説明

光学装置

【課題】光学部材(レンズ21等)の周縁部に溜まった雨水等を円滑に排水できるようにし、光学装置(車載カメラ11等)が屋外で使用された場合の映像品質の悪化を防止する。
【解決手段】表面が外気に露出した状態で保持されるレンズ21と、レンズ21の周縁部を保持するためのレンズ鏡筒31とを備える車載カメラ11であって、レンズ鏡筒31は、レンズ21を保持する内側の端部から外側に向かって伸びるスリット33が形成されており、スリット33により、レンズ21の周縁部に付着した雨滴等の水滴を光学有効径外に逃がす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が外気に露出した状態で保持される光学部材と、光学部材の周縁部を保持するための保持部材とを備える光学装置に係るものである。そして、詳しくは、光学部材の周縁部に雨滴等の水滴が付着滞留することによる光学素子部材の有効画角域への水滴の写り込みを防止できるようにした技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、屋外で使用される光学装置として、例えば、車載カメラや監視カメラ等が知られている。そして、車載カメラや監視カメラ等は、雨天時に、表面が外気に露出した状態で保持されている光学部材(例えば、レンズ、レンズの前面側に配置される光透過性光学フィルター、フード等)の表面に、雨水が水滴となって付着することがある。すると、付着した水滴が光学的有効画角内にあると、その写り込み等の影響で、車載カメラや監視カメラ等の映像が歪んだり、像が不鮮明になってしまう。そして撮像する領域が歪むと物体までの距離感が損なわれる。
【0003】
そこで、このような水滴の付着を防止できるようにした技術が開示されている。すなわち、光学部材の表面に、多孔質シリカ等の親水膜をコーティングすることにより、雨水が水滴として表面に溜まらないようにした技術である(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平8−11631号公報
【特許文献2】特開平10−36144号公報
【0004】
図7は、このような従来の車載カメラ111を示す斜視図及び断面図である。
図7(a)に示すように、車載カメラ111は、レンズ121の周縁部がレンズ鏡筒131によって保持されたものである。そして、レンズ121を保持したレンズ鏡筒131がカメラ筐体141に収容されている。また、この車載カメラ111は、図7(b)に示すように、俯角が45°程度になるようにして設置される。
【0005】
このような車載カメラ111が雨天時に使用されると、雨水が半球状のレンズ121の表面に水滴となって付着する。この水滴は、レンズ121の表面にコーティングされた膜の効果と、レンズ121の光軸の傾斜によって水滴に作用する重力とにより、ある程度の水滴量になると、レンズ121の表面に留まらず、レンズ121の表面に沿って下方に流れ落ちる。そして、流れ落ちた水滴は、図7(b)に示すように、レンズ121の下縁部に溜まって水溜まりとなる。なお、レンズ121の表面に親水コーティングが施されていれば、水滴がレンズ121の下方の外周部まで流れ落ちるが、そこで逃げ場を失った水滴は、自重による力が釣り合う範囲で、レンズ121の外周部に留まることとなる。
【0006】
したがって、上記の特許文献1又は特許文献2の技術を用いた図7に示す車載カメラ111では、水滴がレンズ121の下縁部に流されるだけなので、下縁部に水滴が付着したまま残ることとなる。その結果、車内のモニターに映し出された映像は水滴により光路の一部が屈折されて結像点がずれ、映像が不鮮明になってしまう。また、大きな水滴に成長せずとも像を歪ませ、視野をずらすことになる。また、雨が上がって残った水滴が蒸発すると、水滴に含まれていたカルシウム等の無機塩が白く析出するので、雨が上がった後でも、映像の品質が悪化する。
【0007】
このようなことから、レンズ121の下縁部にも雨水等が溜まらないようにした技術が知られている。すなわち、親水膜をコーティングしたレンズ121を保持するレンズ鏡筒131の下面にパイプを配置し、レンズ121の周縁部に溜まった雨水等をパイプの開口部から吸い込んで排水するようにした技術である(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献3】特開2006−313312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記の特許文献3の技術は、レンズ鏡筒131の下面にパイプを配置する必要があるので、車載カメラ111が大型化してしまう。また、レンズ121を保持したレンズ鏡筒131は、カメラ筐体141に収容されるが、レンズ鏡筒131の下面にパイプが配置されていると、カメラ筐体141への収容が難しくなる。さらにまた、レンズ121の周縁部からパイプの開口部までの間には、一定の距離があるので、レンズ121の周縁部に溜まった雨水等がパイプに円滑に吸い込まれず、水滴の排水性能にも問題がある。
【0009】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、保持部材(レンズ鏡筒131等)の下面にパイプを配置することなく、光学部材(レンズ121等)の周縁部に溜まった雨水等を円滑に排水できるようにし、光学装置(車載カメラ111等)が屋外で使用された場合の映像品質の悪化を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の解決手段により、上述の課題を解決する。
本発明の請求項1に記載の発明は、表面が外気に露出した状態で保持される光学部材と、前記光学部材の周縁部を保持するための保持部材とを備える光学装置であって、前記保持部材は、前記光学部材を保持する内側の端部から外側に向かって伸びる導水路が形成されており、前記導水路は、前記光学部材の周縁部に付着した雨滴等の水滴を光学有効径外に逃がすことを特徴とする。
【0011】
(作用)
上記の請求項1に記載の発明は、保持部材に、光学部材を保持する内側の端部から外側に向かって伸びる導水路が形成されている。そして、この導水路は、光学部材の周縁部に付着した雨滴等の水滴を光学有効径外に逃がす。そのため、上記した特許文献3の技術のようなパイプを配置することなく、光学部材の周縁部から直接、雨滴等の水滴を排水できるようになる。
【発明の効果】
【0012】
上記の発明によれば、保持部材に形成された導水路により、光学部材に付着した雨滴等の水滴をその周縁部から直接、排水することができる。そのため、光学装置が大型化したり複雑化したりすることがない。また、光学部材の周縁部に溜まった雨水等が円滑に排水されるので、光学装置が屋外で使用された場合の映像品質の悪化を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
なお、以下の実施形態では、本発明の光学装置として、車載カメラ11(第1実施形態)、車載カメラ12(第2実施形態)、及び車載カメラ13(第3実施形態)を例に挙げている。そして、各実施形態の車載カメラ11、車載カメラ12、及び車載カメラ13は、車のバックビューを車内に表示するため、車の後部ナンバープレート上のガーニッシュやスポイラー付近に、水平方向よりも下向きにして設置される。
【0014】
図1は、第1実施形態の車載カメラ11を示す正面図及び斜視図である。
図1に示すように、第1実施形態の車載カメラ11は、半球状のレンズ21(本発明における光学部材に相当するもの)の周縁部がレンズ鏡筒31(本発明における保持部材に相当するもの)によって保持されたものである。そして、レンズ21を保持したレンズ鏡筒31がレンズ筐体となり、このレンズ筐体は、カメラ筐体41(本発明における筐体に相当するもの)にねじ込まれ、カメラ筐体41内に収容されている。但し、レンズ鏡筒31は、カメラ筐体41と一体で形成する場合もある。
【0015】
ここで、レンズ21は、その表面に撥水性を付与し、雨滴等の水滴が自重で光学有効径の外周側へ移動するようにしても良い。また、例えば、酸化チタン等の光触媒膜と多孔質シリカ等の親水膜とによる二層膜のコーティングを施し、これにより、レンズ21の表面に親水性を付与して、雨滴等の水滴が自重で光学有効径の外周側へ移動するようにしても良い。そして、レンズ21は、このような表面が外気に露出した状態で、レンズ鏡筒31の先端部に保持されている。なお、以下では、レンズ21の表面に親水性を付与した場合について説明するが、本発明の効果は、親水性を有するレンズ21に限定されるものではない。
【0016】
また、レンズ鏡筒31は、合成樹脂で形成された円筒形のものであり、その先端部のレンズ枠32に熱を加えて変形(熱カシメ)させることによってレンズ21を保持している。そして、レンズ枠32(熱カシメ部)は、一様の高さではなく、レンズ21を保持する内側の端部から外側に向かって放射状に一定間隔で伸びる複数のスリット33(本発明における導水路に相当するもの)が形成されており、各スリット33がレンズ21の周縁部に付着した雨滴等の水滴を光学有効径外に逃がすようになっている。
【0017】
このように、複数のスリット33を放射状に一定間隔で形成するのは、車載カメラ11が設置された際に、少なくとも1つ以上のスリット33が傾斜したレンズ21の下縁部側に位置するようにするためである。すなわち、車載カメラ11は、車の後部ガーニッシュ付近に、俯角が45°程度になるようにして設置される場合が多い。また、カメラ筐体41にレンズ筐体をねじ込むと、ねじ込みの回転によってレンズ筐体が止まる位置が特定されない。そこで、予め複数のスリット33を放射状に一定間隔で形成しておくことにより、ねじ込みのどの位置でレンズ筐体が止まったとしても、俯角が45°程度で設置されている車載カメラ11のレンズ21の下縁部側に、いずれかのスリット33が必ず位置するようにしている。
【0018】
また、各スリット33は、必ずしも凹凸段差である必要は無く、レンズ鏡筒31の表面をスリット状に親水性化改質のために、レーザー・アブレーションで樹脂表面を部分親水性化の改質や、スリット上に樹脂の親水性化の処理薬剤をタンポ印刷等で塗布して導水路を形成し、レンズ21の周縁部に付着した雨滴等の水滴が各スリット33に円滑に逃げるようになっている。さらに、雨滴等の水滴を逃がす導水路は、スリット33に限られず、レンズ21を保持するレンズ鏡筒31の内側の端部から外側に向かって径方向に伸びる段差であっても良い。そして、段差は、内側の端部が鋭角形状であり、雨滴等の水滴との接触状態が水の接触角以上となる形状であることが好ましい。
【0019】
図2は、第1実施形態の車載カメラ11における水滴の流れを説明する断面図である。
また、図3は、樹脂平面上への水滴滴下実験を示す側面図である。
図2に示すように、車載カメラ11は、俯角が45°程度になるようにして設置されている。そのため、レンズ21の光軸は、水平方向よりも下向きに傾斜している。そして、この車載カメラ11が雨天時に使用されると、雨水がレンズ21の表面に水滴となって付着する。この水滴は、レンズ21の光軸の傾斜によって水滴に作用する重力により、半球状のレンズ21の表面に留まらず、図2(a)に示すように、レンズ21の表面に沿って下方に流れ落ちる。
【0020】
ここで、レンズ21の下縁部と、レンズ21を保持しているレンズ枠32との境界部分は、俯角が45°程度で設置されている車載カメラ11では、ほぼ水平に近くなる。そのため、レンズ21の表面に沿って下方に流れ落ちた水滴は、レンズ21の下縁部(レンズ21とレンズ枠32との境界付近)に溜まりやすい。そして、それが水溜まりになると、車内のモニターに映し出された車載カメラ11の映像に水溜まりが映り込んでしまい、車のバックビューの視認性が悪くなってしまう。また、雨が上がって水溜まりが乾くと、雨水に含まれていたカルシウム等の無機塩が白く析出し、バックビューの視界を狭めるだけでなく、映像の品質を悪くすることとなる。
【0021】
ところが、第1実施形態の車載カメラ11では、レンズ21の表面に沿って下方に流れ落ちた水滴がレンズ21の下縁部に溜まらず、レンズ21の下縁部側に位置するスリット33が導水路となって水滴を光学有効径外に逃がすように作用する。すなわち、図2(b)に示すように、レンズ21の下縁部側に位置するスリット33は、俯角が45°程度で設置されている車載カメラ11では、レンズ21を保持する内側が少し高く、外側に向かって下方に傾斜した状態となっている。そのため、レンズ21の表面に沿って下方に流れ落ちた水滴がそこにあるスリット33に接触すると、水滴の同一平面上の接触面積が減って表面張力が小さくなり、水滴に作用する重力との相乗効果によって水滴がレンズ21の下縁部からスリット33に逃げる。
【0022】
また、スリット33は、レンズ鏡筒31の表層をレーザー・アブレーション法により親水性処理化を施し形成されている。そして、レンズ鏡筒31に対するレーザー・アブレーション法による表面改質効果で、水滴接触角θ(図2(b)及び図3(b)参照)の減少(親水性の改善)が確認されている。すなわち、レンズ鏡筒31を構成する合成樹脂の表面を炭化できるエネルギーを有するレーザー照射でアブレーションすることによって表面改質を行った樹脂表面では、図3(a)に示すような無処理の樹脂平面に対する水滴接触角θが約45°であったものが、図3(b)に示すように、水滴接触角θが約30°に減少する。さらに、斜め傾斜角を持たせた水滴の排水効果は、レーザー照射で表面改質を行った場合、約0.3ml程度の水滴の自重で排水が開始されるのに対し、レーザー未照射の場合には、0.4ml程度にならないと排水が開始されない。
【0023】
なお、レーザー・アブレーション法による樹脂表面の親水性化処理の効果は、照射光による樹脂の結合端のイオン化度合いに依存するため、照射光波長依存性、樹脂材料依存性を有し、適用に際しては、実施する樹脂毎に照射条件を最適化する必要がある。
【0024】
このような実験結果から、レンズ鏡筒31の表層をレーザー・アブレーション法により親水性処理化を施し導水路であるスリット33を形成すれば、雨滴が連続して降りかかる実際の車両への搭載状態において、雨滴等の水滴がスリット33に流れ落ちやすくなると言える。
【0025】
したがって、レーザー照射によって表面が改質された導水路である各スリット33により、レンズ21の周縁部に付着した雨滴等の水滴が円滑に逃げるようになる。なお、導水路は、このような各スリット33に限らず、レンズ鏡筒31の表層に親水化処理剤を局所塗布又は印刷することによる親水処理を施して形成したり、レンズ鏡筒31の表層に段差を設けて形成することにより、レンズ21の周縁部から導水路への水滴の移動が円滑になるようにしても良い。
【0026】
このように、第1実施形態の車載カメラ11は、スリット33が水滴の導水路の役目を果たし、レンズ21の下縁部に水滴が溜まることなくレンズ21の表面から排水されるので、車載カメラ11の映像に水滴が映り込んだり、水滴によって映像が歪んだりすることがない。また、水滴が乾いて白く析出した無機塩によってバックビューの視界が狭まったり、映像の品質が悪くなったりすることもない。
【0027】
図4は、第2実施形態の車載カメラ12を示す正面図及び斜視図である。
図4に示すように、第2実施形態の車載カメラ12は、第1実施形態の車載カメラ11(図1参照)と同様に、レンズ22の周縁部がレンズ鏡筒31によって保持されたものである。そして、レンズ22の表面が外気に露出した状態で、レンズ鏡筒31の先端部に保持されている。
【0028】
また、第2実施形態の車載カメラ12におけるレンズ鏡筒31は、第1実施形態の車載カメラ11(図1参照)と同様のものである。すなわち、レンズ鏡筒31は、合成樹脂で形成された円筒形のものであり、その先端部のレンズ枠32に熱を加えて変形(熱カシメ)させることによってレンズ22を保持するようにしている。そして、レンズ枠32(熱カシメ部)は、レンズ22を保持する内側の端部から外側に向かって放射状に一定間隔で伸びる複数のスリット34が形成されており、各スリット34がレンズ22の周縁部に付着した雨滴等の水滴を光学有効径外に逃がす導水路となっている。
【0029】
さらにまた、第2実施形態の車載カメラ12は、レンズ22を保持したレンズ鏡筒31がレンズ筐体となるが、このレンズ筐体は、第1実施形態の車載カメラ11(図1参照)におけるカメラ筐体41(図1参照)と異なるカメラ筐体42にねじ込まれ、カメラ筐体42内に収容されている。すなわち、カメラ筐体41と異なり、このカメラ筐体42には、車載カメラ12が車の後部ガーニッシュ付近に、俯角が45°程度になるようにして設置された場合に、レンズ22の下縁部側となる位置に、複数の凹溝43(本発明における補助導水路に相当するもの)が形成されている。
【0030】
ここで、各スリット34は、レンズ鏡筒31の中心から放射状に一定間隔で複数形成されているので、カメラ筐体42にレンズ筐体をねじ込んだ際に、どの位置でレンズ筐体が止まったとしても、レンズ22の下縁部側に、いずれかのスリット34が必ず位置するようになる。そして、カメラ筐体42に形成された凹溝43は、レンズ22の下縁部側に位置するスリット34と対応するようになる。なお、凹溝43は、スリット34と同様に、カメラ筐体42の中心から放射状に一定間隔で複数形成しておくこともできる。
【0031】
図5は、第2実施形態の車載カメラ12における水滴の流れを説明する断面図である。
図5に示すように、車載カメラ12は、俯角が45°程度になるようにして設置されている。そのため、レンズ22の光軸は、水平方向よりも下向きに傾斜している。そして、この車載カメラ12が雨天時に使用されると、雨水がレンズ22の表面に水滴となって付着する。この水滴は、レンズ22の光軸の傾斜によって水滴に作用する重力により、半球状のレンズ22の表面に留まらず、図5(a)に示すように、レンズ22の表面に沿って下方に流れ落ちる。すなわち、レンズ22の表面には、親水膜がコーティングされていないが、レンズ22の表面に付着した水滴がある程度以上に大きくなれば、重力によって下方に流れ落ちるのである。
【0032】
このようにしてレンズ22の表面に沿って下方に流れ落ちた水滴は、レンズ22の下縁部(レンズ22とレンズ枠32との境界付近)に溜まりやすいが、レンズ22の下縁部側に位置するスリット34が導水路となって水滴を逃がす。すなわち、レンズ22の下縁部側に位置するスリット34は、俯角が45°程度で設置されている車載カメラ12では、レンズ22を保持する内側が少し高く、外側に向かって下方に傾斜した状態となっている。そのため、レンズ22の表面に沿って下方に流れ落ちた水滴がそこにあるスリット34に接触すると、水滴の同一平面上の接触面積が減って表面張力が小さくなり、水滴に作用する重力との相乗効果によって水滴がレンズ22の下縁部からスリット34に逃げることとなる。
【0033】
また、スリット34に逃げた水滴は、図5(b)に示すように、そのスリット34と対応する位置の延長線上に形成された凹溝43に入り込む。そのため、第2実施形態の車載カメラ12では、スリット34及び凹溝43が水滴の導水路の役目を果たすこととなる。すなわち、水滴は、より一層効果的にレンズ22の表面から排水されるので、レンズ22の下縁部に水滴が溜まることはない。
【0034】
したがって、第2実施形態の車載カメラ12によれば、車載カメラ12の映像に水滴が映り込んだり、水滴によって映像が歪んだりすることをより確実に防止できる。また、水滴が乾いて白く析出したカルシウム等の無機塩によってバックビューの視界が狭まったり、映像の品質が悪くなったりすることもない。
【0035】
図6は、第3実施形態の車載カメラ13を示す正面図及び斜視図である。
図6に示すように、第3実施形態の車載カメラ13は、レンズ21の表面が外気に露出した状態で、レンズ21の周縁部がレンズ鏡筒35の先端部に保持されている。そして、レンズ21を保持したレンズ鏡筒35がレンズ筐体となり、このレンズ筐体は、カメラ筐体44にねじ込まれ、カメラ筐体41内に収容されている。
【0036】
ここで、第3実施形態の車載カメラ13におけるレンズ鏡筒35は、第1実施形態の車載カメラ11(図1参照)におけるレンズ鏡筒31(図1参照)と異なり、レンズ鏡筒35と別体のレンズ枠36によってレンズ21を保持している。すなわち、レンズ21は、レンズ鏡筒35と、レンズ鏡筒35とは別部品であるレンズ枠36との間に挟持され、レンズ枠36がレンズ鏡筒35にねじ込まれることによって固定されている。そして、レンズ枠36には、レンズ21を保持する内側の端部から外側に向かって放射状に一定間隔で伸びる複数のスリット37が形成されている。
【0037】
このように、複数のスリット37を放射状に一定間隔で形成するのは、車載カメラ13が設置された際に、少なくとも1つのスリット37が傾斜したレンズ21の下縁部側に位置するようにするためである。すなわち、車載カメラ13は、車の後部ガーニッシュ付近に、俯角が45°程度になるようにして設置される場合が多い。また、レンズ鏡筒35にレンズ枠36をねじ込むと、ねじ込みの回転によってレンズ枠36が止まる位置が特定されない。そこで、予め複数のスリット37を放射状に一定間隔で形成しておくことにより、ねじ込みのどの位置でレンズ枠36が止まったとしても、俯角が45°程度で設置されている車載カメラ13のレンズ21の下縁部側に、いずれかのスリット37が必ず位置するようにしている。
【0038】
また、このようにしてレンズ21の下縁部側に位置することとなったスリット37は、レンズ21の周縁部に付着した雨滴等の水滴を光学有効径外に逃がす導水路となる。すなわち、半球状のレンズ21の表面に沿って下方に流れ落ちた水滴は、レンズ21の下縁部(レンズ21とレンズ枠36との境界付近)に溜まりやすいが、レンズ21の下縁部側に位置するスリット37が導水路となって水滴を逃がすように作用する。
【0039】
したがって、第3実施形態の車載カメラ13は、スリット37が水滴の導水路の役目を果たし、レンズ21の下縁部に水滴が溜まることなくレンズ21の表面から排水されるので、車載カメラ13の映像に水滴が映り込んだり、水滴によって映像が歪んだりすることがない。また、水滴が乾いて白く析出したカルシウム等の無機塩によってバックビューの視界が狭まったり、映像の品質が悪くなったりすることもない。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、例えば、以下のような種々の変形が可能である。
(1)各実施形態では、光学装置として、屋外で使用される車載カメラ11、車載カメラ12、及び車載カメラ13を例に挙げたが、光学装置は、このような車載カメラ11等には限られない。すなわち、外気に露出する表面を有するレンズ21やレンズ22の他、表面が外気に露出した状態で保持される光透過性光学フィルター、フード、ミラー等の光学部材を備える各種のレンズ装置、光透過性光学フィルター装置、フード、ミラー装置等の光学装置であっても良い。
【0041】
(2)各実施形態では、レンズ21等が直接外気に触れる車載カメラ11等を例に挙げたが、レンズ21等が直接外気に触れない光学装置(例えば、車載カメラ11等がケース内に入れられており、レンズ21等の前方にカバーガラス等の光学部材が設置されている光学装置)にも適用できる。なお、この場合には、カバーガラス等を保持する保持部材に導水路が形成される。
【0042】
(3)各実施形態では、導水路として、スリット33、スリット34、及びスリット37を例に挙げたが、導水路は、このようなスリット33等には限られない。例えば、波状の段差等であっても良く、その断面は、凹字状の他、V字状や半円状等であっても良い。また、そのような段差や、段差が形成された保持部材には、親水膜処理を施すのが、最も効果的である。さらにまた、親水処理又は撥水処理は、カメラ筐体41等の全体や、カメラ筐体42に形成された凹溝43に施しても良い。
【0043】
(4)各実施形態では、導水路として、スリット33、スリット34、及びスリット37を放射状に一定間隔で複数形成しているが、車載カメラ11等が設置された際に、少なくともレンズ21等の下縁部側となる位置に形成されていれば良い。
【0044】
(5)各実施形態では、レンズ21等を保持したレンズ鏡筒31等がレンズ筐体となり、このレンズ筐体をカメラ筐体41等にねじ込んで取り付けているが、レンズ筐体とカメラ筐体41等とは、両者が別体のものだけでなく、一体のもの(例えば、カメラ筐体がレンズ鏡筒31等の役目も果たすもの) であっても良い。また、レンズ鏡筒31等は、合成樹脂だけでなく、ステンレスやアルミ等の金属で形成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】第1実施形態の車載カメラを示す正面図及び斜視図である。
【図2】第1実施形態の車載カメラにおける水滴の流れを説明する断面図である。
【図3】樹脂平面上への水滴滴下実験を示す側面図である。
【図4】第2実施形態の車載カメラを示す正面図及び斜視図である。
【図5】第2実施形態の車載カメラにおける水滴の流れを説明する断面図である。
【図6】第3実施形態の車載カメラを示す正面図及び斜視図である。
【図7】従来の車載カメラを示す斜視図及び断面図である。
【符号の説明】
【0046】
11,12,13 車載カメラ11(光学装置)
21,22 レンズ(光学部材)
31,35 レンズ鏡筒(保持部材)
33,34,37 スリット(導水路)
41,42,44 カメラ筐体(筐体)
43 凹溝(補助導水路)
θ 水滴接触角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が外気に露出した状態で保持される光学部材と、
前記光学部材の周縁部を保持するための保持部材と
を備える光学装置であって、
前記保持部材は、前記光学部材を保持する内側の端部から外側に向かって伸びる導水路が形成されており、
前記導水路は、前記光学部材の周縁部に付着した雨滴等の水滴を光学有効径外に逃がす
ことを特徴とする光学装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光学装置において、
前記導水路は、前記光学部材を保持する内側の端部から外側に向かって径方向に伸びる段差である
ことを特徴とする光学装置。
【請求項3】
請求項1に記載の光学装置において、
前記導水路は、前記光学部材を保持する内側の端部から外側に向かって径方向に伸びる段差であり、
前記段差は、内側の端部が鋭角形状であり、雨滴等の水滴との接触状態が水の接触角以上となる形状である
ことを特徴とする光学装置。
【請求項4】
請求項1に記載の光学装置において、
前記導水路は、前記光学部材を保持する内側の端部から外側に向かって径方向に伸びるスリットである
ことを特徴とする光学装置。
【請求項5】
請求項1に記載の光学装置において、
前記導水路は、前記光学部材を保持する内側の端部から外側に向かって放射状に一定間隔で複数伸びている
ことを特徴とする光学装置。
【請求項6】
請求項1に記載の光学装置において、
前記光学部材は、光軸が水平方向よりも下向きに傾斜して保持され、
前記導水路は、傾斜した前記光学部材の下縁部側に形成されている
ことを特徴とする光学装置。
【請求項7】
請求項1に記載の光学装置において、
前記光学部材を保持した前記保持部材を収容する筐体を備え、
前記筐体は、前記保持部材に形成された前記導水路と対応する位置の延長線上に、補助導水路が形成されている
ことを特徴とする光学装置。
【請求項8】
請求項1に記載の光学装置において、
前記導水路は、親水処理が施されている
ことを特徴とする光学装置。
【請求項9】
請求項1に記載の光学装置において、
前記導水路は、前記保持部材の表層をレーザー・アブレーション法により親水性処理化を施し形成されたものである
ことを特徴とする光学装置。
【請求項10】
請求項1に記載の光学装置において、
前記導水路は、前記保持部材の表層に親水化処理剤を局所塗布又は印刷することによる親水処理を施して形成されたものである
ことを特徴とする光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−157194(P2009−157194A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336683(P2007−336683)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】