説明

光記録媒体

【構成】 基板上に有機色素からなる記録層を設け、その上に付着力が3kg/cm2以上であるAu反射層を設け、さらにその上に保護層を設けた記録可能な光記録媒体。
【効果】 本発明の記録可能な光記録媒体は、記録層と反射層の密着性が良く記録再生を良好に行うことができ、しかも温度及び湿度の大きな変化に対する耐久性が良好で、欠陥が発生しにくい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光記録媒体、特に記録層と反射層を有する光記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、基板上に反射層を有する光記録媒体としてコンパクトディスク(以下、CDと略す)規格に対応した追記または記録可能なCDが提案されている[例えば、日経エレクトロニクス No.465,P.107, 1989年1月23日号]。この光記録媒体は図1に示すように基板1上に記録層2、反射層3、保護層4をこの順に形成されるものである。この光記録媒体の記録層に半導体レーザー等のレーザー光を高パワーで照射する。そこで記録層が物理的あるいは化学的変化を起こし、ピットの形で情報を記録する。形成されたピットに低パワーのレーザー光を照射し、反射光を検出することによりピットの情報を再生することができる。一方、現在、音楽レコードに代わって利用されてきているコンパクトディスクやレーザーディスク等の再生専用光記録媒体は基板表面上に予め音楽情報がピットの形で記録されており、その基板上にAlやAu等の反射層とそれを保護する保護層を形成した構造になっている。これは、基板表面のピット部分の代わりに記録層を設けている以外は追記または記録可能なCDと基本的に構造は同じである。従って、記録された後のCDは、再生専用のCDと同様に通常のCDプレーヤーで再生可能である。記録可能な光記録媒体では記録層にレーザー光の波長で吸収のある物質を用いるため、通常、反射層としてAlよりも反射率の高いAuが用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この光記録媒体では記録層とAu反射層の付着力が小さいため、記録層と反射層の密着性がこの媒体の特性に大きく影響することが知られており、密着性を高めるために様々な研究がされている。密着性が悪いと高パワーのレーザー光を照射してピットを形成するときに反射層と記録層の間で剥離が生じたり、耐湿熱性試験やZAD冷熱サイクル試験等の耐久性試験で欠陥が生じたりすることがある。反射層の密着性を高める方法としてAuの代わりに付着力の大きいCuやAgを用いるといった提案がされている[特開平2−79235及び特開平2−87341]が、いずれも酸化しやすく耐久性が悪いことや反射率が低下するといった欠点がある。また、Au反射層の密着性を高めるために記録層との間に接着層を設けたりした提案もあるが接着層を設けることにより耐久性が低下したり反射率が低くなるといった問題が生じる。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、記録層と反射層の密着性が上記光記録媒体の特性に大きく影響するといった問題を見いだし、本発明を提案するに至ったのである。即ち、本発明は、(1)基板上に少なくとも記録層及び反射層がこの順に形成されている光記録媒体において、反射層と記録層の付着力が3kg/cm2以上であることを特徴とする光記録媒体、(2)基板上の記録層、反射層の上にさらに保護層が設けられた(1)記載の光記録媒体、(3)記録層がフタロシアニン系色素よりなる(1)または(2)記載の光記録媒体、(4)反射層がAuを主成分とする金属よりなる(1)から(3)の何れかに記載の光記録媒体、である。
【0005】以下、本発明を詳細に説明する。本発明の光記録媒体は基板上に反射層を有する。本発明において光記録媒体とは、予め情報を記録されている再生専用の光再生専用媒体及び情報を記録して再生することのできる光記録媒体の両方を示すものである。但し、ここでは適例として後者の情報を記録して再生のできる光記録媒体、特に基板上に記録層、反射層及び保護層をこの順で形成した光記録媒体に関して説明する。この光記録媒体は図1に示すような4層構造を有している。即ち、基板1上に記録層2が形成されており、その上に密着して反射層3が設けられており、さらにその上に保護層4が反射層3を覆っている。
【0006】基板の材質としては、基本的には記録光及び再生光の波長で透明であればよい。例えば、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂等の高分子材料やガラス等の無機材料が利用される。これらの基板材料は射出成形法等により円盤状に基板に成形される。必要に応じて、基板表面に溝を形成することもある。
【0007】記録層としては、記録光の波長に吸収があり、光の吸収により記録層が反応して、爆発、溶融、異性化、相変化等の物理的または化学的変化を有するもので、主に有機色素が用いられている。例えば、フタロシアニン系色素、シアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、キノン系色素、アゾ系色素等がよく用いられている。これらの色素は複数混合して用いられることもある。また、これらの色素に必要に応じて、消光剤や紫外線吸収剤、接着剤等の添加剤を混合あるいは置換基として導入することも可能である。
【0008】これらの色素はスピンコート法やキャスト法等の塗布法やスパッタ法や化学蒸着法、真空蒸着法等によって基板上に記録層を形成する。特に塗布法においては色素を溶解あるいは分散させた塗布溶媒を用いるが、この際溶媒は基板にダメージを与えないものを選ばなくてはならない。例えば、ヘキサンやオクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、シクロヘキサン等の環状炭化水素系溶媒、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒、メタノール等のアルコール系溶媒、ジオキサン等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、アセトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒などが1種あるいは複数混合して用いられる。また、記録層は1層だけでなく複数の色素を多層形成させることもある。また、基板にダメージを与えない溶媒を選択できない場合はスパッタ法、化学蒸着法や真空蒸着法などが有効である。
【0009】次に記録層の上に反射層を形成する。本発明においては、反射層の付着強度を3kg/cm2以上、好ましくは5kg/cm2以上にする必要がある。反射層の材料としては、再生光の波長で反射率の十分高いもの、例えば、Au、Al、Ag、Cu、Ti、Cr、Ni等の金属を単独あるいは合金にして用いることが可能である。このなかでもAuやAlは反射率が高く反射層の材料として適している。Auを主成分とするものは反射率の高い反射層が容易に得られるため好適である。ここで主成分というのは含有率が50%以上のものをいう。また、金属以外の材料で、低屈折率薄膜と、高屈折率薄膜を交互に積み重ねて多層膜を形成し、反射層として用いることも可能である。
【0010】反射層を形成する方法としては、例えば、スパッタ法、化学蒸着法、真空蒸着法等が挙げられる。また、反射率を高めるためや密着性をよくするために記録層と反射層の間にそれぞれ反射増幅層や接着層を設けることもできる。いずれの方法でも条件を最適化することにより反射層の付着強度を3kg/cm2以上になるように、形成すればよい。例えば、スパッタ法による場合は、スパッタパワーを2〜10kWにし、ガス圧を2×10-3〜2×10-2Torrの範囲で設定するのが望ましい。もし、スパッタパワーが小さすぎたり、ガス圧が低すぎると反射層の付着力が小さくなり、高パワーのレーザ光を照射してピットを形成するときに反射層と記録層の間で剥離が生じたり、耐湿熱性試験やZAD冷熱サイクル試験等の耐久性試験で欠陥が生じ、再生した時にエラーが発生し、最悪の場合、再生不能になることがある。従って、反射層を形成する際、適切な条件を選ぶ必要がある。
【0011】反射層の上に保護層を形成させることもできる。保護層の材料としては反射層を外力から保護するものであれば特に限定しない。例えば、アクリル系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂等の合成樹脂やシリカ、アルミナ等の無機材料等が挙げられる。これらの材料は単独であるいは混合して用いても良いし、1層だけでなく多層膜にして用いてもいっこうに差し支えない。保護層の形成の方法としては、記録層と同様にスピンコート法やキャスト法などの塗布法やスパッタ法や化学蒸着法等の方法が用いられるが、いずれの方法でも反射層と記録層の間の付着力が3kg/cm2以上になるように形成すればよい。
【0012】次に本発明における付着力について説明する。付着力の定義としては、K.L.Mittalによると、真付着力と実用付着力の2つに分類されている(参考文献:K.L.Mittal,Adhesion measurement of thin films,Electrocomp.Sci.Tech.Vol.3,pp.21〜42,1976年)。前者の真付着力は2つの物質が完全に接しているときその境界面に働く結合力であって、本来イオン結合、共有結合、金属結合、水素結合、ファン・デル・ワールズ結合などに由来するものである。一方、後者の実用付着力は実験的に求められる付着力であって、本発明における付着力はこの実用付着力を指す。付着力は次の2つの量で測定される。
1)力・・・膜と基板を引き離すのに要する単位面積あたりの力。
2)エネルギー・・・同上に要するエネルギー。
【0013】実際上、特に光記録媒体に用いられているような薄膜の場合、測定法により2)の測定は困難な場合が多いため、本発明における付着力の量は、1)の膜を引き離すのに要する単位面積あたり力として測定することにする。付着力を測定する方法としては、ひっかき法、押し込み法、直接引張法、引き倒し法、せん断法、トルク法、スコッチテープ法、ピーリング法、超遠心力法、超音波法、超音波顕微鏡法、基板変形による方法、アブレージョン法、熱量法、電磁力法、X線法、レーザーパルス法など、多くの方法が提案されている(『薄膜の作製・評価とその応用技術ハンドブック』監修・権田俊一、フジテクノシステム)。
【0014】本発明では、引き倒し法を用いて付着力を測定する。以下にその引き倒し法について説明する。原理を図2に示す。丸棒または角柱12の底面を膜(反射層14)面に接着剤13などにより接着し、棒の上端に棒軸と垂直方向へロードセル11により力(F)を加えて引き倒すものであり、膜(反射層14)が棒側に付着して基板側の記録層15から剥離する時の力(F)を付着力として測定する。接着面にかかる最大の力が付着力(f)になり、円柱棒及び角柱棒を用いた場合、以下の式から単位面積あたりの付着力(f)を算出する。図2において、半径R、高さhの円柱棒を用いた場合、
【0015】
【数1】f=(4h/πR3)F一辺の長さA、高さhの角柱を用いた場合、
【0016】
【数2】f=(6h/A3)Fである。この引き倒し法は、データがばらつくため、少なくとも10点以上測定し、その平均をとることにする。
【0017】
【実施例】以下に本発明の実施例を示す。
〔実施例1〕フタロシアニン色素(山本化成品)0.25gをn−オクタン(東京化成品)10mlに溶解し、色素溶液を調製する。基板は、ポリカーボネート樹脂製で連続した案内溝を有する直径120mmφ、厚さ1.2mmの円盤状のものを用いた。この基板上に色素溶液を回転数1500rpmでスピンコートし、70℃2時間乾燥して、記録層を形成した。この記録層の上にバルザース社製スパッタ装置(CDI−900)を用いてAuをスパッタし、厚さ75nmの反射層を形成した。スパッタガスには、アルゴンガスを用いた。スパッタ条件は、スパッタパワー5.0kW、スパッタガス圧1.0×10-2Torr、スパッタ時間は4秒に設定し、最初の2秒間でスパッタパワーを徐々に上昇させて5.0kWにするといった条件で行った。さらに反射層の上に紫外線硬化樹脂SD−17(大日本インキ化学工業製)をスピンコートした後、紫外線照射して厚さ6μmの保護層を形成した。反射層の付着力測定には、保護層を設けないサンプルを用いて引っ張り法により測定した。
【0018】付着力測定には、断面積1cm2の角柱ロッド(アルミ合金 A2017)を用い、引っ張り速度5mm/minとし、応力歪曲線の破断点を接着強度とした。接着剤はアラルダイトを使用し、応力歪曲線を得るのにははピール強度測定装置を利用した。こうして測定した結果、Au反射層の付着力は、3.3kg/cm2であった。一方、このサンプルをプログラム恒温恒湿器(ETAC製HIFLEX−FX2200)を用いてZAD冷熱サイクル試験を行ったところ10サイクル経過しても欠陥は発生しなかった。また、試験後サンプルをパルステック工業製光ディスク評価装置DDU−1000及びKENWOOD製EFMエンコーダーを用いて、線速度2.8m/s、レーザーパワー11mWで記録した。記録したサンプルを9種類の市販CDプレーヤーで再生評価した結果、すべてのCDプレーヤで良好に再生可能であった。
【0019】〔比較例1〕実施例1のスパッタ条件で、スパッタガスをアルゴンガスにし、スパッタパワー1.2kW、アルゴンガス圧3.2×10-3Torr、スパッタパワーを始めから一定にしたこと以外は同様にして光記録媒体を作製した。作製した媒体のAu反射層の付着力を実施例1と同様の方法で測定した結果、1.8kg/cm2であった。また、実施例1と同様にしてZAD冷熱サイクル試験を行ったところ4サイクル後に反射層全面に数十μm程度の欠陥が発生した。この媒体を実施例1と同様にして記録した結果、9種類のCDプレーヤーとも再生不能であった。
【0020】〔実施例2〕フタロシアニン色素(山本化成品)0.25gをエチルセロソルブ(東京化成品)10mlに溶解し、色素溶液を調製する。基板は、ポリカーボネート樹脂製で連続した案内溝を有する直径120mmφ、厚さ1.2mmの円盤状のものを用いた。この基板上に色素溶液を回転数1300rpmでスピンコートし、70℃2時間乾燥して、記録層を形成した。この記録層の上にバルザース社製スパッタ装置(CDI−900)を用いてAuをスパッタし、厚さ100nmの反射層を形成した。スパッタガスには、アルゴンガスを用いた。スパッタ条件は、スパッタパワー5.1kW、スパッタガス圧1.5×10-2Torr、スパッタ時間は5秒に設定し、最初の2秒間でスパッタパワーを徐々に上昇させて5.1kWにするといった条件で行った。さらに反射層の上に紫外線硬化樹脂SD−17(大日本インキ化学工業製)をスピンコートした後、紫外線照射して厚さ6μmの保護層を形成した。作製した媒体のAu反射層の付着力を実施例1と同様の方法で測定した結果、3.5kg/cm2であった。この媒体を実施例1と同様にZAD冷熱サイクル試験した結果、10サイクル経過しても欠陥の発生は確認されなかった。また、実施例1と同様に記録再生評価した結果、9種類のCDプレーヤーで再生が可能であった。
【0021】〔比較例2〕実施例2のスパッタ条件で、スパッタガスにアルゴンガスを用い、スパッタパワーを2.8kW、スパッタガス圧を3.1×10-3Torr、スパッタパワーを始めから一定にしたこと以外は同様にして光記録媒体を作製した。作製した媒体のAu反射層の付着力を実施例1と同様の方法で測定した結果、2.0kg/cm2であった。この媒体を実施例1と同様にしてZAD冷熱サイクル試験を行ったところ4サイクル後で欠陥の発生が確認された。また、実施例1と同様に記録再生評価をした結果、9種類のCDプレーヤーのうち6種類のプレーヤーが再生不能であった。また、残り3種類のプレーヤーでもエラー多数発生し、再生された音にもノイズが発生していた。
【0022】
【発明の効果】本発明の光記録媒体は、記録層と密着性の高いAu反射層を有している。本発明によれば、反射層の付着力を大きくすることで反射層と記録層の密着性を向上させ、良好に記録や再生を行うことができ、しかも良好な耐久性を有する光記録媒体を提供することが可能となる。本発明は、追記あるいは記録可能なCDだけでなく、再生専用のCDに関しても適用される。即ち、予め情報がピット等の形により記録されている基板上に形成された反射層の付着強度を3kg/cm2以上にすることにより上記反射層の剥がれ及び欠陥の発生を抑え、良好な特性を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】光記録媒体の構造を示す断面図
【図2】付着力測定法(引き倒し法)の原理図
【符号の説明】
1 基板
2 記録層
3 反射層
4 保護層
11 ロードセル
12 ロッド
13 接着剤
14 反射層
15 記録層
16 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板上に少なくとも記録層及び反射層がこの順に形成されている光記録媒体において、反射層と記録層の付着力が3kg/cm2以上であることを特徴とする光記録媒体。
【請求項2】 基板上の記録層、反射層の上にさらに保護層が設けられた請求項1記載の光記録媒体。
【請求項3】 記録層がフタロシアニン系色素よりなる請求項1または2記載の光記録媒体。
【請求項4】 反射層がAuを主成分とする金属よりなる請求項1〜3の何れかに記載の光記録媒体。

【図1】
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【図2】
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