説明

光電変換素子及びその製造方法、太陽電池、並びに光電変換素子材料

【課題】より高い変換効率を持つ太陽電池を実現する。
【解決手段】一対の電極と、電極間に配置された活性層と、少なくとも一方の電極と活性層との間に配置されたバッファ層と、を備える光電変換素子であって、バッファ層はトルクセン骨格化合物を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子及びその製造方法、太陽電池、並びに光電変換素子材料に関し、特にトルクセン骨格化合物を含む光電変換素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗布プロセスが適用可能な有機材料を用いた光電変換素子を含む太陽電池の開発が行なわれるようになってきた。このような光電変換素子は、省エネルギーで製造が可能であり、かつ大面積化が比較的容易である。
【0003】
全固体型の有機材料を用いた太陽電池は、活性層の設計により、「ヘテロ接合型」と「バルクへテロ接合型」とに分類される。
【0004】
ヘテロ接合型太陽電池の活性層においては、電子供与体を含有する層と電子受容体を含有する層とが積層されており、接合界面での光誘起による電荷移動が利用される。
【0005】
バルクへテロ接合型太陽電池は、電子供与体と電子受容体が混合されている活性層を有する。したがってバルクへテロ接合型太陽電池は、2層構造を有する活性層を備えるヘテロ接合型太陽電池とは異なる構造を有する。
【0006】
上記のいずれの素子構造においても、光吸収により生成した光キャリア(正孔と電子)を、電極まで効率良く輸送することにより高い変換効率を得るために、電極と活性層との間にバッファ層が設けられることがある。バッファ層の材料としては、フッ化リチウムのような無機物を使う例(非特許文献1)、及びバソクプロイン(略称 BCP)を使う例(非特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S.E. Shaheen et al. Appl. Phys. Lett. 78, 841−843, 2001.
【非特許文献2】S. Uchida et al. Appl. Phys. Lett. 84, 4218−4220, 2004.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
太陽電池の分野においては、常に変換効率の向上が求められている。バッファ層をできるだけ薄くすることにより変換効率が向上しうるが、従来のバッファ材料であるフッ化リチウムを用いる場合、極めて薄い薄膜を均一な厚さに成膜することは困難であった。また、バソクプロインは耐熱性が十分に高くないため、太陽電池が熱により劣化してしまう可能性があった。このため、さらに優れた材料が求められている。
【0009】
本発明は、より高い変換効率を持つ太陽電池を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が鋭意検討した結果、トルクセン骨格化合物を光電変換素子のバッファ層材料として用いることにより、上記課題を解決できることがわかり本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0011】
[1] 一対の電極と、該電極間に配置された活性層と、少なくとも一方の前記電極と前記活性層との間に配置されたバッファ層と、を備える光電変換素子であって、
前記バッファ層はトルクセン骨格化合物を含有することを特徴とする、光電変換素子。
【0012】
[2] 前記トルクセン骨格化合物が下記式(A1)で表される化合物であることを特徴とする、[1]に記載の光電変換素子。
【化1−1】

(式(A1)中、R〜R18はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいC〜C30脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいC〜C30アルコキシ基、置換基を有していてもよい芳香族環基、置換基を有してもよいホスフィン基、置換基を有してもよいホスフィンオキシド基、又は置換基を有してもよいホスフィンスルフィド基を表す。)
【0013】
[3] 前記活性層が電子供与体として共役系高分子化合物を含有することを特徴とする、[1]又は[2]に記載の光電変換素子。
【0014】
[4] 前記活性層が電子供与体として下記式(A2)又は(A3)で表される化合物を含有することを特徴とする、[1]又は[2]に記載の光電変換素子。
【化1−2】

【化1−3】

(式(A2)及び(A3)中、Z1a、Z1b、Z2a、Z2b、Z3a、Z3b、Z4a及びZ4bはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基又は1価の有機基を表し、Z1aとZ1bとの組、Z2aとZ2bとの組、Z3aとZ3bとの組、及びZ4aとZ4bとの組のうちの少なくとも1つは互いに結合して環を形成していてもよく、R21〜R24はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基又は1価の有機基を表し、Mは2価の金属原子又は3価以上の金属と他の原子とが結合した原子団を表す。)
【0015】
[5] 前記活性層に含有される前記式(A2)又は(A3)で表される化合物は、溶解性前駆体からの熱転換により得られることを特徴とする、[4]に記載の光電変換素子。
【0016】
[6] 前記溶解性前駆体が下記式(A4)又は(A5)で表される化合物であることを特徴とする、[5]に記載の光電変換素子。
【化1−4】

【化1−5】

(式(A4)及び(A5)中、Z1a、Z1b、Z2a、Z2b、Z3a、Z3b、Z4a及びZ4bはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基又は1価の有機基を表し、Z1aとZ1bとの組、Z2aとZ2bとの組、Z3aとZ3bとの組、及びZ4aとZ4bとの組のうちの少なくとも1つは互いに結合して環を形成していてもよく、R21〜R24はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基又は1価の有機基を表し、Mは2価の金属原子又は3価以上の金属と他の原子とが結合した原子団を表し、Y〜Yはそれぞれ独立に、1価の原子又は原子団を表す。)
【0017】
[7] 前記活性層が、電子受容体としてフラーレン又はフラーレン誘導体を含有することを特徴とする、[1]から[6]の何れかに記載の光電変換素子。
【0018】
[8] 陽極と、陽極バッファ層と、前記活性層と、陰極バッファ層と、陰極と、が順に積層された構造を有し、前記陽極バッファ層と前記陰極バッファ層との少なくとも一方が前記トルクセン骨格化合物を含有することを特徴とする、[1]から[7]の何れかに記載の光電変換素子。
【0019】
[9] [1]から[8]の何れかに記載の光電変換素子を備えることを特徴とする太陽電池。
【0020】
[10] [1]から[8]の何れかに記載の光電変換素子の製造方法であって、前記バッファ層と、前記バッファ層に接する前記電極又は前記活性層と、を含む積層構造を作製する工程と、前記積層構造を50℃以上250℃以下の温度で加熱する工程と、を含むことを特徴とする、光電変換素子の製造方法。
【0021】
[11] トルクセン骨格化合物を含有することを特徴とする光電変換素子材料。
【発明の効果】
【0022】
より高い変換効率を持つ太陽電池を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施形態に係る光電変換素子の模式断面図である。
【図2】第2の実施形態に係る光電変換素子の模式断面図である。
【図3】第3の実施形態に係る光電変換素子の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の各実施形態に係る光電変換素子について図面を参照して詳細に説明する。以下で説明される実施形態は、本発明の実施形態例(代表例)にすぎず、以下の実施形態に本発明が限定されるわけではない。
【0025】
[1. 本発明に係るトルクセン化合物]
本実施形態に係る光電変換素子は、一対の電極と、電極間に配置された活性層と、少なくとも一方の電極と活性層との間に配置されたバッファ層とを備える。また、このバッファ層はトルクセン骨格化合物を含有する。以下ではまず、まず、各実施形態に係る光電変換素子が含む、トルクセン骨格化合物(以下、トルクセン化合物と称する)について説明する。
【0026】
本明細書においてトルクセン骨格とは、その名前から当業者には明らかであるように、下式で表される炭素骨格のことを指し、トルクセン骨格化合物は、下式で表される炭素骨格を有する化合物のことを意味する。
【化2−1】

【0027】
トルクセン骨格化合物としては、例えば、一般式(A1)で表される化合物があげられる。
【化2−2】

【0028】
式(A1)において、R〜R18はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよいC〜C30脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいC〜C30アルコキシ基、置換基を有していてもよい芳香族環基、置換基を有していてもよいホスフィン基、置換基を有していてもよいホスフィンオキシド基、又は置換基を有していてもよいホスフィンスルフィド基を表す。
【0029】
本明細書において、「C〜C30脂肪族炭化水素基」は、飽和の炭化水素基であっても不飽和の炭化水素基であってもよい。また、直鎖の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖を有する炭化水素基であってもよい。「C〜C30脂肪族炭化水素基」としては、例えば、C〜C30アルキル基、C〜C30アルケニル基、C〜C30アルキニル基、C〜C30アルカジエニル基などが挙げられる。
【0030】
「C〜C30アルキル基」の例としては、アルキル基の例としては、制限するわけではないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ドデカニル基、2−エチルヘキシル基、などを挙げることができる。R〜R18のうち少なくとも1つがアルキル基である場合、このアルキル基はC〜C10アルキル基であることが好ましく、C〜Cアルキル基であることがさらに好ましい。
【0031】
「C〜C30アルケニル基」の例としては、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、2−メチルアリル基、2−ブテニル基、などを挙げることができる。R〜R18のうち少なくとも1つがアルケニル基である場合、このアルケニル基はC〜C10アルケニル基であることが好ましく、C〜Cアルケニル基であることがさらに好ましい。
【0032】
「C〜C30アルキニル基」の例としては、制限するわけではないが、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、などを挙げることができる。R〜R18のうち少なくとも1つがアルキニル基である場合、このアルキニル基はC〜C10アルキニル基であることが好ましく、C〜Cアルキニル基であることがさらに好ましい。
【0033】
「C〜C30アルカジエニル基」の例としては、制限するわけではないが、1,3−ブタジエニル基などを挙げることができる。R〜R18のうち少なくとも1つがアルカジエニル基である場合、このアルカジエニル基はC〜C10アルカジエニル基であることが好ましく、C〜Cアルカジエニル基であることがさらに好ましい。
【0034】
本明細書において、「C〜C30アルコキシ基」は、飽和のアルコキシ基であっても不飽和のアルコキシ基であってもよい。また、直鎖のアルコキシ基であってもよいし、分岐鎖を有するアルコキシ基であってもよい。アルコキシ基の例としては、制限するわけではないが、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基などがある。R〜R18のうち少なくとも1つがアルコキシ基である場合、このアルコキシ基はC〜C10アルコキシ基であることが好ましく、C〜Cアルコキシ基であることがさらに好ましい。
【0035】
本明細書において「芳香族環基」は、芳香族炭化水素基であっても芳香族複素環基であってもよい。芳香族環基は、単環基であってもよいし、縮合環基であってもよい。R〜R18のうち少なくとも1つが芳香族炭化水素基である場合、この芳香族炭化水素基は、C〜C20芳香族炭化水素環基であることが好ましい。R〜R18のうち少なくとも1つが芳香族複素環基である場合、この芳香族複素環基は、C〜C20芳香族複素環基であることが好ましい。
【0036】
単環基である「芳香族炭化水素基」の例としては、例えば、フェニル基などが挙げられる。また、芳香族基が置換した芳香族炭化水素基、例えば2−ビフェニル基、3−ビフェニル基、及び4−ビフェニル基、なども挙げられる。
【0037】
縮合環基である「芳香族炭化水素基」の例としては、例えば、ナフチル基(例えば1−ナフチル基及び2−ナフチル基)、アンスリル基(例えば2−アンスリル基及び9−アンスリル基)、並びにフルオレニル基などが挙げられる。
【0038】
単環基である「芳香族複素環基」の例としては、例えば、チエニル基(例えば2−チエニル基及び3−チエニル基)、フリル基(例えば2−フリル基及び3−フリル基)、ピリジル基(例えば2−ピリジル基、3−ピリジル基、及び4−ピリジル基)、チアゾリル基(例えば2−チアゾリル基、4−チアゾリル基、及び5−チアゾリル基)、オキサゾリル基(例えば2−オキサゾリル基及び4−オキサゾリル基)、ピラジニル基、ピリミジニル基(例えば2−ピリミジニル基及び4−ピリミジニル基)、ピロリル基(例えば1−ピロリル基、2−ピロリル基、及び3−ピロリル基)、イミダゾリル基(例えば1−イミダゾリル基、2−イミダゾリル基、及び4−イミダゾリル基)、ピラゾリル基(例えば1−ピラゾリル、3−ピラゾリル、4−ピラゾリル)、ピリダジニル基(例えば3−ピリダジニル基及び4−ピリダジニル基)、トリアジニル基、イソチアゾリル(例えば3−イソチアゾリル基)、イソオキサゾリル基(例えば3−イソオキサゾリル基)、並びにイミダゾリル基、などが挙げられる。R〜R18のうち少なくとも1つが単環基である芳香族複素環基の場合、この芳香族複素環基は1〜4個のヘテロ原子を含む5〜14員環、好ましくは5〜10員環、より好ましくは5又は6員環の芳香族複素環基でありうる。ヘテロ原子は例えば、リン原子、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれる1又は2種でありうる。
【0039】
縮合環基である「芳香族複素環基」の例としては、例えば、キノリル基(例えば2−キノリル基、3−キノリル基、4−キノリル基、5−キノリル基、及び8−キノリル基)、イソキノリル基(例えば1−イソキノリル基、3−イソキノリル基、4−イソキノリル基、及び5−イソキノリル基)、シンノリニル基(例えば、3−シンノリニル基、4−シンノリニル基、5−シンノリニル基、6−シンノリニル基、7−シンノリニル基、及び8−シンノリニル基)、キナゾリニル基(例えば2−キナゾリニル基、4−キナゾリニル基、5−キナゾリニル基、6−キナゾリニル基、7−キナゾリニル基、及び8−キナゾリニル基、)、キノキサリニル基(例えば2−キノキサリニル基、5−キノキサリニル基、及び6−キノキサリニル基)、インドリル基(例えば1−インドリル基、2−インドリル基、及び3−インドリル基)、2−ベンゾチアゾリル基、ベンゾ[b]チエニル基、(例えば2−ベンゾ[b]チエニル基及び3−ベンゾ[b]チエニル基)、並びにベンゾ[b]フラニル(例えば2−ベンゾ[b]フラニル基及び3−ベンゾ[b]フラニル基)、などが挙げられる。R〜R18のうち少なくとも1つが縮合環基である芳香族複素環基の場合、この芳香族複素環基は、1〜4個のヘテロ原子を含む5〜14員環(好ましくは5〜10員環)の2環式若しくは3環式の芳香族複素環基、又は1〜4個のヘテロ原子を含む5〜14員環(好ましくは5〜10員環)の芳香族複素架橋環基でありうる。ヘテロ原子は例えば、リン原子、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれる1又は2種でありうる。
【0040】
本明細書において「ジアルキルアミノ基」の例としては、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、などが挙げられる。本明細書において「ジアラルキルアミノ基」の例としては、ジベンジルアミノ基、ジフェネチルアミノ基、などが挙げられる。本明細書において「α−ハロアルキル基」の例としては、トリフルオロメチル基などが挙げられる。
【0041】
本明細書において、各基が有してもよい「置換基」としては例えば、オキソ基;フッ素原子などのハロゲン原子;メチル基及びエチル基などのC〜Cのアルキル基;ビニル基などのアルケニル基;ベンジル基などのアラルキル基;メトキシカルボニル基及びエトキシカルボニル基などのC〜Cアルコキシカルボニル基;メトキシ基及びエトキシ基などのC〜Cアルコキシ基;フェノキシ基、ナフトキシ基、ビフェニルオキシ基などのC〜C30(好ましくはC〜C10)アリールオキシ基;ベンジルオキシ基などのアラルキルオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、及びジイソプロピルアミノ基などのジアルキルアミノ基;ジベンジルアミノ基及びジフェネチルアミノ基などのジアラルキルアミノ基;アセチル基などのアシル基;トリフルオロメチル基などのハロアルキル基;シアノ基;ニトロ基;メチレンジオキシ基及びエチレンジオキシ基などのC〜Cアルキレンジオキシ基;C〜C30アルキルチオ基;C〜C30アルキルスルホニル基;C〜C30アリールチオ基;C〜C30アリールスルホニル基;フェニル基及びナフチル基などのC〜C20芳香族炭化水素基;ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、ビリダジル基、トリアジル基、ビピリジル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、チエニル基、ホスホリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、などのC〜C20芳香族複素環基、などが挙げられる。
【0042】
〜C30アルキルチオ基としては、C〜C10アルキルチオ基であることが好ましく、C〜Cアルキルチオ基であることがさらに好ましい。また、C〜C30アルキルスルホニル基としては、C〜C10アルキルスルホニル基であることが好ましく、C〜Cアルキルスルホニル基であることがさらに好ましい。ここで、アルキルチオ基及びアルキルスルホニル基を構成するアルキル基としては、制限するわけではないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、などを挙げることができる。
【0043】
〜C30アリールチオ基としては、C〜C18アリールチオ基であることが好ましく、C〜C12アリールチオ基であることがさらに好ましい。また、C〜C30アリールスルホニル基としては、C〜C18アリールスルホニル基であることが好ましく、C〜C12アリールスルホニル基であることがさらに好ましい。ここで、アリールチオ基及びアリールスルホニル基を構成するアリール基としては、制限するわけではないが、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、インデニル基、ビフェニリル基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、ビリダジル基、ビピリジル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、チエニル基、ホスホリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、などを挙げることができる。
【0044】
置換基を有していてもよいホスフィン基としては、C〜C30アリールホスフィン基であることが好ましく、例えばジフェニルホスフィン基が挙げられる。アリールホスフィン基が有する置換基は互いに結合していてもよい。
【0045】
置換基を有していてもよいホスフィンオキシド基としては、C〜C30アリールホスフィン基であることが好ましく、例えばジフェニルホスフィンオキシド基が挙げられる。アリールホスフィン基オキシドが有する置換基は互いに結合していてもよい。
【0046】
置換基を有していてもよいホスフィンスルフィド基としては、C〜C30アリールホスフィンスルフィド基であることが好ましく、例えばジフェニルホスフィンスルフィド基が挙げられる。アリールホスフィンスルフィド基が有する置換基は互いに結合していてもよい。
【0047】
トルクセン化合物の溶解度を増す観点から、R、R、R11、R12、R17、及びR18は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を有していてもよいC〜C30脂肪族炭化水素基であることが好ましく、C〜C12脂肪族炭化水素基であることが特に好ましい。C〜C12脂肪族炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ドデカニル基、2−エチルヘキシル基、などを挙げることができる。合成の容易性の観点からは、R、R11、及びR17が同一の基であることもまた好ましい。同様の観点から、R、R12、及びR18が同一の基であることも好ましい。さらには、RとRとの組、R11とR12との組、及びR17とR18との組のうち少なくとも1組が同一の基であることも好ましく、3組全てが同一の基であることもまた好ましい。
【0048】
また、R、R、R、R、R、R、R、R10、R13、R14、R15、及びR16のうち少なくとも1つが芳香族複素環を有する基であることが好ましく、少なくとも3つが芳香族複素環を有する基であることがさらに好ましい。上述のように、トルクセン化合物は活性層と電極との間に位置するバッファ層の材料として用いられる。トルクセン化合物が芳香族複素環を有する場合、芳香族複素環上のヘテロ原子が電極が含有する金属原子に配位しうるために、バッファ層と電極との相互作用が大きくなることが期待される。この場合、バッファ層から電極への電荷の移動が円滑になりうるため、短絡電流及びフィルファクタが向上することが期待される。ここで「芳香族複素環を有する基」とは、上述した芳香族複素環基、上述した芳香族複素環基を置換基として有するC〜C12脂肪族炭化水素基、上述した芳香族複素環基を置換基として有するC〜C20芳香族炭化水素基、などでありうる。
【0049】
また、トルクセン化合物が芳香族複素環基を有する場合、トルクセン化合物のLUMOが低くなることが期待される。この場合、活性層からバッファ層への正孔又は電子の移動が円滑になりうるため、短絡電流及びフィルファクタが向上することが期待される。トルクセン化合物が芳香族複素環基を有することは、特に陰極バッファ層の材料としてトルクセン化合物を用いる場合に、電子の移動がスムーズになりうることから有利である。
【0050】
他の分子と相互作用しやすくなるという観点からは、R、R、R、R、R14、及びR15のうちの少なくとも1つが芳香族複素環基であることが好ましく、少なくとも3つが芳香族複素環基であることがさらに好ましい。金属への配位能及び安定性の観点からは、ヘテロ原子としては酸素、窒素、硫黄及びリンが好ましく、窒素が特に好ましい。
【0051】
さらに、R、R、R、R、R、R、R、R10、R13、R14、R15、及びR16のうち少なくとも1つが芳香族炭化水素環を有する基であることも好ましく、少なくとも3つが芳香族炭化水素環を有する基であることはさらに好ましい。この場合、活性層内の分子とのπ−π相互作用により活性層とバッファ層との間の相互作用が大きくなりうるため、活性層からバッファ層への正孔又は電子の移動が円滑になりうる。このため、短絡電流及びフィルファクタが向上することが期待される。ここで「芳香族炭化水素環を有する基」とは、上述した芳香族炭化水素基、上述した芳香族炭化水素基を置換基として有するC〜C12脂肪族炭化水素基、上述した芳香族炭化水素基を置換基として有するC〜C20芳香族炭化水素基、上述した芳香族炭化水素基を置換基として有するホスフィン基、上述した芳香族炭化水素基を置換基として有するホスフィンオキシド基、上述した芳香族炭化水素基を置換基として有するホスフィンスルフィド基、などでありうる。
【0052】
合成の容易性の観点からは、R、R、及びR14が同一の基であることもまた好ましい。同様の観点から、R、R、及びR15が同一の基であることも好ましい。また、R、R、及びR13が同一の基であることも好ましい。また、R、R10、及びR16が同一の基であることも好ましい。
【0053】
式(A1)で表されるトルクセン化合物は、公知の方法で合成できる。例えば、V. E. Dehmlow et al. Synth. Commun. 2021−2030, 27, 1997.に記載された方法に従って合成できる。
【0054】
本実施形態において用いられるトルクセン化合物の好ましい例としては、以下に示す化合物(T1)〜(T33)が挙げられる。なお、本実施形態において用いられるトルクセン化合物が、化合物(T1)〜(T33)に限定されるわけではない。
【化2−3】

【化2−4】

【化2−5】

【0055】
本実施形態において用いられるトルクセン化合物を含む膜は、耐熱性が高いことが期待される。このため、トルクセン化合物を含有する光電変換素子は、熱による劣化に強いことが期待される。特に、光電変換素子の各層間の密着性を向上させることによって変換効率を向上させるために、加熱処理(アニール処理)を行う技術がある。しかしながら、従来のようにバソクプロイン(BCP)を含有する光電変換素子は、アニール処理によってバソクプロインを含む層が劣化してしまい、変換効率が低下する可能性があった。一方でトルクセン化合物は熱に耐えうるため、アニール処理を行う場合にトルクセン化合物を材料として用いることは特に好適である。また、トルクセン化合物は溶媒に対する溶解度が比較的高いために、塗布法による成膜を行いうる。このためトルクセン化合物は、極めて薄くかつ均一な膜へと形成しうる。このような膜は、光電変換素子におけるバッファ層として好適である。このように上述のトルクセン化合物は、光電変換素子材料として、特にバッファ層材料として、とりわけ陰極バッファ層材料として、好適に用いられうる。
【0056】
[2. 本発明に係る光電変換素子]
本発明に係る光電変換素子は、一対の電極と、電極間に配置された活性層と、少なくとも一方の電極と活性層との間に配置されたバッファ層とを備える。また、本発明に係る光電変換素子は、さらに基板を有してもよい。以下で、本発明に係る光電変換素子の各実施形態について説明する。本実施形態に係る光電変換素子は、特に有機薄膜光電変換素子でありうる。
【0057】
図1に、本発明に係る光電変換素子の第1の実施形態を示す。第1の実施形態に係る光電変換素子は、基板1、陽極2、陽極バッファ層3、活性層4、陰極バッファ層5、及び陰極6を有する。第1の実施形態において、活性層4は活性層(i−層)4cを備える。
【0058】
図2に、本発明に係る光電変換素子の第2の実施形態を示す。第2の実施形態に係る光電変換素子は、基板1、陽極2、陽極バッファ層3、活性層4、陰極バッファ層5、及び陰極6を有する。第2の実施形態において、活性層4は(p−層)4a及び活性層(n−層)4bを備える。
【0059】
図3に、本発明に係る光電変換素子の第3の実施形態を示す。第3の実施形態に係る光電変換素子は、基板1、陽極2、陽極バッファ層3、活性層4、陰極バッファ層5、及び陰極6を有する。第3の実施形態において、活性層4は活性層(p−層)4a、活性層(i−層)4c、及び活性層(n−層)4bを備える。
【0060】
第1〜第3の実施形態のそれぞれにおいて、陽極バッファ層3と陰極バッファ層5との少なくとも一方は、上述のトルクセン化合物を含有する。特に陰極バッファ層5が上述のトルクセン化合物を含有することが、短絡電流及びフィルファクタが向上しうるために好ましい。以下に、各実施形態に係る光電変換素子が備える各要素について詳しく説明する。
【0061】
もっとも、本発明に係る光電変換素子は、第1〜第3の実施形態に限定されるものではない。例えば、第1〜第3の実施形態に係る光電変換素子は、基板1上に陽極2を有する。しかしながら、基板1上に陰極6が設けられていてもよい。具体的には、基板1の上に、陰極6、陰極バッファ層5、活性層4、陽極バッファ層3、陽極2が順に積層されていてもよい。また、陽極バッファ層3と陰極バッファ層5とのうち一方は存在しなくてもよい。
【0062】
<2.1 基板(1)>
基板1は光電変換素子の支持体となるものであり、石英の板、ガラスの板、プラスチックフィルム、及びプラスチックシートなどが用いられる。基板1はガラス板又は透明な合成樹脂基板であることがコスト及び重量の点で好ましい。透明な合成樹脂基板の材料としては例えば、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどが挙げられる。基板1は、複数の材料によって構成されていてもよい。例えば基板1は、複数の層からなる多層構造を有してもよい。
【0063】
基板1は、高いガスバリア性を有することが好ましい。例えば基板1は、酸素の透過性が低いことが好ましい。基板1のガスバリア性が低いと、基板1を透過してくる外気により光電変換素子が劣化することがある。基板1として合成樹脂基板を用いる場合には、例えば合成樹脂基板の片面若しくは両面をコーティングすることにより、基板1のガスバリア性を高めることができる。例えば、合成樹脂基板の表面に緻密なシリコン酸化膜を設けることは好ましい。
【0064】
また、基板1を光電変換素子の受光面とする場合に、基板1は透光性を有することが好ましい。本明細書において透光性を有するとは、太陽光が40%以上透過することを意味する。基板1の太陽光の透過率は、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。上限に特段の制限はない。より多くの太陽光が透過するほど、活性層4により多くの光が到達するため、光電変換効率が向上することが期待される。なお、太陽光の透過率は、通常の分光光度計で測定可能である。具体的には、JISで定義される可視光線透過率を、太陽光の透過率として用いることができる。基板1の色は特に限定されず、有色であっても無色であってもよい。
【0065】
<2.2 陽極(2)>
陽極2に用いられる材料は、活性層で電荷分離した正孔を受け取ることができる材料であれば特に限定されない。例えば、任意の導電性物質を陽極2として用いることができる。陽極2に用いられる材料の好ましい例としては、酸化ニッケル、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、インジウム−ジルコニウム酸化物(IZO)、酸化チタン、酸化インジウム、酸化亜鉛などの導電性金属酸化物;金、白金、銀、クロム、コバルトなどの金属あるいはその合金、などが挙げられる。陽極2の色は特に限定されず、有色であっても無色であってもよい。
【0066】
活性層4に対して受光面側に陽極2が位置する場合、陽極2は透光性を有することが好ましい。この場合、陽極2の太陽光の透過率は60%以上であることが好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。より多くの太陽光が透過するほど、活性層4により多くの光が到達するため、光電変換効率が向上することが期待される。透光性を有する陽極2の材料としては、例えば、インジウム・スズ酸化物又はインジウム亜鉛酸化物などの金属酸化物を用いることができる。
【0067】
陽極2は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法などによって形成できる。陽極2の厚みは特に限定されない。しかしながら、強度を高める観点からは、陽極2の厚みは10nm以上が好ましく、50nm以上がさらに好ましい。また、電気抵抗を小さくしてフィルファクタを高くする観点からは、陽極2の厚みは1000nm以下が好ましく、300nm以下がさらに好ましい。
【0068】
<2.3 陽極バッファ層(3)>
陽極バッファ層3に用いられる材料としては、活性層4で生成された正孔を陽極2へ輸送できる材料であれば特に限定されない。このような陽極バッファ層3を有することにより、陽極バッファ層3に隣接する層から、陽極バッファ層3に隣接する他の層へと、正孔がスムーズに輸送されうる。例えば陽極バッファ層3は、活性層4で生成した正孔を、再結合などによる失活を抑制しながら、効率的に陽極2へと輸送しうる。このため、各実施形態に係る光電変換素子の光電変換特性が向上しうる。陽極バッファ層3に用いられる材料は、正孔移動度が高くかつ導電率が高いことが好ましい。さらには、陽極バッファ層3に用いられる材料は、陽極2との間の正孔注入障壁が小さいことが好ましい。
【0069】
陽極バッファ層3の材料としては、例えば、上述のトルクセン化合物を用いることができる。また、陽極バッファ層3の材料として共役系高分子化合物を、特に導電性高分子を用いることもできる。導電性高分子の例としては、電子受容性化合物を混合したポリチオフェンであるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)(略称 PEDOT:PSS)、電子受容性化合物を混合したポリアニリン、ポリピロールなどが挙げられる。
【0070】
活性層4に対して受光面側に陽極バッファ層3が位置する場合、陽極バッファ層3は透光性を有することが好ましい。この場合、陽極バッファ層3の太陽光の透過率は60%以上であることが好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。より多くの太陽光が透過するほど、活性層4により多くの光が到達するため、光電変換効率が向上することが期待される。
【0071】
陽極バッファ層3の形成方法は任意であり、例えばスピンコートやインクジェットなどの湿式塗布法、真空蒸着法、などが挙げられる。活性層4を被覆することにより開放電圧を高めるために陽極バッファ層3の均一性を確保する観点からは、陽極バッファ層3の厚みは3nm以上が好ましく、10nm以上がさらに好ましい。また、電気抵抗を小さくしてフィルファクタを高くする観点からは、陽極バッファ層3の厚みは200nm以下が好ましく、100nm以下がさらに好ましい。
【0072】
<2.4 活性層(4)>
第1〜第3の実施形態に係る光電変換素子においては、陽極2と陰極6との間に活性層4が設けられる。特に第1〜第3の実施形態に係る光電変換素子においては、陽極バッファ層3と陰極バッファ層5との間に活性層4が設けられる。
【0073】
活性層4に含まれる材料は、可視から近赤外の光を効率的に吸収できることが好ましい。また、光で誘起された正孔又は電子を効率よく輸送するために、活性層4に含まれる材料は高い移動度を有する材料であることが好ましい。さらに、活性層4においては電子供与体と電子受容体との接触面積が大きいことが好ましい。このために活性層4は、それぞれが励起子の拡散長程度の大きさを持つ結晶で構成される、相分離構造を有してもよい。
【0074】
活性層4は、電子供与体と電子受容体とを含む層であれば特に限定されない。例えば第1の実施形態に係る光電変換素子のように、活性層4は、電子供与体と電子受容体とを含む混合層(i−層)で構成されてもよい。また、第2の実施形態に係る光電変換素子のように、活性層4は、電子供与体を含む層(p−層)と電子受容体を含む層(n−層)との積層構造を有してもよい。さらに、第3の実施形態に係る光電変換素子のように、活性層4は、電子供与体を含む層(p−層)と、電子供与体と電子受容体とを含む混合層(i−層)と、電子受容体を含む層(n−層)と、の積層構造を有してもよい。
【0075】
第1〜第3の実施形態に係る光電変換素子について、詳しく説明する。第1の実施形態に係る光電変換素子(バルクヘテロ接合型)において、活性層(i−層)4cは、混合された電子供与体と電子受容体とを含む。活性層4cにおいては、電子供与体と電子受容体とが相分離構造を形成していることが好ましい。相分離構造を有することにより、電子供与体と電子受容体との間の接触面積を増大させることができる。
【0076】
第1の実施形態に係る光電変換素子(バルクへテロ接合型)よりもさらに高効率に電荷分離が行われうる構造として、3層構造からなるp−i−n接合型光電変換素子がある。第3の実施形態に係る光電変換素子は、このp−i−n接合光電変換素子である。第3の実施形態に係る光電変換素子において、活性層4は、電子供与体を含む活性層(p−層)4aと、電子供与体と電子受容体とを含む活性層(i−層)4cと、電子受容体を含む活性層(n−層)4bと、の積層構造を有する。第3の実施形態においても、活性層4cにおいて、電子供与体と電子受容体とが相分離構造を形成していることが好ましい。相分離構造を有することにより、活性層(i−層)4cにおける電子供与体と電子受容体との間の接触面積を増大させることができる。
【0077】
第2の実施形態に係る光電変換素子(ヘテロ接合型)において、活性層4は、電子供与体を含む活性層(p−層)4aと、電子受容体を含む活性層(n−層)4bとからなる2層構造を有する。第2の実施形態に係る光電変換素子においては、このp−層とn−層との接合界面で電荷分離が行われる。
【0078】
以下に、第1〜第3の各実施形態に係る光電変換素子を構成する活性層4が含む、電子供与体と電子受容体とについて詳しく説明する。
【0079】
<2.4.1 電子供与体>
活性層4に用いられる電子供与体は、電子供与体として機能する化合物であれば特に限定されない。電子供与体の一例としては、ポルフィリン化合物及びフタロシアニン化合物が挙げられる。ここでポルフィリン化合物及びフタロシアニン化合物は、中心に金属を有していてもよいし、金属を有さなくてもよい。
【0080】
ポルフィリン化合物の例としては、下記一般式(A2)で表されるベンゾポルフィリン化合物、及び下記一般式(A3)で表されるベンゾポルフィリン化合物が挙げられる。
【0081】
【化3−1】

【0082】
【化3−2】

【0083】
上記式(A2)及び(A3)において、Z1a、Z1b、Z2a、Z2b、Z3a、Z3b、Z4a及びZ4bはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基又は1価の有機基を表す。
【0084】
また上記式(A2)及び(A3)において、Z1a、Z1b、Z2a、Z2b、Z3a、Z3b、Z4a、及びZ4bが表しうる1価の有機基の例としては、置換基を有していてもよいC〜C30脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいC〜C30アルコキシ基、置換基を有していてもよいC〜C30アリールオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいシリル基、置換基を有していてもよいC〜C30アルキルチオ基、置換基を有していてもよいC〜C18アリールチオ基、置換基を有していてもよいC〜C30アルキルスルホニル基、置換基を有していてもよいC〜C18アリールスルホニル基、シアノ基、アシル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいジアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいジアラルキルアミノ基、トリフルオロメチル基などの置換基を有していてもよいα−ハロアルキル基、及び置換基を有していてもよい芳香族環基、が挙げられる。これらの中でも、上述の1価の有機基はC〜C30アルキル基又はC〜C30アルケニル基であることが好ましい。
【0085】
また上記式(A2)及び(A3)において、Z1aとZ1bとの組、Z2aとZ2bとの組、Z3aとZ3bとの組、及びZ4aとZ4bとの組のうちの少なくとも1つ、好ましくは全ては、互いに結合して環を形成していてもよい。形成される環の例としては、五員環及び六員環が挙げられる。形成される環の具体的な例としては、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、置換基を有していてもよい芳香族複素環、置換基を有していてもよい非芳香族環状炭化水素、などが挙げられる。芳香族炭化水素環の例としては、ベンゼン環、ナフタレン環、及びアントラセン環などが挙げられる。芳香族複素環の例としては、ピリジン環、キノリン環、フラン環、及びチオフェン環などが挙げられる。非芳香族環状炭化水素の例としては、シクロヘキサン環などが挙げられる。
【0086】
上記式(A2)及び(A3)において、R21〜R24は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基又は1価の有機基である。
【0087】
21〜R24が表しうる1価の有機基としては例えば、置換基を有していてもよいC〜C30脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいC〜C30アルコキシ基、置換基を有していてもよいC〜C30アリールオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいシリル基、置換基を有していてもよいC〜C30アルキルチオ基、置換基を有していてもよいC〜C18アリールチオ基、置換基を有していてもよいC〜C30アルキルスルホニル基、置換基を有していてもよいC〜C18アリールスルホニル基、シアノ基、アシル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいジアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいジアラルキルアミノ基、置換基を有していてもよいα−ハロアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族環基、が挙げられる。
【0088】
これらの中でもR21〜R24は、化合物の分子の平面性を高めるために、水素原子及びハロゲン原子などの単原子であることが好ましい。
【0089】
上記式(A3)において、Mは2価の金属原子又は3価以上の金属と他の原子とが結合した原子団である。2価の金属原子の例としては、Zn、Cu、Fe、Ni、及びCoが挙げられる。3価以上の金属と他の原子とが結合した原子団の例としては、Fe−B、Al−B、Ti=O、及びSi−B、などが挙げられる。ここで、B、B、B、及びBは、例えばハロゲン原子、アルキル基、及びアルコキシ基などのような1価の基を表す。
【0090】
電子供与体として用いられるベンゾポルフィリン化合物の好ましい具体例としては、以下の化合物BP−1〜BP−10が挙げられる。また、別の好ましい具体例としては、21H,23H−テトラベンゾポルフィン白金などが挙げられる。なお、本実施例において用いられるベンゾポルフィリン化合物が、以下の化合物BP−1〜BP−10に限定されるわけではない。化合物BP−1〜BP−10は比較的に対称性の良い分子構造を有している。しかしながら、それぞれの化合物の部分構造を組み合わせることによって得られる非対称性の構造を有する化合物を使用することもできる。
【0091】
【化3−3】

【0092】
電子供与体として用いられるフタロシアニン化合物の具体例としては、29H,31H−フタロシアニン、銅フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、スズフタロシアニン、チタンフタロシアニンオキシド、銅,4,4’,4’’,4’’’−テトラアザ−29H,31H−フタロシアニンなどが挙げられる。
【0093】
電子供与体として、ポルフィリン化合物及びフタロシアニン化合物以外にも、共役系高分子化合物を用いることができる。共役系高分子化合物の具体例としては、ポリチオフェン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリフルオレンを基本骨格とするものが挙げられる。以下に電子供与体として用いられうる共役系高分子化合物の具体的な例を示す。
【0094】
【化3−4】

(上式において、nは20〜5000の整数である。)
【0095】
2種以上の化合物が、活性層4における電子供与体として用いられてもよい。
【0096】
<2.4.2 電子受容体>
活性層4に用いられる電子受容体としては、電子受容体として機能する化合物であれば特に限定されない。活性層4に用いられる電子受容体は、光吸収に際して電子供与体から効率よく電子を受け取ることができることが好ましい。また、活性層4に用いられる電子受容体は、電子を陰極6へと効率よく輸送できることが好ましい。このためには、電子受容体と電子供与体の最低空軌道(LUMO)エネルギー準位の相対関係が重要である。すなわち、電子供与体のLUMOエネルギー準位が電子受容体のLUMOエネルギー準位より約0.3eV以上高いことが好ましい。また、電子受容体の電子親和力が電子供与体の電子親和力よりも0.3eV以上高いことが好ましい。
【0097】
また、電子受容体材料においては電子の移動度が高いことが好ましい。具体的には、10−4[cm/Vs]以上の電子移動度を有する材料を電子受容体として用いることが好ましい。
【0098】
活性層4に用いられる電子受容体の好ましい例としては、フラーレン及びフラーレン誘導体が挙げられる。本明細書において「フラーレン」とは、炭素原子が球状又はラグビーボール状に配置して形成される炭素クラスターの総称である(現代化学2000年6月号46頁、Chemical Reviews 98, 2527(1998)参照)。例えば、フラーレンC60(いわゆるバックミンスター・フラーレン)、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC82、フラーレンC84、フラーレンC90、フラーレンC94、フラーレンC96、などが挙げられる。
【0099】
電子受容体として用いられうる化合物の具体的な例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0100】
【化4−1】

【0101】
2種以上の化合物が、活性層4における電子受容体として用いられてもよい。
【0102】
<2.4.3 活性層の形成方法>
活性層4を形成する方法は特に限定されない。活性層に含まれる電子受容体及び電子供与体などの性質に応じて、適した形成方法を用いることが好ましい。例えば、蒸着法及び塗布法などによって活性層4を形成することができる。具体的な例としては、活性層に含まれる材料が昇華性を有する場合、真空蒸着法を用いることができる。また、活性層に含まれる材料が何らかの溶媒に可溶な場合には、スピンコート、キャスト法、ブレードコート、インクジェット、及びグラビア印刷などの塗布法を用いることができる。例えば、電子供与体として高分子化合物を用いる場合、湿式塗布法を用いうる。活性層4内の結晶性又は形状を制御する場合、湿式塗布法で形成することが好ましい。
【0103】
例えば、第2の実施形態に係る活性層4(ヘテロ接合型)を作製する場合、電子供与体を含む層である活性層(p−層)4aと電子受容体を含む層である活性層(n−層)4bとの一方を成膜し、さらに他方をこの上に成膜すればよい。
【0104】
また、第1の実施形態に係る活性層4(バルクへテロ接合型)を作製する場合、電子供与体と電子受容体とを含む活性層(i−層)4cを作製すればよい。このような活性層(i−層)4cは、例えば電子供与体と電子受容体を共蒸着することにより形成してもよいし、電子供与体と電子受容体を含有する混合溶液を塗布することにより作製してもよい。
【0105】
さらに、第3の実施形態に係る活性層4を作製する場合、例えば、電子供与体を含む層である活性層(p−層)4aと、電子供与体と電子受容体とを含む活性層(i−層)4cと、電子受容体を含む層である活性層(n−層)4bとを順に積層すればよい。ここで、活性層(p−層)4aを先に成膜してもよいし、活性層(n−層)4bを先に成膜してもよい。活性層(i−層)4cは、第1の実施形態と同様に作製することができる。
【0106】
このように形成される活性層4の平均膜厚は、光が吸収される領域を大きくすることにより光電変換効率を向上させる観点から、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。また、コストなどの観点から、2000nm以下であることが好ましく、1000nm以下であることがさらに好ましい。
【0107】
ところで、電子供与体として溶媒に対する溶解度が低い化合物を用いる場合、電子供与体を含む溶液を塗布することにより電子供与体を含む層を形成することは容易ではない場合がある。このような場合、電子供与体の前駆体となる化合物を含む層を形成し、その後前駆体を電子供与体へと変換することにより、電子供与体を含む層を形成することができる。例えば変換には、熱転換反応、光転換反応、などを用いることができる。前駆体化合物が溶媒に対する溶解度が高い場合、すなわち溶解性前駆体である(例えば、クロロベンゼンとクロロホルムとの重量比2:1の混合溶媒に0.1重量%以上溶解する)場合、前駆体化合物を含む層は塗布法により形成することができる。
【0108】
例えば、電子供与体として前述のベンゾポルフィリン化合物(A2)又は(A3)を用いる場合、下記一般式(A4)又は(A5)で表されるビシクロベンゾポルフィリン化合物をベンゾポルフィリン化合物の前駆体として用いることができる。
【0109】
【化4−2】

【0110】
【化4−3】

【0111】
上記式(A4)及び(A5)において、Z1a、Z1b、Z2a、Z2b、Z3a、Z3b、Z4a、Z4b、R21〜R24、及びMは、それぞれ式(A2)及び(A3)と同様の基を意味する。式(A4)及び(A5)において、Y〜Yは、それぞれ独立して、1価の原子又は原子団を表す。また式(A4)及び(A5)において、Y〜Yはそれぞれ4個ずつ存在するが、Y同士、Y同士、Y同士及びY同士はそれぞれ同じでも、互いに異なっていてもよい。
【0112】
式(V)及び(VI)におけるY〜Yの例を挙げると、原子としては水素原子、ハロゲン原子などが挙げられ、原子団としては水酸基、1価の有機基などが挙げられる。Y〜Yが表しうる1価の有機基としては、例えば、置換基を有していてもよいC〜C30脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいC〜C30アルコキシ基、置換基を有していてもよいC〜C30アリールオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいシリル基、置換基を有していてもよいC〜C30アルキルチオ基、置換基を有していてもよいC〜C18アリールチオ基、置換基を有していてもよいC〜C30アルキルスルホニル基、置換基を有していてもよいC〜C18アリールスルホニル基、シアノ基、アシル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいジアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいジアラルキルアミノ基、置換基を有していてもよいα−ハロアルキル基、置換基を有していてもよい芳香族環基、が挙げられる。
【0113】
すなわち、比較的溶媒に対する溶解度が高いことが多いビシクロベンゾポルフィリン化合物を塗布することにより、ビシクロベンゾポルフィリン化合物を含有する層を作製する。このビシクロベンゾポルフィリン化合物は平面構造でないため、溶媒への溶解性が比較的高くかつ結晶化もしにくい。このため、ビシクロベンゾポルフィリン化合物を含む溶液を塗布することにより、アモルファス又はアモルファスに近い良好な層を得ることができる。この層を加熱処理して脱エチレン反応を起こすことにより、平面性の高いベンゾポルフィリン化合物を含む層を得ることができる。
【0114】
例えばベンゾポルフィリン化合物(BP−1)は、下式に示すように、対応するビシクロベンゾポルフィリン化合物(CP−1)を変換することにより得られる。
【0115】
【化4−4】

【0116】
上記の反応は100℃以上、好ましくは150℃以上に加熱することにより定量的に進行する。また、ビシクロベンゾポルフィリン化合物から脱離する化合物がエチレン分子であるため、系内に残りにくく、かつ毒性及び安全性の面でも特に問題はない。このため、上記のような反応を用いてベンゾポルフィリン化合物を含む層を得ることが好ましい。
【0117】
電子供与体を含む層である活性層(p−層)4aを作製する際には、電子供与体の前駆体を含む溶液を塗布することにより電子供与体の前駆体を含む層を作製した後に、電子供与体の前駆体を電子供与体へと変換すればよい。また、電子供与体と電子受容体とを含む活性層(i−層)4cを作製する際には、電子供与体の前駆体と電子受容体とを含む溶液を塗布することにより、電子供与体の前駆体と電子受容体とを含む層を作製した後に、電子供与体の前駆体を電子供与体へと変換すればよい。同様に、電子受容体の前駆体からの変換反応によって電子受容体を得てもよい。
【0118】
<2.5 陰極バッファ層(5)>
陰極バッファ層5に用いられる材料としては、活性層4で生成された電子を陰極6へ輸送できる材料であれば特に限定されない。このような陰極バッファ層5を有することにより、陰極バッファ層5に隣接する層から、陰極バッファ層5に隣接する他の層へと、電子がスムーズに輸送されうる。例えば陰極バッファ層5は、活性層4で生成した電子を、再結合などによる失活を抑制しながら、効率的に陰極6へと輸送しうる。このため、各実施形態に係る光電変換素子の光電変換特性が向上しうる。陰極バッファ層5に用いられる材料は、電子移動度が高くかつ導電率が高いことが好ましい。さらには、陰極バッファ層5に用いられる材料は、陰極6との間の電子注入障壁が小さいことが好ましい。
【0119】
陰極バッファ層5の材料としては、例えば、上述のトルクセン化合物を用いることができる。また、陰極バッファ層5の材料として、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウムなどのアルカリ金属の塩、並びに、酸化チタン(TiOx)や酸化亜鉛(ZnO)のような金属酸化物を用いることもできる。
【0120】
活性層4に対して受光面側に陰極バッファ層5が位置する場合、陰極バッファ層5は透光性を有することが好ましい。この場合、陰極バッファ層5の太陽光の透過率は60%以上であることが好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。より多くの太陽光が透過するほど、活性層4により多くの光が到達するため、光電変換効率が向上することが期待される。
【0121】
陰極バッファ層5の形成方法は任意であり、例えばスピンコートやインクジェットなどの湿式塗布法、及び真空蒸着法などが挙げられる。陰極バッファ層5の厚みは1nm以上が好ましく、2nm以上がさらに好ましい。また、陰極バッファ層5の厚みは100nm以下が好ましく、50nm以下がさらに好ましい。陰極バッファ層5の膜厚が1nm以下の場合、活性層を完全に被覆することが困難となるため開放電圧(Voc)が低下しやすくなる。他方、陰極バッファ層の膜厚が100nm以上の場合、陰極バッファ層5の自体の直列抵抗が無視できなくなり、フィルファクタ(FF)が低下しやすくなる。
【0122】
<2.6 陰極(6)>
陰極6に用いられる材料は、活性層で電荷分離した電子を受け取ることができる材料であれば特に限定されない。例えば、任意の導電性物質を陰極6として用いることができる。陰極6に用いられる材料の好ましい例としては、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀などの金属又はそれらの合金、酸化ニッケル,酸化アルミニウム、酸化リチウム及び酸化セシウムのような金属酸化物、などが挙げられる。これらの材料を用いることにより、陰極6は活性層4で発生した電子を効率的に受け取ることができるので好ましい。陰極6の色は特に限定されず、有色であっても無色であってもよい。
【0123】
活性層4に対して受光面側に陰極6が位置する場合、陰極6は透光性を有することが好ましい。この場合、陰極6の太陽光の透過率は60%以上であることが好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。より多くの太陽光が透過するほど、活性層4により多くの光が到達するため、光電変換効率が向上することが期待される。透光性を有する陰極6の材料としては、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、酸化亜鉛、及び酸化スズなどが好ましい。なお、陰極6として、メッシュ状の金属による電極を用いてもよい。
【0124】
陰極6は、例えばスパッタリング法及び真空蒸着法などによって形成できる。陰極6の厚みは特に限定されない。しかしながら、強度を高める観点からは、陰極6の厚みは10nm以上が好ましく、50nm以上がさらに好ましい。また、電気抵抗を小さくしてフィルファクタを高くする観点からは、陰極6の厚みは1000nm以下が好ましく、300nm以下がさらに好ましい。
【0125】
[3. 光電変換素子の製造方法]
上述の各実施形態に係る光電変換素子は例えば、基板1上に陽極2を設ける工程、陽極2上に陽極バッファ層3を設ける工程、陽極バッファ層3上に活性層4を設ける工程、活性層4上に陰極バッファ層5を設ける工程、及び陰極バッファ層5上に陰極6を設ける工程を含む方法によって製造できる。
【0126】
上述の各実施形態に係る光電変換素子を作製する際には、アニール処理を行うことが好ましい。具体的には、陽極バッファ層3又は陰極バッファ層5と、バッファ層に接する陽極1、陰極6、又は活性層4とを積層した後に、加熱処理を行えばよい。特に、基板1、陽極2、陽極バッファ層3、活性層4、陰極バッファ層5、及び陰極6を含む積層構造を作製した後に、アニール処理を行うことがさらに好ましい。
【0127】
陰極バッファ層5が上述のトルクセン化合物を含む場合、陰極バッファ層5と、陰極6又は活性層4とを積層した後に、アニール処理を行うことにより、上述のトルクセン化合物を含む陰極バッファ層5と、陰極6又は活性層4との間の接触が密になりうる。このため、陰極バッファ層5と、陰極6又は活性層4との間での電子の移動が容易となり、光電変換効率が向上することが期待される。陽極バッファ層3が上述のトルクセン化合物を含む場合も同様である。
【0128】
また、光電変換素子を作製する際にアニール処理を行うことにより、以下のようなさらなる効果が生じうる。すなわち、得られる光電変換素子の熱安定性が向上しうる。また、活性層が構造緩和しうる。さらには、活性層の結晶化が促進されうる。
【0129】
アニール処理における加熱温度は、50℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがさらに好ましい。一方で、250℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。アニール処理における加熱時間は、1分以上であることが好ましく、3分以上であることがさらに好ましい。一方、3時間以下であることが好ましくは、1時間以下であることがさらに好ましい。加熱温度が高すぎ又は加熱時間が長すぎると、光電変換素子を構成する材料が熱により変性してしまうことにより、光電変換効率が低下する可能性がある。また、加熱温度が低すぎ又は加熱時間が短すぎると、層間の密着性の向上を含む上述のアニール処理の効果が十分に得られない可能性がある。
【0130】
アニール処理による材料の変性を防ぐ観点から、陽極バッファ層3又は陰極バッファ層5の材料、例えば各実施形態において用いられる上述のトルクセン化合物は、耐熱性の指標であるガラス転移温度(Tg)が80℃以上であることが好ましい。また、陽極バッファ層3又は陰極バッファ層5の材料、例えば各実施形態において用いられる上述のトルクセン化合物のガラス転移温度(Tg)よりも低い温度でアニール処理を行うこともまた好ましい。
【0131】
[4. 光電変換素子の用途]
上述の各実施形態に係る光電変換素子は、太陽電池、光スイッチング装置、光センサなどの各種の光電変換装置に用いることができる。上述の各実施形態に係る光電変換素子は高い変換効率を有しうるため、上述の各実施形態に係る光電変換素子を用いた太陽電池は高い変換効率を有しうる。また、上述の各実施形態に係る光電変換素子を用いた光センサは高い感度を有しうる。太陽電池は例えば、上述の各実施形態に係る光電変換素子を板、シート、又はフィルムなどの間に封止することにより、作製することができる。この太陽電池は、有機薄膜太陽電池であることが好ましい。
【実施例】
【0132】
次に、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0133】
[合成例1:トルクセン化合物T−1の合成]
【化5−1】

トルクセン化合物T−1は、以下のようにして合成した。
【0134】
<トルクセン(化合物E−2)の合成>
【化5−2】

【0135】
無水酢酸(265mL)、濃塩酸(138mL)、及び1−インダノン(化合物E−1,東京化成試薬,50.8g,384mmol)の混合溶液を、100℃で22.5時間加熱攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、生じた懸濁液をろ過することで固体を分取した。この固体を水、アセトン、およびジクロロメタンで洗浄することで、トルクセン(化合物E−2、34.5g)を白色固体として収率80%で得た。
【0136】
化合物E−2:
HNMR (500 MHz, CDCl) δ4.29 (s, 6H), 7.40 (t, J = 7.45 Hz, 3H), 7.51 (t, J = 7.45 Hz, 3H), 7.71 (d, J = 7.4Hz, 3H), 7.96(d, J = 7.4Hz, 3H).
【0137】
<化合物E−3の合成>
【化5−3】

【0138】
トルクセン(化合物E−2,5.00g,14.6mmol)、ジメチルスルホキシド(60mL)、およびt−ブトキシカリウム(10.11g,90.5mmol)を反応容器に入れ、0℃まで冷却した。ヨードメタン(12.50g,88.1mmol)を滴下した後、この反応混合物を室温まで昇温した。その後、上式に示されるように、t−ブトキシカリウムを加え、0℃まで冷却し、ヨードメタンを加え、室温まで昇温する操作を、反応の完結が確認されるまで繰り返した。最終的には、21時間攪拌を行った。水を加えて反応を停止した後、さらに酢酸エチルを加え、分液操作を行うことで有機層を分取した。この有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、減圧下で有機溶媒を除いた。得られた混合物を1,1,2,2−テトラクロロエタン/メタノールより再結晶することで、化合物E−3(5.48g)を収率88%で得た。
【0139】
化合物E−3:
HNMR (500 MHz, CDCl) δ1.89 (s, 18H), 7.38−7.44 (m, 6H), 7.55 (d, J = 6.85 Hz,3H), 8.31 (d, J = 7.45 Hz, 3H), 7.96 (d, J = 7.4 Hz, 3H).
13CNMR (125 MHz, CDCl) δ24.0 (6C), 46.8 (3C), 122.5 (3C), 125.6 (3C), 126.2 (3C), 126.8 (3C), 135.7 (3C), 136.7 (3C), 148.3 (3C), 157.5 (3C).
【0140】
<化合物E−4の合成>
【化5−4】

【0141】
化合物E−3(5.48g,12.8mmol)及びジクロロメタン(270mL)を反応容器に入れ、この溶液に臭素(7.17g,44.9mmol)を加えた。この反応溶液を室温で7.5時間かくはんした後、飽和チオ炭酸ナトリウム水溶液を加えることで反応を停止した。有機層をジクロロメタンで抽出した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。無機塩をろ別した後、有機溶媒を減圧除去した。得られた混合物を1,1,2,2−テトラクロロエタン/メタノールより再結晶することで、化合物E−4(7.79g)を収率92%で得た。
【0142】
化合物E−4:
HNMR (500 MHz, CDCl) δ1.83 (s, 18H), 7.54 (dd, J = 1,7, 8.6 Hz, 3H), 7.65 (d, J = 1.7 Hz, 3H), 8.10 (d, J = 8.6 Hz, 3H).
13CNMR (125 MHz, CDCl) δ23.8 (6C), 47.1 (3C), 121.2 (3C), 126.0 (3C), 126.9 (3C), 129.6 (3C), 135.0 (3C), 135.3 (3C), 148.2 (3C), 159.4 (3C).
質量分析(イオン化法:APCI+) C3327Br: 664.28 (M+1), found 664.05.
【0143】
<トルクセン化合物T−1の合成>
【化5−5】

【0144】
化合物E−4(30.3mg,0.045mmol)、化合物E−5(0.334mL,0.167mmol)、テトラヒドロフラン(1.68mL)、及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0価)(7.8mg,0.00675mmol)を反応溶液に入れ、90℃に昇温し、17時間攪拌した。室温へ放冷後、水を加えた。生成物をクロロホルムで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、減圧濃縮し、乾燥させることにより、粗生成物を得た。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製することにより、トルクセン化合物T−1を収率88%で得た。同定は、HNMR、13CNMR、質量分析、及び元素分析により行った。
【0145】
トルクセン化合物T−1:
融点: 362 ℃.
HNMR (500 MHz, CDCl) δ8.78 (d, J = 4 Hz, 3H), 8.43 (d, J = 8.55 Hz, 3H), 8.25 (d, J = 1.7 Hz, 3H), 8.06 (d, J = 1.7, 8 Hz, 3H), 7.88 (d, J = 8 Hz, 3H), 7.82 (dt, J = 2.3, 8.05 Hz, 3H), 7.29−7.26 (m, 3H), 2.01 (s, 18H).
13CNMR (125 MHz, CDCl) δ158.1, 157.4, 149.8, 149.3, 137.9, 137.5, 136.8, 135.4, 125.9, 125.2, 122.0, 120.9, 120.6, 47.1, 24.1.
質量分析(イオン化法:APCI+): 658.31(M+1), found 658.38.
元素分析: 計算値(C4839): C, 87.64; H, 5.98; N, 6.39. 実測値: C, 87.55; H, 6.17; N, 6.29.
【0146】
[合成例2:トルクセン化合物T−2の合成]
【化5−6】

トルクセン化合物T−2は、以下のようにして合成した。
【0147】
【化5−7】

【0148】
化合物E−4(591mg,891μmol)、3−ピリジンボロン酸(657mg,5.34mmol)、テトラヒドロフラン(12.0mL)、2M炭酸ナトリウム水溶液(9.0mL)、及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0価)(51.5mg,44.6μmol)を反応容器に入れ、100℃で6.5時間加熱攪拌した。この反応溶液を室温まで冷却した後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えた。有機層をジクロロメタンで抽出した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過することで無機塩を除去した。有機溶媒を減圧除去した後、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーおよび1,1,2,2−テトラクロロエタン/メタノールによる再結晶で精製することで、トルクセン化合物T−2(568mg)を白色固体(融点359−360℃)として収率97%で得た。
【0149】
トルクセン化合物T−2:
HNMR (500 MHz, CDCl) δ9.01 (d, J = 1.75 Hz, 3H), 8.65 (d, J = 4 Hz, 3H), 8.43 (d, J = 8 Hz, 3H), 8.04 (td, J = 1.7, 8 Hz, 3H), 7.78 (d, J = 1.75 Hz, 3H), 7.70 (dd, J = 1.7, 8 Hz, 3H), 7.44 (dd, J = 4.6, 8 Hz, 3H), 1.99 (s, 18H).
13CNMR (125 MHz, CDCl) δ24.1 (6C), 47.1 (3C), 121.1 (3C), 123 (3C), 125.5 (3C), 126.2 (3C), 134.3 (3C), 135.3 (3C), 136.4 (3C), 136.61 (3C), 136.63 (3C), 148.4 (3C), 148.5 (3C), 149.0 (3C), 158.4 (3C).
質量分析(イオン化法:APCI+) C4839: 658.31 (M+1), found 658.38.
元素分析: 計算値(C4839): C, 87.64; H, 5.98; N, 6.39. 実測値: C, 87.37; H, 6.20; N, 6.18.
【0150】
[合成例3:トルクセン化合物T−29の合成]
【化5−8】

トルクセン化合物T−29は、以下のようにして合成した。
【0151】
<化合物E−6の合成>
【化5−9】

【0152】
トルクセン(化合物E−2,1.03g,3.00mmol)のテトラヒドロフラン(30mL)懸濁液に、n−ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液,6.3mL,10.0mmol)を0℃で加えた。その後、反応溶液を室温まで昇温し30分間攪拌した。再び0℃まで冷却した後、臭化エチル(1.4mL,18.0mmol)をゆっくり滴下し、室温まで昇温させさらに4時間攪拌した。その後、再びn−ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液,6.3mL,10.0mmol)及び臭化エチル(1.4mL,18.0mmol)を同様に加え、さらに12時間攪拌した。この反応溶液に水を加えることで反応を停止し、有機層をジクロロメタンで抽出した。有機溶媒を減圧除去した後に、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで、化合物E−6を収率64%で白色固体として得た。
【0153】
化合物E−6:
HNMR (500 MHz, CDCl) δ8.14 (d, J = 7.4 Hz, 3H), 7.25 (d, J = 6.85 Hz, 3H), 7.21−7.15 (m, 6H), 2.85−2.78 (m, 6H), 1.98−1.91 (m, 6H), 0.01(t, J = 6.85 Hz, 18H).
【0154】
<化合物E−7の合成>
【化5−10】

【0155】
化合物E−6(510mg,1.00mmol)及びジクロロメタン(20mL)を反応容器に入れ、この溶液に臭素(0.25mL,4.88mmol)を加えた。この反応溶液を室温で12時間攪拌した後、飽和チオ炭酸ナトリウム水溶液を加えることで反応を停止した。有機層をジクロロメタンで抽出した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。無機塩をろ別した後、有機溶媒を減圧除去した。得られた混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで、化合物E−7(310mg)を収率67%で得た。
【0156】
化合物E−7:
HNMR (500 MHz, CDCl) δ8.16 (d, J = 8.0 Hz, 3H), 7.57 (d, J = 2.3 Hz, 3H), 7.51 (dd, J = 8.6, 1.7 Hz, 3H), 2.94−2.87 (m, 6H), 2.13−2.06 (m, 6H), 0.20 (t, J = 7.5Hz, 18H).
【0157】
<トルクセン化合物T−29の合成>
【化5−11】

【0158】
化合物E−7(374mg,0.50mmol)及び3−ピリジンボロン酸(369mg,3.00mmol)をテトラヒドロフラン(6mL)に溶解させ、アルゴンガスを通気させることによりこの溶液を脱気した。この溶液に、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0価)(10mg,8.65μmol)及び2M炭酸ナトリウム水溶液(4mL)を加えた後、20時間加熱還流した。室温まで冷却した後、この反応溶液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加えることで反応を停止し、酢酸エチルで有機層を抽出した。この有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下で溶媒を留去した。得られた粗成生物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することで、トルクセン化合物T−29を収率86%(320mg)で白色固体として得た。
【0159】
トルクセン化合物T−29:
HNMR (500 MHz, CDCl) δ8.71 (s, 3H), 8.33−8.32 (m, 3H), 8.18 (d, J = 8.6 Hz, 3H), 7.74−7.72 (m, 3H), 7.39−7.36 (m, 6H), 7.13−7.11 (m, 3H), 2.82−2.75 (m, 6H), 2.00−2.19 (m, 6H), 0.02 (t, J = 6.8 Hz, 18H).
13CNMR (126 MHz, CDCl) δ153.8, 148.4, 148.3, 144.7, 140.5, 138.4, 136.6, 136.1, 134.2, 125.4, 125.1, 123.6, 120.7, 57.0, 29.6, 8.6.
【0160】
[合成例4:フラーレン化合物SIMEF2の合成]
【化5−12】

フラーレン化合物SIMEF2の合成は、以下のように行った。
【0161】
<化合物E−9の合成>
【化5−13】

【0162】
500mL三口ナスフラスコに、窒素雰囲気下、臭化2−メトキシフェニルマグネシウム(化合物E−8)の1.0Mテトラヒドロフラン溶液(100mL,0.1mol)を入れて室温で攪拌した。ここに、クロロメチルジメチルクロロシラン(11.25mL,0.085mol)をゆっくり滴下した。反応溶液を室温で1時間攪拌後、40℃でさらに3時間攪拌した。その後反応溶液を室温に戻し、ゆっくりと水を加えた。反応生成物を酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムを用いて乾燥させ、ろ過し、溶液を減圧下で濃縮した。得られた液体を減圧蒸留することにより、化合物E−9(クロロメチル(2−メトキシフェニル)ジメチルシラン、(o−An)MeSiCHCl)を無色液体として収率52%(11.2g,0.0522mol)で得た。
【0163】
<化合物E−11の合成>
【化5−14】

【0164】
窒素雰囲気下、N,N−ジメチルホルムアミド(6.45mL,83.3mmol)、フラーレンC60(化合物E−10,2.00g,2.78mmol)、及び1,2−ジクロロベンゼン(500mL)を混合し、脱気した後、窒素で復圧した。ここに、(クロロメチル)ジメチルフェニルシランから調整したグリニャール試薬(PhMeSiCHMgCl)のテトラヒドロフラン溶液(0.850M,9.80mL,8.33mmol)を25℃で加えた。溶液を10分間攪拌した後、脱気した飽和塩化アンモニウム水溶液(1.0mL)を加えて攪拌した。得られた溶液を濃縮した後、トルエン(200mL)に溶解させ、シリカゲルろ過カラムを通した後、濃縮した。濃縮後の溶液にメタノール(約100〜200mL)を加え、再沈させることにより茶色の固体を得た。得られた固体をHPLC(Buckyprep column,溶媒:トルエン/2−プロパノール=7/3)で分取することにより、化合物E−11(1−(ジメチルフェニルシリルメチル)−1,9−ジヒドロ(C60−I)[5,6]フラーレン(C60(CHSiMePh)H))(1.99g,2.28mmol,単離収率82%,analytically pure)を得た。
【0165】
<SIMEF2の合成>
【化5−15】

【0166】
窒素雰囲気下、化合物E−11(1.02g,1.17mmol)のベンゾニトリル溶液を脱気した後、t−ブトキシカリウム(1.0M,1.41mL,1.41mmol)のテトラヒドロフラン溶液を25℃で加えた。10分間攪拌した後、化合物E−9(5.03g,23.4mmol)とヨウ化カリウムとを加え、110℃で17時間攪拌した。得られた溶液に飽和塩化アンモニウム水溶液(1.0mL)を加え、溶液を濃縮した。得られた粗生成物にトルエン(100mL)を加え、ろ過及び濃縮した後、メタノール(約50−100mL)を加えて、再沈を行った。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:二硫化炭素/ヘキサン=1/1)で精製し、続いてHPLC分取(Buckyprep column,溶媒:トルエン/2−プロパノール)を行うことにより、目的物SIMEF2(C60(CHSiMePh)[CHSiMe(o−An)])(0.810g,0.772mmol,単離収率66%)を得た。
【0167】
[実施例1]
図3に示される、上述の第3の実施形態に係る光電変換素子を、以下の方法で作製した。まず、ガラス基板(基板1)の上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を145nm堆積した(シート抵抗8.4Ω)。そして、透明導電膜を通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングすることにより、陽極2を形成した。このようにITO透明導電膜の陽極2が形成されたガラス基板を、界面活性剤を用いた超音波洗浄、超純水を用いた水洗、超純水を用いた超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローによって乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0168】
次に陽極2上に、導電性高分子であるPEDOT:PSS(スタルクヴイテック社製、品名CLEVIOUSTM AI 4083)をスピンコートした。その後、大気中120℃で10分間加熱乾燥し、さらに窒素中180℃で3分間加熱処理することにより、PEDOT:PSSを含有する陽極バッファ層3を形成した。陽極バッファ層3の膜厚は30nmであった。
【0169】
次に陽極バッファ層3上に、活性層(p−層)4aを形成した。具体的には、以下の手順で活性層4aを形成した。すなわち、テトラベンゾポルフィリン化合物の前駆体である化合物CP−1を、クロロベンゼンとクロロホルムの混合溶媒(重量比で2:1)に0.5重量%で溶かした溶液を調製し、この溶液を陽極バッファ層3上にスピンコートによって塗布した。塗布後、ホットプレート上、180℃で20分間加熱処理を行った。この加熱処理により褐色の前駆体膜は緑色のテトラベンゾポルフィリン(化合物BP−1)の膜へと変換される。こうして、テトラベンゾポルフィリン(化合物BP−1)を含有する結晶性の活性層(p−層)4aを形成した。活性層4aの平均膜厚は25nmであった。化合物CP−1は、特開2003−304014号公報に記載の方法に従って合成した。
【0170】
【化6−1】

【0171】
次に活性層4a上に、活性層(i−層)4bを形成した。具体的には、以下の手順で活性層4aを形成した。すなわち、0.6重量%のテトラベンゾポルフィリンの前駆体である化合物CP−1と、0.8重量%のフラーレン誘導体SIMEF2とを含む、クロロベンゼンとクロロホルム(重量比1:1)を溶媒とする溶液を調製した。そして、この溶液を活性層(p−層)4aの上にスピンコートによって塗布した。塗布後、180℃で20分間加熱処理を行なうことにより、テトラベンゾポルフィリン(化合物BP−1)及びフラーレン誘導体SIMEF2を含有する活性層(i−層)4cを形成した。加熱処理によって、前駆体化合物CP−1はテトラベンゾポルフィリン(化合物BP−1)へと変換される。
【0172】
【化6−2】

【0173】
さらに、活性層4cの上にフラーレン誘導体(SIMEF2)のトルエン溶液(0.7重量%)をスピンコートによって塗布した。塗布後、120℃で10分間乾燥処理を行うことにより、フラーレン誘導体(SIMEF2)を含有する活性層(n−層)4bを形成した。
【0174】
以上のようにして陽極バッファ層3上に、活性層(p−層)4a、活性層(i−層)4c、及び活性層(n−層)4bからなる活性層4を形成した。
【0175】
次に活性層4上に、陰極バッファ層5を形成した。具体的には、以下の手順で陰極バッファ層5を形成した。すなわち、活性層4が形成された基板1を真空蒸着装置内に設置した。また、真空蒸着装置内に配置されたメタルボートにトルクセン化合物T−1を入れた。油回転ポンプを用いて真空蒸着装置から粗排気を行った後、真空蒸着装置内の真空度が1.4xと10−4Paとなるまでクライオポンプを用いて排気した。その後、加熱してトルクセン化合物T−1を活性層4上に蒸着した。蒸着時の真空度は1.4x10−4Pa、蒸着速度は0.05nm/秒であった。こうして、活性層4上にトルクセン化合物T−1を含有する陰極バッファ層5を形成した。陰極バッファ層5の膜厚は5nmであった。
【0176】
【化6−3】

【0177】
次に陰極バッファ層5上に、陰極6を形成した。具体的には、以下の手順で陰極6を形成した。すなわち、陰極バッファ層5上に、2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように密着させた。このシャドーマスクは、陰極6を形成するためのマスクとして用いられる。そしてマスクが配置された基板1を、真空蒸着装置内に設置し、真空蒸着装置内の真空度が4.4x10−4Paとなるまで排気した。排気は、陰極バッファ層5を形成した際と同様に行った。そして、陰極バッファ層5上にアルミニウムを蒸着した。蒸着時の真空度は5.0x10−4Pa、蒸着速度は0.7nm/秒であった。こうして、アルミニウムを含有する陰極6を形成した。陰極6の膜厚は80nmであった。
【0178】
以上のようにして得られた基板1、陽極2、陽極バッファ層3、活性層4、陰極バッファ層5、及び陰極6を含む積層体に対し、グローブボックス中、80℃10分間加熱することによりアニール処理を行った。アニール処理後、陰極6側に配置された背面ガラス板と基板1とを光硬化樹脂を用いて貼り合わせることにより、積層体を封止した。以上のようにして、2mmx2mmのサイズの受光面積部分を有する光電変換素子を作製した。
【0179】
以上のように作製された光電変換素子に、ソーラシュミレーター(AM1.5G)の光を100mW/cmの照射強度で照射して、電圧−電流特性を測定した。その結果、開放電圧(Voc)は0.74V、短絡電流(Jsc)は8.2mA/cm、フィルファクター(FF)は0.64、エネルギー変換効率(ηp)は3.9%であった。
【0180】
[実施例2]
陰極バッファ層5の材料として、トルクセン化合物T−1の代わりにトルクセン化合物T−2を用いた他は、実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0181】
【化6−4】

【0182】
この光電変換素子に、ソーラシュミレーター(AM1.5G)の光を100mW/cmの照射強度で照射して、電圧−電流特性を測定した。その結果、開放電圧(Voc)は0.74V、短絡電流(Jsc)は8.5mA/cm、フィルファクター(FF)は0.66、エネルギー変換効率(ηp)は4.1%であった。
【0183】
[実施例3]
陰極バッファ5の材料として、トルクセン化合物T−1の代わりにトルクセン化合物T−29を用いた他は、実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0184】
【化6−5】

【0185】
この光電変換素子に、ソーラシュミレーター(AM1.5G)の光を100mW/cmの照射強度で照射して、電圧−電流特性を測定した。その結果、開放電圧(Voc)は0.78V、短絡電流(Jsc)は9.5mA/cm、フィルファクター(FF)は0.54、エネルギー変換効率(ηp)は4.0%であった。
【0186】
[比較例1]
陰極バッファ層5の材料として、トルクセン化合物T−1の代わりに下記化合物BCPを用いた他は、実施例1と同じようにして光電変換素子を作製した。
【化6−6】

【0187】
この光電変換素子に、ソーラシュミレーター(AM1.5G)の光を100mW/cmの照射強度で照射して、電圧−電流特性を測定した。その結果、開放電圧(Voc)は0.22V、短絡電流(Jsc)は7.8mA/cm、フィルファクター(FF)は0.33、エネルギー変換効率(ηp)は0.57%であった。
【0188】
[比較例2]
陰極バッファ層5を設けず、活性層(n−層)4bの上に直接陰極6を形成した他は、実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0189】
この光電変換素子に、ソーラシュミレーター(AM1.5G)の光を100mW/cmの照射強度で照射して、電圧−電流特性を測定した。その結果、開放電圧(Voc)は0.48V、短絡電流(Jsc)は8.5mA/cm、フィルファクター(FF)は0.40、エネルギー変換効率(ηp)は1.61%であった。
【0190】
以上のように、バッファ層材料としてトルクセン化合物を用いている実施例1〜3の光電変換素子は、バッファ層材料を用いない光電変換素子と比べて、開放電圧、短絡電流、フィルファクター及びエネルギー変換効率の点で優れていることがわかる。また、バッファ層材料としてトルクセン化合物を用いている実施例1〜3の光電変換素子は、従来よりバッファ材料として知られている化合物BCPをバッファ層材料として用いた光電変換素子と比べても、開放電圧、短絡電流、フィルファクター及びエネルギー変換効率の点で優れていることがわかる。実施例1〜3及び比較例1〜2においてはアニール処理を行っており、アニール処理によって化合物BCPを含むバッファ層が劣化したことが、比較例1において光電変換素子の特性が大きく低下した理由であるものと推測される。一方で実施例1〜3は良好な特性を示すことから、実施例1〜3で用いられているトルクセン化合物を含むバッファ層が良好な耐熱性を有することが推測される。
【符号の説明】
【0191】
1 基板
2 陽極
3 陽極バッファ層
4 活性層
4a 活性層(p−層)
4b 活性層(n−層)
4c 活性層(i−層)
5 陰極バッファ層
6 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、該電極間に配置された活性層と、少なくとも一方の前記電極と前記活性層との間に配置されたバッファ層と、を備える光電変換素子であって、
前記バッファ層はトルクセン骨格化合物を含有することを特徴とする、光電変換素子。
【請求項2】
前記トルクセン骨格化合物が下記式(A1)で表される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の光電変換素子。

(式(A1)中、R〜R18はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいC〜C30脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいC〜C30アルコキシ基、置換基を有していてもよい芳香族環基、置換基を有してもよいホスフィン基、置換基を有してもよいホスフィンオキシド基、又は置換基を有してもよいホスフィンスルフィド基を表す。)
【請求項3】
前記活性層が電子供与体として共役系高分子化合物を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記活性層が電子供与体として下記式(A2)又は(A3)で表される化合物を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の光電変換素子。


(式(A2)及び(A3)中、Z1a、Z1b、Z2a、Z2b、Z3a、Z3b、Z4a及びZ4bはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基又は1価の有機基を表し、Z1aとZ1bとの組、Z2aとZ2bとの組、Z3aとZ3bとの組、及びZ4aとZ4bとの組のうちの少なくとも1つは互いに結合して環を形成していてもよく、R21〜R24はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基又は1価の有機基を表し、Mは2価の金属原子又は3価以上の金属と他の原子とが結合した原子団を表す。)
【請求項5】
前記活性層に含有される前記式(A2)又は(A3)で表される化合物は、溶解性前駆体からの熱転換により得られることを特徴とする、請求項4に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記溶解性前駆体が下記式(A4)又は(A5)で表される化合物であることを特徴とする、請求項5に記載の光電変換素子。


(式(A4)及び(A5)中、Z1a、Z1b、Z2a、Z2b、Z3a、Z3b、Z4a及びZ4bはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基又は1価の有機基を表し、Z1aとZ1bとの組、Z2aとZ2bとの組、Z3aとZ3bとの組、及びZ4aとZ4bとの組のうちの少なくとも1つは互いに結合して環を形成していてもよく、R21〜R24はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、水酸基又は1価の有機基を表し、Mは2価の金属原子又は3価以上の金属と他の原子とが結合した原子団を表し、Y〜Yはそれぞれ独立に、1価の原子又は原子団を表す。)
【請求項7】
前記活性層が、電子受容体としてフラーレン又はフラーレン誘導体を含有することを特徴とする、請求項1乃至6の何れか1項に記載の光電変換素子。
【請求項8】
陽極と、陽極バッファ層と、前記活性層と、陰極バッファ層と、陰極と、が順に積層された構造を有し、前記陽極バッファ層と前記陰極バッファ層との少なくとも一方が前記トルクセン骨格化合物を含有することを特徴とする、請求項1乃至7の何れか1項に記載の光電変換素子。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の光電変換素子を備えることを特徴とする太陽電池。
【請求項10】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の光電変換素子の製造方法であって、前記バッファ層と、前記バッファ層に接する前記電極又は前記活性層と、を含む積層構造を作製する工程と、前記積層構造を50℃以上250℃以下の温度で加熱する工程と、を含むことを特徴とする、光電変換素子の製造方法。
【請求項11】
トルクセン骨格化合物を含有することを特徴とする光電変換素子材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−191017(P2012−191017A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53549(P2011−53549)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人科学技術振興機構、産学イノベーション加速事業[戦略的イノベーション創出推進]、「塗布型長寿命有機太陽電池の創出と実用化に向けた基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】