説明

免疫反応干渉物質の除去方法

【課題】本発明は、測定すべき検体中に干渉物質が高濃度に含まれる場合であっても、干渉作用を十分に抑制することのできる免疫反応干渉物質の除去方法を提供すること。
【解決手段】生体試料中に含まれるリウマチ因子および/または異好性抗体の影響を除去することを特徴とする免疫反応干渉物質の除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異好性抗体やリウマチ因子などの干渉作用の影響を回避するための免疫反応干渉物質の除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種疾患と関連して生体中に出現する蛋白質等の免疫学的活性物質を抗原抗体反応を利用して検出し、診断に利用することが広く行われている。このような抗原抗体反応を利用した測定方法としては、放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、ラテックス凝集法(LA)、免疫比濁法(TIA)等の種々の方法が実用化されている。
【0003】
しかしながら、免疫測定法の測定対象となる検体中には、個体特性や採取条件等により、生体成分である異好性抗体やリウマチ因子が混在している場合がある。これらの干渉作用を与える物質が多く含まれると、測定結果に誤差が生じ、特に臨床検査の分野では、誤診を起こすので、これらの干渉物質の影響を解消したり、軽減する方法が検討されている。
【0004】
例えば、異種抗体分子のFc部分を酵素反応で取り除いたF(ab')2分子を抗体として用いる免疫測定法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、この免疫測定法では、抗原を測定する際にしか利用できず、しかも酵素反応や精製等の原料調製のための煩雑な工程が必要となり、コストアップや製造ロット間差につながるという問題があった。
【0005】
また、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Fe、Zn、Cd等の2価金属イオンの存在下で、リポプロテインやフィブリノーゲンなどの干渉物質の影響を除去する凝集試験用水性溶媒が提案されている(例えば、特許文献2参照)が、異好性抗体やリウマチ因子の影響の回避については、全く示唆されていない。
【0006】
また、干渉物質である異好性抗体の影響を除去するため、重合化または凝集した抗体分子を利用しているが、大量の検体を処理する自動分析装置による測定には、大量の試薬が必要となるため、コストが高くなり、不向きである(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
リウマチ因子が混在する問題を解決するため、予め検体をヒトリウマチ因子の反応部位に結合能を有する動物由来抗体で前処理して、検体中のヒトリウマチ因子に起因する非特異的反応を減少させる免疫測定法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0008】
さらに、反応液のpHを4.0〜6.0に維持することにより、リウマチ因子の測定への影響を回避する免疫測定法(例えば、特許文献5、特許文献6参照)、ムコ多糖を共存させて生体試料中に含まれる免疫反応干渉物質の影響を除去する免疫反応干渉作用の除去方法(例えば、特許文献7参照)、α−グロブリンを干渉抑制剤として配合された免疫測定法(例えば、特許文献8参照)等が提案されている。
【0009】
【特許文献1】特開昭54−119292号公報
【特許文献2】特開昭56−2555号公報
【特許文献3】特開平4−221762号公報
【特許文献4】特開平7−12818号公報
【特許文献5】特開平8−146000号公報
【特許文献6】特開平9−49839号公報
【特許文献7】特開平8−29420号公報
【特許文献8】特開平9−49840号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、これら公報に記載された方法では、確かに干渉物質に対する影響は改善されるものの、測定すべき検体中に干渉物質が高濃度に含まれる場合には、その抑制効果は未だ不十分であり、更に改善された方法が強く望まれていた。
【0011】
従って本発明は、このような従来の課題に着目してなされたものであって、測定すべき検体中に干渉物質が高濃度に含まれる場合であっても、干渉作用を十分に抑制することのできる免疫反応干渉物質の除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、従来の免疫学的測定試薬に、遷移金属を含有させることにより、干渉物質の高い抑制効果が得られることを見い出し、本発明に到達した。
【0013】
本発明は、下記のような構成からなるものである。
(1)遷移金属の存在下で、生体試料中に含まれるリウマチ因子および/または異好性抗体の影響を除去することを特徴とする免疫反応干渉物質の除去方法。
(2)遷移金属の濃度が0.1〜100mMの範囲である(1)記載の免疫反応干渉物質の除去方法。
(3)遷移金属が銅、ニッケル、およびコバルトから成る群から選択される少なくとも1種、またはそれらの塩類である(1)または(2)記載の免疫反応干渉物質の除去方法。
(4)遷移金属が酢酸ニッケル(II)である(3)記載の免疫反応物質の除去方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、測定すべき検体中に異好性抗体やリウマチ因子などの干渉物質が高濃度に含まれる場合であっても、高い精度で免疫測定を行うことを可能とする。従って本発明によれば、測定検体の前処理や測定試薬原料の加工といった煩雑な操作が不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明に使用する遷移金属は、公知のものの中から適宜選択して使用することができる。その具体例としては、銅、ニッケル、およびコバルトから成る群から選択される少なくとも1種、またはそれらの塩類が挙げられる。中でも酢酸ニッケルが最も好ましい。
【0016】
本発明においては、遷移金属を0.1〜100mM、好ましくは12〜20mM、より好ましくは16mMとなるように含有させる。遷移金属の濃度が0.1mM未満となると、リウマチ因子や異好性抗体を効果的に抑制できず、逆に100mMを超えると、測定値に悪影響を与え、正確な測定ができなくなる。
【0017】
本発明においては、特に必要とされないが、公知のたんぱく質保護剤を必要に応じて加えることによって被測定物質の安定化効果をより高めることができる。このようなたんぱく質保護剤としては、アルブミンやゼラチンに代表される不活性たんぱく質等を挙げることができる。
【0018】
本発明によって干渉物質の影響を回避した検体は、そのまま公知の免疫学的測定方法に基づく測定用試料となる。測定方法の具体例としては、サンドイッチ法、競合法の原理に基づくRIA法やELISA法、ラテックス凝集反応法などの免疫学的粒子凝集反応法および免疫比濁法から成る群から選択されるものが挙げられる。
【0019】
これらの免疫学的測定法の中でも、特に生体試料中の被測定物質である抗原(または抗体)と、測定試薬中の抗体(または抗原)と反応させ、その結果生じる免疫凝集物を光学的手段によって検出することを測定原理とする、免疫比濁法やラテックス凝集法が好ましい。
【0020】
検体試料は、用いる試薬の測定可能範囲に応じて適宜希釈して測定用のサンプルとする。希釈には、免疫学的な反応に好適なpHや塩濃度を与える希釈溶液を用いても良い。
【0021】
本発明においては、固相担体に感作させる抗原または抗体としては、特に限定されず、公知のものの中から適宜選択して使用することができる。その具体例としては、例えば、C反応性蛋白質(CRP)、トランスフェリン等の血漿蛋白に対する抗体、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、トリヨードサイロニン、サイロキシン、サイロキシン結合性蛋白、サイログロブリン、インスリン、エストリオール、ヒト胎盤性ラクトーゲン等のホルモンに対する抗体、癌胎児性抗原(CEA)、β2−マクログロブリン、α−フェトプロテイン(AFP)等の腫瘍関連物質に対する抗体、HBs抗原、HBs抗体、HBe抗原、HBe抗体等のウイルス肝炎の抗原に対する抗体および抗体に対する抗原、ムンプス、ヘルペス、麻疹、風疹等のウイルス、各種生体成分に対する抗体または抗原、フェノバルビタール、アセトアミノフェノン、サリチル酸、シクロスポリン等の各種薬剤に対する抗体が挙げられる。
【0022】
本発明に使用しうる上記抗体としては、由来する動物種やクローンに特に制限されず、ウサギ、ヤギ、マウス、ラット、ウマ、ヒツジ等に由来する抗体が挙げられ、ポリクローナル抗体でも、モノクローナル抗体でも良い。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0024】
実施例 酢酸ニッケル(II)を用いたリウマチ因子の干渉作用回避の確認試験
4716IU/mLのリウマチ因子を含むリウマチ因子陽性ヒト血清検体を生理食塩水で64倍まで倍々希釈した試料3μLに、それぞれ0、4、8、12、16、20mMの酢酸ニッケル(II)を含む50mMのHEPES緩衝液(pH7.4)150μLを反応セル内に加えて混合した。
混合後、5分後に抗ヒトCRP抗体(動物名:ヤギ)を感作したラテックス粒子を含有するラテックス液150μLを混合物に加え、37℃で反応させ、0.5〜2分後にかけて全自動分析装置日立7170(日立製作所製)を用いて波長570nmで吸光度を測定し、各測定点の間の吸光度変化量を求めた。
CRPの濃度を定量するため、CRP既知濃度の標準物質を測定して得られた検量線を基にして検体中のCRP濃度を算出した。その結果を図1に示す。
【0025】
対照例 酢酸ニッケル(II)が免疫反応に与える影響
リウマチ因子陰性検体を用いた以外は、実施例と全く同様にしてCRPの濃度を算出した。その結果を図2に示す。
図2に示すように、酢酸ニッケル(II)の免疫反応に及ぼす影響は殆どないことが判る。
従って、図1および図2を勘案すると12、16、20mMの酢酸ニッケル(II)を添加した場合には、リウマチ因子に起因した測定誤差が著しく改善し、免疫学的測定法における干渉作用を十分に回避できたことが理解される。
これに対し、4、8mMの酢酸ニッケル(II)を添加した場合には、干渉作用の抑制効果は認められるものの、未だ不十分であり、さらに酢酸ニッケル(II)を含まない場合には、干渉作用が生じていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、異好性抗体やリウマチ因子などの干渉作用の影響を回避するための免疫反応干渉物質の除去方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】リウマチ因子陽性検体の希釈系列における実施例1のCRP濃度の測定結果を示すグラフである。
【図2】リウマチ因子陰性検体の希釈系列における対照例1のCRP濃度の測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属の存在下で、生体試料中に含まれるリウマチ因子および/または異好性抗体の影響を除去することを特徴とする免疫反応干渉物質の除去方法。
【請求項2】
遷移金属の濃度が0.1〜100mMの範囲である請求項1記載の免疫反応干渉物質の除去方法。
【請求項3】
遷移金属が銅、ニッケル、およびコバルトから成る群から選択される少なくとも1種、またはそれらの塩類である請求項1または2記載の免疫反応干渉物質の除去方法。
【請求項4】
遷移金属が酢酸ニッケル(II)である請求項3記載の免疫反応物質の除去方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−249738(P2008−249738A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186793(P2008−186793)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【分割の表示】特願平11−251787の分割
【原出願日】平成11年9月6日(1999.9.6)
【出願人】(000120456)栄研化学株式会社 (67)