説明

光導波型バイオケミカルセンサチップ、バイオセンサカートリッジ及びバイオセンサシステム

【課題】繰り返して高感度な測定が可能な光導波型バイオケミカルセンサチップ、バイオセンサカートリッジ及びバイオセンサシステムを提供する。
【解決手段】実施形態によれば、光導波部と、センシング部と、を備えた光導波型バイオケミカルセンサチップが提供される。前記光導波部は、光を導く光導波層を含む。前記センシング部は、前記光導波部の主面に接し、センシング材料層を含む。前記センシング材料層に導入される検体に応じた酸化及び還元の一方の反応により、前記主面から前記センシング材料層に浸透する浸透光に対する前記センシング材料層の吸収特性において第1変化が生じる。前記センシング材料層に印加される電圧による酸化及び還元の他方の反応により、前記吸収特性において前記第1変化とは逆の第2変化が生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、光導波型バイオケミカルセンサチップ、バイオセンサカートリッジ及びバイオセンサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
小型で高感度なバイオケミカルセンサチップの開発が進んでいる。例えば、糖尿病治療において、グルコースを高感度で検出することが重要であり、このために、光導波型バイオケミカルセンサチップが開発されている。
【0003】
グルコースなどの検体を繰り返して測定できるセンサチップの開発が望まれている。これにより一定期間連続して検体を検出することが可能になる。例えば、組織液中のグルコースを電気化学的センサで計測しているデバイスがある。しかし、電気化学測定でのセンサは検出感度が小さいため、組織液中の低濃度グルコースを測定する場合では測定誤差が生じる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−209219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、繰り返して高感度な測定が可能な光導波型バイオケミカルセンサチップ、バイオセンサカートリッジ及びバイオセンサシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態によれば、光導波部と、センシング部と、を備えた光導波型バイオケミカルセンサチップが提供される。前記光導波部は、光を導く光導波層を含む。前記センシング部は、前記光導波部の主面に接し、センシング材料層を含む。前記センシング材料層に導入される検体に応じた酸化及び還元の一方の反応により、前記主面から前記センシング材料層に浸透する浸透光に対する前記センシング材料層の吸収特性において第1変化が生じる。前記センシング材料層に印加される電圧による酸化及び還元の他方の反応により、前記吸収特性において前記第1変化とは逆の第2変化が生じる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施形態に係る光導波型バイオケミカルセンサチップの構成を例示する模式的断面図である。
【図2】第1の実施形態に係る光導波型バイオケミカルセンサチップの特性を例示する模式図である。
【図3】図3(a)及び図3(b)は、第1の実施形態に係る別の光導波型バイオケミカルセンサチップの構成を例示する模式図である。
【図4】図4(a)及び図4(b)は、第1の実施形態に係る別の光導波型バイオケミカルセンサチップの構成を例示する模式図である。
【図5】図5(a)及び図5(b)は、第1の実施形態に係る別の光導波型バイオケミカルセンサチップの構成を例示する模式図である。
【図6】図6(a)及び図6(b)は、第1の実施形態に係る別の光導波型バイオケミカルセンサチップの構成を例示する模式図である。
【図7】図7(a)及び図7(b)は、第1の実施形態に係る別の光導波型バイオケミカルセンサチップの構成を例示する模式図である。
【図8】図8(a)〜図8(e)は、第1の実施形態に係る光導波型バイオケミカルセンサチップの製造方法を例示する工程順模式的断面図である。
【図9】図9(a)〜図9(f)は、第1の実施形態に係る光導波型バイオケミカルセンサチップの別の製造方法を例示する工程順模式的断面図である。
【図10】図10(a)〜図10(c)は、第2の実施形態に係るバイオセンサカートリッジの構成及び動作を例示する模式的断面図である。
【図11】第3の実施形態に係るバイオセンサシステムの構成を例示する模式図である。
【図12】第3の実施形態に係るバイオセンサシステムの動作を例示するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0009】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施形態に係る光導波型バイオケミカルセンサチップの構成を例示する模式的断面図である。
図1に表したように、実施形態に係る光導波型バイオケミカルセンサチップ110は、光導波部10と、センシング部20と、を備える。以下、「光導波型バイオケミカルセンサチップ」を、適宜「センサチップ」と省略して記載する場合がある。
【0010】
光導波部10は、光導波層11を含む。光導波層11は、光15を導く。
光導波部10は、第1主面10aと、第2主面10bと、を有する。第2主面10bは、第1主面10aとは反対側の面である。本具体例では、第1主面10aは、光導波層11の一方の主面である。第2主面10bは、光導波層11の他方の主面である。光15は、第1主面10aと第2主面10bとで反射し、光導波層11の内部を導かれる。
【0011】
センシング部20は、光導波部10の主面に接する。以下では、センシング部20が、光導波部10の第1主面10aに接する場合として説明する。センシング部20は、光導波層11の主面に接している。
【0012】
センシング部20は、センシング材料層21を含む。後述するように、センシング部20は、センシング材料層21以外の層をさらに含んでも良い。
【0013】
光導波層11を導かれる光15の一部は、センシング材料層21に浸透する。浸透する浸透光16は、光導波層11中を導かれる光15の、光導波部10の主面(第1主面10a)におけるエバネッセント光である。
【0014】
センシング部20には、電圧を印加できる。すなわち、センシング材料層21には、電圧を印加できる。例えば、光導波部10(具体的には光導波層11)は、導電性である。この場合、光導波部10と、図示しない対向電極と、の間に電圧を印加することで、センシング材料層21に電圧が印加される。さらに、後述するように、光導波部10は、光導波層11とセンシング部20との間に設けられた透明導電層を含むことができる。この場合には、この透明導電層と、図示しない対向電極と、の間に電圧を印加することで、センシング材料層21に電圧が印加される。
【0015】
センシング材料層21には、検体spが導入される。検体spは、例えば、体液などを含む溶液である。例えば、体液には検査対象が含まれる。検査対象は、例えばグルコースなどである。
【0016】
センシング材料層21には、例えば、センシング材料が含まれる。センシング材料は、例えばプルシアンブルーを含む。センシング材料層21は、センシング材料と、センシング材料が分散されるバインダを含む。バインダは、例えば光硬化型(例えば紫外線硬化型)の樹脂である。
【0017】
センシング材料層21は、吸水可能である。そして、センシング材料層21は非水溶性である。例えば、バインダは、吸水可能でありつつ、非水溶性の材料が用いられる。バインダには、例えばハイドロゲルなどが用いられる。
【0018】
センシング部20は、例えば、検体spの反応を進める酵素を含む。例えば、センシング材料層21は、検体spと反応する酵素を含む。検体spがグルコースである場合には、酵素は、例えばグルコースオキシターゼ(GOD)である。以下では、検体spがグルコースであり、酵素がGODである場合について説明する。
【0019】
センシング部20に検体spが例えば、滴下される。これにより、センシング材料層21に導入されたグルコースと酸素とが、酵素により反応し、グルコン酸と過酸化水素(H)が生じる。
【0020】
センシング材料層21に含まれるセンシング材料が例えばプルシアンブルーである場合は、第1式の反応が生じる。

Fe(II)[Fe(II)(CN)(透明)+2H
→ KFe(III)[Fe(II)(CN)(青色)+4OH+4K …(第1式)

第1式に表したように、センシング材料層21は、透明状態から着色状態(青色状態)に変化する。第1式の反応は、酸化の反応である。
【0021】
センシング材料層21を例えばK(カリウム)イオンを含む溶液(例えばKCl溶液)に接触させた状態でセンシング材料層21に電圧を印加する。これにより、第2式の反応が生じる。

Fe(III)[Fe(II)(CN)(青色)+4K+4e
→ KFe(II)[Fe(II)(CN)(透明) …(第2式)

第2式に表したように、センシング材料層21は、着色状態(青色状態)から透明状態に変化する。第2式の反応は、還元の反応である。
【0022】
第2式の反応は、第1式の反応とは逆の反応である。すなわち、センシング材料層21において可逆的な反応が生じる。
【0023】
第1式の反応は、検体spにより生じた過酸化水素(H)に基づく反応である。従って、第1式の反応は、センシング材料層21に導入される検体spに応じた反応である。例えば、検体spの量が多い(濃度が濃い)場合は、第1式の反応が多く生じる。このため、センシング材料層21の着色の程度は高い。すなわち、センシング材料層21の色が濃くなる。
【0024】
そして、浸透光16に対するセンシング材料層21の吸収が第1式の反応により変化する。すなわち、第1式の左辺の透明状態においては、浸透光16に対する吸収は小さい。第2式の右辺の青色状態においては、浸透光16に対する吸収が大きい。
【0025】
第1式の反応の前後における光の吸収特性の変化により、光導波層11から出射する出射光17の強度が変化する。この出射光17の変化により、検体sp(例えば検体spの量や濃度など)を高い精度で検出できる。
【0026】
そして、第2式の反応により、センシング材料層21の状態は、第1式の左辺の元の状態に戻る。これにより、センサチップ110は繰り返し使用できる。
【0027】
このように、センシング材料層21に導入される検体spに応じた酸化及び還元の一方の反応により、光導波部10の主面(第1主面10a)からセンシング材料層21に浸透する浸透光16に対するセンシング材料層21の吸収特性において第1変化が生じる。すなわち、浸透光16に対するセンシング材料層21の吸収率に上昇または低下が生ずる。この第1変化を検出することで、検体spが検出できる。
【0028】
そして、センシング材料層21に印加される電圧による酸化及び還元の他方の反応により、吸収特性において第1変化とは逆の第2変化が生じる。すなわち、浸透光16に対するセンシング材料層21の吸収率が第1変化において上昇した場合には、第2変化として吸収率が低下する。一方、浸透光16に対するセンシング材料層21の吸収率が第1変化において低下した場合には、第2変化として吸収率が上昇する。この第2変化により、センシング材料層21の状態は、元の状態に戻る。
【0029】
第1式の酸化の反応(酸化及び還元の一方の反応)と、第2式の還元の反応(酸化及び還元の他方の反応)と、は、互いに逆の反応である。すなわち、センサチップ110においては、可逆的な反応が生じる。
【0030】
このように、検体spに応じた酸化及び還元の上記の一方の反応(第1式の反応)は、センシング部20に含まれる酵素(例えばグルコースオキシターゼ)と、検体sp(例えばグルコース)と、の反応による生成物と、センシング部20(具体的にはセンシング材料層21)に含まれるセンシング材料(例えばプルシアンブルー)と、の反応を含むことができる。この生成物は、例えば過酸化水素である。
【0031】
センシング材料層21においては、センシング材料層21に導入される検体spに応じた酸化及び還元の一方の反応が生じることで、検体spに応じて、浸透光16に対するセンシング材料層21の吸収特性が第1状態(透明状態)から第2状態(着色状態)に変化する。そして、センシング材料層21において、センシング材料層21に印加される電圧により酸化及び還元の他方の反応が生じ、吸収特性が第2状態から第1状態に変化する。浸透光16に対するセンシング材料層21の吸収特性は、検体spに応じて可逆的に変化する。
【0032】
これにより、繰り返して高感度な測定が可能な光導波型バイオケミカルセンサチップが提供できる。
【0033】
なお、プルシアンブルーを用いたセンサチップとして、電流検出型のセンサチップが考えられる。この場合には、検体spに応じたプルシアンブルーの反応における電流の変化により、検体spが検出される。電流検出型のセンサチップにおいては、検出精度が低い。
【0034】
これに対し、実施形態に係るセンサチップ110は、光導波型のセンサチップであるため、検出精度が高い。
【0035】
図2は、第1の実施形態に係る光導波型バイオケミカルセンサチップの特性を例示する模式図である。
図2に表したように、光導波層11を導かれる光15の軸と、第1主面10aの法線と、の角度をθとする。光導波層11の屈折率をnとする。センシング材料層21(センシング部20)の屈折率をnとする。光15の波長をλとする。このとき、光導波部10の第1主面10aからセンシング材料層21に浸透する浸透光16(エバネッセント光)の浸透距離dpは、以下の第3式で表される。

dp=λ・(nsinθ−n1/2/2π …(第3式)

実施形態において、センシング材料層21の厚さは、浸透距離dp以下であることが望ましい。もしセンシング材料層21の厚さが浸透距離dpよりも厚い場合、センシング材料層21のうちで浸透距離dpよりも厚い部分は、検体spの検出に寄与しない。センシング材料層21の厚さを浸透距離dp以下に設定することで、検体spの検出精度が向上する。
【0036】
このように、センシング材料層21の厚さは、光導波部10の主面(第1主面10a)からセンシング部20に浸透するエバネッセント光のエバネッセント距離以下であることが望ましい。
【0037】
図3(a)及び図3(b)は、第1の実施形態に係る別の光導波型バイオケミカルセンサチップの構成を例示する模式図である。
図3(a)は平面図であり、図3(b)は、図3(a)のA1−A2線断面図である。 図3(a)及び図3(b)に表したように、実施形態に係るセンサチップ121は、光導波部10及びセンシング部20に加え、基板部30をさらに備える。
【0038】
基板部30は、光導波部10のセンシング部20とは反対の側に設けられる。すなわち、光導波部10は、基板部30とセンシング部20との間に配置される。
【0039】
基板部30は、基板33と、第1偏向部31と、第2偏向部32と、を含む。
基板33は、光導波層11に対向して設置される。第1偏向部31は、基板33上に設けられ、光導波層11に対向する。第1偏向部31は、基板33に向けて入射する光14の進行方向を変化させて光導波層11に入射させる。これにより、入射する光14に基づく光15が、光導波層11の内部を導かれる。光14は、例えばレーザ光である。
【0040】
第2偏向部32は、基板33上に設けられ、光導波層11に対向する。第2偏向部32は、光導波層11を導波した光15を光導波層11から出射させる。これにより、出射光17は、光導波層11から出射する。
【0041】
基板33には、例えばガラス基板を用いることができる。ただし、基板33には、任意の材料を用いることができる。基板33には、例えば、樹脂材料を用いても良い。ただし、寸法精度及び表面粗さの観点から、基板33には、ガラス基板を用いるのが望ましい。
【0042】
また、センサチップ121において、第1主面10aの側から光14が斜めに入射し、光15が光導波層11内を導波しても良い。この場合は、基板33には、光15に対して反射性の材料を用いても良い。
【0043】
例えば、基板33の屈折率は、光導波層11の屈折率よりも低い。光導波層11に樹脂を用いた場合、光導波層11の屈折率は例えば1.49〜1.70程度である。基板33にガラス(例えば無アルカリガラス)を用いた場合、基板33の屈折率は例えば1.515である。
【0044】
第1偏向部31及び第2偏向部32は、回折格子を含むことができる。回折格子には、例えば基板33の屈折とは異なる屈折率を有する材料を用いることができる。例えば、基板33の上に形成した酸化チタン膜を所定の形状に加工することで回折格子が設けられる。具体的には回折格子のピッチは、例えば、0.9μm以上1.1μm以下である。
【0045】
例えば基板33の一方の面(光導波層11に対向する例えば上面)に第1偏向部31及び第2偏向部32が設けられる。第1偏向部31から第2偏向部32に向かう方向において、第1偏向部31の少なくとも一部と第2偏向部32の少なくとも一部との間に、光導波層11の少なくとも一部が設けられる。
【0046】
基板33の上面に第1偏向部31及び第2偏向部32が設けられている場合、基板の下面から光14が入射する。基板33を通過した光14が、第1偏向部31に入射し、光14の進行方向が変化し、光導波層11に入射する。
【0047】
また、例えば、基板33の上面に第1偏向部31及び第2偏向部32が設けられている場合、基板の上面から光14が入射しても良い。この場合も光14は、第1偏向部31に入射し、光14の進行方向が変化し、光導波層11に入射する。
【0048】
本具体例においては、光導波層11は導電性である。この場合、第2式の反応を実施する際の電圧は、光導波層11によりセンシング材料層21に印加される。すなわち、光導波層11を一方の電極とし、後述する対向電極を他方の電極として、センシング材料層21に電圧が印加される。
【0049】
なお、センサチップ121においては、センシング部20のセンシング材料層21は、センシング材料(例えばプルシアンブルーなど)と、酵素と、バインダと、を含む。すなわち、センシング材料層21は、検体spと反応する酵素を含む。
【0050】
図4(a)及び図4(b)は、第1の実施形態に係る別の光導波型バイオケミカルセンサチップの構成を例示する模式図である。
図4(a)は平面図であり、図4(b)は、図4(a)のA1−A2線断面図である。 図4(a)及び図4(b)に表したように、実施形態に係るセンサチップ122においても、光導波部10及びセンシング部20に加え、基板部30が設けられる。そして、光導波部10は、光導波層11に加え、透明導電層12をさらに含む。
【0051】
透明導電層12は、光導波層11とセンシング部20との間に設けられる。透明導電層12は、浸透光16に対して透過性である。すなわち、透明導電層12は、光15の波長を有する光に対して透過性である。
【0052】
第2式の反応を実施する際の電圧は、透明導電層12によりセンシング材料層21に印加される。すなわち、透明導電層12を一方の電極とし、後述する対向電極を他方の電極として、センシング材料層21に電圧が印加される。
【0053】
透明導電層12は、In、Sn、Zn及びTiよりなる群から選択された少なくともいずれかの元素を含む酸化物を含む。透明導電層12には、例えばITO(Indium Tin Oxide)を用いることができる。透明導電層12にITOを用いた場合、透明導電層12の屈折率は、2.06である。例えば、透明導電層12の屈折率は、光導波層11の屈折率よりも高い。
【0054】
光導波部10において、例えば、透明導電層12は光導波層11と共に光15を導くことができる。
【0055】
すなわち、光導波部10の主面(第1主面10a)は、透明導電層12の主面とすることができる。そして、透明導電層12の主面(第1主面10a)からセンシング材料層21に浸透する浸透光16に対するセンシング材料層21の吸収特性において第1変化及び第2変化が生じる。
【0056】
センサチップ122においても、センシング材料層21は、センシング材料と、酵素と、バインダと、を含む。すなわち、センシング材料層21は、検体spと反応する酵素を含む。
【0057】
一般に、透明導電層12の厚さが薄いと、シート抵抗は高くなる。第2式の反応を有効に実施するためには、シート抵抗が低いことが望ましい。実用的な観点から、透明導電層12の厚さは、150ナノメートル(nm)以上であるが望ましい。これにより、シート抵抗が低下する。これにより、第2式の反応が有効に実施できる。
透明導電層12の主面における光15の反射回数は、例えば、光導波層11及び透明導電層12の厚さに依存する。一般的に平面光導波層を伝播する光は、光導波層とその上下の層との界面における散乱などにより減衰する。光導波層が薄すぎる場合、反射回数が増大する結果、出射光強度が低下する。これによって、外乱光や測定系のゆらぎ等によるノイズの影響を受けやすくなる。図4(a)及び図4(b)に例示した構成において、光導波層11を過度に薄くしなければ、上記のような問題は生じない。但し、透明導電層12が過度に厚いと光15の光路長が長くなるため透明導電層12の主面における光15の反射回数が減少する。これにより、浸透光16の発生量が減少するため、検出感度が低下する。従って、透明導電層12の厚さは、1μm以下が望ましい。
【0058】
図3に例示したセンサチップ121のように、光導波層11が導電性であり、光導波層11によりセンシング材料層21に電圧を印加する場合は、光導波層11の厚さは、150nm以上であるが望ましい。これにより、シート抵抗が低下し、第2式の反応が有効に実施できる。光導波層11が薄すぎる場合、反射回数の増大による散乱の影響で光17の強度が低下し、ノイズの影響が生じる。このため、光導波層11の厚さは10μm以上であることが望ましい。
【0059】
図5(a)及び図5(b)は、第1の実施形態に係る別の光導波型バイオケミカルセンサチップの構成を例示する模式図である。
図5(a)は平面図であり、図5(b)は、図5(a)のA1−A2線断面図である。 図5(a)及び図5(b)に表したように、実施形態に係るセンサチップ123においては、センシング部20は、センシング材料層21の他に、酵素層22をさらに含む。酵素層22は、センシング材料層21に積層される。酵素層22は、検体spと反応する酵素を含む。これにより、第1式の反応が生じる。これにより、上記の動作が実施される。
【0060】
センシング材料層21は、センシング材料(例えばプルシアンブルー)と、バインダと、を含む。酵素層22は、酵素と、バインダと、を含むことができる。
【0061】
なお、本具体例では、センシング材料層21は、酵素層22と光導波部10との間に配置される。センシング材料層21が光導波部10の側に配置される。すなわち、センシング材料層21は光導波部10の近傍に、または、接して配置される。これにより、センシング材料層21における吸収特性の変化が検出し易くなる。これにより、検出感度が向上できる。また、可逆性の応答性が向上できる。
【0062】
図6(a)及び図6(b)は、第1の実施形態に係る別の光導波型バイオケミカルセンサチップの構成を例示する模式図である。
図6(a)は平面図であり、図6(b)は、図6(a)のA1−A2線断面図である。 図6(a)及び図6(b)に表したように、実施形態に係るセンサチップ124においては、センシング部20は、センシング材料層21及び酵素層22を含む。さらに、光導波部10は、光導波層11及び透明導電層12を含む。
【0063】
図7(a)及び図7(b)は、第1の実施形態に係る別の光導波型バイオケミカルセンサチップの構成を例示する模式図である。
図7(a)は平面図であり、図7(b)は、図7(a)のA1−A2線断面図である。 図7(a)及び図7(b)に表したように、実施形態に係るセンサチップ125においては、基板部30が設けられていない。
【0064】
光導波部10の光導波層11の端面(第1主面10aと第2主面10bとに接続される面)が主面(第1主面10a)に対して傾斜している。これにより、例えば、光導波層11の1つの端面から光導波層11の内部に光14が入射する。そして、例えば、光導波層11の別の端面から、光導波層11を導かれた光15が、出射光17として出射する。そして、センシング材料層21における光の吸収特性の変化が検出される。
【0065】
なお、この例では、光導波部10に透明導電層12が設けられているが、透明導電層12は省略されても良い。また、この例では、センシング部20に酵素層22が設けられていないが、センシング部20は、酵素層22をさらに含んでも良い。
【0066】
センサチップ121〜125においても、繰り返して高感度な測定が可能な光導波型バイオケミカルセンサチップが提供できる。
【0067】
センシング材料層21の吸収波長帯は、光15の波長を含むことができる。例えば、センシング材料層の吸収波長帯は、625nm以上650以下である。例えば、光15の波長は、625nm以上650nm以下である。
【0068】
なお、実施形態において、センシング材料層21は、プルシアンブルーを含む。ただし、実施形態はこれに限らない。すなわち、センシング材料層21に導入される検体に応じた酸化及び還元の一方の反応により、浸透光16に対するセンシング材料層21の吸収特性において第1変化が生じ、センシング材料層21に印加される電圧による酸化及び還元の他方の反応により、吸収特性において第1変化とは逆の第2変化が生じるような任意の材料をセンシング材料層21は含むことができる。
【0069】
センシング材料層21は、プルシアンブルー、3,3',5,5'-tetramethylbenzine(TMBZ)、o-phenylenediamine(OPD)、o-tolidine、N,N'-Bis(2-hydroxy-3-surufopropyl)tolicine,disodium salt,tetrahydrate(SAT−3)、及び、2,2'-azinobis(3-ethylbenzothiazoline-6-sulfonic acid ammonium salt(ABTS)の少なくともいずれかを含むことができる。
【0070】
以下、実施形態に係るセンサチップの製造方法の例について説明する。
図8(a)〜図8(e)は、第1の実施形態に係る光導波型バイオケミカルセンサチップの製造方法を例示する工程順模式的断面図である。
これらの図は、センサチップ122の製造方法の例を示している。
【0071】
図8(a)に表したように、基板33の上に、例えば第1偏向部31及び第2偏向部32となる膜を形成する。この膜には、例えば酸化チタン膜が用いられる。酸化チタン膜の形成には、例えばスパッタ法が用いられる。そして、この膜をリソグラフィとエッチングにより所定の形状に加工する。これにより、第1偏向部31及び第2偏向部32が形成される。このエッチングには、例えばRIE(Reactive Ion Etching)などが用いられる。この後、エッチングの際に用いられたマスク材が除去される。
【0072】
図8(b)に表したように、基板33、第1偏向部31及び第2偏向部32の上に、光導波層11を形成する。具体的には、光導波層11となる有機膜を例えば塗布し、硬化する。
【0073】
図8(c)に表したように、光導波層11の上に透明導電層12を形成する。具体的には、透明導電層12となる例えばITO膜を、例えば真空蒸着及びスパッタなどの方法により形成する。
【0074】
図8(d)に表したように、センシング材料層21となるセンシング材料膜21fを形成する。この例では、センシング材料膜21fは、プルシアンブルーと、酵素と、バインダと、を含む。バインダには、紫外線硬化型の樹脂が用いられる。これらを含む溶液を例えばスピンナで塗布する。これにより、センシング材料膜21fが形成される。
【0075】
図8(e)に表したように、所定の形状のマスクを用いて、センシング材料膜21fに露光及び現像の処理を施し、センシング材料層21が得られる。
【0076】
そして、センシング材料層21に還元処理を施す。すなわち、第2式の反応を実施する。これにより、センシング材料層21は、透明状態になる。これにより、センシング材料層21は、検体spを検出可能な状態になる。
このようにして、センサチップ122が得られる。
【0077】
図9(a)〜図9(f)は、第1の実施形態に係る光導波型バイオケミカルセンサチップの別の製造方法を例示する工程順模式的断面図である。
これらの図は、センサチップ124の製造方法の例を示している。
【0078】
図9(a)に表したように、基板33の上に、例えば第1偏向部31及び第2偏向部32となる膜を形成する。図9(b)に表したように、基板33、第1偏向部31及び第2偏向部32の上に、光導波層11を形成する。図9(c)に表したように、光導波層11の上に透明導電層12(例えばITO膜)を形成する。
【0079】
図9(d)に表したように、透明導電層12のうちでセンシング部20が設けられない領域を覆うマスク膜20rを形成する。マスク膜20rに覆われていない領域が、センシング領域となる。マスク膜20rの形成には、例えば、スクリーン印刷法などの任意の塗布法などが用いられる。
【0080】
図9(e)に表したように、プルシアンブルーを電析させる。これにより、センシング材料層21が形成される。この後、還元処理を行う。
【0081】
図9(f)に表したように、センシング材料層21の上に酵素層22を形成する。例えば、酵素及びバインダを含む溶液を例えばスピンナで塗布し、硬化させることで、酵素層22が形成される。
このようにして、センサチップ124が得られる。
【0082】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態は、第1の実施形態に係る光導波型バイオケミカルセンサチップを用いたバイオセンサカートリッジである。以下では、バイオセンサカートリッジがセンサチップ122を備える場合として説明する。実施形態はこれに限らず、第1の実施形態に係るセンサチップのいずれか、及び、その変形の任意のセンサチップを用いることができる。
【0083】
図10(a)〜図10(c)は、第2の実施形態に係るバイオセンサカートリッジの構成及び動作を例示する模式的断面図である。
図10(a)に表したように、本実施形態に係るバイオセンサカートリッジ210は、第1の実施形態に係る光導波型バイオケミカルセンサチップ(例えばセンサチップ122)と、対向電極40と、ハウジング50と、を備える。
【0084】
対向電極40は、センシング部20と離間する。対向電極40は、例えば、センシング部20の光導波部10とは反対の側に配置される。すなわち、センシング部20は、対向電極40と光導波部10との間に配置される。対向電極40は、センシング部20に対向する。
【0085】
ハウジング50は、センサチップ122及び対向電極40を保持する。
例えば、ハウジング50は、対向部54と、側部53と、を含む。対向部54は、センシング部20の上方に設けられる。対向部54の下面(センシング部20に対向する面)に対向電極40が配置される。側部53は、光導波部10のうちの、センシング部20の周囲の部分の上に設けられる。本具体例では、側部53には、貫通電極55が設けられている。貫通電極55は、側部53を貫通し、透明導電層12に電気的に接続されている。なお、光導波層11が導電性の場合は、貫通電極55は、光導波層11に電気的に接続されても良い。
【0086】
対向電極40及び貫通電極55には、例えば、金、白金及びカーボンの少なくともいずれかが用いられる。これにより、これらの電極の化学的安定性が向上する。ハウジング50には、例えば黒色の樹脂成形体が用いられる。黒色の樹脂を用いることで、測定の際の外乱光の影響を抑制できる。
【0087】
図10(a)は、検体spの検出時の1つの状態を例示している。図10(b)は、検体spの検出時の別の状態を例示している図10(c)は、検体spの検出が終了し、センシング材料層21が検出前の状態に戻った初期化状態を例示している。
【0088】
図10(a)に表したように、センシング部20と対向電極40との間の空間50sには、検体spを含む検体液splが流入可能である。
【0089】
例えば、ハウジング50は、検体液splを空間50sに流入させる流入口51と、検体液splを空間50sから流出させる流出口52と、を含む。流入口51から流入した検体液spl中の検体sp(例えばグルコース)が、センシング材料層21に導入される。これにより、第1式の反応が生じる。
【0090】
図10(b)に例示した状態においては、図10(a)に例示した状態よりも検体液spl中の検体spの濃度が高い。このため、第1式の反応がより多く生じる。
【0091】
このため、図10(b)に例示した状態におけるセンシング材料層21の光の吸収率は、図10(a)に例示した状態のときのセンシング材料層21の光の吸収率よりも高い。この光の吸収率の差異が、出射光17の強度を測定することで検出される。これにより、検体spを高い精度で検出できる。
【0092】
図10(c)に表したように、検体spの検出が終了したら、検体液splを流出口52から排出し、洗浄する。そして、センシング部20と対向電極40との間の空間50sに、例えばKCl溶液を流入させる。すなわち、センシング部20と対向電極40との間の空間50sには、電圧による酸化及び還元の他方の反応(例えば第2式の反応)に用いられる反応液57(例えばKCl溶液)が流入可能である。
【0093】
そして、対向電極40と透明導電層12とに、貫通電極55を介して、電源58が接続される。光導波層11が導電性の場合は、対向電極40と光導波層11とに、貫通電極55を介して、電源58が接続される。
【0094】
センシング材料層21を例えばK(カリウム)イオンを含む反応液57(例えばKCl溶液)に接触させた状態でセンシング材料層21に電圧を印加する。これにより、第2式の反応が生じる。これにより、センシング材料層21は、初期状態に戻る。
【0095】
そして、反応液57を例えば、流出口52から排出する。そして、センシング部20と対向電極40との間の空間50sに、再び検体液splを流入させる。そして、検体spの検出を再び実施する。
【0096】
このように、実施形態に係るバイオセンサカートリッジ210においては、繰り返して高感度な測定が可能である。
【0097】
このように、センシング部20と対向電極40との間の空間50sには、検体spを含む検体液splが流入可能である。さらにこの空間50sには、電圧による酸化及び還元の他方の反応(例えば第2式の反応)に用いられる反応液57が流入可能である。例えば、ハウジング50は、検体液splを空間50sに流入させる流入口51と、検体液splを空間50sから流出させる流出口52と、を含む。流入口51及び流出口52の一方は、空間50sに反応液57を流入させ、流入口51及び流出口52の他方は、空間50sから反応液57を流出させる。
【0098】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態は、第3の実施形態に係るバイオセンサカートリッジを用いたバイオセンサシステムである。以下では、バイオセンサシステムがバイオセンサカートリッジ210を備える場合として説明する。
【0099】
図11は、第3の実施形態に係るバイオセンサシステムの構成を例示する模式図である。
図11に表したように、本実施形態に係るバイオセンサシステム310は、第2の実施形態に係るバイオセンサカートリッジ210と、光源61と、光検出器62と、検体液供給部70と、反応液供給部80と、電源58と、を備える。この例では、バイオセンサカートリッジ210においては、センサチップ122が用いられている。実施形態はこれに限らず、第1の実施形態に係る任意のセンサチップ及びその変形のいずれかを用いることができる。
【0100】
光源61は、光導波層11に導波される光14(光15)を発生する。光源61には、例えば、レーザダイオードなどが用いられる。
【0101】
光検出器62は、光導波層11に導波された光15(出射光17)を検出する。光検出器62には、フォトダイオードなどが用いられる。
【0102】
検体液供給部70は、バイオセンサカートリッジ210に接続される。検体液供給部70は、検体液splを、センシング部20と対向電極40との間の空間50sに供給する。検体液供給部70は、例えば、検体液タンク71と検体液配管72とを含む。検体液タンク71は、検体液splを格納する。検体液配管72は、検体液タンク71と流入口51とを接続する。検体液splは、流入口51から空間50sに流入可能である。
【0103】
反応液供給部80は、バイオセンサカートリッジ210に接続される。反応液供給部80は、電圧による酸化及び還元の他方の反応(例えば第2式の反応)の際に使用される反応液57(例えばKCl溶液)を空間50sに供給する。反応液供給部80は、例えば、反応液タンク81と反応液配管82とを含む。反応液タンク81は、反応液57を格納する。反応液配管82は、反応液タンク81と例えば流入口51とを接続する。反応液57は、流入口51から空間50sに流入可能である。反応液配管82は、反応液タンク81と、流入口51とは別の入り口と、を接続しても良い。
【0104】
電源58は、光導波部10と対向電極40とに電気的に接続される。本具体例では、電源58は、貫通電極55を介して、光導波部10と電気的に接続される。具体的には、電源58は、透明導電層12と電気的に接続されている。光導波層11が導電性である場合は、電源58は、光導波層11と電気的に接続されても良い。
【0105】
図11に表したように、バイオセンサシステム310は、溶液排出部90と、制御部95と、をさらに備えることができる。
【0106】
溶液排出部90は、バイオセンサカートリッジ210に接続される。溶液排出部90は、検体液spl及び反応液57の少なくともいずれかを、空間50sから排出する。溶液排出部90は、例えば、溶液タンク91と排出配管92とを含む。溶液タンク91は、排出された検体液spl及び反応液57少なくともいずれかを格納する。排出配管92は、溶液タンク91と例えば流出口52とを接続する。検体液spl及び反応液57の少なくともいずれかは、流出口52から流出可能である。
【0107】
制御部95は、検体液供給部70及び反応液供給部80の少なくともいずれかの動作を制御する。具体的には、制御部95は、検体液供給部70の空間50sへの検体液splの供給と、反応液供給部80の空間50sへの反応液57の供給と、を制御する。すなわち、図10(a)〜図10(c)に関して説明した動作を実施する。
【0108】
なお、制御部95は、有線または無線の方式により、検体液供給部70及び反応液供給部80と通信が可能である。
【0109】
制御部95は、バイオセンサシステム310に含められても良い。実施形態はこれに限らず、制御部95は、バイオセンサシステム310とは別に設けられ、制御部95とバイオセンサシステム310との通信が任意の方法で実施されても良い。
【0110】
制御部95は、光検出器62と、電源58と、をさらに制御しても良い。
【0111】
以下、制御部95の動作の例について説明する。
図12は、第3の実施形態に係るバイオセンサシステムの動作を例示するフローチャート図である。
図12に表したように、制御部95は、検体液供給部70に空間50sへの検体液splの供給を実施させる(ステップS110)。これにより、例えば、第1式の反応が生じる。
【0112】
さらに、制御部95は、光検出器62に、供給された検体液splによるセンシング材料層21の光(浸透光16)に対する吸収特性を検出させる(ステップS120)。第1式の反応に応じた吸収特性が検出される。なお、光検出器62は、センシング材料層21の光に対する吸収特性を常時検出していても良い。
さらに、制御部95は、光検出器62による吸収特性の検出結果を入手することができる。
【0113】
制御部95は、吸収特性の検出(ステップS120)の後に、反応液供給部80に空間50sへの反応液57の供給を実施させる(ステップS130)。
【0114】
制御部95は、ステップS120とステップS130との間において、検体液splを空間50sから排出させても良い。この動作は、例えば、溶液排出部90によって実施される。制御部95は、この際の溶液排出部90の動作をさらに制御することができる。
【0115】
制御部95は、空間50sに反応液57が導入されている状態で対向電極40を介してセンシング部20に電圧を印加する(ステップS140)。すなわち、例えば、制御部95は、電源58をオン状態にし、例えば透明導電層12と対向電極40との間に電圧を印加する。これにより、例えば、第2式の反応が生じる。これにより、センシング材料層21は、もとの状態に戻る。
【0116】
さらに、制御部95は、電圧の印加(ステップS140)の後に、検体液供給部70に空間50sへの検体液splの供給をさらに実施させる(2回目のステップS110)。
【0117】
そして、制御部95は、光検出器62に、供給された検体液splによるセンシング材料層21の光に対する吸収特性をさらに検出させる(2回目のステップS120)。
【0118】
このように、実施形態に係るバイオセンサシステム310によれば、繰り返して高感度な測定が可能なバイオセンサシステムが提供できる。
【0119】
なお、ステップS110〜ステップS140は、技術的に可能な範囲で同時に実施されても良い。例えば、光検出器62は、センシング材料層21の光に対する吸収特性を常時検出していても良い。
【0120】
上記において、ステップS140と2回目のステップS110との間において、反応液57を空間50sから排出させても良い。この動作は、例えば、溶液排出部90によって実施される。制御部95は、この際の溶液排出部90の動作をさらに制御することができる。
【0121】
本実施形態において、光源61で発生し光導波層11に導波される光15(光14)の波長は、センシング材料層21の吸収波長帯に含まれる。例えば、光源61で発生し光導波層11に導波される光15(光14)の波長は、625nm以上650nm以下であり、センシング材料層21の吸収波長帯は625nm以上650nm以下である。これにより、高い感度の検出が可能になる。
【0122】
実施形態によれば、繰り返して高感度な測定が可能な光導波型バイオケミカルセンサチップ、バイオセンサカートリッジ及びバイオセンサシステムが提供される。
【0123】
なお、本願明細書において、「垂直」及び「平行」は、厳密な垂直及び厳密な平行だけではなく、例えば製造工程におけるばらつきなどを含むものであり、実質的に垂直及び実質的に平行であれば良い。
【0124】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明の実施形態は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、光導波型バイオケミカルセンサチップに含まれる光導波部、光導波層、透明導電層、センシング部、センシング材料層、センシング材料、酵素層、酵素、バインダ、基板部、基板及び偏向部など、バイオセンサカートリッジに含まれる対向電極、ハウジング及び貫通電極、並びに、バイオセンサシステムに含まれる光源、光検出器、検体液供給部、反応液供給部、電源、溶液排出部及び制御部などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0125】
その他、本発明の実施の形態として上述した光導波型バイオケミカルセンサチップ、バイオセンサカートリッジ及びバイオセンサシステムを基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての光導波型バイオケミカルセンサチップ、バイオセンサカートリッジ及びバイオセンサシステムも、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0126】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0127】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0128】
10…光導波部、 10a…第1主面、 10b…第2主面、 11…光導波層、 12…透明導電層、 14、15…光、 16…浸透光、 17…出射光、 20…センシング部、 20r…マスク膜、 21…センシング材料層、 21f…センシング材料膜、 22…酵素層、 30…基板部、 31…第1偏向部、 32…第2偏向部、 33…基板、 40…対向電極、 50…ハウジング、 51…流入口、 52…流出口、 53…側部、 54…対向部、 55…貫通電極、 57…反応液、 58…電源、 61…光源、 62…光検出器、 70…検体液供給部、 71…検体液タンク、 72…検体液配管、 80…反応液供給部、 81…反応液タンク、 82…反応液配管、 90…溶液排出部、 91…溶液タンク、 92…排出配管、 95…制御部、 110、121〜125…光導波型バイオケミカルセンサチップ(センサチップ)、 210…バイオセンサカートリッジ、 310…バイオセンサシステム、 dp…浸透距離、 sp…検体、 spl…検体液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を導く光導波層を含む光導波部と、
前記光導波部の主面に接し、センシング材料層を含むセンシング部と、
を備え、
前記センシング材料層に導入される検体に応じた酸化及び還元の一方の反応により、前記主面から前記センシング材料層に浸透する浸透光に対する前記センシング材料層の吸収特性において第1変化が生じ、
前記センシング材料層に印加される電圧による酸化及び還元の他方の反応により、前記吸収特性において前記第1変化とは逆の第2変化が生じることを特徴とする光導波型バイオケミカルセンサチップ。
【請求項2】
前記第1変化において前記センシング材料層の吸収特性が上昇した場合には、前記第2変化として前記センシング材料層の吸収特性が低下し、
前記第1変化において前記センシング材料層の吸収特性が低下した場合には、前記第2変化として前記センシング材料層の吸収特性が上昇することを特徴とする請求項1記載の光導波型バイオケミカルセンサチップ。
【請求項3】
前記検体に応じた酸化及び還元の前記一方の前記反応は、
前記センシング部に含まれる酵素と、前記検体と、の反応による生成物と、前記センシング部に含まれるセンシング材料と、の反応を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の光導波型バイオケミカルセンサチップ。
【請求項4】
前記光導波層は導電性であり、
前記電圧は、前記光導波層により前記センシング材料層に印加されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の光導波型バイオケミカルセンサチップ。
【請求項5】
前記光導波部は、前記光導波層と前記センシング部との間に設けられ前記浸透光に対して透過性の透明導電層を含み、
前記電圧は、前記透明導電層により前記センシング材料層に印加されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の光導波型バイオケミカルセンサチップ。
【請求項6】
前記透明導電層の厚さは、150ナノメートル以上であることを特徴とする請求項5記載の光導波型バイオケミカルセンサチップ。
【請求項7】
前記浸透光は、前記光導波層中を導かれる前記光の前記主面におけるエバネッセント光であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の光導波型バイオケミカルセンサチップ。
【請求項8】
前記センシング材料層の厚さは、前記主面から前記センシング部に浸透する前記エバネッセント光のエバネッセント距離以下であることを特徴とする請求項7記載の光導波型バイオケミカルセンサチップ。
【請求項9】
前記センシング材料層は、前記検体と反応する酵素を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の光導波型バイオケミカルセンサチップ。
【請求項10】
前記センシング部は、
前記センシング材料層に積層され、前記検体と反応する酵素を含む酵素層をさらに含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の光導波型バイオケミカルセンサチップ。
【請求項11】
前記センシング材料層は、前記酵素層と前記光導波部との間に配置されることを特徴とする請求項10記載の光導波型バイオケミカルセンサチップ。
【請求項12】
基板部をさらに備え、
前記光導波部は前記基板部と前記センシング部との間に配置され、
前記基板部は、
基板と、
前記基板上に設けられ、前記光導波層に対向し、前記基板に向けて入射する光の進行方向を変化させて前記光導波層に入射させる第1偏向部と、
前記基板上に設けられ、前記光導波層に対向し、前記光導波層を導波した光を前記光導波層から出射させる第2偏向部と、
を含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれか1つに記載の光導波型バイオケミカルセンサチップ。
【請求項13】
前記第1偏向部及び前記第2偏向部は、回折格子を含むことを特徴とする請求項12記載の光導波型バイオケミカルセンサチップ。
【請求項14】
前記センシング材料層は、プルシアンブルーを含むことを特徴とする請求項1〜13のいずれか1つに記載の光導波型バイオケミカルセンサチップ。
【請求項15】
前記センシング材料層は、センシング材料と前記センシング材料が分散されるバインダを含むことを特徴とする請求項1〜14のいずれか1つに記載の光導波型バイオケミカルセンサチップ。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1つに記載の光導波型バイオケミカルセンサチップと、
前記センシング部と離間する対向電極と、
前記光導波型バイオケミカルセンサチップ及び前記対向電極を保持するハウジングと、
を備え、
前記センシング部と前記対向電極との間の空間に前記検体を含む検体液が流入可能であり、
前記空間には、前記電圧による酸化及び還元の前記他方の前記反応に用いられる反応液が流入可能であることを特徴とするバイオセンサカートリッジ。
【請求項17】
前記ハウジングは、前記検体液を前記空間に流入させる流入口と、前記検体液を前記空間から流出させる流出口と、を含むことを特徴とする請求項16記載のバイオセンサカートリッジ。
【請求項18】
前記流入口及び前記流出口の一方は、前記空間に前記反応液を流入させ、
前記流入口及び前記流出口の他方は、前記空間から前記反応液を流出させることを特徴とする請求項17記載のバイオセンサカートリッジ。
【請求項19】
請求項16〜18のいずれか1つに記載のバイオセンサカートリッジと、
前記光導波層に導波される前記光を発生する光源と、
前記光導波層に導波された前記光を検出する光検出器と、
前記バイオセンサカートリッジに接続され、前記検体液を前記空間に供給する検体液供給部と、
前記バイオセンサカートリッジに接続され、前記電圧による酸化及び還元の前記他方の前記反応の際に使用される反応液を前記空間に供給する反応液供給部と、
前記光導波部と前記対向電極とに電気的に接続される電源と、
を備えたことを特徴とするバイオセンサシステム。
【請求項20】
前記検体液供給部の前記空間への前記検体液の供給と、前記反応液供給部の前記空間への前記反応液の供給と、を制御する制御部をさらに備えたことを特徴とする請求項19記載のバイオセンサシステム。
【請求項21】
前記制御部は、
前記検体液供給部に前記空間への前記検体液の前記供給を実施させ、
前記光検出器に、前記供給された前記検体液による前記センシング材料層の前記光に対する前記吸収特性を検出させ、
前記吸収特性の検出の後に、前記反応液供給部に前記空間への前記反応液の供給を実施させ、
前記空間に前記反応液が導入されている状態で前記対向電極を介して前記センシング部に前記電圧を印加することを特徴とする請求項20記載のバイオセンサシステム。
【請求項22】
前記制御部は、
前記電圧の前記印加の後に、前記検体液供給部に前記空間への前記検体液の前記供給をさらに実施させ、
前記光検出器に、前記供給された前記検体液による前記センシング材料層の前記光に対する前記吸収特性をさらに検出させることを特徴とする請求項21記載のバイオセンサシステム。
【請求項23】
前記光源で発生し、前記光導波層に導波される前記光の波長は、前記センシング材料層の吸収波長帯に含まれることを特徴とする請求項19〜22のいずれか1つに記載のバイオセンサシステム。
【請求項24】
前記光源で発生し、前記光導波層に導波される前記光の波長は625ナノメートル以上650ナノメートル以下であり、前記センシング材料層の吸収波長帯は625ナノメートル以上650ナノメートル以下であることを特徴とする請求項19〜23のいずれか1つに記載のバイオセンサシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−145348(P2012−145348A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1738(P2011−1738)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】