説明

全身性ウイルス/リガンド遺伝子送達システムおよび遺伝子治療

【課題】本発明は、例えば、標的細胞へのウイルス介在遺伝子送達のための、ウイルスベクターの適用の改善を提供することを目的とする。本発明はまた、目的の核酸または他の治療的分子を送達できるウイルスベクターと、ウイルスベクターの標的細胞への結合または親和性をもたらすか、または促進することができるリガンドの混合物を含む組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】ウイルスに非共有結合的に結合している細胞ターゲティングリガンドを含む、宿主動物内の標的細胞にウイルスを送達するためのベクターを提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
1.技術分野
本発明は遺伝子移入および遺伝子治療法に関する。より具体的に、本発明は、核酸のヒトおよび他の動物の特異的臓器、組織または腫瘍へのインビトロおよびインビボウイルス送達を標的化するための組成物および方法を提供する。治療的遺伝子、例えば、wtp53を送達するための本発明の使用は、慣用の放射線および化学療法に増加した感受性をもたらすことができる。
【背景技術】
【0002】
2.背景技術の記載
ウイルスベクターを使用した遺伝子送達および遺伝子治療は、かなり研究の対象となっている。癌の遺伝子治療の長年にわたる目的は、転移を含む腫瘍細胞を選択的に標的とする全身性送達システムである。核酸を、細胞内にウイルスベクターを介して挿入し、これらの細胞内で所望の治療的作用を産生するようにできる。例えば、遺伝子を細胞機能を干渉する欠損遺伝子、例えばp53を置換するように挿入できる。核酸はまた細胞内に宿主動物に所望の治療的効果を産生するために、例えば、予防接種、免疫治療、またはアンチセンス発現のために細胞内に挿入できる。
【0003】
ウイルスベクターは、核酸を宿主細胞に移入するためのウイルスにより使用されている細胞侵入機構を利用して開発されている。組換えレトロウイルスおよびアデノウイルスベクターは、インビトロおよびインビボ遺伝子移入を達成するためのストラテギーを使用して構築されている。治験のために認可されている遺伝子治療プロトコールの約80%がウイルスベクターを使用する(Wivel and Wilson, 1998)。アデノウイルスベクターは、非分割細胞に挿入し、外因性遺伝子の相対的に大きな(>8kb)ペイロードを運搬できるため、遺伝子治療のある形で利点を提供する(Berkner, 1998)。更に、アデノウイルス粒子は精製でき、1011PFU/mLより大きいタイターを産生できる(Wivel and Wilson, 1998)。これらのシステムの一つの欠点は、しかし、ウイルスの限定された細胞親和性であり、標的化ウイルス粒子の問題がまだ現在癌の治験で使用されている治療的ウイルスで解決されていない。したがって、細胞親和性を変える方法が開発されており、探求されている。
【0004】
二機能性接合体の手段によるレトロウイルスの親和性を変えるシステムが記載されている(Roux et al., 1989)。二機能性接合体は、ウイルスコートに対する抗体、および、他方に、標的細胞の特異的細胞膜マーカーに方向付けされた抗体を含む。
【0005】
Goud et al. (1988)は、二つのモノクローナル抗体(Mab)を含む二機能性抗体を記載する。Mabは、モロニーレトロウイルスのgb70コートタンパク質およびヒトトランスフェリンレセプターに方向付けされた。これらの接合体は、レトロウイルスが、そうでなければ非浸透性の標的細胞に浸透することを可能にした。
【0006】
WO92/06180(Wu et al., 1992)は、ウイルスの表面に標的細胞表面レセプターを結合した分子を提供し、細胞表面レセプターに特性のウイルスを作ることによる、親和性を変える方法を記載している。その明細書中では、レトロウイルスまたはB型肝炎ウイルスを、アシアログリコプロテインレセプターに結合する炭水化物分子で化学的に修飾する。Wu et al.は外因性遺伝子を細胞に挿入するためのインビトロ法のみ記載している。
【0007】
アデノウイルスベクターは、非分割細胞に入ることができ、約8kbの外因性DNA配列を運搬できるため、遺伝子治療のある形で利点を提供する。アデノウイルス粒子は精製でき、1011PFU/mLより大きいタイターを産生できる。
【0008】
組換えアデノウイルスの使用の一つの制限は、標的特異的細胞タイプへの限定した能力である。多くの実験が、レセプター介在エンドサイトーシスを介したDNA複合体を有する非組換えアデノウイルスを使用した遺伝子移入が報告されており、アデノウイルスにエンドソームの中身の放出をさせる能力を提供する(Cotton et al., 1992; Wagner et al., 1992)。これらの方法は、トランスフェリン−ポリリジン/DNA複合体を使用し、結合または非結合アデノウイルスを内面化する。Wagner et al. (1992)は、ポリリジンに接合することによりアデノウイルスベクターを修飾し、これをトランスフェリン−ポリリジン/DNAの接合体と複合体化させ、3重トランスフェリン−ポリリジン/アデノウイルス−ポリリジン/DNA複合体を作る。標的化のための類似の試みは、トランスフェリン(Tf)のアデノウイルス粒子への結合であり、トランスフェリンレセプター(TfR)が多くの腫瘍タイプで上昇するという事実の利点を使用する(Miyamoto et al., 1994; Baselga and Mendelsohn, 1994)。Schwarzenberger et al. (1997)は、分子接合体ベクター(MCV)を記載する。MCVは、目的の遺伝子をを含むプラスミドをポリリジン(PL)と縮合させ、PLは複製インコンピテントアデノウイルス(エンドソーム融解剤(endosomolytic agent))に結合し、PLはビオチニル化リガンドを標的化するためにストレプトアビジンに結合している。しかし、Tfのアデノウイルスへの共有結合、またはTf−ポリリジン−アデノウイルス接合体の産生の現在の方法は、恐らく、Tf−修飾ウイルスを作るために必要な過酷な条件のために、減少した感染性をしばしばもたらすことが報告されている(Cotton et al., 1992; Wagner et al., 1992; Schwarzenberger et al., 1997)。
【0009】
他の試みは、中和抗繊維または抗knobモノクローナル抗体Fabフラグメントの、フォレートまたはFGF2のようなリガンドへの架橋を必要とする(Rogers et al., 1997; Douglas et al., 1996)。キメラFabリガンドと複合体化したアデノウイルスベクターは、腫瘍局在化にある約束を示し、天然アデノウイルスと比較してインビボで減少した肝臓毒性を示す。
【0010】
Curiel et al., (米国特許第5,521,291号および5,547,932号)は、核酸を真核生物細胞に内在化させるための、複数アデノウイルスポリカチオン接合体を記載する。これらの接合体のいくつかは、内在化因子としての核酸に親和性を有する物質に結合したトランスフェリンを使用する。
【0011】
Cotton et al. (米国特許第5,693,509号)は、通常浸透できない細胞に効率的に浸透するが、遺伝子発現および/またはそのエンドソーム融解特性を残したままの、報告された能力を有するアデノウイルスを記載する。トランスフェリンはアデノウイルス粒子に共有結合的に結合し、それらはレセプター介在エンドサイトーシスを受けることができる。この方法は、トランスフェリンを、アルデヒド基を炭水化物部分に含む形に酸化し、酸化トランスフェリンを還元条件下でアデノウイルスに結合させる。また、感染性が修飾後維持されているか、予期できないと記載されている。
【0012】
Low et al. (米国特許第5,108,921号;第5,416,016号;および第5,635,382号)は、フォレート、ビオチン、チアミンおよびそれらのアナログのようなリガンドを使用した外因性分子の経膜輸送の促進のための方法を記載する。この方法はまた抗イディオタイプ抗体または、リガンドのレセプターと結合できる他の分子も使用し得る。記載された他のリガンドは、ナイアシン、パントテン酸、リボフラビン、ピリドキサールおよびアスコルビン酸を含む。
【0013】
Xu et al. (1997)およびXu et al. (1999)は、Tfのカチオン性リポソームへの添加が、リポソームの、正常p53遺伝子を含む外因性遺伝子の送達の能力を、インビトロおよびインビボの両方で有意に増加させることを発見した。最も顕著には、彼らは、ヌードマウスで異種移植片として生育している広範囲のヒト腫瘍細胞への非常に選択的なターゲティングを達成した。
【0014】
本発明の背景を明らかにするため、または実施に関する更なる詳細を提供するための文献および本明細書で使用する他の材料は、引用して本明細書に包含させ、簡便のために添付の引用文献のリストに各々グループ化している。
【発明の概要】
【0015】
(発明の要約)
本発明は、例えば、標的細胞へのウイルス介在遺伝子送達のための、ウイルスベクターの適用の改善を提供する。
【0016】
一つの態様において、本発明は、目的の核酸または他の治療的分子を送達できるウイルスベクターと、ウイルスベクターの標的細胞への結合または親和性をもたらすまたは促進することができるリガンドの混合物を含む、組成物を提供する。混合物を産生するための記載の方法は、過酷な化学的処理によりもたらされ得るウイルス粒子の不活性化を避ける。混合物は単純な方法で調製し、ヒト患者への全身性(例えば、非経口)投与に適している。
【0017】
他の態様において、本発明は、ウイルス粒子の中身の標的化送達を達成するため、前記混合物を、ヒトまたは他の動物にインビボで全身的に投与する方法を提供する。
【0018】
他の態様において、本発明の治療的遺伝子である野生型p53の送達のための使用は、放射線および化学療法剤への増感を導く。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】lacZ遺伝子を担持するTf標的化アデノウイルスベクターで感染させた後の、JSQ−3細胞で発現したβ−ガラクトシダーゼレポーター遺伝子。5×10JSQ−3細胞/ウェルを24ウェルプレートで培養した。24時間後、細胞を1度血清無しのEMEMで洗浄し、血清無しの0.3mL EMEMまたは抗生物質を各ウェルに添加した。200μL EMEM中のトランスフェリン対ウイルスの異なる比率のAd5LacZまたはTf−Ad5LacZ複合体を、二つのウェルに添加した。5×10から5×10Tf分子/ビリオンの比率を使用した。ウイルス対細胞比は500および1000ウイルス粒子/細胞(pt/細胞)であった。37℃、5%COで、2分に1回試験管を回転により混合しながら4時間インキュベーション後、0.5mLの20%血清添加EMEMをウェルに添加した。培養2日後、細胞を1回PBSで洗浄し、1×レポーター融解緩衝液(Promega)で融解させた。細胞融解物を、1mM MgClおよび450μM β−メルカプトエタノール含有20mM トリス(pH7.5)中の100μLの150μM O−ニトロフェニル−β−ガラクトピラノシドで37℃で30分処理した。反応を150μL/ウェルの1M NaCOの添加により停止させ、吸光度を405nmで測定した。精製β−ガラクトシダーゼを標準曲線作成に使用した。結果を、β−ガラクトシダーゼ等量/総タンパク質mgのミリ単位(mU)で示した。
【図2】Tf標的化アデノウイルス、マウス異種移植片モデルにおけるβ−ガラクトシダーゼレポーターの全身的送達の組織化学的分析。DU145異種移植片腫瘍を担持する無胸腺ヌードマウスに、1回、Tf−AdLacZをi.v.注射した。注射3日後、動物を殺し、腫瘍および正常組織を摘出してX−galで染色した。図2Aは、1.5×10Tf分子/ビリオンの比率でTf−Adp53で全身的処置した動物由来の腫瘍を示す。図2Bは、図2Aに対応する肝臓を示す。図2Cは、2.9×10Tf分子/ビリオンの比率でTf−Adp53で全身的処置した動物由来の腫瘍を示す。図2Dは、図2Cに対応する肝臓を示す。図2Eは、5.8×10Tf分子/ビリオンの比率でTf−Adp53で全身的処置した動物由来の腫瘍を示す。図2Fは、図2Eに対応する肝臓を示す。棒=50μm。
【図3】Tf−Adp53のi.v.注射後のDU145異種移植片腫瘍における外因性wtp53発現。DU145異種移植片を担持する無胸腺ヌードマウスに、Tf−Adp53または非標的化Adp53のいずれかをi.v.注射した。48時間後、動物を殺し、腫瘍および正常組織を摘出し、タンパク質をウェスタンブロット分析のために単離した。非処理マウスの腫瘍および臓器、ならびに親DU145細胞から単離したタンパク質をコントロールとして含んだ。これらの各々のサンプルの100μgの総タンパク質をレーン当たりに充填させた。インビトロでAdp53に感染させたDU145細胞の2.5μgの総タンパク質も含んだ。p53タンパク質バンドを、モノクローナル抗p53抗体Ab−2およびECLウェスタンブロットキットを使用して検出した。バンド1=外因性ヒトwtp53;バンド2=外因性ヒトDU145 p53;バンド3=内因性マウスp53。
【図4】インビボのJSQ−3異種移植片腫瘍における全身性送達した腫瘍標的化アデノウイルスp53と放射線治療の組合わせの効果。Tf−Adp53を1×10Tf分子/ビリオンの比率で作った。1×1010ウイルス粒子/マウス/注射(3×10pfuと等量)のTf−Adp53または非標的化Adp53を、100−200mm3のJSQ−3異種移植片腫瘍を担持する無胸腺ヌードマウスの尾静脈に注射した。最初のi.v.注射の翌日から開始して、30Gyのイオン化放射線を、一日2Gyの分割容量で動物の腫瘍の部位に適用した。組合わせ処置を受けた動物で、腫瘍の再生育は処置停止後8ヶ月後に観察されなかった。見えるようにするには誤差が小さすぎるため、Tf−Adp(+)放射線グループでエラーバーはない。棒は処置の期間を示す(約3週間)。全ての動物実験は、実験動物の世話および使用のための、Georgetown University Institutional Guidelinesにしたがって行った。
【図5】全身性送達した、腫瘍標的化アデノウイルス−p53によるB16マウス肺転移癌のシスプラチン(CDDP)への化学感作。転移癌を、正常、同系C57/BI/6マウスに、1×10細胞の静脈注射により誘発した。4日後に処置を開始した。Tf−Adp53およびコントロールTf−AdLacZを1.5×10Tf分子/ビリオンの比率で作った。1×1010ウイルス粒子/マウス/注射(3×10pfuと等量)のAdp53、Tf−Adp53またはTf−AdLacZを、1週間に3回、合計12−13投与でi.v.投与した。CDDPを2−4日毎に3−5mg/kg、合計8−13投与で腹腔内注射した。肺を処置が一巡した後に動物から摘出した。処置なし(図5Aおよび5E);CDDP単独(図5B);非標的化Ad−p53+CDDP(図5C);Tf−LacZ+CDDP(図5F);Tf−Adp53単独(図5G);Tf−Adp53+CDDP(図5Dおよび5H)で処置した動物からの肺。
【図6】インビボMDA−MB−435異種移植片腫瘍における全身性送達した、腫瘍標的化アデノウイルス−p53と化学療法の組合わせの効果。
【図7】LacZを有する非標的化アデノウイルスと、またはLacZを有するトランスフェリン標的化アデノウイルスと腫瘍内注射したDU145細胞におけるβ−ガラクトシダーゼの発現。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(発明の詳細な説明)
wtp53を欠くマウスの正常な発育およびp53発現細胞における照射後G1ブロックの観察は、wtp53が、増殖および発育中よりむしろDNA損傷後またはストレス後に、細胞の調節において機能することを示す。多くの慣用の抗癌治療(化学療法および放射線)はDNA損傷を誘導し、アポトーシスの誘導により作用するように見えるため、p53経路の変更は治療レジメの失敗を導くことが考えられる。
【0021】
wtp53機能の欠失はまた放射線耐性の増加に関連する。wtp53の存在および続くG1遮断の欠失はまたある種のヒト腫瘍および細胞経における増加した放射線耐性と相関することが発見されている。これらは、頭頸部癌、リンパ腫、膀胱癌、甲状腺癌、乳癌、卵巣癌および脳腫瘍に代表されるヒト細胞系を含む。
【0022】
これらの考えを基に、wtp53機能を腫瘍細胞内で回復させる遺伝子治療が、p53依存的細胞周期チェックポイントおよびアポトーシス経路を回復させ、したがって化学物質/放射線耐性表現型の逆転を導くはずである。このモデルと矛盾せず、化学感受性が、アポトーシスに加えて、wtp53を担持する非小細胞肺癌マウス異種移植片におけるwtp53の発現により回復した。p53−ヌル肺腫瘍細胞系H1299およびT98G膠芽細胞腫細胞を含む異種移植片の化学感受性およびWiDr大腸癌異種移植片のシスプラチンに対する感受性が証明されている。ドキソルビシンまたはマイトマイシンCによる増加した細胞死も、wtp53のアデノウイルス形質導入によりSK−Br−3乳腫瘍細胞で示された。しかし、ある矛盾する報告が、p53発現と化学耐性の間の関係は、組織または細胞タイプ特異的成分を有し得ると示している。wtp53のアデノウイルスベクターによるトランスフェクションはまた卵巣および大腸−直腸腫瘍細胞を放射線に対して感受性にすることも示されている。アデノウイルス介在wtp53送達は、頭頸部腫瘍系の放射線耐性扁平上皮細胞癌(SCCHN)における機能的アポトーシスを回復させ、これらの細胞をインビトロで放射線感受性にする。より顕著には、腫瘍内注射したアデノ−wtp53と放射線の組合わせが、確立したSCCHN異種移植片腫瘍の完全なそして長期の腫瘍退行を導いた。
【0023】
本発明は、非標的化ウイルスベクターの腫瘍内注射の慣用的使用、または非標的化ベクターの全身性送達からさえ出発して、例えば、Roth et al.(米国特許第5,747,469号)に記載のような、遺伝子治療のための治療的分子の送達に向かう。
【0024】
本明細書に示すデータは、このような複合体が、インビトロおよびインビボの両方で、一次および転移腫瘍の両方の腫瘍細胞を標的化し、放射線および/または化学療法に感受性にする(wtp53の発現により)優れた能力を証明する。
【0025】
本発明は、高い程度の標的細胞特性および高い効率を伴う、治療的分子を全身性に送達する必要性に取り組み、全身性に投与したとき、この送達システムは、標的細胞がヒト癌細胞であるとき、転移癌および一次腫瘍に到達し、そして特異的にターゲティングできる。このシステムの手段による、腫瘍抑制遺伝子p53の正常の野生型バージョンの送達の結果、本発明者らは、腫瘍が放射線治療および/または化学療法に感受性になることを証明した。このシステムの高いトランスフェクション効率は、癌の生育の阻害だけでなく、先在する腫瘍および転移癌を完全に長期間除去する程の高い程度の感作をもたらす。
【0026】
本発明の具体的態様は、トランスフェリンリガンドと、核酸を標的宿主細胞に送達できるウイルスベクター粒子の混合物を含む、薬学的に許容される組成物を提供する。ウイルスベクター(例えば、レトロウイルスまたはアデノウイルスベクター)と細胞ターゲティングリガンドの、注射用滅菌水のような適当な媒体中での単純な混合が、ウイルスベクター単独で得られるものよりもトランスフェクション効率を上昇させる。ウイルスベクターとトランスフェリンの単純な混合物は、例えば、トランスフェリンレセプターを発現する細胞、例えば、ヒト癌細胞のトランスフェクションを増加させる。
【0027】
トランスフェリンの使用は、広範囲のヒト癌に遺伝子を移入すること、または広範囲のヒト癌のための遺伝子治療に関連して特に有利である。広範囲のヒト癌細胞がトランスフェリンレセプターを含む。本発明の混合物中のトランスフェリンの存在は、ウイルスベクターが、これらの癌細胞を、効率的にそして特異的に標的とすることを可能にする。
【0028】
タンパク質、ペプチド、ホルモン、抗体および抗体フラグメントのような他のリガンドが、このようなリガンドのレセプターを含む、またはレセプター介在エンドサイトーシスによりリガンドを内在化できる細胞にウイルスベクターを特異的にターゲティングするために有用である。リガンドは、例えば、ウイルスベクターの標的細胞への結合を促進するために機能する、天然のまたは組換えタンパク質である。リガンドの例は、インシュリン、毒素、EGF、VEGF、FGF、IGF、ヘレグリン、他のウイルス性または細菌性タンパク質、エストロゲンおよびプロゲステロンを含む。
【0029】
本発明は、細胞ターゲティングリガンドの使用に関し、これは、このリガンドを第2のタイプのウイルスと混合したときに第1のタイプのウイルスで自然に発生し、本発明は、本リガンドをコードするウイルスに関連して天然に存在する細胞ターゲティングリガンドの使用は含まない。本発明は、リガンドが通常天然に存在するウイルスに関連して見られるよりも高い量で存在するとき、リガンドをコードするウイルスタイプに関連して、ウイルスによりコードされる細胞ターゲティングリガンドの混合物を含まない。
【0030】
リガンドとウイルス粒子の間で複合体が形成される方法は、大量のリガンド分子がウイルス粒子の表面をコートし、それが血流を通って移動するとき、安定性を増加するものである。更に、表面上の多くの数のリガンド分子がまたウイルス抗原の遮断により免疫原性の減少に働き得る。
【0031】
本発明は、組換え発現ウイルスの使用を含む。組換えアデノウイルス、AAVベクター(米国特許第5,139,941号)、レトロウイルスベクター、単純ヘルペスウイルス(米国特許第5,288,641号)、サイトメガロウイルス(CMV)、ワクシニアウイルス、家禽ポックスウイルス(FPV)、カナリアポックスウイルス(CPV)(米国特許第5,933,975号;第5,762,938号;および第5,378,457号)、シンドビスウイルス、キメラまたはハイブリッドウイルス等のウイルスベクターを、本発明に関連して使用し得る。複製コンピテントまたは腫瘍細胞崩壊性ウイルスも本発明に関連して使用できる。
【0032】
本発明はまたMab、リンカー、ポリリジン等を使用して、ウイルスベクターにトランスフェリンを結合させる、先に使用の方法に関連して記載されている苛酷な化学物質および複雑な処理工程を有利に回避する、ウイルスベクター−トランスフェリン混合物の製造法を提供する。
本発明により、リガンド−ウイルス混合物を、任意の担体または媒体(典型的に、水性担体)中で調製でき、インビトロまたはインビボ投与に薬学的に適した組成物を提供する。本組成物は、典型的に適当なpHに緩衝化され、浸透圧調節剤、抗生物質等のような適当な補助成分を含み得る。
【0033】
混合物に使用するウイルス粒子の量および最終的に宿主動物に投与する(またはインビトロで細胞に投与する)量は、科学文献に記載の遺伝子移入および遺伝子治療の既知の原則に基づいて、当業者により決定される。本発明の混合物は、ウイルスベクターの投与に関して先に記載のものと類似の方法を介して投与され、インビトロまたはインビボ遺伝子移入または遺伝子治療をする。本発明は、ウイルスベクターの全身投与のための組成物および方法の提供により、現存する方法を改善する。本混合物の非経口投与(特に、静脈内または動脈内投与)が好ましい。ある場合、ウイルス粒子の実質的に(例えば、30倍)少ない投与量を、本発明によりもたらされる改善された効率により、投与できることが予測される。あるいは、他の場合、既知の投与量を使用でき、増加した遺伝子の移入をもたらす。本発明の組成物中のウイルス粒子、リガンドおよび補助剤の濃度も、適当に選択する。
【0034】
本発明の具体的態様は、本発明の組成物を、放射線治療および/または化学療法と共に使用するために提供される。
本発明は、特定のウイルスベクターに、またはリガンド−ウイルスベクター混合組成物の投与の特定の経路または形態に限定されない。所望の総量は実験的に決定でき、1回または複数回投与で、遺伝子治療を必要とする患者に提供できる。
【0035】
実施例に示すデータは、Tf−アデノウイルス複合体が、腫瘍における、非標的化アデノウイルスベクターで見られるよりも著しく高いレベルの遺伝子発現の産生ができることを示す。本明細書で記載の遺伝子送達法は、Tf標的化ウイルスを作るための相対的に単純な方法に基づく。結合は非共有結合的であり、MAb、リンカー、ポリリジン等を使用して、Tfをウイルスベクターに結合するのに使用されていた先に使用の方法に関連して記載されている望ましくなく、恐らく毒性である副産物を作ることができる化学反応を含まず、過酷な化学的接合および複雑な加工段階を避ける。ウイルスのこれらの化学的修飾は、ウイルスの感染性を確実に低下させ、腫瘍毛細管に浸透するには恐らく大きすぎる凝集体を産生し得る。腫瘍内注射された、腫瘍細胞崩壊性ウイルスを含むウイルス遺伝子治療ベクターは治験中であるが、共有結合的修飾なしの標的化ウイルスで現在臨床研究下のものはない。
【0036】
一つの薬剤p53遺伝子治療が長期間腫瘍を完全に除去するのに十分でないということは明らかになってきているが、Tf標的化アデノウイルスと慣用の放射線/化学療法の現在記載の組合わせは、生育阻害だけでなく、腫瘍退行を達成することができ、相乗作用を証明する。
【0037】
本明細書に記載のインビボ研究は、全身性Tf−Adp53遺伝子治療と、慣用の放射線治療および/または化学療法の組合わせが、いずれかの処置単独よりも明らかにより有効であることを証明する。臨床的設定において、明白な腫瘍には65から75Gyの、微細な疾患には45から50Gyの放射線用量が頭頸部癌の処置に一般に用いられる。高用量の放射線または化学療法剤に付随する既知の有害な副作用を仮定すれば、低投与量の慣用の処置を可能にするための腫瘍の増感は、大きな臨床的利点である。さらに、放射線の場合、wtp53機能の全身性回復が、有効であると判明する放射線処置用量の減少をもたらし、再発した腫瘍の更なる治療的介入を可能にする。
【0038】
化学療法および放射線に対する腫瘍の増感は、現在の治療モダリティーの効果の増加をもたらす。更に、その可能性は、この慣用の抗癌モダリティーの両方のタイプの必要な用量を減少し、それによりこれらの処置にしばしば関連するひどい副作用を減らすための腫瘍特異的組合わせ処置に存在する。実施例に記載のインビボ実験において、放射線と組合わせたTf−Adp53の全身性投与は、完全なそして長期間の腫瘍退行を、腫瘍ターゲティングウイルスの3×10pfuほど少ない用量を使用してもたらした。この投与量は、Kataoka et al. (1998)により、非標的化Adp53と2−Meを使用して用いられたものと同様であった。本実験において、部分的腫瘍生育阻害(肺コロニー計数の3分の2減少)が観察された。
【0039】
このシステムは遺伝子治療ベクターの腫瘍内注射の必要性を除き得るが、非常に攻撃的な癌の場合、また全身性および腫瘍内処置の両方を使用することが有益でもあり得る。このシステムはまた他のウイルス性癌処置の送達を助けるためにも適合し得る。例えば、爪の腫瘍細胞崩壊性ウイルスの現在の試験は全身性送達をサポートしていない。ONYX−015は、wtp53腫瘍抑制活性を欠く腫瘍細胞(“p53−欠失”細胞)中で効率的に複製し、殺し、正常細胞ではしない遺伝子的に修飾されたアデノウイルスである。このウイルスの特異的修飾は、正常細胞中で効率的に複製することを防止する。ONYX−015での臨床実験は、現在、頭頸部癌、膵臓癌および卵巣癌のため進行中である(Heise et al., 1997; Hall et al., 1998; Linke, 1998; Krin et al., 1998)。ウイルスが腫瘍を標的とする我々の能力は、ONYX−015のような他のウイルスをベースにした癌処置の効率を有意に改善し得る。
【0040】
最も顕著には、全身性投与は、一次腫瘍および離れた転移癌に治療的遺伝子が到達できることを意味する。これは、腫瘍内注射で達成されるものと、明確に対照をなす。本明細書に記載の方法は、現存する組換えウイルスをターゲティングするために適合できる。送達する遺伝子にも無関係である。加えて、このシステムは、上記のように、腫瘍細胞崩壊性ウイルスでも使用できる。ターゲティングのためのTfの使用は、広範囲のスペクトルの癌が上昇したレベルのTfRを発現し、50%を超える癌で、p53遺伝子が関与するため、ヒト癌のp53遺伝子治療に関連して特に魅力的である。したがって、これらの発見は、このTf標的化アデノウイルス送達システムの、この疾病に対する戦いにおいて、遺伝子治療の最初の約束を果たすことを助ける、新規な、より優れたそして有効な形の癌の遺伝子治療としての臨床的な可能性を証明する。
【0041】
具体的に、本発明の説明的態様を以下の実施例に提供する。
【実施例】
【0042】
実施例1
トランスフェリン促進アデノウイルス形質導入効率
A.トランスフェリン−アデノウイルス混合物の調製
ホロ−トランスフェリン(Tf、鉄飽和、Sigma)を滅菌水に5mg/mLで溶解した。E. coli LacZ遺伝子をCMVプロモーターの制御下に含む、Ad5LacZと命名した、非増殖性(replication deficient)アデノウイルス抗原型5(AdcCMVntbeta-gal, Gene Transfer Vector Core, Unicersity of Iowa)を、PBS+3%スクロース中、1.1×1012粒子(pt)/mL(5.5×10プラーク形成単位、pfu/mL)の濃度で、本研究に使用した。Tfを最初に0.5mg/mLに10mM HEPES緩衝液、pH7.4で希釈し、次いでTfを50μL HEPES緩衝液に、10倍連続希釈で添加した。Ad5LacZを次いで試験管に添加し、Tf対ウイルス比率を1×10から1×10Tf分子/ビリオンまでの範囲とした。試験管を室温で揺すりながら(試験管を2分毎に一度回転させる)10−15分インキュベートし、次いで血清なしの150μL EMEMを各試験管に添加した。
【0043】
B.アデノウイルス/Tf混合物を使用したインビトロ形質導入
我々は、AdLacZ(E. coli LacZ遺伝子をCMVプロモーターの制御下に含む)と名付けた非増殖性アデノウイルス抗原型5、およびそのウイルスのTf−修飾形(Tf−AdLacZ)を使用した。Tf−AdLacZがレポーター遺伝子を送達する能力を最適化するために、頭頸部のヒト扁平上皮細胞癌腫(SCCHN)由来の細胞系JSQ−3(Weichselbaum et al., 1988)の培養を、異なる比率のTf対ウイルスおよびウイルス粒子対細胞を使用して産生したAdLacZまたはTf−AdLacZで感染させた。
【0044】
5×10 JSQ−3細胞/ウェルを24ウェルプレートで培養した。24時間後、細胞を一度血清なしのEMEMで洗浄し、0.3mLの血清なしのEMEMまたは抗生物質を各ウェルに添加した。200μL EMEM中のトランスフェリン対ウイルスの異なる比率のAd5LacZまたはTf−Ad5LacZ複合体をウェルにデュプリケートで添加した。ウイルス対細胞比率は20から2000ウイルス粒子/細胞(pt/細胞)までであった。4時間、37℃で5%CO中で時々揺すりながらインキュベーションした後、0.5mLの20%血清含有EMEMをウェルに添加した。2日の培養後、細胞を一度PBSで洗浄し、1×レポーター融解緩衝液(Promega)に融解した。細胞融解物を1mM MgClおよび450μM β−メルカプトエタノール含有20mM トリス(pH7.5)中、100μLの150μM O−ニトロフェニル−β−ガラクトピラノシドで37℃で30分処理した。反応を150μL/ウェルの1M NaCOの添加により停止させた。吸光度405nmで測定した。精製β−ガラクトシダーゼ(Boehringer)を使用して標準曲線を作成した。結果は、全タンパク質のmg当たりのβ−ガラクトシダーゼ等量のミリ単位(mU)として示した。
【0045】
C.組織化学的染色
Tf−Ad5LacZ形質導入の組織化学的研究のために、24ウェルプレート中の60%コンフルエント細胞を、5時間上記のトランスフェクション溶液でトランスフェクトした。更に2日の培養後、細胞を固定し、X−gal(Xu et al., 1997)で染色した。トランスフェクション効率を青色染色細胞の割合として計算した。
【0046】
D.結果および考察
Tf対ウイルスまたはウイルス対細胞の一定の比率で、Tf−AdLacZでの発現は、非標的化AdLacZで見られるよりも3倍から4倍の間高かった(図1参照)。500pt/細胞または2.5MOI(感染効率、またはpfu/ウェル)、レポーター遺伝子産物のβ−ガラクトシダーゼの10mU/mgタンパク質が、AdLavZ単独で発現された。トランスフェリン−ウイルス混合物Tf−Ad5LacZ(500Tf分子/pt)での形質導入は、レポーター遺伝子発現の25mU/mgタンパク質を産生し、Tf−Ad5LacZ(5,000Tf分子/pt)は30mU/mg発現を産生し、そしてTf−Ad5LacZ(50,000Tf分子/pt)は38.8mU/mg発現を産生し、これはAd5LacZ単独よりも各々2.5倍、3倍および3.8倍より遺伝子導入が達成されたことを示す。1,000pt/細胞または5MOIで、Ad5LaZ単独よりも、Tf−Ad5LacZ(500Tf分子/pt)は2.4倍多いレポーター遺伝子発現を、Tf−Ad5LacZ(5000Tf分子/pt)は3.3倍多い遺伝子発現を提供した。Tf−Ad5LacZ(50,000Tf分子/pt)は、見かけ上の飽和である、2.6倍多い発現をした。したがって、Tf−Ad5LacZ複合体の最適比は、約500−50,000Tf分子/pt、好ましくは約5000Tf分子/ptであるように見える。ウイルス粒子の表面をコートするのに使用する大量のトランスフェリン分子は、血流を移動するとき、その安定性を増加させると考えられる。ビリオン表面上の大量のトランスフェリン粒子は、またウイルスの免疫原性のウイルス抗原曝露の遮断による減少のために働き得る。
【0047】
組織化学的染色は、Ad5LacZ単独が20−30%形質導入効率を与えるが、トランスフェリン複合アデノウイルスTf−Ad5LacZ(5000Tf分子/pt)は、70−90%効率を与えることが示された。
上記結果は、アデノウイルス−トランスフェリン混合物がアデノウイルス遺伝子形質導入を実質的に促進できることを証明する。
【0048】
実施例2
ヌードマウスJSQ−3異種移植片モデルにおけるトランスフェリン標的化全身性アデノウイルス遺伝子送達
A.トランスフェリン−アデノウイルス複合体の製造
トランスフェリン−Ad5LacZ複合体を、実施例1に記載の製造に使用したものと類似の方法で製造した。1×10−1×1010pt Ad5LacZ(PBS+3%スクロース中1×1012pt/mL)を異なる量のTf(水中4から5mg/mL)と、1μgから1mg Tf/1×1010pt、または7.5×10−7.5×10Tf分子/ビリオンの範囲で混合した。混合物を室温で5−10分揺すりながら(2分に1回の試験管の回転)インキュベートし、Tf−Ad5LacZ複合体を形成させた。PBS(pH7.4)を各試験管に添加し、1×10−1×1010pt/0.2−0.3mL/マウス注射に希釈した。
【0049】
二つのタイプのヒト腫瘍を、上記培養実験で使用したSCCHN細胞系(JSQ−3)またはヒト前立腺癌細胞系DU145(Isaacs et al., 1991; Asgari et al., 1997)のいずれかの皮下注射によりヌードマウスに異種移植片として確立させた。ヌードマウス腫瘍モデルを、4−6週齢雌ヌードマウスの脇腹にJSQ−3細胞またはDU145細胞を皮下注射することにより確立させた(Xu et al., 1997)。腫瘍を1−2cm3のサイズまで生育させた。1×10−1×1010pt Ad5LacZ複合体と異なる量の200−300μLのTfを各マウスに、1ccシリンジで30G針で尾静脈から注射した。コントロールグループにおいて、Ad5LacZを注射した。注射3日後、腫瘍ならびにマウス組織を摘出し、1mm切片に切断し、PBSで1回洗浄し、2%ホルムアルデヒド/0.2%グルタールアルデヒドで4時間室温で固定した。固定した腫瘍切片を4回、各1時間洗浄し、X−Gal溶液+0.1%NP−40(pH8.5)で一晩37℃で染色した。染色した腫瘍切片を、通常の組織学的方法を使用して包埋させて薄片化にし、nuclear fast redで対比染色した。腫瘍当たり4個の切片を試験し、青色染色細胞で示される、β−ガラクトシダーゼ遺伝子発現を評価した。
【0050】
他の腫瘍切片を定量的β−ガラクトシダーゼアッセイのために使用した。組織を均質化し、1×レポーター融解緩衝液(Promega)に融解した。融解物を96ウェルプレートに添加し、定量的β−ガラクトシダーゼアッセイを実施例1に記載のように行った。ある実験においては、定量的β−ガラクトシダーゼアッセイをまたLuminescent β-galactosidase Detection Kit II(Clontech)を使用して行った。
【0051】
B.結果および考察
全身性、標的化ウイルス遺伝子送達を試験するために、ウイルスベクターを十分確立された固体腫瘍モデルにi.v.注射した。二つの固体腫瘍異種移植片モデルを使用して、標的化ウイルス遺伝子送達システムを試験した。1×1010ptのAd5LacZを、単独または異なる量のTfと複合体で、JSQ−3およびDU145細胞の1−2cm3のサイズのヒト腫瘍異種移植片を担持するヌードマウスにi.v.注射した。3日後、Tf−Ad5LacZを注射した腫瘍は、Ad5LacZ単独(<1%)と比較して、増加したX−Gal染色青色を示した。効果は、増加したTf/pt比の結果、5%から35%まで(0.01mg−0.6mg/10pt)に増加した。効果は、Tf/pt比>0.6−1mg/1010pt(約4.5から6×10Tf分子/ビリオン)で減少し始めた。これは図2A、2Cおよび2Eに示し、それらではβ−ガラクトシダーゼ発現細胞(X−gal染色により示される)の割合が2.9×10Tf/ビリオンから5.8×10Tf/ビリオンにTf−分子/ビリオン比を増加させるにつれて、実際に減少する(図2Cおよび2E)。更に、1.5×10Tf/ビリオンで、β−ガラクトシダーゼ発現は肝臓、および脾臓および肺を含む他の臓器で明らかでないが(図2B)、肝臓での少ないが、明らかに検出可能なβ−ガラクトシダーゼ発現が2.9×10Tf分子/ビリオンであった(図2D)。対照的に、高い比率のTf/ビリオンで作ったTf−Ad5LacZの注射は、顕著な肝臓染色をもたらした(図2F)。したがって、これらの発見に基づいて、顕著な腫瘍トランスフェクション効率を示すが、腫瘍特異性の最高の程度を維持する1.5×10Tf分子/ビリオンの比率が、本実験に最適であると決定した。最適条件は、JSQ−3で約0.01−0.2mg/1010pt(7.5×10−1.5×10Tf分子/ビリオン)、およびDU145で約0.03−0.5mg/1010ptであると考えられた。したがって、Tf/pt比率は、異なる腫瘍モデルでインビボで最適化できた。インビトロ最適Tf/pt比率は、より多くのトランスフェリンがターゲティングを改善するためのウイルスの安定化にインビボで必要であり得るように、インビボよりも小さいことは注意すべきである。0.2mg Tf/1010pt(1.5×10Tf分子/ビリオン)比率を、続くJSQ−3腫瘍のインビボ遺伝子治療実験に使用した。
【0052】
定量的β−ガラクトシダーゼアッセイも、トランスフェリン標的化アデノウイルスをi.v.注射されたマウスの腫瘍における遺伝子の発現の、アデノウイルス単独と比較した実質的増加を確認した。
【0053】
ウイルスの標的化臓器送達は、またTf−Ad5LacZ複合体をi.v.注射したマウスの肝臓でも観察されたが、肝臓送達は異なる好ましいTf/pt比率を有し、例えば、0.5mg−1.3mgTf/1010pt(3.75×10−9.75×10Tf分子/ビリオン)である。Ad5LacZ単独をi.v.注射したマウスにおいて、限られた数のみの肝臓細胞が青色に染色されていたが(<1−5%)、Tf+Ad5LacZをi.v.注射したマウスは、増加した青色肝臓細胞を示した(10%−40%)。腫瘍標的化および肝臓標的化の間の好ましいTf/pt比率の差は、本発明の全身性ウイルス送達システムが、異なる標的に選択的であるように最適化できることを説明する。
【0054】
実施例3
DU145異種移植片ヌードマウスモデルにおけるインビボのp53のトランスフェリン標的化アデノウイルス介在遺伝子送達およびタンパク質発現
トランスフェリン標的化アデノウイルスベクターがp53遺伝子を腫瘍細胞に選択的に送達する能力を試験した。正常ヒトp53遺伝子を担持する非増殖性アデノウイルス抗原型5を本実験に使用した。Adp53と名付けたこのウイルスをTf−Adp53の製造に使用した。Tf−Adp53を、ホロ−トランスフェリンとAdp53の10mM HEPES、pH7.4中で1.5×10Tf分子/ビリオンの比率での混合により、製造した。10分、4℃でインキュベーション後、リン酸緩衝化食塩水(PBS)、pH7.4を添加して最終容量300μL/マウスとし、5%デキストロースの最終濃度にした。皮下DU145腫瘍担持ヌードマウスへのこれらのウイルスのi.v.注射3日後、マウスを殺し、腫瘍および臓器を摘出し、p53タンパク質発現のウェスタンブロット分析を行った(図3)。この実験に使用した抗体は、ヒトp53の正常および変異形の両方と反応し、マウスp53と交差反応する。p53バンドはウイルス性に形質導入された野生型p53が、DU145細胞において見られるp53の変異形の上に、ゲル中で移動することを示す。これは、図3の左の二つのレーンで見られ、DU145細胞を、Adp53との培養で感染させたDU145細胞と比較する。ウイルス性にコードしたwtp53を示す上部のバンドは、DU145細胞がインビトロでAdp53に感染することを明らかにした。第1レーン(DU145+Adp53)は、2.5μgのタンパク質しか含まず、他方、図3の他の全てのレーンは100μgの総タンパク質を含むことは注意すべきである。
【0055】
標的化Adp53(即ち、Tf−Adp53)を投与されたマウスからの腫瘍のウェスタンブロット分析は、一つの大きなバンドのように見えるように合わさった上部バンド(外来生p53)および下部バンド(内因性DU145 p53)を確認する。Tf−Adp53を投与されたマウスの腫瘍において、非標的化Adp53で処理したマウスからの腫瘍よりも、有意に多くの外来生p53があることは明白である。標的化Tf−Adp53で処理したマウスからの肝臓および他の主用臓器は、wtp53を僅かに示すか、示さない。対照的に、非標的化Adp53での処理は、肝臓における高いレベルの外来生p53をもたらした。予測されるように、非処理マウスの腫瘍は内因性DU145 p53しか含まず、これらの動物からの臓器は内因性マウスp53しか含まなかった。これらの結果は、更に、非標的化Adp53でなくTf−Adp53が、腫瘍をインビボで選択的に標的とでき、p53がi.v.投与に続いて腫瘍組織内で効率的に発現させることを確認する。
【0056】
実施例4
SCCHN異種移植片ヌードマウスモデルにおける、放射線処置と組合わせたインビボトランスフェリン標的化全身性アデノウイルス介在遺伝子送達
遺伝子治療における標的化アデノウイルス送達システムの有用性の最終的な試験は、全身性に投与したときの腫瘍の処置におけるその効果である。機能的p53の損失が、放射線−耐性表現型に寄与し得ることは確立されている(Bristow et al., 1996)。我々は、先に、wtp53と慣用の放射線処置の組合わせが、確立された異種移植片を長期間にわたり除去することを証明した(Xu et al., 1999; Pirollo et al., 1997)。この実験の結果は、Tf−Adp53がヒト腫瘍細胞の異種移植片を放射線治療に対して増感する能力を示す。
【0057】
異種移植片を、4−6週齢雌無胸腺ヌード(Ncr nu-nu)マウスに、各動物の尾の上の背中の下の方への4×10 JSQ−3細胞(コラーゲンマトリックスであるMatrigel(登録商標)中)の皮下注射により誘導させた。JSQ−3細胞系は再発性SCCHN由来であり、非常に放射線耐性であることが既知である。腫瘍を100−200mm3のサイズまで発育させた。標的化Ad−p53と名付けた標的化アデノウイルスを、実施例1のように、トランスフェリンと、wtp53をコードするDNAを担持するアデノウイルスの混合により製造した。アデノウイルス粒子(pt)/プラーク形成単位(pfu)を、この実験のために計算した。動物を4つのグループに分けた:(i)非処理(−)照射;(ii)非標的化Ad−p53(+)照射;(iii)標的化Ad−p53(−)照射;(iv)標的化Ad−p53(+)照射。1×1010pt/マウス/注射(約3×10pfuと等量)の標的化(Tfリガンドとウイルスの混合物を注射)または非標的化(リガンドなし)Ad−p53を、マウス(グループii、iiiおよびiv)に、尾静脈から、3から4日毎に注射した。合計6回の注射を行った。最初のi.v.注射後、動物(グループiiおよびivの)を、腫瘍領域のみへの照射を可能にするリードホルダーに固定し、2.0Gyの137Cs電離放射線の最初の分割用量を、J.L. Shepard and Associates Mark I照射器を使用して投与した。その後、動物は2.0Gy/日を5日連続で投与され、続く2日は照射処置なしであった。このサイクルを、合計30Gyが投与されるまで続けた。腫瘍サイズを、毎週、盲験法(blinded manner)で測定した。
【0058】
非処置動物および放射線なしで標的化Ad−p53を投与された動物は、52日までに腫瘍による苦痛のために殺した(図4参照)。非標的化Ad−p53+放射線での処置は、一連の処置の間、腫瘍生育を遅らせた。しかし、処置を止めると、これらの動物の腫瘍は大きくなり始め、121日までにまた腫瘍による苦痛のために殺すようなサイズとなった。対照的に、Tf標的化Ad−p53を放射線と組合わせて投与された動物の腫瘍は、処置の間または処置を停止した後でさえ、完全に退行し処置後8ヶ月以上、これらの動物における腫瘍の再発はなかった。
【0059】
これらの結果と図3を一緒にして、Tf標的化アデノウイルスの全身性投与は、wt−p53を選択的に腫瘍に送達でき、慣用の放射線治療におけるその増感をもたらす。最も重要なことに、Tf−Adp53+放射線の組合わせ処置は、長期間の腫瘍の根絶をもたらす。近年、Kataoka et al., (1998)は、A549細胞を使用したマウスモデルにおける2−メトキシエストラジオール(2−Me)と、非標的化Adp53の全身性送達の組合わせが、転移肺腫瘍生育を部分的に阻害することを報告している。この組合わせ処置は、肺コロニー数の3分の2の減少をもたらす。確かに将来有望であるが、この処置後に残っている腫瘍細胞は、最も確実に生育し、最終的に動物を殺す。対照的に、我々の結果は、Tf標的化Adp53が、明らかに完全な、長期(現在8ヶ月までの)皮下SCCHN腫瘍の抑制をする。
【0060】
実施例5
放射線処置と組合わせた、SCCHN異種移植片ヌードマウスモデルにおけるインビボトランスフェリン標的化全身性アデノウイルス−介在遺伝子送達
JSQ−3異種移植片を、実施例4のようにNCr nu nuマウスに誘導させた。腫瘍を50−60mm3に発育させた。ヒトwtp53をコードするDNAあり(標的化Ad−p53)またはなし(標的化Ad)の標的化アデノウイルスを、トランスフェリンとアデノウイルスを実施例1に記載のように混合して製造した。アデノウイルス粒子(pt)/プラーク形成単位(pfu)を計算した。動物を5つのグループに分けた:(i)非処置(−)照射;(ii)非標的化Ad−p53(+)照射;(iii)標的化Ad(+)照射;(iv)標的化Ad−p53(−)照射;(v)標的化Ad−p53(+)照射。マウスに尾静脈から3から4日毎に3×10pt/マウス/注射をした。合計5回の注射をした。最初のi.v.注射3日後、動物を、腫瘍領域のみへの照射を可能にするリードホルダーに固定し、2.0Gyの137Cs電離放射線の最初の分割用量を、J.L. Shepard and Associates Mark I照射器を使用して投与した。その後、動物は2.0Gy/日を5日連続で投与され、続いて2日照射処置なしであった。このサイクルを、合計26Gyが投与されるまで続けた。腫瘍サイズを、毎週、盲験法で測定した。実施例4のように、非処置動物の腫瘍および照射なしで標的化Ad−p53を投与された動物の腫瘍は、50日までに動物を腫瘍による苦痛のために殺すほどの連続生育を証明した。照射およびwtp53なしの標的化Adで処置したグループにおける腫瘍は、処置中は、腫瘍のある最小の照射阻害を証明したが、処置を終了すると、腫瘍は容量が増加した。同様であるが、より劇的な再生育が、標的化Ad−p−53を投与されたが、照射なしの動物のグループで処置後に起こった。これは、標的化Ad−p53を照射と組合わせて受けたマウスと鋭い対比である。実施例4で観察されるように、これらの動物で続く腫瘍退行は、全ての処置の終了後8ヶ月まで続いた。マウスの寿命における8ヶ月は、人間の寿命の30年に相当する。
【0061】
実施例6
トランスフェリン標的化レトロウイルス遺伝子形質導入
レトロウイルスベクターは、治験において最も広範囲に使用されている遺伝子治療ベクターの一つである。アデノウイルスベクターと同様に、レトロウイルスベクターは欠しい特異性および有意な免疫原性を示す。
【0062】
E. coli LacZ遺伝子、RvLavZ(A Lac Z, Gene Transfer Vector Gore, University of Iowa)を含む非増殖性レトロウイルスを、3×10形質転換単位(TU)/mLを含む1×1010粒子(pt)/mLで本実験に使用した。トランスフェリンとTf−RvLavZ複合体を、実施例1の記載と同様に製造した。簡単に、Tfを0.5mg/mLに10mM HEPES緩衝液、pH7.4中で希釈し、異なる量のTfを50μL HEPES緩衝液に連続希釈で添加した。RvLacZを次いで試験管に添加し、Tf対ウイルス比が1×10から1×10Tf分子/ビリオンまでの範囲となるようにした。試験管を室温で10−15分、2分に1回揺すりながらインキュベートし、次いで血清なしの150μL EMEMを各試験管に添加した。インビトロレトロウイルス形質導入を、実施例1に記載のように行った。ウイルス対細胞比は100から2000ウイルスpt/細胞であった。
【0063】
500pt/細胞または1.5MOI(またはTU/細胞)のウイルス用量で、3.4mU/mgタンパク質のβ−ガラクトシダーゼがレトロウイルスRvLacZ単独で発現された。トランスフェリン−複合体化ウイルスでは、Tf−RvLacZ(500Tf分子/pt)の投与は6.8mU/タンパク質のβ−ガラクトシダーゼ発現をもたらし、一方Tf−RvLacZ(5000Tf分子/pt)の投与は9mU/mgの発現をもたらし、これはRvLacZ単独の投与により産生されるよりも2倍および3倍高い遺伝子形質導入を示す。遺伝子形質導入は50000Tf分子/ptでプラトーに達する。1000pt/細胞または3MOIの投与量で、Tf−RvLacZ(5000Tf分子/pt)はRvLacZ単独よりも2.1倍のより多いレポーター遺伝子発現を産生し、Tf−RvLacZ(50000Tf分子/pt)は3倍のより多いレポーター遺伝子発現を産生した。組織化学的染色は、RvLacZ単独が20−30%形質導入効率であり、一方トランスフェリン−複合化レトロウイルスTf−RvLacZ(5000Tf分子/pt)は60−80%形質導入効率であることを示した。この結果は、トランスフェリンとレトロウイルスの混合物が実質的にレトロウイルス遺伝子形質導入を促進できることを証明する。
【0064】
実施例7
化学療法と組合わせた、同系マウスモデルにおけるインビボトランスフェリン標的化全身性アデノウイルス−介在遺伝子送達
免疫コンピテント動物モデルにおけるリガンド標的化、ウイルスp53送達システムが腫瘍細胞を化学療法に対して増感させる能力を試験した。これらの実験のために選択したモデルは、B16マウスメラノーマ肺転移癌モデルであった。複数の実験において、B16細胞を、尾静脈から、免疫−コンピテントC57/BL/6マウスに注射した。このモデルにおいて、肺の腫瘍コロニーは、腫瘍細胞によるメラニンの発現のために2−3週間で容易に目に見える。B16細胞注射4日後、Adp53、Tf−Adp53および/またはシスプラチン(CDDP)の組合わせの処置を開始した。1×1010ウイルスpt/マウス/注射(3×10pfuと同等)を、1.5×10Tf分子/ビリオンの比率で、全身性にi.v.尾静脈注射により、1週間に3回、合計12−13ウイルス処置まで投与した。腹腔内CDDP(3−5mg/kg)を2−4日毎に投与し、合計8−13投与量のCDDPを投与した。全ての処置1日後(B16細胞の最初の注射の5週間後)、肺を動物から摘出し、10%ホルムアルデヒドで潅流した。
【0065】
図5A−Hに示されるように、二つの別々の実験で、組合わせ処置を受けた動物から得た肺と、他のグループから得たものでは、劇的な差がある。CDDP単独およびTf−Adp53単独は、非処置動物からの肺と比較したときにある効果が証明されるが、顕著な数の腫瘍コロニーがまだ明白である。同様に、コントロールウイルスTf−AdLacZ+CDDPで処置した動物の肺は、医薬の効果のみであることが明白である。より著しくは、非標的化Adp53をCDDpとともに投与された動物はまた複数の大腫瘍コロニーが存在し、全身性に送達された非処置Adp53の極小の作用を示す。しかし、対照的に、トランスフェリン標的化アデノウイルスp53(Tf−Adp53)をCDDPと組合わせて投与された動物からの肺は、明白な腫瘍転移は目では見えない。これらの発見は、全身性に送達されたTf標的化、Adp53が、腫瘍細胞を、慣用の放射線療法に加えて慣用の化学療法に増感できることを証明する。更に、Tf−Adp53はまた先に使用したヌードマウスモデルに加えて、同系マウスモデルでも有効に機能できる。
【0066】
我々の全ての実験で用いるTf分子はヒトTfである。ある種からのTfRは、一定範囲の他の種からのTfに結合できることが知られている(Aisen, 1998)。それにもかかわらず、我々は、最初に、ヌードマウスにおいてヒト腫瘍において見られる選択性は、我々が使用した、宿主の正常組織においてマウスTfRに優先して腫瘍TfRにより認識されるヒトTfに起因すると考えた。C57/BL/6マウスで生育しているB16マウスメラノーマ細胞を含む全身性モデルシステムは、この点を再保証する。このモデルにおいて、腫瘍におけるTfRおよび正常組織におけるTfRは両方ともマウスTfRである。それでもなお、我々は、ヒトTfと複合体化したアデノウイルスが、上昇したレベルのマウスTfRを有する腫瘍に帰ることを証明できた。この発見は、上記のヌードマウスモデルにおいてヒト異種移植片にターゲティングをもたらすのは、種関連現象よりもむしろTfR発現のレベルであることを示し、我々がヒトにおけるヒト腫瘍生育の処置の最終的な目的を達成できる可能性を後押しする。
【0067】
実施例8
トランスフェリン標的化単純ヘルペスウイルス形質導入
単純ヘルペスウイルス(HSV)は、複製コンピテントウイルスベクターであり、遺伝子治療で、特に、中枢神経系で広く使用されている(Walker, 1999)。アデノウイルスまたはレトロウイルスベクターと同様に、HSVは欠しい全身性および明白な免疫原性を示す。
【0068】
複製コンピテントウイルスベクター、G207を標的化するためのトランスフェリンターゲティングストラテギーを使用する可能性を研究するために、レポーター遺伝子LacZを伴うHSV(Walker, 1999)をヒトトランスフェリンと複合体化した。実施例1に記載のようなTf−AdLacZと同様な方法で、G207(1.1×10pfu/mL, Nwuro Vir, Inc., PBS中)をホロ−トランスフェリン(Sigma, 5mg/mL水溶液)と、異なる比率で混合した。実験の一つのセットにおいて、HSVを、Tfと混合する前に37℃で10分インキュベートすることにより熱処理した。熱処理は、HSVを不活性化できるとの報告がある。
【0069】
形質導入実験において、8×10 JSQ−3細胞/ウェルを24ウェルプレートに培養した。24時間後、細胞を1回、血清なしのEMEMで洗浄し、次いで0.3mLの血清なしのEMEMまたは抗生物質を各ウェルに添加した。200μL EMEM中の異なる比率のトランスフェリン対ウイルスのHSVまたはTf−HSV複合体を各ウェルに、MOI=1で添加した。4時間、37℃、5%CO2で、試験管を2分毎に回転させることにより混合しながらインキュベーションした後、0.5mLの20%血清添加EMEMを各ウェルに添加した。培養2日後、細胞を1回PBSで洗浄し、1×レポーター融解緩衝液(Promega)に融解した。細胞融解物を100μLの、1mM MgCl2および450mM β−メルカプトエタノール含有20mMトリス(pH7.5)中の150μM O−ニトロフェニル−β−ガラクトピラノシドで、37℃で30分処理した。反応を150μL/ウェルの1M Na2CO3の添加により停止させた。吸光度を405nmで測定した。精製β−ガラクトシダーゼ(Boehringer)を使用して標準曲線を作った。結果を、β−ガラクトシダーゼ等量/総タンパク質mgのミリ単位(mU)で示した。結果を表1に示す。
【0070】
表1
トランスフェリンはHSV形質導入効率を促進する
【表1】

*β−ガラクトシダーゼ活性、mU/mgタンパク質
【0071】
トランスフェリンは、複製コンピテントウイルスベクターであるHSVの形質導入効率を促進する。HSVを熱不活性化したとき、Tfとの複合体化はまだ促進された形質導入効率を示した。50000のTf/ビリオン比率およびMOI=1で、TfHSVはTfターゲティングなしのHSVよりも2倍以上大きいレポーター遺伝子発現をした。結果は、トランスフェリンターゲティングストラテギーが、HSVのような複製コンピテントウイルスベクターで使用できることを証明する。
【0072】
実施例9
化学療法剤ドセタキセル(タキソテール)と組合わせたMDA−MB−435異種移植片ヌードマウスモデルにおけるインビボトランスフェリン標的化全身性アデノウイルス介在遺伝子送達
この標的化アデノウイルス送達システムの有用性を更に証明するために、第2の腫瘍モデルであるヒト乳癌由来細胞系MDA−MB−435を使用した。更に、化学療法がしばしば選り抜きの乳癌の処置であるため、この実験は、本発明の送達システムが、確立されたヒト乳癌異種移植片の慣用的に使用されている化学療法剤ドセタキセル(タキソテール)に対する増感をする能力を試験した。異種移植片を4−6週齢雌無胸腺ヌード(NCr nu-nu)マウスに、2.5×10 MDA−MB−435細胞を各動物の乳房脂肪パッドに皮下注射することにより誘導させた。腫瘍を40−50mm3のサイズに発育させた。Tf−Adp53と名付けた標的化アデノウイルスを、実施例1に記載のように、トランスフェリンと、wtp53をコードするDNAを担持するアデノウイルスの混合により製造した。動物を5つのグループに分けた:(i)非処置(−)タキソテール;(ii)タキソテール単独;(iii)非標的化Adp53(+)タキソテール;(iv)標的化Ad−p53(−)タキソテール;(v)標的化Adp53(+)タキソテール。マウスに、3から4日毎に、標的化(Tfリガンドとウイルスの混合物を注射した)または非標的化(リガンドなし)Adp53を、5×1010pt/マウス/注射で、尾静脈から、i.v.注射した。合計12回の注射をした。最初の静脈注射の翌日、薬剤処置を開始した。動物は、タキソテールを7.5mg/kg、3から4日毎にi.v.投与され、合計11回注射した。腫瘍サイズを毎週盲験法で、合計6−8腫瘍/グループで測定した。腫瘍容量の平均サイズ/グループ(mm3)±標準誤差対時間(日)をプロットした(図6)。Tf−Adp53単独での処置は効果がなかったが、タキソテール単独または非標的化Adp53+タキソテールでの処置はある生育阻害を誘導し、薬の効果を示す。しかし、より劇的なレベルの生育阻害が、Tf標的化Ad−p53をタキソテールと組み合わせて投与された動物の腫瘍から観察された。これらの発見は、組合わせ処置の相乗作用を示し、本発明のトランスフェリン標的化Adp53複合体が多くのヒト腫瘍モデルで有効なだけでなく、腫瘍の化学療法剤への増感に使用できることを証明する。
【0073】
実施例10
DU145異種移植片ヌードマウスモデルにおけるインビボトランスフェリン標的化アデノウイルス介在遺伝子発現
前立腺癌由来細胞系DU145は、腫瘍内注射における改善された発現を証明する。LacZ遺伝子を担持する非増殖性アデノウイルス抗原型5を本実験に使用した。無胸腺ヌード(nu/nu)マウスに、皮下的にMatrigel(登録商標)を使用して注射し腫瘍を作らせた。Tf−Ad−LacZを実施例1のように製造した。Tf/ptの比率は、実施例2に記載のように0.1−0.2mg/1010ptであった。マウスは二つの腫瘍を有したが、一つのみに注射した。
【0074】
3×1010粒子/腫瘍の腫瘍内注射24時間後、腫瘍を摘出し、切片に切り、液体窒素中で急速凍結させ、Bessamin組織粉砕機で粉砕した。β−ガラクトシダーゼ酵素活性を、Tropix, Inc.のGlacto-Star(登録商標)化学ルミネッセントβ−ガラクトシダーゼアッセイシステムを使用して、製造者のプロトコールにしたがって測定した。結果を図7に示す。Tf−Ad−LacZは、Ad−LacZと比較して、β−ガラクトシダーゼ発現の3.4倍より大きい増加をもたらした。結果は、トランスフェリンターゲティングストラテギーが腫瘍内注射における発現の増加に使用できることを証明する。
【0075】
本発明は、本明細書中で、本発明の好ましい態様の詳細を引用して記載しているが、この記載は、本発明の精神および特許請求の範囲の範囲内で、修飾が当業者には容易になされるということが考えられるため、限定的意図よりむしろ説明的であることを意図することは理解されるべきである。
【0076】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスに非共有結合的に結合している細胞ターゲティングリガンドを含む、宿主動物内の標的細胞にウイルスを送達するためのベクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−213726(P2010−213726A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155986(P2010−155986)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【分割の表示】特願2000−582581(P2000−582581)の分割
【原出願日】平成11年11月19日(1999.11.19)
【出願人】(594140915)ジョージタウン・ユニバーシティ (11)
【氏名又は名称原語表記】GEORGETOWN UNIVERSITY
【出願人】(501201720)シナージーン・セラピューティックス・インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】SynerGene Therapeutics, Inc.
【Fターム(参考)】