説明

光電変換装置の製造方法及び光電変換装置

【課題】p型結晶Ge(基板)/i型非晶質シリコン層/n型非晶質シリコン層からなるヘテロ接合セルを有する太陽電池の発電特性を向上させることのできる光電変換装置の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】p型結晶Geを基板11とし、該基板11上に、i型非晶質シリコン層12とn型非晶質シリコン層13とが順に積層されたヘテロ接合セル1を備えた光電変換装置の製造方法であって、表面にGe(111)面を備えたp型結晶Geの基板11を用い、表面に形成された酸化膜5を除去した基板11を所定温度とした後に、真空チャンバ内に配置してPHガスに暴露させるPH暴露処理工程を備える光電変換装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換装置の製造方法及び光電変換装置に関し、特に、結晶系発電層とヘテロ接合を有する太陽電池の製造方法及び太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光のエネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換装置として、太陽電池が知られている。特許文献1には、単結晶基板上に非晶質シリコン層が積層されたヘテロ接合光電変換装置が開示されている。特許文献1では、光閉じ込め効果による短絡電流増加のために基板表面にピラミッド形状の凹凸を設けるに当たり、(100)面に沿ってスライスした結晶基板を異方性エッチングし、(111)面に配向した4個の壁により形成された断面がV字型の凹部を全面に形成した基板を用いている。該基板は、表面に付着した不純物などを除去するために前処理される。前処理により基板表面に酸化膜が形成されるため、該酸化膜を除去した後に、基板上に非晶質シリコン層を積層させている。
【0003】
近年、太陽電池の変換効率の向上を目指して、ゲルマニウム(Ge)、またはシリコン(Si)−Ge−スズ(Sn)系合金などのナローギャップ材料を用いたヘテロ接合構造を備えた太陽電池の研究開発が行われている。Geは、バンドギャップが0.66eVであり、これは、従来光電変換層に使用されている結晶Siのバンドギャップ(1.1eV)よりも小さい。このようなナローギャップ材料を使用することで、今まで利用できなかったより長波長側の光の吸収を増加させて、太陽電池の変換効率をさらに向上させることができる。
【0004】
ナローギャップ材料を用いたヘテロ接合構造を備えた太陽電池の一つとして、p型結晶Geを基板とし、該基板上に、i型非晶質シリコン層とn型非晶質シリコン層とが順に積層されたヘテロ接合セルを光電変換層とする太陽電池がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3271990号公報(第5頁右欄37行目〜第6頁左欄14行目、及び第6頁左欄45行目〜第6頁右欄30行目)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
p型結晶Geを基板として用いる場合、まず、該基板は有機溶剤及び洗浄剤で洗浄される。洗浄された基板表面には酸化膜(GeOx)が形成されているため、基板を加熱して上記酸化膜を除去した後に、i型非晶質シリコン層とn型非晶質シリコン層とを順に積層する。しかしながら、このようにして作製したヘテロ接合セルを有する太陽電池では、所望の発電特性が得られないという問題がある。
【0007】
また、結晶基板を用いる場合、基板表面の面配向によって表面特性が異なる。そのため結晶の種類に応じた面配向に応じた適正な光電変換装置の構造とその製造方法があると予想されるが、適正化手法を明確にするには至っていない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、p型結晶Ge(基板)/i型非晶質シリコン層/n型非晶質シリコン層からなるヘテロ接合セルを有する太陽電池の発電特性を向上させることのできる光電変換装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、p型結晶Geを基板とし、該基板上に、i型非晶質シリコン層とn型非晶質シリコン層とが順に積層されたヘテロ接合セルを備えた光電変換装置の製造方法であって、表面にGe(111)面を備えたp型結晶Geの基板を用い、前記表面に形成された酸化膜を除去した前記基板を所定温度とした後に、真空チャンバ内に配置してPHガスに暴露させるPH暴露処理工程を備える光電変換装置の製造方法を提供する。
【0010】
p型結晶Geの基板を加熱すると、酸素(O)が昇華されて基板表面の酸化膜が除去される。本発明者らは、鋭意研究の結果、以下のような知見を得た。すなわち、酸化膜が除去された基板表面は、未結合手(ダングリングボンド)により覆われ、価電子帯内に安定順位が存在することで強いp型を示す。強いp型を示す基板上に非晶質シリコン層を製膜しても発電特性が得られない。
本発明によれば、酸化膜が除去された基板をPH暴露処理することで、PHガスが基板表面に吸着(もしくは結合)し、基板表面のフェルミレベルを真性付近に戻すことができる。このような基板上に、i型非晶質シリコン層及びn型非晶質シリコン層を積層することで光電変換装置の発電特性を格段に向上させることができる。
【0011】
ここで、p型結晶Geの基板は、Ge(111)面を備えたものを用いる。Ge(111)面はGe(100)面よりも基板表面に存在する未結合手の密度は低い。これにより、基板とi型非晶質シリコン層との間の界面欠陥密度を低く抑えることができるため、界面での再結合速度が低くなり開放電圧を向上させることが可能となる。よって、Ge(111)基板を用いた場合、Ge(100)基板を用いた場合よりも高い変換効率の光電変換装置とすることができる。
【0012】
前記PH暴露処理工程において、前記基板の前記所定温度を常温とすることが好ましい。PH暴露時の基板温度を常温とすることで、光電変換装置としたときの変換効率を向上させることができる。常温とは、数℃〜50℃の温度範囲を含む。
【0013】
上記発明の一態様において、異方性エッチングによりp型結晶Ge(100)基板から前記Ge(111)面を備えたp型結晶Geの基板を作製しても良い。
【0014】
p型結晶Ge(100)基板とは、Ge(100)面に沿ってスライスされたp型結晶基板であり、結晶Geの基板を利用する用途から比較的市場での流通量が多く入手しやすい。よって、Ge(100)基板からGe(111)面を得ることができれば、材料コストを下げることができる。
また、Ge(100)基板を異方性エッチングにより加工すると、Ge(111)面は、水平面に対して傾斜した面として露出され、基板表面はテクスチャ化される。それにより光反射を低減させる、及び、光路長を増加させることが可能となり、短絡電流密度の向上が期待できる。
【0015】
上記発明の一態様において、Ge(100)面が所定の割合で残留するよう前記Ge(111)面を備えたp型結晶Geの基板を作製しても良い。
【0016】
所定面積のGe(100)面を残留させることにより、Ge(100)面の特性と、Ge(111)面の特性とを兼ね備えた光電変換装置とすることができる。すなわち、Ge(100)面を残留させることで短波長感度を補填し、Ge(111)面を備えることで開放電圧を補填することができ、短波長感度(短絡電流の増加)と開放電圧は太陽電池にとって性能向上にあたり重要な因子である。
また、p型結晶Geの基板上に、i型非晶質シリコン層及びn型非晶質シリコン層を積層することで光電変換装置を形成するに当たり、水平面であるGe(100)面を残留させることで、その上にi型非晶質シリコン層が堆積しやすくなる。そのため、特別な操作なしで未結合手の多いGe(100)面上にi型非晶質シリコン層を厚く堆積させることができる。非晶質シリコン膜は、パッシべーション効果があり、厚いほどその効果が高いことが報告されている(N.E. Posthuma et al. / Solar Energy Materials & Solar Cells 88 (2005) 37−45参照)。一方、傾斜面となるGe(111)面には、非晶質シリコン膜を選択的に薄く堆積させることができるため、非晶質シリコン膜の短波長を含めた光学吸収を抑制して短波長感度の改善効果が期待できる。
また、Ge(100)面を残留させることで、テクスチャ形状の凹凸部の鋭角部分がなくなるため、凹部深部に非晶質シリコン膜が一部製膜しにくくなること、及び、凸部が非晶質シリコン膜を貫通して透明電極層側とのリークパスになるなどの接合不良を解消するのに効果的である。
また、基板表面に平面部分を残留させることで、基板とi型非晶質シリコン層との接触面積が増える。そのため、基板側セルと上部側セルを別に製作した後に重ね合わせるメカニカルスタック構造で多接合セルを作製する際、基板と上部セルとの接着強度を向上させることができるとともに、光散乱・光閉じ込め能力も確保することができる。基板とi型非晶質シリコン層とを導電性接着剤で接合させる場合には、凹部に残留させる平面のサイズ及び充填される接着剤の屈折率を選択することでさらに反射・散乱効果の調整が可能となることが期待できる。
【0017】
上記発明の一態様において、前記基板上の表面にGe(111)面とGe(100)面が存在し、前記Ge(111)面と前記Ge(100)面との面積比が、Ge(111)/Ge(100)≧0.6の場合、前記PH暴露処理工程における前記所定温度を常温とし、Ge(111)/Ge(100)<0.6の場合、前記PH暴露処理工程における前記所定温度を150℃以上とすると良い。
Ge(100)面とGe(111)面とでは、最適なPH暴露処理温度が異なることが判明した。よって、Ge(100)面とGe(111)面とが混在する場合、Ge(100)面とGe(111)面との面積比に応じてPH暴露時の基板温度を設定することで、変換効率をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、酸化膜を除去したp型結晶GeをPHに暴露するにあたり、Ge(111)面を設けてPH暴露時の基板温度を常温(数℃〜50℃の温度範囲を含むもの)に設定することで、p型結晶Geの表面のフェルミレベルを真性付近に戻すことができる。
さらに基板上の傾斜表面にGe(111)面と水平表面にGe(100)面が存在し、前記Ge(111)面と前記Ge(100)面との面積比に応じて、PH暴露時の基板温度を設定することで、短波長感度と開放電圧を向上することができる。
そのようなp型結晶Ge上に、i型非晶質シリコン層及びn型非晶質シリコン層を積層することで光電変換装置の発電特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1実施形態に係る光電変換装置の構成の一例を示す概略図である。
【図2】基板の洗浄工程の手順を説明するフロー図である。
【図3】基板洗浄後の太陽電池の製造方法を説明する図である。
【図4】基板の面方位によるIV特性を比較するグラフである。
【図5】Ge(111)面とGe(100)面の最表面における未結合手数を説明する図である。
【図6】基板の面方位による外部量子効率を比較するグラフである。
【図7】n型非晶質シリコン層/i型非晶質シリコン層/p型単結晶Ge層から構成される半導体のバンドダイヤグラムの模式図である。
【図8】太陽電池の発電特性を示す図である。
【図9】PH暴露処理時の基板ヒータ温度とバンド補正による特性向上度との関係を示すグラフである。
【図10】PH暴露処理時の基板ヒータ温度とPHによる再結合促進による性能低下との関係を示すグラフである。
【図11】PH暴露処理時の基板ヒータ温度と変換効率との関係を示すグラフである。
【図12】異方性エッチングにおけるエッチング速度を説明する図である。
【図13】フォトマスクの一例を示す上面図である。
【図14】異方性エッチングした基板の部分断面図である。
【図15】異方性エッチングした基板の部分断面図である。
【図16】異方性エッチングした基板の部分断面図である。
【図17】異方性エッチングした基板の部分断面図である。(メカニカルスタック構造)
【図18】異方性エッチングした基板の部分上面図である。
【図19】平面部分の辺の長さと平面率との関係を示すグラフである。
【図20】異方性エッチングした基板の部分上面図である。
【図21】平面部分の辺の長さと平面率との関係を示すグラフである。
【図22】Ge基板表面におけるGe(111)面の面積割合と変換効率と関係を示すグラフである。
【図23】エッチング条件1でのエッチング処理が終了したGe基板のエッチングレート選択比を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る光電変換装置の製造方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
<第1実施形態>
図1は、本実施形態に係る光電変換装置の構成の一例を示す概略図である。光電変換装置100は、ヘテロ接合構造を備えた太陽電池であり、ヘテロ接合セル1、透明電極層2、グリッド電極3及び裏面電極層4を備える。
【0021】
ヘテロ接合セル1は、p型単結晶Ge(基板11)、i型非晶質シリコン層12、及びn型非晶質シリコン層13から構成される。
基板11には、チョクラルスキー(CZ)法で成長させたGaドープp型単結晶Ge(100)(c−Ge)が使用される。c−Geは、表面に(111)面を備えた結晶基板である。本実施形態において、c−Geは、基板上面がすべてGe(111)面に沿ったGe(111)基板とされる。c−Geの厚さは、1.5μm以上500μm以下、好ましくは50μm以上200μm以下とされる。i型非晶質シリコン層12は、非晶質シリコンを主とし、膜厚5nm以上80nm以下とされる。n型非晶質シリコン層13は、非晶質シリコンにリン成分:Pを含有するPドープシリコンを主とし、膜厚4nm以上10nm以下とされる。
なお、基板11は、p型単結晶Geに限定されるものではなく、表面処理を適正化することで、多結晶Geも同様に利用することが可能である。
【0022】
透明電極層2は、酸化インジウム錫(ITO)、酸化錫(SnO)や酸化亜鉛(ZnO)などの金属酸化物を主成分とする膜とされる。透明電極層2の厚さは、集電抵抗と光反射特性から、50nm以上150nm以下とされる。
グリッド電極3は、主としてAgからなる膜とされるが、製膜方法を適正化することでAlなどの高導電性材料を利用することも可能である。集電抵抗を抑制しながら、光入射を妨げないよう、グリッドの幅を狭くし基板表面の占有面積を少なくなるよう設置することが好ましい。
裏面電極層4は、Alからなる膜であり、厚さ50nm以上500nm以下とされる。反射率向上にあたりAgからなる膜を、コスト低減にあたりCuからなる膜を用いることが可能である。
なお、AgやCuは大気成分(酸素、水蒸気、硫黄など)と反応しやすいので、AgやCuの表面をさらにTiやNiで被覆しても良く、光電変換装置全体の封止方法を工夫するようにしても良い。
【0023】
本実施形態に係る光電変換装置の製造方法を説明する。本実施形態に係る太陽電池の製造方法は、基板洗浄工程と、酸化膜除去工程、ヘテロ接合セル作製工程、電極形成工程、及びアニール処理工程を備える。図2は、基板の洗浄工程の手順を説明するフロー図である。図3は、基板洗浄後の太陽電池の製造方法を説明する図である。
【0024】
(1)基板洗浄工程:図2
まず、基板11を、アセトンなどの有機溶媒及びセミコクリーンなどの洗浄剤によって順次洗浄する。次に、フッ化水素(HF)を用いて基板11の表面に形成されている酸化膜を除去した後、基板11を純水でリンスする。次に、過酸化水素(H)を用いて基板11の表面に酸化膜5を形成させた後、基板11を純水でリンスする。
【0025】
(2)酸化膜除去工程:図3(a)及び図3(b)
基板11を真空チャンバ内に搬入後、基板11の表面に形成された酸化膜5を除去する。酸化膜を除去する条件は、使用する熱源の種類、基板11の大きさなどに応じて適宜設定される。例えば、真空チャンバ内を10−7Torr(13.3μPa)程度以下まで真空引きし、赤外線ヒータなどの熱源を用いて基板11を20分程度加熱する。熱源温度は450℃程度まで昇温させると良い。それによって基板11の表面に形成された酸化膜(GeOx)を昇華させ、基板11に清浄表面を出すことができる。
赤外線ヒータを用いて昇温させ、実基板温度を放射温度計にて測定した結果、実基板温度は600℃程度であった。
【0026】
(3)ヘテロ接合セル作製工程:図3(c)
ヘテロ接合セル作製工程は、PH暴露処理工程、i層製膜工程、及びn層製膜工程を備える。
(PH暴露処理工程)
酸化膜を除去した基板11を所定温度とする。本実施形態における所定温度は、常温とする。常温とは数℃〜50℃を含む。
次に、別の真空チャンバ内、好ましくはプラズマCVD装置のn型非晶質シリコン層の製膜室(n層製膜室)内に基板11を配置する。真空チャンバ内にHガスで希釈したPHガスを導入する。
【0027】
PH暴露の条件(PH導入量、基板温度、暴露時間、圧力など)は、適宜設定される。例えば、Hガスで希釈した0.6体積%PHガスを0.3sccm/cm、0.1Torr(13.3Pa)で導入する。このとき、基板11は非加熱とすることが好ましい。非加熱とは、積極的に熱源を用いて基板を加熱しないことを意味する。例えば、基板に接触させて加熱する種類の基板ヒータを用いる場合には、基板からヒータを離すことで非加熱となる。このとき、基板ヒータ温度は、基板の所定温度付近の温度であることが好ましいが、基板から熱源を離した基板ヒータが放熱していない状態でなくとも良い。
導入されるPHガス量は、極微量であってもよい。
【0028】
(i層製膜工程及びn層製膜工程)
基板11上に、プラズマCVD装置を用いてi型非晶質シリコン層12及びn型非晶質シリコン層13を順に製膜する。i型非晶質シリコン層12は、i型非晶質シリコン層の製膜室(i層製膜室)にて、原料ガス:SiHガス及びHガス、減圧雰囲気:1Pa以上1000Pa以下、基板温度:約150℃で製膜する。
n型非晶質シリコン層13は、n型非晶質シリコン層の製膜室(n層製膜室)にて、原料ガス:SiHガス、Hガス及びPHガス、減圧雰囲気:1Pa以上1000Pa以下、基板温度:約150℃で製膜する。
【0029】
(4)電極形成工程:図3(d)〜図3(g)
n型非晶質シリコン層13の上に、高周波(RF)スパッタリング法にて透明電極層2を形成する。スパッタリング条件は、ターゲット:ITO焼結体、雰囲気ガス:Ar、到達圧力:10−4Pa〜10−5Pa、高周波電力:2W/cm〜3W/cmとされる。
次いで、反応性イオンエッチング(RIE)によって素子分離を行う。透明電極層2のターゲットはFをドープしたSnOや、GaまたはAlをドープしたZnOさらには、雰囲気ガス:Ar+O:0.5〜10体積%としてもよい。
【0030】
透明電極層2の上に、パターンマスク板を設置して、直流(DC)スパッタリング法にてグリッド電極3を形成する。スパッタリング条件は、ターゲット:Ag、雰囲気ガス:Ar、到達圧力:10−4Pa〜10−5Pa、高周波電力:2W/cm〜3W/cmとされる。
【0031】
基板11の裏面(非晶質シリコン層が形成された側の反対の面)に、抵抗加熱蒸着によって裏面電極層4を形成する。タングステンフィラメントに30Aの電流を流すことでAlを加熱し蒸発させる。
【0032】
(5)アニール処理工程:図3(g)
上記工程で作製した太陽電池を、真空中で加熱し、アニール処理する。アニール処理は、非晶質シリコン層のSiを終端している水素が離脱するなどの悪影響を及ぼさないよう基板温度150℃程度で8時間行うことが好ましい。
【0033】
(基板の面配向の検討)
面配向が異なる基板(p型単結晶Ge)を用い、第1実施形態に従って、それぞれ以下の構成の太陽電池を作製した。
グリッド電極:Ag膜、平均膜厚200nm
透明電極層:ITO膜、平均膜厚70nm
n型非晶質シリコン層:平均膜厚8nm
i型非晶質シリコン層:平均膜厚40nm
裏面電極層:Al膜、平均膜厚200nm
【0034】
表1に、使用した基板の特性を示す。
【表1】

*EPD:エッチピット密度(Etch Pit Density)
【0035】
本試験において、使用した基板の抵抗率は、略同等に揃えた。PH暴露処理条件は、PH流量(H0.6%希釈):40sccm、圧力:0.1Torr(13.3Pa)、時間:5分、基板温度150℃(ヒータ温度:200℃)とした。
【0036】
上記で作製した太陽電池について、短絡電流及び開放電圧を測定した。結果を図4に示す。同図において、横軸が開放電圧、縦軸が短絡電流である。図4によれば、Ge(1
11)基板(基板No.1)の方が、Ge(100)基板(基板No.2、No.3)よりも開放電圧が高く、特性が良好であった。
【0037】
半導体の最表面はバルクと異なった電子状態が形成され、表面の第1層の原子には未結合手(ダングリングボンド)があり、この存在が最表面の物性を大きく特徴づけている。Ge(111)面とGe(100)面の最表面における未結合手数を図5に示す。基板の最表面に存在する未結合手の密度を比較した場合、Ge(111)面の方がGe(100)面よりも低密度である。最表面に存在する未結合手が低密度であれば、界面欠陥密度を低く抑えることができる。よって、Ge(111)基板では、界面での再結合速度が低くなり開放電圧が向上したと推測される。
【0038】
上記で作製した太陽電池について、JIS C 8915に準じて外部量子効率を測定した。結果を図6に示す。同図において、横軸が波長、縦軸が外部量子効率(EQE:External Quantum Efficiency)である。図6によれば、Ge(111)基板は、Ge(100)基板よりも300nm〜約500nm程度の短波長感度が低いが、約600nm〜1200nm程度の長波長感度が高いという特性であることが判明した。
【0039】
図7に、n型非晶質シリコン層/i型非晶質シリコン層/p型単結晶Ge層から構成される半導体のバンドダイヤグラムを示す。図7(a)は、p型単結晶Ge層がG(100)基板である場合、図7(b)は、p型単結晶Ge層がGe(111)基板である場合を示す。
Ge(100)基板を用いた場合には、Ge(100)基板の表面のダングリングボンド数が多いためp型化が顕著となる。図7(a)に示すように、p型化が顕著である場合には、i型非晶質シリコン層(a−Si(i))内の電界強度(傾き)が急激に変化する。この傾きが大きいほど、励起された電子正孔対を分離する能力が高くなる。ここで、短波長側の光は、主に非晶質シリコン層で吸収されるため、図6の結果では、Ge(100)基板を用いた場合に短波長側の外部量子効率が高くなったものと推測される。
Ge(111)基板を用いた場合には、Ge(111)基板の表面のダングリングボンド数が少ないためp型化が緩和され、a−Si(i)にかかる電界強度が低下している。これにより、ヘテロ接合を形成しているa−Si(i)での光学吸収によりp型単結晶Ge層へ導かれる光の損失が大きくなり、Ge(100)基板を用いたものより短波長側の外部量子効率が低くなったと推測される。
【0040】
一方、長波長側の光は、a−Siではほとんど吸収されないため、p型単結晶Ge層で主に吸収される。その際、p型単結晶Ge層からa−Si(n)側に電子を輸送させる必要がある。Ge(111)基板では空乏層により電子が加速されるため、取り出せる電流の量が多くなる。それにより、図6の結果では、Ge(111)基板を用いたものの長波長側の外部量子効率が高くなったものと推測される。
【0041】
(PH暴露時の基板温度依存性)
面配向が異なる基板(Ge(100)基板及びGe(111)基板)を用い、PH暴露時の最適な基板温度を検討した。PH暴露時の条件を表2に示す。比較としてPH暴露処理を行わないものも用意した。
【表2】

*非加熱とは、ヒータを基板から離し、積極的に加熱していない状態を指す。上記試験におけるヒータ温度は200℃のままであるが、基板温度は50℃程度になっており常温範囲であった。常温とは、数℃〜50℃の温度範囲を含むものである。
【0042】
上記条件以外は、第1実施形態に従って、以下の構成の太陽電池を作製した。
グリッド電極:Ag膜、平均膜厚200nm
透明電極層:ITO膜、平均膜厚70nm
n型非晶質シリコン層:平均膜厚8nm
i型非晶質シリコン層:平均膜厚40nm
裏面電極層:Al膜、平均膜厚200nm
【0043】
表3に、使用した基板の特性を示す。
【表3】

【0044】
上記で作製した太陽電池について、開放電圧(Voc)、短絡電流(Jsc)、形状因子(F.F.)、及び変換効率(Eff.)を測定した。測定結果を図8の(a)〜(d)に示す。
図8によれば、PHに暴露しなかった無処理のものと比較して、PH暴露処理したものは、開放電圧、形状因子、及び変換効率が向上した。
【0045】
Ge(100)基板を用いた場合、PH暴露時の基板温度は高い方が良く、基板ヒータ温度300℃で基板を加熱した(基板温度220℃の)太陽電池の変換効率が最も高くなった。上記結果によれば、Ge(100)基板を用いた場合、高温でのPH暴露処理が好適であり、基板温度150℃程度とすると、n層製膜室の製膜条件での温度をそのまま使用できる。よって、Ge(100)基板を用いた場合、PH暴露処理工程の所定温度は、150℃以上とすると良い。
【0046】
Ge(111)基板を用いた場合、基板非加熱(基板温度は常温範囲の約50℃)でPH暴露した太陽電池の変換効率が最も高くなった。基板ヒータ温度200℃で基板を150℃に加熱した太陽電池の変換効率は、非加熱の太陽電池の変換効率よりも低くなる傾向を示した。
【0047】
ここで、Ge(111)基板を用い、基板を150℃(基板ヒータ温度200℃)で加熱してPH暴露処理した太陽電池の変換効率が低下傾向を示したことについて考察する。PH暴露処理は、(1)n型のドーパントとして電子を供給し、Ge基板表面の未結合手によるp型化を補正する働き(バンド補正)、及び(2)不純物としてGe基板と非晶質シリコン層との界面での再結合を促進する働きがあると考えられる。
【0048】
図9に、PH暴露処理時の基板ヒータ温度とバンド補正による特性向上度との関係を示す。図10に、PH暴露処理時の基板ヒータ温度とPHによる再結合促進による性能低下との関係を示す。図11に、PH暴露処理時の基板ヒータ温度と変換効率との関係を示す。
PH暴露処理時の基板温度が高温化すると、PHとGe基板の反応性が増加し、上記(1)のp型化補正が促進され、且つ、上記(2)の再結合も促進される。このバランスで性能向上が実現されていると考えると、基板150℃(基板ヒータ温度200℃)では上記(1)のp型化補正効果より、上記(2)の再結合促進による性能低下の影響が大きいため、特性が低下していると考えられる。
【0049】
しかしながら、図8によれば、上記のように一部条件で特性が低下したとしても、Ge(111)基板を用いた太陽電池は、PH暴露時の基板ヒータ温度が同じ場合、いずれもGe(100)基板を用いた太陽電池より開放電圧、形状因子、及び変換効率が高くなった。詳細には、基板を220℃(基板ヒータ温度300℃)で加熱した場合、Ge(111)基板を用いた太陽電池の変換効率は、Ge(100)基板を用いた太陽電池の変換効率の1.28倍となった。また、Ge(111)基板を用いた太陽電池の最も高かった変換効率は、Ge(100)基板を用いた太陽電池の最も高かった変換効率の1.43倍となった。
【0050】
以上より、ヘテロ接合型構造の太陽電池を作製する場合、基板表面の面配向は、Ge(100)面よりもGe(111)面とするのが好適である。また、Ge(111)基板を用いる場合には、基板を積極的に加熱せず(非加熱で)PH暴露処理すると良い。
【0051】
図5に示すように、Ge(111)面の表面に存在する未結合手の密度が、Ge(100)面よりも少ないと考えると、Ge(111)基板ではドーパントによるフェルミレベル補正の必要性が少ない。よって、反応性が低い非加熱(数℃〜50℃の温度範囲を含む常温)でのPH暴露処理で効率が最大になったと考えられる。従って、未結合手が多いGe(100)基板を用いる場合には高温でPH暴露処理を行うと良いが、未結合手が少ないGe(111)基板を用いる場合には低温でPH暴露処理を行うと良い。
【0052】
また、PHは、本来はGe基板及び非晶質シリコン層にとって不純物であるため、高温でPH暴露処理した場合には、界面欠陥を増加させる傾向を示す。一方、Ge(111)基板では、非加熱(常温)でPH暴露処理することで、高温で処理した場合よりも不純物の影響が抑制され、界面欠陥も減少していると考えられる。
【0053】
Ge(111)基板を用いる場合には、非加熱で界面フェルミレベル処理ができるため、温度昇温設備が不要であるとともに、基板加熱の温度管理という性能管理項目が不要となる。従って、生産性及び安定性に優れたヘテロ接合構造の太陽電池とすることができる。
【0054】
<第2実施形態>
本実施形態では、異方性エッチングによりp型単結晶Ge(100)基板(以降、Ge(100)基板と称する)からGe(111)面を備えるGe基板を作製する。詳細には、Ge(100)基板の表面を、所定の開口を有するマスクで覆い、エッチャントでエッチングしてパターニングする。Ge(100)基板の表面は、エッチャントにより、Ge(100)基板の深さ方向及び面方向にエッチングされる。図12にエッチング速度を説明する図を示す。エッチング速度は、Ge基板の結晶面配向によって異なり、Ge(100)面(矢印D方向)よりもGe(111)面(矢印E方向)の方が遅い。Ge(100)基板の表面を異方性エッチングにより加工した場合、Ge(111)面はGe(100)基板の基板面(Ge(100)面)に対して54.7℃傾斜した面として露出する。これにより、Ge(111)面を備えるGe基板の表面はテクスチャ形状となる。異方性エッチングでは、使用するマスク14及びエッチャントの種類、並びにエッチング時間などを調整することで、所望のテクスチャ形状を形成することが可能である。異方性エッチングとしては、G. Chianetta et al. J Low Temp Phys 151 (2008) 387、S. Kagawa et al. JJAP 21 (1982) 1616−1618に記載の異方性エッチングを用いるとGe(100)基板からGe(111)面を露出させ、テクスチャ形状とすることが可能である。基板表面をテクスチャ形状とすることで、光学散乱の増加が得られるため、太陽電池の発電特性を向上させることができる。
【0055】
本実施形態においてマスク14のパターニング方法は、UVを使用したフォトリソグラフィを用いる。なお、パターニング方法は、電子ビーム露光、インプリント、微粒子の塗布などマスクとしての機能を有し、微細パターンを得られるものであれば特に制限はない。
【0056】
エッチャントは、形成したい所望のテクスチャ形状と精度やエッチング速度に応じて適宜選択する。
エッチャントは、例えば、リン酸:過酸化水素水:エタノール=1:1:1の割合で混合して調製する。上記割合で混合したエッチャントは、エッチングレート選択比が遅いので、平面残留の時間を管理しやすい。上記エッチャントを使用する場合、レジスト以外のマスクを使用する。それにより、エタノールがレジストを侵食することに起因するエッチング不良を生じ難くさせ、エッチングの再現性を向上させることができる。
エッチャントは、例えば、リン酸:過酸化水素水:イオン交換水=4:1:5の割合で混合して調製する。上記割合で混合したエッチャントは、有機溶剤を用いていないため、マスクとしてフォトレジストを使用してもレジストを侵す心配がない。また、エッチング速度がエタノールを用いたものより速いが、エッチング時間の管理を厳密に実施することでGe(100)面を残留させることもできる。
【0057】
図13に、フォトマスクの一例を示す。フォトマスク14は、間隔をあけて周期的に配置された複数の開口15を備える。開口の面積及び形状と精度やエッチング速度は、形成したい所望のテクスチャ形状及び使用するエッチャントの種類などに応じて適宜設定する。開口の面積はエッチングレート選択比により適宜設定する。リン酸:過酸化水素水:イオン交換水=4:1:5のエッチャントを用いる場合、開口の一辺の長さは、開口の周期(P)の1/10以下程度とすると良い。それによって、基板に残留する平面の面積を小さくすることができる。ここで平面とは、加工前の基板面または基板面に対して実質的に平行な面、すなわち、Ge(100)面である。
【0058】
開口の周期(P)は、後述するように基板の板厚の1/2の深さまでエッチングを許容できるとして、基板の板厚の約0.71倍以内の距離とする。開口の周期(P)は、1μm〜5μmとすることが望ましい。開口の周期(P)を5μm以上にすると、入射光を太陽電池内で散乱させる効果が小さくなる。しかし、開口の周期(P)を5μmからさらに大きくしても、凹凸の形状が相似であれば表面で反射した光を太陽電池内に再入射させる割合は変わらない。従って、開口の周期(P)を5μmからさらに大きくしても入射側から見た太陽電池表面の反射率はほとんど変わらない。
【0059】
開口の周期を大きくすると、フォトリソグラフィに要求される精度が低くなり、製造の簡易化が可能となる。しかし、周期をあまり増加させるとGe(100)基板の板厚方向のエッチング深さが大きくなる。これにより、Ge(100)基板に薄い部分が生じる、Ge(100)基板が貫通するなどの弊害が起こる。
【0060】
板厚の減少による光吸収ロスを少なくするためには、基板の板厚の1/2程度の深さまでのエッチングが許容できる。図14に、板厚の1/2の深さまでエッチングした場合の基板11の断面図を示す。同図は、エッチングにより平面部分の面積が限りなくゼロとなり、且つ、基板11のGe(100)面に対するGe(111)面の傾斜角度が理論値通りの54.7°でエッチング可能と仮定したモデルである。図14によれば、開口の周期は板厚の約0.71倍まで大きくすることができ、これを開口の周期(P)の上限と設定することができる。
【0061】
例えば、一般的な板厚100μmのGe(100)基板を用いると、開口の周期は71μmまで大きくすることが可能である。上記周期のマスクを用いることで、製造の簡易化が可能となる。
例えば、板厚10μmの薄いGe(100)基板を用いると、開口の周期は7μmまで大きくすることができる。その場合、周期の上限値が小さくなるので、入射光を太陽電池内で散乱させる効果を得ることが可能となる。
【0062】
Ge(111)面を備えるGe基板の表面は、平面がなるべく残留していない形状に加工することが好ましい。平面を少なくすることで、反射率が低減する。
一方、平面がなるべく残留しないようエッチングした場合、図15に示すように、凸部16あるいは凹部17が鋭角となる。鋭角部分の上に非晶質シリコンi層12を形成すると、凹部深部に非晶質シリコン膜が一部製膜しにくくなること、及び、凸部が非晶質シリコン膜を貫通して透明電極層側とのリークパスになるなどの接合不良が生じる。そのため、エッチングの際には、図16に示すように、接合不良が生じない程度に凸部18及び凹部19に平面を残留させると良い。接合不良を解消するためには、凸部18及び凹部19の各平面の一辺の長さを、非晶質シリコン層の膜厚程度、すなわち10nm以上とすることが好ましい。凹部平面の一辺の長さと、凸部平面の短辺の長さとは異なっていても良い。
【0063】
本実施形態の別の製造方法による太陽電池としては、基板11と上部セル20を別々に製作した後に、導電性接着剤6を介して重ね合わせるメカニカルスタック構造として多接合セルを作製してもよい。この際、凸部18の平面(Ge(100)面)の面積が大きくなるよう凸部平面の短辺の長さを長くすると、図17に示すように、基板11と上部セル20との接触面積が増えるため、上部セル20との接着強度を向上させることができる。この構造により、基板11と上部セル20との接着強度を向上させるとともに、光散乱・光閉じ込め能力も確保することができる。
さらに、基板11と非晶質シリコンi層とを導電性接着剤6で接合させる場合には、基板11の凹部に残留させる平面のサイズ及び充填される導電性接着剤6の屈折率を選択することでさらに反射・散乱効果の調整が可能となり、太陽電池の性能を向上できる。
【0064】
図18に、凹部19の平面の一辺(l)と、凸部の平面の短辺(s)とが同じとなるようにエッチングしたGe基板の上面図を示す。図19に、図18の条件でエッチングした場合における、平面部分の辺の長さ(凹部平面の一辺(l)+凸部平面の短辺(s))と平面率との関係を示す。同図において、横軸は平面部分の辺の長さ(開口の周期に対する%)、縦軸は真上から見た場合の平面の割合である。
図20に、凸部上の平面の短辺(s)を開口の周期の1%(例えば、開口の周期が1μmであれば、短辺(s)は10nm)に固定されるようにエッチングしたGe基板の上面図を示す。図21に、図20の条件でエッチングした場合の平面部分の辺の長さ(凹部平面の一辺(l)+凸部平面の短辺(s))と平面率との関係を示す。同図において、横軸は平面部分の辺の長さ(開口の周期に対する%)、縦軸は真上から見た場合の平面の割合である。
図19及び図21によれば、10%以下の平面率を実現するとした場合、平面の辺の長さをそれぞれ5%以下及び28%以下にする必要がある。このように、凹部と凸部分の平面サイズを調整することで平面率の制御が可能であり、基板11の凹凸形状の設計と製作が容易になる。なお、平面の辺の長さがそれぞれ5%及び28%の時、Ge(111)/Ge(100)はそれぞれ0.94及び0.96となる。
【0065】
また、開口の間隔(周期)およびエッチング時間を調整することで凸部の平面サイズを調整することが可能である。
【0066】
上記で作製したGe(111)面を備えるGe基板を用い、第1実施形態と同様に、太陽電池を作製する。ただし、ヘテロ接合セル作製工程におけるPH暴露処理時の基板温度(基板ヒータ温度)は、Ge(111)とGe(100)との面積比、すなわち、Ge(111)/Ge(100)(エッチングレート選択比)に、応じて適宜設定する。
図22に、Ge基板表面におけるGe(111)面の面積割合と変換効率と関係を示す。同図において、横軸はGe(111)面の割合、縦軸は変換効率である。同図によれば、Ge(111)/Ge(100)の面積比と変換効率が対応すると仮定すると、G(111)/Ge(100)<0.6では基板温度220℃(ヒータ温度:300℃)として、PH暴露処理を行うと良い。すなわち、Ge(100)面をPH暴露する際に適した条件に合わせると良い。G(111)/Ge(100)≧0.6では所定温度を常温(数℃〜50℃の温度範囲を含む)とし、基板非加熱でPH暴露処理を行うと良い。そうすることで、太陽電池の変換効率をより向上することができる。
【0067】
第2実施形態に従い、板厚175μmのGe(100)基板からGe(111)面を備えるGe基板を作製した。本試験のエッチング条件を以下に示す。
(エッチング条件1)
エッチャント;リン酸:過酸化水素水:イオン交換水=4:1:5
(使用試薬濃度:リン酸98%、過酸化水素水30%)
エッチャント温度;25℃(室温)
パターニング手法;フォトリソグラフィ
(光源は水銀ランプのUVを使用。マスクとサンプルは密着させて露光)
使用マスク;開口が2μm□、開口の周期が20μmのフォトマスク
エッチング時間;15min
深さ方向エッチングレート;約0.44μm/min(図12矢印D方向)
横方向エッチングレート;約0.56μm/min(図12矢印F方向。Ge(111)エッチング速度とは異なる)
【0068】
(エッチング条件2)
エッチャント;リン酸:過酸化水素水:エタノール=1:1:1
(使用試薬濃度:リン酸98%、過酸化水素水30%、エタノール99.5%)
エッチャント温度:25℃(室温)
パターニング手法:フォトリソグラフィ(光源は水銀ランプのUVを使用。マスクとサンプルは密着させて露光)
使用マスク:開口が2μm□、開口の周期が20μmのフォトマスク
エッチング時間:20min
深さ方向エッチングレート:約0.21μm/min
横方向エッチングレート:約0.275μm/min
【0069】
上記試験のエッチング条件では、マスクの開口を2μm□とした。入射光の太陽電池表面での反射率を低減させるには、なるべく平面(水平面)が少なく斜面部分が多い形状の方が良い。しかしながら、上記試験のエッチング条件で使用するエッチャントではエッチングレート選択比(Ge(100)/Ge(111))が低いため、エッチング時間によらず開口部分に対応する凹部に平面が残留してしまう。また、エッチング時間を増加させてもほぼ等面積またはやや広がるだけである。よって、上記試験のエッチング条件では、UV露光、密着露光のフォトリドグラフィで実現可能な範囲で、なるべく小さい開口を選択した。
【0070】
光吸収を増加させるには、表面で反射した光を太陽電池内に再入射させるのみでなく、吸収したい光の波長と同オーダーの凹凸を設け、入射光を太陽電池内で散乱させる機能を持たせることも重要である。よって、開口の周期は20μmでは大きすぎると考えられる。しかし、上記試験のエッチング条件では、使用するエッチャントのエッチングレート選択比が低く、且つ、フォトマスクの開口が2μm□と広い。そのため、あまり小さな周期で開口を配置すると開口部分に対応して残留する凹部の平面が占める割合が高くなってしまう。そこで20μmと比較的大きな周期で開口を配置し、平面(水平面)の割合を低減させた。
【0071】
エッチング時間に依存して、Ge(100)面の残留量を調整することができる。
【0072】
エッチング条件1でエッチングすることにより、平面の少ないGe(111)面を備えるGe基板を作製することができる。
【0073】
エッチング条件2でエッチングすることにより、平面(Ge(100)面)を残留させることができる。
図23は、エッチング条件1のエッチャントを用いてエッチングした際、PH暴露処理の最適条件の境界となるGe(111)/Ge(100)の面積比が0.6となる場合の形状を表す図である。
【符号の説明】
【0074】
1 ヘテロ接合セル
2 透明電極層
3 グリッド電極
4 裏面電極層
5 酸化膜
6 導電性接着剤
11 基板(p型単結晶Ge)
12 i型非晶質シリコン層
13 n型非晶質シリコン層
14 マスク(フォトマスク)
15 開口
16 凸部
17 凹部
18 凸部(平面)
19 凹部(平面)
20 上部セル
100 光電変換装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型結晶Geを基板とし、該基板上に、i型非晶質シリコン層とn型非晶質シリコン層とが順に積層されたヘテロ接合セルを備えた光電変換装置の製造方法であって、
表面にGe(111)面を備えたp型結晶Geの基板を用い、
前記表面に形成された酸化膜を除去した前記基板を所定温度とした後に、真空チャンバ内に配置してPHガスに暴露させるPH暴露処理工程を備える光電変換装置の製造方法。
【請求項2】
前記PH暴露処理工程において、前記基板の前記所定温度を常温とする請求項1に記載の光電変換装置の製造方法。
【請求項3】
異方性エッチングによりp型結晶Ge(100)基板から前記Ge(111)面を備えたp型結晶Geの基板を作製する請求項1または請求項2に記載の光電変換装置の製造方法。
【請求項4】
Ge(100)面が所定の割合で残留するよう前記Ge(111)面を備えたp型結晶Geの基板を作製する請求項3に記載の光電変換装置の製造方法。
【請求項5】
前記基板上の表面にGe(111)面とGe(100)面が存在し、
前記Ge(111)面と前記Ge(100)面との面積比が、
Ge(111)/Ge(100)≧0.6の場合、前記PH暴露処理工程における前記所定温度を常温とし、
Ge(111)/Ge(100)<0.6の場合、前記PH暴露処理工程における前記所定温度を150℃以上とする請求項1または請求項4に記載の光電変換装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の方法で製造した光電変換装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−74038(P2013−74038A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211025(P2011−211025)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度〜平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 新エネルギー技術研究開発 革新的太陽光発電技術研究開発(革新型太陽電池国際研究拠点整備事業) 高度秩序構造を有する薄膜多接合太陽電池の研究開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】