説明

免疫原性が低いリシン欠損バクテリオファージ

【課題】リシンタンパク質が欠損している治療用バクテリオファージ(「Lys欠損」ファージ)の提供。
【解決手段】ファージのリシンの酵素活性が細菌細胞壁の多糖層の酵素的分解に必要とされるため、Lys欠損バクテリオファージは細菌宿主の効率的な溶菌を促進することができない。Lys欠損バクテリオファージは、その適切な細菌宿主に感染する活性、細菌ゲノムを破壊する活性、および複製する活性を保持し、これらは細菌の増殖および複製を阻害するのに十分である。したがって、治療用Lys欠損ファージは、細菌を溶菌せずに病原菌による感染の伝播を阻止する。この方法は、ファージ子孫の放出も妨ぎ、それによりファージに対する免疫応答が起こるおそれが減少するためまたは取り除かれるため、魅力的である。無力化された病原菌は、次に、食細胞およびマクロファージ等の通常の防御系によって除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、バクテリオファージ、特に免疫原性が低いバクテリオファージ、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
バクテリオファージは、細菌に感染する非常に特異的なウイルスである。大腸菌のような細菌がT4等の溶菌性ファージに感染した後、高分子合成すべての顕著な再編成が起こる。宿主細菌のRNAポリメラーゼ(RNAP)が前初期(IE)遺伝子として知られるファージゲノムの開始部位に結合し、それらを転写する。いくつかのIE遺伝子産物が修飾塩基ヒドロキシルメチルシトシン(HMC)を欠く宿主(細菌)DNAを分解すると同時に、別の産物ADPリボースが細菌のRNAPのαサブユニットに結合し、細菌細胞のプロモーターを認識できないようにする。これにより、宿主遺伝子の転写が停止される。これらの現象は、感染後の最初の3〜5分以内に起こる。
【0003】
次の段階では、改変されたRNAPがいわゆる後初期(DE)遺伝子を認識してこれに結合し、そのためファージのIE遺伝子のさらなる発現が起こらなくなる。DE遺伝子産物は、分解した細菌DNA塩基を使用したファージゲノムの複製に関与する。DE遺伝子産物の1つは、宿主RNAPに次に転写されるべき後期(L)遺伝子のみを認識させる新規σ因子である。後期遺伝子は、キャプシドタンパク質、尾部、および尾繊維、ならびにそのすべてが子孫のファージ粒子を構築するために必要とされる組み立てタンパク質の合成に関与する。最終的に、ファージのリゾチーム遺伝子が活性化され、細菌宿主細胞が溶菌されて子孫ファージが放出される。
【0004】
その非常に特異的な溶菌効果の点から、感染性病原体に作用するバクテリオファージは、発見時から今日までその治療的可能性について研究されてきた。1915〜17年の発見(d’Herelle. Crit. Rev. Acad. Sci. Paris, 165, 373 (1917)(非特許文献1))から間もなく、欧米では、細菌感染の治療にバクテリオファージが頻繁に用いられた。細菌感染の治療用のバクテリオファージ調製品(例えば、米国特許第6,121,036号(特許文献1)を参照のこと)および虫歯の抑制におけるバクテリオファージ調製品(米国特許第4,957,686号(特許文献2))が記載されている。当初は大きな成功を収めたものの、品質管理の欠如、調節方法、および細菌宿主に対するファージの高い特異性の不十分な理解のために、ファージ療法は賛否両論である。40年代の抗生物質の出現後、ファージ療法は西洋社会で放棄された。しかし、近年の抗生物質耐性の出現を受けて、感染を治療するためのファージ療法の開発に新たな関心が持たれている(Sulakvelidzeら、Antimicrob Agents Chemotherap, 45, 649, (2001)(非特許文献2))。
【0005】
ファージ療法の有効性が広く認められはしたものの、ファージが容認される治療薬となる前には取り組む必要のあるいくつかの問題が存在する。治療用ファージ調製品からの宿主細菌および細菌残屑の除去等の、初期の研究者らが直面した多くの問題は、過去20〜30年間に開発された現代的方法論によって克復することが可能である。しかし、ファージ療法が一般に適用できるようになるには、脾臓、肝臓、および細網内皮系による迅速な排除、治療中にヒト宿主内で抗体が発生する可能性のようなファージの基本的特性に新しい解決策が必要である。第一の問題、すなわち迅速な排除に取り組むための1つの方法は、Merrillら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 3188 (1996)(非特許文献3);また米国特許第5,688,501号(特許文献3)も参照のこと)によって記載されているが、これは動物内での連続的継代による野生型ファージの長期循環変種の選択を含むものであった。
【0006】
ヒトおよび動物にファージを投与した後の中和抗体の産生は、ファージ療法の開発、特に慢性感染症に対するファージ療法の開発を妨げる主要な問題の一つである。中和抗体は、ヒトまたは動物にファージを投与してから2、3週間後に現れることが報告されている(Slopekら、Arch. Immunol. Ther. Exp., 35, 553 (1987)(非特許文献4))。可能な解決策として、高用量のファージを投与することが提案されたが(Carlton, R.M., Arch. Immunol. Ther. Exp., 47, 267 (1999)(非特許文献5))、しかしこれは最も魅力的な別法とは言えない。例えば、高投与法では、投与すべき各用量のためにはるかに多数のファージの産生が必要となる。
【0007】
治療に使用される可能性のあるファージの今日までの多くの研究は、他の細菌宿主に侵入しそれらを破壊し得る子孫ファージを放出する溶菌の終点に焦点を合わせてきた。細菌宿主の溶菌によって提供されるこの増幅により、さらなるファージの産生および感染細菌の死滅が促進されるため、この増幅はファージ療法の魅力的な特徴である。しかし、溶菌を介したファージの増幅および放出によって、対象が大量のバクテリオファージに処理されることにもなる。このことは、宿主がファージに対する免疫応答を起こす危険性をもたらし、この免疫応答は望ましくないか、ファージの排除を促進するか、またはその両方の可能性がある。
【0008】
この10年間、バクテリオファージによる宿主溶菌に必須である重要な成分が調べられた。現在では、2つのタンパク質、エンドリシンおよびホリンが、宿主溶菌が起こるために必要であることが認められている。エンドリシンはサイトゾルに蓄積する壁溶解(muralytic)酵素であり、ホリンは細胞膜を通したエンドリシンの細胞壁への接近を制御する小さな膜タンパク質である(Wangら、Ann. Rev. Microbiol. 54, 799-825 (2000)(非特許文献6))。バクテリオファージλの溶菌遺伝子領域は、多コピープラスミドであるpBH20内のlacオペレーターの転写制御下にクローニングされ、この「溶菌オペロン」の誘導によりバクテリオファージ感染細胞の場合に匹敵して溶菌作用が生じた(Garrett, J.ら、Mol. Gen. Genet. 182, 326 (1981)(非特許文献7))。肺炎連鎖球菌バクテリオファージCp-1の、それぞれホリンおよびリシンをコードする2つの溶菌遺伝子cph1およびcpl1がクローニングされ、大腸菌内で発現された(Martinら、J. Bacteriol. 180, 210 (1998)(非特許文献8))。Cph1ホリンを発現させると、細菌細胞は死滅するが溶菌はしない。大腸菌内でファージCp-1のホリンおよびリシンを同時に発現させると、細胞の溶解が起こった。さらに、cph1遺伝子は、非抑制の大腸菌HB101株内でλのSam変異(ホリン遺伝子にアンバー変異を保有する)を補足し、ファージ子孫を放出することができた。λファージ溶菌遺伝子SおよびRの発現制御により、コレラ菌およびネズミチフス菌の劇的な溶菌が起こる(Jainら、Infect Immun, 68, 986 (2000)(非特許文献9))。
【0009】
この分野において、免疫原性が低く、そのため宿主において排除が少ない治療用バクテリオファージを作製するための方法および組成物の必要性が存在する。本発明は、この必要性に取組むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,121,036号
【特許文献2】米国特許第4,957,686号
【特許文献3】米国特許第5,688,501号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】d’Herelle. Crit. Rev. Acad. Sci. Paris, 165, 373 (1917)
【非特許文献2】Sulakvelidzeら、Antimicrob Agents Chemotherap, 45, 649, (2001)
【非特許文献3】Merrillら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 3188 (1996)
【非特許文献4】Slopekら、Arch. Immunol. Ther. Exp., 35, 553 (1987)
【非特許文献5】Carlton, R.M., Arch. Immunol. Ther. Exp., 47, 267 (1999)
【非特許文献6】Wangら、Ann. Rev. Microbiol. 54, 799-825 (2000)
【非特許文献7】Garrett, J.ら、Mol. Gen. Genet. 182, 326 (1981)
【非特許文献8】Martinら、J. Bacteriol. 180, 210 (1998)
【非特許文献9】Jainら、Infect Immun, 68, 986 (2000)
【発明の概要】
【0012】
本発明は、リシンタンパク質が欠損している治療用バクテリオファージ(「Lys欠損」ファージ)を扱う。ファージのリシンの酵素活性が細菌細胞壁の多糖層の酵素的分解に必要とされるため、Lys欠損バクテリオファージは細菌宿主の効率的な溶菌を促進することができない。Lys欠損バクテリオファージは、その適切な細菌宿主に感染する活性、細菌ゲノムを破壊する活性、および複製する活性を保持し、これらは細菌の増殖および複製を阻害するのに十分である。したがって、治療用Lys欠損ファージは、細菌を溶菌せずに病原菌による感染の伝播を阻止する。この方法は、ファージ子孫の放出も妨ぎ、それによりファージに対する免疫応答が起こるおそれが減少するためまたは取り除かれるため、魅力的である。無力化された病原菌は、次に、食細胞およびマクロファージ等の通常の防御系によって除去される。
【0013】
1つの局面において、本発明は、感染した対象内に存在する感染細菌に特異的なLys欠損バクテリオファージを対象に投与する段階を含み、バクテリオファージは感染細菌の複製を阻害するのにおよび細菌負荷の減少を促進するのに効果的な量で投与される、感染した対象の細菌感染を治療する方法を扱う。特定の態様において、感染細菌は薬剤耐性菌である。別の特定の態様において、細菌感染は全身性である。さらなる特異的な態様においては、感染細菌は、マイコバクテリア属、スタフィロコッカス属、ビブリオ属、エンテロバクター属、エンテロコッカス属、エシェリキア属、ヘモフィルス属、ナイセリア属、シュードモナス属、シゲラ属、セラチア属、サルモネラ属、ストレプトコッカス属、クレブシエラ属、およびエルシニア属からなる群より選択される属のものであり、バクテリオファージによって増殖が阻害される。
【0014】
別の局面において、本発明は、感染した対象内に存在する感染細菌に特異的なLys欠損バクテリオファージを対象に投与する段階を含み、バクテリオファージは感染細菌の増殖を阻害するのに効果的な量で投与される、感染した対象において細菌の増殖を阻害する方法を扱う。特定の態様において、感染細菌は薬剤耐性菌である。別の特定の態様において、細菌感染は全身性である。さらなる特異的な態様においては、感染細菌は、マイコバクテリア属、スタフィロコッカス属、ビブリオ属、エンテロバクター属、エンテロコッカス属、エシェリキア属、ヘモフィルス属、ナイセリア属、シュードモナス属、シゲラ属、セラチア属、サルモネラ属、ストレプトコッカス属、クレブシエラ属、およびエルシニア属からなる群より選択される属のものであり、バクテリオファージによって増殖が阻害される。さらなる関連態様において、感染には少なくとも2つの異なる細菌宿主が関与し、混合感染を治療するために、異なる宿主細菌に特異的である少なくとも2つの異なるLys欠損バクテリオファージが投与される。感染細菌の溶菌に欠陥のあるLys欠損バクテリオファージは、感染細胞の顕著な溶菌を引き起こさず、そのため対象による免疫応答に曝露されるバクテリオファージ数が減少することになり、したがって野生型バクテリオファージの場合と比較してバクテリオファージの排除の減少が提供される。
【0015】
別の局面において、本発明は、単離されたLys欠損バクテリオファージおよび薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を扱うが、細菌宿主細胞と接触させた場合、Lys欠損バクテリオファージによって細菌宿主細胞の増殖の阻害が生じ、また機能的なリシンの産生を欠損しているためにバクテリオファージによって細菌宿主細胞の実質的なレベルの溶菌が起こらない。特定の態様において、バクテリオファージは凍結乾燥形態である。関連態様において、薬学的組成物は既知組成のLys欠損バクテリオファージの混合物を含み、組成物中の少なくとも2つのファージが異なる細菌宿主特異性を有し、異なる細菌の混合感染を治療するためにファージ混合液が適合化される。
【0016】
別の態様において、本発明は、対象の免疫系によるバクテリオファージの排除の減少を提供できるように、治療用バクテリオファージを用いて対象の細菌感染を治療する方法を扱う。これは、対象内に存在する感染細菌に特異的なLys欠損バクテリオファージを細菌感染を有する対象に投与することによって達成されるが、バクテリオファージは、Lys欠損バクテリオファージによる感染細菌の感染を提供するのに、および感染細菌の複製を阻害するのに効果的な量で投与される。感染細菌の溶菌に欠陥のあるLys欠損バクテリオファージは、感染する細胞の顕著な溶菌を引き起こさず、そのため対象による免疫応答に曝露されるバクテリオファージ数が減少することになり、したがって野生型バクテリオファーの場合と比較してバクテリオファージの排除の減少が提供される。
【0017】
さらに別の態様において、本発明は、機能的なリシンタンパク質の産生に欠陥のある単離されたLys欠損バクテリオファージを扱う。バクテリオファージをそれが特異的とする細菌宿主細胞と接触させることにより、Lys欠損バクテリオファージによる細菌宿主細胞の感染、Lys欠損バクテリオファージの複製、および細菌宿主細胞の複製の阻害が生じ、Lys欠損バクテリオファージによってバクテリオファージ溶菌系の作用による細菌宿主細胞の溶菌は起こらない。
【0018】
別の局面において、本発明は、Lys欠損バクテリオファージおよび薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を扱う。Lys欠損バクテリオファージをそれが特異的とする細菌宿主細胞と接触させることにより、細菌宿主細胞の増殖の阻害が起こる。バクテリオファージは、凍結乾燥形態で組成物中に存在してもよい。関連態様において、薬学的組成物は、既知組成のLys欠損バクテリオファージの混合物を含み、この組成物は異なる細菌宿主特異性を有する少なくとも2つのバクテリオファージを含み、混合物は異なる細菌の混合感染を治療するために特に適している。
【0019】
本発明の1つの特徴は、細菌感染を治療するためにファージが用いられる場合、ファージに対する免疫応答の発生を排除するかまたは最小限に抑える一般的な手順を提供する点である。
【0020】
本発明の別の特徴は、細菌感染、特に薬剤耐性菌、病原菌による感染を治療するための方法および組成物を提供する点である。
【0021】
本発明の1つの利点は、Lys欠損バクテリオファージの使用により、治療される対象の望ましくない免疫応答が回避されると同時に、バクテリオファージの排除が減少しさらに効果的な治療法となる点である。Lys欠損バクテリオファージによる病原体の感染によって、最終段階、すなわち細菌宿主の溶菌以外のファージの複製サイクルのすべての現象が進行する。Lys欠損バクテリオファージに感染した病原菌は、ファージが細菌ゲノムに及ぼす損傷のために、増殖することも細菌感染を伝播することもできない。したがって、Lys欠損バクテリオファージを使用することで、感染の治療中に、環境またはヒト宿主へのファージの放出が減少することにより、病原体を含むが最終的に排除される。
【0022】
本発明の別の利点は、ファージに感染した細菌が、一度治療を停止しても細菌の複製の回復が提供されない様式で、静菌状態になる点である。
【0023】
本発明の別の利点は、ファージに感染した細菌が、インサイチューのワクチンとしての機能を果たし、無力化病原菌に対する免疫応答が病原体による今後の感染に対する患者の防御に役立ち得る点である。
【0024】
本発明のこれらおよび他の目的、利点、および特徴は、以下により十分に説明する本発明の組成物の詳細およびその使用方法を読むことにより、当業者に明らかになると考えられる。
【0025】
本発明を説明する前に、本発明は、記載した特定の方法論、手順、バクテリオファージ、病原菌、動物種または属、構築物、および試薬に制限されず、当然のことながらそれ自体変わり得ることが理解されねばならない。また、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書で使用する専門用語は特定の態様を説明するためのみに用いられ、制限する意図はないことも理解されねばならない。
【0026】
値の範囲が提供される場合、特記されない限り下限の単位の10分の1まで、その範囲の上限値と下限値の間の各仲介値もまた具体的に開示されることが理解される。規定範囲中の任意の規定値または仲介値とその規定範囲中の他の規定値または仲介値との間のより小さな範囲も、本発明内に包含される。これらの小さな範囲の上限値および下限値は、独立的にその範囲に含まれても範囲から除外されてもよく、その小さな範囲内にどちらか一方の限界値が含まれる、どちらも含まれない、または両方とも含まれるそれぞれの範囲もまた、(具体的に除外される任意の限定値が規定範囲内にある限り、)本発明内に包含される。規定範囲が限界値の一方または両方を含む場合、それら含まれた限界値のどちらか一方または両方を除外する範囲もまた、本発明に含まれる。
【0027】
特記されない限り、本明細書で使用する専門用語および科学用語はすべて、本発明が属する当技術分野の当業者によって共通に理解されるものと同じ意味をもつ。本発明の実施または試験において、本明細書に記載したものと類似したまたは同等の任意の方法および材料が使用できるが、本明細書に記載した方法および材料が好ましい。本明細書で言及したすべての文献は、その文献の引用に関連する方法および/または材料を開示および説明するために、参照として本明細書に組み入れられる。
【0028】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する単数形「1つの」、「ある」、および「その」とは、特記する場合を除き、その対象物の複数形も含むことに留意されたい。したがって、例えば「1つのバクテリオファージ」についての言及は複数のそのようなバクテリオファージを含み、「その宿主細胞」についての言及は1つまたは複数の宿主細胞および当業者に周知のその同等物を含み、以下同様である。
【0029】
本明細書で考察する文献は、単に本出願の出願日以前にそれらが開示されているというだけの理由で提供されたものである。本明細書に記載されたいかなるものも、本発明が先行発明のせいでそのような文献を先行できないことを認めると解釈されるべきではない。さらに、提供する文献の日付は実際の発行年と異なる可能性があり、独立して確認する必要があるかもしれない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の治療用ファージの作製において使用するための、変異型リシン遺伝子を含むプラスミドを有する細菌宿主の使用を示す略図である。
【図2】プラスミドpGMB011およびpGMB021によって産生される遺伝子産物のSDS-PAGEを示す(レーン1:pGMB011、非誘導;レーン2:pGMB011、誘導;レーン3:pGMB021、非誘導;レーン4:pGMB021、誘導;レーン5:14〜97 KDaマーカー)。
【図3】組換え実験に用いられるpGMB021構築物のPCRの結果を示す写真である(レーン1:GMB1/GMB2プライマー;レーン2:GMB2/GMB5プライマー;レーン3:マーカー;レーン4;GMB5/GMB6プライマー)。
【図4】濁りプラークのGFP遺伝子産物についてのPCRの結果を示す写真である(レーン1〜5、7、8、17、および18:GFP遺伝子産物について陽性のプール;レーン6、11〜16:GFP遺伝子産物について陰性のプール;レーン9、19:陽性対照;レーン10、20;MWマーカー)。
【図5】濁りプラークのリシン-GFP-リシン遺伝子産物についてのPCRの結果を示す写真である(レーン1〜6:濁りプラーク#1, 2, 3, 4, 7, 8;レーン7:リシン-GFP-リシン産物についての陽性対照(プラスミドDNA);レーン8:MWマーカー;レーン9;リシン産物についての陽性対照(プラスミドDNA);レーン10:陰性対照)。
【図6】野生型ファージの様々な混入レベルまたは野生型プラークの完全な非存在を示す、大腸菌の菌層上にスポットされた組換えファージ溶菌液を表す(スポット#1:計数可能な野生型プラークを示す溶菌液#11;スポット#2:完全に細胞を溶菌した多数の野生型プラークを示す溶菌液;スポット#3:野生型プラークを全く示さない溶菌液)。
【図7】プラークの非存在を示す、大腸菌の菌層上にスポットされた組換えファージを含む溶菌液を表す。
【図8】感染した大腸菌細胞の生存度の減少をもたらす、組換えファージ(RP)を含む溶菌液を示す(第1象限:約50%の生存度の減少が見られるRP溶菌液#33;第2および第4象限:生存度が完全に消失したRP溶菌液#34および#36;第3象限:顕著な生存度の減少が見られないRP溶菌液#35)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
抗生物質抵抗性を治療するためのファージ療法の可能性は一般的に認められているが、1920年代および1930年代のファージの使用を取り囲む論争、および治療用ファージに対する免疫応答の可能性に関する問題により、ファージ療法の開発は遅れた。現代的な技術による明確に定義され十分に特徴づけられたファージの産生、および品質管理の現在の基準により、かつてファージ療法について論争をよんだ問題は対処された。しかし、免疫応答の発生の可能性はバクテリオファージの基本的な特性であり、免疫応答の防止またはこの可能性の減少は、ファージ療法の効果的適用に重要である。細菌感染の治療における治療用ファージの使用は、ある面では、対象に感染した細菌に感染する時のバクテリオファージと、バクテリオファージを異物として認識し体内からバクテリオファージを除去する時の免疫応答との競争である。本発明の目的は、ファージが細菌感染の治療に用いられた場合、ファージに対する免疫応答の発生を遅延させる、最小限に抑える、または排除する(回避する)手順を提供する。
【0032】
本発明は、細菌に感染し細菌の増殖を阻害することができるが、感染した細菌の溶菌をもたらすことができないLys欠損(Lys-)ファージを提供することにより、この目的を達成する。本発明のバクテリオファージは、実質的に、細菌宿主の溶菌を起こさずに細菌の複製を阻害する抗菌薬として働く。治療を受ける対象に曝露するバクテリオファージ数を減少させることにより、治療用バクテリオファージに対する宿主の免疫応答は弱くなり、よって治療用ファージの排除速度が減少する。
【0033】
抗生物質は、細菌を死滅させることにより(殺菌性)または細菌の増殖を阻害することにより(静菌性)、その作用を発揮する。殺菌薬が好ましいが、弱められた細菌が次に宿主の正常な防御により破壊され得るため、静菌剤もまた有益である。本発明で提案する遺伝子改変したバクテリオファージによる病原菌の特異的侵入により病原体が無力化され、次にその病原体は宿主の正常な防御機構によって排除されることになる。治療の中止により感染が再開し得る静菌性抗菌薬とは対照的に、ファージによって不活化した細菌は非生存のままであり、感染を再開することは不可能である。
【0034】
本発明のLys欠損ファージを用いて、任意の特定の細菌宿主を不活化することが可能であり、よって、Lys欠損ファージは任意の細菌感染を治療するのための治療薬として開発され得る。したがって、本発明はすべてのバクテリオファージに適用される。
【0035】
本発明の具体的な局面を、以下により詳細に説明する。
【0036】
定義
「バクテリオファージ」および「ファージ」という用語は本明細書で互換的に用いられるが、細菌に対する特異的親和性を有し細菌に感染する任意の様々なウイルスを意味する。したがってこれらには、大腸菌に感染する大腸菌ファージ(例えば、λファージ、ならびにT偶数ファージ、T2、T4、およびT6)が含まれる。ファージは一般に、感染時に細菌内に注入される遺伝物質DNAまたはRNAを封入するタンパク質外被またはキャプシドからなる。病原性ファージの場合には、宿主DNA、RNA、およびタンパク質の全合成が停止し、ファージゲノムを用いて、宿主の転写および翻訳機構を用いたファージの核酸およびタンパク質の合成が導かれる。次にこれらのファージ成分が自己集合し、新しいファージ粒子を形成する。ファージリゾチームの合成により細菌細胞壁の破壊が起こり、典型的に100〜200個のファージ子孫が放出される。λ等の溶原性ファージもまた、細胞感染時にこの溶菌化サイクルを示すが、より頻繁に、ファージが細菌宿主DNAに組み込まれプロファージとして存続する溶原性を誘導する。一般に、本発明の関心対象のバクテリオファージは、溶原性ファージではなく溶菌性ファージである。
【0037】
「Lys欠損ファージ」または「Lys欠損バクテリオファージ」という用語は本明細書で互換的に用いられるが、リシンタンパク質を欠損しているファージを意味する。ファージのリシンの酵素活性が細菌細胞壁の多糖層の酵素的分解に必要とされるため、Lys欠損バクテリオファージは細菌宿主の効率的な溶菌を促進することができない。Lys欠損バクテリオファージは、その適切な宿主に感染する活性、細菌ゲノムを破壊する活性、および複製する活性を保持し、これらは細菌の増殖および複製を阻害するのに十分である。Lys欠損ファージには、ファージ溶菌系のリシンをコードする遺伝子を変異または欠失させることにより生じるファージが含まれる。Lys欠損ファージは、リシンをコードする核酸のすべてまたは一部が欠失したために検出可能なリシンが産生されないか、または溶菌を促進する活性が減少した切断型リシンを産生する(例えば、切断型リシンは、細菌宿主の効率的溶菌を促進する効果がない、または野生型リシンが媒介する検出可能な溶菌活性を全く促進しない)ことに起因する、リシンに欠陥のあるファージを包含する。Lys欠損ファージには、リシンをコードする核酸が誘導可能なプロモーターに機能的に結合されており、誘導可能なプロモーターを活性化する薬剤が存在する時のみ、溶菌を誘導するのに有効なレベルでリシンの産生が起こるファージも含まれる。好ましくは、誘導薬剤はファージを用いて処理される宿主内に通常見出されない薬剤であり、例えば、誘導物質は処理される宿主にとって内因性の薬剤ではない。
【0038】
Lys欠損ファージには、1つまたは複数の変異が存在するために、細菌溶菌の促進に欠陥のある改変されたリシンタンパク質を産生するファージもまた含まれる。そのような変異には、コードされるリシンタンパク質の対応するアミノ酸配列に変化を起こす、少なくとも1つ、または1つまたは複数の任意の組み合わせの核酸の欠失、置換、付加、または挿入が含まれる。
【0039】
「単離された」とは、物質が、天然に付随するタンパク質および天然有機分子を少なくとも60 %(重量パーセント)含まないことを意味する。好ましくは、物質は、少なくとも75%(重量パーセント)、より好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも99%が関心対象の物質である。したがって、「単離された」とは所望の物質が濃縮されている調製品を包含する。
【0040】
本明細書で互換的に用いられる「ポリヌクレオチド」および「核酸」という用語は、リボヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドのいずれかである、任意の長さの重合型ヌクレオチドを意味する。したがって、これらの用語には、一本鎖、二本鎖、または多重鎖のDNAもしくはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、またはプリンおよびピリミジン塩基、またはその他の天然の、化学的または生化学的に修飾された、非天然の、もしくは誘導体化されたヌクレオチド塩基を含む重合体が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0041】
本明細書で互換的に用いられる「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、任意の長さの重合型のアミノ酸を意味し、これにはコードされるおよびコードされないアミノ酸、化学的または生化学的に修飾された(例えば、グリコシル化等の翻訳後修飾)または誘導体化されたアミノ酸、重合体ポリペプチド、ならびに修飾ペプチド骨格を有するポリペプチドが含まれる。この用語には、異種アミノ酸配列を伴う融合タンパク質、N末端メチオニン残基を含むかまたは含まない異種および同種リーダー配列を伴う融合体、免疫学的にタグを付加したタンパク質等を含むがこれらに限定されない融合タンパク質が含まれる。
【0042】
本明細書で用いる「組換えポリヌクレオチド」とは、その起源または操作によって:(1)それが天然状態で付随するポリヌクレオチドのすべてまたは一部と付随していない、(2)それが天然状態で結合しているポリヌクレオチド以外のポリヌクレオチドに結合している、または(3)天然で生じないゲノム、cDNA、半合成、または合成起源のポリヌクレオチドを意味する。
【0043】
「組換え宿主細胞」、「宿主細胞」、「細胞」、「細胞株」、「細胞培養物」、または単細胞の実体として培養される微生物または高等真核細胞を表す別のそのような用語は、組換えベクターまたは他の伝達DNAの受容者として用いられ得るかまたは用いられた細胞を意味し、形質移入された元の細胞の子孫もこれに含まれる。単一の親細胞の子孫は、自然の、偶発的な、または計画的な変異により、形態またはゲノムDNAもしくは全DNA補完物が元の親と完全に同一でない可能性があることを理解されたい。
【0044】
「機能的に結合された」とは、記載される成分が目的とする方法で機能することを可能にする関係にある並列を意味する。コード配列に「機能的に結合された」制御配列は、コード配列の発現が制御配列と適合する条件下で達成される方法で連結される。
【0045】
「オープンリーディングフレーム(ORF)」とは、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の領域のことである;この領域は、コード配列の一部または全コード配列を表す場合がある。
【0046】
「コード配列」とは、適切な制御配列の下流に配置された場合に、mRNAに転写される、および/またはポリペプチドに翻訳されるポリヌクレオチド配列のことである。コード配列の境界は、5'末端の翻訳開始コドンおよび3'末端の終止コドンによって決まる。コード配列には、mRNA、cDNA、および組換えポリヌクレオチド配列が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0047】
「異種の」とは、物質が別の供給源由来(例えば、別の遺伝子、別の種等に由来する)であることを意味する。
【0048】
本明細書で用いる「形質転換」 とは、例えば、直接的取り込み、形質導入、f接合、またはエレクトロポレーション等の挿入のために用いられる方法とは関係なく、外因性ポリヌクレオチドの宿主細胞への挿入を意味する。外因性ポリヌクレオチドは、例えばプラスミド等の未挿入ベクターとして維持されるか、または宿主ゲノムに挿入される場合がある。
【0049】
「個人」、「対象」、「宿主」、および「患者」という用語 は本明細書で互換的に用いられ、本発明の治療用バクテリオファージを用いた治療の影響を受けやすい細菌感染を有し、かつ治療または療法が望まれる任意の対象を意味する。哺乳動物対象および患者、特にヒト対象または患者に特に関心が持たれる。他の対象には、ウシ、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ等が含まれ得る。
【0050】
「治療」、「治療すること」、「治療する」等の用語は、本明細書では一般に、望ましい薬理的および/または生理的効果を得ることを意味する。この効果は、疾患またはその症状を完全にまたは部分的に防ぐという点で予防的であってもよく、および/または疾患および/またはその疾患に起因し得る副作用を部分的または完全に安定化または治療するという点で治療的であってもよい(例えば、感染を排除すること、感染の重症度を軽減すること、細菌添加量を減らすこと、細菌増殖を阻害すること)。本明細書で用いる「治療」には、対象、詳細には哺乳動物対象、より詳細にはヒトにおける疾患のあらゆる治療が含まれ、これには(a) 疾患または症状に対する素因はあるがまだそれを有するとは診断されていない対象において、疾患または症状の発生を予防すること;(b)疾患の症状を抑制すること、すなわちその進行を停止させること;または疾患の症状を緩和すること、すなわち疾患または症状を緩解させること、が含まれる。
【0051】
「感染細菌」とは、宿主内で感染を確立し、その結果として疾患または望ましくない症状を伴う可能性がある細菌を意味する。一般に、感染細菌は病原菌である。
【0052】
「薬剤耐性菌」または「抗生物質耐性菌」 とは、抗生物質による増殖阻害または死滅に対して耐性である細菌株を意味する。多剤耐性菌は、2つまたはそれ以上の抗生物質に対して耐性である。薬剤耐性は、例えば、感染細菌の死滅の効果がなく、そのため少なくとも感染用量が対象内に残存して感染が持続し、感染症に関連する症状が持続するかまたは後にそのような症状の徴候が起こることを包含し得る。薬剤耐性はまた、薬剤耐性菌の増殖を阻害してからその時点で治療を中断し、その後細菌が複製を開始しさらに感染症が始まることを包含する。
【0053】
Lys欠損バクテリオファージによる細菌細胞の感染という文脈中の「細菌増殖の阻害」とは、細菌の感染後に、バクテリオファージが細菌宿主細胞の正常な転写および/または翻訳機構を阻害するかまたは妨げ、それによって感染した細菌が実質的な細胞分裂(複製)を行わず、よって静菌状態に入ることを意味する。
【0054】
Lys欠損バクテリオファージを作製するためのバクテリオファージ
本発明のLys欠損ファージは、任意の野生型バクテリオファージ、好ましくは溶菌性ファージから作製され得る。したがって、本発明の方法および組成物は、任意の種々の細菌に特異的である任意の種々のLys欠損バクテリオファージの開発に応用することができ、そのため幅広い種類の細菌感染の治療に有用である。本発明が動物における任意の細菌感染を治療するために使用され得ることを意図するが、本発明は薬剤耐性菌に起因する感染の治療において特定の用途(補助的または独立型)を見出す。例示的な薬剤耐性であり臨床的に重要な細菌の種および菌株を以下に記載する。対応する臨床的に関連性のある菌株に感染する例示的な野生型バクテリオファージのアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC、メリーランド州マナッサス)アクセッション番号を、それが感染する菌株の後に提供する。そのようなファージは、Lys欠損になるように改変され、本発明に従って治療用バクテリオファージを提供することができる典型的な例である。リストは以下の通りである:
1. 以下を含むがそれらに限定されない、腸内細菌科の臨床的に重要な全メンバー:
a. 大腸菌(ATCCファージ#23723-B2)を特に関心対象とする、エシェリキア属の臨床的に重要な全菌株;
b. 肺炎桿菌(ATCCファージ#23356-B1)を特に関心対象とする、クレブシエラ属の臨床的に重要な全菌株;
c. 志賀赤痢菌(ATCCファージ#11456a-B1)を特に関心対象とする、シゲラ属の臨床的に重要な全菌株;
d. S. アボルタスエクイ(abortus-equi)(ATCCファージ#9842-B1)、チフス菌(ATCCファージ#19937-B1)、ネズミチフス菌(ATCCファージ#19585-B1)、S. ニューポート(newport)(ATCCファージ#27869-B1)、パラチフスA菌(ATCCファージ#12176-B1)、パラチフスB菌(ATCCファージ#19940-B1)、S. ポツダム(potsdam)(ATCCファージ#25957-B2)、S. ポルラム(pollurum)(ATCCファージ#19945-B1)を含む、サルモネラ属の臨床的に重要な全菌株;
e. 最も顕著にはS. マルセッセンス(ATCCファージ#14764-B1)である、セラチア属の臨床的に重要な全菌株;
f. 最も顕著にはペスト菌(ATCCファージ#11953-B1)である、エルシニア属の臨床的に重要な全菌株;
g. 最も顕著にはE. クロアカ(ATCCファージ#23355-B1)である、エンテロバクター属の臨床的に重要な全菌株;
2. 最も顕著にはE. フェカリス(ATCCファージ#19948-B1)およびE. フェシウム(ATCCファージ#19953-B1)である、臨床的に重要な全エンテロコッカス属;
3. 最も顕著にはインフルエンザ菌(例示的なファージは、世界保健機構(WHO)または公的に入手可能とする他の研究所から入手できる)である、ヘモフィルス属の臨床的に重要な全菌株;
4. 最も顕著には結核菌(ATCCファージ#25618-B1)、M. アビウム-イントラセルラー、M. ボビス、およびライ菌(例示的なファージは、国立公衆衛生環境研究所、オランダ、ビルトーベン経由でWHOから市販されている)ある、臨床的に重要な全マイコバクテリア属;
5. 淋病菌(Nisseria gonorrhoeae)および 髄膜炎菌(N. meningitidis)(例示的なファージは、WHOまたは他の供給源から公的に入手可能である);
6. 緑膿菌(ATCCファージ#14203-B1)を特に関心対象とする、臨床的に重要な全シュードモナス属;
7. 黄色ブドウ球菌(ATCCファージ#27690-B1)、表皮ブドウ球菌(例示的なファージは、ロンドンのコリンデール研究所(Colindale Institute)経由でWHOから公的に入手可能である)を特に関心対象とする、臨床的に重要な全スタフィロコッカス属;
8. 肺炎連鎖球菌(例示的なファージは、WHOまたは他の供給源から公的に入手可能である)を特に関心対象とする、臨床的に重要な全ストレプトコッカス属;および
9. コレラ菌(ATCCファージ#14100-B1)。
【0055】
さらなる病原菌は枚挙にいとまがないが、特に、薬剤耐性が既に生じ、また本発明による治療法の影響を受けやすい病原菌である。要するに、現在入手可能であるかまたは同定され得る対応するファージが存在する細菌に起因するすべての細菌感染が、本発明を用いて、対応するファージをLys欠損にし、細菌にLys欠損ファージを接触させることにより、治療され得る。
【0056】
新規なファージもまた、本発明において使用できる。そのような新規ファージは、標準の手順により、病院汚水および他の源から継続して単離される。典型的には、汚水試料9 mlを10 X LBブロス1 mlと混合し、標的細菌菌株をLBブロスで一晩振盪培養した培養液0.1 mlを添加し、37℃で一晩インキュベートする。クロロホルム(0.1 ml)を添加し、300 rpmで振盪しながら37℃で15分間インキュベートする。次にこれを4℃、14,000 rpmで20分間遠心分離し、上清を無菌のエッペンドルフチューブに保存する。必要に応じて、これらの粗製ファージ調製品をさらに精製および特徴づけを行う。
【0057】
ファージリシン
多くの種類のバクテリオファージによる宿主細菌細胞の溶菌は、少なくとも2つの異なるタンパク質セットに依存している(Youngら、Microbiol. Rev. 56, 430 (1992))。細菌細胞壁の分解は、リシンによって達成される。最もよく研究された例は、T4のe遺伝子産物であるリゾチーム(Tsugitaら、J. Biol. Chem. 243, 391 (1968))およびλのRタンパク質であるトランスグリコシラーゼ(Garrettら、Mol. Gen. Genet. 182, 326 (1981))である。多くのバクテリオファージのリシン遺伝子は、この10年に同定され特徴づけられた。これらには、バクテリオファージT7のリシン(Inouyeら、Biol. Chem. 248, 7247 (1973))、ネズミチフス菌ファージP22由来のgp 19(Rennellら、Virol. 143, 280 (1985))、グラム陽性菌ラクトコッカス・ラクチスおよび枯草菌の2つのファージ由来のphi 29 gp 15(Garveyら、Nucleic Acids Res. 14, 10001 (1986))、肺炎球菌バクテリオファージCp-1(Garcia ら、J. Virol. 61, 2573 (1987))、シュードモナスファージf6(Caldenteyら、Biochim. Biophys. Acta 1159, 44 (1992))、バクテリオファージP2のK遺伝子(Ziermannら、J. Bacteriol. 176, 4974 (1994))、バクテリオファージP1の遺伝子17(Schmidtら、Bacteriol. 178, 1099 (1996))、リステリア菌バクテリオファージリシンPly 511およびPly 518(Gaengら、Appl. Environ. Microbiol. 66, 2951 (2000))、および乳酸桿菌属に感染する多数のファージ(Shearmanら、Appl. Environ. Microbiol. 60, 3063 (1994); Henrichら、J. Bacteriol. 177, 723 (1995))が含まれる。
【0058】
文献で報告されているさらなるファージリシンを以下に提供する。
【0059】





【0060】
関心対象のバクテリオファージのリシン遺伝子が未だ同定されていない場合、そのような同定は当技術分野における日常的な方法を用いて達成され得る。バクテリオファージのリシン遺伝子は、例えば、バクテリオファージのゲノムを配列決定し、その配列をリシン遺伝子がすでに記載されているバクテリオファージのものと比較することに基づく方法より同定され得る。今日までに記載されているリシンのアミノ酸配列の比較から、3つの保存領域が明らかになった(Schmidtら、J. Bacteriol. 178, 1099 (1996))。1つめの保存領域は、EG配列を伴う触媒部位および活性部位クレフトを含む。新規に同定されたバクテリオファージまたはリシン遺伝子がまだ記載されていないバクテリオファージのリシン遺伝子は、既知リシン遺伝子の保存領域のヌクレオチド配列に相当するプライマーを用いて、核酸増幅技法(例えばPC法)により同定および単離され得る。リシン遺伝子の保存部分を用いて、任意の2つまたは3つの保存領域に相同的な縮重オリゴを使用し、任意のファージのリシン遺伝子を単離することができる。このPCR産物の配列が決定されたならば、新しいプライマーを設計し、ファージDNAを配列決定の鋳型として使用し、リシン遺伝子の上流および下流領域の配列を決定することができる。
【0061】
変異体リシン欠損ファージの作製
リシン欠損ファージは、本発明による溶菌欠損ファージの提供に適合している任意の様々な方法によって作製され得る。好ましくはLys欠損ファージは、バクテリオファージのゲノムを改変し、バクテリオファージが野生型リシン(Lys)タンパク質を欠損するようにするか、またはバクテリオファージが誘導性のプロモーターに機能的に結合された機能的なリシンを含むようにすることによって、作製される。または、バクテリオファージはリシンのレベルが低く、したがって溶菌速度が遅く、細菌に感染し細菌宿主の複製を阻害するが溶菌速度が遅いファージをスクリーニングすることにより選択することができ、例えばバクテリオファージは細菌宿主の静菌剤として働くが、ファージのリシン系が欠損していない野生型ファージと関連する速度またはレベルで細菌宿主細胞を溶菌しない。
【0062】
リシンタンパク質が欠損しているバクテリオファージ(「 Lys欠損」ファージ)には、ファージ溶菌系のリシンをコードする遺伝子を変異または欠失させることによって生じるファージが含まれる。「 Lys欠損」ファージは、リシンをコードする核酸のすべてまたは一部が欠失し検出可能なリシンが産生されないか、または溶菌を促進する活性が減少した切断型リシンを産生する(例えば、切断型リシンは、細菌宿主の効率的溶菌を促進する効果がない、または野生型リシンが媒介する検出可能な溶菌活性を全く促進しない)ことに起因する、リシンを欠いたファージを包含する。「 Lys欠損」ファージには、1つまたは複数の変異が存在するために細菌溶菌の促進に欠陥のある、改変されたリシンタンパク質を産生するファージも含まれる。そのような変異には、コードされるリシンタンパク質の相当するアミノ酸配列に変化を起こす、少なくとも1つ、または1つまたは複数の任意の組み合わせの核酸の欠失、置換、付加、または挿入が含まれる。
【0063】
Lys欠損ファージには、リシンをコードする核酸が改変され、誘導可能なプロモーターに機能的に結合され、ファージが誘導可能なプロモーターを活性化する薬剤に接触する場合にのみリシンが産生されるファージも含まれる。そのようなLys欠損ファージは、リシン遺伝子を誘導性プロモーターに機能的に結合されたリシンをコードする核酸と置換することによって、誘導性プロモーターを含むように野生型リシン遺伝子を改変することにより、またはリシンをコードする遺伝子を変異または欠失させ、かつ誘導性プロモーターに機能的に結合されたリシンをコードする核酸をファージに挿入することにより、作製され得る。
【0064】
欠陥のあるリシンを有するバクテリオファージは、プラーク形態アッセイ法等の古典的な微生物学的方法によって作製することもできる(例えば、Streisingerら、Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 26, 25 (1961)を参照のこと)。
【0065】
Lys欠損ファージは、例えばPCR法等の核酸増幅技法(Zhaoら、Methods Enzymol. 217, 218 (1993))を用いて容易に欠失、挿入、および点突然変異を導入するような、部位特異的突然変異誘発(Smith Ann. Rev. Genet. 19, 423 (1985))等の組換え技法によっても作製され得る。欠失突然変異誘発の他の方法には、例えば、5'および3'末端の両側から二本鎖DNA断片を徐々に短縮するBAL 31ヌクレアーゼ、または標的DNAを3'末端から切断するエキソヌクレアーゼIIIの使用が含まれる(例えば、Henikoff Gene 28, 351 (1984)を参照のこと)。どちらの場合も切断の程度は、インキュベーション時間もしくは反応温度またはその両方によって調節される。点突然変異は、デオキシシチジンを脱アミノ化してデオキシウリジンにし、その結果1ラウンドの複製後に鋳型分子の約50%でA:T塩基対のG:C塩基対への置換を生じる、亜硫酸水素ナトリウム等の変異原で処理することにより導入することができる(Botsteinら、Science 229, 1993 (1985))。
【0066】
点突然変異を導入する他の例示的な方法は、ヌクレオチド類似体の酵素的取り込み、またはDNAポリメラーゼによる通常のヌクレオチドまたはα-チオヌクレオチドの誤取り込みを含む(Shortleら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79, 1588 (1982))。オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発(oligonucleotide-directed mutagenesis)では、標的DNAをM13ベクターにクローニングし、オリゴ変異原をアニールさせる一本鎖野生型DNA鋳型を作製する。これによりオリゴプライマーまたは鋳型上に非相補的な(ループアウト)領域が生じ、その結果それぞれ挿入または欠失が起こる。鋳型とプライマーとの間の塩基対ミスマッチにより、点突然変異が起こる。PCRに基づく突然変異誘発法(または、核酸増幅技法に基づく他の突然誘発法)は、一般に、単純であり上記の古典的な技法よりも迅速であるため好ましい(Higuchiら、Nucleic Acids Res. 16, 7351 (1988);Valletteら、Nucleic Acids Res. 17, 723 (1989))。
【0067】
リシンを欠損しているバクテリオファージは、例えば、野生型細菌宿主を溶菌する候補ファージの能力を、リシンタンパク質を発現するように改変された組換え細菌宿主(例えば、ヘルパーファージによって、ファージのリシンをコードする導入されたヘルパープラスミドによって、またはファージリシンをコードする配列が細菌宿主のゲノムに組み込まれた組換え体によって)を溶菌する候補ファージの能力と比較することによって、候補ファージをスクリーニングすることにより同定され得る。リシンを発現する細菌宿主を溶菌するが、野生型細菌宿主の溶菌を行えないまたは効率的に行えない候補ファージが、本発明での使用に適切な例示的なLys欠損ファージを表す。
【0068】
リシン遺伝子のリゾチーム活性を全く欠くLys欠損ファージを作製するための特に関心の持たれる1つの方法は、触媒部位および活性部位クレフトを含む1つめの保存領域を欠失させることである。リシンのヌクレオチド配列に基づき、保存領域Iを欠くPCR産物を作製し、野生型ファージと共に適切な細菌宿主に形質転換する。抗生物質耐性マーカーの代わりに、クラゲ緑色蛍光タンパク質(GFP、Chalfie, Mら、Science 263, 802, 1994)を使用することができる。ファージが、治療の際しようされることになっている場合、特にファージ治療が抗生物質と組み合わせて提供されることになっている場合、抗生物質耐性マーカーが望ましくないことがある。次に、(UV突然変異誘発を避けるために)耐性細菌のレプリカをGFPの発現についてUV下でスクリーニングする。
【0069】
マーカーレスキュー技法を用いたLys欠損ファージの作製
他の態様において、リシン遺伝子に所望の欠陥を有するLys欠損ファージは、マーカーレスキュー技法を用いて作製される。マーカーレスキューの技法はこれまで、ファージの変異をマッピングするため、およびプラスミドにクローニングされたファージ遺伝子から人工的に作製された変異をファージゲノムに移行させるために、頻繁に用いられてきた(Volkerら、Mol. Gen. Genet. 177, 447 (1980))。この技法を使用する典型的な例は、T4ファージの組み立ておよび成熟に関与する遺伝子を同定する用途である。具体的には、T4ファージの組み立ておよび成熟遺伝子20〜22を含む制限断片をプラスミドにクローニングし、突然変異を誘発し、次に、T4 20/21 am(アンバー)二重変異を有するプラスミドを保有する大腸菌の感染により、変異をファージゲノムに組換え戻す(Volkerら、前記、1980)。そのプラスミドと組換えを起こしたファージ子孫は、組換えファージの選択を可能にするsu-宿主(アンバーサプレッサーを欠いている)上にプレーティングすることによって選択された。次に、これらのam+ファージは、遺伝子20および21の所望の温度感受性変異について非選択関にスクリーニングされた。
【0070】
リシン遺伝子についても同様の戦略が利用できる。上記の組換え技法により作製され得る変異型リシン遺伝子(非機能的なリシン遺伝子、または誘導性プロモーターに機能的に結合された機能的なリシン遺伝子)を、例えばアンピシリン耐性等の選択マーカーを有するプラスミドにクローニングする。野生型リシン遺伝子(WTリシン宿主)または変異型リシン遺伝子(変異型リシン宿主)を伴うプラスミドを含む、2つの種類の細菌宿主を用いる。野生型リシン遺伝子を含む前者の菌株は、Lys欠損ファージが誘導可能なリシン遺伝子を欠くファージである場合に、変異体Lys欠損ファージの大量産生のためのヘルパー菌株として使用する。変異型リシン遺伝子を含む後者の菌株は、Lys-変異を野生型ファージに導入するために使用する。図1は、本発明のLys欠損ファージを作製するために有用な、変異型リシン遺伝子を有する細菌宿主細胞の略図を提供する。
【0071】
Lys欠損ファージを作製するための組換え体である変異型リシンを発現する細菌宿主は(図1に図示する)、当技術分野で周知の方法により作製され得る。例えば、変異すべきファージそれぞれのリシン遺伝子に隣接する領域の配列(各側について約100 bp)を単離する。一般に、少なくとも約50 bpの相同性が、ファージリシン遺伝子をコードする関心対象の領域に隣接する各側に提供される(Singer (1982) Cell, 31: 25-33)。各ファージリシン遺伝子の上流および下流に相当するDNAを核酸増幅法(例えばPCR法)により単離し、第1の選択マーカー(例えばアンピシリン耐性)を有するプラスミドの、DNAカセットを挿入するための2つの領域の間に適切な制限部位でクローニングするが、DNAカセット内では第2の選択マーカー(例えばGFP)が同じファージの初期プロモーターから発現される。形質転換し第1の選択マーカー(例えばアンピシリン耐性により例証される)について選択することにより、このプラスミドを適切な細菌宿主細胞に導入する。この技法において有用な変異型リシン遺伝子を伴う例示的なプラスミドを、図1に示す。または、プラスミド構築物は、細菌宿主のゲノムDNAにゲノム的に組み込まれてもよい。
【0072】
変異型リシン遺伝子を保有する細菌宿主に、野生型ファージを低感染効率で感染させる。ファージが複製する際、いくつかのファージは細菌宿主中の変異型リシン遺伝子と二重乗り換え現象によって組換えを起こし、Lys欠損ファージが産生される。どの細胞における組換えも100%の効率ではないと考えられるため、野生型ファージがLys欠損ファージと同じ細胞中に存在する可能性がある。野生型ウイルスはヘルパーウイルスとして働き、組換えが起こるか否かにかかわらず感染細胞の溶菌が起こる。
【0073】
クロロホルムで細菌細胞を溶菌することにより2つの種類のウイルスが回収されるが、プラーク精製によりLys欠損ファージを野生型ウイルスから精製する。次に、各プラークのウイルスを試験し、野生型であるのかLys欠損であるのか判定する。Lys欠損ファージを同定するための試験は、例えば、各プラーク由来のファージの、プラーク形成によって同定される、2つの種類の宿主細胞に感染し死滅させる能力を調べることによって行われ得る。宿主細胞の一方の種類は通常の(野生型)宿主細菌であり、もう一方の種類は上記の野生型リシン宿主細菌である。野生型ファージは両方の種類の宿主を効率的に溶菌し死滅させるが、Lys欠損ファージはリシンを発現している宿主細胞のみを死滅させる。
【0074】
Lys欠損ファージが検出可能なマーカー(例えばGFP)を発現する場合、特に選択マーカーがウイルスの初期プロモーターから発現される場合、プラーク精製中にLys欠損ファージを表す蛍光プラークが直接可視化され得る。次に、これらのファージのLys欠損表現型を、上記のスクリーニングによって確認することができる。
【0075】
Lys欠損ファージを大量産生させるための野生型リシン宿主の作製
Lys欠損ファージはその宿主細菌内で複製し組み立てることができるが、本質的に宿主を溶菌し子孫ファージを効率的に放出することができない。治療用のLys欠損ファージを作製するためには、改変されたファージを細菌宿主から放出することが必要である。Lys欠損ファージがリシン遺伝子が誘導性プロモーターの下流にあるファージである場合には、細菌宿主の溶菌は、ファージを誘導性プロモーターを活性化する薬剤に接触させ、それによってリシンの産生を誘導し結果として宿主細菌細胞の溶菌を誘導することにより、達成され得る。
【0076】
宿主細菌の溶菌および Lys欠損ファージの放出はまた、誘導性プロモーターの下流にリシン遺伝子を保有するヘルパープラスミドを細菌宿主に導入することによっても達成され得る。これまでの研究から、大腸菌内でのファージλの溶菌遺伝子の発現によりはっきりとした溶菌が起こることが示されている(Garrettら、Mol. Gen. Genet. 182, 326, 1981)。最近になって、λファージのS遺伝子およびR遺伝子の産物(それぞれ、ホリンおよびリシン)が誘導性の溶菌系において用いられた(Jainら、Infection & Immunity 68, 986, 2000)。したがって、誘導性プロモーターの下流に極めて強力なリゾチーム(例えばT4リゾチーム)をコードするリシン遺伝子を保有するヘルパープラスミドを含む適切な宿主内で、大量のLys欠損ファージが産生され得る。
【0077】
配列決定された任意のファージ由来のリシン遺伝子を核酸増幅技法(例えばPCR法)により単離し、選択マーカー(例えばアンピシリン耐性等の抗生物質耐性)を有するプラスミドにクローニングし、標準的な組換えDNA手順により誘導性プロモーターから発現させることができる。Lys欠損ファージと宿主菌株内のリシン遺伝子との間で組換えを起こし野生型組換え体を産生するのを回避するために、選択されたリシン遺伝子は、ファージリシン遺伝子と最も相同性が低い遺伝子であると考えられる。Lys欠損ファージ保存液がリシン遺伝子を欠く宿主菌株上でプラークを生じないことを確認することにより、Lys欠損ファージのみを産生する効率を試験する。必要に応じて、様々な供給源および誘導性プロモーターからリシンを発現する種々のヘルパー宿主菌株を用いて、野生型組換え体を産生するレベルが最も低い適切な宿主菌株を実験的に見出すことが可能である。
【0078】
治療用バクテリオファージに対する免疫応答を回避または予防するための別の戦略
本発明の溶菌欠損バクテリオファージはまた、欠陥のあるリシン遺伝子を有するファージだけでなく、Lys遺伝子以外の欠陥またはLys遺伝子に加えたさらなる欠陥により溶菌機構に欠陥があるファージを包含する。例えば、リシン遺伝子にのみに欠陥があるのではなく、リシン遺伝子およびホリン遺伝子の両方を欠失または改変し、ファージ内および溶菌系において非機能的にすることが可能である。そのような欠陥ファージは、細菌宿主内のヘルパープラスミド上で欠損したまたは欠陥のある溶菌系成分を発現することにより、産生され得る。Martinら(J. Bacteriol. 180, 210 (1998))によって、肺炎球菌ファージCp-1のホリンおよびリシンの両方を大腸菌内で同時に発現させることにより、細胞の溶菌が起こることが示された。上記と同様の戦略を用いて、産生段階中の組換えによる野生型ファージの産生を回避することが可能である。
【0079】
ホリンはファージリシンの細菌細胞壁ムレインへの接近を可能にする膜貫通タンパク質であるため、ホリン遺伝子単独の欠失または不活性化でも、免疫応答の可能性を欠く治療用バクテリオファージを作製するのに十分である。特定のファージの構造および性質に応じて、リシン遺伝子もしくはホリン遺伝子またはその両方の欠失または不活性化を利用して、所望の治療用ファージを作製することが可能である。
【0080】
細菌(または他の病原体)への直接的または間接的害を促進することができる任意のファージ株は(例えば、細菌DNAの転写および/または翻訳を阻害または妨げることにより(例えば、同じ宿主細胞機構に対するファージDNAの競合を介して)、細菌の複製を阻害することにより等)、本発明において有用であると考えられる。したがって、溶菌性のファージ、および溶原性であるが後に溶菌性になり得るファージは、本発明において使用するために適合化することが可能である。
【0081】
バクテリオファージ療法に反応する細菌感染
任意の種々の細菌感染が、本発明による治療用バクテリオファージを用いて治療され得る。細菌感染は、限局性(例えば、器官内に含まれる、外科創傷または他の創傷の部位、膿瘍内)であっても全身性(例えば対象が菌血症である、例えば敗血症を患っている)であってもよい。
【0082】
本発明の方法によって治療される対象には、ヒト、ペット、家畜、魚、および動物園および水生公園の動物(鯨およびイルカ等)が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0083】
本発明の遺伝子改変したLys欠損バクテリオファージは、細菌感染の治療に独立型療法としてまたは補助的療法として使用され得る。細菌感染を治療するためにLys欠損バクテリオファージとの組み合わせで有用となる多数の抗菌薬(抗生物質および化学療法薬)が、当技術分野で周知である。適切な抗菌薬および特定の抗菌薬を用いて治療され得る細菌感染の典型的な例を、以下に記載する。しかし、当業者がLys欠損バクテリオファージとの組み合わせで有用である他の抗菌薬を容易に判断し得るように、本発明は以下に記載する抗菌薬に限定されるわけではない。
【0084】

【0085】
対象の治療における使用に適したバクテリオファージは、対照に感染したと疑われる病原菌に基づいて選択され得る。細菌感染の診断方法は、当技術分野において周知である。そのような診断が対象由来の生物使用の培養を含む場合には、臨床家は同時に、感染する病原体の、次の治療の候補である1つまたは複数の治療用ファージによる増殖の阻害に対する感受性を試験することができる。
【0086】
本発明のバクテリオファージは、まず、例えばげっ歯類(例えばマウス、ラット、ハムスター等)、ウサギ、犬、ウシ等を用いた感染モデル等の非ヒト動物感染モデル等の適切なインビトロまたはインビボの感染モデルで、標的細菌を静菌性にすることについて評価され得る。適切なインビトロおよびインビボ感染モデル、およびそのような適切なモデルの選択は、当技術分野において周知である。
【0087】
本発明によるバクテリオファージ療法の有効性は、当技術分野で周知の方法によってモニターされ得る。一般に、成功した治療とは、細菌増殖が阻害され、感染した宿主の免疫系によって感染細菌の排除が促進され、それにより宿主内の細菌負荷が減少することである。
【0088】
インビボでの治療への使用に加え、本発明のバクテリオファージは無力化した全菌体細菌免疫原性組成物を作製するためにも使用することができ、これは例えば、2001年9月27日に出願された同一出願人による「無力化全菌体細菌ワクチン(Incapacitated Whole-Cell Bacterial Vaccines)」という表題の米国仮出願第60/325,796号に記載されるような、ならびに本願と同日に出願された同一出願人による「無力化した全菌体免疫原性細菌組成物(Incapacitated Whole-Cell Bacterial Immunogenic Compositions)」という表題の米国同時係属出願および上記仮出願に対する優先権主張、代理人整理番号第GANG-002号に記載されるようなワクチンとして使用され得る。「無力化された」とは、細菌細胞が不可逆的な静菌状態にあることを意味する。細菌はその構造を保持し、従って例えば免疫原性、抗原性、および野生型細菌が伴う受容体-リガンド相互作用を保持するが、細菌細胞中に感染ファージが存在するために複製することができない。そのようなワクチンは、ワクチンが作製された元となった病原菌に対する、予防的または治療的な免疫応答の誘発に有用である。
【0089】
製剤、投与経路、および投薬量
本発明のワクチンは、感染部位へのバクテリオファージの送達を提供し、ファージが細菌宿主細胞に感染しその複製を阻害する能力を維持する任意の適切な方法で、製剤化され得る。
【0090】
製剤および薬学的組成物
本発明はさらに、薬学的に許容される賦形剤中に提供される、本発明の少なくとも1つのバクテリオファージを含む薬学的組成物を意図する。したがって、本発明の製剤および薬学的組成物は、細菌宿主に特異的な単離されたバクテリオファージを含む製剤;同じ細菌宿主に感染する2つ、3つ、5つ、10、もしくは20、またはそれ以上のバクテリオファージの混合物;および異なる細菌宿主または同じ細菌宿主の異なる菌株に感染する2つ、3つ、5つ、10、もしくは20、またはそれ以上のバクテリオファージの混合物(例えば、黄色ブドウ球菌の複数の菌株に集団的に感染しその増殖を阻害するバクテリオファージの混合物)を意図する。このように、本発明の組成物は患者の必要性に合わせることが可能である。
【0091】
薬学的に許容される様々な賦形剤が、当技術分野において周知である。本明細書で用いる「薬学的に許容される賦形剤」には、組成物の活性成分と混合された場合に、成分が生物活性を保持し対象の免疫系に悪影響を及ぼすことのない任意の物質が含まれる。
【0092】
薬学的に例示的な担体には、無菌の水溶性または非水溶性溶液、懸濁剤、および乳剤が含まれる。例には、リン酸緩衝食塩水溶液、水、油性/水性乳剤等の乳剤、および様々な種類の湿潤剤等の任意の標準的な薬学的賦形剤が含まれるが、これらに限定されるわけではない。非水溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイル等の植物油、オレイン酸エチル等の注射用有機エステルである。水性担体には、水、アルコール/水溶液、乳剤、または懸濁剤が含まれ、食塩水および緩衝培地も含まれる。非経口賦形剤には、食塩水、ブドウ糖加リンゲル液、ブドウ糖および塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル液、または固定油が含まれる。静脈内賦形剤には、液体および栄養補充薬、電解質補充薬(ブドウ糖加リンゲル液に基づくもの等)等が含まれる。
【0093】
本発明のバクテリオファージを含む組成物は、当技術分野で周知の手段により凍結乾燥し、次に元に戻して本発明に従って使用してもよい。
【0094】
同様に関心が持たれるのは、リポソーム送達用の製剤、およびマイクロカプセル化全菌体細菌ワクチンを含む製剤である。そのような賦形剤を含む組成物は、周知の従来法(例えば、Remigton’s Pharmaceutical Science, Chapter 43, 第14版、 Mack Publishing Col, Easton, PA 18042, USA)によって製剤化される。
【0095】
一般に薬学的組成物は、顆粒剤、錠剤、丸剤、座薬、カプセル剤(例えば、経口送達に適合化した)、マイクロビーズ、マイクロスフェア、リポソーム、懸濁剤、軟膏剤、ローション剤等の種々の形態で調製され得る。経口および局所的使用に適した薬学的等級の有機または無機担体、および/または希釈剤を用いて、治療効果のある化合物を含む組成物を作製することができる。当技術分野で周知の希釈剤には、水媒体、植物油および動物油、ならびに脂質が含まれる。安定化剤、湿潤剤および乳化剤、浸透圧を変化させるための塩類、適切なpH値を確保するための緩衝液。
【0096】
薬学的組成物は、バクテリオファージに加え他の成分を含み得る。さらに、薬学的組成物は、2つ以上のバクテリオファージ、例えば2つもしくはそれ以上、3つもしくはそれ以上、5つもしくはそれ以上、または10もしくはそれ以上の異なるバクテリオファージを含んでもよく、異なるバクテリオファージは同じまたは異なる細菌に対して特異的である可能性がある。例えば、薬学的組成物は、複数の(例えば、少なくとも2つまたはそれ以上)の既知組成のLys欠損バクテリオファージを含み、組成物内の少なくとも2つのファージが異なる細菌宿主特異性を有する。このように、Lys欠損バクテリオファージ組成物は、例えば、感染(例えば感染部位)に存在すると疑われる各細菌(例えば、菌株、種等)について少なくとも1つのバクテリオファージを含むように、異なる特異性を有するバクテリオファージの異なる群を選択することによって、異なる細菌の混合感染を治療するために適合化され得る。上記のように、バクテリオファージは、従来の抗菌薬等の他の薬剤とともに投与することができる(上記表を参照のこと)。いくつかの態様においては、バクテリオファージおよび抗生物質を同じ製剤に含めて投与することが好ましい場合がある。
【0097】
投与経路および投薬量
投与経路および投薬量は、感染する細菌、感染の部位および程度(例えば、限局性または全身性)、ならびに治療を受ける対象によって変動することになる。投与経路には、経口、エアロゾルまたは肺に送達するための他の手段、点鼻薬、静脈内(IV)、筋肉内、腹腔内、くも膜下腔内、腟内、直腸内、局所、腰椎穿刺、くも膜下腔内、および脳および/または髄膜への直接的使用が含まれるが、これらに限定されるわけではない。ファージの送達のための賦形剤として使用され得る賦形剤は、当業者には明らかであると考えられる。例えば、遊離のファージは凍結乾燥形態であって、IV注射による投与の直前に溶解され得る。投与用量は、約100万〜約10兆/kg当たり/日当たりの範囲内、好ましくは約1兆/kg当たり/日当たりであると意図し、約106 pfu/kg/日〜約1013 pfu/kg/日であってよい。
【0098】
ファージは、病原菌の排除がうまく達成されるまで投与する。したがって、本発明は、本発明の組成物の単回投与形態および複数回投与形態、ならびにそのような単回および複数回投与形態の送達を達成させるための方法を意図する。
【0099】
肺へのエアロゾル投与に関しては、改変Lys欠損ファージは、吸入による肺への投与のために特に設計されたエアロゾル製剤に組み込まれる。そのような多くのエアロゾルは当技術分野において周知であるが、本発明は任意の特定の製剤に限定されるわけではない。
【実施例】
【0100】
本発明の上記の態様を以下の実施例においてさらに説明する。しかし、本発明は実施例によって限定されるわけではなく、本発明の範囲から逸脱することなく変更が行われることは当業者に明白であると考えられる。特に、任意の細菌およびその細菌に感染することが知られているバクテリオファージは、以下の実施例の実験において置換され得る。以下の実施例は本発明をいかに構成し利用するかの完全な開示および説明を当業者に提供するために提案するものであり、本発明者らが本発明であると考える範囲を限定することを意図したものではない。使用する数字(例えば、量、温度等)に関しては正確性を期す努力を行ったが、ある程度の実験誤差および偏差を考慮する必要がある。特記されない限り、割合とは重量割合、分子量とは重量平均分子量、温度とは摂氏、および気圧とは大気圧またはその近傍圧である。
【0101】
実施例1:Lys欠損T4ファージの作製
両端に130個のさらなるヌクレオチドを伴うバクテリオファージT4のリゾチーム(e)遺伝子のヌクレオチド配列が、Owenら(J. Mol. Biol. 165, 229, 1983)によって報告された。e遺伝子の上流および下流の100ヌクレオチドに相当するDNAをPCRによって単離し、アンピシリン耐性プラスミドpUC18に、唯一の制限部位(XbaIおよびPst I)を用いてその2つの部位の間にクローニングする(Sambrook, J.ら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.)。野生型タンパク質よりも蛍光が40倍明るい緑色蛍光タンパク質(GFP)の変異型の遺伝子を含むDNAカセットを、gfpを保有するプラスミドpmut2からXba I-Pst I断片として作製し(Cormack, B.P.、Valdivia, R.H.、およびFalkow, S、Gene 173, 33, 1996)、pUC18中のリゾチーム遺伝子の上流と下流配列の間に挿入する(pGG8)。このカセット中のGFPを発現するためのプロモーターおよびターミネーターは、それぞれ5'末端でT4ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子frdの初期プロモーター(Rosenberg, M.およびCourt, D、 Ann. Rev. Genet. 13, 319, 1979)に、3'末端でT4の遺伝子44と45の間に位置する転写ターミネーター(Bacteriophage T4、Mathews、Kutter、Mosig、およびBerget編、American Society for Microbiology, Washington, DC, 1983, 299ページのSpicerおよびKonigsberg)に置換する。frdプロモーターは、T4に感染した細菌細胞において最初に発現される、T4プロモーターの前初期クラスのものである。このプロモーターからの転写には、宿主のRNAポリメラーゼが用いられる。
【0102】
RbCl法によりこのプラスミドpGG8を大腸菌HB10細胞に形質転換し、アンピシリン耐性を選択する。次に、変異型リゾチーム遺伝子を含むプラスミドpGG8を保有する大腸菌HB101細胞に、野生型T4ファージを低感染効率で感染させる。複製中、そのうちのいくつかは細胞内のプラスミド上に保有される変異型リゾチーム遺伝子と組換えを起こし、その結果Lys欠損ファージが得られる。どの細胞内の組換えも100%ではないと考えられる。クロロホルムで細菌を溶菌することにより両種類のファージが回収されるので、プラーク精製によってLys欠損ファージを野生型から分離する。次に各プラークを試験し、それが野生型であるのかLys欠損であるのかを確かめる。GFPはT4初期プロモーター下で発現されるため、Lys欠損ファージはレプリカプレートの緑色蛍光によって同定され得る。これは、各プラーク由来のファージを大腸菌HB101および以下に記載するリシン遺伝子を発現する細胞上で試験することによって、さらに確認することができる。野生型ファージは両宿主を死滅させるのに対し、Lys欠損ファージはリシンを発現する宿主細胞しか死滅させない。
【0103】
実施例2:大腸菌におけるLys欠損T4ファージの産生
肺炎連鎖球菌ファージCp-1の2遺伝子溶菌系がクローニングされ、大腸菌で発現された(Martinetら、J. Bacteriol. 180, 210 (1998))。鋳型としてCp-1 DNAを用いたPCRにより、cpl1(リシン)遺伝子またはカセットcph1-cpl1(ホリン-リシン)遺伝子を含むDNA断片が作製されるが、遺伝子はそれぞれ自身のリボソーム結合部位を保持している。プラスミドpNM185(Mermodら、J. Bacteriol. 167, 447 (1986))にクローニングするため、適切なオリゴヌクレオチドを使用し、Sac II およびSac I制限部位をPCR断片の5'および3'末端に作製する。cpl1遺伝子またはcph1およびcpl1遺伝子を含むカセットを、TOLプラスミドのメタ経路オペロンの正に制御されるプロモーター(Pm)の制御下で発現させる。Pmからの遺伝子の転写は、3-メチル安息香酸等のエフェクター分子が存在する場合にのみ、xylS調節遺伝子の産物によって特異的に誘導される。cpl1またはcph1-cpl1カセットを保有するpNM185プラスミドによる大腸菌HB101細胞の形質転換を、RbCl法(Sambrook, J.ら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989))により行う。形質転換した大腸菌HB101細胞をLBブロスまたは他の適切な培地中で培養し、Lys欠損ファージを接種する。適切な時点で、2 mM 3-メチル安息香酸の添加によりpNM185プラスミド上のcpl1またはcph1-cpl1カセットの発現を誘導し、Lys欠損ファージ子孫の放出を起こす。
【0104】
実施例3: Lys欠損組換えファージの作製において使用するためのプラスミドpGMB021の構築
材料および方法
タグDNAポリメラーゼ、dNTP、仔ウシ腸ホスファターゼ、制限酵素、プライマー、およびT4 DNAリガーゼは、Bangalore Genei Pvt. Ltd(BGPL)、バンガロールから入手した。pRSETベクターは、Invitrogen Ltd, USAから入手した。
【0105】
ライゲーションは、ベクター:インサート比を1:10 Mで行った。PCR産物および切断したベクターは、特記されない限り、Qiagenゲル抽出キット試薬を用いてアガロースゲルから精製した。
【0106】
T7プロモーターに基づくpRSETBベクター中のT4リゾチームクローン(pRSETB-T4L)の構築
T4のリシン遺伝子のPCR増幅は、以下のプライマーを使用しBGPLから入手した野生型T4ファージを用いて行った:

【0107】
最初の変性は95℃で4分間行い、その後、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、および72℃で30秒間の伸長の30サイクルを行った。最終的に、内容物を72℃で7分間伸長させた。
【0108】
次に、得られたPCR産物を精製し、クレノウで末端を満たし、その後PvuIIで切断しCIPで脱リン酸化したpRSETBベクターに結合させた。ベクターとインサートの比率は1:10 Mに維持した。ライゲーションは22℃で5時間行い、続いて上記のライゲーション混合物でDH5αコンピテント細胞を形質転換した。次に、LB ampプレート(最終濃度100μg/ml)上で37℃で一晩、形質転換体を選択した。プールコロニーPCR法により形質転換体をスクリーニングし、その後DNAを単離してから陽性クローンを制限消化により確認した。
【0109】
陽性クローンのDNAを、PharmaciaのABIプリズム(Prism)により配列決定した。上記のクローンは、SDS-PAGEゲルで観察されるように、T4リゾチームタンパク質を発現した。このタンパク質は、予想通り25 KDのHisタグ付加リシンタンパク質であった(図2、レーン1および2を参照のこと)。PGMB011はさらなる使用のために選択された。
【0110】
pRSETAベクター中のhisタグ融合タンパク質としてのGFP(pRSETA-GFP)の構築
リシン遺伝子をレポーター遺伝子で妨げるため、GFP遺伝子を選択した。まず、BGPLのGFP教育キット中のpUC-GFPプラスミドから、以下のプライマーを用いてGFP遺伝子を増幅した:

【0111】
最初の変性は95℃で4分間行い、その後、94℃で30秒間の変性、60℃で30秒間のアニーリング、および72℃で30秒間の伸長の30サイクルを行った。最終的に、内容物を72℃で7分間伸長させた。精製した産物をEcoR1で切断し、次にEcoR1で切断したpRSETAと結合させた。
【0112】
次に、プールコロニーPCRによりクローンをGFPについてスクリーニングし、少量のGFP発現がSDS-PAGE上で認められた。全てのクローンをUV光下でGFP蛍光について調べたが、GFP蛍光によってクローンがT7プロモーターに関して正しい方向にGFPを有することが示された。GFPタンパク質の大きさは、予想通り36 KDであった。
【0113】
pGMB021を構築するための、T4リシン遺伝子の5'末端とインフレームであるGFPによるT4リシン遺伝子の妨害
次に、pRSETA-GFPクローンのGFP断片を、EcoR1で部分消化したpGMB011(上記で作製したpRSETB-T4Lベクター)にサブクローニングした。形質転換体をGMB5/GMB6を用いたPCRによりスクリーニングし、続いてhisタグ付加リシン-GFP融合タンパク質の少量発現によって確認した。上記クローンからHisタグ付加リシン-GFP融合タンパク質が発現され(42 KDa)(図2、レーン3および4を参照のこと)、それはUV下で蛍光を示し、このことからGFP遺伝子がこの構築物内で完全な形であることが示された。
【0114】
GMB1/GMB2プライマー(T4リシン特異的プライマー)を用いたPCRにより、上記クローンをさらに試験した。予想通り、GMB1/GMB2を用いたPCRによって、約1200 bpのリシン-GFP-リシンの産物が得られ、このことからリシンおよびGFP遺伝子が完全な形であることが示された(図3)。このクローンは、以下の実施例4に記載する組換え実験に用いられた。
【0115】
実施例4:Lys欠損組換えファージの作製および単離
プラスミドpGMB021(GFP挿入を含む欠陥リシン遺伝子を有する)を含むDH5α細胞に野生型T4ファージを2.5 m.o.i.で感染させた。この高い感染効率により、全細胞が少なくとも1個のファージに感染することが確実になる。pGMB021-DH5α細胞の感染によって、実施例3に記載したようなリシン欠損ファージが産出される。40分間インキュベートした後、クロロホルム(1%)を添加し、溶菌液を遠心分離した。上清を分離し、残ったクロロホルムを蒸発させるために室温で30分間通気した。
【0116】
DNase(50μg/ml)を用いて溶菌液を37℃で30分間処理して染色体DNAおよびプラスミドDNAを消化し、その後力価を測定した。次に、通常の大腸菌(プラスミドを保有しない)にこの溶菌液を0.1 m.o.i.で感染させた。この低い感染効率により、感染細胞のすべてが単一ファージを含むことが確実になり、これは次にリシン欠損ファージと野生型ファージを分離するのに役立つ。
【0117】
上記の感染混合液を37℃で30分間インキュベートした後、遠心分離した。細胞ペレットと上清を分離した。組換えLys欠損ファージを含む細胞は溶菌しないため、非感染細胞中の細胞ペレット内に存在した。上清画分は大部分の野生型ファージを含むと考えられるので、これを廃棄した。次にペレットを培地(LBブロス)中に再懸濁し、卵白リゾチーム(10μg/ml)およびクロロホルム(2%)を用いて溶菌した。この溶菌液を用いてBL21(DE3)pLysE細胞を0.1 m.o.i.で感染させ、同じ細胞の菌層上にプレーティングした。これらの細胞は、プラスミドからT7ファージリゾチームを構成的に発現し、Lys欠損ファージがプラークを形成するのを補助するため、この段階で特異的に選択された。
【0118】
プレート上に2種類のプラークが観察された、すなわちいくつかの野生型プラークおよび2、3の微小またはピンポイントプラークである。ピンポイントプラークを拾い上げ、培地中に再懸濁した。次に、これらをBL21(DE3)pLysE細胞に感染させ、BL21(DE3)pLysE細胞(T7リゾチームを産生する)およびLE392細胞(リゾチームなし)の1:1混合液上にプレーティングした。
【0119】
細胞混合液の菌層上で、組換えファージを表す濁った部分は野生型プラークの中から識別可能であった。これらの濁った部分を拾い上げた。一部をPCR用に水に再懸濁し、残りは培地中に再懸濁した。多くの濁りプラークから、GFP遺伝子産物が増幅された(図4)。
【0120】
全長T4リシン-GFP-リシンもまた増幅された。しかしながら、野生型リシンも存在し、このことから野生型ファージの存在が示唆された(図5および6)。これらの溶菌液からの野生型ファージの選択的排除は、低m.o.i.での感染および40分での細胞溶菌によって行った。この時点で、野生型ファージは感染の次のラウンドに入り、暗黒期(DNA型)にあることになる。したがって細胞の溶菌により、野生型ファージが粒子に組み立てられる前に破壊される。そのような排除を3〜5ラウンド行った後には、溶菌液にはプラークがなくなった(図7)。そのような溶菌液中に組換えLys欠損ファージが存在することの確認および定量化は、感染後の生細胞数を測定することによって行った。感染混合物のプレーティングにおいて、感染細胞の生存度の減少が明らかであった(図8)。
【0121】
組換えLys欠損ファージを濃縮するため、およびクロロホルムの使用および外部からのリゾチームの補充を避けるため、温度感受性変異体大腸菌細胞種(RE 7)(30℃で増殖し、42℃で溶菌する)を使用した。約2 x 108/mlのレベルまで、組換えLys欠損ファージの濃縮が達成された。この調製品は、当技術分野において入手可能なマウス感染モデルにおいて、大腸菌感染を排除する効率について評価される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染した対象内に存在する感染細菌に感染し得るLys欠損バクテリオファージを感染した対象に投与する段階を含み、バクテリオファージは感染細菌の増殖を阻害するのに効果的な量で投与される、
感染した対象内の細菌の増殖を阻害する方法。
【請求項2】
感染細菌が薬剤耐性菌である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
細菌感染が局所性である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
少なくとも2つまたはそれ以上の異なるLys欠損バクテリオファージが対象に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
少なくとも2つの異なるLys欠損バクテリオファージが異なる細菌宿主細胞に対して特異性を有する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
対象が混合細菌感染を有する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
感染細菌が、マイコバクテリア属、スタフィロコッカス属、ビブリオ属、エンテロバクター属、エンテロコッカス属、エシェリキア属、ヘモフィルス属、ナイセリア属、シュードモナス属、シゲラ属、セラチア属、サルモネラ属、ストレプトコッカス属、クレブシエラ属、およびエルシニア属からなる群より選択される属のものである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
感染した対象内に存在する感染細菌に感染し得るLys欠損バクテリオファージを感染した対象に投与する段階を含み、バクテリオファージは感染細菌の複製を阻害するのに効果的な量で投与され;
感染した対象内で細菌負荷が減少して細菌感染が治療される、
感染した対象の細菌感染を治療する方法。
【請求項9】
感染細菌が薬剤耐性菌である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
細菌感染が全身性である、請求項8記載の方法。
【請求項11】
細菌感染が局所性である、請求項8記載の方法。
【請求項12】
対象が局所部位に細菌感染を有する、請求項8記載の方法。
【請求項13】
投与が局所部位の感染に対して行われる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
少なくとも2つまたはそれ以上の異なるLys欠損バクテリオファージが対象に投与される、請求項8記載の方法。
【請求項15】
少なくとも2つのLys欠損バクテリオファージが異なる細菌宿主細胞に対して特異性を有する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
対象が混合細菌感染を有する、請求項5記載の方法。
【請求項17】
感染細菌が、マイコバクテリア属、スタフィロコッカス属、ビブリオ属、エンテロバクター属、エンテロコッカス属、エシェリキア属、ヘモフィルス属、ナイセリア属、シュードモナス属、シゲラ属、セラチア属、サルモネラ属、ストレプトコッカス属、クレブシエラ属、およびエルシニア属からなる群より選択される属のものである、請求項8記載の方法。
【請求項18】
感染した対象内の細菌の増殖を阻害するのに効果的な量のLys欠損バクテリオファージ、および薬学的に許容される単体を含み、細菌宿主細胞に接触させた場合に、Lys欠損バクテリオファージにより感染した対象内の細菌宿主細胞の増殖の阻害が生じる、薬学的組成物。
【請求項19】
バクテリオファージが凍結乾燥形態である、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
組成物が2つまたはそれ以上のlys欠損バクテリオファージの混合物を含む、請求項18記載の組成物。
【請求項21】
少なくとも2つの異なる細菌宿主の阻害をもたらす2つまたはそれ以上の異なるlys欠損バクテリオファージの混合物を含む、請求項18記載の組成物。
【請求項22】
対象内に存在する感染細菌に感染し得るLys欠損バクテリオファージを対象に投与する段階を含み、Lys欠損バクテリオファージは感染細菌の複製の阻害を提供するのに効果的な量で投与され;
Lys欠損バクテリオファージにより感染細菌の顕著な溶解が起こらず、それによって対象による免疫応答に曝露されるバクテリオファージ数が減少し、野生型バクテリオファージの場合と比較してバクテリオファージの排除の減少が提供される、
対象の免疫系によるバクテリオファージの排除の減少を提供できるように、治療用バクテリオファージを用いて感染した対象の細菌感染を治療する方法。
【請求項23】
対象が局所部位に細菌感染を有する、請求項22記載の方法。
【請求項24】
投与が局所部位の感染に対して行われる、請求項23記載の方法。
【請求項25】
少なくとも2つまたはそれ以上の異なるLys欠損バクテリオファージが対象に投与される、請求項22記載の方法。
【請求項26】
少なくとも2つのLys欠損バクテリオファージが異なる細菌宿主細胞に対して特異性を有する、請求項25記載の方法。
【請求項27】
対象が混合細菌感染を有する、請求項26記載の方法。
【請求項28】
機能的なリシンタンパク質の産生において欠陥があり、バクテリオファージ溶菌系の作用による宿主細胞の顕著な溶菌を起こさずに、細菌宿主細胞に感染し感染宿主による複製を阻害することが可能である、単離されたLys欠損バクテリオファージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−144185(P2011−144185A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39234(P2011−39234)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【分割の表示】特願2003−530396(P2003−530396)の分割
【原出願日】平成14年9月27日(2002.9.27)
【出願人】(504121793)ガンガゲン インコーポレーティッド (2)
【Fターム(参考)】