光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられるセンサチップ及びそれを用いた測定装置
【課題】増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出において電解液の代わりに電解質含有シートを使用することができ、それにより構造および検出手順を大幅に簡素化できるセンサチップおよび測定装置の提供。
【解決手段】本発明のセンサチップは、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられるものであり、作用電極と、作用電極が所定の位置に保持されるための窪み部および突起部の少なくともいずれか一方と、作用電極が測定装置の所定の位置に固定されるための位置決め部材を通すための開口部とを備えてなる。被検物質の特異的検出は、電解質含有シートを作用電極上に載置するか、または電解質含有シートを作用電極とセンサチップケースとの間に挟持させて行われる。
【解決手段】本発明のセンサチップは、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられるものであり、作用電極と、作用電極が所定の位置に保持されるための窪み部および突起部の少なくともいずれか一方と、作用電極が測定装置の所定の位置に固定されるための位置決め部材を通すための開口部とを備えてなる。被検物質の特異的検出は、電解質含有シートを作用電極上に載置するか、または電解質含有シートを作用電極とセンサチップケースとの間に挟持させて行われる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増感色素の光励起により生じる光電流を用いて、核酸、外因性内分泌攪乱物質、抗原等の特異的結合性を有する被検物質を特異的に検出する方法に用いられ、電解液の代わりに電解質含有シートが使用可能な、センサチップおよび測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料中のDNAを解析する遺伝子診断法が、各種病気の新たな予防および診断法として、有望視されている。このようなDNA解析を簡便かつ正確に行う技術として、被検体DNAを、これと相補的な塩基配列を有し、かつ蛍光物質を標識されたDNAプローブとハイブリダイズさせ、その際の蛍光シグナルを検出する、DNAの分析方法が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。この方法にあっては、ハイブリダイゼーションによる二本鎖DNAの形成を色素の蛍光により検出する。
【0003】
また、増感色素の光励起により生じる光電流を用いて被検物質(DNA、蛋白などの生体分子)を特異的に検出する方法も提案されている(例えば、特許文献3および非特許文献1参照)。このような検出方法は電解液を満たしたセンサユニットを用いて行われている。
【0004】
一方、酵素の増減を電気信号に変換する酸素電極を用いたマイクロバイオセンサにおいては、電解液含有体としてアガロースのようなゲルを用いることが知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
ところで、遺伝子の検出、遺伝子型の決定は、主にDNAチップ及び蛍光検出装置により行われている。一般的なDNAチップとは判明している遺伝子と相補的な塩基配列の核酸プローブを数センチメートル角のガラスチップやシリコンチップに固定化されたものである。
【0006】
一般的に用いられる蛍光検出装置の構成を図1に示す。レーザなどの光源5からの励起光9は、ビームスプリッター4で反射されて、対物レンズ6に入る。励起光9は、対物レンズ6で集光されて、DNAチップ8の核酸プローブの固定部7に当たる。ハイブリダイゼーション反応でハイブリダイゼーションした場合、遺伝子に基づいた核酸プローブと蛍光色素を標識した核酸鎖が二本鎖を形成し、溶液を洗い流した後も、蛍光物質がDNAチップ8上に残ることになり、励起光9により蛍光標識が球状放射の蛍光10を発生する。ハイブリダイゼーションしていない場合は、蛍光しない。蛍光10と励起光9には、数十ナノメートル程度の波長の差がある。蛍光の一部11と励起光9の反射光が対物レンズ6に戻り、ビームスプリッター4に入射する。励起光9の反射光は、ほとんどがビームスプリッター4で反射されて、光源側に向かい、蛍光の一部11は、ビームスプリッター4を透過して、受光器1側に向かう。ビームスプリッター4を透過した蛍光の一部11は、波長を限定するフィルター3で励起光9の反射光は除去される。蛍光の一部11は、受光器レンズ2を通って、蛍光強度を測定する受光器1に入射する。ハイブリダイゼーション反応でハイブリダイゼーションしていない場合は、蛍光しないために、受光器1に光は入射しない。
【0007】
また、検出すべき目的遺伝子に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の核酸プローブを電極表面に固定化し、一本鎖に変性された遺伝子を含む検体と反応させた後、遺伝子とハイブリダイズした前記核酸プローブに二本鎖認識体を結合しこれを電気化学測定によって検出することによって前記目的遺伝子の存在を確認する遺伝子検出装置が知られている(例えば、特許文献5参照)。ここで、電気化学測定は、作用電極および対電極を電解液に浸し、リニアスイープボルタンメトリーによる酸化電流を測定することにより行われている。
【0008】
【特許文献1】特開平7−107999号公報
【特許文献2】特開平11−315095号公報
【特許文献3】特開2006−119111号公報
【特許文献4】特公平5−84860号公報
【特許文献5】特開2000−83647号公報
【非特許文献1】中村他「光電変換による新しいDNA二本鎖検出法」(日本化学会講演予稿集Vol.81ST NO.2(2002)第947頁
【発明の開示】
【0009】
本発明者らは、今般、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出において電解液の代わりに電解質含有シートを使用することができ、それによりセンサユニットおよび測定装置の構造および検出手順を大幅に簡素化できるとの知見を得た。そして、この電解質含有シート、ならびにそれを用いたセンサチップおよび測定装置を使用することにより、光電流を高い感度および精度で検出できるとの知見も得た。
【0010】
したがって、本発明は、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出において電解液の代わりに電解質含有シートを使用することができ、それにより構造および検出手順を大幅に簡素化できるセンサチップおよび測定装置を提供することを目的としている。
【0011】
すなわち、本発明によるセンサチップは、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられる測定装置に着脱可能に装着されるセンサチップであって、
前記センサチップは、
作用電極と、
センサチップケースと、を備えてなり、
前記センサチップケースは、
前記作用電極が所定の位置に保持されるための窪み部および突起部の少なくともいずれか一方と、前記作用電極が前記測定装置の所定の位置に固定されるための位置決め部材を通すための開口部と
を備えてなり、
被検物質の特異的検出が、電解質含有シートを前記作用電極上に載置するか、または電解質含有シートを前記作用電極と前記センサチップケースとの間に挟持させて行われるものである。
【0012】
また、本発明による装置は、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられる測定装置であって、
上記センサチップと、
前記作用電極上に載置して、または前記作用電極と前記センサチップケースとの間に挟持させて設けられる、電解質含有シートと、
前記電解質含有シートの前記作用電極と反対側に設けられる対電極と、
前記作用電極に光を照射する光源と、
前記光源をXY方向に移動させるXY移動機構と、
前記作用電極と前記対電極との間を流れる電流を測定する電流計と、
前記光源、前記XY移動機構、および電流計を制御し、前記電流計からの電流信号を受信し、該電気信号に基づいて被検物質の存在、型、および濃度の少なくとも一種を決定する制御演算手段と
を備えたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
センサチップ
本発明によるセンサチップは、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられるセンサチップである。このセンサチップは、作用電極と、センサチップケースとを備えてなる。センサチップケースは、作用電極が所定の位置に保持されるための窪み部および突起部の少なくともいずれかを有する。また、センサチップケースには測定装置に設けられた、作用電極を測定装置の所定の位置に固定するための位置決め部材をセンサチップ取り付けの際に通す開口部を有する。測定装置に設けられた位置決め部材により作用電極を位置決めすることにより、センサチップケースの寸法誤差によらず、正確に作用電極を位置決めすることができる。そのため、センサチップケースに設けられた、作用電極が所定の位置に保持されるための窪み部または突起部は、作用電極を測定装置の所定の位置に固定するために、多少の遊びを有するように設けられる。本発明のセンサユニットにおいて最も高い精度を求められる位置決めは、作用電極が測定装置の所定の位置に固定されることであるため、センサチップケースを測定装置の所定の位置に載置させるための位置決めは仮の位置決めとなる。なお、前記位置決め部材にはピン形状あるいは少なくとも前記作用電極が当接する部位に平面を有する突起状の壁面となっている支持部材と、作用電極が支持部材に適度な圧力で押し付けられて固定され、所定の位置に配置される付勢部材とを備えている。支持部材の材質としては、樹脂、金属、セラミック、ガラスなど十分な強度と加工性を有するものを使用することができる。付勢部材は板状、コイル状のバネ、ゴムやポリマーなどの材質からなる弾力性突起形状を挙げることができる。そして、このセンサチップにあっては、電解質含有シートを作用電極上に載置するか、または電解質含有シートを作用電極とセンサチップケースとの間に挟持させるだけという極めて簡便な手法で被検物質の特異的検出に使用可能な状態となる。
【0014】
この電解質含有シートは、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出において電解質媒体として用いられるシート状の電解質含有体である。そして、この電解質含有シートは、典型的には、含水性基材と、含水性基材中に含有される電解質とを含んでなることができる。電解質は含水性基材中を自由に移動して増感色素、作用電極、および対電極との間で電子の授受に関与できる。したがって、電解質含有シートを作用電極および対電極の間に挟持させ、各電極表面を電解質含有シートと接触させておくことで、作用電極と対電極との間で、増感色素の光励起により生じる光電流が流れることができる。この電解質含有シートは、電解質媒体という点では従来使用されている電解液と同じであるが、単独で取り扱うことが可能なシート状物であるため、作用電極と対電極の間に容易に挟み込んだり、取り外したり、あるいは持ち運んだりすることができ、その結果、装置構造および検出手順を大幅に簡素化できる。事実、本発明のセンサチップないし測定装置によれば、作用電極、電解質含有シート、および対電極を、互いに載置ないし挟持するだけという極めて簡便な手法で正確に組み立てることができることは上述の通りである。これは、作用電極と対電極との間に電解液を充填して行われる従来法において、電解液を送液する機構(例えばポンプ、バルブ、およびそれらの制御機構)、液漏れ防止機構(例えばパッキン)、および電解液の廃液処理といった複雑な機構ないし工程が必要とされ、そのためコストの増大および装置の大型化を招いていたという実情に照らせば、極めて大きな利点であると言える。また、電解質含有シートの使用により電解液を送液するための時間が不要となるため、作用電極と対電極との間に電解質含有シートを挟むだけで、即座に測定に付することができるため、測定時間も短縮される。
【0015】
上述の通り、本発明のセンサチップは、作用電極とセンサチップケースとを備えていれば十分であり、予め電解質含有シートを備えていなくてよい。本発明のセンサチップは、使用時に電解質含有シートと組み合わせられれば十分であるからである。この態様のセンサチップの一例を、図2に示す。図2に示されるセンサチップは、板状の作用電極21と、この作用電極21とほぼ同じ寸法に形成された窪み部22aを有するセンサチップケース22とを備えてなる。したがって、作用電極を窪み部に載置するだけで、作用電極が窪み部の縁に規制されて作用電極が保持される。ただし、センサチップケース22に設けられた窪み部22aは、作用電極を装置のセンサチップ受け部の所定の位置に固定するために多少の遊びを有する。このような機構によって、作用電極はセンサチップ受け部に対して仮に位置決めされる。また、図2に示されるセンサチップケース22には、装置に設けられた位置決め部材を通すための開口部を備えている。開口部としては、支持部材用開口部34、付勢部材用開口部35、が挙げられる。さらに、図2に示されるセンサチップにおいては、センサチップケース22を測定装置の所定の位置に載置させるための補助部材に適合する開口部36と対電極を電流計に接続するための電気的接点を通すための開口部22fを備えている。
【0016】
本発明の好ましい態様によれば、作用電極上に、または作用電極とセンサチップケースとの間に、電解質含有シートがさらに設けられてもよい。すなわち、本発明のセンサチップは、使用時に電解質含有シートと組み合わせられれば十分であるが、予めセンサチップの構成部材として電解質含有シートを備えていてもよい。この態様のセンサチップの一例を、図3に示す。図3に示されるセンサチップは、板状の作用電極21と、窪み部22aを有するセンサチップケース22、支持部材用開口部34、付勢部材用開口部35、センサチップケース22を測定装置の所定の位置に載置させるための補助部材に適合する開口部36とを備えてなる点は図2の構成と同じであるが、電解質含有シート23が作用電極21上にさらに設けられる。ここで、図3に示されるように、センサチップケース22には、電解質含有シート23が所定の位置に載置されるための第二の窪み部22bをさらに設けられてよい。この第二の窪み部22bには高い位置決め性は必ずしも要求されないかもしれないが、電解質含有シートとほぼ同じ寸法に形成されてよいのは言うまでもない。したがって、作用電極および電解質含有シートを窪み部および第二の窪み部にそれぞれ載置するだけで、作用電極および電解質含有シートが窪み部および第二の窪み部の各縁に規制されて作用電極および電解質含有シートの仮の位置決めが容易に行える。ただし、センサチップケース22に設けられた第二の窪み部22bは、作用電極をセンサチップ受け部の所定の位置に載置するために多少の遊びを有する。もっとも、作用電極および電解質含有シートが同じ寸法の場合には、窪み部が、作用電極および前記電解質含有シートの両方を載置可能に構成されてよい。
【0017】
本発明の好ましい態様によれば、電解質含有シートの作用電極と反対側に、対電極がさらに設けられてもよい。すなわち、本発明のセンサチップは、使用時に対電極と組み合わせられれば十分であるが、予めセンサチップの構成部材として対電極を有していてもよい。この態様のセンサチップの一例を、図4に示す。図4に示されるセンサチップは、板状の作用電極21と、窪み部22aを有するセンサチップケース22、支持部材用開口部34、付勢部材用開口部35、センサチップケース22を測定装置の所定の位置に載置させるための補助部材に適合する開口部36、電解質含有シート23を備えてなる点は図3の構成と同じであるが、対電極25が電解質含有シート23上にさらに設けられる。ここで、図4に示されるように、センサチップケース22には、対電極25が所定の位置に載置されるための第三の窪み部22cをさらに設けられてよい。この第三の窪み部22cには高い位置決め性は必ずしも要求されないかもしれないが、対電極とほぼ同じ寸法に形成されてよいのは言うまでもない。ただし、センサチップケース22に設けられた第三の窪み部22cは、作用電極をセンサチップ受け部の所定の位置に載置するために多少の遊びを有する。
【0018】
本発明の好ましい態様によれば、センサチップケースが、作用電極の表面に光励起のための光を通すための第二の開口部または透光部をさらに備えてなり、センサチップケースの、少なくとも開口部及び透光部以外の部分が遮光性を有するのが好ましい。図2、図3、図4においては開口部22eがこれに該当する。
【0019】
本発明の好ましい態様によれば、測定装置が、少なくとも開口部および透光部以外の光が当たる部分に遮光部を有するのが好ましい。
この態様によれば、作用電極に局所的に光を照射することができるので、一枚の作用電極上の複数のスポットに被検物質を付着させておくことで、複数の被検物質を個別に高い精度で測定することができる。すなわち、本発明のより好ましい態様によれば、作用電極が複数の検出スポットを有しており、測定装置の、複数の検出スポットに対応する各位置に開口部または透光部が形成されてなるのが好ましい。
【0020】
このような遮光機構は、図5の測定装置のセンサチップ受け部33にも採用されている。なお、図6は図5のセンサチップ受け部33の拡大図を示す。図5、図6に示されるように、測定装置に設けられた複数の検出スポットに対応する各位置の開口部60が形成されており、この規則的に配列された開口部を介して、同じく同様のパターンで作用電極上に形成された複数の検出スポットの一つに選択的かつ個別的に光を照射することができる。すなわち、測定装置の少なくとも開口部が配列された区域は遮光性の部材で構成されているので、光を一つの開口部のみを通過する光径で照射することにより、その他の開口部には光が入らず、所望の一つの開口部のみを介して、作用電極上の一つの検出スポットのみに個別的に光を照射することができる。すなわち、光を照射すべきでない検出スポットにまで光が漏洩する事態を有効に防止でき、検出スポット毎の被検物質の検出精度を向上できる。
【0021】
なお、図5、図6に示すセンサチップ受け部33は、作用電極の位置決めに用いられる支持部材131、付勢部材132、センサチップを所定の位置に載置させるための補助部材133、作用電極を電流計に接続するための電気的接点27a、対電極25及び弾力性のあるシート状の部材28、対電極25を電流計に接続するための電気的接点27bを備えている。なお、支持部材131はピン形状あるいは少なくとも前記作用電極が当接する部位に平面を有する突起形状、さらにはセンサチップ受け部に設けられた窪み部の壁面を用いることができる。支持部材131、補助部材133の材質としては、樹脂、金属、セラミック、ガラスなど十分な強度と加工性を有するものを使用することができ、また、付勢部材40の材質としては板状、コイル状のバネ、ゴムやポリマーなどの材質からなる弾力性突起形状を挙げることができる。
【0022】
本発明の更に別の好ましい態様によれば、センサチップケースが、作用電極が載置される領域の少なくとも一部に第三の開口部を有してなり、被検物質の特異的検出が、第三の開口部を介して対電極を電解質含有シートに接触させることにより行われるのが好ましい。すなわち、この態様にあっては、作用電極を載置し、かつ光を通すための第一の開口部と、対電極を通す第三の開口部とを有するものである。この態様においては、第三の開口部が対電極を電流計に接続するための電気的接点を通すための開口部を兼ねてもかまわない。また、この態様においても測定装置が複数の検出スポットに対応する各位置に開口部または透光部が形成されてなる。この態様のセンサチップの例が、図7、測定装置のセンサユニットの例が図8、に示される。図7に示されるセンサチップは、板状の作用電極61と、この作用電極61がほぼ同じ寸法に形成された窪み部62aを有するセンサチップケース62と、測定装置に設置された、作用電極61の位置決めに用いられる支持部材141用開口部63、付勢部材142用開口部64、センサチップケース62を測定装置の所定の位置に載置させるための補助部材143に適合する開口部65を備えてなる点は図2の構成と同じであるが、作用電極が載置される領域の少なくとも一部に、測定時に対電極が下方から通過可能な開口部66が形成されてなる。したがって、この開口部66の寸法は対電極が通過可能なサイズとされる。図9に示されるセンサチップは、板状の作用電極71と、窪み部72aおよび第二の窪み部72bを有するセンサチップケース72と、電解質含有シート70と、測定装置に設置された、作用電極71の位置決めに用いられる支持部材用開口部73、付勢部材用開口部74、センサチップケース72を測定装置の所定の位置に載置させるための補助部材に適合する開口部75とを備えてなる点は図3の構成と同じであるが、図7と同様に測定時に対電極が下方から通過可能な第三の開口部76が形成されてなる。これらの態様においても、測定装置に複数の検出スポットに対応する各位置に開口部または透光部144が形成されてなる。
【0023】
本発明の別の好ましい態様によれば、窪み部、第二の窪み部、および/または第三の窪み部を、突起部、第二の突起部、および/または第三の突起部で代替する構成としてもよい。これらの突起部においても上述の窪み部と同様に、作用電極、電解質含有シート、対電極の端部を規制することができるため、これらの部材の正確な位置決めが可能である。これらの突起部の形状および配置は、これらの部材が載置されるだけで正確に位置決めされうる形状および配置であれば特に限定されず、例えばリブ状(線状)あるいはイボ状(点状)に設けられてよい。また、位置決めされるべき部材が載置される領域の輪郭の全てにわたって突起部が形成されてもよいし、その少なくとも一部のみに形成されてもよい。特に、作用電極が測定装置に位置決めされる際、作用電極が固定される領域の一端に付勢部材を設け、付勢部材と対向する他端および/またはその近傍に突起部を設けてもよい。この場合、突起部に沿って載置された作用電極は、少なくともその一辺が付勢部材によって突起部に向かって押圧または付勢され、それにより正確に位置決めされることができる。例えば、作用電極が方形(上面視した場合)である場合には、突起部は、付勢部材と対向する辺の両端を囲む形状(例えば2つのL字状の頂角形状)、この対向する辺に沿った直線形状、あるいはそれらの組み合わせ(例えば2つのL字状の頂角形状を直線で連結した形状)に形成されてもよい。また、線状形状の変わりに、複数の点状に突起部を形成してもよい。
【0024】
測定装置
本発明のセンサチップを用いることにより、構造が大幅に簡素化された安価でかつ小型のセンサユニットないし測定装置を構築することができる。これは、本発明のセンサチップは電解質含有シートを用いるため、作用電極と対電極との間に電解液を充填して行われる従来法において必要とされていた、電解液を送液する機構(例えばポンプ、バルブ、およびそれらの制御機構)、液漏れ防止機構(例えばパッキン)、および電解液の廃液処理といった複雑な機構ないし工程が不要となるためである。
【0025】
本発明による測定装置は、本発明のセンサチップを用いて増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出を行う装置である。本発明の測定装置の一例が図10に示される。図10に示されるように、本発明の測定装置80は、センサチップ81、光源82、XY移動機構83、電流計84、および制御演算手段85を備えている。前述の通り、電解質含有シート81bおよび対電極81cは予めセンサチップの構成部材とされてもよいし、あるいは測定装置の構成部材とされてもよい。いずれにせよ、測定の際に、電解質含有シート81bが、作用電極81a上に載置して、または作用電極81aとセンサチップケース(図示せず)との間に挟持させて設けられ、また、対電極81cが、電解質含有シート81bの作用電極と反対側に設けられていればよい。そして、光源82は、作用電極81aの表面に光を照射可能な位置に配置されればよく、センサチップの下方および上方のいずれに配置されてもよい。光源82にはXY移動機構83が接続され、光源82が所望の被検スポットに向かってXY方向に移動可能に構成される。そして、作用電極および対電極には電流計84が接続され、その間を流れる電流が測定可能に構成される。そして、制御演算手段85にあっては、制御部85aが光源82、XY移動機構83および電流計84を制御し、なおかつ電流計85からの電流信号を受信し、演算部85bが電気信号に基づいて被検物質の存在、型、および濃度の少なくとも一種を決定するように構成される。また、測定装置80は、制御演算手段85で得られた結果を表示する表示装置86をさらに備えてもなるのが好ましい。さらに、測定装置80が、測定のための条件入力が行われる入力装置87をさらに備えてなるのが好ましい。
【0026】
本発明の好ましい態様によれば、測定装置のセンサチップ受け部には、センサチップが着脱自在に装着される凹状のまたは平面状のセンサチップ受け部が設けられるのが好ましい。この態様にあっては、センサチップ受け部がセンサチップケースに取り付けた作用電極を所定の位置に固定するための位置決め機構を備えるのが好ましく、それにより作用電極を測定装置に容易かつ正確に装填することができる。そのため、センサチップケースには作用電極を測定装置の所定の位置に固定するための位置決め部材である支持部材と、付勢部材をセンサチップ取り付けの際に通す開口部を有する。測定装置に設けられた支持部材と付勢部材にて作用電極を位置決めすることにより、センサチップケースの寸法誤差によらず、正確に作用電極を位置決めすることができる。このような位置決め機構の例としては、センサチップ設置後、センサチップ受け部に形成された支持部材であるピンまたは孔に向かって作用電極を付勢部材により押圧または付勢し、それにより作用電極が正確に位置決めされる機構が挙げられる。
【0027】
本発明の好ましい態様によれば、センサチップ受け部が、センサチップを所定の位置に載置させるための補助部材を有し、それによりセンサチップのセンサチップ受け部への着脱を容易に行えるようにされてなるのが好ましい。すなわち、センサチップ受け部に設けられた補助部材はセンサチップケースに設けられた補助部材に適合する開口部に当接される。ただし、上述したように、本発明のセンサユニットにおいて最も高い精度を求められる位置決めは、作用電極が測定装置の所定の位置に載置されることであるため、センサチップの測定装置への載置は仮の位置決めとなる。センサチップを測定装置に載置した後の作用電極の位置決めが最も高い精度を必要とする。そのため、補助部材を用いなくても本発明のセンサユニットを形成することも可能であるが、補助部材を有する方が操作性が向上することは言うまでもない。補助部材の材質としては、樹脂、金属、セラミック、ガラスなど十分な強度と加工性を有するものを使用することができる。補助部材の形態としては、ピン形状あるいは少なくとも前記センサチップが当接する部位に平面を有する突起形状、またセンサチップ受け部に設けられた窪み部の壁面、さらには前記センサチップケースに設けられた開口部に適合可能なピン形状あるいは少なくとも開口部が当接する突起形状を用いることができる。
【0028】
本発明の好ましい態様によれば、測定装置が、センサチップ受け部に対して開閉可能に設けられる蓋部と、蓋部の作用電極と接触可能な位置に設けられる凸状の押さえ部材とを有し、光源が押さえ部材の上方に設けられるのが好ましい。この態様においては、押さえ部材が、光源からの光を遮断する遮光性の部材で構成されており、なおかつ作用電極の表面に光励起のための光を通すための開口部または透光部を備えてなることにより、作用電極の特定箇所のみへの光照射が可能とされるのが好ましい。本発明のより好ましい態様によれば、作用電極が複数の検出スポットを有しており、複数の検出スポットに対応する各位置に前記開口部または透光部が形成されてなることができる。
【0029】
本発明の好ましい態様によれば、センサチップ本体が、作用電極が載置される領域の少なくとも一部に開口部を有してなり、測定装置が開口部に挿入可能な凸部を有し、凸部上に対電極が設けられており、センサチップが装置に装着されると、凸部が開口部に挿入されることにより対電極が電解質含有シートに接触するように構成されるのが好ましい。
【0030】
下部光源型測定装置
光源がセンサチップの下方に配置され、なおかつ図3に示される本発明のセンサチップ30が使用可能な、本発明による測定装置の一例が図11〜13に示される。図11は測定装置90の外観を示す斜視図であり、同図に示されるように、装置筐体91の上面部にはセンサチップ30を出し入れするためのセンサチップ挿入口93が設けられる。センサチップ挿入口93は、センサチップ30を保持したオペレーターの手が入る程度の大きさを有する。センサチップ挿入口93には本体蓋94が開閉可能に取り付けられている。本体蓋94は、光源98からの照射光の外部への漏洩および外部光の装置内への侵入を防ぐように構成される。装置筐体91の上面部には表示装置96および入力装置97がさらに設けられる。表示装置96は、検出される光電流値を数値もしくはリアルタイム表示の経時変化グラフとして表示することができ、また、適切なデータポイントから読み取った光非照射時および光照射時の電流値の差に基づいて得られた遺伝子の検定結果あるいは遺伝子型の決定結果を表示することができる。入力装置97は、動作条件入力のためのキー、ボタンなどの入力操作が行えるように構成される。図12は測定装置90の内部斜視図であり、同図に示されるように、光源98は、センサチップ30の作用電極上の各検出スポットに光を照射できるように構成され、XY移動機構99によって移動可能に構成される。電流計100は、センサチップ30の作用電極と装置90の対電極との間に流れる電流を測定できるように構成される。光源98、XY移動機構99および電流計100の制御ならびに電流信号の受信は、制御演算部において、インターフェースボード101を介してコンピューター102によって行われる。また、コンピューター102は、制御や各種の演算などの処理を行うとともにデータや処理結果を記憶し、その結果を表示装置96に表示する。図13は測定装置90の要部を示す斜視図であり、同図に示されるように、センサチップ挿入口93には、センサチップ30が着脱自在に装着される凹状の部位であるセンサチップ受け部103が設けられ、対電極92が本体蓋94の凸部104に取り付けられる。すなわち、センサチップ受け部103および対電極92は装置筐体91に設けられる。
【0031】
図13に示されるように、測定装置90に用いられるセンサチップは、図3に示されるセンサチップ30であり、その構成は既に説明した通りである。センサチップ30の組み立て方法は次の通りである。まず、センサチップケース22の窪み部22aに沿って作用電極21を載置する。その後、電解質含有シート23をセンサチップケース22の第二の窪み部22bに沿って載置し、センサチップ30を組み立てる。なお、電解質含有シート33は作用電極21上の全ての検出スポットに接触するように配置される。光照射口22eは、光源98から照射された光が、センサチップ受け部103の底部に設けられた複数の検出スポットに対応する各位置の開口部105を通過して、作用電極21の裏側に光が照射されるように設けられる。なお、開口部105は作用電極21に設けられた検出スポットごとに設けられており、検出スポットの個数、配置、形状が変更された場合はそれに対応した形状に加工された光照射口を有する構成とする。そのため、センサチップ受け部の複数の検出スポットに対応する開口部を有する部材は取り外し可能な構成としておくことが好ましい。また、図14および図15に示されるように、実際の光電流検出においては、作用電極の検出スポット21aに光を照射して検出スポットの光電流120を得た後に、光源待機位置21bに光源を停止させ、光源待機位置21bの光電流121を得る。この光源待機位置21bの光電流121がバックグラウンド光電流となる。ただし、センサチップ受け部の複数の検出スポットに対応する開口部を有する部材には検出スポットに対応した個数、配置、形状に加工された開口部105が設けられているため、実際に作用電極上の光源待機位置21bに光は照射さず、非常に小さいバックグラウンド光電流となる。なお、光源待機位置21bに対応するセンサチップ受け部の複数の検出スポットに対応する開口部を有する部材上の各光照射口の間の部分103aは、隣接する検出スポットに光が漏れないように、光源98より照射される光の径よりも大きくなるように調整される。
【0032】
図13、図14に示されるように、センサチップ30をセンサチップ受け部103に装着する際には、センサチップケース22の下面に設けられた補助部材用開口部22dを補助部材107に合わせて設置し、作用電極21を支持部材108に当接し、付勢部材109により固定する。なお、本体蓋94には作用電極用コンタクトプローブ110が設けられ、本体蓋94が閉じられると、本体蓋94の凸部に取り付けられた対電極92が、電解質含有シート23および対電極用コンタクトプローブ111と接触する。
【0033】
上部光源型測定装置
光源がセンサチップの上方に配置され、なおかつ図7に示される本発明のセンサチップ112が使用可能な、本発明による測定装置の一例が、図16〜19に示される。図16は測定装置140の外観を示す斜視図で、同図に示されるように、装置筐体141の側面部にはセンサチップ112を出し入れするためのセンサチップ挿入口143が設けられる。センサチップ挿入口143は、開閉ボタン144と連動しており、開閉ボタン144が押されると図示しない駆動手段によってセンサチップ挿入口143が出し入れされる。センサチップ挿入口143が装置筐体141内に収納されている際は、光源145からの照射光の外部への漏洩および外部光の装置内への侵入を防ぐように構成される。装置筐体141の側面部には表示装置146および入力装置147がさらに設けられる。表示装置146は、検出される光電流値を数値もしくはリアルタイム表示の経時変化グラフとして表示することができ、また、適切なデータポイントより読み取った光非照射時と光照射時の電流値の差に基づいて得られた遺伝子の検定結果あるいは遺伝子型の決定結果を表示することができる。入力装置147は、動作条件入力のためのキー、ボタンなどの入力操作が行えるように構成される。図17は測定装置140の内部斜視図であり、同図に示されるように、光源145は、センサチップ112の作用電極上の各検出スポットに光を照射できるように構成され、XY移動機構148によって移動可能に構成される。電流計149は、センサチップ112の作用電極と装置140の対電極との間に流れる電流を測定できるように構成される。光源145、XY移動機構148および電流計149の制御ならびに電流信号の受信は、制御演算部において、インターフェースボード150を介してコンピューター151によって行われる。また、このコンピューター151は、制御や各種の演算などの処理を行うとともにデータや処理結果を記憶し、その結果を表示装置146に表示する。図18は、測定装置140の要部を示す斜視図であり、同図に示されるように、センサチップ挿入口143には、センサチップ112が着脱自在に装着される凹状の部位であるセンサチップ受け部152が設けられ、対電極159がセンサチップ受け部152の底部に形成された凸部に取り付けられる。図18に示されるように、本体蓋154には光源145から照射された光が作用電極113の裏側に照射されるように設けられた光通過口161が設けられている。すなわち、センサチップ受け部152、対電極159、本体蓋154、および光通過口161は装置筐体141に設けられる。
【0034】
図18および図19に示されるように、測定装置140に用いられるセンサチップは、図7に示されるセンサチップ112であり、その構成は既に説明した通りである。センサチップ112の組み立て方法は次の通りである。まず、センサチップケース114の第二の窪み部114bに沿って電解質含有シート115を載置する。なお、センサチップ112の底部には、装置筐体141のセンサチップ受け部152に設けられた対電極159が電解質含有シート115と接触するように第三の開口部が形成されている。その後、作用電極113をセンサチップケース114の窪み部114aに沿って載置し、センサチップ112を組み立てる。なお、電解質含有シート115は作用電極113上の全ての検出スポットに接触するように配置される。本体蓋154には、対電極159、電解質含有シート115および作用電極113を押さえ込むための押さえ部材162が設けられる。押さえ部材162には、光源145から照射された光が本体蓋154の光通過口161を通過し、作用電極113の裏側に光が照射されるように光照射口160が設けられる。なお、光照射口160は作用電極113に設けられた検出スポットごとに設けられており、検出スポットの個数、配置、形状が変更された場合はそれに対応した形状に加工された光照射口を有する押さえ部材に交換する。また、図19および20に示されるように、実際の光電流検出においては、作用電極113上の検出スポット113aに光を照射して検出スポットの光電流164を得た後に、光源待機位置113bに光を照射し、光源待機位置113bの光電流166を得る。この光源待機位置113bの光電流166がバックグラウンド光電流となる。ただし、押さえ部材162には検出スポットに対応した個数、配置、形状に加工された光照射口160を設けているため、実際に作用電極上の光源待機位置113bに光は照射されず、非常に小さいバックグラウンド光電流となる。なお、光源待機位置113bに対応する押さえ部材上の各光照射口の間の部分167は、隣接する検出スポットに光が漏れないように、光源145より照射される光の径よりも大きくなるように調整される。
【0035】
図21には図18の拡大図が示される。図18、図19、図21に示されるように、センサチップ112をセンサチップ受け部152に装着する際には、センサチップケース114の下面に設けられた補助部材用開口部114cを補助部材169に合わせて設置し、作用電極113を支持部材116に当接し、付勢部材117により固定する。付勢部材117は支持部材116方向に復元力がかかる例えばV字状に加工した金属、樹脂、ゴムなどの弾性体やばね等が用いられており、センサチップが取り付けられた際には弾性体やばね等の復元力がかかることにより作用電極が確実に固定される。なお、センサチップ取り付けの際には、支持部材とは逆の方向に、付勢部材の復元力に逆らって力を加えることで容易に作用電極の固定状態を解除できる。センサチップ112を取り付けると、センサチップ受け部152の凸部に設けられた対電極159と電解質含有シート115が接触し、電解質含有シート115には作用電極113が接触する。本体蓋154が閉じられると、押さえ部材162が作用電極113を押さえ込むとともに、押さえ部材162に設けられた光照射口160の各々が作用電極113の各検出スポットに対応するような適切な配置が形成される。作用電極113の電流計149への接続は作用電極用コンタクトプローブ118により行い、対電極159と電流計149の接続は対電極用コンタクトプローブ119により行う。なお、センサチップケース114には、作用電極用コンタクトプローブ118が作用電極113に接触できるように作用電極コンタクトプローブ用開口部175と対電極159が電解質シート115に接触できるように対電極用開口部114dが設けられている。
【0036】
電解質含有シート
本発明に用いる電解質含有シートは、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出において電解質媒体として用いられるシート状の電解質含有体である。そして、この電解質含有シートは、含水性基材と、含水性基材中に含有される電解質とを含んでなる。
【0037】
本発明において電解質は、含水性基材中を自由に移動して増感色素、作用電極、および対電極との間で電子の授受に関与できるものであれば限定されず、幅広い種類の電解質が使用可能である。好ましい電解質は、光照射により励起された色素に電子を供与するための還元剤(電子供与剤)として機能できる物質であり、そのような物質の例としては、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化カルシウム(CaI2)、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化アンモニウム(NH4I)、テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、ヒドロキノン、K4[Fe(CN)6]・3H2O、フェロセン−1,1’−ジカルボン酸、フェロセンカルボン酸、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、トリエチルアミン、チオシアネートアンモニウム、ヒドラジン(N2H4)、アセトアルデヒド(CH3CHO)、N,N,N’,N’−テトラメチル−p−フェニレンジアミン二塩酸塩(TMPD)、L−アスコルビン酸、亜テルル酸ナトリウム(Na2TeO3)、塩化鉄(II)四水和物(FeCl2・4H2O)、EDTA、システイン、トリエタノールアミン、トリプロピルアミン、ヨウ素を含むヨウ化リチウム(I/LiI)、トリス(2-クロロエチル)リン酸塩(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、2−メルカプトエタノール、2−メルカプトエタノールアミン、二酸化チオ尿素、(COOH)2、HCHO、およびこれらの組合せが挙げられ、より好ましくは、NaI、KI、CaI2、LiI、NH4I、テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)、および亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、およびこれらの混合物であり、さらに好ましくは、テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)である。
【0038】
(1)ゲルシート
本発明の好ましい態様によれば、含水性基材が、天然ゲルおよび合成ゲルから選択される少なくとも一種を含んでなるゲルマトリクスであって、該ゲルマトリクス中に前記電解質が分散されてなるのが好ましい。すなわち、この態様にあっては、電解質含有シートはゲルシートとして構成される。そして、電解質媒体としてゲルシートを使用した場合、電解液を用いた場合と比べて、同じ被検物質濃度のサンプルについてより高い検出電流が得られるとともに、より広い被検物質濃度範囲において検出電流の濃度依存性が得られる。すなわち、ゲルシートの使用により、光電流の検出感度および精度を大幅に向上させることができる。
【0039】
本発明の好ましい態様によれば、ゲルシートは、100g/cm2以上のゲル強度を有するのが好ましく、より好ましくは120g/cm2以上であり、さらに好ましくは150g/cm2以上である。このようなゲル強度であると、ゲルシートを単独で取り扱いやすくなるので、作用電極と対電極の間に容易に挟み込んだり、取り外したりでき、その結果、センサユニット構造および検出手順を大幅に簡素化できる。
【0040】
本発明のゲルシートの形態としては、作用電極および対電極との良好な密着性が確保されるように各電極との接触部分が平滑平面とされているのが好ましい。したがって、作用電極と対電極との間に挟み込んで使用する場合には、密着性に影響しないように均一な厚みを有する形態とするのが好ましい。一方、作用電極および対電極が同一平面状にパターニングされてなる電極ユニットを使用する場合には、少なくとも電極ユニットと接触する片側面のみが平滑平面とされていればよく、厚さや厚さの均一性は特段問題とならない。
【0041】
本発明の好ましい態様によれば、ゲルシートは0.1〜10mmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは0.5〜3mm、さらに好ましくは1〜3mmの厚さを有する。このような厚さであるとゲルシートを単独で取り扱うのに適した強度が得られやすいので、作用電極と対電極の間に容易に挟み込んだり、取り外したりでき、あるいは持ち運んだりすることができ、その結果、センサユニット構造および検出手順を大幅に簡素化できる。また、光電流測定に悪影響を与えることもない。
【0042】
本発明においてゲルマトリクスは、天然ゲルおよび合成ゲルから選択される少なくとも一種を含んでなり、適度な強度と電極への密着性を示すゲルであれば限定されない。これらのゲルは、一般的なゲルと同様、ゲル化剤が水等の溶媒と共にゲル化することにより形成されることができる。ゲルマトリクス中におけるゲル化剤の濃度は、光電流測定に大きな影響を与えることはないため、単独取り扱いを可能とする強度確保の観点からゲル化剤の種類に応じて適宜決定されてよい。
【0043】
本発明の好ましい態様によれば、ゲルマトリクスが、多糖類および蛋白質を主成分とする天然ゲルを含んでなるのが好ましい。このような天然ゲルの好ましい例としては、アガロース、アルギン酸、カラギーナン、ローストビーンガム、ジェランガム、ゼラチン、およびそれらの混合物のゲルが挙げられ、より好ましくはアガロースのゲルである。好ましいアガロースの添加量は0.5〜25重量%である。
【0044】
本発明の別の好ましい態様によれば、ゲルマトリクスが、合成ゲルを含んでなるのが好ましい。好ましい合成ゲルの例としては、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、PVA添加ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、N−アルキル変性(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−(イソ)プロピルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N−ヒドロキシメチルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−ヒドロキシプロピルアクリルアミド、N−ヒドロキシブチルアクリルアミド、(メタ)アクリル酸、t−ブチル(メタ)アクリルアミドスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、グリセリン(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、テトラアリロキシエタン、およびそれらの混合物のゲルが挙げられ、より好ましくはポリアクリルアミドのゲルである。
【0045】
本発明の好ましい態様によれば、本発明のゲルシートは、(1)電解質およびゲル化剤を水に加えて加熱溶解してゲルを作製した後、所望のシート形状に加工する方法、あるいは(2)ゲル化剤のみでゲルを形成して所望のシート形状に加工した後、電解質溶液中に浸漬させてゲル中に電解質を分散させる方法により、製造されることができる。特に、ゲル化剤は使用する電解質との組合せによっては、混合、加熱、あるいは冷却によってゲル化しない場合があり、そのような場合であっても上記(2)の方法によれば、ゲルシートを作製することができる。
【0046】
(2)吸水性シート
本発明の別の好ましい態様によれば、含水性基材が、吸水性基材であるのが好ましい。すなわち、この態様にあっては、電解質含有シートは吸水性シートとして構成される。そして、電解質媒体として吸水性シートを使用した場合、電解液を使用した場合と同等の検出感度および検出精度が得られる。すなわち、吸水性シートの使用により、光電流を精度よく検出することができる。
【0047】
本発明の好ましい態様によれば、吸水性シートは、20%以上の含水率を有するのが好ましく、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは40%以上である。このような含水率であると、光電流を検出した際に高い光電流を検出することができ、検出感度が向上する。含水率は(1mm3 辺りの含水量)/(吸水性基材の密度)より求める。なお、ここで言う含水率は光電流を検出する際の吸水性シートの含水率であって、後述するように、保管時に上記含水率を満たしていなくてもよい。
【0048】
本発明の吸水性シートの形態としては、作用電極および対電極との良好な密着性が確保されるように各電極との接触部分が平滑平面とされているのが好ましい。したがって、作用電極と対電極との間に挟み込んで使用する場合には、密着性に影響しないように均一な厚みを有する形態とするのが好ましい。一方、作用電極および対電極が同一平面状にパターニングされてなる電極ユニットを使用する場合には、少なくとも電極ユニットと接触する片側面のみが平滑平面とされていればよく、厚さや厚さの均一性は特段問題とならない。
【0049】
本発明の好ましい態様によれば、吸水性シートは0.01〜10mmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは0.1〜3mmの厚さを有する。このような厚さであると吸水性シートを単独で取り扱うのに適した強度が得られやすいので、作用電極と対電極の間に容易に挟み込んだり、取り外したりでき、あるいは持ち運んだりすることができ、その結果、センサユニット構造および検出手順を大幅に簡素化できる。また、光電流測定に悪影響を与えることもない。
【0050】
本発明において吸水性基材は、綿、麻、ウール、絹、セルロースなどの天然繊維;ろ紙、製紙などに用いられるパルプ繊維;レーヨンなどの再生繊維;ろ紙などに用いられるガラス繊維;フェルト、スポンジなどに用いられる合成繊維から選択される少なくとも一種の繊維を含んでなるのが好ましく、適度な強度、含水量、電極への密着性を示す吸水性基材であれば限定されない。なお、本発明の吸水性基材に用いる繊維の加工方法は特定の加工方法に限定されない。
【0051】
本発明の好ましい態様によれば、吸水性基材の好ましい例としては、ろ紙、メンブレンフィルター、ガラスフィルター、ろ布などが挙げられ、より好ましくはろ紙、メンブレンフィルターである。
【0052】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の電解質含有吸収性シートは、(1)所望のシート形状に加工し、水ベースの電解液に浸漬した後、使用する、あるいは(2)所望のシート形状に加工し、電解液に浸漬し、乾燥させた後、使用直前に水を滴下して使用することもできる。
【0053】
光電流を用いた被検物質の特異的検出
前述の通り、本発明のセンサチップは増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられるものである。この増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出方法について、以下に具体的に説明する。
【0054】
この方法にあっては、まず、被検物質を含む試料液と、作用電極と、対電極とを用意する。本発明に用いる作用電極は、被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を表面に備えた電極である。すなわち、プローブ物質は、被検物質と直接、特異的に結合する物質のみならず、被検物質を受容体蛋白質分子等の媒介物質に特異的に結合させて得られる結合体と特異的に結合可能な物質であってよい。次いで、増感色素の共存下、試料液を作用電極に接触させて、プローブ物質に被検物質を直接または間接的に特異的に結合させ、この結合により増感色素を作用電極に固定させる。増感色素は、光励起に応じて作用電極に電子を放出可能な物質であり、被検物質あるいは媒介物質に予め標識させておくか、あるいは被検物質およびプローブ物質の結合体にインターカレーション可能な増感色素を用いる場合には試料液に単に添加すればよい。
【0055】
そして、作用電極と対電極とをセンサチップ内において電解質含有シートに接触させた後、作用電極に光を照射して増感色素を光励起させると、光励起された増感色素から電子受容物質へ電子移動が起こる。この電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を検出することにより、被検物質を高い感度および精度で検出することができる。また、この検出電流は試料液中の被検試料濃度との高い相関関係を有しているので、測定された電流量または電気量に基づき被検試料の定量測定を行うことができる。
【0056】
(1)被検物質およびプローブ物質
本発明における被検物質としては、特異的な結合性を有する物質であれば限定されず、種々の物質であってよい。このような被検物質であれば、被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を作用電極表面に担持させておくことにより、被検物質をプローブ物質に直接または間接的に特異的に結合させて検出することが可能となる。
【0057】
すなわち、本発明にあっては、被検物質およびプローブ物質として互いに特異的に結合可能なものを選択することができる。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、特異的な結合性を有する物質を被検物質とし、被検物質と特異的に結合する物質をプローブ物質として作用電極に担持させるのが好ましい。これにより、作用電極上に被検物質を直接、特異的に結合させて検出することができる。この態様における、被検物質およびプローブ物質の組合せの好ましい例としては、一本鎖の核酸および核酸に対して相補性を有する一本鎖の核酸の組合せ、ならびに抗原および抗体の組合せが挙げられる。
【0058】
本発明のより好ましい態様によれば、被検物質を一本鎖の核酸とし、プローブ物質を核酸に対して相補性を有する一本鎖の核酸とするのが好ましい。プローブ物質は核酸に対して15bp以上の相補性部分を有するのがより好ましい。この態様における被検物質の作用電極への特異的結合の工程を図22(a)および(b)に示す。これらの図に示されるように、被検物質としての一本鎖の核酸221は、作用電極223上に担持されたプローブ物質としての相補性を有する一本鎖の核酸224とハイブリダイズされて、二本鎖の核酸227を形成する。
【0059】
被検物質としての一本鎖の核酸を含む試料液は、末梢静脈血のような血液、白血球、血清、尿、糞便、精液、唾液、培養細胞、各種臓器細胞のような組織細胞等の、核酸を含有する各種検体試料から、公知の方法により核酸を抽出して作製することができる。このとき、検体試料中の細胞の破壊は、例えば、振とう、超音波等の物理的作用を外部から加えて担体を振動させることにより行なうことができる。また、核酸抽出溶液を用いて、細胞から核酸を遊離させることもできる。核酸溶出溶液の例としては、SDS、Triton−X、Tween−20のような界面活性剤、サポニン、EDTA、プロテア−ゼ等を含む溶液が挙げられる。これらの溶液を用いて核酸を溶出する場合、37℃以上の温度でインキュベ−トすることにより反応を促進することができる。
【0060】
本発明のより好ましい態様によれば、被検物質とする遺伝子の含有量が微量である場合には、公知の方法により遺伝子を増幅した後検出を行なうのが好ましい。遺伝子を増幅する方法としては、ポリメラ−ゼチェインリアクション(PCR)等の酵素を用いる方法が代表的であろう。ここで、遺伝子増幅法に用いられる酵素の例としては、DNAポリメラ−ゼ、Taqポリメラ−ゼのようなDNA依存型DNAポリメラ−ゼ、RNAポリメラ−ゼIのようなDNA依存型RNAポリメラ−ゼ、Qβレプリカ−ゼのようなRNA依存型RNAポリメラ−ゼが挙げられ、好ましくは温度を調節するだけで連続して増幅を繰り返すことができる点で、Taqポリメラ−ゼを用いるPCR法である。
【0061】
本発明の好ましい態様によれば、上記増幅時に特異的に核酸を増感色素で標識することが出来る。一般的には、DNAにアミノアリル修飾dUTPを取り込ませることにより行うことができる。この分子は未修飾の dUTP と同じ効率で取り込まれる。次のカップリング段階において、N−ヒドロキシサクシンイミド(N−hydroxysuccinimide)により活性化された蛍光色素が修飾 dUTP と特異的に反応し、均一に増感色素で標識された被検物質が得られる。
【0062】
本発明の好ましい態様によれば、上記のようにして得られた核酸の粗抽出液あるいは精製した核酸溶液をまず90〜98℃、好ましくは95℃以上の温度で熱変性を施し、一本鎖核酸を調製することができる。
【0063】
本発明にあっては、被検物質とプローブ物質が間接的に特異的に結合するものであってもよい。すなわち、本発明の別の好ましい態様によれば、特異的な結合性を有する物質を被検物質とし、この被検物質と特異的に結合する物質を媒介物質として共存させ、この媒介物質と特異的に結合可能な物質をプローブ物質として作用電極に担持させるのが好ましい。これにより、プローブ物質に特異的に結合できない物質であっても、媒介物質を介して作用電極上に間接的に特異的に結合させて検出することができる。この態様における、被検物質、媒介物質、およびプローブ物質の組合せの好ましい例としては、リガンド、このリガンドを受容可能な受容体蛋白質分子、およびこの受容体蛋白質分子と特異的に結合可能な二本鎖の核酸の組合せが挙げられる。リガンドの好ましい例としては、外因性内分泌攪乱物質(環境ホルモン)が挙げられる。外因性内分泌撹乱物質とは、受容体蛋白質分子を介してDNAに結合し、その遺伝子発現に影響して毒性を生じる物質であるが、本発明の方法によれば、被検物質によりもたらされる受容体等のタンパク質のDNAに対する結合性を簡便にモニタリングすることができる。この態様における被検物質の作用電極への特異的結合の工程を図23に示す。図23に示されるように、被検物質としてのリガンド230は、まず、媒介物質である受容体蛋白質分子231に特異的に結合する。そして、リガンドが結合された受容体蛋白質分子233が、プローブ物質としての二本鎖の核酸234に特異的に結合する。
【0064】
本発明の好ましい態様によれば、被検物質は二種以上であることができる。本発明の方法によれば、複数の増感色素を用いて、各増感色素毎に異なる励起波長の光を照射することにより、複数種類の被検物質を個別に検出することが可能である。
【0065】
(2)増感色素
本発明にあっては、被検物質の存在を光電流で検出するために、増感色素の共存下、プローブ物質に被検物質を直接または間接的に特異的に結合させて、該結合により増感色素を作用電極に固定させる。そのために、本発明にあっては、図22(a)および図23に示されるように被検物質221あるいは媒介物質231に予め増感色素222,232で標識しておくことができる。また、図22(b)に示されるように被検物質およびプローブ物質の結合体227(例えばハイブリダイゼーション後の二本鎖核酸)にインターカレーション可能な増感色素228を用いる場合には、試料液に増感色素を添加することにより、プローブ物質に増感色素を固定させることができる。
【0066】
本発明に用いる増感色素は、光励起に応じて作用電極に電子を放出可能な物質であり、光源の照射による光励起状態への遷移が可能であり、かつ励起状態から作用電極に電子注入できる電子状態を採りうるものであればよい。したがって、用いる増感色素は、作用電極、特に電子受容層との間において上記電子状態をとることができるものであればよいことから、多種の増感色素が使用可能であり、高価な色素を使用する必要がない。
【0067】
増感色素の具体例としては、金属錯体や有機色素が挙げられる。金属錯体の好ましい例としては、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニン等の金属フタロシアニン;クロロフィルまたはその誘導体;ヘミン、特開平1−220380 号公報や特表平5−504023 号公報に記載のルテニウム、オスミウム、鉄及び亜鉛の錯体(例えばシス−ジシアネート−ビス(2、2 ’−ビピリジル−4、4 ’−ジカルボキシレート)ルテニウム(II))があげられる。有機色素の好ましい例としては、メタルフリーフタロシアニン、9−フェニルキサンテン系色素、シアニン系色素、メタロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、アクリジン系色素、オキサジン系色素、クマリン系色素、メロシアニン系色素、ロダシアニン系色素、ポリメチン系色素、インジゴ系色素等が挙げられる。
【0068】
二本鎖核酸にインターカレーション可能な増感色素の好ましい例としては、アクリジンオレンジ、エチジウムブロマイドが挙げられる。このような増感色素を用いる場合、核酸のハイブリダイゼーション後に試料液に添加するだけで増感色素で標識された二本鎖核酸が形成されるので、予め一本鎖の核酸を標識する必要が無い。
【0069】
(3)作用電極およびその製造
本発明に用いる作用電極は、上記プローブ物質を表面に備えた電極であり、プローブ物質を介して固定された増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電極である。したがって、作用電極の構成および材料は、使用される増感色素との間で上記電子移動が生じるものであれば限定されず、種々の構成および材料であってよい。
【0070】
本発明の好ましい態様によれば、作用電極が増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる電子受容層を有し、この電子受容層の表面にプローブ物質が備えられてなるのが好ましい。また、本発明のより好ましい態様によれば、作用電極が導電性基材をさらに含んでなり、この導電性基材上に電子受容層が形成されてなるのが好ましい。この態様の電極は図22および23に示される。図22および23に示される作用電極223は、導電性基材225と、この導電性基材上に形成され、電子受容物質を含んで成る電子受容層226とを備えてなる。そして、電子受容層226の表面にプローブ物質が担持される。
【0071】
本発明における電子受容層は、プローブ物質を介して固定された増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる。すなわち、電子受容物質は、光励起された標識色素からの電子注入が可能なエネルギー準位を取り得る物質であることができる。ここで、光励起された標識色素からの電子注入が可能なエネルギー準位(A)とは、例えば、電子受容性材料として半導体を用いる場合には、伝導帯(コンダクションバンド:CB)を意味し、電子受容性材料として金属を用いる場合には、フェルミ準位を意味し、電子受容性材料として有機物もしくはC60等の分子状無機物を用いる場合には、最低非占有分子軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital:LUMO)を意味する。すなわち、本発明に用いる電子受容物質は、このAの準位が、増感色素のLUMOのエネルギー準位よりも卑な準位、換言すれば、増感色素のLUMOのエネルギー準位よりも低いエネルギー準位を有するものであればよい。
【0072】
電子受容物質の好ましい例としては、シリコン、ゲルマニウムなどの単体半導体;チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、タンタル等の酸化物半導体;チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等のペロブスカイト型半導体;カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン、ビスマスの硫化物半導体;カドミウム、鉛のセレン化物半導体;カドミウムのテルル化物半導体;亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物半導体;ガリウムヒ素、銅−インジウム−セレン化物、銅−インジウム−硫化物の化合物半導体;金、白金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、ニッケル等の金属;ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール等の有機物ポリマー;C60、C70等の分子状無機物が挙げられ、より好ましくは、シリコン、TiO2、SnO2、Fe2O3、WO3、ZnO、Nb2O5、チタン酸ストロンチウム、酸化インジウム、CdS、ZnS、PbS、Bi2S3、CdSe、CdTe、GaP、InP、GaAs、CuInS2、CuInSe、C60であり、さらに好ましくは、TiO2、ZnO、SnO2、Fe2O3、WO3、Nb2O5、チタン酸ストロンチウム、CdS、PbS、CdSe、InP、GaAs、CuInS2、CuInSe2であり、最も好ましくはTiO2である。なお、上記の列挙した半導体は、真性半導体および不純物半導体のいずれであってもよい。
【0073】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容物質は半導体であるのが好ましく、より好ましくは酸化物半導体であり、さらに好ましくは金属酸化物半導体であり、最も好ましくはn型金属酸化物半導体である。この態様によれば、半導体のバンドギャップの利用により、色素から効率良く電子を取り出すことができる。また、多孔体あるいは表面の凹凸形状といった構造を有する半導体の使用により、表面積の大きい作用電極を作製することができ、プローブ固定化量を増加させることができる。
【0074】
本発明の好ましい態様によれば、半導体の伝導帯の電位は、増感色素のLUMOの電位よりも低いことが好ましく、より好ましくは、増感色素のLUMO>半導体の伝導帯>電解質の酸化還元電位>増感色素のHOMOの関係を満たす電位である。このような関係にあることで、効率良く電子を取出すことが可能となる。
【0075】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容層が半導体からなる場合、層表面をカチオン化処理しても良い。カチオン化により、プローブ物質(DNA,タンパク質など)を高い効率で電子受容層に吸着させることが可能となる。カチオン化は、例えばアミノシランなどのシランカップリング剤、カチオンポリマー、4級アンモニウム化合物、などを電子受容層表面に作用させることにより行うことができる。
【0076】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、電子受容物質として、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)またはフッ素がドープされた酸化スズ(FTO)を用いることができる。ITOおよびFTOは電子受容層のみならず導電性基材としても機能する性質を有するため、これらの材料を使用することにより導電性基材を用いることなく電子受容層のみで作用電極として機能させることができる。
【0077】
電子受容物質として半導体または金属を用いる場合、その半導体または金属は単結晶および多結晶のいずれであってもよいが、多結晶体が好ましく、さらに緻密なものよりも多孔性を有するものが好ましい。これにより、比表面積が大きくなり、被検物質および増感色素を多く吸着させて、より高い感度および精度で被検物質を検出することができる。したがって、本発明の好ましい態様によれば、電子受容層が多孔性を有しており、各孔の径が3〜1000nmであるのが好ましく、より好ましくは、10〜100nmである。
【0078】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容層を導電性基材上に形成した状態での表面積は、投影面積に対して10倍以上であることが好ましく、さらに100倍以上であることが好ましい。この表面積の上限には特に限定されないが、通常1000倍程度であろう。電子受容層を構成する電子受容物質の微粒子の粒径は、投影面積を円に換算したときの直径を用いた平均粒径で一次粒子として5〜200nmであることが好ましく、より好ましくは8〜100nmであり、さらに好ましくは20〜60nmである。また、分散物中の電子受容性物質の微粒子(二次粒子)の平均粒径としては0.01〜100μmであることが好ましい。また、入射光を散乱させて光捕獲率を向上させる目的で、粒子サイズの大きな、例えば300nm程度の電子受容物質の微粒子を併用して、電子受容層を形成してもよい。
【0079】
本発明の好ましい態様によれば、作用電極が導電性基材をさらに含んでなり、電子受容層が導電性基材上に形成されてなるのが好ましい。本発明に使用可能な導電性基板としては、チタン等の金属のように支持体そのものに導電性があるもののみならず、ガラスもしくはプラスチックの支持体の表面に導電材層を有するものであってよい。この導電材層を有する導電性基板を使用する場合、電子受容層はその導電層上に形成される。導電材層を構成する導電材の例としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等の金属;炭素、炭化物、窒化物等の導電性セラミックス;およびインジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの、酸化スズにアンチモンをドープしたもの、酸化亜鉛にガリウムをドープしたもの、または酸化亜鉛にアルミニウムをドープしたもの等の導電性の金属酸化物が挙げられ、より好ましくは、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、酸化スズにフッ素をドープした金属酸化物(FTO)である。ただし、前述した通り、電子受容層自体が導電性基材としても機能する場合にあっては導電性基材は省略可能である。また、本発明において、導電性基材は、導電性を確保できる材料であれば限定されず、それ自体では支持体としての強度を有しない薄膜状またはスポット状の導電材層も包含するものとする。
【0080】
本発明の好ましい態様によれば、導電性基材が実質的に透明、具体的には、光の透過率が10%以上であるのが好ましく、より好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。また、本発明の好ましい態様によれば、導電材層の厚みは、0.02〜10μm程度であるのが好ましい。さらに、本発明の好ましい態様によれば、導電性基材の表面抵抗が100Ω/cm2以下であり、さらに好ましくは40Ω/cm2以下であるのが好ましい。導電性基材の表面抵抗の下限は特に限定されないが、通常0.1Ω/cm2程度であろう。
【0081】
導電性基材上への電子受容層の好ましい形成方法の例としては、電子受容物質の分散液またはコロイド溶液を導電性支持体上に塗布する方法、半導体微粒子の前駆体を導電性支持体上に塗布し空気中の水分によって加水分解して微粒子膜を得る方法(ゾル−ゲル法)、スパッタリング法、CVD法、PVD法、蒸着法などが挙げられる。電子受容物質としての半導体微粒子の分散液を作成する方法としては、前述のゾル−ゲル法の他、乳鉢ですり潰す方法、ミルを使って粉砕しながら分散する方法、あるいは半導体を合成する際に溶媒中で微粒子として析出させそのまま使用する方法等が挙げられる。このときの分散媒としては水または各種の有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジクロロメタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル等)が挙げられる。分散の際、必要に応じてポリマー、界面活性剤、酸、もしくはキレート剤などを分散助剤として使用してもよい。
【0082】
電子受容物質の分散液またはコロイド溶液の塗布方法の好ましい例としては、アプリケーション系としてローラ法、ディップ法、メータリング系としてエアーナイフ法、ブレード法等、またアプリケーションとメータリングを同一部分でできるものとして、特公昭58−4589号公報に開示されているワイヤーバー法、米国特許2681294号、同2761419号、同2761791号等に記載のスライドホッパ法、エクストルージョン法、カーテン法、スピン法、スプレー法が挙げられる。
【0083】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容層が半導体微粒子からなる場合、電子受容層の膜厚が0.1〜200μmであるのが好ましく、より好ましくは0.1〜100μmであり、さらに好ましくは1〜30μm、最も好ましくは2〜25μmである。これにより、単位投影面積当たりのプローブ物質および固定される増感色素量を増加して光電流量を多くするとともに、電荷再結合による生成した電子の損失をも低減することができる。また、導電性基材1m2当たりの半導体微粒子の塗布量は0.5〜400gであるのが好ましく、より好ましくは5〜100gである。
【0084】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容物質がインジウム−スズ複合酸化物(ITO)または酸化スズにフッ素をドープした金属酸化物(FTO)を含んでなる場合、電子受容層の膜厚が1nm以上であるのが好ましく、より好ましくは10nm〜1μmである。
【0085】
本発明の好ましい態様によれば、半導体微粒子を導電性基材上に塗布した後に加熱処理を施すのが好ましい。これにより、粒子同士を電気的に接触させ、また、塗膜強度の向上や支持体との密着性を向上させることができる。好ましい加熱処理温度は、40〜700℃であり、より好ましくは100〜600℃である。また、好ましい加熱処理時間は10分〜10時間程度である。
【0086】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、ポリマーフィルムなど融点や軟化点の低い導電性基材を用いる場合にあっては、熱による劣化を防止するため、高温処理を用いない方法により膜形成を行うのが好ましく、そのような膜形成方法の例として、プレス、低温加熱、電子線照射、マイクロ波照射、電気泳動、スパッタリング、CVD、PVD、蒸着等の方法が挙げられる。
【0087】
こうして得られた作用電極の電子受容層の表面にはプローブ物質が担持される。作用電極へのプローブ物質の担持は公知の方法に従い行うことができる。本発明の好ましい態様によれば、プローブ物質として一本鎖の核酸を用いる場合には、作用電極表面に酸化層を形成させておき、この酸化層を介して核酸プロ−ブと作用電極とを結合させることにより行うことができる。このとき、核酸プローブの作用電極への固定化は、核酸の末端に官能基を導入することにより行うことができる。これにより、官能基が導入された核酸プロ−ブはそのまま固定化反応により担体上に固定化されることができる。核酸末端への官能基の導入は、酵素反応もしくはDNA合成機を用いて行なうことができる。酵素反応において用いられる酵素としては、例えば、タ−ミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラ−ゼ、ポリAポリメラ−ゼ、ポリヌクレオチドカイネ−ス、DNAポリメラ−ゼ、ポリヌクレオチドアデニルトランスフェラ−ゼ、RNAリガ−ゼを挙げることができる。また、ポリメラ−ゼチェインリアクション(PCR法)、ニックトランスレ−ション、ランダムプライマ−法により官能基を導入することもできる。官能基は、核酸のどの部分に導入されてもよく、3’末端、5’末端もしくはランダムな位置に導入することができる。
【0088】
本発明の好ましい態様によれば、核酸プローブの作用電極への固定化のため官能基として、アミン、カルボン酸、スルホン酸、チオール、水酸基、リン酸等が好適に使用できる。また、本発明の好ましい態様によれば、拡散プローブを作用電極に強固に固定化するためには、作用電極と拡散プローブの間を架橋する材料を使用することも可能である。そのような架橋材料の好ましい例としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤や、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性ポリマーが挙げられる。
【0089】
本発明の好ましい態様によれば、核酸プロ−ブの固定化を物理吸着という、より簡単な操作で効率よく行うことも可能である。電極表面への核酸プロ−ブの物理吸着は、例えば、以下のように行なうことができる。まず、電極表面を、超音波洗浄器を用いて蒸留水およびアルコ−ルで洗浄する。その後、電極を核酸プロ−ブを含有する緩衝液に挿入して核酸プロ−ブを担体表面に吸着させる。
【0090】
また、核酸プローブの吸着後、ブロッキング剤を添加することにより、非特異的な吸着を抑制することができる。使用可能なブロッキング剤としては、核酸プローブが吸着していない電子受容層表面のサイトを埋めることができ、かつ電子受容物質に対して化学吸着あるいは物理吸着等により吸着可能な物質であれば限定されないが、好ましくは化学結合を介して吸着可能な官能基を有する物質である。例えば、酸化チタンを電子受容層として用いる場合における好ましいブロッキング剤の例としては、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基、水酸基、アミノ基、ピリジル基、アミド等の酸化チタンに吸着可能な官能基を有する物質が挙げられる。
【0091】
本発明の好ましい態様によれば、作用電極上にプローブ物質が互いに分離された複数の領域毎に区分されて担持されてなり、光源による光照射が各領域に対して個別に行われるのが好ましい。これにより、複数の試料を一枚の作用電極上で測定することができるので、DNAチップの集積化等が可能となる。本発明のより好ましい態様によれば、作用電極上にプローブ物質が担持された、互いに分離された複数の領域がパターニングされており、光源から照射される光でスキャニングしながら、各領域の試料について被検物質の検出または定量を一度の操作で連続的に行うことが好ましい。
【0092】
本発明のより好ましい態様によれば、作用電極上の互いに分離された複数の領域の各領域に複数種類のプローブ物質を担持させることができる。これにより、領域の個数に、各領域毎のプローブ物質の種類数を乗じた数の、多数のサンプルの測定を同時に行うことができる。
【0093】
本発明のより好ましい態様によれば、作用電極上の互いに分離された複数の領域の各領域毎に異なるプローブ物質を担持させることができる。これにより、区分された領域の数に相当する種類数のプローブ物質を担持させることができるので、多種類の被検物質の測定を同時に行うことができる。この態様は、各領域毎に異なる被検物質の分析が可能なため、一塩基多型の解析(SNPs)の多項目解析に好ましく利用することができる。
【0094】
(4)対電極
本発明に用いる対電極は、電解液に接触させた場合に作用電極との間に電流が流れることができるものであれば特に限定されず、金属もしくは導電性の酸化物を蒸着したガラス、プラスチック、セラミックス等が使用可能である。また、対電極としての金属薄膜を5μm以下、好ましくは3nm〜3μmの範囲の膜厚になるように、蒸着やスパッタリングなどの方法により形成して作成することもできる。対電極に使用可能な材料の好ましい例としては、白金、金、パラジウム、ニッケル、カーボン、ポリチオフェン等の導電性ポリマー、酸化物、炭化物、窒化物等の導電性セラミックス等が挙げられ、より好ましくは、白金、カーボンであり、最も好ましくは白金である。これらの材料は電子受容層の形成方法と同様の方法により薄膜形成が可能である。
【0095】
(5)電極ユニット
本発明の好ましい態様によれば、作用電極および対電極が同一平面上にパターニングされてなる電極ユニットを使用してもよい。好ましい電極ユニットは、絶縁基板と、絶縁基板上に局所的に設けられる、増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる電子受容層を備えた作用電極と、絶縁基板の作用電極と同一面上に、作用電極と離間して設けられる対電極とを備えてなる。そのような電極ユニットの一例が図24に示される。図24に示される電極ユニット271は、絶縁基板272と、作用電極273と、対電極274とを備えてなる。絶縁基板272は、作用電極272と対電極273とを短絡させないように絶縁性を有する基板である。作用電極273は、絶縁基板272上に局所的に設けられ、増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる電子受容層を備えてなる。対電極274は、絶縁基板272の作用電極273と同一面上に、作用電極273と離間して設けられる。そして、作用電極272および対電極274の各々から延出するようにリード線272’,274’がそれぞれ設けられる。
【0096】
このように、電極ユニットは、同一平面上に作用電極と対電極とを備えた一体型の電極部材であり、これを用いることにより、センサユニットの設計および材料選択の自由度が格段に広がり、センサユニットの生産性、性能、使い易さを大幅に改善できる。すなわち、本発明による電極ユニットは一体型の電極部材であり二枚の電極を対向させる必要が無いため、光源を電極ユニットの表面に対向させる構成を容易に採ることができる。その結果、作用電極を透明な材料に限らずセラミックスやプラスチック等の不透明な材料で構成することが可能となるので、電極材料の選択の自由度も広がる。また、光源からの作用電極表面の直接照射により、電極裏面から照射した際に起こる透明電極材料の透過度に起因する光の損失を無くすこともできるので、より精度の高い測定も期待できる。さらには、本発明による電極ユニットは一体型の電極部材であるため、作用電極、対電極、およびリード線を一工程の導通パターニングで形成することが可能となるため、電極の生産性が向上する。また、電極ユニットに対向させる材料は導電性を有する必要がないため、透明プラスチック、ガラスなどの汎用される材料を用いる事ができ、セルの生産性も向上する。
【0097】
(6)測定方法
本発明のセンサチップを用いた測定方法にあっては、先ず、増感色素の共存下、試料液を作用電極に接触させて、プローブ物質に被検物質を直接または間接的に特異的に結合させ、この結合により増感色素を前記作用電極に固定させる。
【0098】
本発明の好ましい態様によれば、増感色素で予め標識された一本鎖の核酸を被検物質とする場合、プローブ物質である一本鎖核酸との間でハイブリダイゼーション反応を行なうことができる。ハイブリダイゼーション反応の好ましい温度は37〜72℃の範囲であるが、その最適温度は使用するプロ−ブの塩基配列や長さ等により異なる。
【0099】
本発明の別の好ましい態様によれば、被検物質およびプローブ物質の結合体(例えばハイブリダイゼーション後の二本鎖核酸)にインターカレーション可能な増感色素を用いる場合には、試料液に増感色素を添加することにより結合体を特異的に増感色素で標識することができる。
【0100】
こうして被検物質が増感色素と共に固定された作用電極を、対電極と共に電解液に接触させ、作用電極に光を照射して増感色素を光励起させ、光励起された増感色素から作用電極への電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を検出する。その際のセンサユニットとして、本発明の電解質含有シートを用いたセンサチップを使用する。
【0101】
本発明の好ましい態様によれば、互いに異なる光波長で励起可能な二種以上の増感色素を用いて複数種類の被検物質を個別に検出する場合、光源から波長選択手段を介して特定波長の光を照射することにより、複数の色素を個別に励起することが可能である。波長選択手段の例としては、分光器、色ガラスフィルター、干渉フィルター、バンドパスフィルター等が挙げられる。また、増感色素の種類に応じて異なる波長の光を照射可能な複数の光源を用いてもよく、この場合の好ましい光源の例としては、特定波長の光が照射されるレーザー光やLEDを用いてもよい。また、作用極に光を効率よく照射するため、石英、ガラス、液体ライトガイドを用いて導光してもよい。
【0102】
光照射により系内を流れる光電流は電流計により測定される。これにより、被検物質を検出することができる。その際の電流値は作用電極上にトラップされた増感色素の量を反映する。例えば、被検物質が核酸の場合、相補性のある核酸間で形成された二本鎖の量が、電流値となり反映される。したがって、得られた電流値から被検物質を定量することができる。したがって、本発明の好ましい態様によれば、電流計が、得られた電流量または電気量から試料液中の被検物質濃度を算出する手段をさらに備えてなるのが好ましい。
【0103】
本発明の好ましい態様によれば、光電流を検出する工程が、電流値を測定し、得られた電流値または電気量から試料液中の被検物質濃度を算出することができる。この被検物質濃度の算出は、予め作成された被検物質濃度と電流値または電気量との検量線と、得られた電流値または電気量とを対比することにより行うことができる。本発明の方法にあっては、電流値は作用電極上にトラップされた増感色素の量が反映されるので、被検物質濃度に対応した正確な電流値が得られるため、定量測定に適する。
【0104】
本発明の別の好ましい態様によれば、予め増感色素で標識された被検物質を競合物質として用いて、増感色素で標識されていない、プローブ物質に特異的に結合可能な第二の被検物質を定量することができる。第二の被検物質はプローブ物質に標識済被検物質よりも特異的に結合しやすい性質を有するのが好ましい。これら二種類の被検物質を競合させてプローブ物質に特異的に結合させると、検出される電流値と第二の被検物質の濃度との間に相関関係が得られる。つまり、色素標識されていない第二の被検物質の数が増加するにつれ、プローブ物質に特異的に結合する競合物質の数が減少するため、第二の被検物質濃度の増加につれて、検出電流値が減少する検量線を得ることができる。したがって、増感色素で標識されていない第二の被検物質の検出および定量が可能となる。
【0105】
本発明のより好ましい態様によれば、被検物質および第二の被検物質が抗原であり、プローブ物質が抗体であるのが好ましい。この態様における被検物質および第二の被検物質のプローブ物質への固定化工程を図25に示す。図25に示されるように、増感色素で標識された抗原241と、色素標識されていない抗原242とが競合して抗体243に特異的に結合する。したがって、色素標識されていない抗原242が増加するにつれ、抗体に特異的に結合する色素標識された抗原243が減少するため、第二の被検物質濃度の増加につれて、検出電流値が減少する検量線を得ることができる。
【実施例】
【0106】
例A1:ゲルシートを用いた光電流測定
(1)色素標識DNA固定化作用電極の作製
作用電極用のガラス基材として、フッ素をドープした酸化スズ(F−SnO2:FTO)コートガラス(エイアイ特殊硝子社製、U膜、シート抵抗:12Ω/□、形状:50mm×26mm)を用意した。このガラス基材をアセトン中で15分間、続いて超純水中で15分間超音波洗浄を施して、汚れおよび残存有機物の除去を行った。このガラス基材を5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で15分間振盪させた。その後、水酸化ナトリウムの除去のために超純水中での5分間の振盪を水を入れ替えて3回行った。ガラス基材を取り出して空気を吹き付けて残水を飛散させた後、ガラス基材を無水メタノールに浸漬させて脱水した。
【0107】
95%メタノール5%超純水を溶媒として、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を2vol%となるように加え、室温下で5分間の攪拌を行って、カップリング処理用の溶液を調製した。このカップリング処理用溶液に上記ガラス基材を浸漬させ、ゆっくりと15分間振盪させた。次いで、ガラス基材を取り出し、メタノール中で10回ほど振盪させて余剰なカップリング処理用溶液を除く操作を、メタノールを3回換えて行った。その後、ガラス基材を110℃で30分間保持してカップリング剤をガラス基材に結合させた。ガラス基材を室温下で冷却した後、直径3mmの大きさの開口部が9スポット形成された粘着性シール(厚さ:0.5mm)を載置して密着させた。続いて、濃度調整した(100 nM)ローダミン標識ssDNA(25mer)を95℃で10分間保持した後、直ちに氷上に移して10分間保持してDNAを変性させた。この変性DNAを先に用意したガラス上のシールの9開口部に5μlずつ充填し、95℃で10分保持して溶媒を蒸発させた。その後、UVクロスリンカー(UVP社CL−1000型)で120mJの紫外光を照射して、標識ssDNAをガラス基材に固定化した。シールをガラス基材から剥がし、ガラス基材を0.2%SDS溶液中で15分間×3回振盪させ、超純水を3回入れ替えて濯いだ。このガラス基材を沸騰水に2分間浸漬させて取り出した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。続いて、ガラス基材を4℃の無水エタノールに1分間浸漬させて脱水し、空気を吹き付けて残留エタノールを飛散させた。こうして、色素標識DNA固定化作用電極を得た。
【0108】
(2)ゲルシートの作製
0.1M、0.2M、および0.5Mのテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)を含む水溶液を調製した。この水溶液に最終濃度1%のアガロース(電気泳動用アガローススタンダードLow−mr、BIO−Rad社)を加え、121℃で20分間オートクレーブにて加熱して、アガロースを溶解させた。アガロースが溶解した状態の液を、厚さ1.0mmのパッキンを挟んだ2枚のガラス板の間に流し込み、室温下で放冷および固化させて、ゲルシートを得た。得られたゲルシートをカッターで適当な大きさに裁断して、光電流測定用のサイズに加工した。
【0109】
(3)光電流測定
(i)ゲルシートを用いた測定
上記(1)で作製した色素標識DNA固定化作用電極と、ガラス板上に白金が蒸着されてなる対電極とを用意した。両電極間に上記(2)で作製したゲルシートを挟み、密着させた。この時、作用電極のssDNAが固定化された面と対電極の白金蒸着面とが対向するように配置した。両電極を電気化学アナライザーに接続した状態で、作用電極にレーザー光源(出力60mW、照射領域の直径1mm、波長530nmの緑色レーザー)を照射し、その時に観察される電流値を記録した。
【0110】
(ii)電解液を用いた測定(比較)
比較のため、ゲルシートの代わりに電解液を用いて、上記(i)と同様の測定を行った。具体的には、上記(1)で得られた色素標識DNA固定化作用電極と、ガラス板上に白金が蒸着されてなる対電極とを用意した。両電極間に厚さ1mmのガスケットを挟み、その空隙に上記(1)で調整した0.2M NPrI4溶液を充填した。この時、作用電極のssDNAが固定化された面と対電極の白金蒸着面とが対向するように配置した。両電極を電気化学アナライザーに接続した状態で、作用電極にレーザー光源(出力60mW、照射領域の直径1mm、波長530nmの緑色レーザー)を照射し、その時に観察される
電流値を記録した。
【0111】
結果を図26に示す。図26に示されるように、ゲルシートを使用した場合にあっては、0.1〜0.5Mの電解質濃度の全域にわたって、電解液を使用した場合よりも格段に高い光電流が検出された。
【0112】
例A2:ゲル濃度の影響
(1)色素標識DNA固定化作用電極の作製
固定化するssDNA濃度を10nMと100nMの2濃度としたこと以外は、例A1と同様にして、色素標識DNA固定化作用電極を作製した。
(2)ゲルシートの作製
アガロース濃度を0.5%、4%、8%、および10%と変化させたこと以外は、例A1と同様にしてゲルシートを作製した。
(3)光電流測定
上記(1)で作製した吸着固定化濃度の異なる各作用電極と、上記(2)で作製したアガロース濃度の異なる各ゲルシートを用いて、例A1と同様にして光電流を測定した。
【0113】
結果を図27に示す。図27に示されるように、0.5%〜10%のアガロース濃度の全域にわたって、アガロース濃度の光電流値への影響はほとんど認められなかった。したがって、十分な強度を得る観点からゲルを比較的多く使用しても、光電流検出への悪影響は無いことが推察される。
【0114】
例A3:ゲルシートの厚さの影響
(1)色素標識DNA固定化作用電極の作製
固定化するssDNA濃度を10nMと100nMの2濃度としたこと以外は例A1(1)と同様にして、色素標識DNA固定化作用電極を作製した。
(2)ゲルシートの作製
アガロース濃度を1%に固定し、ゲルシートの厚さを1mm、2mm、および3mmとしたこと以外は、例A1と同様にしてゲルシートを作製した。
(3)光電流測定
上記(1)で作製した吸着固定化濃度の異なる各作用電極と、上記(2)で作製した厚さの異なる各ゲルシートを用いて、例A1と同様にして光電流を測定した。
【0115】
結果を図28に示す。図28に示されるように、1mm〜3mmのゲルシート厚さの全域にわたって、光電流値への影響はほとんど認められなかった。したがって、十分な強度を得る観点からゲルシート厚さを大きくしても、光電流値検出への悪影響は無いことが推察される。
【0116】
例A4:ゲルシートの作製方法の検討
電解質およびゲル化剤(アガロース)を水に加えて加熱溶解してゲルを作製した場合(以下、混合調製という)と、ゲル化剤のみでゲルを形成した後に電解質溶液中に浸漬させてゲル中に電解質を分散させた場合(以下、浸漬調製という)とにおける、光電流測定への影響を検討した。具体的には、混合調製にあっては、例A1と同様にして厚さ1mmのゲルシートを作製し、適当な大きさに裁断した。一方、浸漬調製にあっては、電解質を使用しないこと以外は例1と同様して厚さ1mmのゲルシートを作製し、適当な大きさに裁断した後に、0.2MのNPr4I溶液中にゲルシートを一晩、室温で浸漬させた。続いてこのゲルシートを溶液から取り出した後、付着した残余還元剤溶液を純水で洗い流した後、水気を切った。各ゲルシートを、作用電極と対電極間に挟み込み、例A1(3)と同様にして光電流測定を行った。また、ローダミン標識ssDNA濃度が0nM、および10nMの各溶液を用いて作製した作用電極も作製して上記同様に光電流測定を行った。
【0117】
結果を図29に示す。図29に示されるように、浸漬調製により作製したゲルシートも、混合調製により作製したゲルシートと同程度の光電流が検出される、すなわち同様の性能が得られることが分かる。したがって、電解質とゲル化剤との組合せが混合調製に適さない場合(例えばポリアクリルアミドゲルとNPr4Iの組合せなどのように加熱溶解させて固化させることが困難な場合)であっても、ゲル化させた後に含浸させる浸漬調製によればゲルシートを容易に作製することができる。
【0118】
例A5:ゲルシートのゲル強度の検討
(1)電解質を含まないゲルシートの作製
電解質を使用せず、かつアガロースの最終濃度を0.1%、0.5%、0.8%、1%、2%、4%、8%、15%としたこと以外は、例A1と同様にしてゲルシートを作製した。
(2)ゲルシートの強度測定
得られたゲルシートのゲル強度(g/cm2)を「レオメーターCR200D」(サン科学社製)のMODE−2により測定した。図30にこの「レオメーターCR200D」の概略図を示す。図30に示されるように、この測定装置は、テーブル281と、棒状アダプター282とを備えている。使用した棒状アダプター282は、アクリル樹脂製の、サン科学社製アダプターNO.25−15mmであり、ゲルシートと接触する面の直径が15mmである。図31に示されるように、この測定においては、テーブル281上に形状が30mm×30mm、厚さ1mmのゲルシートを設置し、棒状アダプター282を100mm/minの速度で0.8mmの深さに進入させてゲルを圧縮し、その際にかかる最大荷重を測定した(荷重はHOLDに設定)。その際、ゲルシートから棒状アダプターがはみ出さないようにゲルシートを設置した。この測定を、ゲルシートを交換して3回ずつ行い、その平均を表面積あたりの荷重に換算したものをゲル強度(g/cm2)とした
。
【0119】
結果を図32に示す。図32に示されるように、アガロース添加量が多いほど、ゲル強度が増大することがわかる。また、アガロース濃度が0.1%の時はゲル化しなかったが、アガロース濃度が0.5%の場合には単独で取り扱うことが可能なゲルシートが得られ、その際のゲル強度は169.9g/cm2であった。以上のことから、単独で取り扱うことが可能なゲルシートを形成するには、ゲル強度が少なくとも100g/cm2以上であることが望ましい。
【0120】
例A6:ポリアクリルアミドを用いたゲルシート
7.5%ポリアクリルアミドゲル(厚さ1mm)を適当な大きさに裁断し、0.2M NPr4I溶液に室温で一晩浸漬して、還元剤を含浸させた。純水で残余の還元剤溶液を洗い流し、水気を切った後に、例A1と同様にして光電流を測定した。また、参考のため、同じ厚さのゲルシートを1重量%アガロースを用いて作製し、同様に0.2M NPr4I溶液に室温で一晩浸漬して、還元剤を含浸させて使用し、例A1と同様にして光電流の測定を行った。色素標識DNA固定化作用電極の作製は例A1と同様にして行い、ローダミン標識ssDNA濃度が0nM、および10nMの各溶液を用いて作製した作用電極も作製して上記同様に光電流測定を行った。
【0121】
結果を図33に示す。図33に示されるように、アクリルアミドを用いたゲルシートにあっては、アガロースを用いたゲルシートと同程度の光電流が測定された。
【0122】
例A7:各種電解質の検討
各種電解質を用いて光電流測定を行った。具体的には、ゲル化剤として1重量%アガロースを用い、各還元剤の濃度を0.2Mに固定して、ゲルシートを作製した。電解質としては、NaI、KI、CaI2、LiI、NH4I、テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)および亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)を用いた。アガロースと電解質を水に加え、例A1と同様にオートクレーブにして加熱溶解させたものを、室温で放冷して固化させて、適当な大きさに裁断してゲルシートを作製した。光電流の測定は例A1と同様にして行った。色素標識DNA固定化作用電極の作製は例A1と同様にして行い、ローダミン標識ssDNA濃度が0nM、および10nMの各溶液を用いて作製した作用電極も作製して上記同様に光電流測定を行った。
【0123】
結果を図34に示す。検討したいずれの還元剤でも、ssDNA固定化量に依存して光電柱の増加が認められ、使用可能であることが明らかになった。
【0124】
例A8:一塩基多型(SNPs)検出
本例では、p53遺伝子の一塩基多型の検出にゲルシートを応用した。作用電極側に完全一致プローブ、一塩基変異鎖プローブ、および完全不一致プローブを固定化した。それぞれの塩基配列は下記の通りとした。
完全一致(PM)プローブ: 5’−NH2−AGGATGGGCCTCAGGTTCATGCCGC−3’(配列番号1)
一塩基変異鎖(SNP)プローブ: 5’−NH2−AGGATGGGCCTCCGGTTCATGCCGC−3’(配列番号2)
完全不一致(MM)プローブ: 5’−NH2−GCGGCATGAACCGGAGGCCCATCCT−3’(配列番号3)
【0125】
これらのプローブとハイブリダイゼーションさせるターゲットDNAの塩基配列は下記の通りとした。
ターゲットDNA: 5’−ローダミン−GCGGCATGAACCTGAGGCCCATCCT−3’(配列番号4)
【0126】
作用電極用のガラス基材として、フッ素をドープした酸化スズ(F−SnO2:FTO)コートガラス(エイアイ特殊硝子社製、U膜、シート抵抗:12Ω/□、形状:50mm×26mm)を用意した。このガラス基材をアセトン中で15分間、続いて超純水中で15分間超音波洗浄を施して、汚れおよび残存有機物の除去を行った。このガラス基材を5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で15分間振盪させた。その後、水酸化ナトリウムの除去のために超純水中での5分間の振盪を水を入れ替えて3回行った。ガラス基材を取り出して空気を吹き付けて残水を飛散させた後、ガラス基材を無水メタノールに浸漬させて脱水した。
【0127】
95%メタノール5%超純水を溶媒として、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を2vol%となるように加え、室温下で5分間の攪拌を行って、カップリング処理用の溶液を調製した。このカップリング処理用溶液に上記ガラス基材を浸漬させ、ゆっくりと15分間振盪させた。次いで、ガラス基材を取り出し、メタノール中で10回ほど振盪させて余剰なカップリング処理用溶液を除く操作を、メタノールを3回換えて行った。その後、ガラス基材を110℃で30分間保持してカップリング剤をガラス基材に結合させた。ガラス基材を室温下で冷却した後、直径3mmの大きさの開口部が9スポット形成された粘着性シール(厚さ:0.5mm)を載置して密着させた。続いて、1μMに調製した完全一致鎖、一塩基変異鎖、完全不一致鎖のプローブDNA(25mer)を95℃で10分間保持した後、直ちに氷上に移して10分間保持してDNAを変性させた。この変性DNAを先に用意したガラス上のシールの9開口部に5μlずつ充填し、95℃で10分保持して溶媒を蒸発させた。その後、UVクロスリンカー(UVP社CL−1000型)で120mJの紫外光を照射して、プローブDNAをガラス基材に固定化した(各プローブにつき、3スポットずつ固定化)。シールをガラス基材から剥がし、ガラス基材を0.2%SDS溶液中で15分間×3回振盪させ、超純水を3回入れ替えて濯いだ。このガラス基材を沸騰水に2分間浸漬させて取り出した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。続いて、ガラス基材を4℃の無水エタノールに1分間浸漬させて脱水し、空気を吹き付けて残留エタノールを飛散させた。こうして、プローブDNA固定化作用電極を得た。
【0128】
その後、ターゲットDNAを含む5×SSC、0.5%SDS溶液を、プローブを固定した電極にのせてカバーガラスで密閉した状態で37℃で10時間保温した。その後、電極をラックに立て、63℃の0.2×SSC、0.2%SDS溶液5Lを入れた水槽中に1分間浸漬させた後、水で2回すすぎ電極を乾燥させた。
【0129】
こうして得られた作用電極を測定セルに組み込み、測定セル上に光源自動移動用XYステージを取り付けた。セル部分の構成はゲルシートを用いる場合は作用電極と白金対電極とを対向させ、両電極間に接触による短絡を防止しゲルシートを挟み込んだ。電解液を用いる場合は作用電極と白金対電極とを対向させ、両電極間に接触による短絡を防止し、電解液を充填するための空間を作り出すことを目的として、膜厚が500μmのシリコンシートを挿入した。シリコンシートには全スポットが入る十分大きい穴が空いており、ここに送液された電解液が溜まり、作用電極上に固定化されたDNAが接触する構造になっている。作用電極、対電極共に、電気的に接しているスプリングプローブを介して高感度な電流計に接続した。
【0130】
続いて自動移動用XYステージに固定した光源により作用電極裏面の上方から光を照射し、作用電極と白金対電極の間に流れる電流を経時的に測定した。作用電極の上方にはFTO基板上のスポットと同形状の遮光部材を設けて、隣接するスポットへの光照射を防止すると同時に、光の無照射スポットを設けた。測定はスポットを順次走査し、同時にスポットでの電流出力をパソコンに接続された高感度電流計を介してパソコンに記憶した。
【0131】
ターゲットDNA濃度が1μMの場合の結果を図35に、ターゲットDNA濃度が100nMの場合の結果を図36に示す。図35および36に示されるように、ターゲット濃度が1μMの場合には電解液およびゲルシートのいずれの形態であっても一塩基多型(SNPs)を光電流値の差として検出することができたが、100nMの場合にはSNPsを光電流値の差として検出できたのはゲルシートの形態だけであった。
【0132】
例B1:電解質含有吸水性シートを用いた光電流測定
(1)色素標識DNA固定化作用電極の作製
作用電極用のガラス基材として、フッ素をドープした酸化スズ(F-SnO2:FTO)コートガラス(エイアイ特殊硝子社製、U膜、シート抵抗:12Ω/□、形状:50mm×26mm)を用意した。このガラス基材をアセトン中で15分間、続いて超純水中で15分間超音波洗浄を施して、汚れおよび残存有機物の除去を行った。このガラス基材を5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で15分間振盪させた。その後、水酸化ナトリウムの除去のために超純水中での5分間の振盪を水を入れ替えて3回行った。ガラス基材を取り出して空気を吹き付けて残水を飛散させた後、ガラス基材を無水メタノールに浸漬させて脱水した。
【0133】
95%メタノール5%超純水を溶媒として、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を2vol%となるように加え、室温下で5分間の攪拌を行って、カップリング処理用の溶液を調製した。このカップリング処理用溶液に上記ガラス基材を浸漬させ、ゆっくりと15分間振盪させた。次いで、ガラス基材を取り出し、メタノール中で10回ほど振盪させて余剰なカップリング処理用溶液を除く操作を、メタノールを3回換えて行った。その後、ガラス基材を110℃で30分間保持してカップリング剤をガラス基材に結合させた。ガラス基材を室温下で冷却した後、直径3mmの大きさの開口部が9スポット形成された粘着性シール(厚さ:0.5mm)を載置して密着させた。続いて、100 nMに濃度調整した5’末端ローダミン標識ssDNA(25mer)と、100 nMに濃度調整した非標識ssDNA(24mer)を95℃で10分間保持した後、直ちに氷上に移して10分間保持してDNAを変性させた。この変性DNAを先に用意したガラス上のシールの9開口部にそれぞれ5μlずつ充填し、95℃で10分保持して溶媒を蒸発させた。その後、UVクロスリンカー(UVP社CL-1000型)で120mJの紫外光を照射して、標識ssDNAをガラス基材に固定化した。シールをガラス基材から剥がし、ガラス基材を0.2%SDS溶液中で15分間×3回振盪させ、超純水を3回入れ替えて濯いだ。このガラス基材を沸騰水に2分間浸漬させて取り出した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。続いて、ガラス基材を4℃の無水エタノールに1分間浸漬させて脱水し、空気を吹き付けて残留エタノールを飛散させた。こうして、色素標識DNA固定化作用電極を得た。ここで使用したプローブDNAの塩基配列は下記の通りである。
5’末端ローダミン標識ssDNA(プローブ1):5'-Rho-GCGGCATGAACCTGAGGCCCATCCT-3'(配列番号5)
非標識ssDNA(プローブ2):5'-TTGAGCAAGTTCAGCCTGGTTAAG-3'(配列番号6)
【0134】
(2)電解質含有吸収性シートの作製
0.2M、0.4M、および0.6Mのテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)を含む水溶液を調製した。この水溶液に26mm×20mmに切った厚さ0.9mmのブロッティング用ろ紙(CB-13A;アトー株式会社)を浸漬させて、軽く水切りをし、電解質含有吸収性シートを得た。
【0135】
(3)電解質含有吸収性シートを用いた光電流測定
上記(1)で作製した色素標識DNA固定化作用電極と、ガラス板上に白金が蒸着されてなる対電極とを用意した。両電極間に上記(2)で作製した電解質含有吸収性シートを挟み、密着させた。この時、作用電極のssDNAが固定化された面と対電極の白金蒸着面とが対向するように配置した。両電極を電気化学アナライザーに接続した状態で、作用電極にレーザー光源(出力60mW、照射領域の直径1mm、波長530nmの緑色レーザー)を照射し、その時に観察される電流値を記録した。
【0136】
結果を図37に示す。図37に示されるように、テトラプロピルアンモニウムヨージドの濃度に依存して光電流の増加が認められたが、いずれの濃度のテトラプロピルアンモニウムヨージドおいても測定に使用可能であることが明らかになった。
【0137】
例B2:各種電解質の検討
各種電解質を用いて光電流測定を行った。具体的には、吸水性基材としてろ紙を用い、各還元剤の濃度を0.2Mに固定して、電解質含有吸収性シートを作製した。電解質としては、NaI、KI、CaI2、LiI、NH4I、テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)および亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)を用いた。これらの各種電解質と水を含む電解液を作製し、26mm×20mmに切った厚さ0.9mmのブロッティング用ろ紙(CB-13A;アトー株式会社)を浸漬させて、軽く水切りをし、電解質含有吸収性シートを得た。光電流の測定は例B1と同様にして行った。色素標識DNA固定化作用電極の作製は例B1と同様にして行い、ローダミン標識ssDNA濃度が10nM、およびローダミン非標識ssDNA濃度100nMの各溶液を用いて作製した作用電極も作製して上記同様に光電流測定を行った。
【0138】
結果を図38に示す。図38に示されるように、検討したいずれの電解質でも、ssDNA固定化量に依存して光電流の増加が認められ、測定に使用可能であることが明らかになった。
【0139】
例B3:電解質含有吸収性シートの厚さの影響
(1)色素標識DNA固定化作用電極の作製
固定化するssDNA濃度を100nMと1μMの2濃度としたこと以外は例B1(1)と同様にして、色素標識DNA固定化作用電極を作製した。
(2)電解質含有吸収性シートの作製
0.2Mの濃度のテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)と水により電解液を作製し、厚さ0.9mmのブロッティング用ろ紙(CB-13A;アトー株式会社)を1枚、2枚重ね、3枚重ねし、それぞれ電解液に浸漬させて電解質含有吸収性シートを作製した。
(3)光電流測定
上記(1)で作製した固定化濃度の異なるスポットを有する作用電極と、上記(2)で作製した厚さの異なる各電解質含有吸収性シートを用いて、例B1と同様にして光電流を測定した。
【0140】
結果を図39に示す。図39に示されるように、0.9mm〜2.7mmの電解質含有吸収性シート厚さの全域にわたって、光電流値への影響はほとんど認められなかった。したがって、十分な強度を得る観点から電解質含有吸収性シート厚さを厚くしても、光電流値検出への悪影響は無いことが推察される。
【0141】
例B4:各吸収性基材の検討
吸水性基材として、厚さ0.9mmのブロッティング用ろ紙(CB-13A;アトー株式会社)、フェルト(厚さ:1mm、密度:0.00049g/mm3)、ボール紙(厚さ:0.5mm、密度:0.00071g/mm3)、ガラス繊維ろ紙(GF/D;Whatman:厚さ:0.68mm)、パルプ繊維及び合成繊維を含むコート紙(厚さ:0.14mm、密度:0.00111g/mm3)、弗素樹脂を主に含んでなるメンブレンフィルター(JCWP09025;MILLIPORE:厚さ:0.1mm)を用いた以外は例B1と同様にして光電流の測定を行った。色素標識DNA固定化作用電極の作製は例B1と同様にして行い、ローダミン標識ssDNA濃度が100nM、および1μMの各溶液と、非標識ssDNA濃度が100nMを用いて作製した作用電極も作製して例B1同様に光電流測定を行った。電解液は0.2Mのテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)を含む水溶液を用いた。
【0142】
結果を図40に示す。図40に示されるように、すべての電解質含有吸水性シートにおいて、ssDNA固定化量に依存して光電流の増加が認められ、使用可能であることが明らかになった。
【0143】
例B5:電解質含有吸収性シートの含水率の検討
(1)含水率の測定
まず、26mm×20mmに切った厚さ0.9mmのブロッティング用ろ紙(CB-13A;アトー株式会社)に0.4Mのテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)を含む水溶液を500μl滴下し、ろ紙を完全に電解液に浸した。こうして、電解液が含浸されたろ紙を6枚作製した。次に、各含浸されたろ紙を0時間、0.25時間、0.5時間、1時間、1.25時間、1.5時間、それぞれ50℃で乾燥させた。乾燥後のろ紙の重量を測定し、テトラプロピルアンモニウムヨージドの重量を除いた後、1mm3 辺りの含水量を計算した。その後、(1mm3 辺りの含水量)/(ろ紙密度)の割合を計算し電解質含有吸収性シートの含水率とした。なおブロッティング用ろ紙の密度は0.00049g/mm3である。
(2)光電流測定
(1)で作製した各含水率の電解質含有吸収性シートにより例B1と同様にして光電流を検出した。
【0144】
結果を図41に示す。図41に示されるように、電解質含有吸収性シートの含水率が高いほど、光電流が高いことがわかる。また、含水率が2.2%の時は光電流を検出できなかったが、含水率が25.3%の時には光電流が検出できた。以上のことから、光電流が検出可能な電解質含有吸収性シートは、含水率が少なくとも20%以上であることが望ましい。
【0145】
例B6:各種電解質を用いた一塩基多型(SNPs)検出
本例では、p53遺伝子の一塩基多型の検出に電解質含有吸収性シートを応用した。作用電極側に完全一致プローブ、一塩基変異鎖プローブ、および完全不一致プローブを固定化した。それぞれの塩基配列は下記の通りとした。
完全一致(PM)プローブ: 5'-AGGATGGGCCTCAGGTTCATGCCGC-3'(配列番号1)一塩基変異鎖(SNP)プローブ: 5'-AGGATGGGCCTCCGGTTCATGCCGC-3'(配列番号2)
完全不一致(MM)プローブ: 5'-GCGGCATGAACCGGAGGCCCATCCT-3'(配列番号3)
【0146】
これらのプローブとハイブリダイゼーションさせるターゲットDNAの塩基配列は下記の通りとした。
ターゲットDNA: 5'-ローダミン-GCGGCATGAACCTGAGGCCCATCCT-3'(配列番号4)
【0147】
作用電極用のガラス基材として、フッ素をドープした酸化スズ(F-SnO2:FTO)コートガラス(エイアイ特殊硝子社製、U膜、シート抵抗:12Ω/□、形状:50mm×26mm)を用意した。このガラス基材をアセトン中で15分間、続いて超純水中で15分間超音波洗浄を施して、汚れおよび残存有機物の除去を行った。このガラス基材を5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で15分間振盪させた。その後、水酸化ナトリウムの除去のために超純水中での5分間の振盪を水を入れ替えて3回行った。ガラス基材を取り出して空気を吹き付けて残水を飛散させた後、ガラス基材を無水メタノールに浸漬させて脱水した。
【0148】
95%メタノール5%超純水を溶媒として、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を2vol%となるように加え、室温下で5分間の攪拌を行って、カップリング処理用の溶液を調製した。このカップリング処理用溶液に上記ガラス基材を浸漬させ、ゆっくりと15分間振盪させた。次いで、ガラス基材を取り出し、メタノール中で10回ほど振盪させて余剰なカップリング処理用溶液を除く操作を、メタノールを3回換えて行った。その後、ガラス基材を110℃で30分間保持してカップリング剤をガラス基材に結合させた。ガラス基材を室温下で冷却した後、直径3mmの大きさの開口部が9スポット形成された粘着性シール(厚さ:0.5mm)を載置して密着させた。続いて、1μMに調製した完全一致鎖、一塩基変異鎖、完全不一致鎖のプローブDNA(25mer)を95℃で10分間保持した後、直ちに氷上に移して10分間保持してDNAを変性させた。この変性DNAを先に用意したガラス上のシールの9開口部に5μlずつ充填し、95℃で10分保持して溶媒を蒸発させた。その後、UVクロスリンカー(UVP社CL-1000型)で120mJの紫外光を照射して、プローブDNAをガラス基材に固定化した(各プローブにつき、3スポットずつ固定化)。シールをガラス基材から剥がし、ガラス基材を0.2%SDS溶液中で15分間×3回振盪させ、超純水を3回入れ替えて濯いだ。このガラス基材を沸騰水に2分間浸漬させて取り出した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。続いて、ガラス基材を4℃の無水エタノールに1分間浸漬させて脱水し、空気を吹き付けて残留エタノールを飛散させた。こうして、プローブDNA固定化作用電極を得た。
【0149】
その後、濃度を100nMに調製したターゲットDNAを含む5×SSC、0.5%SDS溶液を、プローブを固定した電極にのせてカバーガラスで密閉した状態で37℃で10時間保温した。その後、2×SSC(室温)中でカバーガラスを剥がし、電極をラックに立て、40℃に設定した2×SSC/0.2%SDS溶液中に30分間振とうさせた後、水ですすぎ電極を乾燥させた。
【0150】
こうして得られた作用電極と電解質含有吸収性シートを測定セルに組み込み、測定セル上に光源自動移動用XYステージを取り付けた。セル部分の構成は作用電極と白金対電極とを対向させ、両電極間に接触による短絡を防止し、作用電極、対電極共に、電気的に接しているスプリングプローブを介して高感度な電流計に接続した。電解質含有吸収性シートは吸水性基材としてろ紙を用い、各還元剤の濃度を0.4Mに固定して、電解質含有吸収性シートを作製した。電解質としてはテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)および亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)を用いた。作製方法は各種電解質と水を含む電解液を作製し、26mm×20mmに切った厚さ0.9mmのブロッティング用ろ紙(例B1と同様)を浸漬させて、軽く水切りをし、電解質含有吸収性シートを得た。
【0151】
続いて自動移動用XYステージに固定した光源により作用電極裏面の上方から光を照射し、作用電極と白金対電極の間に流れる電流を経時的に測定した。作用電極の上方にはFTO基板上のスポットと同形状の遮光部材を設けて、隣接するスポットへの光照射を防止すると同時に、光の無照射スポットを設けた。測定はスポットを順次走査し、同時にスポットでの電流出力をパソコンに接続された高感度電流計を介してパソコンに記憶した。
【0152】
結果を図42に示す。結果よりいずれの電解質を用いた場合であっても一塩基多型(SNPs)を光電流値の差として検出することができた。
【0153】
例B7:乾燥させた電解質含有吸収性シートを用いた一塩基多型(SNPs)検出
電解質含有吸収性シートを作製後、50℃で2時間乾燥させて、作用電極、乾燥させた電解質含有吸収性シートを測定セルに組み込んだ後に300μlの水を光電流検出直前に電解質含有吸収性シートに滴下したこと以外は例B6と同様にして、光電流を検出した(乾燥型)。比較として、例B6と同様に光電流検出直前に吸水性基材を電解液に浸漬させて作製した電解質含有吸収性シートを用いた(浸漬型)。
【0154】
結果を図43に示す。結果より乾燥させた電解質含有吸収性シートを用いた場合であっても一塩基多型(SNPs)を光電流値の差として検出することができた。
【0155】
例B8:水系電解液と電解質含有吸収性シートの比較
0.4Mのテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)と水を含む電解液と、例B6と同様に光電流検出直前に吸水性基材を上記電解液に浸漬させて作製した電解質含有吸収性シートにおいてそれぞれSNPs検出を行い、水系電解液を用いた場合と電解質含有吸収性シートを用いた場合の検出精度を比較した。電解質含有吸収性シートのSNPs検出は例B6と同様に行った。水系電解液を用いたSNPs検出は電極基板の作製方法は例B6と同様にして行い、測定はフローセル型の測定用セルを用いた。図47および図48に第一の態様によるフローセル型測定用セルの断面図および分解図をそれぞれ示す。
【0156】
図44および図45に示すフローセル型の測定用セルは基板357上に対電極353が設けられ、この基板357には電解液または洗浄液の供給孔362および排出孔363が形成され、対電極353上には電解液を収容する空間354を有する絶縁スペーサ364が配置され、この絶縁スペーサ364上に作用電極352が設けられ、この作用電極352の空間354に臨む面に複数の電子受容層355が離間して形成されている。そして、対電極353と干渉しないように前記基板357を貫通して作用電極用接点358が設けられている。この作用電極用接点358により光電流の取り出しを行っている。また、前記作用電極352の上には押さえ部材359が設けられ、この押さえ部材359には前記複数の電子受容層355のそれぞれに対応した位置に貫通孔360が形成されている。この貫通孔360を介して、光源356からの光が作用電極352に照射される。そして、作用電極352および対電極353間には電流計361が接続され、光照射により系内を流れる光電流が電流計により測定される。
【0157】
結果を図46に示す。結果より電解質含有吸収性シートを用いた場合であっても水系電解液を用いた場合と同様に、精度よく一塩基多型(SNPs)を光電流値の差として検出することができた。
【0158】
例C1:図18の装置を使用した一塩基多型(SNPs)検出
本例では、p53遺伝子の一塩基多型の検出を行った。作用電極側に完全一致プローブ、一塩基変異鎖プローブ、および完全不一致プローブを固定化した。それぞれの塩基配列は下記の通りとした。
完全一致(PM)プローブ: 5'-AGGATGGGCCTCAGGTTCATGCCGC-3'(配列番号1)
一塩基変異鎖(SNP)プローブ: 5'-AGGATGGGCCTCCGGTTCATGCCGC-3'(配列番号2)
完全不一致(MM)プローブ: 5'-GCGGCATGAACCGGAGGCCCATCCT-3'(配列番号3)
【0159】
これらのプローブとハイブリダイゼーションさせるターゲットDNAの塩基配列は下記の通りとした。
ターゲットDNA: 5'-ローダミン-GCGGCATGAACCTGAGGCCCATCCT-3'(配列番号4)
【0160】
作用電極用のガラス基材として、フッ素をドープした酸化スズ(F-SnO2:FTO)コートガラス(エイアイ特殊硝子社製、U膜、シート抵抗:12Ω/□、形状:50mm×26mm)を用意した。このガラス基材をアセトン中で15分間、続いて超純水中で15分間超音波洗浄を施して、汚れおよび残存有機物の除去を行った。このガラス基材を5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で15分間振盪させた。その後、水酸化ナトリウムの除去のために超純水中での5分間の振盪を水を入れ替えて3回行った。ガラス基材を取り出して空気を吹き付けて残水を飛
散させた後、ガラス基材を無水メタノールに浸漬させて脱水した。
【0161】
95%メタノール5%超純水を溶媒として、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を2vol%となるように加え、室温下で5分間の攪拌を行って、カップリング処理用の溶液を調製した。このカップリング処理用溶液に上記ガラス基材を浸漬させ、ゆっくりと15分間振盪させた。次いで、ガラス基材を取り出し、メタノール中で10回ほど振盪させて余剰なカップリング処理用溶液を除く操作を、メタノールを3回換えて行った。その後、ガラス基材を110℃で30分間保持してカップリング剤をガラス基材に結合させた。ガラス基材を室温下で冷却した後、直径3mmの大きさの開口部が9スポット形成された粘着性シール(厚さ:0.5mm)を載置して密着させた。続いて、1μMに調製した完全一致鎖、一塩基変異鎖、完全不一致鎖のプローブDNA(25mer)を95℃で10分間保持した後、直ちに氷上に移して10分間保持してDNAを変性させた。この変性DNAを先に用意したガラス上のシールの9開口部に5μlずつ充填し、95℃で10分保持して溶媒を蒸発させた。その後、UVクロスリンカー(UVP社CL-1000型)で120mJの紫外光を照射して、プローブDNAをガラス基材に固定化した(各プローブにつき、3スポットずつ固定化)。シールをガラス基材から剥がし、ガラス基材を0.2%SDS溶液中で15分間×3回振盪させ、超純水を3回入れ替えて濯いだ。このガラス基材を沸騰水に2分間浸漬させて取り出した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。続いて、ガラス基材を4℃の無水エタノールに1分間浸漬させて脱水し、空気を吹き付けて残留エタノールを飛散させた。こうして、プローブDNA固定化作用電極を得た。その後、濃度を100nMに調製したターゲットDNAを含む5×SSC、0.5%SDS溶液を、プローブを固定した電極にのせてカバーガラスで密閉した状態で37℃で10時間保温した。その後、2×SSC(室温)中でカバーガラスを剥がし、電極をラックに立て、40℃に設定した2×SSC/0.2%SDS溶液中に30分間振とうさせた後、水ですすぎ電極を乾燥させた。
【0162】
こうして得られた作用電極71を図20に示したセンサチップケース72に組み込み、センサチップ70を得た。図18および20に示す本体装置の対電極159上に電解質含有シート73を載置し、さらにその上に作用電極71の導電面、すなわちプローブDNAを固定した面が電解質含有シート73と接触するように載置した。電解質含有シートに用いる吸水性シートとしてろ紙を用いた。電解質としてはテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)を用い(濃度は0.4M)、これを水に溶解して電解液を作製し、26mm×20mmに切った厚さ0.9mmのろ紙を浸漬させて、軽く水切りをし、電解質含有シートを得た。
【0163】
センサチップ上部より、XYステージに取り付けた光源を作用電極上のプローブDNA固定化スポットに順次照射した。各スポット照射時に観察される光電流を記録した。また、各スポットに対応するセンサチップの各開口部の間で一時的に停止し、作用電極に光が照射されない時間を設定する。この時観察される電流値をベース電流値とする。各スポット由来の光電流値とその直前または直後のベース電流値との差分を観察値とした。
【0164】
結果を図47および48に示す。図47は、各スポットに照射した際に得られる光電流値の経時変化を示す。図48は、各スポット由来電流とベース電流の差分を、各プローブDNAについてまとめたものであり、平均および標準偏差(エラーバーは±1SD)を示している。図48から明らかなように、一塩基の違い(PMとSNPsで観察される電流値の差)を統計学的に有意に分別することができる。
【0165】
例C2:図18の装置を使用した蛋白質(ストレプトアビジン)検出
本例は、ストレプトアビジンの検出例である。作用電極側にビオチン標識合成オリゴDNA(25塩基)を固定化した。また、対照として非標識合成オリゴDNA(25塩基)も固定化した。これらのオリゴDNAに濃度を変えてローダミン標識ストレプトアビジンを接触させ、ビオチン‐ストレプトアビジンの特異結合により、ローダミン標識ストレプトアビジンを捕捉して、ローダミン由来の光電流を検出した。
【0166】
作用電極用のガラス基材として、フッ素をドープした酸化スズ(F-SnO2:FTO)コートガラス(エイアイ特殊硝子社製、U膜、シート抵抗:12Ω/□、形状:50mm×26mm)を用意した。このガラス基材をアセトン中で15分間、続いて超純水中で15分間超音波洗浄を施して、汚れおよび残存有機物の除去を行った。このガラス基材を5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で15分間振盪させた。その後、水酸化ナトリウムの除去のために超純水中での5分間の振盪を水を入れ替えて3回行った。ガラス基材を取り出して空気を吹き付けて残水を飛散させた後、ガラス基材を無水メタノールに浸漬させて脱水した。
【0167】
95%メタノール5%超純水を溶媒として、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を2vol%となるように加え、室温下で5分間の攪拌を行って、カップリング処理用の溶液を調製した。このカップリング処理用溶液に上記ガラス基材を浸漬させ、ゆっくりと15分間振盪させた。次いで、ガラス基材を取り出し、メタノール中で10回ほど振盪させて余剰なカップリング処理用溶液を除く操作を、メタノールを3回換えて行った。その後、ガラス基材を110℃で30分間保持してカップリング剤をガラス基材に結合させた。ガラス基材を室温下で冷却した後、直径3mmの大きさの開口部が6スポット形成された粘着性シール(厚さ:0.5mm)を載置して密着させた。続いて、1μMに調整したビオチン標識合成オリゴDNA(25塩基)または非標識合成オリゴDNA(25塩基)を95℃で10分間保持した後、直ちに氷上に移して10分間保持してオリゴDNAを変性させた。この変性オリゴDNAを先に用意したガラス上のシールの6開口部に5μlずつ充填し(各オリゴDNAにつき3スポットずつ固定化)、95℃で10分保持して溶媒を蒸発させた。その後、UVクロスリンカー(UVP社CL-1000型)で120mJの紫外光を照射して、オリゴDNAをガラス基材に固定化した。ガラス基材を150mM NaClおよび0.05% Tween20を含む10mM HEPES緩衝液(pH7.4)を用いて十分に洗浄した。
このようにして、ビオチン標識合成オリゴDNAと非標識合成オリゴDNAをそれぞれ3スポットずつ固定化した作用電極を5枚作成した。その後、ローダミン標識ストレプトアビジン溶液5μlを作用電極に貼付したシールの開口部に5μlずつ分注し、カバーグラスで密封した後、37℃、1時間放置した。150mM NaClおよび0.05% Tween20を含む10mM HEPES緩衝液(pH7.4)を用いて十分に洗浄した。この時、ローダミン標識ストレプトアビジン濃度を1、10、100、1000,10000ng/mlと変化させ、それぞれの濃度について1枚ずつ作用電極を使用した。
【0168】
こうして得られた作用電極を図18に示したセンサチップケースに組み込み、センサチップを得た。図16および図18に示す本体装置の対電極上に電解質含有シートを載置し、さらにその上に作用電極の導電面、すなわちプローブDNAを固定した面が電解質含有シートと接触するように載置した。電解質含有シートに用いる吸水性シートとしてろ紙を用いた。電解質としてはテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)を用い(濃度は0.4M)、これを水に溶解して電解液を作製し、26mm×20mmに切った厚さ0.9mmのろ紙を浸漬させて、軽く水切りをし、電解質含有シートを得た。
【0169】
センサチップ上部より、XYステージに取り付けた光源を作用電極上のオリゴDNA固定化スポットに順次照射した。各スポット照射時に観察される光電流を記録した。また、各スポットに対応するセンサチップの各開口部の間で一時的に停止し、作用電極に光が照射されない時間を設定する。この時観察される電流値をベース電流値とする。各スポット由来の光電流値とその直前または直後のベース電流値との差分を観察値とした。
【0170】
結果を図49に示す。各スポット由来電流とベース電流の差分を、ローダミン標識ストレプトアビジンの濃度ごとにまとめたものであり、平均および標準偏差(エラーバーは±1SD)を示している。ローダミン標識ストレプトアビジンと特異的に結合しない非標識オリゴDNAを固定化したスポットでは、ほとんど光電流が観察されていないのに対し、ビオチン標識オリゴDNAを固定化したスポットからは、濃度依存的に増加する光電流が観察された。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】一般的に用いられる蛍光検出装置の構成を示す図である。
【図2】本発明によるセンサチップの一例を示す分解斜視図である。
【図3】本発明によるセンサチップの他の一例を示す分解斜視図である。
【図4】本発明によるセンサチップの他の一例を示す分解斜視図である。
【図5】本発明による装置のセンサチップ受け部とその近傍の構成の一例を示す分解斜視図である。
【図6】図5で示す装置のセンサチップ受け部とその近傍の構成の一例の拡大図である。
【図7】本発明によるセンサチップの他の一例を示す分解斜視図である。
【図8】本発明による装置のセンサチップ受け部とその近傍の構成の一例を示す分解斜視図である。
【図9】本発明によるセンサチップの他の一例を示す分解斜視図である。
【図10】本発明による測定装置の基本構成を示す概念図である。
【図11】本発明による下部光源型の測定装置の一例を示す外観斜視図である。
【図12】図11に示される装置の内部構成を示す斜視図である。
【図13】図11に示される装置のセンサチップ受け部およびその近傍ならびに装着されるセンサチップの斜視図である。
【図14】図13に示されるセンサチップ受け部およびその近傍の拡大図である。
【図15】図11に示される装置において検出されうる光電流の経時変化を示す図である。
【図16】本発明による上部光源型の測定装置の一例を示す外観斜視図である。
【図17】図16に示される装置の内部構成を示す斜視図である。
【図18】図16に示される装置のセンサチップ受け部およびその近傍の構成を説明する図である。
【図19】図16に示される装置の本体蓋および押さえ部材ならびにセンサチップを説明する図である。
【図20】図16に示される装置において検出されうる光電流の経時変化を示す図である。
【図21】図16に示される装置のセンサチップ受け部およびその近傍の構成を説明する図である。
【図22】被検物質が一本鎖の核酸であり、プローブ物質が前記核酸に対して相補性を有する一本鎖の核酸である場合における、被検物質のプローブ物質への固定化工程を示す図であり、(a)は被検物質が予め増感色素で標識されてなる場合を、(b)は二本鎖の核酸にインターカレーション可能な増感色素を添加した場合をそれぞれ示す。
【図23】被検物質がリガンドであり、媒介物質が受容体蛋白質分子であり、プローブ物質が二本鎖の核酸である場合における、被検物質のプローブ物質への固定化工程を示す図である。
【図24】電極ユニットの一例を示す図である。
【図25】互いに競合する特異的結合性を有する被検物質および第二の被検物質が抗原であり、プローブ物質が抗体である場合の、被検物質のプローブ物質への固定化工程を示す図である。
【図26】例A1において得られた、ゲルシート(1%アガロースゲル)を使用した場合と、電解液(水溶液)を使用した場合とにおける、各テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)濃度において測定された光電流値を示す図である。
【図27】例A2において得られた、10nMおよび100nMの各ローダミン標識ssDNA濃度における、ゲル濃度(アガロース濃度)と光電流値との関係を示す図である。
【図28】例A3において得られた、10nMおよび100nMの各ローダミン標識ssDNA濃度における、ゲルシートの厚さと光電流値との関係を示す図である。
【図29】例A4において得られた、0nM、10nM、および100nMの各ローダミン標識ssDNA濃度における、ゲルシートを混合調整により作製した場合と、浸漬調整により作製した場合との光電流値を示す図である。
【図30】例A5において使用した「レオメーターCR200D」(サン科学社製)の概略図である。
【図31】例A5において行ったゲル強度の測定方法を説明する図である。
【図32】例A5において得られた、ゲル濃度(アガロース濃度)とゲル強度との関係を示す図である。
【図33】例A6において得られた、0nM、10nM、および100nMの各ローダミン標識ssDNA濃度における、1重量%アガロース含有ゲルシートを用いた場合と、7.5重量%アクリルアミド含有ゲルシートを用いた場合との光電流値を示す図である。
【図34】例A7において得られた、0nM、10nM、および100nMの各ローダミン標識ssDNA濃度における、各種電解質を用いた場合の光電流値を示す図である。
【図35】例A8において得られた、完全一致(PM)プローブ、一塩基変異鎖(SNP)プローブ、および完全不一致(MM)プローブを用いた場合における、ターゲットDNA濃度が1μMの光電流値を示す図である。
【図36】例A8において得られた、完全一致(PM)プローブ、一塩基変異鎖(SNP)プローブ、および完全不一致(MM)プローブを用いた場合における、ターゲットDNA濃度が100nMの光電流値を示す図である。
【図37】例B1において得られた、電解質含有吸収性シート(ろ紙)を用いた際の、100nMのssDNA及び100nMのローダミン標識ssDNAにおける、各テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)濃度において測定された光電流値を示す図である。
【図38】例B2において得られた、0nM、10nM、および100nMの各ローダミン標識ssDNA濃度における、各種電解質を用いた場合の光電流値を示す図である。
【図39】例B3において得られた、100nMおよび1μMの各ローダミン標識ssDNA濃度における、電解質含有吸収性シートの厚さと光電流値との関係を示す図である。
【図40】例B4において得られた、100nMのssDNA、100nM、および1μMの各ローダミン標識ssDNA濃度における、各電解質含有吸収性シートを用いた場合の光電流値を示す図である。
【図41】例B5において得られた、電解質含有吸収性シートの含水率と光電流値との関係を示す図である。
【図42】例B6において得られた、完全一致(PM)プローブ、一塩基変異鎖(SNP)プローブ、および完全不一致(MM)プローブを用いた場合における、各電解質の光電流値を示す図である。
【図43】例B7において得られた、一塩基変異鎖(SNP)プローブ、および完全不一致(MM)プローブを用いた場合における、吸水性基材を測定直前に電解液に浸漬させて作製した場合と、吸水性シートを電解液に浸漬後乾燥させて使用直前に水を滴下した場合との光電流を示す図である。
【図44】フローセル型測定用セルの一例の断面図である。
【図45】図44に示した同測定用セルの分解斜視図である。
【図46】例B8において得られた、一塩基変異鎖(SNP)プローブ、および完全不一致(MM)プローブを用いた場合における、水系電解液を用いた場合と、電解質含有吸収性シートを用いた場合との光電流を示す図である。
【図47】例C1において得られた、各スポットに照射した際に得られる光電流値の経時変化を示す図である。
【図48】例C1において得られた、各スポット由来電流とベース電流の差分を、各プローブDNAについて整理した図であり、平均および標準偏差(エラーバーは±1SD)を示している。
【図49】例C2において得られた、各スポット由来電流とベース電流の差分を、ローダミン標識ストレプトアビジンの濃度ごとに整理した図であり、平均および標準偏差(エラーバーは±1SD)を示している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、増感色素の光励起により生じる光電流を用いて、核酸、外因性内分泌攪乱物質、抗原等の特異的結合性を有する被検物質を特異的に検出する方法に用いられ、電解液の代わりに電解質含有シートが使用可能な、センサチップおよび測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料中のDNAを解析する遺伝子診断法が、各種病気の新たな予防および診断法として、有望視されている。このようなDNA解析を簡便かつ正確に行う技術として、被検体DNAを、これと相補的な塩基配列を有し、かつ蛍光物質を標識されたDNAプローブとハイブリダイズさせ、その際の蛍光シグナルを検出する、DNAの分析方法が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。この方法にあっては、ハイブリダイゼーションによる二本鎖DNAの形成を色素の蛍光により検出する。
【0003】
また、増感色素の光励起により生じる光電流を用いて被検物質(DNA、蛋白などの生体分子)を特異的に検出する方法も提案されている(例えば、特許文献3および非特許文献1参照)。このような検出方法は電解液を満たしたセンサユニットを用いて行われている。
【0004】
一方、酵素の増減を電気信号に変換する酸素電極を用いたマイクロバイオセンサにおいては、電解液含有体としてアガロースのようなゲルを用いることが知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
ところで、遺伝子の検出、遺伝子型の決定は、主にDNAチップ及び蛍光検出装置により行われている。一般的なDNAチップとは判明している遺伝子と相補的な塩基配列の核酸プローブを数センチメートル角のガラスチップやシリコンチップに固定化されたものである。
【0006】
一般的に用いられる蛍光検出装置の構成を図1に示す。レーザなどの光源5からの励起光9は、ビームスプリッター4で反射されて、対物レンズ6に入る。励起光9は、対物レンズ6で集光されて、DNAチップ8の核酸プローブの固定部7に当たる。ハイブリダイゼーション反応でハイブリダイゼーションした場合、遺伝子に基づいた核酸プローブと蛍光色素を標識した核酸鎖が二本鎖を形成し、溶液を洗い流した後も、蛍光物質がDNAチップ8上に残ることになり、励起光9により蛍光標識が球状放射の蛍光10を発生する。ハイブリダイゼーションしていない場合は、蛍光しない。蛍光10と励起光9には、数十ナノメートル程度の波長の差がある。蛍光の一部11と励起光9の反射光が対物レンズ6に戻り、ビームスプリッター4に入射する。励起光9の反射光は、ほとんどがビームスプリッター4で反射されて、光源側に向かい、蛍光の一部11は、ビームスプリッター4を透過して、受光器1側に向かう。ビームスプリッター4を透過した蛍光の一部11は、波長を限定するフィルター3で励起光9の反射光は除去される。蛍光の一部11は、受光器レンズ2を通って、蛍光強度を測定する受光器1に入射する。ハイブリダイゼーション反応でハイブリダイゼーションしていない場合は、蛍光しないために、受光器1に光は入射しない。
【0007】
また、検出すべき目的遺伝子に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の核酸プローブを電極表面に固定化し、一本鎖に変性された遺伝子を含む検体と反応させた後、遺伝子とハイブリダイズした前記核酸プローブに二本鎖認識体を結合しこれを電気化学測定によって検出することによって前記目的遺伝子の存在を確認する遺伝子検出装置が知られている(例えば、特許文献5参照)。ここで、電気化学測定は、作用電極および対電極を電解液に浸し、リニアスイープボルタンメトリーによる酸化電流を測定することにより行われている。
【0008】
【特許文献1】特開平7−107999号公報
【特許文献2】特開平11−315095号公報
【特許文献3】特開2006−119111号公報
【特許文献4】特公平5−84860号公報
【特許文献5】特開2000−83647号公報
【非特許文献1】中村他「光電変換による新しいDNA二本鎖検出法」(日本化学会講演予稿集Vol.81ST NO.2(2002)第947頁
【発明の開示】
【0009】
本発明者らは、今般、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出において電解液の代わりに電解質含有シートを使用することができ、それによりセンサユニットおよび測定装置の構造および検出手順を大幅に簡素化できるとの知見を得た。そして、この電解質含有シート、ならびにそれを用いたセンサチップおよび測定装置を使用することにより、光電流を高い感度および精度で検出できるとの知見も得た。
【0010】
したがって、本発明は、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出において電解液の代わりに電解質含有シートを使用することができ、それにより構造および検出手順を大幅に簡素化できるセンサチップおよび測定装置を提供することを目的としている。
【0011】
すなわち、本発明によるセンサチップは、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられる測定装置に着脱可能に装着されるセンサチップであって、
前記センサチップは、
作用電極と、
センサチップケースと、を備えてなり、
前記センサチップケースは、
前記作用電極が所定の位置に保持されるための窪み部および突起部の少なくともいずれか一方と、前記作用電極が前記測定装置の所定の位置に固定されるための位置決め部材を通すための開口部と
を備えてなり、
被検物質の特異的検出が、電解質含有シートを前記作用電極上に載置するか、または電解質含有シートを前記作用電極と前記センサチップケースとの間に挟持させて行われるものである。
【0012】
また、本発明による装置は、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられる測定装置であって、
上記センサチップと、
前記作用電極上に載置して、または前記作用電極と前記センサチップケースとの間に挟持させて設けられる、電解質含有シートと、
前記電解質含有シートの前記作用電極と反対側に設けられる対電極と、
前記作用電極に光を照射する光源と、
前記光源をXY方向に移動させるXY移動機構と、
前記作用電極と前記対電極との間を流れる電流を測定する電流計と、
前記光源、前記XY移動機構、および電流計を制御し、前記電流計からの電流信号を受信し、該電気信号に基づいて被検物質の存在、型、および濃度の少なくとも一種を決定する制御演算手段と
を備えたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
センサチップ
本発明によるセンサチップは、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられるセンサチップである。このセンサチップは、作用電極と、センサチップケースとを備えてなる。センサチップケースは、作用電極が所定の位置に保持されるための窪み部および突起部の少なくともいずれかを有する。また、センサチップケースには測定装置に設けられた、作用電極を測定装置の所定の位置に固定するための位置決め部材をセンサチップ取り付けの際に通す開口部を有する。測定装置に設けられた位置決め部材により作用電極を位置決めすることにより、センサチップケースの寸法誤差によらず、正確に作用電極を位置決めすることができる。そのため、センサチップケースに設けられた、作用電極が所定の位置に保持されるための窪み部または突起部は、作用電極を測定装置の所定の位置に固定するために、多少の遊びを有するように設けられる。本発明のセンサユニットにおいて最も高い精度を求められる位置決めは、作用電極が測定装置の所定の位置に固定されることであるため、センサチップケースを測定装置の所定の位置に載置させるための位置決めは仮の位置決めとなる。なお、前記位置決め部材にはピン形状あるいは少なくとも前記作用電極が当接する部位に平面を有する突起状の壁面となっている支持部材と、作用電極が支持部材に適度な圧力で押し付けられて固定され、所定の位置に配置される付勢部材とを備えている。支持部材の材質としては、樹脂、金属、セラミック、ガラスなど十分な強度と加工性を有するものを使用することができる。付勢部材は板状、コイル状のバネ、ゴムやポリマーなどの材質からなる弾力性突起形状を挙げることができる。そして、このセンサチップにあっては、電解質含有シートを作用電極上に載置するか、または電解質含有シートを作用電極とセンサチップケースとの間に挟持させるだけという極めて簡便な手法で被検物質の特異的検出に使用可能な状態となる。
【0014】
この電解質含有シートは、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出において電解質媒体として用いられるシート状の電解質含有体である。そして、この電解質含有シートは、典型的には、含水性基材と、含水性基材中に含有される電解質とを含んでなることができる。電解質は含水性基材中を自由に移動して増感色素、作用電極、および対電極との間で電子の授受に関与できる。したがって、電解質含有シートを作用電極および対電極の間に挟持させ、各電極表面を電解質含有シートと接触させておくことで、作用電極と対電極との間で、増感色素の光励起により生じる光電流が流れることができる。この電解質含有シートは、電解質媒体という点では従来使用されている電解液と同じであるが、単独で取り扱うことが可能なシート状物であるため、作用電極と対電極の間に容易に挟み込んだり、取り外したり、あるいは持ち運んだりすることができ、その結果、装置構造および検出手順を大幅に簡素化できる。事実、本発明のセンサチップないし測定装置によれば、作用電極、電解質含有シート、および対電極を、互いに載置ないし挟持するだけという極めて簡便な手法で正確に組み立てることができることは上述の通りである。これは、作用電極と対電極との間に電解液を充填して行われる従来法において、電解液を送液する機構(例えばポンプ、バルブ、およびそれらの制御機構)、液漏れ防止機構(例えばパッキン)、および電解液の廃液処理といった複雑な機構ないし工程が必要とされ、そのためコストの増大および装置の大型化を招いていたという実情に照らせば、極めて大きな利点であると言える。また、電解質含有シートの使用により電解液を送液するための時間が不要となるため、作用電極と対電極との間に電解質含有シートを挟むだけで、即座に測定に付することができるため、測定時間も短縮される。
【0015】
上述の通り、本発明のセンサチップは、作用電極とセンサチップケースとを備えていれば十分であり、予め電解質含有シートを備えていなくてよい。本発明のセンサチップは、使用時に電解質含有シートと組み合わせられれば十分であるからである。この態様のセンサチップの一例を、図2に示す。図2に示されるセンサチップは、板状の作用電極21と、この作用電極21とほぼ同じ寸法に形成された窪み部22aを有するセンサチップケース22とを備えてなる。したがって、作用電極を窪み部に載置するだけで、作用電極が窪み部の縁に規制されて作用電極が保持される。ただし、センサチップケース22に設けられた窪み部22aは、作用電極を装置のセンサチップ受け部の所定の位置に固定するために多少の遊びを有する。このような機構によって、作用電極はセンサチップ受け部に対して仮に位置決めされる。また、図2に示されるセンサチップケース22には、装置に設けられた位置決め部材を通すための開口部を備えている。開口部としては、支持部材用開口部34、付勢部材用開口部35、が挙げられる。さらに、図2に示されるセンサチップにおいては、センサチップケース22を測定装置の所定の位置に載置させるための補助部材に適合する開口部36と対電極を電流計に接続するための電気的接点を通すための開口部22fを備えている。
【0016】
本発明の好ましい態様によれば、作用電極上に、または作用電極とセンサチップケースとの間に、電解質含有シートがさらに設けられてもよい。すなわち、本発明のセンサチップは、使用時に電解質含有シートと組み合わせられれば十分であるが、予めセンサチップの構成部材として電解質含有シートを備えていてもよい。この態様のセンサチップの一例を、図3に示す。図3に示されるセンサチップは、板状の作用電極21と、窪み部22aを有するセンサチップケース22、支持部材用開口部34、付勢部材用開口部35、センサチップケース22を測定装置の所定の位置に載置させるための補助部材に適合する開口部36とを備えてなる点は図2の構成と同じであるが、電解質含有シート23が作用電極21上にさらに設けられる。ここで、図3に示されるように、センサチップケース22には、電解質含有シート23が所定の位置に載置されるための第二の窪み部22bをさらに設けられてよい。この第二の窪み部22bには高い位置決め性は必ずしも要求されないかもしれないが、電解質含有シートとほぼ同じ寸法に形成されてよいのは言うまでもない。したがって、作用電極および電解質含有シートを窪み部および第二の窪み部にそれぞれ載置するだけで、作用電極および電解質含有シートが窪み部および第二の窪み部の各縁に規制されて作用電極および電解質含有シートの仮の位置決めが容易に行える。ただし、センサチップケース22に設けられた第二の窪み部22bは、作用電極をセンサチップ受け部の所定の位置に載置するために多少の遊びを有する。もっとも、作用電極および電解質含有シートが同じ寸法の場合には、窪み部が、作用電極および前記電解質含有シートの両方を載置可能に構成されてよい。
【0017】
本発明の好ましい態様によれば、電解質含有シートの作用電極と反対側に、対電極がさらに設けられてもよい。すなわち、本発明のセンサチップは、使用時に対電極と組み合わせられれば十分であるが、予めセンサチップの構成部材として対電極を有していてもよい。この態様のセンサチップの一例を、図4に示す。図4に示されるセンサチップは、板状の作用電極21と、窪み部22aを有するセンサチップケース22、支持部材用開口部34、付勢部材用開口部35、センサチップケース22を測定装置の所定の位置に載置させるための補助部材に適合する開口部36、電解質含有シート23を備えてなる点は図3の構成と同じであるが、対電極25が電解質含有シート23上にさらに設けられる。ここで、図4に示されるように、センサチップケース22には、対電極25が所定の位置に載置されるための第三の窪み部22cをさらに設けられてよい。この第三の窪み部22cには高い位置決め性は必ずしも要求されないかもしれないが、対電極とほぼ同じ寸法に形成されてよいのは言うまでもない。ただし、センサチップケース22に設けられた第三の窪み部22cは、作用電極をセンサチップ受け部の所定の位置に載置するために多少の遊びを有する。
【0018】
本発明の好ましい態様によれば、センサチップケースが、作用電極の表面に光励起のための光を通すための第二の開口部または透光部をさらに備えてなり、センサチップケースの、少なくとも開口部及び透光部以外の部分が遮光性を有するのが好ましい。図2、図3、図4においては開口部22eがこれに該当する。
【0019】
本発明の好ましい態様によれば、測定装置が、少なくとも開口部および透光部以外の光が当たる部分に遮光部を有するのが好ましい。
この態様によれば、作用電極に局所的に光を照射することができるので、一枚の作用電極上の複数のスポットに被検物質を付着させておくことで、複数の被検物質を個別に高い精度で測定することができる。すなわち、本発明のより好ましい態様によれば、作用電極が複数の検出スポットを有しており、測定装置の、複数の検出スポットに対応する各位置に開口部または透光部が形成されてなるのが好ましい。
【0020】
このような遮光機構は、図5の測定装置のセンサチップ受け部33にも採用されている。なお、図6は図5のセンサチップ受け部33の拡大図を示す。図5、図6に示されるように、測定装置に設けられた複数の検出スポットに対応する各位置の開口部60が形成されており、この規則的に配列された開口部を介して、同じく同様のパターンで作用電極上に形成された複数の検出スポットの一つに選択的かつ個別的に光を照射することができる。すなわち、測定装置の少なくとも開口部が配列された区域は遮光性の部材で構成されているので、光を一つの開口部のみを通過する光径で照射することにより、その他の開口部には光が入らず、所望の一つの開口部のみを介して、作用電極上の一つの検出スポットのみに個別的に光を照射することができる。すなわち、光を照射すべきでない検出スポットにまで光が漏洩する事態を有効に防止でき、検出スポット毎の被検物質の検出精度を向上できる。
【0021】
なお、図5、図6に示すセンサチップ受け部33は、作用電極の位置決めに用いられる支持部材131、付勢部材132、センサチップを所定の位置に載置させるための補助部材133、作用電極を電流計に接続するための電気的接点27a、対電極25及び弾力性のあるシート状の部材28、対電極25を電流計に接続するための電気的接点27bを備えている。なお、支持部材131はピン形状あるいは少なくとも前記作用電極が当接する部位に平面を有する突起形状、さらにはセンサチップ受け部に設けられた窪み部の壁面を用いることができる。支持部材131、補助部材133の材質としては、樹脂、金属、セラミック、ガラスなど十分な強度と加工性を有するものを使用することができ、また、付勢部材40の材質としては板状、コイル状のバネ、ゴムやポリマーなどの材質からなる弾力性突起形状を挙げることができる。
【0022】
本発明の更に別の好ましい態様によれば、センサチップケースが、作用電極が載置される領域の少なくとも一部に第三の開口部を有してなり、被検物質の特異的検出が、第三の開口部を介して対電極を電解質含有シートに接触させることにより行われるのが好ましい。すなわち、この態様にあっては、作用電極を載置し、かつ光を通すための第一の開口部と、対電極を通す第三の開口部とを有するものである。この態様においては、第三の開口部が対電極を電流計に接続するための電気的接点を通すための開口部を兼ねてもかまわない。また、この態様においても測定装置が複数の検出スポットに対応する各位置に開口部または透光部が形成されてなる。この態様のセンサチップの例が、図7、測定装置のセンサユニットの例が図8、に示される。図7に示されるセンサチップは、板状の作用電極61と、この作用電極61がほぼ同じ寸法に形成された窪み部62aを有するセンサチップケース62と、測定装置に設置された、作用電極61の位置決めに用いられる支持部材141用開口部63、付勢部材142用開口部64、センサチップケース62を測定装置の所定の位置に載置させるための補助部材143に適合する開口部65を備えてなる点は図2の構成と同じであるが、作用電極が載置される領域の少なくとも一部に、測定時に対電極が下方から通過可能な開口部66が形成されてなる。したがって、この開口部66の寸法は対電極が通過可能なサイズとされる。図9に示されるセンサチップは、板状の作用電極71と、窪み部72aおよび第二の窪み部72bを有するセンサチップケース72と、電解質含有シート70と、測定装置に設置された、作用電極71の位置決めに用いられる支持部材用開口部73、付勢部材用開口部74、センサチップケース72を測定装置の所定の位置に載置させるための補助部材に適合する開口部75とを備えてなる点は図3の構成と同じであるが、図7と同様に測定時に対電極が下方から通過可能な第三の開口部76が形成されてなる。これらの態様においても、測定装置に複数の検出スポットに対応する各位置に開口部または透光部144が形成されてなる。
【0023】
本発明の別の好ましい態様によれば、窪み部、第二の窪み部、および/または第三の窪み部を、突起部、第二の突起部、および/または第三の突起部で代替する構成としてもよい。これらの突起部においても上述の窪み部と同様に、作用電極、電解質含有シート、対電極の端部を規制することができるため、これらの部材の正確な位置決めが可能である。これらの突起部の形状および配置は、これらの部材が載置されるだけで正確に位置決めされうる形状および配置であれば特に限定されず、例えばリブ状(線状)あるいはイボ状(点状)に設けられてよい。また、位置決めされるべき部材が載置される領域の輪郭の全てにわたって突起部が形成されてもよいし、その少なくとも一部のみに形成されてもよい。特に、作用電極が測定装置に位置決めされる際、作用電極が固定される領域の一端に付勢部材を設け、付勢部材と対向する他端および/またはその近傍に突起部を設けてもよい。この場合、突起部に沿って載置された作用電極は、少なくともその一辺が付勢部材によって突起部に向かって押圧または付勢され、それにより正確に位置決めされることができる。例えば、作用電極が方形(上面視した場合)である場合には、突起部は、付勢部材と対向する辺の両端を囲む形状(例えば2つのL字状の頂角形状)、この対向する辺に沿った直線形状、あるいはそれらの組み合わせ(例えば2つのL字状の頂角形状を直線で連結した形状)に形成されてもよい。また、線状形状の変わりに、複数の点状に突起部を形成してもよい。
【0024】
測定装置
本発明のセンサチップを用いることにより、構造が大幅に簡素化された安価でかつ小型のセンサユニットないし測定装置を構築することができる。これは、本発明のセンサチップは電解質含有シートを用いるため、作用電極と対電極との間に電解液を充填して行われる従来法において必要とされていた、電解液を送液する機構(例えばポンプ、バルブ、およびそれらの制御機構)、液漏れ防止機構(例えばパッキン)、および電解液の廃液処理といった複雑な機構ないし工程が不要となるためである。
【0025】
本発明による測定装置は、本発明のセンサチップを用いて増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出を行う装置である。本発明の測定装置の一例が図10に示される。図10に示されるように、本発明の測定装置80は、センサチップ81、光源82、XY移動機構83、電流計84、および制御演算手段85を備えている。前述の通り、電解質含有シート81bおよび対電極81cは予めセンサチップの構成部材とされてもよいし、あるいは測定装置の構成部材とされてもよい。いずれにせよ、測定の際に、電解質含有シート81bが、作用電極81a上に載置して、または作用電極81aとセンサチップケース(図示せず)との間に挟持させて設けられ、また、対電極81cが、電解質含有シート81bの作用電極と反対側に設けられていればよい。そして、光源82は、作用電極81aの表面に光を照射可能な位置に配置されればよく、センサチップの下方および上方のいずれに配置されてもよい。光源82にはXY移動機構83が接続され、光源82が所望の被検スポットに向かってXY方向に移動可能に構成される。そして、作用電極および対電極には電流計84が接続され、その間を流れる電流が測定可能に構成される。そして、制御演算手段85にあっては、制御部85aが光源82、XY移動機構83および電流計84を制御し、なおかつ電流計85からの電流信号を受信し、演算部85bが電気信号に基づいて被検物質の存在、型、および濃度の少なくとも一種を決定するように構成される。また、測定装置80は、制御演算手段85で得られた結果を表示する表示装置86をさらに備えてもなるのが好ましい。さらに、測定装置80が、測定のための条件入力が行われる入力装置87をさらに備えてなるのが好ましい。
【0026】
本発明の好ましい態様によれば、測定装置のセンサチップ受け部には、センサチップが着脱自在に装着される凹状のまたは平面状のセンサチップ受け部が設けられるのが好ましい。この態様にあっては、センサチップ受け部がセンサチップケースに取り付けた作用電極を所定の位置に固定するための位置決め機構を備えるのが好ましく、それにより作用電極を測定装置に容易かつ正確に装填することができる。そのため、センサチップケースには作用電極を測定装置の所定の位置に固定するための位置決め部材である支持部材と、付勢部材をセンサチップ取り付けの際に通す開口部を有する。測定装置に設けられた支持部材と付勢部材にて作用電極を位置決めすることにより、センサチップケースの寸法誤差によらず、正確に作用電極を位置決めすることができる。このような位置決め機構の例としては、センサチップ設置後、センサチップ受け部に形成された支持部材であるピンまたは孔に向かって作用電極を付勢部材により押圧または付勢し、それにより作用電極が正確に位置決めされる機構が挙げられる。
【0027】
本発明の好ましい態様によれば、センサチップ受け部が、センサチップを所定の位置に載置させるための補助部材を有し、それによりセンサチップのセンサチップ受け部への着脱を容易に行えるようにされてなるのが好ましい。すなわち、センサチップ受け部に設けられた補助部材はセンサチップケースに設けられた補助部材に適合する開口部に当接される。ただし、上述したように、本発明のセンサユニットにおいて最も高い精度を求められる位置決めは、作用電極が測定装置の所定の位置に載置されることであるため、センサチップの測定装置への載置は仮の位置決めとなる。センサチップを測定装置に載置した後の作用電極の位置決めが最も高い精度を必要とする。そのため、補助部材を用いなくても本発明のセンサユニットを形成することも可能であるが、補助部材を有する方が操作性が向上することは言うまでもない。補助部材の材質としては、樹脂、金属、セラミック、ガラスなど十分な強度と加工性を有するものを使用することができる。補助部材の形態としては、ピン形状あるいは少なくとも前記センサチップが当接する部位に平面を有する突起形状、またセンサチップ受け部に設けられた窪み部の壁面、さらには前記センサチップケースに設けられた開口部に適合可能なピン形状あるいは少なくとも開口部が当接する突起形状を用いることができる。
【0028】
本発明の好ましい態様によれば、測定装置が、センサチップ受け部に対して開閉可能に設けられる蓋部と、蓋部の作用電極と接触可能な位置に設けられる凸状の押さえ部材とを有し、光源が押さえ部材の上方に設けられるのが好ましい。この態様においては、押さえ部材が、光源からの光を遮断する遮光性の部材で構成されており、なおかつ作用電極の表面に光励起のための光を通すための開口部または透光部を備えてなることにより、作用電極の特定箇所のみへの光照射が可能とされるのが好ましい。本発明のより好ましい態様によれば、作用電極が複数の検出スポットを有しており、複数の検出スポットに対応する各位置に前記開口部または透光部が形成されてなることができる。
【0029】
本発明の好ましい態様によれば、センサチップ本体が、作用電極が載置される領域の少なくとも一部に開口部を有してなり、測定装置が開口部に挿入可能な凸部を有し、凸部上に対電極が設けられており、センサチップが装置に装着されると、凸部が開口部に挿入されることにより対電極が電解質含有シートに接触するように構成されるのが好ましい。
【0030】
下部光源型測定装置
光源がセンサチップの下方に配置され、なおかつ図3に示される本発明のセンサチップ30が使用可能な、本発明による測定装置の一例が図11〜13に示される。図11は測定装置90の外観を示す斜視図であり、同図に示されるように、装置筐体91の上面部にはセンサチップ30を出し入れするためのセンサチップ挿入口93が設けられる。センサチップ挿入口93は、センサチップ30を保持したオペレーターの手が入る程度の大きさを有する。センサチップ挿入口93には本体蓋94が開閉可能に取り付けられている。本体蓋94は、光源98からの照射光の外部への漏洩および外部光の装置内への侵入を防ぐように構成される。装置筐体91の上面部には表示装置96および入力装置97がさらに設けられる。表示装置96は、検出される光電流値を数値もしくはリアルタイム表示の経時変化グラフとして表示することができ、また、適切なデータポイントから読み取った光非照射時および光照射時の電流値の差に基づいて得られた遺伝子の検定結果あるいは遺伝子型の決定結果を表示することができる。入力装置97は、動作条件入力のためのキー、ボタンなどの入力操作が行えるように構成される。図12は測定装置90の内部斜視図であり、同図に示されるように、光源98は、センサチップ30の作用電極上の各検出スポットに光を照射できるように構成され、XY移動機構99によって移動可能に構成される。電流計100は、センサチップ30の作用電極と装置90の対電極との間に流れる電流を測定できるように構成される。光源98、XY移動機構99および電流計100の制御ならびに電流信号の受信は、制御演算部において、インターフェースボード101を介してコンピューター102によって行われる。また、コンピューター102は、制御や各種の演算などの処理を行うとともにデータや処理結果を記憶し、その結果を表示装置96に表示する。図13は測定装置90の要部を示す斜視図であり、同図に示されるように、センサチップ挿入口93には、センサチップ30が着脱自在に装着される凹状の部位であるセンサチップ受け部103が設けられ、対電極92が本体蓋94の凸部104に取り付けられる。すなわち、センサチップ受け部103および対電極92は装置筐体91に設けられる。
【0031】
図13に示されるように、測定装置90に用いられるセンサチップは、図3に示されるセンサチップ30であり、その構成は既に説明した通りである。センサチップ30の組み立て方法は次の通りである。まず、センサチップケース22の窪み部22aに沿って作用電極21を載置する。その後、電解質含有シート23をセンサチップケース22の第二の窪み部22bに沿って載置し、センサチップ30を組み立てる。なお、電解質含有シート33は作用電極21上の全ての検出スポットに接触するように配置される。光照射口22eは、光源98から照射された光が、センサチップ受け部103の底部に設けられた複数の検出スポットに対応する各位置の開口部105を通過して、作用電極21の裏側に光が照射されるように設けられる。なお、開口部105は作用電極21に設けられた検出スポットごとに設けられており、検出スポットの個数、配置、形状が変更された場合はそれに対応した形状に加工された光照射口を有する構成とする。そのため、センサチップ受け部の複数の検出スポットに対応する開口部を有する部材は取り外し可能な構成としておくことが好ましい。また、図14および図15に示されるように、実際の光電流検出においては、作用電極の検出スポット21aに光を照射して検出スポットの光電流120を得た後に、光源待機位置21bに光源を停止させ、光源待機位置21bの光電流121を得る。この光源待機位置21bの光電流121がバックグラウンド光電流となる。ただし、センサチップ受け部の複数の検出スポットに対応する開口部を有する部材には検出スポットに対応した個数、配置、形状に加工された開口部105が設けられているため、実際に作用電極上の光源待機位置21bに光は照射さず、非常に小さいバックグラウンド光電流となる。なお、光源待機位置21bに対応するセンサチップ受け部の複数の検出スポットに対応する開口部を有する部材上の各光照射口の間の部分103aは、隣接する検出スポットに光が漏れないように、光源98より照射される光の径よりも大きくなるように調整される。
【0032】
図13、図14に示されるように、センサチップ30をセンサチップ受け部103に装着する際には、センサチップケース22の下面に設けられた補助部材用開口部22dを補助部材107に合わせて設置し、作用電極21を支持部材108に当接し、付勢部材109により固定する。なお、本体蓋94には作用電極用コンタクトプローブ110が設けられ、本体蓋94が閉じられると、本体蓋94の凸部に取り付けられた対電極92が、電解質含有シート23および対電極用コンタクトプローブ111と接触する。
【0033】
上部光源型測定装置
光源がセンサチップの上方に配置され、なおかつ図7に示される本発明のセンサチップ112が使用可能な、本発明による測定装置の一例が、図16〜19に示される。図16は測定装置140の外観を示す斜視図で、同図に示されるように、装置筐体141の側面部にはセンサチップ112を出し入れするためのセンサチップ挿入口143が設けられる。センサチップ挿入口143は、開閉ボタン144と連動しており、開閉ボタン144が押されると図示しない駆動手段によってセンサチップ挿入口143が出し入れされる。センサチップ挿入口143が装置筐体141内に収納されている際は、光源145からの照射光の外部への漏洩および外部光の装置内への侵入を防ぐように構成される。装置筐体141の側面部には表示装置146および入力装置147がさらに設けられる。表示装置146は、検出される光電流値を数値もしくはリアルタイム表示の経時変化グラフとして表示することができ、また、適切なデータポイントより読み取った光非照射時と光照射時の電流値の差に基づいて得られた遺伝子の検定結果あるいは遺伝子型の決定結果を表示することができる。入力装置147は、動作条件入力のためのキー、ボタンなどの入力操作が行えるように構成される。図17は測定装置140の内部斜視図であり、同図に示されるように、光源145は、センサチップ112の作用電極上の各検出スポットに光を照射できるように構成され、XY移動機構148によって移動可能に構成される。電流計149は、センサチップ112の作用電極と装置140の対電極との間に流れる電流を測定できるように構成される。光源145、XY移動機構148および電流計149の制御ならびに電流信号の受信は、制御演算部において、インターフェースボード150を介してコンピューター151によって行われる。また、このコンピューター151は、制御や各種の演算などの処理を行うとともにデータや処理結果を記憶し、その結果を表示装置146に表示する。図18は、測定装置140の要部を示す斜視図であり、同図に示されるように、センサチップ挿入口143には、センサチップ112が着脱自在に装着される凹状の部位であるセンサチップ受け部152が設けられ、対電極159がセンサチップ受け部152の底部に形成された凸部に取り付けられる。図18に示されるように、本体蓋154には光源145から照射された光が作用電極113の裏側に照射されるように設けられた光通過口161が設けられている。すなわち、センサチップ受け部152、対電極159、本体蓋154、および光通過口161は装置筐体141に設けられる。
【0034】
図18および図19に示されるように、測定装置140に用いられるセンサチップは、図7に示されるセンサチップ112であり、その構成は既に説明した通りである。センサチップ112の組み立て方法は次の通りである。まず、センサチップケース114の第二の窪み部114bに沿って電解質含有シート115を載置する。なお、センサチップ112の底部には、装置筐体141のセンサチップ受け部152に設けられた対電極159が電解質含有シート115と接触するように第三の開口部が形成されている。その後、作用電極113をセンサチップケース114の窪み部114aに沿って載置し、センサチップ112を組み立てる。なお、電解質含有シート115は作用電極113上の全ての検出スポットに接触するように配置される。本体蓋154には、対電極159、電解質含有シート115および作用電極113を押さえ込むための押さえ部材162が設けられる。押さえ部材162には、光源145から照射された光が本体蓋154の光通過口161を通過し、作用電極113の裏側に光が照射されるように光照射口160が設けられる。なお、光照射口160は作用電極113に設けられた検出スポットごとに設けられており、検出スポットの個数、配置、形状が変更された場合はそれに対応した形状に加工された光照射口を有する押さえ部材に交換する。また、図19および20に示されるように、実際の光電流検出においては、作用電極113上の検出スポット113aに光を照射して検出スポットの光電流164を得た後に、光源待機位置113bに光を照射し、光源待機位置113bの光電流166を得る。この光源待機位置113bの光電流166がバックグラウンド光電流となる。ただし、押さえ部材162には検出スポットに対応した個数、配置、形状に加工された光照射口160を設けているため、実際に作用電極上の光源待機位置113bに光は照射されず、非常に小さいバックグラウンド光電流となる。なお、光源待機位置113bに対応する押さえ部材上の各光照射口の間の部分167は、隣接する検出スポットに光が漏れないように、光源145より照射される光の径よりも大きくなるように調整される。
【0035】
図21には図18の拡大図が示される。図18、図19、図21に示されるように、センサチップ112をセンサチップ受け部152に装着する際には、センサチップケース114の下面に設けられた補助部材用開口部114cを補助部材169に合わせて設置し、作用電極113を支持部材116に当接し、付勢部材117により固定する。付勢部材117は支持部材116方向に復元力がかかる例えばV字状に加工した金属、樹脂、ゴムなどの弾性体やばね等が用いられており、センサチップが取り付けられた際には弾性体やばね等の復元力がかかることにより作用電極が確実に固定される。なお、センサチップ取り付けの際には、支持部材とは逆の方向に、付勢部材の復元力に逆らって力を加えることで容易に作用電極の固定状態を解除できる。センサチップ112を取り付けると、センサチップ受け部152の凸部に設けられた対電極159と電解質含有シート115が接触し、電解質含有シート115には作用電極113が接触する。本体蓋154が閉じられると、押さえ部材162が作用電極113を押さえ込むとともに、押さえ部材162に設けられた光照射口160の各々が作用電極113の各検出スポットに対応するような適切な配置が形成される。作用電極113の電流計149への接続は作用電極用コンタクトプローブ118により行い、対電極159と電流計149の接続は対電極用コンタクトプローブ119により行う。なお、センサチップケース114には、作用電極用コンタクトプローブ118が作用電極113に接触できるように作用電極コンタクトプローブ用開口部175と対電極159が電解質シート115に接触できるように対電極用開口部114dが設けられている。
【0036】
電解質含有シート
本発明に用いる電解質含有シートは、増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出において電解質媒体として用いられるシート状の電解質含有体である。そして、この電解質含有シートは、含水性基材と、含水性基材中に含有される電解質とを含んでなる。
【0037】
本発明において電解質は、含水性基材中を自由に移動して増感色素、作用電極、および対電極との間で電子の授受に関与できるものであれば限定されず、幅広い種類の電解質が使用可能である。好ましい電解質は、光照射により励起された色素に電子を供与するための還元剤(電子供与剤)として機能できる物質であり、そのような物質の例としては、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化カルシウム(CaI2)、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化アンモニウム(NH4I)、テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、ヒドロキノン、K4[Fe(CN)6]・3H2O、フェロセン−1,1’−ジカルボン酸、フェロセンカルボン酸、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、トリエチルアミン、チオシアネートアンモニウム、ヒドラジン(N2H4)、アセトアルデヒド(CH3CHO)、N,N,N’,N’−テトラメチル−p−フェニレンジアミン二塩酸塩(TMPD)、L−アスコルビン酸、亜テルル酸ナトリウム(Na2TeO3)、塩化鉄(II)四水和物(FeCl2・4H2O)、EDTA、システイン、トリエタノールアミン、トリプロピルアミン、ヨウ素を含むヨウ化リチウム(I/LiI)、トリス(2-クロロエチル)リン酸塩(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、2−メルカプトエタノール、2−メルカプトエタノールアミン、二酸化チオ尿素、(COOH)2、HCHO、およびこれらの組合せが挙げられ、より好ましくは、NaI、KI、CaI2、LiI、NH4I、テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)、および亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、およびこれらの混合物であり、さらに好ましくは、テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)である。
【0038】
(1)ゲルシート
本発明の好ましい態様によれば、含水性基材が、天然ゲルおよび合成ゲルから選択される少なくとも一種を含んでなるゲルマトリクスであって、該ゲルマトリクス中に前記電解質が分散されてなるのが好ましい。すなわち、この態様にあっては、電解質含有シートはゲルシートとして構成される。そして、電解質媒体としてゲルシートを使用した場合、電解液を用いた場合と比べて、同じ被検物質濃度のサンプルについてより高い検出電流が得られるとともに、より広い被検物質濃度範囲において検出電流の濃度依存性が得られる。すなわち、ゲルシートの使用により、光電流の検出感度および精度を大幅に向上させることができる。
【0039】
本発明の好ましい態様によれば、ゲルシートは、100g/cm2以上のゲル強度を有するのが好ましく、より好ましくは120g/cm2以上であり、さらに好ましくは150g/cm2以上である。このようなゲル強度であると、ゲルシートを単独で取り扱いやすくなるので、作用電極と対電極の間に容易に挟み込んだり、取り外したりでき、その結果、センサユニット構造および検出手順を大幅に簡素化できる。
【0040】
本発明のゲルシートの形態としては、作用電極および対電極との良好な密着性が確保されるように各電極との接触部分が平滑平面とされているのが好ましい。したがって、作用電極と対電極との間に挟み込んで使用する場合には、密着性に影響しないように均一な厚みを有する形態とするのが好ましい。一方、作用電極および対電極が同一平面状にパターニングされてなる電極ユニットを使用する場合には、少なくとも電極ユニットと接触する片側面のみが平滑平面とされていればよく、厚さや厚さの均一性は特段問題とならない。
【0041】
本発明の好ましい態様によれば、ゲルシートは0.1〜10mmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは0.5〜3mm、さらに好ましくは1〜3mmの厚さを有する。このような厚さであるとゲルシートを単独で取り扱うのに適した強度が得られやすいので、作用電極と対電極の間に容易に挟み込んだり、取り外したりでき、あるいは持ち運んだりすることができ、その結果、センサユニット構造および検出手順を大幅に簡素化できる。また、光電流測定に悪影響を与えることもない。
【0042】
本発明においてゲルマトリクスは、天然ゲルおよび合成ゲルから選択される少なくとも一種を含んでなり、適度な強度と電極への密着性を示すゲルであれば限定されない。これらのゲルは、一般的なゲルと同様、ゲル化剤が水等の溶媒と共にゲル化することにより形成されることができる。ゲルマトリクス中におけるゲル化剤の濃度は、光電流測定に大きな影響を与えることはないため、単独取り扱いを可能とする強度確保の観点からゲル化剤の種類に応じて適宜決定されてよい。
【0043】
本発明の好ましい態様によれば、ゲルマトリクスが、多糖類および蛋白質を主成分とする天然ゲルを含んでなるのが好ましい。このような天然ゲルの好ましい例としては、アガロース、アルギン酸、カラギーナン、ローストビーンガム、ジェランガム、ゼラチン、およびそれらの混合物のゲルが挙げられ、より好ましくはアガロースのゲルである。好ましいアガロースの添加量は0.5〜25重量%である。
【0044】
本発明の別の好ましい態様によれば、ゲルマトリクスが、合成ゲルを含んでなるのが好ましい。好ましい合成ゲルの例としては、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、PVA添加ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、N−アルキル変性(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−(イソ)プロピルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N−ヒドロキシメチルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−ヒドロキシプロピルアクリルアミド、N−ヒドロキシブチルアクリルアミド、(メタ)アクリル酸、t−ブチル(メタ)アクリルアミドスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、グリセリン(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、テトラアリロキシエタン、およびそれらの混合物のゲルが挙げられ、より好ましくはポリアクリルアミドのゲルである。
【0045】
本発明の好ましい態様によれば、本発明のゲルシートは、(1)電解質およびゲル化剤を水に加えて加熱溶解してゲルを作製した後、所望のシート形状に加工する方法、あるいは(2)ゲル化剤のみでゲルを形成して所望のシート形状に加工した後、電解質溶液中に浸漬させてゲル中に電解質を分散させる方法により、製造されることができる。特に、ゲル化剤は使用する電解質との組合せによっては、混合、加熱、あるいは冷却によってゲル化しない場合があり、そのような場合であっても上記(2)の方法によれば、ゲルシートを作製することができる。
【0046】
(2)吸水性シート
本発明の別の好ましい態様によれば、含水性基材が、吸水性基材であるのが好ましい。すなわち、この態様にあっては、電解質含有シートは吸水性シートとして構成される。そして、電解質媒体として吸水性シートを使用した場合、電解液を使用した場合と同等の検出感度および検出精度が得られる。すなわち、吸水性シートの使用により、光電流を精度よく検出することができる。
【0047】
本発明の好ましい態様によれば、吸水性シートは、20%以上の含水率を有するのが好ましく、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは40%以上である。このような含水率であると、光電流を検出した際に高い光電流を検出することができ、検出感度が向上する。含水率は(1mm3 辺りの含水量)/(吸水性基材の密度)より求める。なお、ここで言う含水率は光電流を検出する際の吸水性シートの含水率であって、後述するように、保管時に上記含水率を満たしていなくてもよい。
【0048】
本発明の吸水性シートの形態としては、作用電極および対電極との良好な密着性が確保されるように各電極との接触部分が平滑平面とされているのが好ましい。したがって、作用電極と対電極との間に挟み込んで使用する場合には、密着性に影響しないように均一な厚みを有する形態とするのが好ましい。一方、作用電極および対電極が同一平面状にパターニングされてなる電極ユニットを使用する場合には、少なくとも電極ユニットと接触する片側面のみが平滑平面とされていればよく、厚さや厚さの均一性は特段問題とならない。
【0049】
本発明の好ましい態様によれば、吸水性シートは0.01〜10mmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは0.1〜3mmの厚さを有する。このような厚さであると吸水性シートを単独で取り扱うのに適した強度が得られやすいので、作用電極と対電極の間に容易に挟み込んだり、取り外したりでき、あるいは持ち運んだりすることができ、その結果、センサユニット構造および検出手順を大幅に簡素化できる。また、光電流測定に悪影響を与えることもない。
【0050】
本発明において吸水性基材は、綿、麻、ウール、絹、セルロースなどの天然繊維;ろ紙、製紙などに用いられるパルプ繊維;レーヨンなどの再生繊維;ろ紙などに用いられるガラス繊維;フェルト、スポンジなどに用いられる合成繊維から選択される少なくとも一種の繊維を含んでなるのが好ましく、適度な強度、含水量、電極への密着性を示す吸水性基材であれば限定されない。なお、本発明の吸水性基材に用いる繊維の加工方法は特定の加工方法に限定されない。
【0051】
本発明の好ましい態様によれば、吸水性基材の好ましい例としては、ろ紙、メンブレンフィルター、ガラスフィルター、ろ布などが挙げられ、より好ましくはろ紙、メンブレンフィルターである。
【0052】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の電解質含有吸収性シートは、(1)所望のシート形状に加工し、水ベースの電解液に浸漬した後、使用する、あるいは(2)所望のシート形状に加工し、電解液に浸漬し、乾燥させた後、使用直前に水を滴下して使用することもできる。
【0053】
光電流を用いた被検物質の特異的検出
前述の通り、本発明のセンサチップは増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられるものである。この増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出方法について、以下に具体的に説明する。
【0054】
この方法にあっては、まず、被検物質を含む試料液と、作用電極と、対電極とを用意する。本発明に用いる作用電極は、被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を表面に備えた電極である。すなわち、プローブ物質は、被検物質と直接、特異的に結合する物質のみならず、被検物質を受容体蛋白質分子等の媒介物質に特異的に結合させて得られる結合体と特異的に結合可能な物質であってよい。次いで、増感色素の共存下、試料液を作用電極に接触させて、プローブ物質に被検物質を直接または間接的に特異的に結合させ、この結合により増感色素を作用電極に固定させる。増感色素は、光励起に応じて作用電極に電子を放出可能な物質であり、被検物質あるいは媒介物質に予め標識させておくか、あるいは被検物質およびプローブ物質の結合体にインターカレーション可能な増感色素を用いる場合には試料液に単に添加すればよい。
【0055】
そして、作用電極と対電極とをセンサチップ内において電解質含有シートに接触させた後、作用電極に光を照射して増感色素を光励起させると、光励起された増感色素から電子受容物質へ電子移動が起こる。この電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を検出することにより、被検物質を高い感度および精度で検出することができる。また、この検出電流は試料液中の被検試料濃度との高い相関関係を有しているので、測定された電流量または電気量に基づき被検試料の定量測定を行うことができる。
【0056】
(1)被検物質およびプローブ物質
本発明における被検物質としては、特異的な結合性を有する物質であれば限定されず、種々の物質であってよい。このような被検物質であれば、被検物質と直接または間接的に特異的に結合可能なプローブ物質を作用電極表面に担持させておくことにより、被検物質をプローブ物質に直接または間接的に特異的に結合させて検出することが可能となる。
【0057】
すなわち、本発明にあっては、被検物質およびプローブ物質として互いに特異的に結合可能なものを選択することができる。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、特異的な結合性を有する物質を被検物質とし、被検物質と特異的に結合する物質をプローブ物質として作用電極に担持させるのが好ましい。これにより、作用電極上に被検物質を直接、特異的に結合させて検出することができる。この態様における、被検物質およびプローブ物質の組合せの好ましい例としては、一本鎖の核酸および核酸に対して相補性を有する一本鎖の核酸の組合せ、ならびに抗原および抗体の組合せが挙げられる。
【0058】
本発明のより好ましい態様によれば、被検物質を一本鎖の核酸とし、プローブ物質を核酸に対して相補性を有する一本鎖の核酸とするのが好ましい。プローブ物質は核酸に対して15bp以上の相補性部分を有するのがより好ましい。この態様における被検物質の作用電極への特異的結合の工程を図22(a)および(b)に示す。これらの図に示されるように、被検物質としての一本鎖の核酸221は、作用電極223上に担持されたプローブ物質としての相補性を有する一本鎖の核酸224とハイブリダイズされて、二本鎖の核酸227を形成する。
【0059】
被検物質としての一本鎖の核酸を含む試料液は、末梢静脈血のような血液、白血球、血清、尿、糞便、精液、唾液、培養細胞、各種臓器細胞のような組織細胞等の、核酸を含有する各種検体試料から、公知の方法により核酸を抽出して作製することができる。このとき、検体試料中の細胞の破壊は、例えば、振とう、超音波等の物理的作用を外部から加えて担体を振動させることにより行なうことができる。また、核酸抽出溶液を用いて、細胞から核酸を遊離させることもできる。核酸溶出溶液の例としては、SDS、Triton−X、Tween−20のような界面活性剤、サポニン、EDTA、プロテア−ゼ等を含む溶液が挙げられる。これらの溶液を用いて核酸を溶出する場合、37℃以上の温度でインキュベ−トすることにより反応を促進することができる。
【0060】
本発明のより好ましい態様によれば、被検物質とする遺伝子の含有量が微量である場合には、公知の方法により遺伝子を増幅した後検出を行なうのが好ましい。遺伝子を増幅する方法としては、ポリメラ−ゼチェインリアクション(PCR)等の酵素を用いる方法が代表的であろう。ここで、遺伝子増幅法に用いられる酵素の例としては、DNAポリメラ−ゼ、Taqポリメラ−ゼのようなDNA依存型DNAポリメラ−ゼ、RNAポリメラ−ゼIのようなDNA依存型RNAポリメラ−ゼ、Qβレプリカ−ゼのようなRNA依存型RNAポリメラ−ゼが挙げられ、好ましくは温度を調節するだけで連続して増幅を繰り返すことができる点で、Taqポリメラ−ゼを用いるPCR法である。
【0061】
本発明の好ましい態様によれば、上記増幅時に特異的に核酸を増感色素で標識することが出来る。一般的には、DNAにアミノアリル修飾dUTPを取り込ませることにより行うことができる。この分子は未修飾の dUTP と同じ効率で取り込まれる。次のカップリング段階において、N−ヒドロキシサクシンイミド(N−hydroxysuccinimide)により活性化された蛍光色素が修飾 dUTP と特異的に反応し、均一に増感色素で標識された被検物質が得られる。
【0062】
本発明の好ましい態様によれば、上記のようにして得られた核酸の粗抽出液あるいは精製した核酸溶液をまず90〜98℃、好ましくは95℃以上の温度で熱変性を施し、一本鎖核酸を調製することができる。
【0063】
本発明にあっては、被検物質とプローブ物質が間接的に特異的に結合するものであってもよい。すなわち、本発明の別の好ましい態様によれば、特異的な結合性を有する物質を被検物質とし、この被検物質と特異的に結合する物質を媒介物質として共存させ、この媒介物質と特異的に結合可能な物質をプローブ物質として作用電極に担持させるのが好ましい。これにより、プローブ物質に特異的に結合できない物質であっても、媒介物質を介して作用電極上に間接的に特異的に結合させて検出することができる。この態様における、被検物質、媒介物質、およびプローブ物質の組合せの好ましい例としては、リガンド、このリガンドを受容可能な受容体蛋白質分子、およびこの受容体蛋白質分子と特異的に結合可能な二本鎖の核酸の組合せが挙げられる。リガンドの好ましい例としては、外因性内分泌攪乱物質(環境ホルモン)が挙げられる。外因性内分泌撹乱物質とは、受容体蛋白質分子を介してDNAに結合し、その遺伝子発現に影響して毒性を生じる物質であるが、本発明の方法によれば、被検物質によりもたらされる受容体等のタンパク質のDNAに対する結合性を簡便にモニタリングすることができる。この態様における被検物質の作用電極への特異的結合の工程を図23に示す。図23に示されるように、被検物質としてのリガンド230は、まず、媒介物質である受容体蛋白質分子231に特異的に結合する。そして、リガンドが結合された受容体蛋白質分子233が、プローブ物質としての二本鎖の核酸234に特異的に結合する。
【0064】
本発明の好ましい態様によれば、被検物質は二種以上であることができる。本発明の方法によれば、複数の増感色素を用いて、各増感色素毎に異なる励起波長の光を照射することにより、複数種類の被検物質を個別に検出することが可能である。
【0065】
(2)増感色素
本発明にあっては、被検物質の存在を光電流で検出するために、増感色素の共存下、プローブ物質に被検物質を直接または間接的に特異的に結合させて、該結合により増感色素を作用電極に固定させる。そのために、本発明にあっては、図22(a)および図23に示されるように被検物質221あるいは媒介物質231に予め増感色素222,232で標識しておくことができる。また、図22(b)に示されるように被検物質およびプローブ物質の結合体227(例えばハイブリダイゼーション後の二本鎖核酸)にインターカレーション可能な増感色素228を用いる場合には、試料液に増感色素を添加することにより、プローブ物質に増感色素を固定させることができる。
【0066】
本発明に用いる増感色素は、光励起に応じて作用電極に電子を放出可能な物質であり、光源の照射による光励起状態への遷移が可能であり、かつ励起状態から作用電極に電子注入できる電子状態を採りうるものであればよい。したがって、用いる増感色素は、作用電極、特に電子受容層との間において上記電子状態をとることができるものであればよいことから、多種の増感色素が使用可能であり、高価な色素を使用する必要がない。
【0067】
増感色素の具体例としては、金属錯体や有機色素が挙げられる。金属錯体の好ましい例としては、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニン等の金属フタロシアニン;クロロフィルまたはその誘導体;ヘミン、特開平1−220380 号公報や特表平5−504023 号公報に記載のルテニウム、オスミウム、鉄及び亜鉛の錯体(例えばシス−ジシアネート−ビス(2、2 ’−ビピリジル−4、4 ’−ジカルボキシレート)ルテニウム(II))があげられる。有機色素の好ましい例としては、メタルフリーフタロシアニン、9−フェニルキサンテン系色素、シアニン系色素、メタロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、アクリジン系色素、オキサジン系色素、クマリン系色素、メロシアニン系色素、ロダシアニン系色素、ポリメチン系色素、インジゴ系色素等が挙げられる。
【0068】
二本鎖核酸にインターカレーション可能な増感色素の好ましい例としては、アクリジンオレンジ、エチジウムブロマイドが挙げられる。このような増感色素を用いる場合、核酸のハイブリダイゼーション後に試料液に添加するだけで増感色素で標識された二本鎖核酸が形成されるので、予め一本鎖の核酸を標識する必要が無い。
【0069】
(3)作用電極およびその製造
本発明に用いる作用電極は、上記プローブ物質を表面に備えた電極であり、プローブ物質を介して固定された増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電極である。したがって、作用電極の構成および材料は、使用される増感色素との間で上記電子移動が生じるものであれば限定されず、種々の構成および材料であってよい。
【0070】
本発明の好ましい態様によれば、作用電極が増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる電子受容層を有し、この電子受容層の表面にプローブ物質が備えられてなるのが好ましい。また、本発明のより好ましい態様によれば、作用電極が導電性基材をさらに含んでなり、この導電性基材上に電子受容層が形成されてなるのが好ましい。この態様の電極は図22および23に示される。図22および23に示される作用電極223は、導電性基材225と、この導電性基材上に形成され、電子受容物質を含んで成る電子受容層226とを備えてなる。そして、電子受容層226の表面にプローブ物質が担持される。
【0071】
本発明における電子受容層は、プローブ物質を介して固定された増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる。すなわち、電子受容物質は、光励起された標識色素からの電子注入が可能なエネルギー準位を取り得る物質であることができる。ここで、光励起された標識色素からの電子注入が可能なエネルギー準位(A)とは、例えば、電子受容性材料として半導体を用いる場合には、伝導帯(コンダクションバンド:CB)を意味し、電子受容性材料として金属を用いる場合には、フェルミ準位を意味し、電子受容性材料として有機物もしくはC60等の分子状無機物を用いる場合には、最低非占有分子軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital:LUMO)を意味する。すなわち、本発明に用いる電子受容物質は、このAの準位が、増感色素のLUMOのエネルギー準位よりも卑な準位、換言すれば、増感色素のLUMOのエネルギー準位よりも低いエネルギー準位を有するものであればよい。
【0072】
電子受容物質の好ましい例としては、シリコン、ゲルマニウムなどの単体半導体;チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、タンタル等の酸化物半導体;チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等のペロブスカイト型半導体;カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン、ビスマスの硫化物半導体;カドミウム、鉛のセレン化物半導体;カドミウムのテルル化物半導体;亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物半導体;ガリウムヒ素、銅−インジウム−セレン化物、銅−インジウム−硫化物の化合物半導体;金、白金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、ニッケル等の金属;ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール等の有機物ポリマー;C60、C70等の分子状無機物が挙げられ、より好ましくは、シリコン、TiO2、SnO2、Fe2O3、WO3、ZnO、Nb2O5、チタン酸ストロンチウム、酸化インジウム、CdS、ZnS、PbS、Bi2S3、CdSe、CdTe、GaP、InP、GaAs、CuInS2、CuInSe、C60であり、さらに好ましくは、TiO2、ZnO、SnO2、Fe2O3、WO3、Nb2O5、チタン酸ストロンチウム、CdS、PbS、CdSe、InP、GaAs、CuInS2、CuInSe2であり、最も好ましくはTiO2である。なお、上記の列挙した半導体は、真性半導体および不純物半導体のいずれであってもよい。
【0073】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容物質は半導体であるのが好ましく、より好ましくは酸化物半導体であり、さらに好ましくは金属酸化物半導体であり、最も好ましくはn型金属酸化物半導体である。この態様によれば、半導体のバンドギャップの利用により、色素から効率良く電子を取り出すことができる。また、多孔体あるいは表面の凹凸形状といった構造を有する半導体の使用により、表面積の大きい作用電極を作製することができ、プローブ固定化量を増加させることができる。
【0074】
本発明の好ましい態様によれば、半導体の伝導帯の電位は、増感色素のLUMOの電位よりも低いことが好ましく、より好ましくは、増感色素のLUMO>半導体の伝導帯>電解質の酸化還元電位>増感色素のHOMOの関係を満たす電位である。このような関係にあることで、効率良く電子を取出すことが可能となる。
【0075】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容層が半導体からなる場合、層表面をカチオン化処理しても良い。カチオン化により、プローブ物質(DNA,タンパク質など)を高い効率で電子受容層に吸着させることが可能となる。カチオン化は、例えばアミノシランなどのシランカップリング剤、カチオンポリマー、4級アンモニウム化合物、などを電子受容層表面に作用させることにより行うことができる。
【0076】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、電子受容物質として、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)またはフッ素がドープされた酸化スズ(FTO)を用いることができる。ITOおよびFTOは電子受容層のみならず導電性基材としても機能する性質を有するため、これらの材料を使用することにより導電性基材を用いることなく電子受容層のみで作用電極として機能させることができる。
【0077】
電子受容物質として半導体または金属を用いる場合、その半導体または金属は単結晶および多結晶のいずれであってもよいが、多結晶体が好ましく、さらに緻密なものよりも多孔性を有するものが好ましい。これにより、比表面積が大きくなり、被検物質および増感色素を多く吸着させて、より高い感度および精度で被検物質を検出することができる。したがって、本発明の好ましい態様によれば、電子受容層が多孔性を有しており、各孔の径が3〜1000nmであるのが好ましく、より好ましくは、10〜100nmである。
【0078】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容層を導電性基材上に形成した状態での表面積は、投影面積に対して10倍以上であることが好ましく、さらに100倍以上であることが好ましい。この表面積の上限には特に限定されないが、通常1000倍程度であろう。電子受容層を構成する電子受容物質の微粒子の粒径は、投影面積を円に換算したときの直径を用いた平均粒径で一次粒子として5〜200nmであることが好ましく、より好ましくは8〜100nmであり、さらに好ましくは20〜60nmである。また、分散物中の電子受容性物質の微粒子(二次粒子)の平均粒径としては0.01〜100μmであることが好ましい。また、入射光を散乱させて光捕獲率を向上させる目的で、粒子サイズの大きな、例えば300nm程度の電子受容物質の微粒子を併用して、電子受容層を形成してもよい。
【0079】
本発明の好ましい態様によれば、作用電極が導電性基材をさらに含んでなり、電子受容層が導電性基材上に形成されてなるのが好ましい。本発明に使用可能な導電性基板としては、チタン等の金属のように支持体そのものに導電性があるもののみならず、ガラスもしくはプラスチックの支持体の表面に導電材層を有するものであってよい。この導電材層を有する導電性基板を使用する場合、電子受容層はその導電層上に形成される。導電材層を構成する導電材の例としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等の金属;炭素、炭化物、窒化物等の導電性セラミックス;およびインジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの、酸化スズにアンチモンをドープしたもの、酸化亜鉛にガリウムをドープしたもの、または酸化亜鉛にアルミニウムをドープしたもの等の導電性の金属酸化物が挙げられ、より好ましくは、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、酸化スズにフッ素をドープした金属酸化物(FTO)である。ただし、前述した通り、電子受容層自体が導電性基材としても機能する場合にあっては導電性基材は省略可能である。また、本発明において、導電性基材は、導電性を確保できる材料であれば限定されず、それ自体では支持体としての強度を有しない薄膜状またはスポット状の導電材層も包含するものとする。
【0080】
本発明の好ましい態様によれば、導電性基材が実質的に透明、具体的には、光の透過率が10%以上であるのが好ましく、より好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。また、本発明の好ましい態様によれば、導電材層の厚みは、0.02〜10μm程度であるのが好ましい。さらに、本発明の好ましい態様によれば、導電性基材の表面抵抗が100Ω/cm2以下であり、さらに好ましくは40Ω/cm2以下であるのが好ましい。導電性基材の表面抵抗の下限は特に限定されないが、通常0.1Ω/cm2程度であろう。
【0081】
導電性基材上への電子受容層の好ましい形成方法の例としては、電子受容物質の分散液またはコロイド溶液を導電性支持体上に塗布する方法、半導体微粒子の前駆体を導電性支持体上に塗布し空気中の水分によって加水分解して微粒子膜を得る方法(ゾル−ゲル法)、スパッタリング法、CVD法、PVD法、蒸着法などが挙げられる。電子受容物質としての半導体微粒子の分散液を作成する方法としては、前述のゾル−ゲル法の他、乳鉢ですり潰す方法、ミルを使って粉砕しながら分散する方法、あるいは半導体を合成する際に溶媒中で微粒子として析出させそのまま使用する方法等が挙げられる。このときの分散媒としては水または各種の有機溶媒(例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ジクロロメタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル等)が挙げられる。分散の際、必要に応じてポリマー、界面活性剤、酸、もしくはキレート剤などを分散助剤として使用してもよい。
【0082】
電子受容物質の分散液またはコロイド溶液の塗布方法の好ましい例としては、アプリケーション系としてローラ法、ディップ法、メータリング系としてエアーナイフ法、ブレード法等、またアプリケーションとメータリングを同一部分でできるものとして、特公昭58−4589号公報に開示されているワイヤーバー法、米国特許2681294号、同2761419号、同2761791号等に記載のスライドホッパ法、エクストルージョン法、カーテン法、スピン法、スプレー法が挙げられる。
【0083】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容層が半導体微粒子からなる場合、電子受容層の膜厚が0.1〜200μmであるのが好ましく、より好ましくは0.1〜100μmであり、さらに好ましくは1〜30μm、最も好ましくは2〜25μmである。これにより、単位投影面積当たりのプローブ物質および固定される増感色素量を増加して光電流量を多くするとともに、電荷再結合による生成した電子の損失をも低減することができる。また、導電性基材1m2当たりの半導体微粒子の塗布量は0.5〜400gであるのが好ましく、より好ましくは5〜100gである。
【0084】
本発明の好ましい態様によれば、電子受容物質がインジウム−スズ複合酸化物(ITO)または酸化スズにフッ素をドープした金属酸化物(FTO)を含んでなる場合、電子受容層の膜厚が1nm以上であるのが好ましく、より好ましくは10nm〜1μmである。
【0085】
本発明の好ましい態様によれば、半導体微粒子を導電性基材上に塗布した後に加熱処理を施すのが好ましい。これにより、粒子同士を電気的に接触させ、また、塗膜強度の向上や支持体との密着性を向上させることができる。好ましい加熱処理温度は、40〜700℃であり、より好ましくは100〜600℃である。また、好ましい加熱処理時間は10分〜10時間程度である。
【0086】
また、本発明の別の好ましい態様によれば、ポリマーフィルムなど融点や軟化点の低い導電性基材を用いる場合にあっては、熱による劣化を防止するため、高温処理を用いない方法により膜形成を行うのが好ましく、そのような膜形成方法の例として、プレス、低温加熱、電子線照射、マイクロ波照射、電気泳動、スパッタリング、CVD、PVD、蒸着等の方法が挙げられる。
【0087】
こうして得られた作用電極の電子受容層の表面にはプローブ物質が担持される。作用電極へのプローブ物質の担持は公知の方法に従い行うことができる。本発明の好ましい態様によれば、プローブ物質として一本鎖の核酸を用いる場合には、作用電極表面に酸化層を形成させておき、この酸化層を介して核酸プロ−ブと作用電極とを結合させることにより行うことができる。このとき、核酸プローブの作用電極への固定化は、核酸の末端に官能基を導入することにより行うことができる。これにより、官能基が導入された核酸プロ−ブはそのまま固定化反応により担体上に固定化されることができる。核酸末端への官能基の導入は、酵素反応もしくはDNA合成機を用いて行なうことができる。酵素反応において用いられる酵素としては、例えば、タ−ミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラ−ゼ、ポリAポリメラ−ゼ、ポリヌクレオチドカイネ−ス、DNAポリメラ−ゼ、ポリヌクレオチドアデニルトランスフェラ−ゼ、RNAリガ−ゼを挙げることができる。また、ポリメラ−ゼチェインリアクション(PCR法)、ニックトランスレ−ション、ランダムプライマ−法により官能基を導入することもできる。官能基は、核酸のどの部分に導入されてもよく、3’末端、5’末端もしくはランダムな位置に導入することができる。
【0088】
本発明の好ましい態様によれば、核酸プローブの作用電極への固定化のため官能基として、アミン、カルボン酸、スルホン酸、チオール、水酸基、リン酸等が好適に使用できる。また、本発明の好ましい態様によれば、拡散プローブを作用電極に強固に固定化するためには、作用電極と拡散プローブの間を架橋する材料を使用することも可能である。そのような架橋材料の好ましい例としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤や、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性ポリマーが挙げられる。
【0089】
本発明の好ましい態様によれば、核酸プロ−ブの固定化を物理吸着という、より簡単な操作で効率よく行うことも可能である。電極表面への核酸プロ−ブの物理吸着は、例えば、以下のように行なうことができる。まず、電極表面を、超音波洗浄器を用いて蒸留水およびアルコ−ルで洗浄する。その後、電極を核酸プロ−ブを含有する緩衝液に挿入して核酸プロ−ブを担体表面に吸着させる。
【0090】
また、核酸プローブの吸着後、ブロッキング剤を添加することにより、非特異的な吸着を抑制することができる。使用可能なブロッキング剤としては、核酸プローブが吸着していない電子受容層表面のサイトを埋めることができ、かつ電子受容物質に対して化学吸着あるいは物理吸着等により吸着可能な物質であれば限定されないが、好ましくは化学結合を介して吸着可能な官能基を有する物質である。例えば、酸化チタンを電子受容層として用いる場合における好ましいブロッキング剤の例としては、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基、水酸基、アミノ基、ピリジル基、アミド等の酸化チタンに吸着可能な官能基を有する物質が挙げられる。
【0091】
本発明の好ましい態様によれば、作用電極上にプローブ物質が互いに分離された複数の領域毎に区分されて担持されてなり、光源による光照射が各領域に対して個別に行われるのが好ましい。これにより、複数の試料を一枚の作用電極上で測定することができるので、DNAチップの集積化等が可能となる。本発明のより好ましい態様によれば、作用電極上にプローブ物質が担持された、互いに分離された複数の領域がパターニングされており、光源から照射される光でスキャニングしながら、各領域の試料について被検物質の検出または定量を一度の操作で連続的に行うことが好ましい。
【0092】
本発明のより好ましい態様によれば、作用電極上の互いに分離された複数の領域の各領域に複数種類のプローブ物質を担持させることができる。これにより、領域の個数に、各領域毎のプローブ物質の種類数を乗じた数の、多数のサンプルの測定を同時に行うことができる。
【0093】
本発明のより好ましい態様によれば、作用電極上の互いに分離された複数の領域の各領域毎に異なるプローブ物質を担持させることができる。これにより、区分された領域の数に相当する種類数のプローブ物質を担持させることができるので、多種類の被検物質の測定を同時に行うことができる。この態様は、各領域毎に異なる被検物質の分析が可能なため、一塩基多型の解析(SNPs)の多項目解析に好ましく利用することができる。
【0094】
(4)対電極
本発明に用いる対電極は、電解液に接触させた場合に作用電極との間に電流が流れることができるものであれば特に限定されず、金属もしくは導電性の酸化物を蒸着したガラス、プラスチック、セラミックス等が使用可能である。また、対電極としての金属薄膜を5μm以下、好ましくは3nm〜3μmの範囲の膜厚になるように、蒸着やスパッタリングなどの方法により形成して作成することもできる。対電極に使用可能な材料の好ましい例としては、白金、金、パラジウム、ニッケル、カーボン、ポリチオフェン等の導電性ポリマー、酸化物、炭化物、窒化物等の導電性セラミックス等が挙げられ、より好ましくは、白金、カーボンであり、最も好ましくは白金である。これらの材料は電子受容層の形成方法と同様の方法により薄膜形成が可能である。
【0095】
(5)電極ユニット
本発明の好ましい態様によれば、作用電極および対電極が同一平面上にパターニングされてなる電極ユニットを使用してもよい。好ましい電極ユニットは、絶縁基板と、絶縁基板上に局所的に設けられる、増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる電子受容層を備えた作用電極と、絶縁基板の作用電極と同一面上に、作用電極と離間して設けられる対電極とを備えてなる。そのような電極ユニットの一例が図24に示される。図24に示される電極ユニット271は、絶縁基板272と、作用電極273と、対電極274とを備えてなる。絶縁基板272は、作用電極272と対電極273とを短絡させないように絶縁性を有する基板である。作用電極273は、絶縁基板272上に局所的に設けられ、増感色素が光励起に応じて放出する電子を受容可能な電子受容物質を含んでなる電子受容層を備えてなる。対電極274は、絶縁基板272の作用電極273と同一面上に、作用電極273と離間して設けられる。そして、作用電極272および対電極274の各々から延出するようにリード線272’,274’がそれぞれ設けられる。
【0096】
このように、電極ユニットは、同一平面上に作用電極と対電極とを備えた一体型の電極部材であり、これを用いることにより、センサユニットの設計および材料選択の自由度が格段に広がり、センサユニットの生産性、性能、使い易さを大幅に改善できる。すなわち、本発明による電極ユニットは一体型の電極部材であり二枚の電極を対向させる必要が無いため、光源を電極ユニットの表面に対向させる構成を容易に採ることができる。その結果、作用電極を透明な材料に限らずセラミックスやプラスチック等の不透明な材料で構成することが可能となるので、電極材料の選択の自由度も広がる。また、光源からの作用電極表面の直接照射により、電極裏面から照射した際に起こる透明電極材料の透過度に起因する光の損失を無くすこともできるので、より精度の高い測定も期待できる。さらには、本発明による電極ユニットは一体型の電極部材であるため、作用電極、対電極、およびリード線を一工程の導通パターニングで形成することが可能となるため、電極の生産性が向上する。また、電極ユニットに対向させる材料は導電性を有する必要がないため、透明プラスチック、ガラスなどの汎用される材料を用いる事ができ、セルの生産性も向上する。
【0097】
(6)測定方法
本発明のセンサチップを用いた測定方法にあっては、先ず、増感色素の共存下、試料液を作用電極に接触させて、プローブ物質に被検物質を直接または間接的に特異的に結合させ、この結合により増感色素を前記作用電極に固定させる。
【0098】
本発明の好ましい態様によれば、増感色素で予め標識された一本鎖の核酸を被検物質とする場合、プローブ物質である一本鎖核酸との間でハイブリダイゼーション反応を行なうことができる。ハイブリダイゼーション反応の好ましい温度は37〜72℃の範囲であるが、その最適温度は使用するプロ−ブの塩基配列や長さ等により異なる。
【0099】
本発明の別の好ましい態様によれば、被検物質およびプローブ物質の結合体(例えばハイブリダイゼーション後の二本鎖核酸)にインターカレーション可能な増感色素を用いる場合には、試料液に増感色素を添加することにより結合体を特異的に増感色素で標識することができる。
【0100】
こうして被検物質が増感色素と共に固定された作用電極を、対電極と共に電解液に接触させ、作用電極に光を照射して増感色素を光励起させ、光励起された増感色素から作用電極への電子移動に起因して作用電極と対電極との間に流れる光電流を検出する。その際のセンサユニットとして、本発明の電解質含有シートを用いたセンサチップを使用する。
【0101】
本発明の好ましい態様によれば、互いに異なる光波長で励起可能な二種以上の増感色素を用いて複数種類の被検物質を個別に検出する場合、光源から波長選択手段を介して特定波長の光を照射することにより、複数の色素を個別に励起することが可能である。波長選択手段の例としては、分光器、色ガラスフィルター、干渉フィルター、バンドパスフィルター等が挙げられる。また、増感色素の種類に応じて異なる波長の光を照射可能な複数の光源を用いてもよく、この場合の好ましい光源の例としては、特定波長の光が照射されるレーザー光やLEDを用いてもよい。また、作用極に光を効率よく照射するため、石英、ガラス、液体ライトガイドを用いて導光してもよい。
【0102】
光照射により系内を流れる光電流は電流計により測定される。これにより、被検物質を検出することができる。その際の電流値は作用電極上にトラップされた増感色素の量を反映する。例えば、被検物質が核酸の場合、相補性のある核酸間で形成された二本鎖の量が、電流値となり反映される。したがって、得られた電流値から被検物質を定量することができる。したがって、本発明の好ましい態様によれば、電流計が、得られた電流量または電気量から試料液中の被検物質濃度を算出する手段をさらに備えてなるのが好ましい。
【0103】
本発明の好ましい態様によれば、光電流を検出する工程が、電流値を測定し、得られた電流値または電気量から試料液中の被検物質濃度を算出することができる。この被検物質濃度の算出は、予め作成された被検物質濃度と電流値または電気量との検量線と、得られた電流値または電気量とを対比することにより行うことができる。本発明の方法にあっては、電流値は作用電極上にトラップされた増感色素の量が反映されるので、被検物質濃度に対応した正確な電流値が得られるため、定量測定に適する。
【0104】
本発明の別の好ましい態様によれば、予め増感色素で標識された被検物質を競合物質として用いて、増感色素で標識されていない、プローブ物質に特異的に結合可能な第二の被検物質を定量することができる。第二の被検物質はプローブ物質に標識済被検物質よりも特異的に結合しやすい性質を有するのが好ましい。これら二種類の被検物質を競合させてプローブ物質に特異的に結合させると、検出される電流値と第二の被検物質の濃度との間に相関関係が得られる。つまり、色素標識されていない第二の被検物質の数が増加するにつれ、プローブ物質に特異的に結合する競合物質の数が減少するため、第二の被検物質濃度の増加につれて、検出電流値が減少する検量線を得ることができる。したがって、増感色素で標識されていない第二の被検物質の検出および定量が可能となる。
【0105】
本発明のより好ましい態様によれば、被検物質および第二の被検物質が抗原であり、プローブ物質が抗体であるのが好ましい。この態様における被検物質および第二の被検物質のプローブ物質への固定化工程を図25に示す。図25に示されるように、増感色素で標識された抗原241と、色素標識されていない抗原242とが競合して抗体243に特異的に結合する。したがって、色素標識されていない抗原242が増加するにつれ、抗体に特異的に結合する色素標識された抗原243が減少するため、第二の被検物質濃度の増加につれて、検出電流値が減少する検量線を得ることができる。
【実施例】
【0106】
例A1:ゲルシートを用いた光電流測定
(1)色素標識DNA固定化作用電極の作製
作用電極用のガラス基材として、フッ素をドープした酸化スズ(F−SnO2:FTO)コートガラス(エイアイ特殊硝子社製、U膜、シート抵抗:12Ω/□、形状:50mm×26mm)を用意した。このガラス基材をアセトン中で15分間、続いて超純水中で15分間超音波洗浄を施して、汚れおよび残存有機物の除去を行った。このガラス基材を5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で15分間振盪させた。その後、水酸化ナトリウムの除去のために超純水中での5分間の振盪を水を入れ替えて3回行った。ガラス基材を取り出して空気を吹き付けて残水を飛散させた後、ガラス基材を無水メタノールに浸漬させて脱水した。
【0107】
95%メタノール5%超純水を溶媒として、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を2vol%となるように加え、室温下で5分間の攪拌を行って、カップリング処理用の溶液を調製した。このカップリング処理用溶液に上記ガラス基材を浸漬させ、ゆっくりと15分間振盪させた。次いで、ガラス基材を取り出し、メタノール中で10回ほど振盪させて余剰なカップリング処理用溶液を除く操作を、メタノールを3回換えて行った。その後、ガラス基材を110℃で30分間保持してカップリング剤をガラス基材に結合させた。ガラス基材を室温下で冷却した後、直径3mmの大きさの開口部が9スポット形成された粘着性シール(厚さ:0.5mm)を載置して密着させた。続いて、濃度調整した(100 nM)ローダミン標識ssDNA(25mer)を95℃で10分間保持した後、直ちに氷上に移して10分間保持してDNAを変性させた。この変性DNAを先に用意したガラス上のシールの9開口部に5μlずつ充填し、95℃で10分保持して溶媒を蒸発させた。その後、UVクロスリンカー(UVP社CL−1000型)で120mJの紫外光を照射して、標識ssDNAをガラス基材に固定化した。シールをガラス基材から剥がし、ガラス基材を0.2%SDS溶液中で15分間×3回振盪させ、超純水を3回入れ替えて濯いだ。このガラス基材を沸騰水に2分間浸漬させて取り出した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。続いて、ガラス基材を4℃の無水エタノールに1分間浸漬させて脱水し、空気を吹き付けて残留エタノールを飛散させた。こうして、色素標識DNA固定化作用電極を得た。
【0108】
(2)ゲルシートの作製
0.1M、0.2M、および0.5Mのテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)を含む水溶液を調製した。この水溶液に最終濃度1%のアガロース(電気泳動用アガローススタンダードLow−mr、BIO−Rad社)を加え、121℃で20分間オートクレーブにて加熱して、アガロースを溶解させた。アガロースが溶解した状態の液を、厚さ1.0mmのパッキンを挟んだ2枚のガラス板の間に流し込み、室温下で放冷および固化させて、ゲルシートを得た。得られたゲルシートをカッターで適当な大きさに裁断して、光電流測定用のサイズに加工した。
【0109】
(3)光電流測定
(i)ゲルシートを用いた測定
上記(1)で作製した色素標識DNA固定化作用電極と、ガラス板上に白金が蒸着されてなる対電極とを用意した。両電極間に上記(2)で作製したゲルシートを挟み、密着させた。この時、作用電極のssDNAが固定化された面と対電極の白金蒸着面とが対向するように配置した。両電極を電気化学アナライザーに接続した状態で、作用電極にレーザー光源(出力60mW、照射領域の直径1mm、波長530nmの緑色レーザー)を照射し、その時に観察される電流値を記録した。
【0110】
(ii)電解液を用いた測定(比較)
比較のため、ゲルシートの代わりに電解液を用いて、上記(i)と同様の測定を行った。具体的には、上記(1)で得られた色素標識DNA固定化作用電極と、ガラス板上に白金が蒸着されてなる対電極とを用意した。両電極間に厚さ1mmのガスケットを挟み、その空隙に上記(1)で調整した0.2M NPrI4溶液を充填した。この時、作用電極のssDNAが固定化された面と対電極の白金蒸着面とが対向するように配置した。両電極を電気化学アナライザーに接続した状態で、作用電極にレーザー光源(出力60mW、照射領域の直径1mm、波長530nmの緑色レーザー)を照射し、その時に観察される
電流値を記録した。
【0111】
結果を図26に示す。図26に示されるように、ゲルシートを使用した場合にあっては、0.1〜0.5Mの電解質濃度の全域にわたって、電解液を使用した場合よりも格段に高い光電流が検出された。
【0112】
例A2:ゲル濃度の影響
(1)色素標識DNA固定化作用電極の作製
固定化するssDNA濃度を10nMと100nMの2濃度としたこと以外は、例A1と同様にして、色素標識DNA固定化作用電極を作製した。
(2)ゲルシートの作製
アガロース濃度を0.5%、4%、8%、および10%と変化させたこと以外は、例A1と同様にしてゲルシートを作製した。
(3)光電流測定
上記(1)で作製した吸着固定化濃度の異なる各作用電極と、上記(2)で作製したアガロース濃度の異なる各ゲルシートを用いて、例A1と同様にして光電流を測定した。
【0113】
結果を図27に示す。図27に示されるように、0.5%〜10%のアガロース濃度の全域にわたって、アガロース濃度の光電流値への影響はほとんど認められなかった。したがって、十分な強度を得る観点からゲルを比較的多く使用しても、光電流検出への悪影響は無いことが推察される。
【0114】
例A3:ゲルシートの厚さの影響
(1)色素標識DNA固定化作用電極の作製
固定化するssDNA濃度を10nMと100nMの2濃度としたこと以外は例A1(1)と同様にして、色素標識DNA固定化作用電極を作製した。
(2)ゲルシートの作製
アガロース濃度を1%に固定し、ゲルシートの厚さを1mm、2mm、および3mmとしたこと以外は、例A1と同様にしてゲルシートを作製した。
(3)光電流測定
上記(1)で作製した吸着固定化濃度の異なる各作用電極と、上記(2)で作製した厚さの異なる各ゲルシートを用いて、例A1と同様にして光電流を測定した。
【0115】
結果を図28に示す。図28に示されるように、1mm〜3mmのゲルシート厚さの全域にわたって、光電流値への影響はほとんど認められなかった。したがって、十分な強度を得る観点からゲルシート厚さを大きくしても、光電流値検出への悪影響は無いことが推察される。
【0116】
例A4:ゲルシートの作製方法の検討
電解質およびゲル化剤(アガロース)を水に加えて加熱溶解してゲルを作製した場合(以下、混合調製という)と、ゲル化剤のみでゲルを形成した後に電解質溶液中に浸漬させてゲル中に電解質を分散させた場合(以下、浸漬調製という)とにおける、光電流測定への影響を検討した。具体的には、混合調製にあっては、例A1と同様にして厚さ1mmのゲルシートを作製し、適当な大きさに裁断した。一方、浸漬調製にあっては、電解質を使用しないこと以外は例1と同様して厚さ1mmのゲルシートを作製し、適当な大きさに裁断した後に、0.2MのNPr4I溶液中にゲルシートを一晩、室温で浸漬させた。続いてこのゲルシートを溶液から取り出した後、付着した残余還元剤溶液を純水で洗い流した後、水気を切った。各ゲルシートを、作用電極と対電極間に挟み込み、例A1(3)と同様にして光電流測定を行った。また、ローダミン標識ssDNA濃度が0nM、および10nMの各溶液を用いて作製した作用電極も作製して上記同様に光電流測定を行った。
【0117】
結果を図29に示す。図29に示されるように、浸漬調製により作製したゲルシートも、混合調製により作製したゲルシートと同程度の光電流が検出される、すなわち同様の性能が得られることが分かる。したがって、電解質とゲル化剤との組合せが混合調製に適さない場合(例えばポリアクリルアミドゲルとNPr4Iの組合せなどのように加熱溶解させて固化させることが困難な場合)であっても、ゲル化させた後に含浸させる浸漬調製によればゲルシートを容易に作製することができる。
【0118】
例A5:ゲルシートのゲル強度の検討
(1)電解質を含まないゲルシートの作製
電解質を使用せず、かつアガロースの最終濃度を0.1%、0.5%、0.8%、1%、2%、4%、8%、15%としたこと以外は、例A1と同様にしてゲルシートを作製した。
(2)ゲルシートの強度測定
得られたゲルシートのゲル強度(g/cm2)を「レオメーターCR200D」(サン科学社製)のMODE−2により測定した。図30にこの「レオメーターCR200D」の概略図を示す。図30に示されるように、この測定装置は、テーブル281と、棒状アダプター282とを備えている。使用した棒状アダプター282は、アクリル樹脂製の、サン科学社製アダプターNO.25−15mmであり、ゲルシートと接触する面の直径が15mmである。図31に示されるように、この測定においては、テーブル281上に形状が30mm×30mm、厚さ1mmのゲルシートを設置し、棒状アダプター282を100mm/minの速度で0.8mmの深さに進入させてゲルを圧縮し、その際にかかる最大荷重を測定した(荷重はHOLDに設定)。その際、ゲルシートから棒状アダプターがはみ出さないようにゲルシートを設置した。この測定を、ゲルシートを交換して3回ずつ行い、その平均を表面積あたりの荷重に換算したものをゲル強度(g/cm2)とした
。
【0119】
結果を図32に示す。図32に示されるように、アガロース添加量が多いほど、ゲル強度が増大することがわかる。また、アガロース濃度が0.1%の時はゲル化しなかったが、アガロース濃度が0.5%の場合には単独で取り扱うことが可能なゲルシートが得られ、その際のゲル強度は169.9g/cm2であった。以上のことから、単独で取り扱うことが可能なゲルシートを形成するには、ゲル強度が少なくとも100g/cm2以上であることが望ましい。
【0120】
例A6:ポリアクリルアミドを用いたゲルシート
7.5%ポリアクリルアミドゲル(厚さ1mm)を適当な大きさに裁断し、0.2M NPr4I溶液に室温で一晩浸漬して、還元剤を含浸させた。純水で残余の還元剤溶液を洗い流し、水気を切った後に、例A1と同様にして光電流を測定した。また、参考のため、同じ厚さのゲルシートを1重量%アガロースを用いて作製し、同様に0.2M NPr4I溶液に室温で一晩浸漬して、還元剤を含浸させて使用し、例A1と同様にして光電流の測定を行った。色素標識DNA固定化作用電極の作製は例A1と同様にして行い、ローダミン標識ssDNA濃度が0nM、および10nMの各溶液を用いて作製した作用電極も作製して上記同様に光電流測定を行った。
【0121】
結果を図33に示す。図33に示されるように、アクリルアミドを用いたゲルシートにあっては、アガロースを用いたゲルシートと同程度の光電流が測定された。
【0122】
例A7:各種電解質の検討
各種電解質を用いて光電流測定を行った。具体的には、ゲル化剤として1重量%アガロースを用い、各還元剤の濃度を0.2Mに固定して、ゲルシートを作製した。電解質としては、NaI、KI、CaI2、LiI、NH4I、テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)および亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)を用いた。アガロースと電解質を水に加え、例A1と同様にオートクレーブにして加熱溶解させたものを、室温で放冷して固化させて、適当な大きさに裁断してゲルシートを作製した。光電流の測定は例A1と同様にして行った。色素標識DNA固定化作用電極の作製は例A1と同様にして行い、ローダミン標識ssDNA濃度が0nM、および10nMの各溶液を用いて作製した作用電極も作製して上記同様に光電流測定を行った。
【0123】
結果を図34に示す。検討したいずれの還元剤でも、ssDNA固定化量に依存して光電柱の増加が認められ、使用可能であることが明らかになった。
【0124】
例A8:一塩基多型(SNPs)検出
本例では、p53遺伝子の一塩基多型の検出にゲルシートを応用した。作用電極側に完全一致プローブ、一塩基変異鎖プローブ、および完全不一致プローブを固定化した。それぞれの塩基配列は下記の通りとした。
完全一致(PM)プローブ: 5’−NH2−AGGATGGGCCTCAGGTTCATGCCGC−3’(配列番号1)
一塩基変異鎖(SNP)プローブ: 5’−NH2−AGGATGGGCCTCCGGTTCATGCCGC−3’(配列番号2)
完全不一致(MM)プローブ: 5’−NH2−GCGGCATGAACCGGAGGCCCATCCT−3’(配列番号3)
【0125】
これらのプローブとハイブリダイゼーションさせるターゲットDNAの塩基配列は下記の通りとした。
ターゲットDNA: 5’−ローダミン−GCGGCATGAACCTGAGGCCCATCCT−3’(配列番号4)
【0126】
作用電極用のガラス基材として、フッ素をドープした酸化スズ(F−SnO2:FTO)コートガラス(エイアイ特殊硝子社製、U膜、シート抵抗:12Ω/□、形状:50mm×26mm)を用意した。このガラス基材をアセトン中で15分間、続いて超純水中で15分間超音波洗浄を施して、汚れおよび残存有機物の除去を行った。このガラス基材を5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で15分間振盪させた。その後、水酸化ナトリウムの除去のために超純水中での5分間の振盪を水を入れ替えて3回行った。ガラス基材を取り出して空気を吹き付けて残水を飛散させた後、ガラス基材を無水メタノールに浸漬させて脱水した。
【0127】
95%メタノール5%超純水を溶媒として、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を2vol%となるように加え、室温下で5分間の攪拌を行って、カップリング処理用の溶液を調製した。このカップリング処理用溶液に上記ガラス基材を浸漬させ、ゆっくりと15分間振盪させた。次いで、ガラス基材を取り出し、メタノール中で10回ほど振盪させて余剰なカップリング処理用溶液を除く操作を、メタノールを3回換えて行った。その後、ガラス基材を110℃で30分間保持してカップリング剤をガラス基材に結合させた。ガラス基材を室温下で冷却した後、直径3mmの大きさの開口部が9スポット形成された粘着性シール(厚さ:0.5mm)を載置して密着させた。続いて、1μMに調製した完全一致鎖、一塩基変異鎖、完全不一致鎖のプローブDNA(25mer)を95℃で10分間保持した後、直ちに氷上に移して10分間保持してDNAを変性させた。この変性DNAを先に用意したガラス上のシールの9開口部に5μlずつ充填し、95℃で10分保持して溶媒を蒸発させた。その後、UVクロスリンカー(UVP社CL−1000型)で120mJの紫外光を照射して、プローブDNAをガラス基材に固定化した(各プローブにつき、3スポットずつ固定化)。シールをガラス基材から剥がし、ガラス基材を0.2%SDS溶液中で15分間×3回振盪させ、超純水を3回入れ替えて濯いだ。このガラス基材を沸騰水に2分間浸漬させて取り出した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。続いて、ガラス基材を4℃の無水エタノールに1分間浸漬させて脱水し、空気を吹き付けて残留エタノールを飛散させた。こうして、プローブDNA固定化作用電極を得た。
【0128】
その後、ターゲットDNAを含む5×SSC、0.5%SDS溶液を、プローブを固定した電極にのせてカバーガラスで密閉した状態で37℃で10時間保温した。その後、電極をラックに立て、63℃の0.2×SSC、0.2%SDS溶液5Lを入れた水槽中に1分間浸漬させた後、水で2回すすぎ電極を乾燥させた。
【0129】
こうして得られた作用電極を測定セルに組み込み、測定セル上に光源自動移動用XYステージを取り付けた。セル部分の構成はゲルシートを用いる場合は作用電極と白金対電極とを対向させ、両電極間に接触による短絡を防止しゲルシートを挟み込んだ。電解液を用いる場合は作用電極と白金対電極とを対向させ、両電極間に接触による短絡を防止し、電解液を充填するための空間を作り出すことを目的として、膜厚が500μmのシリコンシートを挿入した。シリコンシートには全スポットが入る十分大きい穴が空いており、ここに送液された電解液が溜まり、作用電極上に固定化されたDNAが接触する構造になっている。作用電極、対電極共に、電気的に接しているスプリングプローブを介して高感度な電流計に接続した。
【0130】
続いて自動移動用XYステージに固定した光源により作用電極裏面の上方から光を照射し、作用電極と白金対電極の間に流れる電流を経時的に測定した。作用電極の上方にはFTO基板上のスポットと同形状の遮光部材を設けて、隣接するスポットへの光照射を防止すると同時に、光の無照射スポットを設けた。測定はスポットを順次走査し、同時にスポットでの電流出力をパソコンに接続された高感度電流計を介してパソコンに記憶した。
【0131】
ターゲットDNA濃度が1μMの場合の結果を図35に、ターゲットDNA濃度が100nMの場合の結果を図36に示す。図35および36に示されるように、ターゲット濃度が1μMの場合には電解液およびゲルシートのいずれの形態であっても一塩基多型(SNPs)を光電流値の差として検出することができたが、100nMの場合にはSNPsを光電流値の差として検出できたのはゲルシートの形態だけであった。
【0132】
例B1:電解質含有吸水性シートを用いた光電流測定
(1)色素標識DNA固定化作用電極の作製
作用電極用のガラス基材として、フッ素をドープした酸化スズ(F-SnO2:FTO)コートガラス(エイアイ特殊硝子社製、U膜、シート抵抗:12Ω/□、形状:50mm×26mm)を用意した。このガラス基材をアセトン中で15分間、続いて超純水中で15分間超音波洗浄を施して、汚れおよび残存有機物の除去を行った。このガラス基材を5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で15分間振盪させた。その後、水酸化ナトリウムの除去のために超純水中での5分間の振盪を水を入れ替えて3回行った。ガラス基材を取り出して空気を吹き付けて残水を飛散させた後、ガラス基材を無水メタノールに浸漬させて脱水した。
【0133】
95%メタノール5%超純水を溶媒として、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を2vol%となるように加え、室温下で5分間の攪拌を行って、カップリング処理用の溶液を調製した。このカップリング処理用溶液に上記ガラス基材を浸漬させ、ゆっくりと15分間振盪させた。次いで、ガラス基材を取り出し、メタノール中で10回ほど振盪させて余剰なカップリング処理用溶液を除く操作を、メタノールを3回換えて行った。その後、ガラス基材を110℃で30分間保持してカップリング剤をガラス基材に結合させた。ガラス基材を室温下で冷却した後、直径3mmの大きさの開口部が9スポット形成された粘着性シール(厚さ:0.5mm)を載置して密着させた。続いて、100 nMに濃度調整した5’末端ローダミン標識ssDNA(25mer)と、100 nMに濃度調整した非標識ssDNA(24mer)を95℃で10分間保持した後、直ちに氷上に移して10分間保持してDNAを変性させた。この変性DNAを先に用意したガラス上のシールの9開口部にそれぞれ5μlずつ充填し、95℃で10分保持して溶媒を蒸発させた。その後、UVクロスリンカー(UVP社CL-1000型)で120mJの紫外光を照射して、標識ssDNAをガラス基材に固定化した。シールをガラス基材から剥がし、ガラス基材を0.2%SDS溶液中で15分間×3回振盪させ、超純水を3回入れ替えて濯いだ。このガラス基材を沸騰水に2分間浸漬させて取り出した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。続いて、ガラス基材を4℃の無水エタノールに1分間浸漬させて脱水し、空気を吹き付けて残留エタノールを飛散させた。こうして、色素標識DNA固定化作用電極を得た。ここで使用したプローブDNAの塩基配列は下記の通りである。
5’末端ローダミン標識ssDNA(プローブ1):5'-Rho-GCGGCATGAACCTGAGGCCCATCCT-3'(配列番号5)
非標識ssDNA(プローブ2):5'-TTGAGCAAGTTCAGCCTGGTTAAG-3'(配列番号6)
【0134】
(2)電解質含有吸収性シートの作製
0.2M、0.4M、および0.6Mのテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)を含む水溶液を調製した。この水溶液に26mm×20mmに切った厚さ0.9mmのブロッティング用ろ紙(CB-13A;アトー株式会社)を浸漬させて、軽く水切りをし、電解質含有吸収性シートを得た。
【0135】
(3)電解質含有吸収性シートを用いた光電流測定
上記(1)で作製した色素標識DNA固定化作用電極と、ガラス板上に白金が蒸着されてなる対電極とを用意した。両電極間に上記(2)で作製した電解質含有吸収性シートを挟み、密着させた。この時、作用電極のssDNAが固定化された面と対電極の白金蒸着面とが対向するように配置した。両電極を電気化学アナライザーに接続した状態で、作用電極にレーザー光源(出力60mW、照射領域の直径1mm、波長530nmの緑色レーザー)を照射し、その時に観察される電流値を記録した。
【0136】
結果を図37に示す。図37に示されるように、テトラプロピルアンモニウムヨージドの濃度に依存して光電流の増加が認められたが、いずれの濃度のテトラプロピルアンモニウムヨージドおいても測定に使用可能であることが明らかになった。
【0137】
例B2:各種電解質の検討
各種電解質を用いて光電流測定を行った。具体的には、吸水性基材としてろ紙を用い、各還元剤の濃度を0.2Mに固定して、電解質含有吸収性シートを作製した。電解質としては、NaI、KI、CaI2、LiI、NH4I、テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)および亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)を用いた。これらの各種電解質と水を含む電解液を作製し、26mm×20mmに切った厚さ0.9mmのブロッティング用ろ紙(CB-13A;アトー株式会社)を浸漬させて、軽く水切りをし、電解質含有吸収性シートを得た。光電流の測定は例B1と同様にして行った。色素標識DNA固定化作用電極の作製は例B1と同様にして行い、ローダミン標識ssDNA濃度が10nM、およびローダミン非標識ssDNA濃度100nMの各溶液を用いて作製した作用電極も作製して上記同様に光電流測定を行った。
【0138】
結果を図38に示す。図38に示されるように、検討したいずれの電解質でも、ssDNA固定化量に依存して光電流の増加が認められ、測定に使用可能であることが明らかになった。
【0139】
例B3:電解質含有吸収性シートの厚さの影響
(1)色素標識DNA固定化作用電極の作製
固定化するssDNA濃度を100nMと1μMの2濃度としたこと以外は例B1(1)と同様にして、色素標識DNA固定化作用電極を作製した。
(2)電解質含有吸収性シートの作製
0.2Mの濃度のテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)と水により電解液を作製し、厚さ0.9mmのブロッティング用ろ紙(CB-13A;アトー株式会社)を1枚、2枚重ね、3枚重ねし、それぞれ電解液に浸漬させて電解質含有吸収性シートを作製した。
(3)光電流測定
上記(1)で作製した固定化濃度の異なるスポットを有する作用電極と、上記(2)で作製した厚さの異なる各電解質含有吸収性シートを用いて、例B1と同様にして光電流を測定した。
【0140】
結果を図39に示す。図39に示されるように、0.9mm〜2.7mmの電解質含有吸収性シート厚さの全域にわたって、光電流値への影響はほとんど認められなかった。したがって、十分な強度を得る観点から電解質含有吸収性シート厚さを厚くしても、光電流値検出への悪影響は無いことが推察される。
【0141】
例B4:各吸収性基材の検討
吸水性基材として、厚さ0.9mmのブロッティング用ろ紙(CB-13A;アトー株式会社)、フェルト(厚さ:1mm、密度:0.00049g/mm3)、ボール紙(厚さ:0.5mm、密度:0.00071g/mm3)、ガラス繊維ろ紙(GF/D;Whatman:厚さ:0.68mm)、パルプ繊維及び合成繊維を含むコート紙(厚さ:0.14mm、密度:0.00111g/mm3)、弗素樹脂を主に含んでなるメンブレンフィルター(JCWP09025;MILLIPORE:厚さ:0.1mm)を用いた以外は例B1と同様にして光電流の測定を行った。色素標識DNA固定化作用電極の作製は例B1と同様にして行い、ローダミン標識ssDNA濃度が100nM、および1μMの各溶液と、非標識ssDNA濃度が100nMを用いて作製した作用電極も作製して例B1同様に光電流測定を行った。電解液は0.2Mのテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)を含む水溶液を用いた。
【0142】
結果を図40に示す。図40に示されるように、すべての電解質含有吸水性シートにおいて、ssDNA固定化量に依存して光電流の増加が認められ、使用可能であることが明らかになった。
【0143】
例B5:電解質含有吸収性シートの含水率の検討
(1)含水率の測定
まず、26mm×20mmに切った厚さ0.9mmのブロッティング用ろ紙(CB-13A;アトー株式会社)に0.4Mのテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)を含む水溶液を500μl滴下し、ろ紙を完全に電解液に浸した。こうして、電解液が含浸されたろ紙を6枚作製した。次に、各含浸されたろ紙を0時間、0.25時間、0.5時間、1時間、1.25時間、1.5時間、それぞれ50℃で乾燥させた。乾燥後のろ紙の重量を測定し、テトラプロピルアンモニウムヨージドの重量を除いた後、1mm3 辺りの含水量を計算した。その後、(1mm3 辺りの含水量)/(ろ紙密度)の割合を計算し電解質含有吸収性シートの含水率とした。なおブロッティング用ろ紙の密度は0.00049g/mm3である。
(2)光電流測定
(1)で作製した各含水率の電解質含有吸収性シートにより例B1と同様にして光電流を検出した。
【0144】
結果を図41に示す。図41に示されるように、電解質含有吸収性シートの含水率が高いほど、光電流が高いことがわかる。また、含水率が2.2%の時は光電流を検出できなかったが、含水率が25.3%の時には光電流が検出できた。以上のことから、光電流が検出可能な電解質含有吸収性シートは、含水率が少なくとも20%以上であることが望ましい。
【0145】
例B6:各種電解質を用いた一塩基多型(SNPs)検出
本例では、p53遺伝子の一塩基多型の検出に電解質含有吸収性シートを応用した。作用電極側に完全一致プローブ、一塩基変異鎖プローブ、および完全不一致プローブを固定化した。それぞれの塩基配列は下記の通りとした。
完全一致(PM)プローブ: 5'-AGGATGGGCCTCAGGTTCATGCCGC-3'(配列番号1)一塩基変異鎖(SNP)プローブ: 5'-AGGATGGGCCTCCGGTTCATGCCGC-3'(配列番号2)
完全不一致(MM)プローブ: 5'-GCGGCATGAACCGGAGGCCCATCCT-3'(配列番号3)
【0146】
これらのプローブとハイブリダイゼーションさせるターゲットDNAの塩基配列は下記の通りとした。
ターゲットDNA: 5'-ローダミン-GCGGCATGAACCTGAGGCCCATCCT-3'(配列番号4)
【0147】
作用電極用のガラス基材として、フッ素をドープした酸化スズ(F-SnO2:FTO)コートガラス(エイアイ特殊硝子社製、U膜、シート抵抗:12Ω/□、形状:50mm×26mm)を用意した。このガラス基材をアセトン中で15分間、続いて超純水中で15分間超音波洗浄を施して、汚れおよび残存有機物の除去を行った。このガラス基材を5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で15分間振盪させた。その後、水酸化ナトリウムの除去のために超純水中での5分間の振盪を水を入れ替えて3回行った。ガラス基材を取り出して空気を吹き付けて残水を飛散させた後、ガラス基材を無水メタノールに浸漬させて脱水した。
【0148】
95%メタノール5%超純水を溶媒として、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を2vol%となるように加え、室温下で5分間の攪拌を行って、カップリング処理用の溶液を調製した。このカップリング処理用溶液に上記ガラス基材を浸漬させ、ゆっくりと15分間振盪させた。次いで、ガラス基材を取り出し、メタノール中で10回ほど振盪させて余剰なカップリング処理用溶液を除く操作を、メタノールを3回換えて行った。その後、ガラス基材を110℃で30分間保持してカップリング剤をガラス基材に結合させた。ガラス基材を室温下で冷却した後、直径3mmの大きさの開口部が9スポット形成された粘着性シール(厚さ:0.5mm)を載置して密着させた。続いて、1μMに調製した完全一致鎖、一塩基変異鎖、完全不一致鎖のプローブDNA(25mer)を95℃で10分間保持した後、直ちに氷上に移して10分間保持してDNAを変性させた。この変性DNAを先に用意したガラス上のシールの9開口部に5μlずつ充填し、95℃で10分保持して溶媒を蒸発させた。その後、UVクロスリンカー(UVP社CL-1000型)で120mJの紫外光を照射して、プローブDNAをガラス基材に固定化した(各プローブにつき、3スポットずつ固定化)。シールをガラス基材から剥がし、ガラス基材を0.2%SDS溶液中で15分間×3回振盪させ、超純水を3回入れ替えて濯いだ。このガラス基材を沸騰水に2分間浸漬させて取り出した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。続いて、ガラス基材を4℃の無水エタノールに1分間浸漬させて脱水し、空気を吹き付けて残留エタノールを飛散させた。こうして、プローブDNA固定化作用電極を得た。
【0149】
その後、濃度を100nMに調製したターゲットDNAを含む5×SSC、0.5%SDS溶液を、プローブを固定した電極にのせてカバーガラスで密閉した状態で37℃で10時間保温した。その後、2×SSC(室温)中でカバーガラスを剥がし、電極をラックに立て、40℃に設定した2×SSC/0.2%SDS溶液中に30分間振とうさせた後、水ですすぎ電極を乾燥させた。
【0150】
こうして得られた作用電極と電解質含有吸収性シートを測定セルに組み込み、測定セル上に光源自動移動用XYステージを取り付けた。セル部分の構成は作用電極と白金対電極とを対向させ、両電極間に接触による短絡を防止し、作用電極、対電極共に、電気的に接しているスプリングプローブを介して高感度な電流計に接続した。電解質含有吸収性シートは吸水性基材としてろ紙を用い、各還元剤の濃度を0.4Mに固定して、電解質含有吸収性シートを作製した。電解質としてはテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)および亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)を用いた。作製方法は各種電解質と水を含む電解液を作製し、26mm×20mmに切った厚さ0.9mmのブロッティング用ろ紙(例B1と同様)を浸漬させて、軽く水切りをし、電解質含有吸収性シートを得た。
【0151】
続いて自動移動用XYステージに固定した光源により作用電極裏面の上方から光を照射し、作用電極と白金対電極の間に流れる電流を経時的に測定した。作用電極の上方にはFTO基板上のスポットと同形状の遮光部材を設けて、隣接するスポットへの光照射を防止すると同時に、光の無照射スポットを設けた。測定はスポットを順次走査し、同時にスポットでの電流出力をパソコンに接続された高感度電流計を介してパソコンに記憶した。
【0152】
結果を図42に示す。結果よりいずれの電解質を用いた場合であっても一塩基多型(SNPs)を光電流値の差として検出することができた。
【0153】
例B7:乾燥させた電解質含有吸収性シートを用いた一塩基多型(SNPs)検出
電解質含有吸収性シートを作製後、50℃で2時間乾燥させて、作用電極、乾燥させた電解質含有吸収性シートを測定セルに組み込んだ後に300μlの水を光電流検出直前に電解質含有吸収性シートに滴下したこと以外は例B6と同様にして、光電流を検出した(乾燥型)。比較として、例B6と同様に光電流検出直前に吸水性基材を電解液に浸漬させて作製した電解質含有吸収性シートを用いた(浸漬型)。
【0154】
結果を図43に示す。結果より乾燥させた電解質含有吸収性シートを用いた場合であっても一塩基多型(SNPs)を光電流値の差として検出することができた。
【0155】
例B8:水系電解液と電解質含有吸収性シートの比較
0.4Mのテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)と水を含む電解液と、例B6と同様に光電流検出直前に吸水性基材を上記電解液に浸漬させて作製した電解質含有吸収性シートにおいてそれぞれSNPs検出を行い、水系電解液を用いた場合と電解質含有吸収性シートを用いた場合の検出精度を比較した。電解質含有吸収性シートのSNPs検出は例B6と同様に行った。水系電解液を用いたSNPs検出は電極基板の作製方法は例B6と同様にして行い、測定はフローセル型の測定用セルを用いた。図47および図48に第一の態様によるフローセル型測定用セルの断面図および分解図をそれぞれ示す。
【0156】
図44および図45に示すフローセル型の測定用セルは基板357上に対電極353が設けられ、この基板357には電解液または洗浄液の供給孔362および排出孔363が形成され、対電極353上には電解液を収容する空間354を有する絶縁スペーサ364が配置され、この絶縁スペーサ364上に作用電極352が設けられ、この作用電極352の空間354に臨む面に複数の電子受容層355が離間して形成されている。そして、対電極353と干渉しないように前記基板357を貫通して作用電極用接点358が設けられている。この作用電極用接点358により光電流の取り出しを行っている。また、前記作用電極352の上には押さえ部材359が設けられ、この押さえ部材359には前記複数の電子受容層355のそれぞれに対応した位置に貫通孔360が形成されている。この貫通孔360を介して、光源356からの光が作用電極352に照射される。そして、作用電極352および対電極353間には電流計361が接続され、光照射により系内を流れる光電流が電流計により測定される。
【0157】
結果を図46に示す。結果より電解質含有吸収性シートを用いた場合であっても水系電解液を用いた場合と同様に、精度よく一塩基多型(SNPs)を光電流値の差として検出することができた。
【0158】
例C1:図18の装置を使用した一塩基多型(SNPs)検出
本例では、p53遺伝子の一塩基多型の検出を行った。作用電極側に完全一致プローブ、一塩基変異鎖プローブ、および完全不一致プローブを固定化した。それぞれの塩基配列は下記の通りとした。
完全一致(PM)プローブ: 5'-AGGATGGGCCTCAGGTTCATGCCGC-3'(配列番号1)
一塩基変異鎖(SNP)プローブ: 5'-AGGATGGGCCTCCGGTTCATGCCGC-3'(配列番号2)
完全不一致(MM)プローブ: 5'-GCGGCATGAACCGGAGGCCCATCCT-3'(配列番号3)
【0159】
これらのプローブとハイブリダイゼーションさせるターゲットDNAの塩基配列は下記の通りとした。
ターゲットDNA: 5'-ローダミン-GCGGCATGAACCTGAGGCCCATCCT-3'(配列番号4)
【0160】
作用電極用のガラス基材として、フッ素をドープした酸化スズ(F-SnO2:FTO)コートガラス(エイアイ特殊硝子社製、U膜、シート抵抗:12Ω/□、形状:50mm×26mm)を用意した。このガラス基材をアセトン中で15分間、続いて超純水中で15分間超音波洗浄を施して、汚れおよび残存有機物の除去を行った。このガラス基材を5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で15分間振盪させた。その後、水酸化ナトリウムの除去のために超純水中での5分間の振盪を水を入れ替えて3回行った。ガラス基材を取り出して空気を吹き付けて残水を飛
散させた後、ガラス基材を無水メタノールに浸漬させて脱水した。
【0161】
95%メタノール5%超純水を溶媒として、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を2vol%となるように加え、室温下で5分間の攪拌を行って、カップリング処理用の溶液を調製した。このカップリング処理用溶液に上記ガラス基材を浸漬させ、ゆっくりと15分間振盪させた。次いで、ガラス基材を取り出し、メタノール中で10回ほど振盪させて余剰なカップリング処理用溶液を除く操作を、メタノールを3回換えて行った。その後、ガラス基材を110℃で30分間保持してカップリング剤をガラス基材に結合させた。ガラス基材を室温下で冷却した後、直径3mmの大きさの開口部が9スポット形成された粘着性シール(厚さ:0.5mm)を載置して密着させた。続いて、1μMに調製した完全一致鎖、一塩基変異鎖、完全不一致鎖のプローブDNA(25mer)を95℃で10分間保持した後、直ちに氷上に移して10分間保持してDNAを変性させた。この変性DNAを先に用意したガラス上のシールの9開口部に5μlずつ充填し、95℃で10分保持して溶媒を蒸発させた。その後、UVクロスリンカー(UVP社CL-1000型)で120mJの紫外光を照射して、プローブDNAをガラス基材に固定化した(各プローブにつき、3スポットずつ固定化)。シールをガラス基材から剥がし、ガラス基材を0.2%SDS溶液中で15分間×3回振盪させ、超純水を3回入れ替えて濯いだ。このガラス基材を沸騰水に2分間浸漬させて取り出した後、空気を吹き付けて残水を飛散させた。続いて、ガラス基材を4℃の無水エタノールに1分間浸漬させて脱水し、空気を吹き付けて残留エタノールを飛散させた。こうして、プローブDNA固定化作用電極を得た。その後、濃度を100nMに調製したターゲットDNAを含む5×SSC、0.5%SDS溶液を、プローブを固定した電極にのせてカバーガラスで密閉した状態で37℃で10時間保温した。その後、2×SSC(室温)中でカバーガラスを剥がし、電極をラックに立て、40℃に設定した2×SSC/0.2%SDS溶液中に30分間振とうさせた後、水ですすぎ電極を乾燥させた。
【0162】
こうして得られた作用電極71を図20に示したセンサチップケース72に組み込み、センサチップ70を得た。図18および20に示す本体装置の対電極159上に電解質含有シート73を載置し、さらにその上に作用電極71の導電面、すなわちプローブDNAを固定した面が電解質含有シート73と接触するように載置した。電解質含有シートに用いる吸水性シートとしてろ紙を用いた。電解質としてはテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)を用い(濃度は0.4M)、これを水に溶解して電解液を作製し、26mm×20mmに切った厚さ0.9mmのろ紙を浸漬させて、軽く水切りをし、電解質含有シートを得た。
【0163】
センサチップ上部より、XYステージに取り付けた光源を作用電極上のプローブDNA固定化スポットに順次照射した。各スポット照射時に観察される光電流を記録した。また、各スポットに対応するセンサチップの各開口部の間で一時的に停止し、作用電極に光が照射されない時間を設定する。この時観察される電流値をベース電流値とする。各スポット由来の光電流値とその直前または直後のベース電流値との差分を観察値とした。
【0164】
結果を図47および48に示す。図47は、各スポットに照射した際に得られる光電流値の経時変化を示す。図48は、各スポット由来電流とベース電流の差分を、各プローブDNAについてまとめたものであり、平均および標準偏差(エラーバーは±1SD)を示している。図48から明らかなように、一塩基の違い(PMとSNPsで観察される電流値の差)を統計学的に有意に分別することができる。
【0165】
例C2:図18の装置を使用した蛋白質(ストレプトアビジン)検出
本例は、ストレプトアビジンの検出例である。作用電極側にビオチン標識合成オリゴDNA(25塩基)を固定化した。また、対照として非標識合成オリゴDNA(25塩基)も固定化した。これらのオリゴDNAに濃度を変えてローダミン標識ストレプトアビジンを接触させ、ビオチン‐ストレプトアビジンの特異結合により、ローダミン標識ストレプトアビジンを捕捉して、ローダミン由来の光電流を検出した。
【0166】
作用電極用のガラス基材として、フッ素をドープした酸化スズ(F-SnO2:FTO)コートガラス(エイアイ特殊硝子社製、U膜、シート抵抗:12Ω/□、形状:50mm×26mm)を用意した。このガラス基材をアセトン中で15分間、続いて超純水中で15分間超音波洗浄を施して、汚れおよび残存有機物の除去を行った。このガラス基材を5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で15分間振盪させた。その後、水酸化ナトリウムの除去のために超純水中での5分間の振盪を水を入れ替えて3回行った。ガラス基材を取り出して空気を吹き付けて残水を飛散させた後、ガラス基材を無水メタノールに浸漬させて脱水した。
【0167】
95%メタノール5%超純水を溶媒として、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)を2vol%となるように加え、室温下で5分間の攪拌を行って、カップリング処理用の溶液を調製した。このカップリング処理用溶液に上記ガラス基材を浸漬させ、ゆっくりと15分間振盪させた。次いで、ガラス基材を取り出し、メタノール中で10回ほど振盪させて余剰なカップリング処理用溶液を除く操作を、メタノールを3回換えて行った。その後、ガラス基材を110℃で30分間保持してカップリング剤をガラス基材に結合させた。ガラス基材を室温下で冷却した後、直径3mmの大きさの開口部が6スポット形成された粘着性シール(厚さ:0.5mm)を載置して密着させた。続いて、1μMに調整したビオチン標識合成オリゴDNA(25塩基)または非標識合成オリゴDNA(25塩基)を95℃で10分間保持した後、直ちに氷上に移して10分間保持してオリゴDNAを変性させた。この変性オリゴDNAを先に用意したガラス上のシールの6開口部に5μlずつ充填し(各オリゴDNAにつき3スポットずつ固定化)、95℃で10分保持して溶媒を蒸発させた。その後、UVクロスリンカー(UVP社CL-1000型)で120mJの紫外光を照射して、オリゴDNAをガラス基材に固定化した。ガラス基材を150mM NaClおよび0.05% Tween20を含む10mM HEPES緩衝液(pH7.4)を用いて十分に洗浄した。
このようにして、ビオチン標識合成オリゴDNAと非標識合成オリゴDNAをそれぞれ3スポットずつ固定化した作用電極を5枚作成した。その後、ローダミン標識ストレプトアビジン溶液5μlを作用電極に貼付したシールの開口部に5μlずつ分注し、カバーグラスで密封した後、37℃、1時間放置した。150mM NaClおよび0.05% Tween20を含む10mM HEPES緩衝液(pH7.4)を用いて十分に洗浄した。この時、ローダミン標識ストレプトアビジン濃度を1、10、100、1000,10000ng/mlと変化させ、それぞれの濃度について1枚ずつ作用電極を使用した。
【0168】
こうして得られた作用電極を図18に示したセンサチップケースに組み込み、センサチップを得た。図16および図18に示す本体装置の対電極上に電解質含有シートを載置し、さらにその上に作用電極の導電面、すなわちプローブDNAを固定した面が電解質含有シートと接触するように載置した。電解質含有シートに用いる吸水性シートとしてろ紙を用いた。電解質としてはテトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)を用い(濃度は0.4M)、これを水に溶解して電解液を作製し、26mm×20mmに切った厚さ0.9mmのろ紙を浸漬させて、軽く水切りをし、電解質含有シートを得た。
【0169】
センサチップ上部より、XYステージに取り付けた光源を作用電極上のオリゴDNA固定化スポットに順次照射した。各スポット照射時に観察される光電流を記録した。また、各スポットに対応するセンサチップの各開口部の間で一時的に停止し、作用電極に光が照射されない時間を設定する。この時観察される電流値をベース電流値とする。各スポット由来の光電流値とその直前または直後のベース電流値との差分を観察値とした。
【0170】
結果を図49に示す。各スポット由来電流とベース電流の差分を、ローダミン標識ストレプトアビジンの濃度ごとにまとめたものであり、平均および標準偏差(エラーバーは±1SD)を示している。ローダミン標識ストレプトアビジンと特異的に結合しない非標識オリゴDNAを固定化したスポットでは、ほとんど光電流が観察されていないのに対し、ビオチン標識オリゴDNAを固定化したスポットからは、濃度依存的に増加する光電流が観察された。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】一般的に用いられる蛍光検出装置の構成を示す図である。
【図2】本発明によるセンサチップの一例を示す分解斜視図である。
【図3】本発明によるセンサチップの他の一例を示す分解斜視図である。
【図4】本発明によるセンサチップの他の一例を示す分解斜視図である。
【図5】本発明による装置のセンサチップ受け部とその近傍の構成の一例を示す分解斜視図である。
【図6】図5で示す装置のセンサチップ受け部とその近傍の構成の一例の拡大図である。
【図7】本発明によるセンサチップの他の一例を示す分解斜視図である。
【図8】本発明による装置のセンサチップ受け部とその近傍の構成の一例を示す分解斜視図である。
【図9】本発明によるセンサチップの他の一例を示す分解斜視図である。
【図10】本発明による測定装置の基本構成を示す概念図である。
【図11】本発明による下部光源型の測定装置の一例を示す外観斜視図である。
【図12】図11に示される装置の内部構成を示す斜視図である。
【図13】図11に示される装置のセンサチップ受け部およびその近傍ならびに装着されるセンサチップの斜視図である。
【図14】図13に示されるセンサチップ受け部およびその近傍の拡大図である。
【図15】図11に示される装置において検出されうる光電流の経時変化を示す図である。
【図16】本発明による上部光源型の測定装置の一例を示す外観斜視図である。
【図17】図16に示される装置の内部構成を示す斜視図である。
【図18】図16に示される装置のセンサチップ受け部およびその近傍の構成を説明する図である。
【図19】図16に示される装置の本体蓋および押さえ部材ならびにセンサチップを説明する図である。
【図20】図16に示される装置において検出されうる光電流の経時変化を示す図である。
【図21】図16に示される装置のセンサチップ受け部およびその近傍の構成を説明する図である。
【図22】被検物質が一本鎖の核酸であり、プローブ物質が前記核酸に対して相補性を有する一本鎖の核酸である場合における、被検物質のプローブ物質への固定化工程を示す図であり、(a)は被検物質が予め増感色素で標識されてなる場合を、(b)は二本鎖の核酸にインターカレーション可能な増感色素を添加した場合をそれぞれ示す。
【図23】被検物質がリガンドであり、媒介物質が受容体蛋白質分子であり、プローブ物質が二本鎖の核酸である場合における、被検物質のプローブ物質への固定化工程を示す図である。
【図24】電極ユニットの一例を示す図である。
【図25】互いに競合する特異的結合性を有する被検物質および第二の被検物質が抗原であり、プローブ物質が抗体である場合の、被検物質のプローブ物質への固定化工程を示す図である。
【図26】例A1において得られた、ゲルシート(1%アガロースゲル)を使用した場合と、電解液(水溶液)を使用した場合とにおける、各テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)濃度において測定された光電流値を示す図である。
【図27】例A2において得られた、10nMおよび100nMの各ローダミン標識ssDNA濃度における、ゲル濃度(アガロース濃度)と光電流値との関係を示す図である。
【図28】例A3において得られた、10nMおよび100nMの各ローダミン標識ssDNA濃度における、ゲルシートの厚さと光電流値との関係を示す図である。
【図29】例A4において得られた、0nM、10nM、および100nMの各ローダミン標識ssDNA濃度における、ゲルシートを混合調整により作製した場合と、浸漬調整により作製した場合との光電流値を示す図である。
【図30】例A5において使用した「レオメーターCR200D」(サン科学社製)の概略図である。
【図31】例A5において行ったゲル強度の測定方法を説明する図である。
【図32】例A5において得られた、ゲル濃度(アガロース濃度)とゲル強度との関係を示す図である。
【図33】例A6において得られた、0nM、10nM、および100nMの各ローダミン標識ssDNA濃度における、1重量%アガロース含有ゲルシートを用いた場合と、7.5重量%アクリルアミド含有ゲルシートを用いた場合との光電流値を示す図である。
【図34】例A7において得られた、0nM、10nM、および100nMの各ローダミン標識ssDNA濃度における、各種電解質を用いた場合の光電流値を示す図である。
【図35】例A8において得られた、完全一致(PM)プローブ、一塩基変異鎖(SNP)プローブ、および完全不一致(MM)プローブを用いた場合における、ターゲットDNA濃度が1μMの光電流値を示す図である。
【図36】例A8において得られた、完全一致(PM)プローブ、一塩基変異鎖(SNP)プローブ、および完全不一致(MM)プローブを用いた場合における、ターゲットDNA濃度が100nMの光電流値を示す図である。
【図37】例B1において得られた、電解質含有吸収性シート(ろ紙)を用いた際の、100nMのssDNA及び100nMのローダミン標識ssDNAにおける、各テトラプロピルアンモニウムヨージド(NPr4I)濃度において測定された光電流値を示す図である。
【図38】例B2において得られた、0nM、10nM、および100nMの各ローダミン標識ssDNA濃度における、各種電解質を用いた場合の光電流値を示す図である。
【図39】例B3において得られた、100nMおよび1μMの各ローダミン標識ssDNA濃度における、電解質含有吸収性シートの厚さと光電流値との関係を示す図である。
【図40】例B4において得られた、100nMのssDNA、100nM、および1μMの各ローダミン標識ssDNA濃度における、各電解質含有吸収性シートを用いた場合の光電流値を示す図である。
【図41】例B5において得られた、電解質含有吸収性シートの含水率と光電流値との関係を示す図である。
【図42】例B6において得られた、完全一致(PM)プローブ、一塩基変異鎖(SNP)プローブ、および完全不一致(MM)プローブを用いた場合における、各電解質の光電流値を示す図である。
【図43】例B7において得られた、一塩基変異鎖(SNP)プローブ、および完全不一致(MM)プローブを用いた場合における、吸水性基材を測定直前に電解液に浸漬させて作製した場合と、吸水性シートを電解液に浸漬後乾燥させて使用直前に水を滴下した場合との光電流を示す図である。
【図44】フローセル型測定用セルの一例の断面図である。
【図45】図44に示した同測定用セルの分解斜視図である。
【図46】例B8において得られた、一塩基変異鎖(SNP)プローブ、および完全不一致(MM)プローブを用いた場合における、水系電解液を用いた場合と、電解質含有吸収性シートを用いた場合との光電流を示す図である。
【図47】例C1において得られた、各スポットに照射した際に得られる光電流値の経時変化を示す図である。
【図48】例C1において得られた、各スポット由来電流とベース電流の差分を、各プローブDNAについて整理した図であり、平均および標準偏差(エラーバーは±1SD)を示している。
【図49】例C2において得られた、各スポット由来電流とベース電流の差分を、ローダミン標識ストレプトアビジンの濃度ごとに整理した図であり、平均および標準偏差(エラーバーは±1SD)を示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられる測定装置に着脱可能に装着されるセンサチップであって、
前記センサチップは、
作用電極と、
センサチップケースと、を備えてなり、
前記センサチップケースは、
前記作用電極が所定の位置に保持されるための窪み部および突起部の少なくともいずれか一方と、前記作用電極が前記測定装置の所定の位置に固定されるための位置決め部材を通すための開口部と、
を備えてなり、
前記被検物質の特異的検出が、電解質含有シートを前記作用電極上に載置するか、または電解質含有シートを前記作用電極と前記センサチップケースとの間に挟持させて行われる、センサチップ。
【請求項2】
前記作用電極上に、または前記作用電極と前記センサチップケースとの間に、電解質含有シートをさらに備えた、請求項1に記載のセンサチップ。
【請求項3】
前記センサチップケースが、前記電解質含有シートが所定の位置に載置されるための第二の窪み部および第二の突起部の少なくともいずれかをさらに有してなる、請求項2に記載のセンサチップ。
【請求項4】
前記電解質含有シートの前記作用電極と反対側に、対電極をさらに備えてなる、請求項2〜4のいずれか一項に記載のセンサチップ。
【請求項5】
前記センサチップケースが、前記対電極が所定の位置に載置されるための第三の窪み部および第三の突起部の少なくともいずれかをさらに有してなる、請求項4に記載のセンサチップ。
【請求項6】
前記センサチップケースが、前記作用電極の表面に光励起のための光を通すための第二の開口部または透光部をさらに備えてなり、前記センサチップケースの、少なくとも前記第二の開口部および透光部以外の前記光が当たる部分が遮光性を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセンサチップ。
【請求項7】
前記センサチップケースが、前記作用電極が保持される領域の少なくとも一部に第三の開口部を有してなり、前記被検物質の特異的検出が、該第三の開口部を介して対電極を前記電解質含有シートに接触させることにより行われる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセンサチップ。
【請求項8】
前記光電流を用いた被検物質の特異的検出が、
被検物質が直接または間接的に特異的に結合したプローブ物質を表面に備え、かつ該結合により増感色素が固定されてなる作用電極と、対電極とを前記電解質含有シートに接触させ、
前記作用電極に光を照射して前記増感色素を光励起させ、該光励起された増感色素から前記作用電極への電子移動に起因して前記作用電極と前記対電極との間に流れる光電流を検出すること
を含んでなるステップにより行われる、請求項1〜7のいずれか一項に記載のセンサチップ。
【請求項9】
増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられる測定装置であって、
請求項1に記載されるセンサチップと、
前記作用電極上に載置して、または前記作用電極と前記センサチップケースとの間に挟持させて設けられる、電解質含有シートと、
前記電解質含有シートの前記作用電極と反対側に設けられる対電極と、
前記作用電極に光を照射する光源と、
前記光源をXY方向に移動させるXY移動機構と、
前記作用電極と前記対電極との間を流れる電流を測定する電流計と、
前記光源、前記XY移動機構、および電流計を制御し、前記電流計からの電流信号を受信し、該電気信号に基づいて被検物質の存在、型、および濃度の少なくとも一種を決定する制御演算手段と
を備えた装置。
【請求項10】
増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられる測定装置であって、
請求項2に記載されるセンサチップと、
前記電解質含有シートの前記作用電極と反対側に設けられる対電極と、
前記作用電極に光を照射する光源と、
前記光源をXY方向に移動させるXY移動機構と、
前記作用電極と前記対電極との間を流れる電流を測定する電流計と、
前記光源、前記XY移動機構、および電流計を制御し、前記電流計からの電流信号を受信し、該電気信号に基づいて被検物質の存在、型、および濃度の少なくとも一種を決定する制御演算手段と
を備えた装置。
【請求項11】
増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられる測定装置であって、
請求項4に記載されるセンサチップと、
前記作用電極に光を照射する光源と、
前記光源をXY方向に移動させるXY移動機構と、
前記作用電極と前記対電極との間を流れる電流を測定する電流計と、
前記光源、前記XY移動機構、および電流計を制御し、前記電流計からの電流信号を受信し、該電気信号に基づいて被検物質の存在、型、および濃度の少なくとも一種を決定する制御演算手段と
を備えた装置。
【請求項12】
前記測定装置が、前記制御演算手段で得られた結果を表示する表示装置をさらに備えてなる、請求項9〜11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記測定装置が、測定のための条件の入力が行われる入力装置をさらに備えてなる、請求項9〜11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のセンサチップが着脱自在に装着されるセンサチップ受け部をさらに備えてなる、請求項9〜13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記センサチップ受け部が、前記作用電極を所定の位置に固定するための位置決め部材と、センサチップケースを測定装置の所定の位置に載置させるための補助部材を備えてなる、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記作用電極が複数の検出スポットを有しており、前記センサチップ受け部が、前記複数の検出スポットに対応する各位置に前記開口部または透光部が形成されてなる、請求項14または15に記載の装置。
【請求項17】
前記装置が、前記センサチップ受け部に対して開閉可能に設けられる蓋部と、該蓋部の前記作用電極と接触可能な位置に設けられる凸状の押さえ部材とを有し、前記光源が前記押さえ部材の上方に設けられており、
前記押さえ部材が、前記光源からの光を遮断する遮光性の部材で構成されており、かつ前記作用電極の表面に光励起のための光を通すための開口部または透光部を備えてなる、請求項14〜16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記作用電極が複数の検出スポットを有しており、複数の検出スポットに対応する各位置に前記開口部または透光部が形成されてなる、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記センサチップケースが、前記作用電極が載置される領域の少なくとも一部に開口部を有してなり、前記センサチップ受け部が前記開口部に挿入可能な凸部を有し、該凸部上に前記対電極が設けられており、前記センサチップが前記センサチップ受け部に装着されると、前記凸部が該開口部に挿入されることにより前記対電極が前記電解質含有シートに接触する、請求項14〜18のいずれか一項に記載の装置。
【請求項1】
増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられる測定装置に着脱可能に装着されるセンサチップであって、
前記センサチップは、
作用電極と、
センサチップケースと、を備えてなり、
前記センサチップケースは、
前記作用電極が所定の位置に保持されるための窪み部および突起部の少なくともいずれか一方と、前記作用電極が前記測定装置の所定の位置に固定されるための位置決め部材を通すための開口部と、
を備えてなり、
前記被検物質の特異的検出が、電解質含有シートを前記作用電極上に載置するか、または電解質含有シートを前記作用電極と前記センサチップケースとの間に挟持させて行われる、センサチップ。
【請求項2】
前記作用電極上に、または前記作用電極と前記センサチップケースとの間に、電解質含有シートをさらに備えた、請求項1に記載のセンサチップ。
【請求項3】
前記センサチップケースが、前記電解質含有シートが所定の位置に載置されるための第二の窪み部および第二の突起部の少なくともいずれかをさらに有してなる、請求項2に記載のセンサチップ。
【請求項4】
前記電解質含有シートの前記作用電極と反対側に、対電極をさらに備えてなる、請求項2〜4のいずれか一項に記載のセンサチップ。
【請求項5】
前記センサチップケースが、前記対電極が所定の位置に載置されるための第三の窪み部および第三の突起部の少なくともいずれかをさらに有してなる、請求項4に記載のセンサチップ。
【請求項6】
前記センサチップケースが、前記作用電極の表面に光励起のための光を通すための第二の開口部または透光部をさらに備えてなり、前記センサチップケースの、少なくとも前記第二の開口部および透光部以外の前記光が当たる部分が遮光性を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセンサチップ。
【請求項7】
前記センサチップケースが、前記作用電極が保持される領域の少なくとも一部に第三の開口部を有してなり、前記被検物質の特異的検出が、該第三の開口部を介して対電極を前記電解質含有シートに接触させることにより行われる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセンサチップ。
【請求項8】
前記光電流を用いた被検物質の特異的検出が、
被検物質が直接または間接的に特異的に結合したプローブ物質を表面に備え、かつ該結合により増感色素が固定されてなる作用電極と、対電極とを前記電解質含有シートに接触させ、
前記作用電極に光を照射して前記増感色素を光励起させ、該光励起された増感色素から前記作用電極への電子移動に起因して前記作用電極と前記対電極との間に流れる光電流を検出すること
を含んでなるステップにより行われる、請求項1〜7のいずれか一項に記載のセンサチップ。
【請求項9】
増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられる測定装置であって、
請求項1に記載されるセンサチップと、
前記作用電極上に載置して、または前記作用電極と前記センサチップケースとの間に挟持させて設けられる、電解質含有シートと、
前記電解質含有シートの前記作用電極と反対側に設けられる対電極と、
前記作用電極に光を照射する光源と、
前記光源をXY方向に移動させるXY移動機構と、
前記作用電極と前記対電極との間を流れる電流を測定する電流計と、
前記光源、前記XY移動機構、および電流計を制御し、前記電流計からの電流信号を受信し、該電気信号に基づいて被検物質の存在、型、および濃度の少なくとも一種を決定する制御演算手段と
を備えた装置。
【請求項10】
増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられる測定装置であって、
請求項2に記載されるセンサチップと、
前記電解質含有シートの前記作用電極と反対側に設けられる対電極と、
前記作用電極に光を照射する光源と、
前記光源をXY方向に移動させるXY移動機構と、
前記作用電極と前記対電極との間を流れる電流を測定する電流計と、
前記光源、前記XY移動機構、および電流計を制御し、前記電流計からの電流信号を受信し、該電気信号に基づいて被検物質の存在、型、および濃度の少なくとも一種を決定する制御演算手段と
を備えた装置。
【請求項11】
増感色素の光励起により生じる光電流を用いた被検物質の特異的検出に用いられる測定装置であって、
請求項4に記載されるセンサチップと、
前記作用電極に光を照射する光源と、
前記光源をXY方向に移動させるXY移動機構と、
前記作用電極と前記対電極との間を流れる電流を測定する電流計と、
前記光源、前記XY移動機構、および電流計を制御し、前記電流計からの電流信号を受信し、該電気信号に基づいて被検物質の存在、型、および濃度の少なくとも一種を決定する制御演算手段と
を備えた装置。
【請求項12】
前記測定装置が、前記制御演算手段で得られた結果を表示する表示装置をさらに備えてなる、請求項9〜11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記測定装置が、測定のための条件の入力が行われる入力装置をさらに備えてなる、請求項9〜11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のセンサチップが着脱自在に装着されるセンサチップ受け部をさらに備えてなる、請求項9〜13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記センサチップ受け部が、前記作用電極を所定の位置に固定するための位置決め部材と、センサチップケースを測定装置の所定の位置に載置させるための補助部材を備えてなる、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記作用電極が複数の検出スポットを有しており、前記センサチップ受け部が、前記複数の検出スポットに対応する各位置に前記開口部または透光部が形成されてなる、請求項14または15に記載の装置。
【請求項17】
前記装置が、前記センサチップ受け部に対して開閉可能に設けられる蓋部と、該蓋部の前記作用電極と接触可能な位置に設けられる凸状の押さえ部材とを有し、前記光源が前記押さえ部材の上方に設けられており、
前記押さえ部材が、前記光源からの光を遮断する遮光性の部材で構成されており、かつ前記作用電極の表面に光励起のための光を通すための開口部または透光部を備えてなる、請求項14〜16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記作用電極が複数の検出スポットを有しており、複数の検出スポットに対応する各位置に前記開口部または透光部が形成されてなる、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記センサチップケースが、前記作用電極が載置される領域の少なくとも一部に開口部を有してなり、前記センサチップ受け部が前記開口部に挿入可能な凸部を有し、該凸部上に前記対電極が設けられており、前記センサチップが前記センサチップ受け部に装着されると、前記凸部が該開口部に挿入されることにより前記対電極が前記電解質含有シートに接触する、請求項14〜18のいずれか一項に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【公開番号】特開2010−38813(P2010−38813A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204113(P2008−204113)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
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