光散乱素子の製造方法及び光散乱素子用記録媒体
【課題】露光による光散乱状態の制御精度を高めると共に、追加記録を含めた露光に基づく多重記録を可能とする。
【解決手段】記録フィルム2として、透明な母材4内に光反応性分子5が混和されている硬化状態のものを用意する。その記録フィルム2に対して、任意の入射角度及び入射領域の下で光反応性分子5の吸収波長域の光8を用いることにより露光を行い、露光に基づく光反応により、光反応性分子5を、露光に基づく光通過領域7内において、光学異方性を有する光散乱体3に変化させる。これにより、照明光のうち、入射面6aから光通過領域7を通って出射面6bに向かう光のみを散乱光にする。また、光反応性分子5が露光によりいつでも光反応することを利用して、散乱特性の追加を含めた露光に基づく多重記録を行う。
【解決手段】記録フィルム2として、透明な母材4内に光反応性分子5が混和されている硬化状態のものを用意する。その記録フィルム2に対して、任意の入射角度及び入射領域の下で光反応性分子5の吸収波長域の光8を用いることにより露光を行い、露光に基づく光反応により、光反応性分子5を、露光に基づく光通過領域7内において、光学異方性を有する光散乱体3に変化させる。これにより、照明光のうち、入射面6aから光通過領域7を通って出射面6bに向かう光のみを散乱光にする。また、光反応性分子5が露光によりいつでも光反応することを利用して、散乱特性の追加を含めた露光に基づく多重記録を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光散乱素子の製造方法及び光散乱素子用記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
光散乱素子には、所定角度で入射する光に対しては光散乱が生じ、逆にそれとは垂直な光に対しては透過するものがある。このような光散乱素子の製造方法としては、例えば特許文献1に示すように、カチオン重合性を有する化合物と、該カチオン重合性を有する化合物に対して屈折率差を有すると共にラジカル重合性を有する化合物と、化学放射線によってカチオン種及びラジカル種を発生する光開始剤と、を組成物として形成された記録媒体を用意し、その記録媒体に対して所定角度をもって露光するものが知られている。
これによれば、その製造方法により製造されるべき光散乱素子(異方性光散乱フィルム)は、屈折率の高低からなる濃淡模様が形成され、且つ屈折率の異なる部分が、フィルムの厚さ方向に対して傾斜し層状に分布する構造となる。そして、屈折率の異なる部分の傾斜方向に沿った角度で入射する光に対しては光散乱が生じ、屈折率の異なる部分の傾斜方向に垂直な光に対しては単なる透明フィルムとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−297110号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記光散乱素子の製造方法においては、重合後に相分離構造を形成し、かつ、屈折率が異なる2種以上の光重合性モノマーおよびオリゴマーを使用する必要があり、材料の制約を大いに受ける。また、光重合後に形成された光散乱膜の散乱度は、光重合後のポリマー間の屈折率差および相分離のサイズに依存するため、用いる材料の化学組成及び調合比によってほぼ決定されると言って良い。そのため、露光量によって光散乱特性を任意にチューニングすることは出来ない。
しかも、一部領域に対して所定の入射角度をもって露光を行った場合、その露光領域とその周囲領域との間で、光重合過程における相分離成分の相互拡散(露光領域境界におけるにじみ)が生じることになり、露光による反応領域は、実際に露光された領域よりも不規則な状態で拡張されることになる。このため、このような光散乱素子においては、照明光を照射した際に、散乱光が所望の領域・角度域を超えて生じることになり、露光による光散乱状態の制御内容を的確に反映することができない。
また、材料として重合性化合物を用いる場合、固化と光散乱性の発現は一体的なものであることから、反応完了時には、もはや、露光に基づく散乱特性の追加(多重記録)を行うことができない。また、同じ理由により、光散乱特性が付与されるのは固化された成形物の全体に及ぶため、成形物の一部分のみに光散乱特性を付与することも困難である。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、露光による光散乱状態の制御精度を高めることができると共に、散乱特性の追加を含めた露光に基づく多重記録を行うことができる光散乱素子の製造方法及び光散乱素子用記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記技術的課題を達成するために本発明(請求項1に係る発明)にあっては、
入射面から入射された照明光を、出射面から散乱光として出射させる光散乱素子の製造方法において、
光散乱素子用記録媒体として、透明な母材内に光反応性分子が混和されている硬化状態のものを用意し、
前記光散乱素子用記録媒体に対して、任意の入射角度及び入射領域の下で前記光反応性分子の吸収波長域の光を用いることにより露光を行い、
前記露光に基づく光反応により、前記光反応性分子を、該露光に基づく光通過領域内において、光学異方性を有すると共に前記散乱光を生じさせる光散乱体に変化させる構成とされている。この請求項1の好ましい態様としては、請求項2〜9に記載のとおりである。
【0007】
前記技術的課題を達成するために本発明(請求項10に係る発明)にあっては、
入射面から入射された照明光を、出射面から散乱光として出射させるべく、露光を行うことにより、該露光に基づく光通過領域内に、光学異方性を有すると共に前記散乱光を生じさせる光散乱体を生成する光散乱素子用記録媒体であって、
透明な母材と、
前記母材内に混和されて、前記露光の吸収波長域の光を吸収して前記光散乱体に変化する光反応性分子と、
を具備し、
前記母材に基づき硬化状態とされている構成とされている。この請求項10の好ましい態様としては、請求項11以下の記載のとおりである。
【発明の効果】
【0008】
本発明(請求項1に係る発明)によれば、光散乱素子用記録媒体として、透明な母材内に光反応性分子が混和されているものを用い、その光反応性分子を露光に基づく光反応により露光に基づく光通過領域内でのみ光散乱体に変化させ、露光の光通過領域外においては、光反応性分子を光散乱体に変化させないことから、照明光のうち、入射面から光通過領域を通って出射面に向かう光のみを散乱光にすることができ、光反応性分子と露光とによる高い精度の制御内容を的確に反映することができる。
また、光反応性分子を露光に基づく光反応により光散乱体に変化させるものであること(光照射によって、核生成が起こり、さらに、それらが露光量に応じて成長すること)から、露光量を増大させれば、露光量の増大は、光反応を通じて形成される散乱構造体の数密度ならびに空間サイズの増大をもたらすことになり、散乱体や材料の混合比など、材料自体を変えなくても、散乱光の強度を簡単に増大させることができる。
このように、光反応性分子と露光との組み合わせにより、露光に基づく光散乱状態の制御精度を著しく高めることができる。
さらに、光散乱素子用記録媒体における光反応性分子が露光によりいつでも光反応するものであることから、異なる照射条件(入射角度、入射領域、露光量)の複数の露光をタイミングを変えて行う場合であっても、光反応性分子を光散乱体に変化させることができる。このため、当該光散乱素子において、同時に限らず事後的においても、露光に基づく多重記録を行うことができる。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、光散乱素子用記録媒体として、光反応性分子の濃度が全体に対して1〜70wt%のものを用いることから、光反応性分子から変化する光散乱体の割合を適正にして、散乱光の光散乱状態を適正に制御できる。ここで、光反応性分子の濃度が全体に対して1〜70wt%としたのは、1wt%未満では効果の発現が十分でない一方、70wt%を超えると、光反応性分子が分散せず、凝集体となるため、露光前の段階において、既に成形された素子全体が光散乱性を示す状態となり、露光により光散乱特性の制御を行うことができなくなるからである。また、材料の機械的強度が低下して実用性が損なわれるからである。
【0010】
請求項3に係る発明によれば、光散乱体は、露光に基づく光の入射角度方向における屈折率が母材の屈折率と異なり、且つ該露光に基づく光の入射角度以外の方向における屈折率が、該露光に基づく光の入射角度方向における屈折率の場合よりも該母材の屈折率に近づけられていることから、照明光のうち、入射面から光通過領域を通って出射面に向かう光(露光に基づく光の入射角度方向の光)に関し、散乱光を的確に生じさせることができ、露光に基づく光の入射角度以外の方向において、照明光を透過させることができる。
【0011】
請求項4に係る発明によれば、光散乱体が、露光に基づく光の入射角度方向に細長く延びる形状とされ、光散乱体の長軸方向の屈折率と前記母材の屈折率との差が10-4以上とされると共に、光散乱体の短軸方向の屈折率と母材の屈折率とが略等しくされていることから、前記請求項3の作用効果を、具体的且つ的確に生じさせることができる。
さらに、光散乱体が露光に基づく光の入射角度方向に細長く延びる形状とされていることから、当該光散乱体を含むバルク領域(光通過領域)は空間的に高い異方性を示すようになるため、光散乱の角度選択性を高めることができ、多重記録を行うにしても、角度多重記録性を大幅に向上させることができる。
【0012】
請求項5に係る発明によれば、光散乱体が、露光に基づく光の入射角度方向に細長く延びる形状とされることが、光反応性分子を、露光に基づく光通過領域内において、露光に基づく光分解により分解生成物を生成し、分解生成物を露光に基づく光の入射角度方向に結晶成長させることであることから、光散乱体の細長く延びる形状を、露光を的確に利用して形成できる。
【0013】
請求項6に係る発明によれば、露光を異なる入射角度及び入射領域の下で多重に行って、各露光に基づく各光通過領域内における光反応性分子を各露光により光散乱体にそれぞれ変化させることから、複数の素子を積層させなくても、単一の当該光散乱素子上において、当該光散乱素子における優れた角度選択性(角度依存性)を利用しつつ、角度多重記録を具体的に行うことができる。勿論、この光散乱素子においては、角度選択的な多重情報の分離再生を容易に行うことができることになる。
【0014】
請求項7に係る発明によれば、露光の露光量を調整することから、その露光量の調整に基づき、光散乱体の数密度とサイズを調整できることになり、当該光散乱素子(光散乱素子記録媒体)の材料を変えなくても、当該光散乱素子の散乱度を具体的に調整できる。
【0015】
請求項8に係る発明によれば、表現パターンを表示する表示手段として製造することから、当該光散乱素子の特性を有効に利用して、当該光散乱素子を、表現パターンを表示する表示手段として得ることができる。
【0016】
請求項9に係る発明によれば、複数の動態パターンを重ねて表示する表示手段として製造することから、当該光散乱素子の特性を有効に利用して、当該光散乱素子を、複数の動態パターンを重ねて表示する表示手段として得ることができる。
【0017】
請求項10に係る発明によれば、当該光散乱素子用記録媒体を前記請求項1に係る製造方法に用いることができる。
【0018】
請求項11に係る発明によれば、当該光散乱素子用記録媒体を前記請求項2に係る製造方法に用いることができる。
【0019】
請求項12に係る発明によれば、当該光散乱素子用記録媒体を前記請求項4に係る製造方法に用いることができる。
【0020】
請求項13に係る発明によれば、当該光散乱素子用記録媒体を前記請求項6に係る製造方法に用いることができる。
【0021】
請求項14に係る発明によれば、当該光散乱素子用記録媒体を前記請求項5に係る製造方法に用いることができる。
【0022】
請求項15に係る発明によれば、当該光散乱素子用記録媒体を前記請求項7に係る製造方法に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施形態に係る光散乱性フィルムの内部構造を概念的に示す説明図。
【図2】第1実施形態に係る光散乱性フィルムの機能を説明する説明図。
【図3】散乱体の屈折率を説明する説明図。
【図4】第1実施形態に係る光散乱性フィルムの製造方法を説明する説明図。
【図5】試験記録フィルム(本件実施形態に係る記録フィルム)に対する露光を説明する説明図。
【図6】試験記録フィルムに対して露光を行って得た光散乱性フィルムに対する照射光照射に基づく散乱強度の測定を説明する説明図。
【図7】露光量と透過光強度との関係を説明する説明図。
【図8】露光角度0°で露光された光散乱性フィルムの散乱光強度の角度依存性を示す説明図(縦軸:散乱強度 横軸:633nm光の入射角)。
【図9】露光角度+45°で露光された光散乱性フィルムの散乱光強度の角度依存性を示す説明図(縦軸:散乱強度 横軸:633nm光の入射角)。
【図10】多重露光された光散乱性フィルムの散乱光強度の角度依存性を示す説明図(縦軸:散乱強度 横軸:633nm光の入射角)。
【図11】実証試験における露光の一態様を説明する説明図。
【図12】図11の露光に続いて行われる別の露光態様(二重露光)を説明する説明図。
【図13】図12の露光後の散乱光の観察を説明する説明図。
【図14】露光角度が+45°であった場合における散乱光の観察結果を示す写真。
【図15】露光角度が−45°であった場合における散乱光の観察結果を示す写真。
【図16】露光角度が0°であった場合における散乱光の観察結果を示す写真。
【図17】二重露光のうちの一方に対して照明光が照射された場合における散乱光の発生を説明する説明図。
【図18】二重露光のうちの他方に対して照明光が照射された場合における散乱光の発生を説明する説明図。
【図19】二重露光のうちの両方に対して照明光が照射された場合における散乱光の発生を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
1.先ず、当該光散乱素子の製造方法により製造される第1実施形態に係る光散乱性フィルム(光散乱素子)1について説明する。
光散乱性フィルム1は、図1に示すように、光散乱素子用記録媒体としての記録フィルム2と、該記録フィルム2内に含有される複数の光散乱体(光学異方性を有する分子集合体)3と、から構成されている。図1は、光散乱性フィルム1の断面を概念的に示した断面図で、その図1において、上下方向が光散乱性フィルム1の肉厚方向となる。
【0025】
(1)前記記録フィルム2は、図1に示すように、母材(マトリクス)4と、光反応性分子5と、からなる硬化物として形成されている。母材4は、透明性を有し、その内部に光反応性分子5を良好に混和する性質を有している。この母材4としては、汎用透明ポリマー(ポリスチレン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート)の他、重合形態や分子量分布にはこだわらない共重合体、あるいは、ポリマーブレンドでもよい。
【0026】
前記光反応性分子5は、前述の母材4の性質に基づき該母材4内に良好に混和されている。この光反応性分子5は、光学異方性を有しており、この光反応性分子5としては、α−アミノアセトフェノン類、α−ヒドロキシアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、ベンジルケタール類、アシルホスフィンオキサイド類などの光分解性分子、アントラセン、ケイヒ酸、クマリン酸などの光二量化性分子等が用いられる。この光反応性分子5の濃度は、後述の適正な効果(光散乱体3となって散乱光を適正に出射すること)を奏する観点から、全体に対して1〜70wt%とされている。ここで、全体に対して1〜70wt%としているのは、1wt%未満では、前記効果を十分に認めることができないからであり、70wt%を超えると、光反応性分子が分散せず、凝集体となるため、露光前の段階において、既に成形の全体が光散乱性を示す状態となり、露光により光散乱特性の制御を行うことができなくなるからである。また、材料の機械的強度が低下して実用性が損なわれるからでもある。
【0027】
前記記録フィルム2の硬化物としての形態は、母材4の性質(硬化性)に基づいている。これにより、記録フィルム2においては、その肉厚方向一方側が入射面6aとなり、フィルムの肉厚方向他方側が出射面6bとなっている。
この場合、光散乱素子用記録媒体を、上記記録フィルム2に代えて、厚肉(板材)の形態のものとしてもよいし、記録フィルム2を透明基板に積層して用いてもよい。
【0028】
(2)前記複数の光散乱体3は、図1に示すように、前記記録フィルム2内のうち、露光が施される光通過領域7内に存在されている。
光通過領域7は、露光に基づく光が記録フィルム2内を通過した領域の軌跡であり、その光通過領域7は、任意の入射角度及び入射領域に基づく露光の結果として決まる。この光通過領域7は記録フィルム2の入射面6aと出射面6bとの間を真っ直ぐに延びており、その光通過領域7においては、前記光反応性分子5は、光反応(例えば光分解)により、光学異方性を有する光散乱体3に変化されることになっている。
複数の光散乱体3は、上述した如く、露光前の上記光通過領域7内に存在していた光反応性分子5をその光通過領域7を通過した露光の光に基づく光反応により形成されたものである。本実施形態においては、各光散乱体3は、光反応性分子5を露光に基づいて光分解することにより分解生成物を生成し、その分解生成物を、微結晶を経て結晶成長体に成長させたものであり、各光散乱体3は、光通過領域7の延び方向(露光の入射方向)に細長く延びた形状とされている。
【0029】
【0030】
【0031】
2.次に、上記光散乱性フィルム1の製造方法について図4に基づき説明する。
(1)先ず、前記記録フィルム2(記録媒体(硬化物))を用意する。
記録フィルム2は、前述した如く、透明な母材4と、その母材4内に良好に混和される光反応性分子5と、を具備しており、母材4は、図4上図に示すように、その内部に光反応性分子5を保持しつつフィルムの外形を形作っている。母材4が透明とされているのは、露光、照射光がフィルムを通過できるようにするためである。母材4、光反応性分子5の性質、材質等については、前述のとおりである。
【0032】
【0033】
前記露光に用いられる光8は、記録フィルム2内における光反応性分子5の吸収波長域にあるものである。具体的には、レーザー(355nm:YAGレーザー3倍高調波、405nm:GaN系半導体レーザー、442nm:He−Cdレーザー他)、超高圧水銀灯(主に365nm、436nmなど)、メタルハライドランプ等が用いられる。
【0034】
またこの場合、前記露光は、記録フィルム2に対して任意の入射角度及び入射領域の下で行われる。所望パターンの散乱光を生じさせるべく、記録フィルム2内部にその所望パターンに対応した状態で露光に基づく光8を通過させ、その光通過領域7内において、光散乱体3群を形成するためである(露光による光散乱状態の制御)。
【0035】
(3)以上の工程を経ることにより、前記図1に示す光散乱性フィルム1が得られることになる。
したがって、上記光散乱性フィルムの製造方法を用いれば、記録フィルム2において、光反応分子5を露光に基づく光反応によりその光通過領域7内でのみ光散乱体に変化させ、露光の光通過領域7外においては、光反応性分子5を光散乱体3に変化させないことから、光散乱性フィルム1において、照明光のうち、入射面6aから光通過領域7を通って出射面6bに向かう光のみを散乱光にすることができ、光反応性分子5と露光の高い精度の制御内容を的確に反映することができる(図2参照)。勿論、露光に際して、指向性の高い光を用いた場合には、散乱光が生じる角度域及び光散乱領域を、より高い精度をもって制御できる。
また、光散乱体は、露光に基づき、細長く延びる形状とされ、そのいずれもが露光に基づく光の入射角度方向に延びるように配向されることから、露光されたバルク領域(光通過領域)は空間的に高い異方性を示すようになるため、光散乱の角度選択性を高めることができ、多重記録を行うにしても、角度多重記録性を大幅に向上させることができる。
【0036】
さらに、散乱光の散乱度(入射光に対する光散乱される光強度の割合)については、露光時の露光量(露光強度×露光時間)を調整することにより、調整することができる。具体的には、露光量を増大させれば、露光量の増大は、光反応を通じて形成される散乱構造体の数密度ならびに空間サイズの増大がもたらされるため、散乱体や材料の混合比など、材料自体を変えなくても、散乱光の強度を簡単に増大させることができることになる。
【0037】
このような光散乱性フィルム1の性能、性質から、例えば、プライバシーの保護を図るべく、その散乱光を利用して所定の角度での視認を阻害する視野角制御フィルムとして用いたり、散乱光と透過光とを組み合わせて、サインボード(屋外装飾や案内板)や、新しいROM型ディスプレイ等に利用することができる。
【0038】
3.実験
上述の内容を裏付けるため、下記実験を行った。
(1)試験記録フィルム(サンプル)の作成
試験記録フィルムは、下記製造方法により作成した。
トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート(日産化学工業株式会社)55wt%、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物(東京化成工業株式会社)、Irgacure 379(チバ・ジャパン株式会社)10wt%を120℃で溶融混合し、硬化触媒としてPX‐4ET(日本化学工業株式会社)を加え、1mm厚のセルに注入した後、熱重合することで透明フィルムを得た。
【0039】
(2)実験内容
実験においては、試験記録フィルム(以下、記録フィルム2と同符号を用いる)を光散乱性フィルム1に形成するべく、図5に示すように、試験フィルム2に露光角度θ=−45°〜+45°の範囲の所定の露光角度でもって露光を行った。この場合、露光のための光としては、光反応性分子5が光反応する405nm光を用いた。
この後、図6に示すように、照射光(検出光)の照射に基づく上記各光散乱性フィルム1の透過光強度および散乱光強度をパワーメータ9により測定した。この場合、照射光(検出光)としては、試験記録フィルム2中に含有する光反応性分子5が光反応しない633nm光を用いた。
【0040】
(3)実験結果
上述の実験により、下記実験結果を得た。
(i)露光角度θ=0°の光散乱性フィルム1に関しては、図7に示すように、露光前の状態を100%とすると、露光量の増大に伴い、露光後の光散乱性フィルム1の透過率は2%以下にまで低下し、露光量の増大に伴い散乱度が高まることが観察された。勿論この場合、散乱度と透過光強度の間にはトレードオフの関係があり、散乱度が高い時には、透過光強度が小さな値となる。
(ii)光散乱性フィルム1における散乱光強度の角度依存性を調べたところ、露光角度θ=0°の光散乱性フィルム1に関しては、図8に示すように、照射光の入射角度θ=−3°〜+3°の範囲においてのみ光散乱が生じ、そのうち、照射光の入射角度θ=0°で最大強度が得られた。従前のもの(例えば、特許2547416号、特許2547417号、特許2547419号等)がθ=−15°〜+15°の角度選択性を有していることを考慮すれば、当該光散乱性フィルム1は、優れた角度選択性(入射角依存性)を示している。
(iii)露光角度を変えた光散乱性フィルム1についても同様の評価を行ったところ、図9に示すように、光散乱を生じさせる照射光の入射角度は、露光角度と一致することが判明した。
(iv)露光角度が異なる二度の露光について調べたところ、図10に示すように、各露光角度と一致する入射角度の照射光により、散乱光がそれぞれ生じた。これにより、散乱光を多重に生じさせることが確認できた。
【0041】
4.図17〜図19は第2実施形態を示す。この第2実施形態において、前記第1実施形態と同一構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0042】
(1)図17〜図19に示す第2実施形態においては、記録フィルム2に異なる入射角度及び入射領域の下で露光が多重に(2つの方位から)行われ、各露光に基づく各光通過領域7内において、光散乱体3が各露光の入射方向にそれぞれ延びる形状とされている。
これにより、露光が多重にされていても、図17、図18に示すように、そのいずれか一方の方位から露光の照射条件(入射条件、入射領域)と等しい条件をもって照明光が照射されたときには、その各照明光に基づき散乱光が生じることになる。
【0043】
また、露光が行われた全ての方位(図では2つの方位)から各露光の照射条件(入射条件、入射領域)と等しい条件をもっての照明光照射されたときには、図19に示すように、その各照明光に基づく散乱光が同時に生じることになる。勿論この場合、露光が行われた全ての方位以外からの方位からの照明光が照射された場合には、それは、透過光として出射されることになる。このため、同一光散乱性フィルム1上において多重記録が可能となり、多重記録のために、別個の記録内容を記録した光散乱性フィルムを積層して用いる必要はなくなる。
【0044】
(2)このような光散乱性フィルム1の性能、性質から、例えば、広告媒体、カードとしての利用を図るべく、角度を変えることで動態表現が可能なフィルムとして用いることができる。具体的には、異なる角度での多重露光によって、コマ送りのフィルムのように動きのある絵を組み合わせることにより、動画的なイメージを散乱像として表現することに用いることができる。
【0045】
5.実証試験
上述の内容を踏まえ、異なる角度からの二度のマスク露光により、特定の二方位にのみ異なる散乱像の表示が可能な素子の作製を試みた。
【0046】
先ず、図11に示すように、記録フィルム2に“+”のフォトマスク2を介してθ=+45°方向から露光を行った。続いて、図12に示すように、同一領域に“−”のフォトマスク2を介してθ=−45°方向から露光を行った。そして、図13に示すように、この2つの像が多重露光された記録フィルム2(光散乱性フィルム1)に一定方向から光源11の光を入射し、種々の角度でのその光散乱性フィルム1からの出射光を観察した。
【0047】
図14〜図16は、θ=+45°,0°,−45°で観察されたフィルムの写真を示す。+45°方向から観察した場合は、図14に示すように、マスクをした“+”部分では光が透過し、露光部では散乱が見られた。同様に、−45°では、図15に示すように、“−”の像が現れた(光透過)。そして、0度では、図16に示すように、散乱した像は見られず透過した。つまり、露光角度でのみ露光された情報を散乱像として読み取ることができた。
【符号の説明】
【0048】
1 光散乱性フィルム(光散乱素子)
2 記録フィルム(記録媒体)
3 光散乱体
4 母材
5 光反応性分子
7 光通過領域
8 露光に基づく光
【技術分野】
【0001】
本発明は、光散乱素子の製造方法及び光散乱素子用記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
光散乱素子には、所定角度で入射する光に対しては光散乱が生じ、逆にそれとは垂直な光に対しては透過するものがある。このような光散乱素子の製造方法としては、例えば特許文献1に示すように、カチオン重合性を有する化合物と、該カチオン重合性を有する化合物に対して屈折率差を有すると共にラジカル重合性を有する化合物と、化学放射線によってカチオン種及びラジカル種を発生する光開始剤と、を組成物として形成された記録媒体を用意し、その記録媒体に対して所定角度をもって露光するものが知られている。
これによれば、その製造方法により製造されるべき光散乱素子(異方性光散乱フィルム)は、屈折率の高低からなる濃淡模様が形成され、且つ屈折率の異なる部分が、フィルムの厚さ方向に対して傾斜し層状に分布する構造となる。そして、屈折率の異なる部分の傾斜方向に沿った角度で入射する光に対しては光散乱が生じ、屈折率の異なる部分の傾斜方向に垂直な光に対しては単なる透明フィルムとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−297110号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記光散乱素子の製造方法においては、重合後に相分離構造を形成し、かつ、屈折率が異なる2種以上の光重合性モノマーおよびオリゴマーを使用する必要があり、材料の制約を大いに受ける。また、光重合後に形成された光散乱膜の散乱度は、光重合後のポリマー間の屈折率差および相分離のサイズに依存するため、用いる材料の化学組成及び調合比によってほぼ決定されると言って良い。そのため、露光量によって光散乱特性を任意にチューニングすることは出来ない。
しかも、一部領域に対して所定の入射角度をもって露光を行った場合、その露光領域とその周囲領域との間で、光重合過程における相分離成分の相互拡散(露光領域境界におけるにじみ)が生じることになり、露光による反応領域は、実際に露光された領域よりも不規則な状態で拡張されることになる。このため、このような光散乱素子においては、照明光を照射した際に、散乱光が所望の領域・角度域を超えて生じることになり、露光による光散乱状態の制御内容を的確に反映することができない。
また、材料として重合性化合物を用いる場合、固化と光散乱性の発現は一体的なものであることから、反応完了時には、もはや、露光に基づく散乱特性の追加(多重記録)を行うことができない。また、同じ理由により、光散乱特性が付与されるのは固化された成形物の全体に及ぶため、成形物の一部分のみに光散乱特性を付与することも困難である。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、露光による光散乱状態の制御精度を高めることができると共に、散乱特性の追加を含めた露光に基づく多重記録を行うことができる光散乱素子の製造方法及び光散乱素子用記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記技術的課題を達成するために本発明(請求項1に係る発明)にあっては、
入射面から入射された照明光を、出射面から散乱光として出射させる光散乱素子の製造方法において、
光散乱素子用記録媒体として、透明な母材内に光反応性分子が混和されている硬化状態のものを用意し、
前記光散乱素子用記録媒体に対して、任意の入射角度及び入射領域の下で前記光反応性分子の吸収波長域の光を用いることにより露光を行い、
前記露光に基づく光反応により、前記光反応性分子を、該露光に基づく光通過領域内において、光学異方性を有すると共に前記散乱光を生じさせる光散乱体に変化させる構成とされている。この請求項1の好ましい態様としては、請求項2〜9に記載のとおりである。
【0007】
前記技術的課題を達成するために本発明(請求項10に係る発明)にあっては、
入射面から入射された照明光を、出射面から散乱光として出射させるべく、露光を行うことにより、該露光に基づく光通過領域内に、光学異方性を有すると共に前記散乱光を生じさせる光散乱体を生成する光散乱素子用記録媒体であって、
透明な母材と、
前記母材内に混和されて、前記露光の吸収波長域の光を吸収して前記光散乱体に変化する光反応性分子と、
を具備し、
前記母材に基づき硬化状態とされている構成とされている。この請求項10の好ましい態様としては、請求項11以下の記載のとおりである。
【発明の効果】
【0008】
本発明(請求項1に係る発明)によれば、光散乱素子用記録媒体として、透明な母材内に光反応性分子が混和されているものを用い、その光反応性分子を露光に基づく光反応により露光に基づく光通過領域内でのみ光散乱体に変化させ、露光の光通過領域外においては、光反応性分子を光散乱体に変化させないことから、照明光のうち、入射面から光通過領域を通って出射面に向かう光のみを散乱光にすることができ、光反応性分子と露光とによる高い精度の制御内容を的確に反映することができる。
また、光反応性分子を露光に基づく光反応により光散乱体に変化させるものであること(光照射によって、核生成が起こり、さらに、それらが露光量に応じて成長すること)から、露光量を増大させれば、露光量の増大は、光反応を通じて形成される散乱構造体の数密度ならびに空間サイズの増大をもたらすことになり、散乱体や材料の混合比など、材料自体を変えなくても、散乱光の強度を簡単に増大させることができる。
このように、光反応性分子と露光との組み合わせにより、露光に基づく光散乱状態の制御精度を著しく高めることができる。
さらに、光散乱素子用記録媒体における光反応性分子が露光によりいつでも光反応するものであることから、異なる照射条件(入射角度、入射領域、露光量)の複数の露光をタイミングを変えて行う場合であっても、光反応性分子を光散乱体に変化させることができる。このため、当該光散乱素子において、同時に限らず事後的においても、露光に基づく多重記録を行うことができる。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、光散乱素子用記録媒体として、光反応性分子の濃度が全体に対して1〜70wt%のものを用いることから、光反応性分子から変化する光散乱体の割合を適正にして、散乱光の光散乱状態を適正に制御できる。ここで、光反応性分子の濃度が全体に対して1〜70wt%としたのは、1wt%未満では効果の発現が十分でない一方、70wt%を超えると、光反応性分子が分散せず、凝集体となるため、露光前の段階において、既に成形された素子全体が光散乱性を示す状態となり、露光により光散乱特性の制御を行うことができなくなるからである。また、材料の機械的強度が低下して実用性が損なわれるからである。
【0010】
請求項3に係る発明によれば、光散乱体は、露光に基づく光の入射角度方向における屈折率が母材の屈折率と異なり、且つ該露光に基づく光の入射角度以外の方向における屈折率が、該露光に基づく光の入射角度方向における屈折率の場合よりも該母材の屈折率に近づけられていることから、照明光のうち、入射面から光通過領域を通って出射面に向かう光(露光に基づく光の入射角度方向の光)に関し、散乱光を的確に生じさせることができ、露光に基づく光の入射角度以外の方向において、照明光を透過させることができる。
【0011】
請求項4に係る発明によれば、光散乱体が、露光に基づく光の入射角度方向に細長く延びる形状とされ、光散乱体の長軸方向の屈折率と前記母材の屈折率との差が10-4以上とされると共に、光散乱体の短軸方向の屈折率と母材の屈折率とが略等しくされていることから、前記請求項3の作用効果を、具体的且つ的確に生じさせることができる。
さらに、光散乱体が露光に基づく光の入射角度方向に細長く延びる形状とされていることから、当該光散乱体を含むバルク領域(光通過領域)は空間的に高い異方性を示すようになるため、光散乱の角度選択性を高めることができ、多重記録を行うにしても、角度多重記録性を大幅に向上させることができる。
【0012】
請求項5に係る発明によれば、光散乱体が、露光に基づく光の入射角度方向に細長く延びる形状とされることが、光反応性分子を、露光に基づく光通過領域内において、露光に基づく光分解により分解生成物を生成し、分解生成物を露光に基づく光の入射角度方向に結晶成長させることであることから、光散乱体の細長く延びる形状を、露光を的確に利用して形成できる。
【0013】
請求項6に係る発明によれば、露光を異なる入射角度及び入射領域の下で多重に行って、各露光に基づく各光通過領域内における光反応性分子を各露光により光散乱体にそれぞれ変化させることから、複数の素子を積層させなくても、単一の当該光散乱素子上において、当該光散乱素子における優れた角度選択性(角度依存性)を利用しつつ、角度多重記録を具体的に行うことができる。勿論、この光散乱素子においては、角度選択的な多重情報の分離再生を容易に行うことができることになる。
【0014】
請求項7に係る発明によれば、露光の露光量を調整することから、その露光量の調整に基づき、光散乱体の数密度とサイズを調整できることになり、当該光散乱素子(光散乱素子記録媒体)の材料を変えなくても、当該光散乱素子の散乱度を具体的に調整できる。
【0015】
請求項8に係る発明によれば、表現パターンを表示する表示手段として製造することから、当該光散乱素子の特性を有効に利用して、当該光散乱素子を、表現パターンを表示する表示手段として得ることができる。
【0016】
請求項9に係る発明によれば、複数の動態パターンを重ねて表示する表示手段として製造することから、当該光散乱素子の特性を有効に利用して、当該光散乱素子を、複数の動態パターンを重ねて表示する表示手段として得ることができる。
【0017】
請求項10に係る発明によれば、当該光散乱素子用記録媒体を前記請求項1に係る製造方法に用いることができる。
【0018】
請求項11に係る発明によれば、当該光散乱素子用記録媒体を前記請求項2に係る製造方法に用いることができる。
【0019】
請求項12に係る発明によれば、当該光散乱素子用記録媒体を前記請求項4に係る製造方法に用いることができる。
【0020】
請求項13に係る発明によれば、当該光散乱素子用記録媒体を前記請求項6に係る製造方法に用いることができる。
【0021】
請求項14に係る発明によれば、当該光散乱素子用記録媒体を前記請求項5に係る製造方法に用いることができる。
【0022】
請求項15に係る発明によれば、当該光散乱素子用記録媒体を前記請求項7に係る製造方法に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施形態に係る光散乱性フィルムの内部構造を概念的に示す説明図。
【図2】第1実施形態に係る光散乱性フィルムの機能を説明する説明図。
【図3】散乱体の屈折率を説明する説明図。
【図4】第1実施形態に係る光散乱性フィルムの製造方法を説明する説明図。
【図5】試験記録フィルム(本件実施形態に係る記録フィルム)に対する露光を説明する説明図。
【図6】試験記録フィルムに対して露光を行って得た光散乱性フィルムに対する照射光照射に基づく散乱強度の測定を説明する説明図。
【図7】露光量と透過光強度との関係を説明する説明図。
【図8】露光角度0°で露光された光散乱性フィルムの散乱光強度の角度依存性を示す説明図(縦軸:散乱強度 横軸:633nm光の入射角)。
【図9】露光角度+45°で露光された光散乱性フィルムの散乱光強度の角度依存性を示す説明図(縦軸:散乱強度 横軸:633nm光の入射角)。
【図10】多重露光された光散乱性フィルムの散乱光強度の角度依存性を示す説明図(縦軸:散乱強度 横軸:633nm光の入射角)。
【図11】実証試験における露光の一態様を説明する説明図。
【図12】図11の露光に続いて行われる別の露光態様(二重露光)を説明する説明図。
【図13】図12の露光後の散乱光の観察を説明する説明図。
【図14】露光角度が+45°であった場合における散乱光の観察結果を示す写真。
【図15】露光角度が−45°であった場合における散乱光の観察結果を示す写真。
【図16】露光角度が0°であった場合における散乱光の観察結果を示す写真。
【図17】二重露光のうちの一方に対して照明光が照射された場合における散乱光の発生を説明する説明図。
【図18】二重露光のうちの他方に対して照明光が照射された場合における散乱光の発生を説明する説明図。
【図19】二重露光のうちの両方に対して照明光が照射された場合における散乱光の発生を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
1.先ず、当該光散乱素子の製造方法により製造される第1実施形態に係る光散乱性フィルム(光散乱素子)1について説明する。
光散乱性フィルム1は、図1に示すように、光散乱素子用記録媒体としての記録フィルム2と、該記録フィルム2内に含有される複数の光散乱体(光学異方性を有する分子集合体)3と、から構成されている。図1は、光散乱性フィルム1の断面を概念的に示した断面図で、その図1において、上下方向が光散乱性フィルム1の肉厚方向となる。
【0025】
(1)前記記録フィルム2は、図1に示すように、母材(マトリクス)4と、光反応性分子5と、からなる硬化物として形成されている。母材4は、透明性を有し、その内部に光反応性分子5を良好に混和する性質を有している。この母材4としては、汎用透明ポリマー(ポリスチレン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート)の他、重合形態や分子量分布にはこだわらない共重合体、あるいは、ポリマーブレンドでもよい。
【0026】
前記光反応性分子5は、前述の母材4の性質に基づき該母材4内に良好に混和されている。この光反応性分子5は、光学異方性を有しており、この光反応性分子5としては、α−アミノアセトフェノン類、α−ヒドロキシアセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、ベンジルケタール類、アシルホスフィンオキサイド類などの光分解性分子、アントラセン、ケイヒ酸、クマリン酸などの光二量化性分子等が用いられる。この光反応性分子5の濃度は、後述の適正な効果(光散乱体3となって散乱光を適正に出射すること)を奏する観点から、全体に対して1〜70wt%とされている。ここで、全体に対して1〜70wt%としているのは、1wt%未満では、前記効果を十分に認めることができないからであり、70wt%を超えると、光反応性分子が分散せず、凝集体となるため、露光前の段階において、既に成形の全体が光散乱性を示す状態となり、露光により光散乱特性の制御を行うことができなくなるからである。また、材料の機械的強度が低下して実用性が損なわれるからでもある。
【0027】
前記記録フィルム2の硬化物としての形態は、母材4の性質(硬化性)に基づいている。これにより、記録フィルム2においては、その肉厚方向一方側が入射面6aとなり、フィルムの肉厚方向他方側が出射面6bとなっている。
この場合、光散乱素子用記録媒体を、上記記録フィルム2に代えて、厚肉(板材)の形態のものとしてもよいし、記録フィルム2を透明基板に積層して用いてもよい。
【0028】
(2)前記複数の光散乱体3は、図1に示すように、前記記録フィルム2内のうち、露光が施される光通過領域7内に存在されている。
光通過領域7は、露光に基づく光が記録フィルム2内を通過した領域の軌跡であり、その光通過領域7は、任意の入射角度及び入射領域に基づく露光の結果として決まる。この光通過領域7は記録フィルム2の入射面6aと出射面6bとの間を真っ直ぐに延びており、その光通過領域7においては、前記光反応性分子5は、光反応(例えば光分解)により、光学異方性を有する光散乱体3に変化されることになっている。
複数の光散乱体3は、上述した如く、露光前の上記光通過領域7内に存在していた光反応性分子5をその光通過領域7を通過した露光の光に基づく光反応により形成されたものである。本実施形態においては、各光散乱体3は、光反応性分子5を露光に基づいて光分解することにより分解生成物を生成し、その分解生成物を、微結晶を経て結晶成長体に成長させたものであり、各光散乱体3は、光通過領域7の延び方向(露光の入射方向)に細長く延びた形状とされている。
【0029】
【0030】
【0031】
2.次に、上記光散乱性フィルム1の製造方法について図4に基づき説明する。
(1)先ず、前記記録フィルム2(記録媒体(硬化物))を用意する。
記録フィルム2は、前述した如く、透明な母材4と、その母材4内に良好に混和される光反応性分子5と、を具備しており、母材4は、図4上図に示すように、その内部に光反応性分子5を保持しつつフィルムの外形を形作っている。母材4が透明とされているのは、露光、照射光がフィルムを通過できるようにするためである。母材4、光反応性分子5の性質、材質等については、前述のとおりである。
【0032】
【0033】
前記露光に用いられる光8は、記録フィルム2内における光反応性分子5の吸収波長域にあるものである。具体的には、レーザー(355nm:YAGレーザー3倍高調波、405nm:GaN系半導体レーザー、442nm:He−Cdレーザー他)、超高圧水銀灯(主に365nm、436nmなど)、メタルハライドランプ等が用いられる。
【0034】
またこの場合、前記露光は、記録フィルム2に対して任意の入射角度及び入射領域の下で行われる。所望パターンの散乱光を生じさせるべく、記録フィルム2内部にその所望パターンに対応した状態で露光に基づく光8を通過させ、その光通過領域7内において、光散乱体3群を形成するためである(露光による光散乱状態の制御)。
【0035】
(3)以上の工程を経ることにより、前記図1に示す光散乱性フィルム1が得られることになる。
したがって、上記光散乱性フィルムの製造方法を用いれば、記録フィルム2において、光反応分子5を露光に基づく光反応によりその光通過領域7内でのみ光散乱体に変化させ、露光の光通過領域7外においては、光反応性分子5を光散乱体3に変化させないことから、光散乱性フィルム1において、照明光のうち、入射面6aから光通過領域7を通って出射面6bに向かう光のみを散乱光にすることができ、光反応性分子5と露光の高い精度の制御内容を的確に反映することができる(図2参照)。勿論、露光に際して、指向性の高い光を用いた場合には、散乱光が生じる角度域及び光散乱領域を、より高い精度をもって制御できる。
また、光散乱体は、露光に基づき、細長く延びる形状とされ、そのいずれもが露光に基づく光の入射角度方向に延びるように配向されることから、露光されたバルク領域(光通過領域)は空間的に高い異方性を示すようになるため、光散乱の角度選択性を高めることができ、多重記録を行うにしても、角度多重記録性を大幅に向上させることができる。
【0036】
さらに、散乱光の散乱度(入射光に対する光散乱される光強度の割合)については、露光時の露光量(露光強度×露光時間)を調整することにより、調整することができる。具体的には、露光量を増大させれば、露光量の増大は、光反応を通じて形成される散乱構造体の数密度ならびに空間サイズの増大がもたらされるため、散乱体や材料の混合比など、材料自体を変えなくても、散乱光の強度を簡単に増大させることができることになる。
【0037】
このような光散乱性フィルム1の性能、性質から、例えば、プライバシーの保護を図るべく、その散乱光を利用して所定の角度での視認を阻害する視野角制御フィルムとして用いたり、散乱光と透過光とを組み合わせて、サインボード(屋外装飾や案内板)や、新しいROM型ディスプレイ等に利用することができる。
【0038】
3.実験
上述の内容を裏付けるため、下記実験を行った。
(1)試験記録フィルム(サンプル)の作成
試験記録フィルムは、下記製造方法により作成した。
トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレート(日産化学工業株式会社)55wt%、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物(東京化成工業株式会社)、Irgacure 379(チバ・ジャパン株式会社)10wt%を120℃で溶融混合し、硬化触媒としてPX‐4ET(日本化学工業株式会社)を加え、1mm厚のセルに注入した後、熱重合することで透明フィルムを得た。
【0039】
(2)実験内容
実験においては、試験記録フィルム(以下、記録フィルム2と同符号を用いる)を光散乱性フィルム1に形成するべく、図5に示すように、試験フィルム2に露光角度θ=−45°〜+45°の範囲の所定の露光角度でもって露光を行った。この場合、露光のための光としては、光反応性分子5が光反応する405nm光を用いた。
この後、図6に示すように、照射光(検出光)の照射に基づく上記各光散乱性フィルム1の透過光強度および散乱光強度をパワーメータ9により測定した。この場合、照射光(検出光)としては、試験記録フィルム2中に含有する光反応性分子5が光反応しない633nm光を用いた。
【0040】
(3)実験結果
上述の実験により、下記実験結果を得た。
(i)露光角度θ=0°の光散乱性フィルム1に関しては、図7に示すように、露光前の状態を100%とすると、露光量の増大に伴い、露光後の光散乱性フィルム1の透過率は2%以下にまで低下し、露光量の増大に伴い散乱度が高まることが観察された。勿論この場合、散乱度と透過光強度の間にはトレードオフの関係があり、散乱度が高い時には、透過光強度が小さな値となる。
(ii)光散乱性フィルム1における散乱光強度の角度依存性を調べたところ、露光角度θ=0°の光散乱性フィルム1に関しては、図8に示すように、照射光の入射角度θ=−3°〜+3°の範囲においてのみ光散乱が生じ、そのうち、照射光の入射角度θ=0°で最大強度が得られた。従前のもの(例えば、特許2547416号、特許2547417号、特許2547419号等)がθ=−15°〜+15°の角度選択性を有していることを考慮すれば、当該光散乱性フィルム1は、優れた角度選択性(入射角依存性)を示している。
(iii)露光角度を変えた光散乱性フィルム1についても同様の評価を行ったところ、図9に示すように、光散乱を生じさせる照射光の入射角度は、露光角度と一致することが判明した。
(iv)露光角度が異なる二度の露光について調べたところ、図10に示すように、各露光角度と一致する入射角度の照射光により、散乱光がそれぞれ生じた。これにより、散乱光を多重に生じさせることが確認できた。
【0041】
4.図17〜図19は第2実施形態を示す。この第2実施形態において、前記第1実施形態と同一構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0042】
(1)図17〜図19に示す第2実施形態においては、記録フィルム2に異なる入射角度及び入射領域の下で露光が多重に(2つの方位から)行われ、各露光に基づく各光通過領域7内において、光散乱体3が各露光の入射方向にそれぞれ延びる形状とされている。
これにより、露光が多重にされていても、図17、図18に示すように、そのいずれか一方の方位から露光の照射条件(入射条件、入射領域)と等しい条件をもって照明光が照射されたときには、その各照明光に基づき散乱光が生じることになる。
【0043】
また、露光が行われた全ての方位(図では2つの方位)から各露光の照射条件(入射条件、入射領域)と等しい条件をもっての照明光照射されたときには、図19に示すように、その各照明光に基づく散乱光が同時に生じることになる。勿論この場合、露光が行われた全ての方位以外からの方位からの照明光が照射された場合には、それは、透過光として出射されることになる。このため、同一光散乱性フィルム1上において多重記録が可能となり、多重記録のために、別個の記録内容を記録した光散乱性フィルムを積層して用いる必要はなくなる。
【0044】
(2)このような光散乱性フィルム1の性能、性質から、例えば、広告媒体、カードとしての利用を図るべく、角度を変えることで動態表現が可能なフィルムとして用いることができる。具体的には、異なる角度での多重露光によって、コマ送りのフィルムのように動きのある絵を組み合わせることにより、動画的なイメージを散乱像として表現することに用いることができる。
【0045】
5.実証試験
上述の内容を踏まえ、異なる角度からの二度のマスク露光により、特定の二方位にのみ異なる散乱像の表示が可能な素子の作製を試みた。
【0046】
先ず、図11に示すように、記録フィルム2に“+”のフォトマスク2を介してθ=+45°方向から露光を行った。続いて、図12に示すように、同一領域に“−”のフォトマスク2を介してθ=−45°方向から露光を行った。そして、図13に示すように、この2つの像が多重露光された記録フィルム2(光散乱性フィルム1)に一定方向から光源11の光を入射し、種々の角度でのその光散乱性フィルム1からの出射光を観察した。
【0047】
図14〜図16は、θ=+45°,0°,−45°で観察されたフィルムの写真を示す。+45°方向から観察した場合は、図14に示すように、マスクをした“+”部分では光が透過し、露光部では散乱が見られた。同様に、−45°では、図15に示すように、“−”の像が現れた(光透過)。そして、0度では、図16に示すように、散乱した像は見られず透過した。つまり、露光角度でのみ露光された情報を散乱像として読み取ることができた。
【符号の説明】
【0048】
1 光散乱性フィルム(光散乱素子)
2 記録フィルム(記録媒体)
3 光散乱体
4 母材
5 光反応性分子
7 光通過領域
8 露光に基づく光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射面から入射された照明光を、出射面から散乱光として出射させる光散乱素子の製造方法において、
光散乱素子用記録媒体として、透明な母材内に光反応性分子が混和されている硬化状態のものを用意し、
前記光散乱素子用記録媒体に対して、任意の入射角度及び入射領域の下で前記光反応性分子の吸収波長域の光を用いることにより露光を行い、
前記露光に基づく光反応により、前記光反応性分子を、該露光に基づく光通過領域内において、光学異方性を有すると共に前記散乱光を生じさせる光散乱体に変化させる、
ことを特徴とする光散乱素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記光散乱素子用記録媒体として、光反応性分子の濃度が全体に対して1〜70wt%のものを用いる、
ことを特徴とする光散乱素子の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記光散乱体は、前記露光に基づく光の入射角度方向における屈折率が前記母材の屈折率と異なり、且つ該露光に基づく光の入射角度以外の方向における屈折率が、該露光に基づく光の入射角度方向における屈折率の場合よりも該母材の屈折率に近づけられている、
ことを特徴とする光散乱素子の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記光散乱体が、前記露光に基づく光の入射角度方向に細長く延びる形状とされ、
前記光散乱体の長軸方向の屈折率と前記母材の屈折率との差が10-4以上とされると共に、該光散乱体の短軸方向の屈折率と該母材の屈折率とが略等しくされている、
ことを特徴とする光散乱素子の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記光散乱体が、前記露光に基づく光の入射角度方向に細長く延びる形状とされることが、該光反応性分子を、該露光に基づく光通過領域内において、該露光に基づく光分解により分解生成物を生成し、該分解生成物を該露光に基づく照明光の入射角度方向に結晶成長させることである、
ことを特徴とする光散乱素子の製造方法。
【請求項6】
請求項3において、
前記露光を異なる入射角度及び入射領域の下で多重に行って、該各露光に基づく各光通過領域内における光反応性分子を該各露光により光散乱体にそれぞれ変化させる、
ことを特徴とする光散乱素子の製造方法。
【請求項7】
請求項5において、
前記露光の露光量を調整する、
ことを特徴とする光散乱素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項において、
表現パターンを表示する表示手段として製造する、
ことを特徴とする光散乱素子の製造方法。
【請求項9】
請求項6において、
複数の動態パターンを重ねて表示する表示手段として製造する、
ことを特徴とする光散乱素子の製造方法。
【請求項10】
入射面から入射された照明光を、出射面から散乱光として出射させるべく、露光を行うことにより、該露光に基づく光通過領域内に、光学異方性を有すると共に前記散乱光を生じさせる光散乱体を生成する光散乱素子用記録媒体であって、
透明な母材と、
前記母材内に混和されて、前記露光の吸収波長域の光を吸収して前記光散乱体に変化する光反応性分子と、
を具備し、
前記母材に基づき硬化状態とされている、
ことを特徴とする光散乱素子用記録媒体。
【請求項11】
請求項10において、
前記光反応性分子の濃度が全体に対して1〜70wt%とされている、
ことを特徴とする光散乱素子用記録媒体。
【請求項12】
請求項11において、
前記光反応性分子は、前記光散乱体に変化したとき、前記露光に基づく光の入射角度方向に細長く延びる形状となるものであって、該光散乱体の長軸方向の屈折率と前記母材の屈折率との差が10-4以上となると共に、該光散乱体の短軸方向の屈折率と該母材の屈折率とが略等しくなるものである、
ことを特徴とする光散乱素子用記録媒体。
【請求項13】
請求項12において、
前記光反応性分子は、前記露光が異なる入射角度及び入射領域の下で多重に行われたとき、該各露光に基づく各光通過領域内において該各露光により光散乱体にそれぞれ変化するものである、
ことを特徴とする光散乱素子用記録媒体。
【請求項14】
請求項12又は13において、
前記光反応性分子は、前記光散乱体に変化するに際して、前記露光に基づく光通過領域内において、該露光に基づき分解生成物に光分解された後、該分解生成物が該露光に基づく照明光の入射角度方向に結晶成長するものである、
ことを特徴とする光散乱素子用記録媒体。
【請求項15】
請求項13において、
前記光反応性分子は、前記光散乱体に変化するに際して、前記露光の露光量の調整に基づき、形態が異なるものである、
ことを特徴とする光散乱素子用記録媒体。
【請求項1】
入射面から入射された照明光を、出射面から散乱光として出射させる光散乱素子の製造方法において、
光散乱素子用記録媒体として、透明な母材内に光反応性分子が混和されている硬化状態のものを用意し、
前記光散乱素子用記録媒体に対して、任意の入射角度及び入射領域の下で前記光反応性分子の吸収波長域の光を用いることにより露光を行い、
前記露光に基づく光反応により、前記光反応性分子を、該露光に基づく光通過領域内において、光学異方性を有すると共に前記散乱光を生じさせる光散乱体に変化させる、
ことを特徴とする光散乱素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記光散乱素子用記録媒体として、光反応性分子の濃度が全体に対して1〜70wt%のものを用いる、
ことを特徴とする光散乱素子の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記光散乱体は、前記露光に基づく光の入射角度方向における屈折率が前記母材の屈折率と異なり、且つ該露光に基づく光の入射角度以外の方向における屈折率が、該露光に基づく光の入射角度方向における屈折率の場合よりも該母材の屈折率に近づけられている、
ことを特徴とする光散乱素子の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記光散乱体が、前記露光に基づく光の入射角度方向に細長く延びる形状とされ、
前記光散乱体の長軸方向の屈折率と前記母材の屈折率との差が10-4以上とされると共に、該光散乱体の短軸方向の屈折率と該母材の屈折率とが略等しくされている、
ことを特徴とする光散乱素子の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記光散乱体が、前記露光に基づく光の入射角度方向に細長く延びる形状とされることが、該光反応性分子を、該露光に基づく光通過領域内において、該露光に基づく光分解により分解生成物を生成し、該分解生成物を該露光に基づく照明光の入射角度方向に結晶成長させることである、
ことを特徴とする光散乱素子の製造方法。
【請求項6】
請求項3において、
前記露光を異なる入射角度及び入射領域の下で多重に行って、該各露光に基づく各光通過領域内における光反応性分子を該各露光により光散乱体にそれぞれ変化させる、
ことを特徴とする光散乱素子の製造方法。
【請求項7】
請求項5において、
前記露光の露光量を調整する、
ことを特徴とする光散乱素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項において、
表現パターンを表示する表示手段として製造する、
ことを特徴とする光散乱素子の製造方法。
【請求項9】
請求項6において、
複数の動態パターンを重ねて表示する表示手段として製造する、
ことを特徴とする光散乱素子の製造方法。
【請求項10】
入射面から入射された照明光を、出射面から散乱光として出射させるべく、露光を行うことにより、該露光に基づく光通過領域内に、光学異方性を有すると共に前記散乱光を生じさせる光散乱体を生成する光散乱素子用記録媒体であって、
透明な母材と、
前記母材内に混和されて、前記露光の吸収波長域の光を吸収して前記光散乱体に変化する光反応性分子と、
を具備し、
前記母材に基づき硬化状態とされている、
ことを特徴とする光散乱素子用記録媒体。
【請求項11】
請求項10において、
前記光反応性分子の濃度が全体に対して1〜70wt%とされている、
ことを特徴とする光散乱素子用記録媒体。
【請求項12】
請求項11において、
前記光反応性分子は、前記光散乱体に変化したとき、前記露光に基づく光の入射角度方向に細長く延びる形状となるものであって、該光散乱体の長軸方向の屈折率と前記母材の屈折率との差が10-4以上となると共に、該光散乱体の短軸方向の屈折率と該母材の屈折率とが略等しくなるものである、
ことを特徴とする光散乱素子用記録媒体。
【請求項13】
請求項12において、
前記光反応性分子は、前記露光が異なる入射角度及び入射領域の下で多重に行われたとき、該各露光に基づく各光通過領域内において該各露光により光散乱体にそれぞれ変化するものである、
ことを特徴とする光散乱素子用記録媒体。
【請求項14】
請求項12又は13において、
前記光反応性分子は、前記光散乱体に変化するに際して、前記露光に基づく光通過領域内において、該露光に基づき分解生成物に光分解された後、該分解生成物が該露光に基づく照明光の入射角度方向に結晶成長するものである、
ことを特徴とする光散乱素子用記録媒体。
【請求項15】
請求項13において、
前記光反応性分子は、前記光散乱体に変化するに際して、前記露光の露光量の調整に基づき、形態が異なるものである、
ことを特徴とする光散乱素子用記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2013−114187(P2013−114187A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262247(P2011−262247)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度独立行政法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創出推進プログラム「テラバイト時代に向けたポリマーによる三次元ベクトル波メモリ技術の実用化」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度独立行政法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創出推進プログラム「テラバイト時代に向けたポリマーによる三次元ベクトル波メモリ技術の実用化」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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