説明

免疫グロブリンの精製

本発明は、望ましくない夾雑物の混合物から抗体または抗体断片を含むタンパク質(Fc融合タンパク質等)を単離するための、色素リガンドアフィニティークロマトグラフィーを使用する改善された方法に関する。具体的には、抗体/色素リガンドクロマトグラフィーによる単離手順の溶出段階においてポリエチレングリコール(PEG)等の有機ポリマーを使用することにより、望ましくない夾雑物からの標的抗体の分離が改善される。本明細書に記載される方法は、標的抗体から、抗体凝集体、ミスフォールド抗体、およびウイルス夾雑物を分離または除去する際に特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、望ましくない夾雑物(PRIつまり「目的物質由来不純物」としても知られる)の混合物から抗体または抗体断片を含有するタンパク質(Fc融合タンパク質等)を単離または精製するための、色素リガンドアフィニティークロマトグラフィーを使用する改善された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体およびFc融合タンパク質は、細胞培養物中で絶え間なく大量に生成されている。これには、目的物質由来不純物(PRI、例えば、凝集体、半抗体、ミスフォールド抗体の形態)を除去することが可能でありながら十分な樹脂能力を維持するという、より大きな下流における課題が付随する。従来のプロテインAの精製プロセスは、宿主細胞タンパク質およびDNAを除去するために、PRIがほとんど除去されない、高価な捕獲ステップを用いるため、(例えば、HIC、SECを使用して)PRIを除去する負担が下流へと移動し、実質的に収率損失を生じることが多い。これらのPRIの除去は、出発量の多さ、対象とする生成物との生化学的類似性、およびプロテインAクロマトグラフィー媒体に対する濃縮に起因して、精製プロセスのうちの最も課題の多い側面であり得る。捕獲のための代替アプローチを低コストで行うことも可能だが、純度が損なわれることが多い。よって、理想的なプロセスは、高純度、高収率、および低PRI含有量の生成物をもたらす、低コストの捕獲ステップである。
【0003】
プロテインA樹脂に匹敵する負荷能力でFc含有タンパク質を捕獲するための、低コストの非従来的なクロマトグラフィー樹脂(色素リガンドクロマトグラフィー樹脂)を使用する方法の開発に成功した。移動相修飾剤を用いた洗浄ステップおよび溶出ステップの最適化は、高い生成物純度および収率を維持しながら、PRIを有意に除去する結果をもたらした。
【0004】
色素リガンドアフィニティークロマトグラフィー
【0005】
色素リガンドアフィニティークロマトグラフィーは、「混合モード」のクロマトグラフィー媒体であるが、なぜなら、そのような媒体は、標的分子を結合させるために2つの別個の力に依存するからである。色素リガンドアフィニティー媒体の場合、これらの2つの力とは、陽イオン交換および疎水性相互作用である。図13を参照のこと。
【0006】
色素リガンドアフィニティークロマトグラフィーにおける従来の方法に関するさらなる情報については、容易に入手可能であって、当業者に理解される、多数の刊行物が存在する。例えば、以下を参照のこと:
【0007】
Handbook of Affinity Chromatography by David S.Hage,2nd Edition,2006,Chromatographic Science Series,vol.92,Chapter 9,“Dye−Ligand and Biomimetic Affinity Chromatography”(CRC Press,2006,ISBN0824740572および9780824740573)、
【0008】
Dye−ligand chromatography for the resolution and purification of restriction endonucleases,Journal Applied Biochemistry and Biotechnology,Vol.15,No.3(October,1987)、Humana Press Inc.より発行(ISSN0273−2289(印刷物)1599−0291(オンライン)、
【0009】
Dye−ligand affinity chromatography:the interaction of Cibacron Blue F3GA with proteins and enzymes,by S.Subramanian S.,CRC Crit Rev Biochem.,16(2):169−205(1984)、
【0010】
Affinity chromatography on immobilised triazine dyes−Studies on the interaction with multinucleotide−dependent enzymes,by Y.D.Clonis and C.R.Lowe CR.,Biochim Biophys Acta.,659(1):86−98(1981)、
【0011】
Triazine−dye affinity;chromatography,by T.Atkinson,et al.,Biochem Soc Trans.,9(4):290−3(1981)、
【0012】
The applications of reactive dyes in enzyme and protein downstream processing,Y.D.Clonis,Crit Rev Biotechnol,7(4):263−79(1988)、
【0013】
Chromatography on immobilized reactive dyes,by E.Stellwagen,Methods Enzymol.,182:343−57(1990)、
【0014】
Dye−affinity techniques for bioprocessing:recent developments,N.Garg,et al.,J Mol Recognit,9(4):259−74(1996)、
【0015】
Dye−ligand affinity systems,by A.Denizli and E.Piskin,J Biochem Biophys Methods,49(1−3):391−416(2001)、および
【0016】
Well defined dye adsorbents for protein purification,J.Scoble and R.Scopes,J Mol Recognit,9(5−6):728−32(1996)。
【0017】
色素リガンドアフィニティークロマトグラフィーは比較的廉価であり、化学分解および生物学的分解に対して耐性があり、in situ洗浄および滅菌に好適であるため、抗体および抗体断片を含有するタンパク質(例えば、Fc融合タンパク質)等のポリペプチドを精製するための色素リガンドアフィニティークロマトグラフィーの使用は、そのような媒体を有効的および効果的に使用することができる場合に、最適な望ましい方法である。
【0018】
タンパク質精製のための色素リガンドの潜在的有用性は、1960年代に、科学者が、カラムクロマトグラフィーによる精製手順の間に、酵素ピルビン酸キナーゼがBlue Dextranと共溶出したことを見出したときに発見された。同様に、Blue Dextranは、ヒト赤血球からピルビン酸キナーゼを精製するために後に使用された。Hageの232ページを参照のこと。
【0019】
1960年代から、アルブミンおよび他の血液タンパク質等のタンパク質、オキシドレダクターゼ、デカルボキシラーゼ、糖分解酵素、ヌクレアーゼ、ヒドロラーゼ、リアーゼ、シンターゼ、およびトランスフェラーゼを精製するためのリガンドとして、色素が使用されてきた。Hageの232ページを参照のこと。
【0020】
色素リガンドクロマトグラフィー媒体は、Sigma−Aldrich Inc.、Amersham Pharmacia Biotech Corp.、BioRad Laboratories Inc.、およびGE Healthcare Biosciences Corp.等の多数の市販源から入手可能である。そのような媒体の例は、BLUE−SEPHAROSE(登録商標)、CAPTO(商標)BLUE、AFFI−GEL(商標)Blue Agarose、CB3GA−アガロース、Blue−Trisacryl、Reactive Brown 10−セファロース、Reactive Green 19−セファロース、Reactive Red 120−セファロース、およびReactive Yellow 3−セファロースを含む。不溶性のクロマトグラフィー支持マトリックスに結合され得る色素分子の追加例は、Cibacron Blue 3GA、Procion Red HE−3B、Procione Rubine MX−B、Procion Yellow H−A、およびTurqouise MX−Gを含む。Hageの233ページを参照のこと。
【0021】
トリアジン色素は、色素リガンドクロマトグラフィーで使用される最も一般的な分子である。そのような分子の化学構造は、通常、不溶性支持体(アガロース、デキストラン、またはセルロース等)への結合のために使用される別の有機分子(1,3,5−sym−トリクロロトリアジン等)にアミノ架橋を介して結合される発色団単位(色を生成する部分)を含む。
【0022】
BLUE−SEPHAROSE(商標)、またはより具体的にはBLUE SEPHAROSE(商標)6 Fast Flowは、GE Healthcare Bio−Sciences Corp.(Piscataway,NJ)から市販されるアフィニティークロマトグラフィー媒体である。BLUE SEPHAROSE(商標)6 Fast Flowは、約7マイクロモルのCibacron Blue 3Gが排水した媒体1mL当たり3gの濃度で、Cibacron Blue 3G色素が共有結合された6%高度架橋アガロースビーズ構造を含む、クロマトグラフィー媒体である。GE Healthcareは、「BLUE SEPHAROSE(商標)6 Fast Flowは、トリアジンカップリング法によりSEPHAROSE(商標)6 Fast Flowマトリックスに共有結合されたCibacron Blue 3Gである。これらの青色色素は、アルブミン、インターフェロン、リポタンパク質、および血液凝固因子等の多くのタンパク質に結合する。また、キナーゼ、デヒドロゲナーゼ、およびアデニル含有(例えば、NAD+)を必要とするほとんどの酵素を含む、幾つかの酵素にも結合する。高度に架橋したマトリックスは、安定した剛性媒体を提供する。Blue Sepharose Fast Flowは、BIOPROCESS(商標)媒体ファミリーに属する。BIOPROCESS(商標)媒体は、産業スケール、特に医療用品の製造のために開発、作製、および支持される分離媒体である。それらの高い物理的および化学的安定性、バッチごとの非常に高い再現性、ならびに法規制に関するサポートファイルのバックアップにより、BioProcess媒体は、プロセスの開発からスケールアップおよび生産まで、操作のすべての段階に理想的である」と報告している。GE Healthcare Bio−Sciences文献ファイルNo.71−7055−00 AG(printed in Sweden by Wikstroems,Uppsala,Jan.2006(No.1050991))を参照のこと(この文献ファイルは、本特許出願の教示に矛盾しないまたは相違しない範囲で、参照によってのみ本明細書に組み込まれるものとし、矛盾または相違がある場合には、本出願が優先し、かつ/または、任意のそのような矛盾または相違する事項に優先することが意図される)。
【0023】
CAPTO(商標) BLUEは、GE Healthcare Bio−Sciences Corp.(Piscataway,NJ)から市販されるアフィニティークロマトグラフィー媒体である。CAPTO(商標)BLUEクロマトグラフィー媒体は、Cibacron Blue色素が媒体1mL当たりCibacron約11〜16マイクロモルの濃度で共有結合された、高度架橋アガロースのビーズ構造を含むクロマトグラフィー媒体である。GE Healthcareは、CAPTO(商標)BLUEを「アルブミンの捕獲、ならびに実験室およびプロセススケールでの酵素および組み換えタンパク質の精製向けに」市販する。また、GE Healthcareは、CAPTO(商標)BLUEは「Blue Sepharose(商標)6 Fast Flowから開発され、[また]Capto Blueは、その前身よりも化学的に安定しており、剛性のアガロースベースのマトリックスを有する。これらの改善によって、より早い流速およびより大きな試料体積の使用が可能となり、結合能を有意に低下せずに、より高いスループットをもたらす」と報告している。GE Healthcare Bio−SciencesデータファイルNo.28−9392−46AA(06/2008)を参照のこと(このデータファイルは、本特許出願の教示に矛盾しないまたは相違しない範囲で、参照によってのみ本明細書に組み込まれるものとし、矛盾または相違がある場合には、本出願が優先し、かつ/または、任意のそのような矛盾または相違する事項に優先することが意図される)。
【0024】
色素リガンドクロマトグラフィー媒体を使用してタンパク質を単離するための最適な条件は、単離されるべき特定の標的タンパク質に依存して経験的に決定される。有効的かつ効果的にタンパク質を単離または精製する能力に有意な影響を与える可能性がある変数は、pH、溶液のイオン強度、タンパク質が入っている混合物の組成、温度、試料サイズ、そして、当然のことながら、使用されている特定の色素リガンドおよび支持マトリックスを含む。
【0025】
プロテインAおよび他の手順を使用した抗体の精製
【0026】
プロテインAアフィニティークロマトグラフィーは、モノクローナル抗体(mAbs)およびFc融合タンパク質の捕獲および単離のために最も広く使用される方法の1つである。プロテインAは、比較的高い収率の抗体混合物を生成する一方で、宿主細胞タンパク質(HCP)およびDNAの除去に非常に有効である。しかしながら、プロテインAを使用することの短所は、PRIと標的抗体との結合および共溶出、凝集体の共溶出、ミスフォールドした抗体の形成、および半抗体を含む。したがって、プロテインAの精製後には、PRIを除去することを目的とするその後の手順(例えば、イオン交換および疎水性相互作用クロマトグラフィー法)のために、抗体収率の相当の損失が生じることが多い。
【0027】
他の分離方法も、抗体の精製のために日常的に用いられてきた。そのような方法は、一般的に、負荷(例えば、イオン交換)、疎水性(HIC、疎水性相互作用クロマトグラフィー)、サイズ(例えば、サイズ排除クロマトグラフィー)、アフィニティー(プロテインAと同様)、またはそのような方法の組み合わせに基づく相互作用に依存する。
【0028】
Gagnonによる特許出願は、混合モードクロマトグラフィーによる抗体精製手順におけるPEG(または他の水溶性の非イオン性有機ポリマー)の使用を教示している。2008年1月7日に出願され、2008年7月24日に公開された特許文献1(これ以後、Gagnonと称する)を参照のこと。しかしながら、本発明のGagnonとの重要な相違は、Gagnonが、PEGの使用により、そこに列挙される種々の種類の混合モードクロマトグラフィー樹脂に対する抗体、凝集体、およびウイルスの結合能が向上されることを教示していることである。とりわけ、Gagnonは、樹脂への結合能を向上させる手段として、クロマトグラフィー精製ステップを通してのPEGの使用(すなわち、抗体が最初にカラムに適用されるときのPEGの組み込み、ならびに洗浄および溶出段階におけるPEGの使用)を強調している。実際に、Gagnonは、「非イオン性有機ポリマーの存在により、ほとんどの夾雑タンパク質と比較して、混合モードクロマトグラフィー支持体に対する抗体の保持が好ましく向上される」と教示している。例えば、Gagnonの2ページ[0014]段落目(強調表示されている)を参照のこと。Gagnonは、複数の種類の利用可能な混合モードクロマトグラフィー樹脂および相互作用力の種類を列挙しているが(例えば、Gagnonの[0003]段落目および[0012]段落目を参照)、Gagnonにおける明確な強調は、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー樹脂に関するものであり、すべての実施例はそれを用いて行われている。より具体的には、Gagnonは、一般的に、色素リガンドクロマトグラフィー樹脂に関する言及を含まず、または具体的には、青色色素クロマトグラフィー樹脂に関する言及を含まない。さらに、Gagnonにおいて教示される、有機ポリマーの存在下で混合モード樹脂に対する抗体の「保持の向上」とは対照的に、本発明は、溶出段階(単一ステップまたは勾配溶出段階において)のみに有機ポリマー(PEG等)を組み込むことによって、色素リガンドクロマトグラフィー樹脂から標的抗体を特異的に溶出するための、有機ポリマー(PEG等)の使用に関する。換言すると、色素リガンドクロマトグラフィー樹脂では、PEG等の有機ポリマーは、樹脂に対する抗体の結合を向上させるためには使用されないが、その代わりに、樹脂から標的抗体を溶出するために使用される。実際に、この相違により、Gagnonにおける「混合モードクロマトグラフィー支持体は、イオン交換等の単一モードクロマトグラフィー法を用いて再現することができない独特の選択性を提供するが、方法の開発は複雑であり、予測不可能であり、また、広範囲のリソースを必要とする可能性がある。それでも、ヒドロキシアパタイトによって例示されるように、有用な手順の開発に長い期間を必要とする可能性がある」という所見が説明され得る。Gagnonの[0004]段落目を参照のこと。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0177048号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明は、望ましくない夾雑物の混合物から抗体または抗体断片を含有するタンパク質(Fc融合タンパク質等)を単離または精製するための、色素リガンドアフィニティークロマトグラフィーを使用する改善された方法に関する。(簡略化するために、別途記載のない限り、図および特許請求の範囲を含む本明細書の至るところで使用される「抗体」(単数または複数)という用語は、当該技術分野において一般的に理解されるこれらのポリペプチドのような抗体を含むこと、およびFc融合タンパク質等の抗体の一部を含むタンパク質を含むことが意図される)。
【0031】
抗体/色素リガンドアフィニティークロマトグラフィーによる単離手順の溶出段階においてポリエチレングリコール(PEG)等の有機ポリマーを使用することにより、(PEG等の有機ポリマーの非存在下で溶出が行われる同じ手順と比較して)抗体混合物中に最初に存在する夾雑物からの標的抗体の分離が向上される(改善される)ことが現在明らかになっている。一実施形態において、本明細書に記載される方法は、標的抗体から抗体凝集体、ミスフォールド抗体、およびウイルス夾雑物を分離または除去するのに特に有用である。ミスフォールド抗体と抗体凝集体とは、後者と比較して前者の分子量が低いことによって区別することができる。ミスフォールド抗体と、同分子量の適切にフォールドされた抗体とは、後者と比較して前者が生物学的に不活性であることによって区別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】CAPTO(商標)BLUEに対するFc融合タンパク質の結合をBlue SEPHAROSE(登録商標)に対するFc融合タンパク質の結合と比較する結合能試験。
【図2】NaCl勾配溶出実験は、凝集体の溶出不良および不活性形態を示した。
【図3】不活性種の除去を試みた洗浄実験。
【図4】CAPTO(商標)BLUE樹脂は、プロセス由来不純物を除去するための最適化に、より多くの機会を提供した。
【図5】PEGは、Blue Sepharose(登録商標)およびCAPTO(商標)BLUEクロマトグラフィー媒体の両方を使用して凝集体の除去を改善した。
【図6】PEGは、融合タンパク質からの凝集体の分離を改善した。
【図7】PEGは、BLUE SEPHAROSE(登録商標)およびCAPTO(商標)BLUEの両方を使用して、mAb混合物からの凝集体の分離を改善した。
【図8】PEG−3350は、30kDaダイアフィルトレーションを使用して除去することができる。
【図9】BLUE SEPHAROSE(登録商標)は、プロテインA/イオン交換による精製手順と比較して優れた収率および純度を提供した。
【図10】PEGは、青色樹脂クロマトグラフィーによる精製手順におけるウイルスのクリアランスを向上させた。
【図11】溶出段階においてPEGとともにBLUE SEPHAROSE(登録商標)を使用する、改善された抗体単離の例示的プロトコル。
【図12】溶出段階においてPEGとともにBLUE SEPHAROSE(登録商標)によって抗体を単離したときに得られた結果の例。
【図13】例示的な色素リガンドアフィニティークロマトグラフィー部分。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の開発は、抗体およびFc融合タンパク質を精製する、比較的廉価ではあるが、迅速かつ効率的な手段を実施するという要望が動機であった。具体的には、色素アフィニティークロマトグラフィーによる単離手順における移動相修飾剤(PEG等)の効果を調査した。色素リガンドクロマトグラフィーによる精製手順の溶出段階の間に有機ポリマー(PEG等)を使用することにより、ウイルス、ミスフォールド抗体、および抗体凝集体等のPRIからの標的抗体のクリアランス(精製)が向上されることが明らかになった。
【0034】
本明細書で使用される場合、「有機ポリマー」は、有機組成物の水溶性、非荷電性の線形ポリマー、分岐ポリマー、または別様の構造化ポリマーを指す。その例として、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、およびポリプロピレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。例として、100〜20,000ダルトンの範囲の平均ポリマー分子量の組成物が挙げられるが、これらに限定されない。市販のPEG製剤の平均分子量は、通常、ハイフン付きの接尾語によって示される。例えば、PEG−3500は、約3,500ダルトンの平均分子量を有する製剤を指す。
【0035】
PEGは、その親水性によって、タンパク質表面から「優先的に溶出された」非荷電性有機ポリマーである。PEGの存在により、タンパク質は、水分子の少なくとも1つの分子層でタンパク質(抗体等)が包囲またはコーティングされた「水和シェル」を共有する。しかしながら、この状態は、熱力学的に不利な条件を作り出す。よって、PEGの存在下において、抗体および他の分子または夾雑物は、色素リガンドアフィニティーマトリックスと会合することによって見出され得るような、より有利な熱力学的条件をより強く「求める」か、またはそれを引き付ける高い力を有する。
【0036】
PEGの他のいくつかの利点は、それが廉価であり、多様な分子量(MW)で入手可能であることである。PEGは、MWが<1000Daである場合は液体形状で存在し、>1000Daである場合は粉末形状で存在する。種々の異なるMWのPEGが入手可能であることにより、標的タンパク質および抗体の異なるMWおよびpI(等電点)に基づいて最適なサイズのPEG分子を組み合わせる際に、選択性が可能になる。
【0037】
本明細書に記載されるように、本発明の一実施形態は、BLUE SEPHAROSE(登録商標)クロマトグラフィーを用いる抗体精製手順にPEGを含めることにより、標的抗体を含有する初期混合物からの凝集体の良好な捕獲(単離)および除去の改善がもたらされるという発見に起因するものである。実際に、溶出緩衝液にPEGを添加すると、樹脂に密接に結合した凝集体を維持する一方で、抗体モノマーの高度に選択的な溶出がもたらされた。
【0038】
さらに、PEGと同様の様式で色素リガンドクロマトグラフィー媒体上の抗体の単離または精製にも使用され得る、PEGに類似する非イオン性水溶性有機ポリマーは、エチレン、グリコール、ポリエチレングリコール、およびポリプロピレングリコールを含むが、これらに限定されない。
【0039】
エチレングリコール
【0040】
エチレングリコール(モノエチレングリコール(MEG)、1,2−エタンジオール)は、2つの「OH」基(すなわち、ジオール)を有するアルコールである。その純粋な形態において、エチレングリコールは、無臭、無色の、甘味のある毒性の液体である。エチレングリコールは、中間体であるエチレンオキシドを介してエチレンから生成される。エチレンオキシドは、以下の化学式により、水と反応してエチレングリコールを生成する:
【0041】
O+H2O→HO−CH−CH−OH。
【0042】
この反応は、酸もしくは塩基のいずれかによって触媒され得るか、または、温度上昇下において中性pHで生じ得る。主な副産物は、オリゴマーのエチレングリコール生成物である、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、およびテトラエチレングリコールである。本発明の実施形態は、抗体の単離(精製)におけるエチレングリコールの任意の利用可能な形態の使用を含む。
【0043】
ポリエチレングリコール(PEG)
【0044】
ポリエチレングリコール(PEG)は、ポリエチレンオキシド(PEO)またはポリオキシエチレン(POE)としても知られる有機ポリマーである(具体的には、エチレンオキシドのポリマーであるため、ポリエーテルの一種である)。PEGは、エチレンオキシドの重合によって調製され、以下の構造を有する300g/mol〜10,000,000g/molの幅広い分子量範囲で市販されている:
【0045】
HO−CH−(CH−O−CH−)n−CH−OH。
【0046】
(式中、「n」は、300g/mol〜10,000,000g/molの分子量を生じさせる任意の数である)。
【0047】
ほとんどのPEG組成物は、単一の一様な分子量ではなく、分子量分布を有する分子を含む。このサイズ分布は、その平均分子量(MW)によって統計的に特徴付けることができる。またPEGは、異なる形状でも入手可能である。分岐PEGは、一般に、中心のコア基から生じる3〜10個のPEG鎖を有する。「星型」PEGは、一般に、中心のコア基から生じる10〜100個のPEG鎖を有する。「櫛形」PEGは、一般に、ポリマー骨格にグラフトされた複数のPEG鎖を有する。本発明の実施形態は、抗体の単離(精製)におけるPEGの任意の利用可能な形態の使用を含む。
【0048】
ポリプロピレングリコール(PPG)
【0049】
ポリプロピレングリコールまたはポリプロピレンオキシドは、プロピレングリコールのポリマー(グリセリン骨格に結合した長鎖ポリマー)である。ポリプロピレングリコールは、ポリエーテルである。ポリプロピレングリコールまたはPPGという用語は、通常はヒドロキシル基である末端基の性質がその分子の総分子量と有意な関係がある場合、低分子量〜中分子量の範囲の分子量のポリマーに使われる。「オキシド」という用語は、末端基がポリマーの特性にもはや影響を与えない場合、高分子量の範囲の分子量のポリマーに使用される。PPGは、ポリエチレングリコールと共通する多くの特性を有する。このポリマーは、室温では液体である。水中溶解度は、モル質量の増加とともに急速に低下する。ほとんどのPPG組成物は、単一の一様な分子量ではなく、分子量分布を有する分子を含む。そのサイズ分布は、その平均分子量(MW)によって統計的に特徴付けることが出来る。
【化1】

【0050】
本発明の実施形態は、抗体の単離(精製)におけるPEGの任意の利用可能な形態の使用を含む。
【0051】
夾雑物または目的物質由来不純物
【0052】
本明細書で使用される「夾雑物」または目的物質由来不純物(PRI)は、標的分子から好ましくまたは望ましく除去または分離される任意の分子または化合物を指す。(本発明の目的のために、標的分子は、抗体またはFc融合タンパク質等の抗体断片を含有するタンパク質である)。夾雑物またはPRIの例として、ウイルス、宿主細胞タンパク質、ミスフォールドタンパク質、凝集タンパク質、半抗体、タンパク質のダイマー、DNAまたはRNA等の核酸、およびエンドトキシンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
クロマトグラフィー媒体および色素の例
【0054】
有機ポリマーと併せて抗体の精製のために使用することができる色素リガンドクロマトグラフィー媒体の例として、
・CAPTO(商標)BLUE、
・BLUE−SEPHAROSE(登録商標)、
・AFFI−GEL BLUE(商標)アガロース、
・CB3GA−アガロース、
・Blue−Trisacryl、
・Reactive Brown 10−Sepharose、
・Reactive Green 19−Sepharose、
・Reactive Red 120−Sepharose、
・Reactive Yellow 3−Sepharoseが挙げられるが、これらに限定されない。
*AFFI−GEL BLUE(商標)アガロースは、Cibacron Blue F3GA色素が共有結合した架橋アガロースビーズであり、この媒体はBioRad Laboratories(Hercules,CA,USA)より市販されている。
【0055】
(有機ポリマーと併せて)抗体の精製のためにクロマトグラフィー媒体と併せて使用することができる色素の例として、
・Cibacron Blue、
・Reactive Blue 2、
・Blue−B、
・Blue Dextran、
・Procion Red HE−3B、
・Procione Rubine MX−B、
・Procion Yellow H−A、
・Turqouise MX−Gが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
抗体
【0057】
「抗体」および「免疫グロブリン」という用語(またはそれらの複数形)は、本明細書において交換可能に使用され得る。脊椎動物系における基本的な免疫グロブリン構造は、比較的よく理解されている。例えば、Harlow et al.,Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd ed.1988)を参照のこと。「抗体」という用語は、生化学的に区別することができる幅広いクラスのポリペプチドを含む。当業者は、その間にいくつかのサブクラス(例えば、γ1〜γ4)を伴って、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロン(γ、μ、α、δ、ε)として重鎖を分類できることを理解するであろう。それぞれ、IgG、IgM、IgA、IgG、またはIgEとして抗体の「クラス」を決定することがこの鎖の性質である。免疫グロブリンのサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1等は、十分に特徴付けられており、機能分化を付与することが知られている。これらのクラスおよびアイソタイプの各々が修飾されたものは、当業者に容易に認識され、したがって、本発明の範囲内である。
【0058】
抗体および抗体断片は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、多特異的抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、霊長類化抗体、またはキメラ抗体、単鎖抗体、エピトープ結合断片、例えば、Fab、Fab’およびF(ab’)、Fd、Fvs、単鎖Fvs(scFv)、単鎖抗体、ジスルフィド結合Fvs(sdFv)、VLまたはVHドメインのいずれかを含む断片、Fab発現ライブラリによって生成される断片、および抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本明細書に開示されるIGF−1R抗体に対する抗Id抗体)を含むが、これらに限定されない。ScFv分子は当該技術分野で既知であり、例えば、米国特許第5,892,019号に記載されている。本発明の免疫グロブリンまたは抗体分子は、免疫グロブリン分子の任意の種類(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、およびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2)、またはサブクラスであり得る。
【0059】
本発明の抗体またはその抗体断片は、鳥類および哺乳類を含む任意の動物が起源であり得る。好ましくは、これらの抗体は、ヒト、ネズミ、ロバ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ラマ、ウマ、またはニワトリの抗体である。別の実施形態において、可変領域は、軟骨魚類が起源(例えば、サメ由来)であってもよい。
【0060】
Fc融合タンパク質
本明細書で使用される場合、別途記載のない限り、「Fc融合タンパク質」という用語は、免疫グロブリンのFc領域を有する、含有する、または含むタンパク質を含むことが意図される。組み換えられ得るまたは自然に発生し得るFc融合タンパク質は、Fc領域または免疫グロブリンのFc領域に相当する領域を含む。Fc含有タンパク質の例は、酵素的に活性な因子VIII:Fc融合タンパク質等のタンパク質である。Fc融合タンパク質は、本発明の方法による単離または精製のために酵素的に活性である必要はない。
【0061】
本明細書で使用される場合、「Fc領域」という用語は、IgG重鎖のC末端領域を指すことが意図される。一実施形態において、Fc領域は、ヒトIgG重鎖のC末端領域を指す(例えば、配列番号1を参照のこと)。IgG重鎖のFc領域の境界はやや変化してもよいが、ヒトIgG重鎖のFc領域は、通常、天然ポリペプチドのCys226位(または配列番号1のCys109)のアミノ酸残基からカルボキシル末端までの範囲であると定義される。
【0062】
本明細書で使用される場合、「免疫グロブリンのFc領域に相当する領域」という用語は、免疫グロブリンのFc領域の自然に発生する対立遺伝子変異体、および置換、付加、または欠失をもたらす変化を有する、遺伝子的にまたは人工的に操作された変異体を含むことが意図される。例えば、実質的に機能を損なうことなく、免疫グロブリンのFc領域のN末端またはC末端から1つもしくは複数のアミノ酸が欠失していてもよい。同様に、実質的に機能を損なうことなく、1つもしくは複数のアミノ酸がFc領域に挿入されていても、そこから欠失していても、またはその中で置換されていてもよい。そのような変異体は、色素リガンドクロマトグラフィー媒体による単離の活性または効率に与える影響が最小限になるように、当該技術分野で既知である生化学的原理にしたがって作られてもよい。
【0063】
本明細書で使用される場合、「融合」および「キメラの」という用語は、Fc融合タンパク質等のポリペプチドに関連して用いられる場合、別個の遺伝子でコードされるタンパク質の一部分等の、2つ以上の異種のポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含むポリペプチドを指す(前記遺伝子は、同じかまたは異なる生物種のいずれかに生じる)。
【0064】
本明細書で使用される場合、「変異体」(または類似体)という用語は、例えば、突然変異誘発等の組み換えDNA技術を使用して作製されるアミノ酸の挿入、欠質、および置換によるFcRn等の、具体的に列挙される本発明のポリペプチドとは異なるポリペプチドを指す。対象となる活性を無効にすることなく、どのアミノ酸残基を置換、付加、または欠失することができるかを決定する指針は、特定のポリペプチドの配列を、例えば、ヒト、霊長類、マウス、ラット、ウシ、ブタの相同なペプチドの配列と比較し、相同性の高い領域(保存領域)におけるアミノ酸配列の変化数を最小限に抑えることによって、またはアミノ酸をコンセンサス配列と交換することによって、見出すことができる。
【0065】
本明細書で使用される場合、「天然の」(または自然に発生する)ポリペプチドは、自然によく見られるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を指す。例えば、天然配列ヒトFc領域は、天然配列ヒトIgG1Fc領域(非AおよびAアロタイプ)、天然配列ヒトIgG2Fc領域、天然配列ヒトIgG3Fc領域、および天然配列ヒトIgG4Fc領域、ならびにそれらの自然に発生する変異体を含む。他の配列も企図され、それらは種々のデータベース(例えば、National Center for Biotechnology Information(NCBI))から容易に得られる。
【実施例】
【0066】
実施例
色素リガンドクロマトグラフィー手順の間に特定の抗体を単離するための最適条件を経験的に確立する際に考慮されるべきいくつかのパラメータは、最適なpHの決定、出発試料、洗浄液、および溶出液のイオン強度(例えば、塩化ナトリウムの濃度)、ならびにPEGまたは使用される他の有機ポリマーの濃度およびMWを含むが、これらに限定されない。
【0067】
実行される実験の具体的な例を本明細書に示した図に示すと同時に説明する。これらの実験の結果として決定された結論は、色素リガンドクロマトグラフィー分離手順の溶出ステップの一部としてPEG等の有機ポリマーを組み込むことは、良好に、効果的に、および有効的に、以下を行う能力を提供するという発見を含むが、これに限定されない。
【0068】
・多数の夾雑物を含有する溶液の複合混合物から抗体およびFc含有タンパク質を単離(精製)する(例えば、組み換え細胞培養物から採取した浄化細胞媒体からの抗体の単離)。
【0069】
・高収率の標的タンパク質を提供する一方で、目的物質由来不純物を除去する。
【0070】
・ミスフォールド抗体の形態を除去する。
【0071】
・抗体凝集体の分解およびクリアランスを改善する。
【0072】
・ウイルスのクリアランスを有意に向上させる。
【0073】
・プロテインAの手順よりも4〜6倍低コストである精製プロセスを提供する。
【0074】
CAPTO(商標)BLUE樹脂は、表1および図4に示すように、目的物質由来不純物を除去するための最適化により多くの機会を提供した。
【表1】

【0075】
表1において、I−1およびI−2は、それぞれ不活性形態1および2である。溶出液に対するPEG付加を伴うpH洗浄により、ミスフォールド形態を除去した。「CM」は、浄化媒体である。
【0076】
表2および図5に示すように、PEGは、BLUE SEPHAROSE(登録商標)およびCAPTO(商標)BLUEクロマトグラフィー媒体の両方を使用して凝集体の除去を改善した。
【表2】

【0077】
表2において、10〜11%のPEGは、実質的に凝集体を減少させ、より高いモノマー収率を提供した。ほぼ同じ条件が、2つの樹脂間で同程度の結果をもたらした。CAPTO(商標)BLUEは、より高い結合能を有する。「HMW」は、高分子量である。
【0078】
表3および図7に示すように、PEGは、BLUE SEPHAROSE(登録商標)およびCAPTO(商標)BLUEの両方を使用してmAb混合物からの凝集体の分離を改善した。
【表3】

【0079】
表3および図7に示すように、BLUE SEPHAROSE(登録商標)およびCAPTO(商標)BLUEの両方に、それぞれ7.5%および2%のPEGを付加することにより、高いモノマー収率で、凝集体の実質的な減少がもたらされた。mAbは、融合タンパク質よりも少ないPEGを必要とすると考えられる。
【0080】
表4および図10に示すように、PEGは、青色樹脂クロマトグラフィーによる精製手順(融合タンパク質)においてウイルスのクリアランスを向上させた。
【表4】

【0081】
表4および図10に示すように、溶出ステップにPEGを用いるかまたは用いないことを除いた同一条件下で、2つのウイルスについてウイルスクリアランス試験を実行した(重複実験)。結果は、溶出ステップにPEGを付加することにより、MMVで1.5log10、X−MLVで3.0log10と、ウイルスクリアランスが有意に増加されたことを示す。表4および図10を参照のこと。
【0082】
溶出段階の間にBLUE SEPHAROSE(登録商標)をPEGとともに使用して改善された抗体の単離の例示的プロトコルは、以下の通りである:
【0083】
(1))クロマトグラフィーカラムを25mMアセテート、300mM NaCl、pH4.5で平衡化(EQ)
【0084】
(2)負荷:pH4.5に調整した抗体CM(力価13mg/mLの樹脂)
【0085】
(3)洗浄1:25mMアセテート、300mM NaCl、pH4.5
【0086】
(4)洗浄2:25mMアセテート、pH4.5
【0087】
(5)洗浄3:25mM Bis TRIS、pH6.0(NaCl<12.5mM NaCl)
【0088】
注:洗浄はミスフォールド形態を減少させる/除去するために使用される。
【0089】
(6)洗浄4:25mM Bis TRIS、11%PEG、pH6.0
【0090】
(7)溶出:25mM Bis TRIS、11%PEG*、0.5M NaCl、pH6.0(1+7CV)
【0091】
注:溶出緩衝液中のPEGは、樹脂に凝集体が結合した状態を維持したままで、抗体モノマーを溶出する。
【0092】
(8)清潔なストリップカラム:25mM Bis TRIS、1M NaCl、pH6.0
【0093】
(9)再生カラム:0.5N NaOH
【0094】
(10)溶出液の画分中に採取した標的抗体の、貯蔵、定量化、生理活性の測定、またはさもなければ特徴付けを行う。
【0095】
注):実験の結果は、モノクローナル抗体の単離は、Fc融合タンパク質の単離と比較してより低濃度のPEGを必要とするようであることを示唆している。例えば、表2および図5(10〜11%のPEGで溶出したFc融合タンパク質)と表3および図7(2%(CAPTO(商標)BLUE)および7.5%PEG(BLUE SEPHAROSE(登録商標))で溶出したMab)とを比較。
【0096】
要約の部分ではなく、詳細な説明の部分が、特許請求の範囲を解釈するために使用されることが意図されることを理解されたい。要約は、1つもしくは複数の例示的な実施形態を記載しているかもしれないが、発明者(複数可)によって企図される本発明の全ての例示的な実施形態を記載しているわけではなく、よって、いかなる意味でも本発明および添付の特許請求の範囲を制限することを意図するものではない。
【0097】
以上、本発明を特定の機能およびそれらの関係の実行を例示する機能的な構成要素を用いて説明した。これらの機能的な構成要素の範囲は、説明の便宜上、本明細書において任意に定義されている。特定の機能およびそれらの関係が適切に行われる限り、大体の範囲が定義されてもよい。
【0098】
特定の実施形態の前述の記載は、当業者が、当該分野の技能内の知識を適用することによって、過渡の実験をせず、本発明の一般的概念から逸脱することなく、特定の実施形態のような種々の用途を容易に修正および/または用途に適合させることができるという、本発明の一般的性質を明らかにする。そのため、かかる適応および修正は、本明細書に提示した教示および指導に基づき、開示する実施形態の同等物の意味および範囲内であるように意図される。本明細書の中の表現または用語は、本明細書の用語または表現が、教示および指導を踏まえ当業者によって解釈されるように、説明のためであって、限定するものではないことが理解されるべきである。
【0099】
本明細書に引用されるすべての参考文献は、個々の刊行物または特許または特許出願が、参照によりその全体がすべての目的のために具体的かつ個別に組み込まれるべく示されるのと同程度に、参照によりその全体がすべての目的のために組み込まれる。参照により組み込まれる刊行物および特許または特許出願が本明細書に含まれる開示と矛盾する場合は、本明細書が優先するか、および/またはそのようないずれの矛盾する事項にも優先することが意図される。
【0100】
明細書、図面、および特許請求の範囲において使用される成分、クロマトグラフィー条件等の量を表す全ての数字は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されると解釈されたい。したがって、特に記載のない限り、明細書、図面、および特許請求の範囲に記載される数値的パラメータは、本発明によって得られることが求められる所望の性質に応じて変化し得る近似値である。
【0101】
本発明の広さと範囲は上述の例示的実施形態のいずれによっても限定されるべきではなく、以下の特許請求の範囲およびその等価物に従ってのみ定義されるべきである。
【0102】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つもしくは複数の夾雑物から抗体または抗体断片を含むタンパク質を分離する方法であって、
a)前記抗体またはタンパク質および前記1つもしくは複数の夾雑物を、色素リガンドクロマトグラフィー媒体と接触させることと、
b)前記色素リガンドクロマトグラフィー媒体を有機ポリマーと接触させることと、
c)ステップa)およびb)の後に、前記抗体または前記タンパク質を前記色素リガンドクロマトグラフィー媒体との接触から取り出すことと、を含む、方法。
【請求項2】
ステップa)とb)とは、同時に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップa)は、ステップb)の前に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)は、ステップb)の後に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記有機ポリマーは、エチレングリコールである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記有機ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記有機ポリマーは、ポリプロピレングリコールまたはポリプロピレンオキシドである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記色素リガンドクロマトグラフィー媒体は、トリアジン色素リガンドを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記色素リガンドクロマトグラフィー媒体は、青色色素リガンドを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記色素リガンドは、
a)Cibacron Blue、
b)Reactive Blue 2、
c)Blue−B、
d)Blue Dextran、
e)Procion Red HE−3B、
f)Procione Rubine MX−B、
g)Procion Yellow H−A、および
h)Turqouise MX−G
からなる群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記色素リガンドクロマトグラフィー媒体は、
a)CAPTO(商標)BLUE、
b)BLUE−SEPHAROSE(登録商標)、
c)AFFI−GEL BLUE SEPHAROSE(登録商標)、
d)CB3GA−アガロース、
e)Blue−Trisacryl、
f)Reactive Brown 10−セファロース、
g)Reactive Green 19−セファロース、
h)Reactive Red 120−セファロース、および
i)Reactive Yellow 3−セファロース
からなる群から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記抗体または抗体断片を含むタンパク質は、前記抗体またはタンパク質と最初に会合していた前記1つもしくは複数の夾雑物のある部分が存在せずに前記クロマトグラフィー媒体から溶出される、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体または抗体断片を含むタンパク質は、前記抗体またはタンパク質と最初に会合していた1つもしくは複数の夾雑物のある部分から分離され、前記夾雑物は、
a)ミスフォールド抗体または抗体断片を含むミスフォールドタンパク質、
b)凝集した抗体または抗体断片を含む凝集したタンパク質、
c)半抗体、
d)タンパク質のダイマー、
e)ウイルスまたはウイルス粒子タンパク質、
f)宿主細胞タンパク質、
g)エンドトキシン、および
h)核酸
からなる群から選択される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体またはタンパク質から分離される前記夾雑物の部分は、
a)1つもしくは複数の夾雑物の約50%以上、
b)1つもしくは複数の夾雑物の約60%以上、
c)1つもしくは複数の夾雑物の約70%以上、
d)1つもしくは複数の夾雑物の約75%以上、
e)1つもしくは複数の夾雑物の約80%以上、
f)1つもしくは複数の夾雑物の約85%以上、
g)1つもしくは複数の夾雑物の約90%以上、
h)1つもしくは複数の夾雑物の約95%以上、
i)1つもしくは複数の夾雑物の約96%以上、
j)1つもしくは複数の夾雑物の約97%以上、
k)1つもしくは複数の夾雑物の約98%以上、
l)1つもしくは複数の夾雑物の約99%以上、および
m)1つもしくは複数の夾雑物の約100%
からなる群から選択される割合である、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
抗体断片を含む前記タンパク質の前記抗体断片部分は、抗体Fc領域または抗体Fcドメインである、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
抗体断片を含む前記タンパク質は、融合タンパク質である、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記クロマトグラフィー媒体は、
a)約0.1〜約50%のPEG、
b)約0.1〜約40%のPEG、
c)約0.1〜約30%のPEG、
d)約0.1〜約20%のPEG、
e)約0.1〜約10%のPEG、
f)約0.1〜約5%のPEG、
g)約0.1〜約2%のPEG、
h)約1〜約50%のPEG、
i)約1〜約40%のPEG、
j)約1〜約30%のPEG、
k)約1〜約20%のPEG、
l)約1〜約10%のPEG、
m)約1〜約5%のPEG、
n)約1〜約2%のPEG、
o)約2〜約50%のPEG、
p)約2〜約40%のPEG、
q)約2〜約30%のPEG、
r)約2〜約20%のPEG、
s)約2〜約10%のPEG、
t)約2〜約5%のPEG、
u)約5〜約50%のPEG、
v)約5〜約40%のPEG、
w)約5〜約30%のPEG、
x)約5〜約20%のPEG、
y)約5〜約10%のPEG、
z)約10〜約50%のPEG、
aa)約10〜約40%のPEG、
ab)約10〜約30%のPEG、
ac)約10〜約20%のPEG、
ad)約0.1%のPEG、
ae)約0.5%のPEG、
af)約1%のPEG、
ag)約2%のPEG、
ah)約3%のPEG、
ai)約4%のPEG、
ak)約5%のPEG、
al)約6%のPEG、
am)約7%のPEG、
an)約7.5%のPEG、
ao)約8%のPEG、
ap)約9%のPEG、
aq)約10%のPEG、
ar)約11%のPEG、
as)約12%のPEG、
at)約15%のPEG、
au)約20%のPEG、
av)約25%のPEG、
aw)約30%のPEG、
ax)約35%のPEG、
ay)約40%のPEG、
az)約45%のPEG、および
ba)約50%のPEG
からなる群から選択される最終重量対体積濃度でPEGと接触させられる、請求項1〜4、6、または10〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記クロマトグラフィー媒体は、
a)約100〜約20,000ダルトン、
b)約100〜約15,000ダルトン、
c)約100〜約10,000ダルトン、
d)約100〜約8,000ダルトン、
e)約100〜約6,000ダルトン、
f)約100〜約5,000ダルトン、
g)約100〜約4,000ダルトン、
h)約100〜約2,000ダルトン、
i)約100〜約1,000ダルトン、
j)約100〜約800ダルトン、
k)約100〜約600ダルトン、
l)約100〜約500ダルトン、
m)約100〜約400ダルトン、
n)約100〜約300ダルトン、
o)約100〜約200ダルトン、
p)約400〜約20,000ダルトン、
q)約400〜約15,000ダルトン、
r)約400〜約10,000ダルトン、
s)約400〜約8,000ダルトン、
t)約400〜約6,000ダルトン、
u)約400〜約5,000ダルトン、
v)約400〜約4,000ダルトン、
w)約400〜約2,000ダルトン、
x)約400〜約1,000ダルトン、
y)約400〜約800ダルトン、
z)約400〜約600ダルトン、
aa)約400〜約500ダルトン、
ab)約600〜約20,000ダルトン、
ac)約600〜約15,000ダルトン、
ad)約600〜約10,000ダルトン、
ae)約600〜約8,000ダルトン、
af)約600〜約6,000ダルトン、
ag)約600〜約5,000ダルトン、
ah)約600〜約4,000ダルトン、
ai)約600〜約2,000ダルトン、
aj)約600〜約1,000ダルトン、
ak)約600〜約800ダルトン、
al)約800〜約20,000ダルトン、
am)約800〜約15,000ダルトン、
an)約800〜約10,000ダルトン、
ao)約800〜約8,000ダルトン、
ap)約800〜約6,000ダルトン、
aq)約800〜約5,000ダルトン、
ar)約800〜約4,000ダルトン、
as)約800〜約2,000ダルトン、
at)約800〜約1,000ダルトン、
au)約1,000〜約20,000ダルトン、
av)約1,000〜約15,000ダルトン、
aw)約1,000〜約10,000ダルトン、
ax)約1,000〜約8,000ダルトン、
ay)約1,000〜約6,000ダルトン、
az)約1,000〜約5,000ダルトン、
ba)約1,000〜約4,000ダルトン、
bb)約1,000〜約2,000ダルトン、
bc)約4,000〜約20,000ダルトン、
bd)約4,000〜約15,000ダルトン、
be)約4,000〜約10,000ダルトン、
bf)約4,000〜約8,000ダルトン、
bg)約4,000〜約6,000ダルトン、
bh)約4,000〜約5,000ダルトン、
bi)約6,000〜約20,000ダルトン、
bj)約6,000〜約15,000ダルトン、
bk)約6,000〜約10,000ダルトン、
bl)約6,000〜約8,000ダルトン、
bm)約20,000ダルトン、
bn)約15,000ダルトン、
bo)約10,000ダルトン、
bp)約8,000ダルトン、
bq)約6,000ダルトン、
br)約5,000ダルトン、
bs)約4,000ダルトン、
bt)約2,000ダルトン、
bu)約1,000ダルトン、
bv)約800ダルトン、
bw)約600ダルトン、
bx)約500ダルトン、
by)約400ダルトン、
bz)約300ダルトン、
ca)約200ダルトン、および
cb)約100ダルトン
からなる群から選択される平均分子量のPEGと接触させられる、請求項1〜4、6、または8〜16のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図3】
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【図9】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2012−519700(P2012−519700A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553110(P2011−553110)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際出願番号】PCT/US2010/026219
【国際公開番号】WO2010/102114
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(592221528)バイオジェン・アイデック・エムエイ・インコーポレイテッド (224)
【Fターム(参考)】