説明

光情報記録媒体およびその製造方法

【目的】 情報記録媒体特に相変化型情報記録媒体に関するものである。
【構成】 レーザー光の照射により情報の記録、消去、再生を行う書き換え可能な光情報記録媒体において、記録層が少なくともAg、In、Sb、Teを含む4元素系の相変化型記録材料を主成分として含有し、未記録および消去時に化学量論組成あるいはそれに近いAgSbTe2結晶相が存在することを特徴とするもの、およびかかる記録媒体を主にAgInTe2とSbとからなるターゲットを用い、スパッタ法により製膜する製造方法である。
【効果】 相変化型光記録媒体として優れた性能を有し、特に消去比、繰り返し特性が飛躍的に向上したものが得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、情報記録媒体、特に相変化形情報記録媒体であって、光ビームを照射することにより記録層材料に相変化を生じさせ、情報の記録、再生を行い、かつ書換が可能である情報記録媒体に関するものであり、光メモリー関連機器に応用される。
【0002】
【従来の技術】電磁波、特にレーザービームの照射による情報の記録、再生および消去可能な光メモリー媒体の一つとして、結晶−非結晶相間、あるいは結晶−結晶相間の転移を利用する、いわゆる相変化形記録媒体がよく知られている。特に光磁気メモリーでは困難な単一ビームによるオーバーライトが可能であり、ドライブ側の光学系もより単純であることなどから、最近その研究開発が活発になっている。その代表的な例として、USP3530441に開示されているように、Ge−Te、Ge−Te−Sn、Ge−Te−S、Ge−Se−S、Ge−Se−Sb、Ge−As−Se、In−Te、Se−Te、Se−Asなどのいわゆるカルコゲン系合金材料があげられる。又、安定性、高速結晶化などの向上を目的に、Ge−Te系にAu(特開昭61−219692)、SnおよびAu(特開昭61−270190)、Pd(特開昭62−19490)などを添加した材料の提案や、記録/消去の繰り返し性能向上を目的に、Ge−Te−Se−Sb、Ge−Te−Sbの組成比を特定した材料(特開昭62−73438、特開昭63−228433)の提案などもなされている。しかしながら、そのいずれもが相変化形書換可能光メモリー媒体として要求される諸特性のすべてを満足しうるものとはいえない。特に記録感度、消去感度の向上、オーバーライト時の消し残りによる消去比低下の防止、並びに記録部、未記録部の長寿命化が解決すべき最重要課題となっている。
【0003】特開昭63−251290では結晶状態が実質的に三元以上の多元化合物単相からなる記録層を具備した記録媒体が提案されている。ここで実質的に三元以上の多元化合物単層とは、三元以上の化学量論組成をもった化合物(例えばIn3SbTe2)を記録層中に90原子%以上含むものとされている。このような記録層を用いることにより記録、消去特性の向上が図れるとしている。しかしながら、消去比が低い、記録消去に要するレーザーパワーが未だ十分に低減されてはいないなどの欠点を有している。これらの事情から消去比が高く、高感度の記録、消去に適する記録材料の開発が望まれていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、以上のような事情に対するものであり、消去比が高く、低パワーで記録−消去の繰り返しが可能な情報記録媒体およびその製造方法を提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、前述目的に合致する記録材料とその製造方法を見出した。即ち、本発明は、(1)レーザー光の照射により情報の記録、消去、再生を行う書き換え可能な光情報記録媒体において、記録層が少なくともAg,In,Sb,Teを含む4元系の相変化形記録材料を主成分として含有し、未記録および消去時に化学量論組成あるいはそれに近いAgSbTe2結晶相が存在する光情報記録媒体、(2)未記録および消去時に化学量論組成あるいはそれに近いAgSbTe2結晶相と少なくともIn,Sbからなるアモルファス相が混在した組織となっている(1)記載の光情報記録媒体、(3)記録層が少なくともAg,In,Sb,Teからなり記録時には一様なアモルファス相となり、消去時には化学量論組成あるいはそれに近いAgSbTe2結晶相と少なくともIn,Sbからなるアモルファス相が混在した組織となっている(1)記載の光情報記録媒体、(4)初期化状態あるいは消去状態の記録層においてAgSbTe2の同じ方位をむいた領域の大きさが2000Åから10000Åである(2)又は(3)記載の光情報記録媒体、(5)消去時における組成および化学構造が主として、
【0006】
【数3】


【0007】ただし、
【0008】
【数4】


【0009】0.4≦X≦0.550.5≦Z≦2.5−0.15<δ<0.1で表わされる上記(1)〜(3)記載の光情報記録媒体、(6)基板上に記録層と保護層と反射放熱層を有し、記録層と反射放熱層との間の保護層がAlNである(1)〜(3)のいずれかに記載の光情報記録媒体、(7)レーザー光の照射により情報の記録、消去、再生を行う書き換え可能な光記録媒体の製造において、主にAgInTe2とSbとからなるターゲットを用い、スパッタ法により記録層を製膜することを特徴とする光情報記録媒体の製造方法、(8)製膜後、はじめにArレーザーによる初期化を行い、次に半導体レーザーによる初期化を行う(7)に記載の光情報記録媒体の製造方法、に関するものである。
【0010】本発明において記録層の組成は記録膜を蛍光X線により測定して得られる値を用いたが、そのほかにもX線マイクロアナリシス、ラザフォード後方散乱、オージェ電子分光等の分析法が考えられる。その際は蛍光X線で得られる値との較正をする必要がある。
【0011】記録層中に含まれる物質の観測はX線回折または電子線回折が適している。また結晶状態の観測は電子線回折等が適している。すなわち結晶状態の判定として、電子線回折像でスポット状乃至デバイリング状のパターンが観測される場合には結晶状態、リング状のパターン乃至ハローパターンが観測される場合には非結晶状態とする。結晶子径はX線回折ピークの半値幅からシェラーの式を用いて求めることができる。またTEM観察から結晶子径を求めることができる。本発明をさらに詳細に説明すると、本発明にかかわる記録層は構成元素として少なくともAg,In,Sb,Teを含むものである。また他の添加元素を加えることによりディスク特性を向上させることができる。例えばIVa,Vaなどの遷移金属元素(Ti,V,Cr,Zn,Nb,Moなど)を添加することにより、結晶化速度の制御が容易となり、構造安定性の改善、繰返し特性の向上がおこなえる。記録層は製膜時にアモルファスであることが多いが、媒体形成後熱処理して初期化する。
【0012】図1は電子顕微鏡観察、電子線回折、X線回折の結果をもとに、最適な記録層の安定状態(未記録部)の様子を模式的に示した図である。結晶相の化学量論組成あるいはそれに近いAgSbTe2と少なくともInとSbからなるアモルファス相が混相状態で存在している。この記録層の構造は以下のようにして求められた。
【0013】記録層の初期化部あるいは消去部の電子線回折パターンより結晶の面間隔を求めるとSelected Powder Diffraction Datafor Metals and Alloys(Compiled by the Joint Committee on Powder Diffraction Standars)におけるAgSbTe2結晶データに測定誤差の範囲でよく一致する。この電子線回折パターンには回折点以外にハローパターンがわずかにあらわれており、記録層が結晶相とアモルファス相の混在した状態であることを示している。図2はTEM観察写真であり、結晶相とアモルファス相が混在した状態の一例を示すものである。したがって、このTEM写真に見られる結晶部がAgSbTe2結晶相であることがわかる。
【0014】一方、この記録層を1×10-4Paの圧力のもとで電子線アニールして図2のアモルファス相を結晶化させると、電子線回折パターンにはAgSbTe2に加えて六方晶のInSb結晶に対応する回折パターンがあらわれるようになる。このことから初期化状態あるいは消去状態の記録層に見られる混相のアモルファス相は少なくともIn,Sbからなることが明確である。初期化状態あるいは消去状態の記録層において化学量論組成あるいはそれに近いAgSbTe2の同じ方位を向いた領域の大きさは、TEMの暗視野像をとることにより評価した。この領域の大きさが2000Å未満では繰返し特性が低下し、10000Åを越えるとC/Nが低下する。
【0015】その混相状態は化学量論組成あるいはそれに近いAgSbTe2結晶相中に少なくともInとSbからなるアモルファス相が分散した状態、あるいは少なくともInとSbからなるアモルファス相中にAgSbTe2結晶相が分散した状態あるいはこれらが混在した状態をとることができる。
【0016】このような構造が形成されるメカニズムは明確にはなっていないが、次のように考えることができる。Ag,In,Sb,Te、4元系において溶融状態から一定の冷却速度で凝固させると、準安定状態であるAgSbTe2相とIn−Sb相への分相と結晶化速度の大きいAgSbTe2結晶の成長が同時におこるため、AgSbTe2結晶相と少なくともIn−Sbからなるアモルファス相が混在する構造をとることになる。この際In−Sb相の結晶化速度が冷却速度よりも遅い場合にアモルファス相となる。
【0017】アモルファス相は一般に等方性の高い構造を持つと言われている。一方、AgSbTe2も等方的な結晶構造である立方晶構造をもつため、たとえばレーザー光により高温から急冷されアモルファス相となる際(記録→準安定状態への転移)には高速で均一な相変化がおこり、物理的、化学的にばらつきの少ないアモルファス相となる。このアモルファス相の微細な構造は解析が困難であり、詳細は不明であるが、たとえばアモルファス相の化学量論組成あるいはそれに近いAgSbTe2と少なくともIn,Sbからなるアモルファス相の組み合わせ、または全く別の単一アモルファス相等になっていると考えられる。
【0018】また、逆にこのような均一性の高いアモルファス相から等方的な結晶構造への転移において(消去→安定状態への転移)は結晶化も均一に起こり、したがって消去比は非常に高いものとなる。また図1のような混在状態ではサイズ効果による融点降下がおこるため、比較的低い温度で相転移を起こすことができる。即ち、記録媒体としては記録感度が向上する。
【0019】このような混相状態はAgInTe2とSbとを原材料で用いることにより作成することができる。製膜時の記録膜は、原材料の化学構造を反映しAgInTe2とSbのアモルファス相になっていると考えられる。これは結晶化転移点(190〜220℃)付近の温度で熱処理を施すことによりAgInTe2とSbの結晶相が得られることで確認できる。このような記録膜を適当なパワーのレーザー光、または熱等により初期化することにより、はじめて微細な化学量論組成あるいはそれに近いAgSbTe2と少なくともIn,Sbからなるアモルファスの均一な混相を作成することができる。すなわちAg,In,Sb,Teを少なくとも含む系において、製膜時の記録膜に対して初期化プロセスとして置換反応をおこさせ、構造変化させることにより適切な構造を得ることができる。このプロセスは製膜時の記録膜を加熱し、融解あるいはそれに近い活性な状態にし、その後適切な冷却速度で冷却することからなるものである。冷却速度が速すぎれば記録層はアモルファス構造となり、逆に遅すぎると好ましい微細な混相構造とはならず、In,Sbからなる相も結晶化する。
【0020】記録消去を低線速(1m/s〜5.6m/s)で行う場合には、前記式中のX,Z,δの範囲は、0.4≦X≦0.55、0.5≦Z≦2.5、−0.15≦δ≦0.1の範囲が好ましい。さらに好ましい範囲は0.4≦X≦0.55、0.7≦Z≦2.2、−0.15<δ<0.05、又さらに好ましい範囲は0.42≦X≦0.5、0.7≦Z≦2.2、−0.1<δ<0.02である。
【0021】本発明の記録層は各種気相成長法、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマCVD法、光CVD法、イオンプレーティング法、電子ビーム蒸着法などによって形成できる。気相成長法以外にゾルゲル法のような湿式プロセスも適用可能である。記録層の膜厚としては100〜10000Å、好適には200〜3000Åとするのがよい。100Åより薄いと光吸収能が著しく低下し、記録層としての役割をはたさなくなる。また、10000Åより厚いと高速で均一な相変化がおこりにくくなる。
【0022】スパッタリング用ターゲットとしては、AgInTe2ターゲットにSbのチップを乗せたもの、あるいは埋め込んだもの、SbターゲットにAgInTe2チップを乗せたもの、あるいは埋め込んだもの、またはAgInTe2とSbの混合物、はり合わせ、それらの焼結体など様々な形態が考えられ、そのいずれの方法で作成してもよい。またAg,In,Sb,Te単体あるいはそれらの化合物の混合物からAgInTe2とSbを主に含むターゲットを作成してもよい。4元素の組成比、チップの大きさや数、AgInTe2とSbの混合比、面積比などはスパッタリング装置、条件等に応じ、適宜決定することができる。その際ターゲットの組成によってはAg,In,Sb,Te単体あるいはそれらの2元化合物がターゲット中に混在することもあるが、記録膜の性能に大きな影響を与えるものではない。なおAgInTe2は必ずしも化学量論組成を意味するものではない。
【0023】以下本発明を添付図面に基づき説明する。図3は本発明の構成例を示すものである。基板(1)上に耐熱性保護層(2)、記録層(3)、耐熱性保護層(4)、反射放熱層(5)が設けられている。耐熱性保護層はかならずしも記録層の両側共に設ける必要はないが、基体がポリカーボネート樹脂のように耐熱性が低い材料の場合には耐熱性保護層(2)を設けることが望ましい。
【0024】基板の材料は通常ガラス、セラミックス、あるいは樹脂であり、樹脂基板が成形性、コストの点で好適である。樹脂の代表例としてはポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂などがあげられるが、加工性、光学特性などの点でポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂が好ましい。また基板の形状としてはディスク状、カード状あるいはシート状であってもよい。
【0025】耐熱性保護層の材料としては、SiO、SiO2、ZnO・SnO2、Al23TiO2、In23、MgO、ZrO2などの金属酸化物、Si34、AlN、TiN、BN、ZrNなどの窒化物、ZnS、In23、TaS4などの硫化物、SiC、TaC、B4C、WC、TiC、ZrCなどの炭化物やダイヤモンド状カーボンあるいはそれらの混合物が挙げられる。特にAlN、BN、SiC、Cなど熱伝導率が1W/cm・K以上の保護層が適している。通常μmオーダー以下の薄膜、特に耐熱保護層に使用しているような絶縁体薄膜そのものの熱伝導率測定は極めて困難である。そこで本発明で記載する熱伝導率は同じ物質のバルク状態を測定対象とし、縦方向直接法、あるいはレーザーフラッシュ法を用いて測定した値である。
【0026】その値が1.0W/cm・deg以上となった材料を本明細書記載の適切な製膜手段を用いて薄膜化したものを上部耐熱保護層として用いた。これらの材料は単体で保護層とすることもできるが、お互いの混合物としてもよい。また、必要に応じて不純物を含んでいてもよい。但し耐熱保護層の融点は記録層の融点よりも高いことが必要である。また必要に応じて保護層を多層化することもできる。このような耐熱性保護層は各種気相成長法、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマCVD法、光CVD法、イオンプレーティング法、電子ビーム蒸着法などによって形成できる。耐熱性保護層の膜厚としては100〜5000Å、好適には200〜3000Åとするのがよい。100Åよりも薄くなると耐熱性保護層としての機能をはたさなくなり、逆に5000Åよりも厚くなると感度の低下をきたしたり、界面剥離を生じやすくなる。
【0027】反射放熱層としては、Al、Au、Agなどの金属材料、またはそれらの合金などを用いることができる。反射放熱層は必ずしも必要ではないが、過剰な熱を放出し、記録媒体自身への熱負担を軽減するために設けるほうが望ましい。このような反射放熱層は各種気相成長法、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマCVD法、光CVD法、イオンプレーティング法、電子ビーム蒸着法などによって形成できる。反射放熱層の膜厚としては、100〜3000Å、好適には500〜2000Åとするのがよい。100Åよりも薄くなると反射放熱層の機能を果さなくなり、逆に3000Åよりも厚くなると感度の低下をきたしたり、界面剥離を生じやすくなる。
【0028】光情報記録媒体の初期化方法としては、Arレーザーによる方法、半導体レーザーによる方法、フラッシランプによる方法など種々の方法を用いることができる。特にはじめにArレーザーによる初期化を行い、次に半導体レーザーによる初期化を行う方法は消去比の点で優れている。この理由は明確ではないが、初期化方法を組み合せることにより記録層の構造が変化することによるものと思われる。Arレーザーのパワーは300mWから4Wの範囲、ディスクの線速は1.0m/sから10m/sの範囲、レーザーの送り速度は1um/回転から20um/回転の範囲が適している。半導体レーザーのパワーは5mWから20mWの範囲、線速は1.2m/sから10m/sの範囲が適している。
【0029】また大径LD(半導体レーザー)を用いた初期化は膜の均質性、ディスク信号特性、生産性の点で優れている。そのビーム径は巾1.0〜5.0μm、長さ10〜300μmが適している。パワーは100〜3000mW、線速は1〜20m/sの範囲が適している。記録、再生および消去に用いる電磁波としては、レーザー光、電子線、X線、紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波など種々のものが採用可能であるが、ドライブに取付ける際、小型でコンパクトな半導体レーザーが最適である。
【0030】
【実施例】以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
実施例13.5インチグルーブ付きポリカーボネートディスク基板上に下部耐熱保護層としてZnS・SiO2(20mol%)を2000Å、Ag,In,Sb,Teからなる記録層を350Å、上部耐熱保護層としてAlNを300Å、反射放熱層としてAgを700Å、順次スパッタ法により積層成膜した。その際記録層用スパッタリングターゲットとしては6インチφ、AgInTe2ターゲットエロージョン部に15mm□Sbチップを8個のせたものを用いた。得られた記録層の組成は次のように表わされた。
【0031】
【数5】


【0032】X=0.48Z=1.9δ=−0.07初期化方法として半導体レーザーを用いる方法とオーブンアニールによる方法を選択し、記録層の構造を変化させ、ディスク特性を評価した。半導体レーザーによる初期化は波長780nm、NA0.5のピックアップを用いて行った。ディスクの線速は1.2m/sとした。初期化パワーはDC13mWとして、5回行った。半導体レーザーによる初期化ではAgSbTe2結晶相とIn−Sbアモルファス相が混在した構造になっていることがTEM観察、電子線回折の結果からわかった。またオーブンアニールではAgInTe2とSbの結晶相ができることがわかった。
【0033】光ディスクの評価は波長780nm、NA0.5のピックアップを用いておこなった。ディスクの線速は1.2m/sとした。記録周波数720kHz、200kHzの信号を交互にオーバーライト記録し、720kHzの信号のC/N、消去比を特性値とした。表1に評価結果を示す。記録層の構造がAgSbTe2結晶相とIn−Sbアモルフアス相が混在したもので優れたディスク特性が得られている。
【0034】
【表1】


【0035】実施例2ピッチ約1.6μm、深さ約700Åの溝付きで、厚さ1.2mm、直径120mmのポリカーボネート基板上にRFスパッタリング法によりZnS・SiO2(20mol%)、保護層2000Å、Ag,In,Sb,Teからなる記録層200Å、AlN保護層1500Å、Ag反射層500Åを順次積層し、光ディスクを製作した。その際記録層の成膜は実施例1と同様にしておこなった。光ディスクの初期化は半導体レーザーにより行った。初期化パワーは5mWから15mW、線速は1.3m/sとした。初期化パワーにより同じ方位を向いた領域の大きさが変化した。
【0036】光ディスクの評価は波長780nm、NA0.5のピックアップを用いて行った。ディスクの線速は1.3m/sとした。記録周波数720kHz、200kHzの信号を交互にオーバーライト記録し720kHzの信号のC/N、消去比を特性値とした。ディスク特性評価後記録層のTEM観察を行い、同じ方位を向いた領域の大きさを求めた。図4にAgSbTe2結晶の同じ方位を向いた領域の大きさと繰り返し特性の関係を示す。ディスク繰り返し特性の特性値としてC/Nが3dB減少するオーバーライト記録回数を用いた。同じ方位を向いた領域の大きさが2000Å以下になると繰り返し特性が急激に低下するため好ましくないことがわかる。なおTEM観察および電子線回折の結果から記録層はAgSbTe2結晶相とIn−Sb、アモルファス相が混在した構造になっていることが確認された。
【0037】AgSbTe2結晶の同じ方位を向いた領域の大きさとC/Nの関係を図5に示す。同じ方位を向いた領域の大きさが10000Å以上になるとC/Nが低下するため実用に適さないことがわかった。
【0038】実施例33.5インチグルーヴ付きポリカーボネートディスク基板上に下部耐熱保護層としてZnS・SiO2(20mol%混)を2000Å、記録層を1000Å、上部耐熱保護層としてAlNを1500Å、反射放熱層としてAgを700Å、順次rfマグネトロンスパッタ法により積層、設置した。記録層の組成はターゲット組成の調整により変化させた。蛍光X線により測定した記録層の組成x,z,δを表2に示す。デイスク作製時の記録層はいずれもアモルファス相であった。波長830nmの半導体レーザー光により記録層を初期化状態(安定状態)とした。線速度1.3m/s、周波数0.72MHz、50%デューティー比で記録し、周波数0.2MHz、50%デューティー比でオーバーライトを行ったときの周波数0.72MHzの信号のC/N、消去比を測定し、記録媒体としての判定を行った。結果を表2中に示す。表中、●はC/N≧50dB、消去比≧−30dB、○はC/N≧40dB、消去比≧−25dB、△はC/N≧30dB、消去比≧−20dB、×はC/N<30dB、消去比<−20dBであることを示す。組成x,zとディスク特性との関係を表わしたものを図6に、δとディスク特性との関係を図7に示す。0.4≦x≦0.55、0.5≦z≦2.5、−0.15<δ<0.1の範囲で良好なディスク特性を示すことがわかる。また表2中にあるように記録感度も非常に高いものとなっている。
【0039】
【表2】


【0040】実施例4実施例1と同様にしてディスクの評価を行った。ただし初期化方法として■Arレーザーによる初期化(3000mW,8m/s,1μm/回転)をおこなった後、半導体レーザーによる初期化(13mW,1.2m/s,5回)をおこなう、■半導体レーザーによる初期化、■Arレーザーによる初期化を選択し比較した。表3に評価結果を示す。
【0041】
【表3】


【0042】表3からわかるようにArレーザーによる初期化をおこなった後、半導体レーザーによる初期化をおこなうことにより消去比が向上していることがわかる。
【0043】実施例5実施例1と同様にしてディスクを作製した。ただし上部保護層として■AlN、■Si34■SiO2の3種を用い、デイスク特性の比較をおこなった。各保護層の熱伝導率はAlN:2.6W/cmK、Si34:0.8W/cmK、SiO2:0.6W/cmKである。表4に各ディスクのC/N、消去比の初期特性、繰返し特性を示す。AlNを用いることで繰返し特性が改善されていることがわかる。
【0044】
【表4】


【0045】
【発明の効果】本発明は、相変化型光記録媒体として優れた性能を有し、特に消去比、繰り返し特性が飛躍的に向上したものが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】最適な記録層の安定な状態を模式的に示した図である。
【図2】本発明の金属組織を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の構成例を示す図である。
【図4】AgSbTe2結晶の同じ方位を向いた領域の大きさと繰返し特性の関係を示すグラフである。
【図5】AgSbTe2結晶の同じ方位を向いた領域の大きさとC/Nの関係を示すグラフである。
【図6】組成とディスク特性との関係を示すグラフである。
【図7】δとディスク特性の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 基板
2 耐熱性保護層
3 記録層
4 耐熱性保護層
5 反射放熱層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 レーザー光の照射により情報の記録、消去、再生を行う書き換え可能な光情報記録媒体において、記録層が少なくともAg,In,Sb,Teを含む4元系の相変化形記録材料を主成分として含有し、未記録および消去時に化学量論組成あるいはそれに近いAgSbTe2結晶相が存在することを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項2】 未記録および消去時に化学量論組成あるいはそれに近いAgSbTe2結晶相と少なくともIn,Sbからなるアモルファス相が混在した組織となっていることを特徴とする請求項1記載の光情報記録媒体。
【請求項3】 記録層が少なくともAg,In,Sb,Teからなり記録時には一様なアモルファス相となり、消去時には化学量論組成あるいはそれに近いAgSbTe2結晶相と少なくともIn,Sbからなるアモルファス相が混在した組織となっていることを特徴とする請求項1記載の光情報記録媒体。
【請求項4】 初期化状態あるいは消去状態の記録層においてAgSbTe2の同じ方位をむいた領域の大きさが、2000Åから10000Åである請求項2又は3記載の光情報記録媒体。
【請求項5】 消去時における組成および化学構造が主として、
【数1】


ただし、
【数2】


0.4≦X≦0.550.5≦Z≦2.5−0.15<δ<0.1で表わされることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光情報記録媒体。
【請求項6】 基板上に記録層と保護層と反射放熱層を有し、記録層と反射放熱層との間の保護層がAlNであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光情報記録媒体。
【請求項7】 レーザー光の照射により情報の記録、消去、再生を行う書き換え可能な光記録媒体の製造において、主にAgInTe2とSbとからなるターゲットを用い、スパッタ法により記録層を製膜することを特徴とする光情報記録媒体の製造方法。
【請求項8】 製膜後、はじめにArレーザーによる初期化を行い、次に半導体レーザーによる初期化を行う請求項7記載の光情報記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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