説明

光書き込み型表示媒体

【課題】切断等による成形工程を経ても膜はがれなどの欠陥の発生率を低下させる光書き込み型表示媒体を提供することである。
【解決手段】一対の電荷発生層及び該一対の電荷発生層に挟持された電荷輸送層を含む光スイッチング素子と、メモリ性を有する表示層を含む表示素子と、が積層されて構成され、前記電荷発生層が、結着樹脂として下記一般式(I)で表されるポリビニルアセタール樹脂を含み、該ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度が700〜3500の範囲である光書き込み型表示媒体である。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光書き込み型表示媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光スイッチング素子と表示素子を組み合わせた光書き込み型空間変調デバイスが開発され、ライトバルブとしてプロジェクター等に実用化されているほか、光情報処理の分野にも可能性が検討されている(例えば、非特許文献1参照)。
光書き込み型空間変調デバイスは、所定の電圧を素子に印加しつつ、受光した光量により光スイッチング素子のインピーダンスを変化させ、表示素子に印加される電圧を制御することにより、表示素子を駆動し、画像を表示するものである。特に、光書き込み型空間変調デバイスの表示制御素子にメモリ性のある素子を用いて、切り離し可能にした光書き込み型表示媒体は、電子ペーパー媒体として注目されている。
【0003】
また、光書き込み型表示媒体の表示素子としては、例えば、ポリマーに分散しメモリ性を付与したネマチック液晶、コレステリック液晶、強誘電液晶のような液晶表示素子、あるいは電気泳動素子や電界回転素子、トナー電界移動型素子や、これらをカプセル化した素子等が検討されている。
【0004】
これら、受光した光量により電圧あるいは電流を制御できるような光スイッチング素子としては、例えば、アモルファスシリコン素子、有機光導電体(OPC)を用いた機能分離型二層構造のOPC素子のほか、電荷輸送層(以下、「CTL」という場合がある)の上下に電荷発生層(以下、「CGL」という場合がある)を形成した構造(以下、デュアルCGL構造(dual CGL structure)と称する)のOPC素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。特にOPC素子は、高温の熱処理を必要としないため、PETフィルムなどのフレキシブル基板への適用も可能であり、かつ、真空プロセスも無いために安価に作製できるという利点を有する。
なかでも、前記デュアルCGL構造は、交流駆動が可能であり、表示素子に液晶素子を用いた場合においても、印加電圧に含まれるバイアス成分によりイオンの移動に起因した画像の焼付き現象も生じにくいため、特に有効な構造である。
【0005】
上記構造を有する柔軟な電子パーパー媒体を任意の形に製造する場合には、例えばロールあるいはシート状により加工された電子ペーパー媒体を所望の形に切断して成形する。この切断の際、各層間の密着力や層の強度が弱いところで破壊され、剥がれる場合がある。
特に、対向する導電層付き基板に光導電層(光スイッチング素子)と液晶層(表示素子)とを備えた光書き込み型の電子ペーパー媒体(光書き込み型表示媒体)の場合、光導電層を構成する電荷発生層及び電荷輸送層間の密着力、あるいは電荷発生層の膜強度が弱いと考えられ、前記切断の際、はがれや層の破壊が生じてしまう場合がある。
【0006】
上記はがれが生ずると、電子ペーパー媒体に負荷が加わるたびにそこを基点にさらに剥がれが拡大し、表示領域にまで到達すると正常な表示ができなくなることがある。
したがって、前記切断時に電子ペーパー媒体に負荷のかかりにくいように切断の工夫を行う必要があるが、このような工夫を行ったとしても、歩留まりを含めた安定性の高い電子ペーパー媒体を得るには不十分であるのが現状である。
【非特許文献1】液晶,Vol.2,No.1,1998,pp3-18
【特許文献1】特開2000−180888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、電気特性を大きく変化させてシステムの設計変更を生じさせるような悪影響を与えることなく、切断等による成形工程を経ても膜はがれなどの欠陥が発生しにくい、高品質で生産性に優れた光書き込み型表示媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の本発明により達成される。
すなわち本発明の請求項1に係る発明は、一対の電荷発生層及び該一対の電荷発生層に挟持された電荷輸送層を含む光スイッチング素子と、メモリ性を有する表示層を含む表示素子と、が積層されて構成され、
前記電荷発生層が、結着樹脂として下記一般式(I)で表されるポリビニルアセタール樹脂を含み、該ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度が700〜3500の範囲である光書き込み型表示媒体である。
【0009】
【化1】


(上記式中、少なくとも1単位におけるRはCである。また、X、Y、Zは質量分率を示し、X+Y+Z=100である。)
【0010】
請求項2に係る発明は、前記電荷発生層が層形成用塗布液を用いた塗布により形成され、層形成後の乾燥を90〜150℃の範囲で行う請求項1に記載の光書き込み型表示媒体である。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記電荷発生層における電荷発生材料と結着樹脂との混合質量比(電荷発生材料/結着樹脂)が、9/1〜4/6の範囲である請求項1または2に記載の光書き込み型表示媒体である。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記電荷発生層が層形成用溶液を用いた塗布により形成され、該層形成用溶液が溶媒としてn−ブタノールを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の光書き込み型表示媒体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1に係る発明によれば、電気特性に悪影響を与えることなく、切断等による成形工程を経ても膜はがれなどの欠陥が発生しない光書き込み型表示媒体を提供することができる。
請求項2に係る発明によれば、電気特性や基板の収縮に悪影響を与えることなく、電荷発生層の基板や電荷輸送層等との接着性をより高めることができる。
請求項3に係る発明によれば、電気特性や表面性に悪影響を与えることなく、電荷発生層の基板や電荷輸送層等との接着性をより高めることができる。
請求項4に係る発明によれば、電荷発生層をより均一に形成することができ、電気特性や表面性に悪影響を与えることなく、基板や電荷輸送層等との密着性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の光書き込み型表示媒体(以下、単に「表示媒体」という場合がある)は、一対の電荷発生層及び該一対の電荷発生層に挟持された電荷輸送層を含む光スイッチング素子と、メモリ性を有する表示層を含む表示素子と、が積層されて構成され、前記電荷発生層が、結着樹脂として下記一般式(I)で表されるポリビニルアセタール樹脂を含み、該ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度が700〜3500の範囲であることを特徴とする。
【0015】
【化2】

【0016】
上記式中、少なくとも1単位におけるRはCである。また、X、Y、Zは質量分率を示し、X+Y+Z=100である。
【0017】
柔軟な光書き込み型表示媒体の製造方法としては、例えば、表示媒体が複数の機能層の積層により製造される場合には、生産性を考慮して、最初に大面積で柔軟な基板上に積層塗布により連続した未成形の表示媒体ベースを作製し、次いでこれを打ち抜き等の切断により成形して、所望の形状、大きさの光書き込み型表示媒体とする。前記積層構造の光スイッチング素子と表示素子とが積層されて構成される光書き込み型表示媒体においても、製造のしやすさ、形状選択の自由度が大きい等の観点から上記の製造方法によることが望ましい。
【0018】
この場合、前記のように打ち抜き等の切断の際に、表示媒体中で層間のはがれや層中の破壊が生じることが多い。本発明者等が前記構成の表示媒体について原因を調べたところ、特に光スイッチング素子における電荷発生層あるいは、電荷輸送層と電荷発生層との層間、あるいは電荷発生層と基板間にはがれや破れ等の欠陥が発生していることがわかった。このため本発明者等は、特に電荷発生層に用いる結着樹脂(バインダー樹脂)に着目して検討を行った。その結果、結着樹脂として特定のポリビニルアセタール樹脂を用いた場合に、前記問題が解決されることが見出された。
【0019】
以下、本発明の光書き込み型表示媒体について実施形態により説明する。
図1は、本実施形態の光書き込み型表示媒体を示す断面図である。表示媒体50は、光スイッチング素子30、表示素子40及び光スイッチング素子と表示素子の間に挟まれた機能膜52より構成され、図1に示すように、光スイッチング素子30は基板31、電極32、下部電荷発生層33、電荷輸送層34及び上部電荷発生層35より構成され、表示素子40は、基板41、電極42及び表示層43から構成される。表示媒体50は、上部電荷発生層35を表示素子側に位置させる。この電極32と42の間に交流電界が印加される。但し、表示媒体50において、光書き込みが光スイッチング素子側あるいは表示素子側から行なわれるかにより、光入射側の素子の基板及び電極を光透過性にすることが必要である。
【0020】
(光スイッチング素子)
まず、図2を用いて、本実施形態における光スイッチング素子を説明する。図2に示す光スイッチング素子30(デュアルCGL構造の光スイッチング素子)は、電極32(導電膜)が形成された基板31上に、光スイッチング層(光導電層)として、下部電荷発生層33(第1電荷発生層)、電荷輸送層34、上部電荷発生層35(第2電荷発生層)を順次積層し、1対の電荷発生層で電荷輸送層を挟持したものである。以下で説明する光書き込み型表示媒体においては、上部電荷発生層35がたとえば表示層側に位置することになる。また、図中、矢印は光入射方向を示す(但し、光入射方向はこれに限定されるわけではない)。
【0021】
基板31は、柔軟で絶縁性を有するポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、及びポリエチレンナフタレート等の高分子フィルムを用いて構成される。また、光導電層に有機材料を用いる場合には高温で熱処理をする工程がないので、フレキシブル基板が得られること、成形が容易なこと、コストの点などから光透過性のプラスチック基板を用いることが有利である。
基板31の厚みは、0.01mm〜0.5mmの範囲内であることが好ましい。
【0022】
電極32には、ITO(Indium Tin Oxide)を用いているが、ITO以外にも、Auなどの金属薄膜、SnO2、ZnOなど酸化物、ポリピロールなどの導電性高分子の薄膜など、透光性の電気導電体を用いることができる。また、本実施形態における電極32は、基板31上にスパッタリングされて形成されているが、必ずしもスパッタリングによる必要はなく、印刷、CVD、蒸着などにより形成することもできる。
【0023】
なお、基板31及び電極32は、必ずしも光透過性である必要はない。すなわち、例えば、特開2001−100664号公報に示すように、光書き込み型表示媒体の表示素子が、メモリ性を有し、かつ、表示に必要な波長を選択的に反射する選択反射性又は後方散乱性の表示素子である場合には、表示側から書き込むことが可能であるので、この場合には少なくとも表示素子側の基板31及び電極32が光透過性であればよい。したがって、表示素子側から光書き込みをする場合、光スイッチング素子30の基板31あるいは電極32は光透過性である必要はなく、電極32として例えばAl層を用いることができる。
【0024】
上部及び下部電荷発生層33、35に含有させる電荷発生材料としては、金属又は無金属フタロシアニン、スクアリウム化合物、アズレニウム化合物、ペリレン顔料、インジゴ顔料、ビスやトリス等アゾ顔料、キナクリドン顔料、ピロロピロール色素、多環キノン顔料、ジブロモアントアントロンなど縮環芳香族系顔料、シアニン色素、キサンテン顔料、ポリビニルカルバゾールとニトロフルオレン等電荷移動錯体、ピリリウム塩染料とポリカーボネート樹脂からなる共昌錯体等が適用可能であるが、フタロシアニン系電荷発生材料である、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、あるいはチタニルフタロシアニンの一種類かあるいは混合物を主成分とする電荷発生材料が好ましい。
【0025】
ヒドロキシガリウムフタロシアニンとしては、X線回折スペクトルのブラック角(2θ±0.2°)がi)7.5°、9.9°、12.5°、16.3°、18.6°、25.1°及び28.3°、ii)7.7°、16.5°、25.1°及び26.6°、iii)7.9°、16.5°、24.4°及び27.6°、iv)7.0°、7.5°、10.5°、11.7°、12.7°、17.3°、18.1°、24.5°、26.2°及び27.1°、v) 6.8°、12.8°、15.8°及び26.0°又はvi)7.4°、9.9°、25.0°、26.2°及び28.2°に強い回折ピークを有するような結晶構造は電荷発生効率が高く、特に好ましい。
【0026】
クロロガリウムフタロシアニンとしては、X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角度(2θ±0.2°)が少なくとも7.4°、16.6°、25.5°及び28.3°、又は6.8°、17.3°、23.6°及び26.9°、又は8.7°〜9.2°、17.6°、24.0°、27.4°及び28.8°に強い回折ピークを有するクロロガリウムフタロシアニン結晶は電荷発生効率が高く、特に好ましい。これらのイオン化ポテンシャルは、5.4eV程度である。
また、チタニルフタロシアニンとしては、X線回折スペクトルのブラック角(2θ±0.2°)が、9.5°、9.7°、11.7°、15.0°、23.5°、24.1°、27.3°に回折ピークをもつ結晶構造は電荷発生効率が高く、特に好ましい。
【0027】
また、上部及び下部電荷発生層33、35中に、必要により前記電荷発生材料に加えて電荷輸送材料を含有させてもよい。該電荷輸送材料としては、後述する電荷輸送層34に用いられる電荷輸送材料を同様に用いることができる。
この場合、含有させる電荷輸送材料の混合比(電荷輸送材料/電荷発生材料)は、0.1〜50質量%の範囲とすることが好ましく、0.1〜25質量%の範囲とすることがより好ましい。
【0028】
なお、上部電荷発生層35と下部電荷発生層33とは、キャリア発生量が同程度であることが望ましいため、波長、光量、電圧に対し同程度の感度が必要であり、その観点からは上下とも同じ電荷発生材料であることが望ましいが、同程度の感度であるなら材料が異なっていても問題ない。
【0029】
上部及び下部電荷発生層33、35に用い得る結着樹脂には、下記一般式(I)で示されるポリビニルアセタール樹脂が含まれる。
【0030】
【化3】

【0031】
なお上記式中、少なくとも1単位におけるRはCである。また、X、Y、Zはモル分率を示し、X+Y+Z=100である。
【0032】
一般式(I)においては、( )で示されるアセタール構成単位中にRとしてCを必ず含む。すなわち、前記アセタール構成単位中少なくとも1単位におけるRはCであればよい。Rとしては、ほかにCHが含まれてもよい。
【0033】
また、一般式(I)におけるX、Y、Zの質量分率に関しては、Xは60〜90質量%の範囲、Yは5〜30質量%の範囲、Zは0.1〜15質量%の範囲であることが望ましい。
各構成単位を上記範囲とすることにより、必要な耐水性、有機溶剤溶解性、撓み性を確保しながら、電荷輸送層16あるいは基板10との密着性や電荷発生層の層強度をより高めることができる。
【0034】
さらに樹脂組成を上記範囲とした場合、一般式(I)におけるXで示されるアセタール化度は70質量%以上とすることがより望ましく、75質量%以上とすることが特に望ましい。また、一般式(I)におけるX+Yは90質量%以上とすることが望ましく、95質量%以上とすることがより望ましい。
【0035】
本実施形態に用いられるポリビニルアセタール樹脂の平均重合度は700〜3500の範囲である。平均重合度が700に満たないと、塗膜の強度や接着力が不足し電荷発生層の結着樹脂とした場合に前記本願における効果を発揮できない。一方、平均重合度が3500を超えると、後述するアルコール等の好適な溶媒に対する溶解性が低下すると共に液粘度が高くなり塗布による電荷発生層形成において取り扱いが困難になる。
【0036】
上記ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度は800〜3200の範囲とすることが望ましく、1000〜3000の範囲とすることがより好適である。
なお、平均重合度はJIS K6728に示される平均重合度または10%粘度の測定法を用いて樹脂の分子量として求めることができる。
【0037】
本実施形態に用いるポリビニルアセタール樹脂の製造方法については、特に限定はないが、例えばポリビニルアルコールをアルデヒドを用いてアセタール化し、次いで得られたアセタール化物を酸無水物と反応させて、アセタール化物中に残存している水酸基の一部を酸無水物によりエステル化して変性する方法が好ましい。
前記アルデヒドとしては、ブチルアルデヒドを必ず用い、アセトアルデヒドを適宜選択して用いることができる
【0038】
上部及び下部電荷発生層33、35に用いられる結着樹脂としては、上記のポリビニルアセタール樹脂以外に種々の他の樹脂を混合して用いることができる。
上記他の樹脂としては、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂、カルボキシル変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド樹脂(ナイロン樹脂を含む)、アクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロール樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、カゼイン、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂などが適用可能である。特に、ポリアミド樹脂、なかでもメトキシメチル化6ナイロン等のナイロン系樹脂は、アルコール系およびケトアルコール系の多くに可溶であり、効果的である。また、カルボキシル変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体は、ケトアルコールに可溶であり、かつ、電荷発生材料であるヒドロキシガリウムフタロシアニン等を良好に分散させるため、好ましいバインダー樹脂である。
【0039】
上部及び下部電荷発生層33、35における電荷発生材料(電荷輸送材を添加する場合はそれも含む)と結着樹脂との混合質量比(電荷発生材料/結着樹脂)は、9/1〜4/6の範囲とすることが好ましく、8/2〜5/5の範囲とすることがより好ましい。
前記混合質量比における電荷発生材料が4/6に満たないと、結着樹脂量が多いため電荷発生層表面が平滑となり密着性を向上させるアンカー効果(投錨効果)が得られない場合がある。電荷発生材料が9/1を超えると、逆に電荷発生材料が多くなりすぎ十分な膜強度が得られない場合がある。
【0040】
上部及び下部電荷発生層33、35の形成方法としては、本実施形態では層形成用塗布液を用いた塗布により電荷発生層を形成するため、スピンコート法、ディップ法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、グラビアコート法などが適用可能である。いずれの方式も、a−Siやフォトダイオード作製におけるような基板加熱や厳しい工程管理は不要である。この場合、溶剤としては水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、クロルベンゼン、トルエン等の通常の溶剤を単独あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0041】
特に本実施形態においては、上部電荷発生層35を電荷輸送層34に損傷を与えない溶媒を含む上部電荷発生層形成用塗布液から作製することが好ましく、具体的には、前記溶媒としてアルコール系溶媒を用いることが望ましく、特にn−ブタノールを含むことが望ましい。この場合、n−ブタノール単独のほか、前記の溶剤を電荷輸送層34に損傷を与えない範囲で数種類混ぜてもよい。n−ブタノールと他の溶媒との比(体積比)は、60/40〜95/5の範囲程度が適している。
【0042】
ここで、前記電荷輸送層34の損傷とは、電荷輸送層上に塗布する上部電荷発生層形成塗布液中の溶媒により、電荷輸送層16において電荷輸送層の膨潤や、電荷輸送材料あるいはバインダー樹脂の溶解、電荷輸送材料の結晶化、及びクラックの発生といった膜質劣化や、電気特性の劣化が生じることをいう。したがって、上部電荷発生層35をこのようにして形成することにより、均質で高感度であると共に製造上も歩留まりの高いデュアルCGL構造の光スイッチング素子を有する光書き込み型表示媒体を得ることができる。
【0043】
上部及び下部電荷発生層形成用塗布液の調製については、前記溶剤(またはバインダー樹脂を溶解した溶液)中に、前記電荷発生材料と必要に応じて添加される電荷輸送材料とを前記好ましい混合比率で添加し混合、分散させる。混合/分散方法は、ボールミル、ロールミル、サンドミル、アトライター、ビーズミル、超音波等を用いる常法が適用される。分散の際、電荷発生材料の粒子サイズを0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、さらに好ましくは0.15μm以下にすることが有効である。
上部及び下部電荷発生層形成塗布液の固形分含有量の濃度は、1〜30質量%の範囲とすることが好ましい。1質量%未満では膜厚が薄すぎて電気特性が得られない場合があり、30質量%を超えると粘度が高すぎて膜形成が困難になる場合がある。また、1質量%未満、あるいは30質量%以上では、電荷発生材料微粒子の分散安定性が悪く、保存安定性や成膜性が悪化するといった問題が現れる場合がある。
【0044】
前記電荷発生層形成塗布液を塗布して電荷発生層を形成した後、加熱乾燥を行うことが望ましい。乾燥温度は90〜150℃の範囲とすることが望ましく、100〜140℃の範囲とすることがより望ましい。
乾燥温度が90℃に満たないと、基板31や電荷輸送層34と電荷発生層との接着性が十分に得られない場合がある。150℃を超えると、樹脂成分や電荷輸送材料等の劣化、基板の熱収縮やそれに伴う電極部のクラックなどが起こってしまう場合がある。なお、上記加熱乾燥は、下部電荷発生層33の形成後及び上部電荷発生層35の形成後の両方で各々行ってもよいし、上部電荷発生層35を形成した後だけ行ってもよい。また、電気特性や表面性に問題がないことを確認できれば、機能膜形成後や光書き込み型記録媒体作製後に行っても良い。
【0045】
上部及び下部電荷発生層33、35の膜厚は、10nm〜1μmの範囲が好ましく、20nm〜500nmの範囲がより好ましい。10nmより薄いと、光感度が不足しかつ均一な膜の作製が難しくなる場合があり、また、1μmより厚くなると、光感度は飽和し、膜内応力によって剥離が生じ易くなる場合がある。
【0046】
なお、前記電荷発生層の膜厚に関しては、前述のように電荷発生層の膜厚に対する書込光の吸収率変化、及び電荷輸送層による吸収率を測定しておき、上部電荷発生層35及び下部電荷発生層33での吸光量が等しくなるようにそれぞれの電荷発生層膜厚を設定してもよい(特開2005−017726号公報参照)。ただし、電荷輸送材料の添加量、膜厚を含めた最終的な処方調整は、実際に素子を作製してその交流駆動時の波形対称性の評価により行われることがさらに好ましい。
【0047】
電荷輸送層34に含まれる電荷輸送材料としては、具体的には、正孔輸送材料として、トリニトロフルオレン系化合物、ポリビニルカルバゾール系化合物、オキサジアゾール系化合物、ベンジルアミノ系ヒドラゾンあるいはキノリン系ヒドラゾン等のヒドラゾン系化合物、スチルベン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、トリフェニルメタン系化合物、ベンジジン系化合物が挙げられる。一方、電子輸送材料としては、キノン系化合物、テトラシアノキノジメタン系化合物、フルフレオン化合物、キサントン系化合物、ベンゾフェノン系化合物などが適用可能である。
【0048】
電荷輸送材料としては、ベンジジン系化合物及び/又はトリフェニルアミン系化合物を主成分とするものが好ましい。有用な電荷輸送材としては、ヒドラゾン系化合物、スチリルトリフェニルアミン化合物、N,N,N’,N’−テトラフェニルベンジジン化合物、トリフェニルアミン化合物、などが挙げられる。
【0049】
これらの電荷輸送材料のなかでも、トリフェニルアミン系化合物、ベンジジン系化合物、特にベンジジン系化合物が、イオン化ポテンシャル(Ip)が低く、かつ、バインダーポリマー(結着樹脂)との相溶性が高いため、濃度偏析が起こりにくいと共に、他の材料と比べてイオン化ポテンシャル(Ip)が電荷発生材料(CGM)と近いため、感度や、低抵抗化の観点から有効である。
【0050】
これらを化合物名で挙げれば、N,N’−ビス(3メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン、N,N’−ビス(3エチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン、N,N’−ビス(3エチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン、N,N’−ビス(3エチルフェニル)−N,N’−ビス(3メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1のベンジジン系化合物や、トリフェニルアミン系化合物であるN,N−ビス(3,4−ジメチルフェニル)ビスフェニル−4−アミンが好ましい。
【0051】
この電荷輸送層34に含まれるバインダー樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリシラン等が適用可能である。
特に、ポリカーボネート樹脂は、バインダー樹脂とした場合、電荷輸送材料の特性を改善するため、大変有効である。
【0052】
電荷輸送層34における電荷輸送材料とバインダー樹脂との混合比(電荷輸送材料/バインダー樹脂)は1/10〜10/1の範囲が好ましく、3/7〜7/3の範囲がより好ましい。
【0053】
電荷輸送層の作製方法としては、真空蒸着法やスパッタ法などドライな膜形成法のほか、溶剤を用いるスピンコート法、ディップ法、ブレードコート法、ロールコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スライドホッパコート法などが適用可能である。溶剤塗布法の場合には、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロンゲン化脂肪族炭化水素類、テトラヒドロフラン、エチルエーテル等の環状もしくは直鎖状のエーテル類等の通常の有機溶剤を単独あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0054】
電荷輸送層の膜厚は、0.1〜100μmの範囲とすることが好ましく、1〜10μmの範囲とすることがより好ましい。0.1μmより薄いと、耐電圧が低くなって信頼性確保が困難となる場合があり、また、100μmより厚くなると、機能素子とのインピーダンスマッチングが困難となって設計が難しくなる場合がある。
【0055】
本実施形態の光スイッチング素子においては、前述のように電荷輸送層の上下に形成された電荷発生層の光導電特性をほぼ同一にすることが可能となるが、さらに必要により、特開2000−180888号公報に記載のごとき、直流成分除去可能な容量成分をもつ機能層、すなわち直流成分除去用機能膜を光スイッチング素子に設けてもよい。これにより、さらに微小な実効直流バイアスを除去することができる場合がある。
【0056】
また、上記直流成分除去用機能膜の他に、他の機能層を設けることも可能である。たとえば、電極層と電荷発生層との間に暗キャリアの注入を防ぐ層や、接着性を向上させる層を形成することができる。また、反射膜や遮光膜を形成することも可能であるし、これらの複数の機能を兼ねた機能層でも良い。このような機能層は電流の流れを著しく妨げない範囲で適用可能である。
【0057】
さらに、本実施形態の光スイッチング素子の構造としては、電荷輸送層間に電荷発生層を作製し、電荷発生層(1)/電荷輸送層/電荷発生層(2)/電荷輸送層/電荷発生層(3)等のような構成とすることも可能である。
この場合、電荷発生層(3)を下部電荷発生層としたとき、電荷発生層(1)、(2)が上部電荷発生層に相当し、これらに前記と同様にして電荷輸送材料を含ませて層形成すること等が可能である。
【0058】
<表示素子>
本実施形態における表示素子は、メモリ性を有する表示層を含む表示素子である。該表示素子としては、例えば、メモリ性のある液晶表示素子を挙げることができる。メモリ性のある液晶表示素子とは、液晶を電圧印加により配向制御した後、電圧印加を解除した後も、一定時間、液晶の配向が保たれる特徴を持った液晶である。具体的には、ポリマー分散型液晶(PDLC)やカイラルスメクチックC相等の強誘電性液晶、あるいはコレステリック液晶等である。また、これらをカプセル化した液晶素子でも適用可能である。メモリ性を有する液晶はそのメモリ性ゆえに、画像表示保持のための電力を必要とせず、また、一体化したデバイスを作製し、本体から分離して使用することが可能である。また、そのデバイスの作製を安価に行うことができる。
なお、メモリ性のある表示素子としては、上記液晶表示素子の他、エレクトロクロミック素子、電気泳動素子、電界回転素子を挙げることができる。
【0059】
図1に示す表示素子40は、液晶層を表示層43としたものである。
表示素子40の表示層43には、本実施形態では、カイラルネマチック液晶(コレステリック液晶)をゼラチンバインダー中に分散させたPDLC(Polymer Network Liquid Crystal)構造を採用しているが、この構造に限ることなく、コレステリック液晶をリブを介し電極間距離を固定したセルに配置する方式やカプセル液晶化することにより実現してもよい。また、液晶もコレステリック液晶に限ることなく、スメクチックA液晶、ネマチック液晶、ディスコティック液晶などが利用できる。
また、カイラルネマチック液晶、表面安定化カイラルスメクチックC液晶、双安定ねじれネマチック液晶、微粒子分散液晶などのメモリー性液晶を用いることにより、本発明の光変調素子を、光記録媒体や画像記録媒体として利用することができる。
【0060】
なお、液晶の光学的特性変化を補助する補助部材として、偏光板、位相差板、反射板などの受動光学部品と併用したり、液晶中に2色性色素を添加したりしてもよい。
なお、表示層43の膜厚は通常1〜50μmの範囲で用いられることが好ましい。
【0061】
液晶材料としては、シアノビフェニル系、フェニルシクロヘキシル系、フェニルベンゾエート系、シクロヘキシルベンゾエート系、アゾメチン系、アゾベンゼン系、ピリミジン系、ジオキサン系、シクロヘキシルシクロヘキサン系、スチルベン系、トラン系など公知の液晶組成物が利用できる。液晶材料には2色性色素などの色素、微粒子などの添加剤を加えてもよく、高分子マトリクス中に分散したものや、高分子ゲル化したものや、マイクロカプセル化したものでもよい。また、液晶は高分子、中分子、低分子のいずれでもよく、またこれらの混合物でもよい。
【0062】
また、表示素子40の基板41、電極42は、光スイッチング素子30の基板31、電極32と同様な構成とすることができる。
【0063】
本実施形態においては、光スイッチング素子30と前記のごとき表示素子40とを接続する場合において、これらを一体化させて光書き込み型表示媒体20とする。一体化させることにより光スイッチング素子30と表示素子40との接続を安定化させることができる。
特に、メモリ性を有する表示素子40と光スイッチング素子30とを一体化した光書き込み型表示媒体50は、後述するデバイスを駆動する本体(光書き込み装置)から分離させることが可能となる。したがって、本体から分離させた表示媒体を、例えば配布することが可能になる。また、使用者は自由な場所で自由な姿勢で閲覧することができる。
【0064】
なお、前記一体化の方法としては、光スイッチング素子30、機能膜52、および表示素子40を順次積層し一体化したデバイスとすることが、製造の容易性、表示機能の安定化の点から有利である。機能膜52としては、たとえば光スイッチング素子30と表示素子40とを隔離するための隔離層や、直流成分除去用機能膜等が挙げられる。該直流成分除去用機能膜を備えたデバイスの場合には、交流電界により駆動する際の電圧対称性がさらに改善されることになる。
【0065】
また、図1における機能膜52としては、例えば遮光層が挙げられる。
図1における表示素子側から書き込みを行う場合、外部光を反射または吸収すると共に、露光光の波長の光のみを透過、または露光光の波長領域を除いた波長領域の光を吸収または反射することにより、黒表示部の再現性を高めたり、光スイッチング素子の光劣化を緩和することが出来る。図1における光スイッチング素子側から書き込みを行う場合、黒表示部の再現性を高めることが出来る。
また、この遮光層は、電極32と下部電荷発生層33の間、あるいは基板31の下側に設けても良い。
【0066】
なお、本実施形態において、「光を吸収する」とは、入射光の光強度が吸収後10%以下となることを意味し、「光を透過する」とは、入射光の光強度が透過後50%以上、好ましくは80%以上であることを意味している。
【0067】
遮光層の電気抵抗は、遮光層内の電流によって解像度の低下を引き起こさないように、少なくとも体積抵抗率で108Ω・cm以上とすることが望ましい。さらに、表示層43に加わる分圧の変化分を大きくするためには、遮光層の静電容量が大きい程よいので、誘電率が大きく層厚が出来る限り薄く形成されることが好ましい。
【0068】
ここで、露光光照射における外部光の影響を抑制する観点から、光スイッチング素子30における光導電層(上部電荷発生層35、電荷輸送層34及び下部電荷発生層33)として赤外光の波長領域について光吸収感度を有する材料を用い且つ露光光として赤外光の波長領域の光を用いると共に、遮光層(機能膜52)についても、可視光領域の少なくとも一部の光を吸収または反射、または可視光以外(即ち赤外光)の波長領域の光のみを透過するように構成することが好ましい。
【0069】
遮光層に必要な光学濃度は、光スイッチング素子30の光吸収感度と読出光の強度に依存するため一概に規定できないが、読出光による画像読み出し時に、読み出し時に視認される方向とは反対側(図1における表示素子側から書き込みを行う場合、図1における下側)からの透過光により視認性が低下するのを防止するために、少なくとも1以上、特に2以上が望ましい。特に400〜700nmの波長域の光学濃度を高くすると視認性の低下を防止する効果が強い。
このようにして形成した遮光層の層厚は、0.5〜3.0μmの範囲とすることが好ましく、0.7〜2.0μmの範囲とすることがより好ましい。
【0070】
(光書き込み型表示媒体の成形)
本実施形態においては、最終的な光書き込み型表示媒体は、表面の電極上に表示層及び光導電層等を前記のようにして積層した一方の基板と、少なくとも表面に電極を有する他方の基板とを、接着層(機能膜52を接着層としてもよい)を介して貼り合わせ、その後、貼り合わされたベース表示媒体を所望の大きさ、形状に打ち抜いて成形される。
【0071】
上記接着層は、前記光導電層等の表示要素を形成した一方の基板側に設けてもよいし、前記電極のみを有する他方の基板側に設けてもよい。接着層を構成する材料としては、例えばアクリル系、ウレタン系の接着剤または粘着剤などを用いることができる。
次いで、例えば前記一方の基板の接着層面に、前記他方の基板を貼り合わせ、そのまま放置するか、加熱・加圧を行って両者を密着させ表示媒体ベースとする。加熱する場合には50〜150℃の温度範囲とすることが望ましい。
【0072】
そして、最後に上記ベース表示媒体を所望の外形サイズ、形状に対応した凸型打ち抜きによる裁断工程を経て、用途に応じた光書き込み型表示媒体を得る。打抜き法としては、金型抜き打ち法、トムソン刃を用いる方法、押し切り刃を用いる方法等が挙げられる。
前記のように、上記最後の裁断工程において、裁断刃等により圧力がかかった状態で表示媒体ベースが切断されるため、得られた光書き込み型表示媒体の切断面付近ではせん断力により、特に表示要素における電荷発生層あるいは電荷発生層と電荷輸送層との層間、電荷発生層と基板の層間での破壊(はがれ、破れなど)が発生しやすい。しかし、前記特定のポリビニルアセタール樹脂を結着樹脂に用いた本実施形態の光書き込み型表示媒体では、電荷発生層にはがれや破れなどの欠陥が発生しにくくなる。なお、本発明の光書き込み型表示媒体には、成形前のベースと成形後のものの両方が含まれる。
【0073】
(表示装置)
次に、本実施形態の光書き込み型表示媒体を適用した画像書き込み装置(表示装置)の一形態について説明する。
図3示される表示装置は、表示媒体駆動装置、書き込み装置及びこれらを制御する制御装置から構成される。これらの装置は一つにまとめられていてもよいし、分離していてもよい。この表示装置では、表示媒体50として前記本実施形態の光書き込み型表示媒体が用いられる。
【0074】
表示媒体駆動装置は、波形発生手段62、入力信号検知手段64、制御手段66及びコネクター65からなる。コネクタ65は、光スイッチング素子側基板の透明電極と、表示素子側基板の電極に接続するためのコネクタで、それぞれの側に接点を有し、表示媒体駆動装置と光書き込み型表示媒体50を自在に分離することが可能である。
【0075】
書き込み装置は、制御手段82、光パターン生成手段(たとえば透過型TFT液晶ディスプレイ)84及び光照射手段(たとえばハロゲン光源)86よりなり、制御手段82はPCにつながっている。
【0076】
制御装置は、表示媒体駆動装置及び書き込み装置を制御するためのものであり、制御手段70、駆動波発生信号出力手段72及び光書き込みデータ出力手段74からなる。
【0077】
光書き込み手段による光書き込みと同期して、表示のための駆動パルスを印加する電圧印加手段(図示せず)は、印加パルスの生成手段、出力するためのトリガ入力を検知する手段を有する。パルス生成手段には例えば、ROMのような波形記憶手段とDA変換手段と制御手段とを有し、電圧印加時にROMから読み出した波形をDA変換して空間変調デバイスに印加する手段が適用可能であるし、また、ROMではなくパルス発生回路のような電気回路的な方式でパルスを発生させる手段が適用可能であるが、このほかにも駆動パルスを印加する手段であれば特に制限なく使用することができる。
【0078】
書き込み装置としては、空間変調デバイスの光入射側に照射する光のパターンを生成する手段と、そのパターンを空間変調デバイスに照射する光照射手段とを有する。パターンの生成には、例えば、TFTを用いた液晶ディスプレイ、単純マトリックス型液晶ディスプレイ等透過型のディスプレイが適用可能である。光照射手段としては、蛍光ライト、ハロゲンランプ、エレクトロルミネッセンス(EL)ライト等、空間変調デバイスに照射できるものであれば適用可能である。また、パターン生成手段と光照射手段を兼ね備えたELディスプレイやCRT、フィールドエミッションディスプレイ(FED)など発光型ディスプレイも適用可能であることはいうまでもない。前記のほかにも、空間変調デバイスに照射する光量、波長、照射パターンを制御できる手段であれば、それ以外であっても構わない。
【0079】
表示媒体50における表示素子40を駆動する駆動方法としては、特に制限されないが、交流電圧、周波数、照射光量及び波長制御が適用可能である。印加する印加電圧は交流電圧であるが、波形としてはサイン波、矩形波、三角波などが使用可能である。もちろんこれらを組み合わせたものでも、まったく任意の波形であっても適用可能である。また、表示性能等改善のため、単独では表示の切り替えのできないようなサブパルスを駆動パルスに付加してもよい。なお、表示素子によっては、若干のバイアス成分印加が有効な場合があるが、それを採用しても良いことはもちろんである。
【0080】
光書き込み型記録媒体は、以上のような構成の光書き込み装置により、画像を書き込むことができ、一度光書き込み型記録媒体に書き込んだ画像は、コネクタ65から外しても保持され、閲覧、回覧、配布等に供することができる。また、再度コネクタ65に接続し、電圧を印加することで、書き込んだ画像を消去することもでき、再び別の画像を書き込むことも可能であるため、省資源化の要求に応え得るものである。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
<実施例1>
(光書き込み型表示媒体の作製)
以下のようにして、図1と同様な構成の光書き込み型記録媒体を製造した。
電極層32としてITO膜(厚さ800Å)を形成したポリエチレンテレフタレート(PET)基板31(厚さ125μm、550mm×250mm)の前記ITO膜上に、下部電荷発生層33を形成した。
【0082】
具体的には、まず、クロロガリウムフタロシアニンを電荷発生材料とし、バインダー樹脂としてポリビニルアセタール(電気化学工業社製、#6000−C;一般式(I)におけるRがCとCHの混合、X:81、Y:17、Z:2;平均重合度:2400)を用い、その質量比率(電荷発生材料/バインダー樹脂)は6:4とし、n−ブタノールで分散させ、2重量%の分散液(塗布液A)を調製した。これをスピンコート法により基板に塗布後、120℃で乾燥させ、膜厚約0.1μmの電荷発生層33を形成した。この電荷発生層33の660nmにおける光吸収率は45%であった。
【0083】
次に、前記下部電荷発生層33の上に電荷輸送層34を形成した。具体的には、まず、イオン化ポテンシャル5.39eVの電荷輸送材N,N−ビス(3,4−ジメチルフェニル)ビスフェニル−4−アミン(CTM A)と、バインダー樹脂としてポリカーボネート{ビスフェノール−Z、(ポリ(4,4’−シクロヘキシリデンジフェニレンカーボネート))}とを、3:2の割合で混合した後、これをモノクロロベンゼンに溶解させ10重量%の溶液(塗布液B)を調製した。これをアプリケーター(Gap100μm)で塗布、乾燥することによって、前記電荷発生層33上に7μm厚の電荷輸送層34を形成した。
【0084】
更に、前記塗布液Aにおける固形分濃度を4質量%にした以外は同様の組成の塗布液を用いて、スピンコート法により前記電荷輸送層34の上に塗布、120℃で乾燥させ、膜厚0.4μmの上部電荷発生層35を形成した。この電荷発生層の660nmにおける光吸収率は、80%であった。
以上のようにして、光スイッチング素子層を形成した。
【0085】
光スイッチング素子層の上に隔離層(機能膜52)として、スピンコートにより、ポリビニルアルコール3重量%の水溶液を塗布し、ポリビニルアルコール膜を形成した。
さらに、隔離層の上に、遮光膜(機能膜52)、カプセル液晶素子による表示素子層43、透明電極層42及び透明基板41を以下のようにして形成した。
【0086】
正の誘電率異方性を有するネマチック液晶E8(メルク社製)74.8質量部に,カイラル剤CB15(BDH社製)21質量部とカイラル剤R1011(メルク社製)4.2質量部とを加熱溶解し、その後室温に戻して、ブルーグリーンの色光を選択反射するカイラルネマチック液晶を得た。
【0087】
このブルーグリーンカイラルネマチック液晶10質量部に、キシレンジイソシアネート3モルとトリメチロールプロパン1モルとの付加物(武田薬品工業製D−110N)3質量部と酢酸エチル100質量部とを加えて均一溶液とし、油相となる液を調製した。
一方、ポリビニルアルコール(クラレ社製ポバール217EE)10質量部を、熱したイオン交換水1000質量部に加えて攪拌後、放置冷却することによって,水相となる液を調製した。
【0088】
次に、スライダックで30V交流を与えた家庭用ミキサーによって、前記油相10質量部を前記水相100質量部中に1分間乳化分散して、水相中に油相液滴が分散した水中油エマルジョンを調製した。この水中油エマルジョンを60℃のウォーターバスで加熱しながら2時間攪拌し、界面重合を完了させて、液晶マイクロカプセルを形成した。得られた液晶マイクロカプセルの平均粒径をレーザー粒度分布計によって測定したところ、約12μmと見積もられた。
【0089】
得られた液晶マイクロカプセル分散液を、網目38μmのステンレスメッシュを通して濾過後一昼夜放置し、乳白色の上澄みを取り除くことにより、液晶マイクロカプセルからなる固形成分約40質量%のスラリーを得た。
得られたスラリーに、その固形成分の質量に対して2/3となる量のポリビニルアルコールを含むポリビニルアルコール10質量%の溶液を加えることにより塗布液Cを調製した。
【0090】
ITO膜(透明電極層、厚さ800Å)付きのPETフィルム(東レハイビーム、透明基板、板厚125μm)のITO膜面の上に、上記塗布液Cを#44のワイヤーバーで塗布することにより、液晶を含む表示素子層を形成した。
また、既に、光スイッチング素子層及び隔離層が形成されたPETフィルムの隔離層面上に、ブラックポリイミドBKR−105(日本化薬製)を塗布し、遮光膜(厚さ1μm)を形成した。
【0091】
図4は、上記のようにして形成した光スイッチング層(遮光膜付)及び表示素子層が各々形成されたPETフィルムを塗布側から見た図であり、図4(a)、(b)は光スイッチング層等を形成したもの(符号10)、図4(c)は表示素子層を形成したもの(符号20)を示す。なお、各図における数字は矢印で示される範囲の長さ(mm)である。
まず表示素子層を形成したPETフィルム20については、図4(c)の実線に示すように、20×42mmのサイズの穴を10個カットした。なお、点線部は後述する張り合わせ後に打ち抜く位置を示すものである。また、光スイッチング層を形成したPETフィルム10については、図4(a)の実線に示すように、20×20mmのサイズの穴を20個カットした。なお、点線部は同様に後述する張り合わせ後に打ち抜く位置を示すものである。これらのカット部分の周辺部を図4(b)のようにマスキングテープPでマスキング後、更に、完全水性型ドライラミネート接着剤であるディックドライWS−321A/LD−55(大日本インキ化学工業)を塗布乾燥させて厚さ4μmの接着層を形成した。マスキングテープ剥離後、この接着層の上に、表示素子層が形成されたPETフィルム20を、表示素子層と接着層とが接するように密着させ、100℃でラミネートを行い、モノクロ表示の光書き込み型表示媒体ベースを得た。
【0092】
得られた光書き込み型表示媒体ベースを用い、ミカドテクノス製スライド式トムソンプレスにより、1個の打ち抜き体の正面から見た形状が、図5に示すような形状(表示領域Dの面積:50mm×50mm、打ち抜きサイズ:70mm×50mm)の表示媒体を10個打ち抜き、光書き込み型表示媒体を作製した。この際の打ち抜き条件は、表示素子側を上面とし、推進力100kN、下死点0.2mm下で行った。
【0093】
(評価)
−はがれの状態確認−
打ち抜いた上記光書き込み型表示媒体100枚のうち、はがれが発生していないものを合格として合格率を算出した。
結果を表1に示す。
【0094】
−光書き込み特性−
また、作製した光書き込み記録媒体について、図5のハッチングで示した部分の塗膜を除去した後、図3で示したような書き込み装置に接続し、光書き込み記録媒体の両電極に電圧を印加して駆動し、反射率を調べた。光照射は660nmにピークを持つLED光源を用いた。電圧は、10Hz、2パルスで400Vとし、反射率が飽和時の90%となる光量を閾値光量とした。反射率の変化はX−rite404(Xrite社製)により測定した。なお、閾値光量が10μW/cm以上200μW/cm以下の範囲であれば、汎用のLEDを用いた種々のシステムで容易に設計可能となる。また、併せてデバイス表示部の欠陥についても確認した。
結果を表1に示す。
【0095】
<実施例2〜11、比較例1〜5>
実施例1の光書き込み型表示媒体の作製において、電荷発生層に用いたバインダー樹脂、P/B比及び溶媒、さらに乾燥温度を、各々表1に示すように変更した以外は、実施例1に準じて光書き込み型表示媒体の作製を行い、同様の評価を行った。
なお、実施例2については、日本酢ビ・ポバール社製ポリビニルアルコールVP−18にブチルアルデヒドとアセトアルデヒドを反応させて、重合度1800のポリビニルアセタールを得て評価を行った。また比較例2については、日本酢ビ・ポバール社製ポリビニルアルコールVO−S40にブチルアルデヒドを反応させて、重合度4000のポリビニルアセタールを得たが、ポリビニルアセタールがn−ブタノールに溶解せず、4質量%の塗布液が作製できなかったため、上部電荷発生層を形成できなかった。
結果をまとめて表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
以上の結果のように、実施例における光書き込み型表示媒体では、最終的な成形工程である打ち抜きによって、表示媒体端面付近に使用上問題となるはがれや破れが発生することが少なく、書き込み特性も良好であった。
一方、比較例では、打ち抜き時のはがれの割合が多いもの、デバイスの作製ができなかったものなど何らかの影響が見られた。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の光書き込み型表示媒体の断面の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明における光スイッチング素子の断面の一例を示す概略構成図である。
【図3】画像書き込み装置の一例を示す概略構成図である。
【図4】塗布後のPETフィルムを塗布側から見た模式図である。
【図5】打ち抜き後の表示媒体の形状を示す模式図である。
【符号の説明】
【0099】
10、20 光スイッチング素子層または表示素子層を形成したPETフィルム
30 光スイッチング素子
31、41 基板
32、42 電極
33 下部電荷発生層
34 電荷輸送層
35 上部電荷発生層
40 表示素子
43 表示層
50 光書き込み型表示媒体
52 機能膜
65 コネクター
70、82 制御手段
84 光パターン生成手段
86 光照射手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電荷発生層及び該一対の電荷発生層に挟持された電荷輸送層を含む光スイッチング素子と、メモリ性を有する表示層を含む表示素子と、が積層されて構成され、
前記電荷発生層が、結着樹脂として下記一般式(I)で表されるポリビニルアセタール樹脂を含み、該ポリビニルアセタール樹脂の平均重合度が700〜3500の範囲であることを特徴とする光書き込み型表示媒体。
【化1】


(上記式中、少なくとも1単位におけるRはCである。また、X、Y、Zは質量分率を示し、X+Y+Z=100である。)
【請求項2】
前記電荷発生層が層形成用塗布液を用いた塗布により形成され、層形成後の乾燥を90〜150℃の範囲で行うことを特徴とする請求項1に記載の光書き込み型表示媒体。
【請求項3】
前記電荷発生層における電荷発生材料と結着樹脂との混合質量比(電荷発生材料/結着樹脂)が、9/1〜4/6の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載の光書き込み型表示媒体。
【請求項4】
前記電荷発生層が層形成用溶液を用いた塗布により形成され、該層形成用溶液が溶媒としてn−ブタノールを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光書き込み型表示媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−292899(P2008−292899A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140185(P2007−140185)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】