説明

光学素子の製造方法

【課題】型本体の温度上昇を制御して安定して高性能な光学素子を得る。
【解決手段】加熱軟化した光学素材20を一対の成形用型33(36)でプレスし光学素子を成形する光学素子の製造方法において、一対の成形用型33(36)の少なくとも一方に型本体33(36)の熱を吸収してその温度を目標温度に設定可能な蓄熱部材45を有し、一対の成形用型33(36)の少なくとも一方を目標温度に加熱する工程と、加熱した光学素材20を成形する工程と、成形した光学素材20を冷却する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱軟化した光学素材をプレスして光学素子を成形する光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、予備加熱をした光学素材を用いて、成形用型により成形を行う場合、通常、光学素材は金型温度よりも高く加熱される。光学素材の変形を短時間で行えるようにするためと、成形用型への移送途中で、光学素材が多少なりとも冷却されることを考慮するためである。
【0003】
この光学素材を成形用型の成形面上に載置すると、光学素材から成形用型に熱エネルギーが移動して一時的に成形用型の温度が上昇する。この場合、成形用型の温度上昇を制御することができないと、1個ごとの製品に再現性がなく安定して高性能な光学素子を得ることができない。
【0004】
これに対し、特許文献1には、予備加熱した光学素材を成形用型に供給し、これを成形用型で成形する旨の技術が開示されている。また、その実施例1には、プレス開始の瞬間に光学素材の温度は急激に低下し、成形用型の温度はわずかに上昇する事実が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3201887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、成形用型の温度上昇は制御していないため、光学素材と成形用型の温度が一致する温度と時間、及びその後の冷却勾配が光学素材ごとにばらつくことが考えられる。このため、1個ごとの製品に再現性がなく、安定して高性能な光学素子を得ることができない。
【0007】
本発明は斯かる課題を解決するためになされたもので、型本体の温度上昇を制御して安定して高性能な光学素子を得ることのできる光学素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
光学素子の製造方法は、
加熱軟化した光学素材を一対の成形用型でプレスし光学素子を成形する光学素子の製造方法において、
前記一対の成形用型の少なくとも一方に型本体の熱を吸収してその温度を目標温度に設定可能な蓄熱部材を有し、
前記一対の成形用型の少なくとも一方を前記目標温度に加熱する工程と、
加熱した前記光学素材を成形する工程と、
成形した前記光学素材を冷却する工程と、を備える。
【0009】
また、前記光学素子の製造方法において、
前記蓄熱部材が、前記光学素材の徐冷点以上でかつ軟化点以下の融点をもつ材料であるようにしてもよい。
【0010】
また、前記光学素子の製造方法において、
前記蓄熱部材が、前記光学素材の徐冷点以上でかつ軟化点以下の変態点をもつ材料であるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、型本体の温度上昇を制御して安定して高性能な光学素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施の形態の光学素子の製造装置の全体構成を示す図である。
【図2】搬送アームの構成を示す平面図である。
【図3】下型の内部構造の断面図である。
【図4】下型に保持部材を嵌合した状態の断面図である。
【図5】光学素材と上型(及び下型)との温度特性を示す図である。
【図6】第2の実施の形態の光学素子の製造装置の全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態の光学素子の製造装置の全体構成を示す図である。
【0014】
この製造装置10は、光学素材20の搬送方向(矢印方向)に沿って隣接配置された加熱室11と成形室12とを有している。加熱室11は、その周囲を筐体13に覆われ、成形室12は、その周囲を筐体14に覆われている。筐体13と筐体14との境界は、隔壁19で仕切られている。
【0015】
また、加熱室11と成形室12には、光学素材20の搬送方向の上流側から下流側に沿って、順に搬入口16、連通口17、及び搬出口18が形成されている。光学素材20は、後述する搬送アーム25によって、これら搬入口16、連通口17、及び搬出口18を通って搬送される。
【0016】
加熱室11には、素材加熱手段としてのランプヒータ21が上下に並んで配置されている。搬入された光学素材20は、このランプヒータ21によって成形可能な粘度になるまで加熱される。本実施の形態では、光学素材20として、例えば軟化点698℃のガラス素材を用いた。そして、この加熱室11で、光学素材20は718℃に加熱される。
【0017】
成形室12には、型加熱手段としてのランプヒータ22が上下に並んで配置されている。また、この成形室12を覆う筐体14の天井面には、上シリンダ31に連結された上加熱プレート32を介して上型(成形用型)33が固定されている。この上型33には、その型中心線O方向の一端(上加熱プレート32と反対側)に成形面33aが形成されている。
【0018】
また、筐体14の底面には、下シリンダ34に連結された下加熱プレート35を介して下型(成形用型)36が固定されている。この下型36には、その型中心線O方向の一端(下加熱プレート35と反対側)に成形面36aが形成されている。
【0019】
こうして、上型33の成形面33aと下型36の成形面36aとが、型中心線Oに沿って対向配置されている。すなわち、上型33及び下型36の夫々の型中心は、型中心線Oと一致するように位置決めされている。
【0020】
上シリンダ31は、上型33を型中心線Oに沿って昇降移動させて成形素材20をプレス成形するために用いられる。また、下シリンダ34は、搬送アーム25によって成形室12に搬入された光学素材20に対し、下方から下型36を型中心線Oに沿って上昇させて所定高さで位置決め保持するために用いられる。
【0021】
上加熱プレート32内には、上型33を加熱する型加熱手段としてのカートリッジヒータ37が埋設されている。同様に、下加熱プレート35内には、下型36を加熱する型加熱手段としてのカートリッジヒータ38が埋設されている。
【0022】
なお、上加熱プレート32と下加熱プレート35内には、上型33と下型36を冷却するための不図示の冷却管が夫々配管されている。
【0023】
また、前述したランプヒータ22は、上型33及び下型36の外周を囲むように配置されている。これにより、上型33及び下型36は、均一に加熱されるようにランプヒータ22によっても加熱される。
【0024】
さらに、上シリンダ31の上部には検出板41が固定されている。また、筐体14の上表面には、この検出板41の上下移動量を検出するための変位計42が設置されている。この変位計42は制御部40に接続されている。これにより、上シリンダ31の変位量が変位計42で検出されるようになっている。上シリンダ31の変位量を検出することで、上型33の下降量(プレス量)を検出することができる。
【0025】
上型33の下降量(プレス量)を検出することで、成形される光学素材20の中心肉厚を制御することができる。
こうして、成形室12において光学素材20が所望の形状にプレスされる。さらに、プレス成形により成形された光学素材20(成形品)は、搬送アーム25によって成形室12から搬出口18を通って外部に搬出される。
【0026】
また、図1に示すように、光学素材20は、保持部材24に保持された状態で搬送アーム25によって搬送される。この保持部材24は、光学素材20を保持する円筒状の枠体24aと、この枠体24aから内側に突出する支持片24bとを有している。
【0027】
なお、この保持部材24は、枠体24aの寸法及び円筒度と支持片24bの平面度等が高精度に加工されている。光学素材20は、その外周を保持部材24の枠体24aに収容されるとともに、その下面を保持部材24の支持片24bに支持された状態で搬送される。
【0028】
図2は、搬送アーム25の構成を示す平面図である。
同図2に示すように、搬送アーム25は、アーム部材26、把持部材28、及び操作部材27を有している。アーム部材26は直線状の棒状をなし、把持部材28は平面視コ字状の把持片28a,28bを有している。また、操作部材27は、把持片28a,28bを矢印方向に開閉操作する操作片27a,27bを有している。
【0029】
こうして、把持片28a,28bを矢印方向に開閉操作することで、光学素材20が保持された保持部材24を把持したり解放したりすることができる。
加熱室11には、保持部材24に保持された光学素材20が搬入口16から搬送アーム25によって搬入される。また、加熱室11にて加熱された光学素材20は、この搬送アーム25によって連通口17から成形室12内に移送される。
【0030】
なお、本実施形態では、搬送アーム25を搬送しやすいようにするため、加熱室11と成形室12に夫々搬入口16、連通口17、及び搬出口18を開放状態で形成した場合について説明したが、これに限らない。例えば、これら搬入口16、連通口17、及び搬出口18に夫々シャッタを設け、搬送アーム25を加熱室11から成形室12等に搬送するたびに、このシャッタを開閉するようにしてもよい。
【0031】
これにより、加熱室11や成形室12内の熱を逃がさないようにして、効率的に加熱することができる。
次に、成形用型としての上型33及び下型36の詳細構造について説明する。
【0032】
図3は、下型36の内部構造の断面図である。
下型36は、外観が段付き円柱状の型本体36と、この型本体36の熱を吸収してその温度を目標温度に設定可能な蓄熱部材45と、この蓄熱部材45を常時一側に付勢する付勢手段としてのセラミックバネ等の弾性部材47と、を有している。
【0033】
なお、上型33も同様の構成の型本体33等を有するが、ここでは重複説明を避けるため下型36の構成についてのみ説明する。
型本体36は内部が空洞になっており、その空洞部分に蓄熱部材45が収容されている。この蓄熱部材45は、弾性部材47によって、成形面36aの裏面側に常時付勢されている。本実施の形態では、蓄積部材45は、一端(上側)を平面形状(例えば円柱形状)とし、その平面を成形面36aの裏面側の平面に隙間なく当接させている。この蓄熱部材45の詳細については後述する。
【0034】
型本体36は、その型中心線O方向の一端(上型33との対向面側)に前述した成形面36a、他端に平板状の蓋体46、中間に円筒部36bを有している。成形面36aは凸球面状又は凸非球面状をなし、鏡面に仕上げられている。また、蓋体46は弾性部材47の一端を支持するとともに、内部の空洞部分を閉塞する役目をなしている。
【0035】
成形面36aの外径は円筒部36bの外径よりも小さく形成されている。これにより、成形面36aとその外側の円筒部36bとの間には、段差部50が形成されている。
この段差部50は、型中心線Oに対して平行な円筒面50aと垂直な水平面50bとを有している。この段差部50に、前述した保持部材24が同軸状に嵌合される。
【0036】
図4は、下型36に保持部材24を嵌合した状態の断面図である。
同図4に示すように、下型36の上部に形成された段差部50に、前述した保持部材24の枠体24aが上方から嵌合されて位置決めされる。
【0037】
すなわち、光学素材20を保持した保持部材24は、搬送アーム25によって下型36の上方位置に移動される。次いで、保持部材24の円筒状の枠体24aが下型36の外周の円筒部36bに嵌入される。さらに、保持部材24の支持片24bが段差部50の水平面50bに当接するまで、保持部材24が下降移動される。
【0038】
これにより、保持部材24に保持された光学素材20は、成形面36aに押されて保持部材24の枠体24a内を所定位置まで上昇移動する。こうして、光学素材20は、その光軸中心が型中心線Oと一致した状態で成形面36a上に精度よく載置される。
【0039】
なお、型本体36の材質は、例えばタングステンカーバイド(WC)等の超硬合金で構成されている。また、保持部材24の材質も型本体36と同じ超硬合金で構成されている。ただし、型本体36と保持部材24の材質は異なってもよい。また、その材質の種類も超硬合金に限るものではない。例えば、超硬合金以外の他の金属やセラミックス等であってもよい。
【0040】
次に、蓄熱部材45の詳細について説明する。
この蓄熱部材45は、目標とする制御温度付近で例えば固体から液体に相転移する材料で構成される。通常の場合、金型温度よりも高く加熱された光学素材20を成形型の成形面上に載置すると、光学素材から成形型に熱エネルギーが移動して一時的に成形型の温度が上昇する。
【0041】
本実施形態では、蓄熱部材45として、光学素材20の徐冷点(617℃)以上で、かつ軟化点(698℃)以下の融点(660℃)を持つアルミニウムを用いている。なお、ここでの徐冷点とは、例えばその温度以下ではガラスの歪が解消されない温度であり、また、軟化点とは、例えばガラスが自重で顕著に軟化変形しはじめる温度という意味で用いている。また、このアルミニウム(蓄熱部材45)は、弾性部材47によって型本体36の成形面36a側に常時付勢されている。
【0042】
このため、アルミニウム(蓄熱部材45)が所定温度に加熱されて、その融点(660℃)に達すると、それ以後、光学素材20から型本体36を介してアルミニウム(蓄熱部材45)に伝わる熱エネルギーは、アルミニウム(蓄熱部材45)の融解熱として使われる。これにより、型本体36の温度は、オーバーシュートすることなくスムーズにアルミニウム(蓄熱部材45)の融点(660℃)と同じ温度に制御される。こうして、型本体36の過度の温度上昇が抑えられる。
【0043】
なお、本実施形態では、蓄熱部材45として、目標とする制御温度付近の融点(660℃)を持つアルミニウムを用いた場合について説明したが、これに限らない。例えば、目標とする制御温度付近で相変態する材料(結晶構造が変化する材料)を用いてもよい。
【0044】
ここで、相変態とは、温度を上昇又下降させたときに、結晶構造が変化する現象をいい、その現象が起こる温度を変態点と呼ぶ。この場合、蓄熱部材45の温度がその変態点になると、蓄熱部材45に与えられる熱エネルギーは結晶構造の変化のために使われ、蓄熱部材45自身の温度はそれ以上は上昇しないという性質を有する。
【0045】
本実施形態では、蓄熱部材45として融点660℃のアルミニウムを用いたことで、型本体36を過度に加熱したとしても、型本体36に与えられた熱は専らアルミニウムの融解熱として使われる。このため、アルミニウムが型本体36の熱を吸収してくれる結果、型本体36の温度は660℃に維持される。
【0046】
また、本実施形態では、このアルミニウム(蓄熱部材45)が弾性部材47によって成形面36aの裏面側に常時付勢されている。これは、アルミニウム(蓄熱部材45)が融点(又は変態点)に至った以降にも、アルミニウム(蓄熱部材45)が成形面36aの裏面側に押し付けられて密接するようにするためである。
【0047】
また、成形面36aの裏面側には温度測定手段としての熱電対48が配置されている。この熱電対48により、成形面36aの実際の温度を測定している。こうして、熱電対48により型本体36が過度に温度上昇しないように監視することができる。
【0048】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図1において、搬送アーム25により、保持部材24に保持された光学素材20を加熱室11内に搬入する。本実施の形態では、光学素材20として、徐冷点617℃、転移点643℃、屈伏点668℃、軟化点698℃のガラス素材を用いた。
【0049】
次に、加熱室11のランプヒータ21に通電することにより、光学素材20を成形可能な粘度に加熱、軟化させる。具体的には、ランプヒータ21による光学素材20の加熱温度を718℃に設定する。この温度は、光学素材20の軟化点698℃よりも高い温度である。
【0050】
加熱室11において、光学素材20の加熱を終了した後、搬送アーム25により、保持部材24に保持されたままの光学素材20を成形室12内へ移送する。さらに、搬送アーム25に支持したまま、光学素材20を上型33と下型36との間に配置する。この場合、上型33と下型36とは、上下方向に所定距離だけ離間した状態で停止している。
【0051】
また、成形室12において、上型33及び下型36の温度は655℃に加熱する。この温度は、上型33及び下型36の目標加熱温度(660℃)に近い温度である。このときの加熱は、成形室12内のランプヒータ22と、型内蔵のカートリッジヒータ37,38に通電することによって行う。
【0052】
次いで、下シリンダ34を駆動して下型36を光学素材20の高さ位置まで上昇させる。このとき、光学素材20は保持部材24を介して搬送アーム25に支持されている。さらに、図4に示すように、下型36の外周の円筒部36bに保持部材24の枠体24aの内周面を嵌合させるとともに、段差部50の水平面50bに保持部材24の支持片24bを当接させる。
【0053】
これに伴い、光学素材20は成形面36aに押されて枠体24a内を少し上方に移動する。この時点で、光学素材20の光軸中心は型中心線Oに一致するような加工精度に設定されている。
【0054】
こうして、下型36の段差部50に保持部材24を嵌入する作業を終了する。次いで、上シリンダ31を駆動して上型33を下降させる。そして、上型33の成形面33aが光学素材20に接触したら上型33の下降を停止する。ここで、搬送アーム25の操作部材27を操作して保持部材24から搬送アーム25を外す。
【0055】
この時点からプレス成形を開始する。すなわち、上型33と下型36を型中心線Oに沿って相対的に接近移動させ、所望の中心肉厚になるまで光学素材20をプレス成形する。この場合、光学素材20が所望の中心肉厚になったかどうかは、変位計42による測定によって行う。
【0056】
図5は、このときの光学素材20と上型33(及び下型36)との温度特性を示す図である。
同図5において、光学素材20の温度は、光学素材20と上型33(及び下型36)とが接触を開始したA点(成形開始点)から下がり、一方、上型33(及び下型36)の温度はわずかに上昇する。これは、光学素材20の加熱温度は718℃に対し、上型33(及び下型36)の加熱温度は655℃になっているためである。
【0057】
しかし、上型33(及び下型36)の温度は目標温度としての660℃は超えることはない。これは、蓄熱部材45としてのアルミニウムの融点は660℃であり、上型33(及び下型36)が光学素材20から受ける熱量はアルミニウムの融解熱として相転移に使われるためである。
【0058】
なお、蓄熱部材45の材料は、光学素材20の熱特性、成形条件によって適宜選択するのが好ましい。
この状態で、数秒間保持した後に、B点(冷却開始点)から上型33(及び下型36)の冷却を開始する。ここで、数秒間保持するのは、光学素材20と上型33(及び下型36)の温度が揃った時点から冷却を開始したいためである。冷却は、ランプヒータ22及びカートリッジヒータ37,38への通電を停止し、不図示の冷却管に冷却水を流して行う。
【0059】
冷却は、上型33(及び下型36)が所定の温度(620℃)になるまで冷却する。冷却が完了したら、再び搬送アーム25により保持部材24を掴み、さらに、上型33及び下型36を夫々上下に所定距離だけ離反するように移動させる。
【0060】
最後に、搬送アーム25により保持部材24を成形室12から搬出する。
本実施形態によれば、光学素材20と上型33(及び下型36)が接触した後の上型33(及び下型36)の温度を短時間で目標温度に安定させることができる。これに伴い、光学素材20と上型33(及び下型36)の温度が一致するまでの時間も安定する。つまり、個々の光学素材20の熱履歴が安定化するので、成形された光学素子の形状も安定化する。また、温度が安定するまでの時間が短いので、作業のサイクルタイムを短縮することができる。
【0061】
さらに、一般に上型33(及び下型36)の温度変化(上昇、ばらつき)を小さくしようとすると、光学素材20の体積よりも大きな体積(熱容量)の成形用型が必要となる。しかし、本実施形態では、型本体33(及び36)の内部に蓄熱部材45を設けたので、小さな体積(小熱容量)の上型33(及び下型36)であっても、その上型33(及び下型36)の温度変化を小さく制御することができる。
【0062】
なお、本実施の形態では、成形面36aの裏面を平面としたが、この成形面36aの裏面と成形面36aとの型中心線O方向の距離がいずれの位置でも一定になるように成形面36aの裏面を加工しても良い。このとき、蓄積部材45の一端は、成形面36aの裏面に隙間なく当接できるように、成形面36aの裏面に合わせた形状に加工する。このような構成にすることにより、成形面36aの温度分布が発生しにくくなり、高精度な光学素子を得ることができる。
[第2の実施の形態]
図6は、第2の実施の形態の光学素子の製造装置の全体構成を示す図である。なお、第1の実施の形態と同一又は相当する部材には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0063】
本実施形態では、上型33及び下型36等の構造は第1の実施の形態と同じである。
また、蓄熱部材45も同じアルミニウム(融点660℃)を用いている。ただし、第1の実施の形態で用いた加熱室11は設けられていない。なお、本実施形態では、上型33及び下型36の双方に蓄熱部材45を設けた場合を想定しているが、これに限らない。例えば、下型36のみに蓄熱部材45を設けてもよい。この場合でも、略同様の効果が得られると考えられるためである。
【0064】
成形室12には、光学素材20の搬送方向の上流側に入口シャッタ52が設けられている。この入口シャッタ52を介して、保持部材24に保持された光学素材20が成形室12に搬入、又は成形室12から搬出される。光学素材20の搬入、搬出は搬送アーム25によって行われる。また、筐体14の天井面にはガス導入口53が設けられている。このガス導入口53から、窒素ガス(Nガス)等の非酸化性ガスが導入可能となっている。
【0065】
さらに、筐体14の入口近傍の側面下部には、バルブ54を介して真空ポンプ55が配設されている。このバルブ54を開き、真空ポンプ55で成形室12内の空気を吸引することにより、成形室12内を真空引きすることができる。
【0066】
その他、上シリンダ31、変位計42、及び制御部40等については第1の実施の形態と同様であるが、下シリンダは設けられていない。本実施形態では、下型36に対し上型33を型中心線Oに沿って昇降移動させる構成のためである。
【0067】
次に、本実施形態の作用について説明する。
入口シャッタ52を開き、保持部材24に保持された光学素材20を搬送アーム25により成形室12内に搬入する。本実施形態では、光学素材20として、徐冷点595℃、転移点608℃、屈伏点658℃、軟化点713℃のガラス素材を用いた。
【0068】
そして、下型36に対し上型33を上下に離間した状態で、保持部材24に保持された光学素材20を下型36の上方に移動させる。さらに、下型36の段差部50に保持部材24を嵌合させる。
【0069】
次に、保持部材24を掴んでいた搬送アーム25を解放し、この搬送アーム25を成形室12から退避させる。続いて、入口シャッタ52を閉じる。次いで、バルブ54を開き真空ポンプ55を駆動して成形室12内の空気を吸引して真空引きする。この真空引き後、真空ポンプ55の駆動を停止し、ガス導入口53から成形室12内に窒素ガス(Nガス)等の非酸化性ガスを導入する。
【0070】
次いで、成形室12内のランプヒータ22とカートリッジヒータ37,38に通電することで、光学素材20と上型33及び下型36を同時に加熱する。こうして、光学素材20と上型33及び下型36を660℃に加熱する。
【0071】
この場合、急速加熱を行っても上型33(及び下型36)の温度は目標温度としての660℃は超えない。これは、前述したように、蓄熱部材45としてのアルミニウムの融点は660℃であり、上型33(及び下型36)が光学素材20から受ける熱量はアルミニウムの相転移に使われるためである。
【0072】
なお、蓄熱部材45の材料は、光学素材20の熱特性、成形条件によって適宜選択するのがよい。
光学素材20と上型33及び下型36の温度が成形温度(660℃)に達したら、下型36に対し上型33を接近移動させ、プレス成形を行う。こうして、変位計42の測定によって光学素材20が所定の中心肉厚まで成形したら、次に冷却を開始する。
【0073】
冷却は、不図示の冷却管に冷却水を流して行う。所定の温度まで冷却が完了した後、上型33を上昇させる。このときの、光学素材20と上型33及び下型36の冷却温度は100℃以下とする。
【0074】
次いで、再度搬送アーム25により、保持部材24に保持された光学素材20(成形品)を把持して成形室12の外部に取り出す。
本実施形態のように、1サイクルごとに下型36に対して上型33の昇降動作を行う成形方法では、光学素材20と上型33及び下型36の加熱時間を短縮するために急加熱を行いたいとの要請が強い。一方、目標加熱温度に近づくにつれ、成形型の温度特性がオーバーシュートしないようにするためには、加熱を緩める必要がある。
【0075】
しかし、本実施形態によれば、上型33(及び下型36)にアルミニウム(蓄熱部材45)を備えたことで、このアルミニウム(蓄熱部材45)の溶融が始まれば上型33(及び下型36)の温度上昇を抑制することができる。このため、目標加熱温度に近づいてもオーバーシュートを生じることなく上型33(及び下型36)を急加熱を行うことができる。
【0076】
これにより、サイクルタイムを短縮することができ、しかも温度安定性のよい安定した光学素子の製造を行うことができる。
【符号の説明】
【0077】
10 光学素子の製造装置
11 加熱室
12 成形室
13 筐体
14 筐体
15 熱電対
16 搬入口
17 連通口
18 搬出口
19 隔壁
20 光学素材
21 ランプヒータ
22 ランプヒータ
24 保持部材
24a 枠体
24b 支持片
25 搬送アーム
26 アーム部材
27 操作部材
27a 操作片
27b 操作片
28 把持部材
28a 把持片
28b 把持片
31 上シリンダ
32 上加熱プレート
33 上型
33a 成形面
34 下シリンダ
35 下加熱プレート
36 下型
36 型本体
36a 成形面
36b 円筒部
37 カートリッジヒータ
38 カートリッジヒータ
40 制御部
41 検出板
42 変位計
45 蓄熱部材
46 蓋体
47 弾性部材
48 熱電対
50 段差部
50a 円筒面
50b 水平面
52 入口シャッタ
53 ガス導入口
54 バルブ
55 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱軟化した光学素材を一対の成形用型でプレスし光学素子を成形する光学素子の製造方法において、
前記一対の成形用型の少なくとも一方に型本体の熱を吸収してその温度を目標温度に設定可能な蓄熱部材を有し、
前記一対の成形用型の少なくとも一方を前記目標温度に加熱する工程と、
加熱した前記光学素材を成形する工程と、
成形した前記光学素材を冷却する工程と、を備える
ことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記蓄熱部材が、前記光学素材の徐冷点以上でかつ軟化点以下の融点をもつ材料である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記蓄熱部材が、前記光学素材の徐冷点以上でかつ軟化点以下の変態点をもつ材料である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−63911(P2013−63911A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−281606(P2012−281606)
【出願日】平成24年12月25日(2012.12.25)
【分割の表示】特願2008−290358(P2008−290358)の分割
【原出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)