説明

光学素子の製造方法、及び、光学素子の製造装置

【課題】光学素子の製造方法及び製造装置において、簡素な構成で光学素子の製造サイクルタイムを短縮する。
【解決手段】光学素子の製造方法は、光学素子材料100を加熱する加熱工程と、加熱された光学素子材料100を複数の成形型(2,3)によって加圧する加圧工程と、加圧された光学素子材料100を冷却する冷却工程と、を含み、上記加熱工程では、複数の成形型(2,3)のうち少なくとも1つの成形型(2,3)は、型支持部8,9によってスペーサ6,7を介して支持されて、型支持部8,9に対して非接触となり、上記冷却工程では、スペーサ6,7が熱収縮することにより、加熱工程において非接触であった成形型(2,3)と型支持部8,9とが接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の成形型を用いて光学素子を製造する光学素子の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対の成形型のそれぞれを支持する一対のプレス軸と、このプレス軸を冷却する冷却機構と、成形型を加熱する加熱機構と、を備える光学素子の製造装置において、プレス軸と成形型との間に設けた中間部材の中空部真空度を真空ポンプにより高めて断熱することにより、成形型加熱時にプレス軸を介して成形型が冷却されることを防ぐ技術が提案されている(特許文献1参照)。また、この特許文献1には、冷却時には真空度を切り替えて中間部材の熱伝導特性を高めることで冷却時間も短くできる点も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−277082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載された光学素子の製造装置は、中間部材の真空度を切り替えても、中間部材の熱伝導特性可変幅は限られたものとなるため、大掛かりな構成が必要になる割に加熱時間短縮効果は期待できない。
【0005】
本発明の目的は、簡素な構成で光学素子の製造サイクルタイムを短縮することができる光学素子の製造方法及び製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光学素子の製造方法は、光学素子材料を加熱する加熱工程と、加熱された上記光学素子材料を複数の成形型によって加圧する加圧工程と、加圧された上記光学素子材料を冷却する冷却工程と、を含み、上記加熱工程では、複数の上記成形型のうち少なくとも1つの上記成形型は、型支持部によってスペーサを介して支持されて、上記型支持部に対して非接触となり、上記冷却工程では、上記スペーサが熱収縮することにより、上記加熱工程において非接触であった上記成形型と上記型支持部とが接触する。
【0007】
上記光学素子の製造方法において、上記加熱工程では、上記型支持部に対して非接触となる上記成形型は、この成形型の内部から加熱されるようにしてもよい。
上記光学素子の製造方法において、上記加熱工程では、上記スペーサと、上記型支持部に対して非接触となる上記成形型とは、周囲から加熱されるようにしてもよい。
【0008】
上記光学素子の製造方法において、上記加熱工程では、上記スペーサは、上記型支持部に対して非接触となる上記成形型よりも先行して加熱されるようにしてもよい。
上記光学素子の製造方法において、上記冷却工程では、上記スペーサは、上記型支持部に対して非接触となる上記成形型よりも先行して冷却されるようにしてもよい。
【0009】
本発明の光学素子の製造装置は、複数の成形型と、それぞれ上記成形型を支持する複数の型支持部と、複数の上記成形型のうち少なくとも1つの成形型とこの成形型を支持する上記型支持部との間に配置されるスペーサと、を備え、上記スペーサは、このスペーサの温度変化によって、上記成形型と上記型支持部とを非接触にさせる状態に膨張し、又は上記成形型と上記型支持部とを接触させる状態に収縮する。
【0010】
また、上記光学素子の製造装置において、上記スペーサの線膨張係数は、このスペーサを挟んで上記型支持部により支持される上記成形型の線膨張係数よりも大きいようにしてもよい。
【0011】
また、上記光学素子の製造装置において、上記スペーサを介して上記型支持部により支持される上記成形型は、成形面と反対側の端部に小断面積部を有し、上記小断面積部は、光学素子材料を加圧する方向に直交する断面積が、上記成形面を備える型本体部分よりも小さく、上記スペーサは、上記小断面積部の周囲に配置されているようにしてもよい。
【0012】
また、上記光学素子の製造装置において、上記小断面積部は、円柱形状を呈し、上記スペーサは、リング状を呈するようにしてもよい。
また、上記光学素子の製造装置において、上記スペーサを介して上記型支持部により支持される上記成形型よりも先行して、上記スペーサを加熱する加熱部を更に備えるようにしてもよい。
【0013】
また、上記光学素子の製造装置において、上記スペーサを介して上記型支持部により支持される上記成形型よりも先行して、上記スペーサを冷却する冷却部を更に備えるようにしてもよい。
【0014】
また、上記光学素子の製造装置において、上記スペーサと上記成形型との接触面積は、上記スペーサと上記型支持部との接触面積よりも大きいようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡素な構成で光学素子の製造サイクルタイムを短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係る光学素子の製造装置を示す断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る光学素子の製造装置の要部を示す断面図である。
【図3A】本発明の第1実施形態に係る光学素子の製造方法を説明するための断面図(その1)である。
【図3B】本発明の第1実施形態に係る光学素子の製造方法を説明するための断面図(その2)である。
【図3C】本発明の第1実施形態に係る光学素子の製造方法を説明するための断面図(その3)である。
【図3D】本発明の第1実施形態に係る光学素子の製造方法を説明するための断面図(その4)である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る光学素子の製造方法及び製造装置を説明するための断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る光学素子の製造方法及び製造装置を説明するための断面図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係る光学素子の製造方法及び製造装置を説明するための断面図である。
【図7】本発明の第5実施形態に係る光学素子の製造方法及び製造装置を説明するための断面図である。
【図8A】本発明の第6実施形態に係る光学素子の製造方法及び製造装置を説明するための断面図(その1)である。
【図8B】本発明の第6実施形態に係る光学素子の製造方法及び製造装置を説明するための断面図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の第1〜第6実施形態に係る光学素子の製造方法及び製造装置について、図面を参照しながら説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る光学素子の製造装置1を示す断面図である。
図2は、光学素子の製造装置1の要部を示す断面図である。
【0018】
図1及び図2に示すように、光学素子の製造装置1は、上型(成形型)2及び下型(成形型)3と、ヒータ(加熱部)4,5と、スペーサ6,7と、型支持部8,9と、チャンバ10と、可動プレート11と、固定プレート12と、複数の支柱13と、シリンダ固定板14と、加圧シリンダ(加圧部)15と、シリンダ可動軸16と、を備える。
【0019】
上型2及び下型3は、円柱形状を呈し、例えば、線膨張係数α=5.00×10−6[K/1]の超硬(商品名「J05」:富士ダイス(株)製)から形成されている。
上型2の底面には、光学素子材料100に形状を転写する成形面2aが形成されている。上型2の成形面2aと反対側の端部である上端には、加圧方向(図1及び図2における上下方向)に直交する断面積が、成形面2aを備える型本体部分(上型2の下部側の部分)2dよりも小さい円柱形状の小径部(小断面積部)2bが形成されている。また、上型2には、上端中央に開口し、下端付近まで延びるヒータ挿入孔2cが形成されている。
【0020】
下型3の上面には、光学素子材料100に形状を転写する成形面3aが形成されている。下型3の成形面3aと反対側の端部である下端には、加圧方向に直交する断面積が、成形面3aを備える型本体部分(下型3の上部側の部分)3dよりも小さい円柱形状の小径部(小断面積部)3bが形成されている。また、下型3には、下端中央に開口し、上端付近まで延びるヒータ挿入孔3cが形成されている。なお、小断面積部(小径部2b,3b)は、円柱形状でなく、多角柱形状などの他の形状であってもよい。
【0021】
ヒータ4,5は、棒状を呈し、上型2及び下型3のヒータ挿入孔2c,3cに挿入されている。また、ヒータ4,5は、上型2及び下型3を加熱することで、上型2及び下型3からの熱伝導により光学素子材料100を加熱する。
【0022】
スペーサ6,7は、上型2及び下型3と、型支持部8,9との間に配置されている。スペーサ6,7は、例えば、線膨張係数α=1.74×10−5[K/1]のステンレス(SUS304)から形成され、上型2及び下型3よりも線膨張係数が大きい。詳しくは後述するが、スペーサ6,7は、その温度変化によって、上型2及び下型3と型支持部8,9とを非接触にさせる状態に膨張し、又は上型2及び下型3と型支持部8,9とを接触させる状態に収縮する。
【0023】
スペーサ6,7は、例えば、小径部2b,3bの外周面に嵌合するリング状に形成され、上型2及び下型3の小径部2b,3bの周囲に配置されている。型支持部8,9は、スペーサ6,7を介して上型2及び下型3を支持している。なお、スペーサ6,7は、例えばネジで型支持部8,9に固定される。また、上型2及び下型3は、例えば、フック状の固定部材で型支持部8,9に固定されて、型支持部8,9に対して接触状態及び非接触状態の両方の状態となる。
【0024】
型支持部8,9は、円柱形状を呈する。型支持部8,9には、急冷冷却水路8a,9aが内部に形成されている。上側の型支持部8の上端及び下側の型支持部9の下端には、急冷冷却水路8a,9aよりも流路面積の小さい常時冷却水路8b,9bが形成されている。
【0025】
チャンバ10は、型支持部8,9の外周面に固定され、型支持部8,9の間に、不活性気体を充填された成形空間を構成する。チャンバ10の内部には、上型2、下型3、スペーサ6,7等が配置されている。
【0026】
可動プレート11は、上側の型支持部8の上端に固定され、複数の支柱13に沿って上下動する。
固定プレート12は、下側の型支持部9の下端と、複数の支柱13とに対して固定されている。
【0027】
シリンダ固定板14は、支柱13の上端近傍に設けられている。シリンダ固定板14の上面には、加圧用シリンダ15が配置される。この加圧用シリンダ15は、シリンダ可動軸16を上下動させることで、上述の可動プレート11を上下動させる。
【0028】
図3A〜図3Dは、本実施形態に係る光学素子の製造方法を説明するための断面図である。
図3A〜図3Dにおいては、光学素子材料100よりも下型3側について説明するが、上型2側についても対称的に同様のことがいえる。
【0029】
図3Aに示すように、ヒータ5は、図示しない制御部により制御されてON状態となり(ON状態を梨地で図示)、図1及び図2に示す光学素子材料100を例えばガラス転移点温度以上になるまで加熱する(加熱工程)。
【0030】
下型3の小径部3bは、図3Aに示すように、加熱工程開始前には型支持部9の上面に接触しているが、図3Bに示すように、加熱工程においては型支持部9の上面との間に隙間Gが生じる。これにより、下型3は、型支持部9によってスペーサ7を介して非接触で支持されて、型支持部9に対して非接触となる。
【0031】
なお、スペーサ7は、常温下では、下型3の小径部3bの外周面に嵌合するが、加熱工程等では、小径部3bよりも膨張するため、嵌合状態が解除される。また、型支持部9の常時冷却水路9bには、過熱防止のための常時冷却水W1が常時流れている。
【0032】
本実施形態では、ヒータ5が下型3のヒータ挿入孔3cに挿入されているため、下型3の温度上昇がスペーサ7に先行する。したがって、仮に、線膨張係数が下型3とスペーサ7とで同一であれば、下型3が膨張しやすくなる。そのため、加熱工程において、スペーサ7が下型3よりも膨張して下型3を小径部3bにおいて持ち上げる(隙間Gを生じさせる)のに十分なように、スペーサ7の高さ方向の厚さや線膨張係数を設計する必要がある。
【0033】
例えば、常温(20℃)での下型3の小径部3bの高さ方向の厚さを3.005mm、スペーサ7の高さ方向の厚さを3.000mmに設計した場合、線膨張係数が上述の値であると、加熱時の下型3の温度が300℃,スペーサ7の温度が200℃程度になった時点でスペーサ7の高さ方向の厚さが小径部3bの高さ方向の厚さよりも大きくなり、隙間Gが生じる。
【0034】
このように下型3が型支持部9から浮き上がることで、加熱工程において下型3の熱が直接的に型支持部9に熱伝導して逃げるのを防ぎ、そこからの加熱速度が一気に上がる。
加熱工程の後、加熱された図1及び図2に示す光学素子材料100は、上型2及び下型3によって加圧される(加圧工程)。この加圧工程では、図1に示す加圧用シリンダ15が、シリンダ可動軸16を下降させることで、可動プレート11、型支持部8及び上型2を下降させる。
【0035】
加圧工程の後、図3Cに示すように、ヒータ5は、図示しない制御部により制御されてOFF状態となり、加圧された光学素子材料100は例えばガラス転移点温度以下になるまで冷却される(冷却工程)。なお、この冷却工程においては、型支持部9の急冷冷却水路9aに急冷冷却水W2が流れ、型支持部9が冷却される。
【0036】
冷却工程では、スペーサ7が下型3よりも収縮し、図3Dに示すように、スペーサ7の高さ方向の厚さが小径部3bと同一になり、下型3と型支持部9とが接触する。本実施形態では、スペーサ7が下型3に先行して冷却され、スペーサ7が550℃、下型3が700℃の状態からの冷却と仮定すれば、下型3の温度が一定であったとして、スペーサ7が320℃程度で下型3の小径部3bが型支持部9の上面に接触する。なお、スペーサ7が下型3に比べ十分に早く冷却されるため、このような接触の切り替わりが実現される。
【0037】
これにより、下型3の熱が直接的に型支持部9に熱伝導して逃げるため、隙間Gが維持されたままの状態のようには下型3の冷却速度を低下させない。なお、下型3と型支持部9との接触面、並びに、スペーサ7の下型3及び型支持部9との接触面の表面粗さは、特に限定されないが、熱抵抗が小さくなるように例えば、算術平均粗さRa=0.8以下に仕上げることが望ましい。
【0038】
冷却工程の後、図1に示す加圧用シリンダ15が、シリンダ可動軸16を上昇させることで、可動プレート11、型支持部8及び上型2を上昇させ、その後、チャンバ10の図示しない搬出入口から製造された光学素子が取り出される。
【0039】
以上説明した第1実施形態においては、加熱工程では、上型2及び下型3(複数の成形型のうち少なくとも1つの成形型の一例)は、型支持部8,9によってスペーサ6,7を介して支持されて、型支持部8,9に対して非接触となり(隙間G)、冷却工程では、スペーサ6,7が熱収縮することにより、加熱工程において非接触であった上型2及び下型3と型支持部8,9とが接触する。
【0040】
そのため、加熱工程では、上型2及び下型3の熱が直接的に型支持部8,9に熱伝導して逃げるのを防ぎ、光学素子材料100の加熱時間を短縮することができる。また、冷却工程では、下型3の熱が直接的に型支持部9に熱伝導して逃げるため、隙間Gが維持されたままの状態のようには光学素子材料100の冷却速度を低下させない。
【0041】
更には、従来のように上型2及び下型3と型支持部8,9との間に真空度を調整可能な中間部材を配置する場合には構造が複雑になる。また、仮に、上型2及び下型3と型支持部8,9との接触状態を機械的に切り替える場合、切り替えのための構造が必要になる上、上型2及び下型3の位置ずれや傾きにより光学素子を高精度に製造することが困難になる。これらの場合に対して、本実施形態ではスペーサ6,7の膨張・収縮によって簡素な構成で接触状態を切り替えることができる。
【0042】
よって、第1実施形態によれば、簡素な構成で光学素子の製造サイクルタイムを短縮することができる。
【0043】
また、本実施形態においては、加熱工程では、上型2及び下型3は、ヒータ挿入孔2c,3cに挿入されたヒータ4,5により、内部から加熱される。そのため、加熱工程における光学素子材料100の加熱時間をより一層短縮することができ、したがって、光学素子の製造サイクルタイムをより一層短縮することができる。
【0044】
また、本実施形態では、スペーサ6,7の線膨張係数は、上型2及び下型3の線膨張係数よりも大きい。そのため、スペーサ6,7の膨張・収縮による上型2及び下型3と型支持部8,9との接触状態の切り替えをより簡素な構成で行うことができる。
【0045】
また、本実施形態では、上型2及び下型3は、成形面2a,3aと反対側の端部に小径部(小断面積部)2b,3bを有し、小径部2b,3bは、光学素子材料100を加圧する方向に直交する断面積が、成形面2a,3aを備える型本体部分2d,3dよりも小さい。そして、スペーサ6,7は、小径部2b,3bの周囲に配置されている。そのため、スペーサ6,7の膨張・収縮による上型2及び下型3と型支持部8,9との接触状態の切り替えをより簡素な構成で行うことができる。
【0046】
更には、本実施形態では、小径部(小断面積部)2b,3bは、円柱形状を呈し、スペーサ6,7は、リング状を呈する。そのため、接触状態の切り替えを更に簡素な構成で行うことができる。
【0047】
なお、本実施形態では、複数の成形型のうち少なくとも1つの一例として、上型2及び下型3の両方について、型支持部8,9との接触状態をスペーサ6,7により切り替えたが、1つの成形型のみについて接触状態を切り替えるようにしてもよい。
【0048】
また、本実施形態では、スペーサ8,9が上型2及び下型3(小径部2b,3b)の外周に配置される例について説明したが、スペーサ8,9は、例えば、上型2及び下型3に形成され上型2の上端及び下型3の下端に開口する凹部に収容されるようにするなど、配置場所は限定されない。
【0049】
また、本実施形態では、型支持部8,9に急冷冷却水路8a,9a及び常時冷却水路8b,9bの両方が形成される例について説明したが、一方のみが形成されるようにしても、両方とも形成されないようにしてもよい。急冷冷却水路8a,9a及び常時冷却水路8b,9bが両方とも形成されない場合でも、上型2及び下型3から型支持部8,9への熱伝導は生じるため、本実施形態による効果を得ることは可能である。
【0050】
<第2実施形態>
図4は、本発明の第2実施形態に係る光学素子の製造方法及び製造装置を説明するための断面図である。
【0051】
本実施形態では、上型2及び下型3のヒータ挿入孔2c,3cに挿入されたヒータ4,5に代えて、下型3及びスペーサ7の周囲に配置されたランプヒータ(加熱部)21を用いる点において上述の第1実施形態と相違し、その他の点は同様である。そのため、共通点についての説明は省略する。
【0052】
なお、本実施形態においても、図1及び図2に示す光学素子材料100よりも下型3側について説明するが、上型2側についても対称的に同様のことがいえる。また、第1実施形態のヒータ4,5を省略せず、上型2及び下型3に配置するようにしてもよい。
【0053】
図4に示すように、ランプヒータ21は、下型3及びスペーサ7の周囲に、これらと間隔を隔てて配置されている。
加熱工程においては、スペーサ7は、急冷冷却水路9a及び常時冷却水路9bが形成された型支持部9に固定されている分、型支持部9に直接接触していない下型3よりも温度上昇が遅れるが、第1実施形態のように下型3が内部から加熱される場合に比べ、下型3との温度上昇差を抑えることができる。
【0054】
本実施形態によっても、上述の第1実施形態と同様の構成については同様の効果を得ることができる。
更には、本実施形態においては、加熱工程では、スペーサ7,8と上型2及び下型3とは、ランプヒータ21により、周囲から加熱される。そのため、加熱工程において、スペーサ6,7の温度上昇を、上述の第1実施形態のように内部から上型2及び下型3を加熱する場合(上型2及び下型3の加熱をスペーサ6,7に先行して行う場合)よりも、上型2及び下型3の温度上昇に近づけることができる。
【0055】
そのため、スペーサ7,8と上型2及び下型3の小径部2b,3bとの高さ方向の厚さ、線膨張係数などについて、設計の自由度を高めることができる。また、スペーサ6,7の膨張・収縮による上型2及び下型3と型支持部8,9との接触状態の切り替えをより早く行うことができ、したがって、光学素子の製造サイクルタイムをより一層短縮することができる。
【0056】
<第3実施形態>
図5は、本発明の第3実施形態に係る光学素子の製造方法及び製造装置を説明するための断面図である。
【0057】
本実施形態では、上型2及び下型3のヒータ挿入孔2c,3cに挿入されたヒータ4,5に代えてスペーサ31を上型2及び下型3よりも先行して加熱する電熱線(加熱部)32を用いる点、並びに、スペーサ31を上型2及び下型3よりも先行して冷却する冷却水配管(冷却部)33を用いる点において上述の第1実施形態と相違し、その他の点は同様である。そのため、共通点についての説明は省略する。
【0058】
なお、本実施形態においても、図1及び図2に示す光学素子材料100よりも下型3側について説明するが、上型2側についても対称的に同様のことがいえる。また、第1実施形態のヒータ4,5及び第2実施形態のランプヒータ21を更に配置するようにしてもよい。
【0059】
図5に示すスペーサ31は、内部に電熱線32が配置され、外周に冷却水配管33が配置される点を除いて、上述の第1実施形態のスペーサ7と同様である。
電熱線32は、スペーサ31の内部に配置され、スペーサ31と同様にリング状を呈する。
冷却水配管33は、スペーサ31の外周面に嵌合するように配置され、スペーサ31及び電熱線32と同様にリング状を呈する。冷却水配管33の内部には、冷却水W3が循環する。
【0060】
加熱工程においては、電熱線32は、スペーサ31と下型3とのうちスペーサ31のみに接触するため、スペーサ31を下型3よりも膨張させやすくすることができる。
また、冷却工程においては、冷却水配管33は、スペーサ31と下型3とのうちスペーサ31のみに接触するため、スペーサ31を下型3よりも収縮させやすくすることができる。
【0061】
本実施形態によっても、上述の第1実施形態と同様の構成については同様の効果を得ることができる。
更には、本実施形態では、電熱線(加熱部)32は、スペーサ31を下型3よりも先行して加熱する。また、冷却水配管(冷却部)33は、スペーサ31を下型3よりも先行して冷却する。そのため、スペーサ31を上型2及び下型3よりも膨張・収縮させやすくすることができ、したがって、光学素子の製造サイクルタイムをより一層短縮することができる。また、スペーサ31の線膨張係数を上型2及び下型3の線膨張係数よりも小さくすることができるなど、設計の自由度を高めることができる。
【0062】
なお、本実施形態では、電熱線32及び冷却水配管33は、スペーサ31に接触するが、スペーサ31を上型2及び下型3よりも先行して加熱又は冷却するためには、加熱部(電熱線32)及び冷却部(冷却水配管33)は、スペーサ31に接触していなくともよい。
【0063】
<第4実施形態>
図6は、本発明の第4実施形態に係る光学素子の製造方法及び製造装置を説明するための断面図である。
【0064】
本実施形態では、第3実施形態の電熱線32及び冷却水配管33と同様の電熱線42及び冷却水配管43により加熱及び冷却されるスペーサ41が下端に薄肉部41aを有する点において上述の第3実施形態と相違し、その他の点は同様である。そのため、第1実施形態又は第3実施形態との共通点についての説明は省略する。
【0065】
なお、本実施形態においても、図1及び図2に示す光学素子材料100よりも下型3側について説明するが、上型2側についても対称的に同様のことがいえる。
図6に示すように、リング状のスペーサ41の下端に形成された薄肉部41aは、内径は、他の部分と同様であるが、外径は他の部分よりも小さい。
【0066】
スペーサ41は、上面の一部において下型3に接触し、薄肉部41aにおいて型支持部9の上面に接触する。
スペーサ41は、電熱線42により加熱されるとき、及び、冷却水配管43により冷却されるときの少なくとも一方(本実施形態では両方)において、下型3との接触面積A1が型支持部9との接触面積A2よりも大きくなるように配置されている。即ち、スペーサ41と下型3との接触面積A1は、電熱線42により加熱されるとき、及び、冷却水配管43により冷却されるときの少なくとも一方において、スペーサ41と型支持部9との接触面積A2よりも大きい。
【0067】
そのため、加熱工程において、スペーサ41の温度上昇が、スペーサ41から型支持部9への熱伝導により抑えられるのを防ぐことができる。また、電熱線42及び冷却水配管43によって、加熱工程において下型3を加熱しやすくすることができ、冷却工程において下型3を冷却しやすくすることができる。
【0068】
本実施形態によっても、上述の第1実施形態及び第3実施形態と同様の構成については同様の効果を得ることができる。
更には、本実施形態では、スペーサ41は、上型2及び下型3との接触面積A1が型支持部8,9との接触面積A2よりも大きくなるように配置されている。そのため、加熱工程において、スペーサ41の温度上昇が、型支持部9への熱伝導により抑えられるのを防ぐことができる。また、加熱工程において下型3を加熱しやすくすることができ、冷却工程において下型3を冷却しやすくすることができる。したがって、光学素子の製造サイクルタイムを更に短縮することができる。
【0069】
<第5実施形態>
図7は、本発明の第5実施形態に係る光学素子の製造方法及び製造装置を説明するための断面図である。
【0070】
本実施形態では、下型51が伝熱部52と光学面転写部53とに分割されている点、及び、ヒータ(加熱部)55が伝熱部52に挿入されている点において上述の第1実施形態と相違し、その他の点は同様である。そのため、共通点についての説明は省略する。
【0071】
なお、本実施形態においても、図1及び図2に示す光学素子材料100よりも下型51側について説明するが、上型2側についても対称的に同様のことがいえる。
下型51は、伝熱部52と、この伝熱部52に着脱可能に固定された光学面転写部53とを有する。
光学面転写部53(下型51)の上面には、光学素子材料100に形状を転写する成形面53aが形成されている。
【0072】
伝熱部52は、上部側の大径部52aと、下部側の小径部52bとを含む。
大径部52aには、例えば、棒状の複数のヒータ(加熱部)55が挿入されている。
小径部52bは、下型51の成形面53aと反対側の端部である下端に形成され、加圧方向に直交する断面積が加圧方向に隣接する部分(大径部52a)よりも小さい小断面積部の一例であり、円柱形状に形成されている。
【0073】
スペーサ7は、小径部52bの周囲に配置され、リング状を呈する。
光学面転写部53は、上述のとおり伝熱部52に着脱可能に固定されているため、例えば成形面54aの形状が異なる他の光学面転写部54と交換可能である。
【0074】
本実施形態によっても、上述の第1実施形態と同様の構成については同様の効果を得ることができる。
なお、電熱部52と光学面転写部53とは、異なる材料から形成されていてもよい。また、伝熱部52にヒータ55が配置されているのではなく、図4に示す第2実施形態のランプヒータ21を用いる場合のように加熱部が外部に配置されている場合でも、下型51及び上型のそれぞれを分割するようにしてもよい。
【0075】
<第6実施形態>
図8A及び図8Bは、本発明の第6実施形態に係る光学素子の製造方法及び製造装置を説明するための断面図である。
【0076】
本実施形態では、図8Bに示すスペーサ61がリング状ではなく矩形枠状である点において上述の第1実施形態と相違し、その他の点は同様である。そのため、共通点についての説明は省略する。なお、本実施形態においても、図1及び図2に示す光学素子材料100よりも下型3側について説明するが、上型2側についても対称的に同様のことがいえる。
【0077】
図8Aに示すように、第1実施形態等におけるスペーサ7はリング状を呈するが、図8Bに示すように、本実施形態におけるスペーサ61は、矩形枠状を呈する。
本実施形態によっても、上述の第1実施形態と同様の構成については同様の効果を得ることができる。
【0078】
なお、スペーサ7,61の形状は、リング状,矩形枠状に限らず、その他の形状としてもよいし、例えば、図1及び図2に示す下型3の外周の全周に亘って設けられている必要も、単一のスペーサ7,61である必要もない。
【符号の説明】
【0079】
1 光学素子の製造装置
2 上型(成形型)
2a 成形面
2b 小径部
2c ヒータ挿入孔
2d 型本体部
3 下型(成形型)
3a 成形面
3b 小径部
3c ヒータ挿入孔
3d 型本体部
4,5 ヒータ
6,7 スペーサ
8,9 型支持部
8a,9a 急冷冷却水路
8b,9b 常時冷却水路
10 チャンバ
11 可動プレート
12 固定プレート
13 支柱
14 シリンダ固定板
15 加圧シリンダ
16 シリンダ可動軸
21 ランプヒータ
31 スペーサ
32 電熱線(加熱部)
33 冷却水配管(冷却部)
41 スペーサ
41a 薄肉部
42 電熱線(加熱部)
43 冷却水配管(冷却部)
51 下型(成形型)
52 伝熱部
52a 大径部
52b 小径部
53,54 光学面転写部
53a,54a 成形面
55 ヒータ
61 スペーサ
100 光学素子材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子材料を加熱する加熱工程と、
加熱された前記光学素子材料を複数の成形型によって加圧する加圧工程と、
加圧された前記光学素子材料を冷却する冷却工程と、を含み、
前記加熱工程では、複数の前記成形型のうち少なくとも1つの前記成形型は、型支持部によってスペーサを介して支持されて、前記型支持部に対して非接触となり、
前記冷却工程では、前記スペーサが熱収縮することにより、前記加熱工程において非接触であった前記成形型と前記型支持部とが接触する、光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程では、前記型支持部に対して非接触となる前記成形型は、該成形型の内部から加熱される、請求項1記載の光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程では、前記スペーサと、前記型支持部に対して非接触となる前記成形型とは、周囲から加熱される、請求項1記載の光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程では、前記スペーサは、前記型支持部に対して非接触となる前記成形型よりも先行して加熱される、請求項1記載の光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記冷却工程では、前記スペーサは、前記型支持部に対して非接触となる前記成形型よりも先行して冷却される、請求項1又は請求項4記載の光学素子の製造方法。
【請求項6】
複数の成形型と、
それぞれ前記成形型を支持する複数の型支持部と、
複数の前記成形型のうち少なくとも1つの成形型と該成形型を支持する前記型支持部との間に配置されるスペーサと、を備え、
前記スペーサは、該スペーサの温度変化によって、前記成形型と前記型支持部とを非接触にさせる状態に膨張し、又は前記成形型と前記型支持部とを接触させる状態に収縮する、光学素子の製造装置。
【請求項7】
前記スペーサの線膨張係数は、該スペーサを挟んで前記型支持部により支持される前記成形型の線膨張係数よりも大きい、請求項6記載の光学素子の製造装置。
【請求項8】
前記スペーサを介して前記型支持部により支持される前記成形型は、成形面と反対側の端部に小断面積部を有し、
前記小断面積部は、光学素子材料を加圧する方向に直交する断面積が、前記成形面を備える型本体部分よりも小さく、
前記スペーサは、前記小断面積部の周囲に配置されている、請求項6又は請求項7記載の光学素子の製造装置。
【請求項9】
前記小断面積部は、円柱形状を呈し、
前記スペーサは、リング状を呈する、請求項8記載の光学素子の製造装置。
【請求項10】
前記スペーサを介して前記型支持部により支持される前記成形型よりも先行して、前記スペーサを加熱する加熱部を更に備える、請求項6から請求項9のいずれか1項記載の光学素子の製造装置。
【請求項11】
前記スペーサを介して前記型支持部により支持される前記成形型よりも先行して、前記スペーサを冷却する冷却部を更に備える、請求項6から請求項10のいずれか1項記載の光学素子の製造装置。
【請求項12】
前記スペーサと前記成形型との接触面積は、前記スペーサと前記型支持部との接触面積よりも大きい、請求項6から請求項11のいずれか1項記載の光学素子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【公開番号】特開2012−201591(P2012−201591A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71125(P2011−71125)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)