説明

光導電性部材および画像形成装置

【課題】電子写真感光体の摩損抵抗の改良、摩擦の減少、およびより長い耐用年数などのための材料を提供する。
【解決手段】潤滑剤を供給するコーティングを有し、ポリママトリックス、電荷輸送成分、およびナノカプセルまたはマイクロカプセル中にカプセル化されている潤滑剤を含む光導電性部材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に電子写真画像形成部材を、より具体的には自己潤滑(self−lubrication)が可能である層組成を含む層状の感光体構造物を対象とする。本開示は、また、当該画像形成部材を製造および使用するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第5,702,854号は、少なくとも電荷発生層、電荷輸送層および上塗り層により被覆されており、前記上塗り層が架橋ポリアミドマトリックス中に溶解または分子状に分散しているジヒドロキシアリールアミンを含む支持基材を含有する電子写真画像形成部材について記載している。その上塗り層は、アミドの窒素原子に結合しているメトキシメチル基を含むポリアミド、架橋触媒およびジヒドロキシアミンを含有する架橋性コーティング組成物を、そのポリアミドを架橋させるためにそのコーティングを加熱し、架橋させることによって形成する。その電子写真画像形成部材は、画像形成部材に均一に帯電させるステップと、その画像形成部材を画像の形状をした活性化放射エネルギにさらして静電潜像を形成させるステップと、その潜像を、トナー像を形成するトナー粒子により現像するステップと、そのトナー像を受像部材に転写するステップとを含むプロセスで画像形成をすることができる。
【0003】
それぞれの先行特許の適切な構成部品およびプロセス態様もまた、本発明のその実施形態における組成物およびプロセスに対して選択することができる。
【0004】
乾式複写(Xerography)としても知られる電子写真、電子写真画像形成または静電写真画像形成において、導電層上に光導電性絶縁層を含む電子写真の版、ドラム、ベルトなど(画像形成部材または感光体)の表面は、最初に均一に静電的に帯電させる。その画像形成部材は、次に、活性化電磁放射線、例えば光など、にさらす。その放射線は、光導電性絶縁層の照射された領域の帯電を選択的に消散させ、一方、照射されなかった領域には静電潜像を残す。この静電潜像は、次に、光導電性絶縁層の表面に微粉化した検電マーキング粒子(electroscopic marking particles)を付着させることにより現像して可視画像を形成させることができる。得られた可視画像は、次に、その画像形成部材から透明紙または紙などの印刷基材に直接または間接的に(例えば転写部材またはその他の部材によって)転写する。その画像形成部材の表面は、次に、次の印刷サイクルの前に、残っているマーキング粒子を除去するためにクリーニングブレード等のクリーニングユニットによって掃除する。その画像形成プロセスは、再使用可能な画像形成部材によって何度も反復することができる。各印刷サイクルに対してきれいな表面を維持するために、クリーニングブレードなどのクリーニングユニットを組み込むことができる。
【0005】
優れたトナー像が重層化されたベルトまたはドラムの感光体により得られるけれども、より進歩した高速の電子写真複写機、デュプリケータ(duplicator)、およびプリンタが開発されるにつれて、印刷品質および耐用年数に対するより大きな要望がある。改良された感光体の設計は、より高い感度、より速い放電、機械的構造安定性、および掃除が容易なことを狙わなければならない。画像を帯電させることとバイアス電位との微妙なバランス、ならびにトナーおよび/または現像剤の特性もまた維持しなければならない。これは、感光体製造の品質、および、したがって製造の収率に対してさらなる制約を置く。
【0006】
画像形成部材は、一般に、露出された電荷輸送層またはそれの代わりとなる最上層に、機械的磨耗、クリーニングブレードとの高い摩擦、および帯電装置からの化学薬品の攻撃を受けさせる反復的な電子写真サイクルにさらされる。この反復的サイクルは、露出された電荷輸送層の機械的および電気的特性の漸進的劣化をもたらす。
【0007】
保護上塗り層を備えることは、感光体の耐用年数を延ばす常法である。保護上塗り層の説明に役立つ例としては、(i)ポリオールバインダ、(ii)メラミン−ホルムアルデヒド硬化剤、(iii)正孔輸送材料、(iv)酸触媒、および(v)アルコール溶液から被覆したレベリング剤、などにより形成された硬化組成物を挙げることができる。
【0008】
従来の感光体において、クリーニングブレードの接触による機械的磨耗またはキャリアビーズによるかもしくは紙との接触によるスクラッチは、感光体デバイスが機能しなくなる原因となり、感光体の構造安定性を改善するための層を引き続き加えることは実行可能ではあり得ない。それ故、材料の破損が起こるときにそれに対応し、是正する新たな材料およびシステムを開発する必要性がある。
【0009】
画像形成部材を形成するためにさまざまな試みがなされてきたにもかかわらず、改良された画像性能およびより長い耐用年数を提供すること、そのクリーニングブレードとの摩擦を減少させること、メンテナンスの頻度を最小限にすることなどのための改良された画像形成部材構造に対する必要性が残存している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,702,854号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本開示は、上記の問題のいくつかまたはすべてに対応し、また、電子写真感光体の摩損抵抗の改良、摩擦の減少、およびより長い耐用年数などのための材料および方法も提供する。これは、殆どの場合、自己潤滑の能力があるかまたは潤滑剤供給コーティングである層組成を用いることによって達成される。複数の実施形態において、カプセルの破裂によって潤滑性材料が放出されるように、自己潤滑性材料は、感光体中にカプセル化することができる。本開示は、また、画像形成部材を製造および使用するプロセスにも関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施形態において、本発明は、潤滑剤を供給するコーティングを有し、ポリママトリックス、電荷輸送成分、およびナノカプセルまたはマイクロカプセル中にカプセル化されている潤滑剤を含む光導電性部材を提供する。
【0013】
別の実施形態において、本開示は、帯電デバイスと、トナー現像デバイスと、クリーニングデバイスと、導電性基材、電荷発生層、電荷輸送層、および任意の上塗り層を含む感光体とを含む画像形成装置であって、前記感光体の最外層が、ナノカプセルまたはマイクロカプセル中にカプセル化されている潤滑剤を含む画像形成装置を提供する。
【0014】
本開示は、また、上記の電子写真画像形成部材を含む電子写真現像デバイスも提供する。また、上記の電子写真画像形成部材を使用する画像形成プロセスも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本開示の実施例の自己潤滑プロセスを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、一般に、例えば電子写真または乾式複写画像形成プロセスにおいて使用することができる光導電体、感光体などの光導電性画像形成部材に関する。その光導電性画像形成部材は、当該感光体を自己潤滑ができるようにする組成、またはその感光体の機械的磨耗が起きた場合にカプセルが破裂して、その中に包含されていた潤滑性材料が放出する潤滑性材料のカプセル化物を有する少なくとも1つの層を含む。
【0017】
電子写真画像形成部材は、当技術分野では既知である。電子写真画像形成部材は、任意の適当な技術によって調製することができる。一般的には、導電性表面を備えた柔軟な、または硬質の基材を準備する。電荷発生層を次に、その導電性表面に塗布する。電荷ブロッキング層を場合によって電荷発生層を塗布する前に、その導電性表面に塗布してもよい。必要に応じて、その電荷ブロッキング層と電荷発生層との間に接着剤層を活用してもよい。通常、電荷発生層はブロッキング層の上に塗布し、正孔または電荷輸送層をその電荷発生層上に形成し、続いて任意の上塗り層を塗布する。この構造は、正孔または電荷輸送層の上または下に電荷発生層を持つことができる。複数の実施形態において、その電荷発生層および正孔または電荷輸送層は、電荷発生および正孔輸送機能の両方を果たす単一の活性層に一体化することができる。
【0018】
当該基材は、不透明または実質的に透明であってよく、機械的特性を有する任意の適当な材料を含むことができる。したがって、該基材は、電気的に非伝導性または伝導性の材料、例えば、無機または有機組成物を含むことができる。電気的に非伝導性の材料としては、薄いウェブとしての柔軟性のあるポリエステル類、ポリカーボネート類、ポリアミド類、ポリウレタン類などを含むこの目的に対して既知であるさまざまな樹脂を採用することができる。導電性基材は、任意の金属、例えば、アルミニウム、ニッケル、スチール、銅など、またはカーボンまたは金属粉等の導電性物質を充填した上記のポリマ材料あるいは有機導電性材料であり得る。その電気的に非伝導性または伝導性の基材は、エンドレスのフレキシブルベルト、ウェブ、剛体シリンダ、シートなどの形をしていることができる。その基材層の厚さは、必要な強度および経済的配慮を含むさまざまな因子に依存する。それ故、ドラムについては、この層は、実質的な厚さは、例えば、最大で数センチメートルのものであるか、最小で1ミリメートル未満の厚さのものであり得る。同様にフレキシブルベルトは、実質的な厚さが、最終的な電子写真デバイスに対して悪影響のないことを条件として、例えば、約250マイクロメートルのもの、または50マイクロメートル未満の最小厚さのものであり得る。
【0019】
基材層が導電性ではない場合の複数の実施形態において、その表面は、導電性のコーティングによって導電性にすることができる。その導電性コーティングは、光透過性、必要な柔軟性の度合い、および経済的要因によって、相当広範にわたって厚さの変動があり得る。したがって、可撓性の光応答性画像形成デバイスに対して、導電性コーティングの厚さは、導電性、可撓性および光透過率の最適な組合せについては、約20オングストローム〜約750オングストローム、例えば約100オングストローム〜約200オングストロームであり得る。その可撓性導電性コーティングは、例えば、基材上に、任意のコーティング技術、例えば、真空蒸着技術または電着などによって形成された導電性金属層であり得る。代表的な金属としては、アルミニウム、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、バナジウムおよびハフニウム、チタン、ニッケル、ステンレススチール、クロム、タングステン、モリブデンなどが挙げられる。
【0020】
基材の象徴的な例は、本明細書に示されている通りである。より具体的には、本開示の画像形成部材のために選択され、基材が不透明または実質的に透明であってよい層は、無機または有機ポリマ材料、例えば市販ポリマのMYLAR(登録商標)、チタンを含有するMYLAR(登録商標)などを含む絶縁材料の層、半導電性表面層、例えばその上に配列されているインジウムスズ酸化物またはアルミニウムを有する有機もしくは無機材料の層、あるいはアルミニウム、クロム、ニッケル、黄銅などを含む導電性材料を含む。その基材は、可撓性で、継ぎ目がなく、または硬質であり得、例えば、板状、円筒形ドラム、渦巻き形、エンドレスフレキシブルベルトなどの多数の異なる形状を有することができる。複数の実施形態において、その基材は、継ぎ目のないフレキシブルベルトの形をしている。状況によって、特に基材が可撓性の有機ポリマ材料である場合には、その基材の裏面にアンチカール層、例えば、MAKROLON(登録商標)として市販されているポリカーボネート材料、Farbenfabriken Bayer A.G.から市販されている約50,000から約100,000の重量平均分子量を有するポリカーボネート樹脂、または類似の樹脂をコートするのが望ましい可能性がある。
【0021】
該感光体基材層の厚さは、経済的配慮、電気的特性、層の数、層のそれぞれにおける成分などを含む多くの因子に依存し、それ故、この層は、例えば約3,000ミクロンを超えるかなりの厚さのものであり得、より具体的には、この層の厚さは、約1,000から約3,000ミクロン、約100から約1,000ミクロンまたは約300から約700ミクロンのもの、あるいは最小の厚さのものであり得る。複数の実施形態において、この層の厚さは、約75ミクロンから約300ミクロン、または約100から約150ミクロンである。
【0022】
電荷ブロッキング層または正孔ブロッキング層を、場合によって、光電子発生層(photogenerating layer)を塗布する前に導電性表面に塗布することができる。望ましいときは、接着層を、電荷ブロッキング層、正孔ブロッキング層または界面層と光電子発生層との間に含ませることができる。通常、その光電子発生層は、ブロッキング層上に塗布され、1つの電荷輸送層または複数の電荷輸送層がその光電子発生層上に形成される。この構造は、光電子発生層を、電荷輸送層の上または下に持つことができる。
【0023】
本開示の画像形成部材のための正孔ブロッキング層または下塗り層は、既知の正孔ブロッキング成分を含めた多数の成分を含むことができる。適当な正孔ブロッキング層は、例えば、米国特許第4,338,387号、同第4,286,033号および同第4,291,110号に開示されているように、ポリマ類、例えば、ポリビニルブチラール、エポキシ樹脂、ポリエステル類、ポリシロキサン類、ポリアミド類、ポリウレタン類など、窒素含有シロキサン類または窒素含有チタン化合物類、例えば、トリメトキシシリルプロピルエチレンジアミン、N−ベータ(アミノエチル)ガンマ−アミノプロピルトリメトキシシラン、イソプロピル4−アミノベンゼンスルホニルチタネート、ジ(ドデシルベンゼンスルホニル)チタネート、イソプロピルジ(4−アミノベンゾイル)イソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N−エチルアミノ)チタネート、イソプロピルトリアントラニルチタネート、イソプロピルトリ(N,N−ジメチル−エチルアミノ)チタネート、チタン−4−アミノベンゼンスルホネートオキシアセテート、チタン4−アミノベンゾエートイソステアレートオキシアセテート、ガンマ−アミノブチルメチルジメトキシシラン、ガンマ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、およびガンマ−アミノプロピルトリメトキシシランを含むことができる。
【0024】
正孔ブロッキング層は、例えば、約20重量パーセント〜約80重量パーセント、より具体的には、約55重量パーセント〜約65重量パーセントのTiO等の金属酸化物のような成分、約20重量パーセント〜約70重量パーセント、より具体的には、約25重量パーセント〜約50重量パーセントのフェノール樹脂、約2重量パーセント〜約20重量パーセント、より具体的には、約5重量パーセント〜約15重量パーセントの、少なくとも2つのフェノール基を有する、フェノール化合物、例えばビスフェノールS、および約2重量パーセント〜約15重量パーセント、より具体的には、約4重量パーセント〜約10重量パーセントの積層材抑制ドーパント(plywood suppression dopant)、例えばSiO、を含むこともできる。正孔ブロッキング層塗布用分散物は、例えば、以下のように調製することができる。まず、金属酸化物/フェノール樹脂分散物を、当該分散物中の金属酸化物のメジアン粒径が約10ナノメートル未満、例えば、約5〜約9ナノメートルになるまで、ボールミル処理またはダイノミル処理することによって調製する。上記分散物にフェノール化合物およびドーパントを添加した後、混合する。正孔ブロッキング層塗布用分散物は、ディップコーティングまたはウェブコーティングによって塗布することができ、その層は塗布後に熱的に硬化させることができる。得られる正孔ブロッキング層は、例えば、約0.01ミクロン〜約30ミクロン、より具体的には、約0.1ミクロン〜約8ミクロンの厚みのものである。フェノール樹脂の例としては、フェノール、p−tert−ブチルフェノール、クレゾールとのホルムアルデヒドポリマ、例えば、VARCUM(商標)29159および29101(OxyChem Company社から入手可能)およびDURITE(商標)97(Borden Chemical社から入手可能)、アンモニア、クレゾールおよびフェノールとのホルムアルデヒドポリマ、例えば、VARCUM(商標)29112(OxyChem Company社から入手可能)、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビスフェノールとのホルムアルデヒドポリマ、例えば、VARCUM(商標)29108および29116(OxyChem Company社から入手可能)、クレゾールおよびフェノールとのホルムアルデヒドポリマ、例えば、VARCUM(商標)29457(OxyChem Company社から入手可能)、DURITE(商標)SD−423A、SD−422A(Borden Chemical社から入手可能)、またはフェノールおよびp−tert−ブチルフェノールとのホルムアルデヒドポリマ、例えば、DURITE(商標)ESD 556C(Border Chemical社から入手可能)が挙げられる。
【0025】
任意の正孔ブロッキング層を当該基材に塗布することができる。隣接する光導電層(または電子写真画像形成層)と下にある基材の導電性表面との間の正孔に対する電子障壁を形成することができる任意の適当な通常のブロッキング層を選択することができる。
【0026】
本開示の画像形成部材用の任意の正孔ブロッキング層もしくはアンダーコート層は、既知の正孔ブロッキング成分、例えば、アミノシラン類、ドープした金属酸化物、チタン、クロム、亜鉛、スズ等の金属酸化物、フェノール化合物とフェノール樹脂との混合物もしくは2種類のフェノール樹脂の混合物、および、場合によっては、SiOなどのドーパントなどを含めた多数の成分を含有することができる。そのフェノール化合物は、例えば、ビスフェノールA(4,4'−イソプロピリデンジフェノール)、ビスフェノールE(4,4'−エチリデンビスフェノール)、ビスフェノールF(ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン)、ビスフェノールM(4,4'−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール)、ビスフェノールP(4,4'−(1,4−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール)、ビスフェノールS(4,4'−スルホニルジフェノール)、およびビスフェノールZ(4,4'−シクロヘキシリデンビスフェノール);ヘキサフルオロビスフェノールA(4,4'−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフェノール)、レゾルシノール、ヒドロキシキノン、カテキンなどのように少なくとも2つのフェノール基を含有する。
【0027】
複数の実施形態において、適当な既知の接着層を当該光導電体中に含めることができる。代表的な接着層材料としては、例えば、ポリエステル類、ポリウレタン類などが挙げられる。その接着層の厚さは、多様であり得、複数の実施形態において、例えば、約0.05マイクロメートル(500オングストローム)〜約0.3マイクロメートル(3,000オングストローム)である。その接着層は、正孔ブロッキング層に、吹き付け、ディップコーティング、ロールコーティング、巻線ロッドコーティング、グラビアコーティング、バードアプリケータ(Bird applicator)コーティングなどによって塗布することができる。塗布された皮膜の乾燥は、例えば、オーブン乾燥、赤外線放射乾燥、空気乾燥などによって達成することができる。
【0028】
通常、正孔ブロッキング層と光電子発生層との間で接しているかまたは位置づけされている任意の接着層は、コポリエステル類、ポリアミド類、ポリ(ビニルブチラール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリウレタンおよびポリアクリロニトリルを含むさまざまな既知の物質を選択することができる。この層は、例えば、約0.001ミクロン〜約1ミクロン、または約0.1〜約0.5ミクロンの厚さのものである。場合によって、この層は、本開示の複数の実施形態において、例えばさらなる望ましい電気特性および光学的特性を提供するために、有効な適当量、例えば、約1〜約10重量パーセントの導電性および非導電性粒子、例えば、酸化亜鉛、二酸化チタン、窒化ケイ素、カーボンブラックなどを含有させてもよい。
【0029】
複数の実施形態における当該光電子発生層は、例えば、約60重量パーセントのタイプVヒドロキシガリウムフタロシアニンまたはクロロガリウムフタロシアニン、および約40重量パーセントのポリ(塩化ビニル−co−酢酸ビニル)コポリマのような樹脂バインダ、例えば、VMCH(Dow Chemical社から入手可能)などを含む。一般に、光電子発生層は、既知の光電子発生顔料、例えば、金属フタロシアニン類、金属非含有フタロシアニン類、アルキルヒドロキシルガリウムフタロシアニン類、ヒドロキシガリウムフタロシアニン類、クロロガリウムフタロシアニン類、ペリレン類、特にビス(ベンズイミダゾ)ペリレン、チタニルフタロシアニン類など、より具体的には、バナジルフタロシアニン類、タイプVヒドロキシガリウムフタロシアニン類、ならびに無機成分、例えば、セレン、セレン合金、および三方晶セレンなどを含むことができる。複数の実施形態において、酸化チタンフタロシアニンを光電子発生顔料として使用することができる。その光電子発生顔料は、電荷輸送層のために選択される樹脂バインダと同様の樹脂バインダ中に分散させることができ、あるいは、別法では樹脂バインダの必要性はない。一般に、光電子発生層の厚みは、他の層の厚みおよび光電子発生層中に含まれる光電子発生材料の量など、多くの要因に依存する。したがって、この層は、例えば、約0.05ミクロン〜約10ミクロン、より具体的には、電荷発生体組成物が約30〜約75体積パーセントの量で存在するときは、約0.25ミクロン〜約2ミクロンの厚みのものであり得る。複数の実施形態において、この層の最大厚みは、主として、感光性、電気特性および機械的考慮のような要因に依存する。当該光電子発生層バインダ樹脂は、さまざまな適切な量、例えば、約1〜約50重量パーセント、より具体的には、約1〜約10重量パーセントで存在し、その樹脂は、多くの既知ポリマ、例えば、ポリ(ビニルブチラール)、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリエステル類、ポリカーボネート類、ポリ(塩化ビニル)、ポリアクリレート類およびポリメタクリレート類、塩化ビニルと酢酸ビニルとのコポリマ、フェノール樹脂、ポリウレタン類、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアクリロニトリル、ポリスチレンなど、から選択することができる。先にコートされた他の層を妨害したり、悪影響を及ぼしたりすることが実質的にないコーティング溶媒を選択することが望ましい。光電子発生層のコーティング溶媒として用いるために選択することができる溶媒の例としては、ケトン類、アルコール類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化脂肪族炭化水素類、エーテル類、アミン類、アミド類、エステル類などが挙げられる。具体的な溶媒の例は、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、ブタノール、アミルアルコール、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸メトキシエチルなどである。
【0030】
当該光電子発生層は、真空蒸発もしくは蒸着によって加工されたセレンならびにセレンとヒ素、テルル、ゲルマニウムなどとの合金の非晶質膜、水素化された非晶質ケイ素、ならびにケイ素とゲルマニウム、炭素、酸素、窒素などとの化合物などを含むことができる。該光電子発生層は、また、フィルム形成性ポリマバインダ中に分散され、溶媒コーティング技術によって加工された結晶性セレンおよびその合金などの無機顔料;II〜VI族化合物;およびキナクリドン類、多環式顔料、例えば、ジブロモアンサンスロン顔料、ペリレンおよびペリノンジアミン類など、多核芳香族キノン類、ビス−、トリス−およびテトラキス−アゾなどを含めたアゾ顔料等の有機顔料;ならびに、チタニルフタロシアニン、チタニルフタロシアニンタイプV;オキシバナジウムフタロシアニン、クロロアルミニウムフタロシアニン、銅フタロシアニン、オキシチタンフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、マグネシウムフタロシアニンおよび無金属フタロシアニンなどを、低コストの半導体レーザダイオード露光デバイスにさらされる赤外線感受性感光体と共に含むことができる。
【0031】
複数の実施形態において、光電子発生層のためのマトリックスとして選択することができるポリマバインダ材料の例は、米国特許第3,121,006号に開示されている。バインダの例は、熱可塑性および熱硬化性樹脂、例えば、ポリカーボネート類、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリウレタン類、ポリスチレン類、ポリアリールエーテル類、ポリアリールスルホン類、ポリブタジエン類、ポリスルホン類、ポリエーテルスルホン類、ポリエチレン類、ポリプロピレン類、ポリイミド類、ポリメチルペンテン類、ポリ(フェニレンスルフィド)類、ポリ(酢酸ビニル)、ポリシロキサン類、ポリアクリレート類、ポリ酢酸ビニル類、ポリアミド類、ポリイミド類、アミノ樹脂、フェニレンオキシド樹脂、テレフタル酸樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリスチレンとアクリロニトリルのコポリマ、ポリ(塩化ビニル)、塩化ビニルと酢酸ビニルのコポリマ、アクリレートコポリマ、アルキッド樹脂、セルロースフィルム形成材、ポリ(アミドイミド)、スチレンブタジエンコポリマ、塩化ビニリデン−塩化ビニルコポリマ、酢酸ビニル−塩化ビニリデンコポリマ、スチレン−アルキッド樹脂、ポリ(ビニルカルバゾール)などである。これらのポリマは、ブロック、ランダムまたは交互共重合体であり得る。
【0032】
本開示の複数の実施形態における光電子発生層のコーティングは、吹き付け、浸漬またはワイヤバー法などにより達成することができ、最終の乾燥した光電子発生層の厚さが、本明細書に示されているように、例えば、約40℃〜約150℃で、約15〜約90分乾燥後、例えば、約0.01〜約30ミクロンであり得る。より具体的には、例えば、約0.1〜約30ミクロン、または約0.5〜約2ミクロンの厚さの光電子発生層を、基材上、基材と電荷輸送層の間のその他の面などに塗布または付着させることができる。その光電子発生組成物または顔料は、樹脂バインダ組成物中にさまざまな量で存在する。約5体積パーセント〜約90体積パーセントの光電子発生顔料を、約10体積パーセント〜約95体積パーセントの樹脂バインダ中に分散させるか、または約20体積パーセント〜約30体積パーセントの光電子発生顔料を、約70体積パーセント〜約80体積パーセントの樹脂バインダ中に分散させる。一実施形態においては、約10体積パーセントの光電子発生顔料を、約90体積パーセントの樹脂バインダ中に分散させる。
【0033】
さまざまな適当な、従来の既知のプロセスを用いて混合し、その後、その光電子発生層コーティング混合物を、吹き付け、ディップコーティング、ロールコーティング、巻線ロッドコーティング、真空昇華などにより塗布することができる。用途によって、その光電子発生層は、ドットまたは線模様に加工することができる。溶媒を塗布した層の溶媒の除去は、任意の既知の従来技術、例えば、オーブン乾燥、赤外線照射乾燥、空気乾燥などにより実施すればよい。
【0034】
複数の実施形態において、少なくとも1つの電荷輸送層は、少なくとも1つの正孔輸送成分を含んでなる。その正孔輸送成分の濃度は、例えば、光導電体における機械的強度およびLCM抵抗性の増加を得るためには低くてよい。複数の実施形態において、電荷輸送層中の正孔輸送成分の濃度は、約10重量パーセント〜約65重量パーセント、より具体的には、約35〜約60重量パーセント、または約45〜約55重量パーセントであり得る。
【0035】
その層が、一般に、約5ミクロン〜約90ミクロンの厚さ、より具体的には、約10ミクロン〜約40ミクロンの厚さのものである当該電荷輸送層は、多数の正孔輸送化合物、例えば置換アリールジアミン類など、および、本明細書に示されているような既知の正孔輸送分子、ならびに、添加剤、例えば酸化防止剤、多数のポリマバインダなどを含めたさらなる成分を含むことができる。複数の実施形態において、添加剤としては、少なくとも1つのさらなるバインダポリマ、例えば、電荷輸送層中、約10〜約75重量パーセントの範囲の1〜約5種類のポリマ;少なくとも1つのさらなる正孔輸送分子、例えば、電荷輸送層中、約10〜約75重量パーセントの範囲の1〜約7種類、1〜約4種類、または1〜約2種類の正孔輸送分子;酸化防止剤、例えば、約0〜約20重量パーセント、約1〜約10重量パーセント、または約3〜約8重量パーセントの重量パーセント範囲のIRGANOX(Ciba Specialty Chemical社から入手可能)のような酸化防止剤を含むことができる。
【0036】
該電荷輸送層は、フィルム形成性の電気的に不活性なポリマ、例えばポリカーボネートなどの中に溶解もしくは分子分散させた正孔輸送性の小分子を含むことができる。複数の実施形態において、「溶解した」とは、例えば、小分子がポリマ中に溶解して均一相を形成する溶液を形成したことを指し、「複数の実施形態において分子分散した」とは、例えば、ポリマ中に正孔輸送分子が分散していること、ポリマ中に分子レベルの大きさで小分子が分散していることを指す。さまざまな正孔輸送性のまたは電気的に活性な小分子を、電荷輸送層に対して選択することができる。複数の実施形態において、正孔輸送とは、例えば、モノマとしての正孔輸送分子が光電子発生層中で発生した遊離の電荷が輸送層を横切って輸送されることを許容することを意味する。
【0037】
正孔輸送分子の例としては、例えば、ピラゾリン類、例えば、1−フェニル−3−(4’−ジエチルアミノスチリル)−5−(4”−ジエチルアミノフェニル)ピラゾリンなど;アリールアミン類、例えば、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ジ−p−トリル−[p−ターフェニル]−4,4”−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ジ−m−トリル−[p−ターフェニル]−4,4”−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ジ−o−トリル−[p−ターフェニル]−4,4”−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス−(4−イソプロピルフェニル)−[p−ターフェニル]−4,4”−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス−(2−エチル−6−メチルフェニル)−[p−ターフェニル]−4,4”−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス−(2,5−ジメチルフェニル)−[p−ターフェニル]−4,4”−ジアミン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−クロロフェニル)−[p−ターフェニル]−4,4”−ジアミン;ヒドラゾン類、例えば、N−フェニル−N−メチル−3−(9−エチル)カルバジルヒドラゾンおよび4−ジエチルアミノベンズアルデヒド−1,2−ジフェニルヒドラゾン;およびオキサジアゾール類、例えば、2,5−ビス(4−N,N’−ジエチルアミノフェニル)−1,2,4−オキサジアゾール、スチルベン類などが挙げられる。しかしながら、複数の実施形態において、高生産性のプリンタ等の装置のサイクルアップを最小にするかまたは回避するために、電荷輸送層は、ジまたはトリアミノ−トリフェニルメタンが実質的に含まれていないことが好ましい(約2パーセント未満)。正孔の光電子発生層中への高い効率での導入を許容し、それらを短い経過時間で電荷輸送層を横切って輸送する小分子の電荷輸送化合物としては、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ジ−p−トリル−[p−ターフェニル]−4,4”−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ジ−m−トリル−[p−ターフェニル]−4,4”−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ジ−o−トリル−[p−ターフェニル]−4,4”−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス−(4−イソプロピルフェニル)−[p−ターフェニル]−4,4”−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス−(2−エチル−6−メチルフェニル)−[p−ターフェニル]−4,4”−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス−(2,5−ジメチルフェニル)−[p−ターフェニル]−4,4”−ジアミン、およびN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−クロロフェニル)−[p−ターフェニル]−4,4”−ジアミン、N,N,N’N’−テトラ(4−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミンとしても呼ばれるテトラ[p−トリル]ビフェニルジアミン;N,N,N’N’−テトラ(4−エチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン、N,N,N’N’−テトラ(4−プロピルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン、N,N,N’N’−テトラ(4−ブチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン、またはそれらの混合物などが挙げられる。必要に応じて、電荷輸送層中の正孔輸送材料は、ポリマの正孔輸送材料または小分子の正孔輸送材料とポリマの正孔輸送材料との組合せを含むことができる。
【0038】
電荷輸送層用に選択されるバインダ材料の例としては、米国特許第3,121,006号に記載されているもののような成分が挙げられる。ポリマバインダ材料の具体例としては、ポリカーボネート類、ポリアリレート類、アクリレートポリマ、ビニルポリマ、セルロースポリマ、ポリエステル類、ポリシロキサン類、ポリアミド類、ポリウレタン類、ポリ(シクロオレフィン)類、エポキシ類、およびそれらのランダムもしくは交互コポリマが挙げられ、より具体的には、ポリカーボネート類、例えば、ポリ(4,4’−イソプロピリデン−ジフェニレン)カーボネート(ビスフェノール−A−ポリカーボネートとも呼ばれる)、ポリ(4,4’−シクロヘキシリジンジフェニレン)カーボネート(ビスフェノール−Z−ポリカーボネートとも呼ばれる)、ポリ(4,4’−イソプロピリデン−3,3’−ジメチル−ジフェニル)カーボネート(ビスフェノール−C−ポリカーボネートとも呼ばれる)などが挙げられる。複数の実施形態において、電気的に不活性なバインダは、約20,000〜約100,000の分子量、例えば約50,000〜約100,000の重量平均分子量Mwを有するポリカーボネート樹脂を含んでなる。一般に、その輸送層は、約10〜約75重量パーセントの正孔輸送材料、より具体的には、約35パーセント〜約50パーセントのこの材料を含む。
【0039】
複数の実施形態における電荷輸送層の厚さは、約5〜約90マイクロメートルであるが、この範囲外の厚さも複数の実施形態において選択することができる。その電荷輸送層は、正孔輸送層上に配置された静電気帯電が、照明のない状態で、その上の静電潜像の形成および保持を防ぐのに十分な割合で伝導されない程度までの絶縁体であることが好ましい。一般に、電荷輸送層対光電子発生層の厚さの比率は、約2:1〜200:1、場合によっては400:1であり得る。該電荷輸送層は、可視光または使用目的の領域の放射エネルギに対して実質的に非吸収性であるが、電気的には「活性」であり、それは光導電層または光電子発生層からの光発生された(photogenerated)正孔の導入を可能にし、かつこれらの正孔がそれ自身を通って輸送され、活性層の表面の表面電荷を選択的に放電することを許容する。
【0040】
電荷輸送層コーティング混合物を混合し、その後、光電子発生層に塗布するためには多数のプロセスを使用することができる。代表的な塗布技術としては、吹き付け、ディップコーティング、ロールコーティング、巻き線ロッドコーティングなどが挙げられる。塗布した電荷輸送コーティングの乾燥は、任意の適当な従来技術、例えば、オーブン乾燥、赤外線照射乾燥、空気乾燥などにより実施することができる。
【0041】
上塗り層は、電荷輸送層の上に形成することができる。この保護上塗り層は、感光体デバイスの外因性の寿命を増すことができ、画像形成装置で使用されるときの優れた印刷品質または耐欠損性(deletion resistance)を維持することができる。
【0042】
その上塗り層は、電荷輸送層と同じ組成物を含むことができ、その電荷輸送性の小分子と適当な電気的に不活性な樹脂バインダとの間の重量比は小さく、例えば約0/100〜約60/40、または約20/80〜約40/60である。
【0043】
別法では、保護上塗り層は、電荷輸送成分を含有する架橋したポリマコーティングを含むことができる。具体的な実施形態としては、適当な電荷輸送成分と共に、ポリシロキサン類、フェノール樹脂、メラミン樹脂などから形成された架橋されたポリマコーティングを挙げることができる。保護上塗りの説明に役立つ例は、例えば、米国特許出願第11/234,275号(2005年9月26日出願)のように、(i)ポリオールバインダ、(ii)メラミン−ホルムアルデヒド硬化剤、(iii)正孔輸送材料、および(iv)酸触媒から形成された硬化組成物を含むことができる。
【0044】
選択される上塗り層の厚さは、採用したシステムにおける帯電(バイアス帯電ロール)、クリーニング(ブレードまたはウェブ)、現像(ブラシ)、転写(バイアス転写ロール)などによる摩損性に依存し、連続的であり得、約50マイクロメートル未満、例えば、約0.1マイクロメートル〜約50マイクロメートル、例えば、約0.1〜約15マイクロメートルの厚さを有することができる。上塗り層コーティング混合物を混合し、その後、光電子発生層に塗布するためにはさまざまな適当な従来法を使用することができる。代表的な塗布技術としては、吹き付け、ディップコーティング、ロールコーティング、巻き線ロッドコーティングなどが挙げられる。塗布したコーティングの乾燥は、任意の適当な従来技術、例えば、オーブン乾燥、赤外線照射乾燥、空気乾燥などにより実施することができる。本開示のその乾燥した上塗り層は、画像形成中に正孔を輸送するので、高すぎる担体濃度を有さないことが好ましい。上塗り中の遊離の担体濃度は、暗失活(dark decay)を増す。
【0045】
複数の実施形態において、電荷発生層、電荷輸送層、または保護上塗り層のいずれも、図1に示す当該感光体の最外層1であり得、ナノカプセルまたはマイクロカプセル3中に封入されている潤滑剤2を含むことができる。特に、電荷発生層が、当該感光体の最外層であり得、ナノカプセルまたはマイクロカプセル中に封入されている潤滑剤を含むことができるか;電荷輸送層が、当該感光体の最外層であり得、ナノカプセルまたはマイクロカプセル中に封入されている潤滑剤を含むことができるか;あるいは保護上塗り層が、当該感光体の最外層であり得、ナノまたはマイクロカプセル中に封入されている潤滑剤を含むことができる。感光体が磨耗するか亀裂が入った場合、そのナノカプセルまたはマイクロカプセル3は、力が加わって破裂する可能性があり、それによって潤滑剤2を放出する。その破裂は、例えば、表面層に露出したナノカプセルまたはマイクロカプセルと、クリーニングブレードまたは現像装置のその他の通常の構成部品との接触によって起こり得る。上記の潤滑剤は、さもなければ感光体を損傷する磨耗および摩擦を減少するであろう。図1は、感光体を使用中に起こる保守問題に当り、損傷が起きた場合の問題を修繕することができる感光体の設計コンセプトを説明している。
【0046】
マイクロカプセルに関して本明細書で言及したことは、ナノカプセルにも適用可能であり、ナノカプセルに関して本明細書で言及したことは、マイクロカプセルにも適用可能である。本明細書に記載のマイクロカプセルまたはナノカプセルは、一般に、薄い壁または殻(シェル)によるカプセルの内側に含まれている潤滑剤を含んでなるコア材料を含む。
【0047】
潤滑剤を有する感光体は、寿命の長い構造材料の提供に対して多大な可能性を示す。複数の実施形態において、潤滑剤供給コーティングは、感光体における使用に適する潤滑剤、例えば、合成潤滑油、鉱物性潤滑油、または天然潤滑剤を含むことができる。鉱物性潤滑油としては、任意の鉱物性潤滑油、例えば、ガソリンを生産するための石油の蒸留における副産物である鉱油(mineral oil)または流動ワセリン(liquid petrolatum)を挙げることができる。ワセリンは、主としてアルカン類(典型的には15〜40個の炭素)および環状パラフィン類を含む透明、無色の油であり、白色ワセリンと関係する。基本的に、潤滑剤として機能し得る任意の無機材料、例えば、ステアリン酸亜鉛、または任意のその他のステアリン酸金属塩が使用可能である。天然潤滑剤としては、天然物から抽出した潤滑剤、例えば植物油などを挙げることができる。例示的な合成潤滑油は、例えば、ポリオレフィン類、エステル類、ポリシロキサン類(シリコーンとも呼ばれる)、フルオロカーボン類、フルオロポリマ類などのポリマ材料であり得る。さらに、任意のホスフェート含有化合物を含む潤滑剤として適する任意の液体ポリマを採用することができる。基本的に、典型的な鉱物性潤滑油はいずれも、例えば石油系潤滑油であり得る。典型的な天然潤滑剤は、例えば、ダイズ油、アマニ油などであり得る。
【0048】
また、潤滑剤としては、ポリジメチルシロキサン類、ポリ(ジメチルシロキサン−co−トリフルオロプロピルメチルシロキサン)、および1個から約30個の炭素を有するペルフルオロアルキル基によりグラフトまたは停止されている(terminated)ポリジメチルシロキサンからなる群から選択されたポリシロキサンから選択されるものが挙げられる。
【0049】
また、潤滑剤としては、ポリ(ジフルオロメチレンオキシド)、ポリ(テトラフルオロエチレンオキシド)、ポリ(ヘキサフルオロプロピレンオキシド)、ポリ(テトラフルオロエチレンオキシド−co−ジフルオロメチレンオキシド)、ポリ(ヘキサフルオロプロピレンオキシド−co−ジフルオロメチレンオキシド)およびポリ(テトラフルオロエチレンオキシド−co−ヘキサフルオロプロピレンオキシド−co−ジフルオロメチレンオキシド)からなる群から選択されるペルフルオロポリエーテル類を含むものが挙げられる。
【0050】
本明細書に記載の潤滑剤は、任意の形態をとることができ、例えば、潤滑剤は、ワックス、液体、ゲル、粉末、半固体(semisolid)または任意のその他の形態であり得る。該潤滑剤材料は、また、例えば、マイクロカプセル中に存在するか、マイクロカプセルそれ自体の一部をなすか、または感光体のいずれかの層中に存在することができる。
【0051】
マイクロカプセルは、静穏状態の間に潤滑剤を保存するだけでなく、母材において損傷が起こり、カプセルが破裂するとき、潤滑プロセスに対する機械的なきっかけを提供することができる。これらのマイクロカプセルのエポキシマトリックスへの添加は、例えば、複合系(composite system)に対する独特の強靭化機構も提供する。感光体の電気的性能を妨害するかまたはマイナスに影響を及ぼすことのない任意のマイクロカプセルを使用することができる。
【0052】
当該マイクロカプセルは、処理中に原形を保つ十分な強度を有しており、それにもかかわらず、感光体が損傷を受けたときは破裂することができる。複数の実施形態において、該マイクロカプセルは、中強度のマイクロカプセルのシェルと組み合わさって、感光体材料に対して高い結合強度を示すことができる。複数の実施形態において、該カプセルは、例えば保存寿命を延ばすためにカプセル化されている(液体の)潤滑剤の漏れおよび拡散に対して相当時間にわたって鈍感であり得る。複数の実施形態において、これらの組み合わされた特徴は、例えば、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリエステル類、ポリウレタン類、ポリアミド類などのポリマ材料を含んでなる適当な壁を有するカプセルに基づくシステムにより実現することができる。
【0053】
マイクロカプセル化またはナノカプセル化技術およびプロセスについては、かなりの科学文献および特許文献が存在する。例えば、マイクロカプセル化については、「Microcapsule Processing and Technology」、アサジ コンドウ(Asaji Kondo)、1979年、Marcel Dekker,Inc社、および「Microcapsules and Microencapsulation Techniques」、Nuyes Data Corp.社、ニュージャージー州パークリッジ、1976年、に詳細に論じられている。例示的なカプセル化としては、化学的プロセス、例えば界面重合、その場(in−situ)重合およびマトリックス重合、ならびに物理的プロセス、例えば遠心押出し(centrifugal extrusion)、相分離、および振動によるコア−シェルカプセル化、などが挙げられる。界面重合に使用することができる材料としては、ジまたはポリアルコール類、アミン類、ポリエステルポリオール類、ポリ尿素、およびポリウレタン類と組み合わせたジアシルクロリド類またはジアシルイソシアネート類が挙げられるが、これらに限定はされない。その場重合に有用な材料としては、アルデヒド類、メラミン、または尿素およびホルムアルデヒドと組み合わせたポリヒドロキシアミド類などが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0054】
複数の実施形態において、当該マイクロカプセルは、実質的に球形をしており、1〜1000マイクロメートル、例えば、約1〜約100ミクロン、例えば、約0.2〜約20ミクロン、約0.2〜約10ミクロン、約0.5〜約10ミクロン、または約0.5〜約8ミクロンなどの平均直径を有することができる。マイクロカプセルは、約70重量%〜約95重量%、例えば約83重量%〜約92重量%の潤滑剤またはその他の充填材料を含むことができる。マイクロカプセルは、したがって、該マイクロカプセルおよびその充填内容物の全凝集体重量の約5重量%〜約30重量%、例えば、約8重量%〜約17重量%、または約1重量%〜約10重量%を含むことができる。マイクロカプセルの殻の壁の厚さは、約20nm〜約250nm、例えば、約160nm〜約220nmであり得る。この範囲の殻の厚さのマイクロカプセルは、操作および製造を乗りきるためには十分堅牢であるけれども、例えばエポキシマトリックス中に組み込まれたときは、そのマイクロカプセルはその損傷した場所で破裂し、それらの内容物を放出することができる。マイクロカプセル材料のナノ粒子は、製造中にマイクロカプセルの表面に生じ、それによって粗面形態を生成することができる。粗面形態は、例えば、該マイクロカプセルがポリマ中に組み込まれたときに機械的付着力を高め、かくして潤滑機構としての性能を改善することができる。
【0055】
実施形態において、光導電性部材は、基材と、電荷発生層と、電荷発生層上に形成された、潤滑剤を供給するコーティング(自己潤滑性層)とを含む。電荷発生層は、ペリレン顔料、アゾ顔料およびフタロシアニン顔料などから選択される光電子発生顔料を含むことができる。また、潤滑剤を供給するコーティングは、芳香族ポリカーボネートまたはポリアリレートなどを含むポリママトリックスと、三級アリールアミン化合物などを含む電荷輸送成分と、ナノカプセルまたはマイクロカプセル中にカプセル化されている潤滑剤とを含有することができる。
【0056】
実施形態において、光導電性部材は、基材と、電荷発生層と、電荷輸送層と、電荷輸送層上に形成された、潤滑剤を供給するコーティング(自己潤滑性層)とを含む。電荷発生層は、ペリレン顔料、アゾ顔料およびフタロシアニン顔料などから選択される光電子発生顔料を含むことができる。電荷輸送層は、ポリマ成分と、三級アリールアミン化合物などを含む正孔輸送成分とを含有することができる。また、潤滑剤を供給するコーティングは、架橋された電荷輸送樹脂と、ナノカプセルまたはマイクロカプセル中にカプセル化されている潤滑剤とを含有することができる。架橋された電荷輸送樹脂は、三級アリールアミン化合物などを含む電荷輸送成分と、必要に応じたポリオールバインダと、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂またはグアミン−ホルムアルデヒド樹脂などの硬化剤とを含む反応性電荷輸送組成物から形成することができる。
【実施例】
【0057】
感光体の自己潤滑性層は、所望の上塗り層を形成する任意の従来法または当業者には明らかな任意のその他の方法によって調製することができる。
【0058】
自己潤滑性層を含有する電子写真感光体は、以下の方法で組み立てた。100部のジルコニウム化合物(商標名:Orgatics ZC540)、10部のシラン化合物(商標名:A110、日本ユニカー株式会社製)、400部のイソプロパノールおよび200部のブタノールを含む下塗り層用のコーティング溶液を準備した。そのコーティング溶液を、ホーニング処理にかけた円筒形のアルミニウム(Al)基材に塗布し、150℃で10分間乾燥し、0.1マイクロメートルの膜厚を有する下塗り層を形成した。
【0059】
その後、その下塗り層の上に、タイプVヒドロキシガリウムフタロシアニン(12部)、アルキルヒドロキシガリウムフタロシアニン(3部)、およびDow Chemical社から入手できる塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマ、VMCH(Mn=27,000、約86重量パーセントの塩化ビニル、約13重量パーセントの酢酸ビニルおよび約1重量パーセントのマレイン酸)(10部)の475部の酢酸n−ブチル中の分散液から、0.5ミクロン厚の電荷発生層を浸漬被覆した。
【0060】
その後、その電荷発生層の上に、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(82.3部)、2.1部のAldrich社製の2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)および三菱ガス化学株式会社から入手できるポリカーボネートPCZ−400[ポリ(4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−1−1−シクロヘキサン)、Mw=40,000](123.5部)の546部のテトラヒドロフラン(THF)および234部のモノクロロベンゼンの混合物中の溶液から、25μm厚の電荷輸送層(CTL)を浸漬被覆した。そのCTLを115℃で60分間乾燥した。
【0061】
その電荷輸送層の上に、1.5部のポリオール(ジョンクリル(Joncryl)587、BASF化学会社製)、2.4部の電荷輸送成分としてのN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−ヒドロキシフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、2.1部のメラミン樹脂(サイメル(Cymel)303、Cytec Industries Inc.社製)、0.045部の酸触媒(Nacure5225、King Industries Inc.社製)、および0.32部のシリコーンオイルカプセル(平均粒径:5ミクロン、尿素とホルムアルデヒドからその場重合により調製)を含む22部のDowanol PM(Sigma Aldrich社製)中の懸濁液から自己潤滑性上塗り層を被覆し、続いて140℃で40分間熱硬化して、5μmの膜厚を有する上塗り層を形成した。得られた上塗り樹脂層は、約5重量パーセントのカプセル化シリコーン潤滑剤を含有した。
【0062】
シリコーンカプセルなしで上塗り層を塗布したことを除いて上記プロセスを繰り返すことによって、比較例の感光体または光導電体を調製した。
【0063】
<感光体性能特性の評価>
上で調製した感光体の電気的性能特性、例えば、電子写真感度および短時間サイクル安定性などをスキャナで試験した。そのスキャナは当業界では既知であり、それが電気的に帯電および放電する間にドラムを回転させる手段を備えている。光導電体試料上の電荷は、そのデバイスの周囲を取り巻く正確な位置に配置されている静電プローブを使用して測定する。その感光体デバイスは、500ボルトの負電位に帯電させる。デバイスの回転時に、最初の帯電電位を電圧プローブ1により測定する。次に、その光導電体試料を既知の強度の単色光にさらし、電圧プローブ2および3により表面電位を測定する。最後に、その試料を適当な強度と波長の消去ランプにさらし、電圧プローブ4により残留電位を測定する。このプロセスをそのスキャナのコンピュータの制御の下で反復し、データをそのコンピュータに保存する。該PIDC(光放電曲線)は、光エネルギの関数として電圧プローブ2および3における電位をプロットすることによって得られる。自己潤滑性上塗り層を有する感光体は、コントロールまたは比較例のデバイスと対比できるPIDC特性を示した。
【0064】
その感光体の電気的サイクリング性能を、乾式複写システムと類似の社内の備品を用いて評価した。上塗り層を有する当該感光体デバイスは、湿潤環境中(28℃、80%相対湿度)で170,000サイクルを超える安定したサイクリングを示した。
【0065】
ニュートンメートルで測定される感光体のトルク特性を、以下の方法で測定する。感光体を、DC555(ゼロックス社製)で用いられている電子写真顧客交換可能ユニット(xerographic customer replaceable unit)(CRU)にセットした。感光体デバイスが6秒回転したところでトルクの平均値を測定した。本明細書に開示の自己潤滑性上塗り層を有する感光体は、比較例のデバイスより約25%低い0.7ニュートンメートルのトルク値を有した。
【符号の説明】
【0066】
1 感光体の最外層、2 潤滑剤、3 ナノカプセルまたはマイクロカプセル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤を供給するコーティングを有し、
ポリママトリックス、電荷輸送成分、およびナノカプセルまたはマイクロカプセル中にカプセル化されている潤滑剤を含むことを特徴とする光導電性部材。
【請求項2】
帯電デバイスと、トナー現像デバイスと、クリーニングデバイスと、導電性基材、電荷発生層、電荷輸送層、および任意の上塗り層を含む感光体とを含む画像形成装置であって、
前記感光体の最外層が、ナノカプセルまたはマイクロカプセル中にカプセル化されている潤滑剤を含むことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−211069(P2009−211069A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43513(P2009−43513)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】