説明

光照射によるサポニン生合成系に関与する遺伝子の発現増強方法

【課題】植物のサポニン生成能を向上させる。
【解決手段】本発明によれば、植物に、435nm〜480nmの波長領域内の波長成分を含む光を照射することにより、植物のスクアレンエポキシダーゼ遺伝子の発現を促進させることができる。よって、スクアレンエポキシダーゼによるスクアレンから2,3-オキシドスクアレンへの変換反応を促進させることができ、サポニンなど2,3-オキシドスクアレンの代謝物の効率的な製造が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物に光を照射することを含む、サポニン生合成系に関与する遺伝子の発現を増強する方法、サポニン生合成系の中間生成物である2,3-オキシドスクアレンまたはその代謝物の生産能を向上させる方法、2,3-オキシドスクアレンまたはその代謝物の製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
植物は太陽光のエネルギーを利用して光合成を行い、これによって合成された炭素骨格から多種多様な物質を生産し、それらを人類は活用している。太陽光のうち、特定の波長の光(400~700 nm)が光合成に利用される。光合成に利用される光は主として葉緑体中の光合成色素(クロロフィル)により吸収されるが、過剰の光は植物にとって有害である。この種の光障害を緩和するために、緑葉中に光を吸収する別の色素を蓄積することが知られている。
【0003】
サポニンは、多種類の植物に見いだされている配糖体の一種であり、去痰作用、抗炎症作用などを有することが知られている。サポニンは、その構造から、ステロイドサポニンとトリテルペノイドサポニンとに大別される。トリテルペノイドサポニンは、植物において、メバロンサンを原料として、スクアレン、2,3-オキシドスクアレン、トリテルペンを経る生合成経路により合成されることが知られている。この生合成経路において、スクアレンを2,3-オキシドスクアレンに変換する反応が律速段階だと考えられている(非特許文献1:Ikuro Abe, Tsuyoshi Abe, Weiwei Lou, Takayoshi Masuoka, Hiroshi Noguchi, Biochemical and Biophysical Research Communications 352 (2007) 259-263)。このスクアレンを2,3-オキシドスクアレンに変換する反応には、スクアレンエポキシダーゼが関与していることが知られている(非特許文献1)。
【非特許文献1】Ikuro Abe, Tsuyoshi Abe, Weiwei Lou, Takayoshi Masuoka, Hiroshi Noguchi, Biochemical and Biophysical Research Communications 352 (2007) 259-263
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記状況において、植物から抽出したサポニンを単離・精製することによりサポニンを製造する方法は広く行われているが、植物に含まれるサポニンは微量であるため、大量の植物が必要であるという問題があった。そこで、植物のサポニン生成能を向上させる方法が強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、植物に光を照射することにより、植物のスクアレンエポキシダーゼ遺伝子の発現が促進されることを見出した。本発明者らは、この知見に基づいて、さらに検討を行い、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、
(1) 植物に光を照射することを含む、植物のスクアレンエポキシダーゼ遺伝子の発現促進方法;
(2) 光が、435nm〜480nmの波長領域内の波長成分を含む、上記(1)記載の方法;
(3) 435nm〜480nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、50μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内である、上記(2)記載の方法;
(4) 480nm〜3000nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、1μmol m-2s-1以下であり、200nm〜435nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、1μmol m-2s-1以下である、上記(3)記載の方法;
(5) 光が、445nm〜455nmの波長領域内の波長成分を含む、上記(1)記載の方法;
(6) 445nm〜455nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、50μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内である、上記(5)記載の方法;
(7) 455nm〜3000nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、10μmol m-2s-1以下であり、200nm〜445nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、10μmol m-2s-1以下である、上記(6)記載の方法;
(8) 445nm〜455nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、50μmol m-2s-1〜200μmol m-2s-1の範囲内であり、光の照射時間が1日以上である、上記(6)または(7)記載の方法;
(9) 445nm〜455nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、200μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内であり、光の照射時間が1時間〜14日である、上記(6)または(7)記載の方法;
(10) スクアレンエポキシダーゼ遺伝子が、以下の(a)〜(f)からなる群から選択されるポリヌクレオチドを含有する、上記(1)〜(9)のいずれかに記載の方法:
(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号:2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;および
(f)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(11) スクアレンエポキシダーゼ遺伝子が、配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する、上記(10)記載の方法;
(12) 植物が、双子葉植物綱の植物である、上記(1)〜(11)のいずれかに記載の方法;
(13) 植物に光を照射することを含む、2,3-オキシドスクアレンまたはその代謝物の製造方法;
(14) 2,3-オキシドスクアレンの製造方法である上記(13)記載の製造方法;
(15) 2,3-オキシドスクアレンの代謝物の製造方法である上記(13)記載の製造方法;
(16) 2,3-オキシドスクアレンの代謝物が、トリテルペンおよびサポニンからなる群から選択される、上記(15)記載の製造方法;
(17) 2,3-オキシドスクアレンの代謝物がトリテルペノイドサポニンである、上記(16)記載の製造方法;
(18) 光が、435nm〜480nmの波長領域内の波長成分を含む、上記(13)〜(17)のいずれかに記載の製造方法;
(19) 435nm〜480nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、50μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内である、上記(18)記載の製造方法;
(20) 480nm〜3000nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、1μmol m-2s-1以下であり、200nm〜435nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、1μmol m-2s-1以下である、上記(19)記載の製造方法;
(21) 光が、445nm〜455nmの波長領域内の波長成分を含む、上記(13)〜(17)のいずれかに記載の製造方法;
(22) 445nm〜455nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、50μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内である、上記(21)記載の製造方法;
(23) 455nm〜3000nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、10μmol m-2s-1以下であり、200nm〜445nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、10μmol m-2s-1以下である、上記(22)記載の製造方法;
(24) 445nm〜455nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、50μmol m-2s-1〜200μmol m-2s-1の範囲内であり、光の照射時間が1日以上である、上記(22)または(23)記載の製造方法;
(25) 445nm〜455nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、200μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内であり、光の照射時間が1時間〜14日である、上記(22)または(23)記載の製造方法;
(26) スクアレンエポキシダーゼ遺伝子が、以下の(a)〜(f)からなる群から選択されるポリヌクレオチドを含有する、上記(13)〜(25)のいずれかに記載の製造方法:
(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列又は配列番号:2のアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号:2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;および
(f)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(27) スクアレンエポキシダーゼ遺伝子が、配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する、上記(26)記載の製造方法;
(28) 植物が、双子葉植物綱の植物である、上記(13)〜(27)のいずれかに記載の製造方法;
(29) 植物に光を照射することを含む、2,3-オキシドスクアレンまたはその代謝物の生産能を向上させる方法;
(30) 2,3-オキシドスクアレンの生産能を向上させる方法である上記(29)記載の方法;
(31) 2,3-オキシドスクアレンの代謝物の生産能を向上させる方法である上記(29記載の方法;
(32) 2,3-オキシドスクアレンの代謝物が、トリテルペンおよびサポニンからなる群から選択される、上記(31)記載の方法;
(33) 2,3-オキシドスクアレンの代謝物がトリテルペノイドサポニンである、上記(32)記載の製造方法;
(34) 光が、435nm〜480nmの波長領域内の波長成分を含む、上記(29)〜(33)のいずれかに記載の方法;
(35) 435nm〜480nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、50μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内である、上記(34)記載の方法;
(36) 480nm〜3000nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、1μmol m-2s-1以下であり、200nm〜435nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、1μmol m-2s-1以下である、上記(35)記載の方法;
(37) 光が、445nm〜455nmの波長領域内の波長成分を含む、上記(29)〜(33)のいずれかに記載の方法;
(38) 445nm〜455nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、50μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内である、上記(37)記載の方法;
(39) 455nm〜3000nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、10μmol m-2s-1以下であり、200nm〜445nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、10μmol m-2s-1以下である、上記(38)記載の方法;
(40) 445nm〜455nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、50μmol m-2s-1〜200μmol m-2s-1の範囲内であり、光の照射時間が1日以上である、上記(38)または(39)記載の方法;
(41) 445nm〜455nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、200μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内であり、光の照射時間が1時間〜14日である、上記(38)または(39)記載の方法;
(42) スクアレンエポキシダーゼ遺伝子が、以下の(a)〜(f)からなる群から選択されるポリヌクレオチドを含有する、上記(29)〜(41)のいずれかに記載の方法:
(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列又は配列番号:2のアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号:2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;および
(f)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(43) スクアレンエポキシダーゼ遺伝子が、配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する、上記(42)記載の方法;
(44) 植物が、双子葉植物綱の植物である、上記(29)〜(43)のいずれかに記載の方法
などを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、スクアレンエポキシダーゼ遺伝子の発現を促進させることができるので、スクアレンエポキシダーゼによるスクアレンから2,3-オキシドスクアレンへの変換反応を促進させることにより、2,3-オキシドスクアレンおよびその代謝物の生産能を向上させることができる。よって、本発明は、2,3-オキシドスクアレンまたはその代謝物の効率的な製造に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本明細書において、「代謝」には、同化(合成)および異化(分解)のいずれも含まれる。
スクワレンエポキシダーゼは、スクワレンモノオキシゲナーゼとも呼ばれ、酵素番号EC 1.14.99.7で表される酵素である。
以下、本発明を、その実施態様に基づいて詳細に説明する。
【0008】
1.本発明で使用される植物
本発明で使用される植物としては、スクアレンエポキシダーゼ遺伝子を有する植物であればよく、特に制限はない。スクアレンエポキシダーゼ遺伝子を有する植物としては、例えば、チョウセンニンジン(Panax Binseng)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana )、ワタ(Gossypium indicum )、アサ(Cannabis sativa )、アブラナ(Brassica campestris )、カブラ(Brassica campestris )、キャベツ(Brassica oleracea )、ダイコン(Raphanus sativus )、セイヨウカボチャ(Cucurbita Pepo )、カボチャ(Cucurbita moschata )、キウリ(Cucumis sativus )、メロン(Cucumis Melo )、スイカ(Citrullus Battich )、オランダイチゴ(Fragaria chiloensis )、アラスカエンドウ(Pisum sativum Alaska )、アズキ(Phaseolus angularis )、ナンキンマメ(Arachis hypogaea )、ダイズ(Glycine max )、インゲンマメ(Phaseolusvulgaris )、ソラマメ(Vicia Faba )、エンドウ(Pisum sativum )、ミカン(Citrus deliciosa )、ブドウ(Vitis vinifera )、ゴマ(Sesamum indicum )、サツマイモ(Ipomoea Batatas )、ナス(Solanum melongena )、ジャガイモ(Solanum tuberosum )、トマト(Lycopersicon esculentum )、トウガラシ(Capsicum annuum )、タバコ(Nicotiana tabacum )、ツクバネアサガオ(Petunia hybrida )、ヒマワリ(Helianthus annuus )、ゴボウ(Arctium Lappa )、キク(Chrysanthemum morifolium )またはホウレンソウ(Spinacia oleracea )などの双子葉植物;イネ(Oryza sativa )、コムギ(Triticum aestivum )、オオムギ(Hordeum vulgare )、トウモロコシ(Zea mays )、エンバク(Avena sativa )、ヒエ(Panicum Crus-galli L. var. frumentaceum )、モロコシ(Sorghum bicolor )、アワ(Setaria italica )、キビ(Panicum miliaceum )、チューリップ(Tulipa Gesneriana )、サトイモ(Colocasia antiquorum )、アオウキクサ(Lemna paucicostata )またはサトウキビ(Saccharum officinarum )などの単子葉植物などが挙げられ、チョウセンニンジン、シロイヌナズナなどの双子葉植物が好ましく、さらにチョウセンニンジン、シロイヌナズナが好ましい。
また、本発明で用いられる植物としては、スクアレンエポキシダーゼによってスクアレンから変換される2,3-オキシドスクアレンを代謝して、トリテルペンおよび/またはサポニンを生合成する経路を含むものが好ましい。このような植物としては、ミシマサイコ (Bupleurum scorzonerifolium)、チョウセンニンジン (Panax Ginseng)、オンジ (Polygalae radix)、キキョウ (Platycodon grandiflorum) などが挙げられる。
【0009】
2.本発明で使用される光および光源
(1)本発明で使用される光
本発明で使用される光としては、植物のスクアレンエポキシダーゼ遺伝子の発現を促進できるものであればよく、特に制限はない。スクアレンエポキシダーゼ遺伝子の発現促進効率の観点からは、好ましくは約435nm〜約480nmの波長領域内、より好ましくは約440nm〜約460nmの波長領域内、特に好ましくは約445nm〜約455nmの波長領域内、特に好ましくは約450nmの波長の波長成分を含む光が挙げられる。
光量子束密度としては、植物のスクアレンエポキシダーゼ遺伝子の発現を促進できる光量子束密度であればよく、特に制限はない。スクアレンエポキシダーゼ遺伝子の発現促進効率の観点からは、上記波長領域または波長の波長成分の光量子束密度は、好ましくは50μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内、さらに好ましくは50μmol m-2s-1〜200μmol m-2s-1または200μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内である。
上記の通り、光量子束密度の高い光を用いることによりスクアレンエポキシダーゼ遺伝子の発現促進効率を高めることができるが、過剰な光は、植物に、光合成能の低下、組織傷害(クロロフィルの分解などによる葉の漂白など)などの障害を与える可能性がある。そこで、200nm〜445nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度は、200μmol m-2s-1以下であるのが好ましく、さらに100μmol m-2s-1以下であるのが好ましく、特に50μmol m-2s-1以下であるのが好ましく、とりわけ10μmol m-2s-1以下であるのが好ましい。455nm〜3000nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度は、200μmol m-2s-1以下であるのが好ましく、さらに100μmol m-2s-1以下であるのが好ましく、特に50μmol m-2s-1以下であるのが好ましく、とりわけ10μmol m-2s-1以下であるのが好ましい。
また、人工光源を用いる場合には、なるべくスクアレンエポキシダーゼ遺伝子の発現促進効率の高い波長成分の光のみを用いるのが、エネルギー効率の観点からは好ましい。そこで、455nm〜3000nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度は、50μmol m-2s-1以下であるのが好ましく、さらに10μmol m-2s-1以下であるのが好ましく、特に5μmol m-2s-1以下であるのが好ましく、とりわけ1μmol m-2s-1以下であるのが好ましい。200nm〜445nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度は、50μmol m-2s-1以下であるのが好ましく、さらに10μmol m-2s-1以下であるのが好ましく、特に5μmol m-2s-1以下であるのが好ましく、とりわけ1μmol m-2s-1以下であるのが好ましい。
光照射時間は、照射する光の光量子束密度によっても異なるが、植物のスクアレンエポキシダーゼ遺伝子の発現を促進できる光照射時間であればよく、特に制限はないが、連続照射であるのが好ましい。スクアレンエポキシダーゼ遺伝子の発現促進効率の観点からは、光量子束密度が50μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内である場合には、光照射時間は、通常1時間以上、好ましくは6時間〜8週間、より好ましくは12時間〜6週間、さらに好ましくは24時間から4週間程度である。光量子束密度が50μmol m-2s-1〜200μmol m-2s-1の範囲内である場合には、光照射時間は、通常1日以上、好ましくは1日〜8週間、より好ましくは1.5日〜6週間、さらに好ましくは2日から4週間程度である。光量子束密度が200μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内である場合には、光照射時間は、通常1時間〜14日、好ましくは2時間〜10日、より好ましくは6時間〜1週間、さらに好ましくは12時間から4日間程度である。
【0010】
(2)光源
本発明で用いられる光源としては、上記のような光の照射に用いることができるものであればよく、特に制限はない。例えば、LED、蛍光灯、放電ランプ(例、水銀灯、キセノンランプなど)、さらに、回折格子、プリズムなどとの組み合わせにより取り出された特定の波長の光などを適宜用いることができる。過剰な光による植物の障害(光合成能の低下、組織傷害など)を抑制するために200nm〜445nmの波長領域内の波長成分または455nm〜3000nmの波長領域内の波長成分を減少させるためには、所望の波長選択性を有するフィルター(例、色ガラスフィルター、ゼラチンフィルター、干渉フィルターなど)を使用することができる。また、LEDやレーザーは、不要な波長領域の波長成分を含まず、かつ、好ましい光量子束密度を有する光を得るために好ましく用いることができる。
【0011】
3.スクワレンエポキシダーゼ遺伝子
本発明において発現が促進されるスクワレンエポキシダーゼ遺伝子としては、まず、(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する遺伝子、および(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する遺伝子が挙げられる。本発明において発現が促進されるスクワレンエポキシダーゼ遺伝子は、上記のシロイヌナズナ由来のスクワレンエポキシダーゼをコードする遺伝子に限定されるものではなく、上記のスクワレンエポキシダーゼと機能的に同等なタンパク質をコードする、シロイヌナズナまたは他の植物由来の、他の遺伝子を含む。機能的に同等なタンパク質としては、例えば、(c)配列番号:2のアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質などが挙げられる。
このようなタンパク質としては、配列番号:2のアミノ酸配列において、例えば、1〜100個、1〜90個、1〜80個、1〜70個、1〜60個、1〜50個、1〜40個、1〜39個、1〜38個、1〜37個、1〜36個、1〜35個、1〜34個、1〜33個、1〜32個、1〜31個、1〜30個、1〜29個、1〜28個、1〜27個、1〜26個、1〜25個、1〜24個、1〜23個、1〜22個、1〜21個、1〜20個、1〜19個、1〜18個、1〜17個、1〜16個、1〜15個、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつスクワレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加の数は、一般的には小さい程好ましい。また、このようなタンパク質としては、(d)配列番号:2のアミノ酸配列と約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつスクワレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。上記相同性の数値は一般的に大きい程好ましい。
なお、スクワレンエポキシダーゼ活性は、例えばIkuro Abe, Tsuyoshi Abe, Weiwei Lou, Takayoshi Masuoka, Hiroshi Noguchi, Biochemical and Biophysical Research Communications 352 (2007) 259-263に記載の方法で評価することができる。
【0012】
また、本発明において発現が促進されるスクワレンエポキシダーゼ遺伝子には、(e)配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつスクワレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する遺伝子;及び(f)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつスクワレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する遺伝子も含まれる。
ここで、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド(DNA)」とは、配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド又は配列番号:2のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの全部又は一部をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法又はサザンハイブリダイゼーション法などを用いることにより得られるポリヌクレオチド(例えば、DNA)をいう。ハイブリダイゼーションの方法としては、例えばMolecular Cloning 3rd Ed.、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997などに記載されている方法を利用することができる。
本明細書でいう「ストリンジェントな条件」は、低ストリンジェントな条件、中ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件のいずれでもよい。「低ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、32℃の条件である。また、「中ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、42℃の条件である。「高ストリンジェントな条件」は、例えば、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、50℃の条件である。これらの条件において、温度を上げるほど高い相同性を有するポリヌクレオチド(例えば、DNA)が効率的に得られることが期待できる。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度、プローブ濃度、プローブの長さ、イオン強度、時間、塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
なお、ハイブリダイゼーションに市販のキットを用いる場合は、例えばAlkphos Direct Labelling Reagents(アマシャムファルマシア社製)を用いることができる。この場合は、キットに添付のプロトコルにしたがい、標識したプローブとのインキュベーションを一晩行った後、メンブレンを55℃の条件下で0.1% (w/v) SDSを含む1次洗浄バッファーで洗浄後、ハイブリダイズしたポリヌクレオチド(例えば、DNA)を検出することができる。
これ以外にハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとしては、FASTA、BLASTなどの相同性検索ソフトウェアにより、デフォルトのパラメータを用いて計算したときに、配列番号:2のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと約60%以上、約70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上の同一性を有するポリヌクレオチドをあげることができる。
なお、アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリン及びアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87, 2264-2268, 1990; Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873, 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al: J. Mol. Biol. 215: 403, 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメータは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメータは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメータを用いる。
【0013】
4.スクアレン、2,3-オキシドスクアレンおよびその代謝物
スクアレンとは、下記式
【化1】

で表される、動植物、酵母など真核生物に広く存在する非環式トリテルペンの一種である。
2,3-オキシドスクアレンは、スクアレン2,3-オキシド、2,3-エポキシスクアレン、スクアレン2,3-オキシド、スクアレン2,3-エポキシドとも呼ばれる。スクアレンエポキシダーゼにより分子状酸素がスクアレンに付加して生成し、トリテルペンの前駆体となる。
2,3-オキシドスクアレンは、トリテルペンを経てサポニンに代謝されうる。すなわち、2,3-オキシドスクアレンの代謝物には、トリテルペンおよびサポニンが含まれる(図1)。例えば、チョウセンニンジンにおいては、メバロン酸から生合成されたスクアレンがスクアレンエポキシダーゼにより2,3-オキシドスクアレンに変換され、さらにトリテルペンを経てサポニンが生合成されることが報告されている(Lee M-H, Jeong J-H, Seo J-W, Shin C-G, et al: Plant Cell Physiology 45(8), 976-984 (2004))。この生合成経路においては、スクアレンが2,3-オキシドスクアレンに変換される反応が律速段階となっている(図2)。
トリテルペンとは、炭素数30のテルペン炭化水素、アルコールなどの総称であり、トリテルペノイドともいう。2,3-オキシドスクアレンから誘導されるトリテルペンとしては、シクロアルテノール、ダンマランジオール、β−アミリンなどが挙げられる。
サポニンとは、ステロイドやトリテルペノイドを非糖部とする配糖体の総称であり、ステロイドサポニンとトリテルペノイドサポニンとに大別される。トリテルペノイドサポニンとしては、ダンマランジオールから誘導されるダンマラン型サポニン、β−アミリンから誘導されるオレアナン型サポニンなどが挙げられる。
【0014】
5.2,3-オキシドスクアレンまたはその代謝物の製造方法
本発明の2,3-オキシドスクアレンまたはその代謝物の製造方法(「本発明の製造方法」と略記することがある)は、上記した植物体に、上記した方法により光を照射して2,3-オキシドスクアレンまたはその代謝物の生産能を向上させ、2,3-オキシドスクアレンの含有量を増加させた植物体を原材料とする。
上記植物体から、植物体の破砕物をアルコール抽出する方法などの公知の方法により、粗抽出物を調製する。抽出には、植物体全体を用いてもよいが、好ましくは2,3-オキシドスクアレンまたはその代謝物の含有量が多い組織(例、根、葉など)を用いる。植物体を乾燥して粉末にしたものを用いてもよい。
抽出用のアルコール(溶液)としては、含水アルコールを使用してもよく、含水低級アルコールが好ましく使用される。低級アルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等の炭素数1〜6のアルコールが用いられる。抽出に用いられるアルコールの濃度は、使用するアルコールによっても異なるが、通常は25%以上であり、好ましくは35〜90%、より好ましくは50〜75%である。
抽出は、植物における有効成分の抽出において一般に用いられる方法によって行うことができる。具体的には、抽出は、例えば、抽出液中に植物体の破砕物を放置するだけでもよいが、例えば還流下や超音波下等で行なこともできる。光による変性を避けるため、抽出は暗所で行なうのが好ましい。抽出時の温度は、抽出液中のアルコールの種類および割合によっても異なるが、抽出は、通常、抽出液が凍らない温度以上で150℃以下、好ましくは抽出液が凍らない温度以上で100℃以下、より好ましくは0℃以上90℃以下、特に好ましくは4℃以上70℃以下の温度で行われる。
得られた抽出液は、抽出に用いた植物体を取り除くために濾過を行うのが好ましい。濾過方法としては、例えば遠心濾過、吸引濾過等が用いられる。この様にして得られた抽出液の濃縮方法としては、例えば減圧濃縮方法等の公知の濃縮方法が用いられ、好ましくは例えばロータリーバキュームエバポレーターを用いた濃縮方法が用いられる。
抽出した2,3-オキシドスクアレンまたはその代謝物は、通常の精製法、例えば、溶媒抽出・蒸留・カラムクロマトグラフィー・液体クロマトグラフィー・再結晶などを組み合わせて精製することができる。
【0015】
なお、本発明において、詳細な実験操作は、特に述べる場合を除き、モレキュラー・クローニング第3版、Ausbel F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley and Sons (1987-1997)、Glover D. M. and Hames B. D., DNA Cloning 1: Core Techniques, A practical Approach, Second Edition, Oxford University Press (1995)等の実験書に記載されている方法などの公知の方法により、または市販のキットの取扱い説明書に記載の方法により行うことができる。
【実施例】
【0016】
1.実験植物:当研究室で継代されているモデル植物シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の野生系統Columbia (Col) を用いた。
2.生育条件:人工気象機 (Biotron NC220, NKsystem) を用い,22℃,湿度40-60%,MS培地(後述)において以下の3種の光条件下で育てた植物を用いた。
【0017】
(1)100 μmol m-2 s-1の白色蛍光灯で3週間育てた植物 (「対象」実験植物)
(2)100 μmol m-2 s-1の白色蛍光灯で1週間生育させた後、110 μmol m-2 s-1の青色LEDの光(光源から50 cmの距離)を2週間照射した植物 (「青色2週」実験植物)
(3)100 μmol m-2 s-1の白色蛍光灯で1週間生育させた後、240 μmol m-2 s-1の青色LEDの光(光源から15 cmの距離)を2日間照射した植物 (「青色2日」実験植物)
【0018】
種子の滅菌・播種:1.5-mlチューブに種子を分注し、70% エタノール 1 mlを加え、1分間振盪した。遠心し、上清を捨て、滅菌溶液(0.25% 次亜塩素酸,0.1% Tween 20) 1 mlを加えて、10-15分振盪した。クリーンベンチ内で軽く遠心し、上清を捨て、純水1 mlを加えて洗浄した。洗浄を5回繰り返し、純水1 mlを加えた状態でアルミホイルに包み、4℃で約1週間春化処理を行った。再び、クリーンベンチ内で軽く遠心し、上清を捨て、別にオートクレーブ処理(121℃,20分)した0.3% アガロース溶液1 mlに懸濁した。ピペットのチップに取りシャーレに播種した。
【0019】
3.無菌培地の調製:
ムラシゲ・スクーグ培地 (MS培地)
【表1】

純水により 1,000 ml(2N KOHでpH 5.8に調製)
培地溶液を調製後オートクレーブ処理(121℃ 20分)し、約50℃程度まで冷やしてからシャーレに分注した。
【0020】
1000Xビタミンストック
【表2】

調製後、4℃で遮光保存した。
【0021】
4.オリゴマイクロアレイ:シロイヌナズナ葉50 mgよりRNeasy Plant Mini Kit (Qiagen) を用い、標準プロトコールに従って全 RNAを回収した。全RNA 15 μgを初期量とし、One-Cycle cDNA Synthesis Kit (AFFYMETRIX) を用いてcDNA合成を行った。GeneChip Sample Cleanup Module (AFFYMETRIX) を用いてcDNAを精製後、GeneChip IVT Labeling Kit (AFFYMETRIX) を用いてビオチン標識されたcRNAを合成した。GeneChip Sample Cleanup Module (AFFYMETRIX) を用いてcRNAを精製した。cDNA合成からの作業手順はGene Chip Expression Analysis Technical Manualに従って行った。引き続き、GeneChip Arabidpsis ATH1 Genome Array (AFFYMETRIX) に対し標準プロトコルに従って16時間ハイブリダイズを行った。FLUIDICS STATION 450 (AFFYMETRIX) を用いて49 Format用のプログラムにより自動で洗浄と染色を行い、Affymetrix GeneChip Scanner 3000 (AFFYMETRIX) によりデータの取り込みを行った。シグナルの数値化および補正にはGeneChip Operating Software (AFFYMETRIX) を用い、その後の解析にはExcel (Microsoft) を使用した。
【0022】
5.結果
上記4.オリゴマイクロアレイを用いた解析の結果、スクアレンエポキシダーゼ遺伝子(遺伝子番号 _At5g24150(配列番号:1)、酵素番号 1.14.99.7、)の発現が、「対象」と比較して、「青色2週」および「青色2日」のいずれにおいても、2倍以上増大していた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によれば、スクアレンエポキシダーゼ遺伝子の発現を促進させることができるので、スクアレンエポキシダーゼによるスクアレンから2,3-オキシドスクアレンへの変換反応を促進させることにより、2,3-オキシドスクアレンおよびその代謝物の生産能を向上させることができる。よって、本発明は、2,3-オキシドスクアレンまたはその代謝物の効率的な製造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】メバロン酸からサポニンが生合成される経路を模式的に示した概略図である。
【図2】チョウセンニンジンにおけるメバロン酸からサポニンが生合成される経路を模式的に示した概略図である(Lee M-H, Jeong J-H, Seo J-W, Shin C-G, et al: Plant Cell Physiology 45(8), 976-984 (2004)に記載の経路図を一部改変)。
【配列表フリーテキスト】
【0025】
[配列番号:1]
シロイヌナズナのスクアレンエポキシダーゼ(酵素番号 1.14.99.7)をコードするcDNAの塩基配列を示す。
[配列番号:2]
シロイヌナズナのスクアレンエポキシダーゼ(酵素番号 1.14.99.7)のアミノ酸配列を示す。
[配列番号:2]
シロイヌナズナのスクアレンエポキシダーゼ(酵素番号 1.14.99.7)をコードする遺伝子(遺伝子番号 At5g24150)の塩基配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物に光を照射することを含む、植物のスクアレンエポキシダーゼ遺伝子の発現促進方法。
【請求項2】
光が、435nm〜480nmの波長領域内の波長成分を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
435nm〜480nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、50μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
480nm〜3000nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、1μmol m-2s-1以下であり、200nm〜435nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、1μmol m-2s-1以下である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
光が、445nm〜455nmの波長領域内の波長成分を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
445nm〜455nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、50μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
455nm〜3000nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、10μmol m-2s-1以下であり、200nm〜445nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、10μmol m-2s-1以下である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
445nm〜455nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、50μmol m-2s-1〜200μmol m-2s-1の範囲内であり、光の照射時間が1日以上である、請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
445nm〜455nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、200μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内であり、光の照射時間が1時間〜14日である、請求項6または7記載の方法。
【請求項10】
スクアレンエポキシダーゼ遺伝子が、以下の(a)〜(f)からなる群から選択されるポリヌクレオチドを含有する、請求項1〜9のいずれかに記載の方法:
(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号:2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;および
(f)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項11】
スクアレンエポキシダーゼ遺伝子が、配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
植物が、双子葉植物綱の植物である、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
植物に光を照射することを含む、2,3-オキシドスクアレンまたはその代謝物の製造方法。
【請求項14】
2,3-オキシドスクアレンの製造方法である請求項13記載の製造方法。
【請求項15】
2,3-オキシドスクアレンの代謝物の製造方法である請求項13記載の製造方法。
【請求項16】
2,3-オキシドスクアレンの代謝物が、トリテルペンおよびサポニンからなる群から選択される、請求項15記載の製造方法。
【請求項17】
2,3-オキシドスクアレンの代謝物がトリテルペノイドサポニンである、請求項16記載の製造方法。
【請求項18】
光が、435nm〜480nmの波長領域内の波長成分を含む、請求項13〜17のいずれかに記載の製造方法。
【請求項19】
435nm〜480nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、50μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内である、請求項18記載の製造方法。
【請求項20】
480nm〜3000nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、10μmol m-2s-1以下であり、200nm〜435nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、10μmol m-2s-1以下である、請求項19記載の製造方法。
【請求項21】
光が、445nm〜455nmの波長領域内の波長成分を含む、請求項13〜17のいずれかに記載の製造方法。
【請求項22】
445nm〜455nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、50μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内である、請求項21記載の製造方法。
【請求項23】
455nm〜3000nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、1μmol m-2s-1以下であり、200nm〜445nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、1μmol m-2s-1以下である、請求項22記載の製造方法。
【請求項24】
445nm〜455nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、50μmol m-2s-1〜200μmol m-2s-1の範囲内であり、光の照射時間が1日以上である、請求項22または23記載の製造方法。
【請求項25】
445nm〜455nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、200μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内であり、光の照射時間が1時間〜14日である、請求項22または23記載の製造方法。
【請求項26】
スクアレンエポキシダーゼ遺伝子が、以下の(a)〜(f)からなる群から選択されるポリヌクレオチドを含有する、請求項13〜25のいずれかに記載の製造方法:
(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列又は配列番号:2のアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号:2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;および
(f)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項27】
スクアレンエポキシダーゼ遺伝子が、配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する、請求項26記載の製造方法。
【請求項28】
植物が、双子葉植物綱の植物である、請求項13〜27のいずれかに記載の製造方法。
【請求項29】
植物に光を照射することを含む、2,3-オキシドスクアレンまたはその代謝物の生産能を向上させる方法。
【請求項30】
2,3-オキシドスクアレンの生産能を向上させる方法である請求項29記載の方法。
【請求項31】
2,3-オキシドスクアレンの代謝物の生産能を向上させる方法である請求項29記載の方法。
【請求項32】
2,3-オキシドスクアレンの代謝物が、トリテルペンおよびサポニンからなる群から選択される、請求項31記載の方法。
【請求項33】
2,3-オキシドスクアレンの代謝物がトリテルペノイドサポニンである、請求項32記載の製造方法。
【請求項34】
光が、435nm〜480nmの波長領域内の波長成分を含む、請求項29〜33のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
435nm〜480nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、50μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内である、請求項34記載の方法。
【請求項36】
480nm〜3000nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、10μmol m-2s-1以下であり、200nm〜435nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、10μmol m-2s-1以下である、請求項35記載の方法。
【請求項37】
光が、445nm〜455nmの波長領域内の波長成分を含む、請求項29〜33のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
445nm〜455nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、50μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
455nm〜3000nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、1μmol m-2s-1以下であり、200nm〜445nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、1μmol m-2s-1以下である、請求項38記載の方法。
【請求項40】
445nm〜455nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、50μmol m-2s-1〜200μmol m-2s-1の範囲内であり、光の照射時間が1日以上である、請求項38または39記載の方法。
【請求項41】
445nm〜455nmの波長領域内の波長成分の光量子束密度が、200μmol m-2s-1〜300μmol m-2s-1の範囲内であり、光の照射時間が1時間〜14日である、請求項38または39記載の方法。
【請求項42】
スクアレンエポキシダーゼ遺伝子が、以下の(a)〜(f)からなる群から選択されるポリヌクレオチドを含有する、請求項29〜41のいずれかに記載の方法:
(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列又は配列番号:2のアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号:2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(e)配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;および
(f)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつスクアレンエポキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項43】
スクアレンエポキシダーゼ遺伝子が、配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する、請求項42記載の方法。
【請求項44】
植物が、双子葉植物綱の植物である、請求項29〜43のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−245526(P2008−245526A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87278(P2007−87278)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(507219686)静岡県公立大学法人 (63)
【Fターム(参考)】