説明

光音響分析用プローブユニットおよび光音響分析装置

【課題】プローブユニットを使用した光音響分析において、不要な方向への測定光の出力を防止することを可能とする。
【解決手段】光音響分析用プローブユニット80において、プローブユニット本体70と、プローブユニット80の長さ方向に沿って筐体部材71に対する相対的な前後移動が可能となるように設けられたスライド部材81と、遮光材料から構成される開閉可能なカバー部材82、スライド部材81に対して前方への弾性力を作用させるように設けられた弾性部材84とを備え、カバー部材82が、閉状態で検出面3sを覆い、スライド部材81の前後移動に連動して開閉し、スライド部材81が前方配置から後方配置へ移動するとき閉状態から開状態となるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響分析法を利用した被検体の検査および診断等に用いられる光音響分析用プローブユニットおよび光音響分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被検体の内部の断層画像を取得する方法としては、超音波が被検体内に照射されることにより被検体内で反射した超音波を検出して超音波画像を生成し、被検体内の形態的な断層画像を得る超音波イメージングが知られている。一方、被検体の検査においては形態的な断層画像だけでなく機能的な断層画像を表示する装置の開発も近年進められている。そして、このような装置の一つに光音響分析法を利用した装置がある。この光音響分析法は、所定の波長を有する光(例えば、可視光、近赤外光又は中間赤外光)を測定光として被検体に照射し、被検体内の特定物質がこの測定光のエネルギーを吸収した結果生じる弾性波である光音響波を検出して、その特定物質の濃度を定量的に計測するものである。被検体内の特定物質とは、例えば血液中に含まれるグルコースやヘモグロビンなどである。このように光音響波を検出しその検出信号に基づいて光音響画像を生成する技術は、光音響イメージング(PAI:Photoacoustic Imaging)或いは光音響トモグラフィー(PAT:Photoacoustic Tomography)と呼ばれる。
【0003】
従来、上記のような光音響効果を利用した光音響イメージングにおいて、次のような課題がある。測定光の強度は、被検体内を伝播する過程で吸収や散乱によって著しく減衰する。また、測定光に基づいて被検体内で発生した光音響波の強度も、被検体内を伝播する過程で吸収や散乱によって減衰する。したがって、光音響イメージングでは、被検体の深部の情報を得ることが難しい。この課題を解決するため、例えば被検体内に測定光のエネルギー量を増やすことにより、発生する光音響波を大きくすることが考えられる。
【0004】
しかし、被検体が生体である場合、測定光のエネルギーにより生体組織に損傷を与えないために、生体に照射することができる単位面積当たりの最大許容露光量(MPE:Maximum Permissible Exposure)が定められている。そのため、光量を増すとしてもMPEが上限となる。
【0005】
そこで、光量をMPE以下に抑えかつS/Nの高い光音響波を検出できるようにする方法として、例えば特許文献1に示されるように、複数の光ファイバを包含するバンドルファイバを使用して測定光の強度分布が均一となるように測定光を照射する方法が挙げられる。また、例えば特許文献1に示されるように、バンドルファイバを用いた光学系と超音波検出用のプローブとが一体的に組み合わされたプローブユニットを使用した場合、プローブユニットのコード部分に可撓性を持たせることができるため、使用者のハンドリング性能が向上するという利点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−12295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のようなプローブユニットを使用した場合、ハンドリング性能が向上する反面、不要な方向にまで測定光が出力されてしまうという課題がある。そして、このような課題は、光音響イメージングに限らず、光音響分析法を利用した被検体の検査および診断等においても同様に生じうる。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、プローブユニットを使用した光音響分析において、不要な方向への測定光の出力を防止することを可能とする光音響分析用プローブユニットおよび光音響分析装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係るプローブユニットは、
被検体に測定光としてレーザ光を照射し、被検体内で発生した光音響波を検出してこの光音響波を電気信号に変換し、この電気信号に基づいて分析を行う光音響分析に用いられるプローブユニットにおいて、
レーザ光を照射する光照射部と、光音響波を電気信号に変換する電気音響変換部と、光照射部および電気音響変換部を内部で保持する筒状の筐体部材とを備え、この筐体部材の先端に光音響波を検出するための検出面を有するプローブユニット本体と、
プローブユニットの長さ方向に沿って筐体部材に対する相対的な前後移動が可能となるように筐体部材の外周面上に設けられたスライド部材と、
遮光材料から構成される開閉可能なカバー部材であってプローブユニットの先端近傍に設けられたカバー部材と、
スライド部材に対して前方への弾性力を作用させるように設けられた弾性部材とを備え、
スライド部材が、被検体に押し当てられる押し当て部であってスライド部材が前方配置にあるとき少なくとも一部の位置が検出面よりも前方となる押し当て部を有し、
カバー部材が、閉状態で検出面を覆い、スライド部材の前後移動に連動して開閉し、スライド部材が前方配置から後方配置へ移動するとき閉状態から開状態となるように構成されたものであることを特徴とするものである。
【0010】
そして、本発明に係るプローブユニットにおいて、カバー部材は、回転軸を介してスライド部材と連結され、スライド部材の前後移動に伴い回転しながら開閉するものであることが好ましい。
【0011】
そして、本発明に係るプローブユニットにおいて、筐体部材は、筐体部材の先端近傍の外周面上にプローブユニットの長さ方向に沿って第1の突起部および第2の突起部を有するものであり、
カバー部材は、閉状態で第1の突起部と第2の突起部との間に噛み合う第3の突起部を有するものであることが好ましい。
【0012】
そして、本発明に係るプローブユニットにおいて、筐体部材は、カバー部材の回転後の状態を維持するように第2の突起部の後方に間隔を置いて設けられた第4の突起部を有するものであることが好ましい。
【0013】
そして、本発明に係るプローブユニットにおいて、スライド部材、カバー部材および弾性部材を覆いかつ前方の端部の位置が検出面よりも後方となるように、筐体部材の外周面上に固定されて設けられた筒状の外装部材を備えたものであることが好ましい。
【0014】
そして、本発明に係るプローブユニットにおいて、カバー部材が開状態であることを検出する検出部を備えたことが好ましい。この場合例えば、検出部は、カバー部材が開状態の時にこのカバー部材および第4の突起部が互いに接近したことを検出可能な位置に設けられたものとすることができる。また例えば、検出部は、カバー部材が開状態の時にスライド部材および外装部材が互いに接近したことを検出可能な位置に設けられたものとすることができる。また例えば、検出部は、カバー部材が開状態の時にカバー部材および外装部材が互いに接近したことを検出可能な位置に設けられたものとすることができる。
【0015】
また、本発明に係るプローブユニットにおいて、弾性部材はコイルばねであることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明に係る光音響分析装置は、上記に記載のプローブユニットを備えたことを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明に係る光音響分析装置は、特に上記に記載のプローブユニットが検出部を備える場合には、カバー部材が開状態であることを検出部が検出した場合に光照射部へのレーザ光の出力を開放し、カバー部材が開状態であることを検出部が検出しない場合に光照射部へのレーザ光の出力を停止する出力制御手段を備えることが好ましい。
【0018】
この場合において、出力制御手段は、レーザ光の光路上のシャッターを閉じることによりレーザ光の出力を停止するものとすることができる。或いは、レーザ光を出力する光源がQスイッチレーザ光源である場合には、出力制御手段は、Qスイッチレーザ光源のQスイッチを閉じることによりレーザ光の出力を停止するものとすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るプローブユニットおよび光音響分析装置は、特に、プローブユニット本体と、プローブユニットの長さ方向に沿って筐体部材に対する相対的な前後移動が可能となるように筐体部材の外周面上に設けられたスライド部材と、遮光材料から構成される開閉可能なカバー部材であってプローブユニットの先端近傍に設けられたカバー部材と、スライド部材に対して前方への弾性力を作用させるように設けられた弾性部材とを備え、スライド部材が、被検体に押し当てられる押し当て部であってスライド部材が前方配置にあるとき少なくとも一部の位置が検出面よりも前方となる押し当て部を有し、カバー部材が、閉状態で検出面を覆い、スライド部材の前後移動に連動して開閉し、スライド部材が前方配置から後方配置へ移動するとき閉状態から開状態となるように構成されたものである。したがって、プローブユニットを被検体に押し当てていない場合には、検出面はカバー部材で覆われる。この結果、プローブユニットを使用した光音響分析において、不要な方向への測定光の出力を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の光音響分析装置を用いて被検体の診察を行う様子を示す概略図である。
【図2】本発明の光音響検査装置の一実施形態の構成を示す概略図である。
【図3A】カバー部材が閉状態のときのプローブユニットの内部構成を示す概略切断部端面図である。
【図3B】カバー部材が閉状態のときのプローブユニットの内部構成を示す概略切断部端面図である。
【図4A】カバー部材が閉状態で外装部材を外したときのプローブユニットを示す概略側面図である。
【図4B】カバー部材が閉状態で外装部材を外したときのプローブユニットを示す概略上面図である。
【図5A】カバー部材が開閉されているときのプローブユニットの内部構成を図3Aと同じ視点から示す概略切断部端面図である。
【図5B】カバー部材が開状態のときのプローブユニットの内部構成を図3Aと同じ視点から示す概略切断部端面図である。
【図6A】カバー部材が開閉されているときのプローブユニットの内部構成を図3Bと同じ視点から示す概略切断部端面図である。
【図6B】カバー部材が開状態のときのプローブユニットの内部構成を図3Bと同じ視点から示す概略切断部端面図である。
【図7A】検出部を備えた例のプローブユニットの内部構成を示す概略切断部端面図である。
【図7B】検出部を備えた他の例のプローブユニットの内部構成を示す概略切断部端面図である。
【図7C】検出部を備えた他の例のプローブユニットの内部構成を示す概略切断部端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0022】
本発明の光音響分析装置は、例えば光音響画像を生成することができる光音響撮像装置10である。図1は、本実施形態の光音響撮像装置10を用いて被検体の診察を行う様子を示す概略図である。図2は、光音響撮像装置10の構成を示す概略図である。図3Aおよび3Bは、カバー部材が閉状態のときのプローブユニットの内部構成を示す概略切断部端面図である。なお、図3Aは側面からの視点で検出面3sの中心における法線を含む平面において断面を取った場合の端面図であり、図3Bは上面からの視点で当該法線を含む平面において断面を取った場合の端面図である。図4Aは、カバー部材が閉状態で外装部材を外したときのプローブユニットを示す概略側面図である。図4Bは、カバー部材が閉状態で外装部材を外したときのプローブユニットを示す概略上面図である。
【0023】
本実施形態における光音響撮像装置10は、図1および2に示されるように、特定波長成分を含むレーザ光Lを発生させこのレーザ光Lを被検体7に照射する光送信部1と、このレーザ光Lが被検体7に照射されることにより被検体7内で発生する光音響波Uを検出して任意断面の光音響画像データを生成する画像生成部2と、音響信号と電気信号の変換を行う電気音響変換部3と、この光音響画像データを表示する表示部6と、操作者が患者情報や装置の撮影条件を入力するための操作部5と、これら各ユニットを統括的に制御するシステム制御部4とを備えている。
【0024】
そして、本実施形態においてプローブユニット80は、電気音響変換部3、光照射部15および筒状の筐体部材71を備えたプローブユニット本体70と、スライド部材81と、カバー部材82と、弾性部材84と、外装部材85とを備えている。このプローブユニット80は、図3A、図5Aおよび図5Bに示されるように、スライド部材81がプローブユニット80の長さ方向に沿って後方に移動することにより、カバー部材82が開閉する構造となっている。つまり、本発明のプローブユニットは、不要な方向へのレーザ光の出力を防止する観点から、実際に光音響分析を行う場合以外の場合にプローブユニット本体70の検出面3sが露出しないように構成されている。
【0025】
光送信部1は、例えばそれぞれ波長の異なるレーザ光Lを出力する複数の光源を備える光源部11と、複数の波長のレーザ光Lを同一光軸上に合成する光合波部12と、このレーザ光Lを被検体7の体表面まで導く多チャンネルの導波部14と、この導波部14において使用するチャンネルを切り換えて走査を行う光走査部13と、導波部14によって供給されるレーザ光Lが被検体7に向けて出射する光照射部15とを備えている。
【0026】
光源部11は、例えば所定の波長の光を発生する1以上の光源を有する。光源として、特定の波長成分又はその成分を含む単色光を発生する半導体レーザ(LD)、固体レーザ、ガスレーザ等の発光素子を用いることができる。光源部11は、レーザ光として1〜100nsecのパルス幅を有するパルス光を出力するものであることが好ましい。レーザ光の波長は、計測の対象となる被検体内の物質の光吸収特性によって適宜決定される。生体内のヘモグロビンは、その状態(酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビン、メトヘモグロビン、炭酸ガスヘモグロビン、等)により光学的な吸収特性が異なるが、一般的には600nmから1000nmの光を吸収する。したがって、例えば計測対象が生体内のヘモグロビンである場合(つまり、血管を撮像する場合)には、一般的には600〜1000nm程度とすることが好ましい。さらに、被検体7の深部まで届くという観点から、上記レーザ光の波長は700〜1000nmであることが好ましい。そして、上記レーザ光の出力は、レーザ光と光音響波の伝搬ロス、光音響変換の効率および現状の検出器の検出感度等の観点から、10μJ/cm〜数10mJ/cmであることが好ましい。さらに、パルス光出力の繰り返しは、画像構築速度の観点から、10Hz以上であることが好ましい。また、レーザ光は上記パルス光が複数並んだパルス列とすることもできる。
【0027】
より具体的には例えば、被検体7のヘモグロビン濃度を測定する場合には、固体レーザの一種であるNd:YAGレーザ(発光波長:約1000nm)や、ガスレーザの一種であるHe-Neガスレーザ(発光波長:633nm)を用い、10nsec程度のパルス幅を有したレーザ光を形成する。また、LD等の小型発光素子を用いる場合には、InGaAlP(発光波長:550〜650nm)、GaAlAs(発光波長:650〜900nm)、InGaAsもしくはInGaAsP(発光波長:900〜2300nm)などの材料を用いた素子を使用することができる。また最近では、波長が550nm以下で発光するInGaNを用いた発光素子も使用可能になりつつある。更には、波長可変可能な非線形光学結晶を用いたOPO(Optical Parametrical Oscillators)レーザを用いることもできる。
【0028】
光合波部12は、光源部11から発生する波長の異なるレーザ光Lを同一光軸に重ね合わせるためのものである。それぞれのレーザ光は、まずコリメートレンズによって平行光線に変換され、次に直角プリズムやダイクロイックプリズムにより、光軸が合わせられる。このような構成により比較的小型の合波光学系とすることができるが、光通信用に開発されている市販の多重波長合波・分波器を用いてもよい。また光源部11に前述の波長が連続的に変更可能なOPOレーザ等の発生源を使用する場合は、この光合波部12は必ずしも必要ではない。
【0029】
導波部14は、光合波部12から出力された光を光照射部15まで導光するためのものである。効率のよい光伝搬を行うために光ファイバや薄膜光導波路を用いる。ここでは、導波部14は、複数の光ファイバから構成される。これらの複数の光ファイバの中から所定の光ファイバを選択して、当該選択された光ファイバによって被検体7に対するレーザ光の照射を行う。なお、図2では、明確に示してはいないが、光学フィルタやレンズ等の光学系と合わせて使用することもできる。
【0030】
光走査部13は、導波部14において配列される複数の光ファイバを順次選択しながら光の供給を行う。これにより、被検体7に対して光による走査が行われる。
【0031】
光照射部15は、特に光学系の先端部を意味する。光照射部15は、本実施形態では光ファイバに接続されたライトガイドである。ライトガイドとしては導光板等を使用することができる。光照射部15は、例えば電気音響変換部3の周囲に沿って配列される。
【0032】
電気音響変換部3は、例えば1次元状或いは2次元状に配列された微小な複数の変換素子から構成される。変換素子は、例えば、圧電セラミクス、またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)のような高分子フィルムから構成される圧電素子である。電気音響変換部3は、光照射部15からの光の照射により被検体内に発生する光音響波Uを受信する。この変換素子は、受信時において光音響波Uを電気信号に変換する機能を有している。電気音響変換部3は、小型、軽量に構成されており、多チャンネルケーブルによって後述する受信部22に接続される。この電気音響変換部3は、セクタ走査対応、リニア走査対応、コンベックス走査対応等の中から診断部位に応じて選択される。電気音響変換部3は、光音響波Uを効率よく伝達するために音響整合層を備えてもよい。一般に圧電素子材料と生体では音響インピーダンスが大きく異なるため、圧電素子材料と生体が直接接した場合は、界面での反射が大きくなり光音響波を効率よく伝達することができない。このため、圧電素子材料と生体の間に中間的な音響インピーダンスを有する物質で構成した音響整合層を挿入することにより、光音響波を効率よく伝達することができる。音響整合層を構成する材料の例としては、エポキシ樹脂や石英ガラスなどが挙げられる。また、音響レンズ等を設けることもできる。このような電気音響変換部3の表面、或いは音響整合層や音響レンズ等の表面が本発明におけるプローブユニット本体70の検出面3sとなる。
【0033】
筺体部材71は、光照射部15および電気音響変換部3を内部で保持するためのものである。筺体部材71は、筒状の構造を有しており、内部には上記の光照射部15および電気音響変換部3の他、導波部14および信号回路等を内蔵することができる。本実施形態の筺体部材71の外周面には、突起部が3つ設けられている。第1の突起部71aは、筺体部材71の先端部分に設けられている。第1の突起部71aは弾性部材84により押されているスライド部材81およびカバー部材82が前方へ押し出されることを防止する。また、第1の突起部71aの後方には間隔を置いて第2の突起部が設けられている。第2の突起部71bは、後述するカバー部材82の第3の突起部82bと噛み合うことにより、カバー部材82を回転軸83の周りに回転させる力を生じさせる。さらに第2の突起部71bの後方には間隔を置いて第4の突起部71cが設けられている。第4の突起部71cは、主に、回転しながら後方に移動したカバー部材82の回転後の状態を維持する。さらに第3の突起部71cの後方には間隔を置いてフランジ部71dが設けられている。フランジ部71dには、弾性部材84の後方側の端部が固定されている。
【0034】
スライド部材81は、検出面3sの中心における法線方向に沿って筐体部材71に対する相対的な前後移動が可能となるように筐体部材71の外周面上に設けられた部材である。本明細書において、「プローブユニットの長さ方向」とは、プローブユニット本体70を構成する筺体部材71の長さ方向、つまり筒状構造の長さ方向を意味する。また本明細書において、プローブユニットの長さ方向に沿った方向のうち光の出射方向を前方とし、光学系の上流側を後方とする。スライド部材81は、自身の前後移動によりカバー部材82の開閉動作が実行されるように構成されている。具体的には、スライド部材81は回転軸83を介してカバー部材82と連結されている。スライド部材81はカバー部材82の開閉動作を阻害しないように切り欠きが設けられている。
【0035】
スライド部材81には図3Bおよび図4Bに示されるように、被検体7に押し当てられる押し当て部81aが設けられている。押し当て部81aは、押し当てられていない通常の状態においてスライド部材81が前方配置にあるとき、検出面3sよりも前方に位置するように構成されている。そして、実際に光音響画像の撮像を行う場合、当該押し当て部81aが被検体7に押し当てられてスライド部材が後方に移動する。スライド部材81は、押し当て部81aが検出面3sに横並びになる程度にまで後方に移動可能となるように構成されている。これにより、スライド部材81が後方配置となったとき、被検体7とプローブユニット本体70の検出面3sが接触することが可能となる。また、スライド部材81の後方には弾性部材84が設けられている。これにより、光音響画像の撮像が終了し被検体7に押し当て部81aを押し当てる力が弱められた場合、スライド部材81は弾性部材84による弾性力の作用により前方配置へと戻される。
【0036】
カバー部材82は、不要な方向へのレーザ光の出力を防止する観点から、通常の状態において検出面3sからレーザ光Lが放出されないように検出面3sを覆う役割を果たす。これにより、誤ってレーザ光が空気中に放出されることを防止することができる。カバー部材82は、遮光材料から構成され、開閉可能となるように構成されている。つまりカバー部材82は、カバー部材82が閉状態の場合(図3Aおよび図3B)、カバー部材82のカバー部82aが検出面3sを覆うように構成されている。本実施形態では、2つのカバー部材82を設けているが、カバー部材の個数は1つでも3つ以上でもよい。カバー部材82は、回転軸を介してスライド部材81と連結されており、スライド部材81の前後移動に伴って前後移動を行う。この際、図5Aおよび図6Aに示されるようにカバー部材82に設けられた第3の突起部82bが第2の突起部71bと噛み合うことにより、カバー部材82は回転軸83を中心に回転する。この結果、図5Bおよび図6Bに示されるようにカバー部材82は開状態となる。
【0037】
弾性部材84は、スライド部材に対して前方への弾性力を作用させる。したがって、弾性部材84の一端はスライド部材81に固定され、他端は筺体部材71のフランジ部71dに固定されている。これにより、押し当て部81aが被検体7に押し当てられていない通常の状態では、スライド部材81は前方配置となり、カバー部材82は閉状態となる。本実施形態では弾性部材84としてコイルばねを採用し、弾性部材84は筺体部材71を周回するように設けられている。なお、弾性部材84はコイルばねに限られずスポンジおよびゴム等の弾性部材を用いてもよい。弾性部材84の弾性特性(例えば、ばね定数等)は適宜設定される。
【0038】
外装部材85は、検出面3sは露出し、スライド部材81、カバー部材82および弾性部材84を覆うように、フランジ部71dに固定されている。外装部材85は、プローブユニット80を操作する際の持ち手部分となる。外装部材85は、例えば検出面3s側が解放された筒状の構造を有する。外装部材85は、光音響画像を撮像する作業を妨げないように検出面3sよりも前方に出ないように構成することが好ましい。
【0039】
また、本発明のプローブユニット80は、カバー部材82が開状態であることを検出する検出部を備えることが好ましい。このような検出部により、カバー部材82の開状態を検出した場合には光照射部15へのレーザ光Lの出力を開放し、カバー部材82の開状態を検出しない場合には光照射部15へのレーザ光Lの出力を停止する等の制御が可能となる。このような二重の対策により、不要な方向への測定光の出力を防止することができる。検出部を設ける位置は特に限定されない。検出部は、例えば、電気的、磁気的または光学的なセンサ等を用いたり、電気的スイッチ等を用いたりすることができる。検出部の検出結果は、カバー部材82が開状態である間、例えば連続した電気的な信号としてシステム制御部4に送信される。
【0040】
例えば検出部は、図7Aに示されるように、第4の突起部上に設けることができる。このような検出部S1によれば、カバー部材82および第4の突起部71cが互いに接近したことを検出することで、カバー部材82が開状態となったことを検出することが可能となる。なお、図7Aでは、検出部S1は第4の突起部71c側に設けられているが、検出部S1が設けられている第4の突起部71cにおける当該位置と対向する位置のカバー部材82に設けることも可能である。
【0041】
また例えば検出部は、図7Bに示されるように、外装部材85の内面であってカバー部材82が開状態となった時にスライド部材81と対向する内面上に設けることができる。このような検出部S2によれば、スライド部材81が後方配置となってスライド部材81および外装部材85が互いに接近したことを検出することで、カバー部材82が開状態となったことを検出することが可能となる。なお、図7Bでは、検出部S2は外装部材85側に設けられているが、検出部S2が設けられている外装部材85における当該位置と対向する位置のスライド部材81に設けることも可能である。
【0042】
また例えば検出部は、図7Cに示されるように、外装部材85の内面であってカバー部材82が開状態となった時にカバー部材82と対向する内面上に設けることができる。このような検出部S3によれば、カバー部材82および外装部材85が互いに接近したことを検出することで、カバー部材82が開状態となったことを検出することが可能となる。なお、図7Cでは、検出部S3は外装部材85側に設けられているが、検出部S3が設けられている外装部材85における当該位置と対向する位置のカバー部材82に設けることも可能である。
【0043】
光音響撮像装置10の画像生成部2は、電気音響変換部3を構成する複数の変換素子を選択駆動するとともに、また電気音響変換部3からの電気信号に所定の遅延時間を与え、整相加算を行うことにより受信信号を生成する受信部22と、変換素子の選択駆動や受信部22の遅延時間を制御する走査制御部24と、受信部22から得られる受信信号に対して各種の処理を行う信号処理部25とを備えている。
【0044】
受信部22は、例えば、電子スイッチと、プリアンプと、受信遅延回路と、加算器とを備えている。電子スイッチは、光音響走査における光音響波の受信に際して、連続して隣接する所定数の変換素子を選択する。プリアンプは、上記のように選択された変換素子によって受信された微小な電気信号を増幅し、充分なS/Nを確保する。受信遅延回路は、電子スイッチによって選択された変換素子から得られる光音響波Uの電気信号に対して、所定の方向からの光音響波Uの位相を一致させて収束受信ビームを形成するための遅延時間を与える。加算器は、受信遅延回路により遅延された複数チャンネルの電気信号を加算することによって1つの受信信号にまとめる。この加算によって所定の深さからの音響信号は整相加算され、受信収束点が設定される。
【0045】
走査制御部24は、例えば、ビーム集束制御回路と変換素子選択制御回路とを備える。変換素子選択制御回路は、電子スイッチによって選択される受信時の所定数の変換素子の位置情報を電子スイッチに供給する。一方、ビーム集束制御回路は、所定数個の変換素子が形成する受信収束点を形成するための遅延時間情報を受信遅延回路に供給する。
【0046】
信号処理部25は、例えば、フィルタと、信号処理器と、A/D変換器と、画像データメモリとを備えている。受信部22の加算器から出力された電気信号は、信号処理部25のフィルタにおいて不要なノイズを除去した後、信号処理器にて受信信号の振幅を対数変換し、弱い信号を相対的に強調する。また、信号処理器は、対数変換された受信信号に対して包絡線検波を行う。そして、A/D変換器は、この信号処理器の出力信号をA/D変換し、1ライン分の光音響画像データを形成する。この1ライン分の光音響画像データは、画像データメモリに保存される。
【0047】
表示部6は、例えば、表示用画像メモリと、光音響画像データ変換器と、モニタを備えている。表示用画像メモリは、モニタに表示する光音響画像データを一時的に保存するバッファメモリであり、画像データメモリからの1ライン分の光音響画像データは、この表示用画像メモリにおいて1フレームに合成される。光音響画像データ変換器は、表示用画像メモリから読み出された合成画像データに対してD/A変換とテレビフォーマット変換を行い、その出力はモニタにおいて表示される。
【0048】
操作部5は、操作パネル上にキーボード、トラックボール、マウス等を備え、装置操作者が患者情報、装置の撮影条件、表示断面など必要な情報を入力するために用いられる。
【0049】
システム制御部4は、図示しないCPUと図示しない記憶回路を備え、操作部5からのコマンド信号に従って光送信部1、画像生成部2、表示部6などの各ユニットの制御やシステム全体の制御を統括して行う。特に、内部のCPUには、操作部5を介して送られる操作者の入力コマンド信号が保存される。また、システム制御部4は、例えばカバー部材82が開状態であることを示す連続した電気的な信号を受信している間は光照射部15へのレーザ光Lの出力を開放し、当該信号を受信していない間は光照射部15へのレーザ光Lの出力を停止するように光源部11を制御する。レーザ光Lの出力を停止させる方法としては、シャッターを閉じたりQスイッチを閉じたりする方法が挙げられる。つまり、システム制御部4は本発明における出力制御手段として機能する。
【0050】
以上のように、本発明に係るプローブユニットおよび光音響分析装置は、プローブユニットを被検体に押し当てていない場合には、検出面がカバー部材で覆われてプローブユニット本体の検出面が露出しないように構成されている。この結果、プローブユニットを使用した光音響分析において、不要な方向への測定光の出力を防止することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、光音響イメージングに限らず、光音響分析法を利用した被検体の検査および診断等においても同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 光送信部
2 画像生成部
3 電気音響変換部
3s 検出面
4 システム制御部
5 操作部
6 表示部
7 被検体
10 光音響撮像装置
11 光源部
12 光合波部
13 光走査部
14 導波部
15 光照射部
70 プローブユニット本体
71 筐体部材
71a、71b、71c 突起部
71d フランジ部
80 光音響分析用プローブユニット
81 スライド部材
81a 押し当て部
82 カバー部材
82a カバー部
82b 突起部
83 回転軸
84 弾性部材
85 外装部材
U 光音響波
L レーザ光
S1、S2、S3 検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に測定光としてレーザ光を照射し、前記被検体内で発生した光音響波を検出して該光音響波を電気信号に変換し、該電気信号に基づいて分析を行う光音響分析に用いられるプローブユニットにおいて、
前記レーザ光を照射する光照射部と、前記光音響波を電気信号に変換する電気音響変換部と、前記光照射部および前記電気音響変換部を内部で保持する筒状の筐体部材とを備え、該筐体部材の先端に前記光音響波を検出するための検出面を有するプローブユニット本体と、
前記プローブユニットの長さ方向に沿って前記筐体部材に対する相対的な前後移動が可能となるように前記筐体部材の外周面上に設けられたスライド部材と、
遮光材料から構成される開閉可能なカバー部材であって前記プローブユニットの先端近傍に設けられた前記カバー部材と、
前記スライド部材に対して前方への弾性力を作用させるように設けられた弾性部材とを備え、
前記スライド部材が、前記被検体に押し当てられる押し当て部であって前記スライド部材が前方配置にあるとき少なくとも一部の位置が前記検出面よりも前方となる前記押し当て部を有し、
前記カバー部材が、閉状態で前記検出面を覆い、前記スライド部材の前後移動に連動して開閉し、前記スライド部材が前方配置から後方配置へ移動するとき閉状態から開状態となるように構成されたものであることを特徴とするプローブユニット。
【請求項2】
前記カバー部材が、回転軸を介して前記スライド部材と連結され、前記スライド部材の前後移動に伴い回転しながら開閉するものであることを特徴とする請求項1に記載のプローブユニット。
【請求項3】
前記筐体部材が、前記筐体部材の先端近傍の外周面上に前記プローブユニットの長さ方向に沿って第1の突起部および第2の突起部を有するものであり、
前記カバー部材が、閉状態で前記第1の突起部と前記第2の突起部との間に噛み合う第3の突起部を有するものであることを特徴とする請求項2に記載のプローブユニット。
【請求項4】
前記筐体部材が、前記カバー部材の回転後の状態を維持するように前記第2の突起部の後方に間隔を置いて設けられた第4の突起部を有するものであることを特徴とする請求項3に記載のプローブユニット。
【請求項5】
前記スライド部材、前記カバー部材および前記弾性部材を覆いかつ前方の端部の位置が前記検出面よりも後方となるように、前記筐体部材の外周面上に固定されて設けられた筒状の外装部材を備えたことを特徴とする請求項1から4いずれかに記載のプローブユニット。
【請求項6】
前記カバー部材が開状態であることを検出する検出部を備えたことを特徴とする請求項1から3いずれかに記載のプローブユニット。
【請求項7】
前記カバー部材が開状態であることを検出する検出部を備えたことを特徴とする請求項4に記載のプローブユニット。
【請求項8】
前記カバー部材が開状態であることを検出する検出部を備えたことを特徴とする請求項5に記載のプローブユニット。
【請求項9】
前記検出部が、前記カバー部材が開状態の時に該カバー部材および前記第4の突起部が互いに接近したことを検出可能な位置に設けられたものであることを特徴とする請求項7に記載のプローブユニット。
【請求項10】
前記検出部が、前記カバー部材が開状態の時に前記スライド部材および前記外装部材が互いに接近したことを検出可能な位置に設けられたものであることを特徴とする請求項8に記載のプローブユニット。
【請求項11】
前記検出部が、前記カバー部材が開状態の時に前記カバー部材および前記外装部材が互いに接近したことを検出可能な位置に設けられたものであることを特徴とする請求項8に記載のプローブユニット。
【請求項12】
前記弾性部材がコイルばねであることを特徴とする請求項1から11いずれかに記載のプローブユニット。
【請求項13】
請求項1から5いずれかに記載のプローブユニットを備えたことを特徴とする光音響分析装置。
【請求項14】
請求項6から11いずれかに記載のプローブユニットと、
前記カバー部材が開状態であることを前記検出部が検出した場合に前記光照射部への前記レーザ光の出力を開放し、前記カバー部材が開状態であることを前記検出部が検出しない場合に前記光照射部への前記レーザ光の出力を停止する出力制御手段とを備えたことを特徴とする光音響分析装置。
【請求項15】
前記出力制御手段が、前記レーザ光の光路上のシャッターを閉じることにより前記レーザ光の出力を停止するものであることを特徴とする請求項14に記載の光音響分析装置。
【請求項16】
前記レーザ光を出力する光源がQスイッチレーザ光源であり、
前記出力制御手段が、前記Qスイッチレーザ光源のQスイッチを閉じることにより前記レーザ光の出力を停止するものであることを特徴とする請求項14に記載の光音響分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【公開番号】特開2012−192160(P2012−192160A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−22681(P2012−22681)
【出願日】平成24年2月6日(2012.2.6)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】