説明

光毛髪成長調節装置

【課題】毛髪成長調節用の光照射を安全に行う。
【解決手段】毛髪の成長を調節する光を人体の光照射対象部に照射する毛髪成長調節用光照射部1と、人体の計測のための光を人体の光照射対象部に照射する計測用光照射部2と、計測用光照射部から照射されて上記光照射対象部で反射した光を受光する受光部3と、上記受光部で受光した光の情報を演算処理する処理部4と、処理部による演算結果に基づいて毛髪成長調節用光照射部1からの光照射を光照射対象部に対して行うか否かを判断する判断部5とを有する。計測用光照射部から照射した光の反射光を基に、光照射対象部に毛髪成長調節用光照射部の光を当てるかどうかが判断されて光照射が制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を照射することで毛髪成長の促進もしくは毛髪成長の抑制を行う光毛髪成長調節装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
毛(体毛)は成長期から退行期、休止期というサイクルで変化する毛周期を有することが知られている。そして既存の医療用レーザ等で見られるような細胞形態上の変化が生じることがない光量や光エネルギーを持つ光を上記の休止期において行えば、毛周期の成長期における毛の成長が早く進むことが確認されているとともに、細胞の破壊が生じることがなくて火傷等の副作用発生が無いことも確認されている。また、上記毛周期における成長期に光照射を行えば、毛の成長が効果的に抑制されることも確認されている。なお、休止期や成長期に細胞形態上の変化が生じないレベルの光照射を行うと、毛髪の成長が促進されたり抑制されたりする理由は明らかではないが、RNAレベルでの分析結果では上記光照射によって炎症性サイトカインの活性化が起きていることから、この炎症性サイトカインの活性化によるものと考えられている。
【0003】
ところで、上記のような毛髪成長調節用の光を人体の皮膚に照射することで、毛の成長の促進あるいは抑制を行うにあたり、人体の光照射対象部にのみ光を当てることができればよいのですが、光照射対称部は人によって異なる上に、同じ部位に光を当てるとしてもその部位の形状や大きさには個人差があるために、光照射対象部以外のところにも光を照射してしまうことが生じる。人体表面でも光を過度に当てることは好ましくない部位が存在していることから、尚更問題となる。
【0004】
レーザを用いた脱毛装置などのように施療者が装置を扱うものでは、皮膚の導電率の計測、あるいは皮膚への接触を確認することができるものを、施療者が被治療者の光照射対象としては好ましくない部位への光照射を行ってしまうことを避けるために利用したものが存在しているが、上記装置では、照射対象とする部分であるか照射対象としない部分であるかの判断を装置側でできないために施療者が行っており、被治療者が単独で使用する装置に適用することができない。
【特許文献1】特開2001−292825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、光照射を安全に行うことができる光毛髪成長調節装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明に係る光毛髪成長調節装置は、毛髪の成長を調節する光を人体の光照射対象部に照射する毛髪成長調節用光照射部と、人体の計測のための光を人体の光照射対象部に照射する計測用光照射部と、該計測用光照射部から照射されて上記光照射対象部で反射した光を受光する受光部と、上記受光部で受光した光の情報を演算処理する処理部と、処理部による演算結果に基づいて毛髪成長調節用光照射部からの光照射を上記光照射対象部に対して行うか否かを判断する判断部とを有していることに特徴を有している。
【0007】
上記処理部は光照射対象部の推定形状を出力するものであり、上記判断部は上記推定形状が人体の眼球形状と同じである場合に光照射対象部に対する毛髪成長調節用光照射部からの光照射を行わないと判断するものであると、特に眼に対する安全性を高めることができる。
【0008】
上記処理部は光照射対象部の推定形状を出力するものであり、上記判断部は上記推定形状が一定周期の凹凸形状である場合に光照射対象部に対する毛髪成長調節用光照射部からの光照射を行わないと判断するものであってもよく、この場合、皮膚の病変部に対して危険な光を照射するおそれが低くなる。
【0009】
処理部は光切断法によって光照射対象部の断面の曲率を求めてこれを出力するものであり、判断部は求められた曲率が人体の眼球の曲率と同じである場合に光照射対象部に対する毛髪成長調節用光照射部からの光照射を行わないと判断するものであってもよい。眼球に対する安全性を比較的簡単に向上させることができる。
【0010】
前記計測用光照射部は特定方向に偏光した光を照射するものであり、前記受光部は受光した光の偏光情報を求められるものであることが好ましい。より正確な処理や判断を行うことができるものとなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、計測用光照射部から照射した光の反射光を基に、光照射対象部が毛髪成長調節用光照射部の光を当ててよいものかどうかが判断されて光照射が制限されるために、眼球などの光を当てないことが好ましいところへの光照射がないものであり、安全に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明すると、図1において、図中1は毛髪の成長を調節する光を人体の光照射対象部に照射する毛髪成長調節用光照射部であり、たとえばキセノンフラッシュランプを光源としている。
【0013】
図中2は人体の計測のための光を人体の光照射対象部に照射する計測用光照射部であり、ここではライン光を人体の皮膚表面9に対して斜め45°方向から照射するものを用いている。
【0014】
上記計測用光照射部2から照射されて上記皮膚表面9における光照射対象部で反射した光は、光照射対象部の直上に配置したCCDカメラからなる受光部3で受光されて電気信号に変換される。
【0015】
斜め方向からライン状の光を照射するために、受光部3は凹凸形状の高さ変化を計測することができるものであり、また計測用光照射部2及び受光部3を皮膚表面9に沿って光照射対象部の範囲内で移動させることによって、3次元形状データを得ることができる。
【0016】
なお、図1において、図中4は受光部で受光した光の情報を演算処理する処理部であり、画像記憶部41と高さ算出部42と三次元形状データ記憶部43並びに三次元形状データ作成のために計測用光照射部2の光の照射位置を計測する位置計測エンコーダ45からの出力に応じて計測タイミングを定める計測タイミング発生部44で構成されている。図2に3次元形状データを得るためのフローチャートを示す。
【0017】
ところで皮膚表面9に投光してその反射光を計測する場合、皮膚表面9の反射と皮膚内部を通過した反射光とが混在することになる。しかし、皮膚表面9での反射光は、偏光は照射光と同様の偏光であるが、皮膚内部を通過した光は内部組織による偏光角度の変化の影響を受けることから、ここでは照射する光を偏光フィルター20によってある一方向に偏光した光とし、受光部3の前に照射光と同じ偏光方向の偏光フィルタ30を設置することによって、皮膚表面9での反射光のみが受光部3に至るものとし、これによって皮膚表面9の3次元形状計測を正確に行えるようにしている。
【0018】
上記のようにして得られた三次元形状データは、判断部5において予め定めた形状と一致するかどうかによって、光照射対象部3に毛髪成長調節用光照射部1からの光を光照射対象部に照射するかどうかを判断し、照射してもよいとの結果が出た場合にのみ、毛髪成長調節用光照射部1からの光を光照射対象部に照射する。
【0019】
判断部5による処理の一例を下記に示す。眼球が有している曲面形状を上記の予め定めた形状とした場合、図3に示すようなK×1のライン状のマスクを設定する。眼球は球形であるため、K個のマスクの各点において、それぞれの点で隣接する高さデータから図4に示すように接線を求めてその方向と直交する方向Pを求める。円の場合、注目点と隣接する3点から求めた直交方向は円の中心で交叉し、かつその半径Rが眼球と同等となるため、各点の方向Pと半径Rから中心位置候補座標を求める。この処理により、中心位置とみられる位置に、ある度数以上の中心候補位置が算出されたなら眼球と同じ曲面形状が存在していると判断する。この時、判断部3は毛髪成長調節用光照射部1による照射光を発生させずにおく。図5に上記処理のフローチャートを示す。
【0020】
皮膚にブツブツとした突起がある場合も光照射を控えなければならないが、この場合、前記3次元形状データにM×Mの平均値フィルターをかける。この平均値フィルターは、皮膚が有している曲面形状を除去するためのもので、Mの値は部位によって異なり、頬部の場合はMの値を大きくし、腕、足の場合は頬部の場合よりもMの値を小さく設定する。次に、元の3次元形状データから上記平均値フィルターをかけた3次元データを差し引くことによりブツブツのような微小形状のみが残る(図6参照)ことになり、更に微小形状が残っている3次元データを高さ方向のある値で二値化して、ある高さ以上の部位が所定値以上存在している時は、皮膚表面9に微小な凹凸形状があると判断して毛髪成長調節用光照射部1からの光照射はしない。図7にこの処理のフローチャートを示す。なお、図中のkの値は、凹凸形状の周波数に相当することから、物ブル形状のサイズと計測分解能とから決定する。ちなみにブツブツ形状の約3倍程度を目安とする。
【0021】
同様の方法で眼球部の周囲にある毛の有無も確認できるために、眼球部周囲の毛であるということが判定できた場合も照射しない。毛の有無の認識も行う場合は、前記のような3次元形状計測ではなく、皮膚表面形状と平行方向にライン状の光を照射してラインセンサで反射光を受光することで行ってもよく、この場合、毛の有無の判断が容易となる。ただし、この場合は皮膚の曲面形状が計測ミスの原因となるために、図9に示すように光学部2,3を枠8で囲んで枠8を皮膚に押し当てることで皮膚の曲面形状の影響を少なくすることが好ましい。
【0022】
ホクロも毛髪成長調節用光照射部1による照射光を当てない方が好ましいところである。このホクロについては、次のようにすることで検出して毛髪成長調節用光照射部1による照射光を当てないようにすることができる。
【0023】
すなわち、ホクロは皮膚表面9に丸い凸部として存在することから、前述のように斜め方向から計測用光照射部2からの光を当てた場合、黒い影が生じることになるために、受光部3で得られた画像に対して、輝度がある値以下の部分を1とする二値化を行うことで、影部を抽出し、次いで図9に示すように影部81の外接四角形82を求めて、その範囲内で円形状かどうかの判断を行う。外接四角形82の範囲内で二値化で1と判断されていない領域83が存在する方向を認識し、その方向が外接四角形82の長辺側の場合は短辺を、逆の場合は長辺を円の直径Lとする円形状を想定する。
【0024】
更に二値化画像の輪郭をトレースして、注目画素に隣接する2画素から前述の場合と同様に円の接線方向を求め、次にその接線方向と直交する方向を求める。その直交方向に円の中心が存在するため、この直交方向に想定した円の半径の距離だけ離れた点に投票を行って、二値化像の輪郭の全ての点で同様の処理を繰り返した後、投票された度数がある値以上の座標を円の中心位置があると判断し、二値化像が円形のものの影であったことを認識するのである。図10にこの動作のフローチャートを示す。
【0025】
以上の処理部4では光照射対象部の三次元形状データを求めているが、光切断法によって光照射対象部の断面の曲率を求めるものであってもよく、この場合、判断部5は求められた曲率が予め与えられた曲率、たとえば人体の眼球の曲率と同じである場合に光照射対象部に対する毛髪成長調節用光照射部1からの光照射を行わないと判断する。
【0026】
ところで、前述の計測用照射部2から照射する光を偏光とし、受光部3による受光も偏光フィルター30を介して行う場合は、光照射対象部が眼球であるか否かでの判断にあたっては、受光量の値を参照することを併用してもよい。すなわち、皮膚組織内部には筋肉のように一定方向に並ぶ組織が存在するために、入射した光の偏光方向が回転する特性があるが、眼球は角膜と水晶体等で構成されているために、眼底内部で反射して眼の外に出てくる光は偏光方向が変化しない。従って、受光部3の前に配置した偏光フィルター30の角度を入射する光の偏光角度と直交する90°方向とすると、光照射対象部が皮膚であれば、皮膚内部で偏光が起きて偏光角度が90°回転した方向で受光してもある程度の光量を得ることができるのに対して、光照射対象部が眼であれば、偏光が起きないために上記受光部3での受光量が非常に小さくなる。この点を利用するのである。
【0027】
また、計測用照射部2が照射する光の波長を、水の吸収波長である1430nmや1940nmを含む光とし、反射光での光吸収を計測することで眼と皮膚の区別ができるために、この点を併用してもよい。
【0028】
偏光のみや光吸収のみで判断を行う場合は、計測用照射部2を点光源、受光部3をフォトダイオードのような1素子の受光手段で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態の一例のブロック図である。
【図2】同上の形状データ作成に関するフローチャートである。
【図3】同上のマスクの説明図である。
【図4】同上の曲率中心位置を求める点に関する説明図である。
【図5】同上の動作を示すフローチャートである。
【図6】他の動作の説明図である。
【図7】同上の動作を示すフローチャートである。
【図8】更に他の例の斜視図である。
【図9】別の例の動作説明図である。
【図10】同上の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0030】
1 毛髪成長調節用光照射部
2 計測用光照射部
3 受光部
4 処理部
5 判断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪の成長を調節する光を人体の光照射対象部に照射する毛髪成長調節用光照射部と、人体の計測のための光を人体の光照射対象部に照射する計測用光照射部と、該計測用光照射部から照射されて上記光照射対象部で反射した光を受光する受光部と、上記受光部で受光した光の情報を演算処理する処理部と、処理部による演算結果に基づいて毛髪成長調節用光照射部からの光照射を上記光照射対象部に対して行うか否かを判断する判断部とを有していることを特徴とする光毛髪成長調節装置。
【請求項2】
上記処理部は光照射対象部の推定形状を出力するものであり、上記判断部は上記推定形状が人体の眼球形状と同じである場合に光照射対象部に対する毛髪成長調節用光照射部からの光照射を行わないと判断するものであることを特徴とする請求項1記載の光毛髪成長調節装置。
【請求項3】
上記処理部は光照射対象部の推定形状を出力するものであり、上記判断部は上記推定形状が一定周期の凹凸形状である場合に光照射対象部に対する毛髪成長調節用光照射部からの光照射を行わないと判断するものであることを特徴とする請求項1記載の光毛髪成長調節装置。
【請求項4】
処理部は光切断法によって光照射対象部の断面の曲率を求めてこれを出力するものであり、判断部は求められた曲率が人体の眼球の曲率と同じである場合に光照射対象部に対する毛髪成長調節用光照射部からの光照射を行わないと判断するものであることを特徴とする請求項2記載の光毛髪成長調節装置。
【請求項5】
前記計測用光照射部は特定方向に偏光した光を照射するものであり、前記受光部は受光した光の偏光情報を求められるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光毛髪成長調節装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−154883(P2008−154883A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348635(P2006−348635)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】