説明

免疫検出性の改善

本開示では、場合により希釈された血液、血清または血漿サンプル中の少なくとも1種のタンパク質の免疫検出性の改善方法が提供され、それは、サンプルと、該少なくとも1種のタンパク質の検出および/または定量用の少なくとも1種の親和性リガンドとを接触させることに先立ち、サンプルを64−85℃の温度に加熱する段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、血液または血液由来サンプル中のタンパク質の検出の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
現在、幅広く使用され、十分に受け入れられているプロテオーム分析の技術は質量分析であり、しばしば、2D−ゲル電気泳動またはクロマトグラフィー技法と組み合わせて用いられる。しかしながら、最近の小型化および並行化技術基盤の発展は、質量分析を支持し、補完する可能性を開いた。
【発明の概要】
【0003】
概要
第1に、場合により希釈された血液、血清または血漿サンプル中の少なくとも1種のタンパク質の免疫検出性の改善方法が提供され、それは、サンプルと少なくとも1種の親和性リガンドを接触させることに先立ち、サンプルを50−85℃の温度に加熱する段階を含む。
【0004】
第2に、対象由来の血液、血清または血漿中のタンパク質を検出および/または定量する方法が提供され:
a)第1および第2の場合により希釈した対象由来の血液、血清または血漿サンプルを提供し;
b)第1のサンプルを50−85℃の温度に加熱し;
c)第1のサンプルを、b)の加熱に続いて、加熱により免疫検出性が高められた標的タンパク質と選択的に相互作用できる少なくとも1種の親和性リガンドと接触させ;
d)加熱に付していない第2のサンプルを、加熱により免疫検出性が高められていない標的タンパク質と選択的に相互作用できる少なくとも1種の親和性リガンドと接触させ;
e)段階c)およびd)で形成された抗体と対応する標的タンパク質との間の相互作用を検出し、それにより、血液、血清または血漿中のタンパク質を検出および/または定量する。
【0005】
第3に、医学的状態のバイオマーカーを同定する方法が提供され、それは、
a)その医学的状態を有する第1対象群およびその医学的状態を有さない第2対象群からの血液、血清または血漿サンプルを提供すること、
b)サンプルを、場合により希釈後に、50−85℃の温度に加熱すること、
c)少なくとも1種のタンパク質と選択的に相互作用できる少なくとも1種の親和性リガンドとサンプルを接触させ、各群の少なくとも1種のタンパク質のレベルを測定すること、
d)そのレベルを比較し、第1群からのサンプル中に第2群からのサンプル中よりも高いか、または低い程度で生じるタンパク質を同定し、かくしてその医学的状態のバイオマーカーを同定すること、
を含む。
上記の方法の様々な実施態様を、下記でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図面の簡単な説明
図1−4において、実線は血漿中のタンパク質を表し、破線は血清中のタンパク質を表す。
【図1】図1は、異なる温度(x軸)での熱処理後に少なくとも2倍上昇した免疫検出性を示す血漿または血清中のタンパク質の数(y軸)を示す。
【図2】図2は、異なる温度(x軸)での熱処理後に少なくとも2倍低下した免疫検出性を示す血漿または血清中のタンパク質の数(y軸)を示す。
【図3】図3は、異なる温度(x軸)での熱処理後に少なくとも2倍上昇した免疫検出性を示す血漿または血清中のタンパク質の数(y軸)を示す。
【図4】図4は、異なる温度(x軸)での熱処理後に少なくとも2倍低下した免疫検出性を示す血漿または血清中のタンパク質の数(y軸)を示す。
【図5】図5は、23℃、56℃および72℃での処理後の、血清中のタンパク質と相互作用する6種の異なる親和性リガンドからのシグナルを示す。未加工の蛍光シグナル強度のデータから、3回繰り返した分析の結果に基づいて、ボックスプロットを作成した。MFI=中央値の蛍光強度、AU=任意単位。
【図6】図6は、23℃、56℃および72℃での処理後の、血漿中のタンパク質と相互作用する6種の異なる親和性リガンドからのシグナルを示す。未加工の蛍光シグナル強度のデータから、3回繰り返した分析の結果に基づいて、ボックスプロットを作成した。MFI=中央値の蛍光強度、AU=任意単位。
【図7】図7は、72℃での処理後のPSA低または高患者(PSA>60ng/ml)からの血漿中のタンパク質のレベルの差異を示す。結果を火山型プロット(volcano plot)として提示した。ここで、相対的な倍率変化(fold-change)(x軸)を、t検定結果の有意さ(P値)(y軸)に対してプロットする。実線はp値<0.01を表し、破線はp値<0.05を表す。破線のボックスは…を表す。
【図8】図8は、23℃での処理後のPSA低または高患者(PSA>60ng/ml)からの血漿中のタンパク質のレベルの差異を示す。結果を火山型プロットとして提示した。ここで、相対的な倍率変化(x軸)を、t検定結果の有意さ(P値)(y軸)に対してプロットする。実線はp値<0.01を表し、破線はp値<0.05を表す。破線のボックスは、小さい倍率変化および有意さの値のタンパク質が位置する火山型プロットの領域の拡大を表す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
詳細な説明
本開示の第1の態様として、場合により希釈された血液、血清または血漿サンプル中の少なくとも1種のタンパク質の免疫検出性の改善方法が提供され、それは、サンプルと少なくとも1種の親和性リガンドを接触させることに先立ち、サンプルを50−85℃の温度に加熱する段階を含む。
【0008】
第1の態様の構成として、血液、血清または血漿サンプル中のタンパク質の検出方法が提供され、それは、
a)サンプルを50−85℃の温度に加熱すること;
b)サンプルを既知の標的タンパク質と選択的に相互作用できる少なくとも1種の親和性リガンドと接触させること;
c)少なくとも1種の親和性リガンドと対応するサンプル由来の標的タンパク質との相互作用を検出し、それにより、サンプル中のタンパク質を検出すること、
を含む。
【0009】
本開示は、血漿および血清サンプルのいくつかのタンパク質は、血漿または血清サンプルを分析前に加熱すると、高い程度で抗体により検出されるという知見に基づく。いかなる特定の科学的理論にも縛られないが、抗体と血清または血漿タンパク質中のそれらの対応するエピトープとの相互作用は、加熱により助長されると考えられる。
【0010】
本開示の知見は、数々の利点を伴い得る。加熱を使用して、以前には免疫学的方法を使用して検出できなかったタンパク質を検出することが可能であり得る。結果的に、複雑な生物学的サンプルのタンパク質内容のより包括的な像を入手し得る。また、加熱は、そのような複雑な生物学的サンプルに低レベルで存在するタンパク質の検出を可能にし得る。多くの興味深いバイオマーカーは低濃度範囲で見出されると報告されてきたので、これは、特に興味深いものであり得る。従って、本開示の加熱は、プロテオミクス研究の感受性を高める有用な手段であり得る。
【0011】
本開示の文脈では、タンパク質の「免疫検出性」は、タンパク質の線状または構造的エピトープが、そのようなエピトープと選択的に相互作用できる抗体などの親和性リガンドにより検出され得る程度を表す。
【0012】
さらに、本開示の文脈では、タンパク質の免疫検出性の「改善」は、エピトープ認識に基づく分析におけるタンパク質からのシグナル(または出力)を、加熱を実施しなかったときのタンパク質からのシグナル(または出力)と比較して高めることを表す。結果的に、免疫検出性が改善されたか否かを決定するために、問題のタンパク質からのシグナルを同時に患者から採られた2種のサンプルで測定し得、ここで、サンプルの一方を測定前に加熱する。加熱したサンプル中のタンパク質からのシグナルが、非加熱サンプル中のタンパク質からのシグナルよりも高いならば、免疫検出性は改善されている。そのような比較の正確さを改善するために、各サンプルの1回より多い測定、および/または、各カテゴリーの1種より多いサンプルの測定を実施し得る。いくつかの実施態様では、シグナルが絶対値で1.5倍または2倍高まっていれば、免疫検出性が改善されたと見なし得る。
【0013】
「サンプルと少なくとも1種の親和性リガンドを接触させること」は、サンプル中のタンパク質の検出および/または定量を可能にする。結果的に、親和性リガンドの選択性は、親和性リガンドが認識するタンパク質の存在および/または存在量を測定するのに用い得る。接触は、下記でさらに論ずる通り、様々な構成および形式を使用して実施し得る。
【0014】
本開示の第2の態様として、対象由来の血液、血清または血漿中のタンパク質を検出および/または定量する方法が提供され:
a)第1および第2の場合により希釈した対象由来の血液、血清または血漿サンプルを提供し;
b)第1のサンプルを50−85℃の温度に加熱し;
c)第1のサンプルを、b)の加熱に続いて、加熱により免疫検出性が高められた標的タンパク質と選択的に相互作用できる少なくとも1種の親和性リガンドと接触させ;
d)加熱に付していない第2のサンプルを、加熱により免疫検出性が高められていない標的タンパク質と選択的に相互作用できる少なくとも1種の親和性リガンドと接触させ;
e)段階c)およびd)で形成された抗体と対応する標的タンパク質との間の相互作用を検出し、それにより、血液、血清または血漿中のタンパク質を検出および/または定量する。
【0015】
第2の態様は、いくつかのタンパク質の免疫検出性は、本開示の熱処理中に改善されるが、いくつかの他のタンパク質の免疫検出性は上昇せず、減少しさえするという、本発明者らの洞察に基づく。従って、前者のタンパク質の検出を加熱したサンプルで実施し、後者のタンパク質の検出を非加熱サンプルで実施するならば、幅広いタンパク質での感受性の最適化が達成され得る。
【0016】
当業者は、同じタンパク質の測定を、1回は加熱サンプルで、1回は非加熱サンプルで、単純に2回実施し、得られたシグナルを比較することにより、タンパク質の免疫検出性が改善されたか否かを過度な負担なく決定し得る。熱処理サンプルでシグナルが高ければ、そのタンパク質は、免疫検出性が加熱により高められるタンパク質として選択され、将来の分析では、対応する親和性リガンドを熱処理サンプルと接触させる。
【0017】
本開示の第3の態様として、医学的状態のバイオマーカーを同定する方法が提供され、それは、
a)その医学的状態を有する第1対象群およびその医学的状態を有さない第2対象群からの血液、血清または血漿サンプルを提供すること、
b)サンプルを、場合により希釈後に、50−85℃の温度に加熱すること、
c)サンプルを、加熱後に、少なくとも1種のタンパク質と選択的に相互作用できる少なくとも1種の親和性リガンドと接触させ、各群の少なくとも1種のタンパク質のレベルを測定すること、
d)そのレベルを比較し、第1群からのサンプル中に第2群からのサンプル中よりも高いか、または低い程度で生じるタンパク質を同定し、かくしてその医学的状態のバイオマーカーを同定すること、
を含む。
【0018】
本開示の第3の態様は、正常な患者および病気の患者からの加熱サンプルの比較は、非加熱サンプルを分析したときには検出できなかったタンパク質発現における差異を明らかにしたという、発明者らの知見に基づく。結果的に、本開示の方法を使用して、以前には認識できなかったバイオマーカーを同定し得る。これは、図7および8に図解され、そこには、正常な対象と前立腺癌を有する対象に由来する加熱および非加熱サンプル中のある種のタンパク質のレベルが示され、2種の前立腺癌のタンパク質バイオマーカーが同定されている。
【0019】
第3の態様の医学的状態は、例えば、癌などの疾患または他の医学的障害であり得る。
当業者は、段階d)で2つの群からのレベルを比較し、レベル間の差異が、そのタンパク質がバイオマーカーであると結論づけるのに十分であるか否かを決定する方法を理解している。
【0020】
第3の態様のある実施態様では、タンパク質は、その濃度が第1の群のサンプル中で第2の群のサンプル中より少なくとも25%高く、例えば少なくとも50%高く、例えば少なくとも100%高いならば、段階d)でバイオマーカーとして同定される。さらに、タンパク質は、検出システムにおけるそこからのシグナルが第1の群のサンプル中で第2の群のサンプル中より少なくとも25%高く、例えば少なくとも50%高く、例えば少なくとも100%高いならば、バイオマーカーとして同定される。ここで、比較されるべき濃度またはシグナルは、サンプル中の濃度の平均または中央値であり得る。また、状況は、タンパク質がサンプルのいくつかでのみ検出されるものであり得、そのような場合、タンパク質は、それが第1の群のサンプルで第2の群よりも高い割合で検出されるならば、段階d)でバイオマーカーとして同定され得る。
また、タンパク質は、それが疾患の群のサンプルで低い程度で検出されるならば、バイオマーカーとして同定され得る。
【0021】
本開示の実施態様では、本方法は、血液、血漿または血清の非免疫グロブリンタンパク質の検出および/または定量のみに関する。免疫グロブリンタンパク質のいくつかのエピトープの検出性は、免疫グロブリンタンパク質がその抗原と会合しているか否かにより影響される。いかなる特定の科学的理論にも縛られないが、本発明者らは、そのような標的タンパク質の相互作用の形成または解離は加熱の効果の源ではないと考える。加えて、サンプルを加熱することは、免疫グロブリンタンパク質の結合活性を変更し、それによりそれらの機能性の同定を損ない得る。結果的に、本開示の方法の実施態様では、少なくとも1種の親和性リガンドは、少なくとも1種の非免疫グロブリンタンパク質と選択的に相互作用できるものである。
【0022】
本開示の方法では、サンプルを50−85℃の温度に加熱する。下記の実施例の実施態様および図1では、そのような温度範囲は、免疫検出性の上昇をもたらすと示されている。本開示の方法の実施態様では、サンプルを64−85℃、例えば66−78℃、例えば70−74℃、例えば約72℃の温度に加熱する。下記の実施例の実施態様および図1、3および4では、そのような範囲内の温度は、少なくともいくつかの態様で、50−85℃の広い範囲よりも良好であると示されている。
【0023】
通常、本開示の加熱は、時間的に制限されている。これは、サンプルを最初にある温度に加熱し、その温度でしばらく維持し、次いで通常室温ほどの温度、例えば20−25℃に冷却することを意味する。結果的に、加熱に続く段階、例えば、親和性リガンドとの接触は、通常、高い温度では実施されない。本発明者らは、加熱および場合により冷却は、サーモサイクラーで実施し得ることを見出した。(サーモサイクラーは、通常はPCRで使用される。)しかしながら、他の加熱手段も使用し得る。
【0024】
加熱時間は、労力および材料の効率的な使用を提供し、それにより分析の経済の改善を提供するために、短く維持され得る。例えば、これは、多くのタンパク質を大きい対象群で分析し得るプロテオミクスにおいて有利であり得る。本発明者らは、1時間より短い、または、半時間より短い加熱期間でさえ、満足な結果を得るのに十分であると示した。従って、本開示の実施態様では、加熱は、0.5−55分間、例えば1−40分間、例えば1−29分間、例えば5−20分間、例えば約15分間実施する。
【0025】
下記の実施例では、加熱前にサンプルのタンパク質を標識化する。標識を後にフルオロフォアと反応させ、最後の検出段階で検出する。本発明者らは、そのような標識化は効率的な分析プロトコールを提供し、加熱前の標識化は、加熱後の標識化よりも多数の免疫検出性が上昇したタンパク質をもたらすことを示した。さらに、標識化と加熱の間にサンプルを希釈し得る(例えば10−100倍)。
【0026】
本開示の実施態様では、サンプルのタンパク質は、サンプルと少なくとも1種の親和性リガンドとの接触に続く検出段階で直接的または間接的に検出できる標識で、加熱前に標識化し得る。標識は、例えばビオチンを含み得る。即ち、標識化は、例えばビオチン化であり得る。標識は、それ自体で(直接的)、または、二次標識を介して(間接的)、検出可能であり得る。従って、本開示の方法の実施態様では、標識化されたタンパク質を、親和性リガンドとの接触後、後続の検出段階で検出可能な二次標識と接触させ得る。二次標識は、例えば、フルオロフォアであり得る。
【0027】
本開示の方法のサンプルは、加熱前に希釈し得る。希釈は、一般的に、免疫学的検出を基礎とする分析において、バックグラウンドのシグナル(ノイズ)並びに標的タンパク質からのシグナルを減らすと考えられる。本開示の実施態様では、加熱前にサンプルを10−10000倍、例えば100−2500倍、例えば200−1000倍、例えば約500倍に希釈し得る。
【0028】
サンプルを、例えば、添加物、例えば、ウサギIgGおよび/またはカゼインを含むバッファーを使用して希釈し得る。これらの添加物は、サンプル中のタンパク質と(特異的)親和性リガンドの非特異的結合をクエンチし、それにより検出のノイズを低減し得る。
【0029】
バッファー中のクエンチする抗体の濃度は、0.05−5mg/ml、例えば0.1−2mg/ml、例えば約0.5mg/mlであり得、バッファー中のカゼインの濃度は、0.01−10%(w/v)、例えば0.05−2%(w/v)、例えば約0.1%(w/v)であり得る。
【0030】
いくつかのタンパク質の同時検出を提供し、それにより血液、サンプルまたは血漿のタンパク質内容の効率的な分析を提供するために、サンプルを同じ反応区画中の1種より多い親和性リガンドと接触させ得る。30種より多い異なるタンパク質を同じサンプル中で検出するために、リガンドを後続の検出段階で分析されるビーズに結合させる小型化および並行化されたシステムで、親和性リガンドを使用するのが有利である。さらに、そのようなビーズは、シグナルを後続の検出段階で親和性リガンドに、次いで、タンパク質に結びつける識別を施されていてもよい。そのようなビーズは、「コード化された粒子」と呼ばれることもある;Kingsmore, S.F. Nat Rev. Drug Discovery 2006, 5(4), 310-320 参照。伝統的なサンドイッチアッセイを使用すると、30種より多い異なるタンパク質を同じサンプルから検出できる設定を提供することは実際的に非常に困難であり、時間がかかる。
【0031】
結果的に、本開示の方法の実施態様では、加熱は、サンプルを、少なくとも4種、例えば少なくとも10種、例えば少なくとも30種、例えば少なくとも50種の異なる親和性リガンドと接触させる前に実施する。
【0032】
タンパク質に結合した直接的または間接的に検出可能な標識、および、親和性リガンドに結合した識別を有する検出可能な部分を用いることにより、タンパク質と会合した標識および親和性リガンドと会合した部分からのシグナルを提供しない要素は無視され得るので、検出段階の偽陰性の数を少なく維持し得る。
【0033】
上記の実施態様は、主に第1の態様を参照して説明されている。しかしながら、当業者は、これらの実施態様は、必要な変更を加えて第2および第3の態様にも適用されることを理解する。
【0034】
本開示の文脈では、「少なくとも1種の親和性リガンド」は、少なくとも1種類の親和性リガンドを表し、その種類は、親和性リガンドの特異性により定義される。従って、当業者は、1種類の親和性リガンドは、すべて同じ抗原と選択的に相互作用できるポリクローナル抗体の群を表し得ることを理解する。
従って、「異なる親和性リガンド」は、異なる特異性を有する親和性リガンドを表す。
【0035】
本開示に従って、適切な親和性リガンドを選択または製造し、検出および/または定量に適切な形式および条件を選択することは、当業者の能力に範囲内にあると認められる。それでもやはり、有用であると証明された親和性リガンドの実施例、および、検出および/または定量の形式および条件の実施例を、例示説明のために後述する。
【0036】
従って、本開示の実施態様では、親和性リガンドは、抗体、その断片およびその誘導体、即ち、免疫グロブリン骨格をベースとする親和性リガンドからなる群から選択され得る。抗体およびその断片または誘導体は、単離され、かつ/または、単一特異性であってよい。抗体は、任意の起源のモノクローナルおよびポリクローナル抗体を含み、ネズミ、ウサギ、ヒトおよび他の抗体、並びに異なる種に由来する配列を含むキメラ抗体、例えば、部分的にヒト化された抗体、例えば、部分的にヒト化されたマウス抗体を含む。ポリクローナル抗体は、選択された抗原による動物の免疫化により産生し得る。定義された特異性のモノクローナル抗体は、Koehler and Milstein (Koehler G and Milstein C (1976) Eur. J. Immunol. 6:511-519) により開発されたハイブリドーマ技術を使用して産生できる。本開示の抗体断片および誘導体は、それらの断片または誘導体の抗体と同じ抗原と選択的に相互作用できるものである。抗体断片および誘導体は、完全な免疫グロブリンタンパク質の重鎖の第1定常ドメイン(CH1)、軽鎖の定常ドメイン(CL)、重鎖の可変ドメイン(VH)および軽鎖の可変ドメイン(VL)からなるFab断片;2個の可変抗体ドメインVHおよびVLからなるFv断片 (Skerra A and Plueckthun A (1988) Science 240:1038-1041); 可動性ペプチドリンカーにより一緒に連結された2個のVHおよびVLドメインからなる一本鎖Fv断片(scFv)(Bird RE and Walker BW (1991) Trends Biotechnol. 9:132-137); Bence Jones dimers (Stevens FJ et al. (1991) Biochemistry 30:6803-6805); ラクダ科の重鎖二量体 (Hamers-Casterman C et al. (1993) Nature 363:446-448) および単一可変領域 (Cai X and Garen A (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93:6280-6285; Masat L et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 91:893-896)、および、テンジクザメの新規抗原受容体(the New Antigen Receptor (NAR))などの単一ドメイン骨格 (Dooley H et al. (2003) Mol. Immunol. 40:25-33) および、可変重鎖ドメインに基づくミニボディー(minibody)(Skerra A and Plueckthun A (1988) Science 240:1038-1041)を含む。
【0037】
本開示の文脈では、「単一特異性抗体(mono-specific antibody)」は、それ自体の抗原で親和性精製し、それによりそのような単一特異性抗体を他の抗血清タンパク質および非特異的抗体から分離した、ポリクローナル抗体の集団の1つである。この親和性精製は、その抗原に選択的に結合する抗体をもたらす。本開示の方法で使用できる単一特異性抗体を得るために、ポリクローナル血清を2段階の免疫親和性を基礎とするプロトコールにより精製し、標的タンパク質に選択的な単一特異性抗体を入手し得る。捕捉剤としての不動化したタグタンパク質を使用して、抗原断片の一般的な親和性タグに対する抗体を第1の減少段階で除去する。第1の減少段階に続き、抗原に特異的な抗体を濃縮するために、抗原を捕捉剤として血清を第2の親和性カラムに載せる(Nilsson P et al. (2005) Proteomics 5:4327-4337も参照)。
【0038】
ポリクローナルおよびモノクローナル抗体、並びにそれらの断片および誘導体は、本開示によるタンパク質の検出および/または定量のような選択的なバイオマーカーの認識を必要とする応用における親和性リガンドの伝統的な選択肢である。しかしながら、当業者は、選択的に結合するリガンドの高処理量生成および低コストの産生システムへの要望が高まっているため、新しい生体分子多様性技術が開発されてきたことを知っている。これは、免疫グロブリンおよび非免疫グロブリンの両方を起源とする新しいタイプの親和性リガンドの生成を可能にし、それは、生体分子認識の応用における結合リガンドとして同等に有用であると証明される場合もあり、免疫グロブリンの代わりに、または、それと共に、使用できる。
【0039】
親和性リガンドの選択に必要な生体分子の多様性は、複数の可能な骨格分子の1つの組合せ工学により生成し得、次いで、適当な選択基盤を使用して、特異的かつ/または選択的親和性リガンドを選択する。骨格分子は、免疫グロブリンタンパク質起源のもの(Bradbury AR and Marks JD (2004) J. Immunol. Meths. 290:29-49)、非免疫グロブリンタンパク質起源のもの(Nygren PÅ and Skerra A (2004) J. Immunol. Meths. 290:3-28)、または、オリゴヌクレオチド起源のもの(Gold L et al. (1995) Annu. Rev. Biochem. 64:763-797) であり得る。
【0040】
多数の非免疫グロブリンタンパク質の足場が、新規結合タンパク質の開発における支持構造として使用されてきた。本開示に従って使用するための親和性リガンドの生成に有用なそのような構造の非限定的な例は、ブドウ球菌プロテインAおよびそのドメインおよびこれらのドメインの誘導体、例えば、プロテインZ(Nord K et al. (1997) Nat. Biotechnol. 15:772-777);リポカリン(Beste G et al. (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 96:1898-1903);アンキリンリピートドメイン(Binz HK et al. (2003) J. Mol. Biol. 332:489-503);セルロース結合ドメイン(CBD)(Smith GP et al. (1998) J. Mol. Biol. 277:317-332; Lehtioe J et al. (2000) Proteins 41:316-322);γ結晶(Fiedler U and Rudolph R, WO01/04144);緑色蛍光タンパク質(GFP)(Peelle B et al. (2001) Chem. Biol. 8:521-534);ヒト細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA−4)(Hufton SE et al. (2000) FEBS Lett. 475:225-231; Irving RA et al. (2001) J. Immunol. Meth. 248:31-45);プロテアーゼ阻害因子、例えばノッティン(Knottin)タンパク質(Wentzel A et al. (2001) J. Bacteriol. 183:7273-7284; Baggio R et al. (2002) J. Mol. Recognit. 15:126-134)およびクニッツ(Kunitz)ドメイン(Roberts BL et al. (1992) Gene 121:9-15; Dennis MS and Lazarus RA (1994) J. Biol. Chem. 269:22137-22144);PDZドメイン(Schneider S et al. (1999) Nat. Biotechnol. 17:170-175);チオレドキシンなどのペプチドアプタマー(Lu Z et al. (1995) Biotechnology 13:366-372; Klevenz B et al. (2002) Cell. Mol. Life Sci. 59:1993-1998);ブドウ球菌ヌクレアーゼ(Norman TC et al. (1999) Science 285:591-595);テンダミスタット(tendamistats)(McConell SJ and Hoess RH (1995) J. Mol. Biol. 250:460-479; Li R et al. (2003) Protein Eng. 16:65-72);フィブロネクチンIII型ドメインに基づくトリネクチン(trinectin)(Koide A et al. (1998) J. Mol. Biol. 284:1141-1151; Xu L et al. (2002) Chem. Biol. 9:933-942);およびジンクフィンガー(Bianchi E et al. (1995) J. Mol. Biol. 247:154-160; Klug A (1999) J. Mol. Biol. 293:215-218; Segal DJ et al. (2003) Biochemistry 42:2137-2148)である。
【0041】
上記の非免疫グロブリンタンパク質骨格の例には、新しい結合特異性の生成に使用される単一の無作為化されたループを提示する足場タンパク質、タンパク質表面から突出している側鎖が新規結合特異性の生成のために無作為化された強固な二次構造を有するタンパク質骨格、および、新規結合特異性の生成に使用される非連続的高可変ループ領域を示す足場が含まれる。
【0042】
非免疫グロブリンタンパク質に加えて、オリゴヌクレオチドも親和性リガンドとして使用され得る。アプタマーまたはデコイと呼ばれる一本鎖核酸は、十分に定義された三次元構造に折り畳まれ、高い親和性および特異性でそれらの標的に結合する。(Ellington AD and Szostak JW (1990) Nature 346:818-822; Brody EN and Gold L (2000) J. Biotechnol. 74:5-13; Mayer G and Jenne A (2004) BioDrugs 18:351-359)。オリゴヌクレオチドリガンドは、RNAまたはDNAのいずれかであり得、幅広い標的の分子クラスに結合できる。
【0043】
上記の足場構造のいずれかの変異体のプールから所望の親和性リガンドを選択するために、選択された標的タンパク質に対する特異的新規リガンドの単離のための数々の選択基盤が利用可能である。選択基盤には、ファージディスプレイ(Smith GP (1985) Science 228:1315-1317)、リボソームディスプレイ(Hanes J and Plueckthun A (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 94:4937-4942)、酵母ツーハイブリッド法(Fields S and Song O (1989) Nature 340:245-246)、酵母ディスプレイ(Gai SA and Wittrup KD (2007) Curr Opin Struct Biol 17:467-473)、mRNAディスプレイ(Roberts RW and Szostak JW (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 94:12297-12302)、細菌ディスプレイ(Daugherty PS (2007) Curr Opin Struct Biol 17:474-480, Kronqvist N et al. (2008) Protein Eng Des Sel 1-9, Harvey BR et al. (2004) PNAS 101(25):913-9198)、ミクロビーズディスプレイ(Nord O et al. (2003) J Biotechnol 106:1-13, WO01/05808)、SELEX(System Evolution of Ligands by Exponential Enrichment) (Tuerk C and Gold L (1990) Science 249:505-510)およびタンパク質断片相補性アッセイ(PCA)(Remy I and Michnick SW (1999) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 96:5394-5399)が含まれるがこれらに限定されない。
【0044】
従って、本開示の実施態様では、親和性リガンドは、上記のタンパク質足場のいずれかに由来する非免疫グロブリン親和性リガンド、または、オリゴヌクレオチド分子であり得る。
【0045】
本開示の検出および/または定量は、抗体のような親和性リガンドと抗原との間の相互作用を基礎とするアッセイにおける結合試薬の検出および/または定量のために当業者に知られているどのような方法でも達成し得る。従って、上記の親和性リガンドのいずれも、血液または血液由来サンプル中のタンパク質の存在を定量的および/または定性的に検出するのに使用し得る。これらの「一次」親和性リガンドは、様々なマーカーでそれら自体標識され得るか、または、検出、可視化および/または定量を可能にする二次的な標識化された親和性リガンドにより検出され得る。これは、一次または二次親和性リガンドに結合できる多数の標識の1種またはそれ以上を使用して、当業者に知られている多数の技法の1つまたはそれ以上を使用して、そしていかなる過度な実験も伴わずに、達成できる。
【0046】
一次および/または二次親和性リガンドに結合させられる標識の非限定的な例には、蛍光染料または金属(例えば、フルオレセイン、ローダミン、フィコエリトリン、フルオレサミン)、発色団の染料(例えば、ロドプシン)、化学発光化合物(例えば、ルミナール、イミダゾール)および生物発光タンパク質(例えば、ルシフェリン、ルシフェラーゼ)、ハプテン(例えば、ビオチン)が含まれる。様々な他の有用な発蛍光物質(fluorescers)および発色団が、Stryer L (1968) Science 162:526-533 and Brand L and Gohlke JR (1972) Annu. Rev. Biochem. 41:843-868 に記載されている。親和性リガンドは、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータラクタマーゼ)、放射性同位元素(例えば、H、14C、32P、35Sまたは125I)および粒子(例えば、金)で標識することもできる。本開示の文脈では、「粒子」は、分子の標識化に適する金属粒子などの粒子を表す。さらに、親和性リガンドは、蛍光性半導体ナノ結晶(量子ドット)でも標識し得る。量子ドットは、有機発蛍光団と比較して量子収率に優れ、より光安定性であり、従って、より容易に検出される(Chan et al. (2002) Curr Opi Biotech. 13: 40-46)。様々なタイプの標識を、様々な化学、例えば、アミン反応またはチオール反応を使用して、親和性リガンドに結合させることができる。しかしながら、アミンおよびチオール以外の反応基、例えば、アルデヒド、カルボン酸およびグルタミンを使用できる。
上記の方法の態様は、いくつかの既知の形式および構成のいずれかで実践し得、その非限定的な選択を下記で論ずる。
【0047】
親和性リガンドの標識の可視化方法には、蛍光定量的、発光定量的および/または酵素的技法が含まれ得るが、これらに限定されない。蛍光は、蛍光標識を特定の波長の光に曝し、その後、特定の波長領域で発せられる光を検出および/または定量することにより、検出および/または定量する。発光的にタグ付けされた親和性リガンドの存在は、化学反応中に生じる発光により検出および/または定量し得る。酵素的反応の検出は、化学反応から生じるサンプル中の色の変化による。様々なタイプのELISA:sは、酵素的反応を基礎とする方法の例である。当業者は、適切な検出および/または定量のために、様々な異なるプロトコールを改変できることを知っている。
【0048】
いかなる特定の科学的理論にも縛られないが、本発明者らは、本開示の加熱を使用すると、線状エピトープの免疫検出性が上昇すると考える。従って、本開示の方法の実施態様では、親和性リガンドは、線状/連続的エピトープと選択的に相互作用できるものであり得る。一例として、線状/連続的エピトープと選択的に相互作用できる抗体は、そのエピトープを含むが(強固な)二次構造を形成していないペプチドで動物を免疫化することにより産生し得る。下記の実施例のセクションで用いる抗体は、線状/連続的エピトープを認識する抗体を頻繁にもたらすタンパク質エピトープシグニチャータグ(Protein Epitope Signature Tag)(PrEST)免疫化を使用して産生した。
【実施例】
【0049】
例示的実施態様の詳細な説明
材料と方法
ビーズカップリング
単一特異性抗体を、微細な改変を加えた製造業者のプロトコールに従い、カルボキシル化ビーズ(COOH Micorspheres, Luminex-Corp.)にカップリングさせた。前立腺癌のアプローチには、各抗体3.2μgを、遠心分離のフィルターユニット(Ultrafree-MC, Millipore)を使用して10個のビーズにカップリングし、最終濃度40μg/mlとした。ビーズを、NaNを含むタンパク質を含有するバッファー(Blocking Reagent for ELISA, Roche)中に保存した。すべてのカップリングしたビーズを超音波洗浄機(Branson, Ultrasonic Corporation)中で5分間超音波処理して再懸濁し、その後4℃で保存した。100−plexのビーズ混合物を溶液中に創製し、以前に記載された通りに最適化し(Schwenk et al (2007) Mol Cell Proteomics 6, 125-132)、この研究を通して利用した。
【0050】
下記の第1および第2のアプローチのために、磁気カルボキシル化ビーズ(MagPlex Micorspheres, Luminex-Corp.)を利用した。上記のプロトコールとの違いは、ビーズをマイクロタイタープレート(Greiner Bioone)中でカップリングさせ、プレートを磁石(LifeSept, Dexter)の上に置いてビーズを洗浄することである。最後に、76−plexのビーズ混合物を溶液中に創製した。
【0051】
血清および血漿の標識化およびアッセイの手順
最初に、サンプル(血漿または血清)を室温で融解し、10分間10,000rpmで遠心分離した。各サンプル30μlをマイクロタイタープレート(Abgene)に移し、次いで、プレートを密閉し、ボルテックスし、遠心分離した(1分間、3,000rpm)。次に、各サンプル3μlを新しいマイクロタイタープレートに移し、続いてリキッドハンドラー(Plate mate 2x2, Matrix)を使用して1×PBS22μlを各サンプルに添加し、次いで、プレートを密閉し、ボルテックスし、遠心分離した(1分間、3,000rpm)。続いて、ビオチノイル−テトラオキサペンタデカン酸のN−ヒドロキシサクシニミジルエステル(NHS-PEO4-Biotin, Pierce)を10倍のモル過剰で添加し、総合して1/10のサンプル希釈物を得、続いて2時間4℃でマイクロタイタープレートシェーカー(Thermomixer, Eppendorf)中でインキュベートした。ビオチンに対して250倍のモル過剰のTris−HCl、pH8.0の添加により反応を停止させ、さらに20分間4℃でインキュベートした。次いで、サンプルをすぐに使用するか、または、−80℃で保存した。
【0052】
全サンプルを、組み込まれていないビオチンを除去せずに利用し、1/50に、即ち、サンプル1μlおよびアッセイバッファー(0.5%(w/v)ポリビニルアルコールおよび0.8%(w/v)ポリビニルピロリドン(Sigma)、0.1%(w/v)カゼイン中、PBS(PVXC)中、0.5mg/ml非特異的ウサギIgG(Bethyl)を添加)49μlに希釈した。対照として、非特異的ウサギIgG(Jackson ImmunoResearch)およびHSA結合 Affibody (Affibody AB)を含めた。次に、プレートを、サーモサイクラー(DNA Engine Tetrad cycler, PTC225, BioRad)中で、72℃で15分間熱処理し、続いて15分間23℃でインキュベートした。次いで、プレートを遠心分離し(1分間、3,000rpm)、各サンプル45μlをビーズ混合物5μlに添加した。インキュベーションを終夜シェーカーで23℃で行い、これに続いて、ウェル中で、3×50μlPBST(1×PBS pH7.4、0.1% Tween20)でビーズを洗浄した。
【0053】
磁気ビーズを用いて行う第1および第2のアプローチには、マイクロタイタープレート (Greiner Bioone) を、プレート洗浄用の磁気ビーズ沈降に関連して使用した。上記の前立腺癌のアプローチには、底にフィルターのあるマイクロタイタープレート (Millipore) を用い、ビーズの洗浄に吸引装置 (Millipore) を利用した。
【0054】
洗浄に続いて、PBS中にパラホルムアルデヒド0.1%を含有する停止溶液50μlと共に10分間インキュベートした。次に、1×50μlのPBSTおよび50μlの0.5μg/ml R−フィコエリトリン標識ストレプトアビジン(Invitrogen)(PBST中)をビーズ混合物に添加し、20分間、シェーカーで、23℃でインキュベートした。最後に、ウェルをPBST3×50μlで洗浄し、PBST100μl中で測定した。
【0055】
読み取りおよびデータ分析
測定は、Luminex LX200 機器で Luminex IS 2.3 ソフトウェアを使用して実施し、各シグナル特異性分析のために、色コードID毎に100事象を計測した。各抗体のカップリング効率を、R−フィコエリトリン標識抗ウサギIgG抗体(Jackson ImmunoResearch)により測定した。抗体−タンパク質相互作用を示すために、中央値の蛍光強度(MFI)を選択した。データ分析およびグラフ表示は、Microsoft Office Excel 2003 または R、統計的コンピューター処理およびグラフィックスの言語と環境 (Ihaka, R et al (1996) J. Comput. Graph. Stat. 5, 299-3214) を使用して実施した。
【0056】
結果
a)第1のアプローチ
1人の正常な患者からの血清および血漿サンプルを、EUプロジェクトの MolPAGE を通じて入手した。
既知の血清タンパク質などの様々なクラスのタンパク質を標的とし、研究する抗体を選択した。93種の独特のタンパク質をコードする遺伝子の産物を標的とする全部で135種の単一特異性抗体 (msAbs) をこの研究に含めた。単一特異性抗体をHPAプロジェクト (www.proteinatlas.org) から得た。対照として、非特異的ウサギIgG(Jackson ImmunoResearch)およびHSA結合 Affibody (Affibody AB)を含めた。すべての血清および血漿サンプルをトリプリケートで分析した。ここで、血漿と血清の両方につき、温度毎に1つの期間を調べた。サンプルをしかるべく希釈し、標識化し、アッセイバッファー中で調製した。次いで、処理は、23℃、37℃、45℃、56℃で30分間、並びに、72℃で15分間および96℃で5分間を含んだ。各熱処理期間の後、全サンプルを23℃に冷却し、次いで、ビーズ混合物と合わせた。
【0057】
免疫検出性の最適化のために、ビオチン化に続き、ある範囲の温度でサンプルを熱処理した。試験に含まれた温度は、23℃、37℃、45℃、56℃、72℃および96℃であった。図1では、少なくとも2倍のシグナル強度の上昇を示すタンパク質の数を、熱処理温度に対してプロットしている。72℃は、最高数のシグナルが増加したタンパク質をもたらした。56℃もかなりの数のシグナルが増加したタンパク質をもたらしたが、その結果は特に血清サンプルにおいて72℃より優れていなかった。96℃は、少数のシグナルが増加したタンパク質しかもたらさなかった。
【0058】
図2では、少なくとも2倍のシグナル強度の低下を示すタンパク質の数の熱処理温度に対するプロットにより、加熱の負の影響を示す。ここで、96℃は、特に血清サンプルで、比較的多数のシグナルが減少したタンパク質をもたらすと示された。96℃で、血清サンプルおよび血漿サンプルの両方において、シグナルが減少したタンパク質の数は、実際に、シグナルが増加したタンパク質の数よりも多かった。温度を56℃から72℃に上げると、シグナルが減少したタンパク質の数は血清で増加したが、血漿では減少した。
37℃および45℃への加熱は、シグナル強度に影響がないか、または、小さい影響しかないと示された。
【0059】
b)第2のアプローチ
1人の正常な患者からの血清および血漿サンプルを、EUプロジェクトの MolPAGE を通じて入手した。
既知の血清タンパク質などの様々なクラスのタンパク質を標的とし、研究する抗体を選択した。93種の独特のタンパク質をコードする遺伝子の産物を標的とする全部で135種の単一特異性抗体 (msAbs) をこの研究に含めた。単一特異性抗体をHPAプロジェクト (www.proteinatlas.org) から得た。対照として、非特異的ウサギIgG(Jackson ImmunoResearch)およびHSA結合 Affibody (Affibody AB)を含めた。ここで、血漿と血清の両方につき、2つの温度について4つの期間を調べた。サンプルをしかるべく希釈し、標識し、アッセイバッファー中で調製した。次いで、56℃および72℃の両方で、5、10、15および30分間の期間を選択し、23℃で30分間と比較した。各熱処理期間の後、全サンプルを23℃に冷却し、次いで、ビーズ混合物と合わせた。23℃で30分間、56℃で30分間および72℃で15分間の処理について、サンプルをトリプリケートで分析した。
【0060】
図3では、第1のアプローチと同様に、少なくとも2倍のシグナル強度の上昇を示すタンパク質の数を熱処理温度に対してプロットしている。再度、72℃は、血清および血漿の両方で最高数のシグナルが増加したタンパク質をもたらした。56℃は血漿でかなりの数のシグナルが増加したタンパク質をもたらしたが、その結果は72℃ほど良好ではなかった。
【0061】
図4では、少なくとも2倍のシグナル強度の低下を示すタンパク質の数の熱処理温度に対するプロットにより、第2のアプローチの加熱の負の影響を示す。温度を56℃から72℃に上げると、シグナルが減少したタンパク質の数は、血清と血漿の両方で少なかった。一般的に、タンパク質は熱に誘導される凝固に伴ってより沈殿しやすいと考えられるので、これは驚異的であった。
【0062】
図5は、23℃、56℃および72℃での熱処理後の血清中の92種のタンパク質のうち6種の検出レベルを示す。図6は、血漿で得られた対応する結果を示す。正規化していない中央値の蛍光強度のレベルを使用して、データをボックスプロットでまとめた。個々の標的タンパク質からのシグナル強度を、各々23℃で30分間の処理、56℃で30分間の加熱および72℃で15分間の加熱の処理後に、直接比較する。タンパク質のいくつかのシグナル強度は加熱後に低下したが、いくつかの他のタンパク質のシグナル強度は上昇した。しかしながら、図のすべてのタンパク質について、シグナルは56℃の処理後よりも72℃の処理後に高いことは、注目すべきである。実際に、第2のアプローチで検出されたすべてのタンパク質の中で、温度を56℃から72℃に上げたときに、シグナルは1種のタンパク質で減少したのみであった。
【0063】
結論として、免疫学的検出を使用するとき、約50℃ないし約85℃の範囲の温度への加熱は、血液または血液由来サンプル中のタンパク質の分析に、有利な効果を有すると思われる。約72℃の温度範囲、例えば、64−85℃、66−78℃または70−74℃は、特に有利であると思われる。
【0064】
c)前立腺癌コホート
スウェーデンの Lund and Malmoe University Hospitals の病理学部から血漿サンプルを得た。前立腺特異抗原(PSA)のレベルの日常的な試験を受けた男性患者から、正常PSAレベルのサンプル20個および高PSAレベルのサンプル20個を集めた。後者の群は、前立腺癌の指標として供される60−3,000ng/mlのPSAレベルを有し、故にこの群を癌群と称した。正常の群は、<1.5ng/mlのPSAレベルを有した。上述のPSAレベル以外には、患者の情報は利用可能ではなく、倫理的要件を満たす匿名扱いのサンプルを得た。
【0065】
研究した抗体は、過去の疾患の優先傾向を伴わず、HPAプロジェクト(www.proteinatlas.org)内で使用された検証手順におけるそれらの性能によってのみ選択された。95種の異なる血清タンパク質を標的とする全部で96種の単一特異性抗体(msAbs)をこの研究に含めた。加えて、3種の抗PSA抗体(HPX抗体)をRoche (Basel) および HyTest (Finland) から入手し、正の対照として含めた。すべての血漿サンプルを、無作為化したレイアウトで分析し、得られた強度の値を、log2変換、積分的正規化(integral normalization)および確率的指数正規化(probabilistic quotient normalization)で加工した。
【0066】
正常サンプルと癌サンプルの間で有意に異なる検出を示すタンパク質をスチューデントt検定により同定し、図7および8に示す通り、相対的な倍率変化に関して、火山型プロットにより可視化した。プロットは、正規化された蛍光強度の割合(x軸)および対応する偽陽性率(false discovery rate)で補正されたP値(y軸)を示し、一定のタンパク質がどのように異なって検出されるかの有意さを反映する。各標的のP値が低いほど、タンパク質が異なって存在する確率は高い。プロットの内側の水平の線は、一般的に使用されるP値0.05および0.01を各々示す。
【0067】
図7では、材料と方法のセクションに記載の通り、サンプルを72℃で熱処理した。3種のHPX抗体は、PSAを、正常な患者(低PSAレベル)と比較して、癌群(高PSAレベル)において有意に高いレベルで検出していると見出された。加えて、2種の新しいマーカータンパク質、HPA0464(p<0.01)およびHPA0481(p<0.05)は、癌群で下方調節されると思われ、72℃の加熱後にのみ見出された。図8では、サンプルを熱処理せず、これらの患者について、抗PSA抗体の包括的な有意さは低下した。ここで、2種の新しいタンパク質が発見され、その中で、前立腺癌と診断されるリスクが高い患者において、HPA0006の標的レベルは高く、HPA0058のものは低かった。結論として、いくつかのタンパク質の免疫検出性は加熱により上昇したが、いくつかの他のタンパク質の免疫検出性は非加熱後に良好であった。
【0068】
結論として、2種のタンパク質(HPA0464およびHPA0481)は、健康な対象由来の熱処理サンプルよりも、前立腺癌を有する対象由来の熱処理サンプルにおいて、低い程度で検出された(図7)。しかしながら、この差異は、非熱処理サンプルでは見られない(図8)。その結果、熱処理は、このタイプの分析において、前立腺癌のバイオマーカーとしてのこの2種のタンパク質を同定するために必要であると思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
場合により希釈された血液、血清または血漿サンプル中の少なくとも1種のタンパク質の免疫検出性の改善方法であって、サンプルと、該少なくとも1種のタンパク質の検出および/または定量用の少なくとも1種の親和性リガンドとを接触させることに先立ち、サンプルを64ないし85℃の温度に加熱する段階を含む方法。
【請求項2】
サンプルを66ないし78℃、例えば70ないし74℃、例えば約72℃の温度に加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
サンプルと、少なくとも4種、例えば少なくとも10種、例えば少なくとも30種、例えば少なくとも50種の異なる親和性リガンドとの接触に先立ち、加熱を実施する、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
温度を0.5ないし45分間、例えば1ないし30分間、例えば1ないし29分間、例えば5ないし20分間維持する、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
加熱に先立ち、サンプルと少なくとも1種の親和性リガンドとの接触後の検出段階で直接的または間接的に検出可能な標識によりサンプルのタンパク質を標識化する、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
標識がビオチンを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
加熱前にサンプルを10ないし10000倍、例えば100ないし2500倍に希釈する、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ウサギIgGおよび/またはカゼインを含むバッファーでサンプルを希釈する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
バッファー中のウサギIgGの濃度が0.05ないし5mg/ml、例えば0.1ないし2mg/mlであり、バッファー中のカゼインの濃度が0.01ないし1%(w/v)、例えば0.05ないし2%(w/v)である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1種の親和性リガンドが少なくとも1種の抗体である、請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1種の親和性リガンドを、同定可能な部分、例えば同定可能なビーズにカップリングさせる、請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
対象由来の血液、血清または血漿中のタンパク質を検出および/または定量する方法であって:
a)第1および第2の場合により希釈した対象由来の血液、血清または血漿サンプルを提供し;
b)第1のサンプルを50ないし85℃の温度に加熱し;
c)第1のサンプルを、b)の加熱に続いて、加熱により免疫検出性が高められる標的タンパク質と選択的に相互作用できる少なくとも1種の親和性リガンドと接触させ;
d)加熱に付していない第2のサンプルを、加熱により免疫検出性が高められない標的タンパク質と選択的に相互作用できる少なくとも1種の親和性リガンドと接触させ;
e)段階c)およびd)で形成された抗体と対応する標的タンパク質との間の相互作用を検出し、それにより、血液、血清または血漿中のタンパク質を検出および/または定量する、方法。
【請求項13】
医学的状態のバイオマーカーを同定する方法であって、
a)その医学的状態を有する第1対象群およびその医学的状態を有さない第2対象群からの血液、血清または血漿サンプルを提供すること、
b)サンプルを、場合により希釈後に、50ないし85℃の温度に加熱すること、
c)加熱後に、少なくとも1種のタンパク質と選択的に相互作用できる少なくとも1種の親和性リガンドとサンプルを接触させ、各群の少なくとも1種のタンパク質のレベルを測定すること、
d)そのレベルを比較し、第1群からのサンプル中に第2群からのサンプル中よりも高いか、または低い程度で生じるタンパク質を同定し、かくしてその医学的状態のバイオマーカーを同定すること、
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−531582(P2012−531582A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−517437(P2012−517437)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【国際出願番号】PCT/SE2009/000328
【国際公開番号】WO2010/151180
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(508178490)アトラス・アンティボディーズ・アクチボラゲット (11)
【氏名又は名称原語表記】Atlas Antibodies AB