光照射装置、イチゴ栽培システムおよびイチゴ栽培方法
【課題】人工光を利用したイチゴ栽培において、植物体の生育が抑制されることを防止しつつ、イチゴの果実における機能性成分等を高める。
【解決手段】UV−A照射装置8は、UV−A紫外線を出射するLED82を備えている。LED82から出射されるUV−A紫外線が、イチゴの果実に集中的に照射されるようにLED82が配置されている。
【解決手段】UV−A照射装置8は、UV−A紫外線を出射するLED82を備えている。LED82から出射されるUV−A紫外線が、イチゴの果実に集中的に照射されるようにLED82が配置されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工光を利用してイチゴを栽培するための光照射装置、栽培システムおよび栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イチゴは、そのまま生食するだけでなく、加工食品など、1年を通して需要が多い作物である。冬から春にかけて市場に出回る一季成りイチゴは、短日植物であり、昼の長さが短くなる秋から冬に花芽分化し、実をつける。逆に夏季には実がつかないため、日本では非常に高価となっている。
【0003】
一方、近年ブームとなっている植物工場では、光環境を人為的に制御できるため、植物工場においてイチゴの花芽分化に適した光環境を構築し、イチゴの周年栽培を行うことで、夏季にもイチゴを供給することが可能となる。植物工場では、気候変動に影響されず、病虫害の被害が少ないため、いくつかの研究機関が取り組みを開始している。
【0004】
また、光の量および質が植物の形態や栄養成分、収量等に大きな影響を与えることが知られている。植物工場では、LEDや蛍光灯などの人工光を利用することにより植物の生育のコントロールが容易であることから、とくに注目を浴びている。
【0005】
このような植物工場でイチゴを栽培する場合、必要な光だけ与えればよく、紫外線など植物の生育を妨げる波長の光を照射しないことができる。
【0006】
その一方で、紫外線は、ポリフェノールなどの機能性成分の生成を促進する効果があるとされている。そのため、このような紫外線のない環境では機能性成分を高めることが困難である。
【0007】
このような分野に取り組み、勝ち抜いていくためには、栄養・機能性などの面で付加価値の高い作物の栽培を行うことが重要である。特許文献1〜3にはそのための取り組みが開示されている。
【0008】
特許文献1には、紫外線がカットされてUV−Bが照射されるハウス内で、UV−Bの照射による果実の色抜けの発生を防ぐ植物用カバーが開示されている。
【0009】
特許文献2には、栽培された黄化スプラウトに対して、青色光またはUV−A紫外光の波長領域内に放射スペクトルを有する発光ダイオードで植物体の表面細胞を照射し、表面細胞内に植物色素の生成を誘起させて赤色化する方法が開示されている。
【0010】
特許文献3には、UV−Bを、単子葉栽培植物の芽ネギに照射することにより、植物体中のジフェニルピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカル消去活性を高めるアスコルビン酸やポリフェノールなどの機能性物質含量を増加させる栽培方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−273546号公報(2010年12月9日公開)
【特許文献2】特開2007−89445号公報(2007年4月12日公開)
【特許文献3】特開2008−86272号公報(2008年4月17日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが特許文献1の栽培方法では、ハウス内でUV−Bが照射されることが前提となっているが、このUV−Bは、植物の生育を抑制するため、生育の遅延やそれに伴う果実生育の遅れ、および収量の減少が起こる可能性がある。なお、UV−Bは、人体に対して有害であるため、照射時には作業を行うことができない。また、イチゴ等の果実は、気孔を有しており呼吸しているため、カバーによる密閉は植物にとって過度のストレスとなるとともに、カバーの装着に手間がかかるという問題もある。
【0013】
特許文献2の栽培方法では、黄化スプラウトの全体に対して青色光またはUV−A紫外光を照射するため、植物の生育を抑制する可能性がある。
【0014】
特許文献3の栽培方法でも、単子葉植物全体にUV−Bを照射するため、植物の生育を抑制する可能性がある。
【0015】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、人工光を利用したイチゴ栽培において、植物体の生育が抑制されることを防止しつつ、イチゴの果実の色素、栄養素または機能性成分の蓄積を促進することができる光照射装置、イチゴ栽培システムおよびイチゴ栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る光照射装置は、上記の課題を解決するために、イチゴ栽培用の光照射装置であって、青色光またはUV−A紫外線を出射する光源を備え、上記光源から出射される青色光またはUV−A紫外線が、イチゴの果実に集中的に照射されるように上記光源が配置されていることを特徴としている。
【0017】
上記の構成によれば、青色光またはUV−A紫外線が光源から出射され、イチゴの果実に集中的に照射される。青色光は、植物および人にとって有害性は全くなく、UV−AについてもUV−Bと比較すれば、有害性は格段に低い。それゆえ、青色光またはUV−A紫外線の照射時にも安全に作業を行うことができる。
【0018】
さらに、青色光またはUV−A紫外線がイチゴの果実に集中的に照射されるため、葉および茎など他の部分に青色光またはUV−A紫外線が照射されることにより植物体の生育が妨げられることを防止できる。その上で、イチゴの果実における色素、栄養素または機能性成分の蓄積を青色光またはUV−A紫外線の照射により促進できる。また、照射範囲を絞ることにより、青色光またはUV−A紫外線の照射コストを抑制することができるという副次的な効果も得られる。
【0019】
また、上記光源は、上記果実の近傍に配置されていることが好ましい。
【0020】
上記の構成により、イチゴの葉または茎によって遮られることなく青色光またはUV−A紫外線をイチゴの果実に照射することができる。
【0021】
また、上記光源は、イチゴが栽培される栽培容器の側面に垂れた上記果実の近傍に配置されていることが好ましい。
【0022】
上記の構成により、イチゴが栽培される栽培容器の側面に垂れたイチゴの果実に効率良く青色光またはUV−A紫外線を照射することができる。
【0023】
また、上記光源は、イチゴが栽培される栽培容器の側面に配設されていることが好ましい。
【0024】
上記の構成により、イチゴが栽培される栽培容器の側面に垂れたイチゴの果実に効率良く青色光またはUV−A紫外線を照射することができる。また、光源が栽培容器に接していることにより、当該栽培容器によって光源の放熱効果を高めることができる。
【0025】
また、上記光源の光軸は、水平方向または水平方向よりも鉛直下方向を向いていることが好ましい。
【0026】
上記の構成によれば、上記光源から出射された青色光またはUV−A紫外線は、水平方向または水平方向よりも鉛直下方向に出射される。それゆえ、青色光またはUV−A紫外線が水平方向に対して仰角をなす角度で出射されることによって、イチゴの葉、茎または作業者に青色光またはUV−A紫外線が照射される可能性を低減できる。
【0027】
また、上記光源には、上記青色光または上記UV−A紫外線の指向性を高めるレンズが配されていることが好ましい。
【0028】
上記の構成により、光源から出射される光(青色光またはUV−A紫外線)が進行する立体角の範囲を狭めることができ、イチゴに効率良く青色光またはUV−A紫外線を照射できる。
【0029】
また、上記光源の放熱効率を高める放熱部がさらに備えられていることが好ましい。
【0030】
上記の構成によれば、放熱部によって光源の放熱効率を高めることができ、光源の機能が熱によって低下したり、光源が熱によって破損したりすることを防止できる。
【0031】
また、上記放熱部は、上記光源またはその近傍に風を送る送風管を含むことが好ましい。
【0032】
上記の構成により、光源を空冷することができ、当該光源をより効率的に冷却できる。また、植物体は、気孔周辺のガス交換を必要としており、栽培には適度な風が必要であるとされている。送風管から噴出される風は、光源の冷却だけでなく、植物の生育にも良い影響を与えることができる。
【0033】
なお、送風管から送られる風は、光源そのものに直接当てられてもよく、光源が設けられた基板に当てられてもよい。
【0034】
また、上記光照射装置と、光合成に必要な波長範囲の光を出射する主光源装置とを含むイチゴ栽培システムも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0035】
本発明に係るイチゴ栽培方法は、上記の課題を解決するために、光源から出射される青色光またはUV−A紫外線を、イチゴの果実に集中的に照射する工程を含むことを特徴としている。
【0036】
上記の構成によれば、青色光またはUV−A紫外線が光源から出射され、イチゴの果実に集中的に照射される。葉および茎など他の部分に青色光またはUV−A紫外線が照射されることにより植物体の生育が妨げられることを防止しつつ、イチゴの果実における色素、栄養素または機能性成分の蓄積を促進できる。また、照射範囲を絞ることにより、光照射のコストを抑制することができるという副次的な効果も得られる。
【発明の効果】
【0037】
以上のように、本発明に係る光照射装置は、イチゴ栽培用の光照射装置であって、青色光またはUV−A紫外線を出射する光源を備え、上記光源から出射される青色光またはUV−A紫外線が、イチゴの果実に集中的に照射されるように上記光源が配置されている構成である。
【0038】
また、本発明に係るイチゴ栽培方法は、光源から出射される青色光またはUV−A紫外線を、イチゴの果実に集中的に照射する工程を含む構成である。
【0039】
それゆえ、葉および茎など他の部分に青色光またはUV−A紫外線が照射されることにより植物体の生育が妨げられることを防止しつつ、イチゴの果実における色素、栄養素または機能性成分の蓄積を促進できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係るイチゴ栽培システムの概略構成を示す図である。
【図2】上記イチゴ栽培システムに含まれるUV−A照射装置の構成を示す図である。
【図3】(a)は、上記UV−A照射装置の変更例を示す平面図であり、(b)は、その側面図である。
【図4】(a)および(b)は、上記UV−A照射装置の配置方法の好ましい例を示す図である。
【図5】(a)および(b)は、上記UV−A照射装置の配置方法の比較例を示す図である。
【図6】(a)は、UV―A照射がイチゴ果実の総ポリフェノール生産に及ぼす影響を示すグラフであり、(b)は、UV―A照射がイチゴ果実の総アントシアニン生産に及ぼす影響を示すグラフである。
【図7】イチゴ果実へのUV―A照射がイチゴの収穫量に影響を及ぼさないことを示すグラフである。
【図8】本発明の別の実施形態に係るイチゴ栽培システムに含まれる、送風管が配されたUV−A照射装置の構成を示す図である。
【図9】上記送風管の別の配設方法を示す図である。
【図10】(a)〜(d)は、送風管の構造の変更例を示す斜視図である。
【図11】(a)〜(c)は、送風管へのUV−A照射装置の取り付け方法の例を示す斜視図である。
【図12】(a)は、スリットおよび開口部が形成されていない送風管を示す斜視図であり、(b)は、(a)に示す送風管にUV−A照射装置を密着させた状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の実施の一形態について図1〜図6に基づいて説明すれば、以下のとおりである。本実施形態のイチゴ栽培システム10は、例えば、閉鎖型の人口光利用型の植物工場で用いられる栽培システムである。このイチゴ栽培システム10は、光合成に必要な波長範囲の光(波長400〜700nmの光)を主に葉に照射することに加え、青色光またはUV−A紫外線をイチゴの果実に照射することにより、イチゴの果実の色素、栄養素または機能性成分の蓄積を促進するものである。
【0042】
なお、本発明は、イチゴ栽培用の光として人工光を利用してイチゴを栽培する栽培施設(植物栽培用構造体)において用いられる光照射装置、栽培システムおよび栽培方法に関するものである。人工光を利用した栽培とは、栽培のための光の少なくとも一部に人工光が用いられている栽培を意味し、太陽光を全く用いない栽培を意味するわけではない。太陽光と人工光とを組み合わせて栽培する場合にも本発明を適用可能である。
【0043】
(イチゴ栽培システム10の構成)
図1は、イチゴ栽培システム10の概略構成を示す図である。図1に示すように、イチゴ栽培システム10は、照明装置(主光源装置)1、空調装置4、栽培容器5、制御装置6およびUV−A照射装置(光照射装置)8を備えており、栽培室7の内部に設置されている。
【0044】
(照明装置1)
照明装置1は、光合成に必要な波長範囲の光(波長400〜700nmの光)を出射する光源であり、栽培容器5の上方(例えば、栽培容器5の上方約30cm)に配置されている。人工の植物栽培では、エネルギーを有効的に利用するため、植物が必要とする光だけを与えることが一般的である。照明装置1においても、イチゴの生育に必要な波長範囲の光のみをイチゴ20に照射する。この照明装置1は、光源ユニット2および冷却板3を備えている。
【0045】
(光源ユニット2)
光源ユニット2は、例えば、波長640〜690nmの光を出射する赤色LED(赤色光源)および波長420〜500nmの光を出射する青色LED(青色光源)を基板上に備えている。赤色LEDは、例えば、650nmにピークを有する赤色光を出射する。青色LEDは、例えば、470nmにピークを有する青色光を出射する。
【0046】
赤色LEDと青色LEDとの個数の比は、例えば4:1であるが、これに限定されない。赤色光と青色光との光量の比率は、変更可能であり、所望の光量の赤色光および青色光を照射するために、赤色LED22および青色LED23に供給する電力を調整すればよい。
【0047】
ただし、光源ユニット2は、イチゴの栽培に適した光源であればよく、LED以外の光源、例えばハロゲンランプまたは蛍光灯を備えていてもよい。また、光源ユニット2が出射する光の波長および強度も特に限定されない。また、赤色LEDおよび青色LEDという2種類のLEDを用いる必要は必ずしもなく、複数の波長の光を照射できるLEDを1種類用いることにより、赤色LEDおよび青色LEDの組み合わせと同様の波長の光を出射する光源を用いてもよい。
【0048】
(冷却板3)
図1に示すように、照明装置1の、光源ユニット2が搭載されている側の面とは反対側の面には、冷却板3が配設されている。冷却板3は、赤色LEDおよび青色LEDが発した熱を放散させるための部材であり、金属(例えば、鉄、銅、アルミニウム)など、熱伝導性の高い物質からなるものである。
【0049】
(空調装置4)
空調装置4は、栽培室7の内部の温度を調節するエアコンある。また、空調装置4は、栽培室7の内部の空気を循環させる送風機としても機能する。
【0050】
(栽培容器5)
栽培容器5は、培養土または栽培用の固形培地(ロックウール、ウレタン、スポンジなど)を入れるためのプランターであってもよいし、イチゴ20を保持するとともに水耕栽培用の培養液を貯める水槽であってもよい。
【0051】
(制御装置6)
制御装置6は、照明装置1の照度および空調装置4の空調温度および風量を制御する。イチゴは短日植物であるため、特に制御装置6は、照明装置1を制御することにより短日条件の光環境を実現する。昼夜のサイクル(明期および暗期の長さ)および、明期および暗期のそれぞれにおける空調温度は、特に限定されず、イチゴに適した公知の栽培条件を用いればよい。
【0052】
(UV−A照射装置8)
UV−A照射装置8は、UV−A紫外線(例えば、波長域315〜400nm)を出射する光源装置であり、栽培容器5の側面に配設されている。すなわち、UV−A照射装置8は、イチゴが栽培される栽培容器5の側面に垂れたイチゴ20の果実21の近傍に配置されている。
【0053】
このUV−A照射装置8は、光合成には直接影響しない紫外線をイチゴ20の果実21に集中的に照射することによりイチゴにストレスを与え、果実21における色素、栄養素または機能性成分の蓄積を促進する。
【0054】
このような目的で照射する紫外線として、UV−B紫外線およびUV−C紫外線を用いることもできるが、UV−B紫外線およびUV−C紫外線は、波長が短く、人体および植物に有害である。それゆえ、安全性の高いUV−A紫外線を用いることが好ましい。
【0055】
図2に示すように、UV−A照射装置8は、棒状の基板81の上にUV−A紫外線を出射する複数のLED(光源)82が一列に搭載されているものである。図2は、UV−A照射装置の構成を示す図である。なお、UV−A照射装置8の基板81においてLED82が複数例を形成するように配置されていてもよく、LED82の数および配置は特に限定されない。
【0056】
(UV−A照射装置8の変更例)
図3は、(a)は、UV−A照射装置8の変更例を示す平面図であり、(b)は、UV−A照射装置8の変更例を示す側面図である。図3(a)および(b)に示すように、UV−A照射装置8が備えるLEDは、UV−A紫外線の指向性を高めるレンズが配された砲弾型のLED(光源)83であってもよい。すなわち、UV−A照射装置8が備えるLEDには、UV−A紫外線の指向性を高めるレンズが配されていてもよい。
【0057】
LEDに上記レンズが配されていることにより、当該LEDから出射されるUV−A紫外線の指向性を高めることができ、イチゴの果実21に効率良くUV−A紫外線を照射できる。
【0058】
(UV−A照射装置8の配置)
図4(a)および(b)は、UV−A照射装置8の配置方法の好ましい例を示す図である。図4(a)に示す例では、UV−A照射装置8は、イチゴの果実21が垂れ下がる、栽培容器5の底部付近の側面に配設されており、横方向(水平方向)にUV−A紫外線を出射する。
【0059】
また、図4(b)に示す例では、UV−A照射装置8は、栽培容器5の側面において、イチゴの果実21が垂れ下がっている位置よりも上方に配置されている。そして、UV−A照射装置8は、水平方向よりも鉛直下方向に向けてUV−A紫外線を出射する。すなわち、LED82の光軸は、水平方向よりも鉛直下方向を向いている。
【0060】
このように、イチゴの果実21が垂れ下がっている位置の近傍において、水平方向、または斜め下方向(水平方向よりも鉛直下方向)に向けてUV−A紫外線を照射することにより、イチゴの果実21のみにUV−A紫外線を照射することができ、当該果実21において機能性成分等の蓄積を促進することができる。
【0061】
(比較例)
図5(a)および(b)は、UV−A照射装置8の配置方法の比較例を示す図である。図5(a)に示すように、UV−A照射装置8を栽培容器5が設置されている床等に配置し、鉛直上向きにUV−A紫外線を出射した場合には、UV−A紫外線をイチゴに果実に照射することはできる。しかし、UV−A紫外線は、イチゴ20の葉や茎にも照射されるため、イチゴ20の生育を阻害する可能性がある。また、作業者にUV−A紫外線が照射される恐れもある。
【0062】
また、図5(b)に示すように、UV−A照射装置8をイチゴ20の上方に配置し、下方に向けてUV−A紫外線を出射した場合には、葉または茎にUV−A紫外線が遮られて、効率良くUV−A紫外線を果実に照射することが困難である。
【0063】
それゆえ、図4(a)および(b)に示すように、イチゴの果実21の近傍において水平方向、または水平方向よりも鉛直下方向に向けてUV−A紫外線を照射することが好ましい。
【0064】
(栽培容器5によるUV−A照射装置8の冷却効果)
UV−A照射装置8は、栽培容器5の側面に固定されている必要は必ずしもなく、スタンドなど、栽培容器5以外の部材によってその位置が固定されていてもよい。
【0065】
しかし、栽培容器5に定期的に培養液を補填する場合には、培養液は室温に比べて低くなっている場合が多い。そのため、UV−A照射装置8の基板81を栽培容器5に当接させることで基板81および発熱源であるLED82を冷却することができる。
【0066】
また、栽培容器5が熱伝導性の高い物質で形成されている場合には、UV−A照射装置8の放熱効果をより高めることができる。
【0067】
また、逆に、UV−A照射装置8の熱によって栽培容器5の内部の培地の温度を高める効果も得られる。
【0068】
(栽培方法の概要)
次にイチゴ栽培システム10を用いたイチゴ栽培方法の概要について説明する。当該イチゴ栽培方法では、人工光を利用する植物栽用の空間である栽培室7において、光合成に必要な波長範囲の光(波長400〜700nmの光)を主にイチゴ20の葉に照射することに加え、UV−A紫外線(波長域340〜400nm)をイチゴ20の果実21に照射する。
【0069】
より具体的には、赤色LEDからの赤色光および青色LEDからの青色光をそれぞれイチゴ20に照射するとともに、UV−A照射装置8からのUV−A紫外線を果実21に照射する。
【0070】
赤色光および青色光の総光合成光量子束密度は、例えば、100〜1000μmol/m2/sであり、赤色光と青色光との割合は、例えば1:0、1:1、4:1など、適宜設定されればよい。
【0071】
イチゴは短日植物であるため、昼夜のサイクルは、短日条件になるように設定する。すなわち、短日条件の光環境を実現するように制御装置6によって照明装置1およびUV−A照射装置8の光量を制御する。昼夜のサイクルは、例えば、明期12時間、暗期12時間であるが、これに限定されない。
【0072】
昼夜のサイクルに伴って栽培室7の内部の温度も調節する。この温度調節は、制御装置6の制御下において空調装置4が行う。栽培室7の内部の温度は、例えば、明期25℃、暗期10℃に設定する。
【0073】
その他の栽培条件(培養土の組成、給肥条件など)については、公知の条件を用いればよい。
【0074】
(栽培方法の具体例)
次にイチゴ栽培システム10におけるイチゴ栽培方法の一例について説明する。イチゴ20として「とちおとめ」を栽培容器5の中に入れたロックウールに定植し、照明装置1の下方に設置した。また、栽培容器5の側面には、図4(a)に示すように、UV−A照射装置8を配設した。また、イチゴ栽培用の培養液として園芸試験場処方を使用し、栽培容器5に注入した。
【0075】
明期12時間、暗期12時間のサイクルで照明装置1およびUV−A照射装置8を点灯させ、栽培室7の内部の温度を、明期25℃、暗期10℃に調節した。
【0076】
赤色光および青色光の総光合成光量子束密度は、120μmol/m2/sとし、赤色光と青色光との割合(R:B)は、4:1に設定した。
【0077】
また、UV−A照射装置8のUV−A紫外線の光量は、30〜40μmol/m2/sに設定した。UV−A紫外線は、定植後から実験収量まで全期間(明期)を通して照射した。
【0078】
また、比較実験のためにUV−A紫外線を照射しない栽培区も設けた。
【0079】
各栽培区について、イチゴの果実の果皮部分(表面から1〜2mmの厚さの部分)を用いて総ポリフェノール含有量および総アントシアニン含有量(色素または機能性成分)を測定した。総ポリフェノール含有量は、Folin Ciocalteu法にて測定した。また、総アントシアニン含有量については、Lees & Francis法に基づき、抽出液を分光光度計で533nmの吸光度を測定することで求めた。なお、各栽培区について、「とちおとめ」の4株を用いた。
【0080】
(栽培結果)
図6(a)は、UV―A照射がイチゴ果実の総ポリフェノール生産に及ぼす影響を示すグラフであり、図6(b)はUV―A照射がイチゴ果実の総アントシアニン生産に及ぼす影響を示すグラフである。誤差線は標準誤差(n=4)を示し、P値はt検定によって求めた。
【0081】
図6(a)に示すように、UV−A紫外線を照射した場合には、照射しなかった場合と比較して、イチゴの果実における総ポリフェノール含有量が顕著に増加した。また、図6(b)に示すように、UV−A紫外線を照射した場合には、照射しなかった場合と比較して、イチゴの果実における総アントシアニン含有量が有意に増加した。
【0082】
また、データとしては示していないが、イチゴの果実におけるビタミンC(アスコルビン酸)含有量もUV−A紫外線の照射により増加することを確認している。
【0083】
(イチゴの収穫量に及ぼすUV−A紫外線照射の影響)
次に、UV−A紫外線をイチゴの果実に集中的に照射することにより、UV−A紫外線の照射によってイチゴの収穫量が減少することを防止できることを説明する。図7は、イチゴ果実へのUV―A照射がイチゴの収穫量に影響を及ぼさないことを示すグラフである。図7に示す実験では、上述のように「とちおとめ」を栽培し、UV−A紫外線をイチゴの果実に集中的に照射した場合と、UV−A紫外線を照射しなかった場合とにおいて、一株当たりの平均収量を測定した。各栽培区において4株を用い、170日間収穫を行った。
【0084】
その結果、図7に示すように、一株から得られるイチゴの収穫量は、UV−A紫外線の照射の有無に関わらず同じであった。より詳細には、UV−A紫外線を照射した場合の収穫量は、平均195.84gであり、照射しなかった場合の収穫量は、平均200.94gであり、有意水準5%のt検定により有意差はなし(P=0.967)と判断できた。
【0085】
このようにUV−A紫外線の照射をイチゴの果実に集中させることにより、植物体の生育が当該照射によって抑制されることを回避することができる。その結果、イチゴの収穫量を減少させることなくイチゴの機能性成分等を増加させることができる。
【0086】
(イチゴ栽培システム10の効果)
以上のように、イチゴ栽培システム10では、UV−A紫外線が光源から出射され、イチゴの果実21に集中的に照射される。そのため、葉および茎など他の部分にUV−A紫外線が照射されることにより植物の生育が妨げられることを防止しつつ、イチゴの果実21における色素、栄養素または機能性成分の蓄積を促進できる。
【0087】
また、植物体全体にUV−A紫外線を照射する場合よりも、照射範囲が絞られており、UV−A紫外線の照射のコストを抑制することができる。
【0088】
(イチゴ栽培システム10の変更例)
上述の実施形態では、イチゴの果実にUV−A紫外線を照射したが、イチゴの果実に青色光(波長域420〜470nm)を照射しても、機能性成分(ポリフェノールおよびアントシアニン)が効果的に蓄積誘導されることを確認している。
【0089】
それゆえ、上述の実施形態におけるUV−A照射装置8を青色光照射装置に置き換えてもよい。
【0090】
すなわち、本発明のイチゴ栽培用の光照射装置は、青色光またはUV−A紫外線を出射する光源を備え、上記光源から出射される青色光またはUV−A紫外線が、イチゴの果実に集中的に照射されるように上記光源が配置されている。この場合、青色光を出射するLEDとUV−A紫外線を出射するLEDとを同一の基板(基板81に相当)上に設けてもよく、別々の基板上に設けてもよい。また、青色光およびUV−A紫外線の波長領域の光を出射する1種類のLEDを用いてもよい。
【0091】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施形態について図8〜図12に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、実施の形態1と同様の部材に関しては、同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0092】
本実施形態のイチゴ栽培システム30では、UV−A照射装置8を冷却する(UV−A照射装置8の放熱効率を高める)送風管(放熱部)9が設けられている。図8は、本実施形態に係るイチゴ栽培システム30に含まれる、送風管9が配されたUV−A照射装置8の構成を示す図である。図9は、送風管9の別の配設方法を示す図である。
【0093】
図8に示すように、送風管9は、栽培容器5の側面とUV−A照射装置8との間に配設されてもよく、図9に示すように栽培容器5の側面に固定されたUV−A照射装置8の下方に配設されてもよく、UV−A照射装置8の上方に配設されてもよい。
【0094】
図10(a)〜(d)に示すように、送風管9には、スリット91または開口部92が形成されている。送風管9の一方の端部には、送風装置(ファン)(図示せず)が接続されており、送風装置から送られる風が送風管9の内部を通り、スリット91または開口部92から噴出する。この風によってUV−A照射装置8の基板81およびLED82が冷却される。
【0095】
また、植物体は、気孔周辺のガス交換を必要としており、栽培には適度な風が必要であるとされている。送風管9から噴出される風は、LED82の冷却だけでなく、植物の生育にも良い影響を与えることができる。なお、イチゴでは果実表面にも気孔が存在する。
【0096】
図10(a)および(c)に示すように、送風管9は角柱形状のものであってもよく、図10(b)および(d)に示すように、円筒形状のものであってもよい。
【0097】
また、図10(a)および(b)に示すように、送風管9に1本のスリットが長軸方向に沿って形成されていてもよく、送風管9に複数本のスリットが長軸方向に対して垂直な方向に形成されていてもよい。
【0098】
また、図10(c)および(d)に示すように、開口部92は、送風管9の長軸方向に沿って一列に形成されてもよく、複数列をなすように形成されてもよい。
【0099】
図11(a)〜(c)は、送風管9へのUV−A照射装置8の取り付け方法の例を示す斜視図である。図11(a)に示すように、角柱形状の送風管9のスリット91の前方にUV−A照射装置8が位置するように取り付けてもよい。
【0100】
また、図11(b)に示すように、円筒形状の送風管9のスリット91の前方に、UV−A照射装置8を支持部材93によって支持してもよい。
【0101】
また、図11(c)に示すように、角柱形状の送風管9のスリット91の前方に、UV−A照射装置8を支持部材93によって支持してもよい。支持部材93は、送風管9とUV−A照射装置8との相対位置を固定する固定部材であると表現することもできる。
【0102】
図11(b)および図11(c)に示す構成では、送風管9とUV−A照射装置8の基板81との間に隙間を形成することができ、送風管9のスリット91または開口部92から噴出した風を基板81に当てた後に効率良く逃がすことができる。
【0103】
送風管9およびUV−A照射装置8の固定方法は、上述のものに限定されず、送風管9の下方にUV−A照射装置8を配置する場合には、送風管9とUV−A照射装置8とをそれぞれ栽培容器5に固定してもよい。
【0104】
また、送風管9を熱伝導率の高い金属等の材質で形成し、UV−A照射装置8の基板81と密着させる場合には、送風管9にスリット91および開口部92を形成する必要は必ずしもない。図12(a)は、スリットおよび開口部が形成されていない送風管9を示す斜視図であり、図12(b)は、図12(a)に示す送風管9にUV−A照射装置8を密着させた状態を示す斜視図である。送風管9にUV−A照射装置8を密着させる場合には、送風管9は、角柱形状など、UV−A照射装置8と当接する平面を有する形状であることが好ましい。
【0105】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、植物工場など、人工照明光によりイチゴを栽培するときに用いる光照射装置および栽培システムとして利用することができる。
【符号の説明】
【0107】
1 照明装置(主光源装置)
2 光源ユニット(主光源装置)
5 栽培容器
8 UV−A照射装置(光照射装置)
9 送風管(放熱部)
10 イチゴ栽培システム
20 イチゴ
21 果実
30 イチゴ栽培システム
82 LED(光源)
83 LED(光源)
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工光を利用してイチゴを栽培するための光照射装置、栽培システムおよび栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イチゴは、そのまま生食するだけでなく、加工食品など、1年を通して需要が多い作物である。冬から春にかけて市場に出回る一季成りイチゴは、短日植物であり、昼の長さが短くなる秋から冬に花芽分化し、実をつける。逆に夏季には実がつかないため、日本では非常に高価となっている。
【0003】
一方、近年ブームとなっている植物工場では、光環境を人為的に制御できるため、植物工場においてイチゴの花芽分化に適した光環境を構築し、イチゴの周年栽培を行うことで、夏季にもイチゴを供給することが可能となる。植物工場では、気候変動に影響されず、病虫害の被害が少ないため、いくつかの研究機関が取り組みを開始している。
【0004】
また、光の量および質が植物の形態や栄養成分、収量等に大きな影響を与えることが知られている。植物工場では、LEDや蛍光灯などの人工光を利用することにより植物の生育のコントロールが容易であることから、とくに注目を浴びている。
【0005】
このような植物工場でイチゴを栽培する場合、必要な光だけ与えればよく、紫外線など植物の生育を妨げる波長の光を照射しないことができる。
【0006】
その一方で、紫外線は、ポリフェノールなどの機能性成分の生成を促進する効果があるとされている。そのため、このような紫外線のない環境では機能性成分を高めることが困難である。
【0007】
このような分野に取り組み、勝ち抜いていくためには、栄養・機能性などの面で付加価値の高い作物の栽培を行うことが重要である。特許文献1〜3にはそのための取り組みが開示されている。
【0008】
特許文献1には、紫外線がカットされてUV−Bが照射されるハウス内で、UV−Bの照射による果実の色抜けの発生を防ぐ植物用カバーが開示されている。
【0009】
特許文献2には、栽培された黄化スプラウトに対して、青色光またはUV−A紫外光の波長領域内に放射スペクトルを有する発光ダイオードで植物体の表面細胞を照射し、表面細胞内に植物色素の生成を誘起させて赤色化する方法が開示されている。
【0010】
特許文献3には、UV−Bを、単子葉栽培植物の芽ネギに照射することにより、植物体中のジフェニルピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカル消去活性を高めるアスコルビン酸やポリフェノールなどの機能性物質含量を増加させる栽培方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−273546号公報(2010年12月9日公開)
【特許文献2】特開2007−89445号公報(2007年4月12日公開)
【特許文献3】特開2008−86272号公報(2008年4月17日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが特許文献1の栽培方法では、ハウス内でUV−Bが照射されることが前提となっているが、このUV−Bは、植物の生育を抑制するため、生育の遅延やそれに伴う果実生育の遅れ、および収量の減少が起こる可能性がある。なお、UV−Bは、人体に対して有害であるため、照射時には作業を行うことができない。また、イチゴ等の果実は、気孔を有しており呼吸しているため、カバーによる密閉は植物にとって過度のストレスとなるとともに、カバーの装着に手間がかかるという問題もある。
【0013】
特許文献2の栽培方法では、黄化スプラウトの全体に対して青色光またはUV−A紫外光を照射するため、植物の生育を抑制する可能性がある。
【0014】
特許文献3の栽培方法でも、単子葉植物全体にUV−Bを照射するため、植物の生育を抑制する可能性がある。
【0015】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、人工光を利用したイチゴ栽培において、植物体の生育が抑制されることを防止しつつ、イチゴの果実の色素、栄養素または機能性成分の蓄積を促進することができる光照射装置、イチゴ栽培システムおよびイチゴ栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る光照射装置は、上記の課題を解決するために、イチゴ栽培用の光照射装置であって、青色光またはUV−A紫外線を出射する光源を備え、上記光源から出射される青色光またはUV−A紫外線が、イチゴの果実に集中的に照射されるように上記光源が配置されていることを特徴としている。
【0017】
上記の構成によれば、青色光またはUV−A紫外線が光源から出射され、イチゴの果実に集中的に照射される。青色光は、植物および人にとって有害性は全くなく、UV−AについてもUV−Bと比較すれば、有害性は格段に低い。それゆえ、青色光またはUV−A紫外線の照射時にも安全に作業を行うことができる。
【0018】
さらに、青色光またはUV−A紫外線がイチゴの果実に集中的に照射されるため、葉および茎など他の部分に青色光またはUV−A紫外線が照射されることにより植物体の生育が妨げられることを防止できる。その上で、イチゴの果実における色素、栄養素または機能性成分の蓄積を青色光またはUV−A紫外線の照射により促進できる。また、照射範囲を絞ることにより、青色光またはUV−A紫外線の照射コストを抑制することができるという副次的な効果も得られる。
【0019】
また、上記光源は、上記果実の近傍に配置されていることが好ましい。
【0020】
上記の構成により、イチゴの葉または茎によって遮られることなく青色光またはUV−A紫外線をイチゴの果実に照射することができる。
【0021】
また、上記光源は、イチゴが栽培される栽培容器の側面に垂れた上記果実の近傍に配置されていることが好ましい。
【0022】
上記の構成により、イチゴが栽培される栽培容器の側面に垂れたイチゴの果実に効率良く青色光またはUV−A紫外線を照射することができる。
【0023】
また、上記光源は、イチゴが栽培される栽培容器の側面に配設されていることが好ましい。
【0024】
上記の構成により、イチゴが栽培される栽培容器の側面に垂れたイチゴの果実に効率良く青色光またはUV−A紫外線を照射することができる。また、光源が栽培容器に接していることにより、当該栽培容器によって光源の放熱効果を高めることができる。
【0025】
また、上記光源の光軸は、水平方向または水平方向よりも鉛直下方向を向いていることが好ましい。
【0026】
上記の構成によれば、上記光源から出射された青色光またはUV−A紫外線は、水平方向または水平方向よりも鉛直下方向に出射される。それゆえ、青色光またはUV−A紫外線が水平方向に対して仰角をなす角度で出射されることによって、イチゴの葉、茎または作業者に青色光またはUV−A紫外線が照射される可能性を低減できる。
【0027】
また、上記光源には、上記青色光または上記UV−A紫外線の指向性を高めるレンズが配されていることが好ましい。
【0028】
上記の構成により、光源から出射される光(青色光またはUV−A紫外線)が進行する立体角の範囲を狭めることができ、イチゴに効率良く青色光またはUV−A紫外線を照射できる。
【0029】
また、上記光源の放熱効率を高める放熱部がさらに備えられていることが好ましい。
【0030】
上記の構成によれば、放熱部によって光源の放熱効率を高めることができ、光源の機能が熱によって低下したり、光源が熱によって破損したりすることを防止できる。
【0031】
また、上記放熱部は、上記光源またはその近傍に風を送る送風管を含むことが好ましい。
【0032】
上記の構成により、光源を空冷することができ、当該光源をより効率的に冷却できる。また、植物体は、気孔周辺のガス交換を必要としており、栽培には適度な風が必要であるとされている。送風管から噴出される風は、光源の冷却だけでなく、植物の生育にも良い影響を与えることができる。
【0033】
なお、送風管から送られる風は、光源そのものに直接当てられてもよく、光源が設けられた基板に当てられてもよい。
【0034】
また、上記光照射装置と、光合成に必要な波長範囲の光を出射する主光源装置とを含むイチゴ栽培システムも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0035】
本発明に係るイチゴ栽培方法は、上記の課題を解決するために、光源から出射される青色光またはUV−A紫外線を、イチゴの果実に集中的に照射する工程を含むことを特徴としている。
【0036】
上記の構成によれば、青色光またはUV−A紫外線が光源から出射され、イチゴの果実に集中的に照射される。葉および茎など他の部分に青色光またはUV−A紫外線が照射されることにより植物体の生育が妨げられることを防止しつつ、イチゴの果実における色素、栄養素または機能性成分の蓄積を促進できる。また、照射範囲を絞ることにより、光照射のコストを抑制することができるという副次的な効果も得られる。
【発明の効果】
【0037】
以上のように、本発明に係る光照射装置は、イチゴ栽培用の光照射装置であって、青色光またはUV−A紫外線を出射する光源を備え、上記光源から出射される青色光またはUV−A紫外線が、イチゴの果実に集中的に照射されるように上記光源が配置されている構成である。
【0038】
また、本発明に係るイチゴ栽培方法は、光源から出射される青色光またはUV−A紫外線を、イチゴの果実に集中的に照射する工程を含む構成である。
【0039】
それゆえ、葉および茎など他の部分に青色光またはUV−A紫外線が照射されることにより植物体の生育が妨げられることを防止しつつ、イチゴの果実における色素、栄養素または機能性成分の蓄積を促進できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係るイチゴ栽培システムの概略構成を示す図である。
【図2】上記イチゴ栽培システムに含まれるUV−A照射装置の構成を示す図である。
【図3】(a)は、上記UV−A照射装置の変更例を示す平面図であり、(b)は、その側面図である。
【図4】(a)および(b)は、上記UV−A照射装置の配置方法の好ましい例を示す図である。
【図5】(a)および(b)は、上記UV−A照射装置の配置方法の比較例を示す図である。
【図6】(a)は、UV―A照射がイチゴ果実の総ポリフェノール生産に及ぼす影響を示すグラフであり、(b)は、UV―A照射がイチゴ果実の総アントシアニン生産に及ぼす影響を示すグラフである。
【図7】イチゴ果実へのUV―A照射がイチゴの収穫量に影響を及ぼさないことを示すグラフである。
【図8】本発明の別の実施形態に係るイチゴ栽培システムに含まれる、送風管が配されたUV−A照射装置の構成を示す図である。
【図9】上記送風管の別の配設方法を示す図である。
【図10】(a)〜(d)は、送風管の構造の変更例を示す斜視図である。
【図11】(a)〜(c)は、送風管へのUV−A照射装置の取り付け方法の例を示す斜視図である。
【図12】(a)は、スリットおよび開口部が形成されていない送風管を示す斜視図であり、(b)は、(a)に示す送風管にUV−A照射装置を密着させた状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の実施の一形態について図1〜図6に基づいて説明すれば、以下のとおりである。本実施形態のイチゴ栽培システム10は、例えば、閉鎖型の人口光利用型の植物工場で用いられる栽培システムである。このイチゴ栽培システム10は、光合成に必要な波長範囲の光(波長400〜700nmの光)を主に葉に照射することに加え、青色光またはUV−A紫外線をイチゴの果実に照射することにより、イチゴの果実の色素、栄養素または機能性成分の蓄積を促進するものである。
【0042】
なお、本発明は、イチゴ栽培用の光として人工光を利用してイチゴを栽培する栽培施設(植物栽培用構造体)において用いられる光照射装置、栽培システムおよび栽培方法に関するものである。人工光を利用した栽培とは、栽培のための光の少なくとも一部に人工光が用いられている栽培を意味し、太陽光を全く用いない栽培を意味するわけではない。太陽光と人工光とを組み合わせて栽培する場合にも本発明を適用可能である。
【0043】
(イチゴ栽培システム10の構成)
図1は、イチゴ栽培システム10の概略構成を示す図である。図1に示すように、イチゴ栽培システム10は、照明装置(主光源装置)1、空調装置4、栽培容器5、制御装置6およびUV−A照射装置(光照射装置)8を備えており、栽培室7の内部に設置されている。
【0044】
(照明装置1)
照明装置1は、光合成に必要な波長範囲の光(波長400〜700nmの光)を出射する光源であり、栽培容器5の上方(例えば、栽培容器5の上方約30cm)に配置されている。人工の植物栽培では、エネルギーを有効的に利用するため、植物が必要とする光だけを与えることが一般的である。照明装置1においても、イチゴの生育に必要な波長範囲の光のみをイチゴ20に照射する。この照明装置1は、光源ユニット2および冷却板3を備えている。
【0045】
(光源ユニット2)
光源ユニット2は、例えば、波長640〜690nmの光を出射する赤色LED(赤色光源)および波長420〜500nmの光を出射する青色LED(青色光源)を基板上に備えている。赤色LEDは、例えば、650nmにピークを有する赤色光を出射する。青色LEDは、例えば、470nmにピークを有する青色光を出射する。
【0046】
赤色LEDと青色LEDとの個数の比は、例えば4:1であるが、これに限定されない。赤色光と青色光との光量の比率は、変更可能であり、所望の光量の赤色光および青色光を照射するために、赤色LED22および青色LED23に供給する電力を調整すればよい。
【0047】
ただし、光源ユニット2は、イチゴの栽培に適した光源であればよく、LED以外の光源、例えばハロゲンランプまたは蛍光灯を備えていてもよい。また、光源ユニット2が出射する光の波長および強度も特に限定されない。また、赤色LEDおよび青色LEDという2種類のLEDを用いる必要は必ずしもなく、複数の波長の光を照射できるLEDを1種類用いることにより、赤色LEDおよび青色LEDの組み合わせと同様の波長の光を出射する光源を用いてもよい。
【0048】
(冷却板3)
図1に示すように、照明装置1の、光源ユニット2が搭載されている側の面とは反対側の面には、冷却板3が配設されている。冷却板3は、赤色LEDおよび青色LEDが発した熱を放散させるための部材であり、金属(例えば、鉄、銅、アルミニウム)など、熱伝導性の高い物質からなるものである。
【0049】
(空調装置4)
空調装置4は、栽培室7の内部の温度を調節するエアコンある。また、空調装置4は、栽培室7の内部の空気を循環させる送風機としても機能する。
【0050】
(栽培容器5)
栽培容器5は、培養土または栽培用の固形培地(ロックウール、ウレタン、スポンジなど)を入れるためのプランターであってもよいし、イチゴ20を保持するとともに水耕栽培用の培養液を貯める水槽であってもよい。
【0051】
(制御装置6)
制御装置6は、照明装置1の照度および空調装置4の空調温度および風量を制御する。イチゴは短日植物であるため、特に制御装置6は、照明装置1を制御することにより短日条件の光環境を実現する。昼夜のサイクル(明期および暗期の長さ)および、明期および暗期のそれぞれにおける空調温度は、特に限定されず、イチゴに適した公知の栽培条件を用いればよい。
【0052】
(UV−A照射装置8)
UV−A照射装置8は、UV−A紫外線(例えば、波長域315〜400nm)を出射する光源装置であり、栽培容器5の側面に配設されている。すなわち、UV−A照射装置8は、イチゴが栽培される栽培容器5の側面に垂れたイチゴ20の果実21の近傍に配置されている。
【0053】
このUV−A照射装置8は、光合成には直接影響しない紫外線をイチゴ20の果実21に集中的に照射することによりイチゴにストレスを与え、果実21における色素、栄養素または機能性成分の蓄積を促進する。
【0054】
このような目的で照射する紫外線として、UV−B紫外線およびUV−C紫外線を用いることもできるが、UV−B紫外線およびUV−C紫外線は、波長が短く、人体および植物に有害である。それゆえ、安全性の高いUV−A紫外線を用いることが好ましい。
【0055】
図2に示すように、UV−A照射装置8は、棒状の基板81の上にUV−A紫外線を出射する複数のLED(光源)82が一列に搭載されているものである。図2は、UV−A照射装置の構成を示す図である。なお、UV−A照射装置8の基板81においてLED82が複数例を形成するように配置されていてもよく、LED82の数および配置は特に限定されない。
【0056】
(UV−A照射装置8の変更例)
図3は、(a)は、UV−A照射装置8の変更例を示す平面図であり、(b)は、UV−A照射装置8の変更例を示す側面図である。図3(a)および(b)に示すように、UV−A照射装置8が備えるLEDは、UV−A紫外線の指向性を高めるレンズが配された砲弾型のLED(光源)83であってもよい。すなわち、UV−A照射装置8が備えるLEDには、UV−A紫外線の指向性を高めるレンズが配されていてもよい。
【0057】
LEDに上記レンズが配されていることにより、当該LEDから出射されるUV−A紫外線の指向性を高めることができ、イチゴの果実21に効率良くUV−A紫外線を照射できる。
【0058】
(UV−A照射装置8の配置)
図4(a)および(b)は、UV−A照射装置8の配置方法の好ましい例を示す図である。図4(a)に示す例では、UV−A照射装置8は、イチゴの果実21が垂れ下がる、栽培容器5の底部付近の側面に配設されており、横方向(水平方向)にUV−A紫外線を出射する。
【0059】
また、図4(b)に示す例では、UV−A照射装置8は、栽培容器5の側面において、イチゴの果実21が垂れ下がっている位置よりも上方に配置されている。そして、UV−A照射装置8は、水平方向よりも鉛直下方向に向けてUV−A紫外線を出射する。すなわち、LED82の光軸は、水平方向よりも鉛直下方向を向いている。
【0060】
このように、イチゴの果実21が垂れ下がっている位置の近傍において、水平方向、または斜め下方向(水平方向よりも鉛直下方向)に向けてUV−A紫外線を照射することにより、イチゴの果実21のみにUV−A紫外線を照射することができ、当該果実21において機能性成分等の蓄積を促進することができる。
【0061】
(比較例)
図5(a)および(b)は、UV−A照射装置8の配置方法の比較例を示す図である。図5(a)に示すように、UV−A照射装置8を栽培容器5が設置されている床等に配置し、鉛直上向きにUV−A紫外線を出射した場合には、UV−A紫外線をイチゴに果実に照射することはできる。しかし、UV−A紫外線は、イチゴ20の葉や茎にも照射されるため、イチゴ20の生育を阻害する可能性がある。また、作業者にUV−A紫外線が照射される恐れもある。
【0062】
また、図5(b)に示すように、UV−A照射装置8をイチゴ20の上方に配置し、下方に向けてUV−A紫外線を出射した場合には、葉または茎にUV−A紫外線が遮られて、効率良くUV−A紫外線を果実に照射することが困難である。
【0063】
それゆえ、図4(a)および(b)に示すように、イチゴの果実21の近傍において水平方向、または水平方向よりも鉛直下方向に向けてUV−A紫外線を照射することが好ましい。
【0064】
(栽培容器5によるUV−A照射装置8の冷却効果)
UV−A照射装置8は、栽培容器5の側面に固定されている必要は必ずしもなく、スタンドなど、栽培容器5以外の部材によってその位置が固定されていてもよい。
【0065】
しかし、栽培容器5に定期的に培養液を補填する場合には、培養液は室温に比べて低くなっている場合が多い。そのため、UV−A照射装置8の基板81を栽培容器5に当接させることで基板81および発熱源であるLED82を冷却することができる。
【0066】
また、栽培容器5が熱伝導性の高い物質で形成されている場合には、UV−A照射装置8の放熱効果をより高めることができる。
【0067】
また、逆に、UV−A照射装置8の熱によって栽培容器5の内部の培地の温度を高める効果も得られる。
【0068】
(栽培方法の概要)
次にイチゴ栽培システム10を用いたイチゴ栽培方法の概要について説明する。当該イチゴ栽培方法では、人工光を利用する植物栽用の空間である栽培室7において、光合成に必要な波長範囲の光(波長400〜700nmの光)を主にイチゴ20の葉に照射することに加え、UV−A紫外線(波長域340〜400nm)をイチゴ20の果実21に照射する。
【0069】
より具体的には、赤色LEDからの赤色光および青色LEDからの青色光をそれぞれイチゴ20に照射するとともに、UV−A照射装置8からのUV−A紫外線を果実21に照射する。
【0070】
赤色光および青色光の総光合成光量子束密度は、例えば、100〜1000μmol/m2/sであり、赤色光と青色光との割合は、例えば1:0、1:1、4:1など、適宜設定されればよい。
【0071】
イチゴは短日植物であるため、昼夜のサイクルは、短日条件になるように設定する。すなわち、短日条件の光環境を実現するように制御装置6によって照明装置1およびUV−A照射装置8の光量を制御する。昼夜のサイクルは、例えば、明期12時間、暗期12時間であるが、これに限定されない。
【0072】
昼夜のサイクルに伴って栽培室7の内部の温度も調節する。この温度調節は、制御装置6の制御下において空調装置4が行う。栽培室7の内部の温度は、例えば、明期25℃、暗期10℃に設定する。
【0073】
その他の栽培条件(培養土の組成、給肥条件など)については、公知の条件を用いればよい。
【0074】
(栽培方法の具体例)
次にイチゴ栽培システム10におけるイチゴ栽培方法の一例について説明する。イチゴ20として「とちおとめ」を栽培容器5の中に入れたロックウールに定植し、照明装置1の下方に設置した。また、栽培容器5の側面には、図4(a)に示すように、UV−A照射装置8を配設した。また、イチゴ栽培用の培養液として園芸試験場処方を使用し、栽培容器5に注入した。
【0075】
明期12時間、暗期12時間のサイクルで照明装置1およびUV−A照射装置8を点灯させ、栽培室7の内部の温度を、明期25℃、暗期10℃に調節した。
【0076】
赤色光および青色光の総光合成光量子束密度は、120μmol/m2/sとし、赤色光と青色光との割合(R:B)は、4:1に設定した。
【0077】
また、UV−A照射装置8のUV−A紫外線の光量は、30〜40μmol/m2/sに設定した。UV−A紫外線は、定植後から実験収量まで全期間(明期)を通して照射した。
【0078】
また、比較実験のためにUV−A紫外線を照射しない栽培区も設けた。
【0079】
各栽培区について、イチゴの果実の果皮部分(表面から1〜2mmの厚さの部分)を用いて総ポリフェノール含有量および総アントシアニン含有量(色素または機能性成分)を測定した。総ポリフェノール含有量は、Folin Ciocalteu法にて測定した。また、総アントシアニン含有量については、Lees & Francis法に基づき、抽出液を分光光度計で533nmの吸光度を測定することで求めた。なお、各栽培区について、「とちおとめ」の4株を用いた。
【0080】
(栽培結果)
図6(a)は、UV―A照射がイチゴ果実の総ポリフェノール生産に及ぼす影響を示すグラフであり、図6(b)はUV―A照射がイチゴ果実の総アントシアニン生産に及ぼす影響を示すグラフである。誤差線は標準誤差(n=4)を示し、P値はt検定によって求めた。
【0081】
図6(a)に示すように、UV−A紫外線を照射した場合には、照射しなかった場合と比較して、イチゴの果実における総ポリフェノール含有量が顕著に増加した。また、図6(b)に示すように、UV−A紫外線を照射した場合には、照射しなかった場合と比較して、イチゴの果実における総アントシアニン含有量が有意に増加した。
【0082】
また、データとしては示していないが、イチゴの果実におけるビタミンC(アスコルビン酸)含有量もUV−A紫外線の照射により増加することを確認している。
【0083】
(イチゴの収穫量に及ぼすUV−A紫外線照射の影響)
次に、UV−A紫外線をイチゴの果実に集中的に照射することにより、UV−A紫外線の照射によってイチゴの収穫量が減少することを防止できることを説明する。図7は、イチゴ果実へのUV―A照射がイチゴの収穫量に影響を及ぼさないことを示すグラフである。図7に示す実験では、上述のように「とちおとめ」を栽培し、UV−A紫外線をイチゴの果実に集中的に照射した場合と、UV−A紫外線を照射しなかった場合とにおいて、一株当たりの平均収量を測定した。各栽培区において4株を用い、170日間収穫を行った。
【0084】
その結果、図7に示すように、一株から得られるイチゴの収穫量は、UV−A紫外線の照射の有無に関わらず同じであった。より詳細には、UV−A紫外線を照射した場合の収穫量は、平均195.84gであり、照射しなかった場合の収穫量は、平均200.94gであり、有意水準5%のt検定により有意差はなし(P=0.967)と判断できた。
【0085】
このようにUV−A紫外線の照射をイチゴの果実に集中させることにより、植物体の生育が当該照射によって抑制されることを回避することができる。その結果、イチゴの収穫量を減少させることなくイチゴの機能性成分等を増加させることができる。
【0086】
(イチゴ栽培システム10の効果)
以上のように、イチゴ栽培システム10では、UV−A紫外線が光源から出射され、イチゴの果実21に集中的に照射される。そのため、葉および茎など他の部分にUV−A紫外線が照射されることにより植物の生育が妨げられることを防止しつつ、イチゴの果実21における色素、栄養素または機能性成分の蓄積を促進できる。
【0087】
また、植物体全体にUV−A紫外線を照射する場合よりも、照射範囲が絞られており、UV−A紫外線の照射のコストを抑制することができる。
【0088】
(イチゴ栽培システム10の変更例)
上述の実施形態では、イチゴの果実にUV−A紫外線を照射したが、イチゴの果実に青色光(波長域420〜470nm)を照射しても、機能性成分(ポリフェノールおよびアントシアニン)が効果的に蓄積誘導されることを確認している。
【0089】
それゆえ、上述の実施形態におけるUV−A照射装置8を青色光照射装置に置き換えてもよい。
【0090】
すなわち、本発明のイチゴ栽培用の光照射装置は、青色光またはUV−A紫外線を出射する光源を備え、上記光源から出射される青色光またはUV−A紫外線が、イチゴの果実に集中的に照射されるように上記光源が配置されている。この場合、青色光を出射するLEDとUV−A紫外線を出射するLEDとを同一の基板(基板81に相当)上に設けてもよく、別々の基板上に設けてもよい。また、青色光およびUV−A紫外線の波長領域の光を出射する1種類のLEDを用いてもよい。
【0091】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施形態について図8〜図12に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、実施の形態1と同様の部材に関しては、同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0092】
本実施形態のイチゴ栽培システム30では、UV−A照射装置8を冷却する(UV−A照射装置8の放熱効率を高める)送風管(放熱部)9が設けられている。図8は、本実施形態に係るイチゴ栽培システム30に含まれる、送風管9が配されたUV−A照射装置8の構成を示す図である。図9は、送風管9の別の配設方法を示す図である。
【0093】
図8に示すように、送風管9は、栽培容器5の側面とUV−A照射装置8との間に配設されてもよく、図9に示すように栽培容器5の側面に固定されたUV−A照射装置8の下方に配設されてもよく、UV−A照射装置8の上方に配設されてもよい。
【0094】
図10(a)〜(d)に示すように、送風管9には、スリット91または開口部92が形成されている。送風管9の一方の端部には、送風装置(ファン)(図示せず)が接続されており、送風装置から送られる風が送風管9の内部を通り、スリット91または開口部92から噴出する。この風によってUV−A照射装置8の基板81およびLED82が冷却される。
【0095】
また、植物体は、気孔周辺のガス交換を必要としており、栽培には適度な風が必要であるとされている。送風管9から噴出される風は、LED82の冷却だけでなく、植物の生育にも良い影響を与えることができる。なお、イチゴでは果実表面にも気孔が存在する。
【0096】
図10(a)および(c)に示すように、送風管9は角柱形状のものであってもよく、図10(b)および(d)に示すように、円筒形状のものであってもよい。
【0097】
また、図10(a)および(b)に示すように、送風管9に1本のスリットが長軸方向に沿って形成されていてもよく、送風管9に複数本のスリットが長軸方向に対して垂直な方向に形成されていてもよい。
【0098】
また、図10(c)および(d)に示すように、開口部92は、送風管9の長軸方向に沿って一列に形成されてもよく、複数列をなすように形成されてもよい。
【0099】
図11(a)〜(c)は、送風管9へのUV−A照射装置8の取り付け方法の例を示す斜視図である。図11(a)に示すように、角柱形状の送風管9のスリット91の前方にUV−A照射装置8が位置するように取り付けてもよい。
【0100】
また、図11(b)に示すように、円筒形状の送風管9のスリット91の前方に、UV−A照射装置8を支持部材93によって支持してもよい。
【0101】
また、図11(c)に示すように、角柱形状の送風管9のスリット91の前方に、UV−A照射装置8を支持部材93によって支持してもよい。支持部材93は、送風管9とUV−A照射装置8との相対位置を固定する固定部材であると表現することもできる。
【0102】
図11(b)および図11(c)に示す構成では、送風管9とUV−A照射装置8の基板81との間に隙間を形成することができ、送風管9のスリット91または開口部92から噴出した風を基板81に当てた後に効率良く逃がすことができる。
【0103】
送風管9およびUV−A照射装置8の固定方法は、上述のものに限定されず、送風管9の下方にUV−A照射装置8を配置する場合には、送風管9とUV−A照射装置8とをそれぞれ栽培容器5に固定してもよい。
【0104】
また、送風管9を熱伝導率の高い金属等の材質で形成し、UV−A照射装置8の基板81と密着させる場合には、送風管9にスリット91および開口部92を形成する必要は必ずしもない。図12(a)は、スリットおよび開口部が形成されていない送風管9を示す斜視図であり、図12(b)は、図12(a)に示す送風管9にUV−A照射装置8を密着させた状態を示す斜視図である。送風管9にUV−A照射装置8を密着させる場合には、送風管9は、角柱形状など、UV−A照射装置8と当接する平面を有する形状であることが好ましい。
【0105】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、植物工場など、人工照明光によりイチゴを栽培するときに用いる光照射装置および栽培システムとして利用することができる。
【符号の説明】
【0107】
1 照明装置(主光源装置)
2 光源ユニット(主光源装置)
5 栽培容器
8 UV−A照射装置(光照射装置)
9 送風管(放熱部)
10 イチゴ栽培システム
20 イチゴ
21 果実
30 イチゴ栽培システム
82 LED(光源)
83 LED(光源)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イチゴ栽培用の光照射装置であって、
青色光またはUV−A紫外線を出射する光源を備え、
上記光源から出射される青色光またはUV−A紫外線が、イチゴの果実に集中的に照射されるように上記光源が配置されていることを特徴とする光照射装置。
【請求項2】
上記光源は、上記果実の近傍に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の光照射装置。
【請求項3】
上記光源は、イチゴが栽培される栽培容器の側面に垂れた上記果実の近傍に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光照射装置。
【請求項4】
上記光源は、イチゴが栽培される栽培容器の側面に配設されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光照射装置。
【請求項5】
上記光源の光軸は、水平方向または水平方向よりも鉛直下方向を向いていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光照射装置。
【請求項6】
上記光源には、上記青色光または上記UV−A紫外線の指向性を高めるレンズが配されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光照射装置。
【請求項7】
上記光源の放熱効率を高める放熱部がさらに備えられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光照射装置。
【請求項8】
上記放熱部は、上記光源またはその近傍に風を送る送風管を含むことを特徴とする請求項7に記載の光照射装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の光照射装置と、
光合成に必要な波長範囲の光を出射する主光源装置とを含むことを特徴とするイチゴ栽培システム。
【請求項10】
光源から出射される青色光またはUV−A紫外線を、イチゴの果実に集中的に照射する工程を含むことを特徴とするイチゴ栽培方法。
【請求項1】
イチゴ栽培用の光照射装置であって、
青色光またはUV−A紫外線を出射する光源を備え、
上記光源から出射される青色光またはUV−A紫外線が、イチゴの果実に集中的に照射されるように上記光源が配置されていることを特徴とする光照射装置。
【請求項2】
上記光源は、上記果実の近傍に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の光照射装置。
【請求項3】
上記光源は、イチゴが栽培される栽培容器の側面に垂れた上記果実の近傍に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光照射装置。
【請求項4】
上記光源は、イチゴが栽培される栽培容器の側面に配設されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光照射装置。
【請求項5】
上記光源の光軸は、水平方向または水平方向よりも鉛直下方向を向いていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光照射装置。
【請求項6】
上記光源には、上記青色光または上記UV−A紫外線の指向性を高めるレンズが配されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光照射装置。
【請求項7】
上記光源の放熱効率を高める放熱部がさらに備えられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光照射装置。
【請求項8】
上記放熱部は、上記光源またはその近傍に風を送る送風管を含むことを特徴とする請求項7に記載の光照射装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の光照射装置と、
光合成に必要な波長範囲の光を出射する主光源装置とを含むことを特徴とするイチゴ栽培システム。
【請求項10】
光源から出射される青色光またはUV−A紫外線を、イチゴの果実に集中的に照射する工程を含むことを特徴とするイチゴ栽培方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−205520(P2012−205520A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72501(P2011−72501)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】
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