説明

光電変換素子

【課題】有機半導体を含む光電変換層を有する光電変換素子の光吸収率を向上させる。
【解決手段】光電変換素子10は、第1の電極20と第2の電極22との間に、金属ナノ粒子30、隔離層40および光電変換層50が狭持された構造を有する。隔離層40は正孔輸送層である。光電変換層50はバルクヘテロ接合層である。金属ナノ粒子30は、第1の電極20と隔離層40との間に2次元配列されており、隔離層40によって光電変換層50から2nm〜15nmだけ隔てられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換により光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜太陽電池は、柔軟性に富むとともに、大面積化、軽量化および簡易で安価な製造法が期待できるため有望な次世代太陽電池と考えられている。現在、有機薄膜太陽電池の実用化に向けて、変換効率の大幅な向上が重要課題となっている。
【0003】
一般に、太陽電池の光電変換層における入射光の侵入深さDは、光電変換層の吸収係数αに対してD=1/αで定義される。光電変換層の厚さがDよりも厚い場合には、入射光の大半が光電変換層で吸収され、十分な光電流を得ることができる。一方、光電変換層の厚さがDよりも薄い場合には、光吸収量の低下により十分な光電流が得られない。
【0004】
有機薄膜太陽電池では、有機半導体で生成する励起子の拡散長が短いため、光電変換層を厚膜化し入射光の吸収率を向上させても、厚い膜中を励起子が拡散していく過程で失活し、効率よく電荷として取り出すことが難しい。このため、光電層の厚さはDよりも薄くせざるを得ないため、十分な光吸収量を得ることが困難になる。
【0005】
従来の薄膜太陽電池において光の吸収率を向上させるための技術として、光電変換層に光の波長レベルのサイズを有するテクスチャ構造を形成し、光電変換層内部で光を閉じ込めることが知られている。有機薄膜太陽電池では、光電変換層の膜厚が光の波長よりも薄いため、光電変換層にテクスチャ構造を形成する技術は効果的ではない。
【0006】
近年、金属ナノ粒子の局在表面プラズモン励起に伴う電場増強効果に着目し、有機薄膜太陽電池の光電変換層の光吸収率を向上させる研究が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2008−510305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
金属ナノ粒子には光吸収率を向上させる可能性が大いにある。その一方で、金属ナノ粒子による光吸収過程では、金属ナノ粒子によって吸収された光エネルギーが熱エネルギーとして失活する過程も存在する。このため、光電変換層での光吸収率の低下を招く可能性がある。また、金属ナノ粒子は光電変換層内のフリーキャリアである電子と正孔の再結合中心として作用する可能性があり、その場合には電荷としての取り出し効率の低下を招く。
【0009】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、有機半導体を含む光電変換層を有する光電変換素子の光吸収率を向上させることのできる技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある態様は、光電変換素子である。当該光電変換素子は、有機半導体を含む光電変換層と、金属ナノ粒子と、金属ナノ粒子と光電変換層との間に介在する隔離層と、光電変換層の受光面側において光電変換層と電気的に接続されている第1の電極と、光電変換層の受光面とは反対側において光電変換層と電気的に接続されている第2の電極と、を備え、金属ナノ粒子が隔離層によって光電変換層から2nm〜15nmだけ隔てられていることを特徴とする。
【0011】
上記態様の光電変換素子によれば、金属ナノ粒子による電場増強効果が顕著に発揮されるため、太陽光エネルギーの利用効率をさらに高めることができる。
【0012】
上記態様の光電変換素子において、隔離層は光電変換層の受光面上に設けられ、金属ナノ粒子は、光電変換層側とは反対側の隔離層の面に設けられていてもよい。隔離層が電荷輸送層であってもよい。金属ナノ粒子は光電変換層の中に埋め込まれており、隔離層が金属ナノ粒子の周囲を被覆していてもよい。金属ナノ粒子の平均粒子径が40nm以下であってもよい。金属ナノ粒子の総体積が光電変換層の体積を基準として0.5〜5vol%であってもよい。光電変換層の光吸収ピーク波長λ1が金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴波長λ2より大きくてもよい。また、光電変換層はバルクヘテロ接合層であってもよい。
【0013】
なお、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、有機半導体を含む光電変換層を有する光電変換素子の光吸収率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態1に係る光電変換素子の構成を示す概略断面図である。
【図2】実施の形態1に係る光電変換素子の製造方法を示す工程断面図である。
【図3】実施の形態1に係る光電変換素子の製造方法を示す工程断面図である。
【図4】実施の形態2に係る光電変換素子の構成を示す概略断面図である。
【図5】実施例1の光電変換素子について、比較例1の光電変換素子の量子収率を1としたときの各波長の量子収率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る光電変換素子10の構成を示す概略断面図である。本実施の形態の光電変換素子10は有機半導体を含む光電変換層を有する有機薄膜太陽電池である。
【0018】
光電変換素子10は、第1の電極20と第2の電極22との間に、金属ナノ粒子30、隔離層40および光電変換層50が狭持された構造を有する。
【0019】
本実施の形態では、第1の電極20は正極であり、後述する光電変換層50と電気的に接続されている。第1の電極20は、光電変換層50の受光面側に位置しており、ITO(Indium Tin Oxide)、SnO、ZnO、FTO(Fluorine doped Tin Oxide)、AZO(Aluminum doped Zinc Oxide)、IZO(Indium doped Zinc Oxide)等の導電性金属酸化物や、金、銀、銅、アルミニウムなどの金属薄膜などの透明導電膜で形成されている。また、第1の電極20は、受光性能を阻害しないように、ガラスなどの光透過性を有する基材24の上に形成されている。たとえば、基材24は、無色あるいは有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、無色あるいは有色の透明性を有する樹脂でもよい。かかる樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテンなどが挙げられる。
【0020】
複数の金属ナノ粒子30は、第1の電極20と隔離層40との間に2次元配列して設けられている。言い換えると、複数の金属ナノ粒子30は、第1の電極20側の隔離層40の面に接した状態で2次元アレイ状に点在している。
【0021】
金属ナノ粒子30の材料は、金属材料であればよく特に限定されないが、Frohlichモード(Bohren and Huffman, Absorption and Scattering of Light by Small Particles, Wiley, 1983を参照)の共鳴波長が反射を防止する光の波長と近い物が望ましく、たとえば、Au、Ag、Al、Cu、またはこれらの金属の合金が挙げられる。
【0022】
金属ナノ粒子30の形状は特に限定されないが、たとえば、球状、半球状、円柱状、角柱状、ロッド状、円盤状などの形状が挙げられる。第1の電極20の面と直交する方向から平面視したときの金属ナノ粒子30の平均粒子径、40nm以下であることが好ましく、3〜30nmの範囲がより好ましく、5〜15nmの範囲がさらに好ましい。また、複数の金属ナノ粒子30の総体積は、後述する光電変換層50の体積を基準として0.5〜5vol%の範囲が好ましく、0.6〜3vol%の範囲がより好ましく、1.0〜2.5vol%の範囲がさらに好ましい。
【0023】
隔離層40は、光電変換層50の受光面上に設けられており、金属ナノ粒子30と光電変換層50との間に介在する。隔離層40により金属ナノ粒子30が光電変換層50から2nm〜15nmだけ隔てられている。
【0024】
本実施の形態では、隔離層40は光電変換層50から第1の電極20に正孔を移動させる正孔輸送層を兼ねており、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリフラン、ポリピリジン、ポリカルバゾール等の導電性高分子、フタロシアニン、ポルフィリン、ペリレン等の有機色素分子およびこれらの誘導体や遷移金属錯体、トリフェニルアミン化合物やヒドラジン化合物等の電荷移動剤や、テトラリアフルバレン(TTF)のような電荷移動錯体等の正孔移動度が高い材料で形成される。隔離層40が正孔輸送層を兼ねる場合には、光電変換層50に用いられるn型半導体材料のLUMO準位よりも浅いLUMO準位を有することで、光電変換層50で生成した電子が第1の電極20に移動することが抑制されるため、優れた整流特性を示す。
【0025】
本実施の形態の光電変換層50はバルクヘテロ接合層であり、電子供与性を有するp型有機半導体と電子受容性を有するn型有機半導体とがナノレベルで混合して形成されている。p型有機半導体としては、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)などのポリチオフェン及びそのオリゴマー、ポリピロール、ポリアニリン、ポリフラン、ポリピリジン、ポリカルバゾール、フタロシアニン、ポルフィリン、ペリレン等の有機色素分子およびこれらの誘導体や遷移金属錯体、トリフェニルアミン化合物やヒドラジン化合物等の電荷移動剤や、テトラリアフルバレン(TTF)のような電荷移動錯体等の電子ドナー性分子が挙げられる。n型有機半導体としては、フラーレンやPCBM(フェニルC61酪酸メチルエステル)などのフラーレン誘導体、カーボンナノチューブ、化学修飾を施したカーボンナノチューブなどの炭素材料や、ペリレン誘導体などの電子アクセプター性分子が挙げられる。
【0026】
光電変換層50の光吸収ピーク波長λ1は、金属ナノ粒子30の表面プラズモン共鳴波長λ2より大きい。これにより、金属ナノ粒子30で吸収した光エネルギーを光電変換層50に移動させることができる。光電変換層50の光吸収ピーク波長λ1は材料によって変わるが、p型有機半導体として分子量17500のポリ(3−ヘキシルチオフェン)(アルドリッチ製)を、n型有機半導体としてPCBMを用いた場合、光吸収ピーク波長λ1は520nmである。金属ナノ粒子30の表面プラズモン共鳴波長λ2は、金属の種類によって変わるが、金属ナノ粒子30としてAlナノ粒子、Agナノ粒子を用いた場合、それぞれ、表面プラズモン共鳴波長λ2は、340nm、410nmである。
【0027】
本実施の形態の第2の電極22は負極であり、光電変換層50の受光面とは反対側において光電変換層50と電気的に接続している。第2の電極22の材料は導電性を有していればよく、特に限定されないが、金、白金、銀、銅、アルミニウム、マグネシウム、リチウム、カリウムなどの金属、あるいはカーボン電極などを用いることができる。対極の設置方法については、真空蒸着法、電子ビーム真空蒸着法、スパッタリング法や、溶媒に分散した金属微粒子を塗布し、溶媒を揮発除去する等の公知の方法で成膜してもよい。また、対極金属層を形成する前に、光電変換層と対極金属層の密着性およびエキシトンブロック性を改善するため、種々の有機および無機材料を形成することができる。用いられる材料としては、本発明の目的に合致していれば特に制限されないが、たとえば、フェナントロリン、バソキュプロインなどの有機物、LiF、TiOなどの無機化合物の薄膜層が利用できる。
【0028】
(光電変換素子の製造方法)
図2乃至図3は、実施の形態1に係る光電変換素子の製造方法を示す工程断面図である。以下、実施の形態1に係る光電変換素子の製造方法を図2乃至図3を参照して説明する。
【0029】
まず、図2(A)に示すように、基材24となるガラス基板の一方の面に、第1の電極20としてITOなどの透明導電膜を成膜する。
【0030】
次に、図2(B)に示すように、第1の電極20の露出面にマスク100を形成する。マスク100には、第1の電極20の露出面(基材24の側とは反対側の面)において金属ナノ粒子形成領域が露出するような複数の開口部102が形成されている。マスク100は、たとえば、アルミニウム基板の表面を陽極酸化した後に、陽極酸化された表面(ポーラスアルミナ膜)以外のアルミニウム基板を除去し、リン酸溶液を用いてポーラスアルミナ膜に貫通孔を形成することにより作製することができる。この他、マスク100は、所定の開口部をパターニングしたレジストにより作製することも可能である。マスク100としてレジストを用いることにより、金属ナノ粒子を規則的に2次元配列することができる。
【0031】
次に、図2(C)に示すように、マスク100を介して第1の電極20の露出面に向けて、Ag、Al、Au、Cuなどの金属またはこれらの金属を含む合金を真空蒸着法により堆積させる。金属粒子は、マスク100に設けられた開口部102を通過し、開口部102内で第1の電極20の露出部分に選択的に堆積する。これにより、開口部102内に金属ナノ粒子30が形成され、第1の電極20の露出面上に、複数の金属ナノ粒子30が2次元配列される。第1の電極20の露出面と直交する方向から平面視したときの金属ナノ粒子30のサイズは、マスク100に設けられた開口部102のサイズで規定される。マスク100をポーラスアルミナ膜を用いて形成する場合には、開口部102のサイズは、アルミニウムの陽極酸化時の印加電圧に比例する。たとえば、0.3mol/lシュウ酸電解液でアルミニウム基板に40V印加した場合には、開口部102の径は50nm程度となり、金属ナノ粒子30の径も50nm程度となる。また、第1の電極20の露出面を基準面したときの金属ナノ粒子30の高さは、真空蒸着の時間を変えることにより制御することができる。真空蒸着の時間が短い場合には、第1の電極20の露出面から遠ざかる方向に球面が凸状となった半球状となり、真空蒸着の時間が十分長い場合には、円柱状、角柱状またはフィラー状となる。
【0032】
次に、図2(D)に示すように、マスク100を除去した後、金属ナノ粒子30の表面を被覆するように隔離層40として正孔輸送層を積層する。隔離層40の積層方法は特に限定されないが、たとえば、スピンコート法より正孔輸送材を成膜する方法が挙げられる。この場合、隔離層40の膜厚は正孔輸送材を含む塗布液の濃度や、スピンコート条件により制御可能である。
【0033】
次に、図3(A)に示すように、隔離層40の上に光電変換層50を形成する。具体的には、光電変換層50は、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)などのp型有機半導体とPCBMなどのn型有機半導体をジクロロベンゼンなどの溶媒に溶解させた混合溶液をスピンコート法によって成膜することで形成される。
【0034】
次に、図3(B)に示すように、光電変換層50の上に、膜厚0.5nmのLiF層、膜厚100nmのAl層をそれぞれ蒸着して第2の電極22を形成する。
【0035】
以上説明した実施の形態1に係る光電変換素子10によれば、金属ナノ粒子による電場増強効果が顕著に発揮されるため、太陽光エネルギーの利用効率をさらに高めることができる。
【0036】
(実施の形態2)
図4は、実施の形態2に係る光電変換素子10の構成を示す概略断面図である。本実施の形態では、金属ナノ粒子30は光電変換層50の中に埋め込まれている。金属ナノ粒子30の形状は球形状であり、隔離層40によって金属ナノ粒子30の周囲が被覆されている。
【0037】
本実施の形態の隔離層40は、金属ナノ粒子表面に吸着しやすいアミノ基、チオール基などの官能基を有する長鎖アルキル基をもつ有機分子、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、トリアセチルセルロース、ポリウレタン、シクロオレフィンポリマーなどのポリマー材料、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化リチウム、シリコンカーバイド、サファイア、アルミナ、水晶、フッ素樹脂、SnO、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、ITO、ZnO、SiO、TiO、ZrO、Mn、Y、WO、Nb、La、Gaなどの透明無機材料などで形成される。隔離層40の膜厚は、実施の形態1と同様に2nm〜15nmである。金属ナノ粒子30は隔離層40の膜厚分だけ光電変換層50から隔てられている。
【0038】
実施の形態2に係る光電変換素子10によれば、光電変換層50に埋め込まれた金属ナノ粒子30を隔離層40によって光電変換層50から2nm〜15nmだけ隔てることにより、実施の形態1と同様に太陽光エネルギーの利用効率をさらに高めることができる。
【0039】
なお、本実施の形態において、必要に応じて、第1の電極20と光電変換層50との間に正孔輸送層または電子輸送層を設けてもよい。
【0040】
(実施例1)
洗浄したガラス基板上に15Ω/sqの面抵抗を持つITO(第1の電極)を成膜した。
【0041】
アルミニウム基板の表面を8mol/L硫酸電解液中で16Vで陽極酸化した後に、酸化された表面(バリア層)以外のアルミニウム基板を除去し、バリア層に形成された多数の孔を20倍希釈したリン酸水溶液を用いて貫通させてアルミナマスクを得た。得られたアルミナマスクの平均孔径は20nm、孔密度は7×1010個/cmであった。
【0042】
得られたアルミナマスクを通してITOを成膜したガラス基板上にAlを真空蒸着することで金属ナノ粒子を形成した。得られた金属ナノ粒子の平均粒子径は、用いたアルミナマスクの平均孔径と同様であり、20nmであった。
【0043】
続いて、金属ナノ粒子が形成されたITOの上に正孔輸送材としてBaytron P(H.C.Stark社製)をスピンコートし正孔輸送層を形成し、120℃で10分乾燥した。正孔輸送層の膜厚が12nmとなるように、溶液濃度とスピンコート条件で制御した。
【0044】
続いて、p型有機半導体として分子量17500のポリ(3−ヘキシルチオフェン)(アルドリッチ製)を、n型有機半導体としてPCBM(フロンティアカーボン製)を用いて両者の質量比が1:1の混合物を作製し、濃度が1wt%となるように得られた混合物をジクロロベンゼンに溶解させて混合溶液(以下、光電変換層用混合溶液という)を得た。
【0045】
続いて、正孔輸送層の上に上記混合溶液を塗布した後、800rpm(10s)でスピンコートし、膜厚200nmの光電変換層(バルクヘテロ接合層)を形成した。
【0046】
光電変換層/正孔輸送層/金属ナノ粒子/ITO/ガラス基板からなる積層体を窒素下で一晩乾燥した後、約10−5torrの真空下で光電変換層の露出面に膜厚0.5nmのLiF、膜厚100nmのAlをそれぞれ蒸着して対極(第2の電極)を形成した。
【0047】
以上の工程により実施例1の光電変換素子としての有機薄膜太陽電池を作製した。得られた光電変換素子を窒素下でガラス板とエポキシシール材を用いて封止した。なお、本実施例の光電変換素子では、金属ナノ粒子は正孔輸送層によって光電変換層から12nm隔てられている。また、光電変換層の体積に対する金属ナノ粒子の総体積は0.8vol%であった。
【0048】
(実施例2)
実施例2の光電変換素子は、金属ナノ粒子の作製方法を除き、実施例1と同様な手順にて作製された。具体的には、アルミニウム基板の陽極酸化を0.3mol/L硫酸電解液中で25Vで行うことにより平均孔径35nmのアルミナマスクを得た。このアルミナマスクを通してAlをITOに蒸着することにより、平均粒子径35nmの金属ナノ粒子を形成した。金属ナノ粒子の蒸着工程において、金属ナノ粒子の高さが18nmになるように制御した。
【0049】
本実施例の光電変換素子では、金属ナノ粒子は正孔輸送層によって光電変換層から12nm隔てられている。また、光電変換層の体積に対する金属ナノ粒子の総体積は1.4vol%であった。
【0050】
(比較例1)
比較例1の光電変換素子は、金属ナノ粒子の形成を省略したことを除き、実施例1と同様な手順にて作製された。比較例1の光電変換素子の層構成は、対極/光電変換層(バルクヘテロ接合層)/正孔輸送層/ITO/ガラス基板で表される。
【0051】
(比較例2)
比較例2の光電変換素子は、金属ナノ粒子の作製方法を除き、実施例1と同様な手順にて作製された。具体的には、アルミニウム基板の陽極酸化を0.3mol/Lシュウ酸電解液中で40Vで行うことにより平均孔径50nmのアルミナマスクを得た。このアルミナマスクを通してAlをITOに蒸着することにより、平均粒子径50nmの金属ナノ粒子を形成した。金属ナノ粒子の蒸着工程において、金属ナノ粒子の高さが25nmになるように制御した。
【0052】
本比較例の光電変換素子では、金属ナノ粒子は正孔輸送層によって光電変換層から12nm隔てられている。また、光電変換層の体積に対する金属ナノ粒子の総体積は1.9vol%であった。
【0053】
(比較例3)
比較例3の光電変換素子は、正孔輸送層の膜厚を36nmとしたことを除き、実施例1と同様な手順にて作製された。
【0054】
(実施例3)
ガラス基板を洗浄した後、ガラス基板上に15Ω/sqの面抵抗を持つITO(第1の電極)を成膜した。続いて、ITOの上に正孔輸送材としてBaytron P(H.C.Stark社製)をスピンコートし正孔輸送層を形成し、120℃で10分乾燥した。正孔輸送層の膜厚が36nmとなるように、溶液濃度とスピンコート条件で制御した。
【0055】
オレイルアミン100mLと液体パラフィン400mLを混合して混合液を作製した。得られた混合液に硝酸銀5gを加え、180℃で2時間加熱し、150℃で5時間保持した。室温で冷却後、エタノール1500mLを加えた。この後、遠心分離を3回繰り返し、真空乾燥することで平均膜厚2nmのオレイルアミン(隔離層)で被覆された金属ナノ粒子(オレイルアミン配位子Agナノ粒子)の粉末を得た。得られた金属ナノ粒子は球形状であり、平均粒径は10nmであった。
【0056】
実施例1と同様な方法で得た光電変換層用混合溶液1mlに得られた金属ナノ粒子7.3mgを分散させた。得られた分散液を正孔輸送層の上に塗布した後、800rpm(10s)でスピンコートし、隔離層で被覆された金属ナノ粒子を含む膜厚200nmの光電変換層を形成した。光電変換層の体積に対する金属ナノ粒子の総体積は2.0vol%であった。
【0057】
光電変換層(隔離層で被覆された金属ナノ粒子含有)/正孔輸送層/ITO/ガラス基板からなる積層体を窒素下で一晩乾燥した後、約10−5torrの真空下で光電変換層の露出面に膜厚0.5nmのLiF、膜厚100nmのAlをそれぞれ蒸着して対極(第2の電極)を形成した。
【0058】
以上の工程により実施例3の光電変換素子としての有機薄膜太陽電池を作製した。得られた光電変換素子を窒素下でガラス板とエポキシシール材を用いて封止した。
【0059】
(実施例4)
実施例4の光電変換素子は、隔離層で被覆された金属ナノ粒子の作製方法を除いて、実施例3と同様な手順で作製された。
【0060】
実施例3と同様な方法で得られた平均膜厚2nmのオレイルアミンで被覆された金属ナノ粒子の粉末100mgをヘキサン10mLに分散させた。この分散液をイソプロパノール2500mLと水250mLの混合液に加え、さらにテトラエトキシシラン1mLとアンモニア溶液(濃度30%、40mL)を加えて攪拌した。これにより、金属ナノ粒子の表面にSiO層を形成した。SiO層の厚さは反応時間で制御した。反応後、遠心分離し、真空乾燥することで平均厚さ10nmのSiO層で被覆された金属ナノ粒子を得た。
【0061】
実施例1と同様な方法で得た光電変換層用混合溶液1mlに得られた金属ナノ粒子30mgを分散させた。得られた分散液を正孔輸送層の上に塗布した後、800rpm(10s)でスピンコートし、隔離層で被覆された金属ナノ粒子を含む膜厚200nmの光電変換層を形成した。光電変換層の体積に対する金属ナノ粒子の総体積は1.8vol%であった。
【0062】
(実施例5)
実施例5の光電変換素子は、光電変換層の体積に対する金属ナノ粒子の総体積を1.0vol%としたことを除き、実施例4の光電変換素子と同様な方法で作製された。
【0063】
(実施例6)
実施例5の光電変換素子は、光電変換層の体積に対する金属ナノ粒子の総体積を3.0vol%としたことを除き、実施例4の光電変換素子と同様な方法で作製された。
【0064】
(比較例4)
比較例4の光電変換素子は、隔離層で被覆された金属ナノ粒子の作製方法を除いて、実施例3と同様な手順で作製された。
【0065】
実施例3と同様な方法で得た、平均膜厚2nmのオレイルアミンで被覆された金属ナノ粒子の粉末100mgをブチルアミン溶液1mLに分散させ8時間攪拌した。その後、混合溶液にメタノールを加えて遠心分離を3回繰り返し、真空乾燥することで平均膜厚1nmのブチルアミンで被覆された金属ナノ粒子(ブチルアミン配位子Agナノ粒子)の粉末を得た。
【0066】
実施例1と同様な方法で得た光電変換層用混合溶液1mlに得られた金属ナノ粒子7.3mgを分散させた。得られた分散液を正孔輸送層の上に塗布した後、800rpm(10s)でスピンコートし、隔離層で被覆された金属ナノ粒子を含む膜厚200nmの光電変換層を形成した。光電変換層の体積に対する金属ナノ粒子の総体積は2.0vol%であった。
【0067】
(比較例5)
比較例5の光電変換素子は、光電変換層の体積に対する金属ナノ粒子の総体積を1.8vol%とし、被覆された金属ナノ粒子を被覆するSiO層の厚さを平均厚さ20nmとしたことを除き、実施例4の光電変換素子と同様な方法で作製された。
【0068】
(比較例6)
比較例6の光電変換素子は、光電変換層の体積に対する金属ナノ粒子の総体積を0.3vol%とし、被覆された金属ナノ粒子を被覆するSiO層の厚さを平均厚さ10nmとしたことを除き、実施例4の光電変換素子と同様な方法で作製された。
【0069】
(比較例7)
比較例7の光電変換素子は、光電変換層の体積に対する金属ナノ粒子の総体積を3.5vol%とし、被覆された金属ナノ粒子を被覆するSiO層の厚さを平均厚さ10nmとしたことを除き、実施例4の光電変換素子と同様な方法で作製された。
【0070】
【表1】

【表2】

【0071】
(吸収波長測定)
ITO基板上に実施例1や比較例1と同様な光電変換層を成膜した。この光電変換層の吸収スペクトルを日立分光光度計U−4100を用いて測定した。その結果、光電変換層の吸収ピークが520nm付近にあることが確認された。また、ITO基板上に実施例1と同様なAlを主成分とする金属ナノ粒子を形成した。この金属ナノ粒子の吸収スペクトルを日立分光光度計U−4100を用いて測定した。その結果、Alを主成分とする金属ナノ粒子の吸収ピークが340nm付近にあり、光電変換層の吸収ピークより短波長であることが確認された。また、また、実施例3と同様なAgを主成分とする金属ナノ粒子10mgをヘキサン1mLに分散させた。この分散液の吸収スペクトルを日立分光光度計U−4100を用いて測定した。その結果、Agを主成分とする金属ナノ粒子の吸収ピークが410nm付近にあり、光電変換層の吸収ピークより短波長であることが確認された。
【0072】
(量子収率の評価)
図5は、実施例1の光電変換素子について、金属ナノ粒子を有さない比較例1の光電変換素子の量子収率を1としたときの可視光領域の各波長の量子収率を示すグラフである。各波長の量子収率は、各波長の量子収率は、キセノンランプとハロゲンランプの二灯式で、モノクロメーターで分光した300〜800nmの単色光を素子に照射しACモードで行い、それぞれの波長の照射光子数と光電流値から算出した。図5に示すように、実施例1の光電変換素子の量子効率は可視光領域において比較例1より向上しており、金属ナノ粒子による光吸収性上昇効果が確認された。
【0073】
(光吸収率の評価)
実施例1乃至6、比較例1乃至7の各光電変換素子について、エネルギー密度100mW/cmの擬似太陽光を照射しながら電圧電流特性を測定し、短絡電流値の比較を行った。表1に、金属ナノ粒子を有さない比較例1の光電変換素子の短絡電流値を1としたときの、実施例1乃至6、比較例2乃至7の光電変換素子の短絡電流値を示した。
【0074】
(評価結果)
金属ナノ粒子の平均粒子径が40nm以下である実施例1、2の光電変換素子では、相対電流値が増加することが確認された。これに対して、金属ナノ粒子の平均粒子径が40nmを超えている比較例2の光電変換素子では、相対電流値が減少することが確認された。このように、金属ナノ粒子の平均粒子径が40nm以上の光電変換素子では、受光時に流れる電流値の減少が見られた。この現象は、金属ナノ粒子が光を吸収して熱失活するために生じると推察される。
【0075】
金属ナノ粒子と光電変換層との距離が15nmより大きい比較例2の光電変換素子では、相対電流値が0.98であり、比較例1の光電変換素子の電流値に対する増加が見られなかった。また、金属ナノ粒子と光電変換層との距離が15nmより大きい比較例5の光電変換素子では電流値がわずかに比較例1より小さくなった。これに対して、金属ナノ粒子と光電変換層との距離が10nmの実施例4の光電変換素子では、比較例1に比べて電流値が上昇した。これは、金属ナノ粒子が光電変換層から必要以上に離れると、金属ナノ粒子による電場増強効果が薄れるためであると推察される。
【0076】
金属ナノ粒子と光電変換層との距離が2nmに満たない比較例4の光電変換素子では、相対電流値が極端に減少した。これに対して、金属ナノ粒子と光電変換層との距離が2nmの実施例3の光電変換素子では、比較例1に比べて電流値が上昇した。これは、光電変換層に必要以上に近接している金属ナノ粒子がキャリアの再結合中心となり、正孔の一部が消滅するためと推察される。
【0077】
金属ナノ粒子の総体積が0.5〜3vol%の範囲にある実施例3〜6では、相対電流値が1より大きくなることが確認された。これに対して、光電変換層の体積に対する金属ナノ粒子の総体積が0.5vol%より小さい比較例6では、相対電流値が比較例1と同等であった。また、光電変換層の体積に対する金属ナノ粒子の総体積が3vol%より大きい比較例7では、電流値が比較例1より減少した。このように、光電変換層の体積に対する金属ナノ粒子の総体積が0.5〜3vol%の範囲から外れると、金属ナノ粒子による電流値の上昇効果が低減することが確認された。金属ナノ粒子の量が0.5vol%より少ない場合は、金属ナノ粒子による電場増強効果が十分でないと推察される。一方、金属ナノ粒子の量が3vol%より多い場合には、光電変換素子全体に対する光電変換層の割合が減少することにより、電流値が減少したと推察される。
【0078】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【0079】
たとえば、上述の実施の形態1では、第1の電極が正極であり、隔離層が正孔輸送層であるが、第1の電極を負極とし、隔離層を電子輸送層としてもよい。また、実施の形態1の隔離層を正孔輸送層と電子輸送層の積層構造としてもよい。
【0080】
この他、実施の形態1の変形例として可能な積層構造として少なくとも以下の構造が挙げられる。
(a)第1の電極/金属ナノ粒子/正孔輸送層1(隔離層)/正孔輸送層2(隔離層)/光電変換層/第2の電極
(b)第1の電極/金属ナノ粒子/正孔輸送層1(隔離層)/正孔輸送層2(隔離層)/光電変換層/電子輸送層/第2の電極
(c)第1の電極/金属ナノ粒子/正孔輸送層(隔離層)/光電変換層/電子輸送層1/電子輸送層2/第2の電極
【符号の説明】
【0081】
10 光電変換素子、20 第1の電極、22 第2の電極、24 基材、30 金属ナノ粒子、40 隔離層、50 光電変換層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体を含む光電変換層と、
金属ナノ粒子と、
前記金属ナノ粒子と前記光電変換層との間に介在する隔離層と、
前記光電変換層の受光面側において前記光電変換層と電気的に接続されている第1の電極と、
前記光電変換層の受光面とは反対側において前記光電変換層と電気的に接続されている第2の電極と、
を備え、
前記金属ナノ粒子が前記隔離層によって前記光電変換層から2nm〜15nmだけ隔てられていることを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
前記隔離層は前記光電変換層の受光面上に設けられ、
前記金属ナノ粒子は、光電変換層側とは反対側の前記隔離層の面に設けられている請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記隔離層が電荷輸送層である請求項2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記金属ナノ粒子は前記光電変換層の中に埋め込まれており、
前記隔離層が前記金属ナノ粒子の周囲を被覆している請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子の平均粒子径が40nm以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記金属ナノ粒子の総体積が前記光電変換層の体積を基準として0.5〜5vol%である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記光電変換層の光吸収ピーク波長λ1が前記金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴波長λ2より大きい請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記光電変換層はバルクヘテロ接合層である請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−74569(P2012−74569A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218826(P2010−218826)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギー技術研究開発 革新的太陽光発電技術研究開発(革新型太陽電池国際研究拠点整備事業)ポストシリコン超高効率太陽電池の研究開発(ナノハイブリッド太陽電池)」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】