説明

光機能素子の製造方法

【課題】異なる周期の周期分極反転構造を均一に形成することができる光機能素子の製造方法を得ること。
【解決手段】強誘電体材料からなる基板101の一の主面上の対向する一対の辺の周縁部に絶縁層102を形成する工程と、基板101の一の主面上に金属膜を形成し、他の主面上に裏面電極104を形成する工程と、金属膜103Aをパターニングし、一対の絶縁層102間に形成された領域内に、絶縁層102間を結ぶ方向に延在した所定の周期の櫛歯電極105A,105Bを、複数の周期でそれぞれ異なる領域に形成し、絶縁層102上にそれぞれの櫛歯電極105A,105Bの端部と接続される外枠電極105Cを形成する工程と、外枠電極105Cと裏面電極104との間に電圧を印加する工程と、を含み、櫛歯電極105A,105Bの延在方向における外枠電極105Cの長さは、櫛歯電極の周期が長い領域ほど短くなるように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、強誘電体材料基板に周期分極反転構造を形成した光機能素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子ビームや形状加工した電極を用いて強誘電体材料基板に電界を印加すると、任意箇所に分極反転領域を形成することができ、種々の光機能素子を実現することができる。たとえば、この技術を用いて強誘電体材料の非線形光学結晶基板に反転と非反転を繰り返す周期分極反転構造を形成することで、非線形光学結晶基板への入射波と非線形光学効果によって発生した第2高調波の擬似位相整合が成立し、高効率な光波長変換素子を製造することができる。
【0003】
このような周期分極反転構造の形成方法として、Z面でカットされたニオブ酸リチウム(LiNbO3)の結晶基板に対して、結晶基板の+Z面へ櫛歯電極を設け、−Z面へ平面電極を設け、櫛歯電極と平面電極との間に所定の分極反転電圧を印加し、櫛歯電極直下のZ軸方向に分極反転領域を成長させ、周期分極反転構造を形成するものが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。しかし、この特許文献1による分極反転構造は、櫛歯幅よりも分極反転幅が広がってしまう(以下、これを過反転という)という問題があった。
【0004】
光波長変換素子の波長変換効率は、基板材料の非線形光学係数に依存するとともに、光入射方向において反転/非反転の1周期における反転/非反転幅の比率が50:50に近いほど、高い変換効率を得られることが知られている。そのため、特許文献1による波長変換素子は、光入射方向における反転/非反転幅の比率が不均一であるので、低い波長変換効率しか得られず、産業面で活用することは困難であった。
【0005】
そこで、10μm以下の周期のような狭い間隔の分極反転構造を形成する場合に、過反転を抑える様々な製造方法が提案されている。たとえば、狭い周期の櫛歯電極を広い周期の櫛歯電極に分割し、それぞれの電極へ別々に電圧を印加して分極反転を行う製造方法が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。この製造方法によって、たとえば、7μm程度の単一の周期による分極反転構造が高精度に形成することが可能となる。
【0006】
ところで、反転/非反転の周期は単一でも波長変換機能などを発現することができるが、複数の異なる周期の分極反転構造を1つの素子に形成することで、複数の光の和周波数や差周波数を発生させることができ、さらに多くの用途に用いることができる(たとえば、非特許文献1,2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平4−19719号公報
【特許文献2】特開2003−307758号公報
【非特許文献1】M. Robles-Agudo, et al, “RGB source based on simultaneous quasi-phase-matched second and third harmonic generation in periodically poled lithium niobate”, OPTICS EXPRESS, Vol.14, No.22, Oct, 2006
【非特許文献2】X. P. Hu, et al, “High-power red-green-blue laser light source based on intermittent oscillating dual-wavelength Nd:YAG laser with a cascaded LiTaO3 superlattice”, OPTICS LETTERS, Vol.33, No.4, Feb, 2008, p.408-410
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1,2に記載されている異なる周期の分極反転パターンを形成するには、たとえばその分極反転パターンに合わせて異なる周期の櫛歯電極を強誘電体結晶基板の+Z面に設け、平面電極を−Z面に設け、櫛歯電極と平面電極との間に所定の分極反転電圧を印加し、櫛歯電極直下のZ軸方向に分極反転領域を成長させ、周期分極反転構造を形成する。このとき、広い間隔の周期を持つ櫛歯電極下の分極反転の進行は遅く、狭い間隔の分極反転の進行は速くなる現象が起こる。このため、広い間隔の分極反転が終了するときには、狭い間隔の分極反転は所定の分極反転幅よりも過剰に広くなってしまう。逆に、狭い間隔の分極反転の完了に合わせて電圧を印加する時間を短くすると、長い周期の櫛歯電極における分極反転は半分程度しか完了していない状態になってしまう。
【0009】
このような問題点は、10μmを超える複数の周期で構成される周期分極反転構造を形成する場合には、過反転が数μm程度で起こることを考慮して、短い周期の櫛歯電極の幅を狭くするという設計の変更によって解決可能である。しかし、10μm以下の周期を含む周期分極反転構造を形成する場合には、製造設計上の電極幅の制限があるために、最大で数μmの過反転マージンしか設けることができない。つまり、所定の領域における分極反転が完了してからさらに電圧を印加すると、隣接する分極反転の櫛歯が繋がってしまうなどの問題が起こってしまう。
【0010】
このように、特許文献1,2に記載の方法で、非特許文献1,2に記載されている異なる周期の分極反転構造を形成しようとしても、異なる周期の分極反転構造を均一で、高精度にしかも高い歩留まりで形成することができないという問題点があった。
【0011】
この発明は、上記に鑑みてなされたもので、異なる周期の周期分極反転構造を有する光機能素子を形成する方法において、異なる周期の周期分極反転構造を均一で、高精度にしかも高い製造歩留まりで形成することができる光機能素子の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、この発明にかかる光機能素子の製造方法は、強誘電体材料からなる基板の第1の主面上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、前記基板の対向する一対の辺の周縁部にのみ前記絶縁層が残るようにパターニングするパターニング工程と、前記パターニングされた絶縁層が形成された前記基板上に金属膜を形成する金属膜形成工程と、前記基板の第2の主面上に裏面電極を形成する裏面電極形成工程と、前記一対の絶縁層間に形成された周期分極反転構造形成領域内に、前記絶縁層間を結ぶ方向に延在した電極を所定の周期で櫛歯状に複数並列に配置した櫛歯電極が、複数の周期でそれぞれ異なる領域に形成され、前記絶縁層上に、前記櫛歯電極の端部と接続され、前記異なる周期の櫛歯電極間を接続する外枠電極が形成されるように、前記金属膜をパターニングし、表面電極を形成する表面電極形成工程と、前記外枠電極と前記裏面電極との間に、少なくとも周期の最も短い櫛歯電極の下の領域で分極反転が完了する時間の間、電圧を印加して周期分極反転構造を形成する周期分極反転構造形成工程と、を含み、前記櫛歯電極の延在方向における前記外枠電極の長さは、前記櫛歯電極の周期が長い領域ほど短くなるように形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、櫛歯電極の延在方向における外枠電極の長さを、櫛歯電極の周期が長い領域ほど短くなるように形成したので、周期の短い櫛歯電極ほど、櫛歯電極の延在方向の分極反転の形成が遅くなるようにした。そのため、過反転のマージンの小さい狭い周期間隔の分極反転パターンに対して電圧印加時間を調整できるので、異なる周期を持つ分極反転パターンにおいても均一で高精度な周期分極反転構造を実現することができるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる光機能素子の製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、これらの実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、以下の実施の形態で用いられる光機能素子の断面図は模式的なものであり、層の厚みと幅との関係や各層の厚みの比率などは現実のものとは異なる。
【0015】
実施の形態1.
強誘電体結晶基板に周期的な分極反転構造を形成するための光機能素子の製造方法を説明する。図1−1〜図1−6は、この実施の形態1にかかる光機能素子の製造方法の処理手順の一例を模式的に示す斜視図である。なお、以下の説明では強誘電体結晶基板としてニオブ酸リチウム(LiNbO3)を用いるが、このニオブ酸リチウムの基板を単に「基板」と称して、この実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。また、明細書全文に表れている構成要素の形容やサイズは、あくまで例示であってこれらの記載に限定されるものではない。さらに、以下説明する製造方法では、ニオブ酸リチウムの基板を例にとって説明するが、電界の印加により分極反転を起こす非線形光学結晶であればニオブ酸リチウムに限られずに利用できる製造方法である。
【0016】
まず、図1−1に示されるように、厚さ0.5mmの矩形状の基板101の表面に、スパッタ法や蒸着法によって厚さ0.5μmの絶縁層102Aを成膜する。ここで、図1−1中に示した絶縁層102Aが形成されている側の基板101の面は、ニオブ酸リチウム基板の+Z面である。また、絶縁層102Aとして、電気絶縁性と加工容易性を考慮して、シリコン酸化膜(SiO2)やシリコン窒化膜(Si34)などを用いることができる。以下では、SiO2を絶縁層102Aとして用いる場合を説明する。
【0017】
ついで、絶縁層102A上に、3.0μmの厚さとなるようにノボラック系などの感光性レジストを塗布し、フォトリソグラフィによって後述する外枠電極の下に位置する感光性レジストをパターニングする。そして、図1−2に示されるように、この感光性レジストをエッチングマスクとして、BHF(バッファドフッ酸)で絶縁層102Aをエッチングした後、エッチングマスクを酸素プラズマアッシングなどで除去して、外枠電極の下部に位置する絶縁層102を形成する。結果的に、基板101の一対の対向する辺の周縁部に絶縁層102が形成される。また、この絶縁層102で挟まれる領域を、周期分極反転構造形成領域Rというものとする。
【0018】
ついで、図1−3に示すように、パターニングされた絶縁層102が形成された基板101の表面(+Z面)に、0.5μmの金属膜103Aをスパッタ法や蒸着法、イオンプレーティング法などの成膜方法によって成膜する。さらに、基板101の裏面(−Z面)にも厚さ0.5μmの金属膜をスパッタ法や蒸着法、イオンプレーティング法などの成膜方法によって成膜し、裏面電極104を形成する。ここで、形成する金属膜103Aと裏面電極104には、基板101との密着性を考慮して、Cr,Ti,Ta,Ni,NiCrなどが有効である。一方で、成膜前にフッ酸洗浄などの基板洗浄を行って密着性を向上させた基板101を用いる場合には、Au,Ag,Cu,Alなどの低抵抗な金属を用いても、櫛歯間の電気抵抗を下げるので電界均一化の点で有効である。以下では、Tiを金属膜103Aと裏面電極104に用いる場合を説明する。
【0019】
ついで、金属膜103A上に感光性レジストを塗布し、第1の周期の第1の櫛歯電極と、第1の周期よりも長い第2の周期の第2の櫛歯電極と、第1と第2の櫛歯電極の端部と接続され、第1の櫛歯電極と第2の櫛歯電極とを接続するように形成される外枠電極と、を含む表面電極のパターンとなるように、フォトリソグラフィによって感光性レジストをパターニングしてエッチングマスクを形成する。そして、平行平板型プラズマエッチャによる塩素プラズマエッチングでエッチングマスクを用いて金属膜103Aをパターニングし、その後にエッチングマスクを除去する。その結果、図1−4の斜視図に示されるように、第1の櫛歯電極105A、第2の櫛歯電極105Bおよび外枠電極105Cを含む表面電極が形成される。なお、外枠電極105Cは、第1と第2の櫛歯電極105A,105Bの端部と接続され、絶縁層102上に形成される。また、ここで、第1の櫛歯電極105Aと第2の櫛歯電極105Bは、周期分極反転構造形成領域Rに形成された部分のことをいうものとする。
【0020】
ここで、第1の櫛歯電極105Aの櫛歯周期p1は10μmであり、櫛歯幅w1は3μmであり、第2の櫛歯電極105Bの櫛歯周期p2は30μmであり、櫛歯幅w2は10μmである。また、背景技術で説明したように、それぞれの周期における非分極反転幅と分極反転幅は、50:50が理想的であるので、この実施の形態1の場合には、第1の櫛歯電極105Aによって形成される分極反転幅は5μmが理想的であり、第2の櫛歯電極105Bによって形成される分極反転幅は15μmが理想的である。これらの理想的な分極反転幅と櫛歯幅の差が過反転マージンである。すなわち、第1の櫛歯電極105Aの過反転マージンは2μmであり、第2の櫛歯電極105Bの過反転マージンは5μmである。
【0021】
また、この実施の形態1では、絶縁層102上に形成される外枠電極105Cの櫛歯電極の延在方向における長さ(以下、外枠電極絶縁長さという)を、櫛歯周期が広いほど短くするように、外枠電極105Cがパターニングされる。このように、櫛歯周期の長さに応じて外枠電極絶縁長さを変化させることで、周期分極反転構造を形成する際に電圧を印加したとき、反転核が発生する時間を、外枠電極絶縁長さが長いほど遅らせることが可能となる。ここでは、外枠電極絶縁長さ(第1の櫛歯電極105Aの端部から外枠電極105Cの端部までの距離)aは500μmであり、外枠電極絶縁長さ(第2の櫛歯電極105Bの端部から外枠電極105Cの端部まで距離)bは200μmである。
【0022】
このように、実施の形態1では、絶縁層102上に形成する外枠電極105Cの外枠電極絶縁長さを異なる周期の櫛歯電極が形成される領域ごとに変えるようにしたので、異なる周期の櫛歯電極が形成される領域の境界で、外枠電極105Cのパターンが曲げられて、角部106が生じる。
【0023】
ついで、上記の工程を経て作製した基板101の電極形成面を分極反転させる。具体的には、基板101上の外枠電極105Cと裏面電極104との間に電圧を印加し、基板101の第1と第2の櫛歯電極105A,105Bが形成された領域を分極反転させる。このとき、少なくとも第2の櫛歯電極105Bで分極反転が完了する時間、電圧を印加するものとする。
【0024】
その後、図1−5に示されるように、第1と第2の櫛歯電極105A,105B、外枠電極105C、裏面電極104および絶縁層102を、50%濃度のフッ酸などの酸溶剤で除去する。基板101上の第1と第2の櫛歯電極105A,105Bが形成されていた領域は、電圧印加によって分極反転して分極反転領域201となり、第1と第2の櫛歯電極105A,105Bと接しなかった基板101上の領域は非分極反転領域202となる。以上の工程で第1の櫛歯電極105Aの櫛歯周期p1と第2の櫛歯電極105Bの櫛歯周期p2を適宜調整することによって、所望の2つの周期による分極反転領域201と非分極反転領域202とが繰り返される周期分極反転構造を作製することができる。
【0025】
ここで、分極反転は材料固有の分極反転電界が印加されたときに発生するが、ニオブ酸リチウムの分極反転電界の強度は室温で約20kV/mmである。したがって、この実施の形態1で説明している0.5mm厚のニオブ酸リチウム基板の例では、分極反転電圧は常温で10kV程度が好ましいことになる。また、分極反転はパターン(櫛歯電極)の延在方向の端部に形成される反転核を起点として、電極に沿って分極反転領域201が広がっていく。この分極反転領域201が広がる速度は、電圧や電極パターンに依存する。印加電圧が高く、電極パターンが密なほど分極反転領域201は速く広がっていく。この実施の形態1による場合では、3〜5秒程度の電圧印加で所定の分極反転領域201が形成される。
【0026】
また、長い周期の第2の櫛歯電極105Bに接続される外枠電極105Cの外枠電極絶縁長さbが、短い周期の第1の櫛歯電極105Aに接続される外枠電極105Cの外枠電極絶縁長さaよりも短くなっているため、フリンジ効果による高電界の影響を受けて、反転核が第1の櫛歯電極105Aよりも速く生成され、その結果、分極反転の進行が速くなる。このため、第2の櫛歯電極105Bにおける分極反転が先に完了する。さらに、第2の櫛歯電極105Bは、第1の櫛歯電極105Aに比して長周期であるため過反転のマージンを設計上大きく取ることができる。その結果、第1の櫛歯電極105Aにおける分極反転が完了するまで電圧を印加しても、第2の櫛歯電極105Bにおいて隣接する櫛歯間の分極反転領域201が繋がってしまうなどの過剰なパターン劣化が生じない。
【0027】
最後に、基板101外周の不要な領域をダイシングソーなどで切り落とし、断面を光学研磨することで、図1−6に示されるような均一で高精度な周期分極反転構造を持つ波長変換素子107を製造することができる。
【0028】
なお、上述した説明では、異なる周期の2つの周期分極反転構造を基板101に形成する場合を例に挙げたが、異なる周期の3つ以上の周期分極反転構造を基板101に形成する場合にも、同様の方法によって形成することができる。
【0029】
ここで、外枠電極絶縁長さを、周期の異なる櫛歯電極で同じにして、異なる周期の分極反転パターンを形成した場合と比較して、この実施の形態1による効果について説明する。図2−1は、外枠電極絶縁長さを周期の異なる櫛歯電極で同じにして形成した電極の状態を模式的に示す斜視図であり、図2−2は、図2−1の基板に電圧を4秒印加して周期分極反転構造を形成した状態を模式的に示す斜視図であり、図2−3は、図2−1の基板に電圧を10秒印加して周期分極反転構造を形成した状態を模式的に示す斜視図である。
【0030】
なお、ここでは、10μmの周期間隔で3μmの櫛歯幅で5mm長さの櫛歯が500本並んだ第1の櫛歯電極105Aと、30μmの周期間隔で10μmの櫛歯幅で長さ5mmの櫛歯が160本並んだ第2の櫛歯電極105Bと、が配置される場合を例に挙げて説明する。また、この例では、上述したように、第1の櫛歯電極105Aが形成される領域と第2の櫛歯電極105Bが形成される領域に接続され、絶縁層102上に形成される外枠電極105Cの外枠電極絶縁長さは同じとなっている。
【0031】
まず、図2−1に示される状態で、外枠電極105Cと裏面電極104との間に電圧を4秒間印加する。この場合、第1と第2の櫛歯電極105A,105Bの端部に接続される外枠電極絶縁長さがともに同じであるので、電圧を印加してから第1と第2の櫛歯電極105A,105Bの端部に反転核が形成されるまでの時間は等しい。そのため、この反転核を起点として第1と第2の櫛歯電極105A,105Bの延在方向に沿って分極反転領域が広がっていく。しかし、上記したように、広い櫛歯周期を有する第2の櫛歯電極105Bの方が分極反転の進行が遅いので、図2−2に示されるように、第1の櫛歯電極105Aの分極反転が完了する4秒間の電圧印加では、第2の櫛歯電極105Bの分極反転は半分程度しか完了していない。すなわち、第1の櫛歯電極105Aが形成された領域では、分極反転領域201と非分極反転領域202の幅は所望の幅となっているが、第2の櫛歯電極105Bが形成された領域では、分極反転領域201が櫛歯電極の延在方向で非分極反転領域202が切断される構造となっている。
【0032】
一方、図2−1に示される状態で、外枠電極105Cと裏面電極104との間に電圧を10秒間印加する。この場合も、第1と第2の櫛歯電極105A,105Bの端部に接続される外枠電極絶縁長さがともに同じであるので、電圧を印加してから第1と第2の櫛歯電極105A,105Bの端部に反転核が形成されるまでの時間は等しい。そのため、この反転核を起点として第1と第2の櫛歯電極105A,105Bの延在方向に沿って分極反転領域が広がっていく。しかし、上記したように、狭い櫛歯周期を有する第1の櫛歯電極105Aの方が分極反転の進行が速いので、図2−3に示されるように、第2の櫛歯電極105Bの分極反転が完了する10秒間の電圧印加では、第1の櫛歯電極105Aにおける分極反転は、櫛歯間も分極反転が進行しており、過反転状態となる。すなわち、第2の櫛歯電極105Bが形成された領域では、分極反転領域201と非分極反転領域202の幅は所望の幅となっているが、第1の櫛歯電極105Aが形成された領域では、分極反転領域201が所望の幅よりも太く形成され、非分極反転領域202の幅が狭くなってしまっている。
【0033】
このように、図2−1に示されるような外枠電極絶縁長さを周期の異なる櫛歯電極で同じにして、異なる周期の分極反転パターンを形成する方法では、電圧印加時間を調整しても、過反転を起こさずに短い周期と長い周期の分極反転を完了させることができない。
【0034】
しかし、この実施の形態1では、櫛歯電極の周期に応じて外枠電極絶縁長さを変えるようにしたので、より具体的には、櫛歯電極の周期が長いほど、外枠電極絶縁長さを短くするようにしたので、電圧印加時に櫛歯電極の周期が長いほど速く反転核が櫛歯電極の端部に形成され、周期の短い櫛歯電極に比して早く分極反転が開始されるので、櫛歯周期の長い櫛歯電極と短い櫛歯電極との間で、分極反転が完了する時間を制御することができる。
【0035】
この実施の形態1によれば、櫛歯電極の周期に応じて外枠電極絶縁長さを変えるようにしたので、過反転を起こさずに短い櫛歯周期と長い櫛歯周期の分極反転を完了させることができる。また、櫛歯周期の長い櫛歯電極で先に分極反転が完了したとしても、櫛歯周期の長い櫛歯電極の方が過反転マージンを大きく取ることができるので、過反転マージンを適切に取ることで、隣接する櫛歯との間で過反転による分極反転領域が繋がってしまうことを防ぐこともできる。
【0036】
さらに、櫛歯電極端部での過反転を抑制することができ、それぞれの櫛歯周期の領域で、櫛歯電極の延在方向に沿って均一な幅の分極反転領域201を形成することができる。これによって、基板1枚あたりの素子有効面積を減らさずに、分極反転領域201と非分極反転領域202の幅の比率が50:50となる均一で高精度な周期分極反転構造を、高い製造歩留まりで実現することができる。その結果、低生産コストでかつ高い波長変換効率を実現する光機能素子の製造方法が得られるという効果も有する。
【0037】
さらにまた、このようにして形成された周期分極反転構造を有する波長変換素子を光機能素子に適用すると、波長変換効率の向上により、基本レーザの消費エネルギを抑えることができ、また光源モジュールを小型化することができるという効果も有する。
【0038】
実施の形態2.
実施の形態1では、絶縁層にSiO2などの無機材料を用いた場合を説明したが、この実施の形態2では、絶縁層に樹脂を用いる場合を説明する。
【0039】
図3−1〜図3−4は、この実施の形態2にかかる光機能素子の製造方法の処理手順の一例を模式的に示す斜視図である。まず、図3−1に示されるように、基板101上にスピンコート法によって、フォトレジスト111Aを塗布する。このフォトレジスト材料は半導体装置の製造工程で汎用的に使用されるものでよく、たとえばAZエレクトロニックマテリアルズ社製のAZ4330(商品名)などの樹脂材料を用いることができる。塗布する膜厚は絶縁性を考慮して1μm以上が好ましく、たとえば回転数3000rpmでスピンコートして3μmの膜厚を塗布すればよい。
【0040】
ついで、図3−2に示されるように、フォトリソグラフィによってフォトレジスト111Aをパターニングして、絶縁層111を形成する。これによって、周期分極反転構造が形成される領域の基板101表面が露出される。そして、絶縁性を向上させるため、150℃で3時間のベーク処理を施す。
【0041】
このとき、短い櫛歯周期の第1の櫛歯電極を形成する領域と長い櫛歯周期の第2の櫛歯電極を形成する領域とで、櫛歯電極の長さが異なるように、絶縁層111間の距離が変えられる。つまり、短い櫛歯周期の第1の櫛歯電極を形成する領域では、絶縁層111間の距離(周期分極反転構造形成領域Rの櫛歯電極の延在方向の長さ)がL1となるようにパターニングされ、長い櫛歯周期の第2の櫛歯電極を形成する第2の領域では、絶縁層111間の距離がL1よりも長いL2となるようにパターニングされる。
【0042】
これによって、実施の形態1では、絶縁層111上に形成される外枠電極絶縁長さを、櫛歯周期幅に応じて外枠電極105Cのパターニングによって変化させていたものを、この実施の形態2では、絶縁層111の幅を変えることによって変化させている。
【0043】
その後、実施の形態1で示したように、基板101の表面(+Z面)に金属膜103Aを形成し、基板101の裏面(−Z面)に裏面電極104を形成した後、基板101の表面の金属膜103Aをフォトリソグラフィとエッチングを用いてパターニングを行う。その結果、図3−3に示されるように、第1の櫛歯電極105A、第2の櫛歯電極105Bおよび外枠電極105Cを有する電極パターンが形成される。なお、このとき、櫛歯周期の異なる領域ごとに絶縁層111の幅を変えているので、絶縁層111上に形成される外枠電極105Cの端部は、直線状の形状となる。つまり、実施の形態1の図1−4に示されるように、第1の櫛歯電極105Aの形成領域と第2の櫛歯電極105Bの形成領域との間で外枠電極105Cの配線を曲げる必要がない。
【0044】
そして、実施の形態1で説明したように、少なくとも櫛歯周期の最も短い第1の櫛歯電極105Aで分極反転が完了する時間、外枠電極105Cと裏面電極104との間に電圧を印加すると、図3−4に示されるような構造の周期分極反転構造が得られる。
【0045】
この実施の形態2によれば、フォトレジスト111Aを用いて絶縁層111を形成するようにしたので、絶縁層111を所望の形状にパターニングすることが容易となる。そこで、第1の櫛歯電極105Aの形成領域と第2の櫛歯電極105Bの形成領域との間に絶縁層111のパターン形状に角部を持たせることによって、実施の形態1の図1−4の外枠電極105Cに形成される角部106を削減して、電圧印加時に外枠電極105Cの角部106で生じる放電の危険性を減少させることができるという効果を、実施の形態1の効果に加えて有する。また、絶縁層102にフォトレジストを用いるようにしたので、絶縁層102の成膜やパターニング工程の製造コストが抑えられ、低コストで光機能素子を製造することができるという効果も有する。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、この発明にかかる光機能素子の製造方法は、周期分極反転構造を有する強誘電体の製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1−1】この実施の形態1にかかる光機能素子の製造方法の処理手順の一例を模式的に示す斜視図である(その1)。
【図1−2】この実施の形態1にかかる光機能素子の製造方法の処理手順の一例を模式的に示す斜視図である(その2)。
【図1−3】この実施の形態1にかかる光機能素子の製造方法の処理手順の一例を模式的に示す斜視図である(その3)。
【図1−4】この実施の形態1にかかる光機能素子の製造方法の処理手順の一例を模式的に示す斜視図である(その4)。
【図1−5】この実施の形態1にかかる光機能素子の製造方法の処理手順の一例を模式的に示す斜視図である(その5)。
【図1−6】この実施の形態1にかかる光機能素子の製造方法の処理手順の一例を模式的に示す斜視図である(その6)。
【図2−1】外枠電極絶縁長さを周期の異なる櫛歯電極で同じにして形成した電極の状態を模式的に示す斜視図である。
【図2−2】図2−1の基板に電圧を4秒印加して周期分極反転構造を形成した状態を模式的に示す斜視図である。
【図2−3】図2−1の基板に電圧を10秒印加して周期分極反転構造を形成した状態を模式的に示す斜視図である。
【図3−1】この実施の形態2にかかる光機能素子の製造方法の処理手順の一例を模式的に示す斜視図である(その1)。
【図3−2】この実施の形態2にかかる光機能素子の製造方法の処理手順の一例を模式的に示す斜視図である(その2)。
【図3−3】この実施の形態2にかかる光機能素子の製造方法の処理手順の一例を模式的に示す斜視図である(その3)。
【図3−4】この実施の形態2にかかる光機能素子の製造方法の処理手順の一例を模式的に示す斜視図である(その4)。
【符号の説明】
【0048】
101 基板
102,102A,111 絶縁層
103A 金属膜
104 裏面電極
105A 第1の櫛歯電極
105B 第2の櫛歯電極
105C 外枠電極
106 角部
107 波長変換素子
111A フォトレジスト
201 分極反転領域
202 非分極反転領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電体材料からなる基板の第1の主面上に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
前記基板の対向する一対の辺の周縁部にのみ前記絶縁層が残るようにパターニングするパターニング工程と、
前記パターニングされた絶縁層が形成された前記基板上に金属膜を形成する金属膜形成工程と、
前記基板の第2の主面上に裏面電極を形成する裏面電極形成工程と、
前記一対の絶縁層間に形成された周期分極反転構造形成領域内に、前記絶縁層間を結ぶ方向に延在した電極を所定の周期で櫛歯状に複数並列に配置した櫛歯電極が、複数の周期でそれぞれ異なる領域に形成され、前記絶縁層上に、前記櫛歯電極の端部と接続され、前記異なる周期の櫛歯電極間を接続する外枠電極が形成されるように、前記金属膜をパターニングし、表面電極を形成する表面電極形成工程と、
前記外枠電極と前記裏面電極との間に、少なくとも周期の最も短い櫛歯電極の下の領域で分極反転が完了する時間の間、電圧を印加して周期分極反転構造を形成する周期分極反転構造形成工程と、
を含み、
前記櫛歯電極の延在方向における前記外枠電極の長さは、前記櫛歯電極の周期が長い領域ほど短くなるように形成されることを特徴とする光機能素子の製造方法。
【請求項2】
前記表面電極形成工程で、前記櫛歯電極の延在方向における前記外枠電極の長さが、前記櫛歯電極の周期が長い領域ほど短くなるように、前記外枠電極のパターニングが行われることを特徴とする請求項1に記載の光機能素子の製造方法。
【請求項3】
前記絶縁層は、シリコン酸化膜またはシリコン窒化膜のいずれかであることを特徴とする請求項2に記載の光機能素子の製造方法。
【請求項4】
前記パターニング工程で、前記周期の長い櫛歯電極が形成される領域ほど、前記櫛歯電極の延在方向における前記周期分極反転構造形成領域の長さが長くなるように、前記絶縁層がパターニングされることを特徴とする請求項1に記載の光機能素子の製造方法。
【請求項5】
前記絶縁層は、フォトレジスト材料であることを特徴とする請求項4に記載の光機能素子の製造方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図1−5】
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【図1−6】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【公開番号】特開2010−156787(P2010−156787A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334329(P2008−334329)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】