説明

免疫測定方法及びその試薬

【課題】被検体中の測定対象物質を高感度に測定できる、新たな免疫測定方法の提供。
【解決手段】被検体に、目的とする測定対象物質に対する特異的抗体、補欠因子で標識した測定対象物質、アポ(補欠因子が除去された)フラビン酵素、フラビン酵素の活性を検出する試薬を同時または順次共存させることを特徴とするアポ酵素再活性化免疫測定方法であって、被検体と補欠因子で標識した測定対象物質とを作用させる系にキレート剤を含有することを特徴とする免疫測定方法及びその試薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラビン酵素を使用したアポ酵素再活性化免疫測定方法(ARIS)及びその試薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホルモンやペプチド等の低分子化合物を高感度に検出する方法として、ホモジニアス競合酵素免疫測定法が利用されてきた。このうち、アポ酵素が、その補欠因子と結合することにより再活性することを利用したアポ酵素再活性化免疫測定法(Apoenzyme Reactivation Immunoassay System:ARIS)は、補欠因子非存在下では活性を持たないアポ酵素に対し、補欠因子で標識した測定対象物質、測定対象物質、及び測定対象物質に対する抗体を共存させ、生じたホロ酵素の活性を測定することにより、測定対象物質濃度を高感度に検出する方法である。
【0003】
ARISで利用できる酵素としては、フラビン酵素が知られている。フラビン酵素とは、補欠因子としてフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)やフラビンモノヌクレオチド(FMN)などのフラビン類を必要とする酵素の総称である。ARIS法を測定原理とし、フラビン酵素から補欠因子を除去したアポ酵素を用いて測定対象物質の濃度を検出する方法が知られている。例えば補欠因子としてFADを用いる方法であって、アポ酵素としてアポグルコースオキシダーゼを用いる方法(特許文献1、非特許文献1〜3)、アポグルタチオンレダクターゼを用いる方法(特許文献2)、アポD−アミノ酸オキシダーゼを用いる方法(特許文献3)などが挙げられる。
【0004】
しかしながら、被検体中には、ホルモン、酵素等の種々の成分(内因性物質)が存在しており、良好な測定感度や反応特異性が得られない場合もあり、ARIS法の更なる改良が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55−2997号公報
【特許文献2】特開昭61−271456号公報
【特許文献3】特願2007−506000号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Anal.Chem.,1981,658-665
【非特許文献2】Meth.Enzymol.,1982,413-425
【非特許文献3】Fresenius J.Anal.Chem.,1998,Vol.1,361,174-178
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、アポD−アミノ酸オキシダーゼを用いる方法では、基質であるD−アミノ酸の生体内の存在量は稀少であるため、被検体中の測定対象物質を測定する場合に、内因性物質の影響を受けにくく、反応特異性の向上が期待できる。
ところが、本発明者らが、実際に本法を用いて血液成分中の低分子化合物の測定を試みたところ、被検体として血清を用いる場合は十分な測定感度が得られないという問題があることが判明した。具体的には、フラビン酵素を用いたARIS法において、被検体中の何らかの成分によって補欠因子とアポフラビン酵素の反応性、すなわちアポ酵素の再活性化能が低下することを見出した。
従って、本発明の目的は、試料の種類に関係なく、反応特異性及び感度の高い免疫測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、更に種々検討を行なったところ、意外にも、被検体とアポ酵素の補欠因子で標識した測定対象物質とを反応させる系にキレート剤を共存させることにより、上記アポ酵素の再活性化能の低下を抑制し、測定対象物質を特異的且つ高感度に測定できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)被検体中の測定対象物質に対する、アポ−フラビン酵素を用いたアポ酵素再活性化免疫測定方法であって、被検体と補欠因子で標識した測定対象物質とを作用させる系にキレート剤を共存させることを特徴とする免疫測定方法;
(2)アポ−フラビン酵素の補欠因子がフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)である、(1)記載の免疫測定方法;
(3)アポ−フラビン酵素がアポ−D−アミノ酸オキシダーゼである、(1)又は(2)記載の免疫測定方法;
(4)測定対象物質を含有する被検体が血液成分である、(1)〜(3)のいずれか1つ記載の免疫測定方法;
を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、
(5)測定対象物質に対する特異的抗体、アポ−フラビン酵素、アポ−フラビン酵素の補欠因子で標識した測定対象物質、フラビン酵素の活性発現を検出する試薬及びキレート剤を含有することを特徴とする免疫測定用試薬組成物;
(6)アポ−フラビン酵素の補欠因子がフラビンアデニンジヌクレオチドである、(5)記載の免疫測定用試薬組成物;
(7)アポ−フラビン酵素がアポ−D−アミノ酸オキシダーゼであり、フラビン酵素の活性発現を検出する試薬がD−アミノ酸及びオキシダーゼ系によって産生する過酸化水素を検出する試薬である、(5)又は(6)記載の免疫測定用試薬組成物;
を提供するものである。
さらに本発明は、
(8)(5)〜(7)のいずれか1つ記載の免疫測定用試薬組成物を含有するキット
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の測定方法、免疫測定用試薬組成物及び免疫測定用試薬組成物を含有するキットによれば、アポ酵素再活性化に影響をあたえる被検体中の内因性物質の影響を低減できるため、生体試料中の測定対象物質をより高感度に且つ特異的に定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】血清ベース及び血漿ベースにおけるFAD希釈系列の測定結果を示す。
【図2】8−テオフィリン−FADの構造を示す。
【図3】EDTA非存在条件、EDTA存在条件において、血清中のテオフィリン濃度を測定した際の吸光度変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における被検体中の測定対象物質としては、補欠因子で標識することができれば、いずれも対象とすることができるが、例えば、ホルモン、ビタミン、薬剤等の低分子化合物が挙げられる。具体的には、ホルモンとしては、アミン型、ステロイド型、ペプチド型のいずれでも良い。アミン型としては甲状腺ホルモン、副腎髄質ホルモン等が挙げられ、具体的には甲状腺ホルモンとしてトリヨードサイロニン(T3)、サイロキシン(T4)、カルシトニン、副腎髄質ホルモンとしてアドレナリンなどが挙げられる。ステロイド型としては副腎皮質ホルモン、性(腺)ホルモン等が挙げられ、具体的には副腎皮質ホルモンとして糖質コルチコイド(コルチゾール、コルチコステロン、コルチゾンなど)、鉱質コルチコイド(アルドステロンなど)、アンドロゲン(テストステロン、ジヒドロテストステロン(DHT)、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)など)、エストロゲン(エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)など)、黄体ホルモン(プロゲステロンなど)が挙げられる。ペプチド型としてはインスリン、レニンなどが挙げられる。ビタミンとしては葉酸、ビタミンA、β−カロチン、ビタミンB群、ビタミンC(アスコルビン酸)、1,25−(OH)2ビタミンD、ビタミンE、ニコチン酸(ナイアシン)などが挙げられる。薬剤としてはフェノバルビタール、プリミドン、フェニトイン、カルバマゼピン、バルプロ酸、ゾニサミド、トリメタジオン、クロナゼパム、ニトラゼパム、ジアゼパム、アセタゾールアミドなどの抗てんかん剤、ハロペリドール、ブロムペリドールなどの精神神経用剤、ジゴキシン、ジギトキシンなどの強心剤、リドカイン、キニジン、プロカインアミド、N−アセチルプロカインアミド、アプリンジン、プロプラノロールなどの不整脈用剤、ゲンタマイシン、トブラマイシン、バンコマイシン、アミカシンなどの抗生物質製剤、その他アセトアミノフェン、シクロスポリン、タクロリムス、メトトレキサート、テオフィリン、リバビリンなどが挙げられる。その他低分子化合物としては、オステオカルシン、アンジオテンシンI、アンジオテンシンII、サイクリックAMP、サイクリックCMP、エンドセリン、ヒスタニン、カルニチンなどがそれぞれ挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0014】
測定対象物質を含む被検体としては、血液成分(血液、血清、血漿など)、尿、汗、涙液、唾液、耳漏、喀痰、精液及び膣分泌液の他、粘膜、粘膜細胞、骨髄及び毛髪などから抽出・分泌されたものが挙げられる。
【0015】
本発明に用いられるアポ−フラビン酵素は、補欠因子が除去されたフラビン酵素であって、補欠因子としてFADを必要とするものであっても、FMNを必要とするものであっても良い。具体的には、補欠因子としてFADを必要とするフラビン酵素として、コハク酸デヒドロゲナーゼ、D−アミノ酸オキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、アシルコエンザイムA脱水素酵素、グルタチオンレダクターゼ、リポアミドデヒドロゲナーゼ、及びスクシネートデヒドロゲナーゼなどが挙げられる。
また、補欠因子としてFMNを必要とするフラビン酵素として、L−アミノ酸オキシダーゼ、グリコラートオキシダーゼ、及びNADPH脱水素酵素などが挙げられる。
好ましいフラビン酵素と補欠因子の組み合わせ例としては、D−アミノ酸オキシダーゼとFADの組み合わせを挙げることができる。D−アミノ酸オキシダーゼから補欠因子を除去したアポ−D−アミノ酸オキシダーゼとしては、ブタ腎臓から抽出・精製されたものが知られており、好適に使用できる。例えば、CALZYME社製のカタログNo.176A0025等が使用できる。その他、微生物由来のものや、遺伝子組み換え技術により得たものでも良い。微生物由来のものの例としては、Trigonopsis variabilis由来のD−アミノ酸オキシダーゼを発現させた株より得られたもの(文献:A,Isoaiら、Biothechnology and Bioengineering Vol.80,No.1,22-32(October 5,2002)、またFusariume quiseti由来のもの(文献:T,Esakiら、Flavins and Flavoproteins 1993)等が知られている。
【0016】
本発明に用いられるアポ酵素の補欠因子で標識した測定対象物質は、上記アポ酵素の補欠因子及び測定対象物質等を原料とし、公知の測定対象物質を補欠因子で標識する方法にて得ることができる。この標識方法としては、例えば、前記特許文献1等に記載された方法、前記非特許文献3記載の方法、D.L.Morrisらの方法(Analitical chemistry,1981,53,658-665)、及びT.J.Richardらの方法(Clinical Chemistry,1981,27,1499-1504)を挙げることができ、当業者は目的に応じて選択することができる。測定対象物質を補欠因子で標識する際には、測定対象物質と特異抗体との結合反応を阻害しない部位で標識することが好ましい。また、測定対象物質を補欠因子で標識する際、当業者は標識効率や特異抗体との結合効率等の向上等、目的に応じて、適宜リンカーを介して標識をすることができる。
【0017】
本発明に用いられるキレート剤としては、特に限定されず、鎖状配位子、環状配位子のいずれでもよく、配座数は、2座、3座、4座以上のいずれでも良い。例えば、鎖状配位子であって、2座のものとしてはエチレンジアミン、ビピリジン、フェナントロリン、3座のものとしてはジエチレントリアミン、4座のものとしてはニトリロ三酢酸、6座のものとしてはエチレンジアミン四酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸、環状配位子としては、ポルフィリン、フタロシアニン、クラウンエーテル(12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6)などが挙げられる。
キレート剤の濃度は、各キレート剤のキレート能に応じて、測定に影響を与えない範囲内で自由に設定することができる。例えばエチレンジアミン四酢酸を用いる場合には、被検体と補欠因子で標識した測定対象物質とを作用させる系において、0.1〜10mMであることが好ましい。
【0018】
本発明に用いられる測定対象物質に対する抗体としては、被検体中の測定対象物質に対する特異的抗体であればよく、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体のいずれでも良い。これらの抗体を得る方法として、測定対象物質がペプチドや薬剤等の低分子化合物である場合には、当該測定対象物質に高分子、例えば牛血清アルブミン(BSA)やスカシ貝ヘモシアニン(KLH)を結合させたものを免疫原として抗体を取得する方法や、ファージディスプレイ法など、必要に応じて種々の手法を選択できる。
【0019】
本発明に用いられるフラビン酵素の活性を検出する試薬としては、各フラビン酵素が特異的に反応し、その反応によって生じる化合物を吸光光度法、蛍光法、電気化学測定法等の方法で定量(検出)できる試薬であればいずれでも良いが、例えば基質及びオキシダーゼ系によって産生する過酸化水素を定量(検出)できる試薬が挙げられる。具体的には、アポ−フラビン酵素としてアポ−グルコースオキシダーゼを用い、再活性化したグルコースオキシダーゼ活性を検出する場合には、基質としてグルコースを添加し、酸化還元反応の際に生じる過酸化水素を定量することで測定対象物質を定量できる。またアポ−フラビン酵素としてアポ−D−アミノ酸オキシダーゼを用い、再活性化したD−アミノ酸オキシダーゼ活性を検出する場合には、基質としてD−アミノ酸を添加し、酸化還元反応の際に生じる過酸化水素を定量することで測定対象物質を定量できる。
ここで、過酸化水素を定量する方法としては、電極法や比色法等から適宜選択できる。電極法用の試薬は、過酸化水素を電極で検知するための試薬であり、パーオキシダーゼを含む。また、比色法用の試薬は、過酸化水素量に対応して生成する色素の吸光度を吸光光度計で測定するための試薬であり、パーオキシダーゼと被酸化性発色剤を利用した方法が知られている。
例えば、自動分析測定装置に適用されている発色試薬としては、4−アミノアンチピリンとトリンダー試薬とのカップリング反応を利用する発色試薬が良く使われているが、1分子発色剤のTPM−PS、TMBZ−PSなども利用できる。また、前記のような比色測定のほか、蛍光や発光測定に導き測定することができる。なお、抗体をメンブラン上に固定しておき、同様な反応系を使えば、POCT試薬としても利用することができる。
【0020】
本発明の免疫測定方法は、被検体と補欠因子で標識した測定対象物質とを作用させる系にキレート剤が共存していればよく、各成分の添加の順序は特に問わないが、被検体、キレート剤、アポ−フラビン酵素、前記アポ−フラビン酵素の補欠因子で標識した測定対象物質、測定対象物質に対する特異抗体、及びフラビン酵素の活性を検出する試薬を同時に反応させても良いし、順次共存させることにより反応させても良い。
具体的には、被検体とキレート剤とを混合させた後に他の成分を加えて反応させる方法;被検体以外のものを混合させた後に被検体を加えて反応させる方法;前記アポ−フラビン酵素の補欠因子で標識した測定対象物質とキレート剤とを混合させた後に他の成分を加えて反応させる方法等が挙げられる。
このときの反応温度は5〜40℃程度でよく、反応に当たっては種々の緩衝剤、例えばTris−塩酸緩衝液、リン酸緩衝液、Good’s緩衝液など、いずれも使用可能であるが、試薬組成物の性質に合わせて選択することができる。
【0021】
上記測定法の具体的な例としては、次の通りである。
まず被検体と、FADで標識した測定対象物質を、キレート剤存在下で混合し、該測定対象物質に対する抗体を加えて接触させる。次に、アポD−アミノ酸オキシダーゼを加えて、遊離のFADで標識した測定対象物質とアポD−アミノ酸オキシダーゼを反応させ、D−アミノ酸オキシダーゼを活性化する。それにより、D−アミノ酸から過酸化水素を発生させ、この過酸化水素を、パーオキシダーゼ及び被酸化性発色剤を含む検出系に導き、生じる吸光度変化を分光光度計を用いて測定すれば良い。
また、自動分析装置で反応させる場合には、(1)被検体、(2)FADで標識した測定対象物質及びキレート剤を含む第一試薬(R1)、(3)アポ−D−アミノ酸オキシダーゼを含む第二試薬(R2)を順次反応させるのが好ましい。この際、測定対象物質に対する特異抗体、D−アミノ酸、パーオキシダーゼ及び被酸化性発色剤は、第一試薬(R1)、第二試薬(R2)のどちら(場合によっては被検体)に添加されていても良く、当業者は試薬性能や安定性等を検討の上、適宜設定することができる。
【0022】
本発明の免疫測定方法は、ホモジニアス競合EIA法とするのが好ましく、汎用の自動分析測定装置に適用可能である。例えば、日立7170形自動分析装置の場合、測定波長は用いる被酸化性発色剤に応じて適宜設定し、検体量15μL、第一試薬(R1)分注量150μL、第二試薬(R2)分注量75μLに設定し、エンドポイント測定法の2ポイントエンドモードで、測光ポイントを16−34として測定すれば良い。但し、前記の検体量、試薬分注量や測定パラメーターは、これに限られるものではなく、その試薬組成により適宜設定することができる。
【0023】
本発明の免疫測定試薬組成物は、キレート剤、アポ−フラビン酵素、前記アポ−フラビン酵素の補欠因子で標識した測定対象物質、測定対象物質に対する特異的抗体、及びフラビン酵素の活性を検出する試薬の各必須成分や適宜任意成分(例えば、緩衝剤や安定化剤等)を含有するものであるが、これら成分を使用して公知の製造方法にて製造することができる。
当該免疫測定試薬組成物の形態は、溶液状態だけでなく、全成分あるいは一部成分が凍結乾燥品の形で供給され、溶解液で該凍結乾燥品を溶解して最終的に作製されても構わない。
また、本発明の免疫測定試薬組成物キットは、各必須成分や任意成分を単独で又は混合して第一試薬、第二試薬や第三試薬等とする別々の状態又はこれらを全て混合した状態であってもよく、更に任意の構成要素、例えば緩衝剤、安定化剤、反応容器等を含んでいてもよい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、何らこれらによって限定されるものではない。
【0025】
実施例1
(I)方法と手順
(1)試薬の調製
(i)第一試薬
0.1mM DA−64(和光純薬工業社製)、20mM D−プロリン、0.1%アンヒトール24Bを含む100mM Tris−塩酸緩衝液(pH8.3)を調製し、第一試薬とした。
(ii)第二試薬
5U/mL アポ−D−アミノ酸オキシダーゼ(CALZYME社製カタログNo.176A0025)、5U/mLパーオキシダーゼ、0.1%アンヒトール24Bを含む100mM Tris−塩酸緩衝液(pH8.3)を調製し、第二試薬とした。
(iii)検体
FADを精製水に溶解し、100μMのFAD標準溶液を調製した。この標準溶液をヒト血清、もしくはEDTA・2Naを1mg/mL含有するヒト血清で希釈し、FAD濃度0.0、1.0、5.0、10.0μMのFAD含有ヒト血清もしくはEDTA添加ヒト血清を調製した。
また、対照として、EDTA加血漿を用いて、同様にFAD含有EDTA加血漿を調製した。
(2)測定手順
日立7170形自動分析装置を用いて、各FAD溶液を測定した。具体的には、第一試薬200μLに各試料液20μLを添加後37℃で5分間加温し、さらに第二試薬100μLを添加した後、37℃・5分間の700 nmにおける吸光度変化量を測定した。
【0026】
(II)結果
図1に示した如く、EDTAを含まない血清ベースでは著しく感度が低かったのに対し、EDTAを含む血清ベースを用いた場合には、対照としたEDTA加血漿ベースの場合と同程度の高い感度が得られた。また、データは示していないが、5時間後に同一検体を再度測定した場合、EDTA加血漿ベースやEDTA添加血清ベースの検体では、殆ど値が変わらなかったのに対し、EDTAを含まない血清ベースの検体では全く感度が得られず、ここへさらにEDTAを添加しても、感度の上昇は全く認められなかった。
このことから、FADは血清中の何らかの成分に非可逆的に吸着もしくは分解されていると推察されるが、EDTA等のキレート剤により該成分の影響を抑えられることが判明した。
【0027】
実施例2:テオフィリンの定量
(I)方法と手順
(1)試薬の調製
(i)第一試薬
0.1mM DA−64(和光純薬工業社製)、20mM D−プロリン、抗テオフィリン抗体、0.1%アンヒトール24Bを含む100mM Tris−塩酸緩衝液(pH8.3)に、補欠因子で標識した測定対象物質として8−テオフィリン−FAD(図2)を0.4μMとなるよう溶解し、第一試薬(EDTA(−))とした。別途、同様に、さらにEDTAを2.5mMとなるように添加した溶液を調製し、第一試薬(EDTA(+))とした。
(ii)第二試薬
5U/mL アポ−D−アミノ酸オキシダーゼ(CALZYME社製カタログNo.176A0025)、5U/mLパーオキシダーゼ、0.1%アンヒトール24Bを含む100mM Tris−塩酸緩衝液(pH8.3)を調製し、第二試薬とした。
(iii)テオフィリン含有ヒト血清サンプル
テオフィリンを精製水に溶解し、1mMのテオフィリン標準液を調製した。続いてこの標準液をヒト血清で希釈し、0、1、10、50、100、200μMのテオフィリン含有ヒト血清サンプルを調製した。
(2)測定手順
日立7170形自動分析装置を用いて、テオフィリン含有ヒト血清サンプルを測定した。具体的には、第一試薬150μLに各濃度のテオフィリン含有ヒト血清サンプルサンプル液15μLをそれぞれ添加後、37℃で5分間加温し、さらに第二試薬75μLを添加した後、37℃で5分間の波長700 nmにおける吸光度変化量を測定した。
【0028】
(II)結果
図3に示した如く、EDTA(−)の第一試薬を用いた場合と比較し、EDTA(+)の第一試薬を用いた場合には、サンプル中のテオフィリンをより高感度に定量することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明を利用することにより、被検体中の蛋白質や、ペプチド、薬剤等の低分子化合物を高感度に測定できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体中の測定対象物質に対する、アポ−フラビン酵素を用いたアポ酵素再活性化免疫測定法であって、被検体と前記アポ酵素の補欠因子で標識した測定対象物質とを作用させる系にキレート剤を共存させることを特徴とする免疫測定方法。
【請求項2】
アポ−フラビン酵素の補欠因子がフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)である、請求項1記載の免疫測定方法。
【請求項3】
アポ−フラビン酵素がアポD−アミノ酸オキシダーゼである、請求項1又は2記載の免疫測定方法。
【請求項4】
測定対象物質を含有する被検体が血液成分である、請求項1〜3のいずれか1項記載の免疫測定方法。
【請求項5】
測定対象物質に対する特異的抗体、アポ−フラビン酵素、アポ−フラビン酵素の補欠因子で標識した測定対象物質、フラビン酵素の活性を検出する試薬及びキレート剤を含有することを特徴とする免疫測定用試薬組成物。
【請求項6】
アポ−フラビン酵素の補欠因子がフラビンアデニンジヌクレオチドである、請求項5記載の免疫測定用試薬組成物。
【請求項7】
アポ−フラビン酵素がアポ−D−アミノ酸オキシダーゼであり、フラビン酵素の活性を検出する試薬がD−アミノ酸及びオキシダーゼ系によって産生する過酸化水素を検出する試薬である、請求項5又は6記載の免疫測定用試薬組成物。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項の免疫測定用試薬組成物を含有するキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−237040(P2010−237040A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85452(P2009−85452)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)