説明

光学素子用の遮光膜及びその製造方法、並びに光学素子

【課題】高温高湿環境下での遮光膜の剥れを抑制しつつ、シクロペンタノン等の有機溶媒による遮光膜からの染料溶出を防止することを可能にする光学素子用の遮光膜を提供する。
【解決手段】光学素子に接して配置され、少なくとも樹脂組成物と、着色剤と、硬化剤と、からなる光学素子用の遮光膜であって、前記遮光膜の空気界面側の硬さが前記光学素子側の硬さよりも硬いことを特徴とする、光学素子用の遮光膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子用の遮光膜及びその製造方法、並びにこの光学素子用の遮光膜を有する光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子用の遮光膜は、主に光学素子の構成部材であるガラスの表面に形成される塗膜である。ここでガラスはレンズであってもよいしプリズムであってもよい。またその他の光学用ガラスであってもよい。
【0003】
ここで光学素子用の遮光膜の役割について、図面を参照しながら説明する。図1は、光学素子用の遮光膜と、この遮光膜を設けたレンズの一例を示す概略図である。図1に示されるように、光学素子用の遮光膜1は、レンズ2の任意の外周部分に形成されている。ここでレンズ2に入射する光のうちレンズ2の外周部分に当たらない光(入射光3)は、透過光4として透過する。一方、レンズ2に入射する光のうちレンズ2の外周部分に当たる光(入射光5)は、レンズ2の外周部分に設けられている遮光膜1に当たる。仮に、図2の遮光膜1が形成されていない場合では、レンズ2の外周部分に当たった光は内面反射して画像に関係のない内面反射光6としてレンズ2の外に出て行く。この内面反射光6は、画像を悪くする要素であるフレアやゴースト等の原因になる。このためフレアやゴースト等の発生を防ぐ目的でレンズ2の外周に遮光膜1を設ける必要がある。ここで遮光膜1を設けることにより、斜めからの入射光5に対する内面反射を減らすことが可能となる。これにより画像に悪影響を与える内面反射光6が減少するので、フレアやゴーストを防止することが可能である。
【0004】
また図面を参照しながら、内面反射の原理について詳しく述べる。図2は、内面反射光の進行方向を示す模式図である。尚、図2は、遮光膜1がレンズ2の外周表面に塗布されている態様を示すものである。図2に示されるように、内面反射は、主に2つの界面、即ち、レンズ2と遮光膜1との界面21及び遮光膜1と空気との界面22で起こる。即ち、レンズ2内を通る入射光3が界面21に当たると、入射光3はこの界面21において反射する光(第一の反射光7)と遮光膜1を透過する光(透過光8)とに分かれる。また透過光8は、界面12において反射する。このときの反射光が第二の反射光9となる。ここで第一の反射光7については、遮光膜1の屈折率をレンズ2の屈折率に近づけることで低減することが可能である。
【0005】
従来、光学素子用遮光膜として、例えば、特許文献1にて開示されているコールタールを用いて内面反射を低減させる光学素子用遮光膜(反射防止膜)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭47−32419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、遮光膜には上述した内面反射防止特性に加えて、遮光膜の形成後の後処理工程で用いられる有機溶剤への耐性(耐溶剤性)も要求される。
【0008】
しかしながら特許文献1にて提案された遮光膜では、耐溶剤性が悪く、特に、シクロペンタノンのような樹脂に対してアタック性の強い有機溶剤が付着するだけでも遮光膜中の染料が溶出してしまい外観不良を引き起こす問題がある。
【0009】
ところで染料の溶出は、遮光膜に含まれる架橋構造が十分でない場合に発生する。このため、遮光膜を硬化させる際に、遮光膜への加熱温度を高くして遮光膜の硬化度を上げると染料の溶出を低減させることができる。しかしながら、遮光膜への加熱温度を上昇させると遮光膜の熱応力が増大するため、形成した遮光膜を高温高湿環境下に晒したときに遮光膜とレンズとの界面で膜剥れが発生することがある。そのため遮光膜の耐溶剤性と、耐高温高湿性を両立させることが困難であった。
【0010】
本発明は、上述した背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温高湿環境下での遮光膜の剥れを抑制しつつ、シクロペンタノン等の有機溶媒による遮光膜からの染料溶出を防止することを可能にする光学素子用の遮光膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光学素子用の遮光膜は、光学素子に接して配置され、少なくとも樹脂組成物と、着色剤と、硬化剤と、からなる光学素子用の遮光膜であって、
前記遮光膜の空気界面側の硬さが前記光学素子側の硬さよりも硬いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高温高湿環境下での遮光膜の剥れを抑制しつつ、シクロペンタノン等の有機溶媒による遮光膜からの染料溶出を防止することを可能にする光学素子用の遮光膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】光学素子用の遮光膜と、この遮光膜を設けたレンズの一例を示す概略図である。
【図2】内面反射光の進行方向を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の光学素子用の遮光膜(以下、単に「遮光膜」ということがある。)は、光学素子に接して配置され、少なくとも樹脂組成物と、着色剤と、硬化剤と、からなる。そして本発明の光学素子用の遮光膜は、前記遮光膜の空気界面側の硬さが前記光学素子側の硬さよりも硬いことを特徴とするものである。
【0015】
ところで本発明の遮光膜は、硬化性樹脂等の樹脂材料を硬化させることによって形成される薄膜である。このため本発明の遮光膜は、一定の硬さ(膜硬度)を有する薄膜になる。ところで薄膜の硬さは、当該薄膜のマトリックスとなる樹脂材料の架橋密度に依存される。即ち、樹脂材料の架橋密度が大きい場合は膜自体が緻密な構造になるため膜が硬くなる。一方で、樹脂材料の架橋密度が小さい場合は膜自体が粗な構造になるため膜が軟らかくなる。
【0016】
上述したように、本発明の遮光膜は、空気界面側(光学素子と接しない面側)と光学素子側(光学素子と接する面側)の硬さが異なっており、空気界面側の方が光学素子側よりも硬いことを特徴とするものである。
【0017】
遮光膜に含まれる着色剤が膜から溶出したり、外部から侵入し得る汚れが膜の内部に侵入したりするのを防ぐことを考慮すると、特に、遮光膜の空気界面側は架橋密度が大きければ大きいほどよい。言い換えると、遮光膜の空気界面側は硬ければ硬いほどよい。しかし遮光膜の光学素子側において、遮光膜の空気界面側と同じ程度の架橋密度を要求すると、遮光膜の硬さが硬ければ硬いほど遮光膜の応力が増大するため、形成した遮光膜を高温高湿環境下に晒したときに遮光膜とレンズとの界面で膜剥れが発生することがある。
【0018】
従って、本発明においては、遮光膜の光学素子側の膜の硬さは遮光膜の空気界面側よりも軟らかくする必要がある。ただし、膜自体が軟らかすぎると、膜中に含まれる着色剤が膜から溶出することがある。
【0019】
このため本発明の遮光膜は、空気界面側及び光学素子側のいずれにおいても所定の硬さ以上の硬さが要求される。具体的には、鉛筆硬度3H以上の膜硬度を有するのが望ましい。
【0020】
また上述したように、薄膜の硬さが樹脂材料(マトリックス)の架橋密度に依存されることを考慮すると、樹脂材料の架橋密度を利用して薄膜の硬さの評価を行うことは可能である。係る場合、FT−IR等の機器によって樹脂材料の測定を行って樹脂材料の架橋密度を直接評価できるのが望ましい。ただし樹脂材料の架橋密度を直接評価しづらい場合は、作製した薄膜について耐溶剤性の実験を行って、膜中に含まれる着色剤の溶出の具合を評価することによって樹脂材料の架橋密度を間接的に評価することは可能である。樹脂材料の架橋密度が大きければその分だけ樹脂材料による着色剤の閉じ込め効果が大きくなるからである。逆に言えば、遮光膜の耐溶剤性が良好であれば、その遮光膜の架橋密度は大きいものであり、その遮光膜自体硬い膜であることがいえる。
【0021】
本発明においては、遮光膜を作製する際には、塗膜を形成した後、膜に光を照射して膜を硬化させる工程(光硬化工程)と、膜を加熱して膜を硬化させる工程(熱硬化工程)と、をこの順で行う。この順番で行うと、光硬化工程において遮光膜の空気界面側の表面から硬化が始まる。そのため、遮光膜の空気界面側の表面は着色剤を閉じ込めるのに最適な分子構造をとることができる。そして次の工程(熱硬化工程)により膜全体が硬化されるが、遮光膜の空気界面側の表面は、着色剤を閉じ込めるのに最適な分子構造を維持することができる。このため、遮光膜の空気界面側の表面は、遮光膜の光学素子側の表面よりも遮光膜の表面の方が緻密で硬い膜構造になる。
【0022】
一方、熱硬化工程を行った後に光硬化工程を実施すると、最初の熱硬化工程によって膜全体がまんべんなく硬化するので、その後の光硬化工程では分子が動かない状態となっている。このため、特に、遮光膜の空気界面側の表面が最適な分子構造をとることができない。その結果、特に、遮光膜の空気界面側において耐溶剤性が十分でないので着色剤が溶出すると推測される。
【0023】
尚、本発明においては、光硬化工程を行うに当たり、遮光膜に含まれる光重合開始剤の量、遮光膜の透過率及び光の照射時間を適宜調整するのが好ましい。これらを適宜調整することにより、遮光膜の空気界面側の硬さと遮光膜の光学素子側の硬さとを調整することがより容易になる。
【0024】
本発明の遮光膜は、光重合開始剤と硬化性樹脂との合計を100重量部としたときに、光重合開始剤が2重量部以上10重量部以下含まれているのが好ましい。光重合開始剤の含有量をこの範囲にした上で光硬化を行うことにより、遮光膜の空気界面側の表面を硬くすることが可能となる一方で、遮光膜の光学素子側が空気界面側よりも軟らかい膜を形成することができる。よって高温高湿の環境下において遮光膜が光学素子から剥がれるのを防ぎつつ、シクロペンタノン等の溶媒による遮光膜からの着色剤の溶出を低減することができる。
【0025】
尚、光重合開始剤と硬化性樹脂との合計を100重量部としたときに、光重合開始剤の含有量が2重量部未満だと、光による硬化の効果が充分に付与されず、遮光膜の空気界面側の表面付近が最適な架橋構造にならない。このため、シクロペンタノン等の溶剤により染料が溶出することがある。一方、光重合開始剤の含有量が10重量部を超えると、シクロペンタノン等の溶剤による染料の溶出は低減されるが、光重合開始剤中の酸が光学素子にアタックし、これによって外観不良を引き起こすため好ましくない。
【0026】
本発明の遮光膜は、好ましくは、透過率が30%乃至60%である。遮光膜の透過率が高過ぎると、照射する光が遮光膜の光学素子側に到達しやすくなるので、光硬化工程において遮光膜の光学素子側における遮光膜の硬化が過度に進行することがある。これによって遮光膜の光学素子側が硬すぎる状態になり、高温高湿の環境下において遮光膜が光学素子から剥がれる可能性がある。一方、遮光膜の透過率が低すぎると、照射する光が遮光膜の内部に届きにくくなるので、光硬化工程において遮光膜の空気界面側における遮光膜の硬化が進行しにくくなる。これによって遮光膜の空気界面側において架橋構造が形成しづらい状態になり、シクロペンタノン等の溶剤によって膜内の着色剤が溶出することがある。尚、着色剤として光硬化工程で使用される光に反応しないものを使用した場合は、遮光膜の透過率は、光硬化工程、熱硬化工程を行った後でも評価することができる。
【0027】
また本発明においては、光硬化工程を行う際に、上述した遮光膜の透過率を考慮しつつ光照射時間を適宜設定することが好ましい。これにより光硬化反応をより制御しやすくなる。
【0028】
次に、本発明の遮光膜に含まれる材料について説明する。
【0029】
本発明の遮光膜に用いられる光重合開始剤としては、一般的に市販されているラジカル系光重合開始剤もしくはカチオン系光重合開始剤が用いられる。例えば、(1−ヒドロキシ)シクロヘキシルフェニルケトン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート(1−)、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホナート、ベンゾフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム、2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(0−ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(0−アセチルオキシムエタノン,1−[9−エチル−6−2−メチルベンゾイル]−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(0−アセチルオキシム)等が挙げられる。ここで、ラジカル系光重合剤として好ましくは、(1−ヒドロキシ)シクロヘキシルフェニルケトン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オンである。また、カチオン系光重合剤として好ましくは、(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート(1−)、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホナートである。ただし本発明においては、これらに限定されるものではない。
【0030】
また本発明の遮光膜を作製する際には、遮光塗料に含まれる樹脂を硬化させるための熱硬化剤が含まれている。ここで熱硬化剤は、使用する樹脂に応じて適宜選択することは可能である。例えば、樹脂としてエポキシ樹脂(硬化性樹脂)を選択した場合では、アミン系の熱硬化剤を使用することができる。
【0031】
本発明に用いられる樹脂(樹脂組成物)としては、例えば、硬化性樹脂が挙げられるが、硬化性樹脂以外の樹脂も使用することができる。
【0032】
本発明に用いられる硬化性樹脂としては、基材、例えば、ガラスとの密着性が良いものが好ましい。また、樹脂の弾性率は低い方が好ましく、可とう性のある材料等が挙げられるがそれらに限定されるものではない。また遮光膜の光学特性を向上させるために、屈折率が高い樹脂を使用するのが好ましい。これらの性質(高屈折率、ガラスとの良好な密着性)を併せ持つ樹脂としてはエポキシ樹脂が挙げられる。また本発明においては、エポキシ樹脂の他にアクリル樹脂等を使用することができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
本発明において、硬化性樹脂以外の樹脂を遮光膜のマトリックス材料として使用する場合でも、例えば、以下のプロセスを経て架橋構造を形成させることにより遮光膜のマトリックス材料として使用することができる。
【0034】
まず光照射により光硬化剤由来のラジカル源が生成し、このラジカル源が樹脂分子と反応することにより樹脂分子中にラジカル部位が複数生成する。そしてラジカル部位同士が反応することで(共有結合が形成されることにより)架橋構造が形成される。次に、遮光膜を加熱することにより、樹脂材料と熱硬化剤とが反応して、熱硬化剤を架橋部位とする架橋構造が形成される。
【0035】
尚、本発明においては、硬化性樹脂以外の樹脂を、可塑剤や希釈剤等として使用してもよい。
【0036】
本発明の遮光膜に含有される硬化性樹脂の含有量は、塗膜時の重量比率で10重量%以上60重量%以下が望ましく、好ましくは、15重量%以上30重量%以下である。ここで硬化性樹脂の含有量が10重量%を下回ると塗膜の密着性が下がることがある。一方、硬化性樹脂の含有量が60重量%を超えると光学特性が悪化することがある。
【0037】
本発明の遮光膜に含まれる着色剤としては、染料もしくは顔料が好ましい。染料としては、波長が400nm乃至700nmの範囲にある可視光を吸収し、任意の溶媒に溶解可能な材料であれば特に限定されるものではない。尚、本発明においては、「染料」には、厳密には染料に区分されない有機化合物も含まれる。
【0038】
本発明においては、波長400nm乃至700nmの範囲にある光に対する遮光膜の最大透過率と最小透過率との比(最小透過率÷最大透過率)は0.7以上にするのがのぞましい。これを実現するために、本発明の遮光膜に含まれる染料は、1種類であってもよいし、黒色、赤色、黄色、青色等の複数種類の染料を混合して吸収波長を調整してもよい。染料の種類としては、色の種類が豊富なアゾ染料が好ましいが、本発明においてはこれに限定されるものではない。例えば、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、スチルベンゼン染料、ピラゾロン染料、チアゾール染料、カルボニウム染料、アジン染料を使用しても構わない。また、耐光性、耐水性、耐熱性等の堅牢性が増すという理由から、クロム、コバルト、銅等の金属を含む染料が好ましい。
【0039】
一方、本発明の遮光膜に含まれる顔料は、溶媒に不溶な粒子であり、波長400nm乃至700nmの範囲にある光(可視光)を吸収する黒色顔料であることが好ましい。黒色顔料として、例えば、カーボンブラック、銅鉄マンガン複合酸化物、チタンブラック、酸化銅から少なくとも1種類を選択してなる黒色顔料が挙げられる。ただし本発明においてはこれらに限定されるものではない。
【0040】
本発明の遮光膜には、遮光膜の屈折率を向上させるための材料(屈折率向上材料)を含ませてもよい。ここで屈折率向上材料としては、コールタール、コールタールピッチ、平均粒子径が100nm以下で屈折率(nd)が2.2以上の非黒色粒子が挙げられる。
【0041】
尚、非黒色粒子を使用する場合、粒子の屈折率が2.2より低いと遮光膜の屈折率をあまり上げることができない。また、非黒色粒子の平均粒子径が100nm以上になると、光散乱が発生し、内面反射率の悪化の原因になる。これらの特性(平均粒子径が100nm以下、屈折率が2.2以上)を満たす非黒色粒子の一例として、チタニアやジルコニア、アルミナ、イットリア、セリア微粒子をナノ分散したものが挙げられる。ただし本発明においてはこれらに限定されるものではない。ここで非黒色粒子は、チタニア、ジルコニアのいずれか又はこれらの混合物であるのが好ましい。
【0042】
本発明の遮光膜には、シランカップリング剤を含んでいてもよい。シランカップリング剤としてはガラスとの密着性が高いものが好ましい。一例としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)‐3‐アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)‐3‐アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランが挙げられるがそれらには限定されない。また、シランカップリング剤の含有量は塗膜全体に対する重量比率で5重量%以上20重量%以下が好ましい。多すぎる(20重量%超)と光学性能が悪化するため好ましくない。また、少なすぎる(5重量%未満)と遮光膜の密着力が低下するため好ましくない。
【0043】
本発明の遮光膜を作製する際には、溶質である遮光膜の構成材料を溶媒と混合して遮光塗料を調製する必要がある。ここで遮光塗料を調製する際に使用する溶媒としては、顔料及び屈折率向上用の粒子を分散し、かつ染料を溶解できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、キシレン、1−ブタノール、酢酸ブチル、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン(MIBK)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)等が挙げられるがそれらに限定されなくても良い。
【0044】
また、本発明の遮光膜は、シリカ、石英、セリサイト等の表面反射防止剤を含んでいてもよい。シリカ、石英、セリサイト等の透明性のある微粒子を遮光膜に添加することで、表面(空気界面側)にしわや凹凸形状を形成することが可能になり、塗膜と空気との界面における光の反射を低減することができる。
【0045】
また、その他の成分として、屈折率向上剤、無機微粒子からなる表面反射防止剤、分散剤、カップリング剤、防腐剤、酸化防止剤、防カビ剤等を含んでも構わない。
【0046】
本発明の遮光膜に含有されるその他の成分の含有量は、塗膜全体に対する重量比率で0.1重量%以上30重量%以下が望ましく、好ましくは、10重量%以上20重量%以下である。ここでその他の成分の含有量が30重量%を超えると遮光膜の密着力が低下することがある。一方、その他の成分の含有量が0.1重量%未満であると塗膜と空気と界面において光の反射を低減できない可能性がある。
【0047】
次に、本発明の光学素子用の遮光膜の製造方法について説明する。
【0048】
本発明の遮光膜は、例えば、以下の工程により作製される。
(i)光学素子用の遮光塗料を光学素子の表面に塗布し塗膜を成膜する工程(塗膜形成工程)
(ii)上記塗膜に光を照射し硬化させる工程(光硬化工程)
(iii)上記塗膜を加熱し硬化させる工程(熱硬化工程)
【0049】
光学素子用の遮光塗料は、少なくとも樹脂を硬化させるための硬化剤、樹脂組成分、着色剤を含有している。また上記硬化剤の中に光重合開始剤と熱硬化剤とが混合されている。また、本発明の効果を阻害しない限りにおいて任意のその他の成分を含有していても構わない。
【0050】
光学素子用の遮光塗料は、樹脂組成分、着色剤を任意の混合分散方法で分散して得られる。混合分散方法の一例としては、ロールコーター、衝突分散、遊星回転、ミキサー等が挙げられるがこれ以外の方法でも構わない。また、塗膜形成工程において成膜される塗膜は、その膜厚を光硬化工程における光の照射時間を考慮して適宜設定するのが、好ましい。
【0051】
本発明の遮光膜を有する光学素子は、上記の光学素子用の遮光膜を有することを特徴とする。光学素子としては、例えばカメラ、双眼鏡、顕微鏡、半導体及び液晶露光装置、携帯電話用カメラ、放送機器等が挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明における好適な実施例について説明する。
【0053】
[実施例1乃至実施例10、及び比較例1乃至7]
光学素子用の遮光塗料を調製し、この塗料を使用して光学素子用遮光膜を作製した。また作製した遮光膜について耐溶剤性、耐高温高湿性、透過率及び硬度の評価を行った。ここで遮光塗料の調製方法、光学素子用の遮光膜の作製方法及び遮光膜の評価方法について、順を追って以下に説明する。
【0054】
(1)材料
まず実施例あるいは比較例で、光学素子用の遮光塗料を調製する際に使用した材料及び溶媒を下記表1乃至7に示す。尚、下記表1乃至7には、当該遮光塗料を塗布することで形成した遮光膜の膜厚及び膜中の光重合開始剤の含有量も合わせて記載されている。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
【表6】

【0061】
【表7】

【0062】
(2)光学素子用の遮光塗料の調製
実施例1を具体例として、光学素子用の遮光塗料の調製方法及び光学素子用の遮光膜の作製方法を説明する。まず、下記に示される材料、溶媒をそれぞれ秤量し、ボールミルポットの中に入れた。
エポキシ樹脂(エピコート828、ジャパンエポキシレジン製):8g
黒色染料(VALRFAST BLACK 3810、オリエント化学製):1.2g
赤色染料(VALRFAST RED 3320、オリエント化学製):3.1g
黄色染料(VALRFAST YELLOW 3108、オリエント化学製):1.2g
青色染料(VALRFAST BLUE 2620、オリエント化学製):4.9g
チタニア(非黒色粒子、商品名;ND139、テイカ製):10g
プロピレングリコールモノメチルエーテル(キシダ化学製):24g
カップリング剤(KBM−403、信越シリコーン製):8.9g、
親水性ナノシリカ(アエロジルR200、日本アエロジル製):1.3g
疎水性ナノシリカ(アエロジルR972、日本アエロジル製)3.2g
セリサイト(タカラマイカM−101、白石カルシウム製)1.6g
石英(クリスターライトA−1、龍森製)2.1g
【0063】
次に、ボールミルポットの中に直径20mmの磁性ボールを5個入れた。次に、調合した塗料及び磁性ボールが入ったボールミルポットをロールコーターにセットし、回転速度66rpmで72時間攪拌を行った。
【0064】
次に、下記に示す試薬を添加した。
硬化剤(アデカハードナ−EH551CH、アデカ製):5.8g
光重合開始剤(イルガキュア184、チバジャパン製):0.033g
【0065】
次に、遊星回転方式の混合・分散装置(自転公転型攪拌装置あわとり練太郎、シンキー製)を使用し、回転速度を1000rpmに設定し、3分30秒攪拌を行った。以上により、光学素子用の遮光塗料を調製した。
【0066】
(3)光学素子用の遮光膜の成膜
まず評価用のモニターガラス(Φ:30mm、厚さ:2mm、材質:BK7)に(2)にて調製した光学素子用の遮光塗料を塗布した後、スピンコーターで1000rpm・10秒、2000rpm・20秒の条件で回転させることで、膜厚を2μmに調整したサンプルを作製した。次に、作製したサンプルを、室温で60分間乾燥させた後に、紫外線を10分間照射して光硬化させた。このとき単位面積当たりの紫外線の照射量が1000mJ/cm2となるように光量を調節した。次に、サンプルを加熱炉に入れた後、このサンプルを140℃120分間で熱硬化させることにより、光学素子用の遮光膜を得た。
【0067】
実施例2乃至実施例10、及び比較例1乃至7についても、実施例1と同様の方法により、光学素子用の遮光塗料の調製を行い、光学素子用の遮光膜を作製した。
【0068】
(4)遮光膜の評価方法
次に、遮光膜の光学特性の評価方法について以下に説明する。
【0069】
(4−1)遮光膜の透過率の評価方法
可視紫外分光光度計(U4000、日立ハイテク製)を用いて、モニターガラス上に形成された遮光膜の透過率を評価した。具体的には、遮光膜を塗布形成する前のモニターガラスをバックグラウンドとして、遮光膜が形成されているモニターガラスについて透過率を測定した。そして測定によって得られた透過率を元に、波長400nm〜700nmの範囲における平均の透過率を算出した。
【0070】
(4−2)遮光膜の硬度の評価方法
遮光膜の硬度は、以下に説明する鉛筆を用いた方法により評価を行った。評価にあたり、三菱鉛筆のUNIを標準測定用鉛筆として使用した。尚、使用した鉛筆は、芯が円柱状になるように木部だけを削って芯を5mm〜6mm露出させた後、研磨紙で先端を平らにした状態にした。
【0071】
具体的な測定・評価方法を以下に説明する。モニターガラス上に形成された遮光膜について、下記に説明する方法で膜の硬度の評価を行った
(A)空気界面側の硬度評価
モニターガラス上に成膜した遮光膜を研磨紙で往復10回研磨した後、柔らかい順に鉛筆を手で一定の力で圧しつけながら遮光膜上にすべらせたときに鉛筆の跡(キズ跡)が生じるか否かについて評価した。そしてキズ跡が生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を空気界面側の硬度とした。
【0072】
(B)光学素子側の硬度評価
モニターガラス上に成膜した遮光膜を研磨紙で往復400回研磨した後、柔らかい順に鉛筆を手で一定の力で圧しつけながら遮光膜上にすべらせたときに鉛筆の跡(キズ跡)が生じるか否かについて評価した。そしてキズ跡が生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を光学素子側の硬度とした。
【0073】
(4−3)遮光膜の耐溶剤性の評価方法
以下に説明するように、遮光膜に含まれる染料の溶出量を測定することで、遮光膜の耐溶剤性を評価した。
【0074】
まず遮光膜が形成されているモニターガラスを、シクロペンタノン(浸漬液)10ml中に投入し1時間浸漬させた。次に、遮光塗料に含まれる各染料(黒、赤、黄、青の4種類)について、染料濃度が1ppmのシクロペンタノン溶液をそれぞれ調製し、分光器により吸光度を測定した。尚、吸光度の測定条件は以下の通りである。
サンプル:シクロペンタノン溶液(PS製:10mmセルを使用)
測定器:ファイバ型分光器HR4000(OceanOptics社製)
測定波長:200nm〜1100nm(尚、吸光度の解析波長は430nm〜700nmである。)
【0075】
次に、遮光膜が形成されているモニターガラスを浸漬した後の浸漬液の吸光度を上記測定器により測定し、波形解析を行った。
【0076】
次に、ソルバー機能を用いて、下記式(2)を満たす各染料濃度(aBlack、aRed、aYellow、aBlue)を算出し、その和(aTotal)を浸漬液中の全染料溶出量とした。
calc(λ)=ablackAblack(λ)+ared*Ared(λ)+ayellow*Ayellow(λ)+ablue*Ablue(λ) ・・・式(1)
Min Σ{Aex(λ)−Acalc(λ)}2 (最小二乗) ・・・式(2)
total=ablack+ared+ayellow+ablue ・・・式(3)
(Acalc:溶出液の解析吸光度、Aex:溶出液の実測吸光度、
color:染料の実測吸光度、atotal:溶出液中の全染料濃度(ppm)、
color:溶出液中の各染料濃度(ppm)、λ:波長(430nm〜700nm))
【0077】
(4−4)遮光膜の耐高温高湿性の評価方法
高温高湿環境下における遮光膜の外観、例えば、膜剥がれを評価することにより、遮光膜の耐高温高湿性の評価を行った。具体的な評価方法を以下に説明する。
【0078】
モニターガラスに光学素子用の遮光膜を形成することで測定用のサンプルを作製した。尚、使用したモニターガラスは、片面が鏡面、もう一方の面は粗面に加工したΦ30mm、厚さ2mmのもので、材質はS−LAH55、L−LAL18、L−BAL42を用いた。また遮光膜はモニターガラスの粗面側に形成した。外観の評価は遮光膜が形成されたモニターガラスを60℃90%の雰囲気に1000時間曝したときにモニターガラスからの遮光膜の剥がれが有るかないかを目視で観察した。
【0079】
[評価結果]
実施例及び比較例でそれぞれ作製した遮光膜の評価結果を下記表8乃至13にてそれぞれ示す。
【0080】
【表8】

【0081】
【表9】

【0082】
【表10】

【0083】
【表11】

【0084】
【表12】

【0085】
【表13】

【0086】
上述したように、本発明において、遮光膜の硬さ(硬度)は、光学素子と接しない空気界面側の方が光学素子と接する光学素子側よりも硬い。一方、本発明の遮光膜は、耐溶剤性の評価実験において、染料溶出量が0.60ppm以下であることが望ましく、0.55ppm以下であることが好ましい。また溶出量が0.35ppm以下の場合、浸漬液の色味の変化は目視によってはほとんど確認されない。このため耐溶剤性の評価においては、0.35ppm未満が優良、0.35ppm以上0.60ppm以下が良、0.60ppmを超えると不良と判定した。
【0087】
実施例1にて作製した遮光膜は、表1より、硬化性樹脂と光重合開始剤の合計を100重量部としたときに、膜中の光重合開始剤が4重量部である。また表8より、鉛筆硬度評価では、空気界面側の硬度が4Hであり、光学素子側の硬度が3Hであったため、光学素子側よりも空気界面側の硬度の方が硬かった。また表8より、染料溶出量は0.34ppmであった。また高温高湿環境に置いた後の遮光膜の外観を評価したところ遮光膜の剥がれは見られなかった。
【0088】
実施例2は、実施例1において、光重合開始剤の使用量を実施例1よりも多くした。このため表1より、本実施例(実施例2)にて作製した遮光膜は、硬化性樹脂と光重合開始剤の合計を100重量部としたときに、膜中の光重合開始剤が6重量部である。また表8より、鉛筆硬度評価では、空気界面側の硬度が4Hであり、光学素子側の硬度が3Hであったため、光学素子側よりも空気界面側の硬度の方が硬かった。また表8より、染料溶出量は0.23ppmであった。また高温高湿環境に置いた後の遮光膜の外観を評価したところ遮光膜の剥がれは見られなかった。
【0089】
実施例3は、実施例1において、光重合開始剤の使用量を実施例1よりも多くした。このため表1より、本実施例(実施例3)にて作製した遮光膜は、硬化性樹脂と光重合開始剤の合計を100重量部としたときに、膜中の光重合開始剤が8重量部である。また表8より、鉛筆硬度評価では、空気界面側の硬度が4Hであり、光学素子側の硬度が3Hであったため、光学素子側よりも空気界面側の硬度の方が硬かった。また表8より、染料溶出量は0.12ppmであった。また高温高湿環境に置いた後の遮光膜の外観を評価したところ遮光膜の剥がれは見られなかった。
【0090】
実施例4は、実施例1において、光重合開始剤を、下記に示す開始剤Aと溶剤Bとの混合物(開始剤A:溶剤B=3:1)に変更した。
開始剤A:(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート
溶 剤B:プロピレンカーボネート
【0091】
また表9より、鉛筆硬度評価では、空気界面側の硬度が4Hであり、光学素子側の硬度が3Hであったため、光学素子側よりも空気界面側の硬度の方が硬かった。また表9より、染料溶出量は0.31ppmであった。また高温高湿環境に置いた後の遮光膜の外観を評価したところ遮光膜の剥がれは見られなかった。
【0092】
実施例5は、実施例2において、光重合開始剤を、下記に示す開始剤Aと溶剤Bとの混合物(開始剤A:溶剤B=3:1)に変更した。
開始剤A:(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート
溶 剤B:プロピレンカーボネート
【0093】
また表9より、鉛筆硬度評価では、空気界面側の硬度が4Hであり、光学素子側の硬度が3Hであったため、光学素子側よりも空気界面側の硬度の方が硬かった。また表9より、染料溶出量は0.18ppmであった。また高温高湿環境に置いた後の遮光膜の外観を評価したところ遮光膜の剥がれは見られなかった。
【0094】
実施例6は、実施例3において、光学素子用の遮光塗料を調製する際に、樹脂材料の一部(4g)を、コールタール(タークロン180N)に変更した。また光重合開始剤を、下記に示す開始剤Aと溶剤Bとの混合物(開始剤A:溶剤B=3:1)に変更した。
開始剤A:(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート
溶 剤B:プロピレンカーボネート
【0095】
また表9より、鉛筆硬度評価では、空気界面側の硬度が4Hであり、光学素子側の硬度が3Hであったため、光学素子側よりも空気界面側の硬度の方が硬かった。また表9より、染料溶出量は0.07ppmであった。また高温高湿環境に置いた後の遮光膜の外観を評価したところ遮光膜の剥がれは見られなかった。
【0096】
実施例7は、実施例2において、光重合開始剤を、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オンに変更した。また表10より、鉛筆硬度評価では、空気界面側の硬度が4Hであり、光学素子側の硬度が3Hであったため、光学素子側よりも空気界面側の硬度の方が硬かった。また表10より、染料溶出量は0.24ppmであった。また高温高湿環境に置いた後の遮光膜の外観を評価したところ遮光膜の剥がれは見られなかった。
【0097】
実施例8は、実施例2において、光重合開始剤を、ビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホナートに変更した。また表10より、鉛筆硬度評価では、空気界面側の硬度が4Hであり、光学素子側の硬度が3Hであったため、光学素子側よりも空気界面側の硬度の方が硬かった。また表10より、染料溶出量は0.21ppmであった。また高温高湿環境に置いた後の遮光膜の外観を評価したところ遮光膜の剥がれは見られなかった。
【0098】
実施例9は、実施例1において、光重合開始剤の使用量を実施例1よりも少なくした。このため表4より、本実施例(実施例9)にて作製した遮光膜は、硬化性樹脂と光重合開始剤の合計を100重量部としたときに膜中の光重合開始剤が1重量部である。また表10より、鉛筆硬度評価では、空気界面側の硬度が4Hであり、光学素子側の硬度が3Hであったため、光学素子側よりも空気界面側の硬度の方が硬かった。また表11より、染料溶出量は0.53ppmであり、若干ではあるが目視によっても染料の溶出が確認されたが、外観上問題の無いレベルであった。また高温高湿環境に置いた後の遮光膜の外観を評価したところ遮光膜の剥がれは見られなかった。
【0099】
実施例10は、実施例1において、光重合開始剤の使用量を実施例1よりも多くした。このため表4より、本実施例(実施例10)にて作製した遮光膜は、硬化性樹脂と光重合開始剤の合計を100重量部としたときに、膜中の光重合開始剤が11重量部である。また表10より、鉛筆硬度評価では、空気界面側の硬度が4Hであり、光学素子側の硬度が3Hであったため、光学素子側よりも空気界面側の硬度の方が硬かった。また表11より、染料溶出量は0.04ppmであった。一方、高温高湿環境に置いた後の遮光膜の外観を評価したところ、若干であるが遮光膜の剥がれが確認された。ただしこの剥がれは、光学素子の光学特性に影響を与えるほどの剥れではなく、外観上問題の無いレベルであった。
【0100】
比較例1は、実施例2において、遮光膜を硬化する際に、光硬化を行わず熱硬化(140℃)のみを実施した(表5参照)。また表11より、鉛筆硬度評価では、空気界面側の硬度が3Hであり、光学素子側の硬度が3Hであったため、光学素子側と空気界面側との間で硬度の差異が無かった。また表12より、染料溶出量は1.37ppmであり、染料の溶出が目視でも確認され、耐溶剤性が不良であることが判明した。一方、高温高湿環境に置いた後の遮光膜の外観を評価したところ遮光膜の剥がれは見られなかった。
【0101】
比較例2は、実施例2において、遮光膜を硬化する際に、光硬化を行わず熱硬化(200℃)のみを実施した(表5参照)。また表11より、鉛筆硬度評価では、空気界面側の硬度が5Hであり、光学素子側の硬度が5Hであったため、光学素子側と空気界面側との間で硬度の差異が無かった。また表11より、染料溶出量は0.01ppmであった。一方、高温高湿環境に置いた後の遮光膜の外観を評価したところ、遮光膜の剥がれ及び外観の悪化が確認された。
【0102】
比較例3は、実施例2において、遮光膜を硬化する際に、(i)熱硬化(140℃)、(ii)光硬化の順で実施した(表5参照)。また表11より、鉛筆硬度評価では、空気界面側の硬度が3Hであり、光学素子側の硬度が3Hであったため、光学素子側と空気界面側との間で硬度の差異が無かった。また表11より、染料溶出量は1.33ppmであり、染料の溶出が目視でも確認され、耐溶剤性が不良であることが判明した。一方、高温高湿環境に置いた後の遮光膜の外観を評価したところ遮光膜の剥がれは見られなかった。
【0103】
比較例4は、実施例2において、遮光膜を成膜する際に実施例1よりも膜の厚さを厚くした。このため表6より、本比較例(比較例4)にて作製した遮光膜の膜厚は4μmである。また表13より、鉛筆硬度評価では、空気界面側の硬度が4Hであり、光学素子側の硬度が4Hであったため、光学素子側と空気界面側との間で硬度の差異が無かった。また表13より、染料溶出量は1.11ppmであり、染料の溶出が目視でも確認され、耐溶剤性が不良であることが判明した。一方、高温高湿環境に置いた後の遮光膜の外観を評価したところ遮光膜の剥がれは見られなかった。
【0104】
比較例5は、実施例2において、遮光膜を成膜する際に実施例1よりも膜の厚さを薄くした。このため表6より、本比較例(比較例4)にて作製した遮光膜の膜厚は0.5μmである。また表12より、鉛筆硬度評価では、空気界面側の硬度が5Hであり、光学素子側の硬度が5Hであったため、光学素子側と空気界面側との間で硬度の差異が無かった。また表12より、染料溶出量は0.19ppmであった。一方、高温高湿環境に置いた後の遮光膜の外観を評価したところ、遮光膜の剥がれ及び外観の悪化が確認された。
【0105】
比較例6では、実施例2において、遮光膜を硬化する際に、光照射の時間を実施例1よりも短くした。具体的には、本比較例においては紫外光の照射時間を1分にした(表7参照)。また表13より、鉛筆硬度評価では、空気界面側の硬度が4Hであり、光学素子側の硬度が4Hであったため、光学素子側と空気界面側との間で硬度の差異が無かった。また表13より、染料溶出量は1.61ppmであり、染料の溶出が目視でも確認され、耐溶剤性が不良であることが判明した。一方、高温高湿環境に置いた後の遮光膜の外観を評価したところ、遮光膜の剥がれがわずかに確認された。
【0106】
比較例7では、実施例1において、遮光膜を硬化する際に、光照射の時間を実施例1よりも長くした。具体的には、本比較例においては紫外光の照射時間を20分にした(表7参照)。また表13より、鉛筆硬度評価では、空気界面側の硬度が5Hであり、光学素子側の硬度が4Hであったため、光学素子側よりも空気界面側の硬度の方が硬かった。また表13より、染料溶出量は0.03ppmであった。一方、高温高湿環境に置いた後の遮光膜の外観を評価したところ、遮光膜の剥がれ及び外観の悪化が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の遮光膜は、カメラ、双眼鏡、顕微鏡、半導体・液晶露光装置等の光学素子用の遮光膜として利用することができる。
【符号の説明】
【0108】
1:光学素子用の遮光膜、2:レンズ、3:入射光、4:透過光、5:斜めからの入射光、6:内面反射した光、7:第一の反射光、8:透過光、9:第二の反射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子に接して配置され、少なくとも樹脂組成物と、着色剤と、硬化剤と、からなる光学素子用の遮光膜であって、
前記遮光膜の空気界面側の硬さが前記光学素子側の硬さよりも硬いことを特徴とする、光学素子用の遮光膜。
【請求項2】
前記硬化剤が、光重合開始剤と熱硬化剤とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の光学素子用の遮光膜。
【請求項3】
前記樹脂組成物が、少なくとも硬化性樹脂を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の光学素子用の遮光膜。
【請求項4】
前記硬化性樹脂と前記光重合開始剤との合計を100重量部にしたときの前記光重合開始剤の含有量が2重量部以上10重量部以下であること特徴とする、請求項2又は3に記載の光学素子用の遮光膜。
【請求項5】
前記光重合開始剤が、ラジカル系光重合開始剤又はカチオン系光重合開始剤であることを特徴とする、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の光学素子用の遮光膜。
【請求項6】
前記ラジカル系光重合開始剤が、(1−ヒドロキシ−)シクロヘキシルフェニルケトン又は1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オンであることを特徴とする、請求項5に記載の光学素子用の遮光膜。
【請求項7】
前記カチオン系光重合開始剤が、(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート又はビス(4−tert−ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホナートであることを特徴とする、請求項5に記載の光学素子用の遮光膜。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光学素子用の遮光膜を有することを特徴とする、光学素子。
【請求項9】
光学素子に接して配置され、少なくとも樹脂組成分と、着色剤と、硬化剤と、からなる光学素子用の遮光膜の製造方法であって、
前記遮光膜の成膜工程の後、前記遮光膜に光を照射して前記遮光膜を光硬化する工程と、前記遮光膜を加熱して前記遮光膜を熱硬化する工程と、をこの順で行うことを特徴とする、光学素子用の遮光膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−24988(P2013−24988A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158145(P2011−158145)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】