37は、潜像の2次元パターンが空間的にリンクするように、1トラック毎に、AOM27によるレーザー光15の強度変調と、スピンドルモータ35の駆動回転速度と、移動光学テーブル32の移動速度とをそれぞれ同期させる。原盤42は、角速度一定(CAV)で回転制御される。そして、スピンドルモータ35による原盤42の適切な回転数と、AOM27によるレーザー強度の適切な周波数変調と、移動光学テーブル32によるレーザー光15の適切な送りピッチとでパターニングを行う。これにより、レジスト層に対して六方格子パターン、または準六方格子パターンの潜像が形成される。
【0117】
更に、極性反転部の制御信号を、空間周波数(潜像のパターン密度であり、P1:330、P2:300nm、または、P1:315nm、P2:275nm、または、P1:300nm、P2:265nm)が一様になるように徐々に変化させる。より具体的には、レジスト層に対するレーザー光15の照射周期を1トラック毎に変化させながら露光を行い、各トラックTにおいてP1がほぼ330nm(あるいは315nm、300nm)となるように制御機構37においてレーザー光15の周波数変調を行う。即ち、トラック位置が円盤状の原盤42の中心から遠ざかるに従い、レーザー光の照射周期が短くなるように変調制御する。これにより、基板全面において空間周波数が一様なナノパターンを形成することが可能となる。
【0118】
以下、本発明の第3の実施形態に係る光学素子の製造方法の一例について説明する。
まず、上述した構成を有する露光装置を用いて、円盤状の原盤上に形成されたレジスト層を露光する以外は、第1の実施形態と同様にしてディスクマスタ41を作製する。次に、このディスクマスタ41と、紫外線硬化樹脂を塗布したアクリルシートなどの基体2とを密着させ、紫外線を照射し紫外線硬化樹脂を硬化させた後、ディスクマスタ41から基体2を剥離する。これにより、複数の構造体3が表面に配列された円盤状の光学素子1が得られる。次に、この円盤状の光学素子1から、矩形状などの所定形状の光学素子1を切り出す。これにより、目的とする光学素子1が作製される。
【0119】
この第3の実施形態によれば、直線状に構造体3を配列した場合と同様に、生産性が高く、優れた反射防止特性を有する光学素子1を得ることができる。
【0120】
<4.第4の実施形態>
図21Aは、本発明の第4の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図である。図21Bは、図21Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図である。
【0121】
第4の実施形態に係る光学素子1は、構造体3を蛇行するトラック(以下ウォブルトラックと称する。)上に配列している点において、第1の実施形態とは異なっている。基体2上における各トラックのウォブルは、同期していることが好ましい。すなわち、ウォブルは、シンクロナイズドウォブルであることが好ましい。このようにウォブルを同期させることで、六方格子または準六方格子の単位格子形状を保持し、充填率を高く保つことができる。ウォブルトラックの波形としては、例えば、サイン波、三角波などを挙げることができる。ウォブルトラックの波形は、周期的な波形に限定されるものではなく、非周期的な波形としてもよい。ウォブルトラックのウォブル振幅は、例えば±10μm程度に選択される。
この第4の実施形態において、上記以外のことは、第1の実施形態と同様である。
【0122】
第4の実施形態によれば、構造体3をウォブルトラック上に配列していので、外観上のムラの発生を抑制できる。
【0123】
<5.第5の実施形態>
図22Aは、本発明の第5の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す概略平面図である。図22Bは、図22Aに示した光学素子の一部を拡大して表す平面図である。図22Cは、図22BのトラックT1、T3、・・・における断面図である。図22Dは、図22BのトラックT2、T4、・・・における断面図である。図23は、図22Aに示した光学素子の一部を拡大して表す斜視図である。
【0124】
第5の実施形態に係る光学素子1は、凹部である構造体3が基体表面に多数配列されている点において、第1の実施形態のものとは異なっている。この構造体3の形状は、第1の実施形態における構造体3の凸形状を反転して凹形状としたものである。なお、上述のように構造体3を凹部とした場合、凹部である構造体3の開口部(凹部の入り口部分)を下部、基体2の深さ方向の最下部(凹部の最も深い部分)を頂部と定義する。すなわち、非実体的な空間である構造体3により頂部、および下部を定義する。また、第5の実施形態では、構造体3が凹部であるため、式(1)などにおける構造体3の高さHは、構造体3の深さHとなる。
【0125】
この第5の実施形態において、上記以外のことは、第1の実施形態と同様である。
この第5の実施形態では、第1の実施形態における凸形状の構造体3の形状を反転して凹形状としているので、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0126】
<6.第6の実施形態>
【0127】
構造体3を形成する材料の弾性率が下がるにつれて、拭き取り時のすべり性が悪くなり、拭き取り性が低下する傾向がある。そこで、第6の実施形態では、フッ素系化合物、およびシリコーン系化合物のうちから選ばれる少なくとも1種類の化合物を、構造体表面に含ませることにより、すべり性を向上させて、拭き取り性を向上させる。
これらの物質を構造体表面に含ませることは、指紋が拭き取れるかどうかには影響しないものの、指紋付着後の指紋濡れ広がりを抑制できる。そのため、弾性率とアスペクト比を一定の範囲に保ち、なおかつオレイン酸の接触角を高くすることで、防汚性に優れた反射防止構造体3とすることができる。
【0128】
フッ素系化合物、またはシリコーン系化合物を構造体表面に含ませる方法としては、例えば、構造体を形成する樹脂材料に対してフッ素系化合物を添加して硬化する方法、構造体形成後に、フッ素系化合物を含む表面処理層を構造体表面に形成する方法などが挙げられる。
【0129】
図24は、本発明の第6の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す断面図である。図24に示すように、第6の実施形態に係る光学素子1は、構造体3が形成された凹凸面上に表面処理層5をさらに備える点において、第1の実施形態とは異なっている。
【0130】
表面処理層5が形成された表面におけるオレイン酸接触角が、好ましくは30度以上、より好ましくは90度以上である。90度以上であると、光学素子表面に付着した指紋などの汚れが濡れ広がることを抑えることができる。表面処理層5は、例えば、フッ素含有化合物またはシリコーン系化合物を含有する。
【0131】
[シリコーン系化合物]
シリコーン系化合物としては、シリコーンオイル、シリコーン界面活性剤などが挙げられる。シリコーンオイルは、ケイ素原子に結合した有機基の種類によって、ストレートシリコーンオイルと変性シリコーンオイルに大別できる。
【0132】
ストレートシリコーンオイルは、ケイ素原子に、メチル基、フェニル基、水素原子を置換基として結合したものである。このストレートシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフィニルシリコーンオイルなどが挙げられる。
【0133】
変性シリコーンオイルは、例えばジメチルシリコーンオイルなどのストレートシリコーンオイルに、有機置換基を導入したものである。変性シリコーンオイルは、非反応性シリコーンオイルと反応性シリコーンオイルとに分類される。
【0134】
非反応性シリコーンオイルとしては、アルキル/アラルキル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、アルコール変性シリコーンオイルが挙げられる。
【0135】
反応性シリコーンオイルとしては、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、アルコール変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0136】
シリコーンオイルとしては、具体的に、日本ユニカー(株)社のL−45、L−9300、FZ−3704、FZ−3703、FZ−3720、FZ−3786、FZ−3501、FZ−3504、FZ−3508、FZ−3705、FZ−3707、FZ−3710、FZ−3750、FZ−3760、FZ−3785、Y−7499、信越化学社のKF96L、KF96、KF96H、KF99、KF54、KF965、KF968、KF56、KF995、KF351、KF352、KF353、KF354、KF355、KF615、KF618、KF945、KF6004、FL100などが挙げられる。
【0137】
シリコーン界面活性剤は、例えば、シリコーンオイルのメチル基の一部を親水性基に置換したものである。親水基の置換の位置は、シリコーンオイルの側鎖、両末端、片末端、両末端側鎖などが挙げられる。親水性基としては、ポリエーテル、ポリグリセリン、ピロリドン、ベタイン、硫酸塩、リン酸塩、4級塩などが挙げられる。
【0138】
これらの中で、疎水基がジメチルポリシロキサン、親水基がポリオキシアルキレンから構成される非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0139】
非イオン界面活性剤は、水溶液中でイオンに解離する基を有しない界面活性剤を総称していうが、疎水基のほか親水性基として多価アルコール類の水酸基、また、ポリオキシアルキレン鎖(ポリオキシエチレン)等を親水基として有するものである。親水性はアルコール性水酸基の数が多くなるに従って、またポリオキシアルキレン鎖(ポリオキシエチレン鎖)が長くなるに従って強くなる。
【0140】
これらの非イオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、日本ユニカー(株)製、シリコーン界面活性剤 SILWET L−77、L−720、L−7001、L−7002、L−7604、Y−7006、FZ−2101、FZ−2104、FZ−2105、FZ−2110、FZ−2118、FZ−2120、FZ−2122、FZ−2123、FZ−2130、FZ−2154、FZ−2161、FZ−2162、FZ−2163、FZ−2164、FZ−2166、FZ−2191等が挙げられる。また、SUPERSILWET SS−2801、SS−2802、SS−2803、SS−2804、SS−2805等が挙げられる。また、例えば、日本ユニカー(株)製、シリコーン界面活性剤 ABN SILWET FZ−2203、FZ−2207、FZ−2208等が挙げられる。
【0141】
[フッ素含有化合物]
フッ素含有化合物としては、フッ素系樹脂が挙げられる。フッ素系樹脂としては、例えば、パ−フルオロポリエーテル基またはフルオロアルキル基を持つアルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0142】
パーフルオロポリエーテル基又はフルオロアルキル基をもつアルコキシシラン化合物は、低い表面エネルギーを持つため、優れた防汚・撥水性効果を発揮し、パーフルオロポリエーテル基を含むことにより潤滑効果を発揮する。
【0143】
パーフルオロポリエーテル基をもつアルコキシシラン化合物としては、例えば、下記一般式(1)若しくは(2)で示されるパーフロルオロポリエーテル基を有するアルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0144】
【化1】

但し、式中、Rfはパーフルオロポリエーテル基を、R1は2価の原子又は基(例えば、O、NH、Sのいずれか)を、R2は炭化水素基(例えば、アルキレン基)を、R3はアルキル基を示す。
【0145】
【化2】

但し、式中、Rfはパーフルオロポリエーテル基を、R1はO、NH、Sのいずれかを、R2はアルキレン基を、R3はアルキル基を示す。
【0146】
フルオロアルキル基を有するアルコキシシラン化合物としては、下記一般式(3)若しくは(4)で示されるフルオロアルキル基を有するアルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0147】
【化3】

但し、式中、Rf`はフルオロアルキル基を、R1は二価の原子又は原子団を、R2はアルキレン基を、R3はアルキル基を示す。
【0148】
【化4】

但し、式中、Rf`はフルオロアルキル基を、R1は炭素数7未満のアルキル基を、R2はアルキル基を示す。
【0149】
また、一般式(1)で示されるRfとしてのパーフルオロポリエーテル基の分子構造は、特に限定されるものではなく、各種鎖長のパーフルオロポリエーテル基が含まれるが、下記に示す分子構造のものが好ましい。
【0150】
【化5】

【0151】
一般式(5)で示されるパーフルオロポリエーテル基中、p、qは1〜50の範囲にあることが好ましい。
【0152】
一般式(5)で示されるパーフルオロポリエーテル基をもつアルコキシシラン化合物の分子量は、特に限定されるものではないが、安定性、取扱いやすさ等の点から、数平均分子量で400〜10000のものが好ましく、500〜4000のものがより好ましく用いられる。
【0153】
一般式(5)で示されるパーフルオロポリエーテル基をもつアルコキシシラン化合物中、R1は、2価の原子又は基を示し、R2とパーフルオロポリエーテル基との結合基であり、特に制限はないが、合成上、炭素以外のO、NH、S等の原子あるいは原子団が好ましい。R2は炭化水素基であり、炭素数は2〜10の範囲が好ましい。R2としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等のアルキレン基、フェニレン基などを例示することができる。
【0154】
一般式(5)で示されるパーフルオロポリエーテル基をもつアルコキシシラン化合物中、R3はアルコキシ基を構成するアルキル基であり、通常は炭素数が3以下、つまりイソプロピル基、プロピル基、エチル基、メチル基を例示することができるが、炭素数はこれ以上でもよい。
【0155】
また、一般式(2)で示されるRfとしてのパーフルオロポリエーテル基の分子構造としては、特に限定されるものではなく、各種鎖長のパーフルオロポリエーテル基が含まれるが、下記に示す分子構造のものが好ましい。
【0156】
Rfは、アルキル基の水素原子がフッ素原子に置換されたものであり、下記の化学式(6)〜(8)にて示されるものが挙げられる。但し、全てのアルキル基の水素原子がフッ素原子に置換されている必要はなく、部分的に水素が含まれていてもよい。
【0157】
【化6】

但し、nは、1以上の整数である。
【化7】

但し、l、mは、1以上の整数である。
【化8】

但し、kは、1以上の整数である。
【0158】
なお、化合物(8)中、m/lは、0.5〜2.0の範囲にあることが好ましい。
【0159】
パーフルオロポリエーテル基をもつアルコキシシラン化合物の分子量は、特に限定されるものではないが、安定性、取扱いやすさ等の点から、数平均分子量で400〜10000のものが好ましく、500〜4000のものがより好ましく用いられる。
【0160】
Rf`としてのフルオロアルキル基の分子構造としても、特に限定されるものではなく、アルキル基の水素原子をフッ素原子で置換したものが挙げられ、各種鎖長および各種フッ素置換度のフルオロアルキル基が含まれるが、下記に示す分子構造のものが好ましい。
【0161】
【化9】

【化10】

この式中、sは6〜12の整数、tは20以下の整数を示す。
【0162】
(表面処理層の形成方法)
表面処理層を形成する方法としては、シリコン系化合物、フッ素含有化合物を溶剤に溶解させた溶液をグラビアコーター、ディッピング法、スピンコート法、または噴霧により塗布する方法、シリコン系化合物、フッ素含有化合物を溶剤に溶解させた溶液を擦り付けて塗布した後乾燥する方法などが挙げられる。また、LB法、PVD法、CVD法、自己組織化法、スパッタ法などが挙げられる。また、シリコーン系化合物、フッ素化合物を紫外線硬化樹脂と混合して塗布した後、UV照射して硬化する方法などが挙げられる。
【0163】
<7.第7の実施形態>
図29は、第7の実施形態に係る光学素子の構成の一例を示す。図29に示すように、この光学素子1は、基体2を備えていない点において、第1の実施形態とは異なっている。光学素子1は、可視光の波長以下の微細ピッチで多数配置された、凸部からなる複数の構造体3を備え、隣り合う構造体の下部同士が接合されている。下部同士が接合された複数の構造体が、全体として網目状を有していてもよい。
【0164】
第7の実施形態によれば、粘着剤なしで光学素子1を被着体に貼り付けることができる。また、3次元的な曲面に貼り付けることも可能である。
【0165】
<8.第8の実施形態>
[液晶表示装置の構成]
図25は、本発明の第8の実施形態に係る液晶表示装置の構成の一例を示す。図25に示すように、この液晶表示装置は、光を出射するバックライト53と、バックライト53から出射された光を時間的空間的に変調して画像を表示する液晶パネル51とを備える。液晶パネル51の両面にはそれぞれ、光学部品である偏光子51a、51bが設けられている。液晶パネル51の表示面側に設けられた偏光子51bには、光学素子1が設けられている。ここでは、光学素子1が一主面に設けられた偏光子51bを反射防止機能付き偏光子52と称する。この反射防止機能付き偏光子52は、反射防止機能付き光学部品の一例である。
【0166】
以下、液晶表示装置を構成するバックライト53、液晶パネル51、偏光子51a、51b、および光学素子1について順次説明する。
【0167】
(バックライト)
バックライト53としては、例えば直下型バックライト、エッジ型バックライト、平面光源型バックライトを用いることができる。バックライト53は、例えば、光源、反射板、光学フィルムなどを備える。光源としては、例えば、冷陰極蛍光管(Cold Cathode Fluorescent Lamp:CCFL)、熱陰極蛍光管(Hot Cathode Fluorescent Lamp:HCFL)、有機エレクトロルミネッセンス(Organic ElectroLuminescence:OEL)、無機エレクトロルミネッセンス(IEL:Inorganic ElectroLuminescence)および発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)などが用いられる。
【0168】
(液晶パネル)
液晶パネル51としては、例えば、ツイステッドネマチック(Twisted Nematic:TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(Super Twisted Nematic:STN)モード、垂直配向(Vertically Aligned:VA)モード、水平配列(In-Plane Switching:IPS)モード、光学補償ベンド配向(Optically Compensated Birefringence:OCB)モード、強誘電性(Ferroelectric Liquid Crystal:FLC)モード、高分子分散型液晶(Polymer Dispersed Liquid Crystal:PDLC)モード、相転移型ゲスト・ホスト(Phase Change Guest Host:PCGH)モードなどの表示モードのものを用いることができる。
【0169】
(偏光子)
液晶パネル51の両面には、例えば偏光子51a、51bがその透過軸が互いに直交するようにして設けられる。偏光子51a、51bは、入射する光のうち直交する偏光成分の一方のみを通過させ、他方を吸収により遮へいするものである。偏光子51a、51bとしては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルムなどの親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料などの二色性物質を吸着させて一軸延伸させたものを用いることができる。偏光子51a、51bの両面には、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムなどの保護層を設けることが好ましい。このように保護層を設ける場合、光学素子1の基体2が保護層を兼ねる構成とすることが好ましい。このような構成とすることで、反射防止機能付き偏光子52を薄型化できるからである。
【0170】
(光学素子)
光学素子1は、上述の第1〜第4の実施形態のいずれかのものと同様であるので説明を省略する。
【0171】
第8の実施形態によれば、液晶表示装置の表示面に光学素子1を設けているので、液晶表示装置の表示面の反射防止機能を向上することができる。したがって、液晶表示装置の視認性を向上することができる。
【0172】
<9.第9の実施形態>
[液晶表示装置の構成]
図26は、本発明の第9の実施形態に係る液晶表示装置の構成の一例を示す。この液晶表示装置は、液晶パネル51の前面側に前面部材54を備え、液晶パネル51の前面、前面部材54の前面および裏面の少なくとも1つの面に、光学素子1を備える点において、第8の実施形態のものとは異なっている。図26では、液晶パネル51の前面、ならびに前面部材54の前面および裏面のすべての面に、光学素子1を備える例が示されている。液晶パネル51と前面部材54との間には、例えば空気層が形成されている。上述の第8の実施形態と同様の部分には同一の符号を付して説明を省略する。なお、本発明において、前面とは表示面となる側の面、すなわち観察者側となる面を示し、裏面とは表示面と反対となる側の面を示す。
【0173】
前面部材54は、液晶パネル51の前面(観察者側)に機械的、熱的、および耐候的保護や、意匠性を目的として用いるフロントパネルなどである。前面部材54は、例えば、シート状、フィルム状、または板状を有する。前面部材54の材料としては、例えば、ガラス、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエステル(TPEE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、アラミド、ポリエチレン(PE)、ポリアクリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン(PP)、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)などを用いることができるが、特にこれらの材料に限定されるものではなく、透明性を有する材料であれば用いることができる。
【0174】
第9の実施形態によれば、第7の実施形態と同様に、液晶表示装置の視認性を向上することができる。
【0175】
<10.第10の実施形態>
第10の実施形態に係る光学素子1は、基体2および構造体3の両方が柔軟性を有している点において、第1の実施形態とは異なっている。構造体3を形成する材料の弾性率は、第1の実施形態において説明したように、1MPa以上1200MPa以下である。基体2は、例えば単層構造または2層以上の多層構造を有している。
【0176】
構造体3を形成する材料の伸び率が、好ましくは50%以上、より好ましくは50%以上150%以下の範囲内である。50%以上であると、密着または接触に伴う樹脂の変形で構造体3の破断が起きないため、拭き取り前後で反射率変化を抑制できる。また、構造体3を形成する材料の伸び率が上昇するにつれて、拭き取り時のすべり性が悪くなり、拭き取り性が低下する傾向があるが、150%以下であると、表面のすべり性の悪化を抑制しやすくなる。
【0177】
基体2を形成する材料の伸び率が、好ましくは20%以上、より好ましくは20%以上800%以下の範囲内である。20%以上であると、塑性変形を抑止することができる。800%以下であると、材料選定が比較的容易になる。例としてウレタンフィルムの場合、無黄変グレードの選定が可能となる。
【0178】
図30Aは、第10の実施形態に係る光学素子1の第1の例を示す断面図である。光学素子1は、個別に成形された構造体3と基体2とを備え、これらの間に界面が形成されている。したがって、基体2と構造体3とを形成する材料を必要に応じて異なったものとすることができる。すなわち、基体2と構造体3との弾性率を異なったものとすることができる。
【0179】
基体2が単層の構成を有する場合、基体2を形成する材料の弾性率が、好ましくは1MPa以上3000MPa以下、より好ましくは1MPa以上1500MPa、更に好ましくは1MPa以上1200MPa以下の範囲内である。1MPa以下であると、弾性率の低い樹脂は一般的に表面のべたつきが大きい特性上、扱いにくくなる。一方、3000MPa以下であると、塑性変形の発生を抑え、その視認を殆どなくすことができる。また、基体2および構造体3を形成する材料の伸び率を一致またはほぼ一致させることが好ましい。基体2と構造体3との間における界面での剥離を抑制することができるからである。ここで、伸び率のほぼ一致とは、基体2および構造体3を形成する材料の伸び率の差が±25%の範囲内であることをいう。ここで、基体2および構造体3の弾性率を必ずしも一致させる必要はなく、両者の弾性率を上記数値範囲において異なって設定してもよい。
【0180】
基体2を形成する材料の弾性率が1MPa以上3000MPa以下の範囲内である場合、基体2の厚さは、好ましくは60μm以上、より好ましくは60μm以上2000μm以下の範囲内である。60μm以上であると、塑性変形および凝集破壊の発生を抑え、それらの視認を殆どなくすことができる。一方、2000μm以下であると、ロールtoロールプロセスで連続転写できる。
【0181】
図30Bは、第10の実施形態に係る光学素子の第2の例を示す断面図である。光学素子1は、構造体3に隣接して形成された基底層6と、基底層6と隣接して形成された基材5とからなる2層構造の基体2を備える。基底層6は、例えば、構造体3の底面側に構造体3と一体成形された層であり、基底層6と基材5との間に界面が形成される。基材5の材料としては、伸縮性を有し、かつ弾性を有するものを用いることが好ましく、このような材料としては、例えば、ポリウレタン、透明シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニルなどが挙げられる。また、基材5の材料は透明性を有するものに特に限定されず、黒色などの有色のものも用いることも可能である。基材5の形状としては、例えば、シート状、プレート状、ブロック状を挙げることができるが、特にこれらの形状に限定されるものではない。ここで、シートにはフィルムが含まれるものと定義する。
【0182】
基底層6を形成する材料の弾性率が、好ましくは1MPa以上3000MPa以下、より好ましくは1MPa以上1500MPa、更に好ましくは1MPa以上1200MPa以下の範囲内である。構造体3と、基底層6が同時に転写される場合、1MPa未満であると、転写工程において隣接する構造体同士が付着し、構造体3の形状が所望の形状とは異なる形状となり、所望の反射特性が得られなくなる。また、拭き取り時のすべり性が悪くなり、拭き取り性が低下する傾向がある。一方、3000MPa以下であると、塑性変形の発生を抑え、その視認を殆どなくすことができる。
【0183】
基材5および基底層6を形成する材料の弾性率が1MPa以上3000MPa以下の範囲内である場合、基材5および基底層6の総厚が、好ましくは60μm以上、より好ましくは60μm以上2000μm以下の範囲内である。60μm以上であると、塑性変形および凝集破壊の発生を抑え、それらの視認を殆どなくすことができる。一方、2000μm以下であると、ロールtoロールプロセスで連続転写できる。ここで、構造体3、基材5および基底層6の弾性率を必ずしも一致させる必要はなく、これらの弾性率を上記数値範囲において異なって設定してもよい。
【0184】
基底層6を形成する材料の弾性率が1MPa以上3000MPa以下の範囲内であるのに対して、基材5を形成する材料の弾性率が1MPa以上3000MPa以下の範囲外である場合、基底層6の厚さは、好ましくは60μm以上、より好ましくは60μm以上2000μm以下の範囲内である。60μm以上であると、基材5の材料、すなわち基材5の弾性率に依らず、塑性変形および凝集破壊の発生を抑え、それらの視認を殆どなくすことができる。一方、2000μm以下であると、紫外線硬化樹脂を効率よく硬化させることができる。
【0185】
図30Cは、第10の実施形態の係る光学素子1の第3の例を示す断面図である。光学素子1は、一体成形された構造体3と基体2とを備える。このように構造体3と基体2とが一体成形されているため、両者の間に界面が存在しない。
【0186】
基体2を形成する材料の弾性率が、好ましくは1MPa以上3000MPa以下、より好ましくは1MPa以上1500MPa、更に好ましくは1MPa以上1200MPa以下であることが好ましい。構造体3と、基体2が同時に転写される場合、1MPa未満であると、転写工程において隣接する構造体同士が付着し、構造体3の形状が所望の形状とは異なる形状となり、所望の反射特性が得られなくなる。また、拭き取り時のすべり性が悪くなり、拭き取り性が低下する傾向がある。一方、3000MPa未満であると、塑性変形の発生を抑え、その視認を殆どなくすことができる。
【0187】
構造体3と基体2とを一体成形する場合、製造を容易にする観点からすると、両者の材料の弾性率を同一の値、具体的には1MPa以上1200MPa以下の範囲内で同一の値とすることが好ましい。構造体3と基体2とを一体成形し、両者の弾性率を異なる値とすることも可能である。このような光学素子1を形成する方法としては、例えば以下のような方法が挙げられる。すなわち、弾性率の異なる、樹脂の多層塗布を行う。このとき、樹脂が高粘度であることが望ましく、具体的には50000mPa・s以上であることが好ましい。樹脂の混ざりが少なくヤング率のグラデーションを得ることができるからである。
【0188】
基体2を形成する材料の弾性率が1MPa以上3000MPa以下の範囲内である場合、基体2の厚さは、好ましくは60μm以上、より好ましくは60μm以上2000μm以下である。60μm以上であると、塑性変形および凝集破壊の発生を抑え、それらの視認を殆どなくすことができる。一方、2000μm以下であると、紫外線硬化樹脂を効率よく硬化させることができる。
【0189】
図31A〜図32Cは、柔軟性光学素子と、非柔軟性光学素子との作用の違いを、塑性変形の観点から説明するための模式図である。ここで、柔軟性光学素子とは、構造体3と基体2との両方が柔軟性を有する光学素子のことをいい、非柔軟性光学素子とは、構造体3は柔軟性を有するのに対して、基体2は柔軟性を有していない光学素子のことをいう。
【0190】
図31Aに示すように、柔軟性光学素子の表面に対して力Fを加えること、基体2が柔軟性を有するため、図31Bに示すように、柔軟性光学素子の表面に加わる力Fが分散する。このため、図31Cに示すように、力Fを開放すると、柔軟性光学素子の表面は元の平坦な状態に戻る。
【0191】
一方、図32Aに示すように、柔軟性光学素子の表面に対して力Fを加えること、基体2が固いため、図32Bに示すように、柔軟性光学素子の表面に加わる力Fが分散しない。このため、図32Cに示すように、力Fを開放すると、柔軟性光学素子の表面に、塑性変形や凝集剥離が発生する。
【実施例】
【0192】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0193】
(サンプル1−1)
まず、外径126mmのガラスロール原盤を準備し、このガラス原盤の表面に以下のようにしてレジストを着膜した。すなわち、シンナーでフォトレジストを1/10に希釈し、この希釈レジストをディップによりガラスロール原盤の円柱面上に厚さ130nm程度に塗布することにより、レジストを着膜した。次に、記録媒体としてのガラス原盤を、図11に示したロール原盤露光装置に搬送し、レジストを露光することにより、1つの螺旋状に連なるとともに、隣接する3列のトラック間において準六方格子パターンをなす潜像がレジストにパターニングされた。
【0194】
具体的には、六方格子パターンが形成されるべき領域に対して、前記ガラスロール原盤表面まで露光するパワー0.50mW/mのレーザー光を照射し凹形状の準六方格子パターンを形成した。なお、トラック列の列方向のレジスト厚さは120nm程度、トラックの延在方向のレジスト厚さは100nm程度であった。
【0195】
次に、ガラスロール原盤上のレジストに現像処理を施して、露光した部分のレジストを溶解させて現像を行った。具体的には、図示しない現像機のターンテーブル上に未現像のガラスロール原盤を載置し、ターンテーブルごと回転させつつガラスロール原盤の表面に現像液を滴下してその表面のレジストを現像した。これにより、レジスト層が準六方格子パターンに開口しているレジストガラス原盤が得られた。
【0196】
次に、ドライエッチングによって、エッチング処理とアッシング処理を交互に行うことにより、楕円錐形状の凹部が得られた。このときのパターンでのエッチング量(深さ)はエッチング時間によって変化させた。最後に、O2アッシングにより完全にフォトレジストを除去することにより、凹形状の準六方格子パターンのモスアイガラスロールマスタが得られた。列方向における凹部の深さは、トラックの延在方向における凹部の深さより深かった。
【0197】
上記モスアイガラスロールマスタと下記の組成を有する紫外線硬化樹脂組成物を数μmの厚さで塗布したポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)製シートを密着させ、紫外線を照射し硬化させながら剥離することにより、光学素子を作製した。
【0198】
次に、光学素子のモスアイパターンが形成された面に、フッ素系処理剤(ダイキン化成品販売株式会社製 商品名オプツールDSX)をディップコーティングすることにより、フッ素処理を行った。以上により、サンプル1−1の光学素子が作製された。
【0199】
<紫外線硬化樹脂組成物>
ポリエステルアクリレートオリゴマー 80質量部
(サートマー社製、商品名CN2271E)
低粘度モノアクリレートオリゴマー 20質量部
(サートマー社製、商品名CN152)
光重合開始剤 4wt%
(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名DAROCUR1173)
【0200】
(サンプル1−2)
1トラック毎に極性反転フォマッター信号の周波数と、ロールの回転数と、適切な送りピッチとを調整して、レジスト層をパターニングすることにより、サンプル1−1とピッチおよびアスペクト比が異なる準六方格子パターンをレジスト層に記録した。これ以外のことは、サンプル1−1と同様にしてサンプル1−2の光学素子を作製した。
【0201】
(サンプル1−3)
1トラック毎に極性反転フォマッター信号の周波数と、ロールの回転数と、適切な送りピッチとを調整して、レジスト層をパターニングすることにより、サンプル1−1とピッチおよびアスペクト比が異なる準六方格子パターンをレジスト層に記録した。これ以外のことは、サンプル1−1と同様にして光学素子を作製した。
【0202】
(サンプル2−1〜サンプル2−3)
下記の組成を有する紫外線硬化樹脂組成物を用いた点以外は、サンプル1−1〜サンプル1−3のそれぞれと同様にして、サンプル2−1〜サンプル2−3の光学素子を作製した。
【0203】
<紫外線硬化樹脂組成物>
ポリエステルアクリレートオリゴマー 30質量部
(サートマー社製、商品名CN2271E)
2官能アクリレート 70質量部
(大阪有機化学工業株式会社製、商品名ビスコート310HP)
光重合開始剤 4wt%
(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名DAROCUR1173)
【0204】
(サンプル3−1〜サンプル3−3)
下記の組成を有する紫外線硬化樹脂組成物を用いた点以外は、サンプル1−1〜サンプル1−3のそれぞれと同様にして、サンプル3−1〜サンプル3−3の光学素子を作製した。
【0205】
<紫外線硬化樹脂組成物>
ポリエステルアクリレートオリゴマー 15質量部
(サートマー社製、商品名CN2271E)
2官能アクリレート 85質量部
(大阪有機化学工業株式会社製、商品名ビスコート310HP)
光重合開始剤 4wt%
(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名DAROCUR1173)
【0206】
(サンプル4−1〜サンプル4−3)
下記の組成を有する紫外線硬化樹脂組成物を用いた点以外は、サンプル1−1〜サンプル1−3のそれぞれと同様にして、サンプル4−1〜サンプル4−3の光学素子を作製した。
【0207】
<紫外線硬化樹脂組成物>
ポリエステルアクリレートオリゴマー 5質量部
(サートマー社製、商品名CN2271E)
2官能アクリレート 95質量部
(大阪有機化学工業株式会社製、商品名ビスコート310HP)
光重合開始剤 4wt%
(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名DAROCUR1173)
【0208】
(サンプル5−1〜サンプル5−3)
下記の組成を有する紫外線硬化樹脂組成物を用いた点以外は、サンプル1−1〜サンプル1−3のそれぞれと同様にして、サンプル5−1〜サンプル5−3の光学素子を作製した。
【0209】
<紫外線硬化樹脂組成物>
2官能アクリレート 80質量部
(大阪有機化学工業株式会社製、商品名ビスコート310HP)
5官能ウレタンアクリレート 20質量部
(共栄社化学株式会社製、商品名UA510H)
光重合開始剤 4wt%
(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名DAROCUR1173)
【0210】
(サンプル6−1〜サンプル6−3)
光学素子のモスアイパターンが形成された面に、フッ素処理をする工程を省略する点以外は、サンプル1−1〜サンプル1−3のそれぞれと同様にして、サンプル6−1〜サンプル6−3の光学素子を作製した。
【0211】
(形状の評価)
作製したサンプル1−1〜サンプル6−3の光学素子について、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)により観察を行った。そして、AFMの断面プロファイルから各サンプルの構造体のピッチとアスペクト比を求めた。その結果を表1に示す。
【0212】
(接触角の測定)
接触角計(協和界面化学社製 製品名CA−XE型)で、光学素子のモスアイパターン形成側の面の接触角を測定した。接触角を測定する液体には、オレイン酸を用いた。
【0213】
(拭き取り性の評価)
光学素子のモスアイパターンの形成側の面に指紋を付着した後、コットンシーガル(千代田製紙(株)製)を用いて、18kPa程度の圧力で5秒間、10往復の乾拭きを行った。拭き取り性の評価は、指紋を付着させる前と乾拭きした後での反射率を比較することにより行い、反射率が指紋を付着させる前と乾拭きした後で同一の値であった場合を乾拭き可能とみなした。なお、表1では、乾拭き可能を○と表記し、乾拭き不可能を×と表記する。反射率は、評価装置(日本分光社製 商品名V−550)を用いて、波長532nmの可視光の反射率を測定した。その結果を表1に示す。
【0214】
(弾性率の測定)
(引っ張り試験機による測定)
光学素子の作製に用いた紫外線硬化樹脂組成物と同様の材料で平坦膜を作製し(UV硬化)、幅14mm長さ50mm厚さ約200μmの形状のフィルム試料に切り出して使用した。このフィルム試料の弾性率を、JIS K7127に則って、引っ張り試験機(株式会社島津製作所製 製品名AG-X)を用いて測定した。その結果を表1に示す。
【0215】
なお、モスアイパターンを形成した光学素子の弾性率を、表面皮膜物性試験機((株)フィッシャー・インスツルメンツ社製:フィッシャースコープHM−500)を用いて測定した。その結果、微小硬度計により計測した弾性率の値および引っ張り試験機を用いて測定した材料固有の弾性率の値は、ほぼ同一であった。
【0216】
【表1】

【0217】
[評価]
表1に示すように、サンプル5−1〜サンプル5−3では、拭き取り性評価において、乾拭きが不可能であった。これは、光学素子の弾性率が、5MPa〜1200MPaから外れているからである。
また、サンプル1−1〜サンプル1−3と、サンプル6−1〜サンプル6−3との比較によれば、サンプル1−1〜サンプル1−3では、拭き取り性評価において、コットンシーガルがすべりやすく、指紋が拭き取りやすかった。一方、サンプル6−1〜サンプル6−3では、コットンシーガルがすべりにくく、指紋がつくと、指紋がついた場所よりも大きく染み広がった。これは、サンプル1−1〜サンプル1−3では、光学素子のモスアイパターン形成面にフッ素コートを行っており、サンプル6−1〜サンプル6−3では、フッ素コートを行っていないからである。
【0218】
次に、RCWA(Rigorous Coupled Wave Analysis)シミュレーションにより、比率((2r/P1)×100)と反射防止特性との関係について検討を行った。
【0219】
(試験例1)
図27Aは、構造体を六方格子状に配列したときの充填率を説明するための図である。図27Aに示すにように、構造体を六方格子状に配列した場合において、比率((2r/P1)×100)(但し、P1:同一トラック内における構造体の配置ピッチ、r:構造体底面の半径)を変化させたときの充填率を以下の式(2)により求めた。
充填率=(S(hex.)/S(unit))×100 ・・・(2)
単位格子面積:S(unit)=2r×(2√3)r
単位格子内に存在する構造体の底面の面積:S(hex.)=2×πr2
(但し、2r>P1のときは作図上から求める。)
【0220】
例えば、配置ピッチP1=2、構造体底面の半径r=1とした場合、S(unit)、S(hex.)、比率((2r/P1)×100)、充填率は以下に示す値となる。
S(unit)=6.9282
S(hex.)=6.28319
(2r/P1)×100=100.0%
充填率=(S(hex.)/S(unit))×100=90.7%
【0221】
表2に、上述の式(2)により求めた充填率と比率((2r/P1)×100)との関係を示す。
【表2】

【0222】
(試験例2)
図27Bは、構造体を四方格子状に配列したときの充填率を説明するための図である。図27Bに示すにように、構造体を四方格子状に配列した場合において、比率((2r/P1)×100)、比率((2r/P2)×100)、(但し、P1:同一トラック内における構造体の配置ピッチ、P2:トラックに対して45度方向の配置ピッチ、r:構造体底面の半径)を変化させたときの充填率を以下の式(3)により求めた。
充填率=(S(tetra)/S(unit))×100 ・・・(3)
単位格子面積:S(unit)=2r×2r
単位格子内に存在する構造体の底面の面積:S(tetra)=πr2
(但し、2r>P1のときは作図上から求める。)
【0223】
例えば、配置ピッチP2=2、構造体底面の半径r=1とした場合、S(unit)、S(tetra)、比率((2r/P1)×100)、比率((2r/P2)×100)、充填率は以下に示す値となる。
S(unit)=4
S(tetra)=3.14159
(2r/P1)×100=141.4%
(2r/P2)×100=100.0%
充填率=(S(tetra)/S(unit))×100=78.5%
【0224】
表3に、上述の式(3)により求めた充填率と、比率((2r/P1)×100)、比率((2r/P2)×100)との関係を示す。
また、四方格子の配置ピッチP1とP2との関係はP1=√2×P2となる。
【表3】

【0225】
(試験例3)
配置ピッチP1に対する構造体底面の直径2rの比率((2r/P1)×100)を80%、85%、90%、95%、99%の大きさにして、以下の条件で反射率をシミュレーションにより求めた。その結果のグラフを図28に示す。
構造体形状:釣鐘型
偏光:無偏光
屈折率:1.48
配置ピッチP1:320nm
構造体の高さ:415nm
アスペクト比:1.30
構造体の配列:六方格子
【0226】
図28から、比率((2r/P1)×100)が85%以上あれば、可視域の波長域(0.4〜0.7μm)において、平均反射率RがR<0.5%となり、十分な反射防止効果が得られる。このとき底面の充填率は65%以上である。また、比率((2r/P1)×100)が90%以上あれば、可視域の波長域において平均反射率RがR<0.3%となり、より高性能な反射防止効果が得られる。このとき底面の充填率は73%以上であり、上限を100%として充填率が高いほど性能が良くなる。構造体同士が重なり合う場合は、構造体高さは一番低い位置からの高さを考えることとする。また、四方格子においても、充填率と反射率の傾向は同様であることを確認した。
【0227】
以下のサンプルにおいて、基体、基材および基底層の厚さは以下のようにして測定した。
光学素子を切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM:scanning electron microscope)にて撮影し、撮影したSEM写真から、基体、基材または基底層の厚さを測定した。
【0228】
また、以下のサンプルにおいて、基体、基材および基底層の弾性率は以下のようにして測定した。
JIS K7311に規定されたダンベル状試験片(有効試料幅5mm)を作製し、株式会社 島津製作所製 精密万能試験機オートグラフAG-5kNXで測定した。上記試料を得られない小型試料場合は、微小硬度計、例えばFischer インストルメンツ PICODENTOR HM500を用いて測定することも可能である。また、さらに小型の場合はAFMによる測定も可能である(共立出版株式会社発行、高分子ナノ材料P.81-P.111参照)。
【0229】
(サンプル7−1)
まず、外径126mmのガラスロール原盤を準備し、このガラス原盤の表面に以下のようにしてレジストを着膜した。すなわち、シンナーでフォトレジストを1/10に希釈し、この希釈レジストをディップによりガラスロール原盤の円柱面上に厚さ130nm程度に塗布することにより、レジストを着膜した。次に、記録媒体としてのガラス原盤を、図11に示したロール原盤露光装置に搬送し、レジストを露光することにより、1つの螺旋状に連なるとともに、隣接する3列のトラック間において準六方格子パターンをなす潜像がレジストにパターニングされた。
【0230】
具体的には、六方格子パターンが形成されるべき領域に対して、前記ガラスロール原盤表面まで露光するパワー0.50mW/mのレーザー光を照射し凹形状の準六方格子パターンを形成した。なお、トラック列の列方向のレジスト厚さは120nm程度、トラックの延在方向のレジスト厚さは100nm程度であった。
【0231】
次に、ガラスロール原盤上のレジストに現像処理を施して、露光した部分のレジストを溶解させて現像を行った。具体的には、図示しない現像機のターンテーブル上に未現像のガラスロール原盤を載置し、ターンテーブルごと回転させつつガラスロール原盤の表面に現像液を滴下してその表面のレジストを現像した。これにより、レジスト層が準六方格子パターンに開口しているレジストガラス原盤が得られた。
【0232】
次に、ドライエッチングによって、エッチング処理とアッシング処理を交互に行うことにより、楕円錐形状の凹部が得られた。このときのパターンでのエッチング量(深さ)はエッチング時間によって変化させた。最後に、O2アッシングにより完全にフォトレジストを除去することにより、凹形状の準六方格子パターンのモスアイガラスロールマスタが得られた。列方向における凹部の深さは、トラックの延在方向における凹部の深さより深かった。
【0233】
次に、厚さ400μmのウレタンフィルム(シーダム社製)を基材として準備した。このウレタンフィルムを形成する樹脂の弾性率は、10MPaであった。次に、ウレタンフィルム上に下記の組成を有する紫外線硬化樹脂組成物を数μmの厚さで塗布した後、この塗布面に対してモスアイガラスロールマスタを密着させ、紫外線を照射し硬化させながら剥離することにより、光学素子を作製した。この際、塗布面に対するモスアイガラスロールマスタの圧力を調整することにより、構造体とウレタンフィルムとの間に20nmの基底層を形成した。この硬化後の基底層を形成する樹脂の弾性率は、20MPaであった。
【0234】
<紫外線硬化樹脂組成物>
ポリエステルアクリレートオリゴマー 80質量部
(サートマー社製、商品名CN2271E)
低粘度モノアクリレートオリゴマー 20質量部
(サートマー社製、商品名CN152)
光重合開始剤 4質量%
(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名DAROCUR1173)
【0235】
次に、光学素子のモスアイパターンが形成された面に、フッ素系処理剤(ダイキン化成品販売株式会社製 商品名オプツールDSX)をディップコーティングすることにより、フッ素処理を行った。以上により、下記の構成を有するサンプル7−1の光学素子が作製された。
【0236】
<モスアイ構成>
構造体の配列:準六方格子
高さ:250
ピッチ:250
アスペクト比:1
【0237】
(サンプル7−2)
ウレタンフィルムの塗布面に対するモスアイガラスロールマスタの圧力を調整することにより、構造体とウレタンフィルムとの間に厚さ60μmの基底層を形成した以外は、サンプル7−1と同様にして、サンプル7−2の光学素子を作製した。
【0238】
(サンプル7−3)
ウレタンフィルムの塗布面に対するモスアイガラスロールマスタの圧力を調整することにより、構造体とウレタンフィルムとの間に厚さ120μmの基底層を形成した以外は、サンプル7−1と同様にして、サンプル7−3の光学素子を作製した。
【0239】
(サンプル7−4)
ウレタンフィルムの塗布面に対するモスアイガラスロールマスタの圧力を調整することにより、構造体とウレタンフィルムとの間に厚さ150μmの基底層を形成した以外は、サンプル7−1と同様にして、サンプル7−4の光学素子を作製した。
【0240】
(サンプル8−1)
ウレタンフィルムの厚さを20μmとした以外は、サンプル8−1と同様にして、サンプル7−4の光学素子を作製した。
【0241】
(サンプル8−2)
ウレタンフィルムの厚さを40μmとした以外は、サンプル8−1と同様にして、サンプル7−4の光学素子を作製した。
【0242】
(サンプル8−3)
ウレタンフィルムの厚さを80μmとした以外は、サンプル8−1と同様にして、サンプル7−4の光学素子を作製した。
【0243】
(サンプル8−4)
ウレタンフィルムの厚さを120μmとした以外は、サンプル8−1と同様にして、サンプル7−4の光学素子を作製した。
【0244】
(サンプル8−5)
ウレタンフィルムの厚さを200μmとした以外は、サンプル8−1と同様にして、サンプル7−4の光学素子を作製した。
【0245】
(サンプル8−6)
ウレタンフィルムの厚さを400μmとした以外は、サンプル8−1と同様にして、サンプル7−4の光学素子を作製した。
【0246】
(引っ掻き試験)
まず、作製したサンプル7−1〜7−4、8−1〜8−6について、JISK5600-5-4の試験方法に準拠して引っ掻き試験を行った。具体的には、手押し式引掻き硬度試験機(株式会社安田精機製作所製、商品名:NO.553-S)を用いて、2Hの鉛筆でサンプル表面を引掻いた。次に、鉛筆の引いた痕を柔らかい布でふき取り、鉛筆の粉を除去した後、目視にてサンプル表面を観察した。次に、微細形状測定装置(KLA-Tencor社製、商品名Alpha-Step500)で塑性変形深さを測定した。それらの結果を表4、表5および図33A、図33Bに示す。なお、表4、表5中の「塑性変形」および「凝集破壊」における「○」印、「△」印、および「×」印は以下の評価結果を示す。
【0247】
(塑性変形)
◎:塑性変形の深さが0nm以上350nm未満であり、反射性能に変化がなく、目視で窪みが全く観察されない。
○:塑性変形の深さが350nm以上1000nm未満であり、反射性能に変化がなく、目視で窪みが殆ど観察されない。
×:塑性変形の深さが1000nm以上であり、反射性能が低下し、目視で窪みが明らかに観察される。
【0248】
(凝集破壊)
◎:反射性能に変化がなく、目視で傷および剥離が全く観察されない。
○:反射性能に変化がなく、目視で傷および剥離が殆ど観察されない。
×:反射性能が低下し、目視で傷および剥離が明らかに観察される。
【0249】
表4は、サンプル7−1〜7−4の引っ掻き試験の結果を示す。
【表4】

【0250】
表5は、サンプル8−1〜8−6の引っ掻き試験の結果を示す。なお、サンプル8−1の塑性変形の窪みの深さは測定範囲外であったため、測定値の記載が省略されている。
【表5】

【0251】
表4、表5および図34A、図34Bから以下のことがわかる。
基材と基底層との総厚を60μm以上にすると、塑性変形および凝集破壊の視認を抑制することができる。
【0252】
(サンプル9−1)
基材として厚さ400μmのウレタンフィルムに代えて厚さ150μmのPMMA(ポリメチルメタアクリレート)フィルムを用いた以外は、サンプル7−1と同様にして、サンプル9−1の光学素子を作製した。なお、PMMAフィルムの材料の弾性率は、3300MPaであった。
【0253】
(サンプル9−2)
ウレタンフィルムの塗布面に対するモスアイガラスロールマスタの圧力を調整することにより、構造体とPMMAフィルムとの間に厚さ60μmの基底層を形成した以外は、サンプル9−1と同様にして、サンプル9−2の光学素子を作製した。
【0254】
(サンプル9−3)
ウレタンフィルムの塗布面に対するモスアイガラスロールマスタの圧力を調整することにより、構造体とPMMAフィルムとの間に厚さ120μmの基底層を形成した以外は、サンプル9−1と同様にして、サンプル9−3の光学素子を作製した。
【0255】
(引っ掻き試験)
作製したサンプル9−1〜9−3について、上述のサンプル7−1〜7−4と同様の引っ掻き試験を行い、サンプル表面の観察、および塑性変形深さの測定を行った。その結果を表6および図34Aに示す。
【0256】
表6は、サンプル9−1〜9−3の引っ掻き試験の結果を示す。
【表6】

【0257】
表6および図34Aから以下のことがわかる。
基材として弾性率が1MPa以上3000MPa以下の範囲から外れるものを用いた場合には、基底層の厚さを60μm以上とすることで、塑性変形および凝集破壊の発生を抑制することができる。
【0258】
(サンプル10−1)
まず、成形面となる領域が一様に窪んだ、外径126mmのガラスロール原盤を準備した。次に、このガラスロール原盤を用いた以外はサンプル7−1と同様にして、準六方格子パターンのモスアイガラスロールマスタを得た。次に、シクロオレフィン系フィルム上に下記の組成を有する紫外線硬化樹脂組成物を塗布した後、この塗布面に対してモスアイガラスロールマスタを密着させ、紫外線を照射し硬化させながら剥離することにより、光学素子を作製した。この際、塗布面に対するモスアイガラスロールマスタの圧力を調整することにより、構造体とシクロオレフィン系フィルムとの間に、基体となる20μmの樹脂層を形成した。
【0259】
<紫外線硬化樹脂組成物>
ポリエステルアクリレートオリゴマー 80質量部
(サートマー社製、商品名CN2271E)
低粘度モノアクリレートオリゴマー 20質量部
(サートマー社製、商品名CN152)
光重合開始剤 4質量%
(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、商品名DAROCUR1173)
【0260】
次に、シクロオレフィン系フィルムを樹脂層から剥離することにより、光学素子が得られた。次に、光学素子のモスアイパターンが形成された面に、フッ素系処理剤(ダイキン化成品販売株式会社製 商品名オプツールDSX)をディップコーティングすることにより、フッ素処理を行った。以上により、厚さ20μmの基体上に多数の構造体が形成された、サンプル10−1の光学素子が作製された。
【0261】
(サンプル10−2)
基体と構造体とを一体成形し、基体の厚さを60μmとする以外はサンプル7−1と同様にして、サンプル10−1の光学素子を作製した。
【0262】
(サンプル10−3)
基体と構造体とを一体成形し、基体の厚さを120μmとする以外はサンプル7−1と同様にして、サンプル10−1の光学素子を作製した。
【0263】
(サンプル10−4)
基体と構造体とを一体成形し、基体の厚さを250μmとする以外はサンプル7−1と同様にして、サンプル10−1の光学素子を作製した。
【0264】
(サンプル10−5)
基体と構造体とを一体成形し、基体の厚さを500μmとする以外はサンプル7−1と同様にして、サンプル10−1の光学素子を作製した。
【0265】
(サンプル10−6)
基体と構造体とを一体成形し、基体の厚さを750μmとする以外はサンプル7−1と同様にして、サンプル10−1の光学素子を作製した。
【0266】
(サンプル10−7)
基体と構造体とを一体成形し、基体の厚さを1000μmとする以外はサンプル7−1と同様にして、サンプル10−1の光学素子を作製した。
【0267】
(引っ掻き試験)
作製したサンプル10−1〜10−7について、上述のサンプル7−1〜7−4と同様の引っ掻き試験を行い、サンプル表面の観察、および塑性変形深さの測定を行った。その結果を表7および図34Bに示す。
【0268】
表7は、サンプル10−1〜10−7の引っ掻き試験の結果を示す。なお、サンプル10−1の塑性変形の窪みの深さは測定範囲外であったため、測定値の記載が省略されている。
【表7】

【0269】
表7および図34Bから以下のことがわかる。
構造体と基体とを一体成形した場合には、基体の厚さを60μm以上とすることで、塑性変形および凝集破壊の発生を抑制することができる。
【0270】
(試験例3−1〜3−10)
シミュレーションにより、光学フィルム表面を鉛筆により押圧したときの塑性変形領域の深さを、以下のようにして求めた。
まず、図35に示す2層構造の光学フィルムを設定した。この光学フィルムの物性値の設定条件を以下に示す。なお、プログラムとしては、ANSYS Structural(ANSYS,INC.製)を用いた。
基材
厚さD:40μm
弾性率:0〜10000MPa
表面層
厚さd:20μm
弾性率:20MPa
【0271】
次に、図35に示す斜線の領域に対して鉛筆を押圧したときの塑性変形領域の深さを求めた。以下に押圧の条件を示す。
押圧の加重:0.75kg
押圧の面積(斜線領域の面積):2mm×0.5mm
【0272】
図36Aは、試験例3−1〜3−10のシミュレーション結果を示すグラフである。表8は、試験例3−1〜3−10のシミュレーション結果を示すグラフである。なお、表8中の「塑性変形」および「凝集破壊」における「○」印、「△」印、および「×」印は以下の評価結果を示す。
【0273】
(塑性変形)
◎:塑性変形の深さが0nm以上350nm未満である。なお、塑性変形の深さをこの範囲にすることで、反射性能に変化がなく、目視で窪みが全く観察されなくなる。
○:塑性変形の深さが350nm以上1000nm未満である。なお、塑性変形の深さをこの範囲にすることで、反射性能に変化がなく、目視で窪みが殆ど観察されなくなる。
×:塑性変形の深さが1000nm以上である。なお、塑性変形の深さがこの範囲になると、反射性能が低下し、かつ、目視で窪みが観察されるようになってしまう。
【0274】
【表8】

【0275】
なお、モスアイ構造体の高さは基底層の厚さに比べて十分小さいので、上記シミュレーションでは光学フィルムの表面を平坦面として近似している。このように平坦面により近似したシミュレーションの結果は、モスアイ構造体が形成された光学フィルムの塑性変形の実測結果とほぼ一致する。
【0276】
表8および図36Aから以下のことがわかる。
基材の弾性率を3000MPa以下にすることとで、塑性変形の深さを350nm以上1000nm未満の範囲内とすることができる。すなわち、反射性能の低下を抑制し、かつ、目視による窪みの観察を防ぐことができる。
また、基材の弾性率を1500MPa以下にすることで、塑性変形の深さを0nm以上350nm未満の範囲内にすることができる。すなわち、反射性能の低下を抑制し、目視による窪みの観察を更に防ぐことができる。
【0277】
(試験例4−1〜4−4)
シミュレーションにより、光学フィルム表面を鉛筆により押圧したときの塑性変形領域の深さを、以下のようにして求めた。
まず、図35に示す2層構造の光学フィルムを設定した。この光学フィルムの物性値の設定条件を以下に示す。なお、プログラムとしては、ANSYS Structural(ANSYS,INC.製)を用いた。
基材
厚さD:400μm
弾性率:20MPa
表面層
厚さd:20μm、60μm、120μm、200μm
弾性率:20MPa
【0278】
次に、図35に示す斜線の領域に対して鉛筆を押圧したときの塑性変形領域の深さを求めた。以下に押圧の条件を示す。
押圧の加重:0.75kg
押圧の面積(斜線領域の面積):2mm×0.5mm
【0279】
(試験例5−1〜5−4)
光学フィルムの物性値の設定条件を以下のようにした以外は試験例4−1〜4−4と同様にして、シミュレーションを行った。
基材
厚さD:400μm
弾性率:40MPa
表面層
厚さd:20μm、60μm、120μm、200μm
弾性率:20MPa
【0280】
(試験例6−1〜6−4)
光学フィルムの物性値の設定条件を以下のようにした以外は試験例4−1〜4−4と同様にして、シミュレーションを行った。
基材
厚さD:135μm
弾性率:3000MPa
表面層
厚さd:20μm、60μm、120μm、200μm
弾性率:20MPa
【0281】
図36Bは、試験例4−1〜4−4、試験例5−1〜5−4、試験例6−1〜6−4のシミュレーション結果を示すグラフである。なお、モスアイ構造体の高さは基底層の厚さに比べて十分小さいので、上記シミュレーションでは光学フィルムの表面を平坦面として近似している。このように平坦面により近似したシミュレーションの結果は、モスアイ構造体が形成された光学フィルムの塑性変形の実測結果とほぼ一致する。
【0282】
図36Bから以下のことがわかる。
基材の弾性率に依らず、表面層の厚さを60μm以上にすることにより、塑性変形の発生を抑制することができる。したがって、光学素子(モスアイフィルム)の基底層の厚さを60μm以上とすることにより、塑性変形の発生を抑制することができる。
【0283】
(試験例7)
シミュレーションにより、光学フィルム表面を鉛筆により押圧したときの伸び率を、以下のようにして求めた。
まず、図35に示す2層構造の光学フィルムを設定した。この光学フィルムの物性値の設定条件を以下に示す。なお、プログラムとしては、ANSYS Structural(ANSYS,INC.製)を用いた。
基材
厚さD:400μm
弾性率:1MPa
表面層
厚さd:20μm
弾性率:1MPa
【0284】
次に、図35に示す斜線の領域に対して鉛筆を押圧したときの光学フィルムの伸び率を求めた。以下に押圧の条件を示す。
押圧の加重:0.75kg
押圧の面積(斜線領域の面積):2mm×0.5mm
【0285】
上記シミュレーションの結果から、鉛筆で加圧されたことによる変形が原因の基材および表面層の伸び率が20%未満の範囲であることがわかった。したがって、基材の破断を防ぐため、基材および表面層を形成する材料の伸び率を20%以上に設定することが好ましい。
【0286】
(試験例8)
シミュレーションにより、構造体同士が密着するための伸び率を以下のようにして求めた。
まず、図37に示す光学素子を設定した。この光学素子の設定条件を以下に示す。なお、プログラムとしては、ANSYS Structural(ANSYS,INC.製)を用いた。
基体
厚さ:750nm
弾性率:100MPa
ナノ構造体
形状:放物面状
高さ:250nm
ピッチ:200nm
アスペクト:1.25
構造体の個数:3個
【0287】
次に、図37に示す3つの構造体のうち、中央に位置する構造体に対して加重を加え、この構造体の頂部を、隣接する構造体の側面に接触させたときの伸び率を求めた。加重は、中央の構造体の一方の側面のうち、高さ200nm〜250nmの範囲の領域に対して、7.5MPaの圧力が加わるように調整した。この際、底面は固定した。
【0288】
図38Aは、試験例8のシミュレーションの結果を示す図である。
シミュレーションの結果から、中央の構造体の頂部を、隣接する構造体の側面に接触させたきの伸び率の最大値は50%であることがわかった。
したがって、隣接する構造体同士を接触または密着させるためには、構造体の材料の伸び率を50%以上とすることが好ましい。
【0289】
(試験例9)
シミュレーションにより、ピッチPに対する構造体頂点の変位量ΔXの変化率((ΔX/P)×100)[%]を以下のようにして求めた。
まず、図37に示す光学素子を設定した。この光学素子の設定条件を以下に示す。なお、プログラムとしては、ANSYS Structural(ANSYS,INC.製)を用いた。
基体
厚さD:750nm
弾性率:100MPa
ナノ構造体
高さ:250nm
ピッチ:125nm〜312.5nm
アスペクト:0.8〜2.0
構造体の個数:3個
【0290】
次に、図37に示す3つの構造体のうち、中央に位置する構造体に対して加重を加えた。具体的には、中央の構造体の一方の側面のうち、高さ200nm〜250nmの範囲の領域に対して、7.5MPaの圧力を加えて、ピッチPに対する構造体頂点の変位量ΔXの変化率((ΔX/P)×100)[%]を求めた。この際、底面は固定した。ここで、構造体の変位量ΔXは、構造体頂点のX軸方向(図37参照)への変化量のことをいう。
【0291】
図38Bは、試験例9のシミュレーションの結果を示すグラフである。図38Bにおいて、横軸は、拭き取り性(A.R.(アスペクトレシオ)依存性)であり、縦軸は、ピッチPに対する構造体頂点の変位量ΔXの変化率である。
【0292】
図38Bから、ピッチPに対する構造体頂点の変位量ΔXの変化率の増加に伴って、拭き取り性が向上することがわかる。例えば、A.R.=1.2では、A.R.=0.8に対して拭き取り性が1.6倍向上する。
【0293】
上記拭き取り性向上の原因は以下の点にあるものと考えられる。
(1)高アスペクト化により、構造体の高さに対する構造体のピッチ幅が相対的に狭くなり、わずかなナノ構造体の変形でも効果的に油の押し出しが可能となるため、拭き取り性が向上したものと考えられる。
(2)高アスペクト化により、より小さい力でナノ構造体を変形することが可能となったため、拭き取り性が向上したものと考えられる。
【0294】
(試験例10−1〜10−8)
RCWA法による光学シミュレーションにより、光学素子の視感反射率を求めた。
以下に、シミュレーションの条件を示す。
構造体の形状:放物面状
構造体の配置パターン:準六方格子
構造体の高さ:125〜1250nm
構造体の配置ピッチ:250nm
構造体のアスペクト比:0.5〜5
【0295】
図39は、試験例10−1〜10−8のシミュレーション結果を示すグラフである。表9は、試験例10−1〜10−8のシミュレーション結果を示す表である。なお、図39および表9には、試験例9のシミュレーションの結果(拭き取り性)も示す。
【0296】
【表9】

【0297】
図39および表9から、光学特性および拭き取り性を向上するためには、0.6未満であると反射特性および透過特性が低下する傾向にあり、アスペクト比を0.6以上とすることが好ましいことがわかる。但し、本発明者らが実験により得た知見によれば、原盤にフッ素コートを行い、転写樹脂にもシリコーン系添加材や、フッ素系添加材を添加し、離型性を向上させた状態において、転写時の離型性を考慮すると、アスペクト比を5以下に設定することが好ましい。更に、アスペクト比が4を超えた場合には、視感反射率に大きな変化がないことから、アスペクト比を0.6以上4以下の範囲内とすることが好ましい。
【0298】
以上、本発明の実施例を反射防止基板で説明したが、上述した実施例は本発明の技術的思想に基いて様々に変形可能である。
【0299】
以上、本発明の実施形態および実施例について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0300】
例えば、上述の実施形態および実施例において挙げた構成、方法、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、形状、材料および数値などを用いてもよい。
【0301】
また、上述の実施形態の各構成は、本発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0302】
また、上述の実施形態では、本発明を液晶表示装置に適用する場合を例として説明したが、本発明は液晶表示装置以外の各種表示装置に対しても適用可能である。例えば、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(Plasma Display Panel:PDP)、エレクトロルミネッセンス(Electro Luminescence:EL)ディスプレイ、表面伝導型電子放出素子ディスプレイ(Surface-conduction Electron-emitter Display:SED)などの各種表示装置に対しても本発明は適用可能である。また、本発明はタッチパネルにも適用することができる。具体的には例えば、タッチパネルなどに備えられる基材として、上述の実施形態に係る光学素子を用いることができる。
【0303】
また、上述の実施形態において、構造体のピッチを適宜変更することで正面から斜めの方向に回折光を発生させることにより、覗き込み防止機能を光学素子に付与するようにしてもよい。
【0304】
また、上述の実施形態において、構造体が形成された基体表面上に、低屈折率層をさらに形成するようにしてもよい。低屈折率層は、基体および構造体を構成する材料より低い屈折率を有する材料を主成分としていることが好ましい。このような低屈折率層の材料としては、例えばフッ素系樹脂などの有機系材料、またはLiF、MgF2などの無機系の低屈折率材料が挙げられる。
【0305】
また、上述の実施形態では、感光性樹脂により光学素子を製造する場合を例として説明したが、光学素子の製造方法はこの例に限定されるものでない。例えば、熱転写や射出成形により光学素子を製造するようにしてもよい。
【0306】
また、上述の実施形態では、円柱状または円筒状の原盤の外周面に凹状または凸状の構造体を形成する場合を例として説明したが、原盤が円筒状である場合には、原盤の内周面に凹状または凸状の構造体を形成するようにしてもよい。
【0307】
また、上述の実施形態において、構造体を形成する材料の弾性率を1MPa以上200MPa以下とし、構造体のアスペクト比を0.2以上0.6未満としてもよい。この場合にも、光学素子表面に付着した指紋などの汚れを拭き取ることができる。
【0308】
また、上述の実施形態では、光学素子に対して本発明を適用する場合を例として説明したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、光学素子以外の微細構造体に対しても本発明は適用可能である。光学素子以外の微細構造体としては、細胞培養足場、ハスの葉効果を利用したはっ水性のあるガラスなどに適用可能である。
【0309】
また、上述の実施形態において、基材、基底層および構造体の弾性率がそれらの内部において変化するようにしてもよい。例えば基材の厚さ方向、基底層の厚さ方向、または構造体の高さ方向にそれらの弾性率が分布を有するようにしてもよい。この場合、弾性率の変化は連続的または不連続的とすることが可能である。
【符号の説明】
【0310】
1 光学素子
2 基体
3 構造体
4 凸部
11 ロールマスタ
12 基体
13 構造体
14 レジスト層
15 レーザー光
16 潜像
21 レーザー
22 電気光学変調器
23,31 ミラー
24 フォトダイオード
26 集光レンズ
27 音響光学変調器
28 コリメータレンズ
29 フォマッター
30 ドライバ
32 移動光学テーブル系
33 ビームエキスパンダ
34 対物レンズ
35 スピンドルモータ
36 ターンテーブル
37 制御機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を有する基体と、
上記基体の表面に可視光の波長以下の微細ピッチで多数配置された、凸部からなる複数の構造体と
を備え、
上記構造体を形成する材料の弾性率が、1MPa以上188MPa以下であり、
上記構造体のアスペクト比が、0.6以上1.5以下であり、
上記構造体が、頂部の傾きが緩やかで中央部から底部に徐々に急峻な傾きの錐体形状、または放物面状を有し、
上記構造体の変形により、隣接する上記構造体同士が接触する、反射防止機能を有する光学素子。
【請求項2】
可視光の波長以下の微細ピッチで多数配置された、凸部からなる複数の構造体を備え、
隣り合う上記構造体の下部同士が接合されており、
上記構造体を形成する材料の弾性率が、1MPa以上188MPa以下であり、
上記構造体のアスペクト比が、0.6以上1.5以下であり、
上記構造体が、頂部の傾きが緩やかで中央部から底部に徐々に急峻な傾きの錐体形状、または放物面状を有し、
上記構造体の変形により、隣接する上記構造体同士が接触する、反射防止機能を有する光学素子。
【請求項3】
表面を有する基体と、
上記基体の表面に可視光の波長以下の微細ピッチで多数配置された、凸部からなる複数の構造体と
を備え、
上記構造体を形成する材料の弾性率が、1MPa以上188MPa以下であり、
上記構造体のアスペクト比が、0.2以上5以下であり、
上記構造体が、頂部の傾きが緩やかで中央部から底部に徐々に急峻な傾きの錐体形状、または放物面状を有し、
上記構造体の変形により、隣接する上記構造体同士が接触する、反射防止機能を有する光学素子。
【請求項4】
可視光の波長以下の微細ピッチで多数配置された、凸部からなる複数の構造体を備え、
隣り合う上記構造体の下部同士が接合されており、
上記構造体を形成する材料の弾性率が、1MPa以上188MPa以下であり、
上記構造体のアスペクト比が、0.2以上5以下であり、
上記構造体が、頂部の傾きが緩やかで中央部から底部に徐々に急峻な傾きの錐体形状、または放物面状を有し、
上記構造体の変形により、隣接する上記構造体同士が接触する、反射防止機能を有する光学素子。
【請求項5】
上記構造体を形成する材料の弾性率が、1MPa以上29MPa以下である請求項1〜4のいずれかに記載の光学素子。
【請求項6】
上記構造体同士の接触により、上記構造体の間に付着した汚れが外部に押し出された後、弾性力によって上記構造体の形状が元の状態に復元される請求項1〜5のいずれかに記載の光学素子。
【請求項7】
上記構造体上に形成された表面処理層をさらに備え、
上記表面処理層は、フッ素、およびケイ素のうちの少なくとも一種を含む化合物を含有し、
上記表面処理層が形成された上記基体の表面におけるオレイン酸の接触角が、30度以上である請求項1〜6のいずれかに記載の光学素子。
【請求項8】
上記表面処理層が形成された上記基体の表面におけるオレイン酸の接触角が、50度以上である請求項7記載の光学素子。
【請求項9】
上記構造体は、上記基体の表面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、六方格子パターン、準六方格子パターン、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
上記構造体は、上記トラックの延在方向に長軸方向を有する楕円錐または楕円錐台形状である請求項1〜8のいずれかに記載の光学素子。
【請求項10】
上記トラックが、直線状、または円弧状を有する請求項9記載の光学素子。
【請求項11】
上記トラックが、蛇行している請求項9記載の光学素子。
【請求項12】
上記構造体は、上記基体の表面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、準六方格子パターンを形成し、
上記トラックの延在方向における上記構造体の高さまたは深さは、上記トラックの列方向における上記構造体の高さまたは深さよりも小さい請求項1〜8のいずれかに記載の光学素子。
【請求項13】
上記構造体は、上記基体の表面において複数列のトラックをなすように配置されているとともに、四方格子パターンまたは準四方格子パターンを形成し、
上記トラックの延在方向に対して斜めとなる配列方向における上記構造体の高さまたは深さは、上記トラックの延在方向における上記構造体の高さまたは深さよりも小さい請求項1〜8のいずれかに記載の光学素子。
【請求項14】
同一トラック内における上記構造体の配置ピッチP1は、隣接する2つのトラック間における上記構造体の配置ピッチP2よりも長い請求項9、12および13のいずれかに記載の光学素子。
【請求項15】
上記基体を形成する材料の弾性率が、1MPa以上3000MPa以下であり、
上記基体の厚さが、60μm以上である請求項1または3に記載の光学素子。
【請求項16】
上記基体が、2層以上の層構造を有し、
上記2層以上の層構造のうち、上記構造体と隣接して形成された基底層の弾性率が、1MPa以上3000MPa以下であり、
上記基底層の厚さが、60μm以上である請求項1または3に記載の光学素子。
【請求項17】
上記基体が、上記構造体と隣接して形成された基底層と、該基底層と隣接して形成された基材とを備え、
上記基底層および上記基材の弾性率が、1MPa以上3000MPa以下であり、
上記基底層と上記基材との総厚が、60μm以上である請求項1または3に記載の光学素子。
【請求項18】
上記構造体を形成する材料の伸び率が50%以上である請求項1〜17のいずれかに記載の光学素子。
【請求項19】
上記基体を形成する材料の伸び率が20%以上である請求項1または3に記載の光学素子。
【請求項20】
請求項1〜19のいずれか1項に記載された光学素子を備える表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図39】
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【図38】
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【公開番号】特開2012−208526(P2012−208526A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−159091(P2012−159091)
【出願日】平成24年7月17日(2012.7.17)
【分割の表示】特願2010−174046(P2010−174046)の分割
【原出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】