説明

全身性エリテマトーデス感受性を予測するための方法及び手段

個体が全身性エリテマトーデス感受性を生じる危険性を予測する方法は、クラスAスカベンジャー受容体に対する自己抗体、特にMARCO及びSR−A自己抗体の検出を含む。また、自己抗体で被覆された支持体、並びに支持体と、支持体上で自己抗体に結合した血清成分に結合することができる二次抗体とを含むキットが開示される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、個体が全身性エリテマトーデスを発症する危険性を予測するための方法及び手段に関する。
【0002】
[発明の背景]
アポトーシス細胞は、全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患における自己抗原の主な供給源であると考えられている。これと一致して、アポトーシス細胞のクリアランス不全は、疾患感受性を高めることが知られている。今日でも、アポトーシス細胞由来の自己抗原がどのようにして自己反応性B細胞を活性化し、これがどこで起こるのかについては、ほとんど知られていない。
【0003】
脾臓の辺縁帯にある特定のB細胞サブタイプは、自己免疫のいくつかのモデルにおいて自己抗体の供給源になると考えられている(1、2)。これらのいわゆる辺縁帯B細胞(MZB)は、血液感染性細菌に対する防御と応答に不可欠であり、表現型上では、高いIgMと補体受容体の発現によって特徴付けられる(3)。自己反応性へのMZBの関与の例として、B細胞は、自己抗原に対する親和性を有するB細胞受容体を発現するマウスのMZB集団における欠失から救済される(4)。また、自己反応性MZBは、T細胞の手助けなしに自然に活性化され得て、自己抗体の生産者としてのこれらのB細胞の役割は、いくつかの研究によって支持されている(5、6)。
【0004】
全身性エリテマトーデス(SLE)におけるB細胞の活性化に対する自己抗原の供給源は、アポトーシス細胞であると考えられ、アポトーシス細胞のクリアランス不全がSLEに対する感受性を高める(7、8)。
【0005】
[発明の目的]
本発明の目的は、個体が全身性エリテマトーデス感受性を生じる危険性を、予測する方法を提供することである。
【0006】
本発明の別の目的は、この方法に用いるための手段を提供することである。
【0007】
本発明のさらなる目的は、本発明の下記の概要、図面に例示されたいくつかの好ましい実施形態、及び添付の特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【0008】
[発明の概要]
本発明は、アポトーシス細胞が、脾臓の辺縁帯にあるマクロファージに発現される特定のスカベンジャー受容体によって取り込まれ、これらの受容体が欠損している個体が、自己抗体応答の低い閾値を有するという見識に基づいている。最も重要なことには、SLE傾向のマウス、及びSLEであると診断された患者において、臨床症状の発生前に、スカベンジャー受容体に対する自己抗体が血清中に見出される。理論に束縛されることを望まないが、スカベンジャー受容体に対する自己抗体は、アポトーシス細胞に対する応答性を変更し、免疫寛容に影響を及ぼし、このようにして疾患の進行を促進し得ると考えられる。本発明の自己抗体は、核抗原に対する免疫寛容を低下させ、その後のアポトーシス細胞によるB細胞活性化のきっかけになり、最終的には疾患へと導く抗DNAなどの抗体応答を付与する。
【0009】
本発明の自己抗体は、疾患の発症前に検出可能であるため、それらの抗体は、SLEの早期指標としての予測値を有する。
【0010】
本発明によれば、個体が全身性エリテマトーデス感受性を生じる危険性を予測する方法が開示され、この方法は、クラスAスカベンジャー受容体に対する自己抗体を検出するステップを含む。好ましい実施形態では、本方法は、MARCO及び/又はSR−Aに対する自己抗体を検出することを含む。
【0011】
特に、本発明の方法は、SLEに対する感受性について試験される個体由来の血清試料を提供するステップと、クラスAスカベンジャー受容体に対する自己抗体、好ましくは抗MARCO抗体及び/又は抗SR−A抗体、に対する試薬抗体を提供するステップと、血清を試薬抗体と接触させるステップと、試薬抗体とクラスAスカベンジャー受容体に対する自己抗体、特に抗MARCO抗体及び/又は抗SR−A抗体によって形成される複合体を測定するステップとを含む。場合により、本発明の試薬抗体を提供するステップが、前記抗体を生じさせることを含む。
【0012】
本発明の好ましい態様によれば、本方法は、クラスAスカベンジャー受容体に対する自己抗体、特に可溶性MARCO又は可溶性SR−Aで被覆された支持体を提供するステップと、SLEに対する感受性について試験される個体由来の血清を、支持体に添加し、次にインキュベーションするステップと、支持体を洗浄するステップと、洗浄された支持体を、支持体上でMARCO又はSR−Aに結合された血清由来の抗体と複合体を形成することができる二次抗体と接触させ、次にインキュベーションするステップと、このようにして形成された複合体を検出するステップとを含む。複合体の検出については、定量化を含むことが好ましい。
【0013】
本発明の第2の好ましい態様によれば、ヒト抗MARCO又はヒト抗SR−Aで被覆された支持体が開示される。
【0014】
本発明の第3の好ましい態様によれば、ヒト抗MARCO又はヒト抗SR−Aで被覆された支持体と、MARCO又はSR−Aに結合することができるヒト血清由来の抗体と複合体を形成することができる二次抗体と、を含むキットが開示される。
【0015】
そこで、本発明を、図面に例示された好ましい実施形態を参照することによって、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1−6】アポトーシス細胞がMARCO及びSR−Aに結合し、アポトーシス細胞が脾臓の辺縁帯に捕捉されていることを示す共焦点レーザースキャニング顕微鏡画像である。
【図7−11】クラスAスカベンジャー受容体が、静脈内注射されたアポトーシス細胞に対する免疫寛容を調節することを示す図である。
【図12】クラスAスカベンジャー受容体が、静脈内注射されたアポトーシス細胞に対する免疫寛容を調節することを示す共焦点レーザースキャニング顕微鏡画像である。
【図13−14】スカベンジャー受容体欠損マウスにおけるアポトーシス細胞のクリアランス不全がないことを示す図である。
【図15−17】SLE傾向のマウスにおける抗MARCO抗体の存在を示す図である。
【図18】SLE傾向のマウスにおける抗MARCO抗体の存在を示す共焦点レーザースキャニング顕微鏡画像である。
【図20−21】SLE患者由来の血清におけるIgG抗MARCO反応性及びIgG抗DNA反応性を示す図である。
【0017】
[好ましい実施形態の説明]
方法
マウス。マウスは、年齢及び性別を合致させ、地方の倫理指針に従って、無菌条件下で維持及び飼育した。SR−A−/−、MARCO−/−及びダブルノックアウトマウス(DKO)(15、16)を、10世代を超えてC57BL/6系統と戻し交配した。(NZB×NZW)F1マウスをThe Jackson Laboratoryから購入した。大部分の研究では、野生型マウスはC57BL/6系統由来であった。図1に示す実験では、BALB/cマウスを用いた。それは、抗マウスSR−A mAb 2F8がC57BL/6系統の受容体を認識しないためである。MBB動物施設でマウスを維持し、この作業は地方の倫理委員会によって承認された。
【0018】
アポトーシス誘導及び注射。40μmの細胞ストレーナー(Becton Dickinson)を用いて同系の胸腺細胞を調製し、滅菌PBSで2回洗浄した。細胞は、6ウェルプレート(3mL/ウェル)において細胞約107個/mLの濃度で、10%ウシ血清、2mMグルタミン、100IU/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(Gibco)及び1μMデキサメタゾン(Sigma)を補充したRPMI 1640中で6時間培養された。細胞を採取し、滅菌PBSで3回、十分に洗浄した。アポトーシス表現型は、FACSCaliburフローサイトメーター及びCellquestソフトウェア(Becton Dickinson)において、アネキシンV−FITC及びヨウ化プロピジウム染色(Becton Dickinson)を用いて評価された。注入された細胞の約85%がアネキシンV+であった。年齢及び性別を合致させた(10週齢の雌性)野生型(wt;C57BL/6)、SR−A−/−、MARCO−/−、及びダブルノックアウト(DKO)マウス(n=8/遺伝子型)は、滅菌PBS中の10個のアポトーシス細胞を用いて、尾静脈の静脈内に4週間、毎週免疫された(17)。1回目の注射の2日前から開始して、血清試料を尾動脈から毎週採取した。
【0019】
免疫組織化学検査及び抗DNA応答。同系の胸腺細胞を調製し、アポトーシスの誘導前に、製造業者によって説明されるように、2μMのPKH26(Sigma)で染色した。BALB/cマウス(n=4)に細胞(6×10個)を静脈内注射した。45分後と5時間後に脾臓を採取し、OCT培地(Sakuru)中で凍結した。6μmの薄片を低温保持ミクロトームで切り出した。一晩乾燥後、氷冷アセトン中で5分間、スライドを固定し、−75℃で保存した。染色前に、PBS中の5%ヤギ血清(Dako)及び4%BSAでスライドをブロッキングした。使用した抗体は下記の通りであった:ラット抗MARCO27、非標識及びビオチニル化されたラット抗SR−A(Serotec)、抗B220−bio(Becton Dickinson)、抗CD11c−FITC(Becton Dickinson)、抗ラットAlexa488(Invitrogen)、及びストレプトアビジン−Qdot605(Invitrogen)。1つのアルゴンレーザー及び2つのHeNeレーザーを備えた共焦点レーザースキャニング顕微鏡(TCS SP2;Leica Microsystems)を用いて、画像を回収した。抗dsDNA自己抗体は、すでに報告されている通りに(28)測定された。簡単に説明すると、ELISAプレートは、メチル化されたBSAで予め被覆され、次に仔ウシ胸腺DNA(Sigma)で被覆された。ブロッキング後、血清試料を添加した。抗dsDNA反応性は、アルカリ性リン酸塩とコンジュゲートした抗マウスIgG、IgM、IgG1、IgG2a、IgG2b、及びIgG3抗体(Southern Biotechnology)を用いて測定された。すべての試料は2点測定で行い、バックグラウンド結合について補正した。Hep2000スライド(Immuno concept)は、製造業者によって説明されるように、ANAアッセイのために用いられた。
【0020】
結合アッセイ。CHO細胞は、報告されている通りに(29)、マウスSR−A、MARCO、又は対照ベクターを用いて遺伝子導入された。アポトーシス細胞は、DMEM/10mM Hepes、pH7.5中で遺伝子導入された細胞に対して、5:1又は10:1の比率で添加された。37℃で1時間インキュベートした後、細胞をPBSで5回洗浄し、次に、報告されている通りに(29)処理した。MARCO及びSR−Aについて細胞を染色し、次にAlexa488を結合させた二次抗体及びDAPI(Invitrogen)とともにインキュベートした。Retiga Exi Cooledカメラを繋げたLeica DMRB顕微鏡を用いて結合を検出した。
【0021】
抗スカベンジャー受容体に対する自己抗体の応答。すでに報告されている通りに(30)、可溶性MARCOを精製した。PBS中の1〜2μg/mL sMARCOを用いて、一晩4℃でMaxiSorp96ウェルプレート(Nunc)を被覆した。PBS+0.05%Tween20を用いて、プレートを5回洗浄し、2時間室温(RT)で過剰なブロッキングバッファーでブロッキングした。ブロッキングバッファーを取り除き、ブロッキングバッファーで希釈した血清試料を添加し、その後、室温で2時間インキュベートした。次に、上述のようにプレートを洗浄し、二次抗体の抗ヒトIgG−HRP(DAKO)又は抗マウスIgG−AP(Southern Biotechnology)を添加した。RTで1時間インキュベートした後、プレートを洗浄し、基質を添加した。すべての試料は2点測定で行い、バックグラウンド結合について補正した。
【0022】
統計分析。Statisticaソフトウェア(StatSoft Inc)を用いてノンパラメトリックなMann−Whitney U検定を行った。p<0.05は有意であると考えられた。
【0023】
KOマウスにおけるクリアランス評価。2つのアプローチを用いて、ノックアウトマウスがアポトーシス細胞の除去に欠陥があるどうかを評価した。第1に、10週齢の雌性野生型マウス及びKOマウス(n=6/遺伝子型)は、前処置せずに、氷上で維持されたヘパリン含有管(Leo Pharma)に尾動脈から血液を採取した。赤血球は、2回のACK処置によって溶解させた。細胞をアネキシンV−FITCで染色し、フローサイトメトリーにより分析した。第2に、製造業者によって説明されるように、0.1μM CFSE(Molecular Probes)で同系の胸腺細胞を標識し、その後、上述されるようにアポトーシスを誘導した。年齢、性別及び体重を合致させた野生型マウス及びKOマウス(n=6〜8/遺伝子型)に細胞(10個)を注射した。30分後と3時間後に、尾静脈から血液を採取した。赤血球を溶解後、CFSE+集団をフローサイトメトリーにより分析した。
【実施例】
【0024】
実施例1
脾臓の辺縁帯へのアポトーシス細胞の局在化。先天性のB細胞活性化における抗原の有力源である自己反応性MZBの活性化/選択は、自己抗原を利用することが必要である。このため、脾臓辺縁帯へのアポトーシス細胞の局在化を調べた。
【0025】
野生型(wt)マウスに、B220標識したアポトーシス細胞B220を静脈内注射した。様々な時間点で脾臓を採取した。注入されたアポトーシス細胞は、注射の30分後、脾臓辺縁帯にある食細胞により捕捉された(図1)。注射してから5時間後には、脾臓辺縁帯には、標識されたアポトーシス細胞はほとんど見られず、迅速なクリアランスを示した(データを示さず)。いくつかのサブタイプの有力なAPCが辺縁帯に存在し、これには、アポトーシス細胞を捕食できることで知られている樹状細胞(DC)が含まれる(9、10)。しかしながら、いくらかのアポトーシス細胞がCD11c+DCによって取り込まれたとしても、30分及び5時間の初期の時間点で、アポトーシス物質が主に辺縁帯マクロファージ(MZMO)に結合することが分かった(図2)。これらのマクロファージは、MZBと密接して存在し、MARCO(図3)及びSR−A(図4)と呼ばれる特定のスカベンジャー受容体のそれらによる発現によって区別することができる(2、11)。SR−A及びMARCOは、酸化LDL及び細菌性抗原を含む、多数の自己及び外来のリガンドに結合するクラスAスカベンジャー受容体ファミリーに属する(2、12)。SR−Aを遺伝子導入されたCHO細胞を用いた実験において確認された(図6)ように、SR−Aは、アポトーシス細胞に結合することで知られている(13)。対応する実験では、MARCOは、この能力を共有することが示された(図5)。このアッセイでは、アポトーシス細胞のクラスタリングは、DAPIで染色された、遺伝子導入されていない細胞上では見ることができなかった(データを示さず)。
【0026】
これらの所見は、MZB及びDCによって認識されるために、MZMOが辺縁帯において自己抗原への応答及びその利用を調節することを示している。特定のマクロファージが胚中心においてアポトーシス細胞を捕食できないことにより、結果として自己抗体が産生される。類似した系では、対照的に、マクロファージによるアポトーシス細胞の適切なクリアランスは、B細胞が活性化/選択される微小環境において重要であることが示されている(14)。
【0027】
実施例2
MARCO及びSR−A陽性マクロファージによる自己応答の調節。MARCO及びSR−A陽性マクロファージが自己応答の調節に関与するかどうかを検討するために、アジュバントなしに、同系のアポトーシス細胞の注射後の免疫寛容を維持する能力を、これらの受容体のうちの1つか又は両方を欠損しているマウスにおいて調べた(15、16)。Mevorachら(17)から採用したプロトコールにおいて、アポトーシス細胞が、野生型、SR−A−/−、MARCO−/−、及びダブルノックアウトマウス(DKO)に週4回注射され、抗DNA応答が、ELISAにより測定された。受容体を欠損したすべてのマウスは、対照マウスと比較して、アポトーシス細胞に対する上昇した迅速な応答が見られ、その表現型は相加的であり、DKOマウスにおいて応答が最も高いという結果になった。また、DKOマウスでは、アポトーシス細胞による誘発なしに、IgM抗DNA(図7)及びIgG抗DNA(図8)が有意に高いレベルを示しており、抗DNA自己免疫応答の自然発生を示唆した。MARCO欠損がIgM抗DNA力価に大きく寄与し、SR−A欠損はIgG抗DNA力価に大きく寄与しているようであることを除いては、様々なノックアウトマウスにおける抗DNA抗体のIgアイソタイプに関して、顕著な相違は見ることができなかった(図9及び図10)。特定のIgG応答は、主として、すべてのマウスにおいてIgG2bサブクラスによるものであり、DKOマウスは、wtよりも高いIgG2a/b:IgG1比を有する傾向にあったが、それは、病原性がより高いことを暗示させる(18)(図11)。抗DNA ELISAデータと一致して、注射されたDKOマウスにおける抗核自己抗体(ANA)は、注射してから第26日で均一な核染色パターンを示し、それは、野生型マウスよりも高い力価で存在し、主要な自己抗原がDNAであることを示している(図12)。
【0028】
実施例3
受容体の欠失は、結果としてアポトーシスのクリアランスを減少させる。抗DNA応答の増加に関する説明は、受容体の欠失が、アポトーシス細胞のクリアランスの減少をもたらし、次いで、自己抗原の負荷を増加させる結果となる。この点を考慮して、マウスがアポトーシス細胞のクリアランスにおいて何らかの欠陥を示すかどうかを調べた。血中に循環しているアポトーシス細胞の数は、DKOマウスと野生型マウスとの間で相違はなく、静脈内注射されたアポトーシス細胞のクリアランスにおいて検出可能な相違はなかった(図13)。
【0029】
MARCO遺伝子は、第1染色体(セントロメアからは122Mb離れている)上に位置し、NZB、NZW及びBXSBマウスの主要なループス感受性遺伝子座に近いが、わずかに近接している(19)。それにもかかわらず、BXSB遺伝子座の1つであるBxs2は、ANAと関連性があり、抗DNA産生は、Marcoの近くにあるD1Mit12マーカー(122Mb)でピークに達し(20)、これは、MarcoがSLE感受性に寄与し得ることを示唆している。SR−A遺伝子は、マウスでは第8染色体上にあり、SLE又は他の自己免疫疾患についての既知の感受性遺伝子座内に存在することは示されていない。Marcoが抗DNA応答についての感受性遺伝子座内で見出されたとしても、これらの受容体も、自己抗原として作用することによって自己免疫を引き起こす可能性がある。このような代替機構では、自己抗体をブロックすることは、アポトーシス細胞の効率的な取り込みを潜在的に妨げ、それにより、抗DNA自己免疫応答を促進することができる。一例としては、SLEに見出される、構造的に関連した補体タンパク質であるC1qに対する自己抗体が挙げられる。しかしながら、この場合、C1q自己抗体は、アポトーシス細胞のクリアランスに影響を及ぼすのではなく、糸球体腎炎の重症度を明らかに高める(21)。
【0030】
実施例4
クラスAスカベンジャー受容体に対する自己抗体の検出。クラスAスカベンジャー受容体に結合する自己抗体が発生する可能性を調べるために、IgG抗MARCO活性に関して、ループス傾向の(NZB×NZW)F1マウス由来の血清をELISAによって試験した(22)。2、4、6及び8月齢のマウス由来の血清を調べ、IgG抗DNAレベルによって決定される、5カ月から開始する疾患の進行を測定した(図15)。有意なレベルのIgG抗MARCO抗体が、早くも2カ月後には検出され、6カ月目でピークに達した(図16)。MARCOへの自己免疫血清の結合は、そのリガンド結合ドメインに対する抗体を添加することによってブロックすることができた(図17)。(NZB×NZW)F1マウスにおける抗MARCO自己抗体の存在は、さらに、MARCOタンパク質(図18)又はSR−Aタンパク質(図19)のいずれかを発現している遺伝子導入された細胞を染色することによって確かめられ、クラスAスカベンジャー受容体をSLEにおける自己抗原として関連付けた。
【0031】
実施例5
患者。ACR基準によって分類され、SLEと診断された若年齢の20人のSLE患者、及び合致した19人の健常者が選ばれた。抗DNA力価が低い若年齢のSLE患者由来の血清を選んだ。それは、マウスマウスデータが、抗MARCO反応性は、この疾患の発症において、早期に見出され得ることを示しているためである。この作業は、地方の倫理委員会によって承認された。クラスAスカベンジャー受容体は種間で高度に保存され、MARCOはマウスとヒトとの間で74%のアミノ酸同一性を有する(24)。SLE患者は、抗DNAタンパク質(図21)よりもMARCOタンパク質(図20)に対して有意に高い反応性を示した。
【0032】
参考文献
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【0033】
図の凡例
図で表示するために、アドビ(Adobe)(登録商標)フォトショップ(Photoshop)でカラー画像を反転させた。赤色(R)区域を手書きで記し、試料領域を矢印で示した。また、試料の緑色(G)と青色(B)の領域も矢印で記す。
【0034】
図1。PKH26で標識された(赤色)アポトーシス細胞をBALB/cマウスに静脈内注射した。30分後に採取した脾臓を抗CD11c(DC、緑色)及び抗B220(B細胞、擬似的に着色された青色)で染色した;Leica共焦点システム。
【0035】
図2。抗MARCOで染色した対応する連続的な脾臓の低温保持切片(辺縁帯マクロファージ、緑色);Leica共焦点システム。
【0036】
図3及び図4。抗MARCO(緑色;図3)及び抗SR−A(緑色、図4)の両方で染色した、アポトーシス細胞(赤色)に結合している辺縁帯マクロファージの対応する連続的な脾臓の低温保持切片、高倍率;Leica共焦点システム。
【0037】
図5及び図6。マウスMARCO(図5)又はSR−A(図6)を用いて遺伝子導入され、次に、標識されたアポトーシス細胞(赤色)とともにインキュベートされたCHO細胞を用いたインビトロ結合アッセイ。細胞は、それぞれ抗MARCO又は抗SR−Aを用いて染色され(緑色)、DAPIで核を染色した(青色);Leica DMRB顕微鏡。
【0038】
図7。10個の同系のアポトーシス細胞は、野生型及びDKOマウス(C57BL/6バックグラウンド)に週4回、静脈内注射された。血清におけるIgM抗DNA応答は、免疫前(PI)、第12日及び第19日に測定された。データは、平均±標準偏差として示される(n=8/遺伝子型)。
【0039】
図8。10個の同系のアポトーシス細胞は、上記のように、週4回、静脈内注射された)。血清におけるIgG抗DNA応答は、免疫前(PI)、第12日及び第19日に測定された(n=8/遺伝子型)。
【0040】
図9及び図10。10個の同系のアポトーシス細胞は、野生型、並びにMARCO−/−、SR−A−/−、及びDKOマウス(C57BL/6バックグラウンド)に週4回、静脈内注射された。第12日(IgM、図9)及び第19日(IgG、図10)の血清における抗DNA応答を測定した。
【0041】
図11。野生型及びDKOマウスにおける、1週間での4回目のアポトーシス細胞の注射後の第26日での抗DNA応答のサブクラス分析。データは、IgG2a/IgG2bとIgG1との間のO.D.405nmの比の平均±標準偏差として示される(n=8/遺伝子型)。
【0042】
図12。野生型及びDKOマウスにおける、1週間での4回目のアポトーシス細胞の注射後(d26)のDKO及びwtマウス由来の代表的な抗核抗原(ANA)パターン。=p<0.05、**=p<0.01(ノンパラメトリックなMann−Whitney U検定)。
【0043】
図13。Ca2+に富んだバッファー中のアネキシンV−FITCを用いて測定した、野生型及びDKOマウスの血中の循環アポトーシス細胞の量。実験の全工程中、試料を氷上で維持し、デノボのアポトーシスの危険性を下げた。データは、全細胞集団におけるアネキシンV+細胞の%を示す。
【0044】
図14。同系のアポトーシス細胞(10個)をCFSEで標識し、野生型及びDKOマウスに静脈内注射した;注射の30分及び180分後、血液を採取し、CFSE+細胞をフローサイトメトリーによりカウントした。データは、全細胞集団におけるCFSE+細胞の%を示す。
【0045】
図15。2、4、6及び8月齢の(NZB×NZW)F1マウスにおけるIgG抗DNAレベル。対照は、2.5月齢のC57BL/6マウスである。
【0046】
図16。2、4、6及び8月齢の(NZB×NZW)F1マウス、並びに2.5月齢のC57BL/6マウスにおける、IgG抗MARCO反応性。
【0047】
図17。MARCOに対するモノクローナル抗体(ED31)を用いてブロックしたが、アイソタイプの対照を用いてはブロックしていない、抗MARCO ELISAにおけるMARCOへの結合(n=2)。
【0048】
図18及び図19。(NZB×NZW)F1マウス由来の血清、及び抗マウスIgG−FITCで染色した、マウスのMARCO(図18)又はSR−A(図19)を遺伝子導入されたCHO細胞。矢印は、マウス血清によって染色された遺伝子導入された細胞を示す。
【0049】
図20。sMARCO又はブロッキングバッファーで被覆されたELISAプレートは、SLE患者(n=20)及び健常な個体(n=19)由来の血清とともにインキュベートされた。ブロックバッファーへの結合のレベルを減らすために、データは、抗ブロックバッファーデータを差し引いた抗MARCOデータとして示される。
【0050】
図21。ELISAによって測定されたSLE患者及び健常な個体におけるIgG抗DNA活性。線形回帰分析により、図20及び図21の実験からのデータが相関しないことが示された。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラスAスカベンジャー受容体に対する自己抗体を検出するステップを含む、個体が全身性エリテマトーデス感受性を生じる危険性を予測する方法。
【請求項2】
前記自己抗体がMARCO及び/又はSR−A自己抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
個体が全身性エリテマトーデス感受性を生じる危険性を予測する方法であって、SLE感受性について試験される個体由来の血清試料を提供するステップと、クラスAスカベンジャー受容体に対する自己抗体に対する第1試薬抗体を提供するステップと、前記血清試料を前記第1試薬抗体と接触させるステップと、前記第1試薬抗体と血清試料成分によって形成された第1複合体を測定するステップとを含む方法。
【請求項4】
本発明の第1試薬抗体を提供するステップが、前記抗体を生じさせることを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1試薬抗体が、抗MARCO抗体及び抗SR−A抗体から選択される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1試薬抗体で被覆された支持体を提供するステップと、前記支持体をSLE感受性について試験される個体由来の血清と接触させるステップと、前記支持体に結合した前記第1複合体を形成させるのに十分な時間、前記血清を前記支持体と接触させてインキュベートするステップと、前記支持体を洗浄するステップと、前記支持体に結合した前記血清成分と第2複合体を形成することができる第2試薬抗体を提供するステップと、前記洗浄された支持体を前記第2試薬抗体と接触させるステップと、前記第2複合体を形成させるのに十分な時間、前記支持体を前記第2試薬抗体と接触させてインキュベートするステップと、前記第2複合体を検出するステップとを含む、請求項3〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第2複合体を定量することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第2試薬抗体が、抗ヒトIgG、特に抗ヒトIgG−HRP、及び抗マウスIgG、特に抗マウスIgG−APから選択される、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項9】
ヒト抗MARCO又はヒト抗SR−Aで被覆された支持体。
【請求項10】
請求項9に記載の支持体と、MARCO及び/又はSR−Aに結合することができるヒト血清由来の抗体と複合体を形成することができる二次抗体と、を含むキット。
【請求項11】
前記二次抗体が、抗ヒトIgG及び抗マウスIgGから選択される、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
前記二次抗体が、抗ヒトIgG−HRP及び抗マウスIgG−APから選択される、請求項10に記載のキット。

【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2010−534335(P2010−534335A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518143(P2010−518143)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【国際出願番号】PCT/SE2008/000433
【国際公開番号】WO2009/014476
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(510021719)アイエスエス イミューン システム スティミュレーション アーベー (2)