免疫組織染色を用いる細胞の解析方法
【課題】病理組織標本切片において、プログラム細胞死、癌細胞、および組織幹細胞を十分な検討ができるように判別する。
【解決手段】抗体または抗体パネルを用い、ヒトのホルマリン固定パラフィン包埋病理組織標本切片で、不可逆的アポトーシスの開始を示すcleaved caspase-3、癌細胞で出現するとされるサバイビンを含む抗アポトーシス因子(Bcl-2、Flip、AATF等)、自己貪食空胞核形成に関与するbeclin-1と空胞形成に関与するLC3、またミトコンドリアとリソソームの特異抗原について、抗原回復免疫染色を行い、腫瘍細胞の細胞死の状況とサバイビン等による悪性腫瘍細胞と組織幹細胞の同定が出来た。これらは、病理診断に新たな情報を付加し、抗腫瘍治療等の前後の病理標本解析で、治療効果等を評価できることを意味する。
【解決手段】抗体または抗体パネルを用い、ヒトのホルマリン固定パラフィン包埋病理組織標本切片で、不可逆的アポトーシスの開始を示すcleaved caspase-3、癌細胞で出現するとされるサバイビンを含む抗アポトーシス因子(Bcl-2、Flip、AATF等)、自己貪食空胞核形成に関与するbeclin-1と空胞形成に関与するLC3、またミトコンドリアとリソソームの特異抗原について、抗原回復免疫染色を行い、腫瘍細胞の細胞死の状況とサバイビン等による悪性腫瘍細胞と組織幹細胞の同定が出来た。これらは、病理診断に新たな情報を付加し、抗腫瘍治療等の前後の病理標本解析で、治療効果等を評価できることを意味する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病理組織標本切片でプログラム細胞死、癌細胞、組織幹細胞を判別する抗体または抗体パネルを用いた免疫染色に関するものである。特に詳しくは、本発明は、ヒトのホルマリン固定パラフィン包埋病理組織標本切片で、細胞死の解析、癌細胞と組織幹細胞の同定を目的に、不可逆的アポトーシスの開始を示すcleaved caspase(クリーブドカスパーゼ)-3(cCasp-3)、癌細胞で出現するとされるサバイビン(survivin)を含む抗アポトーシス(アポプトーシス)因子(Bcl-2、Flip(フリップ、FLICE-inhibitory protein(抑制性タンパク質))、AATF(apoptosis-antagonizing transcription factors(アポトーシス拮抗性の転写因子))等)、自己貪食空胞核形成に関与するbeclin(ベクリン)-1と自己貪食空胞形成に関与するLC3(microtubule-associated protein 1 light chain 3(微小管結合タンパク質1軽鎖3))の抗体の組み合わせの抗原回復免疫染色を行い、腫瘍細胞の細胞死の状況とサバイビン等による悪性腫瘍細胞と組織幹細胞の同定が出来たものである。また、本発明は、ミトコンドリア染色およびリソソーム染色を可能とする。これらは、病理診断に新たな情報を付加し、抗腫瘍治療等の前後の病理標本解析で、治療効果等を評価できることを意味している。
【背景技術】
【0002】
病理組織標本切片において、免疫組織化学的染色による種々の抗原の検出方法が試みられている。本発明者は、免疫染色法を利用した細胞の評価においてベクリン-1の抗原回復免疫染色(酵素処理超高感度免疫染色)に成功している(例えば、特許文献1、非特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-127505号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hasui(蓮井)K等、Acta Hitochem. Cytochem.(アクタ・ヒストケミカ・エト・サイトケミカ) 2008年5月30日オンライン出版; 41: 23-38
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、病理組織標本切片において、プログラム細胞死、癌細胞、組織幹細胞を十分な検討ができるように判別する方法がなかった点であり、これは本発明の免疫染色法により克服される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、動物細胞の細胞死の解析、癌細胞の同定および組織幹細胞の同定からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞状態の評価を免疫組織染色によって解析する方法であり、
(a)動物組織の試料を、内因性ペルオキシダーゼの不活化処理にかける工程、
(b)前記試料を、前記試料の抗原性を回復させるために、酵素処理及び熱処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗原回復処理にかける工程、
(c)一次抗体を前記試料中の抗原と結合させる工程であって、前記抗原と前記一次抗体との反応の前に非特異反応抑制処理を行う工程、
(d)酵素標識間接免疫染色法における前記一次抗体と結合させる標識酵素試薬を、前記一次抗体と結合させる工程であって、前記一次抗体と前記酵素標識間接免疫染色法における前記一次抗体と結合させる標識酵素試薬との反応の前に非特異反応抑制処理を行う工程、及び
(e)前記標識酵素を用いて、前記抗原を可視化させ検出する工程
を具えることを最も主要な特徴とする。
【0007】
組織中に細胞死が生じるとその細胞の残渣は、マクロファージにより処理されると考えられる。因みに、アポトーシスに陥った細胞核のDNAは断片化すると共に、アポトーシス小体としてマクロファージに貪食されて、抗一本鎖DNA抗体で細胞の断片化したDNAを検出すると、その多くはマクロファージの細胞質に検出できる。一方、マクロファージは、細胞残渣を、スカベンジャー受容体で検出して貪食する。このマクロファージのスカベンジャー受容体は、CD204として、ホルマリン固定パラフィン包埋標本切片の免疫染色で検出可能であり、細胞死の組織中でのインジケーター(指標)となると考えられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ヒト病理組織標本で、CD204陽性マクロファージの検出と共に、以下に詳細に説明する分子(クリーブドカスパーゼ(cCasp)-3、Bcl-2、Flip、AATF、サバイビン、ベクリン-1とLC3)、並びにマクロ自己貪食の対象である細胞小器官であるミトコンドリアと自己貪食リソソーム形成を見るリソソームを検出する抗体の免疫組織化学的染色で、組織中の細胞の細胞死、腫瘍性、そして、組織中の組織幹細胞を検索することができる。なお、サバイビンとLC3の染色は、従来、行われていないので、適切な抗体とその染色方法が検討された。また、サバイビンが組織幹細胞を標識することは、この検索で明らかになったことである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】アポトーシスとマクロ自己貪食細胞死の相互関係の説明図である。
【図2】5F10(0231s0104、Nanotools)の染色結果を示す図面代用写真である。
【図3】抗LC3抗体のウエスタンブロット解析を示す図面代用写真である。
【図4】ヒト壊死性リンパ節炎の病理組織標本切片でのPD014とPM036のコントロール染色を示す図面代用写真である。
【図5】ミトコンドリアの免疫染色を示す図面代用写真である。
【図6】リソソーム酵素であるカテプシンBの染色によるリソソームの検出を示す図面代用写真である。
【図7】リソソーム酵素であるカテプシンDの染色によるリソソームの検出を示す図面代用写真である。
【図8】EBV陰性NK/T細胞性リンパ腫の染色を示す図面代用写真である。
【図9】EBV陽性NKT細胞性リンパ腫(非変性領域)を示す図面代用写真である。
【図10】EBV陽性NKT細胞性リンパ腫(変性領域)を示す図面代用写真である。
【図11】LC3の染色像の変化を示す図面代用写真である。
【図12】NK/T細胞性リンパ腫の変性領域でのLC3陽性像の理解を示す図面代用写真である。
【図13】B細胞性リンパ腫におけるEBV感染の影響を示す図面代用写真である。
【図14】サバイビン陽性のNK/T細胞性リンパ腫(NKTCL)と微小扁平上皮癌(SCC)と重層扁平上皮(SE)の幹細胞(*)を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
プログラム細胞死、癌細胞、組織幹細胞のような動物細胞の形態の形成および維持を免疫組織染色によって解析するという目的を、ポリマー法、非特異反応抑制処理、および異化レポーター沈着反応を用いることによって、検出感度を損なわずに実現した。
【0011】
動物組織の形態の形成及び維持を免疫組織染色によって解析するにあたり、動物組織の試料は、内因性ペルオキシダーゼ活性の抑制処理にかけることができ、その後等に親水化することができる。
【0012】
試料は、抗原性を回復させるために、酵素処理及び熱処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗原回復処理を行うことができる。酵素処理または熱処理については特に制限されない。酵素処理は、トリプシン、プロナーゼおよびプロテイナーゼKからなる群より選ばれる少なくとも1種の酵素による処理であってよく、または酵素による処理は、それを1〜30分間行う処理でよい。熱処理は、前記切片をクエン酸緩衝溶液又はEDTA溶液のいずれかの溶液に浸漬して加熱する処理であるか、またはpH6〜8を有するクエン酸緩衝溶液による処理であるか、pH非依存性の抗原回復緩衝液による処理でよい。
【0013】
一次抗体を試料中の抗原と結合させる工程では、抗原と一次抗体との反応の前に非特異反応抑制処理を行うことができる。非特異反応抑制処理については特に制限されないが、二次抗体と同種のもののような動物血清による処理、ウシ血清アルブミンによる処理、スキムミルクによる処理、ノンファットミルクによる処理およびカゼイン溶液による処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の処理であるか、0.025〜2.5%の範囲のカゼインを含むカゼイン溶液による処理であるか、または0.5〜5%の範囲のウシ血清アルブミンを含むウシ血清アルブミン溶液による処理でよい。
【0014】
酵素標識間接免疫染色法における前記一次抗体と結合させる標識酵素試薬を、前記一次抗体と結合させる工程であって、前記一次抗体と前記酵素標識間接免疫染色法における前記一次抗体と結合させる標識酵素試薬との反応の前に非特異反応抑制処理を行うことができる。この工程では、二次抗体、担体及び標識酵素を備えるポリマー複合体を、一次抗体と結合させることができ、この際、一次抗体とポリマー複合体との反応の前に非特異反応抑制処理を行うことができる。非特異反応抑制処理については特に制限されないが、前述の処理でよい。
【0015】
標識酵素を用いて、抗原を可視化させ検出することができる。可視化反応の前に非特異反応抑制処理を行うことができる。標識酵素は、特に制限されないが、西洋ワサビペルオキシダーゼを用いることができる。非特異反応抑制処理については特に制限されない。前述のものでよい。また、必要に応じて反応前の非特異反応抑制処理を伴う異化レポーター沈着反応を追加して行うことができる。
【0016】
動物組織の試料は、特に制限されない。動物組織における細胞増殖、幹細胞の動態、細胞死等の細胞状態の評価、細胞の形態および維持を解析する等のためのものが含まれる。化学固定包埋標本の切片、またはホルマリン固定パラフィン包埋病理組織標本の切片でよい。
【0017】
動物については特に制限されない。通常はヒトであることが多いが、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サル等の哺乳類等、解析対象物や実験動物における細胞の形態および維持、特に細胞死、アポトーシスの解析、癌細胞の同定および組織幹細胞の同定を行うものが含まれる。
【0018】
一次抗体は、不可逆的アポトーシスの開始を示す因子、抗アポトーシス因子、自己貪食空胞核形成に関与する因子、空胞形成に関与する因子、ミトコンドリア検出因子、およびリソソーム検出因子からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗原の抗体を用いることができる。これらの因子は、免疫組織染色を用いることによって検出可能にでき、動物細胞の解析、同定についての重要な指標を提供する。またそれらの因子の少なくとも2種の抗体のパネルを用いることができる。
【0019】
不可逆的アポトーシスの開始を示す因子としては、例えば、クリーブドカスパーゼ(cCasp)-3、cCasp-6、cCasp-7、DNA分解酵素、CAD(Caspase Activated Dnase(カスパーゼ活性化DNアーゼ))を用いることができる。
【0020】
抗アポトーシス因子としては、例えば、サバイビン、Bcl-2、FLICE抑制性タンパク質、アポトーシス拮抗性の転写因子、Bcl-XL等を用いることができる。
【0021】
自己貪食空胞核形成に関与する因子としては、例えば、ベクリン-1、Atg6、Atg14、Vps34、Vps等を用いることができる。
【0022】
空胞形成に関与する因子としては、例えば、LC3、Atg8、Atg12等を用いることができる。
【0023】
ミトコンドリア検出因子としては、例えば、ミトコンドリア特異抗原、ミトコンドリア特異酵素等を用いることができる。
【0024】
リソソーム検出因子としては、例えば、リソソーム特異抗原、リソソーム酵素であるカテプシンD、カテプシンB、カテプシンK、カテプシンL等を用いることができる。
【0025】
抗体のパネルとしては、サバイビンの抗体またはLC3の抗体を含むものを用いることができる。
【0026】
細胞死の解析と特定因子の検出との関係は、アポトーシスとマクロ自己貪食細胞死のシグナル伝達の関係図(図1)にて理解できる。
即ち、アポトーシスでは、所謂死受容体からのシグナルは、カスパーゼ-8を経由しカスパーゼ-3に伝えられる。細胞毒性顆粒からのシグナルは、カスパーゼ-10とカスパーゼ-9を経由しカスパーゼ-3に伝えられる。Bcl-2とBcl-XLとBaxの減少(ヘテロダイマー形成)は、ミトコンドリの膜の不安定性を生じ、シトクロムcを放出させ、カスパーゼ-9経由でカスパーゼ-3にシグナルが伝えられる。小胞体ストレスでは、カルシウムが放出され、ミトコンドリ経由でシグナルはカスパーゼ-3に伝えられる。そして、不可逆的なアポプトーシスの進行はカスパーゼ-3へのアポトーシスのシグナルの伝達に次ぐクリーブドカスパーゼ-3の出現による開始される。抗アポトーシス因子であるFlip(FLICE-抑制性タンパク質)は、死受容体からのシグナルやカスパーゼ-8とカスパーゼ-10の活性化を阻害し、Bcl-2の増加はミトコンドリの膜の安定性を高め、アポトーシス拮抗性の転写因子(AATF)は増殖を刺激すると共に恐らくミトコンドリの安定性を高め、サバイビンはクリーブドカスパーゼ-3とカスパーゼ-9を阻害して、アポトーシスを抑制する。不可逆的なアポトーシスの進行を示すクリーブドカスパーゼ-3へのウサギ抗クリーブドカスパーゼ-3抗体が作製され(例えば、参考文献2等参照(以下、文献の書誌的事項は本明細書の最後にまとめて示す))、ヒトのホルマリン固定パラフィン包埋標本切片でクリーブドカスパーゼ-3を抗原回復免疫染色で検出することが可能になっている。また、カスパーゼ-3の分解過程で、抗クリーブドカスパーゼ-3抗体で検出される分解中間産物があり(例えば、参考文献3等参照)、極微量のクリーブドカスパーゼ-3を超高感度の抗原回復免疫染色で検出できたり(例えば、非特許文献1等参照)、通常の感度の抗原回復で非常に曖昧な検出像しか得られなかったりすることがある。抗アポトーシス因子であるFlip、Bcl-2、AATF、サバイビンは、抗原回復免疫染色で検出できることが明らかになっている(例えば、参考文献4、5等参照)。
【0027】
自己貪食は、リソゾーム分解系路の一つで、種々の病的刺激に対して細胞を耐えさせる機能である(例えば、参考文献6等参照)。自己貪食は、ミクロ自己貪食、シャペロン自己貪食とマクロ自己貪食に区分され、マクロ自己貪食はミトコンドリア等の細胞小器官を貪食し、それに関与する分子等が明らかになっている(例えば、参考文献6等参照)。細胞内の増殖刺激や充分量のアミノ酸は、図1に示す様に、Atg13とAtg17とAtg1が複合体を形成するマクロ自己貪食の最初の段階を抑制し(例えば、参考文献6等参照)、次ぎの自己貪食空胞核形成はAtg6/ベクリン-1とAtg14とVps34とVps15が複合体を形成するが、Bcl-2/Bcl-XLとベクリン-1の結合で抑制され(例えば、参考文献6等参照)、Atg1の強制発現の実験では自己貪食が生じて(例えば、参考文献7等参照)、小胞体ストレスによるカルシウムの放出によるか、Bcl-2やBcl-XLのベクリン-1との結合による枯渇によるミトコンドリア経路によるアポトーシスが考えられる。次ぎのマクロ自己貪食の過程はAtg8/LC3系とAtg12 系による自己貪食空胞の形成(例えば、参考文献6等参照)である。この過程で、自己貪食空胞は発達し、免疫染色で検出すると、微細顆粒状から粗大顆粒状に染色パターンが変わって行く。細胞質内のミトコンドリア等の細胞小器官はこの空胞内に取り込まれ、免疫染色では、細胞質の一部に凝集さいたミトコンドリアを検出出来る。次いで、リソゾームとの融合による自己貪食リソゾーム形成に至り、この過程では、免疫染色でリソゾ-ムの酵素を検出すると、細胞質に顆粒状に検出される。自己貪食リソゾームで貪食された細胞小器官が充分に消化されないか、マクロ自己貪食が亢進して、多数の自己貪食空胞が形成されて来る場合には、結果として細胞質に自己貪食空胞が過剰に蓄積し、LC3の免疫染色では細胞質の疲弊に伴い核周囲ないし核を染色するような濃厚な陽性像が得られ、自己貪食細胞死の免疫染色所見を示す。このような自己貪食細胞死が、細胞等が変性壊死を示さない場合には、定常的な自己貪食細胞死を示すと評価される。一方、このような自己貪食細胞死が、細胞等が変性壊死を示す場合には、病的な自己貪食細胞死を示すと評価される。
【0028】
癌細胞の同定と特定因子の検出との関係は、癌細胞のみを同定する因子は未だに見い出されていないが、消化器系の癌細胞とその胎児組織細胞で共通して見られる因子(例えば、癌胎児性抗原(Carcinoembryonic antigen)やアルファ胎児蛋白(alpha-fetoprotein)等)が見い出されているが、個々の成人組織細胞への分化を示す癌細胞の特異な因子と理解されている。サバイビンは、アポトーシスの不可逆的bな反応の鍵分子であるクリーブドカスパーゼ-3を阻害すると共に細胞増殖に効果を示し(例えば、参考文献8、9等参照)、p53蛋白による抑制される(例えば、参考文献10等参照)。また、サバイビンは、腫瘍細胞や胎児組織で発現しており(例えば、参考文献8、9等参照)、その腫瘍における発現がプロモーターの遺伝子多型や遺伝子のメチル化や非メチル化の影響を受けておらずに、腫瘍の誘導に関してはそれ程重要な機能をしていないことが示唆されている(例えば、参考文献11等参照)。その一方で、エプスタインバーウイルス(EBV)のLMP2Aで、EBV関連胃癌では、サバイビンの高発現が報告されている(例えば、参考文献12等参照)。したがって、サバイビンの検出は、いろいろな成体分化細胞の癌に検出される特異因子であると考えられる。図14に示す鼻咽頭リンパ腫に見られる上皮の上皮腫様過形成病変ンは、サバイビン陽性であることから、非常に小さな扁平上皮癌であると同定された。
【0029】
組織幹細胞の同定と特定因子の検出との関係は、組織幹細胞を胎児性幹細胞(ES)や誘導多分化能幹細胞(iPS)のマーカー遺伝子の産物への抗体で標識することが試みられているが、これらの幹細胞マーカーと共にCD34やCD133は、消化管上皮幹細胞の標識には不向きで、CD117のみが用いることが出来ることが判明している(例えば、非特許文献1等参照)。腫瘍細胞と胎児組織等で発現する所謂癌胎児抗原の一つであるサバイビンは、骨髄組織幹細胞にも見い出され(例えば、参考文献8、9等参照)、図14に示す様に、鼻腔扁平上皮の組織幹細胞を標識することが見い出された。サバイビンは、inhibition of apoptosis(IAP、アポトーシスの抑制)のファミリーに属し、そのバリアントには、サバイビン、サバイビン2B、サバイビン-DeltaExon(デルタエキソン)3等がある。サバイビンとサバイビン2Bは細胞質に局在し、アポトーシスでのクリーブドカスパーゼ-3の抑制に関与し、サバイビン-デルタエキソン3はG2/M期の細胞の核において、紡錘糸と共に存在することが知られている(例えば、参考文献8、9等参照)。図14に示す様に、サバイビンは、鼻腔扁平上皮の組織幹細胞の核を標識し、癌細胞の核も標識することから、サバイビン-デルタエキソン3が標識するG2/M期の細胞は組織幹細胞や癌幹細胞である可能性が高い。免疫染色にて、サバイビン陽性核を検出することで、成人分化組織中の組織幹細胞や癌組織中の癌幹細胞を標識できる可能性がある。
【実施例】
【0030】
(検索1の要約)
本発明者は、エプスタインバーウイルス(EBV)関連鼻リンパ腫における細胞死の免疫組織化学的検索において、鼻腔のEBV関連NK(ナチュラルキラー)/T-細胞性リンパ腫(NK/T-ML)の壊死傾向を検討する為に、25例のNKT-MLのホルマリン固定パラフィン包埋保存生検標本切片を用い、アポトーシスの不可逆的進行をクリーブドカスパーゼ-3(cCasp-3)で標識し、抗アポトーシス因子であるBcl-2、Flip、AATF、サバイビンの発現を検索し、自己貪食の分子マーカーであるベクリン-1とLC3の発現を検索し、また、CD204陽性マクロファージも検索している。典型的なNK/T細胞性リンパ腫は不定形の裸核様細胞破片を含む壊死を示した。リンパ腫細胞はCD204陽性マクロファージの粗大な網目構造を背景に増殖し、EBVのencoded small RNA-1(コード化小RNA-1)(EBER-1)シグナルを示した。壊死近辺のリンパ腫細胞はTIA1(TIA1/Coulter Immunology(クールター・イムノロジー社))の顆粒状陽性像を示した。cCasp-3陽性リンパ腫細胞を認めずに、リンパ腫細胞は、Bcl-2を弱く発現し、Flipを微弱に発現し、AATFを発現せずに、サバイビンを細胞質と核に強く発現した。また、リンパ腫細胞はベクリン-1とLC3を発現し、LC3の細胞質の粗大顆粒状陽性所見と裸核様細胞破片の濃染を示した。これらの所見は、NK/T-MLでは、サバイビン強発現でアポトーシスは抑制されており、自己貪食の亢進とその結果の細胞死が特異な壊死を生じていることを示唆した。
【0031】
(検索2の要約)
エプスタインバーウイルス(EBV)関連の鼻NK/T細胞性リンパ腫は異型上皮過形成病変を伴うことが知られている。最近の疫学的研究は殺虫剤等がこのリンパ腫発生の外因の一つであることを示唆している(例えば、参考文献13等参照)。本発明者は、鼻リンパ腫の外因には発癌性幹細胞刺激が含まれるかどうか、中国東北地方の鼻悪性リンパ腫の病理疫学的・免疫組織学的検索を行っている。130例余りの中国東北地方の鼻リンパ腫の臨床診断下に生検された標本を、リンパ腫の細胞形質、細胞死の様相を免疫組織化学的に、EBVの感染をEBER-1-インサイツ・ハイブリダイゼーション(ISH)で検索している。その結果、82例(63%)のT-ML、33例(25%)のB細胞リンパ腫(B-ML)、5例(3.8%)の早期微小低分化扁平上皮癌(CA)が観察された。EBER-1 ISHでは、鼻腔と咽頭の比較では、より多くのEBER-1陽性鼻腔リンパ腫が観察され、EBER-1陽性NK/T-MLとB-MLの鼻腔での有意な発生(p=0.04、p=0.03)が示されたが、EBER-1陽性Caの2例は咽頭にのみ見い出され、鼻腔でもEBER-1陰性NK/T細胞性リンパ腫を1例認めた。また、鼻腔病変の異型扁平上皮は、リンパ腫細胞と同様に、幹細胞をも標識する抗アポトーシス因子であるサバイビン陽性の基底ないし傍基底細胞の増加を示した。この結果から、鼻腔ではEBV関連T-MLとB-MLを、咽頭ではEBV関連CAの発生を招くEBV感染と外因等による微小環境には、発癌性幹細胞刺激が含まれていると考えられた。
【0032】
(検索3の要約)
鼻咽頭リンパ腫の特異な壊死はEBV感染下のマクロ自己貪食亢進による細胞死である。本発明は36例の病理標本切片で自己貪食関連のベクリン-1、LC3、ミトコンドリアとリソゾームのカテプシンDの抗原回復免疫染色を行い、EBV関連鼻咽頭リンパ腫の特異な壊死の発生機序を検討したことに基づく。壊死を伴わない例(EBV-NKTCLの2例、EBV+NKTCLの3例、早期EBV+NKTCLの1例、2例のEBV+細胞障害性T細胞性リンパ腫(EBV+cTL)の2例、B細胞性リンパ腫(BL)の7例)は、ベクリン-1とLC3の微細顆粒状染色を背景に粗大顆粒状染色、僅かな細胞でのLC3濃染、ミトコンドリアの凝集、カテプシンDのNKTCL、cTL、BLの順での強発現を示し、定常的なマクロ自己貪食を示唆した。壊死を伴う例(EBV+NKTCLの19例、cTLの1例、EBV+BLの1例)は、変性領域で、LC3の微細顆粒状染色の低下と粗大顆粒状染色の増強とミトコンドリアの顕著な凝集を示した。壊死領域では、LC3の核染様陽性像を示し、僅かな裸核様細胞に少数の凝集したミトコンドリアを示し、EBV感染下でのマクロ自己貪食の亢進よる自己貪食細胞死を示唆した。
【0033】
詳細には、本研究の目的としては、鼻リンパ腫は、エプスタインバーウイルス(EBV)関連のリンパ腫であると共に、壊疽性鼻炎として見出された様に特異な壊死傾向を示す。本発明者の前記の検索1と2にて、この鼻リンパ腫の壊死傾向が、サバイビンによるクリーブドカスパーゼ-3の抑制によりアポトーシスによるものでなく、ベクリン-1とLC3で標識されるマクロ自己貪食によるものであり、LC3の粗大顆粒状染色がマクロ自己貪食の亢進を示唆し、LC3が自己貪食細胞死の細胞を濃染することを明らかにした。本発明者の前記の検索3は、そのマクロ自己貪食の対象であるミトコンドリアと自己貪食リソゾームの酵素の一つであるカテプシンDの免疫染色を加えて、鼻リンパ腫におけるマクロ自己貪食と自己貪食細胞死を更に解析した。
【0034】
材料と方法について、検索に用いたのは、EBV陰性NK/T細胞性リンパ腫(2例、壊死を示さない。)、EBV陽性NK/T細胞性リンパ腫(22例、19(86%)例は壊死傾向を示す。)、早期NK/T細胞性リンパ腫(1例)、EBV陽性細胞障害性T細胞性リンパ腫(3例、1例は壊死傾向を示す。)、EBV陽性CD5陽性DLBL(2例)、DLBL(4例、1例はEBV陽性)、EBV陽性辺縁域B細胞性リンパ腫(2例、1例は巣状の壊死を示す。)の36例の鼻咽頭リンパ腫の保存病理標本の切片である。この研究は、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科の疫学研究の倫理委員会と中国医科大学の国際共同研究の倫理審査を受けている。ベクリン-1は酵素処理抗原回復超高感度免疫染色で、LC3と抗ミトコンドリア抗体(AE-1)と抗カテプシンD抗体(NCL-CDm)はpH非依存熱処理抗原回復ポリマー法(ChemMate Envision(ケムメート・エンビジョン))で、自動免疫染色装置で染色した。
【0035】
結果としては、EBV陰性NK/T細胞性リンパ腫では、ベクリン-1は強発現し、LC3は多くの細胞は微細顆粒状の染色を僅かな細胞は粗大顆粒状の染色を極僅かな細胞は細胞質の濃染を示し、AE-1は僅かな細胞でミトコンドリアの凝集傾向を示し、NCL-CDmは微弱な発現を示す細胞を認めた。また、間質のマクロファージと思われる細胞の細胞質のNCL-CDmの濃染も認めた。
【0036】
EBV陽性NK/T細胞性リンパ腫で特異な壊死を示さない例では、LC3で多くの細胞が粗大顆粒状染色を示す例も認めるが、基本的に前記のEBV陰性NK/T細胞性リンパ腫と同様の所見を示した。
【0037】
EBV陽性NK/T細胞性リンパ腫で特異な壊死を示す例では、細胞性領域、変性領域、壊死領域で、異なる染色所見が見られた。細胞性領域では、EBV陰性NK/T細胞性リンパ腫を同様の染色所見が見られたが、LC3の染色では粗大顆粒状染色を示す細胞が多く、NCL-CDmの染色では微弱な陽性細胞を僅かに認めるのみであった。変性領域では、ベクリン-1の発現は低下し、LC3の染色では微細顆粒状染色の低下を粗大顆粒状染色の顕著化が見られ、それに対応して、AE-1の染色では多くの細胞がミトコンドリアの凝集傾向を示し、NCL-CDmの染色では陽性細胞を認めなかった。裸核様細胞を含む壊死領域では、ベクリン-1の発現はなく、LC3は裸核様細胞を含むゴースト細胞の核濃染を示し、AE-1の染色では裸核様細胞の一部で凝集したミトコンドリアが見られ、NCL-CDmの染色では陽性細胞を認めなかった。
【0038】
EBV陽性早期NK/T細胞性リンパ腫では、EBV陰性NK/T細胞性リンパ腫と同様の所見を示した。
【0039】
EBV陽性細胞障害性T細胞性リンパ腫では、1例の特異な壊死を示す例では、壊死傾向を示すNK/T細胞性リンパ腫と同様の所見を認めたが、その他の例を含めて、NCL-CDm陽性細胞を多く認めた。
【0040】
B細胞性リンパ腫では、壊死を示さない例では、ベクリン-1の強発現、LC3染色での細胞質の微細顆粒状染色に加えて多くの細胞で粗大顆粒状染色が見られた上に細胞質が濃染する少数の細胞が見られ、AE-1染色でのミトコンドリアの常習傾向は強く、NCL-CDm染色での強発現細胞を多く認めた。特異な壊死を巣状に示した辺縁域B細胞性リンパ腫の1例では、細胞性領域では、他のB細胞性リンパ腫と同様の所見であったが、巣状壊死領域では裸核様細胞を僅かに認めたが、AE-1染色での裸核様細胞でのミトコンドリアの残留が認められずに、NCL-CDm陽性細胞も認めなかった。
【0041】
これらの所見を、特異な壊死を示す例と示さない例で整理すると、特異な壊死を示さない例では、定常的(ホメオスタチック)なマクロ自己貪食が生じており、その状態では、ベクリン-1は発現し、LC3は細胞質に微細顆粒状染色を背景に粗大顆粒状染色を示し、散在的に存在する一部の自己貪食細胞死直前の細胞がLC3の細胞質濃染を示し、AE-1陽性のミトコンドリアはLC3の粗大顆粒状染色に対応した凝集を示し、マクロ自己貪食リソゾームのカテプシンDの発現はNK/T細胞性リンパ腫細胞、細胞障害性T細胞性リンパ腫細胞、B細胞性リンパ腫の順で発現増強を見られた。一方、特異な壊死を示す例では、細胞性領域と変性領域と壊死領域で、壊死に向かう連続的な変化、すなわち、ベクリン-1の発現低下、LC3の粗大顆粒状染色の増強とその後の核染色様染色への移行、AE-1陽性ミトコンドリアの凝集の増強とその後の減少、カテプシンDの発現低下が観察察され、EBV感染下でのマクロ自己貪食の亢進とそれに続発するリソゾームの総体的な機能低下が、LC3陽性マクロ自己貪食空胞の細胞質内蓄積を生じ、代謝障害として自己貪食細胞死が生じていることが示された。
【0042】
考察すると、マクロ自己貪食は、発現誘導後に、ベクリン-1の関与する自己貪食二重膜空胞核形成、LC3の関与する二重膜空胞伸長と癒合(細胞小器官の貪食)、自己貪食空胞とリソゾームの融合による自己貪食リソゾーム形成、そして、細胞小器官の消化による細胞エネルギー源の確保と進展するが、自己貪食細胞死が如何に生じるかは解明されていない。また、LC3の染色にて、細胞変性とマクロ自己貪食細胞死による壊死にて、染色パターンが異なることは、本発明者が初めて見出した所見であり、他の研究者は、実験的な自己貪食の研究では見出されていないと個人的なコミュニケーションにて述べている。この研究で、(1)LC3の粗大顆粒状染色は、ミトコンドリアの凝集染色パターンに相当し、ミトコンドリア/細胞小器官を貪食したマクロ自己貪食空胞の染色パターンであることが判明し、(2)リンパ腫の亜型により、リソソームの発現をカテプシンDの発現で見ると、B細胞性リンパ腫細胞、細胞障害性T細胞性リンパ腫細胞、NK/細胞性リンパ腫細胞の順に低下し、EBV感染例では更に低下していることが明らかになり、(3)マクロ自己貪食が亢進しても、リソソーム(自己貪食リソソーム)の発現が十分な細胞では、散発的な細胞死しか生じておらず、EBV感染症例での変性領域と壊死領域では、(4)LC3の核濃染の細胞数が裸核様細胞数より圧倒的に多く、(5)凝集したミトコンドリアの壊死領域での裸核細胞様細胞での残存がリソソームの発現の低い細胞障害性T細胞性リンパ腫やNK/T細胞性リンパ腫で認められることは、リソソーム/カテプシンDの発現を十分に検出していない例でもある程度の貪食されたミトコンドリアの消化は行われているが十分ではないことが明らかになった。これらの所見は、鼻咽頭リンパ腫における特異な壊死は、EBV感染にてリソソームの産生ないし活性の低下により、やはりEBV感染にて亢進したマクロ自己貪食に対応出来ずに、また、亢進したマクロ自己貪食亢進の結果のリソソームの産生の低下により、細胞質内での細胞小器官を貪食したマクロ自己貪食空胞の過剰蓄積による代謝障害であることを示唆した。
【0043】
プログラム細胞死(Programmed cell death: PCD)は、一般に、アポトーシス(PCD I型)[参考文献14、15]、マクロ自己貪食細胞死 (PCD II型)[参考文献6]、その他のもの(PCD III型)に区分される。
【0044】
図1に、アポトーシスとマクロ自己貪食細胞死の関連分子の関係を示す。アポトーシスとマクロ自己貪食細胞死のシグナルは、小胞体とミトコンドリアにて、交叉している。
【0045】
アポトーシスでは、所謂死受容体からのシグナルは、カスパーゼ-8を経由しカスパーゼ-3に伝えられる。細胞毒性顆粒からのシグナルは、カスパーゼ-10とカスパーゼ-9を経由し、カスパーゼ-3に伝えられる。Bcl-2とBcl-XLとBaxの減少(ヘテロダイマー形成)は、ミトコンドリアの膜の不安定性を生じ、シトクロムcを放出させ、カスパーゼ-9経由でカスパーゼ-3にシグナルが伝えられる。小胞体ストレスでは、カルシウムが放出され、ミトコンドリア経由でシグナルはカスパーゼ-3に伝えられる。そして、不可逆的なアポトーシスの進行はカスパーゼ-3へのアポトーシスのシグナルの伝達に次ぐクリーブドカスパーゼ-3の出現によって開始される。抗アポトーシス因子であるFlipは、死受容体からのシグナルやカスパーゼ-8とカスパーゼ-10の活性化を阻害し、Bcl-2の増加はミトコンドリアの膜の安定性を高め、AATFは増殖を刺激すると共におそらくミトコンドリアの安定性を高め、サバイビンはクリーブドカスパーゼ-3とカスパーゼ-9を阻害して、アポトーシスを抑制する。
【0046】
不可逆的なアポトーシスの進行を示すクリーブドカスパーゼ-3へのウサギ抗クリーブドカスパーゼ-3抗体が作製され[参考文献2]、ヒトのホルマリン固定パラフィン包埋標本切片でクリーブドカスパーゼ-3を抗原回復免疫染色で検出することが可能になっている。また、カスパーゼ-3の分解過程で、抗クリーブドカスパーゼ-3抗体で検出される分解中間産物があり[参考文献3]、極微量のクリーブドカスパーゼ-3を超高感度の抗原回復免疫染色で検出でき[非特許文献1]、通常の感度の抗原回復で非常に曖昧な検出像が得られることがある。抗アポトーシス因子であるFlip、Bcl-2、AATF、サバイビンは、抗原回復免疫染色で検出できることが明らかになっている[参考文献4、5]。
【0047】
さらに、サバイビンは、クリーブドカスパーゼ-3を阻害すると共に細胞増殖に効果を示し[参考文献8、9]、p53蛋白により抑制される[参考文献10]。また、サバイビンは、腫瘍細胞や胎児組織で発現しており[参考文献8、9]、その腫瘍における発現がプロモーターの遺伝子多型や遺伝子のメチル化や非メチル化の影響を受けておらずに、腫瘍の誘導に関してはそれ程重要な機能をしていないことが示唆されている[参考文献11]。その一方で、エプスタインバーウイルス(EBV)のLMP2Aで、EBV関連胃癌では、サバイビンの高発現が報告されている[参考文献12]。したがって、サバイビンの検出は、ヒト成体の組織細胞での検出において、その細胞の腫瘍性性格とアポトーシスが抑制された状態であること意味する。
【0048】
自己貪食は、リソソーム分解系路の一つで、種々の病的刺激に対して細胞を耐えさせる機能である[参考文献6]。自己貪食は、ミクロ自己貪食、シャペロン自己貪食とマクロ自己貪食に区分され、マクロ自己貪食は細胞小器官を貪食し、それに関与する分子等が明らかになっている[参考文献6]。細胞内の増殖刺激や充分量のアミノ酸は、Atg13とAtg17とAtg1が複合体を形成するマクロ自己貪食の最初の段階を抑制し[参考文献6]、次の自己貪食空胞核形成はAtg6/ベクリン-1とAtg14とVps34とVps15が複合体を形成するが、Bcl-2/Bcl-XLとベクリン-1の結合で抑制され[参考文献6]。Atg1の強制発現の実験では自己貪食が生じて[参考文献7]、小胞体ストレスによるカルシウムの放出によるか、Bcl-2やBcl-XLのベクリン-1との結合による枯渇によるミトコンドリア経路によるアポトーシスが考えられる。次のマクロ自己貪食の過程はAtg8/LC3系とAtg12 系による自己貪食空胞の形成[参考文献6]であり、次いで、リソソームとの融合による自己貪食リソソーム形成に至り、詳細な機序は現在不明であるが、結果的に、自己貪食細胞死に至る。本発明者は、ベクリン-1の抗原回復免疫染色(酵素処理超高感度免疫染色)に成功している[前記非特許文献1、特許文献1、それらの詳しい書誌的事項はまとめて示す非特許文献1、特許文献1の詳細を参照]。
(1)用いた抗体と免疫染色:
【0049】
検索に用いた抗体(リンパ腫の免疫学的形質の検出の為の抗体は除く)は表1に示した。抗体は、Dako(ダコ社)抗体希釈液で、表1に示す希釈濃度の溶液を一次抗体溶液として用いた。脱パラフィンされた切片は、内因性ペルオキシダーゼの不活処理(0.3%過酸化水素メタノール溶液に20から30分間浸すか、3%過酸化水素リン酸緩衝液で5分間処理する)後に、表1に示す抗原回復処理を行った。
【0050】
Bcl-2とTIA1は、通常のpH6の0.01Mクエン酸緩衝液中に切片を入れて、オートクレーブで熱処理を行った。クリーブドカスパーゼ-3とCD204は、従来、pH9以上のEDTA溶液での熱処理を行っていたが、この検索では、Flip、AATF、サバイビンとLC3と同様に、pH非依存性の抗原回復用のクエン酸緩衝液での熱処理を行った。ベクリン-1は、酵素処理による抗原回復を行った。
【0051】
反応した一次抗体の検出は、ベクリン-1以外は、通常感度の酵素標識抗体法のポリマー法で、ベクリン-1は超高感度法で検出した。検出の可視化は、DAB過酸化水素ペルオキシダーゼ反応で、ポリマー法は10分間、超高感度法は4分間反応させた。
【0052】
核をヘマトキシリンで染色し、脱水、透徹後に、プラスチック封入した。酵素処理以外の抗原回復処理後の処理は、自動免疫染色装置で行い、その洗浄用緩衝液は、35℃ないし45℃に加温した0.1%トゥイーン(Tween)と塩添加トリス緩衝液(加温(warmed)TBST)を用いた。
【0053】
【表1】
【0054】
抗サバイビン抗体は、当初、ダコ社のもの(M3624)を使用したが、充分な陽性染色所見が超高感度法でも得られずに、Abcam(アブカム社)のab469を使用した。
【0055】
図2に抗LC3抗体である5F10(0231s0104、Nanotools(ナノツールズ社))の染色結果を示す。壊死性リンパ節炎の標本切片を用いて、左から、抗原処理なし(NoAR)、プロテイナーゼ(Proteinase)K処理(ProK)、0.01Mクエン酸緩衝液pH6中での熱(オートクレーブ)処理(Cit)、pH10での高pHのEDTAでの熱処理(EDTA)を示し、上段は通常感度法(ポリマー法)での検出を、下段は超高感度法での検出を示す。通常感度では、高pHのEDTAでの熱処理で、染色陽性像を一部の細胞に認めたが、超高感度染色では、陽性染色所見と認めずに、非特異反応と判断された。しかし、pH6のクエン酸緩衝液での抗原回復では、淡い陽性染色像を、超高感度染色で認めた。しかし、余りに弱い陽性染色所見であり、5F10のヒト病理組織標本でのLC3染色能は非常に低いと判断された。
【0056】
抗LC3抗体の染色では、最初に、5F10(0231s0104、Nanotools)を試したが、図2に示す様に、ヒト病理組織標本の抗原回復免疫染色では、5F10のLC3染色能は充分でないことが判明した。東京医科歯科大学の水島昇教授に、よりヒト病理組織標本でのLC3標識能の高い抗体の有無をお聞きした所、MBL(株式会社 医学生物学研究所)の2つの抗体(PD014/ MBL、PM036/ MBL)を紹介して頂いた。
【0057】
そこで、5F10と共に供給されていた神経細胞株Neuro(ニューロ)2Aの細胞溶解液のウエスタンブロット解析を行った。図3に示す様に、LC3の自己貪食空砲の二重膜に存在するLC3-IIは、5F10では標識されずに、PD014とPM036で標識された。因みに、LC3-IIは、LC3-Iのリン脂質化されたものである。
【0058】
図3には、抗LC3抗体のウエスタンブロットの解析を示した。そこでは、飢餓刺激したNeuro 2A細胞の溶解液20μLを、9.4%SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-polycrylamide gel electrophoresis:SDS-PAGE)で泳動し、ナイロン膜(Immobilon-P(イモビロン-P)メンブラン(膜)、Millipore(ミリポア社)、Bedford(ベッドフォード)、MA(米国マサチューセッツ州))に転写した。そのナイロン膜に、図3に示す1から3(Nanotoolsからの5F10(0231s0104)、MBLからのPD014、PM036)の一次抗体溶液(表1の希釈倍率の更に100〜1000倍の希釈)と4℃で一晩反応させた。ペルオキシダーゼ標識二次抗体(1:2000希釈)溶液を室温で1時間反応させた。このウエスタンブロットの結果は、エンハンスト化学発光(enhanced chemoiluminescence)で検出した。
【0059】
したがって、PD014とPM036の抗LC3抗体のヒト組織での染色への適合性を、図4に示すコントロール染色で検討した。その結果、PM036によるpH6のクエン酸緩衝液での熱抗原回復と通常感度法でのLC3の検出が一見すると非特異反応が少なく、PM036によるpH非依存性の抗原回復と通常感度法でLC3をより強く検出したことから、一定のpHで規定された抗原回復よりも、pHで規定されない抗原回復がより強い抗原回復を示すことが確認されたことから、この研究用の切片の検索にPM036を用いることにした。
【0060】
図4に示す検索の評価は、pH6以外で回復してくるLC3のエピトープによってのPM036によるpH非依存性の抗原回復と通常感度法でのLC3の検出の方がより良いであろうという推測に基づいているので、実際の検索で確認する必要がある。
【0061】
図4は、ヒト壊死性リンパ節炎の病理組織標本切片でのPD014とPM036のコントロール染色を示したものである。pH6のクエン酸緩衝液とpH非依存性の抗原回復溶液(塩濃度を調節されたクエン酸緩衝液(Diva Decloaker(ダイバ・デクロエーカー)、Biocare Medical(バイオケア・メディカル社))で抗原回復して、PD014とPM036の抗体の通常感度検出(ポリマー法)を行った。その結果、PD014は、両者の抗原回復にて、陽性所見を示した(右2列の写真、上段はリンパ濾胞中心を認めるリンパ節部分。下段はそのリンパ節の周辺部分で、動脈と静脈を認める)。一方、PM036は、pH非依存性の抗原回復ではPD014と同様の所見を示し、静脈の中の白血球等の陽性所見も示した(左から2列目下段)が、pH6のクエン酸緩衝液での回復では、その白血球等の陽性所見が見られなかった。したがって、PM036を用いたpH非依存性の抗原回復と通常感度でのLC3の検出が血球等の悪性腫瘍を検討する方法としてはより適していると判断した。
【0062】
次に、マクロ自己貪食の対象である細胞小器官の中のミトコンドリアの染色方法を検討した。図5に示すように、通常の化学固定された病理組織標本でも、ミトコンドリアを染色することが可能であることが判明した。また、リソソームの染色では、図6と図7に示すように、カテプシンBでは十分な染色結果が得られなかったが、カテプシンDでは十分な陽性所見が得られることが判明した。
【0063】
図5はミトコンドリアの免疫染色を示す。抗ミトコンドリア抗体(AE-1/Leinco Technologie Inc.(レインコ・テクノロジー社))を用いて、熱処理による抗原処理なしと、pH非依存性の熱処理による抗原回復とで、ポリマー法による抗体希釈×50、×100、×500での染色を検討し、右図に示すように、熱による抗原回復と×50の抗体希釈にて、リンパ組織の細胞のミトコンドリアを検出できることを確認した。写真の下段左側および中央は、上段の皮質部分(×20)を更に2倍に拡大したものである。
【0064】
図6はリソソーム酵素であるカテプシンBの染色によるリソソームの検出を示す。抗カテプシンB抗体(NCL-CATH-B(CB131)/visionbiosystems(ビジョンバイオシステムズ)、Novocastra(ノボカストラ))のpH非依存性の熱による抗原回復で、抗体希釈はデータシートにあった×50によりポリマー法での検出を試みたが、淡い陽性像を認めるのみであった。写真は、いずれも×40の倍率であり、中央および右側は髄質部分のものである。
【0065】
図7はリソソーム酵素であるカテプシンDの染色によるリソソームの検出を示す。抗カテプシンD抗体(NCL-CDm(C5)/visionbiosystems、Novocastra)を用いて、pH非依存性の熱による抗原回復で、抗体希釈はデータシートにあった×100によりポリマー法での検出を試み、多くの細胞でリソソームの検出が可能であることが判明した。写真の上段は皮質のもの、下段は髄質のものである。中央および右側はいずれも、×40の倍率のものである。
(2)検索したヒト病理組織標本:
【0066】
検索に用いたのは、ヒトの鼻悪性リンパ腫を疑って生検された40例のホルマリン固定パラフィン包埋病理標本の切片である。悪性リンパ腫の免疫学的形質の検索には、CD3ε(NCL-CD3-PS1/Vision Biosystems(ビジョン・バイオシステムズ社))、CD5(NCL-CD5-4C7/Vision Biosystems)、CD79a(M7050/Dako)、TIA1(TIA1/Coulter Immunology(クールター・イムノロジー社))、CD56(NCL-CD56-IB6/Vision Biosystems)を用いた。
【0067】
因みに、CD3ε陽性例はT細胞ないしNK細胞性リンパ腫であり、CD5陽性の場合もある。CD3ε細胞質陽性に加えてTIA1陽性でCD56陽性であればNK/T細胞性リンパ腫であり、この形質からCD56が陰性となると、細胞傷害性(cytotoxic)T細胞性リンパ腫となる。また、CD79aが陽性であればB細胞性リンパ腫であり、CD5が陽性になる例もある。基本的には、WHO(世界保健機関)の分類[参考文献16]に従って分類を行っている。
【0068】
(3)免疫染色の評価:
この研究に用いた免疫染色は、35℃ないし45℃に加温した洗浄緩衝液での反応前後の処理により室温よりも高い一定の温度で反応を行い、自動染色装置を用いて、反応時間も基準化してあり、反応の定量性もあるかと思われるが、この検索では、免疫染色標本の画像を記録し、その画像上で、明らかに陽性な細胞が、無い(0)、陽性細胞が2、3個ある(1)、かなりの細胞が陽性である(2)、多くの細胞が陽性である(3)、ほとんどの細胞が陽性である(4)の5段階評価を行った。
(4)結果と考察:
【0069】
検索した40例のリンパ腫は、エプスタインバーウイルス(EBV)非関連NK/T細胞性リンパ腫(n=2)、EBV関連NK/T細胞性リンパ腫(n=21)、早期NK/T細胞性リンパ腫(n=1)、細胞傷害性T細胞性リンパ腫(n=5)、CD5+陽性DLBL(Diffuse Large B-cell Lymphoma(瀰漫性大型B細胞性リンパ腫))(n=2)、DLBL(n=6)、MzBL-MALT(Marginal zone B-cell lymphoma-mucosa-associated lymphoid tissue type(辺縁帯B細胞リンパ腫-粘膜関連リンパ組織種類))(n=2: EBV+)、コンポジットリンパ腫(MzBL-MALT+と細胞傷害性T細胞性リンパ腫の合併例)(n=1)であった。
【0070】
以下の注1に示すEBVのencoded small RNA-1(コード化小RNA-1)(EBER-1)のインサイツハイブリダイゼーション(in-situ hybridization、ISH)にて、EBV感染の有無を判断した。その染色結果は、0:陽性細胞無し、1:僅かな陽性細胞、2:少数の陽性細胞、3:多くの陽性細胞、4:ほとんどの細胞が陽性の5つの評価システムで行い、0と1の評価の症例は、EBV非関連症例とした。従来、EBV関連細胞株でのEBVゲノムの欠失クローンが生じることが知られているが、EBV感染が感染細胞に影響を及ぼすには、EBVゲノムの存在が必須であると考えられるので、このような症例のある可能性を考慮しつつ、EBV非関連症例とした。
(注1)EBV コード化小RNA-1(EBER-1)のインサイツハイブリダイゼーション(ISH):EBV感染のLatency 0 phase(潜伏0相)の検出:
【0071】
EBV感染は、インビボ(生体内)でのEBVゲノムの感染細胞での発現パターンで、潜伏感染の段階分けが行われている。EBER-1のISHによる検出は、潜伏0の特徴とされており、EBV感染細胞の全てでの発現があるとされている。
【0072】
この検索が多く含むNK/T細胞性リンパ腫(NKTCL)鼻型は、潜伏2のEBVゲノムの発現があるとされているが、それを示唆する感染ホスト(宿主)には免疫不全状態は把握されていないことから、このEBVの潜伏感染の時期のEBVゲノムの発現パターンによる分類には限界があると現在理解されている。
【0073】
EBER-1のISHは、Tokunaga(トクナガ)等の方法[参考文献17]で記述される。脱パラフィンした切片を、プロテイナーゼKにより37℃で30分間処理して、脱水乾燥する。ジゴキシゲニン標識のプローブを37℃で3時間以上ハイブリダイズさせる。結合したプローブのジゴキシゲニンをアルカリホスファターゼ(AlP)標識の二次抗体で検出して、AlP-Nitro blue tetrazolium chloride(NBT、ニトロ・ブルー・テトラゾリウム・クロライド)/5-Bromo-4-chloro-3-indolyl phosphate, toluidine salt(BCIP、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェート、トルイジン塩)活性反応で呈色させる(DIG-nucleic acid detection kit(核酸検出キット)、1175041、Roche(ロシュ社))。メチルグリーンによる核染の後に、脱水して、封入した。陽性コントロールとしては、EBV関連胃癌の標本切片を同時に同様にして反応させた。
【0074】
EBV非関連および関連のNK/T細胞性リンパ腫(NK/T細胞リンパ腫: NKTCL)は、表2に示す様に、間質に、CD204陽性マクロファージの介在が認められ、図8、9、10のCD204染色像が示す様に、CD204陽性マクロファージは、NKTCLの背景に、その細胞突起の網目構造を作っていた。このCD204陽性マクロファージは、表3に示す様に、NKTCLと細胞傷害性T細胞性リンパ腫(Cytotoxic T-cell lymphoma: 細胞傷害性T-ML)に特異的に分布して、図10に示す様に、NKTCLの変性領域では、NKTCL細胞と同様に変性傾向を示して、壊死部では(図は非提示)、消失して、NKTCLや細胞傷害性T-MLのリンパ腫細胞と共生関係にある細胞であり、ただ単に、リンパ腫細胞の壊死を処理しているだけのマクロファージでないことが示唆された。また、このCD204陽性マクロファージの介在はNKTCLと細胞傷害性T-MLの病理診断にも有用な検索項目であることが判明した。
【0075】
NKTCLのEBV関連症例は、表2に示す様に、また、WHO分類で特異なアポトーシス小体を伴う凝固壊死と表現されている変性壊死を示した。
【0076】
細胞毒性顆粒(Cytotoxic granules)は、この検索では、TIA1で検出しているが、NKTCLも、細胞傷害性T-MLも、リンパ腫細胞が顆粒状の陽性所見を示した。さらに、変性領域でも、NKTCL細胞は、顆粒状の陽性所見を示し、この細胞毒性顆粒の漏出によるリンパ腫細胞のアポトーシス[参考文献18]は考え難かった。一般に、細胞毒性顆粒を有する細胞は、その毒性に対応した細胞機能により自らの細胞毒性顆粒による自己のアポトーシスを回避しているとされている。
【0077】
【表2】
【0078】
不可逆的なアポトーシスの検出を行うクリーブドカスパーゼ-3(cCasp-3)が明らかに陽性である細胞は、図8、9、10と表3に示す様に、検出されなかった。しかし、図9では、NKTCL細胞の細胞質に非常に淡い染色像があり、カスパーゼ-3の分解の亢進[参考文献5]が示唆された。また、図10では、マクロファージの細胞質に弱い染色像があり、共生的なCD204マクロファージのアポトーシスが示唆された。
【0079】
一方、cCasp-3を阻害するサバイビンの発現は、図8、9、10と表3に示す様に、全例で強い陽性像が見られた。これは、リンパ腫細胞でのサバイビンの腫瘍性発現により、cCasp-3が阻害されて、リンパ腫細胞のアポトーシスは生じていないことが示唆された。
【0080】
ミトコンドリア経路でアポトーシスを抑制しているBcl-2は、EBV非関連NKTCLでは、図8と表3に示す様に、強発現を示したが、EBV関連症例では、図9と表3に示す様に、その発現は減弱していた。EBV感染によるBcl-2の発現抑制が示唆された。B細胞性リンパ腫でもEBV関連のMzBL-MALT(n=2: EBV+)がBcl-2の低発現を示した。
【0081】
カスパーゼ-8の阻害効果を示すFlipは、全例で低発現であり、NKTCLの細胞株で報告されたFlipの高発現[参考文献4]は観察されなかった。
AATFは、介在した呼吸上皮や粘膜腺上皮の一部の細胞質で発現が見られたが、リンパ腫細胞での発現は見られなかった。
【0082】
上記のことから、この検索でのリンパ腫細胞では、腫瘍性のサバイビンの発現によりアポトーシスが抑制された状態にあることが判明した。
【0083】
一方、マクロ自己貪食は、図8と9と表3に、ベクリン-1とLC3の細胞質微細化粒状染色は強く、EBV感染に関係なく、EBV感染によるBcl-2発現の低下によるベクリン-1の阻害の抑制もEBV感染例では加わっている可能性もあるが、マクロ自己貪食における小胞の核形成(vesicle nucleation)と伸長(elongation)の亢進が示唆された。さらに、図10の軽度変性領域では、ベクリン-1の発現の低下とLC3細胞質大型顆粒状染色が顕在化してきた。さらに、高度変性領域では、LC3の核染色が見られた(図11)。図11に示すLC3の染色パターンの変化は、小胞の核形成と伸長の亢進が微細顆粒状細胞質染色に、小胞ドッキング(vesicel docking)の亢進が大型化粒状細胞質染色に相当すると考えられる。LC3の核染色は、核周囲の僅かな細胞質に濃縮された小胞の分布が核を染色するように見えるのであろうと思われる。
【0084】
図8はEBV陰性NK/T細胞性リンパ腫の染色を示す。
中型のリンパ腫細胞の瀰漫性の増殖を認め、リンパ腫細胞はCD3、TIA1、CD56陽性で、CD204陽性マクロファージの網目構造を認め、EBER-1陽性細胞は介在小型リンパ球のみで、リンパ腫細胞はEBV陰性である。
cCasp3陽性細胞を認めずに、ベクリン-1とLC3が陽性で、Bcl-2は発現し、Flipの発現は認めずに、サバイビンが強く発現し核を染色している。
【0085】
図9はEBV陽性NKT細胞性リンパ腫(非変性領域)の染色を示す。
リンパ腫細胞のび漫性の増殖を認め、リンパ腫細胞はCD3、TIA1、CD56陽性で、CD204陽性マクロファージの網目構造を認め、リンパ腫細胞はEBER-1陽性である。
cCasp3陽性細胞を認めずに、ベクリン-1とLC3が陽性で、Bcl-2の発現は低下し、Flipの発現は認めずに、サバイビンが強く発現し核を染色している。
【0086】
図10はEBV陽性NKT細胞性リンパ腫(変性領域)の染色を示す。
リンパ腫細胞の変性が認められ、CD204陽性マクロファージの変性も見られる。変性しつつあるリンパ腫細胞はEBER-1が陰性化している。
cCasp3陽性細胞を認めずに、ベクリン-1とLC3が陽性で、LC3では、細胞質に濃染する領域が出現している。Bcl-2の発現は更に低下し、Flipの発現は認めずに、サバイビンは変性した細胞を標識している。
【0087】
図11はLC3の染色像の変化を示す。
非変性領域:細胞質での発現が強く、一部の細胞質に濃染が見られる(Micro*)。
軽度変性領域:細胞質での発現で、一部の細胞質の濃染領域が拡大し、全体的には発現低下が見られる(Macro*)。
高度変性領域:壊死領域に残存した裸核様の細胞破片が標識されている(NS)。
【0088】
したがって、リンパ腫(悪性腫瘍)の細胞死は、cCasp-3を阻害するサバイビンの発現によりアポトーシスは抑制されており、その反対に、マクロ自己貪食は亢進した状態にあり、その中で、マクロ自己貪食細胞死に至る機序は不明であるが、EBV関連症例ではしばしば見られる(表3)ことが明らかになった。
【0089】
【表3】
【0090】
図12はNK/T細胞性リンパ腫の変性領域でのLC3陽性像の理解を示す。
EBV陰性NK/T細胞性リンパ腫では、壊死傾向を認めず、それを反映したベクリン-1とLC3の高発現に対して、ミトコンドリアは微細に染色され、マクロ貪食されておらずに、リソソームの明らかな発現を認めない。
一方、EBV陽性のNK/T細胞性リンパ腫では、変性と壊死にて、ベクリン-1とLC3の染色パターンが変化し、それに対応して、ミトコンドリアの細胞質での凝集が見られマクロ貪食された様相を反映していたが、リソソームの発現は、細胞性の領域では微弱な染色像が見られたが、変性と壊死領域では染色像が見られなかった。LC3とミトコンドリアの染色パターンでは、ミトコンドリアの染色がより少なく、ある程度のマクロ自己貪食リソソームの形成があり、ミトコンドリアの消化が生じたと思われるが、処理出来ない程のLC3の発現亢進が示唆された。
【0091】
図12に示すように、NK/T細胞性リンパ腫における自己貪食細胞死の亢進は、ベクリン-1(小胞核形成の亢進)とLC3(小胞伸長およびドッキングの亢進)によるものであり、おそらく、EBV感染下で、腫瘍細胞でのリソソームの発現誘導の抑制が生じて、マクロ自己貪食されたミトコンドリアの処理が出来ないことが加わった結果であると考えられた。EBV感染下で、腫瘍細胞でのリソソームの発現誘導の抑制は、図13に示すB細胞性リンパ腫(CD5陽性DLBL)でのEBV非感染例と感染例における比較でも示唆された。
【0092】
図13はB細胞性リンパ腫におけるEBV感染の影響を示す。
EBV陰性のCD5陽性リンパ腫(DLBL)では、マクロ自己貪食の亢進(ベクリン-1とLC3の高発現)は、ミトコンドリアの凝集した分布が見られ、ミトコンドリアのマクロ自己貪食が生じていることが示唆されたが、それに対応したカテプシンDで標識されたリソソームの発現が見られ、壊死病変は見られない。
一方、EBV陽性のCD5陽性B細胞性リンパ腫(DLBL)では、巣状の壊死が見られ、それに対応したLC3の核を標識するような染色像が見られた。そして、それに対応したミトコンドリアの凝集が見られたが、リソソームの発現は見られずに、EBV感染によるリソソームの発現誘導の抑制が、壊死の原因の一つであることが示唆された。
【0093】
図14はサバイビン陽性のNK/T細胞性リンパ腫(NKTCL)と微小扁平上皮癌(SCC)と重層扁平上皮(SE)の幹細胞(*)を示す。
鼻NK/T細胞性リンパ腫にepitheliomatous hyperplasia(上皮腫性過形成)と呼ばれる上皮病変が合併する例があるとの記載がWHO分類の説明にはあるが、その上皮病変はサバイビン陽性の微小扁平上皮癌があることが判明した。また、症例は異なるが、扁平上皮の幹細胞がサバイビン陽性であることが判明した。従来、サバイビンは、腫瘍細胞、骨髄幹細胞、胎児組織細胞で発現していることが報告されているが、組織幹細胞も、鼻咽頭部の扁平上皮の幹細胞も陽性であることが判明した。胃の腺上皮における組織幹細胞から分化した段階の僅かな幼弱な腺上皮がCD117を示す(非特許文献1)と同様に、鼻咽頭部の扁平上皮の幹細胞と考えられる細胞は核が濃染し、その他の細胞の一部に僅かに細胞質が陽性のものがあることが見い出される。この核が濃染する組織幹細胞とその他の分化した細胞でのサバイビンの発現の違いが、前記の微小扁平上皮癌と見なす根拠となる。このただし、遺伝子レベル等での細胞の形態や増殖パターンに反映されない腫瘍性変化を示す組織幹細胞である可能性があるが、現在、それを証明する方法はないと思われる。
【0094】
表2に示す様に、この23例のNKTCLの5例で、図14に示すサバイビン陽性の微小な上皮病変が見出された。この微小扁平上皮病変は、従来、上皮腫性過形成とされていたものと考えられるが、下方への増殖、rete-ridge(網状組織隆線)の延長、それに、部分的に異常角化(dyskeratosis)が見られて、微小扁平上皮癌であることが判明した。NKTCLがサバイビン陽性で悪性腫瘍であることから、微小な残存上皮病変の良性悪性の判断が従来出来なかったものと考えられ、サバイビン染色は、複数の悪性腫瘍の存在も標識できることから、病理診断に非常に有用な腫瘍関連分子であると考えられた。
その一方で、図14の右に示す様に、過形成性扁平上皮に、その幹細胞と考えられる細胞もサバイビンに標識された。これは、サバイビンが骨髄幹細胞と胎児組織での発現が報告されていることから、組織幹細胞もサバイビンが陽性であっても理解できるし、明らかに腫瘍になる前の組織幹細胞がサバイビンを発現していると考えても、この所見は、組織幹細胞と癌(癌幹細胞)の関係を示す所見であると考えられた。
【0095】
このアポトーシスとマクロ自己貪食細胞死関連分子の免疫染色と図1のそれぞれの関連分子の関係の概念図は、ヒト病理組織切片中の細胞のプログラム細胞死の解析の道を拓いたものであり、その中で、サバイビンは、腫瘍細胞と幹細胞と胎児組織での発現から、悪性腫瘍診断にも有用であることが判明し、更に、組織幹細胞でのサバイビン発現は、癌幹細胞と組織幹細胞の関係の研究にも、一つの切り口であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0096】
動物組織における細胞増殖、幹細胞の動態、細胞死等の細胞状態の評価、細胞の形態および維持を解析する等により、病理診断に新たな情報を付加し、抗腫瘍治療等の前後の病理標本解析で、治療効果等を評価するのにも適用できる。
【0097】
特許文献1の詳細:“免疫染色法、及び当該免疫染色法を利用した細胞の評価方法”、特願2005-319965 (2005年11月2日出願、特開2007-127505号公報(2007年5月24日公開)、出願人:国立大学法人鹿児島大学、発明者:蓮井 和久)。
非特許文献1の詳細:Kato(カト) K, Hasui(蓮井) K, Wang(ワン) J, Kawano(カワノ) Y, Aikou(アイコウ) T, Murata(ムラタ) F. Homeostatic mass control in gastric non-neoplastic epithelia under infection of Helicobacter pylori: An immunohistochemical analysis of cell growth, stem cells and programmed cell death(胃の非腫瘍性上皮におけるヘリコバクタービロリの感染下の恒常性質量制御:細胞増殖、幹細胞およびプログラム細胞死の免疫組織化学分析). Acta Hitochem. Cytochem. 2008年5月30日; 41: 23-38.
【0098】
参考文献:
(参考文献1)Hasui(蓮井)K等、Acta Hitochem. Cytochem.(アクタ・ヒストケミカ・エト・サイトケミカ) 2008年5月30日オンライン出版; 41: 23-38
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【技術分野】
【0001】
本発明は、病理組織標本切片でプログラム細胞死、癌細胞、組織幹細胞を判別する抗体または抗体パネルを用いた免疫染色に関するものである。特に詳しくは、本発明は、ヒトのホルマリン固定パラフィン包埋病理組織標本切片で、細胞死の解析、癌細胞と組織幹細胞の同定を目的に、不可逆的アポトーシスの開始を示すcleaved caspase(クリーブドカスパーゼ)-3(cCasp-3)、癌細胞で出現するとされるサバイビン(survivin)を含む抗アポトーシス(アポプトーシス)因子(Bcl-2、Flip(フリップ、FLICE-inhibitory protein(抑制性タンパク質))、AATF(apoptosis-antagonizing transcription factors(アポトーシス拮抗性の転写因子))等)、自己貪食空胞核形成に関与するbeclin(ベクリン)-1と自己貪食空胞形成に関与するLC3(microtubule-associated protein 1 light chain 3(微小管結合タンパク質1軽鎖3))の抗体の組み合わせの抗原回復免疫染色を行い、腫瘍細胞の細胞死の状況とサバイビン等による悪性腫瘍細胞と組織幹細胞の同定が出来たものである。また、本発明は、ミトコンドリア染色およびリソソーム染色を可能とする。これらは、病理診断に新たな情報を付加し、抗腫瘍治療等の前後の病理標本解析で、治療効果等を評価できることを意味している。
【背景技術】
【0002】
病理組織標本切片において、免疫組織化学的染色による種々の抗原の検出方法が試みられている。本発明者は、免疫染色法を利用した細胞の評価においてベクリン-1の抗原回復免疫染色(酵素処理超高感度免疫染色)に成功している(例えば、特許文献1、非特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-127505号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hasui(蓮井)K等、Acta Hitochem. Cytochem.(アクタ・ヒストケミカ・エト・サイトケミカ) 2008年5月30日オンライン出版; 41: 23-38
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、病理組織標本切片において、プログラム細胞死、癌細胞、組織幹細胞を十分な検討ができるように判別する方法がなかった点であり、これは本発明の免疫染色法により克服される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、動物細胞の細胞死の解析、癌細胞の同定および組織幹細胞の同定からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞状態の評価を免疫組織染色によって解析する方法であり、
(a)動物組織の試料を、内因性ペルオキシダーゼの不活化処理にかける工程、
(b)前記試料を、前記試料の抗原性を回復させるために、酵素処理及び熱処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗原回復処理にかける工程、
(c)一次抗体を前記試料中の抗原と結合させる工程であって、前記抗原と前記一次抗体との反応の前に非特異反応抑制処理を行う工程、
(d)酵素標識間接免疫染色法における前記一次抗体と結合させる標識酵素試薬を、前記一次抗体と結合させる工程であって、前記一次抗体と前記酵素標識間接免疫染色法における前記一次抗体と結合させる標識酵素試薬との反応の前に非特異反応抑制処理を行う工程、及び
(e)前記標識酵素を用いて、前記抗原を可視化させ検出する工程
を具えることを最も主要な特徴とする。
【0007】
組織中に細胞死が生じるとその細胞の残渣は、マクロファージにより処理されると考えられる。因みに、アポトーシスに陥った細胞核のDNAは断片化すると共に、アポトーシス小体としてマクロファージに貪食されて、抗一本鎖DNA抗体で細胞の断片化したDNAを検出すると、その多くはマクロファージの細胞質に検出できる。一方、マクロファージは、細胞残渣を、スカベンジャー受容体で検出して貪食する。このマクロファージのスカベンジャー受容体は、CD204として、ホルマリン固定パラフィン包埋標本切片の免疫染色で検出可能であり、細胞死の組織中でのインジケーター(指標)となると考えられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ヒト病理組織標本で、CD204陽性マクロファージの検出と共に、以下に詳細に説明する分子(クリーブドカスパーゼ(cCasp)-3、Bcl-2、Flip、AATF、サバイビン、ベクリン-1とLC3)、並びにマクロ自己貪食の対象である細胞小器官であるミトコンドリアと自己貪食リソソーム形成を見るリソソームを検出する抗体の免疫組織化学的染色で、組織中の細胞の細胞死、腫瘍性、そして、組織中の組織幹細胞を検索することができる。なお、サバイビンとLC3の染色は、従来、行われていないので、適切な抗体とその染色方法が検討された。また、サバイビンが組織幹細胞を標識することは、この検索で明らかになったことである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】アポトーシスとマクロ自己貪食細胞死の相互関係の説明図である。
【図2】5F10(0231s0104、Nanotools)の染色結果を示す図面代用写真である。
【図3】抗LC3抗体のウエスタンブロット解析を示す図面代用写真である。
【図4】ヒト壊死性リンパ節炎の病理組織標本切片でのPD014とPM036のコントロール染色を示す図面代用写真である。
【図5】ミトコンドリアの免疫染色を示す図面代用写真である。
【図6】リソソーム酵素であるカテプシンBの染色によるリソソームの検出を示す図面代用写真である。
【図7】リソソーム酵素であるカテプシンDの染色によるリソソームの検出を示す図面代用写真である。
【図8】EBV陰性NK/T細胞性リンパ腫の染色を示す図面代用写真である。
【図9】EBV陽性NKT細胞性リンパ腫(非変性領域)を示す図面代用写真である。
【図10】EBV陽性NKT細胞性リンパ腫(変性領域)を示す図面代用写真である。
【図11】LC3の染色像の変化を示す図面代用写真である。
【図12】NK/T細胞性リンパ腫の変性領域でのLC3陽性像の理解を示す図面代用写真である。
【図13】B細胞性リンパ腫におけるEBV感染の影響を示す図面代用写真である。
【図14】サバイビン陽性のNK/T細胞性リンパ腫(NKTCL)と微小扁平上皮癌(SCC)と重層扁平上皮(SE)の幹細胞(*)を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
プログラム細胞死、癌細胞、組織幹細胞のような動物細胞の形態の形成および維持を免疫組織染色によって解析するという目的を、ポリマー法、非特異反応抑制処理、および異化レポーター沈着反応を用いることによって、検出感度を損なわずに実現した。
【0011】
動物組織の形態の形成及び維持を免疫組織染色によって解析するにあたり、動物組織の試料は、内因性ペルオキシダーゼ活性の抑制処理にかけることができ、その後等に親水化することができる。
【0012】
試料は、抗原性を回復させるために、酵素処理及び熱処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗原回復処理を行うことができる。酵素処理または熱処理については特に制限されない。酵素処理は、トリプシン、プロナーゼおよびプロテイナーゼKからなる群より選ばれる少なくとも1種の酵素による処理であってよく、または酵素による処理は、それを1〜30分間行う処理でよい。熱処理は、前記切片をクエン酸緩衝溶液又はEDTA溶液のいずれかの溶液に浸漬して加熱する処理であるか、またはpH6〜8を有するクエン酸緩衝溶液による処理であるか、pH非依存性の抗原回復緩衝液による処理でよい。
【0013】
一次抗体を試料中の抗原と結合させる工程では、抗原と一次抗体との反応の前に非特異反応抑制処理を行うことができる。非特異反応抑制処理については特に制限されないが、二次抗体と同種のもののような動物血清による処理、ウシ血清アルブミンによる処理、スキムミルクによる処理、ノンファットミルクによる処理およびカゼイン溶液による処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の処理であるか、0.025〜2.5%の範囲のカゼインを含むカゼイン溶液による処理であるか、または0.5〜5%の範囲のウシ血清アルブミンを含むウシ血清アルブミン溶液による処理でよい。
【0014】
酵素標識間接免疫染色法における前記一次抗体と結合させる標識酵素試薬を、前記一次抗体と結合させる工程であって、前記一次抗体と前記酵素標識間接免疫染色法における前記一次抗体と結合させる標識酵素試薬との反応の前に非特異反応抑制処理を行うことができる。この工程では、二次抗体、担体及び標識酵素を備えるポリマー複合体を、一次抗体と結合させることができ、この際、一次抗体とポリマー複合体との反応の前に非特異反応抑制処理を行うことができる。非特異反応抑制処理については特に制限されないが、前述の処理でよい。
【0015】
標識酵素を用いて、抗原を可視化させ検出することができる。可視化反応の前に非特異反応抑制処理を行うことができる。標識酵素は、特に制限されないが、西洋ワサビペルオキシダーゼを用いることができる。非特異反応抑制処理については特に制限されない。前述のものでよい。また、必要に応じて反応前の非特異反応抑制処理を伴う異化レポーター沈着反応を追加して行うことができる。
【0016】
動物組織の試料は、特に制限されない。動物組織における細胞増殖、幹細胞の動態、細胞死等の細胞状態の評価、細胞の形態および維持を解析する等のためのものが含まれる。化学固定包埋標本の切片、またはホルマリン固定パラフィン包埋病理組織標本の切片でよい。
【0017】
動物については特に制限されない。通常はヒトであることが多いが、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サル等の哺乳類等、解析対象物や実験動物における細胞の形態および維持、特に細胞死、アポトーシスの解析、癌細胞の同定および組織幹細胞の同定を行うものが含まれる。
【0018】
一次抗体は、不可逆的アポトーシスの開始を示す因子、抗アポトーシス因子、自己貪食空胞核形成に関与する因子、空胞形成に関与する因子、ミトコンドリア検出因子、およびリソソーム検出因子からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗原の抗体を用いることができる。これらの因子は、免疫組織染色を用いることによって検出可能にでき、動物細胞の解析、同定についての重要な指標を提供する。またそれらの因子の少なくとも2種の抗体のパネルを用いることができる。
【0019】
不可逆的アポトーシスの開始を示す因子としては、例えば、クリーブドカスパーゼ(cCasp)-3、cCasp-6、cCasp-7、DNA分解酵素、CAD(Caspase Activated Dnase(カスパーゼ活性化DNアーゼ))を用いることができる。
【0020】
抗アポトーシス因子としては、例えば、サバイビン、Bcl-2、FLICE抑制性タンパク質、アポトーシス拮抗性の転写因子、Bcl-XL等を用いることができる。
【0021】
自己貪食空胞核形成に関与する因子としては、例えば、ベクリン-1、Atg6、Atg14、Vps34、Vps等を用いることができる。
【0022】
空胞形成に関与する因子としては、例えば、LC3、Atg8、Atg12等を用いることができる。
【0023】
ミトコンドリア検出因子としては、例えば、ミトコンドリア特異抗原、ミトコンドリア特異酵素等を用いることができる。
【0024】
リソソーム検出因子としては、例えば、リソソーム特異抗原、リソソーム酵素であるカテプシンD、カテプシンB、カテプシンK、カテプシンL等を用いることができる。
【0025】
抗体のパネルとしては、サバイビンの抗体またはLC3の抗体を含むものを用いることができる。
【0026】
細胞死の解析と特定因子の検出との関係は、アポトーシスとマクロ自己貪食細胞死のシグナル伝達の関係図(図1)にて理解できる。
即ち、アポトーシスでは、所謂死受容体からのシグナルは、カスパーゼ-8を経由しカスパーゼ-3に伝えられる。細胞毒性顆粒からのシグナルは、カスパーゼ-10とカスパーゼ-9を経由しカスパーゼ-3に伝えられる。Bcl-2とBcl-XLとBaxの減少(ヘテロダイマー形成)は、ミトコンドリの膜の不安定性を生じ、シトクロムcを放出させ、カスパーゼ-9経由でカスパーゼ-3にシグナルが伝えられる。小胞体ストレスでは、カルシウムが放出され、ミトコンドリ経由でシグナルはカスパーゼ-3に伝えられる。そして、不可逆的なアポプトーシスの進行はカスパーゼ-3へのアポトーシスのシグナルの伝達に次ぐクリーブドカスパーゼ-3の出現による開始される。抗アポトーシス因子であるFlip(FLICE-抑制性タンパク質)は、死受容体からのシグナルやカスパーゼ-8とカスパーゼ-10の活性化を阻害し、Bcl-2の増加はミトコンドリの膜の安定性を高め、アポトーシス拮抗性の転写因子(AATF)は増殖を刺激すると共に恐らくミトコンドリの安定性を高め、サバイビンはクリーブドカスパーゼ-3とカスパーゼ-9を阻害して、アポトーシスを抑制する。不可逆的なアポトーシスの進行を示すクリーブドカスパーゼ-3へのウサギ抗クリーブドカスパーゼ-3抗体が作製され(例えば、参考文献2等参照(以下、文献の書誌的事項は本明細書の最後にまとめて示す))、ヒトのホルマリン固定パラフィン包埋標本切片でクリーブドカスパーゼ-3を抗原回復免疫染色で検出することが可能になっている。また、カスパーゼ-3の分解過程で、抗クリーブドカスパーゼ-3抗体で検出される分解中間産物があり(例えば、参考文献3等参照)、極微量のクリーブドカスパーゼ-3を超高感度の抗原回復免疫染色で検出できたり(例えば、非特許文献1等参照)、通常の感度の抗原回復で非常に曖昧な検出像しか得られなかったりすることがある。抗アポトーシス因子であるFlip、Bcl-2、AATF、サバイビンは、抗原回復免疫染色で検出できることが明らかになっている(例えば、参考文献4、5等参照)。
【0027】
自己貪食は、リソゾーム分解系路の一つで、種々の病的刺激に対して細胞を耐えさせる機能である(例えば、参考文献6等参照)。自己貪食は、ミクロ自己貪食、シャペロン自己貪食とマクロ自己貪食に区分され、マクロ自己貪食はミトコンドリア等の細胞小器官を貪食し、それに関与する分子等が明らかになっている(例えば、参考文献6等参照)。細胞内の増殖刺激や充分量のアミノ酸は、図1に示す様に、Atg13とAtg17とAtg1が複合体を形成するマクロ自己貪食の最初の段階を抑制し(例えば、参考文献6等参照)、次ぎの自己貪食空胞核形成はAtg6/ベクリン-1とAtg14とVps34とVps15が複合体を形成するが、Bcl-2/Bcl-XLとベクリン-1の結合で抑制され(例えば、参考文献6等参照)、Atg1の強制発現の実験では自己貪食が生じて(例えば、参考文献7等参照)、小胞体ストレスによるカルシウムの放出によるか、Bcl-2やBcl-XLのベクリン-1との結合による枯渇によるミトコンドリア経路によるアポトーシスが考えられる。次ぎのマクロ自己貪食の過程はAtg8/LC3系とAtg12 系による自己貪食空胞の形成(例えば、参考文献6等参照)である。この過程で、自己貪食空胞は発達し、免疫染色で検出すると、微細顆粒状から粗大顆粒状に染色パターンが変わって行く。細胞質内のミトコンドリア等の細胞小器官はこの空胞内に取り込まれ、免疫染色では、細胞質の一部に凝集さいたミトコンドリアを検出出来る。次いで、リソゾームとの融合による自己貪食リソゾーム形成に至り、この過程では、免疫染色でリソゾ-ムの酵素を検出すると、細胞質に顆粒状に検出される。自己貪食リソゾームで貪食された細胞小器官が充分に消化されないか、マクロ自己貪食が亢進して、多数の自己貪食空胞が形成されて来る場合には、結果として細胞質に自己貪食空胞が過剰に蓄積し、LC3の免疫染色では細胞質の疲弊に伴い核周囲ないし核を染色するような濃厚な陽性像が得られ、自己貪食細胞死の免疫染色所見を示す。このような自己貪食細胞死が、細胞等が変性壊死を示さない場合には、定常的な自己貪食細胞死を示すと評価される。一方、このような自己貪食細胞死が、細胞等が変性壊死を示す場合には、病的な自己貪食細胞死を示すと評価される。
【0028】
癌細胞の同定と特定因子の検出との関係は、癌細胞のみを同定する因子は未だに見い出されていないが、消化器系の癌細胞とその胎児組織細胞で共通して見られる因子(例えば、癌胎児性抗原(Carcinoembryonic antigen)やアルファ胎児蛋白(alpha-fetoprotein)等)が見い出されているが、個々の成人組織細胞への分化を示す癌細胞の特異な因子と理解されている。サバイビンは、アポトーシスの不可逆的bな反応の鍵分子であるクリーブドカスパーゼ-3を阻害すると共に細胞増殖に効果を示し(例えば、参考文献8、9等参照)、p53蛋白による抑制される(例えば、参考文献10等参照)。また、サバイビンは、腫瘍細胞や胎児組織で発現しており(例えば、参考文献8、9等参照)、その腫瘍における発現がプロモーターの遺伝子多型や遺伝子のメチル化や非メチル化の影響を受けておらずに、腫瘍の誘導に関してはそれ程重要な機能をしていないことが示唆されている(例えば、参考文献11等参照)。その一方で、エプスタインバーウイルス(EBV)のLMP2Aで、EBV関連胃癌では、サバイビンの高発現が報告されている(例えば、参考文献12等参照)。したがって、サバイビンの検出は、いろいろな成体分化細胞の癌に検出される特異因子であると考えられる。図14に示す鼻咽頭リンパ腫に見られる上皮の上皮腫様過形成病変ンは、サバイビン陽性であることから、非常に小さな扁平上皮癌であると同定された。
【0029】
組織幹細胞の同定と特定因子の検出との関係は、組織幹細胞を胎児性幹細胞(ES)や誘導多分化能幹細胞(iPS)のマーカー遺伝子の産物への抗体で標識することが試みられているが、これらの幹細胞マーカーと共にCD34やCD133は、消化管上皮幹細胞の標識には不向きで、CD117のみが用いることが出来ることが判明している(例えば、非特許文献1等参照)。腫瘍細胞と胎児組織等で発現する所謂癌胎児抗原の一つであるサバイビンは、骨髄組織幹細胞にも見い出され(例えば、参考文献8、9等参照)、図14に示す様に、鼻腔扁平上皮の組織幹細胞を標識することが見い出された。サバイビンは、inhibition of apoptosis(IAP、アポトーシスの抑制)のファミリーに属し、そのバリアントには、サバイビン、サバイビン2B、サバイビン-DeltaExon(デルタエキソン)3等がある。サバイビンとサバイビン2Bは細胞質に局在し、アポトーシスでのクリーブドカスパーゼ-3の抑制に関与し、サバイビン-デルタエキソン3はG2/M期の細胞の核において、紡錘糸と共に存在することが知られている(例えば、参考文献8、9等参照)。図14に示す様に、サバイビンは、鼻腔扁平上皮の組織幹細胞の核を標識し、癌細胞の核も標識することから、サバイビン-デルタエキソン3が標識するG2/M期の細胞は組織幹細胞や癌幹細胞である可能性が高い。免疫染色にて、サバイビン陽性核を検出することで、成人分化組織中の組織幹細胞や癌組織中の癌幹細胞を標識できる可能性がある。
【実施例】
【0030】
(検索1の要約)
本発明者は、エプスタインバーウイルス(EBV)関連鼻リンパ腫における細胞死の免疫組織化学的検索において、鼻腔のEBV関連NK(ナチュラルキラー)/T-細胞性リンパ腫(NK/T-ML)の壊死傾向を検討する為に、25例のNKT-MLのホルマリン固定パラフィン包埋保存生検標本切片を用い、アポトーシスの不可逆的進行をクリーブドカスパーゼ-3(cCasp-3)で標識し、抗アポトーシス因子であるBcl-2、Flip、AATF、サバイビンの発現を検索し、自己貪食の分子マーカーであるベクリン-1とLC3の発現を検索し、また、CD204陽性マクロファージも検索している。典型的なNK/T細胞性リンパ腫は不定形の裸核様細胞破片を含む壊死を示した。リンパ腫細胞はCD204陽性マクロファージの粗大な網目構造を背景に増殖し、EBVのencoded small RNA-1(コード化小RNA-1)(EBER-1)シグナルを示した。壊死近辺のリンパ腫細胞はTIA1(TIA1/Coulter Immunology(クールター・イムノロジー社))の顆粒状陽性像を示した。cCasp-3陽性リンパ腫細胞を認めずに、リンパ腫細胞は、Bcl-2を弱く発現し、Flipを微弱に発現し、AATFを発現せずに、サバイビンを細胞質と核に強く発現した。また、リンパ腫細胞はベクリン-1とLC3を発現し、LC3の細胞質の粗大顆粒状陽性所見と裸核様細胞破片の濃染を示した。これらの所見は、NK/T-MLでは、サバイビン強発現でアポトーシスは抑制されており、自己貪食の亢進とその結果の細胞死が特異な壊死を生じていることを示唆した。
【0031】
(検索2の要約)
エプスタインバーウイルス(EBV)関連の鼻NK/T細胞性リンパ腫は異型上皮過形成病変を伴うことが知られている。最近の疫学的研究は殺虫剤等がこのリンパ腫発生の外因の一つであることを示唆している(例えば、参考文献13等参照)。本発明者は、鼻リンパ腫の外因には発癌性幹細胞刺激が含まれるかどうか、中国東北地方の鼻悪性リンパ腫の病理疫学的・免疫組織学的検索を行っている。130例余りの中国東北地方の鼻リンパ腫の臨床診断下に生検された標本を、リンパ腫の細胞形質、細胞死の様相を免疫組織化学的に、EBVの感染をEBER-1-インサイツ・ハイブリダイゼーション(ISH)で検索している。その結果、82例(63%)のT-ML、33例(25%)のB細胞リンパ腫(B-ML)、5例(3.8%)の早期微小低分化扁平上皮癌(CA)が観察された。EBER-1 ISHでは、鼻腔と咽頭の比較では、より多くのEBER-1陽性鼻腔リンパ腫が観察され、EBER-1陽性NK/T-MLとB-MLの鼻腔での有意な発生(p=0.04、p=0.03)が示されたが、EBER-1陽性Caの2例は咽頭にのみ見い出され、鼻腔でもEBER-1陰性NK/T細胞性リンパ腫を1例認めた。また、鼻腔病変の異型扁平上皮は、リンパ腫細胞と同様に、幹細胞をも標識する抗アポトーシス因子であるサバイビン陽性の基底ないし傍基底細胞の増加を示した。この結果から、鼻腔ではEBV関連T-MLとB-MLを、咽頭ではEBV関連CAの発生を招くEBV感染と外因等による微小環境には、発癌性幹細胞刺激が含まれていると考えられた。
【0032】
(検索3の要約)
鼻咽頭リンパ腫の特異な壊死はEBV感染下のマクロ自己貪食亢進による細胞死である。本発明は36例の病理標本切片で自己貪食関連のベクリン-1、LC3、ミトコンドリアとリソゾームのカテプシンDの抗原回復免疫染色を行い、EBV関連鼻咽頭リンパ腫の特異な壊死の発生機序を検討したことに基づく。壊死を伴わない例(EBV-NKTCLの2例、EBV+NKTCLの3例、早期EBV+NKTCLの1例、2例のEBV+細胞障害性T細胞性リンパ腫(EBV+cTL)の2例、B細胞性リンパ腫(BL)の7例)は、ベクリン-1とLC3の微細顆粒状染色を背景に粗大顆粒状染色、僅かな細胞でのLC3濃染、ミトコンドリアの凝集、カテプシンDのNKTCL、cTL、BLの順での強発現を示し、定常的なマクロ自己貪食を示唆した。壊死を伴う例(EBV+NKTCLの19例、cTLの1例、EBV+BLの1例)は、変性領域で、LC3の微細顆粒状染色の低下と粗大顆粒状染色の増強とミトコンドリアの顕著な凝集を示した。壊死領域では、LC3の核染様陽性像を示し、僅かな裸核様細胞に少数の凝集したミトコンドリアを示し、EBV感染下でのマクロ自己貪食の亢進よる自己貪食細胞死を示唆した。
【0033】
詳細には、本研究の目的としては、鼻リンパ腫は、エプスタインバーウイルス(EBV)関連のリンパ腫であると共に、壊疽性鼻炎として見出された様に特異な壊死傾向を示す。本発明者の前記の検索1と2にて、この鼻リンパ腫の壊死傾向が、サバイビンによるクリーブドカスパーゼ-3の抑制によりアポトーシスによるものでなく、ベクリン-1とLC3で標識されるマクロ自己貪食によるものであり、LC3の粗大顆粒状染色がマクロ自己貪食の亢進を示唆し、LC3が自己貪食細胞死の細胞を濃染することを明らかにした。本発明者の前記の検索3は、そのマクロ自己貪食の対象であるミトコンドリアと自己貪食リソゾームの酵素の一つであるカテプシンDの免疫染色を加えて、鼻リンパ腫におけるマクロ自己貪食と自己貪食細胞死を更に解析した。
【0034】
材料と方法について、検索に用いたのは、EBV陰性NK/T細胞性リンパ腫(2例、壊死を示さない。)、EBV陽性NK/T細胞性リンパ腫(22例、19(86%)例は壊死傾向を示す。)、早期NK/T細胞性リンパ腫(1例)、EBV陽性細胞障害性T細胞性リンパ腫(3例、1例は壊死傾向を示す。)、EBV陽性CD5陽性DLBL(2例)、DLBL(4例、1例はEBV陽性)、EBV陽性辺縁域B細胞性リンパ腫(2例、1例は巣状の壊死を示す。)の36例の鼻咽頭リンパ腫の保存病理標本の切片である。この研究は、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科の疫学研究の倫理委員会と中国医科大学の国際共同研究の倫理審査を受けている。ベクリン-1は酵素処理抗原回復超高感度免疫染色で、LC3と抗ミトコンドリア抗体(AE-1)と抗カテプシンD抗体(NCL-CDm)はpH非依存熱処理抗原回復ポリマー法(ChemMate Envision(ケムメート・エンビジョン))で、自動免疫染色装置で染色した。
【0035】
結果としては、EBV陰性NK/T細胞性リンパ腫では、ベクリン-1は強発現し、LC3は多くの細胞は微細顆粒状の染色を僅かな細胞は粗大顆粒状の染色を極僅かな細胞は細胞質の濃染を示し、AE-1は僅かな細胞でミトコンドリアの凝集傾向を示し、NCL-CDmは微弱な発現を示す細胞を認めた。また、間質のマクロファージと思われる細胞の細胞質のNCL-CDmの濃染も認めた。
【0036】
EBV陽性NK/T細胞性リンパ腫で特異な壊死を示さない例では、LC3で多くの細胞が粗大顆粒状染色を示す例も認めるが、基本的に前記のEBV陰性NK/T細胞性リンパ腫と同様の所見を示した。
【0037】
EBV陽性NK/T細胞性リンパ腫で特異な壊死を示す例では、細胞性領域、変性領域、壊死領域で、異なる染色所見が見られた。細胞性領域では、EBV陰性NK/T細胞性リンパ腫を同様の染色所見が見られたが、LC3の染色では粗大顆粒状染色を示す細胞が多く、NCL-CDmの染色では微弱な陽性細胞を僅かに認めるのみであった。変性領域では、ベクリン-1の発現は低下し、LC3の染色では微細顆粒状染色の低下を粗大顆粒状染色の顕著化が見られ、それに対応して、AE-1の染色では多くの細胞がミトコンドリアの凝集傾向を示し、NCL-CDmの染色では陽性細胞を認めなかった。裸核様細胞を含む壊死領域では、ベクリン-1の発現はなく、LC3は裸核様細胞を含むゴースト細胞の核濃染を示し、AE-1の染色では裸核様細胞の一部で凝集したミトコンドリアが見られ、NCL-CDmの染色では陽性細胞を認めなかった。
【0038】
EBV陽性早期NK/T細胞性リンパ腫では、EBV陰性NK/T細胞性リンパ腫と同様の所見を示した。
【0039】
EBV陽性細胞障害性T細胞性リンパ腫では、1例の特異な壊死を示す例では、壊死傾向を示すNK/T細胞性リンパ腫と同様の所見を認めたが、その他の例を含めて、NCL-CDm陽性細胞を多く認めた。
【0040】
B細胞性リンパ腫では、壊死を示さない例では、ベクリン-1の強発現、LC3染色での細胞質の微細顆粒状染色に加えて多くの細胞で粗大顆粒状染色が見られた上に細胞質が濃染する少数の細胞が見られ、AE-1染色でのミトコンドリアの常習傾向は強く、NCL-CDm染色での強発現細胞を多く認めた。特異な壊死を巣状に示した辺縁域B細胞性リンパ腫の1例では、細胞性領域では、他のB細胞性リンパ腫と同様の所見であったが、巣状壊死領域では裸核様細胞を僅かに認めたが、AE-1染色での裸核様細胞でのミトコンドリアの残留が認められずに、NCL-CDm陽性細胞も認めなかった。
【0041】
これらの所見を、特異な壊死を示す例と示さない例で整理すると、特異な壊死を示さない例では、定常的(ホメオスタチック)なマクロ自己貪食が生じており、その状態では、ベクリン-1は発現し、LC3は細胞質に微細顆粒状染色を背景に粗大顆粒状染色を示し、散在的に存在する一部の自己貪食細胞死直前の細胞がLC3の細胞質濃染を示し、AE-1陽性のミトコンドリアはLC3の粗大顆粒状染色に対応した凝集を示し、マクロ自己貪食リソゾームのカテプシンDの発現はNK/T細胞性リンパ腫細胞、細胞障害性T細胞性リンパ腫細胞、B細胞性リンパ腫の順で発現増強を見られた。一方、特異な壊死を示す例では、細胞性領域と変性領域と壊死領域で、壊死に向かう連続的な変化、すなわち、ベクリン-1の発現低下、LC3の粗大顆粒状染色の増強とその後の核染色様染色への移行、AE-1陽性ミトコンドリアの凝集の増強とその後の減少、カテプシンDの発現低下が観察察され、EBV感染下でのマクロ自己貪食の亢進とそれに続発するリソゾームの総体的な機能低下が、LC3陽性マクロ自己貪食空胞の細胞質内蓄積を生じ、代謝障害として自己貪食細胞死が生じていることが示された。
【0042】
考察すると、マクロ自己貪食は、発現誘導後に、ベクリン-1の関与する自己貪食二重膜空胞核形成、LC3の関与する二重膜空胞伸長と癒合(細胞小器官の貪食)、自己貪食空胞とリソゾームの融合による自己貪食リソゾーム形成、そして、細胞小器官の消化による細胞エネルギー源の確保と進展するが、自己貪食細胞死が如何に生じるかは解明されていない。また、LC3の染色にて、細胞変性とマクロ自己貪食細胞死による壊死にて、染色パターンが異なることは、本発明者が初めて見出した所見であり、他の研究者は、実験的な自己貪食の研究では見出されていないと個人的なコミュニケーションにて述べている。この研究で、(1)LC3の粗大顆粒状染色は、ミトコンドリアの凝集染色パターンに相当し、ミトコンドリア/細胞小器官を貪食したマクロ自己貪食空胞の染色パターンであることが判明し、(2)リンパ腫の亜型により、リソソームの発現をカテプシンDの発現で見ると、B細胞性リンパ腫細胞、細胞障害性T細胞性リンパ腫細胞、NK/細胞性リンパ腫細胞の順に低下し、EBV感染例では更に低下していることが明らかになり、(3)マクロ自己貪食が亢進しても、リソソーム(自己貪食リソソーム)の発現が十分な細胞では、散発的な細胞死しか生じておらず、EBV感染症例での変性領域と壊死領域では、(4)LC3の核濃染の細胞数が裸核様細胞数より圧倒的に多く、(5)凝集したミトコンドリアの壊死領域での裸核細胞様細胞での残存がリソソームの発現の低い細胞障害性T細胞性リンパ腫やNK/T細胞性リンパ腫で認められることは、リソソーム/カテプシンDの発現を十分に検出していない例でもある程度の貪食されたミトコンドリアの消化は行われているが十分ではないことが明らかになった。これらの所見は、鼻咽頭リンパ腫における特異な壊死は、EBV感染にてリソソームの産生ないし活性の低下により、やはりEBV感染にて亢進したマクロ自己貪食に対応出来ずに、また、亢進したマクロ自己貪食亢進の結果のリソソームの産生の低下により、細胞質内での細胞小器官を貪食したマクロ自己貪食空胞の過剰蓄積による代謝障害であることを示唆した。
【0043】
プログラム細胞死(Programmed cell death: PCD)は、一般に、アポトーシス(PCD I型)[参考文献14、15]、マクロ自己貪食細胞死 (PCD II型)[参考文献6]、その他のもの(PCD III型)に区分される。
【0044】
図1に、アポトーシスとマクロ自己貪食細胞死の関連分子の関係を示す。アポトーシスとマクロ自己貪食細胞死のシグナルは、小胞体とミトコンドリアにて、交叉している。
【0045】
アポトーシスでは、所謂死受容体からのシグナルは、カスパーゼ-8を経由しカスパーゼ-3に伝えられる。細胞毒性顆粒からのシグナルは、カスパーゼ-10とカスパーゼ-9を経由し、カスパーゼ-3に伝えられる。Bcl-2とBcl-XLとBaxの減少(ヘテロダイマー形成)は、ミトコンドリアの膜の不安定性を生じ、シトクロムcを放出させ、カスパーゼ-9経由でカスパーゼ-3にシグナルが伝えられる。小胞体ストレスでは、カルシウムが放出され、ミトコンドリア経由でシグナルはカスパーゼ-3に伝えられる。そして、不可逆的なアポトーシスの進行はカスパーゼ-3へのアポトーシスのシグナルの伝達に次ぐクリーブドカスパーゼ-3の出現によって開始される。抗アポトーシス因子であるFlipは、死受容体からのシグナルやカスパーゼ-8とカスパーゼ-10の活性化を阻害し、Bcl-2の増加はミトコンドリアの膜の安定性を高め、AATFは増殖を刺激すると共におそらくミトコンドリアの安定性を高め、サバイビンはクリーブドカスパーゼ-3とカスパーゼ-9を阻害して、アポトーシスを抑制する。
【0046】
不可逆的なアポトーシスの進行を示すクリーブドカスパーゼ-3へのウサギ抗クリーブドカスパーゼ-3抗体が作製され[参考文献2]、ヒトのホルマリン固定パラフィン包埋標本切片でクリーブドカスパーゼ-3を抗原回復免疫染色で検出することが可能になっている。また、カスパーゼ-3の分解過程で、抗クリーブドカスパーゼ-3抗体で検出される分解中間産物があり[参考文献3]、極微量のクリーブドカスパーゼ-3を超高感度の抗原回復免疫染色で検出でき[非特許文献1]、通常の感度の抗原回復で非常に曖昧な検出像が得られることがある。抗アポトーシス因子であるFlip、Bcl-2、AATF、サバイビンは、抗原回復免疫染色で検出できることが明らかになっている[参考文献4、5]。
【0047】
さらに、サバイビンは、クリーブドカスパーゼ-3を阻害すると共に細胞増殖に効果を示し[参考文献8、9]、p53蛋白により抑制される[参考文献10]。また、サバイビンは、腫瘍細胞や胎児組織で発現しており[参考文献8、9]、その腫瘍における発現がプロモーターの遺伝子多型や遺伝子のメチル化や非メチル化の影響を受けておらずに、腫瘍の誘導に関してはそれ程重要な機能をしていないことが示唆されている[参考文献11]。その一方で、エプスタインバーウイルス(EBV)のLMP2Aで、EBV関連胃癌では、サバイビンの高発現が報告されている[参考文献12]。したがって、サバイビンの検出は、ヒト成体の組織細胞での検出において、その細胞の腫瘍性性格とアポトーシスが抑制された状態であること意味する。
【0048】
自己貪食は、リソソーム分解系路の一つで、種々の病的刺激に対して細胞を耐えさせる機能である[参考文献6]。自己貪食は、ミクロ自己貪食、シャペロン自己貪食とマクロ自己貪食に区分され、マクロ自己貪食は細胞小器官を貪食し、それに関与する分子等が明らかになっている[参考文献6]。細胞内の増殖刺激や充分量のアミノ酸は、Atg13とAtg17とAtg1が複合体を形成するマクロ自己貪食の最初の段階を抑制し[参考文献6]、次の自己貪食空胞核形成はAtg6/ベクリン-1とAtg14とVps34とVps15が複合体を形成するが、Bcl-2/Bcl-XLとベクリン-1の結合で抑制され[参考文献6]。Atg1の強制発現の実験では自己貪食が生じて[参考文献7]、小胞体ストレスによるカルシウムの放出によるか、Bcl-2やBcl-XLのベクリン-1との結合による枯渇によるミトコンドリア経路によるアポトーシスが考えられる。次のマクロ自己貪食の過程はAtg8/LC3系とAtg12 系による自己貪食空胞の形成[参考文献6]であり、次いで、リソソームとの融合による自己貪食リソソーム形成に至り、詳細な機序は現在不明であるが、結果的に、自己貪食細胞死に至る。本発明者は、ベクリン-1の抗原回復免疫染色(酵素処理超高感度免疫染色)に成功している[前記非特許文献1、特許文献1、それらの詳しい書誌的事項はまとめて示す非特許文献1、特許文献1の詳細を参照]。
(1)用いた抗体と免疫染色:
【0049】
検索に用いた抗体(リンパ腫の免疫学的形質の検出の為の抗体は除く)は表1に示した。抗体は、Dako(ダコ社)抗体希釈液で、表1に示す希釈濃度の溶液を一次抗体溶液として用いた。脱パラフィンされた切片は、内因性ペルオキシダーゼの不活処理(0.3%過酸化水素メタノール溶液に20から30分間浸すか、3%過酸化水素リン酸緩衝液で5分間処理する)後に、表1に示す抗原回復処理を行った。
【0050】
Bcl-2とTIA1は、通常のpH6の0.01Mクエン酸緩衝液中に切片を入れて、オートクレーブで熱処理を行った。クリーブドカスパーゼ-3とCD204は、従来、pH9以上のEDTA溶液での熱処理を行っていたが、この検索では、Flip、AATF、サバイビンとLC3と同様に、pH非依存性の抗原回復用のクエン酸緩衝液での熱処理を行った。ベクリン-1は、酵素処理による抗原回復を行った。
【0051】
反応した一次抗体の検出は、ベクリン-1以外は、通常感度の酵素標識抗体法のポリマー法で、ベクリン-1は超高感度法で検出した。検出の可視化は、DAB過酸化水素ペルオキシダーゼ反応で、ポリマー法は10分間、超高感度法は4分間反応させた。
【0052】
核をヘマトキシリンで染色し、脱水、透徹後に、プラスチック封入した。酵素処理以外の抗原回復処理後の処理は、自動免疫染色装置で行い、その洗浄用緩衝液は、35℃ないし45℃に加温した0.1%トゥイーン(Tween)と塩添加トリス緩衝液(加温(warmed)TBST)を用いた。
【0053】
【表1】
【0054】
抗サバイビン抗体は、当初、ダコ社のもの(M3624)を使用したが、充分な陽性染色所見が超高感度法でも得られずに、Abcam(アブカム社)のab469を使用した。
【0055】
図2に抗LC3抗体である5F10(0231s0104、Nanotools(ナノツールズ社))の染色結果を示す。壊死性リンパ節炎の標本切片を用いて、左から、抗原処理なし(NoAR)、プロテイナーゼ(Proteinase)K処理(ProK)、0.01Mクエン酸緩衝液pH6中での熱(オートクレーブ)処理(Cit)、pH10での高pHのEDTAでの熱処理(EDTA)を示し、上段は通常感度法(ポリマー法)での検出を、下段は超高感度法での検出を示す。通常感度では、高pHのEDTAでの熱処理で、染色陽性像を一部の細胞に認めたが、超高感度染色では、陽性染色所見と認めずに、非特異反応と判断された。しかし、pH6のクエン酸緩衝液での抗原回復では、淡い陽性染色像を、超高感度染色で認めた。しかし、余りに弱い陽性染色所見であり、5F10のヒト病理組織標本でのLC3染色能は非常に低いと判断された。
【0056】
抗LC3抗体の染色では、最初に、5F10(0231s0104、Nanotools)を試したが、図2に示す様に、ヒト病理組織標本の抗原回復免疫染色では、5F10のLC3染色能は充分でないことが判明した。東京医科歯科大学の水島昇教授に、よりヒト病理組織標本でのLC3標識能の高い抗体の有無をお聞きした所、MBL(株式会社 医学生物学研究所)の2つの抗体(PD014/ MBL、PM036/ MBL)を紹介して頂いた。
【0057】
そこで、5F10と共に供給されていた神経細胞株Neuro(ニューロ)2Aの細胞溶解液のウエスタンブロット解析を行った。図3に示す様に、LC3の自己貪食空砲の二重膜に存在するLC3-IIは、5F10では標識されずに、PD014とPM036で標識された。因みに、LC3-IIは、LC3-Iのリン脂質化されたものである。
【0058】
図3には、抗LC3抗体のウエスタンブロットの解析を示した。そこでは、飢餓刺激したNeuro 2A細胞の溶解液20μLを、9.4%SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-polycrylamide gel electrophoresis:SDS-PAGE)で泳動し、ナイロン膜(Immobilon-P(イモビロン-P)メンブラン(膜)、Millipore(ミリポア社)、Bedford(ベッドフォード)、MA(米国マサチューセッツ州))に転写した。そのナイロン膜に、図3に示す1から3(Nanotoolsからの5F10(0231s0104)、MBLからのPD014、PM036)の一次抗体溶液(表1の希釈倍率の更に100〜1000倍の希釈)と4℃で一晩反応させた。ペルオキシダーゼ標識二次抗体(1:2000希釈)溶液を室温で1時間反応させた。このウエスタンブロットの結果は、エンハンスト化学発光(enhanced chemoiluminescence)で検出した。
【0059】
したがって、PD014とPM036の抗LC3抗体のヒト組織での染色への適合性を、図4に示すコントロール染色で検討した。その結果、PM036によるpH6のクエン酸緩衝液での熱抗原回復と通常感度法でのLC3の検出が一見すると非特異反応が少なく、PM036によるpH非依存性の抗原回復と通常感度法でLC3をより強く検出したことから、一定のpHで規定された抗原回復よりも、pHで規定されない抗原回復がより強い抗原回復を示すことが確認されたことから、この研究用の切片の検索にPM036を用いることにした。
【0060】
図4に示す検索の評価は、pH6以外で回復してくるLC3のエピトープによってのPM036によるpH非依存性の抗原回復と通常感度法でのLC3の検出の方がより良いであろうという推測に基づいているので、実際の検索で確認する必要がある。
【0061】
図4は、ヒト壊死性リンパ節炎の病理組織標本切片でのPD014とPM036のコントロール染色を示したものである。pH6のクエン酸緩衝液とpH非依存性の抗原回復溶液(塩濃度を調節されたクエン酸緩衝液(Diva Decloaker(ダイバ・デクロエーカー)、Biocare Medical(バイオケア・メディカル社))で抗原回復して、PD014とPM036の抗体の通常感度検出(ポリマー法)を行った。その結果、PD014は、両者の抗原回復にて、陽性所見を示した(右2列の写真、上段はリンパ濾胞中心を認めるリンパ節部分。下段はそのリンパ節の周辺部分で、動脈と静脈を認める)。一方、PM036は、pH非依存性の抗原回復ではPD014と同様の所見を示し、静脈の中の白血球等の陽性所見も示した(左から2列目下段)が、pH6のクエン酸緩衝液での回復では、その白血球等の陽性所見が見られなかった。したがって、PM036を用いたpH非依存性の抗原回復と通常感度でのLC3の検出が血球等の悪性腫瘍を検討する方法としてはより適していると判断した。
【0062】
次に、マクロ自己貪食の対象である細胞小器官の中のミトコンドリアの染色方法を検討した。図5に示すように、通常の化学固定された病理組織標本でも、ミトコンドリアを染色することが可能であることが判明した。また、リソソームの染色では、図6と図7に示すように、カテプシンBでは十分な染色結果が得られなかったが、カテプシンDでは十分な陽性所見が得られることが判明した。
【0063】
図5はミトコンドリアの免疫染色を示す。抗ミトコンドリア抗体(AE-1/Leinco Technologie Inc.(レインコ・テクノロジー社))を用いて、熱処理による抗原処理なしと、pH非依存性の熱処理による抗原回復とで、ポリマー法による抗体希釈×50、×100、×500での染色を検討し、右図に示すように、熱による抗原回復と×50の抗体希釈にて、リンパ組織の細胞のミトコンドリアを検出できることを確認した。写真の下段左側および中央は、上段の皮質部分(×20)を更に2倍に拡大したものである。
【0064】
図6はリソソーム酵素であるカテプシンBの染色によるリソソームの検出を示す。抗カテプシンB抗体(NCL-CATH-B(CB131)/visionbiosystems(ビジョンバイオシステムズ)、Novocastra(ノボカストラ))のpH非依存性の熱による抗原回復で、抗体希釈はデータシートにあった×50によりポリマー法での検出を試みたが、淡い陽性像を認めるのみであった。写真は、いずれも×40の倍率であり、中央および右側は髄質部分のものである。
【0065】
図7はリソソーム酵素であるカテプシンDの染色によるリソソームの検出を示す。抗カテプシンD抗体(NCL-CDm(C5)/visionbiosystems、Novocastra)を用いて、pH非依存性の熱による抗原回復で、抗体希釈はデータシートにあった×100によりポリマー法での検出を試み、多くの細胞でリソソームの検出が可能であることが判明した。写真の上段は皮質のもの、下段は髄質のものである。中央および右側はいずれも、×40の倍率のものである。
(2)検索したヒト病理組織標本:
【0066】
検索に用いたのは、ヒトの鼻悪性リンパ腫を疑って生検された40例のホルマリン固定パラフィン包埋病理標本の切片である。悪性リンパ腫の免疫学的形質の検索には、CD3ε(NCL-CD3-PS1/Vision Biosystems(ビジョン・バイオシステムズ社))、CD5(NCL-CD5-4C7/Vision Biosystems)、CD79a(M7050/Dako)、TIA1(TIA1/Coulter Immunology(クールター・イムノロジー社))、CD56(NCL-CD56-IB6/Vision Biosystems)を用いた。
【0067】
因みに、CD3ε陽性例はT細胞ないしNK細胞性リンパ腫であり、CD5陽性の場合もある。CD3ε細胞質陽性に加えてTIA1陽性でCD56陽性であればNK/T細胞性リンパ腫であり、この形質からCD56が陰性となると、細胞傷害性(cytotoxic)T細胞性リンパ腫となる。また、CD79aが陽性であればB細胞性リンパ腫であり、CD5が陽性になる例もある。基本的には、WHO(世界保健機関)の分類[参考文献16]に従って分類を行っている。
【0068】
(3)免疫染色の評価:
この研究に用いた免疫染色は、35℃ないし45℃に加温した洗浄緩衝液での反応前後の処理により室温よりも高い一定の温度で反応を行い、自動染色装置を用いて、反応時間も基準化してあり、反応の定量性もあるかと思われるが、この検索では、免疫染色標本の画像を記録し、その画像上で、明らかに陽性な細胞が、無い(0)、陽性細胞が2、3個ある(1)、かなりの細胞が陽性である(2)、多くの細胞が陽性である(3)、ほとんどの細胞が陽性である(4)の5段階評価を行った。
(4)結果と考察:
【0069】
検索した40例のリンパ腫は、エプスタインバーウイルス(EBV)非関連NK/T細胞性リンパ腫(n=2)、EBV関連NK/T細胞性リンパ腫(n=21)、早期NK/T細胞性リンパ腫(n=1)、細胞傷害性T細胞性リンパ腫(n=5)、CD5+陽性DLBL(Diffuse Large B-cell Lymphoma(瀰漫性大型B細胞性リンパ腫))(n=2)、DLBL(n=6)、MzBL-MALT(Marginal zone B-cell lymphoma-mucosa-associated lymphoid tissue type(辺縁帯B細胞リンパ腫-粘膜関連リンパ組織種類))(n=2: EBV+)、コンポジットリンパ腫(MzBL-MALT+と細胞傷害性T細胞性リンパ腫の合併例)(n=1)であった。
【0070】
以下の注1に示すEBVのencoded small RNA-1(コード化小RNA-1)(EBER-1)のインサイツハイブリダイゼーション(in-situ hybridization、ISH)にて、EBV感染の有無を判断した。その染色結果は、0:陽性細胞無し、1:僅かな陽性細胞、2:少数の陽性細胞、3:多くの陽性細胞、4:ほとんどの細胞が陽性の5つの評価システムで行い、0と1の評価の症例は、EBV非関連症例とした。従来、EBV関連細胞株でのEBVゲノムの欠失クローンが生じることが知られているが、EBV感染が感染細胞に影響を及ぼすには、EBVゲノムの存在が必須であると考えられるので、このような症例のある可能性を考慮しつつ、EBV非関連症例とした。
(注1)EBV コード化小RNA-1(EBER-1)のインサイツハイブリダイゼーション(ISH):EBV感染のLatency 0 phase(潜伏0相)の検出:
【0071】
EBV感染は、インビボ(生体内)でのEBVゲノムの感染細胞での発現パターンで、潜伏感染の段階分けが行われている。EBER-1のISHによる検出は、潜伏0の特徴とされており、EBV感染細胞の全てでの発現があるとされている。
【0072】
この検索が多く含むNK/T細胞性リンパ腫(NKTCL)鼻型は、潜伏2のEBVゲノムの発現があるとされているが、それを示唆する感染ホスト(宿主)には免疫不全状態は把握されていないことから、このEBVの潜伏感染の時期のEBVゲノムの発現パターンによる分類には限界があると現在理解されている。
【0073】
EBER-1のISHは、Tokunaga(トクナガ)等の方法[参考文献17]で記述される。脱パラフィンした切片を、プロテイナーゼKにより37℃で30分間処理して、脱水乾燥する。ジゴキシゲニン標識のプローブを37℃で3時間以上ハイブリダイズさせる。結合したプローブのジゴキシゲニンをアルカリホスファターゼ(AlP)標識の二次抗体で検出して、AlP-Nitro blue tetrazolium chloride(NBT、ニトロ・ブルー・テトラゾリウム・クロライド)/5-Bromo-4-chloro-3-indolyl phosphate, toluidine salt(BCIP、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェート、トルイジン塩)活性反応で呈色させる(DIG-nucleic acid detection kit(核酸検出キット)、1175041、Roche(ロシュ社))。メチルグリーンによる核染の後に、脱水して、封入した。陽性コントロールとしては、EBV関連胃癌の標本切片を同時に同様にして反応させた。
【0074】
EBV非関連および関連のNK/T細胞性リンパ腫(NK/T細胞リンパ腫: NKTCL)は、表2に示す様に、間質に、CD204陽性マクロファージの介在が認められ、図8、9、10のCD204染色像が示す様に、CD204陽性マクロファージは、NKTCLの背景に、その細胞突起の網目構造を作っていた。このCD204陽性マクロファージは、表3に示す様に、NKTCLと細胞傷害性T細胞性リンパ腫(Cytotoxic T-cell lymphoma: 細胞傷害性T-ML)に特異的に分布して、図10に示す様に、NKTCLの変性領域では、NKTCL細胞と同様に変性傾向を示して、壊死部では(図は非提示)、消失して、NKTCLや細胞傷害性T-MLのリンパ腫細胞と共生関係にある細胞であり、ただ単に、リンパ腫細胞の壊死を処理しているだけのマクロファージでないことが示唆された。また、このCD204陽性マクロファージの介在はNKTCLと細胞傷害性T-MLの病理診断にも有用な検索項目であることが判明した。
【0075】
NKTCLのEBV関連症例は、表2に示す様に、また、WHO分類で特異なアポトーシス小体を伴う凝固壊死と表現されている変性壊死を示した。
【0076】
細胞毒性顆粒(Cytotoxic granules)は、この検索では、TIA1で検出しているが、NKTCLも、細胞傷害性T-MLも、リンパ腫細胞が顆粒状の陽性所見を示した。さらに、変性領域でも、NKTCL細胞は、顆粒状の陽性所見を示し、この細胞毒性顆粒の漏出によるリンパ腫細胞のアポトーシス[参考文献18]は考え難かった。一般に、細胞毒性顆粒を有する細胞は、その毒性に対応した細胞機能により自らの細胞毒性顆粒による自己のアポトーシスを回避しているとされている。
【0077】
【表2】
【0078】
不可逆的なアポトーシスの検出を行うクリーブドカスパーゼ-3(cCasp-3)が明らかに陽性である細胞は、図8、9、10と表3に示す様に、検出されなかった。しかし、図9では、NKTCL細胞の細胞質に非常に淡い染色像があり、カスパーゼ-3の分解の亢進[参考文献5]が示唆された。また、図10では、マクロファージの細胞質に弱い染色像があり、共生的なCD204マクロファージのアポトーシスが示唆された。
【0079】
一方、cCasp-3を阻害するサバイビンの発現は、図8、9、10と表3に示す様に、全例で強い陽性像が見られた。これは、リンパ腫細胞でのサバイビンの腫瘍性発現により、cCasp-3が阻害されて、リンパ腫細胞のアポトーシスは生じていないことが示唆された。
【0080】
ミトコンドリア経路でアポトーシスを抑制しているBcl-2は、EBV非関連NKTCLでは、図8と表3に示す様に、強発現を示したが、EBV関連症例では、図9と表3に示す様に、その発現は減弱していた。EBV感染によるBcl-2の発現抑制が示唆された。B細胞性リンパ腫でもEBV関連のMzBL-MALT(n=2: EBV+)がBcl-2の低発現を示した。
【0081】
カスパーゼ-8の阻害効果を示すFlipは、全例で低発現であり、NKTCLの細胞株で報告されたFlipの高発現[参考文献4]は観察されなかった。
AATFは、介在した呼吸上皮や粘膜腺上皮の一部の細胞質で発現が見られたが、リンパ腫細胞での発現は見られなかった。
【0082】
上記のことから、この検索でのリンパ腫細胞では、腫瘍性のサバイビンの発現によりアポトーシスが抑制された状態にあることが判明した。
【0083】
一方、マクロ自己貪食は、図8と9と表3に、ベクリン-1とLC3の細胞質微細化粒状染色は強く、EBV感染に関係なく、EBV感染によるBcl-2発現の低下によるベクリン-1の阻害の抑制もEBV感染例では加わっている可能性もあるが、マクロ自己貪食における小胞の核形成(vesicle nucleation)と伸長(elongation)の亢進が示唆された。さらに、図10の軽度変性領域では、ベクリン-1の発現の低下とLC3細胞質大型顆粒状染色が顕在化してきた。さらに、高度変性領域では、LC3の核染色が見られた(図11)。図11に示すLC3の染色パターンの変化は、小胞の核形成と伸長の亢進が微細顆粒状細胞質染色に、小胞ドッキング(vesicel docking)の亢進が大型化粒状細胞質染色に相当すると考えられる。LC3の核染色は、核周囲の僅かな細胞質に濃縮された小胞の分布が核を染色するように見えるのであろうと思われる。
【0084】
図8はEBV陰性NK/T細胞性リンパ腫の染色を示す。
中型のリンパ腫細胞の瀰漫性の増殖を認め、リンパ腫細胞はCD3、TIA1、CD56陽性で、CD204陽性マクロファージの網目構造を認め、EBER-1陽性細胞は介在小型リンパ球のみで、リンパ腫細胞はEBV陰性である。
cCasp3陽性細胞を認めずに、ベクリン-1とLC3が陽性で、Bcl-2は発現し、Flipの発現は認めずに、サバイビンが強く発現し核を染色している。
【0085】
図9はEBV陽性NKT細胞性リンパ腫(非変性領域)の染色を示す。
リンパ腫細胞のび漫性の増殖を認め、リンパ腫細胞はCD3、TIA1、CD56陽性で、CD204陽性マクロファージの網目構造を認め、リンパ腫細胞はEBER-1陽性である。
cCasp3陽性細胞を認めずに、ベクリン-1とLC3が陽性で、Bcl-2の発現は低下し、Flipの発現は認めずに、サバイビンが強く発現し核を染色している。
【0086】
図10はEBV陽性NKT細胞性リンパ腫(変性領域)の染色を示す。
リンパ腫細胞の変性が認められ、CD204陽性マクロファージの変性も見られる。変性しつつあるリンパ腫細胞はEBER-1が陰性化している。
cCasp3陽性細胞を認めずに、ベクリン-1とLC3が陽性で、LC3では、細胞質に濃染する領域が出現している。Bcl-2の発現は更に低下し、Flipの発現は認めずに、サバイビンは変性した細胞を標識している。
【0087】
図11はLC3の染色像の変化を示す。
非変性領域:細胞質での発現が強く、一部の細胞質に濃染が見られる(Micro*)。
軽度変性領域:細胞質での発現で、一部の細胞質の濃染領域が拡大し、全体的には発現低下が見られる(Macro*)。
高度変性領域:壊死領域に残存した裸核様の細胞破片が標識されている(NS)。
【0088】
したがって、リンパ腫(悪性腫瘍)の細胞死は、cCasp-3を阻害するサバイビンの発現によりアポトーシスは抑制されており、その反対に、マクロ自己貪食は亢進した状態にあり、その中で、マクロ自己貪食細胞死に至る機序は不明であるが、EBV関連症例ではしばしば見られる(表3)ことが明らかになった。
【0089】
【表3】
【0090】
図12はNK/T細胞性リンパ腫の変性領域でのLC3陽性像の理解を示す。
EBV陰性NK/T細胞性リンパ腫では、壊死傾向を認めず、それを反映したベクリン-1とLC3の高発現に対して、ミトコンドリアは微細に染色され、マクロ貪食されておらずに、リソソームの明らかな発現を認めない。
一方、EBV陽性のNK/T細胞性リンパ腫では、変性と壊死にて、ベクリン-1とLC3の染色パターンが変化し、それに対応して、ミトコンドリアの細胞質での凝集が見られマクロ貪食された様相を反映していたが、リソソームの発現は、細胞性の領域では微弱な染色像が見られたが、変性と壊死領域では染色像が見られなかった。LC3とミトコンドリアの染色パターンでは、ミトコンドリアの染色がより少なく、ある程度のマクロ自己貪食リソソームの形成があり、ミトコンドリアの消化が生じたと思われるが、処理出来ない程のLC3の発現亢進が示唆された。
【0091】
図12に示すように、NK/T細胞性リンパ腫における自己貪食細胞死の亢進は、ベクリン-1(小胞核形成の亢進)とLC3(小胞伸長およびドッキングの亢進)によるものであり、おそらく、EBV感染下で、腫瘍細胞でのリソソームの発現誘導の抑制が生じて、マクロ自己貪食されたミトコンドリアの処理が出来ないことが加わった結果であると考えられた。EBV感染下で、腫瘍細胞でのリソソームの発現誘導の抑制は、図13に示すB細胞性リンパ腫(CD5陽性DLBL)でのEBV非感染例と感染例における比較でも示唆された。
【0092】
図13はB細胞性リンパ腫におけるEBV感染の影響を示す。
EBV陰性のCD5陽性リンパ腫(DLBL)では、マクロ自己貪食の亢進(ベクリン-1とLC3の高発現)は、ミトコンドリアの凝集した分布が見られ、ミトコンドリアのマクロ自己貪食が生じていることが示唆されたが、それに対応したカテプシンDで標識されたリソソームの発現が見られ、壊死病変は見られない。
一方、EBV陽性のCD5陽性B細胞性リンパ腫(DLBL)では、巣状の壊死が見られ、それに対応したLC3の核を標識するような染色像が見られた。そして、それに対応したミトコンドリアの凝集が見られたが、リソソームの発現は見られずに、EBV感染によるリソソームの発現誘導の抑制が、壊死の原因の一つであることが示唆された。
【0093】
図14はサバイビン陽性のNK/T細胞性リンパ腫(NKTCL)と微小扁平上皮癌(SCC)と重層扁平上皮(SE)の幹細胞(*)を示す。
鼻NK/T細胞性リンパ腫にepitheliomatous hyperplasia(上皮腫性過形成)と呼ばれる上皮病変が合併する例があるとの記載がWHO分類の説明にはあるが、その上皮病変はサバイビン陽性の微小扁平上皮癌があることが判明した。また、症例は異なるが、扁平上皮の幹細胞がサバイビン陽性であることが判明した。従来、サバイビンは、腫瘍細胞、骨髄幹細胞、胎児組織細胞で発現していることが報告されているが、組織幹細胞も、鼻咽頭部の扁平上皮の幹細胞も陽性であることが判明した。胃の腺上皮における組織幹細胞から分化した段階の僅かな幼弱な腺上皮がCD117を示す(非特許文献1)と同様に、鼻咽頭部の扁平上皮の幹細胞と考えられる細胞は核が濃染し、その他の細胞の一部に僅かに細胞質が陽性のものがあることが見い出される。この核が濃染する組織幹細胞とその他の分化した細胞でのサバイビンの発現の違いが、前記の微小扁平上皮癌と見なす根拠となる。このただし、遺伝子レベル等での細胞の形態や増殖パターンに反映されない腫瘍性変化を示す組織幹細胞である可能性があるが、現在、それを証明する方法はないと思われる。
【0094】
表2に示す様に、この23例のNKTCLの5例で、図14に示すサバイビン陽性の微小な上皮病変が見出された。この微小扁平上皮病変は、従来、上皮腫性過形成とされていたものと考えられるが、下方への増殖、rete-ridge(網状組織隆線)の延長、それに、部分的に異常角化(dyskeratosis)が見られて、微小扁平上皮癌であることが判明した。NKTCLがサバイビン陽性で悪性腫瘍であることから、微小な残存上皮病変の良性悪性の判断が従来出来なかったものと考えられ、サバイビン染色は、複数の悪性腫瘍の存在も標識できることから、病理診断に非常に有用な腫瘍関連分子であると考えられた。
その一方で、図14の右に示す様に、過形成性扁平上皮に、その幹細胞と考えられる細胞もサバイビンに標識された。これは、サバイビンが骨髄幹細胞と胎児組織での発現が報告されていることから、組織幹細胞もサバイビンが陽性であっても理解できるし、明らかに腫瘍になる前の組織幹細胞がサバイビンを発現していると考えても、この所見は、組織幹細胞と癌(癌幹細胞)の関係を示す所見であると考えられた。
【0095】
このアポトーシスとマクロ自己貪食細胞死関連分子の免疫染色と図1のそれぞれの関連分子の関係の概念図は、ヒト病理組織切片中の細胞のプログラム細胞死の解析の道を拓いたものであり、その中で、サバイビンは、腫瘍細胞と幹細胞と胎児組織での発現から、悪性腫瘍診断にも有用であることが判明し、更に、組織幹細胞でのサバイビン発現は、癌幹細胞と組織幹細胞の関係の研究にも、一つの切り口であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0096】
動物組織における細胞増殖、幹細胞の動態、細胞死等の細胞状態の評価、細胞の形態および維持を解析する等により、病理診断に新たな情報を付加し、抗腫瘍治療等の前後の病理標本解析で、治療効果等を評価するのにも適用できる。
【0097】
特許文献1の詳細:“免疫染色法、及び当該免疫染色法を利用した細胞の評価方法”、特願2005-319965 (2005年11月2日出願、特開2007-127505号公報(2007年5月24日公開)、出願人:国立大学法人鹿児島大学、発明者:蓮井 和久)。
非特許文献1の詳細:Kato(カト) K, Hasui(蓮井) K, Wang(ワン) J, Kawano(カワノ) Y, Aikou(アイコウ) T, Murata(ムラタ) F. Homeostatic mass control in gastric non-neoplastic epithelia under infection of Helicobacter pylori: An immunohistochemical analysis of cell growth, stem cells and programmed cell death(胃の非腫瘍性上皮におけるヘリコバクタービロリの感染下の恒常性質量制御:細胞増殖、幹細胞およびプログラム細胞死の免疫組織化学分析). Acta Hitochem. Cytochem. 2008年5月30日; 41: 23-38.
【0098】
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(参考文献10)Mirza(ミルザ) A, McGuirk(マクギールク) M, Hockenberry(ホッケンベリー) TN, Wu(ウー) Q, Ashar(アシュアー) H, Black(ブラック) S, Wen(ウェン) SF, Wang L, Kirschmeier(キルシュマイヤー) P, Bishop(ビショップ) WR, Nielsen(ニールセン) LL, Pickett(ピケット) CB, Liu(リュー) S. Human survivin is negatively regulated by wild-type p53 and participates in p53-dependent apoptotic pathway(ヒトのサバイビンは野生型p53によって負に調整され、およびp53依存性アポトーシス経路において関与する). Oncogene(オンコジーン). 2002年 21: 2613-2622.
(参考文献11)Wagner(ワーグナー) M, Schmelz(シュメルツ) K, Dorken(デルケン) B, Tamm(タム) I. Epigenetic and genetic analysis of the survivin promoter in acute myeloid leukemia(急性骨髄性白血病におけるサバイビンプロモータの後成的および遺伝学的分析). Leuk Res.(ロイケミア・リサーチ) 2008年2月 32(7):1054-60.
(参考文献12)Hino(ヒノ) R, Uozaki(ウオザキ) H, Inoue(イノウエ) Y, Shintani(シンタニ) Y, Ushiki(ウシキ) T, Sakatani(サカタニ) T, Takada(タカダ) K, Fukayama(フカヤマ) M. Survival advantage of EBV-associated gastric carcinoma: Survivin up-regulation by viral latent membrane protein 2A(EBV関連胃癌腫の生存優位性:ウイルス潜伏膜タンパク質2Aによるサバイビンの上方調整). Cancer Res.(キャンサー・リサーチ) 2008年3月; 68: 1427-1435.
(参考文献13)Xu(シュ) JX, Hoshida(ホシダ) Y, Yang(ヤン) WI, Inohara(イノハラ) H, Kubo(クボ) T, Kim GE, Yoon(ヨーン) JH, Kojya(コジャ) S, Bandoh(バンドー) N, Harabuchi(ハラブチ) Y, Tsutsumi(ツツミ) K, Koizuka(コイズカ) I, Jia(チャ) XS, Kirihata(キリハタ) M, Tsukuma(ツクマ) H, Aozasa(アオザサ) K. Life-style and environmental factors in the development of nasal NK/T-cell 1ymphoma: A case-control study in East Asia(鼻腔NK/T細胞リンパ腫の発達におけるライフスタイルおよび環境の因子:東アジアにおけるケースコントロール調査). Int J Cancer(インターナショナル・ジャーナル・オブ・キャンサー)2006年;120:406-410
(参考文献14)Danial(ダニエル) NN, Korsmeyer(コルスマイア) SJ: Cell death: critical control points(細胞死:臨界制御点). Cell(セル) 2004年; 116: 205-219.
(参考文献15)Broeker(ブローカー) LE, Kruyt(クロイト) FA, Giaccone(ジャコーネ) G: Cell death independent of caspases: a review(カスパーゼ非依存性細胞死). Clin Cancer Res(クリニカル・キャンサー・リサーチ) 2005年; 11: 3155-3162.
(参考文献16)WHO classification of Tumors: Pathology & Genetics of Tumors of Haematopoietic and lymphoid tissues(腫瘍のWHO分類:造血性およびリンパ系の組織の腫瘍の病理学および遺伝学). Eds.(編集) Jaffe(ジャッフェ) ES, Harris(ハリス) NL, Stein(スタイン) H, Vardiman(ファルディマン) JW. International Agency for Research on Cancer (IARC) Press(インターナショナル・エージェンシー・フォー・リサーチ・オン・キャンサー(IARC)出版), Lyion(リヨン(Lyon)), 2001年.
(参考文献17)Tokunaga(トクナガ) M, Land(ランド) CE, Uemura(ウエムラ) Y, Tokudome(トクドメ) T, Tanaka(タナカ) S, Sato(サト) E. Epstein-Barr virus in gastric carcinoma(胃癌腫におけるエプスタインバーウイルス). Am J Pathol(アメリカン・ジャーナル・オブ・パソロジー) 1993年; 143: 1250-1254.
(参考文献18)Ko(コー) YH, Park S, Jin(チン) H, Woo(ウー) H, Lee(リー) H, Park C, Kim K. Granzyme B leakage-induced apoptosis is a crucial mechanism of cell death in nasal-type NK/T-cell lymphoma(グランザイムB漏出誘導アポトーシスは鼻タイプNK/T細胞リンパ腫における細胞死の重大な機構である). Lab Invest.(ラボラトリー・インベスティゲーション) 2007年; 87: 241-250.
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物細胞の細胞死の解析、癌細胞の同定および組織幹細胞の同定からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞状態の評価を免疫組織染色によって解析するにあたり、
(a)動物組織の試料を、内因性ペルオキシダーゼの不活化処理にかける工程、
(b)前記試料を、前記試料の抗原性を回復させるために、酵素処理及び熱処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗原回復処理にかける工程、
(c)一次抗体を前記試料中の抗原と結合させる工程であって、前記抗原と前記一次抗体との反応の前に非特異反応抑制処理を行う工程、
(d)酵素標識間接免疫染色法における前記一次抗体と結合させる標識酵素試薬を、前記一次抗体と結合させる工程であって、前記一次抗体と前記酵素標識間接免疫染色法における前記一次抗体と結合させる標識酵素試薬との反応の前に非特異反応抑制処理を行う工程、及び
(e)前記標識酵素を用いて、前記抗原を可視化させ検出する工程
を具える、動物細胞の形態の形成及び維持を解析する方法。
【請求項2】
前記一次抗体は、不可逆的アポトーシスの開始を示す因子、抗アポトーシス因子、自己貪食空胞核形成に関与する因子、空胞形成に関与する因子、ミトコンドリア検出因子、およびリソソーム検出因子からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗原の抗体が用いられるか、またはそれらの少なくとも2種の抗体のパネルが用いられる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記不可逆的アポトーシスの開始を示す因子は、クリーブドカスパーゼ−3、クリーブドカスパーゼ−6、クリーブドカスパーゼ−7、およびDNA分解酵素のカスパーゼ活性化DNアーゼからなる群より選ばれ、前記抗アポトーシス因子は、サバイビン、Bcl−2、FLICE抑制性タンパク質、アポトーシス拮抗性の転写因子、およびBcl−XLからなる群より選ばれ、前記自己貪食空胞核形成に関与する因子は、ベクリン−1、Atg6、Atg14、Vps34、およびVpsからなる群より選ばれ、前記空胞形成に関与する因子は、LC3、Atg8、およびAtg12からなる群より選ばれ、前記ミトコンドリア検出因子は、ミトコンドリア特異抗原およびミトコンドリア特異酵素からなる群より選ばれ、および前記リソソーム検出因子は、リソソーム特異抗原、リソソーム酵素、カテプシンD、カテプシンB、カテプシンK、およびカテプシンLからなる群より選ばれる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記抗体のパネルにサバイビンの抗体またはLC3の抗体が含まれる、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
反応前の非特異反応抑制処理を伴う異化レポーター沈着反応を行う、請求項1〜4の何れか1項記載の方法。
【請求項6】
前記動物組織の試料はヒトのホルマリン固定パラフィン包埋病理組織標本の切片である、請求項1〜5の何れか1項記載の方法。
【請求項1】
動物細胞の細胞死の解析、癌細胞の同定および組織幹細胞の同定からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞状態の評価を免疫組織染色によって解析するにあたり、
(a)動物組織の試料を、内因性ペルオキシダーゼの不活化処理にかける工程、
(b)前記試料を、前記試料の抗原性を回復させるために、酵素処理及び熱処理からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗原回復処理にかける工程、
(c)一次抗体を前記試料中の抗原と結合させる工程であって、前記抗原と前記一次抗体との反応の前に非特異反応抑制処理を行う工程、
(d)酵素標識間接免疫染色法における前記一次抗体と結合させる標識酵素試薬を、前記一次抗体と結合させる工程であって、前記一次抗体と前記酵素標識間接免疫染色法における前記一次抗体と結合させる標識酵素試薬との反応の前に非特異反応抑制処理を行う工程、及び
(e)前記標識酵素を用いて、前記抗原を可視化させ検出する工程
を具える、動物細胞の形態の形成及び維持を解析する方法。
【請求項2】
前記一次抗体は、不可逆的アポトーシスの開始を示す因子、抗アポトーシス因子、自己貪食空胞核形成に関与する因子、空胞形成に関与する因子、ミトコンドリア検出因子、およびリソソーム検出因子からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗原の抗体が用いられるか、またはそれらの少なくとも2種の抗体のパネルが用いられる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記不可逆的アポトーシスの開始を示す因子は、クリーブドカスパーゼ−3、クリーブドカスパーゼ−6、クリーブドカスパーゼ−7、およびDNA分解酵素のカスパーゼ活性化DNアーゼからなる群より選ばれ、前記抗アポトーシス因子は、サバイビン、Bcl−2、FLICE抑制性タンパク質、アポトーシス拮抗性の転写因子、およびBcl−XLからなる群より選ばれ、前記自己貪食空胞核形成に関与する因子は、ベクリン−1、Atg6、Atg14、Vps34、およびVpsからなる群より選ばれ、前記空胞形成に関与する因子は、LC3、Atg8、およびAtg12からなる群より選ばれ、前記ミトコンドリア検出因子は、ミトコンドリア特異抗原およびミトコンドリア特異酵素からなる群より選ばれ、および前記リソソーム検出因子は、リソソーム特異抗原、リソソーム酵素、カテプシンD、カテプシンB、カテプシンK、およびカテプシンLからなる群より選ばれる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記抗体のパネルにサバイビンの抗体またはLC3の抗体が含まれる、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
反応前の非特異反応抑制処理を伴う異化レポーター沈着反応を行う、請求項1〜4の何れか1項記載の方法。
【請求項6】
前記動物組織の試料はヒトのホルマリン固定パラフィン包埋病理組織標本の切片である、請求項1〜5の何れか1項記載の方法。
【図1】
【図3】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図3】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−160018(P2010−160018A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1595(P2009−1595)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.平成20年7月10日 南九州腫瘍研究会発行の南九州腫瘍研究会 第15回学術集会抄録集の第2頁に発表 2.平成20年8月1日〜2日 社団法人 日本病理学会主催の第5回日本病理学会カンファレンス2008 「がん」と「幹細胞」にて発表 3.平成20年9月12日 日本組織細胞化学会発行の第49回日本組織細胞化学会総会・学術集会講演プログラム・予稿集の第94頁に発表 4.平成20年9月30日 日本癌学会発行の第67回 日本癌学会学術総会 未来への架け橋の第106頁に発表 4.の翻訳文 刊行物1、2及び、3の証明願
【出願人】(303003580)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.平成20年7月10日 南九州腫瘍研究会発行の南九州腫瘍研究会 第15回学術集会抄録集の第2頁に発表 2.平成20年8月1日〜2日 社団法人 日本病理学会主催の第5回日本病理学会カンファレンス2008 「がん」と「幹細胞」にて発表 3.平成20年9月12日 日本組織細胞化学会発行の第49回日本組織細胞化学会総会・学術集会講演プログラム・予稿集の第94頁に発表 4.平成20年9月30日 日本癌学会発行の第67回 日本癌学会学術総会 未来への架け橋の第106頁に発表 4.の翻訳文 刊行物1、2及び、3の証明願
【出願人】(303003580)
【Fターム(参考)】
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