説明

光電変換素子およびその作製方法

【課題】低コストで光電変換効率を向上可能な有機系光電変換素子を提供する。
【解決手段】光電変換素子10は、第1電極20と、第2電極24と、第1電極20および第2電極24の間に設けられる光電変換層30と、を備える。光電変換層30は、第1導電型の半導体層60と、第1導電型とは逆の導電型を示し、第1導電型の半導体層60とバルクヘテロ接合を形成する第2導電型の半導体層70と、径が1nm〜1μmの第1導電型の半導体からなる繊維体で形成された3次元網目構造40と、を有する。3次元網目構造40の一部が第1電極20側の面に達している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化やエネルギー資源枯渇の問題を解決するためには、再生可能エネルギーの有効利用が不可欠である。なかでも、地球上に降り注ぐ太陽エネルギーを利用したエネルギー変換(発電)素子に対する期待は大きい。
【0003】
有機系光電変換素子は、安価な材料の使用と印刷法など簡便な製造プロセスの利用によって、シリコン系太陽電池に比べて大幅な低コスト化が可能な次世代太陽電池として注目を集めている。しかし、現状の有機系光電変換素子の光電変換効率は、シリコン系太陽電池の光電変換効率に比べて低い。そのため、有機系光電変換素子の普及には、光電変換効率の向上が課題となっている。
【0004】
有機系光電変換素子の構造としては、P型半導体(電子ドナー)とN型半導体(電子アクセプター)の混合によるバルクヘテロ接合が一般的である。バルクヘテロ接合の利点として、P型半導体/N型半導体界面が広くなるために光誘起電荷分離が効率的に起こり、2層型のデバイスに比べて光電流が増加することが挙げられる。しかし、バルクヘテロ接合では、方向性を持った電荷のパスを形成することができない。そのため、バルクヘテロ接合層内での電荷の輸送は必ずしも効率的でなく、光エネルギーの吸収によって生成した電荷の再結合による損失が課題となっている。
【0005】
近年、光電変換素子における光電変換効率向上のために、電極や光取り込み層のナノ構造化が検討されてきた(特許文献1、非特許文献1、2)。有機系光電変換素子の光電変換効率の向上を目指した光電変換層や光取り込み層におけるナノスケールの精密構造制御では、これまでリソグラフィやエッチングなどトップダウン型のプロセスによるナノ構造形成が報告されている。また、光電変換素子における繊維体の利用については、これまでP型半導体高分子の自己組織化によって形成される繊維体について報告されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−142386号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】有機薄膜太陽電池の最新技術II、シーエムシー出版、2009年
【非特許文献2】Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 47, No. 10, 2008, pp. 8049−8053.
【非特許文献3】Macromolecular Rapid Communications, 31, 2010, 1835−1845
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ナノ構造形成に利用される従来の微細加工技術では、製造コストが大きく、かつ多段階のプロセスを要する点が問題であった。そのため、安価で作製が容易という有機系光電変換素子の持つ大きな利点を損なうという問題があった。
【0009】
また、非特許文献3のボトムアップ型の方法では、繊維体の形成は可能であるが、さらに高次の構造である繊維体ネットワーク構造を形成することができなかった。そのため、光電変換層内における効率的な電荷伝導パスの形成という点で課題があった。また、非特許文献3の方法で形成可能な繊維体は、P型半導体材料に限定されるという問題もあった。
【0010】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、低コストで光電変換効率を向上可能な有機系光電変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の光電変換素子は、第1電極と、第2電極と、第1電極および第2電極の間に設けられる光電変換層と、を備える。光電変換層は、第1導電型の半導体層と、第1導電型とは逆の導電型を示し、第1導電型の半導体層とバルクヘテロ接合を形成する第2導電型の半導体層と、径が1nm〜1μmの第1導電型の半導体からなる繊維体で形成された3次元網目構造と、を有する。3次元網目構造の一部が第1電極側の面に達している。
【0012】
この態様によると、3次元網目構造を有する光電変換層により、光吸収によって発生する電荷キャリア(伝導電子または正孔)を効率良く捕集することが可能となる。これにより、光電変換素子の光電変換効率を高めることができる。
【0013】
本発明の別の態様は、光電変換素子の作製方法である。この方法は、電界紡糸法を用いて径が1nm〜1μmの第1導電型の半導体からなる繊維体で形成された3次元網目構造を基材上に構築する工程と、3次元網目構造の空隙部分に第1導電型の半導体材料および第1導電型とは逆の導電型を示す第2導電型の半導体材料とを充填してバルクヘテロ接合を形成する工程と、を備える。
【0014】
この態様によると、3次元網目構造を有する光電変換層を有し、光吸収によって発生する電荷キャリアを効率良く捕集できる有機光電変換素子を簡便に製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、製造コストを抑制しつつ、有機半導体を含む光電変換層を有する光電変換素子の光電変換効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態1に係る光電変換素子を示す概略断面図である。
【図2】実施の形態2に係る光電変換素子を示す概略断面図である。
【図3】電界紡糸法による3次元網目構造の作製を示す模式図である。
【図4】実施の形態2に係る光電変換素子の製造方法を示す工程断面図である。
【図5】実施例1の光電変換素子の一部を拡大した光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
(実施の形態1)
【0018】
図1は、実施の形態1に係る光電変換素子を示す概略断面図である。本実施の形態の光電変換素子10は、有機半導体を含む光電変換層30を有する有機薄膜太陽電池である。光電変換層30には、単一導電体型の3次元網目構造40が含まれる。
【0019】
光電変換素子10は、第1電極20と、第1電極20とは逆の極性を有する第2電極24と、を有する。光電変換素子10は、第1電極20と第2電極24との間に、光電変換層30を有する。
【0020】
本実施の形態では、第1電極20は正極である。第1電極20は、光電変換層30と電気的に接続されている。第1電極20は、光電変換層30の受光面側に位置しており、ITO(Indium Tin Oxide)、SnO、ZnO、FTO(Fluorine doped Tin Oxide)、AZO(Aluminum doped Zinc Oxide)、IZO(Indium doped Zinc Oxide)などの導電性金属酸化物や、金、銀、銅、アルミニウムなどの金属薄膜などの透明導電膜で形成されている。
【0021】
また、第1電極20は、受光性能を阻害しないように、ガラスなどの光透過性を有する基材22の表面に形成されている。基材22は、後述する電界紡糸法において、第1電極20を支持する。基材22として、たとえば無色または有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロックなどが用いられる。また、基材22は、無色または有色の透明性を有する樹脂でもよい。このような樹脂として、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテン、ポリフッ化ビニルなどが挙げられる。
【0022】
本実施の形態の第2電極24は負極である。第2電極24は、光電変換層30における第1電極20とは反対の面26において、光電変換層30と電気的に接続されている。第2電極24の材料は、導電性を有していればよく、特に限定されない。第2電極24の材料として、金、白金、銀、銅、アルミニウム、マグネシウム、リチウム、カリウムなどの金属、あるいはカーボン電極などを用いることができる。
【0023】
正極および負極の形成方法は、特に限定されないが、真空蒸着法、電子ビーム真空蒸着法、スパッタリング法や、溶媒に分散した金属微粒子を塗布し、溶媒を揮発除去するなどの公知の方法を用いてもよい。
【0024】
本実施の形態の光電変換層30は、第1導電型の半導体層60と、第1導電型の半導体層60とは逆の導電型を示す第2導電型の半導体層70と、3次元網目構造40と、を有する。光電変換層30では、電子供与性を有する第1導電型の半導体層60がP型有機半導体で形成され、電子受容性を有する第2導電型の半導体層70がN型有機半導体で形成されている。この両者がナノレベルで混合して、N型有機半導体を「島」の領域、P型有機半導体を「海」の領域とするバルクヘテロ接合層の海島構造を形成している。
【0025】
第1導電型の半導体層60に用いられるP型有機半導体としては、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)などのポリチオフェン及びそのオリゴマー、ポリピロール、ポリアニリン、ポリフラン、ポリピリジン、ポリカルバゾール、フタロシアニン、ポルフィリン、ペリレンなどの有機色素分子およびこれらの誘導体や遷移金属錯体、トリフェニルアミン化合物やヒドラジン化合物などの電荷移動剤や、テトラチアフルバレン(TTF)のような電荷移動錯体などの電子ドナー性分子が挙げられる。
【0026】
一方、第2導電型の半導体層70に用いられるN型有機半導体としては、フラーレンやPCBM(フェニルC61酪酸メチルエステル)などのフラーレン誘導体、カーボンナノチューブ、化学修飾を施したカーボンナノチューブなどの炭素材料や、ペリレン誘導体などの電子アクセプター性分子が挙げられる。
【0027】
3次元網目構造40は、繊維体で形成されたネットワーク構造である。当該繊維体は、径が1nm〜1μmで、第1導電型の半導体、すなわちP型の有機半導体である。このようなP型の有機半導体に用いる材料として、たとえば上述の第1導電型の半導体層60の材料として例示した材料が挙げられる。3次元網目構造40は、第1導電型の半導体層60と同一材料で形成されていることが好ましい。これにより、3次元網目構造40と第1導電型の半導体層60との間でエネルギーギャップが生じないため、電荷キャリアの伝導性が阻害されず、効率的に光電変換素子10の光電変換効率を高めることができる。
【0028】
図1に示すように、P型半導体からなるある繊維体は、当該繊維体と異なる他の繊維体または当該繊維体の他の部分と接し、3次元網目構造を形成している。3次元網目構造40の一部は、第1電極20側の面に達し、第1電極20と電気的に接続している。また、3次元網目構造40の一部は、バルクヘテロ接合界面と接している。このような3次元網目構造を有するバルクヘテロ接合層を、本明細書では3次元網目構造ハイブリッド型のバルクヘテロ接合層と呼ぶ。
【0029】
図1では、説明を簡略化するため、3次元網目構造40を形成する複数の繊維体がそれぞれ独立した棒状である場合を示した。しかし、3次元網目構造40は、後述する電界紡糸法により形成された一本の糸状の繊維体が屈曲して形成されていてもよい。
【0030】
以上説明した実施の形態1に係る光電変換素子10によれば、バルクヘテロ接合層に加えて、繊維体が積層したネットワーク構造である3次元網目構造40を有する光電変換素子10により、光吸収によって発生する電荷キャリア(伝導電子)を効率良く捕集することが可能となる。具体的には、3次元網目構造40により形成された方向性を持った電荷のパスによって、再結合エネルギーが熱として放出される前に電荷キャリアが電極に到達する。これにより、光電変換素子10の光電変換効率を高めることができる。
【0031】
なお、実施の形態では、N型有機半導体を「島」の領域、P型有機半導体を「海」の領域とするバルクヘテロ接合層の海島構造に、P型半導体からなる繊維体で3次元網目構造が形成された例を示した。このように単一導電体型の3次元網目構造を形成する場合には、バルクヘテロ接合層で「島」の領域を形成している半導体(この場合はN型有機半導体)と同じ導電体型を有する繊維体で3次元網目構造を形成することが、電荷キャリア(伝導電子)の捕集効率向上の観点からはより好ましい。P型有機半導体とN型有機半導体との混合比を調整することにより、P型有機半導体を「島」の領域、N型有機半導体を「海」の領域とするバルクへテロ構造としてもよい。
【0032】
(実施の形態2)
図2は、実施の形態2に係る光電変換素子を示す概略断面図である。実施の形態2の光電変換層30は、実施の形態1と共通の第1導電型の半導体層60、第2導電型の半導体層70、および3次元網目構造40に加え、3次元網目構造40とは逆の導電型を示す3次元網目構造50を有する。以下、実施の形態2について、実施の形態1とは異なる点を中心に説明する。
【0033】
3次元網目構造50は、繊維体のネットワーク構造である。3次元網目構造50は、上述の3次元網目構造40と同様に径が1nm〜1μmで、3次元網目構造40とは逆の導電型を示す第2導電型、すなわちN型の半導体からなる繊維体で形成されている。当該繊維体は、当該繊維体と異なる他の繊維体または当該繊維体の他の部分と接し、3次元網目構造を形成している。3次元網目構造50の一部は、第2電極24側の面26に達し、第2電極24と電気的に接続されている。なお、図2では、説明を簡略化するため、3次元網目構造50を形成する複数の繊維体がそれぞれ独立した棒状である場合を示した。しかし、3次元網目構造50は、後述する電界紡糸法により形成された一本の糸状の繊維体が屈曲して形成されていてもよい。
【0034】
3次元網目構造50の材料は、N型の有機半導体または無機半導体であればよく、特に限定されない。有機半導体の材料として、たとえば上述の第2導電型の半導体層70の材料として例示した材料が挙げられる。無機半導体の材料として、たとえば酸化亜鉛(ZnO)、セレン化亜鉛(ZnSe)、硫化亜鉛(ZnS)、カドミウムテルル(CdTe)、ガリウムヒ素(GaAs)、リン化インジウム(InP)などの化合物半導体やリン(P)ドープしたシリコンが挙げられる。3次元網目構造50は、第2導電型の半導体層70と同一材料で形成されていることが好ましい。これにより、3次元網目構造50と第2導電型の半導体層70との間でエネルギーギャップが生じないため、電荷キャリアの伝導性が阻害されず、効率的に光電変換素子10の光電変換効率を高めることができる。
【0035】
3次元網目構造40および3次元網目構造50は、後述の電界紡糸法を用いて作製することができる。3次元網目構造40の空隙率と3次元網目構造50の空隙率との比は、第1導電型の半導体層60と第2導電型の半導体層70との構成比率や形成されたバルクヘテロ接合層の構造に応じて定めることができる。
【0036】
以上説明した実施の形態2に係る光電変換素子10によれば、方向性を持った伝導電子用のパスと正孔用のパスが形成されるため、光電変換素子10の光電変換効率をさらに高めることができる。
【0037】
なお、実施の形態1および2では、3次元網目構造40の一部と3次元網目構造50の一部とが、それぞれ第1電極20および第2電極24側の両面に達している場合を示した。しかし、3次元網目構造40の一部は、少なくとも第1電極20側の面に達していればよい。同様に、3次元網目構造50は、その一部が少なくとも第2電極24側の面に達していればよい。また、バルクヘテロ接合層が海島構造を形成している場合に、「島」の領域にN型有機半導体、「海」の領域にP型有機半導体が使用されているとする。この場合、「島」の領域を形成しているN型有機半導体と同じ導電体型を有する繊維体の3次元網目構造を、「海」の領域を形成しているP型有機半導体と同じ導電体型を有する繊維体の3次元網目構造に比べて、より高密度に形成させてもよい。これにより、電荷キャリア(伝導電子)の捕集効率をさらに向上させることができる。また、光電変換素子10において、基材22は設けられていなくてもよい。
【0038】
(光電変換素子の製造方法)
実施の形態1および2に係る光電変換素子の製造に用いられる電界紡糸法を、図3を用いてまず説明する。次に、実施の形態2に係る光電変換素子10の製造方法を、図4を用いて説明する。
【0039】
図3は、電界紡糸法による3次元網目構造の作製を示す模式図である。電界紡糸装置90は、紡糸液が充填されるシリンジ100と、紡糸液112が吐出され繊維体が形成されるコレクタ部106と、シリンジ100のノズル104とコレクタ部106との間に高電圧を印加する高圧電源108とを具備する。シリンジ12内には、紡糸液112である高分子溶液が充填されている。シリンジ100は、紡糸液112を吐出するためのプランジャ102を有する。
【0040】
図示しないシリンジポンプなどにより、プランジャ102を矢印方向に一定速度で動かす。また、高圧電源108によって、ノズル104とコレクタ部106との間に高電圧を印加する。これにより、ノズル104に対向するように設置されたコレクタ部106に対し、一定の流量で紡糸液112がシリンジ100から吐出される。ノズル104の先端に電圧を印加した際、紡糸液表面に誘起された帯電荷の間に働く静電的な反発力が紡糸液の表面張力を超えると、紡糸液112は、ノズル104の先端において、円錐状に変形し、さらに引き伸ばされる。引き伸ばされた紡糸液112は、正に帯電した紡糸液112の静電反発により微細化する。微細化した紡糸液112から溶媒が瞬時に蒸発し、極細の繊維体110が形成される。正に帯電した繊維体110は、接地されたコレクタ部106に付着する。コレクタ部106は負に帯電していてもよい。また、紡糸液112が負に帯電し、コレクタ部106が接地されているか、正に帯電していてもよい。さらに、コレクタ部106は、固定されていてもよいし、ノズル104に対して相対的に回転運動などの二次元運動をすることにより動かされてもよい。これにより、繊維体110が様々な向きで上から重なることにより、コレクタ部106上に3次元網目構造が形成される。第1電極20自体をコレクタ部106とし、第1電極20の上に直接3次元網目構造が形成されてもよい。また、コレクタ部106の上に別途基材22が載せられ、基材22の表面に形成された第1電極20の上に、3次元網目構造が形成されてもよい。
【0041】
3次元網目構造を構成する繊維体110の径は、印加電圧、溶液濃度、溶液の粘度、溶液の電気伝導度、溶媒の沸点、噴霧時の溶液の飛散距離によって調節できる。3次元網目構造の空隙率は、繊維体110の径や量により調節できる。
【0042】
電界紡糸法は、幅広い材料に適用可能なトップダウン型のプロセスである。また、電界紡糸法を用いると、ワンステップで繊維体ネットワーク構造を形成することができる。そのため、電界紡糸法は、他の繊維体作製法と比べて優位である。
【0043】
図4は、実施の形態2に係る光電変換素子10の製造方法を示す工程断面図である。以下、実施の形態に係る光電変換素子の製造方法を、図4(A)〜図4(D)を参照して説明する。
【0044】
まず、図4(A)に示すように、基材22となるガラス基板の一方の面に、第1電極20としてITOなどの透明導電膜を成膜する。
【0045】
次に、図4(B)に示すように、上述の電界紡糸法を用いて、径が1nm〜1μmのP型半導体からなる繊維体で形成された3次元網目構造40を基材22に設けられた第1電極20の上に形成する。また、同様に、径が1nm〜1μmの第2導電型の半導体からなる繊維体で形成された3次元網目構造50を基材22に設けられた第1電極20の上に形成する。3次元網目構造40の少なくとも一部は、第1電極20に接している。なお、3次元網目構造40の形成と3次元網目構造50の形成とは、同時に行われてもよいし、いずれか一方が先に形成されてもよい。
【0046】
次に、図4(C)に示すように、図4(B)で第1電極20の上に形成された3次元網目構造40の空隙部分および3次元網目構造50の空隙部分に、P型半導体材料および第1導電型とは逆の導電型を示す第2導電型の半導体材料とを充填し、バルクヘテロ接合を形成する。具体的には、光電変換層30は、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)などのP型有機半導体とPCBMなどのN型有機半導体をジクロロベンゼンなどの溶媒に溶解させた混合溶液を公知のスピンコート法によって塗布して成膜することで形成される。これにより、3次元網目構造40、3次元網目構造50、第1導電型の半導体層60および第2導電型の半導体層70を有する光電変換層30が形成される。
【0047】
次に、図4(D)に示すように、光電変換層30の上に、膜厚0.5nmのLiF層、膜厚100nmのAl層をそれぞれ蒸着して、第2電極24を形成する。3次元網目構造50の少なくとも一部は、第2電極24に接している。
【0048】
以上説明した実施の形態に係る光電変換素子10の製造方法によれば、3次元網目構造ハイブリッド型のバルクヘテロ接合層を有し、光吸収によって発生する電荷キャリアを効率良く捕集できる有機光電変換素子を簡便に製造することができる。
【0049】
なお、図4(B)の3次元網目構造40および3次元網目構造50の形成では、実施の形態1のように、これらのうちいずれか一方の構造のみを第1電極20の上に形成してもよい。また、図4(B)〜図4(D)では、3次元網目構造40と3次元網目構造50とをそれぞれ複数の繊維体で示したが、上述の電界紡糸法を用いた場合には、3次元網目構造40と3次元網目構造50とは、それぞれ1本または少数の繊維体で形成されてもよい。
【0050】
(実施例1)
3次元網目構造ハイブリッド型のバルクヘテロ接合層を作製するために、電界紡糸法とスピンコート法を用いて、3次元網目構造ハイブリッド型バルクヘテロ接合層を作製した。本実施例では、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)を用いて、P型半導体からなる3次元網目構造を形成した。
【0051】
P3HT(分子量4万5千〜6万5千、Aldrich製)をオルトジクロロベンゼン溶媒中に2.4質量%となるよう添加し、繊維化を促す添加剤として分子量4,000,000のポリエチレングリコールを0.6質量%添加し、紡糸液とした。調製した紡糸液を、図3に示す電界紡糸装置を用いて電界紡糸し、電界紡糸繊維からなる3次元網目構造を、ITO基板上に作製した。印加電圧は20kVとし、ノズル−コレクタ部間の距離は15cmとした。
【0052】
次に、形成された3次元網目構造上に、スピンコート法を用いてP型半導体/N型半導体混合溶液を塗布し、3次元網目構造40の空隙にバルクヘテロ接合層を形成した。具体的には、P型半導体としてP3HTを、N型半導体としてフラーレン誘導体PCBM(Aldrich製)をそれぞれ用いた。これらの濃度がいずれも50mg/mlとなるようにオルトジクロロベンゼン溶媒中に添加し、50℃で1時間攪拌を行った。撹拌後の溶液を、ITO基板上に作製した繊維体ネットワーク構造上に、ITO基板を回転数500rpmで回転させながら塗布した。これにより、膜厚600nmの光電変換層(バルクヘテロ接合層)を形成した。実施例1の光電変換素子は、2mm×2mmの正方形状であった。
【0053】
図5は、実施例1の光電変換素子の光電変換層の一部を拡大した光学顕微鏡写真である。この光電変換素子は、電界紡糸繊維ネットワーク構造ハイブリッド型のバルクヘテロ接合層を有する。図5では、ミクロ相分離構造の島の部分がN型半導体(PCBM)相、海の部分がP型半導体(P3HT)相である。また、ミクロ相分離構造を有するバルクヘテロ接合層に加え、平均直径が約500nmのP型半導体繊維からなる3次元網目構造が形成されていることが確認できた。
【0054】
(比較例1)
比較例1の光電変換素子は、3次元網目構造を形成しなかったことを除き、実施例1と同様な手順にて作製された。比較例1の光電変換素子は、2mm×2mmの正方形状であり、比較例1の光電変換素子の層構成は、負極/バルクヘテロ接合層のみの光電変換層/正極(ITO)で表される。
【0055】
(実施例2)
本実施例では、P型半導体からなる3次元網目構造とN型半導体からなる3次元網目構造の両方を形成した。
【0056】
ガラス表面に2mm×2mmのITO電極が形成しているITO基板を中性洗剤、イソプロピルアルコール、アセトンを用いて各15分ずつ超音波洗浄した。80℃に温めた乾燥機を用いてITO基板表面に残ったアセトンを揮発させ除去した後、紫外線オゾン処理を30分施し、清浄化した。ホール輸送層として導電性高分子PEDOT:PSS水溶液(Aldrich製)をイソプロピルアルコールで2倍に希釈し、24時間攪拌を行った。希釈し攪拌した後の導電性高分子PEDOT:PSS水溶液を、孔径0.2μmのフィルタにてろ過し、回転数2000rpmでITO電極上にスピンコート法を用いて塗布した。作製したPEDOT:PSS薄膜を120℃に加熱し、薄膜中の残存溶媒を除去し、光電変換素子の正極とした。
【0057】
P3HT(分子量4万5千〜6万5千、Aldrich製)をオルトジクロロベンゼン溶媒中に2.4質量%となるよう添加し、孔径0.2μmのフィルタにてろ過を行った。ろ過後の溶液に、繊維化を促す添加剤として分子量4,000,000のポリエチレングリコールを0.6質量%添加し、P型半導体紡糸液とした。同様にフラーレン誘導体PCBM(Aldrich製)を、オルトジクロロベンゼン溶媒中に2.4質量%となるように添加し、孔径0.2μmのフィルタにてろ過を行った。ろ過後の溶液に、繊維化を促す添加剤として分子量4,000,000のポリエチレングリコールを0.6質量%添加し、N型半導体紡糸液とした。
【0058】
実施例1と同様に、図3に示す電界紡糸装置を用いて、各半導体紡糸液を異なるノズルから電界紡糸し、それぞれ平均直径500nm以下の繊維体からなるネットワーク構造を、上述の正極上に作製した。印加電圧は15〜20kVとし、ノズル−コレクタ間の距離は10〜15cmとした。作製した繊維体を120℃に加熱し、繊維中に残存している溶媒を取り除くとともに繊維体中での結晶形成を促進し、電荷キャリア輸送パスとなる繊維体ネットワーク構造を得た。
【0059】
さらに、P型半導体/N型半導体混合溶液を、スピンコート法を用いて繊維体ネットワーク構造上に塗布することによって、P型半導体からなる3次元網目構造の空隙およびN型半導体からなる3次元網目構造の空隙に、バルクヘテロ接合層を形成した。具体的には、P型半導体としてP3HTを、N型半導体としてフラーレン誘導体PCBM(Aldrich製)をそれぞれ用いた。P3HTとフラーレン誘導体PCBMを、オルトジクロロベンゼン溶媒中にP3HTとPCBMとがともに50mg/mlとなるよう添加し、50℃で1時間攪拌した。撹拌後の溶液を、孔径0.2μmのフィルタにてろ過し、ITO基板上に作製した繊維体ネットワーク構造上に回転数500rpmで塗布した。キャストしたフィルムを120℃に加熱して溶媒を取り除くとともに、バルクヘテロ接合層内部の微結晶ドメインの成長を促進し、繊維体ネットワーク構造を含むハイブリッド型の光電変換層を得た。以上の繊維体ネットワーク構造およびバルクヘテロ接合層の作製の全ての操作は、窒素で満たされたグローブボックス中で行った。
【0060】
作製した光電変換層/ホール輸送層/正極(ITO)/基板からなる積層体の光電変換層表面に、真空蒸着法を用いて対極である負極(第2電極)としてアルミニウムの薄膜をアルミニウム電極として形成した。蒸着中の真空度は5×10−3Pa以下であった。また、アルミニウム電極の膜厚は50nmとした。
【0061】
(光電変換効率の評価)
実施例1の光電変換素子と、比較例1の光電変換素子との光電変換効率を測定した。具体的には、ソーラーシミュレーター(ペクセルテクノロジーズPEC−L12)によるAM1.5相当の放射スペクトル光をITO電極側から照射し、発生する電圧および電流を、I−V特性計測装置(ペクセルテクノロジーズPECK2400−N2)を用いて測定した。
【0062】
実施例1の光電変換素子では、光電変換効率が2.3%であった。一方、比較例1の光電変換素子では、光電変換効率が1.4%であった。つまり、光電変換層に3次元網目構造ハイブリッド型のバルクヘテロ接合層を有する光電変換素子では、光電変換層がバルクヘテロ接合層のみである光電変換素子に比べ、光電変換効率が約1.64倍であり、光電変換効率が大幅に向上することが確認された。
【0063】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【0064】
たとえば、上述の実施の形態1では、3次元網目構造40がP型有機半導体であるが、3次元網目構造40をN型有機半導体としてもよい。この場合には、電荷キャリア(正孔)を効率良く捕集することが可能となる。
【符号の説明】
【0065】
10 光電変換素子、20 第1電極、22 基材、24 第2電極、30 光電変換層、40 第1導電型の半導体繊維体による3次元網目構造、50 第2導電型の半導体繊維体による3次元網目構造、60 第1導電型の半導体層、70 第2導電型の半導体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、第2電極と、前記第1電極および前記第2電極の間に設けられる光電変換層と、を備え、
前記光電変換層は、
第1導電型の半導体層と、
前記第1導電型とは逆の導電型を示し、前記第1導電型の半導体層とバルクヘテロ接合を形成する第2導電型の半導体層と、
径が1nm〜1μmの前記第1導電型の半導体からなる繊維体で形成された3次元網目構造と、
を有し、
前記3次元網目構造の一部が前記第1電極側の面に達していることを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
前記3次元網目構造の一部がバルクヘテロ接合界面と接している請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記第1導電型の半導体層と前記第1導電型の半導体からなる繊維体とが同一材料で形成されている請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記第1導電型の半導体からなる繊維体は電界紡糸法を用いて作製されたものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項5】
径が1nm〜1μmの前記第2導電型の半導体からなる繊維体で形成された他の3次元網目構造をさらに備え、
前記他の3次元網目構造の一部が第2電極側の面に達していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記他の3次元網目構造の一部がバルクヘテロ接合界面と接している請求項5に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記第2導電型の半導体層と前記第2導電型の半導体からなる繊維体とが同一材料で形成されている請求項5または6に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記第2導電型の半導体からなる繊維体は電界紡糸法を用いて作製されたものである請求項5乃至7のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項9】
電界紡糸法を用いて径が1nm〜1μmの第1導電型の半導体からなる繊維体で形成された3次元網目構造を基材上に構築する工程と、
前記3次元網目構造の空隙部分に第1導電型の半導体材料および前記第1導電型とは逆の導電型を示す第2導電型の半導体材料とを充填してバルクヘテロ接合を形成する工程と、
を備えることを特徴とする光電変換素子の作製方法。
【請求項10】
前記3次元網目構造の形成と同時または、前記3次元網目構造の形成に続いて、
電界紡糸法を用いて径が1nm〜1μmの第2導電型の半導体からなる繊維体で形成された3次元網目構造を前記基材上に構築する工程をさらに備え、
前記バルクヘテロ接合を形成する工程において、前記3次元網目構造および前記他の3次元網目構造の空隙部分に前記第1導電型の半導体材料および第2導電型の半導体材料を充填する請求項9に記載の光電変換素子の作製方法。
【請求項11】
バルクヘテロ接合を形成する工程において、前記第1導電型の半導体材料および第2導電型の半導体材料をスピンコート法により塗布する請求項9または10に記載の光電変換素子の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−156255(P2012−156255A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13251(P2011−13251)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノファイバーイノベーション創出NEDO特別講座」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】