全国合成レーダ雨量を用いた分布型流出予測システム
【課題】流域をティーセン分割し地上雨量計の観測値で面積雨量を算出する手法では、 流域内の面積雨量を正確に把握することは困難であり、雨量分布を正しく流出解析に反映させることができないといった問題がある。
【解決手段】オンライン全国合成レーダ雨量及び分布型流出モデルを用いた流出予測手段1と、前記分布型流出モデルのモデル構造2と、前期流出予測に用いる全国合成レーダ雨量の検証手段3及び補正手段4と、前記洪水予測システムの対象流域に特化した降雨移動解析を用いた降雨予測手段5とを備えることで、流出解析精度に大きく影響する雨量分布データ(強度と分布)の精度が向上し、従来の地上雨量計で問題となっていた降雨分布の観測誤差による流出解析の誤差を解消せしめる。
【解決手段】オンライン全国合成レーダ雨量及び分布型流出モデルを用いた流出予測手段1と、前記分布型流出モデルのモデル構造2と、前期流出予測に用いる全国合成レーダ雨量の検証手段3及び補正手段4と、前記洪水予測システムの対象流域に特化した降雨移動解析を用いた降雨予測手段5とを備えることで、流出解析精度に大きく影響する雨量分布データ(強度と分布)の精度が向上し、従来の地上雨量計で問題となっていた降雨分布の観測誤差による流出解析の誤差を解消せしめる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度で迅速な配信が可能なオンライン全国合成レーダ雨量及び同種のレーダ雨量と予測雨量を用い、地形、植生、土地利用、土壌、表層地質及び風化状態などで決まる流出特性等の水文学的要因をメッシュ毎に与えて流出計算を行う分布型流出モデルを組み合わせて現在から数時間先までの河道の任意地点における洪水流量を算出する事ができる流出予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の流出予測システムとしては、例えば、流域をティーセン分割し地上雨量計の観測値で面積雨量を算出し、貯留関数法に代表される集中型流出モデルにより流域を数十km2〜数百km2に区分し、それら分割流域毎に斜面や降雨特性等を平均的、総体的にとらえる流出解析手法により流量および水位を予測している(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平2002−256525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来の流出予測システムで用いられている流域をティーセン分割し地上雨量計の観測値で面積雨量を算出する手法では、 流域内の面積雨量を正確に把握することは困難であり、降雨分布特性の違いによる洪水流出の違いを適切に表現できないといった問題がある。
【0004】
また、従来の流出予測システムは、殆どの河川で貯留関数法に代表される集中型流出モデルが採用されているが、流域を数十km2〜数百km2に区分し、分割流域毎に斜面や降雨特性等を平均的、総体的にとらえる流出解析手法であるため、雨量分布や流域の地形、植生、土地利用、土壌、表層地質及び風化状態などで決まる浸透特性等の水文学的要因の場所的な違いを詳細に反映することができない。このため、そのつど解析に必要なパラメータを変更しなければ、流出特性の違いを正しく流出解析に反映することができず、さまざまな洪水流出波形に対して、一定のパラメータで、安定して高精度な解析を行うことは不可能であった。しかし、どのような洪水に対しても計算結果が整合するようパラメータをリアルタイムに変えることは困難であるため、洪水流出予測に用いるには精度に問題があった。
【0005】
従来、流出予測に用いる予測降雨は、外部から導入したり、経験等に基づく概略値を用いていたため、流域をメッシュに分割して、10分毎に計算を行う分布型モデルによる洪水予測には、時間的、空間的、精度的に必ずしも十分な入力データではなかった。
分布型モデルの特徴としては、下記(a)乃至(d)が挙げられる。
(a)レーダ雨量をメッシュ毎に与えることができるため、降雨の時空間分布を反映した流出量を求めることが可能。
(b)流域の流出特性を適切に反映したモデルとすることで、一定のパラメータを用いて、前期降雨の有無や、降雨特性の異なる種々の洪水流出を再現することが可能。
(c)流域の任意の地点で流量を求めることが可能。
(d)高水と低水を統合した物理的モデルを使用し、流域の物理的な特性を反映した定数を使用するため、流域特性が類似した他流域への適用も容易。
(e)土地利用を考慮した計算が可能なため総合治水計画などにも利用可能。
【0006】
従って、レーダ雨量と分布型モデルを用いた洪水予測は、雨量観測や洪水流量観測の実施されていない河川における洪水予測の可能性を広げるものである。
【0007】
更に、当該流域に特化した降雨予測(降雨移動解析)を行なう事による利点として、下記の(a)、(b)及び(c)が挙げられる。
(a)当該流域に最適な範囲で適切な解析を行う事ができる。
(b)レーダデータ入手後迅速(1〜2分)に降雨予測データ(10分毎、10分後〜180分後までの予測メッシュ雨量)を作成する事が可能、したがって、中小流域でも洪水予測を行なう事が可能。
(c)1〜2分で10分毎、10分後〜180分後までの予測メッシュ雨量が算出できるため、他の予測雨量を使用する場合に比べ、非常に短時間間隔で流出予測を行なう事が可能
【0008】
次に、分布型モデル開発の背景について説明する。我が国ではこれまで、貯留関数法やタンクモデル法などの集中型モデル(斜面集合型含む)により流出予測システムが構築されてきた。このようなモデルが採用された理由は、「(a)計算処理能力が低く、大量のデータ処理と保管が難しい。」、「(b)地形、土地利用などの基礎データがアナログデータで提供されていたため、細部の詳細なデータの取得が難しい。」等であるが、近年これらの状況が改善されてきている。
【0009】
尚、現在では、詳細な数値計算を行う条件が整ってきており、現時点では、計算機の処理能力は15年前と比較するとスピードで100倍、記憶容量で1000倍のオーダーで向上した。
【0010】
因に、地形データは、数値情報(国土地理院)、イコノス衛星データ(三菱商事)などにより詳細なデジタルデータが提供され始めている。また、土地利用も国土数値情報により詳細なデジタルデータが提供され始めている。更に、降雨データも国土交通省全国合成レーダ雨量等により詳細なデジタルデータが提供され始めている。同センターで高精度な予測雨量も提供されている等、詳細な数値計算を行う条件が整ってきている。
【0011】
更に、近年の地球環境の変化等による集中豪雨の増大、流域開発による土地利用の高度化により、洪水予測体制の整備が不十分な中小河川における洪水被害が増大している。これらの中小河川では、豪雨発生から被害発現までの時間も短く、かつ、洪水流量観測データの不足などにより、的確に災害状況を把握し非難勧告等を発令する事が困難であった。
【0012】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたもので、降雨状況を面的に観測でき、高精度で迅速な配信が可能なオンライン全国合成レーダ雨量及び同種のレーダ雨量と予測雨量を用い、地形、植生、土地利用、土壌、表層地質及び風化状態などで決まる流出特性等の水文学的要因をメッシュ毎に与えて流出計算を行う分布型流出モデルを組み合わせて現在から数時間先までの河道の任意地点における洪水流量を算出する事ができる流出予測システムの提供を目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の如き従来の問題点を解決し、所期の目的を達成するため本発明の要旨とする構成は、オンライン全国合成レーダ雨量及び分布型流出モデルを用いた流出予測手段と、前記分布型流出モデルのモデル構造と、前記分布型流出モデルパラメータ設定手段と、前期流出予測に用いる全国合成レーダ雨量の検証手段及び補正手段と、前記流出予測システムの対象流域に特化した降雨移動解析を用いた降雨予測手段との全て又は何れかを選択又は組み合わせてなる分布型流出予測システムに存する。
【0014】
また、前記流出予測手段は、オンライン全国合成レーダ雨量及び同種レーダ雨量と予測雨量を用い、細分化しメッシュ毎に有効降雨モデル、地層流下モデル、及び河道流下モデルからなる分布型流出モデルにより、現在から数時間先までの河道の任意地点における流量を算出し予測画像を作成し又は表示するのが良い。
【0015】
更に、前記分布型流出モデルのモデル構造は、細分化しメッシュ毎に複数の層からなる地層流下モデル、有効降雨モデル、及び河道流下モデルからなり、流域の地形、植生、土地利用、土壌、表層地質などで決まる浸透特性等の水文学的要因を適切に反映して洪水の流出波形を再現するのが良い。
【0016】
更に、前記分布型流出モデルパラメータ設定手段は、各層の流れ、浸透、貯留の大きさを表す等価粗度、飽和透水係数、不飽和透水係数、間隙率などのパラメータと、それぞれの層厚は、地形、植生、土地利用、土壌分類、表層地質、風化状態、現地調査結果及び地質柱状図等をもとに流域の物理的な流出機構を反映するよう決定し、再現計算により十分な検証を行って決定するのが良い。
【0017】
また、前記全国合成レーダ雨量の検証手段及び補正手段は、レーダ雨量画像の目視点検を行うと共に、地上雨量計と地上雨量計に対応するメッシュのレーダ雨量と相関係数及び総雨量比を算出し検討することで定量的に判断し、さらに、レーダビームの遮蔽によるレーダ雨量の観測誤差の補正や、クラッタ等の発生時には隣接するクラッタの無いメッシュで補正等を行なうのが良い。
【0018】
また、前記降雨予測手段は、オンライン全国合成レーダ雨量及び同種のレーダ雨量を用い、対象流域に特化した降雨移動解析より得られる予測雨量により流出予測を行なうのが良い。
【0019】
更に、オンラインレーダ雨量計を用いた補正を時々刻々行うレーダ雨量計全国合成システムにより作成されるため、約1kmメッシュ単位、5分間隔で配信される全国合成レーダ雨量データ(現況)は高い精度を有している。
【0020】
当該流域における降雨予測は、オンライン合成レーダ雨量を用いて行ない、その他のメッシュ予測雨量との組み合わせ又は調整を行なう。
【0021】
また、流出モデルでは、流域特性を考慮し、できるだけ実現象に近い流出機構を反映したモデル化を行っているため、洪水波形の再現精度が向上する。そのため、降雨の時空間分布などの相違に基づく様々な洪水波形に対して、一定のパラメータを用いてさまざまな洪水に対して高精度な解析が可能であり、定数をその都度変えることのできない洪水予測に適している。
【0022】
更に、流域は地域区画(約1kmメッシュ)毎に複数の層の流れと河道とにモデル化し、雨量は有効降雨モデルを通して与え、表面と河道内の流れはkinematic wave法、地層内の流れはdarcy則により表現する。それぞれに用いるパラメータ、層圧等はメッシュ毎に地形、土地利用、植生、土壌分類、表層地質、風化状態、勾配などを考慮し、検証を実施して決定する。
【0023】
メッシュに分割された流域について、数値地図(1kmメッシュ平均標高、KS-273:流域界位置、KS-272:流路位置)に基づき落水線図を作成し、さらに目視よる修正を加える。落水線図は、単位メッシュ(1kmメッシュ)からの流下方向を縦横4方向、斜4方向の合計8方向とし、単位メッシュを連ねて流下方向が連続するよう合成して流域全体の落水線モデルを構築する。
【0024】
また、落水線に加えて国土数値情報の流路位置データに基づき河道を設定する。国土数値情報の土地利用区分、土壌分類、表層地質区分、風化状態、植生等に応じて区分し、表面流や浸透流を表すモデル構造やパラメータとして、層厚、等価粗度係数、水平透水係数、鉛直浸透能、最小水分量、飽和水分量等を設定する。具体的な手順は、現地調査結果、文献、経験値等により一次設定し、実測値との検証により最終パラメータを確定する。
【発明の効果】
【0025】
本発明は上述のように構成され、オンライン全国合成レーダ雨量及び同種のレーダ雨量を用いることで、流出解析精度に大きく影響する雨量分布データ(強度と分布)の精度が向上し、従来の地上雨量計で問題となっていた降雨分布の観測誤差による流出解析の誤差を解消することができるといった効果を奏する。
【0026】
また、分布型流出モデルでは、地形、土地利用、植生、土壌分類、表層地質、風化状態など、降雨流出に関わる物理的な条件をメッシュ毎に設定することで、流出機構を物理的に解析することができるため、洪水波形の再現精度が向上し、定数を変えることなく、多様な洪水波形に対して高精度な流出計算を行うことができるといった効果を奏する。
【0027】
更に、任意の地点で流量が求められるという分布型流出モデルの特性を活かし、複数降雨、複数地点の流量観測測結果をもとに、総合的な検証を行うことができるため、特定地点の流量観測精度に左右されない高精度なモデル検証が可能である。
【0028】
また、観測データの整備された本川の基準点で検証を行ったモデルを作成し、観測データの少ない支川の任意地点において、洪水流量を算出することが可能である。
【0029】
更に、高精度な国交省レーダ雨量計のリアルタイムなデータや同種のレーダ雨量を用いて、洪水予測システム内で当該流域に特化した降雨移動解析を行うことにより、その地域に適合した適正な予測雨量を算出し、遅滞なく洪水予測を実施することができるといった効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
オンライン全国合成レーダ雨量及び分布型流出モデルを用いた流出予測手段と、前記分布型流出モデルのモデル構造と、前期流出予測に用いる全国合成レーダ雨量の検証手段及び補正手段と、前記洪水予測システムの対象流域に特化した降雨移動解析を用いた降雨予測手段とを備える。
【実施例】
【0031】
以下、本発明に係る分布型流出予測システムの実施の一例を図面を参照しながら説明する。図中Aは、本発明に係る分布型流出予測システムであり、この分布型流出予測システムAは、図1に示すように、オンライン全国合成レーダ雨量及び分布型流出モデルを用いた流出予測手段1と、前記分布型流出モデルのモデル構造2と、前期流出予測に用いる全国合成レーダ雨量の検証手段3及び補正手段4と、前記洪水予測システムの対象流域に特化した降雨移動解析を用いた降雨予測手段5とを備える。
【0032】
前記流出予測手段1は、オンライン全国合成レーダ雨量及び同時刻オンライン全国合成レーダ雨量を用い、流域を第3次地域区画(約1kmメッシュ)に細分化しメッシュ毎に複数の層からなる地層流下モデル及び河道モデルからなり、地形、流域の植生、土地利用、土壌分類、表層地質、風化状態などで決まる浸透特性等の水文学的要因を個別に捉えられる分布型流出モデルにより、降雨の河道への流出量を計算し、河道の任意地点における流出を算出し、水位予測画像を作成し又は表示するものである。
【0033】
また、前記分布型流出モデルのモデル構造2は、メッシュ毎に降雨から蒸発散等により失われる量を差し引いた有効降雨の、地表面における貯留と流れ、表層における浸透と貯留、土壌中における浸透と貯留、風化基岩層における浸透と貯留、基岩層における浸透と貯留を解析し、洪水の流出波形を再現するものである。
【0034】
更に、前記全国合成レーダ雨量の検証手段3及び補正手段4は、レーダ雨量画像の目視点検を行うと共に、地上雨量と地上雨量計の直上メッシュのレーダ雨量値との相関係数及び総雨比量を算出し検討することで定量的に判断し、また、レーダビームの遮蔽によるレーダ雨量の観測誤差の補正や、クラッタ発生時には隣接するクラッタの無いメッシュで補正を行なうものである。
【0035】
前記降雨予測手段5は、オンライン全国合成レーダ雨量及び同種のレーダ雨量を用い、対象流域に特化した降雨移動解析より得られる予測雨量により流出予測を行なうものである。
【0036】
以下、流出予測手段1について更に詳しく説明する。従来の洪水予測や河川管理の分野における流出解析では、地上雨量観測所の観測結果として得られる点雨量を、各地上雨量計の配置から支配されるティーセン分割面積内に一様に与える流域平均雨量で実施してきた。
【0037】
しかしながら、地上の点雨量が必ずしもティーセン分割領域内の雨量を代表しているとは限らないため、しばしば計算流量と実績流量との誤差を生じる要因となっている。
【0038】
これに対し、レーダ雨量計は、雨量強度の空間分布を平面的・時間的に連続して捉えることができるという特徴を有しているため、洪水予測や河川管理の分野における流出解析(計画流量算定等)に反映させることが望まれている。
【0039】
以上のことから、選定した対象洪水については、レーダ雨量計観測データを優先的に使用する。尚、レーダ雨量(合成レーダ雨量)の検証3は、下記の条件により実施し、精度検証の条件としては、下記の(a)乃至(c)が挙げられる。
【0040】
(a)比較雨量:合成レーダ雨量と地上雨量(点雨量)
(b)比較地点:
地上雨量観測所(点雨量比較用)
(c)精度検証:レーダ雨量画像、相関係数、総雨量比
【0041】
次に、斯かるレーダ雨量検証3の精度検証について説明する。合成レーダ雨量の精度検証に用いる指標値は、相関係数及び総雨量比とし算定条件・算定式は以下に示すとおりとする。
【0042】
また、算定条件は、地上雨量計の時間雨量系列をxとする。レーダ雨量計の時間雨量(前1時間雨量)系列をyとする。xは離散値、yは連続値であることから、x≧1、y≧0.5であるデータを対象に各指標値を算出する。ただし、これらのデータ数が5個未満の場合、各指標値は算出しない。
【0043】
更に、相関係数算定式は、地上観測所の時間雨量とその観測所直上の1kmメッシュのレーダ雨量をもとに、下式により相関係数を算出する。
【0044】
ここに、xi:時刻iの地上雨量(mm)、yi:時刻iのレーダ雨量(mm)、x:平均地上雨量(mm)、y:平均レーダ雨量(mm)、N:データ数である。
【0045】
また、総雨量比算定式は、地上観測所の時間雨量とその観測所直上の1kmメッシュのレーダ雨量をもとに、下式により総雨量比を算出する。
【0046】
ここに、xi:時刻iの地上雨量(mm)、yi:時刻iのレーダ雨量(mm)、N:データ数である。
【0047】
尚、対象降雨の選定にあたっては、下記の条件により実施した(対象降雨の選定条件)。
(a)総雨量比:点雨量評価=0.5〜1.5の範囲、流域平均評価=0.8〜1.2の範囲
(b)相関係数:流域平均評価=0.8以上
(c)遮蔽:段差なし(10mm/日未満)
(d)グランドクラッター:発生なし(5分ピッチの時系列変化及び、累加雨量で判断)
この結果、検討より分布型流出モデルの検証計算に最適は降雨を選定する。尚、(c)及び(d)については補正を行い利用する。
【0048】
次に、レーダ雨量補正手段4について説明する。グランドクラッターやレーダサイト近傍の抜けについては、レーダ降雨を補完する等の処理が必要であり、下記のように補正処理を実施する。
【0049】
また、図2に示すように、レーダサイト近傍の抜けによるメッシュについて補正を行うため、図3のように対象区域の周辺メッシュの平均値を用いた補正を実施することとする。
【0050】
また、図4に示すように、レーダサイト近傍の降雨低減によるメッシュについて補正を行うため、図5のようにレーダ雨量計の距離特性を把握した上でレーダサイトからの距離に応じて補正を実施することとする。
【0051】
次に、分布型流出の計算手法について説明する。分布型モデル構造2は、[表1]に示すような3モデル区分された構造であり、有効降雨モデル、地層流下モデル、河道流下モデルにより構成する。地層流下モデル(地表、A0層、A+B層、C1層、C2層)は水分を貯留する部分と流下する部分とを考慮してモデル化する。また、河道は国土数値情報により河道として識別される場合のみ設定する。
【0052】
また、単位メッシュ(約1×1kmの3次地域区画)毎に、これら3モデル構造を構成していて、下流メッシュと結合することで流域を構成する。有効降雨モデルは樹幹及び窪地などの水分貯留及び蒸発散をモデル化し土地利用及び植生に応じて区分する。降雨(上流メッシュからの流入も)は有効降雨モデルに流入させ一旦貯留して、A0層へ流下あるいはA+B層へと浸透させる。
【0053】
更に、地表から地下A0層、A+B層、C1層、C2層など単位メッシュの一体構造を地画セルと命名し、この地画セルでの流下を地画流下モデルとして、有効降雨モデルから地下A0層へ流下させる一方、A+B層へ浸透させる。A0層厚を越えると地表を流下させ、地表流はkinematic wave法で計算し、地下流はdarcy則で一体的に計算する。A層以下の地下層は単位メッシュ毎に構成し、A+B層へ浸透するとA+B層を流下あるいはC1層へ浸透させて、地下流はdarcy則で計算する。
【0054】
尚、地表とA0層は一体構造として、土地利用比率に応じて山地域、都市域、水域の3種類の地画サブセルに区分する。河道セルは、セルとは独立に存在しているとして、この河道セルでの流下を河道流下モデルとして、kinematic wave法で計算する。これら分布型モデル構造を[表1][表2]に、分布型モデル構造概念図及び分布型モデル構成図を図6に示す。
【0055】
[表1]
分 布 型 モ デ ル 構 造
【0056】
[表2]
【0057】
分布型流出計算は、国土数値情報の地盤高や土地利用のメッシュデータを使用し、河川流域を細かくメッシュ区分して、流域の任意の地点での流出量を計算する手法である。
【0058】
分布型モデル開発の背景について説明する。我が国ではこれまで、貯留関数法やタンクモデル法などの集中型モデル(斜面集合型含む)により洪水予測システムが構築されてきた。このようなモデルが採用された理由は、「(a)計算処理能力が低く、大量のデータ処理と保管が難しい。」、「(b)地形、土地利用などの基礎データがアナログデータで提供されていたため、細部の詳細なデータの取得が難しい。」等であるが、近年これらの状況が改善されてきている。
【0059】
尚、現在では、詳細な数値計算を行う条件が整ってきており、現時点では、計算機の処理能力は15年前と比較するとスピードで100倍、記憶容量で1000倍のオーダーで向上した。
【0060】
因に、地形データは、数値情報(国土地理院)、イコノス衛星データ(三菱商事)などにより詳細なデジタルデータが提供され始めている。また、土地利用も国土数値情報により詳細なデジタルデータが提供され始めている。更に、降雨データも国土交通省全国合成レーダ雨量等により詳細なデジタルデータが提供され始めている。同センターで高精度な予測雨量も提供されている等、詳細な数値計算を行う条件が整ってきている。
【0061】
流域は、国土数値情報のKS−270あるいはKS−271ファイルより対象水系域を選定して、KS−273ファイルに示された流域界を原則として採用する。この流域界を基本として、目視判断法の原理を取り入れて自動化が可能な代表点数判断法(9代表地点)を採用して、単位流域ごとに代表地点数が最大のメッシュをその流域メッシュと考えて、メッシュ流域界を設定する(9代表地点のメッシュ数が同数の場合には、北側に位置する流域にその単位メッシュを含める)。
【0062】
また、メッシュには、四角形メッシュを採用し、国土数値情報で採用されている標準地域メッシュ(単位メッシュ:1km)で設定する。尚、この単位メッシュは以下に示す地画セルと河道セル(単位メッシュにより河道が無い場合もある)により構成される。
【0063】
因に、セルの種類としては、(a)地画セル:地表、地下、(b)河道セル:河道、下水道、排水路、用水路が挙げられ、地画セル・河道セルの特徴としては下に掲げる[表3]のとおりである。
【0064】
[表3]
【0065】
地画セル平面形状は、原則として既に示した単位メッシュと同じであるが、単位メッシュは、厳密には縦方向(南北方向)と横方向(東西方向)では延長が相違するが、流出計算には単位メッシュ面積の平方根として求めたメッシュ単位長(d)を採用する。
【0066】
但し、地画セルの流下方向は、縦横4方向と斜4方向の合計8方向に流下させるため、斜方向への地画セル形状は以下に示すように長[地画セル]地画セルは、地表と地下により構成し[表4]に示す構造とする。
【0067】
[表4]
ここに:dはメッシュ単位長=地画セル単位長
尚、地画セル斜面勾配はメッシュ流域界内で隣接する地画セルの最急勾配方向へ流下するとして、その平均標高差hを斜面長Lで除した勾配θとする。
【0068】
国土地理院国土数値情報の土地利用分類は、12種類に分類されているが、分布型モデルでは同じような流出特性の土地利用分類を集約し、下記の5大分類に再分類する。
【0069】
また、土地利用分類としては、下記の分類に大別することができる。
・分類1(山地):森林、荒地
・分類2(畑地):畑、果樹園、その他の樹木畑
・分類3(都市):建物用地、幹線交通用地、その他の用地
・分類4(水田):田
・分類5(水域):内水地、海浜、海水域
因に、土木研究所では、土地利用別の等価粗度係数を以下の[表5]に示すように公表しており、これを考慮し、地表の土地利用は5大分類に集約し等価粗度係数(初期値)を設定する。
【0070】
[表5]
土地利用大分類別の等価祖度係数
【0071】
地表の土地利用は5大分類に集約するが、流出現象は土地利用により異なり山地域や畑地域であれば地下A0層も地表面と同様に大きな働きをするが、都市域では地下への浸透がほとんど無くA0層も形成されていないことから、流出計算には土地利用に応じた地表と地下A0層までを含めたモデル化が必要である。
【0072】
このため、土地利用の5大分類を踏まえて、地下A0層の有無、地表から地下層への浸透の有無、により地画セル内を分類すると以下の[表6]に示す3タイプの地画サブセルに区分する。
【0073】
[表6]
地画サブセルタイプ
また、地画サブセル3タイプの形状と地下A0層とA+B層の取り扱いと、土地利用大分類の関係は以下の[表7]に示すように考える。
【0074】
[表7]
地画サブセルタイプ別の形状
【0075】
また、国土地理院国土数値情報の土地利用分類は、12種類に分類されているが、同じような流出特性の土地利用分類を集約し、5大分類に再分類する。地画セルはこの5大分類土地利用を、地下A0層の有無、地表から地下層への浸透の有無、により以下の[表8]に示す3タイプ地画サブセルに区分し各地画サブセルのタイプに応じた理論を使用する。
【0076】
[表8]
地画サブセルタイプと土地利用分類
【0077】
尚、河道セルは、たとえ河道幅が単位メッシュ(地画セルも同様)の一辺長を超えても、同一のセル内に存在すると仮定する。
【0078】
また、河道セル形状の設定根拠には、測量成果を利用する方法、国土数値情報を利用する方法、理論式を利用する方法があるが、最も精度の高い測量成果を利用する方法で、河道セル形状を設定する([表9参照])。
【0079】
[表9]
河道セル形状の設定根拠と設定方法
但し、河道の法勾配を考慮する場合は、上記の河道幅を河床幅とした台形断面とする。
【0080】
また、分布型モデルでは最上流の単位メッシュから河道を配置することは、モデル構造上、可能であるが、一般的には、ある程度の単位メッシュを経て河道と見なせる排水路や小河川が形成されることから、集水面積を閾値(実際には集水面積に相当する単位メッシュ個数を閾値とする)として、閾値を越えた単位メッシュから河道が形成されているとして河道セルを配置する(河道を配置する基準は、集水面積に相当する単位メッシュ個数を閾値とする)。
【0081】
尚、河道粗度係数(初期値)の設定根拠には、洪水後の粗度係数検証結果、河相に応じた一般的値、河道計画祖度を利用する方法等から最適な方法を選択する。
【0082】
また、洪水予測地点を含む水位観測所では、河道水位を算出する必要があることから、既往調査で検討されているH−Q曲線により計算流量から予測水位を算出する。
【0083】
次に、モデル計算基本理論について、図7乃至図8を参照しながら説明する。分布型モデルによる流出量は、地画セルと河道セルに区分して、キネマティックウエーブにより計算する。
【0084】
有効降雨タンク及び地層流下モデルは、図7に示すように構成され、下記の連続式、運動方程式が成立するものである。
連続式
運動方程式
ここに、r:雨量(mm/hr)、h:水深(mm)、q1〜q3:流出高(mm/hr)、q4:浸透高(mm/hr)、QIN:前メッシュの流入高(mm/hr)、Mmin:最小水分量(mm)、Msat:飽和水分量(mm)、α1,α2:孔の係数(1/hr)、β:浸透能(mm/hr)、E:蒸発散量(mm/hr) 、
なお、β:浸透能はA+B層により決定される。また上限値によりA+B層への流量を制限できる機能を有する。
【0085】
表面及び表層は、図8(b)に示すように構成され、それぞれ下記の連続式、運動方程式が成立するものである。
[表 面]
連続式 運動方程式
ここに、t:時間(hr)、x:位置(mm)、Q:単位幅表面流量(mm2/hr)、h:水深(mm)、θ:斜面勾配、n:等価粗度係数、re:有効降雨+単位幅流入量(mm/hr)
【0086】
[表 層]
連続式
【0087】
運動方程式
ここに、r:雨量(mm/hr)、h:水深(mm)、QIN:流入量(mm/hr)、Q2:単位幅流出量(mm2/hr)、
QUP:越流量(mm/hr)、θ:斜面勾配、kX:水平方向の飽和透水係数(mm/hr)、
kz:鉛直方向の飽和透水係数(mm/hr)
【0088】
中間層上段及び中間層上段は、図8(c)に示すように構成され、下記の連続式、運動方程式が成立するものである。
連続式
[運動方程式]
ここに、D:層圧(m)、QX:水平方向の流入量(m3/hr)、QZ:水平方向の流入量、
L:メッシュ長(m)、i:動水勾配、A:メッシュ底面積(m2)、b:定数、θ:水分量(h/D)、
kX及びkZ:水平及び鉛直方向の不飽和透水係数(m/sec)、θS:飽和水分量(SS2/D)
kSX及びkSZ:水平及び鉛直方向の飽和透水係数(cm/sec)、θW:最小水分量(SS1/D)QIN:流入量(mm/hr)、QUP:越流量(mm/hr)
なお、kZ kSZ鉛直方向の不飽和透水係数および鉛直方向の飽和透水係数は下段層により決定する。また上限値により下段層への流量を制限できる機能を有する。
【0089】
地下層は、図8(d)に示すように構成され、下記の連続式、運動方式が成立するものである。
連続式
【0090】
運動方程式
ここに、h:水深(mm)、QIN及びQ4': 流入量(mm/hr)、Q5:単位幅流出量(mm2/hr)、QUP:越流量(mm/hr)、θ:斜面勾配、kX:水平方向の不飽和透水係数(mm/hr)
【0091】
尚、河道の連続式、運動方程式は下記の通りである。
連続式
運動方程式
ここに、r:流入量(mm/hr)、t:時間(hr)、x:位置(mm)、h:水深(mm)、
Q:単位幅流量(mm2/hr)、θ:斜面勾配、n:等価粗度係数
【0092】
以下、分布型流出モデルの作成手順について、図9を参照しながら説明する。分布型流出モデル作成手順としては、例えば、雄物川上流を対象にして、地形、土地利用、河道等の流域特性を反映できる洪水予測モデルとして、分布型流出モデルを作成する。
【0093】
図9は、分布型流出モデルの構築フローを示すものであり、本検討業務内容は、(a)流域のメッシュ分割、(b)落水線図の作成、(c)モデルの作成、(d)検証洪水の水文データ整理、(e)実績洪水検証の5項目である。
下表の[表10]に、モデル作成時における利活用データ(数値地図)を整理し示す。
【0094】
[表10]
【0095】
更に、数値地図(1kmメッシュ標高、KS−273:流域界位置、KS−272:流路位置)をもとに作成する。尚、作成にあたっては、単位メッシュ(1km)からの流下方向を縦横4方向、斜4方向の合計8方向として、これら単位メッシュごとの流下方向を合成し流域全体の落水線モデル構造を作成する。
【0096】
また、分布型流出モデルの作成は、(a)有効降雨モデル、(b)地層流下モデル、(c)河道流下モデルに区分し行った。更に、有効降雨モデルの構造は、樹幹及び窪地貯留を考慮した有効降雨を地層モデルへ流下させる。有効降雨モデルのパラメータは、以下の[表11]に示す項目を基に設定する。
【0097】
更に、土地利用情報、・植生は、常緑広葉樹、落葉広葉樹、常緑針葉樹、落葉針葉樹、低木・草本である。その他、最小保水量部分は、蒸発散を考慮する。月毎の事前設定値またはリアルタイム観測値より算定する。
【0098】
[表11]
【0099】
また、地層流下モデルの構造は、以下(a)乃至(e)の5層構造とする。
(a)表面:表面流
表面流は、Kinematic Wave法にて計算する。表面のパラメータは、土地利用情報、・植生(常緑広葉樹、落葉広葉樹、常緑針葉樹、落葉針葉樹、低木・草本、その他)を基に設定する。
【0100】
(b)表層(A0層):表層内の流れ
表層内の流れは、Darcy則にて計算する。表層厚の設定は現地調査結果、柱状図及び森林水文学等を参考に層厚を設定する。表層のパラメータは、土地利用情報、・植生(常緑広葉樹、落葉広葉樹、常緑針葉樹、落葉針葉樹、低木・草本、その他)を基に設定する。
【0101】
(c)中間層上段(A+B層):中間層早い流れ
中間層上段の流れは、水分量変化に伴う透水性変化を考慮した不飽和透水係数によりDarcy則にて計算する。中間層上段層厚の設定は現地調査結果及び柱状図等より分類毎に平均的な層厚を設定し、斜面勾配(1/4細分区画の最大傾斜角度及び最小傾斜角度の平均角度θ)を考慮した層厚(2cosθ−1)をメッシュ毎に設定する。中間層上段のパラメータは、国土数値情報の土壌分類を「森林水文学」を参考に浸透性を大・中・小等に区分した項目を基に設定する。
【0102】
(d)中間層下段(C1層):中間層の遅い流れ
中間層下段の流れは、水分量変化に伴う透水性変化を考慮した不飽和透水係数によりDarcy則にて計算する。中間層下段層厚の設定は、現地調査結果及び柱状図等より分類毎に平均的な層厚を設定し、斜面勾配(1/4細分区画の最大傾斜角度及び最小傾斜角度の平均角度θ)を考慮した層厚(2cosθ−1)をメッシュ毎に設定する。中間層下段のパラメータは、国土数値情報の表層地質分類を現地調査結果等より浸透性(風化)を大・中・小等に区分した項目を基に設定する。
【0103】
(e)地下層(C2層):地下層の流れ
地下層の流れは、Darcy則にて計算する。地下層のパラメータは、国土数値情報の表層地質分類を「森林水文学」を参考に浸透性を大・中・小等に区分した項目を基に設定する。
【0104】
また、河道流下モデルは、下表の[表12]に河道流下モデルの作成に利用したデータ一覧表を示す。尚、河道流下モデルの作成にあたっては、国土地理院地形図の河道位置を精査し、国土数値情報を活用した。
【0105】
[表12]
【0106】
一方、降雨予測手段5は、流域を対象とする洪水予測システムにあって、雨域移動解析プログラムの計算結果を入力として用いることができる。同プログラムでは、各種パラメータを最適化することにより地域や降雨特性に特化した計算を行うことが可能となっており、流域に特化した降雨予測範囲等のパラメータを実データによって検討・最適化した。
【0107】
また、当該流域の洪水予測モデル検討においては抽出された降雨より5洪水程度を選定する。対象洪水の選定に際しては、以下の点を判断の基準とした(検討対象降雨選定)。
(a)移動解析では最大500km四方程度の領域のデータを使用する。流域周辺のレーダ運用を踏まえ、パラメータ最適化はなるべく現在に近い条件を用いることが望ましい。
(b)レーダ観測に欠測や異常があると移動解析計算に影響を及ぼすと考えられる。そのためデータは欠測や異常を含まない、あるいは無視できる程度であることが必要である。
(c)目視によっても雨量の変動が激しく、移動の把握が困難なような降雨は移動解析によって高い精度を期待することはできない。このような降雨は優先度を下げ、移動特性のはっきりした降雨について的確な予測が行えるよう最適化を行うことの方が実践的である。
(d)選定降水は降雨の多様性を持たせるため、降雨種別に多様性のある降雨を選定する。
【0108】
更に、降雨予測計算は、雨域移動解析プログラムの可変パラメータより、特定地域の計算を行う上で最適化が必要と考えられるのは、下表の[表13]に示す3個である。これらのパラメータについて、それぞれの選択可能範囲から適切な値の組合せを選定し、検討を行うものとした。先ず最適な計算範囲(移動ベクトル計算範囲)を決定し、次いでいくつかのタイムステップとメッシュサイズの組合せで移動解析計算を行った。
【0109】
[表13]
検討対象パラメータ
ここでは、時間間隔、計算メッシュについては従来から使用されている値を用い、下記の3つの計算範囲設定で行われた移動解析の移動ベクトル分布及び計算結果のパターンを実況と比較することにより、流域の洪水予測システムに適当と思われる計算範囲を判定するものとした。ここでは荒川流域における計算範囲の例を示す。
【0110】
I.大領域ケース
中心37度25分、140度20分 東西400km、南北400km
II.中領域ケース
中心37度35分、140度20分 東西200km、南北200km
III.小領域ケース
中心37度43分、140度20分 東西100km、南北100km
【0111】
また、通常の気象擾乱の移動速度は、速くても60km程度である。例えば、この移動速度で3時間先の雨量を計算する場合、180km遠方の移動特性が影響し、大領域はそのような遠方も含む計算領域として設定したものである。
【0112】
一方、小領域は、対象流域内の移動特性が全体の場に左右されずに解析されることを重視したもの、中領域はその中間的なものという位置付けである。これらの範囲は、図10に示すとおりである。雨域が南から移動してくることが多いために、当該流域から見た移動の上流側を重視し、範囲の中心を多少南に寄せている。
【0113】
計算された移動ベクトルの場と予測雨量分布は、図11及び図12に示すとおりである。この中で雨量分布の左端の図は、1時間毎の実況雨量分布、左から2枚目の図はその1時間前に行われた予測計算による1時間後予測雨量、3枚目の図は2時間前に行われた予測計算による2時間後予測雨量、4枚目の図は3時間前に行われた予測計算による3時間後予測雨量である。
【0114】
すなわち、各行の予測値はすべて同じ時刻を対象とする予測で、左端の図がその時刻の実況雨量である。実況の雨域移動は左端の図を順次下方に辿ったものである。一方、左端の図から斜め右下に辿ると左端を初期値とする1時間毎の予測を追うことになる。
【0115】
尚、移動ベクトルが表示されていないのは、50m/sを上回る移動速度が検出されたため、適用がキャンセルされた場合である。その際には6時間前までの過去に遡って有効な移動ベクトル計算値があるかどうかを検索し、存在すればその値を用いて移動解析計算を行う。有効な計算値が無い場合、例えば最初の計算で移動が求まらなかった場合には移動なしとして計算されている。
【0116】
また、大領域と中領域は、分布図の観察によっては差異が明確でなかったので、流域雨量を対象とする実況雨量と計算雨量の相関係数及び総雨量比を求め、比較を行った。相関係数、総雨量比は次の式によって算出した。実況値、予測値ともレーダ雨量を流域平均したものである。
【0117】
ここに、
xi:時刻iの流域平均雨量強度実況値(mm/h)
yi:時刻iの流域平均雨量強度予測値(mm/h)
x:時間・流域平均雨量強度実況値(mm/h)
y:時間・流域平均雨量強度予測値(mm/h)
N:データ数
である。
【0118】
ここに、
xi:時刻iの流域平均雨量強度実況値(mm/h)
yi:時刻iの流域平均雨量強度予測値(mm/h)
N:データ数
である。
【0119】
尚、本発明の分布型流出予測システムは、本実施例に限定されることなく、本発明の目的の範囲内で自由に設計変更し得るものであり、本発明はそれらの全てを包摂するものである。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明に係る分布型流出予測システムの全体を示す説明図である。
【図2】レーダサイト近傍の抜けを示す説明図である。
【図3】同分布型流出予測システムにおける対象区域の補正処理を示す説明図である。
【図4】レーダサイト近傍の低減を示す説明図である。
【図5】同分布型流出予測システムにおける対象区域の補正処理を示す説明図である。
【図6】同分布型流出予測システムにおける分布型モデル構成図である。
【図7】同分布型流出予測システムにおける有効降雨モデルと地層流下モデルを示す説明図である。
【図8】図15(a)は同分布型流出予測システムにおける有効降雨の運動方程式を示す説明図、図15(b)は単位幅表面流量の運動方程式を示す説明図、図15(c)は中間層上段及び中間層下段の運動方程式を示す説明図、図15(d)は地下層の運動方程式を示す説明図である。
【図9】同分布型流出予測システムにおける分布型流出モデルの作成手順を示すフローチャートである。
【図10】同分布型流出予測システムにおける計算範囲(大領域、中領域、小領域)を示す説明図である。
【図11】同分布型流出予測システムにおける予測雨量分布を示す説明図である。
【図12】同分布型流出予測システムにおける予測雨量分布の計算例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0121】
1 流出予測手段
2 モデル構造
3 全国合成レーダ雨量の検証手段
4 全国合成レーダ雨量の補正手段
5 降雨予測手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度で迅速な配信が可能なオンライン全国合成レーダ雨量及び同種のレーダ雨量と予測雨量を用い、地形、植生、土地利用、土壌、表層地質及び風化状態などで決まる流出特性等の水文学的要因をメッシュ毎に与えて流出計算を行う分布型流出モデルを組み合わせて現在から数時間先までの河道の任意地点における洪水流量を算出する事ができる流出予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の流出予測システムとしては、例えば、流域をティーセン分割し地上雨量計の観測値で面積雨量を算出し、貯留関数法に代表される集中型流出モデルにより流域を数十km2〜数百km2に区分し、それら分割流域毎に斜面や降雨特性等を平均的、総体的にとらえる流出解析手法により流量および水位を予測している(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平2002−256525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来の流出予測システムで用いられている流域をティーセン分割し地上雨量計の観測値で面積雨量を算出する手法では、 流域内の面積雨量を正確に把握することは困難であり、降雨分布特性の違いによる洪水流出の違いを適切に表現できないといった問題がある。
【0004】
また、従来の流出予測システムは、殆どの河川で貯留関数法に代表される集中型流出モデルが採用されているが、流域を数十km2〜数百km2に区分し、分割流域毎に斜面や降雨特性等を平均的、総体的にとらえる流出解析手法であるため、雨量分布や流域の地形、植生、土地利用、土壌、表層地質及び風化状態などで決まる浸透特性等の水文学的要因の場所的な違いを詳細に反映することができない。このため、そのつど解析に必要なパラメータを変更しなければ、流出特性の違いを正しく流出解析に反映することができず、さまざまな洪水流出波形に対して、一定のパラメータで、安定して高精度な解析を行うことは不可能であった。しかし、どのような洪水に対しても計算結果が整合するようパラメータをリアルタイムに変えることは困難であるため、洪水流出予測に用いるには精度に問題があった。
【0005】
従来、流出予測に用いる予測降雨は、外部から導入したり、経験等に基づく概略値を用いていたため、流域をメッシュに分割して、10分毎に計算を行う分布型モデルによる洪水予測には、時間的、空間的、精度的に必ずしも十分な入力データではなかった。
分布型モデルの特徴としては、下記(a)乃至(d)が挙げられる。
(a)レーダ雨量をメッシュ毎に与えることができるため、降雨の時空間分布を反映した流出量を求めることが可能。
(b)流域の流出特性を適切に反映したモデルとすることで、一定のパラメータを用いて、前期降雨の有無や、降雨特性の異なる種々の洪水流出を再現することが可能。
(c)流域の任意の地点で流量を求めることが可能。
(d)高水と低水を統合した物理的モデルを使用し、流域の物理的な特性を反映した定数を使用するため、流域特性が類似した他流域への適用も容易。
(e)土地利用を考慮した計算が可能なため総合治水計画などにも利用可能。
【0006】
従って、レーダ雨量と分布型モデルを用いた洪水予測は、雨量観測や洪水流量観測の実施されていない河川における洪水予測の可能性を広げるものである。
【0007】
更に、当該流域に特化した降雨予測(降雨移動解析)を行なう事による利点として、下記の(a)、(b)及び(c)が挙げられる。
(a)当該流域に最適な範囲で適切な解析を行う事ができる。
(b)レーダデータ入手後迅速(1〜2分)に降雨予測データ(10分毎、10分後〜180分後までの予測メッシュ雨量)を作成する事が可能、したがって、中小流域でも洪水予測を行なう事が可能。
(c)1〜2分で10分毎、10分後〜180分後までの予測メッシュ雨量が算出できるため、他の予測雨量を使用する場合に比べ、非常に短時間間隔で流出予測を行なう事が可能
【0008】
次に、分布型モデル開発の背景について説明する。我が国ではこれまで、貯留関数法やタンクモデル法などの集中型モデル(斜面集合型含む)により流出予測システムが構築されてきた。このようなモデルが採用された理由は、「(a)計算処理能力が低く、大量のデータ処理と保管が難しい。」、「(b)地形、土地利用などの基礎データがアナログデータで提供されていたため、細部の詳細なデータの取得が難しい。」等であるが、近年これらの状況が改善されてきている。
【0009】
尚、現在では、詳細な数値計算を行う条件が整ってきており、現時点では、計算機の処理能力は15年前と比較するとスピードで100倍、記憶容量で1000倍のオーダーで向上した。
【0010】
因に、地形データは、数値情報(国土地理院)、イコノス衛星データ(三菱商事)などにより詳細なデジタルデータが提供され始めている。また、土地利用も国土数値情報により詳細なデジタルデータが提供され始めている。更に、降雨データも国土交通省全国合成レーダ雨量等により詳細なデジタルデータが提供され始めている。同センターで高精度な予測雨量も提供されている等、詳細な数値計算を行う条件が整ってきている。
【0011】
更に、近年の地球環境の変化等による集中豪雨の増大、流域開発による土地利用の高度化により、洪水予測体制の整備が不十分な中小河川における洪水被害が増大している。これらの中小河川では、豪雨発生から被害発現までの時間も短く、かつ、洪水流量観測データの不足などにより、的確に災害状況を把握し非難勧告等を発令する事が困難であった。
【0012】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたもので、降雨状況を面的に観測でき、高精度で迅速な配信が可能なオンライン全国合成レーダ雨量及び同種のレーダ雨量と予測雨量を用い、地形、植生、土地利用、土壌、表層地質及び風化状態などで決まる流出特性等の水文学的要因をメッシュ毎に与えて流出計算を行う分布型流出モデルを組み合わせて現在から数時間先までの河道の任意地点における洪水流量を算出する事ができる流出予測システムの提供を目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の如き従来の問題点を解決し、所期の目的を達成するため本発明の要旨とする構成は、オンライン全国合成レーダ雨量及び分布型流出モデルを用いた流出予測手段と、前記分布型流出モデルのモデル構造と、前記分布型流出モデルパラメータ設定手段と、前期流出予測に用いる全国合成レーダ雨量の検証手段及び補正手段と、前記流出予測システムの対象流域に特化した降雨移動解析を用いた降雨予測手段との全て又は何れかを選択又は組み合わせてなる分布型流出予測システムに存する。
【0014】
また、前記流出予測手段は、オンライン全国合成レーダ雨量及び同種レーダ雨量と予測雨量を用い、細分化しメッシュ毎に有効降雨モデル、地層流下モデル、及び河道流下モデルからなる分布型流出モデルにより、現在から数時間先までの河道の任意地点における流量を算出し予測画像を作成し又は表示するのが良い。
【0015】
更に、前記分布型流出モデルのモデル構造は、細分化しメッシュ毎に複数の層からなる地層流下モデル、有効降雨モデル、及び河道流下モデルからなり、流域の地形、植生、土地利用、土壌、表層地質などで決まる浸透特性等の水文学的要因を適切に反映して洪水の流出波形を再現するのが良い。
【0016】
更に、前記分布型流出モデルパラメータ設定手段は、各層の流れ、浸透、貯留の大きさを表す等価粗度、飽和透水係数、不飽和透水係数、間隙率などのパラメータと、それぞれの層厚は、地形、植生、土地利用、土壌分類、表層地質、風化状態、現地調査結果及び地質柱状図等をもとに流域の物理的な流出機構を反映するよう決定し、再現計算により十分な検証を行って決定するのが良い。
【0017】
また、前記全国合成レーダ雨量の検証手段及び補正手段は、レーダ雨量画像の目視点検を行うと共に、地上雨量計と地上雨量計に対応するメッシュのレーダ雨量と相関係数及び総雨量比を算出し検討することで定量的に判断し、さらに、レーダビームの遮蔽によるレーダ雨量の観測誤差の補正や、クラッタ等の発生時には隣接するクラッタの無いメッシュで補正等を行なうのが良い。
【0018】
また、前記降雨予測手段は、オンライン全国合成レーダ雨量及び同種のレーダ雨量を用い、対象流域に特化した降雨移動解析より得られる予測雨量により流出予測を行なうのが良い。
【0019】
更に、オンラインレーダ雨量計を用いた補正を時々刻々行うレーダ雨量計全国合成システムにより作成されるため、約1kmメッシュ単位、5分間隔で配信される全国合成レーダ雨量データ(現況)は高い精度を有している。
【0020】
当該流域における降雨予測は、オンライン合成レーダ雨量を用いて行ない、その他のメッシュ予測雨量との組み合わせ又は調整を行なう。
【0021】
また、流出モデルでは、流域特性を考慮し、できるだけ実現象に近い流出機構を反映したモデル化を行っているため、洪水波形の再現精度が向上する。そのため、降雨の時空間分布などの相違に基づく様々な洪水波形に対して、一定のパラメータを用いてさまざまな洪水に対して高精度な解析が可能であり、定数をその都度変えることのできない洪水予測に適している。
【0022】
更に、流域は地域区画(約1kmメッシュ)毎に複数の層の流れと河道とにモデル化し、雨量は有効降雨モデルを通して与え、表面と河道内の流れはkinematic wave法、地層内の流れはdarcy則により表現する。それぞれに用いるパラメータ、層圧等はメッシュ毎に地形、土地利用、植生、土壌分類、表層地質、風化状態、勾配などを考慮し、検証を実施して決定する。
【0023】
メッシュに分割された流域について、数値地図(1kmメッシュ平均標高、KS-273:流域界位置、KS-272:流路位置)に基づき落水線図を作成し、さらに目視よる修正を加える。落水線図は、単位メッシュ(1kmメッシュ)からの流下方向を縦横4方向、斜4方向の合計8方向とし、単位メッシュを連ねて流下方向が連続するよう合成して流域全体の落水線モデルを構築する。
【0024】
また、落水線に加えて国土数値情報の流路位置データに基づき河道を設定する。国土数値情報の土地利用区分、土壌分類、表層地質区分、風化状態、植生等に応じて区分し、表面流や浸透流を表すモデル構造やパラメータとして、層厚、等価粗度係数、水平透水係数、鉛直浸透能、最小水分量、飽和水分量等を設定する。具体的な手順は、現地調査結果、文献、経験値等により一次設定し、実測値との検証により最終パラメータを確定する。
【発明の効果】
【0025】
本発明は上述のように構成され、オンライン全国合成レーダ雨量及び同種のレーダ雨量を用いることで、流出解析精度に大きく影響する雨量分布データ(強度と分布)の精度が向上し、従来の地上雨量計で問題となっていた降雨分布の観測誤差による流出解析の誤差を解消することができるといった効果を奏する。
【0026】
また、分布型流出モデルでは、地形、土地利用、植生、土壌分類、表層地質、風化状態など、降雨流出に関わる物理的な条件をメッシュ毎に設定することで、流出機構を物理的に解析することができるため、洪水波形の再現精度が向上し、定数を変えることなく、多様な洪水波形に対して高精度な流出計算を行うことができるといった効果を奏する。
【0027】
更に、任意の地点で流量が求められるという分布型流出モデルの特性を活かし、複数降雨、複数地点の流量観測測結果をもとに、総合的な検証を行うことができるため、特定地点の流量観測精度に左右されない高精度なモデル検証が可能である。
【0028】
また、観測データの整備された本川の基準点で検証を行ったモデルを作成し、観測データの少ない支川の任意地点において、洪水流量を算出することが可能である。
【0029】
更に、高精度な国交省レーダ雨量計のリアルタイムなデータや同種のレーダ雨量を用いて、洪水予測システム内で当該流域に特化した降雨移動解析を行うことにより、その地域に適合した適正な予測雨量を算出し、遅滞なく洪水予測を実施することができるといった効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
オンライン全国合成レーダ雨量及び分布型流出モデルを用いた流出予測手段と、前記分布型流出モデルのモデル構造と、前期流出予測に用いる全国合成レーダ雨量の検証手段及び補正手段と、前記洪水予測システムの対象流域に特化した降雨移動解析を用いた降雨予測手段とを備える。
【実施例】
【0031】
以下、本発明に係る分布型流出予測システムの実施の一例を図面を参照しながら説明する。図中Aは、本発明に係る分布型流出予測システムであり、この分布型流出予測システムAは、図1に示すように、オンライン全国合成レーダ雨量及び分布型流出モデルを用いた流出予測手段1と、前記分布型流出モデルのモデル構造2と、前期流出予測に用いる全国合成レーダ雨量の検証手段3及び補正手段4と、前記洪水予測システムの対象流域に特化した降雨移動解析を用いた降雨予測手段5とを備える。
【0032】
前記流出予測手段1は、オンライン全国合成レーダ雨量及び同時刻オンライン全国合成レーダ雨量を用い、流域を第3次地域区画(約1kmメッシュ)に細分化しメッシュ毎に複数の層からなる地層流下モデル及び河道モデルからなり、地形、流域の植生、土地利用、土壌分類、表層地質、風化状態などで決まる浸透特性等の水文学的要因を個別に捉えられる分布型流出モデルにより、降雨の河道への流出量を計算し、河道の任意地点における流出を算出し、水位予測画像を作成し又は表示するものである。
【0033】
また、前記分布型流出モデルのモデル構造2は、メッシュ毎に降雨から蒸発散等により失われる量を差し引いた有効降雨の、地表面における貯留と流れ、表層における浸透と貯留、土壌中における浸透と貯留、風化基岩層における浸透と貯留、基岩層における浸透と貯留を解析し、洪水の流出波形を再現するものである。
【0034】
更に、前記全国合成レーダ雨量の検証手段3及び補正手段4は、レーダ雨量画像の目視点検を行うと共に、地上雨量と地上雨量計の直上メッシュのレーダ雨量値との相関係数及び総雨比量を算出し検討することで定量的に判断し、また、レーダビームの遮蔽によるレーダ雨量の観測誤差の補正や、クラッタ発生時には隣接するクラッタの無いメッシュで補正を行なうものである。
【0035】
前記降雨予測手段5は、オンライン全国合成レーダ雨量及び同種のレーダ雨量を用い、対象流域に特化した降雨移動解析より得られる予測雨量により流出予測を行なうものである。
【0036】
以下、流出予測手段1について更に詳しく説明する。従来の洪水予測や河川管理の分野における流出解析では、地上雨量観測所の観測結果として得られる点雨量を、各地上雨量計の配置から支配されるティーセン分割面積内に一様に与える流域平均雨量で実施してきた。
【0037】
しかしながら、地上の点雨量が必ずしもティーセン分割領域内の雨量を代表しているとは限らないため、しばしば計算流量と実績流量との誤差を生じる要因となっている。
【0038】
これに対し、レーダ雨量計は、雨量強度の空間分布を平面的・時間的に連続して捉えることができるという特徴を有しているため、洪水予測や河川管理の分野における流出解析(計画流量算定等)に反映させることが望まれている。
【0039】
以上のことから、選定した対象洪水については、レーダ雨量計観測データを優先的に使用する。尚、レーダ雨量(合成レーダ雨量)の検証3は、下記の条件により実施し、精度検証の条件としては、下記の(a)乃至(c)が挙げられる。
【0040】
(a)比較雨量:合成レーダ雨量と地上雨量(点雨量)
(b)比較地点:
地上雨量観測所(点雨量比較用)
(c)精度検証:レーダ雨量画像、相関係数、総雨量比
【0041】
次に、斯かるレーダ雨量検証3の精度検証について説明する。合成レーダ雨量の精度検証に用いる指標値は、相関係数及び総雨量比とし算定条件・算定式は以下に示すとおりとする。
【0042】
また、算定条件は、地上雨量計の時間雨量系列をxとする。レーダ雨量計の時間雨量(前1時間雨量)系列をyとする。xは離散値、yは連続値であることから、x≧1、y≧0.5であるデータを対象に各指標値を算出する。ただし、これらのデータ数が5個未満の場合、各指標値は算出しない。
【0043】
更に、相関係数算定式は、地上観測所の時間雨量とその観測所直上の1kmメッシュのレーダ雨量をもとに、下式により相関係数を算出する。
【0044】
ここに、xi:時刻iの地上雨量(mm)、yi:時刻iのレーダ雨量(mm)、x:平均地上雨量(mm)、y:平均レーダ雨量(mm)、N:データ数である。
【0045】
また、総雨量比算定式は、地上観測所の時間雨量とその観測所直上の1kmメッシュのレーダ雨量をもとに、下式により総雨量比を算出する。
【0046】
ここに、xi:時刻iの地上雨量(mm)、yi:時刻iのレーダ雨量(mm)、N:データ数である。
【0047】
尚、対象降雨の選定にあたっては、下記の条件により実施した(対象降雨の選定条件)。
(a)総雨量比:点雨量評価=0.5〜1.5の範囲、流域平均評価=0.8〜1.2の範囲
(b)相関係数:流域平均評価=0.8以上
(c)遮蔽:段差なし(10mm/日未満)
(d)グランドクラッター:発生なし(5分ピッチの時系列変化及び、累加雨量で判断)
この結果、検討より分布型流出モデルの検証計算に最適は降雨を選定する。尚、(c)及び(d)については補正を行い利用する。
【0048】
次に、レーダ雨量補正手段4について説明する。グランドクラッターやレーダサイト近傍の抜けについては、レーダ降雨を補完する等の処理が必要であり、下記のように補正処理を実施する。
【0049】
また、図2に示すように、レーダサイト近傍の抜けによるメッシュについて補正を行うため、図3のように対象区域の周辺メッシュの平均値を用いた補正を実施することとする。
【0050】
また、図4に示すように、レーダサイト近傍の降雨低減によるメッシュについて補正を行うため、図5のようにレーダ雨量計の距離特性を把握した上でレーダサイトからの距離に応じて補正を実施することとする。
【0051】
次に、分布型流出の計算手法について説明する。分布型モデル構造2は、[表1]に示すような3モデル区分された構造であり、有効降雨モデル、地層流下モデル、河道流下モデルにより構成する。地層流下モデル(地表、A0層、A+B層、C1層、C2層)は水分を貯留する部分と流下する部分とを考慮してモデル化する。また、河道は国土数値情報により河道として識別される場合のみ設定する。
【0052】
また、単位メッシュ(約1×1kmの3次地域区画)毎に、これら3モデル構造を構成していて、下流メッシュと結合することで流域を構成する。有効降雨モデルは樹幹及び窪地などの水分貯留及び蒸発散をモデル化し土地利用及び植生に応じて区分する。降雨(上流メッシュからの流入も)は有効降雨モデルに流入させ一旦貯留して、A0層へ流下あるいはA+B層へと浸透させる。
【0053】
更に、地表から地下A0層、A+B層、C1層、C2層など単位メッシュの一体構造を地画セルと命名し、この地画セルでの流下を地画流下モデルとして、有効降雨モデルから地下A0層へ流下させる一方、A+B層へ浸透させる。A0層厚を越えると地表を流下させ、地表流はkinematic wave法で計算し、地下流はdarcy則で一体的に計算する。A層以下の地下層は単位メッシュ毎に構成し、A+B層へ浸透するとA+B層を流下あるいはC1層へ浸透させて、地下流はdarcy則で計算する。
【0054】
尚、地表とA0層は一体構造として、土地利用比率に応じて山地域、都市域、水域の3種類の地画サブセルに区分する。河道セルは、セルとは独立に存在しているとして、この河道セルでの流下を河道流下モデルとして、kinematic wave法で計算する。これら分布型モデル構造を[表1][表2]に、分布型モデル構造概念図及び分布型モデル構成図を図6に示す。
【0055】
[表1]
分 布 型 モ デ ル 構 造
【0056】
[表2]
【0057】
分布型流出計算は、国土数値情報の地盤高や土地利用のメッシュデータを使用し、河川流域を細かくメッシュ区分して、流域の任意の地点での流出量を計算する手法である。
【0058】
分布型モデル開発の背景について説明する。我が国ではこれまで、貯留関数法やタンクモデル法などの集中型モデル(斜面集合型含む)により洪水予測システムが構築されてきた。このようなモデルが採用された理由は、「(a)計算処理能力が低く、大量のデータ処理と保管が難しい。」、「(b)地形、土地利用などの基礎データがアナログデータで提供されていたため、細部の詳細なデータの取得が難しい。」等であるが、近年これらの状況が改善されてきている。
【0059】
尚、現在では、詳細な数値計算を行う条件が整ってきており、現時点では、計算機の処理能力は15年前と比較するとスピードで100倍、記憶容量で1000倍のオーダーで向上した。
【0060】
因に、地形データは、数値情報(国土地理院)、イコノス衛星データ(三菱商事)などにより詳細なデジタルデータが提供され始めている。また、土地利用も国土数値情報により詳細なデジタルデータが提供され始めている。更に、降雨データも国土交通省全国合成レーダ雨量等により詳細なデジタルデータが提供され始めている。同センターで高精度な予測雨量も提供されている等、詳細な数値計算を行う条件が整ってきている。
【0061】
流域は、国土数値情報のKS−270あるいはKS−271ファイルより対象水系域を選定して、KS−273ファイルに示された流域界を原則として採用する。この流域界を基本として、目視判断法の原理を取り入れて自動化が可能な代表点数判断法(9代表地点)を採用して、単位流域ごとに代表地点数が最大のメッシュをその流域メッシュと考えて、メッシュ流域界を設定する(9代表地点のメッシュ数が同数の場合には、北側に位置する流域にその単位メッシュを含める)。
【0062】
また、メッシュには、四角形メッシュを採用し、国土数値情報で採用されている標準地域メッシュ(単位メッシュ:1km)で設定する。尚、この単位メッシュは以下に示す地画セルと河道セル(単位メッシュにより河道が無い場合もある)により構成される。
【0063】
因に、セルの種類としては、(a)地画セル:地表、地下、(b)河道セル:河道、下水道、排水路、用水路が挙げられ、地画セル・河道セルの特徴としては下に掲げる[表3]のとおりである。
【0064】
[表3]
【0065】
地画セル平面形状は、原則として既に示した単位メッシュと同じであるが、単位メッシュは、厳密には縦方向(南北方向)と横方向(東西方向)では延長が相違するが、流出計算には単位メッシュ面積の平方根として求めたメッシュ単位長(d)を採用する。
【0066】
但し、地画セルの流下方向は、縦横4方向と斜4方向の合計8方向に流下させるため、斜方向への地画セル形状は以下に示すように長[地画セル]地画セルは、地表と地下により構成し[表4]に示す構造とする。
【0067】
[表4]
ここに:dはメッシュ単位長=地画セル単位長
尚、地画セル斜面勾配はメッシュ流域界内で隣接する地画セルの最急勾配方向へ流下するとして、その平均標高差hを斜面長Lで除した勾配θとする。
【0068】
国土地理院国土数値情報の土地利用分類は、12種類に分類されているが、分布型モデルでは同じような流出特性の土地利用分類を集約し、下記の5大分類に再分類する。
【0069】
また、土地利用分類としては、下記の分類に大別することができる。
・分類1(山地):森林、荒地
・分類2(畑地):畑、果樹園、その他の樹木畑
・分類3(都市):建物用地、幹線交通用地、その他の用地
・分類4(水田):田
・分類5(水域):内水地、海浜、海水域
因に、土木研究所では、土地利用別の等価粗度係数を以下の[表5]に示すように公表しており、これを考慮し、地表の土地利用は5大分類に集約し等価粗度係数(初期値)を設定する。
【0070】
[表5]
土地利用大分類別の等価祖度係数
【0071】
地表の土地利用は5大分類に集約するが、流出現象は土地利用により異なり山地域や畑地域であれば地下A0層も地表面と同様に大きな働きをするが、都市域では地下への浸透がほとんど無くA0層も形成されていないことから、流出計算には土地利用に応じた地表と地下A0層までを含めたモデル化が必要である。
【0072】
このため、土地利用の5大分類を踏まえて、地下A0層の有無、地表から地下層への浸透の有無、により地画セル内を分類すると以下の[表6]に示す3タイプの地画サブセルに区分する。
【0073】
[表6]
地画サブセルタイプ
また、地画サブセル3タイプの形状と地下A0層とA+B層の取り扱いと、土地利用大分類の関係は以下の[表7]に示すように考える。
【0074】
[表7]
地画サブセルタイプ別の形状
【0075】
また、国土地理院国土数値情報の土地利用分類は、12種類に分類されているが、同じような流出特性の土地利用分類を集約し、5大分類に再分類する。地画セルはこの5大分類土地利用を、地下A0層の有無、地表から地下層への浸透の有無、により以下の[表8]に示す3タイプ地画サブセルに区分し各地画サブセルのタイプに応じた理論を使用する。
【0076】
[表8]
地画サブセルタイプと土地利用分類
【0077】
尚、河道セルは、たとえ河道幅が単位メッシュ(地画セルも同様)の一辺長を超えても、同一のセル内に存在すると仮定する。
【0078】
また、河道セル形状の設定根拠には、測量成果を利用する方法、国土数値情報を利用する方法、理論式を利用する方法があるが、最も精度の高い測量成果を利用する方法で、河道セル形状を設定する([表9参照])。
【0079】
[表9]
河道セル形状の設定根拠と設定方法
但し、河道の法勾配を考慮する場合は、上記の河道幅を河床幅とした台形断面とする。
【0080】
また、分布型モデルでは最上流の単位メッシュから河道を配置することは、モデル構造上、可能であるが、一般的には、ある程度の単位メッシュを経て河道と見なせる排水路や小河川が形成されることから、集水面積を閾値(実際には集水面積に相当する単位メッシュ個数を閾値とする)として、閾値を越えた単位メッシュから河道が形成されているとして河道セルを配置する(河道を配置する基準は、集水面積に相当する単位メッシュ個数を閾値とする)。
【0081】
尚、河道粗度係数(初期値)の設定根拠には、洪水後の粗度係数検証結果、河相に応じた一般的値、河道計画祖度を利用する方法等から最適な方法を選択する。
【0082】
また、洪水予測地点を含む水位観測所では、河道水位を算出する必要があることから、既往調査で検討されているH−Q曲線により計算流量から予測水位を算出する。
【0083】
次に、モデル計算基本理論について、図7乃至図8を参照しながら説明する。分布型モデルによる流出量は、地画セルと河道セルに区分して、キネマティックウエーブにより計算する。
【0084】
有効降雨タンク及び地層流下モデルは、図7に示すように構成され、下記の連続式、運動方程式が成立するものである。
連続式
運動方程式
ここに、r:雨量(mm/hr)、h:水深(mm)、q1〜q3:流出高(mm/hr)、q4:浸透高(mm/hr)、QIN:前メッシュの流入高(mm/hr)、Mmin:最小水分量(mm)、Msat:飽和水分量(mm)、α1,α2:孔の係数(1/hr)、β:浸透能(mm/hr)、E:蒸発散量(mm/hr) 、
なお、β:浸透能はA+B層により決定される。また上限値によりA+B層への流量を制限できる機能を有する。
【0085】
表面及び表層は、図8(b)に示すように構成され、それぞれ下記の連続式、運動方程式が成立するものである。
[表 面]
連続式 運動方程式
ここに、t:時間(hr)、x:位置(mm)、Q:単位幅表面流量(mm2/hr)、h:水深(mm)、θ:斜面勾配、n:等価粗度係数、re:有効降雨+単位幅流入量(mm/hr)
【0086】
[表 層]
連続式
【0087】
運動方程式
ここに、r:雨量(mm/hr)、h:水深(mm)、QIN:流入量(mm/hr)、Q2:単位幅流出量(mm2/hr)、
QUP:越流量(mm/hr)、θ:斜面勾配、kX:水平方向の飽和透水係数(mm/hr)、
kz:鉛直方向の飽和透水係数(mm/hr)
【0088】
中間層上段及び中間層上段は、図8(c)に示すように構成され、下記の連続式、運動方程式が成立するものである。
連続式
[運動方程式]
ここに、D:層圧(m)、QX:水平方向の流入量(m3/hr)、QZ:水平方向の流入量、
L:メッシュ長(m)、i:動水勾配、A:メッシュ底面積(m2)、b:定数、θ:水分量(h/D)、
kX及びkZ:水平及び鉛直方向の不飽和透水係数(m/sec)、θS:飽和水分量(SS2/D)
kSX及びkSZ:水平及び鉛直方向の飽和透水係数(cm/sec)、θW:最小水分量(SS1/D)QIN:流入量(mm/hr)、QUP:越流量(mm/hr)
なお、kZ kSZ鉛直方向の不飽和透水係数および鉛直方向の飽和透水係数は下段層により決定する。また上限値により下段層への流量を制限できる機能を有する。
【0089】
地下層は、図8(d)に示すように構成され、下記の連続式、運動方式が成立するものである。
連続式
【0090】
運動方程式
ここに、h:水深(mm)、QIN及びQ4': 流入量(mm/hr)、Q5:単位幅流出量(mm2/hr)、QUP:越流量(mm/hr)、θ:斜面勾配、kX:水平方向の不飽和透水係数(mm/hr)
【0091】
尚、河道の連続式、運動方程式は下記の通りである。
連続式
運動方程式
ここに、r:流入量(mm/hr)、t:時間(hr)、x:位置(mm)、h:水深(mm)、
Q:単位幅流量(mm2/hr)、θ:斜面勾配、n:等価粗度係数
【0092】
以下、分布型流出モデルの作成手順について、図9を参照しながら説明する。分布型流出モデル作成手順としては、例えば、雄物川上流を対象にして、地形、土地利用、河道等の流域特性を反映できる洪水予測モデルとして、分布型流出モデルを作成する。
【0093】
図9は、分布型流出モデルの構築フローを示すものであり、本検討業務内容は、(a)流域のメッシュ分割、(b)落水線図の作成、(c)モデルの作成、(d)検証洪水の水文データ整理、(e)実績洪水検証の5項目である。
下表の[表10]に、モデル作成時における利活用データ(数値地図)を整理し示す。
【0094】
[表10]
【0095】
更に、数値地図(1kmメッシュ標高、KS−273:流域界位置、KS−272:流路位置)をもとに作成する。尚、作成にあたっては、単位メッシュ(1km)からの流下方向を縦横4方向、斜4方向の合計8方向として、これら単位メッシュごとの流下方向を合成し流域全体の落水線モデル構造を作成する。
【0096】
また、分布型流出モデルの作成は、(a)有効降雨モデル、(b)地層流下モデル、(c)河道流下モデルに区分し行った。更に、有効降雨モデルの構造は、樹幹及び窪地貯留を考慮した有効降雨を地層モデルへ流下させる。有効降雨モデルのパラメータは、以下の[表11]に示す項目を基に設定する。
【0097】
更に、土地利用情報、・植生は、常緑広葉樹、落葉広葉樹、常緑針葉樹、落葉針葉樹、低木・草本である。その他、最小保水量部分は、蒸発散を考慮する。月毎の事前設定値またはリアルタイム観測値より算定する。
【0098】
[表11]
【0099】
また、地層流下モデルの構造は、以下(a)乃至(e)の5層構造とする。
(a)表面:表面流
表面流は、Kinematic Wave法にて計算する。表面のパラメータは、土地利用情報、・植生(常緑広葉樹、落葉広葉樹、常緑針葉樹、落葉針葉樹、低木・草本、その他)を基に設定する。
【0100】
(b)表層(A0層):表層内の流れ
表層内の流れは、Darcy則にて計算する。表層厚の設定は現地調査結果、柱状図及び森林水文学等を参考に層厚を設定する。表層のパラメータは、土地利用情報、・植生(常緑広葉樹、落葉広葉樹、常緑針葉樹、落葉針葉樹、低木・草本、その他)を基に設定する。
【0101】
(c)中間層上段(A+B層):中間層早い流れ
中間層上段の流れは、水分量変化に伴う透水性変化を考慮した不飽和透水係数によりDarcy則にて計算する。中間層上段層厚の設定は現地調査結果及び柱状図等より分類毎に平均的な層厚を設定し、斜面勾配(1/4細分区画の最大傾斜角度及び最小傾斜角度の平均角度θ)を考慮した層厚(2cosθ−1)をメッシュ毎に設定する。中間層上段のパラメータは、国土数値情報の土壌分類を「森林水文学」を参考に浸透性を大・中・小等に区分した項目を基に設定する。
【0102】
(d)中間層下段(C1層):中間層の遅い流れ
中間層下段の流れは、水分量変化に伴う透水性変化を考慮した不飽和透水係数によりDarcy則にて計算する。中間層下段層厚の設定は、現地調査結果及び柱状図等より分類毎に平均的な層厚を設定し、斜面勾配(1/4細分区画の最大傾斜角度及び最小傾斜角度の平均角度θ)を考慮した層厚(2cosθ−1)をメッシュ毎に設定する。中間層下段のパラメータは、国土数値情報の表層地質分類を現地調査結果等より浸透性(風化)を大・中・小等に区分した項目を基に設定する。
【0103】
(e)地下層(C2層):地下層の流れ
地下層の流れは、Darcy則にて計算する。地下層のパラメータは、国土数値情報の表層地質分類を「森林水文学」を参考に浸透性を大・中・小等に区分した項目を基に設定する。
【0104】
また、河道流下モデルは、下表の[表12]に河道流下モデルの作成に利用したデータ一覧表を示す。尚、河道流下モデルの作成にあたっては、国土地理院地形図の河道位置を精査し、国土数値情報を活用した。
【0105】
[表12]
【0106】
一方、降雨予測手段5は、流域を対象とする洪水予測システムにあって、雨域移動解析プログラムの計算結果を入力として用いることができる。同プログラムでは、各種パラメータを最適化することにより地域や降雨特性に特化した計算を行うことが可能となっており、流域に特化した降雨予測範囲等のパラメータを実データによって検討・最適化した。
【0107】
また、当該流域の洪水予測モデル検討においては抽出された降雨より5洪水程度を選定する。対象洪水の選定に際しては、以下の点を判断の基準とした(検討対象降雨選定)。
(a)移動解析では最大500km四方程度の領域のデータを使用する。流域周辺のレーダ運用を踏まえ、パラメータ最適化はなるべく現在に近い条件を用いることが望ましい。
(b)レーダ観測に欠測や異常があると移動解析計算に影響を及ぼすと考えられる。そのためデータは欠測や異常を含まない、あるいは無視できる程度であることが必要である。
(c)目視によっても雨量の変動が激しく、移動の把握が困難なような降雨は移動解析によって高い精度を期待することはできない。このような降雨は優先度を下げ、移動特性のはっきりした降雨について的確な予測が行えるよう最適化を行うことの方が実践的である。
(d)選定降水は降雨の多様性を持たせるため、降雨種別に多様性のある降雨を選定する。
【0108】
更に、降雨予測計算は、雨域移動解析プログラムの可変パラメータより、特定地域の計算を行う上で最適化が必要と考えられるのは、下表の[表13]に示す3個である。これらのパラメータについて、それぞれの選択可能範囲から適切な値の組合せを選定し、検討を行うものとした。先ず最適な計算範囲(移動ベクトル計算範囲)を決定し、次いでいくつかのタイムステップとメッシュサイズの組合せで移動解析計算を行った。
【0109】
[表13]
検討対象パラメータ
ここでは、時間間隔、計算メッシュについては従来から使用されている値を用い、下記の3つの計算範囲設定で行われた移動解析の移動ベクトル分布及び計算結果のパターンを実況と比較することにより、流域の洪水予測システムに適当と思われる計算範囲を判定するものとした。ここでは荒川流域における計算範囲の例を示す。
【0110】
I.大領域ケース
中心37度25分、140度20分 東西400km、南北400km
II.中領域ケース
中心37度35分、140度20分 東西200km、南北200km
III.小領域ケース
中心37度43分、140度20分 東西100km、南北100km
【0111】
また、通常の気象擾乱の移動速度は、速くても60km程度である。例えば、この移動速度で3時間先の雨量を計算する場合、180km遠方の移動特性が影響し、大領域はそのような遠方も含む計算領域として設定したものである。
【0112】
一方、小領域は、対象流域内の移動特性が全体の場に左右されずに解析されることを重視したもの、中領域はその中間的なものという位置付けである。これらの範囲は、図10に示すとおりである。雨域が南から移動してくることが多いために、当該流域から見た移動の上流側を重視し、範囲の中心を多少南に寄せている。
【0113】
計算された移動ベクトルの場と予測雨量分布は、図11及び図12に示すとおりである。この中で雨量分布の左端の図は、1時間毎の実況雨量分布、左から2枚目の図はその1時間前に行われた予測計算による1時間後予測雨量、3枚目の図は2時間前に行われた予測計算による2時間後予測雨量、4枚目の図は3時間前に行われた予測計算による3時間後予測雨量である。
【0114】
すなわち、各行の予測値はすべて同じ時刻を対象とする予測で、左端の図がその時刻の実況雨量である。実況の雨域移動は左端の図を順次下方に辿ったものである。一方、左端の図から斜め右下に辿ると左端を初期値とする1時間毎の予測を追うことになる。
【0115】
尚、移動ベクトルが表示されていないのは、50m/sを上回る移動速度が検出されたため、適用がキャンセルされた場合である。その際には6時間前までの過去に遡って有効な移動ベクトル計算値があるかどうかを検索し、存在すればその値を用いて移動解析計算を行う。有効な計算値が無い場合、例えば最初の計算で移動が求まらなかった場合には移動なしとして計算されている。
【0116】
また、大領域と中領域は、分布図の観察によっては差異が明確でなかったので、流域雨量を対象とする実況雨量と計算雨量の相関係数及び総雨量比を求め、比較を行った。相関係数、総雨量比は次の式によって算出した。実況値、予測値ともレーダ雨量を流域平均したものである。
【0117】
ここに、
xi:時刻iの流域平均雨量強度実況値(mm/h)
yi:時刻iの流域平均雨量強度予測値(mm/h)
x:時間・流域平均雨量強度実況値(mm/h)
y:時間・流域平均雨量強度予測値(mm/h)
N:データ数
である。
【0118】
ここに、
xi:時刻iの流域平均雨量強度実況値(mm/h)
yi:時刻iの流域平均雨量強度予測値(mm/h)
N:データ数
である。
【0119】
尚、本発明の分布型流出予測システムは、本実施例に限定されることなく、本発明の目的の範囲内で自由に設計変更し得るものであり、本発明はそれらの全てを包摂するものである。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明に係る分布型流出予測システムの全体を示す説明図である。
【図2】レーダサイト近傍の抜けを示す説明図である。
【図3】同分布型流出予測システムにおける対象区域の補正処理を示す説明図である。
【図4】レーダサイト近傍の低減を示す説明図である。
【図5】同分布型流出予測システムにおける対象区域の補正処理を示す説明図である。
【図6】同分布型流出予測システムにおける分布型モデル構成図である。
【図7】同分布型流出予測システムにおける有効降雨モデルと地層流下モデルを示す説明図である。
【図8】図15(a)は同分布型流出予測システムにおける有効降雨の運動方程式を示す説明図、図15(b)は単位幅表面流量の運動方程式を示す説明図、図15(c)は中間層上段及び中間層下段の運動方程式を示す説明図、図15(d)は地下層の運動方程式を示す説明図である。
【図9】同分布型流出予測システムにおける分布型流出モデルの作成手順を示すフローチャートである。
【図10】同分布型流出予測システムにおける計算範囲(大領域、中領域、小領域)を示す説明図である。
【図11】同分布型流出予測システムにおける予測雨量分布を示す説明図である。
【図12】同分布型流出予測システムにおける予測雨量分布の計算例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0121】
1 流出予測手段
2 モデル構造
3 全国合成レーダ雨量の検証手段
4 全国合成レーダ雨量の補正手段
5 降雨予測手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オンライン全国合成レーダ雨量及び分布型流出モデルを用いた流出予測手段と、前記分布型流出モデルのモデル構造と、前記分布型流出モデルパラメータ設定手段と、前記流出予測に用いる全国合成レーダ雨量の検証手段及び補正手段と、前記流出予測システムの対象流域に特化した降雨移動解析を用いた降雨予測手段との全て又は何れかを選択又は組み合わせてなることを特徴とする分布型流出予測システム。
【請求項2】
前記流出予測手段は、オンライン全国合成レーダ雨量及び同種のレーダ雨量と予測雨量を用い、流域を細分化しメッシュ毎に有効降雨モデル、地層流下モデル及び河道モデルからなる分布型流出モデルにより、現在から数時間先までの河道の任意地点における流量を算出し予測画像を作成し又は表示することを特徴とする請求項1に記載の分布型流出予測システム。
【請求項3】
前記分布型流出モデルのモデル構造は、流域を細分化したメッシュ毎に有効降雨モデル、複数の層からなる地層流下モデル及び河道モデルからなり、地形、流域の植生、土地利用、土壌分類、表層地質、風化状態などで決まる浸透特性等の水文学的要因を適切に反映して、洪水の流出波形を再現することを特徴とする請求項1に記載の分布型流出予測システム。
【請求項4】
前記分布型流出モデルパラメータ設定手段は、各層の流れ、浸透、貯留の大きさを表す等価粗度、飽和透水係数、不飽和透水係数、間隙率などのパラメータと、それぞれの層厚は、地形、植生、土地利用、土壌分類、表層地質、風化状態、現地調査結果及び地質柱状図等をもとに流域の物理的な流出機構を反映するよう決定し、再現計算により十分な検証を行って決定することを特徴とする請求項1に記載の分布型流出予測システム。
【請求項5】
前記全国合成レーダ雨量の検証手段及び補正手段は、レーダ雨量画像の目視点検を行うと共に、地上雨量と地上雨量計に対応するメッシュのレーダ雨量との相関係数及び総雨量比等を算出し検討することで定量的に判断し、異常なレーダ雨量データが含まれる場合は、その補正をメッシュ単位で行なうことを特徴とする請求項1に記載の分布型流出予測システム。
【請求項6】
前記降雨予測手段は、オンライン全国合成レーダ雨量及び同種のレーダ雨量を用い、対象流域に特化した降雨移動解析より得られる予測雨量により流出予測を行なうことを特徴とする請求項1に記載の分布型流出予測システム。
【請求項1】
オンライン全国合成レーダ雨量及び分布型流出モデルを用いた流出予測手段と、前記分布型流出モデルのモデル構造と、前記分布型流出モデルパラメータ設定手段と、前記流出予測に用いる全国合成レーダ雨量の検証手段及び補正手段と、前記流出予測システムの対象流域に特化した降雨移動解析を用いた降雨予測手段との全て又は何れかを選択又は組み合わせてなることを特徴とする分布型流出予測システム。
【請求項2】
前記流出予測手段は、オンライン全国合成レーダ雨量及び同種のレーダ雨量と予測雨量を用い、流域を細分化しメッシュ毎に有効降雨モデル、地層流下モデル及び河道モデルからなる分布型流出モデルにより、現在から数時間先までの河道の任意地点における流量を算出し予測画像を作成し又は表示することを特徴とする請求項1に記載の分布型流出予測システム。
【請求項3】
前記分布型流出モデルのモデル構造は、流域を細分化したメッシュ毎に有効降雨モデル、複数の層からなる地層流下モデル及び河道モデルからなり、地形、流域の植生、土地利用、土壌分類、表層地質、風化状態などで決まる浸透特性等の水文学的要因を適切に反映して、洪水の流出波形を再現することを特徴とする請求項1に記載の分布型流出予測システム。
【請求項4】
前記分布型流出モデルパラメータ設定手段は、各層の流れ、浸透、貯留の大きさを表す等価粗度、飽和透水係数、不飽和透水係数、間隙率などのパラメータと、それぞれの層厚は、地形、植生、土地利用、土壌分類、表層地質、風化状態、現地調査結果及び地質柱状図等をもとに流域の物理的な流出機構を反映するよう決定し、再現計算により十分な検証を行って決定することを特徴とする請求項1に記載の分布型流出予測システム。
【請求項5】
前記全国合成レーダ雨量の検証手段及び補正手段は、レーダ雨量画像の目視点検を行うと共に、地上雨量と地上雨量計に対応するメッシュのレーダ雨量との相関係数及び総雨量比等を算出し検討することで定量的に判断し、異常なレーダ雨量データが含まれる場合は、その補正をメッシュ単位で行なうことを特徴とする請求項1に記載の分布型流出予測システム。
【請求項6】
前記降雨予測手段は、オンライン全国合成レーダ雨量及び同種のレーダ雨量を用い、対象流域に特化した降雨移動解析より得られる予測雨量により流出予測を行なうことを特徴とする請求項1に記載の分布型流出予測システム。
【図1】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【公開番号】特開2009−8651(P2009−8651A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288607(P2007−288607)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000173577)財団法人河川情報センター (11)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000173577)財団法人河川情報センター (11)
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