説明

入れ歯

【課題】 従来と比して密着力を有する上顎用の入れ歯を提供する。
【解決手段】 上顎12に装着される入れ歯1において、人工歯2と、複数の人工歯2が設けられ、口腔内の歯肉部11に密着するU字条に形成された人工歯肉部3と、人工歯肉部3の内縁に連接され、上顎12と密着する薄肉の上顎密着部4とを備える。そして、人工歯肉部3には、人工歯肉部3の周縁部3aに立設され、人工歯肉部3と歯肉部11とを密着させる弾力性を有する人工歯肉立壁部5が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上顎部又は下顎部に着脱自在に装着する入れ歯に関する。
【背景技術】
【0002】
入れ歯は、総入れ歯と部分入れ歯に大別され、口腔内の自然歯が抜け落ちたりした場合に、その自然歯の代わりに装着する義歯のことをいう。総入れ歯は、口腔内の例えば上顎全ての歯が抜け落ちた場合に装着するものであり、部分入れ歯は、一部の歯が抜けた場合に装着されるものである。
【0003】
口腔内の上顎部に装着する総入れ歯としては、図6(A)に示すように、セラミック等からなる人工歯101と、人工歯101が取り付けられるアクリル樹脂等からなる人工歯肉102と、人工歯肉102と連続して形成され口腔内の上顎部に装着される上顎装着部103とから構成されている上顎用入れ歯100がある。
【0004】
この人工歯肉102は、人工歯101が設けられた面とは反対側の面が、U字条で盛り上がった歯肉(歯茎)を覆うようにして装着できるような断面U字状の溝102aが形成されている。上顎装着部103は、口腔内の上顎と密着される部位である。
【0005】
上顎用入れ歯100は、人工歯101が設けられた面とは反対側の面において、人工歯肉102が無歯状態でU字条に盛り上がっている歯肉(歯茎)を溝102aで覆い密着され、上顎装着部103が上顎と密着されることにより口腔内の上顎部に固定されている。
【0006】
また、口腔内の下顎部に装着する総入れ歯としては、図6(B)に示すように、人工歯101と、U字条の人工歯肉102とから構成されている下顎用入れ歯110がある。この下顎用入れ歯110は、上顎用入れ歯100の人工歯101と人工歯肉102と同様の構成を有しており、上述の上顎用入れ歯100との相違点は、人工歯肉102の内縁と連続して形成される上顎装着部103がないことである。これは、下顎には舌があり、人工歯肉102の内縁を覆い、その部位を下顎に装着させると、舌の動きに制約がかかる等の理由による。
【0007】
ところで、上述のような上顎用入れ歯100は、人工歯肉102や上顎装着部103の上顎や歯肉(歯茎)への密着力により上顎へ装着されるものであり、安定性に欠けるものである。そのため、上顎用入れ歯100は、上顎と下顎の噛み合わせ、発生等の口腔内の動きにより、ガタついたり、場合によっては上顎用入れ歯100が上顎から外れてしまうという事態まで引き起こしていた。さらに、上顎用入れ歯100は、このガタつきにより、例えば上顎と上顎装着部103との間に隙間が生じ、その隙間に食べ物などの異物が入りこむという事態も生じていた。
【0008】
そこで、従来は、上顎用入れ歯100の人工歯101が設けられた面とは反対側の面の人工歯肉102や上顎装着部103に、粘着剤を塗布し、上顎への密着力を増す方法がとられていた。
【0009】
しかしながら、上述の粘着剤を塗布する方法は、別途粘着剤を購入する必要がある上、この粘着剤の粘着力が低下した際に新しい粘着剤を塗布しなおさなければならない等の使用者にとって、煩雑な作業が伴っていた。
【0010】
また、下顎用入れ歯110においても、上顎用入れ歯100と同様のガタつき等が発生し問題となっていた。
【0011】
【特許文献1】特開2002−360608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、定期的に粘着剤等を塗布する煩雑な作業を必要とせず、従来のものと比して上顎または下顎への密着力が向上された入れ歯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る入れ歯は、上顎に装着される入れ歯において、人工歯と、複数の上記人工歯が設けられ、口腔内の歯肉部に密着するU字条に形成された人工歯肉部と、上記人工歯肉部の内縁に連接され、上記上顎と密着する薄肉の上顎密着部とを備える。そして、上記人工歯肉部には、上記人工歯肉部の周縁部に立設され、上記人工歯肉部と上記歯肉部とを密着させる弾力性を有する人工歯肉立壁部が設けられていることを特徴とする。
【0014】
さらに、上記上顎密着部には、上記上顎と対向する面に立設され、上記上顎に上記上顎密着部を吸着させる弾力性を有する上顎立壁部が設けられるようにしてもよい。
【0015】
また、本発明に係る入れ歯は、下顎に装着される入れ歯においては、人工歯と、複数の上記人工歯が設けられ、口腔内の歯肉部に密着するU字条に形成された人工歯肉部とを備え、上記人工歯肉部には、上記人工歯肉部の周縁部に立設され、上記人工歯肉部と上記歯肉部とを密着させる弾力性を有する人工歯肉立壁部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る入れ歯は、人工歯肉部の周縁部に亘って人工歯肉立壁部が設けられており、装着時にこの人工歯肉立壁部が、歯肉部と人工歯肉部との隙間をなくし、人工歯肉部と歯肉部とを密着させる。また、この人工歯肉立壁部は、歯肉部と人工歯肉部との隙間をなくすので、入れ歯と上顎との間に食べ物などの異物の混入することを防ぐことができるとともに、人工歯肉部が吸盤のような効果を奏し、人工歯肉部を歯肉部に吸着させ、装着安定性を向上させ、装着感を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る上顎用の入れ歯について図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の入れ歯1の斜視図であり、図2は、x−x´における断面図であり、図3は、上顎へ装着したした際のy−y´における断面図である。
【0019】
本発明の入れ歯1は、図1〜図3に示すように、人工歯2と、複数の人工歯2が設けられ、口腔内の歯肉部11(図3参照)に密着する断面U字形状に形成された人工歯肉部3と、人工歯肉部3と連接され、人工歯肉部3のU字形状に囲まれた中間部に形成され、口腔内の上顎12と密着する薄肉の上顎密着部4とから構成されている。また、入れ歯1は、人工歯肉部3に、人工歯肉部3の周縁部3aに立設され、人工歯肉部3と歯肉部11とを密着させる弾力性を有する人工歯肉立壁部5が設けられている。
【0020】
入れ歯1は、口腔内の自然歯が抜け落ちた無歯状態の上顎12(図3参照)に装着されるものであり、具体的には、人工歯肉部3が口腔内の歯肉部11を覆い密着し、上顎密着部4が上顎12に面接合し密着し、人工歯肉立壁部5が歯肉部11と人工歯肉部3との隙間をなくし吸着するように装着される。
【0021】
人工歯2は、セラミックからなり、自然歯と同様の形状を有している。人工歯2は、例えば装着者の抜歯前の自然歯と同様の並び方で人工歯肉部3に同本数並べられている。なお、人工歯2は、上述に限らず、セラミックと同様の強度、加工性を有するものであればよい。
【0022】
人工歯肉部3は、上顎と下顎との噛み合わせ時等において歯肉部11を傷つけたりしない弾力性を有するとともに、噛み合わせ時等の顎の力を人工歯2に伝達できるだけの硬質体であるアクリル樹脂等からなる。人工歯肉部3は、装着される上顎のうち、抜歯前の自然歯が並んでいた下顎側に隆起した歯肉部11を覆う形状を有している。具体的には、人工歯肉部3は、図1に示すように、その全体形状が抜歯前の自然歯が並んでいた歯肉部11に沿うような形状を有しており、全体としてU字条に形成されている。また、人工歯肉部3は、図2に示すように、盛り上がった歯肉部11を覆い密着するように盛り上がった歯肉部11と略同形状の溝部3bを有しており、断面が凹状に形成されている。
【0023】
人工歯肉部3は、装着時に下顎と対向する側で、歯肉部11に沿って隆起した部分の頂部に、人工歯2が複数本、自然歯と同じ歯並びに埋め込まれている。また、人工歯肉部3は、その厚みは全体的に薄肉に形成されているが、上述のように歯肉部11に沿って隆起した部分の頂部においては、人工歯2が埋め込まれるので、その安定性確保と減少した歯肉部11の盛り上がり高さを補填するために、肉厚に形成されている。
【0024】
なお、人工歯肉部3は、上顎と下顎との噛み合わせ時等において歯肉部11を傷つけたりしない弾力性を有するとともに、噛み合わせ時等の顎の力を人工歯2に伝達できるだけの硬質体材料からなるものであればよく、アクリル樹脂の他に同様の性状を持つ合成樹脂等から形成されていてもよい。
【0025】
上顎密着部4は、図1に示すように、人工歯肉部3と連続して形成され、人工歯肉部3の略U条に形成された部分に囲まれた中間部を閉塞する部材である。つまり、上顎密着部4は、人工歯肉部3の内縁に連続するように形成されている。上顎密着部4は、人工歯肉部3と同様の材料からなり、人工歯肉部3を補強できる程度に薄肉に形成されており、上顎12と密着するような上顎12と略同様の面形状を有している。
【0026】
なお、上顎密着部4は、上述に限らず、樹脂の内部に軽金属等を埋め込み、さらなる強度を得るような構成としてもよい。
【0027】
人工歯肉立壁部5は、人工歯肉部3の周縁部3aに立設され、人工歯肉部3よりも弾力性のある合成樹脂から形成されている。具体的に、人工歯肉立壁部5は、凹状の溝部3bの外側端部である周縁部3a全体に亘って設けられた立壁部材である。人工歯肉立壁部5は、装着時に盛り上がった歯肉部11の根元部分と密着するように形成され、装着時に人工歯肉部3と歯肉部11との隙間を完全になくし、それにより人工歯肉部3を歯肉部11に吸着させる。また、人工歯肉立壁部5は、装着時に人工歯肉部3と歯肉部11との間に人工歯肉立壁部5が巻き込まれないようにするために、断面凹状部に対して外側にやや開くように立設されている。
【0028】
以上のような構成を有する上顎用の入れ歯1は、人工歯肉部3の周縁部3a全体に亘って人工歯肉立壁部5が設けられており、装着時にこの人工歯肉立壁部5が、図3に示すように、歯肉部11と人工歯肉部3との隙間をなくし、人工歯肉部3と歯肉部11とを密着させる。また、この人工歯肉立壁部5は、歯肉部11と人工歯肉部3との隙間をなくすので、入れ歯1と上顎12との間に食べ物などの異物の混入することを防ぐことができるとともに、人工歯肉部3が吸盤のような効果を奏し、人工歯肉部3を歯肉部11に吸着させ、装着安定性を向上させることができる。
【0029】
次に、本発明の他の実施形態である上顎用の入れ歯20について図面を参照して説明する。なお、入れ歯20において、入れ歯1と同様の構成を有する部分には同様の符号を付し、その説明を省略する。
【0030】
上顎用の入れ歯20は、入れ歯1の構成に加え、図4に示すように、上顎密着部4の上顎12と対向する側の面において、上顎密着部4と上顎12とを吸着させる上顎立壁部21が設けられている。
【0031】
上顎立壁部21は、人工歯肉立壁部5と同様の材料から形成されており、上顎密着部4の上顎12と対向する側の面に立設されている。上顎立壁部21は、上顎密着部4上で、人工歯肉部3と上顎密着部4との境界部4aと、装着時の口蓋垂側の周縁部4bとで囲まれる上顎密着部4の周縁部4c全体に亘って設けられる立壁部材である。上顎立壁部21は、装着時に上顎12と密着するように形成され、装着時に上顎密着部4と上顎12との隙間をなくし、それにより上顎密着部4を上顎12に吸着させる。また、上顎立壁部21は、装着時に上顎密着部4と上顎12との間に上顎立壁部21が巻き込まれないようにするために、上顎密着部4に対して外側にやや開くように立設されている。
【0032】
以上のような構成を有する上顎用の入れ歯20は、人工歯肉立壁部5により歯肉部11と人工歯肉部3との隙間をなくし、人工歯肉部3と歯肉部11とを密着させ、さらに、上顎立壁部21が上顎密着部4の周縁部4c全体に亘って設けられており、上顎密着部4と上顎12との隙間をなくし、上顎密着部4と上顎12とを密着させる。また、この上顎立壁部21は、上顎密着部4と上顎12との隙間をなくすので、入れ歯1と上顎12との間に食べ物などの異物の混入することを防ぐことができるとともに、上顎密着部4が吸盤のような効果を奏し、上顎密着部4を上顎12に吸着させ、装着安定性を向上させることができる。
【0033】
続いて、本発明の他の実施形態である下顎用の入れ歯30について図面を参照して説明する。なお、入れ歯30において、入れ歯1と同様の構成を有する部分には同様の符号を付し、その説明を省略する。
【0034】
図5に示すように、本発明に係る入れ歯30は、入れ歯10、20と異なり、下顎に装着される入れ歯であって、人工歯2と、人工歯肉部3と、人工歯肉部3の周縁部3aから立設される人工歯肉立壁部31とから構成され、全体が馬蹄状(U字条)に形成されている。下顎用の入れ歯30は、上顎用の入れ歯10の上顎密着部4がない形状である。なお、図5は、下顎に装着される入れ歯30を示す図であり、説明上、下顎の歯肉部に装着される面が上になるような図となっている。
【0035】
人工歯肉立壁部31は、入れ歯10の人工歯肉立壁部5と同様の構成を有しており、人工歯肉部3の周縁部3aに立設され、人工歯肉部3よりも弾力性のある合成樹脂から形成されている。具体的に、人工歯肉立壁部31は、凹状の溝部3bの外側端部である周縁部3a全体に亘って設けられた立壁部材である。人工歯肉立壁部31は、装着時に盛り上がった下顎の歯肉部の根元部分と密着するように形成され、装着時に人工歯肉部3と下顎の歯肉部との隙間を完全になくし、それにより人工歯肉部3を下顎の歯肉部に吸着させる。また、人工歯肉立壁部31は、装着時に人工歯肉部3と下額の歯肉部との間に人工歯肉立壁部31が巻き込まれないようにするために、断面凹状部に対して外側にやや開くように立設されている。
【0036】
以上のような構成を有する下顎用の入れ歯30は、人工歯肉部3の周縁部3a全体に亘って人工歯肉立壁部31が設けられており、装着時にこの人工歯肉立壁部31が、下顎の歯肉部と人工歯肉部3との隙間をなくし、人工歯肉部3と下顎の歯肉部とを密着させる。また、この人工歯肉立壁部31は、下顎の歯肉部と人工歯肉部3との隙間をなくすので、入れ歯30と下顎との間に食べ物などの異物の混入することを防ぐことができるとともに、人工歯肉部3が吸盤のような効果を奏し、人工歯肉部3を下顎の歯肉部に吸着させ、装着安定性を向上させることができる。
【0037】
なお、下顎用の入れ歯30は、上述に限らず、人工歯肉部3の内側周縁部3c(図5参照)においても、人工歯肉立壁部31を設けるようにしてもよい。
【0038】
また、本発明は、上顎用又は下顎用の総入れ歯について説明したが、これに限らず、部分入れ歯についても人工歯肉立壁部を設けて歯肉と密着させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る上顎用の入れ歯を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る上顎用の入れ歯の図1のx−x´における断面図である。
【図3】本発明に係る上顎用の入れ歯の図1のy−y´における使用状態を示した断面図である。
【図4】本発明に係る他の上顎用の入れ歯を示す斜視図である。
【図5】本発明に係る下顎用の入れ歯を下方から示す斜視図である。
【図6】(A)は、従来の上顎用の入れ歯を示す斜視図であり、(B)は、従来の下顎用の入れ歯を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0040】
1、20 入れ歯、2 人工歯、3 人工歯肉部、3a 周縁部、4 上顎密着部、5 人工歯肉立壁部、11 歯肉部、12 上顎、21 上顎立壁部、100 上顎用入れ歯、101 人工歯、102 人工歯肉、103 上顎装着部、110 下顎用入れ歯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上顎に装着される入れ歯において、
人工歯と、
複数の上記人工歯が設けられ、口腔内の歯肉部に密着するU字条に形成された人工歯肉部と、
上記人工歯肉部の内縁に連接され、上記上顎と密着する薄肉の上顎密着部とを備え、
上記人工歯肉部には、上記人工歯肉部の周縁部に立設され、上記人工歯肉部と上記歯肉部とを密着させる弾力性を有する人工歯肉立壁部が設けられていること
を特徴とする上顎用の入れ歯。
【請求項2】
上記上顎密着部には、上記上顎と対向する面に立設され、上記上顎に上記上顎密着部を吸着させる弾力性を有する上顎立壁部が設けられていること
を特徴とする請求項1記載の上顎用の入れ歯。
【請求項3】
下顎に装着される入れ歯において、
人工歯と、
複数の上記人工歯が設けられ、口腔内の歯肉部に密着するU字条に形成された人工歯肉部とを備え、
上記人工歯肉部には、上記人工歯肉部の周縁部に立設され、上記人工歯肉部と上記歯肉部とを密着させる弾力性を有する人工歯肉立壁部が設けられていること
を特徴とする下顎用の入れ歯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−334093(P2006−334093A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161720(P2005−161720)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(505204136)