説明

光硬化性樹脂組成物、その製造方法及び硬化樹脂

【課題】硬化物において匂い、着色に影響を与えることがなく、安価にポリエン・ポリオール系の光硬化性樹脂組成物に高い安定性を付与し、貯蔵安定可能な組成物を提供する。
【解決手段】アリルエーテル基、ビニルエーテル基、アクリレート基及びメタクリレート基からなる群より選択される官能基を分子内に2以上有するエン化合物又は前記エン化合物の2種以上の混合物であるエン化合物(a)、及び、1分子中に2個以上のチオール基を有するチオール化合物(b)を含む樹脂組成物を酸化性化合物処理することによって得られたものであり、更に、光重合開始剤(c)を含有する光硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性樹脂組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エン、チオール及び光重合開始剤からなるエン・チオール系の光硬化性樹脂組成物は、塗料、接着剤及びシーラント等に使用されている(特許文献1)。
【0003】
この光硬化性樹脂組成物は1液型であるので、使用に際して主剤と硬化剤とを混合する手間が省ける。更に、光の照射により数秒から数分の短時間で硬化するという優れた効果を有する。しかしながら、エン・チオール系の光硬化性樹脂組成物は、貯蔵安定性が極めて悪く、ポリエンとポリチオールを単に混合して放置すると、反応が進行することによって粘度が上昇してしまうという欠点があった。
【0004】
このような問題を改善するため、ポリエン・ポリチオール系の光硬化性樹脂組成物に重合禁止剤を添加することが行われている。しかし、重合禁止剤は、匂いの発生、着色の原因となり、コスト上昇の原因ともなるため、使用量をできるだけ少なくすることが望まれている。
【0005】
特許文献2には金属イオン量を低減した光硬化性樹脂組成物が記載されている。しかし、ここでの貯蔵安定性は8時間程度の測定結果が記載されているのみであり、1日以上の貯蔵安定性は得られていない。実用化のためには、より長時間の貯蔵安定性を有する光硬化性樹脂組成物が求められている。
【0006】
特許文献3には、嫌気性条件下で安定なポリエン・ポリチオール系の光硬化性樹脂組成物が記載されている。しかし、当該組成物は嫌気性条件下での安定性を得るものであり、更に、鉄化合物の使用が必須であることから、一定量の金属化合物の使用が必須である。また、空気と接触する条件下で安定に保存する方法については、一切記載されていない。
【0007】
特許文献4には、酸価を3以下とすることによって安定性を高めた光硬化性樹脂組成物が記載されている。しかしこの方法でも貯蔵安定性が悪く、例えば40℃といった高温下でポリエンとポリチオールを単に混合して放置すると粘度が急激に上昇してしまうという課題があった(この点は、特許文献2中にも記載されている)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭56−81338号公報
【特許文献2】特開2001−26608号公報
【特許文献3】特開平10−60114号公報
【特許文献4】特開平6−306172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記に鑑み、硬化物において匂い、着色に影響を与えることがなく、安価にポリエン・ポリオール系の光硬化性樹脂組成物に高い安定性を付与し、貯蔵安定可能な組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、アリルエーテル基、ビニルエーテル基、アクリレート基及びメタクリレート基からなる群より選択される官能基を分子内に2以上有するエン化合物又は上記エン化合物の2種以上の混合物であるエン化合物(a)、及び、1分子中に2個以上のチオール基を有するチオール化合物(b)を含む樹脂組成物を酸化性化合物処理することによって得られたものであり、更に、光重合開始剤(c)を含有することを特徴とする光硬化性樹脂組成物である。
【0011】
酸化性化合物処理は、酸化能を有する気体によって行うものであることが好ましい。
上記酸化能を有する気体は、空気、酸素若しくはオゾン、又は、これらを含む混合ガスであることが好ましい。
上記光硬化性樹脂組成物は、示差走査熱量計によって測定した第一発熱ピーク温度が酸化性化合物処理前より15℃以上高いことが好ましい。
【0012】
本発明は、アリルエーテル基、ビニルエーテル基、アクリレート基及びメタクリレート基からなる群から選択される官能基を分子中に2以上有するエン化合物又は上記エン化合物の2種以上の混合物であるエン化合物(a)、及び、1分子中に2個以上のチオール基を有するチオール化合物(b)を含む樹脂組成物に対して酸化性化合物処理を行う工程を有することを特徴とする上述した光硬化性樹脂組成物の製造方法でもある。
【0013】
酸化性化合物処理は、酸化能を有する気体によって行うものであることが好ましい。
酸化能を有する気体は、空気、酸素若しくはオゾン、又は、これらを含む混合ガスであることが好ましい。
上記光硬化性樹脂組成物の製造方法は、示差走査熱量計によって測定した第一発熱ピーク温度が酸化性化合物処理前より15℃以上高いことが好ましい。
本発明は、上記光硬化性樹脂組成物を光照射により重合することによって得られたことを特徴とする硬化樹脂でもある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、匂いや着色に影響を与えるような成分を添加することなく、安価に安定なポリエン・ポリオール系の光硬化性樹脂組成物及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳述する。
本発明は、ポリエン・ポリチオール系の光硬化性樹脂組成物において生じる経時安定性の低さという問題を改善するため、上記光硬化性樹脂組成物を酸化性化合物処理することによって、経時安定性を高めるものである。
【0016】
更には、上記酸化性化合物処理を酸化能を有する気体によって行えば、低コストであるとともに当該気体は反応終了後には系中にほとんど残存することがないため、匂いや着色を発生する原因となることがない。更に、低コストで安定化のための処理を行うことができるという点でも有利である。
【0017】
本発明において使用するエン化合物(a)は、アリルエーテル基、ビニルエーテル基、アクリレート基及びメタクリレート基からなる群より選択される官能基を分子内に2以上有するエン化合物又は上記エン化合物の2種以上の混合物である。これらの化合物は、一般に光重合性単量体として公知の化合物である。また、上述した以外の不飽和結合を有する化合物の場合は、酸化性化合物処理を行っても本発明の効果が得られなかったり、エン化合物自体が酸化されることによって、反応性を失ってしまったりする場合がある。
【0018】
2以上のアリルエーテル基を有する化合物としては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルアジペート、ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート、テトラアリルピロメリテート、グリセリンジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ソルビトールジアリルエーテル等を挙げることができる
【0019】
2以上のビニルエーテル基を有する化合物としては、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、1,4−ブダンジオールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル等を挙げることができる。
【0020】
2以上のアクリレート基、メタクリレート基を有する化合物としては、EO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリメチロールプロパンベンゾエート(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレート、アミノ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸変性トリ(メタ)アクリレート、等が挙げられる。なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」は、メタクリレート及びアクリレートを指すものである。
【0021】
また、これらエン化合物(a)は、上述した化合物の分子骨格の一部を変性しているものでもよく、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、カプロラクトン、イソシアヌル酸、アルキル、環状アルキル、芳香族、ビスフェノール等による変性がなされたもの等を挙げることができる。
【0022】
本発明において使用することのできる上記エン化合物(a)の市販品としては、ダイソー社製のネオアリルシリーズ、例えば、G、T20、P30、E10等が挙げられ、日本カーバイド工業社製のジビニルエーテル、トリビニルエーテルシリーズ、例えばBDVE、CHDVE、DEGVE、TEGVE、TMPVE等が挙げられ、アイエスビージャパン社製RAPI−CUREシリーズ、例えばCHVE、DPE−2、HDDVE等が挙げられる。また日本化薬社製のKAYARAD、KAYAMERシリーズ、例えば、DPHA、PET30、TMPTA、DPCA20、DPCA30、DPCA60、DPCA120、等が挙げられ;東亞合成社製のアロニックスシリーズ、例えば、M315、M305、M309、M310、M313、M320、M325、M350、M360、M402、M408、M450、M6100、M7100、M7300K、M8030、M8060、M8100、M8530、M8560、M9050等が挙げられる。また、新中村化学社製のNKエコノマーシリーズ、例えば、ADP51、ADP33等、NKエステルシリーズ、例えばA200、A400等が挙げられ、NKオリゴシリーズ、例えばEA1010、EMA1020、EA7440、U122A、U324A等が挙げられる。第一工業製薬社製のニューフロンティアシリーズ、例えば、TMPT、TMP3、TMP15、TMP2P、TMP3P、PET3等が挙げられ、ダイセルユーシービー社製のEbecrylシリーズ、例えばTMPTA、TMPTAN、PETAK、DPHA等が挙げられ、共栄社化学社製のTMP−A、1,6HX−A、AH600、UA306H等が挙げられる。
【0023】
1分子中に2個以上のメルカプト基を有する化合物としては、メルカプトカルボン酸と多価アルコールとのエステル類、脂肪族ポリチオール類及び芳香族ポリチオール類、その他ポリチオール類が挙げられる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0024】
上記メルカプトカルボン酸と多価アルコールとのエステル類におけるメルカプトカルボン酸としては、チオグリコール酸、α−メルカプトプロピオン酸及びβ−メルカプトプロピオン酸等が挙げられる。
【0025】
上記メルカプトカルボン酸と多価アルコールとのエステル類における多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びソルビトール、トリス−2ヒドロキシエチルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0026】
上記メルカプトカルボン酸と多価アルコールとのエステル類としては、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトール テトラキス(3−メルカプトブチレート)、1,4−ビス(3−メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5−トリス(3-メルカブトブチルオキシエチル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、トリメチロールプロパントリス(チオグリコラート)等が挙げられる。
【0027】
脂肪族ポリチオール類及び芳香族ポリチオール類としては、エタンジチオール、プロパンジチオール、ブタンジチオール、ヘキサメチレンジチオール、デカメチレンジチオール、トリレン−2,4−ジチオール及びキシレンジチオール等が挙げられる。
【0028】
その他ポリチオール類としては、ジグリコールジメルカプタン、トリグリコールジメルカプタン、ポリオキシプロピレングリコールジメルカプタン、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート、1,3,5−トリチオプロピルイソシアヌレート、等が挙げられる。
【0029】
上記エン化合物(a)及びチオール化合物(b)の配合比は、エン化合物(a)の不飽和結合数とチオール化合物(b)のチオール基数との比が、1:100〜1:2となる範囲であることが好ましい。1:2を超えてチオール基が多量になると、未反応のチオール基が硬化反応後の組成物中に多量に残存するため、好ましくない、1:100よりもチオール基が少ないと、その効果である接着性や重合時酸素阻害を受けないというメリットが少なくなるという点で好ましくない。
【0030】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、上記エン化合物(a)及びチオール化合物(b)を含有する組成物を酸化性化合物処理することによって得られたものである。メカニズムは不明であるが、上記組成物を酸化性化合物によって処理することで、組成物の安定性が向上し、高い保存安定性を有する組成物とすることができる。
【0031】
上記酸化性化合物処理は、酸化能を有する気体によって行うことが好ましい。酸化能を有する気体は、酸化性化合物処理を行う温度・気圧の条件において気体の性状を有し、かつ、酸化能を有する化合物である。酸化能を有する気体としては、空気、酸素、オゾン等を挙げることができる。酸化能を有する気体によって酸化性化合物処理を行った場合、系中に固体や液体の酸化剤が残存することがない。このため、光硬化工程や保存工程において匂い、着色といった問題を生じることがない。更に、高価な酸化剤を使用したり、重金属化合物を使用したりする必要もないため、低コストであるという利点も有する。
【0032】
上記酸化能を有する気体は、酸化能を有する気体を一部含有する混合ガスを使用するものであってもよい。混合ガスとする場合は、例えば、上述した空気、酸素、オゾン等のうちの2種以上を混合したもの;これらに窒素等を加えた混合ガス等を使用することができる。このような混合ガスを使用することによって、酸化能を有する気体の反応性を調整し、酸化性化合物処理に適した性能を有するガスを得ることもできる。
【0033】
上記酸化能を有する気体による処理の方法は特に限定されず、公知の方法を使用することができる。例えば、液状であるエン化合物(a)及びチオール化合物(b)を含有する組成物に対して気体を吹き込む方法によって行うことができる。エン化合物(a)及びチオール化合物(b)を含有する組成物は、これらのうち少なくとも1つの成分が液状で相互に相溶性がある場合は、無溶媒の状態で混合して液状とすることができる。この場合でも有機溶媒を添加しても差し支えない。また、すべての成分が固体であるか、相溶性が低い場合は必要に応じて有機溶媒を添加してもよい。使用することができる有機溶媒としては、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸、ブチルメチルエチルケトン、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブタノール、n-ブチルアルコール等が挙げられる。
【0034】
上記酸化能を有する気体による処理は、例えば、気体流量1g、1分当たり0.1〜100ml、−30〜80℃の温度で、0.1〜1000時間という条件で行うことができる。処理条件は、組成物を構成するエン化合物(a)、チオール化合物(b)の種類や組み合わせにもよるが、上記範囲内で目的に応じて処理条件を設定することができる。
【0035】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、示差走査熱量計によって測定した第一発熱ピーク温度が酸化性化合物処理前より15℃以上高いことが好ましい。上述したような酸化性化合物処理を行うと、何らかの化学変化を生じることで安定性が向上すると推測されるが、このことは、示差走査熱量計の測定によって得られる第一発熱ピーク温度の変化として観察することができる。
【0036】
すなわち、上記酸化性化合物処理を行うことによって、光硬化性樹脂組成物の第一発熱ピーク温度は上昇する傾向がある。本発明の光硬化性樹脂組成物は、示差走査熱量計によって測定した第一発熱ピーク温度が酸化性化合物処理前より15℃以上高いものであることが好ましい。第一発熱ピーク温度が上記値であることで、充分な保存安定性を確保することができる点で好ましい。上記第一発熱ピーク温度は、酸化性化合物処理前との温度差が300℃未満であることが好ましい。300℃以上になると、樹脂が分解する恐れがある。酸化性化合物による処理を過度に行った場合には、ピークが消滅してしまうが、このようになると不飽和基又はチオール基が酸化を受けて硬化しなくなってしまう。なお、上記第一発熱ピーク温度の測定は、以下で詳述する実施例における測定方法によって測定された値である。
【0037】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、光重合開始剤(c)を含有するものである。上記光重合開始剤は、光重合を開始させるために必須の成分である。本発明において使用される光重合開始剤(c)は、特に限定されず、公知の光重合開始剤を使用することができる。具体的には例えば、光重合開始剤としては、ラジカル重合性不飽和基を有する樹脂系の場合は、アセトフェノン類(例えば、商品名イルガキュア184(チバスペシャリティーケミカルズ社製)として市販されている1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、プロピオフェノン類、ベンジル類、アシルホスフィンオキシド類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル等を単独又は混合して用いることができる。
【0038】
上記光重合開始剤(c)は、上記エン化合物(a)及びチオール化合物(b)の合計量に対して、0.001〜10質量%の割合で添加することが好ましい。0.001質量%未満であると、光重合反応を充分に生じさせることができない、という問題を生じるおそれがあり、10質量%を超えて添加しても、効果の向上がみられない。
【0039】
上記光重合開始剤(c)は、上記エン化合物(a)及びチオール化合物(b)の混合物に対して、任意の時期に添加することができる。具体的には、酸化性化合物処理を行う前に組成物中に添加しても、酸化性化合物処理中に添加するものであっても、酸化性化合物処理後に添加するものであってもよい。
【0040】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、上記成分の他に必要に応じてその他の成分を含有するものであってもよい。その他の成分としては、有機珪素化合物等の接着性改良剤、重合禁止剤、充填剤、着色剤、チクソトロピー剤、硬化促進剤、可塑剤及び界面活性剤等の通常用いられる各種の添加剤を挙げることができる。これらの添加剤は、上記酸化処理前に添加するものであっても、酸化性化合物処理後に添加するものであってもよい。
【0041】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、長期保存性能において優れた性能を有するものであることから、重合禁止剤を添加する場合でもその添加量を低減することができる。また、重合禁止剤の添加量を低減することによって、匂い・着色の抑制を図ることができるという利点を有する。以上の観点から、重合禁止剤の配合量は、組成物全量に対して2000質量ppm以下であることが好ましい。
【0042】
上記重合禁止剤としては、特に限定されず、例えばベンゾキノン、ニトロベンゼン、ニトロソベンゼン、ジフェニルピクリルヒドラジル、クロラニル、ハイドロキノンモノメチルエーテル、トリニトロベンゼン、フェノール、トリメチルフェノールヒドロキノン、トリヒドロキシベンゼン、塩化鉄、塩化銅、アニリン等を挙げることができる。
【0043】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、光の照射により、ポリエンとポリチオールとが付加重合して、数秒から数分の短時間で硬化する。光源としては、超高圧、高圧及び低圧の水銀灯や、メタルハライドランプによる紫外線等が用いられる。本発明の光硬化性樹脂組成物は、硬化性能として酸化性化合物処理を行う前の組成物と実質的な相違を有するものではなく、同様の性能を有する。光硬化性樹脂組成物を光照射により重合することによって得られた硬化樹脂も本発明の一つである。
【0044】
本発明の光硬化性樹脂組成物は、塗料、接着剤及びシーラント等に使用できる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を、「%」は特に断りのない限り「質量%」を意味する。
【0046】
実施例1
(光硬化性樹脂組成物の製造)
大阪有機化学社製EO変性ビスフェノールAジアクリレート(A−BPE−4)88質量%(重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)を200質量ppm含む)、SC有機化学社製のペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(PEMP)10質量%、光重合開始剤としてチバスペシャリティケミカル社製1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量%を、空気を樹脂組成物1g、1分あたり4ml流しながら混合した。混合後も空気を流し続けた。その後、14日間、通気を行った。
【0047】
光硬化性樹脂組成物の評価
得られた光硬化性樹脂組成物について、貯蔵安定性及びDSC第1発熱温度を下記の方法で測定し、評価した。その結果を表1に示す。
【0048】
(貯蔵安定性)
得られた光硬化性樹脂組成物を室温にて静置した。適宜目視にて観察を行い、光硬化性樹脂組成物中に、一部でも流動性が無くなった時間を測定した。測定は10日まで行った。
【0049】
(DSC第一発熱ピーク温度)
得られた光硬化性樹脂組成物をリガク社製高感度示差走査熱量計Thermo
plus EVO/DSC 8230(DSC)に供し、その第一発熱ピーク温度を測定した。測定は40ml/minN下で、室温〜250℃(10℃/min、250℃で20min保持)まで昇温した。対照サンプルとしてAlを用い、アルミニウムセルにサンプル約10mgを入れ測定を行った。なお、第一発熱ピーク温度は、第一発熱ピークにおける頂点(すなわち、傾きがゼロとなる温度)とした。
【0050】
実施例2
実施例1において空気を通した操作を、Oを10体積ppm含む空気に換えて、樹脂組成物1g、1分あたり21ml通気を行った。また通気は5日目で終了した。それ以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0051】
実施例3
実施例1において空気を通した操作を酸素に換えて、樹脂組成物1g、1分あたり21ml通気を行った。また通気は5日目で終了した。それ以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0052】
実施例4
実施例1において、EO変性ビスフェノールAジアクリレートを、共栄社化学社製のトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)(重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)を200質量ppm含む)に換えて、空気を樹脂組成物1g、1分あたり14ml通気を行った。それ以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0053】
実施例5
実施例1において、EO変性ビスフェノールAジアクリレート(A−BPE−4)88質量%、及びペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(PEMP)10質量%を、ダイソー社製ペンタエリスリトールトリアリルエーテル(APE)39質量%、及びSC有機化学社製ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(PEMP)59質量%に換えて、空気を樹脂組成物1g、1分あたり14ml通気を行った。これはアリルエーテル基とチオール基を当量(EQ)で配合したものである。また通気は4日目で終了した。それ以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0054】
実施例6
実施例1において、EO変性ビスフェノールAジアクリレート(A−BPE−4)88質量%、及びペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(PEMP)10質量%を、日本カーバイド工業社製トリメチロールプロパントリビニルエーテル(TMPVE)35質量%、及びSC有機化学社製ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(PEMP)63質量%に換えて、空気を樹脂組成物1g、1分あたり14ml通気を行った。これはビニルエーテル基とチオール基を当量(EQ)で配合したものである。また通気は4日目で終了した。それ以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0055】
実施例7
実施例1においてペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(PEMP)を東京化成工業社製試薬トリメチロールプロパントリス(チオグリコラート)(TMMA)に換えて、空気を樹脂組成物1g、1分あたり21ml通気を行った。また通気は5日目で終了した。それ以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0056】
実施例8
実施例1においてのペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(PEMP)をSC有機化学社製トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)‐エチル]−イソシアヌレート(TEMPIC)に換えて、空気を樹脂組成物1g、1分あたり21ml通気を行った。また通気は5日目で終了した。それ以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0057】
実施例9
実施例1においてペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(PEMP)を特開昭56−120671の方法に基づき合成した1,3,5−トリチオプロピルイソシアヌレート(TTIC)に換えて、空気を樹脂組成物1g、1分あたり21ml通気を行った。また通気は3日目で終了した。それ以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0058】
比較例1
実施例1において通気を行わず、混合直後のものを評価した。評価は実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0059】
比較例2
実施例2において通気を行わず、混合直後のものを評価した。評価は実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0060】
比較例3
実施例3において通気を行わず、混合直後のものを評価した。評価は実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0061】
比較例4
実施例4において通気を行わず、混合直後のものを評価した。評価は実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0062】
比較例5
実施例5において通気を行わず、混合直後のものを評価した。評価は実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0063】
比較例6
実施例6において通気を行わず、混合直後のものを評価した。評価は実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0064】
比較例7
実施例7において通気を行わず、混合直後のものを評価した。評価は実施例1と同様に行った。
その結果を表1に示す。
【0065】
比較例8
実施例8において通気を行わず、混合直後のものを評価した。評価は実施例1と同様に行った。
その結果を表1に示す。
【0066】
比較例9
実施例9において通気を行わず、混合直後のものを評価した。評価は実施例1と同様に行った。
その結果を表1に示す。
【0067】
比較例10
実施例1において空気を通した操作を窒素に換えて、樹脂組成物1g、1分あたり21ml通気を行った。また通気は1日目で終了した。それ以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0068】
比較例11
実施例1において空気を通した操作を二酸化炭素に換えて、樹脂組成物1g、1分あたり21ml通気を行った。また通気は1日目で終了した。それ以外は、実施例1と同様に行った。その結果を表1に示す。
【0069】
参考例1
東京化成工業社製試薬のトリビニルシクロヘキサン(TVCH)29質量%、SC有機化学社製のペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)(PEMP)69質量%、光重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2質量%を5℃に冷却し、空気を樹脂組成物1g、1分あたり14ml流しながら混合し、空気を流し続けた。6日目まで通気を行った。それ以外は、実施例1と同様に行った。その結果をまとめて表2に示す。
【0070】
参考例2
参考例1において通気を行わず、混合直後のものを評価した。評価は実施例1と同様に行った。その結果をまとめて表2に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
以上の実験結果から、本発明の光重合性樹脂組成物は、貯蔵安定性に優れるものであることが明らかである。また酸化性能を有さない窒素や二酸化炭素等を通気しても本発明の効果を得ることはできない。
【0074】
実施例1〜9の光硬化性組成物を基材上に塗布し、メタルハライドランプ(ウシオ電機社製UVC−2533/1MNLC3−AA08)にて143mJ/cm照射し、硬化させた。その結果、いずれの光硬化性組成物も、匂い、着色といった問題を生じることなく硬化させることができた。
【0075】
参考例1の組成物について、同様にメタルハライドランプによる照射を行ったが、硬化を生じることがなかった。この結果から、本願発明のエン化合物(a)と相違するエン化合物を使用した場合は、不飽和結合が変質してしまうため、本発明の効果が得られないことが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の光硬化性組成物は、貯蔵安定性に優れ、匂い、着色といった問題を生じることなく、短時間で硬化させることができるものであり、塗料、接着剤及びシーラント等に使用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリルエーテル基、ビニルエーテル基、アクリレート基及びメタクリレート基からなる群より選択される官能基を分子内に2以上有するエン化合物又は前記エン化合物の2種以上の混合物であるエン化合物(a)、及び、
1分子中に2個以上のチオール基を有するチオール化合物(b)
を含む樹脂組成物を酸化性化合物処理することによって得られたものであり、
更に、光重合開始剤(c)を含有することを特徴とする光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
酸化性化合物処理は、酸化能を有する気体によって行うものである請求項1記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
酸化能を有する気体は、空気、酸素若しくはオゾン、又は、これらを含む混合ガスである請求項2記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
示差走査熱量計によって測定した第一発熱ピーク温度が酸化性化合物処理前より15℃以上高い請求項1、2又は3記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
アリルエーテル基、ビニルエーテル基、アクリレート基及びメタクリレート基からなる群から選択される官能基を分子中に2以上有するエン化合物又は前記エン化合物の2種以上の混合物であるエン化合物(a)、及び、
1分子中に2個以上のチオール基を有するチオール化合物(b)
を含む樹脂組成物に対して酸化性化合物処理を行う工程を有することを特徴とする請求項1,2,3又は4記載の光硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
酸化性化合物処理は、酸化能を有する気体によって行うものである請求項5記載の光硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
酸化能を有する気体は、空気、酸素若しくはオゾン、又は、これらを含む混合ガスである請求項6記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
示差走査熱量計によって測定した第一発熱ピーク温度が酸化前より15℃以上高い請求項5、6又は7記載の光硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1,2,3又は4記載の光硬化性樹脂組成物を光照射により重合することによって得られたことを特徴とする硬化樹脂。

【公開番号】特開2011−52148(P2011−52148A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203537(P2009−203537)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000174541)堺化学工業株式会社 (96)
【Fターム(参考)】