説明

光情報記録媒体

【課題】記録密度の向上が可能な光情報記録媒体を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と、熱可塑性樹脂に分散された無機酸化物の粒子とを有する記録層11を備える光情報記録媒体。前記無機酸化物粒子がシランカップリング剤により表面処理されている。前記熱可塑性樹脂がカルボニル基、及び、アルコキシカルボニル基から選ばれる1つ以上の官能基を構造単位に有する。また前記熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂、非晶ポリアリレート樹脂、及び、ポリメタクリル酸メチル樹脂から選ばれる1つ以上を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビームを用いて情報が記録又は再生される光情報記録媒体に係わる。
【背景技術】
【0002】
光情報記録媒体としては、一般にCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)及びBlu−ray Disc(登録商標、以下BDと呼ぶ)等が用いられている。光情報記録媒体には、音楽コンテンツや映像コンテンツ等の各種コンテンツ、又は、コンピュータ用の各種データ等の種々の情報が記録されている。近年、映像の高精細化や音楽の高音質化等による情報量の増加や、1枚の光情報記録媒体に記録するコンテンツ数の増加により、光情報記録媒体のさらなる大容量化が要求されている。
【0003】
光情報記録媒体の大容量化としては、光情報記録媒体の厚み方向に3次元的に情報を記録する構成の光情報記録媒体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この光情報記録媒体は、記録層が2光子吸収によって発泡する2光子吸収材料を含んで構成されている。記録層に光ビームを照射することにより2光子吸収材料が発泡し、気泡(空孔)による記録マークが形成される。
【0004】
2光子吸収は、3次の非線形光学効果の一種であって、1個の分子が仮想準位を介して2個の光子を同時に吸収して励起状態になる現象であり、電場強度(すなわち光強度)の2乗に比例する。このため、記録層に2光子吸収材料を含む光情報記録媒体(以下、これを2光子吸収記録媒体と呼ぶ)では、最も電場強度の大きい焦点近傍でのみ2光子吸収を生じる。一方、電場強度の小さい焦点以外の部分では2光子吸収を生じない。すなわち、レーザ光は、焦点に達するまでに殆ど吸収されることなく記録層内を進行し、焦点に到達した時点で2光子吸収材料により2光子吸収される。
【0005】
一般的な1光子吸収の記録層の場合、記録層の全域でレーザ光が吸収され、記録層の深い部分に到達するまでにレーザ光の光強度が低下する。このため、一般的な1光子吸収の記録層では、記録層を例えば10層以上にすることが困難である。
これに対して2光子吸収記録媒体では、レーザ光が焦点に達するまでに殆ど吸収されないため、記録層を10層以上にすることが可能となる。
【0006】
一方で光情報記録媒体の記録層に形成する記録マークの形状が、再生信号の波形に影響を与えることが知られている。例えば、再生方向に同じ長さの記録マークを形成する場合にも、小径の記録マークが断続的に複数形成されている場合と、連続したに記録マークが同じ長さ形成されている場合とでは、再生信号の形状が異なる。
【0007】
具体的な空孔による記録マークの形状と再生信号の関係との関係を図6に示す。記録層11に空孔により小径の記録マーク15Aが断続的に形成されている場合には、矩形状の再生信号22が得られる。これに対し、同じ長さの記録マーク15Bを再生方向に連続した楕円形状に形成した場合には、小径の記録マークを断続的に形成した場合よりもピークが高く、再生信号22が山形になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−37658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
2光子吸収記録媒体は、記録層に光ビームを照射により記録マークを形成する際、光反応に応じた発熱により、光反応性の樹脂の一部が沸騰又は分解して空孔を形成する。記録層11に光ビームLの照射から空孔による記録マーク15が形成されるまでの機構を図7A〜Cに示す。
【0010】
記録層11の照射点16に対して、光ビームLを照射する(図7A)。このとき、図7Bに示すように、照射点16に樹脂の沸騰又は分解による空孔が発生する。また、照射点16で発生した熱が照射点16の周囲に伝搬し、樹脂の溶融温度以上となる領域17が発生する。一般に、記録層を構成する2光子吸収材料は熱可塑性樹脂を基本骨格として形成されている。このため、照射点16の周囲に伝搬する熱により熱可塑性樹脂が溶融温度以上に加熱される領域17が発生すると、領域17内の樹脂が流動化する。
【0011】
流動化した熱可塑性樹脂は発生した気泡の圧力や表面張力の影響を受けるため、図7Cに示すように、空孔の形状が光ビームの照射形状から略球形に変形し、記録マーク15が形成される。このとき、記録マーク15は、上述の樹脂が溶融温度以上となる領域17とほぼ同じ大きさを上限として拡大すると考えられる。
このように、記録層に光ビームLを照射することにより、記録層11内で2光子吸収材料の沸騰又は分解、熱可塑性樹脂の流動化が連続して発生し、記録マーク15が形成される。
【0012】
しかしながら、上述のように、矩形状の記録信号を得るために、記録層に小径の記録マークが断続的に形成する場合には、熱可塑性樹脂が流動化して空孔が変形する際、近接する記録マーク同士が一体化し、連続した記録マークに変形してしまう。
この近接する空孔の一体による記録マークの変形の機構を図8A〜Cに示す。
まず図8Aに示すように、記録層11の隣接する2カ所の照射点16に対して、光ビームLを照射する。このとき、2つの照射点16の周囲に、それぞれ上述の樹脂の溶融温度以上となる領域17が発生する。領域17が重なるほど照射点16が近いと、図8Bに示すよう、照射点16に発生した空孔が拡大すると同時に、空孔が互いに近づく方向に移動する。この結果、図8Cに示すように、2つの空孔が一体化し、連続した1つの記録マーク15が形成される。
このように、記録マークが変形すると、再生信号の波形が変形し、所望の再生信号を得ることができない。
【0013】
また、光情報記録媒体の記録密度を向上させるためには、記録マーク同士をより近接させる必要がある。記録マークを近接させた場合、熱可塑性樹脂の流動化による隣接する記録マーク同士の一体化がより発生しやすくなり、連続した記録マークに変形してしまう。このように、記録マークを近接させて形成した場合には、所望の再生信号を得ることができず、記録密度の向上の障害となる。
【0014】
なお、樹脂の溶融温度とは、熱可塑性樹脂が結晶性樹脂のように融点を持つ場合には融点を意味し、非晶性樹脂のように融点を持たない場合にはガラス転移点(Tg)を意味する。
【0015】
上述した問題の解決のため、本発明においては、記録密度の向上が可能な光情報記録媒体及び光情報記録媒体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の光情報記録媒体は、熱可塑性樹脂と、熱可塑性樹脂に分散された無機酸化物の粒子とを有する記録層を備える。
【0017】
また、本発明の光情報記録媒体の製造方法は、無機酸化物の粒子を溶媒に分散させて無機酸化物の分散媒を作製する工程と、分散媒に熱可塑性樹脂を溶解して樹脂溶液を作製する工程と、樹脂溶液を基体上に塗布して記録層を形成する工程とを有する。
【0018】
本発明の光情報記録媒体及び光情報記録媒体の製造方法によれば、熱可塑性樹脂に無機酸化物粒子が分散された記録層が構成される。
熱可塑性樹脂よりも熱伝導率に優れる無機酸化物を分散させることにより、光ビームの照射により発生した熱を、無機酸化物にて吸収及び分散させる。このため、熱可塑性樹脂の溶融温度以上となる領域を小さくし、流動化による記録マークの変形を抑制することができる。
従って、記録マークをより近接さえて形成することができ、光情報記録媒体の記録密度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、記録密度の向上が可能な光情報記録媒体及び光情報記録媒体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の光情報記録媒体の実施の形態を示す構成図である。
【図2】図1に示す光情報記録媒体の断面図である。
【図3】光情報記録媒体における記録マークの記録及び再生に関する原理について説明するための図である。
【図4】A〜Cは、記録層に無機酸化物を分散させたことにより、記録マークを形成する際に発生する機構を図4
【図5】本実施の形態の光情報記録媒体の製造方法の実施の形態を説明するフローチャートである。
【図6】記録マークの形状と再生信号との関係を示す図である。
【図7】A〜Cは、記録層に空孔による記録マークが形成される機構を説明するための図である。
【図8】A〜Cは、近接する空孔の一体による記録マークの変形の機構を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.光情報記録媒体の実施の形態
2.光情報記録媒体の製造方法の実施の形態
【0022】
〈1.光情報記録媒体の実施の形態〉
[光情報記録媒体の構成]
以下本発明の光情報記録媒体の具体的な実施の形態について説明する。
図1に、本実施の形態の光情報記録媒体の一例として光ディスクの概略構成図を示す。
光情報記録媒体としての光ディスク10は、全体として略円板状に構成され、中心にチャッキング用の孔部21が設けられている。
光ディスク10の構成を説明するための断面図を図2に示す。光ディスク10は、図2に示すように、情報を記録するための記録層11と、記録層11の一方の面を覆うカバー層13と、記録層11の他方の面を覆う基板14とを備える。そして、記録層11とカバー層13との間に設けられた基準層12を備える。
また、記録層11には光ビームの照射により形成された空孔による記録マーク15が、任意の位置に形成されている。記録マーク15は、光ディスクの再生方向に対して1つの層のように形成されている。また、この記録マーク15による層が深さ方向に複数形成されている。
【0023】
なお、基準層12は、光ディスク10の入射側に設けた場合を示したが、基準層12を入射側とは反対側、即ち第2面10B側に設けることもできる。また、記録層11を分割し、記録層11間に基準層12を複数設けることも可能である。形成すべき基準層12の数としては、製造コスト等を考慮して1層又は2層であることが好ましい。
【0024】
基準層12は、例えば、スタンパなどによって形成されたサーボ用の案内溝に対し、誘電体膜を設けることにより形成される。誘電体膜は、例えば窒化シリコン/酸化シリコン/窒化シリコン/酸化シリコン/窒化シリコンを備える5層構造で構成される。このとき、例えば、窒化シリコンの厚さを80[nm]、酸化シリコンの厚さを110[nm]とする。これにより、誘電体膜は、約650[nm]の光を反射し、約400[nm]の光をほぼ100[%]透過することができる。
【0025】
なお誘電体膜は、窒化シリコン及び酸化シリコン以外にも酸化タンタル、酸化チタン、フッ化マグネシウム、酸化亜鉛など屈折率が相違する各種材質を用いることができる。誘電体膜の材料は、サーボ光ビームLS及び情報光ビームLMの波長に応じて適宜選択して用いる。
【0026】
カバー層13はガラス基板、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂など種々の光学材料からなり、光を高い割合で透過する。
【0027】
記録層11は、0.05[mm]以上、1.2[mm]以下であることが好ましい。記録層11を薄くすると、記録層11の厚さ方向に記録マーク15を多く配列することができず、光ディスク10としての記録容量を大きくすることが難しい。また、記録層11を1.2[mm]以上にすると、奥側において照射される光ビームの球面収差を増大させるため、好ましくない。
【0028】
光を通過するカバー層13と記録層11とを加算した厚さは、1.0[mm]以下であることが好ましい。厚さが1.0[mm]を超えると、光ディスク10の表面が傾いたとき、光ディスク10内で生じる記録用の光ビームの非点収差が大きくなるためである。
【0029】
なお、カバー層13の外側表面(記録層11と接触しない面)には、入射される光ビームに対して無反射となるような4層無機層(Nb/SiO/Nb/SiO)などのAR(Antireflection coating)処理を施しても良い。
【0030】
なお、光ディスク10は、記録層11の第2面側に、基板14を備えていなくてもよい。基板14を備えることにより、記録層11を保護することができ、光ディスク10の取り扱いを容易にすることができる。また、基板14及びカバー層13は、その材質と厚みの選択により、光ディスク10の物理的強度を担うことができる。
【0031】
また、光ディスク10は、記録層11中に中間層複数設けることにより、記録層11を複数形成することができる。
また、記録層11と基準層12との間にグルーブ形成層を設けてもよい。グルーブ形成層は、カバー層13上に光硬化型又は熱硬化型の感圧型接着シートを貼り合わせ、当該感圧型接着シートにスタンパを転写することにより形成される。基準層12を両面側、第1面10A及び第2面10Bにそれぞれ設け、光ビームを第1面10A及び第2面10Bの両方から入射するようにしてもよい。
さらに、記録層11及び基板14の間、及び、基準層12とカバー層13との間に接着層を設けても良い。
【0032】
上述のように、光ディスク10は、記録層11を基準として情報光ビームが入射される入射面側に基準層12を有するように構成されている。これにより、光ディスク10は、基準面深さと表面深さとを一致させることができ、基準面深さに応じた球面収差を常に情報光ビームに付加することができる。この結果、光ディスク装置において基準面深さに応じた球面収差補正をすれば、正確に情報光ビームの球面収差を補正することができ、光ディスク10の記録及び再生特性を向上させることができる。
【0033】
[光ディスクの記録及び再生原理]
次に、図3を用いて、光ディスク10に対する記録マーク15の記録及び再生に関する原理について説明する。図3に示すように、光ディスク10は、カバー層13の表面を構成する第1面10Aから光ビームが入射される構成である。
【0034】
基準層12には、サーボ用の案内溝が形成されている。この案内溝は、例えば、一般的なBD−R(Recordable)ディスク等と同様のグルーブ及びランドにより螺旋状のトラック(サーボトラック)TRが形成されている。このグルーブ及びランドの幅は、情報の記録及び再生用の情報光ビームLMの波長に応じて選定される。例えば、情報光ビームLMの波長を650[nm]とした場合には、DVD(Digital Versatile Disc)−Rと同様の幅のグルーブ及びランドを用いることができる。また、情報光ビームLMの波長を405[nm]とした場合には、BD(Blu-ray Disc、登録商標)と同様の幅とすることができる。また、DVD−RAM(Random Access Memory)のように、グルーブ及びランドをそれぞれトラックピッチと同一幅に設定することも可能である。
【0035】
サーボトラックTSには、所定の記録単位毎にアドレスとして一連の番号が付されている。そして、サーボ用の光ビーム(サーボ光ビームLS)が照射されるべきサーボトラック(目標サーボトラックTSG)が、上記アドレスにより特定される。
【0036】
光ディスク10には、情報光ビームLMと、サーボ光ビームLSとが照射される。基準層12は、情報光ビームLMを高い率で透過させ、サーボ光ビームLSを高い率で反射する。情報光ビームLMとしては、例えば波長約405[nm]の青紫色光ビームが用いられる。サーボ光ビームLSとしては、例えば波長約660[nm]の赤色光ビームが用いられる。
【0037】
光ディスク装置の対物レンズOLを介し、光ディスク10にサーボ光ビームLSが照射されると、基準層12によりサーボ光ビームLSが反射され、サーボ反射光ビームLSrとしてカバー層13側から出射される。サーボ反射光ビームLSrは、図示しない光ディスク装置によって受光される。そして、光ディスク装置は、受光結果を基にして対物レンズOLを、フォーカス方向へ位置制御する。これにより、サーボ光ビームLSの焦点FSが基準層12に合焦される。
【0038】
対物レンズOLを介して情報光ビームLMが光ディスク10に照射されると、情報光ビームLMがカバー層13及び基準層12を透過し、記録層11に照射される。このとき光ディスク装置は、サーボ光ビームLSと情報光ビームLMとの光軸を互いにほぼ一致させている。このため、情報光ビームLMの焦点FMは、基準層12のサーボ光ビームLSの焦点FSに垂直な法線XL上に位置する。以下、目標マーク層YGにおける目標サーボトラックTSGと対応したトラックを目標トラックTGと呼び、また焦点FMの位置を目標位置PGと呼ぶ。
【0039】
記録層11が波長405[nm]の青紫色光ビームに反応する光反応性の樹脂により構成されている場合、記録用の情報光ビームLM(記録情報光ビームLMw)が照射されると、焦点FMの位置に光反応性の樹脂の沸騰又は分解による気泡等が発生する。そして、この気泡等の発生により、記録層11中に、空孔による記録マーク15が形成される。この光反応性の樹脂の詳細については後述する。以下、記録用の情報光ビームLMを記録情報光ビームLMwと呼ぶ。
【0040】
光ディスク装置は、例えば、記録すべき情報を符号「0」及び「1」の組み合わせによる2値の記録データに符号化する。そして、光ディスク装置では、例えば当該記録データの符号「1」に対応して記録マーク15を形成し、符号「0」に対応して当該記録マーク15を形成しないように記録情報光ビームLMwが出射制御されている。
さらに、光ディスク装置は、光ディスク10を回転駆動すると共に対物レンズOLを半径方向へ適宜移動制御しながら記録情報光ビームLMwの強度を変調させる。そして、光ディスク10の記録層11内に、複数の記録マーク15による螺旋状のトラックが、基準層12に設けられたサーボトラックTSと対応する位置に順次形成される。
【0041】
また、このように形成された記録マーク15は、光ディスク10の第1面10A及び基準層12等の各面とほぼ平行な平面状に形成される。このため、記録層11には、この記録マーク15が平面状に形成された層、いわゆるマーク層が形成される。
また、記録情報光ビームLMwにおける焦点FMの位置を光ディスク10の厚さ方向に変化させることにより、記録層11内に複数のマーク層を形成することができる。例えば光ディスク10の第1面10A側から、光ディスクの厚さ方向に所定の間隔を空けてマーク層を順次形成することにより、記録層11内にマーク層を複数形成することができる。
【0042】
一方、光ディスク10から情報を再生する際は、第1面10A側から比較的弱い光強度の再生用の情報光ビームLM(読出情報光ビームLMi)を集光する。そして、焦点FMの位置、即ち目標位置PGに記録マーク15が形成されている場合、読出情報光ビームLMiが記録マーク15によって反射されて情報反射光ビームLMrとなる。
【0043】
光ディスク装置では、情報反射光ビームLMrの検出結果に応じた検出信号を生成し、この検出信号を基に記録マーク15が形成されているか否かを検出する。このとき、光ディスク装置は、例えば記録マーク15が形成されている場合を符号「1」に、記録マーク15が形成されていない場合を符号「0」に割り当てる。これにより、2値の記録データにより符号化記録されている情報を、再生することができる。
【0044】
上述のように、光ディスク装置によってサーボ光ビームLSを併用しながら情報光ビームLMを目標位置PGに照射させることで、記録層11に情報を記録し、或いは、記録層11から情報を再生する。
なお、上述の光ディスクにおいて、基準層12(すなわち記録層11とカバー層13との境界面)には、案内溝の替わりにピット等を形成してもよい。また、案内溝とピット等とを組み合わされて形成してもよい。基準層12のトラックは、螺旋状でなく同心円状であってもよい。
【0045】
[記録層の構成]
上述の光ディスク10の記録層11の構成について説明する。
記録層11は、光反応性の熱可塑性樹脂と、熱可塑性樹脂に分散された無機酸化物の粒子とから構成されている。光反応性の熱可塑性樹脂は、集光された記録情報光ビームLMwが照射されると、記録用情報光ビームLMwの焦点FM近傍に空孔による記録マーク15を形成する。
【0046】
[熱可塑性樹脂の構成]
まず、光ディスク10の記録層11を構成する熱可塑性樹脂について説明する。
記録層11を構成する熱可塑性樹脂は、多光子吸収反応により記録マーク15を形成する光反応性の樹脂である。多光子吸収反応では、記録情報光ビームLMwにおける光強度の非常に大きい焦点FM近傍の光のみを吸収して光反応を生じる。
【0047】
このため、熱可塑性樹脂からなる記録層11は、焦点FM近傍以外ではほとんど記録情報光ビームLMwを吸収せず、記録情報光ビームLMwの光強度を減衰させることなく深部まで到達させることができる。
【0048】
光反応性の熱可塑性樹脂は、光反応に応じた発熱により、熱可塑性樹脂の一部が沸騰又は分解により気化し、焦点FM近傍に空孔による記録マーク15が形成される。このとき、熱可塑性樹脂は、記録速度、記録マーク15の大きさ、形状及び位置、及び、記録マーク15の安定性等の記録特性を考慮して構成される必要がある。
【0049】
一般的に1つの光子を吸収して光反応を生じる1光子吸収反応では、記録情報光ビームLMwの光強度を変化させて記録マーク15を形成する際、光強度にほぼ反比例して記録速度が低下する。これは、光反応の確率が光子の数に比例するためである。
これに対し、2つの光子を吸収して光反応を生じる2光子吸収反応では、記録用情報光ビームLMwの光強度を変化させて記録マーク15を形成する際、光強度の2乗にほぼ反比例して記録速度が低下する。これは、2つの光子をほぼ同時に吸収して光反応を生じるためである。
【0050】
光ディスク10に適用する熱可塑性樹脂としては、記録情報光ビームLMwの光強度を変化させて記録マーク15を形成したときに、当該光強度のM乗(ただし、M≧2.9、好ましくはM≧3.0、より好ましくはM≧3.3)に反比例して記録時間が低下することが好ましい。これにより、記録層11において、記録情報光ビームLMwのうち光強度の極めて大きい部分でのみ光反応を生じる。
【0051】
記録層11は、多光子吸収反応を生じる熱可塑性樹脂が主成分であり、好ましくは、記録層を構成する樹脂の全質量中の熱可塑性樹脂の割合が50質量%以上、特に70質量%以上であることが好ましい。光反応性の熱可塑性樹脂を高い割合で含有することにより、熱可塑性樹脂自体の感度が低い場合にも記録層11全体の多光子吸収の感度を向上させることができる。
【0052】
熱可塑性樹脂は、重量平均分子量Mwが10000以上のポリマーであることが好ましい。これにより、記録層11が充分な機械的強度を有し、一旦形成された記録マーク15の位置を物理的に安定させることができる。このため、記録特性を向上させることができる。
【0053】
上述の熱可塑性樹脂としては、官能基としてカルボニル基、及び、アルコキシカルボニル基を構造内に有することが好ましい。熱可塑性樹脂としては、カルボニル基とアルコキシカルボニル基の両方を有していてもよく、また、構造内にカルボニル基、又は、アルコキシカルボニル基いずれか一方の官能基を有していてもよい。
【0054】
カルボニル基、アルコキシカルボニル基を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、下記一般式(1)に示す構造単位と、カルボニル基又はアルコキシカルボニル基を有する化合物との重合体を用いることができる。
【0055】
【化1】

【0056】
一般式(1)において、R、R、R及びRはそれぞれ独立した水素原子又は置換基であり、特に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、水酸基、アルコキシ基が好ましい。また、p,qは整数である。
上記一般式(1)に示す構造単位としては、例えば、ビスフェノールAの重合体又は共重合体を用いることができる。また、カルボニル基又はアルコキシカルボニル基を有する化合物としては、ホスゲン、及び、フタル酸、カルボン酸等の二塩基酸を用いることができる。
【0057】
上述の熱可塑性樹脂として、特に好ましくは、下記一般式(2)に示す構造単位を有する樹脂、及び、下記一般式(3)に示す構造単位を有する樹脂であることが好ましい。
【0058】
【化2】

【0059】
上記一般式(2)において、R、R、R及びRはそれぞれ独立した水素原子又は置換基であり、特に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、水酸基、アルコキシ基が好ましい。また、r,sは整数である。
【0060】
【化3】

【0061】
上記一般式(3)において、R、R10、R11及びR12はそれぞれ独立した水素原子又は置換基であり、特に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、水酸基、アルコキシ基が好ましい。また、t,uは整数である。
【0062】
上記一般式(2)に示す構造単位を有する樹脂としては、例えば、下記一般式(4)で示されるポリカーボネート樹脂が好ましい。
【化4】

【0063】
上記一般式(3)に示す構造単位を有する樹脂としては、例えば、下記一般式(5)で示される非晶ポリアリレート樹脂が好ましい。
【化5】

【0064】
また、カルボニル基、アルコキシカルボニル基を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、下記一般式(6)に示す構造単位を有する樹脂を用いることができる。
【0065】
【化6】

【0066】
上記一般式(6)において、R13、R14、R15及びR16はそれぞれ独立した水素原子又は置換基であり、特に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、水酸基、アルコキシ基が好ましい。
【0067】
上記一般式(6)に示す構造単位を有する樹脂としては、例えば、下記一般式(7)で示されるメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)が好ましい。
【0068】
【化7】

【0069】
上述のように、記録層11を構成する熱可塑性樹脂として、構造単位にカルボニル基、アルコキシカルボニル基を有する樹脂を用いることにより、光強度の極めて大きい部分でのみ光反応を生じ、良好な記録マーク15を形成することができる。
また、記録層11は、光反応性の熱可塑性樹脂と、多光子吸収材料の他に、加熱時の粘弾性などの熱特性を変化させるための低分子成分及び各種ポリマーや、製造時の特性などを変化させるための各種添加剤などの他成分を含有することができる。これらの他成分は、記録層11の記録感度を大きく低下させない範囲で添加されることが好ましく、その含有量は熱可塑性樹脂の全質量に対して50質量%未満、特に30質量%未満とすることが好ましい。
【0070】
[無機酸化物の構成]
次に、光ディスク10の記録層を構成する無機酸化物について説明する。
無機酸化物は、上述の熱可塑性樹脂中に分散された粒子として存在する。このため、無機酸化物は、屈折率が記録層を構成する熱可塑性樹脂と同程度、又は、屈折率の差が少ないことが好ましい。つまり、無機酸化物は、記録層を構成する熱可塑性樹脂に記録情報光ビームLMwを照射した際に、この光の波長との干渉及び相互作用がない方が好ましい。また、樹脂に分散させる粒子としては、記録情報光ビームLMwの波長域において光の吸収が無いことが好ましい。
【0071】
樹脂に分散させる粒子としては、樹脂よりも熱伝導率が高い材料を用いる。
無機酸化物は、球形の粒子を用いることが好ましい。形状が非球形であると、記録層に分散された状態で、発生した熱の吸収等にムラが発生しやすい。球形であれば、記録時に発生する熱の吸収、伝搬を層内で均一にすることができる。
【0072】
上述の理由から、無機酸化物としては、Al、SiO、TiO、及び、Yから選ばれる1種以上を、単独又は混合して用いることができる。
上記無機酸化物粒子の具体例としては、CIKナノテック社製のNanoTek(登録商標)Powder、NanoTek(登録商標)Slurryの、Al、SiO、TiO、及び、Yを用いることができる。
【0073】
樹脂に分散させる粒子としては、波長以下の長さの粒子径であれば、光学的不純物にならない。このため、記録層における記録情報光ビームLMwが、無機酸化物による光の散乱、回折等の干渉の干渉を受けずに透過される。
また、粒子径が小さすぎると、分散性が低下する。樹脂内での分散性が悪いと、均一な懸濁液を得ることができず、溶液の不均一に起因する光の散乱等が発生するため好ましくない。また、粒径が大きすぎても樹脂中での分散性が低下する一因となる。
【0074】
無機酸化物粒子は、最大粒子径が、最大粒子径が回折限界以下であり、平均粒子径が最大粒子径よりの充分に小さいことが好ましい。
粒子径が光の波長以下であれば、散乱係数と光の波長と粒子径との関係式である下記式(1)が成り立つ。
α=πD/λ ・・・(1)
但し、αは散乱係数、Dは粒子径[nm]、λは光の波長[nm]である。
【0075】
散乱係数αが1よりも充分に小さい場合(α≪1)には、レイリー散乱がおこる。また、散乱係数αがほぼ1である場合(α≒1)には、ミー散乱がおこる。散乱係数αが1よりも充分に大きい場合(α≫1)には、フラウンホーファーの近似式を用いて表せる前方散乱がおこる。
【0076】
レイリー散乱の場合は、粒子に入射した光に対して当方的な散乱がおきるため、粒子の後方にも後方散乱光が発生する。このため、粒子に対して入射した光が、散乱により粒子の後方に到達する。このため、光が入射する粒子の前後において光量が変らず、粒子による散乱を無視することができる。つまり、入射光を考える際に粒子を無視することができる。
【0077】
これに対し、ミー散乱、及び、フラウンホーファーの近似式を用いて表せる前方散乱の場合には、前方散乱光が多く、後方散乱光が少ない。このため、光が入射する粒子の後方において光の透過率が低下し、粒子による光の散乱を無視することができない。つまり、光にとって粒子を無視することができない。
従って、樹脂中に分散させる無機酸化物の粒子径Dは、散乱係数αが1よりも充分に小さくなるように選択する必要がある。
【0078】
α≪1の場合について上記式(1)を変形すると、下記式(2)となる。
D≪λ/π ・・・(2)
このとき、例えば、記録層に波長405nmの青紫色光ビームを用いる場合には、D≪405/πとなり、D≪128.91となる。
つまり、波長405nmの光を用いる場合は、128.91nmを、無機酸化物粒子の最大粒子径とし、平均粒子径を128.91nmよりも充分に小さい範囲とする。具体的には、無機酸化物粒子の最大粒子径を128.91nmとし、平均粒子径を100nm以下、より好ましくは、最大粒子径の半分以下である64nm以下とする。
なお、無機酸化物の粒子径は使用する光の波長により異なるが、上記式(2)を用いることにより、光の波長に依存して粒子径の上限を決めることができる。具体的には、無機酸化物粒子の粒子径は、最大粒子径を使用する光の波長λ/πとすることができ、平均粒子径をλ/πより小さく、特に好ましい範囲としてλ/2π以下を含む範囲とすることができる。
【0079】
また、無機酸化物粒子の粒子径は、10nm以上とすることが好ましい。10nm未満では、粒子の凝集性が高くなり、後述の表面処理を行った場合にも高い分散性を確保できない。また、粒子径が10nm未満の無機酸化物粒子を製造することは非常に困難であると考えられる。このため、10nm以上とすることが好ましい。
【0080】
また、無機酸化物粒子には、熱可塑性樹脂への分散性を向上させるための表面処理がなされている。表面処理剤は、記録層を構成する光反応性の樹脂の種類により適宜選択して使用される。
無機酸化物粒子を分散させる熱可塑性樹脂が、上述のカルボニル基、アルコキシカルボニル基を構成単位内に有する熱可塑性樹脂である場合には、末端にアミノ基を有するシランカップリング剤を用いることが好ましい。例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、又は、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランにより、無機酸化物が表面改質されていることが好ましい。
【0081】
シランカップリング剤により無機酸化物粒子の表面処理を行うことにより、樹脂との親和性、相溶性が高い官能基が粒子表面の外側に配向される。このため、熱可塑性樹脂や有機溶媒内で、無機酸化物粒子の分散性を向上させることができる。
【0082】
無機酸化物の樹脂中の添加量は、記録ディスクの製造プロセスにおいて添加可能な最大濃度とすることが好ましい。無機酸化物粒子の添加量が多い程、記録時に発生する熱を吸収又は拡散することができるため、空孔(記録マーク)の小径化が可能であり、隣接する空孔同士の溶融による一体化を防ぐことができる。
【0083】
製造プロセスにおいて添加可能な最大濃度は、有機溶剤中に分散させることが可能な無機酸化物粒子の最大濃度とする。例えば、有機溶剤中へ分散させる無機酸化物粒子の最大濃度を10質量%とする。また、記録層を作製する際の塗布性等を考慮すると、有機溶剤へ溶解する熱可塑性樹脂の濃度は10〜20質量%とすることが好ましい。有機溶剤は、記録層を形成する際の加熱により完全に除去されるため、記録層中には、熱可塑性樹脂と無機酸化物のみが存在する。このため、熱可塑性樹脂への無機酸化物の最大添加量は、
{MNPs/(MNPs+Mpoly)}×100 ・・・(3)
により示すことができる。なお、MNPsは無機酸化物最大重量、Mpolyは樹脂最小重量である。
【0084】
例えば、有機溶媒としてテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran,THF)を用いた場合、THFの密度を0.888g/cm、最小樹脂濃度を10%とすると、樹脂最小重量Mpolyは以下の式で表すことができる。
poly=Vsolv×0.888×0.1
なお、VsolvはTHFの体積である。
また、無機酸化物最大重量MNPsは、以下の式で表すことができる。
Nps=Vsolv×0.888×0.1
polyとMNpsとはともに右辺が同じであるため、Mpoly=MNpsである。このため、Mpoly=MNpsを上記式(3)に代入することで、熱可塑性樹脂への無機酸化物の最大添加量の式を
{MNPs/(MNPs+Mpoly)}×100=MNPs/2(MNPs)×100 ・・・(4)
とすることができる。
【0085】
従って、熱可塑性樹脂への無機酸化物の最大添加量は、0.5×100=50(質量%)となる。なお、この50質量%は、製造プロセス上、樹脂中に添加することが可能な無機酸化物の最大量である。このため、記録ディスクの製造プロセスでは、記録層の樹脂中への無機酸化物の添加量は、50質量%以下にする必要がある。例えば、記録層の充分な透過率を得るためには、25質量%以下とすることが好ましい。このように、記録ディスクに必要となる特性等を考慮して、樹脂への添加量が50質量%以下となる範囲で、無機酸化物の添加量を決定する。
【0086】
また、無機酸化物の樹脂中の添加量は、記録層に最大径の記録マークを形成した場合に、この記録マークに少なくとも1つ以上の粒子が分散する濃度以上とすることが好ましい。例えば、記録マークの径を100〜200nmとし、無機酸化物粒子の平均粒径を10〜100nmとする。また、例えば最大樹脂濃度が20%の場合には、記録層の体積(Vrec)は、溶媒体積(Vsolv)の約20%となる。
このとき、記録層の体積Vrecは、下記式(5)で表すことができる。
rec=0.2Vsolv ・・・(5)
【0087】
solvに含まれる無機酸化物粒子の個数(NNPs)は、記録層中の無機酸化物濃度(NPs濃度)をx質量%とすると、
NPs=Vsolv×0.888×(x/100)×(1/NPs密度)×(1/NNP) ・・・(6)
で表すことができる。なお。NNPは、無機酸化物1個の体積である。
ここで、(Vsolv×0.888×x/100)は、溶媒中の無機酸化物の総重量を表している。また、(Vsolv×0.888×x/100×1/NPs密度)は、溶媒中の無機酸化物の総体積を表している。
【0088】
ここで、無機酸化物1個の体積(NNP)は、無機酸化物粒子の平均半径をrNPとしたとき、
NP=(4/3)×π×rNP ・・・(7)
として表すことができる。
また、上記式(5)におけるNPs密度は、(NNPs/Vrec)と表すことができる。
【0089】
記録マークの半径rを200nmとし、このマーク内に少なくとも1つ以上の無機酸化物微粒子が存在すると、上記式(4)とこの記録マークの体積から
(NNPs/Vrec)×(4/3)×π×200=1 ・・・(8)
上記式(8)は、NPs密度(NNPs/Vrec)おいて、半径200nmの記録マーク中に存在する無機酸化物粒子の個数(NNPs)が1であることを表している。
そして、上記式(8)に上記式(5)〜(7)を代入すると下記式(9)が求められる。
【0090】
【数1】

【0091】
上記式(9)をxに付いて整理すると、下記式(10)で示すことができる。
【0092】
【数2】

【0093】
上記式(10)において、例えば、無機酸化物として真密度(NPs密度)3.5g/cm、平均粒子径(rNP)31nmのAlを用いた場合について解く。この場合、記録層を構成する樹脂中の無機酸化物濃度(NPs濃度)xは、x=0.3(質量%)となる。従って、記録層における無機酸化物の樹脂中の添加量は、0.3質量%以上とすることが好ましい。
【0094】
なお、この0.3質量%は、上記物性のAlを用いた場合の最小添加量である。このため、例えば、無機酸化物として真密度(NPs密度)2.2g/cm、平均粒子径(rNP)25nmのSiOを用いた場合には、記録層を構成する樹脂中の無機酸化物濃度(NPs濃度)xは、x=0.1(質量%)となる。また、無機酸化物として真密度(NPs密度)3.7g/cm、平均粒子径(rNP)36nmのTiOを用いた場合には、記録層を構成する樹脂中の無機酸化物濃度(NPs濃度)xは、x=0.5(質量%)となる。真密度(NPs密度)5.2g/cm、平均粒子径(rNP)33nmのYを用いた場合には、記録層を構成する樹脂中の無機酸化物濃度(NPs濃度)xは、x=0.5(質量%)となる。また、上記式内における0.888は溶媒として用いるTHFの密度であるため、他の溶媒を用いる場合にはその溶媒の密度を用いて、無機酸化物の添加量を求める必要がある。このように、記録ディスクに用いる無機酸化物の種類や物性を考慮して、樹脂への添加量を決定することが好ましい。
【0095】
なお、上述の無機酸化物は、熱可塑性樹脂に分散される以前に、予め表面処理剤による処理が行われているため、実際には無機粒子の重さに表面処理剤の重さを加えた重さが添加量となる。しかし、無機酸化物の重さに比べると表面処理剤の重さは無視できる程度に小さい。このため、上述の計算において、無機酸化物表面の処理剤の重さは考慮していない。
【0096】
[記録層への無機酸化物の分散による効果]
次に、記録層11に無機酸化物を分散させたことにより、記録マーク15を形成する際に発生する機構を図4A〜Cに示す。
【0097】
図4Aに示すように、無機酸化物粒子20が分散された記録層11の照射点16に対し、記録情報光ビームLMwを照射する。光ビームLMwの照射により、記録層11を構成する熱可塑性樹脂が非線形に光を吸収し、空孔が発生する。
【0098】
このとき、図4Bに示すように、照射点16で発生した熱が照射点16の周囲に伝搬し、樹脂の溶融温度以上となる領域18が発生する。
記録層に分散された無機酸化物は、一般的な樹脂に比べて熱伝導率が高い。例えば、上述のポリカーボネート樹脂の熱伝導率[W/m・k]が0.19、非晶ポリアリレート樹脂が0.24、PMMA樹脂が0.17〜0.25である。これに対し、上述のAlの熱伝導率[W/m・k]が30〜40、SiOが1〜20、TiOが8〜9、Yが10〜20である。このため、記録情報光ビームLMwの照射により記録層11に発生した熱が、矢印19Aで示すように、無機酸化物に優先的に移動する。このように、記録層11において、発生する熱量が優先的に無機酸化物に移動するため、樹脂に伝搬する熱量が低下する。この結果、樹脂の溶融温度以上となる領域18が、無機酸化物を含まない記録層における樹脂の溶融温度以上となる領域17(図7C)に比べて、小さくなる。
【0099】
また、熱伝導率が高い無機酸化物を添加したことにより、この無機酸化物を伝わり、照射点16で発生した熱が矢印19Bに示すように、領域17の周囲の無機酸化物20に伝搬される。この結果、照射点16で発生した熱は、より広い範囲に分散される。このように、照射点16近傍から伝搬される熱量が広く拡散されることにより、領域内の温度が低下する。このため、無機酸化物が分散された記録層11における樹脂の溶融温度以上となる領域18が、上述の無機酸化物を含まない記録層における樹脂の溶融温度以上となる領域17(図7C)に比べて、小さくなる。
【0100】
記録マーク15は、上述の樹脂が溶融温度以上となる領域18とほぼ同じ大きさを上限として拡大すると考えられる。このため、無機酸化物が分散された記録層11では、上述のように樹脂の溶融温度以上となる領域18が小さくなることにより、形成される記録マーク15も小さくなる。このように、記録マーク15の小径化が可能である。
【0101】
さらに、溶融温度以上となる領域18が小さくなることにより、隣接する2つの空孔の一体化による、連続した1つの大きな記録マーク15の形成を防ぐことができる。
隣接する2カ所の照射点16同士の距離は、光ビームLMwを照射した際に2つの照射点16の周囲にそれぞれ発生する溶融温度以上となる領域18が重ならない位置までしか近づけることができない。領域18を小さくすることにより、この領域18同士が重ならない位置をより近接させることができる。このため、照射点16同士の距離を従来よりも小さくすることができる。
従って隣接する2つの記録マーク15の一体による、再生信号の波形の変形を防ぎ、所望の再生信号を得ることできる。また、隣接する2つの照射点16同士の最小距離を、従来よりも小さくすることができるため、記録マーク15を従来よりも近接させることができる。
【0102】
上述のように、光情報記録媒体において、記録層を熱可塑性樹脂及び熱可塑性樹脂に分散された無機酸化物の粒子を有する構成とすることにより、記録情報光ビームの照射による樹脂の溶融を抑えることができる。このため、空孔を小さくすることができ、記録マークの小径化が可能となる。また、樹脂の溶融を抑えることにより、近接させた空孔同士の一体化による記録マークの変形を抑えることができ、小径の空孔を断続的に形成した複数の記録マークの形成による矩形状の再生信号を得ることができる。この結果、光情報記録媒体の高密度化が可能となる。
【0103】
〈2.光情報記録媒体の製造方法の実施の形態〉
図5に、光情報記録媒体の一例として図1に示す構成の光ディスク10の製造方法のフローチャートを示す。
まず、有機溶媒中に無機酸化物粒子を分散させる(ステップS1)。これにより、無機酸化物が溶媒に分散した、分散媒を作製する。
【0104】
有機溶剤としては、上述のカルボニル基及びアルコキシカルボニル基を有する構造の熱可塑性樹脂を溶解できれば特に限定されずに用いることができる。例えば、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran,THF)や、塩素系溶剤として四塩化炭素、クロロホルム及びジクロロメタン等を用いることができる。このとき、無機酸化物は、粒子同士の分散性、及び、溶媒への分散性を確保するため、上述のシランカップリング剤等を用いて表面処理されていてもよい。無機酸化物材料としては、上述のAl、SiO、TiO、及び、Yを単独又は複数混合して用いることができる。溶媒への添加量は、上述の無機酸化物の添加量の範囲内において、溶剤への分散性や記録層を構成した際の樹脂との比率等を考慮して設定する。
【0105】
次に、無機酸化物が分散された有機溶媒に、熱可塑性樹脂を溶解させる(ステップS2)。これにより、無機酸化物が分散した溶液に、樹脂が溶解した樹脂溶液を作製する。
熱可塑性樹脂としては、上述のカルボニル基及びアルコキシカルボニル基を有する構造の樹脂を用いることができる。また、熱可塑性樹脂は、記録層11を作製する際の塗布性等を考慮し、有機溶剤への熱可塑性樹脂の濃度が10〜20質量%となるように溶解する。
【0106】
次に、樹脂溶液を光ディスク10の基板14上に塗布する(ステップS3)。そして、基材14上に塗布した溶液を加熱し、溶媒を蒸発させる(ステップS4)。基材への塗布は、公知の溶剤キャスト法を用いて行う。例えば、上述の熱可塑性樹脂を溶解させた樹脂溶液を、金属支持体上に薄く流延してから溶媒を蒸発させるキャスト法等により行うことができる。これにより、光ディスク10の記録層11を作製する。
【0107】
次に、公知の方法により、基準層12を形成する(ステップS5)。
基準層12は公知の方法を用いて、記録層上に例えば上述の窒化シリコン/酸化シリコン/窒化シリコン/酸化シリコン/窒化シリコンからなる誘電体膜を形成する。
さらに、必要に応じて基準層上に、ガラス基板、アクリル樹脂又はポリカーボネート樹脂など種々の光学材料によりカバー層13を形成する。
以上の工程により、光ディスク10を製造することができる。
【0108】
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0109】
10 光ディスク、10A 第1面、10B 第2面、11 記録層、12 基準層、13 カバー層、14 基板、15 記録マーク、16 照射点、17,18 領域、20 無機酸化物、21 孔部、22 再生信号、FS,FM,RM 焦点、L 光ビーム、LM 情報光ビーム、LS サーボ光ビーム、LSr サーボ反射光ビーム、OL 対物レンズ、XL 法線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、
前記熱可塑性樹脂に分散された無機酸化物の粒子と、を有する記録層を備える
光情報記録媒体。
【請求項2】
前記無機酸化物粒子がシランカップリング剤により表面処理されている請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂がカルボニル基、及び、アルコキシカルボニル基から選ばれる1つ以上の官能基を構造単位に有する請求項2に記載の光情報記録媒体。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂、非晶ポリアリレート樹脂、及び、ポリメタクリル酸メチル樹脂から選ばれる1つ以上を含む請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項5】
前記無機酸化物が、Al、SiO、TiO、及び、Yから選ばれる1つ以上を含む請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項6】
前記記録層は、記録用の光照射により空孔による記録マークが形成される請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項7】
無機酸化物の粒子を溶媒に分散させて前記無機酸化物の分散媒を作製する工程と、
前記分散媒に熱可塑性樹脂を溶解して樹脂溶液を作製する工程と、
前記樹脂溶液を基体上に塗布して記録層を形成する工程と、を有する
光情報記録媒体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−227968(P2011−227968A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98018(P2010−98018)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】